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日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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女性
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地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
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ブログ、もう書かないと思ってました。

けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。

小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。

純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。

元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。

ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。

小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。

よろしくお願い致します。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

お知らせ。

イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。

また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚

フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。

ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。

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X @kigenzen1874

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〈資格履歴〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格

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〈資格証明バナー〉

鉛筆デッサンマスター®認定試験資格取得証明
絵画インストラクター資格資格認定証
宝石鑑定アドバイザー資格認定試験資格取得証明
鉱石セラピスト資格資格保持証明
茶道アドバイザー資格認定試験資格取得証明
お点前インストラクター資格資格認定証
着物マイスター®資格認定試験資格取得証明
着付け方インストラクター資格資格認定証
サイキックアドバイザー®資格資格証明
サイキックヒーラー資格資格保持証明
アンガーカウンセラー®資格資格保持証明
アンガーコントロール士資格資格認定証
漢方コーディネーター®資格認定試験資格保持証明
薬膳調整師®資格認定試験資格保持証明
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純愛偏差値 未来編 一人称版 87話

《ナミネ》

16時。
テントの中では重たい空気が漂っていた。
果樹園から戻る時には大雨は小降りになっていて、朝、私が汲んだ水はタルリヤさんが家の中に入れてくれたらしい。
「率直に言うわ!アルフォンス王子、これからは果物係は任せられない。加熱係に回ってちょうだい」
「それは出来ない。私はそのような屈辱を味わえない」
やはり、簡単に果物係を引退はしてくれないか。加熱係だって十分ハードル高い役割なのに。
「じゃあ、これから何をするのかしら?何もしない人には新鮮な食事は与えられないわ」
「それでも構わない。他の役割をするくらいなら死んだほうがマシだ」
何だその軍人のような考え方は。カラン王子でさえ洗濯をしているというのに、アルフォンス王子はカッコばかり気にしている。こんなことでは、次の国王はカラン王子に決まったようなものではないか。
その時、金のリンゴの成分を調べ終えたナヤセス殿がリリカさんにリンゴを戻した。
「ナヤセス殿、金のリンゴは全ての病気を治せるのですよ」
「そうみたいだね。これはまさに新種だ。帰ったら量産出来ないかハル院長に話したいと思う」
ナヤセス殿は運動神経は全然だけれど、持ち前の知識で、ここでは好奇心いっぱいに過ごしている。とてもイキイキしていると思う。
「そうね、いきなりのことで気持ちの整理もすぐにはつかないだろうから、何日か考えてちょうだい」
誰でもそう言うしかないだろう。その日に割り切れるものではない。もし、アルフォンス王子が、ここで何かしら作業をする気になれるのなら、ここは本人に現状と向き合ってもらうしかないだろう。
あれ、セレナールさんの下着がまた変わっている。別に持って来ていたのだろうか。それにしても、指定の下着を付けないなんて、私は認められない。
「あの、セレナールさん、その下着どうしたんですか?私言いましたよね?指定の下着つけるようにと。公衆浴場でも分かったように、ここには、とんでもないイジワル魔もいます。そのように透けるものを着られては迷惑です」
「だって、ここの下着ダサイんだもん。下着なら他の町の売れ残りが入って来て市場でセールしてるわよ」
他の町のものが、ここで売られているのか?セレナールさんの着ている下着は確かに現代物だ。他にも何か、ここで役立つものが売られているだろうか。
「ねえ、ラルク。市場行ってみようよ」
「そうだな。他の町のものが手に入る機会なんて、そうそうないからな」
「じゃ、僕も行く」
市場に行くメンバーは、私とラルク、落ち武者さん、ヨルクさん、リリカさん、ロォラさん、ズームさんが行くことになった。

市場に行くと、はじまったのが昨日かして、品物は少なくなっていた。えっと、カーディガンとセーターは確保しておいたほうがいいだろう。あ、米も売っている。他の客に取られないようロォラさんが手に持った。
「じゃ、確認する。カーディガン2つ、セーター3つ、ニット帽2つ、米10キロ、紅茶の茶葉20グラム、マグボトル3つ、栄養ドリンク10本でいいな?」
初日はもっとあったのだろうか。あのガタイの大きい男にとらわれすぎていた。セレナールさんも教えてくれたら良かったのに。
「はい、それでお願いします」
落ち武者さんは店主にお金を支払った。
その時、公衆浴場で会ったお姉さんがいた。お母様と着ているのだろうか。
「あ、お姉さん」
私が声をかけるとお姉さんの母親は怪訝した。
「あら、今も蓮華町暮らしなのかしら?こんなところで見たくもない顔を見るだなんてね。我が子じゃない子を5年も育ててやったのに恩知らずが!」
この人が……この人が、本当の子供が見つかるなり私を捨てたんだ。お姉さんも、私が追い出されて、そのまま知らぬフリして暮らしていたのだろうか。
「あの、よくもヌケヌケとそんなこと言えますね!ナノハナ家に私を届ける約束はどうしたんですか?そもそも、どうして私を追い出したのですか!」
「ナノハナ家?そんな約束したかしらね?あなたは私の我が子じゃないの!とやかく言わないでくれるかしら?それにあなたと娘は何度も取り違えられたわ!」
何度も取り違えられた?1回だけじゃないの?それにしても酷い言い方。私は知らない村で1人きりで心細く暮らしていたというのに。許せない。許せない。許せない。
私はお姉さんが縫い物をして作った衣類に扇子で穴をあけ、ウジ虫をつけた。
「あ、おばさん、この衣類不良品ですよ!」
「あら、本当だわね。昨日見た時はこんなんじゃなかったのに。これでは売り物にならないから捨てるしかないわね」
こんなことだけでは私は許さない。
「え、何?どうなっているの!?」
「あの、お姉さん。私、大昔に産婦人科であなたと取り違えられたんです!でも、あなたの家族があなたを見つけるなり5歳だった私は家から追い出された。それなのにお姉さんは助けてもくれなかったんですか!私は空き家で1人で心細く暮らしている中、お姉さんはぬくぬくと暮らしていたんですね」
公衆浴場では暮らしは酷いと言っていたけれど、お姉さんは、ここで幸せに暮らしてたんじゃない。大昔とはいえ、私は確かに生きていた。生きていたんだよ。
「ごめんなさい。そんなことがあったなんて全く知らなかった。償いはするから、許してくれないかしら?」
お姉さんも私を見捨てた1人だ。許せるわけがない!
私は紀元前村の皇室に紙飛行機を飛ばした。数分すると返事は帰ってきた。私は紙飛行機を開いた。
『シリアを50年死ねない身体にして、蓮華町のど真ん中で公開赤花咲に処する』
私は皇帝陛下からの文をお姉さんに見せた。
「皇帝陛下の決断は絶対です!逃げても無駄です!人を辱めたら自分が辱め返されるんです!私をあんな目に合わせた以上、もっと苦しみながら生きてください」
「本当にごめんなさい!あなたの家にはちゃんと謝りに行く!だから助けて!!こんな屈辱受けたら生きていけない!!」
妖精村もそうだけれど、紀元前村にも復讐権が存在する。誰かに家族を殺されたり、誘拐されたり、過度なイジメを受けたりなど、酷いことをされ、暮らしに支障が出たり、精神的に立ち直れなくなるなどの困難に陥れば、自分を陥れた人を復讐する権利が与えられるのである。
「50年は生きられるからいいじゃないですか」
「お願い、許して!母さん、謝って!出ないと、私の人生が奪われるわ!」
「結婚しないなら誰かに授けてもらえばいいじゃないの。私は悪くないから謝らないわ!」
こんな下賎な親なら町の評判も悪いだろう。娘1人大切に出来ないのか。お姉さんも運のない人だ。
「謝らないなら、皇帝陛下の罰は受けてもらいます!」
「待って!私は本当に何も知らないの!母さん、お願いだから謝って!」
その時、落ち武者さんが、ある映像を見せた。

映像はかなり古いものだった。少なくとも妖精村時代ではないだろう。
妖精村の紅葉町の産婦人科にて私とお姉さんは取り違えられた。紀元前村の蓮華町に住む、お姉さんの母親は私を我が子だと思い家に連れて帰った。
私は、お姉さんの家で、腐った煮物を食べていた。それでも、家族は私を可愛がってくれた。
けれど、私が5歳になった頃、妖精村の紅葉町の産婦人科から連絡があり、私とお姉さんが取り違えられたことが分かった。お姉さんの家族は、すぐにお姉さんを迎えに行った。
そして、私はお姉さんの家から追い出され空き家で住むことになる。
私は何度もお姉さんの家に行ったが、お姉さんの母親が私を育てることを認めず、私の家は一夜にしてなくなってしまった。
ある日私はお姉さんに相談した。
『あの、助けてもらえないでしょうか?私、まだ5歳で、とてもじゃないけど、1人では暮らしていけないんです』
『分かった。私から母に話してみる』
私はその言葉を何日も何ヶ月も信じて待ち続けた。けれど、市場でお姉さんを見かけるたび、お姉さんは平然としていた。
『あの、相談の件どうなったでしょうか?』
『ごめんなさい。母がどうしても、その話をするとヒステリーを起こすの。何も出来なくて本当にごめんなさい』
お姉さんも私のことを救えなかった。
『そうですか』
2年経った頃、私はお姉さんと、その友人との会話を聞いてしまった。
『ねえ、シリア。妹追い出したって本当?』
『妹なんかじゃないわ。母さんは産んでないもの。それに母さんは、あの子が武家のお嬢様と知って、わざと妖精村に返さないのよ。なんかちょっといい気味。私がこんなに苦労しているのに、あの子だけ楽に暮らすなんて許せないもの』
『でも、本当の親が知ったら不味いんじゃないか?』
『シラを切り通すに決まってるじゃない。あの子は、ここで1人で苦労すればいいわ。助けてあげるもんですか』
お姉さんたちの会話を聞いた私は泣きながら、家でもない空き家に戻った。
映像はそこで途切れていた。

なにが何も知らないだ。母親と共犯して私をイジメていたんじゃない。この映像を見た以上は、絶対にお姉さんを許さない。
「あんた、罰受けろ」
「許して!ここの暮らしが辛くて、この子に嫉妬してしまったのよ!お願い、赤花咲だけは見逃して!」
許すもんですか!あの時、私が苦しんだ分、今度はお姉さんが苦しめばいい。
「お姉さん、人を辱めれば、時を超えて自分が辱められるものですよ」
「お願い、あなたの家にはちゃんと謝りに行く!だから許して欲しい!」
その時、皇室の武官が来た。
「これより、皇帝陛下の命により、シリアを赤花咲とする!」
内官が読み上げたあと、ものの一瞬だった。40代くらいの太った武官はお姉さんを赤花咲した。お姉さんは、途中で気絶したが、終わった後に内官に水をかけられ、目を覚ました。
「いやぁあああああああああ!!!見ないで!!!!」
お姉さんは叫んだものの、後の祭りであった。市場に来ていた多くの町の人がバッチリ罰を見ていたのだ。お姉さんは、あっという間にこの町の笑いものになった。
「お姉さん、あの時はあなたの嫌がらせで妖精村に帰れませんでしたが、私、今、婚約者もいて、学校も楽しくて幸せなんです。お姉さんも幸せになってくださいね」
最後に私はそう言い残した。
お姉さんは、ただただ無言で悲鳴を上げていた。
ちなみに、私とお姉さんの年齢は、やはり当時も同じだけ差があった。聞くところによると、お姉さんは未熟児で成長も遅く、大きかった私と取り違えられたそうだ。
復讐なんてしないほうがいい。幸せになることが1番の復讐などと戯れ言を言う者もいるが、復讐権がある限り、私は私なりに公平な判断をしていく。
黙ったままでは、同じように私自身が生きられなくなってしまう。生きるということは白黒問わず公平を保つことの中に存在している。
「じゃ、帰る」
私は米を、ラルクは栄養ドリンクを、他の人は適当に品物を持ち、私たちはタルリヤさんの家に向かった。

店仕舞いの準備はじめていたから少しでも買うことが出来てよかったのかもしれない。
「ここはチームワークを大切にしてもらわないと困るわ。市場のセールを教えなかったセレナールには米も紅茶も栄養ドリンクも与えない。カーディガンやセーターは必要な人が使って」
私はすかさずヨルクさんにセーターを着せた。下に履いてるステテコもどきとは全然合わないけれど。
「ありがとう、ナミネ。でも、私は大丈夫だからナミネが着て」
「昼間は比較的温かいので私は今のままで大丈夫です」
色んなことを聞いた私は頭の中がぐちゃぐちゃになって、ヨルクさんに抱き着いた。

その後、果物も薬草も順調に採取され、加熱によって料理となった。洗濯係も洗い物係もサボらず働いてくれて、サプリメントも紙も市場では人気となり、売るたびに多くのお金が入って来た。
けれど、あの日以来、アルフォンス王子は何もしなくなってしまった。
ちなみに、あの後お姉さんは、母親に無理に市場に連れて行かれるものの、そのたびに悲鳴をあげ、周りの迷惑となった。縫い物の件も信用を失い、あの一家は町の人のイジメの対象になったのであった。
人は、おじいさんみたいに儀式で人魚の肉を食べて不老不死となり、ずっと生き続ける人もいれば、そうでなくても、初代前世からずっと繋がっている。いくら、昔、大昔とはいえ、人に対してよくないことをしてしまえば、何らかの形で自分に返ってくる。死んだらそこで終わりではないのだ。消された記憶は、そのうち蘇り、償わなかったものに関してはいつかは償わなくてはならない。転生したからといって人にしたことが消えるわけではない。お姉さんには、今すぐでなくても人を辱めた罪を現世にて償ってくれればと思う。

金がなっている。
町が荒れている。
「コロディーだ!」
「今すぐ避難所に行け!」
「コロディーだ、コロディーだ!」
「怖い!」
この町に来て、ひと月半が経とうとしている。こんなにも早くコロディーがやって来るとは思わなかった。
コロディー。主な症状は下痢で、それが悪化すると下痢と嘔吐を繰り返す。そして、そのうちに酷い脱水症状が起きる。下痢が多く排泄されてしまうためだ。ここまでは、コロリに似ている。しかし、コロディーはコロリとは違って発熱がある。それも酷い時は46度も熱が出て、生死を彷徨う。
コロディーもコロリと同じで感染症である。感染した人は隔離する必要がある。ひとたびコロディーが流行れば、町の病院は患者でいっぱいになり、入り切らなかった患者は外に敷かれたワラに寝かされる。
かつてのカナエさんたちが患者の世話をしていた時は医師免許なんて必要なかった。けれど、現代は違う。医師免許なしでの医療行為は問題に問われてしまう。
皇帝陛下にナヤセス殿とロォハさんの医療行為の許可をもらわないと。
「皆さん、感染症コロディーがやってきました!持って来た不織布マスクをマスクカバーに挟んでつけてください!不織布マスクだけでは大量の汗をかくことが予測されますので!マスクカバーは少なくとも2日に1度は替えてください!洗濯は各々でするように!病院はここから5キロもあるため、感染した患者は近くの人で溢れかえるでしょう。まずは感染している隣人を1箇所に集め、結界をかけます!いくら暮らしが古代とはいえ、無免許の医療行為は認められません!今すぐ、紀元前村と妖精村の皇室にナヤセス殿とロォハさんの医療行為の許可を申請します!皆さんは経口補水液を作ってください!ラルク!」
私は、ナヤセス殿とロォハさんの経歴を紙飛行機に挟むと紀元前村の皇室に飛ばした。問題は、妖精村に飛ばす方法だ。ここからでは少なくとも1週間かそれ以上はかかるだろう。
「ラルク、妖精村の皇室にどうやって飛ばそう」
「少なくとも、時速300キロで飛んでもらわないとな」
時速300キロ。もはや新幹線レベルだ。そのような速度で飛ばすことは出来ない。どうすればいいのだろう。
「ラルク、そんな速度で飛ばせないよ」
「セナ王女、すみませんがこの紙飛行機を時速300キロくらいで妖精村の皇室に飛ばしてもらえませんか?」
ラルクはセナ王女に紙飛行機を渡した。
「分かったわ!」
セナ王女は、妖精村の皇室に紙飛行機を飛ばした。
……。
物凄い猛スピードだ。はやり、セナ王女は遠い昔の力量は残っている。こんなスピードで紙飛行機を飛ばせるのは、このメンバーの中ではセナ王女くらいしかいないだろう。
20分後、紀元前村の皇室から紙飛行機が飛んで来た。45分後、妖精村の皇室から紙飛行機が飛んで来たのである。
私は紙飛行機の中を開いた。
『ナヤセスとロォハのコロディーに対する医療行為を認める。紀元前村 皇帝陛下』
『ナヤセスとロォハのコロディーに対する医療行為を認める。妖精村 皇帝陛下』
やった!これで、ここには2人の医者がいるも同然だ。
「ナヤセス殿、ロォハさん、コロディーに対しての医療行為が認められました。感染者の診察をお願いします。他の皆さんは疎らにタライを置いて、水に塩と砂糖を入れてください」
紙飛行機を飛ばしている間に、リリカさんたちが感染者をワラに寝かせ、岩の結界をかけてくれていた。もう既に嘔吐をしている人がいる。私は、ヨルクさんが作ってくれたマスクカバーにマスクを通して付けると、通し(とおし)でタライを置きに行った。
ふとテントを確認すると、セレナールさんとアヤネさん、カンザシさん、アルフォンス王子が、何もしないまま寝袋に入っていた。
「あの、4人ともコロディーで町が大変なんです。看病手伝ってもらえませんか?」
「私も具合悪いのよ!」
「怖いです」
「無理です」
「手伝うことは出来ない」
4人とも何なの。寝袋に入っているからといって感染を防げるわけではないのに。他のメンバーは必死で経口補水液を作っている。ここで口論している暇はない。私も感染者の面倒を見なければ。私は再びテントから出た。
外は感染者が増えている。結界かけて隔離しているのに。
「皆さん、患者さんに触れたあとは、必ず持って来た消毒液で消毒してください」
私は感染者が吐いたあとの口元を拭いてから感染者に、持って来た薄型のオムツを履かせた。
「カナエさん、ナルホお兄様、熱の酷い患者には、熱を冷ます薬草を煎じたものを与えてもらえませんか?」
麻黄、杏仁、桂枝、甘草。これを調合したものが現代で言うところの麻黄湯だ。普段飲む機会なんて今ではないけれど、昔の人は熱が強くなった時に飲んでいたんだなあ。
「分かりましたのです」
「分かった」
薬のことはカナエさんとナルホお兄様に任せるとして……。
「ねえ、ラルク、セレナールさんと、アヤネさん、カンザシさん、アルフォンス王子が寝袋に入っているよ」
「放っておけ。ここに来てもどうせ何もしないだろ」
だよね。ここまで何もしない人、はじめて見た。ナノハナ家での私みたい。アルフォンス王子は帰ったらしばらくはトラウマに苦しむだろうか。
「患者の手をシートで拭いて、シートがなくなったら、消毒液を布に付けて拭いてあげてください。布はハギレがたくさんあるため、一度使ったものは捨ててください。くれぐれも自分の消毒を忘れないでください」
「ナミネ、消毒液なんだけど、1人1つの持って来たものだけなのよね。今は足りているけれど、そのうちなくなると思うわ」
そうか。消毒液はサバイバルリュックに入れてきたものだから市場には売っていない。
「消毒液がなくなったらズームさんが作った石鹸を使ってください。患者の手を拭く時も患者の手に石鹸を付けたら、水で濡らした布で拭いてください。紙オムツもなくなった時に誰か布オムツを作っていただけませんか?」
下痢と嘔吐を1日に何度も繰り返すなら紙オムツも、そのうちなくなる。補充をしないと。
「分かった。私が作る」
「では、ロォラさんにお願いします。患者の汚れたお尻は水を濡らした布で1日に数回拭いてあげてください」
完全に汚れ作業だ。これでは、こちらもいつ感染してもおかしくない。ナヤセス殿とロォハさんは経口補水液を飲めない人に点滴を打っている。吐いたり下したりすると、体内の水分がなくなる。だから、定期的に経口補水液を与える必要がある。今は嘔吐だけだけれど、そのうち下す人も出てくるだろう。
みんなとても苦しそうだ。けれど、誰1人死なせたりはしない。
「皆さん、エプロンは必ず付けてください。患者の嘔吐なとで服が汚れてしまうと厄介ですので」
「うん、分かった」
「分かったわ」
「りょーかい」
「ああ、分かった」
(以下略)
これでみんなエプロンを付けた。本当は病院にあるような作業着があればいいのだけど、この町にはまず存在しない。この町の病院には医師のみに白衣は配布されているが、看護師には何も配布されない。女は薄いワンピース、男は薄いステテコもどきの上にエプロンを付けるといった心細いものだけれど、ないよりかはマシだ。
そういえば、遠い昔、占い師が遠い未来にコロナという感染症が流行ると言っていた。デマなのか本当なのか分からないけれど、コロディーでさえ未だに完治する方法は見つかっていないらしい。蓮華町以外の町では、試験的に開発されたワクチンを受けているらしい。けれど、そのワクチンは蓮華町だけには配布されない。
その時、お姉さん家族が来た。弟さんも一緒だ。
「病院は満員で治療薬も尽きたみたい。ここで治療してるって聞いて来たの。どうか助けて」
家族全員が感染したパターンか。私は通し(とおし)を使って空いているところにワラの敷物を敷いた。
「この紙オムツを履いて、あのワラの敷物に横になってください」
会いたくなかったけれど、死なせるわけにもいかない。弟さんは私くらいの年齢の子が3人いる。お姉さん家族は通し(とおし)で結界の中に入った。
みんな、これから一日中患者の看病をすることになるだろう。料理を作っている余裕などない。しばらくはドライフルーツや干し肉、干し魚などでしのいでいくしかない。

……

あとがき。

しばらくイラストのほうに集中していて、更新遅れました。

コロナじゃないけど、コロディーは遠い昔、カナエたちが感染者を看病していたのだ。The 古代編。
ずっと続いている感染症なのに今でも完治する方法が見つからないなんて、今後のコロナみたいだな。

今後もイラストは描くけど小説も定期的に更新していくよ!

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 86話

《ナミネ》

私たちはガタイの大きな男を交番の人に引き渡した後、お姉さんを家まで送り届け、タルリヤさんの家へと向かった。
お姉さんによると、ガタイの大きな男はたまに町に下りてきては、年頃の女の子をイジワルしているらしい。イジワルされた女の子の4割は自殺しているとか。けれど、この町にお墓を建てることは政府が許していないため、死んだ人は残酷にもごみ捨て場に置かなければならないのである。差別されている町だからといって無慈悲にもほどがある。

タルリヤさんの家に着くと16時を回っていた。明日は、果物係はカギで崖を登らなければならないため、料理係は早めの夕ご飯作りに取りかかった。
私はヨルクさんがお団子にした髪をほどき、炎の舞で髪を乾かした。こんなふうに髪を下ろすのも久しぶりだ。お風呂に入れず、ずっと髪を結んでいたから。
「あ、ミツメさん、ここでは指定の下着を着てください。ガーゼ布が薄いため、目立つ下着だと、ヨルクさんのようにダサイパンツが丸見えになってしまいますので」
「何故、私を侮辱する。私は慣れたものしか着ない」
セレナールさんほどではないけど、いくら慣れていないからといって指定した下着着てこないヨルクさんもヨルクさんだ。ダサイパンツがステテコもどきから丸見えでは、彼氏と思われるのが何だか恥ずかしい。
「分かりました。空き家にある余っているものを着ればいいんですよね?」
「はい、全てフリーサイズですので、ヨルクさんによると胸の大きな人でも、ゆったり着ることが出来るそうです」
「ねえ、どうして私のこと馬鹿にするの?私はみんなのためにロォラさんと作ったんだよ!ナミネの下着が透けないためにも下着は布を二重にしたし」
ヨルクさんは、ちょっとした言葉に過剰反応をする。ワンピースもフリーサイズとはいえ、身長高い人は、ミニスカみたいになっているし。
「ナミネさん、少し2人になれませんか?」
どうして、カンザシさんって自分の都合しか考えないの?ここはナノハナ家とは違う。少しの時間の乱れが命取りにもなる。
「あの、明日は重要な役割をしなければならないので、夕ご飯食べた後はすぐに寝ます」
「リーダー、ここは妖精村とは違うんです。リーダーはリーダーの役割をこなしてください!」
本当その通りだ。体力を削ってまで、お喋りするほどの余裕なんて、ここの暮らしにはないのだ。その時、料理係が今日の夕ご飯を運んで来た。今日はカラン王子か。
「ラルク、ドーナツだよ!」
「カラン王子、セレナールとアヤネには与えなくていいわ」
リリカさんはどこまでも厳しい。けれど、ここでのリーダーはリリカさんだ。
「クラスでは優しくしてくれていたのに、どうしてここでは冷たくするんですか!」
「サバイバルって、人の本性がよく分かるものよ。こんな暮らしてもナミネやナナミは少しも文句を言わない。けれど、あなたは何もしない上に文句ばかり。根はいやな女だったのね」
何もしない人は本当に苛立つ。私はアヤネさんとセレナールさんに下剤を飲ませると岩の結界をかけた。
「アヤネさん、セレナールさん、このまま、ここでご飯抜いていると、そのうち脚気になりますよ?いい加減トイレ掃除してください!しないなら、妖精村に戻しません!一生その結界の中で暮らしてもらうことになります!選ぶのはあなた方です」
さあ、どう出るか。流石に通しで水は与えるけど、それだけだ。トイレに間に合わなくても私が知ったことではない。
「わ、分かりました!今すぐしますから、結界解いてください!」
「分かったわよ!このゲス女!やるから結界解きなさいよ!」
やはり、ここでお漏らしをするわけにはいかないか。
「では、ミツメさん、証拠の動画撮ってきてください」
念には念を入れねば。結界を解くなりサボられては困る。
「分かりました」
私は結界を解いた。セレナールさんとアヤネさんは慌ててテントを出てトイレに向かって行った。続くようにミツメさんも2人を追いかけた。
「あの、セナ王女、カギで崖を登って落ちそうになった時に、舞で対処して上まで登るのはありでしょうか?」
「ええ、もちろんありよ。武器も完璧ではない。咄嗟の対応が出来るのならカギで登れることを認めるわ」
よし、これなら私とラルクは余裕だ。ただ、今後はもうワイヤーは使えず、果物係は全員カギで登らなくてはならない。特に崖から下りる時に重たい荷物を背負いながら下りるのは慎重になる必要がある。前みたいに気が抜けないのは確かだ。それでも、2人も転落しているゆえ、暮らしが古代なら現代のものは逆に合わないのかもしれない。
「分かりました」
私はヨルクさんにもたれかかった。服はダサイけど、ヨルクさんはいつもいい香り。
「ナミネ、明日は無理しないで。果物係でなくても役割はいっぱいあるんだし」
「大丈夫です」
やっぱり何だかんだ言って、一度果物係になれば、それを引退するのは詫びしいものである。自分はもう用済みなんだって自責するだろうし、何がいけなかったのか考え込むと思う。そういう意味ではアルフォンス王子の気持ちも分からなくもない。
30分ほどするとセレナールさん、アヤネさん、ミツメさんが戻って来た。
「ミツメ、動画見せてちょうだい」
ミツメさんはリリカさんに携帯を渡した。
「これでようやく女子トイレは綺麗になったわね。アヤネ、セレナール、ここではそれぞれの役割をこなさなければならないの。もし、妖精村で一人暮らししていて、トイレが故障してそのままにしておいたらどうなる?水道、お風呂も壊れてそのままにしておいたらどうなるかしら?ここにはみんながいるけど、1人になった時のことも考えなさい!」
リリカさんはクレナイ家でも、いつも仕切っているのだろうか。学校とは全然違うリリカさんの姿。ここにいるメンバーくらいしか知らない。
「分かりました……今後は何かしらします」
「分かったわよ!けれど、トイレは溜まってきたと感じた人が処理する決まりは、今後は遂行して!」
今後は本当にセレナールさんとアヤネさんはここで与えられた役割をしてくれるのだろうか。
「ええ、今後は溜まったと感じた人が処理をし、汚した人は汚れを掃除してちょうだい。それと、ズーム、石鹸は十分に出来たから他の作業してくれるかしら?小麦がなくなったからミツメは洗濯係に回ってくれる?」
そっか。ズームさん物凄いスピードで作ってたから石鹸は市場で余るほどなのか。
「この町で十分な栄養を取るのは厳しいため、脚気の患者が病院にしばしばかけこんでいるそうです。果物と薬草を分けていただけるならサプリメントを作ろうかと思いますがいかがでしょうか?」
サプリメントか。それなら脚気も防げるし、楽に栄養を補給することが出来る。カラルリさんが加熱で食べ物を作りそれを市場に売っているなら、それに加えサプリメントも市場で売り出されたら買う人は多くいるはずだ。
「分かりました。洗濯係に回ります」
「サプリメントか。考えたわね。じゃあ、明日からズームはサプリメントを作ってちょうだい」
「ねえ、ラルク。公衆浴場に行ったからアヤネさんの酷い体臭もなくなってよく眠れるね」
「ナミネ、今そんな話全然してなかっただろ」
案の定アヤネさんは泣きはじめた。アヤネさんってどうしてこんなにメンタルが弱いのだろう。
「いい加減、このようなイジメはやめてください」
「はいはい、すみませんでしたー!」
アヤネさんは泣きながらテントを出て行った。
「あんたさ、そろそろ人なじるのやめな」
「ですが、アヤネさんはまた何もしません。それにこんなにメンタル弱くてはここではやっていけません!」
アヤネさんはずっと何もしていない。ここひと月も。それなのに当たり前のように楽して暮らして。私はそういう人は嫌いだ。
「ナミネの言う通りよ。アヤネは何もしないわ。何もしないままここで甘え続けていたのよ。私、そんな人間大嫌いよ!」
やっぱりリリカさんも同じ考えだ。ここでは、それぞれが与えられた役割をこなさなければ暮らしていけない。それをずっと何もしないなんて言語道断だ。
あれ、カンザシさんがテントの中にいる。エルナさんはとっくに洗い物しているのに。
「あの、カンザシさん、洗い物して来てくれませんか?エルナさん1人ではエルナさんに負担がかかります」
「どうして命令するんですか。だったらナミネさんも一緒にしてください」
何その言い方。私は明日からカギで崖を登らなくてはならないのに。
「カンザシ、ここでは与えられた役割はちゃんとする!サボる人がいればそれだけ効率が悪くなるのよ!ナミネは朝4時に起きて水汲みをしてるわ!7時半には崖を登って、そこから15時半まで作業をしているわ!あなたに同じことが出来るのかしら?ナミネに倒れられては困るの。だから、無闇にナミネに無理強いをしないでちょうだい」
ここでもリリカさんはビシッとキメる。数年後はカナコさんやレイカさんみたいに成長していそう。どこも長女はしっかりしてるんだなあ。
「分かりました」
カンザシさんは気を落としながらトボトボとテントを出て行った。

この日も私はヨルクさんと同じ寝袋でぐっすり眠った。後から聞くところによると、夜中にカンザシさんが自分の寝袋に私を入れようとしたところを落ち武者さんが気付いて阻止したらしい。ミツメさんはともかく、カンザシさんがここにいては調子が狂う。

早朝4時。
私はいつものように水汲みをした。けれど、この日は雨が降っていた。私はリュックからビニール袋を取り出し、タライ2つにかけた。
ここに来てからヨルクさんに一度も起こしてもらっていない。おじいさんの修行効果だろうか。
5時半になるとみんな起きはじめた。
「あの、セナ王女、今日は雨ですが果物はどうしますか?」
「もちろん決行よ!雨だからといって1日でも休めば、1日分の食糧は消える。ここでは一日一日働かないといけないの」
サバイバル慣れしているせいか、セナ王女の言い分は筋が通っている。雨の日の崖上りは晴れている日に比べたら随分難易度は高いが、私は登りたい。自分の限界を知りたいのだ。
「分かりました」
私を含めみんなレインコートを来ている。
「ナミネ、このポシェットに折りたたんだ箱と、果物入れる薄いリュック入れたから」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
そっか、これまではワイヤーで登っていたからリュックを背負っていたけれど、これからはカギで登るからリュックよりポシェットのほうがいい。ヨルクさんから渡されたのは腰に巻く大きめのポシェットだった。ここへ来てはじめて使う。
朝食は、この家の煮物とドライフルーツだった。あれ、水に味がある。
「ねえ、ラルク。水に味があるよ」
「ロォラさんが余ったフルーツの皮で味付けしてくれたんだよ」
余った皮。ロォラさんって無駄のない人なんだなあ。ナノハナ家ではどれだけ捨てていたことか。妖精村に帰ったら私も試してみようかな。

そして、いよいよ崖に向かう時間が来た。
「ナミネ、無理は絶対しないで。果物係以外にも役割はあるから」
「私は大丈夫です」
雨は小降りから大降りになっている。
果物係は崖へと向かいはじめた。

地面は泥に水が混ざって、ところどころ大きな水溜まりが出来ている。私はカギを取り出した。本来ならカギ縄といって、クモのようなカギの部分を引っかけ、縄を掴み登って行くのだが。ここに来る前のセナ王女の指示でカギ縄ではなく、カギのみで直接登るものをみんな持って来ているのだ。また、カギはクモ型ではなく、1本のストレートフックになっている。これではまるで釣りの道具のようだ。けれど、釣り用ほど細くはなく、1.5センチほどの太さで、全長はだいたい25センチほどだろうか。このカギを両手に持ち登っていくのだ。そして、命綱を付けることも許されなかった。このような登り方は妖精村の武官くらいだろう。
私は崖で靴の泥をはらうと、釣り用具の大きい版のようなカギで崖を登ろうとした。はじめて使うが、やはりこれまでワイヤーを使っていただけに難易度の高さが手に取るように分かる。持ち手のカギは確実なところに引っかけないといけないし、足も確実なところを踏む必要がある。今日は大雨ゆえ、滑りやすくなっている。私は下のほうでシュミレーションしたあと、ゆっくり崖を登りはじめ、コツを掴むと少し速度を速めて中間地点からは猛スピードで崖を登った。

果樹園に着くと既にセナ王女とラルクがいた。やはり、2人は慣れているか。続いてナナミお姉様、リリカさんが来た。その時、風が吹いてミナクさんが飛ばされた。
「ミナク!」
ナナミお姉様は咄嗟にロープを投げた。
「大丈夫だ、ナナミ!」
ミナクさんは花の舞で少し上に上がり、無事に果樹園に着いた。あとは、アルフォンス王子だが……。足を上手く引っかけられないのか、ずっと下で苦戦している。そして焦りが見られた。足場を見つけられないのなら、崖を登るのは無理だろう。
「アルフォンス!あなたは戻って他の作業してちょうだい!」
見かねたセナ王女が声をかけた。しかし、アルフォンス王子は諦めようとしなかった。これも果物係引退への拒否感からだろう。私がアルフォンス王子の立場でも足掻いたかもしれない。自分の力量を否定されるような場面に陥ると誰もが、力不足な自分を嘘だと認めないものである。
「あの子も頑固ね。とりあえずアルフォンス以外合格よ!」
セナ王女はアルフォンス王子を失格にした。このような場面は見たくなかったが、誰もが何でもかんでも出来るわけではない。アルフォンス王子にとっては、かなりの屈辱だろうけど、これも1つの経験だ。
あれ、小さな人間がいる。
「ねえ、ラルク。コビトがいるよ」
「ナミネ、今すぐ捕まえろ!」
私はコビトの元へ走った。するとコビトは逃げなかった。
「久しぶり、ナミネ」
え、知り合いなの?でも、私は知らない。
「あの、どちら様でしょうか?」
「僕も忘れられたもんだね。僕はここの果樹園を管理しているフルート」
ここには管理者がいたのか。だから毎日果物がかわっていたわけか。よく見ると今日は果物が多い。
「そ、そうですか。あの、ここは果物が毎日変わってますよね?果物が殆どない日もあるのですか?」
「僕の気まぐれで変えてる。果物があまりない日もあるよ。でも、気まぐれだから毎日そんなことはしないけどね」
そうだったのか。とりあえず、果物はこれからも定期的にあることは分かった。
「あの、ここの果物って自由に取っていいんですよね?でも、土を持っていくのがダメなのはどうしてですか?」
「ここまで来れたなら果物は自由に取っていいよ。この際だから言うけれど、ここの果樹園は特別なところでそれを僕がマニュアル通りに管理しているから当然禁止事項はあるよ。ただでさえ小さな果樹園なのに土を取られたらここの果物に支障が出るからね。ここにある土は特別な土だから、少しも持ち帰ることは禁止。事故なら仕方ないけど、わざと枝を折るのも禁止。木ごと持ち帰りも禁止。勝手に別のもの植えるのも禁止。とにかく果樹園を勝手に変えるような真似をしなければ大丈夫」
雇われ管理者だろうか。けれど、私を知っているということは、私はここに来たことがあるんだ。果樹園に管理者がいるということは薬草園にも管理者がいるのだろうか。
それにしても、私はここに来た記憶なんて全くない。
「あの、私は昔、ここに来たことがあるのでしょうか?」
「そうだね。悲しい話だけど、大昔、妖精村に生まれたナミネはナノハナ家の5女だった。けれど、赤ん坊の時に産婦人科で取り違えられてしまい、ここの紀元前村の家族の子として育てられた。でも、ナミネが5歳になる頃に育て親は産婦人科で取り違えられたことを知り、ナノハナ家から本当の子を連れてくるなりナミネを家から追い出したんだ。小さいナミネは空き家で1人で住みはじめ、ある日、この崖を登って果物を取りに来たんだよ。その後、ナミネは町の人気者となった。ナミネが14歳になった頃、ヨルクはナミネを迎えに来たけどナミネはここが家だと言って、ヨルクと結婚し、ヨルクは家事をナミネは崖を登って果物や薬草を取って暮らしてたんだよ。僕とはナミネが老いて亡くなるまで、ずっと仲良しの友達だったんだよね」
私にそんな過去があったんだ。取り違えられて、いっときは育ての親だったのに、本当の子供と暮らせるようになれば、私を追い出しただなんて、酷い。話を聞いているだけでも苛立ってきた。
でも、ヨルクさんはどうやってここまで私を迎えに来たのだろう。そもそもナノハナ家の人間は誰も私を迎えに来なかったの?
「あの、その時、ナノハナ家の人は誰も私を迎えに来なかったのでしょうか?ヨルクさんはどうやってここまで来たのですか?」
「ナノハナ家の人間は、ナミネの育ての親が近いうちに連れて行くと嘘をついて、それを信じてずっと待ってた。ここには妖精村と紀元前村に繋がる洞窟のような通路があるんだよ。無論徒歩だと最低でも20日はかかるけど、ヨルクはナミネを迎えに行く一心で24日かけて歩いて来たんだよ。今もその通路は森の手前にあることにはあるけれど、妖精村まで繋がっているかは分からないね」
そういえば、遠い昔、セレナールさんやカナエさんたちがここに来た時にセイさんは通路を通って来たはず。あまりに昔のことだから今も通れるかは分からないけど、ヨルクさんは私のために24日もかけて来てくれたんだ。今と変わらず、ずっと私のことを愛してくれていたんだ。
「そうでしたか。その通路の存在は聞いたことはあります。フルートさんと私は、仲良しだったんですね。あの、フルートさんは、ずっとここにいるんですか?薬草園のほうも管理者がいるのでしょうか?」
「僕は毎日ここにいるよ。薬草園のほうは双子の兄のヤクゼンが管理してる」
かつての私は、ここでひとりぼっちになってもフルートさんがいたから、ここでの暮らしをやっていけたのだと思う。きっと、私にとってフルートさんは家族のようなものだったんだろうなあ。
「久しぶりに会えた記念にあげる」
フルートさんは私に金のリンゴを3つ渡した。3つ!?そんなにもらっていいのだろうか。
「あの、このような貴重なものを3つももらっていいのでしょうか?」
「いいよ。銅の果物は人の病を60%治す。銀の果物は人の病を80%治す。金の果物は人の病を完全に治すんだ。市場には売り出さずナミネや友達が困った時に持っておいて。まあ、感染症の人に与えてもいいけど。3つでは足りないだろうね。1人長さは0.5センチで横幅は薄切りで効果が出るよ。あまり人のために使いすぎないでね」
感染症が出たらこのリンゴで多くの人の命が助かる。けれど、私たちは経口補水液も作れるし、点滴もある。1つは家に持って帰りたいところだ。
「分かりました。大切に使います」
「ナミネ、そのリンゴ、何もしてない誰かさんに盗まれないためにも私が厳重に結界かけて保管するから渡してくれるかしら?」
リリカさんは果物係として、ここで食べる果物は全て管理している。リリカさんに預ければ安心だ。
「はい、分かりました。あの、1つは持って帰りたいのですがいいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
私はリリカさんに金のリンゴ3つを渡した。今日はパイナップルがいっぱい生えていて、私はフルートさんと話している間にたくさんのパイナップルを収穫した。
「フルートさん、ここにいる間は毎日来ます。そして、妖精村に戻ったあともきっと来ます」
「待ってる。何世紀も待ってるよ」
フルートさんから貴重な金のリンゴをもらったはいいけれど、帰ると今度はアルフォンス王子の今後の役目について話し合わなければならない。
フルートさんに会えたことはとても嬉しいが、ここでの暮らしの現実を思うと私の心は気が重たかった。

崖を下りる時は登る時とは違って風の舞が使えるから空中に浮きながらも楽に下りられた。そして、私たちは果物を持ってタルリヤさんの家に向かいはじめた。いよいよ、長い会議がはじまる。

……

あとがき。

やっと女子トイレが綺麗になった。
のはいいけれど、今度はアルフォンスが何もしなくなるフラグ?

フルートと再会出来たナミネ。
けれど、何世紀ぶりなのだろう。ずっと生きている者は死者の転生を待たなければならない。そういう運命も悲しい気がする。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 85話

《ナミネ》

この蓮華町に来て、ひと月が経とうとしている。
みんな、それぞれの役割にも慣れてきたし、食糧や衣類、石鹸、トイレの紙などの日常品も確保出来つつある。
順調に進んでいるかのように見えたのに、カラルリさんに続いて今度はアルフォンス王子が崖から転落した。
ここでは、少しも気を抜けない。上手くいっていても、またすぐに問題は起きてしまう。本当、どうしたものか。
「あんたら、また何かあったのかよ」
「あ、落ち武者さん、アルフォンス王子が崖から転落したんです。崖には途中で止まった伝説ワイヤーがありました。止まってしまった時に、思わず手を離してしまったかと思われます」
お武家ワイヤーも王室ワイヤーも速度はかなり早い。当たり前のように上まで行くと思っていたものが突然泊まってしまったら、人はイレギュラーな事態に混乱してしまう。
「一目惚れカラルリの次は、平凡アルフォンスか。今日はナヤセスもロォハもいないから、詳しいことは分かんないな。とりあえず、テントの中に寝かせておけ。あと、市場でもやっぱり小麦粉は貴重品でこれだけしか買えなかった。塩と砂糖は指定の500gずつ買えたんだけどね?」
そうか、小麦粉があれば多くの料理が作れる。値段も野菜ほどではないけれど、収穫量が多いため、町の人が手の出せる値段で売っているらしいし。
「そうですか。小麦のある場所探してみます」
私はとりあえずアルフォンス王子をテントの中に寝かせた。アルフォンス王子、とても震えている。予測もしていない事態に気持ちが着いていかなくて混乱したのだろうか。
けれど、カラルリさんにしてもアルフォンス王子にしても、何かあった時に舞などで対処出来ないのはどうしてだろう。もう遠い昔の力量はないのだろうか。
その時、カンザシさんが倒れた。
「カンザシさん!」
そっか、あの時カンザシさんごと飛び降りたから、カンザシさんも精神的にかなり滅入ってしまったのか。過呼吸起こしてる。私はカンザシさんをワラの上に寝かせ、リュックからビニール袋を取り出し、カンザシさんの口元に当てた。
「お2人ともしばらく休んでいてください」
「ナミネさん、行かないでください」
「すみませんが、ここに来た以上、みんな働いて暮らしているんです。私もやることがあるので、休んでいてください」
私はカンザシさんに掴まれた手を振りほどき、テントから出た。

そっか、落ち武者さんも一応加熱係だから手が離せない。
「ミツメさん、すみませんが赤いテントの中にある女子トイレの掃除してきてもらえないでしょうか?便器は紙に消毒液を付けて拭いて、置いてあるビニール袋は、この町のゴミ捨て場に捨てます。簡易トイレなので、ビニール袋を取り出して括って新しいビニール袋を付けてください」
「あんた、それは流石に酷だろ」
「私もミツメがやることではないと思う。ミツメは差し入れも持って来てくれたんだし、他の作業をさせるべきと思うが」
まあ確かにそうなんだよね。いきなり来たミツメさんに女子トイレの掃除をさせるのは無理があるか。女子トイレはもう諦めるしかないな。
「やります。リーダーに無理矢理連れてこられたとはいえ、このような、まるで古代のような町だとは思っていませんでした。皆さんの苦労お察しします。僕に出来ることなら何でもします」
はあ、ミツメさんは真面目だ。ここではしっかり働いてくれそう。けれど、女子トイレはいくらミツメさんが掃除しても、どの道同じことの繰り返しだ。ミツメさんにも、この町の暮らしを知ってもらわなくては。女子トイレのことは一旦放置しよう。
「あ、やっぱり女子トイレの掃除はいいです。ミツメさんは今後の役割はリリカさんの指示に従ってください」
私は、この町のことをミツメさんに説明した。川はこの町の人の飲み水であること、トイレのも含め全てのゴミはゴミ捨て場に持って行くこと、公衆浴場は3キロ先だからお風呂には入れないこと、崖を登る果物係や薬草係、洗濯係、買い出し係、加熱係などの役割で回していること、着替えは薄いガーゼ布の上下セットなことなどを話したのである。けれど、ミツメさんは真剣な表情をしていた。
「あ、カンザシさんは過呼吸でテントの中で横になっています」
「そうですか。リーダーのことは僕が面倒を見ます」
ミツメさん、優しすぎる。カンザシさんのワガママで連れてこられたのに、持ってくるべきものはちゃんと持って来ているみたいだし、ここへ来る覚悟がそれとなく伝わってくるよ。
「カンザシさんは、この町での生活はかなり厳しいと思います。あと、タルリヤさん、小麦取れる場所ありませんか?」
「家の裏に少しだけ生えてるよ」
「分かりました。それを採取して石臼で小麦粉を作ります」
私はタルリヤさんの家の裏に向かおうとした。
「その作業、僕がやります!」
どうしよう。来たばかりなのに、いきなり作業をさせて身体がもつだろうか。
「ナミネ、私がミツメさんを市場に連れて行って石臼買ってくるから、ナミネは休んでて。ナミネ、顔色悪いよ。クラフ、少しの間、洗濯任せてもいい?」
アルフォンス王子が目の前で転落し、一歩間違えたら命を落としていただろうから、私も動転しているのかもしれない。
「はい、大丈夫です。小麦粉作れるといいですね」
「では、すみませんが石臼の購入お願いします。私は適当な空き家で休んでいます」
「ナミネ、1人で何もかも考えなくていいからね」
ヨルクさんは私の頭を撫でた。何だか、恋人と言うより兄みたいだ。
ヨルクさんとミツメさんが市場に向かうと私は適当な空き家で横になった。

「おい、会議はじまるぞ。気分どうだ?」
落ち武者さん……。私、眠ってしまってたんだ。時計を見れば、まだ12時。どうして早く帰ってきたのだろう。ここでの暮らしは、私は4時に起きて水を汲み、6時に朝食、7時半からそれぞれが役割をし、15時半に作業は終わり、16時から会議、18時に夕ご飯、21時に就寝である。こんなに早く帰ってきたってことは、また何かあったのだろうか。
「あの、まだ12時ですが」
「果樹園に果物が殆どなかったんだよ。それで、薬草係に紙飛行機飛ばして今日の作業は中断になって、平凡アルフォンスとカンザシやミツメのことについて話し合うことになった」
果樹園に果物が殆どない!?こういう時期は今後も続くのだろうか。突然の予想外の出来事に私は戸惑った。
「そうですか。今テントに行きます」
私は落ち武者さんとテントに向かった。

テントでは、カンザシさんとアルフォンス王子が起き上がっていた。
「ナミネ、アルフォンス王子はどこも悪いところはなかったよ。映像見たセルファによると、伝説ワイヤーで登っている途中に伝説ワイヤーが突然止まった弾みでアルフォンス王子は手を離してしまったみたいなんだ。ズームさんによると伝説ワイヤーは故障したみたいで、ここの職人さんでも直せないし新しく作ることも出来ないらしい」
やっぱりアルフォンス王子は、伝説ワイヤーが止まった時に手を離してしまったのか。確かにものは完璧ではない。いつ故障してもおかしくないものである。けれど、修理も出来なければ、オーダーも出来ないなんて。伝説ワイヤーは1つしか持って来てないのに、アルフォンス王子みたいに壊れてしまえばどうしたらいいの?
「そうでしたか。今後、アルフォンス王子はどのような役割をするのでしょうか?」
「そのことなんだけど、セナ王女がワイヤーではなく、カギで登れる人のみ果物係をすべきだと言ってるの。明日、カギで登れるか果物係全員が試すわ。それと、今日みたいに果物が殆どない日が1週間続いたら、果物係は別の役割に回るしかないと思うの。例えば、動物捕獲係とかね。
ミツメはしばらくは小麦粉係、カンザシは洗い物係をしてちょうだい」
逆物質の逆バージョンとでも言うべきだろうか。やはり、古代の暮らしだからこそ、崖を登るにも古代のもののほうがワイヤーほどは壊れる心配がなく登ることが出来るのかもしれない。
「分かりました。頑張って小麦粉作ります」
「分かりました……」
カンザシさんは、本当にサボらずちゃんと作業出来るのだろうか。それにやっぱり女子トイレの件はそのままか。カギは市場で買わなくても崖を登ることを想定して来た人はみんな持っている。私は明日、必ずカギで登り切る。
あれ、アルフォンス王子の顔が青ざめている。どうしたんだろう。
「カラルリ、伝説ワイヤー貸してくれないか?」
「別に構わないけど、カギで登れないと果物係から外されるんだろ?」
「頼む!私だけカギで登ることは免除して欲しい!他のダサイ係なんてとてもじゃないけど出来ない!」
はあ、アルフォンス王子がカギで登れないなら、これからはアルフォンス王子も何もしないってこと?そんなの許せない。
「あの、加熱係は炎の舞使いますので、かなり難易度の高い役割で、今はカラルリさんだけなので、もう1人欲しいと私は思っています」
「無理だ!私は果物係しかやらない!」
アルフォンス王子ってワガママ。カナエさんはこんな男と別れて正解だったと思う。
「あら、森で動物捕まえてきてくれてもいいのよ?とにかく明日からはカギで登る。それが出来ないなら他の役割することね」
アルフォンス王子は一度転落してるんだし、カギも使えないなら他の安全な役割をしたほうがいい。アルフォンス王子はもう果物係は無理だ。
「あの、ここで何もしない人はタルリヤさんの家のご飯のみ食べて、みんなが一生懸命取ってきたものは食べないでください!そんな権利ありませんから!」
「私も同感ね。今後、何もしてない人が人の取ってきたもの食べようとするから阻止するわ!」
これで、約3人はこの家のご飯しか食べられない。係の人が一生懸命取ってきたものを何もしない人に食べられてはチームワークの乱れに繋がる。
「おい、誰に向かって口聞いてんだ、リリカ」
アルフォンス王子はタロットカードをリリカさんに突き付けた。が、リリカさんは扇子で一瞬にして吹き飛ばした。
「ナミネがあなたを助けなかったら、あなた死んでたかもしれないのよ?命あるだけ感謝しなさい!今から公衆浴場に行くわ!」
公衆浴場。やっとお風呂に入れる!
「ラルク、はじめての公衆浴場だね」
「そうだな。かなり歩くけど、流石にずっと風呂入ってなかったから、そろそろ入らないとな」
「ナミネ、公衆浴場では絶対布2枚巻いて」
どうしてヨルクさんって、こうやっていつも束縛みたいなことするの?公衆浴場は男女兼用なんだし、この町の人はまず布なんて巻かないだろう。
「ていうか、みんな水着持って来てるだろ。それ着たらいいと思うけど?」
「水着で入るも布巻くのもみんなの自由にして」
私は水着も布もいらない。けれど、念の為持って行こう。
「分かりました」
「石鹸はここに置いておきますので一人一つ持って行ってください」
石鹸いっぱいある。ズームさん、ハイスピードで量産してるんだ。
「ありがとうございます、ズームさん。あ、ミツメさんとカンザシさんはここで休んでいてください。ここから3キロ先なので」
「僕も行きます」
「リーダーが行くなら僕も行きます」
結局こうなるのか。私は少しずつカンザシさんから離れ、ヨルクさんの腕を組んだ。でも、古代の公衆浴場って……ヨルクさん変な気起こさないといいけど。

公衆浴場まではやや遠い。みんなのペースに合わせると30分では着けない。この往復が明日の崖登りに支障を来さなければいいのだけれど。私はゆっくり歩いた。

途中、何人か息切れしたものの、50分で公衆浴場に着いた。公衆浴場はを積み重ねられ作られた、そこそこ広い建物だった。
「ラルク、公衆浴場だよ!」
「だな」
「ナミネ、水着は絶対に着て!」
「分かりました!着ますけど、でも、ここは古代の暮らしなんですから、ヨルクさんこそ変な気起こさないでください」
「私はそのような気など起こさない」
中に入ると、思っていた通り服を脱ぐのも男女同じ場所だった。年頃な綺麗な人もいる。なんだかな。私はワンピース着たまま水着に着替えた。
「ナミネ、ビキニだったの?」
もう、いちいち何?
「下着の代わりに持って来たんですから、当然でしょう!何も着ないだけマシですよね?」
「う、うん、そうだね」
公衆浴場はお風呂は温泉のようだった。というか、かなり広い。私は髪をお団子にした。
「ナミネ、身体洗ってあげる」
2人の時はいつもヨルクさんに洗ってもらっているけど、公衆浴場だとそういうのは恥ずかしい。けれど、ここは人はそれなりにいるけれど、広いから誰も見てないか。
「はい」
ヨルクさんはズームさんが作った石鹸を泡立たせ、持って来たボディタオルで私の身体を洗いはじめた。何だか、ここに来てからずっと恋人らしい時間持てなかったから、少し新鮮。
「あの、ここって洗顔とかシャンプーとかってありますか?」
え、どうして知らない人に話しかけるの?それも黒髪の胸の大きなスタイルのいい美人。結局ヨルクさんって、これが目的だったんだじゃん。
「ふふっ、はじめて来たのね。ここは石鹸のみよ。髪も顔も身体も全て置いてある石鹸を使うのよ」
「そうなんですね。ボディタオルやバスタオルもないんですか?」
「身体はみんな手で洗ってるわ。バスタオルどころかここはタオルさえないのよ。出る時はみんな持って来た市場の布で身体拭いてるわ」
ここにあるのは、手洗い石鹸のようなものだ。それで顔を洗えば顔が荒れてしまう。21世紀にして家にお風呂がないどころか、公衆浴場通いで、そこには石鹸1つしか置かれていない。タオルさえも仕入れられないなんて、何度も思うが現代人には過酷すぎる生活だ。
あれ、セレナールさんと、リリカさん、ナナミお姉様、ロォラさん、セナ王女、カナエさんはタオル1つ巻いてない。
「あの、お姉さん。ここでは男性は女性を口説かないのですか?」
「ここは公衆浴場で、みんないるからタイプの子がいても、みんな素知らぬ顔してるわ。こんなところで変なことされても迷惑だしね」
なるほど。一応TPOはわきまえているというわけか。けれど、ここに来ている男は殆どセレナールさんを見てる。何だかいやだな。
「あの、お姉さんも合意でしてるんですか?あと、ここの暮らしはお姉さんにとってどんな感じでしょうか?」
「ふふっ、可愛らしい妹さんね。私はいくらここが古代の暮らしのままとはいえ、好きでもない人には許さないわ。それにここにいる男性は論外かしら。そうね、私は崖は登れないし、市場で野菜を買うしかなくて、いくら縫い物をしても、暮らしていけるほどのお金はもらえない。何より、ここで生まれた人はこの町から出ることは許されないから学校に行けないことが何より辛いわね」
お姉さんは、ナノハお姉様くらいの歳だろうか。私たちみたいに妖精村に生まれていたら学校にも行けて花盛りの今をめいいっぱい楽しめていただろうに。青春1つ出来ずこの町で歳をとっていくだなんて、何だか可哀想。
「あんた、そこそこ綺麗だし、果物とか男から分けてもらえないのかよ?」
「果物じゃないけど最初は干し魚とか分けてくれていたわ。でも拒み続けていたら、そのうち誰も何もくれなくなった。私は長女だから、下の子たちを養っていかないといけないけど、流石にこんな町でも綺麗な身体は貫きたいの」
この町の男は見返りを求めるのか。汚い。心が穢れている。この町の人には助け合いというものがないのだろうか。
「ナミネ、洗顔で顔洗うから目をつむって」
ヨルクさん、洗顔持って来たんだ。って、みんな持って来ているけど、なんか、容量が地味に多いような。
「はい」
「仲の良い兄妹なのね」
「彼女です。私の兄弟は、彼女の隣に座っているのが弟で、緑色の髪の女の子の隣にいるのが兄で、金髪で浴場の端っこにいるのがあねです」
「あら、そうだったの。全然似てないのね」
ヨルクさんは私の顔を洗い流し、次は髪を洗いはじめた。やっぱり、クレナイ家はヨルクさんだけ似てないか。
「お姉さんは、ここまでくるの大変じゃないですか?」
「ううん、家この近くだから。寧ろ、市場に通うのが体力いるわね」
公衆浴場の近くに家があるのか。頻繁にお風呂に入れるか、毎日楽に市場に通えるか、どっちがいいだろう。やっぱり、市場だろうか。ヨルクさんは私の髪を洗い流すと再び私の髪をお団子にした。
「私たち妖精村から来たんですけど、果物も干し魚もあるので、少し分けます」
「ううん、いいの。ここでは自力で生きていかないといけないから。それ相応な暮らしをしていくわ」
この人、根がしっかりしている。セナ王女なんて、失恋ひとつで騒ぎ立てるのに。私もそうだけどさ。この町の人は生きることが目標で、生きるために必死で働いているんだ。
「あんたさ、そこそこいい女なんだから、いい男見つけて幸せになれ!」
「ちょっとヨルクさん、どこ見てるんですか!ヨルクさんって胸の大きな人が好きですよね!いっそ、このお姉さんと一緒になればどうですか?」
本当いやになっちゃう。ヨルクさん、ずっとお姉さんのほうばっかり見てて、いやらしいったらありゃしない。
「ねえ、どうしてそういうこと言うの?私はナミネが話してたから話聞いてただけで、変な感情とかないから!決めつけないで!」
どうせ落ち武者さんにフェアリーングかけてもらったら、いやらしい本心話すだろうに。あー、やだやだ。私は無言でズームさんのところに行った。
「ロォラ、タオルくらい巻け!」
「でも、みんなありのままだぞ?ズーム」
私はズームさんの膝の上に頭を乗せた。
「ロォラさんてセクシーですよね。他の男に見られたくない?ない?」
ズームさんは無言で私にタオルをかけた。そうだった。ヨルクさんに身体洗ってもらう時に水着脱げちゃったんだった。ああいった白いビキニって私のような小さいサイズ売ってないんだよね。大きめの買ったら、スルリと脱げちゃった。
「僕は何度も話した通りです」
うーん、ズームさんて、あまり恋したことないのかな。いや、かつてのカンザシさんに元カノを取られたってことは、そこそこ恋愛はしているはず。
「水着、大きいのしかなかったんです。だから脱げちゃった。えへへ」
「ナミネ、水着脱いで何してるの?お風呂入るよ。早く水着着て!」
私は起き上がった。
「水着大きいから脱げちゃったんです!あ、ズームさん、タオルありがとうございました」
私は水着を着るとヨルクさんに手を引っぱられ、浴場に入った。
温かい。お風呂なんて何日ぶりだろう。当たり前のことが、ここではそうではない。お風呂に入ることがこんなに尊いものだと感じたのははじめてだと思う。
その時ヨルクさんは私を膝の上に乗せた。ヨルクさんの紅葉の香りが心地いい。このまま眠ってしまいたい。
「はい、ストップ!ここ公衆浴場だからね?あんたら2人で入っているわけじゃないからね?」
私は咄嗟にヨルクさんから離れた。
「ねえ、落ち武者さん、公衆浴場に来てから、ずっと私たちの近くにいたよね?」
「別にどこにいてもいいと思うけど?」
「もういい!ナミネ、身体洗えたから汚れも落ちたね」
「はい」
その時、さっき話していたお姉さんがヨルクさんにぶつかった。
「大丈夫ですか?」
「助けて!」
え、何が起きたのだろう。ふと横を見るとガタイの大きな男が年頃の綺麗な女の子を押し倒していた。
「なあ、あの男誰だよ」
お姉さんは起き上がった。
「普段は森で住んでいて、たまに町に下りてきては気に入った女性を次々に襲っているの。あの男に初を奪われた子も何人もいるわ!」
そういえば、遠い昔、ターリャさんが皇太子様を公衆浴場まで連れて行き、その帰りに、長身のガタイの大きな男が襲いかかってきた。その時はターリャさんが男を倒したけれど。あの時の男なのだろうか。
「ナミネ、交番に紙飛行機飛ばせ!」
「分かった、ラルク!」
私は交番に紙飛行機を飛ばした。ラルクが男を拘束しようとした時、リリカさんがギリギリのところで襲われている女の子を助け、男を思いっきり殴った。そして、花札で男を拘束した。
少しすると、交番の人が来た。暮らしは古代とはいえ、交番の人まで市場のステテコもどき姿だと調子が狂ってしまう。
交番の人が男を連れて行こうとした時、男は自力で拘束を解くなり、こちらに向かって来た。狙いはお姉さんか。
「ラルク!」
「ああ」
私が男を押さえている間にラルクは公衆浴場に置いてある緊急用の縄を持ち、男を縄で拘束した。お姉さんは泣きながら倒れるようにヨルクさんにもたれかかった。

……

あとがき。

伝説ワイヤーよりカギ登りを指定したセナ。
ナミネは無事カギで崖を登ることが出来るのだろうか?

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 84話

《ナミネ》

「あんたら抜け駆けして修行までしてたのかよ。だから、家事1つ出来なかった強気なナミネが、いきなり家事出来るようになったんだな」
「あ、抜け駆けとかそういうのではないです!ナルホお兄様があんな状態だったので、行き場がなく、ラルクと折り鶴に乗っていたら、森の湖南町に着いてたんです」
落ち武者さんて兄弟いるのに、いつも寂しがり屋さんだ。それも過去の風邪の悪化が原因だろうか。その時、誰か1人でも落ち武者さんの傍にいてたらよかったのに。
「とにかく、妖精村戻ったら、そのじいさんとこ行く」
「あ、はい。そういえば、森の湖南町は天然記念物でダンゴロさんが所有しているそうです」
神様が所有者というのも意外だけれど、そうまでして残しておく理由があるんだろうな。
「へえ、エロじじいが所有者ってわけか。だったら、あのレストランがあるのも理解出来るな」
「今後は、師範の奥様の家に通いましょう。ここでの暮らしのヒントが得られるかもしれません」
「だね〜!やっぱり、ここは達人の知恵が大事だよね」
「あんたらは果物係で忙しいだろうから、僕が頻繁に行く」
まさかの落ち武者さんが抜け駆け!タルリヤさんの家のご飯が食べれたものではないからって、おばあさんの家で食べるのだろうか。
「落ち武者さん、私の分のお菓子も残しておいてください」
「あんた、僕が長居するとでも思ってんの?一目惚れカラルリの作業もあるから、市場に寄ったあと、挨拶程度に寄るだけだけど?」
ああ、そうか。落ち武者さんは、カラルリさんと一緒に加熱作業するんだった。

タルリヤさんの家に戻るとリリカさんがいた。
「あ、リリカさんー!」
「ナミネ、それどうしたの?ラルク、どこでもらったの?落ち武者さん失礼なことしてない?」
ヨルクさんていつもこう。ヨルクさんには近所の人付き合いというものがないのだろうか。
「あんた、何で僕だけに言うのさ。ばあさん家でもらってきたんだよ」
「その家どこ?今すぐお礼に行ってくる」
はあ、ヨルクさんて、ちょっともらってきただけで悪いことしたような言い方で何だかモヤモヤする。それに、おばあさんは完全に他人というわけではないのに。
「市場の近くのログハウスっぽいとこだけど?」
「分かった、ちょっと行ってくる」
ヨルクさんはそそくさに市場方面へ向かって行った。
そういえば、みんなもうサバイバル服からガーゼ服になってるから、男性陣はステテコみたいで、めちゃくちゃダサイ。ヨルクさんなんか、スポーツタイプのパンツじゃなく、いつものダサイパンツ映ってて余計にダサイ。けれど、遠い昔、アランさんのセイさんはパンツしか履いてなかったんだっけ。何だか、男性陣には目も向けられないよ。
「あ、リリカさん。市場の近くに住むおばあさんから、小麦粉と卵とココナッツオイルもらってきました。これでホットケーキが作れると思うんです。なので、ナヤセス殿とロォラさんに作ってもらえたらと思いまして……」
もうあの不味い魚料理は食べたくない。ちゃんとした人に了解をして欲しい。
「まあ、こんなに!お礼はヨルクが行ったから問題ないわね。みんな!ナミネとラルクとセルファが貴重な食糧もらってきてくれたわよ!ここで何もしてない人は、いい加減、トイレのものゴミ捨て場に持って行きなさい!」
あのゴミ、まだ残ってるんだ。こんなだとどうせ、女子トイレは便器も汚れてるんだろうな。
「じゃあ、ホットケーキは私とナヤセスで作る」
はあ、これでやっとまともなご飯が食べられる。
「ナミネ、僕が料理してる姿、写真に撮ってくれないかな?」
「ラハルのことなら私がするわよ!」
これは推しというより、なんと呼ぶべきなのだろうか。2.5次元の普段接することも出来ない芸能人が目の前にいるもんな。
「あ、どれも貴重な食糧ですので、焦がさないようお願いします」
「ああ、分かってる」
「ナミネ、僕の手料理楽しみにしててね」
ナヤセス殿は私の頭を撫でた。
「はい」
そこへズームさんが来た。
「喜んでいるところ申し訳ないのですが、湖の魚を毎日釣り続けていたら、そろそろ魚がいなくなってきました。なので、明日、僕は、町の職人さんに携帯浄水器と万が一の時のための点滴を1つずつ注文しに行こうかと思います。無論点滴の針は、この町の技術ではある程度は太いでしょうけど。納得いく商品であれば、今後のために追加注文するつもりです。その後は僕は石鹸を作ります。手洗い、食器洗い、洗濯に必要でしょうから」
そうか、職人さんに作ってもらう方法があったか。特に携帯浄水器は非常事態に必要になってくる。そういえば、未来医師の学び舎でも似たようなシーンがあったなあ。
「え、ええ、お願いするわ。みんな聞いたかしら?することがなくなれば、次のことを考える。それが出来ないとここでは生きていけないわよ?セレナールとアヤネ、ミネスは明日から何をするのかしら?自力で崖を登っても構わないのよ?」
何もしてない人は、セレナールさんとミネスさん、アヤネさんの3人だ。せめて、トイレのゴミ捨てだけでもしてくれたらかなりマシなのに。
「へえ、お兄ちゃんみたいに頭脳戦はまかり通るってわけ。この家には人参がある。市場でも安値で売ってる。どうせ腐っているんだったら別の用途にしたほうが効率はよくなると思う。私は薄い紙、つまりトイレットペーパーの代用品を作る。そうすれば、コストもかなり削減出来る。文句ある?」
ミネスさんはズームさんに似て頭脳明晰だ。ここではズームさん同様頭脳戦でチームワークに乗るつもりか。何だか悔しい。いくら、武士としての力量があっても、頭脳明晰な人は体力使わずに色んなことが出来てしまう。あっ、でも、火を通す過程はどうするのだろう。
「ですが、野菜をギリギリまで煮るのはどうするのですか?」
「ナミネっておバカさんね。お兄ちゃんが数式書けるように私も書けるの。あと、電池の使わない押すだけミキサーを私も職人にオーダーする」
電池を使わない押すだけミキサー。妖精村だとそれなりに出回っている。それなら職人も作れるかもしれない。
「じゃあ、ミネスはトイレットペーパーの代用品製作をお願いするわ。アヤネとセレナールはどうするのかしら?」
「み、水汲みをします」
「それは毎朝ナミネがしてるわ!」
2人は黙り込んでしまった。
「あの、何もしないのでしたら、トイレ掃除とかトイレのゴミを流石に捨ててもらえませんか?」
「何よ!ナミネがやりなさいよ!」
「あのですね……」
「ナミネ、もういいわ。放っておきましょう」
本当何なの。果物係はただでさえ崖を登る命懸けの役割なのに。トイレのゴミ捨てなんて命全然かけないじゃん。
あれ、ビニール袋に入れたおばあさんの手作りクッキーがなくなってる。
「ねえ、ラルク。おばあさんの手作りクッキーなくなってるよ」
「クッキーだけなら諦めろ!」
「本当に次から次へと問題起こるわね!」
その時、ヨルクさんが戻って来た。え、何持ってるの?またもらってきたのだろうか。
「ナミネ、ただいま。銀のリンゴもらってきたよ」
何故ヨルクさんだけ特別なものをもらえるのだろう。ナヤセス殿はヨルクさんに近付いた。
「ヨルク、成分調べていいかな?」
「はい、どうぞ」
落ち武者さんが写真を撮ったあと、ナヤセス殿は銀のリンゴの成分を調べはじめた。
崖の上の果樹園は毎日変わっている。けれど、特別なものは頻繁には手に入らないだろう。1世紀おきとか、それよりもっと見ることが出来ないかもしれない。
トイレ行かなきゃ。私はトイレに走った。

女子トイレの便器は誰かのもので汚れている。どうして汚した人は綺麗にしないのだろう。もう片方のトイレは何もないから私はもう片方のトイレを使った。
やっぱり布ナプキンだと紙のナプキンと違って早いめに変えないといけない。けれど、背に腹はかえられない。私は布ナプキンを変えると汚れた布ナプキンをビニール袋に入れてトイレを出た。

「ナミネ、それ洗っておくね」
「はい、お願いします」
私はヨルクさんに汚れた布ナプキンを渡した。
「ねえ、布ナプキンって自分で洗うんじゃなかったの?ナミネだけ特別扱いなんて卑怯だわ」
セナ王女はちょっとしたことに反応する。
「あの、今だから言いますが、女子トイレの便器が汚れているんです。今から落ち武者さんにフェアリーングかえてもらいましょうか」
「イジメはやめてください!」
犯人はアヤネさんだったのか。
「あの、アヤネさん。自分のもの自分で綺麗に出来ないんですか?」
「私じゃありません」
「では、落ち武者さんにフェアリーングかけてもらいます」
「やめてください!どうしてイジメるんですか!」
アヤネさんは羞恥心からか泣きはじめた。泣いたってどうにもならないのに。ただ、どうして自分で汚したものは自分で元通りにしないのか。その精神が理解し兼ねる。
「アヤネはトイレ掃除しないなら今日のホットケーキは抜き!クッキー盗んだアルフォンス王子もね」
「証拠でもあるのかよ」
「私もセルファにフェアリーングかけてもらおうかしら」
「ロクなご飯食べれてなかったから思わず食べてしまった。今回だけは許して欲しい」
落ち武者さんがいると、みんな自白する。けれど、クッキーだって貴重な食糧なのに。それを1人で全部食べるなんてやっぱり許せないよ。

夕方になり、みんなはテントに入り、ロォラさんとナヤセス殿のホットケーキを食べることになった。ホットケーキは家で食べるのより半分小さい大きさだけれど、ここでは貴重な食べ物だ。
ちなみに、ラハルさんはラストのホットケーキの焼く姿をリリカさんにバッチリ撮ってもらったらしい。
トイレ汚したままのアヤネさんの分はないけれど、これでやっと美味しい料理が食べられる。私はホットケーキにハチミツをかけた。美味しい……。これで料理係が決まれば、あの不味い魚料理から開放される。そうだ、こういう手段もあった。
「あの、今後の料理係ですが、洗濯係の人がローテーションするのはどうでしょう?」
ローテーションなら、毎日作らなくてもいい。みんなはどう考えるだろう。
「本来なら何もしてない人に作ってもらいたいところだけど、貴重な食糧を無駄にするわけにもいかないし、私はそれで構わないわ」
よし!リリカさんのOKが出た。あとは、洗濯係の人の気持ちだ。
「ええ、そうするわ。毎日じゃないなら、そこまで疲れないだろうし」
「僕も少しずつ料理学びながら作る」
「料理経験は殆どないですが僕も頑張ります」
「ああ、私もそれで構わない」
「親の料理しか見てなかったけど僕なりにやってみるよ」
「ナミネ、美味しい料理作るからね」
やった!洗濯係はみんな賛成してくれた!これで、貴重な食糧に関しては美味しい料理を味わえる。ありがとう、みんな。
「ありがとうございます。掛け持ちは辛いかもしれませんが、お願いします。もし、担当の日、具合が悪い人は無理せず、次の日の担当者に作ってもらってください」
魚はもう湖に殆どいないから、今後は市場に売り出されないだろうし、ここにある分だけだけど、干物なら普通に食べれると思う。それに、果物に肉もあるから、ここの料理に加えたら栄養も取れるだろう。何より、市場で小麦粉が手に入れば、ココナッツオイルでホットケーキが作れるのは大きな収穫だ。ホットケーキは卵がなくても作れるし、今後の貴重な食べ物の1つになると思う。まあ、ここには牛乳もベーキングパウダーもないし、卵もないと家で食べるようなホットケーキとはまた違うけど、それでも美味しく食べれるのはとても嬉しい。それに小麦粉は色んな料理が出来る。クッキーもそうだし、ナンとか、ドーナツ、蒸しパン。おやきなんて小麦粉と塩があれば作れる。調味料はここで全ては揃えられないけど、小麦粉は、ここでは欠かせない。
「あ、落ち武者さん、明日、市場で追加で小麦粉と砂糖と塩を買ってきてもらえませんか?小麦粉があれば、ドーナツや蒸しパン、ナンなど幅広いものが作れます。小麦粉と塩だけあれば、おやきを作ることも出来ます。今後、小麦粉はここでかなり役立ってくれると思うのです」
「りょーかい。じゃあ、小麦粉と砂糖、塩に加え、ズームの石鹸作りの油と灰買ってくる」
「石鹸作りの材料は、既に揃えてあります」
「あんた、仕事早いな」
ズームさんは、市場で油を買いに行き、灰は何度か焚き火を起こしたあとのものをかき集めたらしい。手作り石鹸は、普通は灰ではなく、荷性ソーダか精製水が使われるが、ここには当然のごとくそれがない。ちなみに、古代では荷性ソーダか精製水の代わりに灰を使っていたそうだ。石鹸て古代からあったんだなあ。そして、ズームさんは四角い容器も持って来ているから石鹸作りの準備は万全だ。
「あ、ハチミツもお願いします」
「それなんだけど、うちにあるのは何世紀も前のもので、今はハチ1匹ここにはいないから、ハチミツは市場にはもう売り出されてないんだ」
えええええ!あれ、何世紀も前のものだったの?全然気づかなかった。次からは砂糖かけて食べよう。
「そうですか。逆に存在しなくなったものもあるのですね」
これが時代というヤツだろうか。それにしてもハチがいないだなんて実に不可思議だ。
その時、ヨルクさんが私にストールのようなものをかけた。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
そうか、昼間はそれなりの気温を保っているけれど、今は冬で夜はマイナス20度を超えることもある。女性陣はノースリーブのワンピースだし、男性陣は長袖とはいえ、そもそもガーゼ布自体が薄い。けれど、ここで冬物のコートを手に入れるにはそれこそイノシシを捕まえなければならない。今は、ヨルクさんが作ってくれたガーゼ布二枚重ねのストールでしのぐしかない。あれ、ちょっと待てよ。
「あの、崖の上の果樹園が毎日変わるなら綿が生えていることもあるかもしれませんよね?綿が手に入れば、それをガーゼ布に入れてケープを作るのはどうでしょう?」
「それもなんだけどね、果樹園はあくまで食べられる果物しか生えてないんだよ。あるとしたら薬草のほうだろうけど、僕は遠い昔からここで綿を見たことがないんだよね」
えっ、ありそうなのにないのか。綿を収穫すれば、ケープ的なコートが作れるのに、残念。
「そうでしたか。ここの服は生地が薄いですし、コートがないと暮らしも大変ですね」
確かに古代に贅沢なものなんてないか。ここでの期待はあまりよくない。気を引き締めなければ。
「ねえ、ラルク。アヤネさんね、便器に大っきいの付けたんだよ。これで愛しのズームさんに嫌われたね」
「ナミネ、食事中に言うなよ!」
「どうしてイジメるんですか!」
アヤネさんは泣きながらテントを出た。私は今度はズームさんの膝に頭を乗っけて上目遣いでズームさんを見た。
「ズームさん、ロォラさんの手料理食べれて幸せですね。ロォラさんは家事かなり出来ます。お嫁さんにしたくなった?なった?」
「ロォラのことは女としては見れません。僕はかつてのあなた以上の恋愛をしたことはありませんよ」
えっ、私のどこがいいのだろう。それに、ロォラさんとズームさんて息ピッタリで恋人みたいなのに。
「とりあえず、女子トイレの便器が汚れたままだなんて、ありえなさすぎるわ。それに、もうすぐビニール袋も変えないといけないのに。何もしない人はどうして何もしないのかしら。セレナール!明日、トイレ掃除しなさい!しないと、食事は抜きよ!」
私は起き上がり、再びヨルクさんの横に座った。
そうなんだよね。このままだと、テントから溢れてしまいそうだ。
「リリカ、流石に汚いものは触れないわ!」
「ゴム手袋持ってきたじゃない!」
「持って来てない!」
はあ、セレナールさんは、どうして必要なものは全て置いてきたのだろう。ここでの暮らしも少しずつ慣れはじめ、食糧も確保出来るようになって来た。けれど、何もしない人や女子トイレの問題は少しも解決しない。どうしたものか。

その後、ズームさんは町の職人さんに携帯浄水器と点滴をオーダーで作ってもらった。携帯浄水器はペットボトルのように大きく容器は重たいが、湖の水で試したらちゃんと使えたのである。また、点滴はやはり針に関しては限界があったが、ナヤセス殿が着いて行き、直接目にして使えるものと判断し、ズームさんは携帯浄水器と点滴を追加で15個注文した。そして、予定通り、油と灰、水で順調に石鹸を作りはじめている。
ミネスさんも宣言した通り、職人さんにオーダーした押すだけミキサーが出来上がるなり、他はタルリヤさんの家にあるものでトイレットペーパーの代用品である薄い紙を作りはじめたのである。ミネスさんもズームさんに似て手先が器用で、ペラペラの紙が仕上がっていった。まさに神業。これでトイレットペーパーは市場で買わなくて済む。といっても、ここの暮らしは古代並ゆえ、分厚く固い紙がずさんに巻かれているだけなのだ。それゆえ、ミネスさんが作った薄紙のほうが使いやすいのである。
料理係は、洗濯係から毎日1人料理し、次の日には別の人が料理をするというローテーション型になり、普段料理をしていない人はヨルクさんやロォラさんに学び苦戦しながらも美味しい料理を作ってくれている。
カラルリさんは、炎の舞を使い、果物をドライフルーツに、残った魚を干し魚に、加熱不十分の市場の肉を十分に加熱したり干し肉を落ち武者さんの指示の元、休憩を挟みながら量産してくれている。
何もしない2人や女子トイレの問題は相変わらずだが、ここで生活するものがどんどん増えていっている。順調にことは運んでいっているかのように思えた。けれど、カラルリさんの件もあり、私は気を抜けなかった。出来れば私も薬草のほうを見てみたいが、果物係のワイヤーを使って登っている人が心配だ。ナルホお兄様とカナエさんは毎日ワイヤーを点検しているから大丈夫だろうけど、果物係のほうは点検していない人のほうが多い。また事故が起きなければいいのだが。

テントに入っていても今日は随分と寒い。私は寝袋の中に入りながら干し魚を食べた。
「強気なナミネ、あんた、それは流石にやりすぎだろ」
「あ、はい……焚き火起こしてきます」
私は寝袋から出て外で焚き火を起こした。すると、みんなも焚き火に当たりに来た。こういう日のタルリヤさんの家のご飯を食べるのはキツイものがある。それでも、食べないと。
その時、上空から強い音がした。
えっ、芸能事務所のヘリコプター!?ヘリコプターが着陸するとカンザシさんとミツメさんが下りてきた。
「あの、どうして来たんですか?」
「ナミネさんが、ここにいると聞いていても経ってもいられなくて来てしまいました」
とは言うものの、2人とも私服だ。でも、バッチリとコートを着ている。
「最初に言っておくわ!ここは電気もガスも水道も何もない。21世紀にして古代の暮らしのまんまなの。だから、私たちは、それぞれ役割を決めて暮らしてる。あなたたちも今すぐ帰らないのなら何かしらしてちょうだい。あと、ここで暮らすならヘリコプターは戻すことよ」
ミツメさんはともかくとして、カンザシさんが出来ることなんてあるのだろうか。
「分かりました。ヘリコプターは戻します」
ミツメさんはヘリコプターを戻した。
「ナミネさん、差し入れです」
「ありがとうございます、ミツメさん」
私はミツメさんから、差し入れを受け取った。
「果物係はそろそろ行くわよ!」
「あ、すみません。私はもう行かなくてはならないので、分からないことがあれば、ここに残っている人に聞いてください」
「ナミネさん、気をつけてください」
カンザシさんは私を抱き締めた。
「だ、大丈夫です。ここに来てずっとやっていることですし」
私はカンザシさんを振りほどくと、果物係のメンバーと共に崖に向かった。

何故かカンザシさんが着いてきた。
「あの、下で待っていてもらえませんか?」
「僕も果樹園を見たいです」
うーん、1人背負えば下りる時、果物があるから困る。でも仕方ないか。
「分かりました。しっかり捕まっていてください」
私はカンザシさんを背負うと伝説ワイヤーをいつものように上に引っかけ、登りはじめた。中間地点まで来た時、アルフォンス王子が突然崖から転落した。私は咄嗟に伝説ワイヤーから手を離しカンザシさんを背負ったまま飛び降りた。どうにかアルフォンス王子を受け止められたものの、アルフォンス王子は酷く混乱している。私は伝説ワイヤーを回収した。
ふと上を見るとアルフォンス王子の伝説ワイヤーが崖の中間地点より上のほうで止まっている。突然止まった伝説ワイヤーを思わず離してしまったのだろうか。そもそも、どうしてこれまで使えた伝説ワイヤーが途中で動かなくなったのだろう。私は扇子でアルフォンス王子の伝説ワイヤーを回収した。
「あの、アルフォンス王子が崖から転落しました。なので、アルフォンス王子をタルリヤさんの家に連れて行きます」
「分かったわ!ナミネも今日は休みなさい!帰ったら会議よ!」
「はい、分かりました」
私はカンザシさんを下ろすとアルフォンス王子を背負い、トボトボとタルリヤさんの家に向かって歩きはじめた。

……

あとがき。

女子トイレの問題、どうにかならないんですかね。

そういえば、古代にも小麦粉はありますよね。石臼というものを使って作っているそうですね。小麦粉がなくなっても、小麦を入手出来たらナミネたちの小麦粉は確保出来そう。

それにしても、今度はアルフォンス王子が転落。
いったいどうしたものか。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 83話

《ナミネ》

私はカラルリさんが眠りにつくのを見届けたあと、崖に置いてきた武家伝説ワイヤーを回収しに行った。
カラルリさんはヨルクさんと違って武士向けである。遠い昔はセナ王女との力量の差に劣等感を抱いていたりもしたそうだけれど。それでも、キクリ家の跡取りとしては申し分のない力量を持ち合わせていると思う。そんなカラルリさんがオリジナルワイヤーの点検不足というミスをおかすだなんて、いったいどうしてだろう。
私は考えながらトボトボと歩いていた。

タルリヤさんの家に戻り、空き家の畳んである洗濯物を見たら汚れと洗剤が残っていた。私はすぐに洗濯係の元に行った。
「あの、洗濯係の皆さん、洗濯物に汚れと洗剤がついています。今から私がお手本を見せますので、よぉく見ていてください」
私はヨルクさんのパンツを掴み、汚れている部分に洗剤を直接つけた。
「まず、汚れが目立っているところには先に洗剤を付けて叩き棒の先でトントンと優しく叩いてください」
そして、私は委員長とユメさんのタライにヨルクさんのパンツを入れた。
「次はこのように押しながら洗ってください。汚れも落ち綺麗になったら、右の洗い流しようのタライで、もう一度押します。絞っても洗剤の泡が出なくなったら、絞って水気を取り、元に戻すと隣のシートに置いていってください」
「あんた何してんのさ」
「あ、落ち武者さん、洗濯係の洗濯物が汚れていたので指導しています」
少々の汚れや洗剤が残ることは仕方ないのかもしれないけれど、それでも、正しい方法でやれば綺麗に乾く。役割を与えられたからには出来ればしっかりやって欲しい。
「ナミネ、どうして私のパンツ持ってるの?返して!」
「ヨルクさん、洗濯係の人の洗濯が汚れていたり洗剤がついていたりしたので指導していたんです」
「ナミネは洗濯係じゃないよね?着替えも、みんな分作れたし、今後は私がみんなに教えるからナミネは勝手なことしないで!」
ヨルクさんはどうしてパンツのことになると、こうまでムキになるのだろう。私はただ、洗濯の指導をしていただけなのに。
そういえば、ガーゼ布の服がやたら多い。数日前に、一度サバイバル服を洗濯することになって、今はガーゼ服を着ているけれど、毎日洗濯に出している人が多い気がする。下着でも3日は持ちこたえてほしいのに。これでは洗濯係の仕事が増える一方だ。
「でも、僕は強気なナミネの指導あったほうがいいと思うけど?」
「私も参考になったわ」
「僕も参考になりました」
「ナミネって何でも出来るんだな」
ここでも、おじいさんの修行が役に立ってよかった。
「ナミネは洗濯係じゃないんだから果物だけ取ってきて!」
「お言葉ですが、ヨルクさんの手洗い知識は遠い昔のものと、手洗いマークがついている衣類に限りますよね?つまり、他は洗濯機を使っていることになります。ですが、ここでは全て手洗いをしなければなりません。手洗いは、その布の種類によって異なります。ヨルクさんは、その全ての手洗い方法で洗濯をするとこが出来るのですか?」
その瞬間、ヨルクさんは泣きはじめた。えっ、また?今度は何が理由?どうしてヨルクさんってすぐに泣くのだろう。ミナクさんみたいに適当に受け取ればいいのに。
「ナミネは、今や料理も洗い物も出来るようになったんだね。私なんか必要ないよね」
「あ、そうではありません。今日はカラルリさんが崖から落ちて私も気が気でないんです。すみません、私の言い方がキツかったです」
ヨルクさんはハンカチで涙を拭いた。まるで少し昔の夫に浮気された妻のようだ。
「なあ、組み合わせ変えないか?私とヨルクは洗濯出来るから、カラン王子とタルリヤはそのままで、私はユメさんと、ヨルクはクラフと組めばいいんじゃないか?」
「あ、では、それでお願いします。私、ちょっとトイレに行くのでヨルクさんをお願いします」
こんな時に生理が来てしまった。私は慌ててリュックから布ナプキンを取り出し、ガーゼパンツを持つと赤いテントに走った。

え、何これ。トイレが2つともゴミ出しされてない。もはや汚物が盛り上がっていて、座るに座れない。おしっこもしたいしな。どうしよう。
私は咄嗟に青い男子用のテントに入った。こっちは、ちゃんとゴミ出しされている。誰かに見られては困るから私は霧の結界をかけた。そして、パンツを履き替え、ナプキンを付けて、汚れたパンツを持ってテントから出ると霧の結界を解いた。
けれど、このままでは怒りが収まらない。私はもう一度、赤いテントに入り、ビニール袋に入ったものを2つ取り出し、固結びで括ると、新しいビニール袋を被せた。括ったビニール袋はそのまま置いておいて、みんなのところへ向かった。

はあ、どうしてこうもチームワークが取れないのだろう。
「ナミネ、さっきはごめんね。ナミネのほうが難易度高い役割してるのに……。突然ナミネが家事まで出来るようになったから焦った」
「あ、いえ、私が出しゃばりすぎました」
「ナミネ、生理なの?痛みは大丈夫?痛み止め5箱持ってきたから無理しないで使って!布ナプキンも15枚あるから!汚れた下着は私が洗っておく!」
何故そんなに持ってきているのだろう。そんなにあるなら、1日目、セレナールさんが痛みを訴えた時に分ければよかったのに。私はヨルクさんにパンツを渡した。
「あ、ではお願いします。痛み止めは大丈夫です。ここはサバイバルですし、痛みが起きたらカナエさんの薬使いますので。でも、布ナプキンはありがたく使わせてもらいます。痛み止めは、いざとなった時のために厳重に保管しておいてください」
「うん、分かった。ナミネ、休む時は休んで」
「はい」
私は洗濯を手につけると湖の水で手を洗った。
気がつけば日が傾きはじめている。果物係と薬草係が戻ってきた。洗濯係も今日は引き上げ、みんなテントに入った。

あれ、机がなくなっている。けれど、このほうがスペースもあって、みんなと話しやすい。
「あの、本題の前に行っておきたいことがあります!
女子トイレは盛り上がり座れない状態でした。どうして誰もゴミ出ししないのですか?2つともビニール袋ごと取り出して上を結んで置いておきましたので、何もしてない人がゴミ捨て場まで持って行ってください!
それから、洗濯物ですが、ガーゼ服は最低でも5日は着てもらえませんか?でないと、洗濯係が追いつきません!」
リリカさんはため息をついた。
「セレナール!ミネス!アヤネ!ゴミ捨て場に行ってきなさい!」
「私、町の様子描いたからいかない!本当に少しも何もやってない人が行くべき」
「そのような汚いものは触れません」
「私も行けないわ」
この3人なんなの。あれだけ盛り上がっていても何も思わないのだろうか。トイレのことは死活問題なのに、それを処理しないなんて信じられない。誰も捨てに行かないなら、今後も男子トイレ使おう。
「私が行くわ」
「エルナは洗い物係で1日中動いてるんだから行く必要ないわ。指名した3人が行かないのなら勝手にしなさい!後悔するのは自分たちよ!ナミネもこれからはビニール袋括ったりしなくていいわ。やるべき人がやることだから」
「はい、分かりました」
もう女子トイレなんか使うものか。ゴミ出しせず放置したら、そのうち身体が汚れるだろう。そうなって、はじめて気づけばいい。
「あの、あくまで個人的な意見ですが、今日カラルリさんが崖から転落したのはオリジナルワイヤーの点検不足によるものでした。私は一度転落した人はもう崖に登らないほうがいいと思うのです。あの高さでしたら私が受け止めなければ死んでいたかもしれません。
そこで、炎の舞を使えるのでしたら、落ち武者さんがストップかけるところまで、果物をドライフルーツにする、生の魚を干し魚にする、加熱不十分の肉を十分に加熱する作業を行って欲しいと思うのです。皆さんはどう思いますか?」
一度転落した人がまた果物係を続けるのは危険な気がする。それに、ドライフルーツ、干し魚、肉の加熱をする人がいないと今後の食事にも困る。
「そうね。点検不足の時点で、崖に登ってもらっては困るわ。私もカラルリさんには炎の舞で食糧を増やす係に回って欲しいわね」
「私も一度転落したカラルリには崖登りは無理だと思う。ただでさえカギ使わずワイヤーに頼ってる時点でどうかと思うわ。カギで登れない人は果物係から外れて欲しいくらいだわね」
「ハッキリ言って、誰も助けなければ死んでいたとか迷惑すぎる」
リリカさんと、セナ王女、アルフォンス王子はカラルリさんに果物係から外れることを望んでいる。
ちなみに、カギなら私とラルク、リリカさん、ナナミお姉様だったら登れるだろうけど、ミナクさんとアルフォンス王子はどうなのだろう。けれど、果物を持った状態だから、やはりワイヤーは欠かせない。
「分かった。正直、今日のことで自信なくなったし、今後は食糧加熱係をするよ」
カラルリさんの自信喪失は残念だけれど、食糧加熱係はどうしても必要だから、ここはカラルリさんにやってもらおう。
「では、落ち武者さんが市場から戻ってから作業お願いします」
「じゃあ、決まりね。明日は頭を冷やすためにも1日休みにするわ。今日はセレナール、ミネス、アヤネが魚料理してくれるかしら」
リリカさんはセレナールさんに扇子をセナ王女はミネスさんに短剣をアルフォンス王子はアヤネさんにタロットカードを突き付けた。
「わ、分かったやる」
「や、やるわ」
「やりますが、失敗しても怒らないでください」
これでまた不味い料理を食べることになるのか。
「これがナミネが魚捌いた時の映像だから、これ見ながらやってちょうだい」
リリカさんはオリジナルモニターをミネスさんに渡した。
セレナールさんとミネスさん、アヤネさんはタルリヤさんの家に向かった。言うまでもなく、ここにはガスなどない。市場で売っている小枝に火打石で火をつけ、煮物や焼き物を作らなくてはならない。
「ねえ、ラルク、来て」
「急になんだよ」
私はラルクの手を引っ張り、テントを出て適当な空き家に入った。

「あのね、ラルク、ヨルクさんに卵渡したおばあさんに会いに行こうよ。これがミネスさんが描いた町の絵」
私はラルクに画像を見せた。あの時、みんなに赤外線送信するはずだったけど、リリカさんが遮り、まだみんなには渡せていない絵なのだ。ラルクは画像を拡大した。
「まあ、鶏飼ってる家はこの一軒だわな」
「へえ、あんたらだけで抜け駆けってわけ?」
落ち武者さん、いつの間に来たのだろう。
「あ、えっと、その……」
「僕も行くけどね?」
「分かりました。けれど、他の人には知られないようにしてください」
「りょーかい」
話が済んだゆえ、私たちは再びテントに戻った。

テントでは既に魚料理が置かれていた。
はあ、案の定またブツ切りの生焼けスープ。私やラルクは炎の舞で魚を焼いた。えっと、今度はカラン王子のところに内蔵が入ってる。
「あ、カラン王子、私の魚食べてください」
「いえ、僕はいいです」
「でも、少しでも栄養つけた方がいいと思います」
「では、半分だけいただきます」
カラン王子は私の魚を半分お皿に入れた。炎の舞使えない人には可哀想だけれど、崖を登る人は少しでも体力を残しておかなければならない。
「一目惚れカラルリそこでストップ」
カラルリさん焦がさずに済んだ。これだと、予定通り食糧加熱係が務まりそうだ。アルフォンス王子は焦がしている。アルフォンス王子って、こんなに出来ない人だっけ。
「ねえ、ラルク、アルフォンス王子が魚焦がしてるよ」
「ナミネ、放っておけ」
「おい、そこの3人、どこまで魚無駄にしたら気が済むんだ!」
「アルフォンス王子が炎の舞失敗しなければ食べれたのにね」
その瞬間、アルフォンス王子はミネスさんを殴り付けた。
「痛い!やめて!」
ミネスさんは料理出来たはずなのに、どうして中途半端なものを出したのだろう。まさか、サボっていたのだろうか。けれど、何もしない人には、だんだん愛想が尽きてきた。けれど、アルフォンス王子はセレナールさんとアヤネさんも殴り付けたのである。
遠い昔はこんな人じゃなかったのに。
「痛い痛い痛い!!」
「やめてください!!」
「だったら、まともな料理作れ!」
アルフォンス王子は3人の横腹を蹴ってテントを出た。
しかし、炎の舞を使えても焦がしてしまえば意味がない。アルフォンス王子って、こんなにも力が使えない人だっけ?
「殴られたくなければ、ちゃんとした役割をするか、まともな料理を作ることね」
ここでもリリカさんは慰めるどころか逆に厳しい言葉をかける。でも、こういった問題は本人がやる気を出さなければ意味がないのである。
アルフォンス王子はどこへ行ったのか戻って来なかった。この日は、ヨルクさんと同じ寝袋の中で眠った。私はヨルクさんの紅葉の香りに包まれた。が、テント内から何か変な臭いがする。セレナールさんや、アヤネさん、ミナクさん、ミネスさんの体臭が特に酷い。そういえば、ここに来てから一度も公衆浴場に行っていなかった。ボディシートだけでは限界がある。そろそろみんなを公衆浴場に連れて行く必要があるかもしれない。一部の人の体臭でなかなか眠れなかったが気付いたら私は眠っていた。

早朝4時。
私はテントを出た。ラルクと落ち武者さんもいる。まだみんなは起きていない。
「じゃ、行く」
私たちは、ヨルクさんに卵を渡したおばあさんの家に向かいはじめた。
「ねえ、ラルク。何か、寝る時に一部の人の体臭キツイんだよね」
「まあ、風呂に入ってないからな」
「ヨルクさんは全然そんなことないのに、セレナールさんとかアヤネさんとかさ、もう臭くってなかなか眠れなかったよ」
「あんた、人の姉さん指摘してるけど、みんながみんな特殊なあんたみたいに菜の花の香りがずっと続くわけじゃないからね?風呂入らないと臭うのは当然だからね?」
それはそうだけど、臭いの問題もまたチームワークの乱れに繋がりそうな気がする。けれど、ラルクも落ち武者さんもこれだけお風呂に入っていないのに臭わない。兄弟でも違うものなんだな。
「でも、ミナクさんもクレナイ家の人間なのに紅葉の香りどころか、もうトイレの臭いのようなものが漂ってくるんです」
ヨルクさんは離れていても紅葉の香りがしていて、ラルクとリリカさんは近付けば少しだけ紅葉の香りがする。なのに、ミナクさんだけ体臭が酷いのだ。
「あんた、それ本人の前で言ったら怒られるぞ。とりあえず、ばあさんに会った後、公衆浴場の下見行く」
下見か。確かに今日行っておいた方がいいよね。
「分かりました」
えっと、地図によるとだいたいこの辺か。ん?他の家はどれもレンガを積み上げた洞窟のような家なのに、ここだけまるでログハウスのような家だ。鶏もいる。
「じゃ入る」
「あの、ごめんくださーい」
声をかけると中から人が出てきた。70歳くらいの女性だろうか。
「あら、いらっしゃい」
おばあさんは中に入れてくれた。家の中は、タルリヤさんの家とは違い、清潔感があり、果物が並べられている。それだけでなく、家の中に井戸まである。
「あの、この果物はみんなおばあさんが取ってきたんですか?」
「そうよ。ここでは貴重な食べ物だから、たまに取ってきてはこうやって並べているのよ」
このおばあさん、あの崖登れるんだ。って、干し肉もある!まさか、この肉たちもおばあさんが狩りで動物を捕まえたのだろうか。
「あの、この干し肉たちは……」
「これも私が森に行ってイノシシと鹿を捕まえて干し肉にしたのよ」
おばあさんが捕まえてきたの?何だかまるで、このおばあさん、森の湖南町の古民家の私とラルクを世話してくれたおじいさんに似ている気がする。
「ばあさん、あんた武士かよ?」
「武士ではないわ。私の実家は代々呉服屋をしてるのよ」
「じゃあ、何でこんなに強いんだよ!」
「さあ、どうしてかしらね」
おばあさんは私たちに紅茶とお菓子を出してくれた。紅茶……茶葉なんてここにあったっけ。それにクッキーもバター売ってないのにどうやって作ったのだろう。
「あの、紅茶って市場に売ってるんですか?バターもですか?」
「ふふっ、まだまだ若いわね。紅茶や緑茶の茶葉はたまに市場で売られているわ。小麦粉も。バターがなくてもクッキーはココナッツオイルで作れるわよ」
そうか、取ってきたココナッツをオイルにしたのか。だとしたら、市場で小麦粉買ってココナッツが手に入れば、ホットケーキも作ることが出来る。もう不味い料理は食べられないし、これ以上食糧も無駄に出来ない。料理係を変えてもらおう。
「おばあさんは、ずっとここにいるんですか?」
「元は妖精村出身よ。けれど、遠い昔に親にここに置き去りにされたの。気付いたら親は船に乗って戻って来なかった。右も左も分からない私はガムシャラで生きた。余ったご飯を分けてもらい、必死に生き延びた。そんなある日、崖の上に果物がある話を耳にして行ってみたけれど、全く歯が立たなかった。でも、私は諦めなかったわ。何度も崖を登ろうとした。そのうちに素手で登れるようになってきた。けれど、浮かれるあまり命懸けということを忘れていたのね。私は果物1つ取れないまま崖の中間地点から転落して死んだわ」
おばあさんにも、そんな残酷な過去があったのか。誰だってはじめから強いわけではない。私もそうだった。
「じゃあ、どういう経緯で今の暮らししてんだよ」
「転生した時、妖精村ではなくて、またこの町に生まれてきたの。私は崖の上の果物は諦めて、貧しい暮らしをしてた。けれど、ある日、若い夫婦が私に果物を分けてくれた。けれど、不思議なものね。男性のほうは死なないの。歳は少しずつ取っていくけれど、奥さんが亡くなって、しばらくしたらまた別の人と世帯を持っていた。気付けば私はその男性に弟子入りしていた。私は厳しい修行の元、3回転生した時には弟子を持てるまで成長していたわ。この家は当時腕の立つ大工に作ってもらって、誰にも渡らないよう皇帝陛下に登記してもらったの。私は転生するたびにここに住んだ。そして、時は流れ、私は師匠と結婚し、妖精村の森の湖南町で住みはじめた。質素な暮らしだったけれど、それなりに幸せだったわ」
死なない男性で森の湖南町が住処!?それってまさか……!!
けれど、おばあさんは、言ってしまえば、その男性の現世のみの奥さんなわけか。この世にずっとなんてことは存在しない。けれど、遠い昔に知り合ったのに、結婚まで随分と時間がかかったもんなんだなあ。
「あんた、結婚したのに、なんでここで1人で済んでんだよ。亭主とはもう別れてんのかよ?」
「ここに来たのは私の気まぐれな旅行。時が来れば夫の元に帰るわ」
「あの、おばあさんの旦那さんてサラハって人ですか?私、そのおじいさんに、半年森の湖南町の古民家でラルクと一緒に修行してたんです!」
「ええ、そうよ。あの人、もう長く弟子なんて取っていなかったのに珍しいわね」
やっぱり、おじいさんの奥さんだったんだ。世間は狭いもんだ。国境を越えてまで出会える。まるで運命みたい。けれど、出会えてよかった。おじいさんも元気にしているだろうか。
「あの、師範の奥様はもう弟子は取らないのでしょうか?」
「私も夫と同じで、もう随分弟子は取ってないわ」
そっか、もう2人とも弟子は取らないんだ。自由な暮らしを求めているのだろうか。
「そうですか。また来てもいいですか?」
え、もう帰るの?ふと時計を見れば12時前。私たち、こんなにも居座っていたんだ。私は紅茶を一気に飲み干し、出されたクッキーをビニール袋に入れた。
「ええ、いつでも来てちょうだい。僅かな情報を与えるくらいしか出来ないけどね。ここで会ったのも何かの縁でしょうから、これ持って帰りなさい」
ココナッツオイルと、小麦粉、卵。たくさんある。これだけあれば、みんなの食事も十分に作れるけど、こんなにもらっていいのだろうか?
「あの、こんなにたくさんもらってもいいのですか?」
「私は今やここでの暮らしに何一つ不自由はしていないからね。あなたたちは、まだ若いし、ここに来たばかりで大変でしょう。でも、挫けないで頑張んなさい!」
「はい、私逃げ出しません!どんな逆境も乗り越えてみせます!」
そうだ、チームワークの乱れだの、料理の不味さだの、一つ一つ気にしていても仕方がない。私は私の出来ることをここでやっていこう。
「じゃ、また来る」
「では、僕もまた来ます」
「おばあさん、ありがとうございました」
私は小麦粉、落ち武者さんはココナッツオイル、ラルクは卵を持って、おばあさんの家を出た。おばあさんの家は市場の近くにあるから、来ようと思えばまた来れる。おばあさんがおじいさんの元に帰るまで、今度はおばあさんの教えをしっかり聞こう。
「じゃ、一度タルリヤの家戻る」
貴重な食材をもらったため、私たちは一度タルリヤさんの家に戻ることにした。

……

あとがき。

トイレの問題はもはや死活問題。けれど、そこで男子トイレに入っちゃうのがナミネなのよね。

アルフォンス王子が肉を焦がした時も声に出しちゃうし。
ナミネは武士として強いけれど、心はどこか幼げ。

それにしても、世間って狭いものなんだな。
国境を越えて出会えるだなんて。出会うべきして出会ったとしか思えないくらい。

おじいさんもおばあさんの転生後、また一緒になって欲しいかも。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
Copyright (C) 2009 雨の音を聴きながら, All right Resieved.
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