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日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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性別:
女性
職業:
地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
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ブログ、もう書かないと思ってました。

けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。

小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。

純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。

元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。

ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。

小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。

よろしくお願い致します。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

お知らせ。

イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。

また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚

フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。

ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。

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〈資格履歴〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格

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〈資格証明バナー〉

鉛筆デッサンマスター®認定試験資格取得証明
絵画インストラクター資格資格認定証
宝石鑑定アドバイザー資格認定試験資格取得証明
鉱石セラピスト資格資格保持証明
茶道アドバイザー資格認定試験資格取得証明
お点前インストラクター資格資格認定証
着物マイスター®資格認定試験資格取得証明
着付け方インストラクター資格資格認定証
サイキックアドバイザー®資格資格証明
サイキックヒーラー資格資格保持証明
アンガーカウンセラー®資格資格保持証明
アンガーコントロール士資格資格認定証
漢方コーディネーター®資格認定試験資格保持証明
薬膳調整師®資格認定試験資格保持証明
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純愛偏差値 未来編 一人称版 107話

《ナミネ》

結局、あのあと、ナルホお兄様がアヤネさんを説得し、再びナノハナ家に連れ戻したらしい。アヤネさんはアヤネさんなりに反省したそうだが、私はその現場を知らない。
ただ覚えているのは、ヨルクさんの紅葉の香りだけ。

第4居間では、氷河期町に行く人が既に支度をして、朝食を取っていた。私もヨルクさんの隣で朝食を食べはじめた。
「あの、ナミネさん。昨日はごめんなさい」
嘘っぽい言葉を朝から聞くと、いやな気持ちにさせられる。もう、アヤネさんとは同じ空間にいたくない。
「絶対許せません!氷河期町から帰ったら、私、ナノハナ家出ていきます!」
最初はこんなんじゃなかった。恐らく紀元前村からだ。
人は、ひとたび中身を見てしまうと嫌気がさすこともある。表面上は、いくら大人しくても、態度によっては苦手意識を持ってしまうものである。
「ナミネさん。本当に反省しています」
ズームさんがいるから、ここにいるだけの人。別に私とは仲良くしたいわけではないだろうに。
「ナミネ。停電で、お父様たちの任務も減ってきているし、ナノハナ家は部屋がたくさん余ってるから下宿にするつもりなんだよ。馬が合わない人がいるからって追い出すわけにはいかないよね」
だから、私のほうが出て行くって言ってるんじゃない。
「ですから、私が出ていきます!」
「ナミネ、そんなこと言わないで。ナミネが出て行ったら私がここにいる意味なくなる」
ヨルクさんは悲しそうに私の手を握った。
アヤネさんとヨルクさんは趣味で繋がっているから、いいかもしれないけど、私は何の繋がりもない。けれど、ヨルクさんと離れるのはいやだ。こんな矛盾、自分でも馬鹿げていると分かっているのに。私は転生するたびに大人になっていて、それゆえ、中身は大人なはずなのに、不思議なものだ。若いと自然に思考も幼くなるものなのである。
「努力はします。でも、アヤネさんと私は合わないと思います」
合わないものは合わない。それを我慢して同じ空間にいるか、離れるかは人それぞれだが。少なくとも私は同じ空間にいると苛立つタイプだ。
「ナミネさん。本当に反省しています。今後は私から歩み寄ります」
それが出来れば苦労はしない。
それに、ナルホお兄様の言ってた下宿って何だろう。知らない人が、ぞろぞろとナノハナ家で暮らすのだろうか。それはそれでやりにくいものがあるだろう。
「もういいです!私が我慢します!どうせ、ズームさんと一緒になれず、どこかのおじさんと政略結婚する可哀想なアヤネさんですもんね」
あれ、ズームさんと一緒になれない。もしかして、アヤネさんは、遠い昔、私とズームさんが交際していたことに嫉妬しているのだろうか。女の敵は女と言うが、大人しい人も惚れた男のことになれば、冷静ではいられなくなるのだろうか。
「ナミネ。アヤネさんは、あのあと、氷河期町で過ごすための説明も読んだし、覚悟の上で行くんだよ。すぐにとは言わない。でも、せっかく縁あって、グループにいるんだから、大切にしたほうがいいよ。今の時間をね。青春なんてあっという間だから」
そんなの覚えていない。中学に上がるまでは早く感じたように思うけど、20代だって言ってしまえば青春ではないか。なにも、10代だけが青春というわけではないと思うが。
それに、覚悟ではなく、ズームさんと一緒にいたいだけでしょ。貴族って、どこまで脳内優雅なの。
「はいはい、分かりましたー!今後は、アヤネさんのこと透明人間だと思うことにしますー!」
私は、どこまでも素直になれない。だから、妖精村時代、何度もヨルクさんを失ったのだろう。自分では分かっている。でも、どうしようもないのだ。
「じゃ、出発する」
いよいよ、命懸けの仕事のはじまりだ。
私たちは、荷物を確認したあと、馬小屋の王室のフェアリーサラブラーとロリハー家のエンジェルブェロッラを外に連れ、馬を走らせた。

町から町を越え、春風町の宿を借りたあと、馬は宿の駐車場に置いて、氷河期町へ続く洞窟を歩いた。洞窟は約45分ほどだろうか。長すぎず短くもなく。けれど、作業があって終わるたび、春風町の宿に戻らなくてはならない。自転車屋で、自転車を借りた方がいいだろうか。
歩けば歩くほど、だんだんと寒くなってきた。私は帽子を被いてフードを被いた。尋常ではない寒さだ。身体が凍りそう。
「皆さん、大丈夫ですか?」
私は、みんなの安否を確かめた。
「僕は大丈夫だけど?」
「私も大丈夫だよ」
「私も大丈夫だ」
「カナエも大丈夫です」
「私も大丈夫よ」
崖登り係は大丈夫そうだけど、ズームさんやミネスさん、ラハルさん、アヤネさんは、かなり寒そうだ。
もうしばらく歩いていたら、洞窟の向こうが見えてきた。もうすぐ洞窟を抜ける。私たちは覚悟を決めた。
吹雪がここまで吹いてくる。

洞窟を抜けると、銀世界なんてものではない。
もはや何も見えないのである。全くというのは大袈裟かもしれない。掻い摘んで言うと、視界がかなり悪い。
地面は雪と言うより氷だろうか。何気に滑りやすい感じがする。
「では、テントは僕とミネスで張りますね」
テントなんて張れるのだろうか。
「あ、私も手伝います!」
こういうのは、みんなでしないと。
「僕たち含め、アンタも崖登り係だ。テントはズームとお子ちゃまミネスに張ってもらうぞ」
そうか。ここでは、無駄な体力は少しも使えない。
それにしても崖も氷で覆われていて、登れるかどうかも分からなければ頂上がどこにあるのかも見えない。
「テント張れましたよ」
え、もう張れたの?早くないだろうか。
私たちは、テントの中に入った。
「あったかい!」
思わず声に出してしまった。
「今年の秋にskyグループで売り出す予定なんです。恒星の光で温もっているので電池とか充電とか全くいらないんです」
skyグループ。やっぱり、規模が違う。恒星の光でも、充電式が多い中、このテントは多くの光を取り込んでくれるというわけか。
「妖精村が停電でもブランケット家は、電気で全部使えるよー!」
いいな。私も、お金持ちに生まれたかった。でも、武家も悪くないと思ってしまう。何不自由ない、何でも手に入る暮らしも大切だろうけど、私は私なりに手に入れてきたものもたくさんある。
「凄いですね。これなら、ナヤセス殿もヨルクさんもエルナさんも、凍えずに済みますね」
わざと、アヤネさんの名前を出さなかった。私の中では、もう仲間ではないからだ。
「ナミネ、本当に無理しないでね」
ヨルクさんは、崖は登れないけど私が心配で着いてきた。
「はい」
私はサングラスを付けようとした。雪山ゆえ、ほぼゴーグルだ。
「シャム軍医!?」
これまた珍しい人の名前が出た。
私は咄嗟にテントの外に出た。本当にシャム軍医だ。私は多分会ったことはないが、遠い昔、セナ王女の同僚だったのである。
「セナ元帥、お久しぶりです」
何だか、随分やつれている気がする。バイトで来たのだろうか。
「久しぶりね。シャム軍医も、バイト?」
私も、そこめちゃくちゃ気になる。
「いえ、ここに住んでいるんです」
ここに住んでる!?いったいどういうことなのだろう。
「え、どういうこと?」
本当、何がなんだか分からない。
「僕は、ここで生まれたんです。ここの住人は皆、最下層と呼ばれ、宝石の原石を採取させられています」
何それ!まるで、紀元前村の蓮華町ではないか。というか、それより酷い。妖精村にも、古代……いや、それ以外の暮らしをしている町があっただなんて。
「えっ、でも、こんなところ住めないじゃない」
とてもじゃないけど、このような寒いところで住めるわけがない。私は再びテントに入り顔だけ出した。セナ王女は寒くないのだろうか。
「ここから400mほどのところに、住人たちの家があります。政府から提供された家で、その中だと普通の暮らしが出来るんです。原石も採取出来ない人ばかりで、政府から賞味期限1年切れなどの食材は提供されています。僕は、医師としての知識はありますが、とてもじゃないけど、崖は登れません。だから、細々と生活しているのです」
酷い話だ。あんな崖、登れるわけがないのに、無理矢理に差別して、こんな町に閉じ込めて。
シャム軍医。顔はそこそこハンサムでエリート医師だったのに、現代ではこの有り様。まるで、ユウサクさんみたいだ。時代は分からない。武家に生まれたからといって来世でも武家というわけではない。
「ナミネさん、これを」
ベスト、だろうか。
「ありがとうございます、ズームさん」
私は早速ベストを着てみた。
「軽くてあったかい!」
また思わず声を出してしまった。
「このベストは人が着ることによって温まるんです」
ズームさんとは、もう暮らしの規模そのものが違う。ズームさんのように、何もかも恵まれた人もいるのに、この町で不自由な民として暮らさなければならない人もいる。世の中というものは、こうも不公平なものなのか。
ズームさんは、崖登り係にベストを渡しはじめた。
「酷い話ね。シャム軍医は、あんなにもエリートだったのに。こんなところで暮らしているだなんて思ってもみなかったわ」
それは同僚の誰もが思っているだろう。
「じゃ、ズームからベストももらったことだし、崖登り係は原石採取に行くぞ!みんな、無線イヤホンマイク付けろ!」
私はリュックをテントの中に下ろし、ポシェットと無線イヤホンマイクを付けた。
「え、セナ元帥、あの崖登るんですか?」
やっぱり気になるよね。
「ええ、ちょっと事情があって」
セナ王女は苦笑していた。無理もないか。彼氏のローン返すためなんて言うに言えないものな。
「気を付けてください」
「大丈夫よ」
私たちは、崖の前に立った。もう後戻りは出来ない。
私は苦無を氷に突き刺した。分厚い氷ゆえ、崖までは刺さらない。けれど、問題は足元だ。滑り止めの靴は履いているが、踏み場は手探りになる。私は試しに1つ目に足をかけた。崖のとんがっている部分を覆う氷は確かに踏み場かもしれない。けれど、上まであるとは限らない。
私が止まっていると、セナ王女は、どんどん上に登りはじめている。やっぱり、セナ王女の力量は変わっていない。本当に元帥のままだ。
私も負けてられない。原石を採取しないと。私は、苦無を刺しては踏み場を見つけ、ゆっくり崖を登りはじめた。
アルフォンス王子とカラルリさんは、踏み場を見つけられないのか下で苦戦している。他のメンバーは、ゆっくりと登っていっているようだ。
「ねえ、ラルク。セナ王女、見えなくなっちゃったね」
こんな崖、プロでも苦戦するだろうに、セナ王女の姿は吹雪で、あっという間に見えなくなってしまった。
「まあ、場数が全然違うんだろうな」
それに、セナ王女はカラルリさんの責任も感じているのだろう。
「だねぇー。私たちも負けてられないね」
私たちは、とにかく登り続けた。この急過ぎて、頂上がどこか分からない崖を。ただただ、ひたすらに登り続けたのである。
踏み場が不安定な時は、近くの踏み場を探し、それもない時は、苦無を突き刺し、上の踏み場に足をかけた。命懸けの他、何ものでもない。けれど、これをクリア出来なければ、武士を極められない。
今は、ひたすら登り続けるのみ。
その時、カナエさんが踏み場を外し、パラシュートを開いた。されど、パラシュートは吹雪で吹き飛ばされ、カナエさんは咄嗟に岩の結界をかけた。
「男尽くしカナエ!アンタはテントで休んでろ!」
私たち、1時間半は登り続ている。カナエさんは、今日のところは休んだほうがいい。
「いいえ、カナエは登ります!お兄様をお救いします!」
カナエさんは、昔から根が強い。けれど、一度下りてしまったものを、1から登るというのは効率が悪い。けれど、カナエさんは、恐らくまた登りはじめている。
「ねえ、ラルク。頂上まで辿り着けるのかな」
こういう状況をチャレンジ精神と不安の隣り合わせとでも言うのだろうか。
「分からないな。ただ1つ言うなら、登りに3時間かかるなら、下りも3時間の合計6時間だ。上は温かいけど、下はかなり冷えてる。身体が使いものにならない前に下りるのが利口だ」
確かに、下は随分と冷えている。決して、マイナス50度を甘く見てはいけない。ズームさんとミネスさんが下で炎の舞を飛ばしてくれているが、上に行くほどに効き目が弱くなっている。
「平凡アルフォンス、一目惚れカラルリ。アンタら、結界係にまわれ!」
そうだ。結界をかけてもらえば、炎の舞で少しは温まるかもしれない。
「分かった」
最近のカラルリさんは、諦めが早いように思う。紀元前村では、それなりに粘っていたような記憶があるが。
「いや、私は諦め切れない。このまま、登れなかったら使いものにならない人間になってしまう」
アルフォンス王子も、遠い昔は強かったんだけどな。今となっては、プライド高いだけの人になっている。
カラルリさんが結界をかけてくれているのかもしれない。なのに、幅が狭くて、ここまでは届かない。
『結界かけた』
やっぱり、結界はかかってるんだ。でも、上までは届かない。ここまでくれば、時間の勝負だ。
『2時間半経ったよー!』
ミネスさんが時間を教えてくれた。
2時間半。紀元前村の果樹園の崖とは全然違う。
その時、ミナクさん、リリカさん、ナナミお姉様が結界をかけパラシュートで下りて行った。条件が厳しすぎる。
「悪い。僕もリタイア」
落ち武者さんまで、パラシュートで下りはじめた。
「ねえ、どうする?ラルク」
何だか、どうしていいか分からなくなってきた。姉が下りた時点で、私は諦めの気持ちを持ちはじめたのだと思う。
「僕はまだ登る。セナ王女1人で、このバイトは厳しいだろ」
確かに、セナ王女1人にさせるわけにはいかない。それだと、何のためにここに来たのか分からない。けれど、ナルホお兄様までパラシュートで下りて行った。
残されたのは、私とセナ王女、ラルクだけだ。
私、不安になっている。
『頂上よ!』
セナ王女の声。辿り着いたんだ。
『うーん。セナ王女で3時間15分21秒ってとこかな』
え、ズルエヌさん来てたの?
『アンタ、何でいんのさ』
てか、私たちはフェアリーサラブラーを走らせて来たと言うのに、ズルエヌさんは何で来たのだろう。
『ミネスから、氷河期町に古民家あるって聞いて興味本位で来ちゃった。てへ』
ズルエヌさんって、こんな人だったったっけ。朧気だけど、ズームさんとの結婚式では、物静かで大人しく口数も少なかったような。
「ズルエヌさん、僕たちも登るべきですか?」
どうしてラルクが聞くのだろう。
『登るべきだね。ラルクとナミネは残り124.5672……cm。この崖はまるで法則のようだ。40.6468……cmごとに踏み場があるよ。必ずしも真っ直ぐではないけどね。決められた位置のどこかに踏み場がある。だから、明日からはみんなが登れるよ』
法則?そんなふうには、とてもじゃないけど思えなかったが。124cmなら登るしかない!
『得体の知れないズルエヌ、アンタ、千里眼の持ち主かよ?』
千里眼。それなら落ち武者さんだって生まれつき持っている。
『そうだよー。君のように先天的じゃないけどね。時計騎士の研修極めたら崖の中まで見えるようになっちゃった』
かなりのレベルの持ち主なのか。
『へえ、アンタ、僕より見えんだ』
千里眼も後から学んでもズルエヌさんみたいに奥の奥まで見ることが出来る人もいるのか。
『あの、それって女の子の下着も見えるのでしょうか?』
どうして、こっちが真剣な時にヨルクさんはそういうこと聞くのだろう。
『もう、それ飛び越えて骨の中まで見えるけどね』
レントゲンより上回っている。ズルエヌさんの能力があれば、骨の病気の早期発見に繋がるのだろうな。
とりあえず私はズルエヌさんの40cmを参考に目分量で足をかけた。確かに、40cm感覚のどこかに踏み場がある。
『ダメだわ。原石が全く見つからない』
え、時間かけて命懸けで頂上まで登ったのに原石がない!?でも、自分の目で確かめないと。
「セナ王女、私とラルクも行きます!待っててください!」
原石なしで帰れるものか。私は諦めない。
私は、ひたすら集中に集中を重ね、正確に登り続けた。すると、崖の終わりが見えてきた。やっと、やっとだ。みんなみたいに諦めてパラシュートで下りなくてよかった。
「ナミネ、頂上到着」
私は崖の上にあがった。けれど、確かに原石がない。バイトのチラシには崖の上に原石がたくさん転がってる写真付いていたのに。広告というものは実にややこしい。あのチラシに騙された人もわんさかいるだろう。
『強気なナミネ、原石はどうだ?』
全く、欠片さえもないよ。
「全くありません!」
せっかく苦労して、ここまで登ってきたのに、これでは何のための苦労か分からない。
『土の中だよ。君のいるところから右50.2485……cm。深さ32.6475……cm』
下にあるというわけか。けれど、何で掘ろう。苦無を使ってしまえば、降りる時に困るだろう。
見るとセナ王女は短剣で氷を掘りはじめた。
「ナミネ、羽子板使うぞ!」
「うん、分かった、ラルク!」
私は羽子板を取り出し氷を掘りはじめた。理不尽なものだ。土が氷で覆われているから、氷から掘らなくてはならなくて、どのくらいかかるのか分からない。それに、原石を傷付けてしまってもダメだ。
うーん、羽子板だと掘りにくい。そうだ、サバイバルナイフ持ってた。
「ラルク、サバイバルナイフのほうが効率いいよ」
私はサバイバルナイフで氷を掘りはじめた。
「そうだな。セナ王女も結構掘り進めてるしな」
セナ王女、本当早い。カラルリさんに対する責任感からそうさせているかもしれないけれど。
氷が固くて掘りづらい。それでも、何もなしに帰るわけにはいかない。小さいのでいいから入手しなくては。
けれど、惚れども惚れども氷。土に辿り着けない。でも、ここで諦めては全てが台無しになってしまう。
「あった、あったわ!」
2cmほどの青い石。それがチラシで募集しているものかどうかは鑑定士しか分からないけれど。とりあえず、1つゲットってことでいいのだろうか。
ふう、やっと土に辿り着いた。
ん?何か当たってる。私はサバイバルナイフを地面に置いて手袋をつけた手で土を掘った。すると、赤い石があった。と言ってもわずか2mmくらいだ。これだと、学校の運動場の土に混じっているのと、そう変わらない。けれど、私は赤い石をチャック付きのビニール袋に入れた。
「小さいな」
ラルクのも5mmにも届かないくらいの小ささ。
「私もだよ。セナ王女の大きいよね」
「でも、これで少なくとも3つは採取したことになる。原石が、この町にしかないってことは原石の可能性も高いしな」
確かに、この町にしかないのなら原石である可能性が高い。チラシで求めてるのでなくて他の宝石の原石だとしても高値で買い取ってもらえるかもしれない。
『じゃ、3人とも下りてこい。今日の作業は終了だ』
私たちは、落ち武者さんの指示に従い、苦無を取り出した。
「はい、分かりました!」
「分かりました」
「了解よ」
セナ王女、下りるの早い。ズルエヌさんのアドバイスでコツ掴んだのかな。けれど、確かに40cm置きという法則があるのなら、踏み場がない不安が経験されるかもしれない。ラルクも早く下りている。本当は、パラシュート使いたいけれど、ここは確実な手段を取るべきだ。苦無で下りる!
私は禅を使った。遠い昔では、みんな使ってたっけ。アルフォンス王子とか凄かったな。
行きと違って下りは何となく吹雪にも慣れている気がする。けれど、早く身体を温めないと。宿には露天風呂があったはず。

セナ王女は1時間半で下り、ラルクは2時間、私は2時間20分で下りた。
「じゃ、今日の作業終了。宿に行く」
うう、寒い。私はテントの中に入った。
「あの、少し休ませてもらえませんか?」
ノンストップでの登り下り。ここで休憩しないと身体が持たない。
「じゃ、30分休憩する」
よかった。私たちが外にいる間、みんなここで休んでたのか。何だか、狡いと思ってしまう。
「僕は、シャム軍医の家に泊まるよ」
え、ズルエヌさん、この町に留まるの?けれど、家が温かいなら別に問題はないか。
「あ、春風町からここまで歩きだと、それなりに時間もかかりますし、体力も使いますので、自転車借りませんか?」
自転車があれば、少しは早く着くだろう。
「じゃ、自転車借りる」
「あの、私、自転車乗れないんです」
また、アヤネさんは迷惑かけるつもりなのだろうか。
「だったら、ズルエヌさんとシャム軍医の家に泊まればいいだけの話ですよね」
「そんな……400mも歩けません」
私はかなり頭に来た。
「ナミネ、お茶飲んで。喉乾いたでしょ」
ヨルクさんはマグボトルを私に渡した。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
私は、知らず知らずに喉が渇いていたのかマグボトルのお茶を一気に飲み干した。
時間とは早いものだ。あっという間に30分が経ち、ズルエヌさん以外は春風町の宿に向かう準備をしはじめた。

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あとがき。

しばらく時間空いてしまいました。

懐かしのシャム軍医ー!
かつてカラルリがライバル視してた人。
エリートがこんな町にいるなんて……。

でも、古代編が懐かしくなってきた!!

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この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 106話

《ナミネ》

数日後。
ヨルクさんによって、私の熱は下がった。そして、私たちはまたナノハナ家に移動した。
あの日、カラクリ家でカラルリさんが首を吊った時、デパートで宝石ショップから離れるべきではないと思わされたのである。
他人ごと。されど、カラルリさんにだってキクリ家の家族がいる。もし、カラルリさんが命を失っていたら、セナ王女は王女の称号剥奪だけでは済まなかっただろう。
私はカラルリさんを助けたいと思った。
そんな時、カラクリ家のポストに、原石採取のバイトのチラシが入っていた。マイナス50度の猛吹雪の中、崖を登りフェアリールナとフェアリーフォンの原石を採取する。
紀元前村の果樹園の崖よりも、もっともっと高くて難易度が高い。けれど、私は自分の力量を試してみたかったのだ。

モールでは、落ち武者さんの指示した、雪山登山服、雪山登山靴、耳まで隠れる帽子、ヘルメット、サングラス、手袋、ポシェットを購入した。私が薄紫色の雪山登山服を選ぶとヨルクさんも同じものを選んだ。
紀元前村では、カギで登っていたが、今回は苦無を使う。キクリ家ではよく使うが、ナノハナ家では殆ど使わない。けれど、雪山となればカギでは不十分だろう。
また、崖の高さが半端ないため、命綱は使えない。猛吹雪のため、テントも張れない。妖精救命エアクッションを使ったとしても吹き飛ばされる可能性が高い。
とにかく今回はサバイバル以上の命懸けのミッションである。

崖を登るのは、私とラルク、セナ王女、アルフォンス王子、カナエさん、カラルリさん、ナルホお兄様、ナナミお姉様、リリカさん、落ち武者さん、ミナクさん。
医療係は、ナヤセス殿。
炎の舞係は、ズームさんとミネスさんである。炎の舞は数式で行われるが、上まで届くかは分からない。
見学は、ラハルさん。
私が心配でヨルクさんも着いて行くらしいが、ずっと動かず止まったままなんて大丈夫だろうか。ラハルさんとて同じだけれども。
崖を登る人が多いから、運が良ければ多くの給料がもらえる。しかし、油断は禁物だ。
他の人は、一部は作業はするだろうけど、セレナールさんとかアヤネさんとかはナノハナ家の使用人の世話になりそうだ。

行く時は、王室のフェアリーサラブラーに乗るが、毎日紅葉町に戻ることは出来ないから、氷河期町での仕事が終われば、隣町である春風町の宿を、しばらく借りることになるらしい。
崖は一度登って下りたら、その日の仕事は終わり。

鬼が出るか蛇が出るか。
分からないけど、やるしかない。
転生ローンなんて、ぼったくりもいいところだ。断れなかったカラルリさんもカラルリさんだが、お店側のやり方もやり方だ。そういうものを気にしない人もいるだろうけど、多くの人間は転生ローンなど組みたくはないだろう。

第4居間では、緊張感が溢れている。
そりゃそうだろう。私たちは、命懸けの仕事をするわけだから。それも、99%の人が命を落としている。そうまでして、売り出すハイブランドって何なのだろう。人の命より大切なのだろうか。妖精村の考え方も昔と随分と変わった。流されれば生きてはゆけない時代だ。

携帯はあれども、仲間うちの繋がりで、いざとなっても交番や病院に連絡することは出来ない。とにかく、みんなの無事を願うしかない。
「ナミネ、これ薄型だから使って」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
私はヨルクさんからオムツを受け取った。簡易トイレは一応置くが、あんな雪山でズボン下ろせば全身が冷えきってしまう。
「セルファ、本当に行くの?」
流石のエルナさんも、命懸けのバイトとなれば、いてもたってもいられないだろう。
「行くけど?とりあえず、必要なものは全部、紙にまとめたから目を通しとけ!一度転落すれば死ぬからね?例え生きてても転落者は二度と崖を登るな!炎の舞係にまわれ!間違っても伝説ワイヤーを使うのは禁止。必ず苦無を使え!万が一のパラシュートも吹き飛ばされることを想定しろ!絶対気を抜くな!」
落ち武者さんは、みんなに必要事項をまとめた紙を渡した。
ネットでは、上に上がりきれなかった人の投稿しかなかったから、崖の高さがどのくらいあるのかは分からない。登りも下りも苦無だ。原石を無事に採取しても1回にどのくらいの時間がかかるのだろう。
「はい、必ず原石を採取します!」
言ってみたものの、私自身、疑心暗鬼だ。もし、誰も登りきれなかったら、カラルリさんの転生ローンを返すことが出来ない。
されど、不安なのは皆同じ。やるかやらないかである。
「上の状況分からないから、無線イヤホンマイクは付けろ!僕の指示には必ず従え!」
今回は、落ち武者さんが指揮を執るのか。
ただでさえ、妖精村全域停電なのに。私たちは命懸けのバイトをしなくてはならない。それも長期間。
これも武士の宿命なのだろうか。

夕方過ぎに、バイトの申し込みに行ったら遺書を書かされた。予想は薄々していたけれど、やはり会社側も責任は負いたくないのだろう。けれど、ネットによると、チラシの書き方が悪いから家族が亡くなったなど、たくさん苦情も寄せられている。
私たちは潔く遺書を書いた。
まるで、僧侶の百日修行だな。あの者たちは、死んだとしても悔いはないのだろうか。そこまで己を極めて、いったいなんになるのだろう。
ちなみに、遺書は、崖を登る者だけでなく、氷河期町に行く人全員が書いたのである。マイナス50度ともあれば、何もしなくても命を失う可能性が高い。それでも行くしかないのだ。

遺書を書き終え、ナノハナ家に戻ってきた私は既に疲れている。ああいうのは、メンタルに堪える。周りを見ると、みんなも似たような感じだ。
「ナミネ、今からカナエさんたちと夕ご飯作るね」
「はい」
ここでヨルクさんの手作りご飯を食べるのは明日の朝までだ。バイトをしている間は、しばらくここには戻れない。けれど、私は必ず生きて戻る。
これは私にとっての1つの試練なのだ。
「やっぱり私も行きます」
突然、アヤネさんが行くと言い出した。正直、ズームさんがいるからといって、それだけで行くのは無謀だと思う。
「あの、アヤネさん。見学とて命懸けなんです。今回は諦めてください」
お荷物を抱えるのはごめんだ。ただでさえ自分のことで精一杯なのに。
「僕は別にいいけど?けど、誰にも頼らず自分のことは自分でやれるならね?」
落ち武者さん、また無責任なこと言ってる。そういう問題ではなく、貴族のアヤネさんには持ち堪えられないから私は反対しているのに。
「はい、誰にも迷惑はかけません!」
そんな嘘、誰が信じるのだろう。
「じゃ、ここで遺書書け!書いたら紙飛行機にして飛ばす」
「分かりました」
アヤネさんは、落ち武者さんが渡した遺書を書きはじめた。
紀元前村でもナノハナ家でも何もしてなかったアヤネさんが氷河期町の過酷さに耐え切れるとは到底思えない。
行くと決めたのはアヤネさんだから私は責任など一切取るつもりはない。
「アヤネさん。行くなら行くで馬もご自分で乗ってください」
ナヤセス殿やラハルさんは仕方ないけど、アヤネさんは己のワガママで行くわけだから、誰かの重荷になるのはおかしいと思う。
「分かりました。すぐに武官を呼びます」
そう来たか。
アヤネさんは、無線でロリハー家に連絡をした。貴族と武士は、分かり合えないというか、時折、犬猿の仲にも思えてくる。
25分ほどすると、ロリハー家の特殊武官がナノハナ家に来た。
「ナミネ、馬見に行こうぜ」
「え、あ、うん」
正直、興味ないけれど、私はラルクに着いて行った。

ナノハナ家の前には黒い馬が一頭いた。武家は普通の茶色い馬だというのに、貴族は贅沢なもんだ。
「これエンジェルブェロッラだぜ!」
何それ。聞いたこともない。
「そんなの聞いたことないよ」
「フェアリーサラブラーほどでないけど、ギャロップで時速100キロ出るんだ」
武家だって、そんな馬置いてない。
「へえ、そうなんだ。貴族っていい気なもんだよね。高価な馬所有してさ」
私は少し拗ねていた。別に貴族になりたいわけではないけれど、この世はやはり暗黙に暮らしの階級が存在してる。
「まあ、貴族は優雅がモットーだからな」
努力しなくても、なんでも手に入る。そういうの私はあまり好きではない。けれど、貴族にとっては、お金さえあれば何でも出来てしまうそんな世界で住んでいるのだ。
「この馬、服着てないけど大丈夫なのかな」
アヤネさんは、言葉足らずの世間知らずだ。王室の馬は万が一の時のために防寒服を着せている。
「まあ、春風町の宿に置いとくからいいんじゃないか?」
「そうだね」
とは言えども、やはり気になってしまう。
私は、第4居間に戻るなりアヤネさんの前に立った。
「あの、アヤネさん。連れて来た馬、服着てませんが、少し無防備すぎませんか?」
「アヤネお嬢様に命令するのではなく、何かあれば、私にお申し付けください」
貴族って、本当に何もしないんだ。
「あの、お言葉ですが、武官は使用人ではありません!馬を所有しているなら、ご自身で点検するのが普通でしょう!」
私は思わず声をあげてしまった。
「ナミネ、やめようか。アヤネさんにはアヤネさんの家のやり方があるんだよね。ナノハナ家のやり方の押し付けはよくないよ」
ナルホお兄様までアヤネさんのこと庇って。本当なんなの!
「もういいです!そうやって、周りに何もかもしてもらう人生送ればいいと思います!家が破綻したら何もかも失いますけどね!」
私が苛立っている間、結局、ロリハー家の武官が馬に防寒服を着せに行っていた。
「強気なナミネ、アンタ何そんなに苛立ってんのさ。人見下しアヤネは勝手にやってんだからいいと思うけどね?」
勝手にもほどがある。それに、落ち武者さんが必要事項をまとめた紙のものは持っているのだろうか。
「勝手にって。アヤネさんは、必要なもの、何も買ってなかったじゃないですか!」
「それなら、武官が全て持って来てくれました」
武官武官。本当に苛立つ。
「つまり、自分では何一つやってないってことですね」
準備もそうだけど、物ごとと言うのは自分がやらなければ、意味がない。自分の目で確認していないのなら、使い方だって分からないだろうし。現場で躊躇するのが目に見えている。
「あの、さっきから私のこと悪く言ってませんか?もうその手には乗りません。ナミネさんは、自分の価値観押し付けるだけ押し付けて自分が出来る人間だと威張りたいだけです。私からしてみれば滑稽です」
滑稽!?私はただ、自分で確認しろと言っているだけなのに。被害妄想もいいところだ。アヤネさんって、こんな人だったんだ。一見大人しそうに見えて、心の中では周囲のこと見下している。
けれど、家柄と現場で発する能力は別物だ。言っても分からないなら私はもう知らない。勝手にすればいい。
「はいはい、すみませんでしたー!」
あんな性格で貰い手なんているのだろうか。
「私もナミネが怒るの無理ないと思うわ。誰かにやってもらった。それって自分では何一つ確認してないってことよね。シュミレーションもせずに、ぶっつけ本番なんてありえないわ」
やはり、リリカさんも同じ意見。
私たちは失敗の許されない環境で育って来たから貴族とは価値観が異なってくる。
「僕もそう思うな。命懸けの場所に行くのに一度もシュミレーションしてないなんて、ちょっとどうかと思う。ナミネがどうして怒るのか、それさえ考えられない人間と行動するのは心苦しいね」
素人のラハルさんだって、ちゃんと心構えはしている。
「どうして、みんなして私を責めるんですか!」
さっきの強気な姿勢はどうした。結局、多数派に揺るぐほどの人間など、自分を持っていないにすぎない。
「みんな落ち着こうか。いくら正論でも、それが人を傷つけてしまうこともあるよね。現場では長時間の結界は使えないから、テントの中にいなければならないけど、アヤネさんのことはナヤセスさんが見ててくれるかな」
ナルホお兄様って甘すぎる。こんなことで、ナノハナ家の跡取りが務まるのだろうか。
「うん、分かった。春風町は洞窟抜けてすぐだから、いざとなれば春風町の医者も呼べるし、無理なら無理で宿で過ごしたらいいよ」
宿で過ごすなんて、何のために行くのか分からないじゃない。
「ねえ、ラルク。アヤネさんってワガママだよね」
「ナミネ、放っておけ」
「もうやめてください!」
アヤネさんは泣きはじめた。
その時、カナエさんたちが晩ご飯を運んできた。今日はお鍋か。季節外れだけれど、時経てば、よい思い出になるだろう。
「ナミネ、いっぱい食べて明日に備えてね」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
ヨルクさんは、取り皿に私の好きなものを入れてくれた。
「ナミネさんだって、ヨルクさんに何もかもしてもらっているじゃないですか」
本当、何?私はもうアヤネさんに何も言ってないのに。執着が凄い。
「何があったか知りませんが、ナミネはヨルクを守り、ヨルクはナミネのお世話をしています。カナエは、それでいいと思います」
アヤネさんは、孤立しがちだ。ここへ来る前も友達とかいなかったのだろうか。
「この料理、庶民的ですね」
もう我慢ならない。私は扇子を取り出した。
「セルファ、やっぱり私も行く!」
エ、エルナさんも!?今から準備出来るのだろうか。
「だろうと思ってた。強気なナミネの部屋にアンタの用意してあるから、それ使え!」
落ち武者さんって、やっぱりエルナさんのこと好きなんだ。どうして復縁しないのだろう。こんなに好き合っているのに。
「ありがとう、セルファ」
「エルナさんだって土壇場じゃないですか!それでも私だけを責めるんですか?」
責めているんじゃなくて、アヤネさんの態度が強かだから、こちらも心穏やかでなくなるのに。
「エルナさんは、雪山の経験ありますか?」
貴族って何して暮らして来たのだろう。
「氷河期町ではないけど、氷町でしょっちゅうスケートしてたわ。どこもかしこも地面は氷だからホテルに着くまでが寒かったわね」
氷町。そんなところが存在するのか。やっぱり貴族は違うんだな。
「氷町はスケートの本場だからね?」
スケートかあ。小さい頃は、紅葉町のスケート場に連れて行ってもらったりもしていたけど、本場はスケート場とは比べものにならないくらい広いのだろう。
「あー、なんかいかにも貴族って感じですね」
私がお変わりしようとしたら、既にヨルクさんが2杯目を入れてくれていた。
「ナミネさんこそ、何でもヨルクさんがやっていて、ご自分では何もなさらないんですね」
こういう言われ方、本当に気分を害する。私はアヤネさんを無視した。
「貴族と言っても、結局は就職活動になれば、みんなと同じよ。兄は画家を目指してるけど、絵で食べて行けるかどうか分からないわ」
就職活動か。貴族だからといって、企業が優遇してくれるわけではないのか。そりゃそうか。有能でない人材など必要ないだろう。
「エルナ、お兄様いるの?」
ヨルクさんって、やっぱり世間知らず。
「あら、あなたに兄弟がいるように私にもいるわ」
「あ、そうだよね」
昔は、貴族も武家並に跡取りがいたが、今では貴族の跡取りは減りつつあるらしい。アヤネさんとか、ひとりっ子なんじゃないの。
「ねえ、ラルク。アヤネさんって、ひとりっ子っぽいよね」
「まあ、そう見えなくもないけど、分かんないな」
「末っ子って、みんなこうなのでしょうか?私には姉がいます」
ひとりっ子じゃないんだ。なんか意外。
「アヤネ、どうしたのですか!カナエもナミネもラルクも末っ子です。姉ということは、アヤネも末っ子ですよね?」
なるほど。そういう見方もあるか。
「2人姉妹に末っ子も何もありませんよね。あなた方の兄弟の多さに比べたら。ナミネさんのお父様なんて浮気してますもんね」
私は思わずアヤネさんに熱いお茶をかけた。
「熱い!」
ロリハー家の武官は私を取り押さえようとしたが、その前に私は花札を投げ、武官に扇子を突き付けた。
「弱い武官ですね。貴族なのに、強い武官も雇えないのですか?」
私の家族を馬鹿にするなんて許せない。私は自分が思う以上に苛立っていた。
「武官の拘束は解かない。明日行きたいなら人見下しアヤネ1人で行け!」
「そんな……あんまりです……。どうして私だけをイジメるんですか!」
ナナミお姉様が立ち上がった。
「アヤネさん。ナノハナ家にいてもらうのは構いませんが、人の家族の悪口はやめてもらえませんか?ナミネも混乱しちゃいましたし」
「すみません。カッとなってしまいました。お許しください」
どうしてナナミお姉様なら生意気な態度取らないの。こういう差別、私はきらいだ。私はラルクに抱き着いた。
「悔しいよ。ラルク、私こんなふうに馬鹿にされて悔しい」
気が付いたら涙がポロポロ零れていた。
「アヤネ先輩をメンバーから外そう」
ラルクはナノハナ家の武官を呼んだ。
「やめてください!お父様に言いつけますわよ!」
その瞬間、武官はアヤネさんを離した。
結局、有利なのはお金持ちだ。悔しい。どうして浮気とか他所の家庭を侮辱されなければならないのだろう。
頭がグルグル回る。気が付けば私は泣きながら部屋中のものを投げていた。そして、羽子板でアヤネさんを叩いた。
「痛い!許してください!本当にカッとなっただけで馬鹿にしたわけではありません!」
今更謝られても、もう遅かった。アヤネさんを無理矢理ナノハナ家から追い出したあとのことは覚えていない。
気が付いたら部屋の布団の中にいたことも。ヨルクさんが、お風呂に入れてくれたことも。ヨルクさんに抱き締められながら眠ったことも。
精神的なショックで私は虚ろになっていたのだ。

目を覚ますと時刻は4時。
私はラルクと水汲みをしたあと、雪山登山服に着替え、持ち物を何度も確認した。
いよいよ、命懸けバイトのはじまりの幕が開けた。

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あとがき。

最初に遺書書くとか、もう僧侶の百日行みたいですね。

ズームと一緒にいたさだけで、危険な場所に行くと決めたアヤネ。無謀だとナミネが指摘するものの、アヤネの態度がどんどん変わってゆく。
どうしてアヤネは孤立してしまうのでしょう。調和が取れないのでしょう。

せっかく気合い入れていたナミネがかわいそう。

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この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純粋偏差値 未来編 一人称版 105話

《ヨルク》

朝目を覚ますと、ナミネが苦しそうにしていた。熱を測ると39.7度。私は即主治医を呼んだ。
主治医によると、また軽いストレスらしく、主治医は薬を置いて行った。
ナミネ、私のせいでこんなにも不安定だったんだね。私は自分のことしか考えられなかったことを恥じた。何がなんでも守り抜くと大切にすると決めたのに。あの日、ナミネのことを置いていってしまった。ナミネを優先すると決めても、ひとたび傷付けば自分を優先してしまっている。それが、いつもナミネを苦しめる要因となる。
恋人はただ寄り添うだけではいけない。もっと強くならないと平穏な関係ではいられなくなる。私の弱さはナミネを傷付けるだけでしかない。いくら、仲の良いカップルでも弱ければ、ひとたび強い者が攻撃すれば関係が壊れることだってありうる。
遠い遠い昔、カンザシさんが私とナミネの仲を引き裂いたように。
友情も恋愛も綺麗事では成り立たない。各々が直面しているものを常に背負いながらも相手を支えなければならないからだ。誰だって綺麗事で人間関係築いているわけではない。けれど、結果論としては見直しが必要なことが多々出てしまいがちなのは、いつの時代も変わらない。その人の裏側を知っていても、抗えないことはわんさかある。
「ヨルクさん、身体が重たいです」
ナミネが布団から出てきた。
「ナミネ、熱あるから朝食取ったら薬飲んで休んでようね。今ポトフ温め直すから待ってて」
私は客間にある火鉢でポトフを温め直した。ナノハナ家も、使用している客間に火鉢があれば便利かもしれない。
「はい」
ナミネが後ろから抱き着いてきた。凄い汗だ。
「ナミネ、汗かいてるから着替えようね」
「はい」
私はナミネのルームウェアを脱がすとボディーシートでナミネの身体を拭いて、浴衣を着せた。カラクリ家の浴衣も変わっていない。このカラフルさ、小さい頃は見るたびに不思議で仕方なかった。
私はポトフが温まると、再びお椀に入れて、具材をほぐしてナミネに食べさせた。ナミネは嬉しそうにポトフを食べている。こういう平穏な日常がずっと続いたらいいのに。数分後、また問題が発生するとは夢にも思っていなかった。
「ナミネ、薬飲んで休んでて」
「はい」
ナミネは薬を飲んで布団に入ろうとした時、落ち武者さんとラルクが来た。
「いまさっき、一目惚れカラルリが客間で首吊ってるの甘えセナが発見して、一部のメンバーは王室の馬で月城総合病院に行く!アンタらも来い!」
カラルリさんが!?そういえば、私はあの後カラルリさんがどうしたのか全然知らなかった。自殺ということは、転生ローンを組んだのだろうか。
「ナミネは熱で休んでないといけないし、私は人魚の絵を持って来てカナエさんに供養してもらわないといけないから」
人魚の絵は一刻も早く供養してもらわないと、私たちの関係が変わってしまう。
「絵ってなんだ!」
「ナミネが人魚の湖の市場で買った絵、それを持ってる者が見た夢は近い未来に現実になるらしい。だからカナエさんが供養するってナミネに言ったの」
カラルリさんには申し訳ないけど、私はナミネとの関係を拗れさせたくない。危ないものはすぐにどうにかしたい。
「状況は分かった。絵は僕が取りに行くから、ラルクは男尽くしカナエを呼び戻せ!」
「分かりました。すぐに行きます」
ラルクが立ち上がった時、ナルホさんが入って来た。
「カラルリさんはロォハさんによって一命は取り止めたよ。でも、心肺停止状態から40分は経っているんだよね。心臓は動いて息もしてるけど、目覚めないからハル院長が往診に来るよ。
絵は僕が取りに行くからヨルクはナミネについててあげてくれるかな?」
ロォハさん、巻き込まれてカラクリ家に来てたんだった。とりあえず、カラルリさんが死ななくてよかった。
「うん、お願いするね、ナルホさん。ナミネは朝食取って薬飲んだところだよ」
「私、カラルリさんのところに行きます!」
「アンタは、とっとと寝てろ!」
落ち武者さんはナミネを布団に入れた。
「じゃあ、僕は行くね」
「僕はカナエさん呼びに行きます」
ラルクたちは客間を出て、私はナミネと2人きりになった。
ナミネはすっかり眠ってしまっている。
私は勉強をしはじめた。
この停電が続くなら少しの生徒は留年してしまうかもしれない。特に高校3年生になったカラルリさんやセナ王女、セリルさんとか、大事な時期なのに大丈夫だろうか。というか、大学生で就活している人とか就職先なんてあるとは思えない。
私たちの未来はどうなっていくのだろう。
なんだか眠たくなってきた。

夢の中だろうか。
結婚したばかりの私とナミネはカラクリ家にいた。そして何故かナミネは冥婚をしていたのである。
ナミネは毎日毎日、死者を成仏させるために死者の花嫁を務めていた。死者が成仏する時に、ナミネの精気も吸い取られる。
『ナミネ、冥婚やめられないの?』
私は危ない仕事をナミネにしてほしくなかった。
『今は戦時中です。私が冥婚をしないと食べていけません』
戦時中なのか?いったいいつの時代だろう。けれど、ナミネには働かずにゆっくり暮らしてほしい。
『私が戦争に行く!だからナミネは冥婚やめて!』
私は役所に手続きをし、軍人になった。
戦地での暮らしは厳しいなんてもんじゃない。常に『死』と隣り合わせだ。けれど、私は必ず生きてナミネの元に帰る。
そんな時、特別攻撃隊が新たに出来た。みんなに三択用紙が配られた。
熱望、志望、不可。
私は死ぬわけにはいかない。不可に丸を付け、提出した。
しかし、上官に呼び出され、殴られた。私は必死に耐えた。
『この戦争は何世紀にも渡り続いている。お前の嫁は3回も特攻志願し、名誉の死を遂げたと言うのに。お前は使えないな』
ナミネが特攻を志願したのか?そんな話は聞いたことがない。
『あの、本当に嫁が特攻を志願したのでしょうか?』
『ああ、元々陸軍少将だったが、上官が空軍に呼び寄せた。講習員としてだったが、部下だけに死なせるわけにはいかないと志願したんだ。陸軍として決死隊で戦っていたお前の嫁はパイロットには疎く、直掩機には乗らなかった。空で死に、海でも死んだ』
ナミネが私より死を選ぶだなんて……いったいどうして……。分からない。けれど、少なくとも私は死なない。
『そうですか。嫁がそのような選択をしていただなんて知りませんでした。けれど、私は必ず嫁の元に帰ります!』
『そうか。せいぜい頑張れ』
私の不可の意思は認めてもらえた。
けれど、物ごとというのは上手くいかないものだ。決死隊で多くの死者が出て、基地にいる皆が特攻に行かなくてはいけなくなってしまったのである。私は早急にナミネに隠語で文を書いた。
不運にも私は明日飛び立つ。せめて最期にナミネを抱き締めたい。
翌朝、私が妖精華に乗ろうとした時、ナミネが来た。
『どうして勝手に軍人になったんですか!』
『ナミネ……会えてよかった』
私は泣きながらナミネを抱き締めた。
『ヨルクさんが飛ぶなら私も飛びます!』
『ナミネは生きて!』
『いやです!ヨルクさんがいない人生などいりません!死ぬ時は一緒です!』
ナミネは真っ直ぐに私を見た。
そろそろ時間だ。ナミネはちゃっかり妖精華に乗っている。私も後ろに乗った。
必死隊が最期に見る山を超え私とナミネは飛び立った。
『私は裕福な暮らしがしたいのではなく、ヨルクさんと生活がしたいんです!このような真似、二度としないでください!』
私と生活がしたい。だから、ずっと冥婚をしていたのか。
『ナミネ、ごめんね』
ナミネは、敵空母を発見すると電文を打ち、体当たりした。
『ヨルクさん……愛してる』

「ナミネ!」
夢だったか。
「アンタ、何寝てんのさ」
あれ、落ち武者さんとラルク、ナルホさんがいる。
「ヨルク、人魚の絵はカナエがキクリ家で供養してくれたよ。セルファが映像撮ってるからあとで見るといいよ」
「ありがとう。あ、カラルリさんの容態は?」
「ロォハさんの処置で命に別状はないらしく、2日もすれば目が覚めるだろうってハル院長は言ってる。でも、カラルリさんが眠っている訳は目覚めたくないからだとも言っていたよ」
転生ローンのこと、よほどトラウマだったのだろう。誰にも気付いてもらえないまま、首を吊るだなんて。やっぱり人の助けはスルーしてはいけないと少しは考えさせられる。
「そっか。転生ローンのこと、よほど深刻に悩んでたんだね」
「まあ、カラルリさんは変に真面目だからね。じゃあ、僕はお武家連盟会議に戻るよ。行こうか、ラルク」
え、お武家連盟会議って何のことだろう。エミリさんの件は終わったはずでは。
「会議してるの?」
「セナ王女がカラルリさんを追い詰めたとカナコさんが開いたよ」
いわゆる、会議で2人を別れさせるつもりってとこだろうか。
「そうだったんだ」
返す言葉が見当たらない。けれど、何となく別れさせることは出来ない気がする。
ナルホさんが客間を出たあと、私は落ち武者さんが撮影したカナエさんの供養の映像を再生した。

映像はカナエさんが巫女の姿で舞うところからはじまっている。
キクリ家は、元々刺客の家系だが、昔は巫女もしていたらしく、カナエさんは今でも巫女の仕事もしているらしい。
舞は隣の小さな神社で行われている。昔はキクリ神社とも呼ばれていたって。
巫女の舞だろうか。いや、舞のコラボだ。
遠い昔のカナエさんは舞も、今の私並みだったそうだが、時が流れ今ではすっかり家業をこなしている。
『この世にとどまれし者。
我が道を行くがいい。
されど、人の未来を変えてはならぬ。
右も左も分からぬなら、この鳥居をくぐれ。
何億年もの歴史を持つ人魚よ。
今こそ呪いを解き放て!』
舞の途中で絵から光が出てきた。そして、微かに見える人魚の霊は絵から消えていった。
そして、カナエさんは、また舞う。
美しい舞。
この舞にアルフォンス王子も惹かれたのだろう。
『ナミネ、ヨルク。見ていますか?供養は完了しました。今から、この絵を人魚の湖に戻します』
カナエさんは紙に人魚の絵を入れ、文を書き、紙飛行機にして飛ばした。
映像は、そこで途切れていた。

これで供養は終わった。
私とナミネの未来は変わらなくて済む。引き離されなくて済む。本当によかった。
一安心したところでナミネの夕ご飯を作ろうとしたら、ナミネがいなくなっている。落ち武者さんもいない。
私は慌てて客間を出た。
ナミネは熱が出ていて、まだ寝ていなくちゃいけないのに、どこへ行ったのだろう。早く探し出して寝かせなくては。
廊下を歩いていると客間からナミネの話し声が聞こえる。
私は咄嗟に扉を開けた。
すると、ナミネとハル院長、落ち武者さん、カラルリさんがいた。
「ナミネ、寝てなくちゃダメだよ」
ハル院長も来てるから、ここにいるのだろうか。
「カラルリさんが心配なんです!」
そういえばセナ王女はいない。まだ、会議だろうか。
「セナ王女はどうしたの?」
「今、会議だ。正直もうセナさんのこと恋人としては無理だ」
そうだろうな。私だって、転生ローンなんか組まされたら、溜まったもんじゃない。
「カラルリさんが決めたことは反対しませんが、セナ王女は反省しています。カラルリさんが首を吊って、いっぱいいっぱい泣いていました」
そうは言えども、言い換えれば自殺するほど追い詰まっていたということではないか。死を考えるほどの女子(おなご)など、とっとと別れたほうが私はいいと思うが。
「ナミネはまだ子供なんだよ。成長すればセナさんみたいに高いのねだるようになる。ヨルクは何でも許すからな。されど、私は泣かれたからって、セナさんのこと、もう守りきれないし大切にできない」
ナミネは子供だけど、ちゃんとナミネなりに考えている。それに別に私は何でも許すというわけではないし。
「もう薔薇の花束で心満たされるセナ王女ではなくなったのですね。遠い昔、セナ王女はカラルリさんの告白の時に渡された薔薇の花束がなくなった時、必死に探していました。時は人を変えてしまうものなのですね」
他者はどうか分からない。けれど、少なくとも私は、この先もずっとナミネのこと想い続けてる。
現代は昔とは違って、色んな誘惑物がある。ナミネは、それをきらっている。セナ王女とてそうだっただろうに。みんなでペアリング見に行く時、セナ王女のネジは外れてしまったようだった。カラルリさんだって、フェアリーチューバーに夢中になるようになり、セナ王女のことはそっちのけだった。
昔は何もなく、それが返って互いのみしか見えなかったのかもしれない。
「ああ、もう昔のセナさんではない」
いや、普通にカラルリさんも変わっただろうに。ていうか、珍しく落ち武者さんが黙り込んでいる。何かあったのだろうか。
「あの、カラルリさん。転生ローンのことですが、このバイトをみんなでしてみませんか?」
ナミネは、カラルリさんにバイトのチラシを渡した。
横目で見てみると、フェアリールナとフェアリーフォンの原石を採取する仕事内容だ。それも、氷河期町で吹雪の吹く中、高い崖を登らなくてはならない。原石は1つ700万円以上らしいが、極めて危ない仕事だ。いくら、みんなですれば転生ローンを返しきれても、私はナミネに命懸けの仕事などしてほしくない。
「ナミネ、このバイトは危ないからやめようか」
私は、ただナミネのことが心配だった。
「ナミネ、頼む!このバイト手伝ってくれ!どうにか転生ローンを返したい!」
ナミネが答える前にカラルリさんがナミネにすがりついた。
その時、カナエさんが入ってきた。
「お兄様、お茶をどうぞ」
「ああ、ありがとう」
もう会議は終わったのだろうか。
「カナエさん、供養ありがとうございます。カナエさんは、ずっと巫女のお仕事続けているんですね。あ、会議ってもう終わったんですか?」
カナエさんは巫女姿が似合うな。小柄なのに胸も大きいし、童顔なのに美人だ。ナミネの前では言えないが。
「結局、セナさんを説得しきれず、カナコお姉様が会議を終わらせましたが、納得いかない人たちが、まだ話し合っています」
他人ごと。されど、自殺未遂があったとなれば、そうはいかない。カラルリさんの身体は、カラルリさんだけの身体ではないのだ。身内なら、口を挟むのも当然だろう。
「そうですか。恋愛と命は難しいですね」
私はナミネにねだられても転生ローンなど組まないが、カラルリさんは押しに弱い。
「ナミネ、俺はチラシのバイトは反対だからね。あまりに危険すぎる。転生ローンは苦しいかもしれないけど、こんなバイトしたらミイラ取りがミイラになってしまうよ。絶対にしないで」
ハル院長の言うことなら聞くだろうか。ナミネだけには、こんなバイトしてほしくない。こんなの、遠い昔で言うところの酷い差別を受けていた者ではないか。武士の仕事ではない。
「カナエがやります!カナエが、お兄様の転生ローンをゼロにします!」
今度はカナエさんが食い付いた。いくら大好きな兄のためとはいえ、このバイトでカナエさんが命を落としたら、それこそ王室が大問題だ。
「じゃ、僕もやる。けど、このバイトのサイト見とけ!」
そっか、携帯繋がるんだっけ。私は即サイトにアクセスをした。えっと、フェアリールナとフェアリーフォンの原石採取バイトっと。
検索をかけると、すぐに口コミがいっぱい出てきた。私は、1つ目を読むなり胸がドクンとした。他の記事も読んでみた。
このバイトで一発逆転を望んだチャレンジャーの99%が命を落としている。崖は紀元前村の果樹園の何倍も高く、前は吹雪で見えず、高すぎるゆえ、命綱も付けられず、年中真冬で気温もマイナス50度を超えていて、転落して亡くなる者、寒さに耐え切れず亡くなる者などがいる。
また、あまりに吹雪が酷いためヘリコプターなどは使えなく、人が登るしかないらしい。
こんなの自殺と同じじゃないか。サラハさんレベルじゃないと無理な仕事だ。
「カナエ、このバイトはナミネに手伝ってもらうから、カナエはしなくていいよ」
なんだ、そのローカルルールは。万が一、ナミネに何かあれば私は生きていけない。
「誰もしなくていい!私一人でやる!」
突然入ってきたセナ王女はチラシを手に取り、ポロポロ大粒の涙を零した。
「僕は仕事は出来ないけど、氷河期町を見てみたいな」
ラハルさんまで興味を持ちはじめている。
「ラハルが行くなら私も行くに決まってるじゃない!」
いくら最推しのラハルさんが興味を持ったとて、リリカお姉様でも務まる仕事か分からない。落ち武者さんも行くと行っているし、このままではナミネも行くだろう。
「ナミネは、どこからこのチラシ持ってきたのかな?」
ナルホさんなら止めてくれるだろうか。
「カラルリ家のポストに入ってました」
何故、他人の家のポストから持ってくる。
「僕は、ナミネにこんな危険なことはしてほしくない。けど、ナミネは何がなんでも行くよね?だったら、僕も手段は選ばない」
止めるんじゃなくて、ナミネを守るために行くというわけか。ナルホさんは、昔からナミネのことを可愛がっていた。たった1人の妹ゆえ、ナミネのことずっと愛してた。
ナミネが命を落とせばナルホさんとて平気ではいられない。
そして、ナミネがチラシを持ってきたばかりに、崖を登れそうな人は行くと言いはじめた。
みんな、そんなにカラルリさんのこと心配してたっけ。だったら、何故あの時、止めなかった。あの時は他人ごと。今は身内のことでは終始がつかない。
「じゃ、必要なもの書き出すから絶対忘れるな!服も指定だ!紀元前村ではカギを使っていたが氷河期町では苦無を使う!崖登る時に持っていいのはポシェットのみだ!下には妖精救命エアクッションを置くが、吹雪で役には立たないだろう!行く者は絶対気を抜くな!」
苦無。キクリ家で代々使われているものだ。しかし、雪に覆われ、どこにつき刺せばいいか分からないもので登れるだろうか。
何故か行くことになってしまったけど私は不安でいっぱいだった。
「ナミネ、本当に行くの?このバイト命懸けだよ」
本当は行ってほしくない。万が一、ナミネが転落してしまえば私は……。
「ナミネ、頼む!見捨てないでくれ!」
何故、カラルリさんはナミネにばかりすがる。
「私はカラルリさんを助けます!みんなでやれば全額返せると思うんです!」
全額って、そんな簡単な問題ではない。けれど、今のナミネには何を言っても無駄だろう。私も行くが崖は登れない。苦無なんて使ったことないし、キクリ家のイメージだ。
「顔だけヨルク、アンタ強気なナミネの心配してるけど、一目惚れカラルリの借金返せないと、また早まったこと起きかねないからね?」
そんなこと言ったってカラルリさんの問題ではないか。何故ナミネを巻き込む必要がある。
「ねえ、万が一のこと考えないの?行く人の誰かの命奪われたらどうするの?」
みんな簡単に捉えすぎだ。私は行かないことに全力で白旗を上げる。
「そんな弱気な気持ちなら、アンタは行くな。やる気あるヤツだけで行く」
何それ。やる気の問題?違うよね。人の命がかかったバイトなんて私は反対だ。もう決まってしまって遅いけど。
「ヨルクさん、登る人は絶対転落しません!私はカラルリさんを助けたいだけです!」
ナミネは事故は起こさないかもしれない。けれど、紀元前村では、アルフォンス王子とカラルリさんが果樹園の崖で転落している。あの崖より遥かに高く吹雪で前見えないのに。また転落者がいたらどうするのだろう。
「そっか……ネットで必要なものの目星付けといて……」
私はナミネを抱き締め気が付いたら涙が零れていた。
「ヨルクさんは泣き虫ですな」
ナミネのこの笑顔が、もし最後になってしまったら……。
私は心穏やかでいられないまま、みんなの会話を聞いていた。

……

あとがき。

カラルリ……どうして……。

もうサバイバルにサバイバル。
ずっとサバイバルですね。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 104話

《ナミネ》

私は、デパートのレストランで突然の落ち武者さんの策略でヨルクさんとの仲を引き裂かれてしまった。
カンザシさん原因で、妖精村時代はずっとヨルクさんへの想いが封じ込められていただけに、やっとまたヨルクさんを愛せると思っていたのに。不本意な形でヨルクさんとの関係を壊された私は心が爆発し、エルナさんを遠い過去に飛ばしてしまった。

レストランは、みんなが出れないようテナロスさんにお願いしていたけれど、みんなはカラクリ家に来た。こんなことが出来るのは神様呼び出しカードを持っているヨルクさんだけだろう。

私は、カラクリ家で落ち武者さんに仕返しをした。それでも私の心は満たされることはなかった。
レストランでヨルクさんを引き止めても振り払われたゆえ、もうヨルクさんは私の元へは戻ってこないと恐怖さえ覚えた。だから、カラクリ家でヨルクさんに『別れるつもりはなかった』と言われても今更と感じ、ヨルクさんとは全く口を聞いていない。

カラクリ家に逃げ込んだ時に、エミリさんに協力するよう言われ、お武家連盟会議はすぐに開かれた。私はエミリさんに言われたように、エミリさんに有利になる発言をし、過半数の同意を得た。
そして、レイカさんとカナコさんが私に同意したのち、エミリさんとカナエさんはセレナールさんに扇子を突き付けたのである。
「会議で攻撃的な真似はやめてくれるかしら?」
レイカさんの指摘にエミリさんとカナエさんは扇子をしまった。
「私も記憶を失ってた!だから、わざと2人を苦しめてない!」
ここでセレナールさんお得意の白々しい嘘が出た。もう誰も信じないだろうに。
「じゃあ、セリルに真実を聞き出してもらいます」
「やめて!遠い昔、カナエにされたことがどうしても忘れられないのよ!挙句に皇太子様をエミリに取られて私は全てを失った!ハメたのはカナエとエミリなのに今になって言い逃れするなんて卑怯よ!」
ここまで来ると、もうどちらが悪い度高いのか分からなくなってくる。確かに、あの時の博物館でセレナールさんはカナエさんの結界に閉じ込められ、見知らぬ男に襲われた。唯一のパートナーにはエミリさんと交際することになったと言われ、セレナールさんは捨てられた。セレナールさんからしてみれば、許せず復讐をしたのだろう。私が、かつてのカンザシさんを許せないように。
お武家連盟会議はまだ終わっていない。私はどちらの味方に付けばいいのだろう。
咄嗟に現世のみを考えエミリさんの味方をしてしまったが、遠い昔も加わると、カナエさんやエミリさんもセレナールさんを傷付けている。
「ねえ、どうする?ラルク」
「エミリさんの味方するんじゃなかったのかよ」
「遠い昔のことまで持ち出されるとは思ってなかったよ」
「いわゆる因縁ってヤツだよ。あと、落ち武者さんは必要な人材だ。これ以上危害加えるのはやめろ!使用人にするのもな!」
ラルクは落ち武者さんの能力をやたら勝っている。そりゃ、落ち武者さんはセリルさんの弟だし、頭がよくって当たり前だろうけど。
「分かったよ、ラルク。ムカつくけど落ち武者さんのことは許すよ」
「アンタ、ラルクのことなら何でも聞くんだな。僕は使用人でいい」
落ち武者さんて、こう見えて頑固だ。
「いや、だから、使用人はしなくていいと言っているでしょう!これ以上、私をイラつかせないでください!やってることカンザシさんと同じです!セリルさんに似ず、その浴衣全然似合ってませんね!」
「アンタ、一言多いな。とにかく姉さんに服着せろ」
何なの。いつも上から目線の命令してばかり。とてもじゃないけどセリルさんの弟とは思えない。
私はテナロスさんに依頼し、無言でセレナールさんが服を着ることを許可してもらった。少しすると使用人が浴衣を持ってきた。
「ナミネ、とりあえず当時のことを語れ!」
「分かったよ、ラルク」
皇太子様が映像を見るところから話せばいいだろうか。
「では、確認します。
遠い昔、セレナールさんはカラクリ家にて仲睦まじかった皇太子様が、ある映像を見ているのを発見し、口論になりましたね。そのことをカラルリさんに相談しているうちに、カラルリさんに気持ちが向いていった。皇太子様との話し合いが上手くいかないうちに、どんどんカラルリさんのことを好きになりました。同時に皇太子様との関係は崩れていった。
皇太子様は、寂しさのあまりセレナールさんの同意で、エミリさんとの関係を持ちましたね?当時のセレナールさんにとって親友のエミリさんは、それだけ大きな存在だったとお見受けします。
けれど、カラルリさんを好きになるほどにセナ王女とは犬猿の仲になりましたよね?
更には皇太子様とは拗れたまま、あの時の博物館にてカナエさんに岩の結界をかけられ、トイレの外に出れなくなり武官であろう見知らぬ男に襲われ、皇太子様からはエミリさんと正式交際すると言われ捨てられた。
その時のトラウマが今になって耐えきれないものとなり、時を超えて仕返しをした。
セレナールさん視点では、だいたいこんな感じでいいですか?」
もう、昔のことなんて私が聞きたいくらい。そりゃ、私も何度もヨルクさんの映像壊したけどさ。セレナールさんには誰かを従わせる度胸なんてないのだろうし。過去だって変えられない。
遠い昔のことなんて、どうすればよかったレベルの問題ではないと思う。
「え、ええ。だいたいそんな感じよ。カナエには結界かけられ男に襲われ、信頼していたエミリには婚約者を取られた。こんなのあんまりだわ!」
セレナールさんは泣きはじめた。
もう、どっちが被害者でどっちが加害者か分からなくなってくる。結局、その時はいい気でいても、あとから復讐されることもあるんだ。今のエミリさんとカナエさんのように。
けれど、いくら復讐してもセレナールさんの気は晴れず。
「カナエは、わざと結界をかけたわけではありません!セレナールのことを救おうとしていました!」
もうこれでは水掛け論だ。会議は終わらなくなる。
その時、雷がなり大雨が降りはじめた。今日は止まないだろう。
「では、カナエさんの過去について確認します。
あの日の博物館のトイレにて、カナエさんは約50人くらいの男に襲われた。咄嗟にカナエさんは結界をかけたものの、そこにセレナールさんも入っていて、解くわけにもいかず、そのままトイレを出ました。そこに悪意はなかったのでしょう。
カラルリさんは、何度もカナエさんを説得し、カナエさんは結界を解いたもののセレナールさんは間に合いませんでした。
そして、その男たちを雇ったのはセレナールさんだった。
それでも、セレナールさんを救おうとしたで間違いないですね?」
私が同じ立場だったら、流石に味方ごとは閉じ込めないだろう。あとで責任取らされるのも面倒だし。
当時のカナエさんの力量は強いと言っても伝説レベルではなかったと解釈するべきだろうか。
「はい、カナエはセレナールのこともちゃんと考えていました。セレナールは、いつも優しくて純粋で皇室に行っても紀元前村でも助け合って来た仲です。
ですが、いつしか、お兄様を心の底から愛するセナさんと仲良くするようになっていたと思います。
セレナールが変わったからではありません。セリルがカナコお姉様と交際したあと、セナさんが現れ、お兄様とスピード交際をし、カナエは2人を応援することが楽しみになっていました」
カナエさんは、カナコさんとセリルさんが交際するまではセレナールさんとかなり仲良くしていた。でも、セナ王女が現れてからは変わったのだろう。
時の流れが人を変えたと言うべきか、それとも他に理由があるのか。
「皇帝陛下からの文が届いたわ!カナエは懲役5年、エミリは懲役3年よ!」
いったい何が起きたのだろう。セレナールさんは紙飛行機を飛ばせないはず。だったら、誰かが代わりに飛ばしたのだろうか。そもそも、どうしてカナエさんとエミリさんのみが罪に問われたのだろう。
この時の私は、ウルクさんの1つ前の番人であるヤマヨリさんがセレナールさんを主君として称えていることなど全く知らなかったのである。
「こんなの不公平だわ!セレナールだけが罪に問われないなんて!寧ろ私のほうが被害者なのに!!」
「カナエも納得いきません!こんな長期間刑務所で過ごしていては留年してしまいます!カナエの将来を奪わないでください!」
とは言っても皇帝陛下の決断は絶対だ。でも、エミリさんとカナエさんの青春が奪われてしまうのも、それはそれで確かに不公平ではある。だったらどうすればいいのだろう。
「結局、理不尽なことして、そのままにしていれば、あとから罰を受けることになるのよ。皇帝陛下の決断が出た以上、お武家連盟会議を終了します。今日はこの雨で帰れないでしょうからカラクリ家に泊まるように」
レイカさんは突然会議を終了した。
けれど、その後も3人は言い争いを続けている。
「私も、こんな馬鹿げた結果、納得いかないわ!一方的ね、セレナール」
レイナさんは、まだ会議を続けるつもりだ。けれど、正直疲れてきた。茶菓子も食べ終わったし、お腹がすいてきた。
その時、ヨルクさんが私にスコーンを渡した。
「い、いりません!」
私はスコーンだけ奪ってヨルクさんを突き飛ばした。
「ナミネ、ごめんね。ナミネが戻って来てくれるまでずっと待ってる」
今更何なの。人を振り回して楽しんでいるの?こういうのめちゃくちゃ腹が立つ。
「ハッキリ言います!あの時、私が引き止めたのを無視された時、どれだけ辛かったか!どれだけ苦しかったか!落ち武者さんが邪魔した程度の関係ならいりません!本当身勝手ですね!私はもう、新しい彼がいますし、これ以上私に付きまとえば、恥をかくことになりますよ!」
私は苛立ちのあまり、ヨルクさんから渡されたスコーンを一気に食べた。
「ナミネ、本当に悪かったと思ってる。あの時、逃げてしまったこと。もうナミネは大丈夫とナミネとちゃんと話し合わなかったこと後悔してる。ナミネが許してくれるまで、ずっと待ってる。何年でも待つ!」
「いい人振らないでください!」
私は扇子を使い、ヨルクさんにセレナールさんを襲わせた。セレナールさんの浴衣は一気にはだけ、セレナールさんが股を開いた瞬間、レイナさんとカナエさん、エミリさんは写真に収めた。すぐに写真が出てくるカメラ、今でも滞ってなかったんだ。
「今すぐ状況を変えないと、この写真、学園中にばら撒くわよ!」
レイナさんって、こんなに怒りっぽかったっけ。この時の私はレイナさんに遠い昔タリスタという恋人がいて、交際2年でセレナールさんに気を持ちはじめたことを全く知らなかったのである。
「こんなことだろうと思ったわ。レイナ、やめなさい!」
レイカさんは、再び会議室に入ってくるなり、レイナさんから写真を全て取り上げた。これではエスカレートする一方だ。
「あの、エミリさんは皇太子様に助けを求め、カナエさんはウルクさんに頼んでみるのはどうでしょうか?」
もう、あとのことは当人らでどうにかしてほしい。
なんだか、具合が悪くなってきた。めまいと胸やけがする。私はエミリさんとカナエさんが紙飛行機を飛ばしている間にトイレに駆け込んだ。

やはり、ここもボットン便所残ってたか。
私は、即嘔吐した。また吐血してる。
落ち武者さんへの苛立ち。私を置いていったヨルクさんへの不安と恐怖。今の私は大きなストレスに苛まれている。
トイレから出ると彼氏役のユラルさんがいた。
「あ、すみません。客室案内しますね」
私はユラルさんを連れ客室に案内しようとした時、吐血して倒れた。
「ナミネ!」
ヨルクさんの声が聞こえる……。

私は夢を見ていた。
『ナミネ、あんたが好きだ』
『お代官様は私のどこが好きなのですか?』
『綺麗だから』
『単純過ぎる理由ですね。でも、今はフリーですし、お代官様と交際します』
そして、私と落ち武者さんは付き合いはじめた。少しすると私は落ち武者さんのマンションに引越し同棲をした。落ち武者さんは在宅ワークをしていて、私は伝説武官をしていた。
私は帰る度に制服をリビングに脱ぎっぱなしにし、ルームウェアに着替えるとお菓子を食べながらテレビを見た。落ち武者さんは在宅ワークの合間に家事をし、毎日私に手料理を振舞った。
休みの日にはデートに行き、落ち武者さんはいつも高級レストランに私を連れて行った。美味しそうにハンバーグを食べる私の口元についたソースをセルファは布で拭き取った。すると私は落ち武者さんの分のハンバーグも食べてしまったのである。
落ち武者さんが襲われている時は、私は落ち武者さんを助け、落ち武者さんが高熱に魘されている時は私は落ち武者さんを背負って病院に連れて行ったのである。また、落ち武者さんが疲れている時は私はアロマで落ち武者さんを癒した。この時の落ち武者さんは身体が弱く私は落ち武者さんを背負い何度も病院に連れて行ったのである。
いつも落ち武者さんはエルナさんに浮気をされ別れた後、絶望的になっていたゆえ、一生懸命落ち武者さんを支える私を落ち武者さんは心から愛おしく感じ、一生私を手放さないと心に誓ったのだ。
『お代官様、私、あるコンサートによく行くんです。お代官様も一緒に行きませんか?』
『分かった。行く』
私と落ち武者さんがカンザシさんのコンサートに行くと、ズームさんもいた。私とズームさんは別れたばかり、いや、カンザシに無理矢理別れさせられたばかりだったのだ。
『ズームさん、元気でしたか?』
『ナミネさん、お久しぶりです。そちらの方は?』
『今お付き合いしている人です。ズームさんのマンションのように広いマンションに住んでいるんです!』
コンサートが終わるとカンザシさんが来た。
『カンザシさん〜!お久しぶりです〜!』
『ナミネさん、来てくれたんですか!』
『はい、今は新しい彼と同棲しています』
カンザシさんは落ち武者さんを見た瞬間、嫉妬を覚えていたことを私は気付けなかった。
その夜、落ち武者さんは私を抱いた。
『あんた何で元カレと別れた』
『別れたのではありません。無理矢理別れさせられたんです』
『どういうことだ!』
『カンザシさんとズームさんの背中には勾玉のアザがあります。カンザシさんに危機が迫るとズームさんもこの世から消えてしまうんです。ズームさんは彼女をカンザシさんに取られたばかりだったのに、いざ私と付き合いはじめたら気に入らないのか、自殺未遂を何度も起こし、ズームさんと話し合った結果私たち別れたんです』
その後も私と落ち武者さんはカンザシさんのコンサートに行った。カンザシさんがコンサートを終えると落ち武者さんはカンザシさんに近づいた。
『あんた、随分卑怯な手使うんだな。僕とナミネのことも別れさせようとしてるだろ?』
『そんなことありません』
『けど、あんたは弱い。ツレの背中見せてもらうんだな』
落ち武者さんと私は何気ない幸せな日常を送っていた。カンザシさんは私と落ち武者さんを別れさせるつもりだったが、ズームさんの背中には勾玉のアザが消えていたのである。落ち武者さんが数式で割り出し、期間限定でアザを消したのだ。これで、カンザシさんはズームさんを巻き込むことが出来なくなってしまった。苛立ったカンザシさんは私に何度も自殺すると言った。
『じゃ、死ねば?』
『お代官様、それは言い過ぎです』
『だって、卑怯なやり方で別れさせられたんだろ?死にたいヤツはとっとと死ね!』
その後、カンザシさんはズームさんに何度も私と落ち武者さんを別れさせるようにお願いをした。ズームさんは断り続け、更にはカンザシさん1人で死ねばいいとも言ったものの、カンザシさんはミネスさんの初を奪うと言い、ズームさんはカンザシさんに従うしかなかったのである。ズームさんは落ち武者さんが私にプロポーズをするたび、時間を巻き戻した。しかし、落ち武者さんは敢えて時間を進ませ、私との結婚式の日になっていた。思い通りにならないカンザシさんは私と落ち武者さんの結婚式の真っ最中にミネスさんを中級武官にイジワルさせた。カンザシさんに裏切られたミネスさんはショックのあまりその日のうちに川に身を投げて死んだ。このことを知った皇帝陛下は私と落ち武者さんの婚姻を認めなかった。それでも私と落ち武者さんは籍を入れないまま一緒に暮らし続けていた。けれど、時は流れズームさんの勾玉が戻るとカンザシさんはまた自殺未遂を起こし、ズームさんは落ち武者さんが私にプロポーズする前に時間を戻し、ミネスさんを救った。落ち武者さんと私はこっそり婚姻届を出し、結婚式は取り止めにした。
『随分としつこいな』
『カンザシさんはどこまでも追ってきます』
そして、その日はやったきた。
落ち武者さんと私VSカンザシさんとズームさん。4人はあらゆる手で対戦をした。私がカンザシさんとズームさんを拘束してカンザシさんに何度も電流を流した。その間に落ち武者さんは数式を書いて私との未来を守ろうとした。
『ナミネ、番人呼び出せ!』
『はい、お代官様!』
私は、その時の番人を呼び出すと落ち武者さんと別れないようにお願いをした。
『残念ですが、ズームさんの予想未来により、セルファさんのみ古代に戻ってもらいます』
そして、落ち武者さんは古代に飛ばされ、私と永遠に引き離されてしまったのである。
『ナミネ……ナミネ!!!』
私は咄嗟に番人にセルファのところへ飛ばすように言った。私は落ち武者さんの元へ飛んで行った。
『そんな……ナミネさん……!ズーム、何とかしろ!』
『カンザシ、手遅れだ!』
私は倒れている落ち武者さんを見つけた。
『お代官様』
『ナミネ……』
私と落ち武者さんが飛ばされた場所は氷河期だった。私は落ち武者さんを抱き締めた。
『お代官様、いつか、いつか、また出逢いましょう』
『ナミネ、愛してる』
そして、2人は眠りにつきそのまま息を引き取った。2人が交際してから5年後のことだった。
夢はそこで途切れていた。

目を覚ますと私は布団の中にいて周りを見ると誰もいなかった。
あの夢は何だったのだろう。私は落ち武者さんとも交際をしていたのだろうか。そんなことどうでもいい。ヨルクさんに会いたい。私は布団から出た。
するとカナエさんが入ってきた。
「ナミネ、お粥置いておきます。主治医によると、軽いストレスだそうです。食後、薬を飲んでください。それと、人魚の湖の市場で絵を買いましたよね?あの絵を買った者が見た人魚の夢は近い未来で現実になるのです。キクリ家で供養しますので明日持ってきてください」
あの絵、気に入っていたけれど、まるで呪いの絵のようだったのか。別のものにすればよかった。
「はい、分かりました」
カナエさんは客間を出た。私は、あの後どうなったか聞きそびれてしまった。私はカナエさんが作ったお粥を食べはじめた。
その時、ヨルクさんが来た。私は泣きながらヨルクさんに抱き着いた。
「ナミネ、大丈夫?」
「はい、カナエさんによると軽いストレスだそうです。それと、人魚の絵、あれを持っている者が見た人魚の夢は近い未来に現実になるそうです。だから、カナエさんに供養してもらいます」
どうして市場に呪いのような絵が売っていたのだろう。
「うん、分かった。明日ナノハナ家に行って取ってくる」
「ヨルクさん、もう私を置いていかないでください」
「ナミネ、ごめん!二度とナミネを不安にさせない!ボディーシートとタライ、夜食のポトフ置いとくね」
ヨルクさんはポトフを机に置いた。
「はい」
私はまたヨルクさんに抱き着いた。
「ナミネ、ずっと傍にいるよ。今日は薬飲んで安静にしてようね」
「ヨルクさん、好き」
私はヨルクさんに抱き締められ緊張が解かれ安心に変わっていた。一応、落ち武者さんとも仲直りしたし、カナエさんもここにいるということはウルクさんがどうにかしてくれたのだろう。
私は薬を飲むとヨルクさんと同じ布団に入った。
けれど私は、あのデパートの時からカラルリさんが転生ローンを組んで1人悩んでいることを全く知らなかったのである。自分のことばかりで、カラルリさんとセナ王女のペアリングのことをすっかり忘れていたのだ。
嬉しそうな投稿をカップル日記に載せるセナ王女とはうらはらに833年ローンを契約したカラルリさんは9回分の来世を奪われたことに対して酷いノイローゼになっていたことを、あとで知ることになる。
もう少し周りをよく見るべきだった。あの時、カラルリさんとセナ王女が戻ってくるまでレストランにいるべきだった。
それでも、私はヨルクさんに捨てられた不安感から何も見えなくなっていた。
そして、誰もカラルリさんの異変に気付くものはいなかったのである。
明け方の4時頃、カラルリさんはカラクリ家の客間で首を吊った。

……

あとがき。

ショップの時にカラルリは、みんなに助けを求めていたのに。
今思うと『本人が決めること』と放置することは、時に残酷な自体を招くんですね。

人は助けてほしいから助けを求めるんです。
けれど、みんながそれを無視したら?

本人の問題だから何もしない。
本当にそれていいのでしょうか?

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 103話

《ヨルク》

ナミネとラルクが遠い昔に深い仲であったことを私は全く知らなかった。落ち武者さんに見せられた映像を見た私は、物凄くショックを受け、この場から去ろうとした。けれど、その私の行為が裏目に出て、エルナはナミネによって、遠い過去に飛ばされてしまった。
私はただ、ナミネと別れるとかではなくて、1人になる時間が欲しかったのだ。でも、もう遅い。ナミネを説得しない限りエルナは戻って来ない。
私が嫌がらせされた側なのに、ショックを受けたらいつもこうなる。

気が付けばセナ王女とカラルリさんが戻っている。というか、料理も注文したみたいだし、まるで、ずっとここにいてたかのような感じだ。
ズームさんは時計を見た。
「2日経ってますね。ナミネさんが時間を動かしたのでしょう」
ただ資格を持っているというだけで、2日も時間を動かせるものなのだろうか。
「顔だけヨルク。エルナを元に戻せ!」
何故、私に言う。元々、落ち武者さんがナミネとの関係にヒビが入るようなことをしなければ、こうはならなかったのに。
「落ち武者さんの責任でしょ?エルナが大切なら私とナミネのことそっとしとくのが普通だよね?」
「アンタ、自分で何言ってんのか分かってんのか?アンタ自ら強気なナミネが浮気しても許すと言って浮気でもないのに強気なナミネ置いて出ていったからこうなったんだろうがよ!セリル呼ぶぞ!」
姉弟揃って何かあれば、セリルセリル。
落ち武者さんから、いやなことしても責められるのは私。いい加減、腹が立ってきた。けれど、まさか私が混乱したからって、エルナが遠い過去に飛ばされるとは思っていなかった。どうすればいいのだろう。
「じゃあ、どうしたらいいわけ?私別にナミネと別れるなんて言ってないよね?ただ、1人になりたいって言っただけなんだけど」
その瞬間、リリカお姉様に引っぱたかれた。
「ヨルク、あなた自分勝手にもほどがあるわ!あなたが浮気許すって言ったんじゃない!それなのに、映像1つで態度変えて!これだと嘘言ったも同然じゃない!エルナのこと、あなたがなんとかしなさいよ!」
結局、何か起きれば悪いのはいつも私だ。
1人になりたい。それさえも、みんなは許してくれないのか。
「顔だけヨルク、強気なナミネからメールが来た」
落ち武者さんは私に携帯画面を見せた。
『私を不幸にした気持ちはいかがですか?
まず、私と話し合わずに逃げて私を捨て辱めたヨルクさんとの縁談は破談にしました。しかしながら、これは落ち武者さんの責任ですので、落ち武者さんのご両親に慰謝料請求をしました。
エルナさんのことは元には戻しません。人に嫌がらせして自分だけ幸せになれると思わないでください!
また、エミリさんの指示でセレナールさんには、それ相応の罰を受けてもらいます。
落ち武者さんの侮辱により、皆さんはそこからは出れません。
最後に、私は新しい彼が出来たのでヨルクさんとの復縁はありません。
皆さんも、お幸せに』
少し1人になりたい。
その思いが行動が、自分で自分の首を絞める結果になったというわけか。無理にでも、あの時あの場にいれば、このような悲劇は起きていなかった。
私は、たった1人になりたい思いで、それだけでナミネに破談にされた。もう心の行き場がない。
やっとの思いでナミネと交際し、両想いになれたのに。こんな形で壊された挙句、全て私の責任にされるなんて。
「顔だけヨルク、アンタだけは許さない!」
そう言うと落ち武者さんは、扇子で私にウエイトレスをセクハラさせた。
「いやー!やめてください!」
ウエイトレスは、大声で叫んだ。けれど、今の落ち武者さんは心の中で激怒している。私はセクハラなんてしたくないのに、落ち武者さんに操られ続けた。
好きでもない女子(おなご)を触るのは気持ち悪い。
「落ち武者さん、やめて!私が悪かったし私がダンゴロさんに頼んで状況変えるから!」
ウエイトレスから引っぱたかれると同時に、落ち武者さんの行動は止まった。私は早急にダンゴロさんに助けを求めた。
けれど、今度はセレナールさんの服が透けはじめた。うっ、気持ち悪い。
「ヨルク!いい加減にしなさいよ!」
私はセレナールさんから水をかけられた。それでも私はダンゴロさんにメールを打ち続けた。
送信してから案外すぐに返信はきた。
「落ち武者さん、返信来たよ」
私は落ち武者さんに携帯画面を見せた。
『まあ、ヨルクの力量だからね。
セレナールは下着だけ付けていいとして、エルナを元に戻すことは出来ない。とりあえず、店から出れるようにはするから、あとはカラクリ家でナミネ説得したら?』
もうこうなったらカラクリ家に行くしかないと思う。ナミネには破談にされ、エルナは戻せず。私の心は壊れそうになっていた。こんなことになるなら、あの時、私を引き止めたナミネを振り払うんじゃなかった。
けれど、あの時は1人で考える時間を求めることがナミネに破談を切り出されるとは思っていなかったのだ。
結局、エルナが過去に飛ばされたのも、ナミネがエミリさんに協力してセレナールさんを罰するのも結果論としては私のせいだ。何もかも私のせいなのである。
それでも、最終的には浮気を許すが、映像を見て動揺しないに勝手に書き換えられてしまうとも思っていなかった。あの映像を見て平然を装っているしかなかったのだろう。
私には喜怒哀楽さえも許されない。
「じゃ、カラクリ家行く。顔だけヨルクはエルナのことも姉さんのこともどうにかしろ!出来なければ僕がアンタを過去に吹き飛ばす」
落ち武者さんは、いつも自分のしたことは棚に上げる。
「あの、ここでヨルクさんだけ責めても解決しないと僕は思うんです。喧嘩は1人では起きませんし。みんなでナミネさんを説得するべきではないでしょうか」
「僕も、ナミネにも問題あると思うんだよね。カラクリ家に行ったら会議になるだろうから、そこで食い止めたらいいと思う」
ズームさんもナルホさんもナミネをどうこうしようとしているが、私はナミネにフラれたショックで頭がいっぱいだった。
カラクリ家まではセナ王女が王室の馬を用意してくれることになった。アルフォンス王子が会計を済ませると、私たちは馬に乗ってカラクリ家に向かった。

カラクリ家に行くと会議室に茶菓子が運ばれている途中だった。やはり、お武家連盟会議になるのか。
ナミネはエミリさんといる。私はナミネに駆け寄ろうとした。けれど、それより先に落ち武者さんが駆け寄った。
「強気なナミネ、僕が悪かった。だから、エルナを元に戻してほしい!」
「これはこれは、レストランから出られたようですね。
では、ここで衣類を全て脱いで裸踊りをしてください。そうすれば、エルナさんは元に戻します。
ただ、人を貶めた以上、今後、落ち武者さんにはナノハナ家の使用人となってもらいます。逆らえばカナコさんの未来はありません」
またナミネの目の色が紫色になっている。
ずっとナミネと上手くいってたから、ナミネの激怒を忘れていた。エルナを過去に飛ばした時点でナミネの心は破壊されていたんだ。今となっては後悔しかない。ナミネと交際した時点でナミネを優先すると誓ったのに。あの時は、自分のことしか考えられなかった。
「分かった。アンタの言う通りにする」
落ち武者さんは服を脱ぎ、踊りはじめた。それを見てナミネは動画を撮影し、落ち武者さんを嘲笑った。落ち武者さんが涙を流せばナミネは羽子板で、落ち武者さんの脇腹を叩いた。
15分経ったところでエルナが戻ってきた。使用人は落ち武者さんに浴衣を羽織らせた。
「エルナ!」
落ち武者さんはエルナを抱き締めた。
「セルファ、収穫よ!
セレナールは確かに一瞬はヨルクに揺れた。でも、本当はラルクのこと心から愛していたのよ。けれど、あの時のセレナールは、もう生きているだけで精一杯だったの。時折、博物館のことを思い出しては、死にたいとポツリ呟いていたみたい。それを聞いた何でも屋がセレナールをそそのかし、ラルクを庇うフリして死ぬ自作自演を提案し、セレナールは契約をした。でも、取り消そうと思った時にはもう遅かった。セレナールはラルクと最後のデートの前に手紙を残していたわ。それがこれよ」
エルナは落ち武者さんに手紙を渡したが、落ち武者さんは、これから受ける辱めに耐えなければならない苦痛からか手紙を落とした。私は落ち武者さんが落とした手紙を拾った。
確かにセレナールさんの筆跡だ。

『ラルクへ

私はラルクを愛してる。
でも、あの日の博物館で受けた屈辱を今でも忘れられなくて、何をしていても生きている心地がしないの。それでも、せっかくラルクとこうやって知り合えたんだし、もう少し頑張ってみようと思った。

ダメだった。
どうしても博物館でのことが常に私を苦しめる。
愛するラルクがいるのに、もう生きることが辛くて仕方ない。
本当はラルクと普通の恋人として楽しく過ごしたかった。でも、これだけは忘れないで。私は確かにラルクを愛していたことを。

いつかラルクにまた巡り会える日を待ってる。

綺麗な身体でいたかった』

まるで遺書のようだ。
疑心暗鬼だけれど、これだけ見ると、セレナールさんはラルクを愛していたように感じる。けれど、博物館でのことがネックになって生きることに対して前向きになれなかったのか、ラルクといても常に心穏やかではなかったのだろう。
手紙はセレナールさんに取り上げられてしまった。
セレナールさんは、カナエさんを殴り付けた。
「カナエ!あなたのせいよ!ラルクとの青春奪って……あなたも同じ目に合わせてやる!」
「カナエは結界を解いてセレナールを救おうとしました!もう昔のことは掘り返さないでください!」
カナエさんはセレナールさんの攻撃を受けないため自分に結界をかけた。すると落ち武者さんが結界を解いて羽子板をカナエさんに突き付けた。
「姉さんに謝れ!でないと、アンタの着てるの全部脱がして拘束した写真、アンタのクラスにバラまく!」
「姉弟揃って卑怯ですね」
「早く謝れ!」
「カナエは悪くありません!」
このやり取りを聞いていたらキリがない。私はナミネに駆け寄った。
「ナミネ、私があの時、1人になりたいって言ったのは、ナミネと別れるとかじゃなくて、ただ1人で考える時間がほしかったんだ!どうか、許してほしい!破談にはしないでほしい!引き止めるナミネを無視してごめん!」
ナミネは何も答えなかった。そして、新しい彼だろう男と仲睦まじくしている。
もう返事さえしてもらえないのか。
その瞬間、ナミネは私が最初に渡したネックレスとペアリングを放り投げた。私は泣きながらネックレスとペアリングを拾った。
「ナミネ、本当にごめんね。ナミネのことずっと待ってる」
ナミネは着ぐるみ剥がされたカナエさんを侮辱するセレナールさんの脇腹を3回羽子板で叩いた。
セレナールさんは電流に耐えきれないのか、物凄い叫び声をあげた。
「うるさいです!」
ナミネは何度もセレナールさんを羽子板で叩いた。
「ナミネ、やめようか。こんなことしても何にもならないし、ヨルクはナミネと別れようとしてたわけじゃないってハッキリ言ったよね。それでも気に入らないのかな?」
ナミネはナルホさんを扇子で吹き飛ばした。
「強気なナミネ!僕が悪かった!どうか、エルナと姉さんに危害は加えないでほしい!」
その瞬間、ナミネは落ち武者さんを羽子板で叩き続けた。
ナミネが壊れてしまった。私の些細な行動のせいで。もうどうしたらいいのか分からない。
その時、ナノハさんがナミネから羽子板を取り上げた。
「ナミネはどうしてそんなに怒っているのかな?」
「怒ってません!ただ、落ち武者さんに侮辱されました!」
レイカさんが前に立った。
「これより、お武家連盟会議を行います。テーマは『エミリの受けた屈辱』についてです。意見のある者は手を上げてください」
早速ナミネが手を上げた。
「ナミネ、意見をどうぞ」
ナミネは立ち上がった。
「前回の会議ではレイカさんとカナコさんは、セレナールさんが受けた被害のみに軸を置き、主張していましたよね。
しかしながら、セレナールさんは歴史が変わり、みんなの記憶が失われたのをいいことに、エミリさんの彼氏である皇太子様を奪いました。更には、記憶を失ったエミリさんがアランさんと交際していることを嘲笑ってました。
もし、皆さんが記憶を失いパートナーを故意に取られ、好きでもない人と関係を持ち、記憶が戻った時には好きでもない人の子供がお腹の中にいたらどうですか?
レイカさんとカナコさんも大切な彼氏をセレナールさんに奪われ関係持たれ、自分は全く好きでもない人と故意に寝させられていてもセレナールさんを許せますか?
無論、前回の会議のテーマはセレナールさんがカンザシさんとマモルさんに受けたことでしたが、人は一面のみで生きているわけではありませんよね?
前回被害者として扱われたセレナールさんは、カンザシさんから被害を受ける前にエミリさんをアランさんに襲わせました。何度も何度も。皇太子様と復縁したからと言って、エミリさんの心の傷は残り続けています!セレナールさんは、エミリさんにそれだけのことをしたのです!残酷すぎるやり方。エミリさんはずっと守り抜いてきたものをセレナールさんによって取り上げられました!もうこれは一方的にセレナールさんが、エミリさんを陥れ侮辱しイジメたとしか言いようがありません。
反論意見は、自身がエミリさんと同じ立場になってもいい人のみ言ってください!それ以外は自由にどうぞ」
ナミネの発言で、カナコさんとレイカさんは考え込んだ。少しでもナミネの意見に思うものがあったのだろう。
エミリさんは立ち上がった。
「私が言いたかったことは、今まさにナミネが発言したことです。私は何もかも青春そのものをセレナールに奪われた被害者です!」
前回被害者だったセレナールさんが今回は加害者として扱われている。セレナールさんが手を上げる前にエミルさんも立ち上がった。
「私もナミネに同意です。妹を辱められて、このままセレナールを野放しには出来ません」
「私もナミネに同意します。物事には限度があります。セレナールも記憶を失っていたのならともかく、記憶を覚えていたなら完全な辱めにしかすぎません」
レイナさんまでナミネに同意した。
「カナエも記憶を失った時、セイから辱めを受けました。よって、ナミネに同意します」
確かにカナエさんも記憶を失った時はセイさんと交際をしていた。これもカナエさんとっては屈辱だったのだろう。
「私もナミネに同意です。こんなの無理矢理なイジワルじゃないですか」
リリカお姉様までナミネの発言に同意した。
ナルホさんは手を上げた。
「ナルホ、意見をどうぞ」
「ナミネは裁判官でもなければ裁判員でもないよね?起きたことは元には戻せない。ここでセレナールを責めてどうにかなるのかな?エミリの青春は戻ってくるのかな?」
ナルホさんは、やはりナミネには同意しない。
「私もナルホに同意。今頃責めても、あとの祭り。もし、エミリを救いたかったなら、どうして記憶が失われていると分かった時にエミリに言わなかったのかな?」
ナノハさんもナミネには同意しない。
「もう遅かったのです。エミリさんはアランさんと交際直後、アランさんとタルリヤさんの子供を妊娠していました。番人のキクスケさんは、ヨルクさんに『エミリさんは妊娠に気付いた時点で、失った記憶を全て思い出します』と教えています。そのような状況で教えろと言うならナノハお姉様が教えるべきでしょう!責任転嫁はやめてください!それに私は反対意見はエミリさんと同じ状況でもいい者のみと言いました!」
怒ったナミネは、皇室に紙飛行機を飛ばした。ナノハさんは今のナミネには何も出来ないだろうと思っているのか平然としている。数分後、皇室から返事が来た。ナミネはナノハさんに文を見せた。
『ズルエヌと皇女の婚姻を認める』
どうして、このような返事が帰ってくるのだろう。セナ王女の時にしても、何か引っかかるものがある。本当にナミネの文だったのだろうか。
ナミネは再び立ち上がった。
「分かりましたか?今ズルエヌさんは記憶を失って皇女様と交際しています。私に意見したということは、これを受け止めたと見なします!どうぞ、今という青春をお楽しみください」
「ナミネ、私はずっとナミネを心配してきたし、ナミネの幸せを思ってきた。だから、ヨルクにナミネとの縁談を推薦した。ナミネに不幸になってほしくないからよ!あの時みたいに!」
あの時ってなんだろう。ナノハさんは、ただただ涙を流した。私は咄嗟にナノハさんに駆け寄った。ナノハさんは、ただ無言で泣きながら私を抱き締めた。
ナノハさんはいつも暖かい。小さい頃からずっと変わらない。そんなナノハさんが私は大好きだった。
「すみません……やりすぎました。取り消します。ナノハお姉様が私の知らないことで私が生まれた時から私のことを大切に思ってくれていたことを。ナノハお姉様、お許しください」
ナミネは再び皇室に紙飛行機を飛ばし、最初に飛ばした文の解除を行った。この時点で私は何も知らなかった。ナミネの背後にはミドリさんと妖精村3番目の番人であるテナロスさんがいて、ミドリさんが皇帝陛下と皇后陛下の実の娘で本当の皇女はミドリさんであるということを。
「ナミネ、生きていたら色んなこともあるわ。理不尽なことも屈辱的なことも、どうにもならないことで、この世は溢れかえっている。エミリの件もそうだけど、仲間を救いたい気持ちを持つことはいいけれど、ここはナミネだけの場ではないの。ここいる人だけの意見がちゃんとある。受け止めなくても、みんなにはみんなの意見を言う権利があるのよ。ナミネは、ただヨルクと幸せになって」
ナノハさんはナミネを諭すと同時に微笑んだ。
「はい、分かりました。皆さんの意見もちゃんと聞きます」
本当のナミネは素直な子だ。けれど、成長するにつれ、世の中の理不尽さを目の当たりにし、ずっと気を張りつめてきたのだろう。
今度はミドリさんが手を上げた。
「ミドリ、意見をどうぞ」
「ナノハは綺麗事ばかり。
けれど、私は経験者として語ります。私の場合もハメられました。実の妹であるナクリに。あの時は、恐怖に苛まれながら約30分ほど辱められ、挙句に私は死にました。
今回のケースは、2人とも屈辱を受けています。状況は違えど、受けたものは他でもないイジワル。
この場合、誰にも2人の処分はくだせないんじゃないでしょうか。それが出来るのは裁判官と皇帝陛下くらいだと思います。
私は死んだし、どうにも出来なかったけど、2人は生きています。そしてこれからも生きていかなくてはなりません。
だから、ナノハが安易に世の中は理不尽とか屈辱的とか言ってしまうことで余計にエミリを追い詰めてしまうこともあると思います」
ミドリさんの死に様は本当に悲惨なものだった。もし、ミドリさんが生きていたなら自ら命を絶っていたかもしれないというくらいに。
「ミドリ、本当に悪かったと思ってる!許してとは言わない!償うから、だから解放してほしい」
ナクリさんはスウェットのままミドリさんにすがりついた。
「許さないよ、ナクリ」
ナミネは何かを前に持って行き、レイカさんに渡した。
「これが私が月城総合病院で見た最後のミドリお姉様の姿です」
「そう」
レイカさんはそれ以上は言わなかった。言えなかったのだろう。ラァナさんのこともあるし、出来れば見たくなかったのかもしれない。
「では、私の意見を言います。さっきミドリの意見を聞いて、経験者にしか分からないことは確かにあると痛感させられました。大切な人に寄り添っていても、その人がずっと辛い思いをしていたら私も辛いです。
確かに私は前回セレナールを擁護しました。私自身、そのテーマに沿っていたつもりでもあり、向き合っているつもりでした。
けれど、今回は最初のナミネの意見もあり、もし自分が記憶を失っている間に愛する人を取られ、好きでもない人と無理矢理に合意となっていたら恨んでも恨みきれないし、その青春はもう戻っては来ません。
私は前回セレナールを擁護したことを取り消します。
私もナミネに同意です」
いくら愛する人が傷付いた人に寄り添っていても、本人にしか分からない傷がある。まるでユメさんとクラフのようだ。
「私もレイカに同意します」
カナコさんもナミネの言い分に賛同した。これで過半数がナミネの意見に同意したことになる。
このことによってセレナールさんは孤立無援となるのだろうか。
「私はセレナールを何がなんでも許さない!」
「カナエも許しません!」
エミリさんとカナエさんはセレナールさんに扇子を突き付けた。

……

あとがき。

セレナールは、いつも詰めが甘いですね。
レナードと交際しても記憶が戻ればフラれてしまうのに。

今はラルクを好きだと気付いてもエミリが受けた屈辱は消えません。

古代編の延長線なのでしょうか。
悲しいです。

……

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
Copyright (C) 2009 雨の音を聴きながら, All right Resieved.
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