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日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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プロフィール
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ashita
Webサイト:
性別:
女性
職業:
地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
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ブログ、もう書かないと思ってました。

けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。

小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。

純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。

元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。

ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。

小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。

よろしくお願い致します。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

お知らせ。

イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。

また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚

フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。

ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。

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X @kigenzen1874

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〈資格履歴〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格

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〈資格証明バナー〉

鉛筆デッサンマスター®認定試験資格取得証明
絵画インストラクター資格資格認定証
宝石鑑定アドバイザー資格認定試験資格取得証明
鉱石セラピスト資格資格保持証明
茶道アドバイザー資格認定試験資格取得証明
お点前インストラクター資格資格認定証
着物マイスター®資格認定試験資格取得証明
着付け方インストラクター資格資格認定証
サイキックアドバイザー®資格資格証明
サイキックヒーラー資格資格保持証明
アンガーカウンセラー®資格資格保持証明
アンガーコントロール士資格資格認定証
漢方コーディネーター®資格認定試験資格保持証明
薬膳調整師®資格認定試験資格保持証明
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純愛偏差値 未来編 一人称版 102話

《ナミネ》

カンザシさんは懲役2ヶ月半、マモルさんは懲役2年。
これでよかったのだろうか。そんなこと私には分からないけど、少なくともラジオでカンザシさんのことが世間に明るみになってしまったことは、今後の芸能生命を揺るがすことになると思う。
あのようなことは許せない。けれど、私も間違ったというところがどうにも引っかかってしかたなかったのだ。
お武家連盟会議で、私は意見をしなかった。マモルさんは完全な加害者かもしれない。でも、カンザシさんは、謝ってほしいとまで言っていた。多分私は、そんなカンザシさんに一瞬同情してしまったのかもしれない。
キクリ家からデパートまで、歩きでもそんなにかからないけれど、小雨とはいえ、雨の日のお出かけは何気に寂しげだ。私はヨルクさんにくっついた。
「強気なナミネ、アンタはどう思ってるわけ?」
え、どうしてこのタイミングで聞いてくるのだろう。正直答えづらい。落ち武者さんにとってセレナールさんは実の姉。それに対して私はカンザシさんの実の妹だ。
「言いづらいですが、私もレイナさんの意見に同意です。間違えたというのは、どうも引っかかります。無論、その後のカンザシさんの行動は許せないものでしょうけど、あの時、セレナールさんが間違っていなければ悲劇は起きなかったと思うんです」
落ち武者さん怒ったかな。私は恐る恐る落ち武者さんの顔色を伺った。
「まあ、アンタなら間違えないんだろうね?けど、みんながみんなそうじゃない。暗い中、寝ぼけている時は判断が鈍る。遠い昔、昼寝をしていて起きたら彼氏の友達と悲劇になったケースもあるけどね?」
私だったら寝起きでも、そのようなことは絶対にない。けれど、妖精村でも、そういう事例があったのか。もし、私がその人だったら一生を棒に振ってしまうと思うし、その人もそうだっただろう。
「すみません。主観でものを言ってしまいました」
「別にいいけど?僕はアンタ個人の意見聞いたわけだからね?」
私個人の意見か。会議では殆ど発言がなかったから、正直なところ、みんなどう感じたのか分かりかねる。
でも、次はエミリさんの会議でセレナールさんが袋叩きにされそうな気がする。
「ねえ、ナミネ。私が悪いって言ってるけど、あなたが同じ目にあっても自分が悪かったって思えるの?」
セレナールさんは突然私の髪を引っ張った。
「セレナール!私は、あなたに落ち度があると思っているわ!そもそも、初代天使村では、ヨルクに毒盛るし、妖精村だってラルクのこと馬鹿にしたし、私は今すぐラルクと別れてほしいわ!いま1度聞くけど、間違えたって何?あなた、恋人と他人間違えるわけ?」
会議では、カナコさんとレイカさんに気を遣って発言出来なかったのだろう。リリカさんも、セレナールさんに落ち度があったと思っている。それに、弟2人に酷いことされて、セレナールさんのことは許すに許せないだろう。
「リリカ、部屋が真っ暗で誰か分からなかったのよ!」
セレナールさんは、私の髪を離した。
「誰か分からないのに、あなたはしたの?」
セレナールさんの無意味な言い逃れは、もう誰にも通用しない。それだけ、セレナールさんは信用を失ってしまったのだと思う。
「薄らヨルクだと思った。でも、無理矢理起こされて、実際は誰か分からなかったけど、寝ぼけて、ことに及んでしまったの。でも、あの時は、いっときの気の迷いだった。本当はラルクを好きなこと、ずっと気づけずにいた。今になって後悔してる」
その経験は私もあるけれど、ヨルクさんに毒を盛ったことは今でも許せない。
「寝言は夢の中で言うことね。エミリのお武家連盟会議がはじまれば、あなたタダじゃ済まないわよ」
「それは……」
一度、起こしてしまったことは元には戻せない。セレナールさんが何を思って皇太子様と交際したのかは分からない。けれど、そのせいでセレナールさんは3人の子供を死産した。
いくら記憶がなくなっているからといって、そのまま皇太子様と交際し、エミリさんはアランさんと交際する事態を嘲笑って見ていたことは本当に性格が悪いとしか言いようがない。
それで、結局エミリさんと同じ状況になれば完全な被害者を主張する。だったら、エミリさんにも完全な被害者を主張する権利があると思う。

デパートに入ったら、電池式の大きなランプが並んでいて何だかオシャレだ。停電になっても、こんなふうに店は営業を続けている。まるで昔のようだ。
宝石ショップでは、大々的に早くもフェアリーフォンがたくさん飾られていた。その時、カラルリさんに肩を叩かれた。
「ナミネ、助けてほしい」
えっ、私にどうしろと言うのだろう。
「一目惚れカラルリ、アンタが自分で甘えセナに断れ!」
本当そうだ。買えないものは買えない。ローンで買ってしまえば、それこそ将来困るだけでしかない。
「カナエ。復縁してとは言わない。ただ、受け取ってほしい」
「カナエは、そのような高価なものは受け取れません」
「それでも私は買う。このネックレスをラッピングしてください」
まさか、このタイミングでアルフォンス王子が一方的にカナエさんのプレゼント買うとは思ってなかった。しかも、赤いハート型のダイヤモンド。
「かしこまりました。一億七千万円になります」
うわー、高すぎる。
アルフォンス王子はレインボーカードで支払いを済ませた。けれど、何かが引っかかる。ムーンの逆ってフォンだっけ。そうだけど、それってアンバランスだ。このブランド、ちゃんとしたものなのだろうか。
アルフォンス王子は、半ば無理矢理カナエさんに袋を握らせた。
「カナエは、これを身に付けることはないでしょう」
こんなバカ高いの買って付けないって言われたら私だったらいやだな。
「エルナ、フェアリールナのネックレス買ってやる」
何故、あえてカラルリさんを追い詰める。そもそも、こんなに高いの買うくらい好き同士なら復縁しちゃえばいいのに。
「あら、彼氏気取りかしら?落ち武者さん」
落ち武者さんとエルナさんも選びはじめている。
セナ王女は片っ端から試着してるし。
「セレナール先輩、今日は色々ありましたので、1つ好きなの買います」
えっ、ラルクまで!?それってセレナールさんのことまだ好きだから?それとも同情?分からないけど、こんな状況ではカラルリさんが断るに断れなくなってしまう。
「いいの?」
「はい、一応恋人ですし」
一応って、やっぱり愛し合っているわけではないのか。それでも、私も傍にいてくれるなら愛してもらえなくても構わなくはないけど、他の人と一緒になられるより、ずっとマシだと思う。
「ありがとう、ラルク」
セレナールさんまで選びはじめてしまった。
横を見ると何気にヨルクさんと目が合った。私は咄嗟に別の方向を向いた。
「ナミネ、他のショップでほしいのあったら買うからね」
「い、いらないです!既に最初にもらったネックレスと、その後買ってもらったペアリングありますし」
紀元前村では付けてなかったけど、今は付けている。やっぱり私はシンプルなものが好きだ。
「ナミネって、昔から物欲ないよね」
ダメだ。ラハルさんとのこと全然思い出せない。
「そ、そうでしたっけ」
ただ、カンザシさんの奢りといったら、いつもラーメンだった気がする。ペアリングも5000円にも満たない安物で、あの時のカンザシさんは、とにかくお金がなかった。
「ラハル、私もラハルさえいれば他に何もいらないわ」
恋は盲目と言うが、リリカさんのラハルさんへの気持ちってなんだろう。けれど、実際リリカさんもラハルさんグッズばかりで宝石には、あまり興味はなかった気がする。
「決めた!これがいいわ!」
ついにセナ王女がフェアリーフォンを決めてしまった。赤いハート型のダイヤモンドのエタニティリング。男性用は上に四角い赤いダイヤモンドがある。ダイヤモンドのないのもあるが、こういうペアリングは最近流行っている気がする。
けれど、エタニティリングという時点で、何だか婚約指輪にも思えてくる。とりあえず値段見ておこう。
……。
2つで二億三千万円……。
「あの、アヤネさんかズームさん……肩代わりしてあげられないでしょうか?」
私は自分のことでないのに何故かすがってしまった。
「お気持ちは分かりますが、このような場面で大金をあげることは出来ません」
「僕もです。お金というのは自分か、もしくは大切な人に使うものだと思っていますので、安易に誰かを助けることは出来かねます」
だよね。丸く納まってほしいほど上手くいかない。
「ナミネ、分かってると思うけどカラルリさん本人が断らないといけないことだから、アヤネさんとズームさんが出すのはおかしいよね」
それは重々承知だ。それでも、この状況を見ていられないのだ。
「わ、分かっています。けれど、これでは私たち、また夜通しバイトです」
「バイトって何のことかな?」
そういえば、ナルホお兄様が紀元前村にいる時だった。
「いや、だから、これが一度目じゃないんです。去年、カラルリさんはセナ王女に3500万円のペアリングを買って、げっそりしたカラルリさんを見かね、私たちも夜中までバイトしたのですが、続かなかったんです」
あの時は、参加した全員がクタクタだった。
「そっか。でもそれってナミネのお節介じゃないかな?」
お節介って。経験してない人間は易易と……。
「そうですけど、仲間ですし。放っておけないというか……」
あの時は、みんなでバイトすれば何とかなると思っていた。けれど今回は違う。桁違いだ。
「セナさん、そんなにお金持ってない。フェアリーフォンは諦めてくれないかな?」
断った。ことになるのかな?
「ローン組めばいいじゃない」
簡単にローンって。家でもそんなにしないよ。
「ローンを組む場合でしたら、この商品の場合、例えば、ひと月23000円で833年ローンとなります。死後の分も勿論残りますので、転生後こちらからローンの案内をさせてもらう形となります。驚かれるかもしれませんが、最近は流行っているんですよ。転生ローン。プロポーズされる方がよく契約されています」
ありえない。そんなの聞いたことないよ。次に生まれてきた時に既に借金してる状態なんて正直いやだ。これはカラルリさんがキッパリ断るしかない。
「カラルリ、これなら払えるじゃない!」
「セナさん、流石に無理だよ。転生ローンは組めない。転生後に借金が残っているなんて私は耐えられない」
本当にそうだ。転生ローンなんて、店側の策略でしかない。
「何よ!セレナールもカナエもエルナも買ってもらってるじゃない!私だけ買ってもらえないなんて不公平だわ!」
ダメだ。このままだとカラルリさん転生ローン組まされてしまう。
「あの、セナ王女。流石にカラルリさんの払える額ではないです」
「だからローンがあるんじゃないの!」
何言っても通じないパターンだ。サバイバルでは、あんなに活躍しているのに恋愛のこととなると別人。人のこと言えないけど。
もう、ここはカラルリさんがどうにかするしかない。
「ねえ、ラルク。ゲーセン行こうよ!」
「待ってくれ!みんな、助けてほしい」
人は都合が悪くなれば他者を巻き込む生き物である。キッパリ断れる人もたくさんいると言うのに。自分でどうにか出来なければ他人にどうにかしてもらおうとする。カラルリさん1人でここから離れればいいのに。
「うーん……誰かお金持ってる人が肩代わりするとか……」
「ナミネ、さっきも言ったよね。そういうことはいけないって」
だったら、ナルホお兄様がなんとかしてよ。
「じゃあ、皆さんで意見を言うとか……」
「ねえ、セナさん。ここでカラルリにローン契約させたらカラルリが苦しむわ。ペアリングなら去年ハイブランド買ったんだし、それ付けたらどう?」
みんなはそう思うけど、問題はセナ王女。現世でのセナ王女は、やたら宝石をほしがる。
「いやよ!3人買ってもらって私だけ買ってもらえないなんて惨めだし、そんなの本当の愛と呼べないわ!」
本当の愛ってなんだろう。
私、特にここに用事ないしゲーセン行きたいんだけどな。
「けど、ナミネは買ってもらってない!」
カラルリさん泣いてる。
「ナミネは子供じゃない!子供にフェアリーフォンは合わないわ!」
なんなんだ、その理屈は。
みんなで少しずつ出し合うのもナルホお兄様に反対されそうだし、どうしたらいいのだろう。会議で出たのは茶菓子だけだし、お腹も空いてきた。
「あの、ここに用事のない人は自由行動しませんか?私、お腹空きました」
「じゃ、レストラン行く」
よかった。解放される。
「待ってほしい!置いていかないでくれ!」
え、どうしたらいいの。
「一目惚れカラルリ。2階のエスカレーター下りたらすぐのレストラン入ってるから、終わったらこい!」
私は逃げるように宝石ショップを出た。落ち武者さんみたいにハッキリもの言えたらいいんだけど。仲間のあれこれとなると、どうしたらいいの分からなくなる。
カラルリさんには悪いとは思う。けれど、あの場にみんないたところで結局は去年のような結末になるだけだろう。

停電のせいか、来ている人は少ない。私たちは3つのテーブルに案内されていった。
「ナミネ、一緒に食べようね」
「はい」
お腹すいてるし、大盛りにしようかな。メニューを見たら、殆ど火を通さないものしかない。冷やし中華とか、この時期まだ早いしな。サンドイッチが無難だろうか。
「あ、サンドイッチと紅茶にします」
「うん、分かった」
メニューが限られているせいか、みんなすぐに注文をした。
「ねえ、ラルク。カラルリさん、どうなるかな」
「まあ、契約させられるだろ」
セナ王女は、どうしてカラルリさんの身の丈に合わないものを買わせるのだろう。カナエさんもいるけど、あの時点では一言も言葉してなかった。
「カナエさんは、それでいいのですか?」
「カナエも止めたいには止めたいですが、今のセナさんには通用しません。もう、あの頃とは違うのです」
つまり、薔薇の花束で喜んでいたセナ王女ではなくなったということだろうか。
「自分で断れないヤツのことなんか放っておけ」
確かにそうだけれど。また前みたいにバイトしないといけないかもだし、学校が週に3日な分、1日時間の取れる日もあるし。停電ゆえ、時給も上がっている。
「そう……いうものなんですかね?」
「みんな自分のことで精一杯だろ。アンタも含めてね?本来本人が決めることアンタが決められないだろ」
確かにカラルリさんが決めることを私が決めるわけにはいかない。
「ナミネ、全部食べていいよ」
「あ、いえ。ヨルクさんも食べてください」
私は、お皿をヨルクさんのほうに寄せた。
「顔だけヨルクって本当に強気なナミネに浮気されても許せんのかよ?」
突然、どうしてそんなこと聞くのだろう。
というか、カラルリさんとセナ王女なかなか来ない。
「私は何があってもナミネを手放さない!」
ヨルクさん……。私もヨルクさんのこと大切にする。
「じゃ、この映像見てみな?」
何の映像だろう。
落ち武者さんは、映像をヨルクさんに見せた。

映像は、教師時代のセレナールさんを失って、ラルクがクレナイ家に戻って来た時のものだった。
ちなみに、セレナールさんの死後、一度だけ妖精村の時間が狂っているから、今となってはセレナールさんが享年何歳だったかは
分からないのである。
遠い昔は今みたいに何かをするのに、これといった資格は必要なかった。ラルクは、高校卒業して短大を卒業してから教師に就いている。
セレナールさんとはラルクが高校時代にアパートで同棲していたはず。ラルクとセレナールさんが同時に妖精村学園の高等部の教師をしていた期間は短かったが、あの頃のラルクは青春真っ只中だったと思う。
けれど、突然セレナールさんを失い、クレナイ家に戻って来たラルクはやつれていた。仕事には行くものの、それ以外は引きこもり休みの日も、どこかに行くことはなかったのである。
私はそんなラルクを見ていられなかった。
『ラルク、遊園地行こうよ』
ただ、少しでも元気になってほしかった。
『とてもじゃないけど、そんな気持ちにはなれない』
ラルクは私と目を合わせようとしない。
『じゃあ、美術館は?』
『行かない』
それでも私は諦めなかった。
毎日ラルクの部屋に行ってはラルクを励まし続けた。
『ねえ、ラルク。新しく水族館出来たみたいなんだけど行こうよ!』
『分かった』
やっと前向きになってくれた。あの時の私はそう思い込んでいた。私自身もあの頃は、やつれていて、家事も子育ても出来ない状態だった。メイクはおろか、着替えもせず一日中クレナイ家にこもっていた。既にミナクさんとの関係は破綻した状態だった。それでもラルクの傍にいたかった。全てを使用人に任せてでも、私はラルクの部屋に通い続けたのだ。
『ラルク、大きなジンベイザメがいるよ!』
『そうだな』
こういうところに行くのも久しぶりなのだろうか。ラルクはあまり楽しそうではなかった。
けれど、その後も私は、たびたびラルクを外に連れ出した。私にとっては、これ以上にない幸せな時間だったと思う。
博物館や遊園地、美術館など、色んなところへ行った。どこにも行かなくても近所を散歩しながら話していたりもした。
そんなある日、デパートからの帰りにラルクとホテルに行った。
『今日はここで泊まるんだね!』
私はソファーに座ってテレビをつけた。すると、ラルクが隣に来た。いつものラルクじゃない。
『ラルク……?』
切なげで私を見るラルク。
『ナミネ、助けてほしい』
『どうしたらいいの、ラルク?』
ラルクはソファーに私を押し倒した。私はすんなりラルクを受け入れた。

「もういい、先に帰る」
映像が終わる前にヨルクさんは立ち上がった。
「ヨルクさん、待ってください!」
私はヨルクさんの手を握ったが、ヨルクさんはアッサリ私の手を振り払った。
「な?浮気でもないのに、この程度受け入れられないんじゃ浮気なんて受け入れられるわけないだろ!顔だけヨルクは上辺だけだね?」
「悪いけど、しばらく1人になりたいからクレナイ家に帰る」
え、どうしたらいいの。
「ヨルクさん、行かないでください!」
引き止めたものの、ヨルクさんはレストランを出て1人帰ってしまった。
遠い昔の、あの時のことは私とラルクの秘密だった。あの1回だった。最初で最後、私が女になれた日。どうして落ち武者さんが映像持ってるの。
私はヨルクさんに嫌われたと、咄嗟にエルナさんに羽子板を突き付けた。
「どうしてヨルクさんとの仲を引き裂くんですか!5分以内にヨルクさんをここに戻さないとエルナさんを遠い昔に置き去りにします!」
私は本気だった。あとからあとから、フツフツと落ち武者さんに怒りが込み上げていた。
「強気なナミネ待て!顔だけヨルクは呼び戻す!だからエルナには手を出すな!」
今更焦っても起きてしまったことは元に戻せないのに。
「どうしてそっとしてくれないんですか!私とヨルクさんの仲を引き裂いて楽しいですか?やってることカンザシさんと同じです!ヨルクさんと元の関係に戻れなければエルナさんを遠い昔に置き去りにします!私とヨルクさんの仲を引き裂いてタダで済むと思わないでください!」
「分かった!顔だけヨルクのことは説得する!だから、エルナにだけは手を出すな!」
エルナには手を出すな?自分だけ幸せになろうだなんて、そんなの認めない。
数分後、どのような手を使ったのか知らないがヨルクさんが戻って来た。
「ねえ、1人になりたいって言ってるでしょ!もう帰るよ」
「顔だけヨルク、よくも嘘ついたな!浮気許すなんて適当なこと言ってイザとなれば逃げる。卑怯にも程があるね!今すぐ強気なナミネと仲直りしろ!」
遠い遠い昔のヨルクさんは結婚後の私の浮気を許したと天界にいた学友が言っていた。けれど、あれから何世紀経ったことか。今のヨルクさんは、もうあの頃のヨルクさんではないんだ。
「すぐに何もかも出来ないでしょ!私にも考える時間が必要なの!」
もうダメだ。私とヨルクさんの関係、完全に壊されてしまった。私は大泣きしながら落ち武者さんを羽子板で叩き続けた。
「やめて!セルファはあなたとヨルクが羨ましくてやったの!悪気はなかった!あなたたちの関係が壊れてしまうとは思ってなかった!」
羨ましい。それが結果的に私とヨルクさんの関係が壊れる原因となった。
「ていうか、あんなの見せて悪いの落ち武者さんでしょ?もう本当に行くから」
ヨルクさんが立ち上がった瞬間、私は既に打っていたメールをテナロスさんに送信した。すると、エルナさんがいなくなった。

……

あとがき。

カラルリとセナは何故戻らないのでしょう?
1回ではローン問題。
2階ではセルファがナミネとヨルクの仲を引き裂いたばかりにエルナが遠い過去に飛ばされてしまう事態に。
いったい、どうなってしまうのでしょう。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 101話

《ヨルク》

身体が重たいし息苦しい。
と思ったら、私の上にナミネが乗っかっていた。
「ナミネ、重たいから降りて」
寝ている。夜は何時頃寝たのだろう。朝の水汲みもしないなんて、ナミネにしては珍しい。私はナミネを布団の中に入れた。
少し前までは小学生で二つ括りをしていたナミネ。幼稚園の頃はショートヘアだったナミネ。今も幼いけれど、どんどん可愛くなっている。私はナミネに口付けをした。ナミネの菜の花の香りにはいつも癒されていた。もっとナミネを求めてしまう。
「ヨルクさん、セクハラです!」
ナミネ、いつから起きていたのだろう。こんな朝っぱらから大声出されて、他の人に聞かれたら、たまったもんじゃない。
「ナミネ、大きな声出さないで」
「だってヨルクさん、セクハラするじゃないですか!昨日もお風呂の中で……」
私は咄嗟にナミネの口を塞いだ。
「アンタら、今日は大事な話し合いなんだから、もっと気を引き締めろ!」
しまった。落ち武者さんいたの忘れていた。
時刻は6時。水汲みは、もうラルクがやってしまっただろう。
「ナミネ、朝食作ってくるね」
「はい」
私は、ナミネの朝食を作るため、キッチンへ向かった。

キッチンでは、料理係のメンバーがカナエさんに料理を教えてもらっている。こんなふうに、みんなが活動していると、やっぱり紀元前村を思い出す。
「皆さん、おはようございます」
私もメンバーに加わった。
「おはようございます」
「あら、おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」
朝食は、ベーコンエッグか。
「ヨルク、今日は話し合いではなく、お武家連盟会議となりました。なので、キクリ家ではなく、カラクリ家で行います。武家以外は話し合いには参加出来ません」
そうだったのか。おおごと、という形で取り扱われるわけか。カナコさん、レイカさんの意見がおおむね通るだろう。カンザシさんのバックにはミネスさんが付いていても、マモルさんは、皇帝陛下からの処罰を受けることになりそうだ。
「そうでしたか。やはり、問題は話し合いのみでは済ませないことになったのですね」
「そうですね。言い出したのはカナコお姉様とレイカさんです」
カナコさんがセリルさんを気遣ったのか、セリルさんが裁きをくだそうとしているのか。分からないけど、すぐには終わりそうになさそうだ。
「そうですよね。時効までまだありますし、ちゃんと罪は償ってほしいですもんね」
「僕もイジワルとか絶対に許せないです。引き渡したカンザシさんのことも」
クラフは昔にユメさんを亡くしている。今のセレナールさんには、仮交際とはいえ、ラルクがいる。でも、もうマモルさんの顔なんて見たくもないだろう。
「そうですね。僕も大切な人が、そういう目にあったら簡単には許せないと思います」
カラン王子が言うように誰だってそうだ。私だってナミネが同じ目にあったら、何がなんでも相手には償ってもらうと思う。
「さて、みんなに朝食を出します」
「あ、はい」
私たちは、みんなの食事を第4居間に運びはじめた。

そうか、火鉢で調理してるから、加熱係は何もしてないのか。洗濯係にまわってくれたら助かるのだけれど。
「加熱係は何もしてないわね。私は料理係にまわるから、セナ王女とナナミは洗濯係にまわってくれないかしら?」
リリカお姉様って料理出来るのだろうか。
「はい、分かりました」
「ええ、分かったわ」
「あと、ミナクもね」
そういえば、ミナクお兄様の役割決められてなかったな。
「分かりました……」
これで、洗濯が随分楽になりそうだ。
「ラルク、ごめんね。寝過ごしちゃった」
「ナミネにしては珍しいけど、眠れなかったのか?」
「そうなの。アルフォンス王子も水汲みしてた?」
「いや、アルフォンス王子は一度も水汲みには来てない」
そうだったのか。役割を決められてもサボる人がいると厄介だ。
「アルフォンス王子、水汲みしないなら、別荘に戻ってくれるかしら?」
「明日からはやる」
前も似たようなこと言っていたような。
「皆さん、今日の予定表です。お昼はカラクリ家で出ます」
カナエさんは、みんなに予定表を渡しはじめた。いったい誰が来るのだろう。
「えっ、私たちは会議に参加出来ないの?」
「そうね。参加したいならカナコさんかレイカさんに掛け合うしかないわね」
カラルリ家でのお武家連盟会議。エミリさんもいることになる。正直いやな予感がする。逆に慰謝料とか請求されないだろうか。
「ヨルクさん、お服をお脱ぎしましょうね」
突然ナミネが私の服を脱がし始めた。
「ナミネ、やめて!私は昔のセイさんとアランさんじゃないから!」
「セイとアランは確かにパンツ1枚でした。でもそれは、森の湖にいる時だけです。当時の決まりでしたから」
当時の女の子妖精たちの姿も見たけれど、薄くて太ももが見える衣を着ていた。あの場所は原始的だったようにも思う。
「ほら、一日中じゃないでしょ!ナミネこそ、あの衣着たら?下着は付けちゃいけないんだよ」
「ヨルクさん、セクハラです!昨日といい、今日といい……」
私は咄嗟にナミネの口を塞いだ。
何故今それを言う。今朝はともかくとして、昨日はナミネも合意していたし。
カナエさんは、食器を片付けはじめた。私や料理係も片付けた。

食器を洗う時も庭で洗わないといけない。これ、全家庭が同じことしているのだろうか。少なくとも似たようなことはしているかもしれない。
けれど、カナエさんがいるから早く済む。
キッチンで私たちは洗った食器をタオルで拭いた。
「今日は、午後から雨が降ります。傘を持って行きましょう」
「あの、カナエさん。カラルリさんがフェアリーフォンを買えるとは思いません。ショップへは行かないほうが……」
「カナエもそれは中止にしたいですが、お兄様がキッパリ断らない限り、前に進む一方です」
確かにカラルリさん本人が断る必要がある。周りがどうこう言っても仕方ない。けれど、今回のショップ行きが、また拗れに繋がりそうな気がする。
「そうですよね……」
カナエさんはキビキビ動く。こういう女子(おなご)と結婚すれば、男は幸せになれるだろう。それでも、ナルホさんはどうしてカナエさんと別れてしまったのだろう。

第4居間に戻るとナミネが腕を組んで来た。
「机拭いておきました。未来のお婿さん」
今日はナミネは水汲み出来なかったから、責任感でも抱いているのだろうか。普段のナミネだったら考えられない。
「ナミネは、いい子だね。ナミネと結婚するのが楽しみだよ」
「ヨルクさん大好き!」
今日は珍しくナミネからくっついてくる。
「アンタら見せつけてんなよ」
「あ、ごめん」
私はナミネから離れた。
今日は、お武家連盟会議だ。他人事とはいえ、他人事ではない。
「皆さん、今日はカラクリ家での会議ですので、そろそろ準備をはじめてください。会議が終わればショップへ行くので持ち物は簡易的で構いません」
カナエさんがショップと言ってしまえばセナ王女も期待してしまう。そもそも、セナ王女って宝石好きだったっけ?ナミネが言ってた話とは違うような気がする。
「ナミネ、準備は出来てる?」
「はい」
私は念の為、ナミネのショルダーバッグを確認した。停電前は、ナミネは、いつもこのショルダーバッグで出かけていた。ついこないだのようだ。
ナノハナ家からカラクリ家までは12分ほど。
時刻は8時半。そろそろ出発か。
「では、皆さん。カラクリ家へ行きましょう」
私たちは荷物を持ってカラクリ家へと向かった。

会議室に入ると、カナコさん、レイカさん、セリルさんは既に来ていた。というか、お武家連盟会議に参加することなんてなかったから正直緊張する。
「カンザシさん。悪いことは悪いと認め、ちゃんと謝ってください。そして、停電が終われば、芸能界でめいいっぱい活躍してください」
ナミネはカンザシさんの手を握った。いつの間に、こんなに親睦が深まったのだろう。昨日だって、ナミネはカンザシさんに抱き着いていた。まさか、カンザシさんに気があるのでは……。
「ナミネさん、ありがとうございます。もう二度と同じ過ちは繰り返しません」
この時の私は何も知らなかった。ズームさんがラルクの無理で勾玉消して、ストレスの溜まったカンザシさんが商店街で見知らぬ女子(おなご)に痴漢していたり、行きずりの女子(おなご)に暴力を奮っていたことを。更には痴漢の際、女子(おなご)の下着の中に手を入れ、得体の知れない液体を塗りつけていたことを。
「ヨルクさん、席に着いてください」
気が付けば人が増えている。私はナミネの横に座った。
使用人が茶菓子を置くと同時に、レイカさんが前に立った。
「では、これより、お武家連盟会議を行います。意見のある者は手をあげてください」
真っ先にセリルさんが手を上げた。
「セリル、意見をどうぞ」
「僕はどうして、マモルさんとカンザシさんがセレナールに、あんなことをしたのか本人の口から聞きたいです」
この場に緊張が流れている。マモルさんは冷や汗をかいてる。
まだ2人から何も聞き出せないままエミリさんが手を上げた。
「エミリ、意見をどうぞ」
レイカさんは割り込みを認めた。
「私は、セレナールの策略でアランにイジワルされ妊娠までしました。妊娠した子は死産だったし、セレナールは日頃の行いと性格の悪さでこうなったと思うし、少しも同情出来ません」
やはり、エミリさんは未だにセレナールさんを許していない。無理もない。皇太子様とは純粋な関係だっただけに、不本意にはじめてをアランさんに捧げたなど本人からしてみればやり切れないだろう。
「事情はエミルからたくさん聞いてるわ。でも、今回の件とあなたの件は別物。エミリがセレナールを許せないなら、別に会議を開く必要があるわ」
「分かりました。会議を開いてください。その時に意見します」
エミリさんは、一旦引き下がった。その時、落ち武者さんが、この場にいる全員にフェアリーングをかけた。
「なあ、カンザシ。アンタなんで姉さん犯した。その時どんな気持ちだったんだよ?マモルに引き渡して気持ちが楽になったのかよ?」
セリルさんは落ち武者さんを止めない。
「セレナールさんとは合意だと思っていました。けれど、途中でヨルクさんの名前を呼ばれ、馬鹿にされたと酷く苛立ち傷つきました。マモルに引き渡しても気持ちは晴れず、後悔はしているはずなのに、今でも馬鹿にされている気がしてやり切れません」
合意……か。間違えられたまでなら何の問題にも問われなかっただろうに。
「マモル、アンタ姉さん犯してた時、どんな気持ちだった?犯さない選択も出来ただろうに、なんであえて犯した?」
「めちゃくちゃ気持ちよかったッス。自分は犯したと思っていないと言うか、カンザシがセレナールさんがリセットの仕方分からず苦しそうだから手伝ってやれと言うから手伝っただけで、これって犯したことにはなりませんよね。今でもセレナールさんの身体が忘れられなくて、こんな絶世の美女と出来るなんて思っていなかったから、あれ以降は誰と交際しても満たされないんですよね」
カンザシさんが騙していたのか。とは言えども、人には人の引け目や後ろめたさはある。私なら絶対にしない。例え好きな人がいなくて、マモルさんみたいに美人好きでも。そんなの、あとで騒がれてしまえば羞恥心に包まれてしまう。
それでも、マモルさんは、あらゆる自責の念を飛び越して犯行に及んでしまったわけか。
こういうの裁判ではどのように判断されるのだろう。
ここには、マモルさんが弁護士を連れて来ることを予測して、全ての武家も顧問弁護士を連れて来ている。
「で?アンタら2人、今僕が皇室に紙飛行機飛ばしても無実でいられると思うわけ?」
裁判は一度行っている。その結果が執行猶予半年だった。
しかしながら、アメリカ村でも似たような事件、目を覚ました女の子が隣で寝ている男を彼氏と間違い、悲劇が起きている。
このように会議開いても法律は難しい。だから、みんな法律飛び越して皇室に紙飛行機を飛ばす。
「飛ばしたいなら飛ばしてもらって構いません」
やはり、カンザシさんの背後にはミネスさんがいる。こんなの正々堂々とは言わない。
「待ってくれ!今となっては悪かったと思ってる。必ず償いはする!僕は流れに身を任せ、いやがるセレナールさんを無理矢理犯してしまった」
マモルさんは執行猶予半年で終わったと思い、今になって、お武家連盟会議でもう一度、あの時のことを掘り返されるとは予測していなかったのだろう。
落ち武者さんは、早々にフェアリーングを解いた。と思いきや、今度はセリルさんが、この場にいる全員にフェアリーングをかけた。
「とりあえず、2人の言い分は聞かせてもらったよ。2人は、セレナールの件を起こして、今どんな気持ちかな?」
「反省と恨みが葛藤しています。どうしても馬鹿にされた思いが心を渦巻いで苦しくて苦しくて爆発しそうです」
馬鹿にされた……。私だって、あのような気分の悪い場面を見て正直、いい気はしない。
「あの時は気持ちは頂点だったけれど、後々罪悪感がフツフツ湧いてきて、自分はやましいことをしてしまったと、この先交際する彼女にバレないか不安です。何故、自分を抑えることが出来なかったのか。人道を外してしまったのか。ニュースでも、放送されて、もう芸能人には戻れないし、後悔しかありません。でも、どうか、皇室に言うことは勘弁してください」
人は誰しも自分が危機に陥れば、無意識に自分は悪くないと主張する生き物だ。そして、自分が傷つくことを避けたがる。
「セレナールに対しては、どんな気持ちかな?」
「先程言ったように、馬鹿にされたことを謝ってほしいです。もし、逆の立場だったらセレナールさんは易々と見過ごせるんですか?間違えられて、すんなり許せるのでしょうか?」
加害者が被害者に謝ってほしい。本当に人の心というものは複雑に絡まり合っている。私にはカンザシさんの気持ちが一寸も分からない。
「セレナールさんが僕の彼女だったらよかったのにと、物事は思い通りにはいかないと痛感しています。セレナールさんには必ず償いをします。これ以上責められたら、こっちも自殺すると思うので」
何の話し合いか、よく分からなくなってきた。何故、2人は被害者気取りなのだろう。
「カンザシさんは謝ってほしいと言ってるけどセレナールはどう?」
「とてもじゃないけど信じられない言葉だわ。一生恨んでやる」
その時、落ち武者さんからメールが来た。
『顔だけヨルク、お子ちゃまミネスがカンザシ逃す前にエロじじいに頼んでカンザシは準強制性交等罪に匹敵する懲役5年にし、マモルは懲役30年にしてもらえ!』
『分かった。頼んではみる』
私はダンゴロさんにメールを飛ばした。
『あの、セレナールさんの件ですが、カンザシさんは懲役5年、マモルさんは懲役30年にしてもらえないでしょうか?』
準強制性交等罪と言っても、ここは妖精村だから旧刑法がそのまま存在している。だから、5年に引き上げられてはいない。
『君の力量だからね。カンザシは懲役2ヶ月半、マモルは懲役2年だね』
私はダンゴロさんのメールを落ち武者さんに転送した。
『納得いかないけど、お子ちゃまミネスに無罪にされる前に、それで手を打て!』
私はダンゴロさんにメールをした。
『分かりました。それでお願いします』
『じゃあ、カンザシは懲役2ヶ月半、マモルは懲役2年ね』
その時、レイナさんが手を上げた。
「レイナ、意見をどうぞ」
「私は、どっちもどっちだと思いますが、間違えたというワードにどうしても引っかかるものがあります。カンザシさんとのことはセレナールにも問題があったのではないでしょうか」
被害を受けた女子(おなご)に対しては厳しい意見だ。けれど、ここにいる大半が似たようなこと思っている気がする。
それに会議がはじまっていた時から思っていたが、ナミネには、まだ早い内容だと思う。
ナミネを見ると茶菓子を食べている。
セリルさんは、フェアリーングを解いた。
「人の思いは他者には変えることは出来ないし、一度起きたことも元には戻せない。2人の本音を聞けたから、僕はこれ以上は何も問いません」
セリルさんにしてはアッサリしている。けれど、会議はここでは終わらないだろう。
「セリル!そんなの間違ってるわ!カンザシもマモルもケダモノよ!何があってもしてはいけないことをしたのよ!それ相応の罰を受けるべきだわ!私は皇室に文を飛ばす!」
やはり、カナコさんは罪を問わないなんて認めない。
「私も送るわ!」
内容は分からないけど、カナコさんとレイカさんは、皇室に紙飛行機を飛ばした。数分後、皇室から返事が来た。2人とも顔をしかめている。
「では、読み上げます。カンザシは懲役2ヶ月半、マモルは懲役2年に処するです。分かっていると思いますが、皇帝陛下の決断は絶対です。セリルも、これ以上は何も問わないと言っていますし、私もここで会議を終了しようと思います」
レイカさんは、とても真剣な表情をしている。
「私もレイカに同意です」
カナコさんも会議を終わらせようとしている。
納得いかないのは、恐らくセレナールさんだけか。けれど、懲役がついたのなら、カンザシさんの芸能生命にも傷がつくだろう。ラジオは繋がっているのだから。
「そんな……どうして僕だけ青春を奪われなきゃならないんだ」
マモルさんは、その場に崩れた。
落ち武者さんは、本当はマモルさんを懲役30年にして、出てきた時に青春を奪われ、就職にありつけなくしたかったのだろう。
カンザシさんは携帯を手にしているが、ミネスさんに取り消すよう頼んでいるのだろう。けれど、神相手に勝てるはずもない。
しばらく沈黙の時間が流れた。
「では、これにて、お武家連盟会議を終わります」
レイカさんとカナコさんが会議室を出ると共に、みんなも出はじめた。
「待ってください!私はこんなの納得いきません!」
セレナールさんは2人を追いかけたが、2人とも何も言わなかった。悔しいのはみんな同じだ。それでも、時間を巻き戻すことなど出来ない。
「セリルさん、本当にすみませんでした。どうか助けてください」
マモルさんはすがるものの、セリルさんも何も言わず会議室を出た。そして、紅葉町の交番の人が来て、カンザシさんとマモルさんは逮捕された。
落ち武者さんはラジオをつけた。
『ニンジャ妖精のリーダーであるカンザシさんは、一般人をイジワルしたとして、たった今逮捕されました。同時に、元ニンジャ妖精のマモルさんも逮捕されました。カンザシさんは懲役2ヶ月半、マモルさんは懲役2年の処分を皇帝陛下がくだしました。この先のカンザシさんの芸能生命はどうなるのでしょう』
結局、人を辱めれば、自分も辱められる。世の中はそういうものだ。
「へえ、君、意外にも卑怯な手使ったんだ」
気が付いたら、客間で待機していたメンバーが入ってきた。
「どっちがだよ。アンタの思い通りにはさせない。じゃ、宝石ショップ行く」
落ち武者さんが会議室を出るなり、みんなもあとに続いた。

外は小雨が降っている。
「ナミネ、傘の中入って」
「はい」
会議は、思ったより呆気なかった。けれど、カンザシさんの信用がファンから失われたのは有り得るだろう。
何が正しくて何が間違っているではない。誰がどうしたいかだ。それは各々異なっている。
だから、これからも理不尽は生まれてゆくだろう。
私はナミネの口元についた餡子を拭き取った。

……

あとがき。

誰がどうしたいか。
そこに悪意があるのなら、人々の恨みは暗黙にうまれてしまいますね。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 100話

《ナミネ》

突然カラルリさんが、私とヨルクさんに攻撃的になり、挙句に暴れ出し、花瓶がエルナさんに当たって落ち武者さんが激怒してしまった。私とラルクは逃げようとするカラルリさんの前に立ち、ラルクが花札でカラルリさんを拘束した。
「落ち武者さん、存分にカラルリさんに反撃してください」
と言ったものの、落ち武者さんって人を殴ったりしない。ヨルクさんもそうだけど。大抵の男は暴力振るうイメージがあるだけに、変わっているなあて感じる。
「今ここで僕にフェアリーングかけられたくなかったら、それなりの振る舞いしろ!」
「悪かった。二度とエルナを傷付けない」
何だか不公平。落ち武者さん相手なら、みんな黙り込む。私はカラルリさんに色々言われて、それなりに苛立っているし気分も害している。
「人の家のもの、勝手に壊さないでください!」
「ナミネが生意気だからだろ!」
何なの。私に対しては、めちゃくちゃ攻撃的。カラルリさんって、こういう人だったっけ。紀元前村では、一緒に過ごした仲間だと思っていたのに。
気が付いたら私は扇子でカラルリさんのお腹を思いっきり叩いていた。
「何回で根を上げるか試しましょうか」
「わ、悪かった。やめてほしい」
私に対しては、言葉のみでは通用しない。地味にイラつく。
エルナさんは、頭から血が出ていたが、落ち武者さんが主治医を呼んで手当済みである。
えっとカラルリさんがヨルクさんに見せていた写真……。手に取って、よぉく見ると確かにヨルクさんだった。相手の人は誰か分からない。けれど、ヨルクさんにもこういう人いたんだ。
私、かなり傷付いてる。
「すみません、しばらく1人になりたいので、誰も部屋に入ってこないでください」
私は立ち上がった。
「ナミネ、待って!本当に覚えていないしナミネと仲違いしたくない!」
「私だけって言ってたじゃないですか!この浮気者!」
私はヨルクさんを突き飛ばして、自分の部屋に逃げ込んだ。

そうか、カラルリさんの目的は、私とヨルクさんの関係を拗らせることだったんだ。私はまた、まんまとハメられてしまった。人魚の湖では、逆の立場だったのに、いざ自分が、あの時のヨルクさんの立場に立ってみると、思った以上に辛かった。レタフルさんの時は向こうの一方的な片想いだったし、あの写真の人もそうであってほしい。けれど、様々な不安が私を襲う。
もし、あの写真の人とヨルクさんが深い関係だったなら……。考えたくないのに考えてしまう。ヨルクさんを傷つけたいわけじゃない。けれど、いつも私だけだと、あれほどに言っていたから私も期待していたのに裏切られた気持ちで苛立ちと悲しさに苛まれたのだと思う。
次第に、ゴチャゴチャ考えていたものは薄らぎ、私は畳の上で寝てしまっていた。

夢の中で私は目覚めていた。起き上がると、いつものようにヨルクさんがいる。
『ヨルクさん、朝食お願いします』
私は布団から出た。
『ナミネ、紹介したい人がいるんだ』
何だかいやな予感がする。でも、大丈夫。私は言い聞かせた。
『はい』
ヨルクさんは、扉を開けた。
あれ、カラルリさんが持っていた写真の人だ。
『彼女と交際することになった。だから、ナノハナ家も出て行く。ナミネ、今までありがとう。幸せになってね』
え、どういうこと?昨日まで、私のこと好き好きってあれほどに言っていたのに。この女がヨルクさんをたぶらかしたんだ。許せない。
『そんなの認めません!この泥棒猫!』
私はヨルクさんをたぶらかした女の髪を引っぱって部屋中引きずり回した。
『ナミネ、やめて!私の彼女に手を出さないで!』
何なの!心変わりして私を捨てようとしてるのヨルクさんじゃない。
『私を捨てるだなんて、あまりに惨すぎます!』
『ごめんね、ナミネ。ずっとナミネのワガママ我慢してた。ナミネは子供っぽいし、胸も小さいし魅力に欠けるし……。でも、ユウノハさんは、綺麗でスタイルもよくて胸も大きい。私はユウノハさんと生きるって決めたんだ』
よくも、よくも……。私は突然の事態に気持ちが完全に追いついていなかった。
『私はヨルクさんとは別れません!』
『ナミネ、私はユウノハさんを愛してる』
許せない。この泥棒猫。
私は、その夜、ヨルクさんを奪った泥棒猫に岩の結界をかけた。
『ナミネ、結界解いて!ユウノハさんは人魚なんだ!0時までに人魚の湖に連れて帰らないと!』
レタフルさんの時と同じだ。この人も人魚なんだ。
『レタフルさんのこと知ってるんですか?』
『え、ええ。男をコロコロ変える子よね。いっときアルフォンス王子と大恋愛していたけど、カナエって人とレタフルが同時に妊娠して、アルフォンス王子は彼女の元に戻って行ったわ』
聞いた話と全然違う。レタフルさんはヨルクさんに心変わりしてアルフォンス王子をフッたはずなのに。どうなっているの。
『じゃあ、カラルリさんのことは知っているんですか?』
『さ、さあ。聞いたことないわ』
だったら、どうしてカラルリさんが、この泥棒猫の写真持っていたのだろう。
『ナミネ、お願いだからユウノハさんをここから出して!』
『この人魚と別れるなら結界は解きます』
『分かった。別れる』
私は結界を解いた。そして、ヨルクさんはユウノハさんを人魚の湖まで送り届けて行った。
その後、しばらくヨルクさんとは会えなかった。ヨルクさんを疑った私は人魚の湖まで行った。すると、あろうことか、2人は抱き合っていたのである。
『話と違うじゃないですか!』
私は泥棒猫人魚を引っぱたいた。
『ナミネ、誤解だから!ユウノハさんを傷付けないで!』
『ヨルクさんに捨てられて、どう生きろと言うのですか!』
私はユウノハという人魚を湖に沈めた。
『ナミネ、やめて!』
けれど、人魚だから沈めても死ななかった。
悔しくて私は一度人魚の湖を出て、皇帝陛下に文を書いた。
1週間後、ユウノハという人魚と皇室の50代のポッチャリ体型の初級武官との結婚式が行われた。
『ナミネ、酷いね。私の幸せ壊して満足した?もうナミネとは会わない!』
『待ってください、ヨルクさん!私を捨てないで!!』
『知らない!勝手にして!』

「いやです!行かないでください!」
私は飛び起きていた。
ゆめ……だったのか。夢でよかった。でも、正夢だったら?やっぱり写真のこと、カラルリさんに確認しに行こう。
あれ、カンザシさんがいる。
「ナミネさん、大丈夫ですか?」
「は、はい」
どうしよう。部屋に2人きりだなんて、めちゃくちゃ気まずい。
「ナミネさん、僕は話し合いからは逃げません。もうナミネさんが誰を好きでも構いません。ただ、ナミネさんの傍にいられたらそれでいいです」
急にどうして態度を変えたのだろう。正直、今までのことがあるだけに、信用出来ない。
「そ、そうですか」
カンザシさん、ギター持ってる。弾き語りに来たのだろうか。
「ナミネさん、少しだけ2人でいたいです」
「分かりました」
少しだけならいいか。
「弾いて欲しい曲ありますか?」
「あ、ずっと停電だからテレビも見れないし、すること限られてますよね。ミドリお姉様もピアノ弾いてますが、こういう時に楽器があると時間も潰れますね。それじゃあ、恋雪月見さんの 情を抱きしめ でお願いします」
アニメ見ていないけど、いつかは見てみたい。
「たまにミドリさんの演奏、聞こえてきます。小さい頃も聴いてました。ミドリさんは生まれつき才能があるので、是非ピアニストになってほしいと思います」
そういえば、カンザシさんって、育ての親にたまにナノハナ家に連れて来られていたってけ。ミドリお姉様は、分け隔てなくカンザシさんのことも可愛がっていた。どうして今、思い出したのだろう。
カンザシさんの演奏、久しぶりだ。

「森の湖が 歴史を教えてくれる
遠い昔のことなのに
変わらず存在している理由は何だろう
夕暮れどき 妖精たちは飛び立ってゆく
みんなは どのくらい覚えているの

時間を飛び越え 逢いに来た
2人の あなたに
僕の心は また遠のいた

昔 キササゲ家で探してた 花札の番い
あなたは この意味を 知っていたの
みんな静かにしているだけ けれど
本当は 心が狭すぎたと 涙したね
だから 歴史の儚さは物語ったの

時間を飛び越え 逢いに来た
2人の あなたに
僕の心は また遠のいた

せっかく未来で逢えたのに 変わりゆく あなたに
涙が零れすぎて どうしようもなく
苦しくなっていた

もう二度と 歴史に踏み込まない
今の あなたは
僕の心に 歩み寄ってく」

何だか、この曲とても切ないのに好きだ。今は、別のアーティストによってリメイクされているが、懐メロは心惹かれるものがある。
「カンザシさんは、お歌が上手ですな。次は、フェアリー地平線さんの 濡れた恋文 お願いします」
「ドラマ、見てたんですね。あのドラマは色んな村で放送されてますね。僕は韓国村版が好きです」
日本村版はタイムスリップ先の恋人によく似た人と恋人は別人だが、韓国村版は両方本人だったという変わった作品だった。ちなみに妖精村版はタイムスリップ先から主人公は戻ることはなかった。だから、現代が変わったことを主人公は知らないのだ。
「私は何気に妖精村版が好きです」
「タイムレインのようですね」
タイムレインも主人公は戻らない。そういう作品、ひと昔前はなかったのに、日本村から流れ込んでいる気がする。

「キササゲ家で顔合わせ 刻まれているの
途中で降った大雨に 番傘貸して
あなたと手を繋ぎ 2人で抜け出した
桜道を踏みしめて 刹那に雨宿り

縁談弾いて 適当に 生きてみたいけど
私は1つの枠に はめられていた

ただ あなたに逢いたい
涙するけど どこにもいないの探しても
番傘 貸したまま

花札つがいが滲んでく 古いものですね
あの時 走った桜道 今では一人きり
ひと言伝えていたけれど 大雨聞き取れず
あなたに伝わっていない 刹那の部屋で

このまま流され 縁談を 進めていいのかな
己で決められない 彷徨うこころ

ただ あなたに逢いたい
涙するけど どこにもいないの探しても
番傘 貸したまま

まだ あなたを待ってる
気持ちは揺れず こちらに向かって走ってく
番傘 渡されて

やっと あなたに逢えたよ
髪から零れる 雫に美しさ感じ
濡れた 恋文」

この歌はドラマの内容に比べたら古風な気がする。それでも、オープニング映像は好きだった。似たようなドラマは今ではいっぱいある。私たちが歴史を辿るように、タイムスリップものは増えつつあるようにも思う。
その時、ヨルクさんが入って来た。私は、さっき突き飛ばしてしまったことと、夢のことで気まずくて思わずカンザシさんに抱きついてしまった。
「ナミネ、お昼食べてなかったでしょ。ご飯置いておくから食べて。また来る」
そそ草に去って行ったけど、この後ヨルクさんが泣いていたことを私は知らなかった。
「すみません、お腹すいたので食べます」
「僕もミドリさんのところへ行ってきます」
あれ、2曲歌っただけで言ってしまうなんて、カンザシさんにしては珍しい。ミドリお姉様と仲良いのだろうか。
お腹がすいていた私は、ヨルクさんが作ったご飯を一気にたいらげた。
1人になると、することがない。それでも一応、中庭を見に行こう。私は部屋を出て中庭に向かった。

え……。
庭が水浸しになっている。これもアヤネさんだろうか。こういうのは自分の家でやって欲しい。洗濯係は、ここで洗うと言うのに。私は、写真を撮って第4居間に入った。
「あの、中庭ズブ濡れなんですけど」
私は写真をみんなに見せた。
「今度は誰かしら?迷惑かけるならいてほしくないわ!」
1番目に反応したのは、やっぱりリリカさん。私は周囲を見た。
あれ、アヤネさんは平然としている。だったら、いったい誰が……。
「じゃ、僕が聞く」
「わ、わざとではない!」
カラルリさん!?いったいどうして?
「ねえ、カラルリ。本当にあなたどうしたのよ」
「ただ、タンクを誤って零してしまったんだ」
落ち武者さんはすかさずフェアリーングをかけた。
「おい、一目惚れカラルリ、あんた本当に誤っただけかよ?」
「ナミネが生意気でやった」
私の何がそんなに気に入らないの。私は別にカラルリさんに敵対心抱いたことないのに。落ち武者さんは、そそ草にフェアリーングを解いた。
「カラルリさん、少し話しませんか?」
「ああ、分かった」
リリカさんは、カラルリさんを連れて第4居間を出た。遠い昔だったら、きっと信じられない。情熱的で優しかったカラルリさんが、どうしてこうまで変わるのだろう。
「あの、ユウノハという人魚を知りませんか?」
「カラルリと恋仲にあった人魚だ」
写真とは違う。ヨルクさんじゃなくて、カラルリさん自身が、あの人魚好きだったの?
「そうでしたか」
「ナミネ、また夢見たの?」
ヨルクさんは心配そうに私を見た。
「はい」
「また、レタフルさんの時みたいな感じ?」
もう殆ど同じだった。もし、ヨルクさんは、全く愛していないのならレタフルさんの時と全く同じだ。愛していなかったとして、どうしてあのような夢を見たのだろう。
「はい」
「ナミネ……」
「ヨルクさん、お風呂入りたいです」
「あ、うん、行こうか」
ヨルクさんは、私の手を握った。

念の為、水タンクもお風呂に置いてある。私は岩の結界をかけるなり通し(とおし)を使いタライで水を入れ、炎の舞で温めた。
2人分だと水も少なくて済む。
「ヨルクさん、さっきはごめんなさい」
「ううん、それよりどんな夢だったの?」
「レタフルさんの時と殆ど同じです。ヨルクさんがユウノハさんを私に紹介して、私を捨てる夢です」
もし、実際にそのようなことが起きたら、私は夢の中と同じことすると思う。
「ナミネ、夢と現実は違うから。夢と同じことにはならないから安心して。私はずっとナミネの傍にいる」
そういえば、ヨルクさん夢の中で、私が子供っぽいとかワガママとか綺麗でスタイルがよくて胸の大きな人が好きだと言ってた。
「あの、ヨルクさん。夢の中で、私は子供っぽくてワガママだから我慢してたとか、綺麗でスタイルよくて胸の大きな人が好きだと言ってました」
「それ夢だから!私は小さい頃から、ずっとナミネのこと可愛がってきた。これからもずっとそうだから」
ヨルクさんのことは信じたい。でも、最近は過去より未来が怖い。
「そういえば、遠い昔は……あの森の湖の頃は、男はみんなパンツ一丁だったそうです」
「私はそのような格好などしていない。ずっと着物を着ていた」
何故、こういうことは全否定するのだろう。
突然、紅葉の香りが強くなった。久しぶりの感覚に、私は何度もヨルクさんを好きだと言い続けた。
「ごめん」
「あ、いえ」
私はヨルクさんにもたれかかった。ヨルクさんは大人しい顔して……本当、人は分からないものだ。
結界の中で身体を洗うと案外効率がいい。みんないる時は霧の結界もかけないといけないけど。

やっぱり、ナノハナ家がいい。ヨルクさんの着替えも置いてあるし。もう短パンの時期か。ヨルクさんのジャージ姿好きだな。小学生の頃は、ミナクさんの真似してタンクトップに半ズボンのジーンズ着ていたっけ。そして、アイス食べてた。
ヨルクさんは、高校生までは、やや痩せ型だからタンクトップがよく似合っていた。大人になると、ズームさんほどではないが、それなりに体型はガッチリしている。
「ヨルクさんも、夏になれば家の中ではパンツ一丁でいいんじゃないですか?」
「私は、そのような格好などしない。家でも服は着る」
ヨルクさんは固い。別に家の中くらい何も着なくても問題ないだろうに。私なんて前世ではカンザシさんのアパートで下着姿だったのにな。

第4居間では、カラルリさんが戻って来ていた。
「ナミネ、カラルリさんと話したんだけど、昔、人魚の湖でユウノハという人魚と恋仲にあったそうだけど、ある日、人魚の湖に行ったら、その人魚がヨルクと口付けしていたみたい。カラルリさんは、人魚の湖に行った時にユウノハって人魚に会って懐かしさが溢れ出たみたい。もうしないって反省はしてるわ」
これって、レタフルさんの時と同じじゃない。やっぱり、人魚の一方的な感情。どうして、夢ではヨルクさんと両想いなの。
「そうですか。話し合いありがとうございます。事情は分かりましたので、またカラルリさんを信じてみます」
「じゃ、時期見て、もう一度人魚の湖行く」
私も確かめたい。それにしても、人魚と人間の恋愛なんて成立するんだ。人間が人魚の湖まで行かなくてはいけないのに。
「ねえ、カラルリ。内官から連絡来たんだけど、フェアリーフォンっていう、フェアリールナの姉妹ブランドが新しく出来たみたいなの。それで、ペアリング買ってほしいなあて」
ペアリングって、既に持ってるはずなのに。
「セナさん、去年買ったペアリングあるよね」
「私たち一度別れているし、新しいスタートって意味で一緒に持ちたいのよ。お願い、買って」
またセナ王女のワガママがはじまった。せっかく、紀元前村の修行で1人で生きてく覚悟していたのに。あんなことあったから、またヨリ戻しちゃって。
フェアリーフォンと。調べてみると……。え、何の飾りもない指輪でも1つ7000万円はする。ペアリングだと1億超えている。カラルリさん絶対買えないよ。
私たち、またバイトするのかな。
「カナエ、カナエがほしいなら私は買う」
「アルフォンス王子様、ナルホとは友達に戻りましたが、カナエはアルフォンス王子様とは復縁しません」
結局2人とも友達以上にはなれなくて別れたというところだろうか。カナエさんとナルホお兄様なら絶対上手くいくのに、もったいない。
「ヨルクさん、私がもしフェアリーフォンの指輪ほしいと言ったらどうしますか?」
「ナミネ、ほしいの?うーん、まだ私たち中学生だし早いと思う。結婚決まったら買う」
やっぱり学生でそんなものは買えない。カラルリさん、どう切り抜けるのだろう。
「特にいりません」
「カラルリ、お願い」
もう、みんなでバイトなんていやだから、ハッキリ断ってほしい。
「君、フェアリーフォン買ってあげようか?」
「僕は女の子からはそういうの買ってもらわないし、恋人でも身の丈に合わないものは買わないよ」
ナルホお兄様は昔から自分の意見はハッキリ言うタイプだ。
「今は逆玉もあるよ」
「君はそうなるだろうね。カンザシさんと幸せになれるといいね」
やっぱり、ナルホお兄様はミネスさんに片想いしている。この恋が実らなければどうしたらいいのだろう。
「婚期来てもカンザシが振り向いてくれないなら君が結婚してよ」
「その時に考えるね」
「じゃ、明日の話し合い終わったら指輪見に行く」
何故、落ち武者さんは、あえてセナ王女の肩を押す。
「ナミネ、夜食作ってくるね」
「はい」
夜も更けてゆく。

布団に入るとヨルクさんの紅葉の香りが今も強い。明日は大切な話し合いだ。カンザシさんは、意外にも落ち着いていた。マモルさんは、結局、執行猶予のみだったから、普通に過ごしているだろうけど、もう芸能界には戻れないだろう。
こういう時に限ってなかなか眠れない。
私は、ヨルクさんの作った夜食を食べはじめた。
こうやって、ヨルクさんの寝顔を見るのも久しぶりである。本当、綺麗な顔をしている。
停電している時でも、ヨルクさんの作るご飯は美味しい。私は幸せ者だ。食べ終わると急に眠気が襲ってきた。
気が付くと私はヨルクさんの上に乗っかり眠ってしまっていた。

……

あとがき。

祝・100話!

今後も、マイペースで、この純愛偏差値を書いていきたいと思います。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 99話

《カラルリ》

セナさんの妊娠が発覚した時、本音では私はかなり焦っていた。まだ、お互い高校2年生だし、何より私自身が大学まで行きたかったのだ。だから、本音では今回は諦めてもらって、結婚してから、また作ればいいと思っていた。そんな私の思いとは別に、セナさんは、強引に私に責任を取らせようとした。
私は、使用人のルリコに相談した。
『カラルリ坊っちゃま、私にお任せくださいませ』
私はルリコの、たった一言の言葉に自分の問題を丸投げした。
向き合わなきゃ。そんなことは重々承知だった。妖精村学園は事情によっては復帰出来るまで休学することが出来る。そうは言えども、セナさんが出産して、その子供が大きくなってから高等部に復帰しても世間の恥だ。かといって、高校を辞め中卒では、今の時代、何の職業にも就けない。例え、ありつけたとしても、そんなの若い時だけで、歳を取ると共に仕事は、ほぼゼロになる。そうなってしまえば、セナさんと結婚どころか、私は生涯無職でいなければならない。子供を抱えたまま。
私なりにキクリ家で、ちゃんと考えたつもりだ。けれど、やっぱり高校生で責任を取ることは考えられなかった。

あの食事会の日。
まさか、ルリコが中絶薬を持っていたとは全く知らなかった。それに、ピックティーも用意していただなんて。私はただ、セナさんが産んだあと、子供を孤児院にでも預けるのかと思い込んでいた。お腹の子を殺されてしまうとは本当に知らなかったのだ。それでも、セナさんが流産した以上、もう後の祭りだった。
私は自分の子を失った。それでも、父親になった感覚など全くなかった私は、セナさんの苦しみを理解してあげられなかった。
その後、セナさんはミナクと交際し、私はひとりぼっちになった。後悔してもしきれなかった。せめて、あの時、現状と向き合うくらいはするべきだったと。けれど、中卒で世帯を持ちたくない私の思いがそうさせてしまったのだろう。他の方法だってあっただろうに。そもそも、どうして私はあの時、すぐに世帯を持たなければならない概念にとらわれていたのだろう。出産までセナさんが休学して、子供が生まれれば使用人が育て、私たちは普通の高校生でいるという思考が全くなかった。すぐに責任を取ることが出来なくても、中絶させるよりかなりマシな選択だったと思う。

その後、本当の黒幕はルリコと知ったセナさんの矛先はルリコに向いた。ルリコは、いっときナミネの書いた厳しい処罰が適用されたものの、あとでズルエヌさんがナミネ越しに書いたセナさんの希望処罰を取り消し、ルリコを交番に連れて行った。本来なら不同意堕胎罪で罪に問われるところだったが、妖精村全域停電により、殺人罪かそれと同等の罪のみしか裁判が開かれなくて、ルリコは幸いにも裁きを受けなくて済んだ。あの時、カナコお姉様が身元引受け人としてルリコを迎えに行き、ルリコは今も私の使用人として働いている。

また、私はセナさんと、やり直すことになった。私がちゃんと向き合わず、自分の子を死なせてしまったことは、もう十分に反省した。セナさんには二度とそんな思いはさせない。
私も、ナミネやヨルクみたいに清い関係でいればよかったのだろうけど、高校生にもなれば、やっぱりそうも行かなかった。復縁した今でもセナさんとは去年の交際時のような関係でいる。
ナミネやヨルクは、まだ子供だ。大人の事情など一切知らないのだろう。
ヨルクは、万が一はナミネの責任を取るなどと戯言を言っていたが、一介の中学生なんかに何が出来る。どうせ、その万が一が来たらナミネに中絶同意書を書かせるのだろう。
ヨルクの優しさなど、上辺だけに過ぎない。ナミネは騙されているのだ。所詮、顔でモテる男には女などいくらでもいる。私とて、それなりにモテて来たが、ヨルクは別だ。あれまでに容姿の整った男は珍しい。ナミネもヨルクのイケメンさに惚れたのだろう。でなきゃ、辻褄が合わない。
ラルク、ラルク言っていたナミネが、ヨルクから突然告白されたらすんなり受け入れたのだから。所詮、女にとって交際する基準は相手の容姿と家柄、職業である。つまり、ブサメンはエリートでもない限り彼女など出来ないというわけだ。

セリルがカナコお姉様に手紙を残し、姿を消したあと、何故かセリルはナミネに紙飛行機を飛ばし、ナミネがキクリ家に伝えに来て、カナコお姉様とレイカさんがセリルを迎えに行った。
私は知らなかった。容姿端麗、頭脳明晰、常に成績は学年トップのセリルにも悩みがあったことを。遠い昔なら気付いていたかもしれないけど、3年生になって、クラスが変わった今、セリルの様子は全く知らなかったのである。
セリルは、セレナールがマモルから受けたことをずっと悩んでいたらしい。更に言うなら、遠い昔、セレナールがカナエを陥れようとして自分が陥れられてしまったことに対しても長らく悩んでいたそうだ。
あの時、私もセレナールを助けたかった。だから、カナエに結界を解くように言った。同時にセナさんも武官に押し倒されていたのに、私はセナさんを見て見ぬふりして、セレナールの元に走った。けれど、間に合わなかった。私はセナさんの信用を失い、セレナールを救えなかった最低な男となってしまった。
あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。

私はボロボロになったセレナールを地面に下ろすとセナさんに駆け寄った。
『あの、セナさん』
セナさんは泣きながら私を引っぱたいた。
そして、みんなはレストランで話し合うことになった。放心状態のセレナールもみんなに着いて行った。またセイも後を追った。
レストランに着くとみんなは席に座った。
カナエも私をを引っぱたいた。
『何故ですか。セナさんの危ない時にどうしてセナさんを見捨てたのですか!』
私は言葉が見つからなかった。
『答えてください!お兄様!』
確かに私は、セナさんよりセレナールを優先した。けれど、それはセナさんなら自力でどうにか出来ると思ったからだ。
『セナさん、どうしたら許してくれる?』
私はもう見切りを付けられたと思いながらも、セナさんにすがっていた。
『カラルリ……もう遅いよ』
セナさんは立ち上がった。
『天界の結界 000 無限大 000 無限大 000 無限大 確定!』
セナさんはみんなを結界に閉じ込めて逃げ出した。
天界の結界は同時に3つまでの結界を張ることが出来る。また、0を無限大にくっつけることで、それ以上の技を使わなければ結界は解けなくなるのだ。セナさんは森林の結界と壁の結界、霧の結界をかけたのである。
『お兄様、どうするのですか!これではみんなが結界から出れません!』
セナさんが逃げ出し、追うことさえ出来ず私たちは結界に閉じ込められ身動きが取れなくなっていた。もはや、カナエの声さえ耳に届いていなかったかもしれない。
『カナエ、大丈夫だから』
アルフォンス王子はカナエの頭を撫でカナエの肩を抱き寄せた。
『でも、ここで白黒ハッキリさせたい。正直、セナを見捨てたことは見過ごせない。でも、カラルリがセレナールと縁を切って今後セレナールが危険な目にあっても一切助けない、そしてセナを第1に優先するならカラルリがセナと別れないようセナを説得する。でも、それが出来ないならセナを説得せず、私はカナエを連れてカラクリ家に戻るよ』
私のミスで、アルフォンス王子は私に条件を提示した。
『アルフォンス王子様、この結界を解けるのですか?』
『分からない。でも、大丈夫だと思う。結界のことなら心配しないで。今はカラルリが今後セナとどうするかを聞くことが肝心だと思う』
結界を解けたとして、本当にセナさんは戻ってきてくれるのだろうか。
『ですが、セナさんはもうお兄様に見切りをつけたように思います』
『カラルリ次第では私が説得する』
今のセナさんに説得など通用するのだろうか。
『分かりました。お兄様、どうするか選んでください。けれど、チャンスは1度しかありません。2度同じことを繰り返せば、その時はセナさんのお心からお兄様はいなくなるでしょう』
カナエは念を押した。
『私はセレナールと縁を切ります。今後一切セレナールに関わらず、セナさんを1番に優先します。同じ過ちは繰り返しません』
セレナールと縁を切りたくなどない。けれど、あの時の私はセナさんと別れないことのみしか考えられなかった。
『本当に?ほとぼりが冷めたら、またセレナールを放っておけなくてセナを見捨てたりしない?』
セレナールを助けに行った。たったそれだけのことで、ここまでの、おおごとになるとは思わなかった。
『セナさんを二度と見捨てません。約束します』
それでも私は、こうなった以上、何がなんでもセナさんと別れたくはなかったのである。
『お兄様、本当ですか?カナエは信じられません』
『カナエ、私はもう二度とセレナールと関わらないし、セナさんを第1に優先する』
もう手段は選べない。
『お兄様、2度目はありませんよ。同じ過ちを繰り返した時は誰もお兄様を助けません。本当にアルフォンス王子様の言ったことを守れますか?』
『必ず守る。アルフォンス王子、本当申し訳ありませんでした。私はセナさんと別れたくありません。これほどまでに愚かで弱くて誰も救えないですが、セナさんが好きです』
私とてセレナールと縁を切りたくない。でも、それよりセナさんが大事なんだ。セナさんを失うなんて生きながらも死んでいるのと同じだ。
カナエはアルフォンス王子を見た。
『分かった。約束は絶対守って』
アルフォンス王子は全ての気を体内に取り込んだ。
『解 0000 無限大 0000 無限大 0000 無限大!』
そして、アルフォンス王子は結界を解いた。
あの頃のアルフォンス王子の力量はとんでもないものだったと思う。今とは大違いだ。
セナさんの居所を突き止めるとアルフォンス王子はセナさんに話を持ちかけた。
『セナ、前置きとして最初に言うけれど、カラルリはあの状況でセナよりセレナールを選んだ。これはもうカラルリはセレナールを妹以上に見てるとしか思えない。多かれ少なかれカラルリはセレナールを好きだと思う。
でも、今回のことでカラルリは反省して、セレナールとは縁を切り二度とセレナールと接触しなければセレナールが危険に晒されていてもセレナールを助けず、セナを1番に優先すると言ってる。
決めるのはセナだけど、正直ここまで来ると最後のチャンスだと思う。セナがここでカラルリを見捨てたらカラルリはセレナールの元に行くと思うよ。今でも少しでもカラルリのことを好きならカラルリが他の女性と付き合って欲しくないなら別れることはオススメしない。
もう一度言うけれど、これがセナとカラルリが仲直りする最後のチャンスだと私は思ってる』
アルフォンス王子の話を聞いてセナさんは薄々は気づいていたらしい。これまでの私へのセレナールの態度はもはや妹以上に対する振る舞い方だと。それに対してセナさんはいつもセレナールに嫉妬していたのだ。でも今回はセナさんが大切なものを奪われかけたのに私はセナさんよりセレナールを選んだ。それはセナさんにとって許し難いことであったのである。
『私は正直今は気持ちの整理が付けられない。けれど、カラルリがアルフォンスが言ったことを本当に守ってくれるのなら私は1度だけカラルリにチャンスを与えようと思う。ただ、今回のことは私も相当堪えたからこれまで通りに戻るにはそれなりの時間がかかると思う。もしかしたら、今回のことで前みたいな関係には戻れないかもしれない』
セナさんは自分の心境をありのまま話した。
『カラルリはどう?セナはチャンスは与えるけど前みたいな関係には戻れないかもしれないと言ってるよ』
アルフォンス王子が私に確認した。答えは決まっている。
『それでも構いません。私はアルフォンス王子に約束したように今後セレナールとは縁を切るし、二度とセレナールに接触しなければセレナールが聞きに陥ってもセレナールを助けません。これからはセナさんを1番に優先します。セナさんが直ぐに私に気持ちが戻らなくてもセナさんが私にチャンスを与えてくれるのなら私はセナさんとの交際を続けたいです。セナさんと別れたくありません。セナさんの気持ちの整理がつくまで待つし、ずっとセナさんの傍にいます。セナさん今更謝っても無駄だろうけど、それでも本当に申し訳なかったと思ってる』
あの時の私はただただセナさんと別れたくなくて必死だった。
『セナ、カラルリはこう言ってるけどセナはカラルリと交際を続けられそう?』
アルフォンス王子が確かめた。
『今は分からないけど努力してみる』
本当に最後のチャンスだったと思う。セレナールのことは心苦しかったが、どうしてもセナさんを失いたくなくて失いたくなくてしかたなかったのだ。
その後、セナさんとはかなり気まずい雰囲気が続いたが、もう一度私のことを信じると言ってくれた。

あの頃は、何もなかった。
けれど、私たちは人と人との愛情で成り立っていたと思う。
そして、現世では、あの時、博物館でアルフォンス王子から言われたことが忘れられなくて、体育館でセナさんとセレナールが拘束されていた時、真っ先にセナさんを助けた。それが、セレナールから恨みを買い、ラルクに攻撃される事態を招くとは思ってもみなかった。
もう、あの時の博物館のことを思い出すだけで辛くなる。今は改装されているけれど、それでも、みんなで博物館に行った時は胸が締め付けられていた。
けれど遠い昔、あれだけセナさんと愛し合ったのだから、二度とセナさんを手放さない。私は二度とセナさんを苦しめない。そう心に誓った。

セリルの望んだ話し合いが近付いている。
どんな結果になるかは分からない。それでも、セリルの苦しみに気付けなかったのは不覚だ。セレナールの身体はもう元には戻らないけれど、せめて、セリルが納得いくような結果になってほしい。今回の話し合いは、遠い昔の博物館のことも出るだろう。私も覚悟しなければ。

あれから、ナミネがナノハナ家に戻ると言った途端に、みんな戻る方向になってしまった。第4居間ではナミネとヨルクがじゃれ合っている。
「もうすぐキクリ家で話し合いだというのに、ナミネとヨルクは何も思わないのか?特に、カンザシはナミネの実の兄なのに、責任感じないの?セレナールにしたことナミネがされたらどうするのかな?」
私は半ば苛立っていた。セリルとは遠い昔からの付き合いだし、セレナールは妹同然の存在。いくらセレナールを嫌っているからといって、無神経すぎる。
「私は、話し合いは話し合いの時にするものだと思っていますし、ここで過ごすこととはまた違うのではないでしょうか?」
何だ、この反応は。
「それは、それだけヨルクがセリルに無関心だからだろう。問題をすり替えるな!」
ダメだ。ナミネとヨルクを見ていると、何故か苛立ってしまう。
「一目惚れカラルリ、アンタ何をそんなに苛立ってんのさ」
こんなふうに、セリルの弟にいつも擁護してもらっている。自分では何もしない。私の嫌いなタイプだ。
「別に苛立っているわけではないけど、問題が問題なだけに、みんなにはそれ相応の覚悟を持って欲しかっただけだが」
「あの、カラルリさん。ここ私の家なので」
ナミネも馬鹿にしたような発言をする。こちらとて、妹同然のセレナールを、あんな目にあわされて黙ってはいられない。
「ナミネは子供だな。大人の恋愛が分からないから大人の事情も分からないんだな」
「逆に言わせてもらいますが、カラルリさんはセナ王女の妊娠をどこまで本気で捉えていたのでしょうか?あまり無駄口叩くと落ち武者さんにフェアリーングかけてもらいますよ」
最年少なのに生意気な口を叩いて本当に腹が立つ。けれど、フェアリーングで確かめられるのは分が悪い。
「セナさんの妊娠については、キクリ家で相当考え込んだ。けれど、突然のことでどうしたらいいのか分からなくて、ただひたすら悩み続けた。何がセナさんにとっての最善策なのか」
「今となっては、それが真実なのか分かりませんけどね」
どんな育ち方をしたらこうなるんだ。生意気にもほどがある。
「もし、ナミネが妊娠してもヨルクは中絶同意書書かせるよ」
「一目惚れカラルリ、アンタ何の話してんのさ?」
「あまりにナミネが子供だから責任というものを教えてあげてるだけだけど」
中学生なんて小学生の延長線のガキだ。ヨルクに騙されているとも知らずナミネも呑気なもんだ。
「私、別にヨルクさんに責任取ってもらおうなんて思ってません」
「ナミネ、悲しいこと言わないで。ナミネ1人に考え込ませたりしないよ。ナミネには苦労させない」
また綺麗事。憶測で物事を考えるヤツはタチが悪い。
「どうせ、ナミネに中絶同意書書かせるんだろ」
「私はそんなことしません。ナミネとナミネのお腹の子を大切にします」
どこまでも鬱陶しいな。
「そうだな。清い関係だから、妊娠なんてないよな。けど、高校に上がったらどうかな?」
ヨルクとて1人の男。どこまでも清い関係では耐えきれないだろう。
「あの、カラルリさんって、かつてアヤネさんと浮気してましたよね?汚れた人からの指摘って気分が悪いです」
また出た。ナミネお得意の理屈論。これだから末っ子は話が通じにくくて面倒なんだ。
「ナミネこそ、何人の男と付き合ったんだよ?浮気してんのナミネじゃん」
「ナミネ、もう相手にすんな。頭のネジ取れてんだろ」
「だねー!どうせセナ王女にまた妊娠されるの恐れてるようにしか見えないねー!」
どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ。セナさんとは運命だ。遠い昔、セレナールと縁を切ってまでセナさんを選んだ。その想いは、今でも続いてる。
「ナミネは子供だから妊娠とか分からないんだな」
返事は来ない。私は思わずナミネに花札を投げた。が、ナミネは素早く避けた。こんなガキに力量で敵わないなんて悔しい。そう思っている間に私はナミネに扇子で肩を叩かれた。遠い昔は、軽い冗談でよくカナエに叩かれていたが、それも現代はなくなっている。ナミネはどれだけ馬鹿力なんだ。肩に凄い痛みが走る。
「今度は暴力か。フラれるぞ、この暴力女」
「ねえ、カラルリ。あなた急にどうしたのよ」
「ナミネが暴力振るうから、こっちも辛くて」
私は扇子で叩かれた肩をさすった。
「あの、カラルリさん。言いたいことがあるなら私に言ってください。ナミネをイジメないでください」
ここで、またヨルクがカッコつけるか。
「これ、ヨルクだろ。あれだけナミネ以外愛したことはないって言ってたけど、嘘もいいとこだな」
私は、いつかのヨルクが他の女と口付けしている写真を見せつけた。これは、カナコお姉様のアルバムに挟んであったものだ。
「覚えてませんし、本当に私ですか?私と言い切れる根拠って何ですか?」
私は完全にブチ切れた。気付いたら第4居間の物をヨルクに投げ付け、アヤネを蹴った。そして、知らない間に花瓶がエルナに当たっていた。
「一目惚れカラルリ、アンタ、何してるのか分かってんのか?エルナに危害加えるな!」
しまった。セルファを怒らせてしまった。私は咄嗟に庭に逃げようとしたが、ナミネとラルクが道を塞いだ。

……

あとがき。

古代編って、カラルリはアルフォンスに敬語だったんですね。
短期間なのに、めちゃくちゃ忘れてました。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 98話

《セリル》

僕は、生まれつきフェアリーングと千里眼を使える。
フェアリーングは、相手のあらゆる心情を読み取る心理学の1つで、現代ではカウンセラーさんなどが治療で使っていたりする。千里眼は、機械を通さずとも、その中を見ることが出来る能力である。例えば、箱の中身を知ることが出来たり、分かりやすく言うと、レントゲンを通さずとも、その人の身体の中が見えるのだ。昔は、千里眼を詐欺だと言う人もいたが、目の作りが人と違う人は確かに存在しているのである。

僕はかなり大人しい性格だと思う。昔ほどではないが、自分から人に話しかけることはないし、率先して自分の意見を言うこともない。無理していい子を演じてきたわけではないが、僕は争いを好まず常に平穏な暮らしを望んでいる。
人の相談には乗るが、自分からは殆ど相談をしない。

僕には妹がいる。
妹のセレナールが、カンザシさんをヨルクと間違えマモルさんからイジワルされた時、僕は何も出来なかった。遠い昔の、あの時のように。
僕なりに、カナコさんに相応しい男になれるよう、転生するたびに努力はしてきたつもりだ。そして、それなりの力量もついていたと思う。けれど、思うだけで、実際は違っていた。
上には上がいる。そんなこと分かっていたはずなのに。あの日、ズームさんに少しも適わなかった時、僕は遠い昔の弱いままだと気付かされた。ズームさんは、カンザシさんとの、つがいの勾玉のアザのせいで、カンザシさんの人生に巻き込まれている。勾玉のアザを持つ者は、時として一方が危機に陥ると、もう一方も命の危機に陥る。残念なことに、ズームさんはカンザシさんを助けながら、ずっとずっと生きてきた。その生き方は僕が見るからに命懸けのようだったと思う。
僕は僕でセレナールを守れなかったことが辛い。辛くてたまらない。けれど、ズームさんはカンザシさんを守る義務が常に付きまとっている。

どうして、セレナールが幸せになれないのか、僕は分からない。けれど、思い当たる節はある。初代妖精村にて、僕とセレナールは皇太子様に処刑されている。その因縁が今も何かしらの形で付きまとっているのかもしれないが。
少なくとも、カラクリ家で、みんなでいた頃は、セレナールと皇太子様は愛し合っていた。けれど、貴族の間で流行っていた、たった1つの映像でセレナールと皇太子様の関係は拗れてしまった。セレナールは、兄同然のキクリ家長男の僕と同い歳のカラルリのことを気にしはじめ、好きになってしまった。けれど、カラルリにはセナ王女という彼女がいた。あの頃の、セナ王女とセレナールは衝突ばかりだった。

セレナールがイジワルされたのは現世だけではない。遠い昔、博物館のトイレでカナエがセレナールごと結界をかけて武官に襲われている。カラルリが駆け付けた時には間に合わなかった。
セレナールは、自分が依頼した武官に逆に襲われてしまったのだ。
その後、皇太子様は、カラクリ家の長女のエミリを好きになり、セレナールに別れを告げた。それからのセレナールは、セナ王女やカナエを妬むようになってしまった。
セレナールは、紅葉神社でセナ王女を武官に襲わせていたこともある。
虫一匹殺せないセレナールがどうして、こうなってしまったのか理解出来なかった。

現世では、遠い昔からヨルクのことを好きだと言っていたが、セレナールは、本当はラルクのことが好きなのに、それに気付けずヨルクの整った容姿に惹かれていたことを僕はそれとなく感じ取っていた。あの時、ラルクに伝えていれば、ラルクを傷付けなかっただろうか。
歴史は絶対に変えられない。例え変えたとしても、何らかの形で元に戻り、現世が変わってしまうのだ。だから、何がなんでも歴史を変えてはいけない。

皇太子様から別れを告げられ、全てを失ったセレナールは、みんなからの信用を失い孤立し、しばらくの間寝込んでいた。けれど、すぐに立ち直り、妖精村学園 高等部の教師をすることになった。ヨルクとラルクはセレナールの元教え子なのだ。
セレナールが教師をしはじめて少しした時に、カラクリ家で集合写真を撮った。

今思うと全てが懐かしい。
あの頃、僕はカナコさんに片想いをしていた。けれど、なかなか想いを伝えられず、カナコさんとは恋人のような関係でありながら、友達という形であったと思う。そんなカナコさんとは、あるエピソードが存在していたのだ。
あれは、祭りの日のことだった。

カナコさんと僕は紅葉神社に着いた。
『カナコさん、大事な話というのは……』
カナコさんは僕のの手を離し、数歩歩いた。そしてくるっとセリルの方をに身体を向けた。
『返事は絶対しないでね』
どうしてこんなふうに言うのか、この時の僕は全く分かっていなかった。
『分かってます』
それでも僕はカナコさんに流されていた。
『あのね……私、セリルのことが好きなの。1人の異性として。あなたに惚れているわ。私は18歳の時、学校を卒業してテーラーとして働くあなたの真剣な姿を見たの。あなたの職場でね。その時のあなたは難しい仕事で入りたてにも関わらず器用にドレスを仕立てていたわ。そんなあなたの姿は輝いていた。その時私の鼓動は高なった。その日から私は今までずっとあなたのことが好きだったの。あなたに好きな人がいるのは薄々気づいていたわ。私はあなたとあなたの想い人を引き裂こうとは思っていない。でも、私はあなたに好きな人がいても諦めるつもりはないわ。あなたに振り向いて貰うまで待つわ。返事をしないでって言ったのは、振り向いて貰えるまで私を1人の女として好きになってくれるまで傍にいたいからよ。私、必ずあなたを振り向かせてみせるわ。だから、お願い。これまで通りに接してもらえないかしら。お風呂でお喋りしたり、お布団の中でお喋りしたり、あなたの有給が終わったら仕事帰りに喫茶店でお喋りしたり。私を避けないで今まで通りの関係でいて欲しいの』
突然のカナコさんの告白に、僕は頭が真っ白になっていた。
『あの』
『告白に対する返事は今はしないで』
両想いと分かった瞬間もカナコさんに想いを伝えられなかったことは、かなりもどかしかった。
『分かりました』
けれど、僕はただ相づちを打つことしかしなかった。
『もうっ、何で自分も好きだと言わないのよ、兄さん。こんなの間違ってるわ』
セレナールが紅葉神社に入っていこうとしたが皇太子様に止められていた。
14年も片想いしていたカナコさんと途中から両想いだと知った僕はただただ嬉しい気持ちでいっぱいだった。ただ、自分もカナコを好きだと伝えられないのは本当にもどかしかった。けれど、それよりも惚れている高嶺の花だと思っていたカナコさんから告白され、僕の心は恋の花が3部咲きした。
『あの、質問はいいですか?』
『構わないわ』
不安気なカナコさんも、もはや僕にとって、美しさが増す存在になっていた。
『その、カナコさんの僕に対する好きというのは……』
ちゃんと自分の気持ちを伝えられなかったことは、今でも恥ずかしいし、きっと現世でも僕は、何ら変わらぬ生き方をしているのだろう。
『あなたに大切なものを捧げたい。そういう好きよ。分かるわよね?』
『はい。でも、数々のイケメンでスキルの高い男性から何人もアプローチされてるカナコさんが、よりによって貧乏暮らしてダサい僕なんかをどうして好きなんですか?』
僕には分からなかった。カナコさんなら、縁談も多く来ているのに、敢えて僕を選んだ理由が。
『他の男は私からしてみれば穢らわしくてとてもじゃないけど恋人にはなりたくないの。それに、あなたはダサくなんかないわ。セリル、私ねあなたと一緒にいると気持ちが癒されるの。あなたは純粋で真面目でいつも一生懸命で、ついこないだまで弟だと思っていたのに気がついたら私があなたに惚れていたわ。あなたの全てが好きよ。あなたの眼差しも、首にかかるあなたの吐息も、普段のあなたの仕草も、全てが愛おしい。あなたに触れられるたびに乙女心を抱くし、あなたには安心して裸を見せられるし、あなたに胸を揉まれると感じるし、布団の中であなたとお喋りすれば心が癒されて眠たくなる』
カナコさんが、これほどに僕のことを異性として求めてくれていたことを全く知らず、僕はきっと心の中で舞い上がりすぎていただろう。
『カナコさん。僕はこれからも変わらずカナコさんの傍にいます』
カナコさんの気持ちを聞いてしまった以上、僕はカナコさんから離れるに離れられない。
『ありがとう。これからも一緒にお風呂に入って、お布団でお喋りしましょうね』
『はい、カナコさん』
この時点では、恋人ではない。けれど、僕もカナコさんを求められずにはいられなかった。
『セリル、口付けしていいかしら?』
『もちろんです!大歓迎です』
カナコさんは僕に口付けをした。そして、カナコさんは僕を抱き締めた。
『突然告白をしてしまって驚いたでしょう。でも、必ずあなたを振り向かせてみせるから待っていて』
『カナコさん』
僕は惚れているカナコさんから告白を受け、ぼんやりカナコさんをずっと見つめていた。告白して恥じらいがあったのかカナコさんが色っぽく見えた。
カナコさんは僕の手を握った。

こんな僕にも、大恋愛というものが存在していた。
結局その後、カナコさんと交際することにはなったのだが、カラクリ家で集合写真を撮ったあとの記憶は朧気である。カナコさんとどうなったのか、今となっては全く覚えていない。
《若き頃の記憶は次なる世でも覚えているが、歳をとった記憶は忘れていくものだ》
昔の人はよくそう言っていた。
理由は分からないが、正直、みんなの結婚後の世界を本当に思い出せない。そもそも、結婚までしていたのだろうか。

けれど、僕はヨルクみたいに何でも許す人間ではない。
不思議だろうけど、天使村時代も僕はカナコさんに惹かれていた。完全な片想いだったが、それでもいつもカナコさんを見つめていた。偶然にもカナコさんと交際出来た時は、天にも登る気持ちだった。でも婚約してから、カナコさんから
『同僚のマンションで朝まで飲み会をする』
と言われた時は流石に止めてしまった。
『カナコさん、僕たちはもう婚約しているんです。他の男のいるマンションで一晩飲み会など認められません』
この時の僕は、僕なりの線引きがあったのだろう。今も存在しているが。
『セリルって何でも許す男かと思っていたけど、以外に心が狭いのね』
このカナコさんの言葉に当時の僕はショックを受けていた。カナコさんにとっての僕は何でも許す、半ばしもべのような存在なのだと。
『カナコさん、物事には限度があります』
その時、チャイムが鳴った。出ると、ナミネとヨルクだった。
『差し入れ持ってきました』
またヨルクが料理を作ったのだろう。カナコさんと同棲してからは、ナミネとヨルクも近くでアパートを借り、よく差し入れを持ってきてくれていた。
『2人とも聞いて!セリルったら、私が同僚のマンションで一晩飲み会することを反対するのよ!』
気付いたらナミネとヨルクはリビングにいた。
『それだけセリルさんはカナコさんを愛していると思います』
ナミネは僕が出したお菓子をポロポロ零しながら食べた。
『けれど、飲み会くらい些細なことじゃない』
『ふむふむ、難しいですな。私も今度、同僚のマンションで朝まで飲み会をするのですが、朝になったらヨルクさんが迎えに来てくれます』
これを聞いた時の僕は、自分が小さな男なのだろうかと自分自身を疑ってしまった。小さかったナミネとヨルクも、僕が22歳の頃には、18歳と19歳。ナミネは中学生の頃と違い、随分と綺麗になっていた。
『セリル、聞いたかしら?ヨルクはナミネの飲み会許してるわよ?』
『まあこればかりは、お二人の気持ちだと思いますが』
ヨルクは苦笑していた。
ヨルクは、何でも許す。そして、常にナミネに尽くしていた。
『分かりました。僕もカナコさんの飲み会が終わる頃迎えに行きます』
ヨルクはナミネが零したお菓子の欠片を拭いていた。
『では、決まりですな』
この頃の僕は、カナコさんを完全に信じ切っていた。
その後、偶然にも飲み会はカナコさんもナミネも同じ日で、朝になって僕はカナコさんを迎えに行った。すると、カナコさんは、僕の知らない男と口付けしていた。
『カナコさん……どうして……』
『違うの、セリル。一方的にされたのよ』
真相は分からない。けれど、僕は自分が思う以上にショックを受け、失望してしまっていた。そして、この後のことは全く記憶にないのだ。
一方、ナミネはヨルクが迎えに行くまでにマンションを出て、紅葉橋で大々的に寝ていたところ、近所の人がクレナイ家に知らせに行き、ラルクがナミネをアパートまで連れて帰ったらしい。
この時に僕は感じた。僕は僕なりにカナコさんとは喧嘩もなく上手くやっていたはずなのに、どうして大喧嘩してでも、ナミネとヨルクは、これほどまでに愛し合うことが出来るのか。多分、恋愛的に劣等感を抱いていたと思う。

気が付けば僕は、森の湖に入りかけていた。
ふと前を見ると、ナミネが馬から降り、うずまきキャンディを舐めていた。
「みんな探していますぞ」
そう、僕はカナコさん宛の手紙を書いたあと、学校を飛び出した。
「そっか。でも今はそっとしておいてくれるかな?」
「セリルさん、何があったか、今何を思っているのか分かりませんが、みんなセリルさんに救われてきたのです。私もその1人です。セリルさんが、しばらく1人になりたいのなら無理に連れ帰ることはしません。でも、せめて、事情だけでも教えてください。今すぐでなくて構いませんので。紙飛行機待ってます。帰りは馬を使ってください」
そう言うとナミネは、折り鶴に乗って紅葉町に戻って行った。どうして、ここだと分かったのか僕には分からない。ナノハナ家の馬は真っ直ぐに僕を見つめていた。
運命というのは時に残酷だ。マモルさんはニュースでも放送され、ニンジャ妖精を抜けることになったが、カンザシさんは抜けるどころか、リーダーとなった。そのカンザシさんがナミネの実の兄だなんて。

僕が森の湖で、遠い昔のセレナールと会った数日後、森の湖南町の空き家にいたら、カナコさんとレイカさんが来て、後日、セレナールさんとカンザシさん、マモルさんで話し合うこととなった。

話し合いがどのような展開に向かうかは分からない。けれど、人は一人では生きられない生き物だ。この際だから、逃げるだけでなく、しっかり話し合おう。
僕は覚悟を決めた。

……

あとがき。

セリル視点でした。

完璧と思われる人も、何かしら抱えているものなのですね。
セレナールのことは、古代編は、カナエを襲う目的で雇った武官ごとカナエがセレナールごと結界に閉じ込めて逃げました。

セレナールが変わったきっかけは、やはりレナードでしょう。その辺も話し合ってほしいところです。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
Copyright (C) 2009 雨の音を聴きながら, All right Resieved.
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