日常のこととかオリジナル小説のこととか。
カレンダー
プロフィール
HN:
ashita
Webサイト:
性別:
女性
職業:
地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
X @kigenzen1874
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
X @kigenzen1874
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カテゴリー
アーカイブ
最新記事
ブログ内検索
フリーエリア
〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
〈資格証明バナー〉

純愛偏差値 未来編 一人称版 89話
《ヨルク》
妖精村に戻ってきたナミネは、紀元前村にいた時とは別人になったかのようにナノハナ家では何もせずゴロゴロしている。それだけ、紀元前村では張り切っていたのだろうか。けれど、また私がナミネのお世話をする役目が出来て、とても嬉しい。
紀元前村でもナミネとは一緒の寝袋で寝ていたけれど、こっちに戻ってきてからも一緒にお風呂に入っているし一緒に寝ている。
でも、突然知ってしまったレタフルという人魚の存在。私は、そのような人魚に会ったことさえない。けれど、ナミネはレタフルという人魚の存在を気にして落ち込んでいる。どうにか励ましたくて可愛い下着ショップに誘ってみたものの……。
「ヨルクさん、セクハラです!」
ナミネは泣きながら第4居間を出て行ってしまった。
「あんたも不器用だな。強気なナミネはサイズが大きくなったんだよ」
「えっ、そうだったの!?」
いつもナミネの洗濯をしているのに全く気づかなかった。私はナミネを励まそうとして逆にナミネの乙女心を傷付けてしまったのか。このままではナミネに嫌われてしまう。
私はキッキンで、紀元前村で作っていた材料でスコーンを作った。
「ナミネ、入るよ」
私はスコーンを持ってナミネの部屋に入った。扉を閉めると私は机にスコーンの入ったお皿を置いた。洗濯物を見ると確かにAカップからBカップになっている。
毎日一緒にお風呂に入っているのに全く気づかなかったなんて恥ずかしい。ナミネはショックだったのか布団に横になっている。
「ナミネ、ごめんね。紀元前村で使っていた材料でスコーン作ったから食べて」
「ヨルクさんは浮気者です!すぐに心変わりします!胸の大きな人がいれば、そっちに乗り換えます!出てってください!」
多分ナミネは泣いている。私はナミネ以外を好きになったことはない。けれど、ラルクの結界でナミネとアルフォンス王子の会話を聞いていたとも言えず、私は慰めの言葉1つ見つけられずにいた。
「このスコーン、なかなかイケるじゃん」
ふと見ると、ナミネのために作ったスコーンを落ち武者さんが食べていた。
「ねえ、どうして落ち武者さんが食べてるの!ナミネのために作ったんだけど」
「これだけあるんだから1つくらいいいだろ」
まあ、1つならいいけれど。出来ればナミネに食べてほしい。
「ヨルクさん、出てってください!」
「ナミネ、何があったの?このままナミネに嫌われたままだといやだからちゃんと話したい」
私はナミネの布団をめくった。すると、ナミネは布団の中でポテトチップスを食べていた。しかも、布団にポロポロこぼれている。
「ナミネ、どうして布団の中で食べるの!布団が汚れてるじゃない!」
ナミネはそそくさに布団から出て、机に置いたスコーンを凄い勢いで食べはじめた。私はナミネが汚した布団を小型の掃除機で綺麗にした。
「浮気者はこうやって女の胃袋つかむんですね」
今度は机が汚れている。
「ナミネ、私は浮気なんてしてない!小さい頃からずっとナミネのこと見てきた。ナミネ、ちゃんと話そ」
「浮気者と話すことなんてありません!」
いくら夢を見たとはいえ、その言い方、癪に障る。
「どうして私が浮気者なの?証拠でもあるの?」
「今はありませんが、近いうちに出てきます!」
「何それ!話し合いもせず、いきなり私を浮気者扱いして気分が悪い!もういい!お風呂入る!」
心が狭いだろうか。レタフルという人魚のことで突然ナミネから無実の罪を着せられ、私も対処のしようがなく、怒ってしまった。
ただでさえ広いお風呂。1人で入ると余計に広く感じる。
少し眠ってしまっただろうか。ふと、横を見るとナミネがいた。
「ナミネ!」
ナミネは無言で私にもたれかかった。紀元前村で公衆浴場に入ったのは1回だけだから、こっちに戻って来てからナミネと2人きりで、お風呂に入るのは新鮮な気持ちだ。いつもは落ち武者さんに邪魔されるから。
「ヨルクさんは、本当に私と結婚するのですか?」
「するよ!ずっとナミネと一緒になりたくて、縁談書持って来てた。返事なくても、それでもナミネと交際したくて諦めなかった。あの日、思い切って告白してよかったと思ってる!」
ナミネは今どんな気持ちだろう。やはり、見知らぬ人魚のことで落ち込んでいるだろうか。それでも、私はこの先、何世紀経とうと、ずっとナミネを好きでいる。ナミネ以外だなんて考えられない。
「ヨルクさん、絶対心変わりしないでください。私を捨てないでください」
ナミネ、いったいどんな夢を見たの。こんなにも落ち込んでいるだなんて可哀想に。
「絶対に心変わりなんかしない!私は何世紀経とうとナミネと、ずっと一緒にいる!」
「ヨルクさん、人魚の湖は、お留守番していてください」
何故そうなる。今は信用してもらえないのだろうか。けれど、そこに行かないわけにはいかない。ちゃんと、ナミネが精神を病んだ原因のレタフルという人魚に会って話を聞かないと。
「ナミネ、私も行くよ」
私はナミネの手を握った。
「あんたら、仲良いな」
「ねえ、落ち武者さん、どうしていつも邪魔するの?せっかくのナミネと2人きりの時間なのに」
「ここ、あんたらだけの風呂じゃないだろ。もうすぐみんな入ってくるし、みんなに出てけって言うのかよ」
もう、そんな時間になっていたのか。ナミネはポテトチップスとスコーンをいっぱい食べたから夜食は、お粥でも作っておこう。
「ナミネ、夜食にお粥作るから、お腹すいたら食べて」
「はい」
私はお風呂から上がりキッチンへ向かった。
ナミネのお粥っと。
私は玄米と白米を混ぜて塩で味付けして上に梅干しを乗っけた。ナミネの部屋に持って行こうとすると、ナミネが濡れた髪のままで後ろにいた。
「ナミネ、髪濡れてる。部屋に行こっか」
「はい」
私はナミネを連れて部屋に行った。
お粥を机に置くと、私はナミネの髪をタオルで拭いて乾かしはじめた。ナミネの髪も定期的に乾かしている。紀元前村では、ナミネはずっとお風呂に入らず髪を後ろで結んだままだったから、こっちに戻ってきてからの暮らしは何気なく新鮮だ。
ナミネ、少し髪が伸びただろうか。また伸ばすのかな。
「ナミネ、お腹すいたら、お粥食べてね」
「はい」
ナミネはテレビを付けて私にくっついた。ナミネ、可愛すぎる。私がナミネを抱き締めた瞬間、落ち武者さんが入って来た。
「ねえ、落ち武者さん、どうして家に帰らないの?」
「みんないるんだからいいだろ」
「でも、ここじゃなくても客間とかあるでしょ」
「僕だけ仲間外れってわけ」
また、この狡い反応。どうして客間に行かず私とナミネとの時間を邪魔するのだろう。
「そうじゃないけど……」
後からエルナも来た。これでは、紀元前村のテントの中の時と変わらない。
「エルナも帰らないの?お家の人とか心配しない?」
「やっぱり紀元前村での名残がなかなか消えないのよ。今は役割なんてないのに、それでも、あの時の時間が忘れられないわ」
みんなそういうものなのか。私はナミネがいるからナノハナ家に留まっているけれど、みんな共に暮らしていた紀元前村でのことが頭から離れないのかな。私もナミネと交際していなくて片想いのままだったら、ナミネに近づくためにここに来ていたかもしれない。
「そういうもんなんだね」
「強気なナミネ、僕、副委員長なんだ」
何故こういう時に関係のない話で自慢する。
「わあ、やっぱり落ち武者さん社交的だから、そういうの似合いますね!こっちはまた委員長は同じです」
そして、何故私以外の人と話す時、ナミネは明るくなるのだろう。
「あんたは副委員長とかしないのかよ?」
「私は作業とかめんどくさいので、そういうのはしてません。副委員長は、おっとりした女の子です。茶道部もラルクが部長をするかで話し合ってます」
何故、3年生の私を差し置いてラルクが部長をするのだ。
「へえ、あんたら、また同じクラスってわけ。僕も茶道部入ろうかな。甘えセナやセリルたちも高校3年生になったし、進路とか忙しそうだから、僕らが遊んでられるのも今のうちだね?」
「ですよねー!けど、ナヤセス殿も進路はもう決まってますし、カラルリさんは家業継ぐでしょうでし、何だかんだで今年もいっぱい遊べるんじゃないんですか?落ち武者さんも是非、茶道部に入部してください。もうミナクさんもナナミお姉様も高等部に行ってしまったから今の茶道部は案外自由なんですよね」
何故、急に明るくなる。さっきまで、めちゃくちゃ落ち込んでいたのに。
「じゃ、僕とエルナ、茶道部入る」
何故、エルナも入ると決めた。私もナミネと楽しく会話したいんだけどな。私が話しかけると、やっぱりナミネは暗い気持ちになるだろうか。
「分かりました。入部手続きしたら、その日から入れますので」
「ナミネ、そろそろ寝ようか」
「今日はエリートを目指す教室があるので起きてます」
今日というより、それ明日だよね。あまり夜更かしすると明日に響くだろうから心配だな。
「ナミネ、それは0時半からだから、録画して今度見よう。明日のお祝い会のほうが重要だし」
どうしてかナミネは膨れてしまった。そして、私の作った夜食のお粥をレンジで温めると食べはじめた。ナミネってどうしてすぐに食べるのだろう。これだと、またナミネがお腹すいた時のために何か作らないと。
「ナミネ、それ夜食に作ったんだよ。お腹すいても我慢してね」
「ヨルクさん、意地悪です!私、晩ご飯も食べてないんです!」
スコーン食べてたから、夕ご飯入らないと思って、あえて夜食作ったのに。けれど、今のナミネは精神的に不安定だから刺激するのもよくない。
「分かった。別の夜食作ってくるから、エリートを目指す教室見たらすぐ寝てよ?ナヤセスさんとロォハさんのお祝い会行けなかったら後悔するのナミネだからね」
「ヨルクさん、いちいちうるさいです!エリートを目指す教室見てもちゃんと起きれます!」
もうっ、どうして、こんなに憎たらしくなっちゃったの。そういえば、ナミネ、生理遅れてる。生理前でイライラしているのだろうか。仕方ない。夜食だけ作り直してこよう。
「ナミネ、夜食だけ作ってくるね」
「はい」
私は部屋を出て夜食を作りに行った。
キッチンに入るなり停電して、炎の舞を十分に使えない私は咄嗟にイチゴとミカンのフルーツサンドと、フルーツスムージーを作った。あまりクリームは使いたくなかったが、停電してしまっては仕方ない。それにしても、どうして突然停電したのだろう。すぐに復旧するだろうか。
私は再び部屋に戻ろうとした。
「ズーム!もう、あのマンションの家賃払いきれない!これまでみたいに払え!」
「カンザシ!僕にはもうその義務はない!自分の力で稼いで払え!」
カンザシさんとズームさんが口論しているが、私はナミネの夜食を持って行こうとした。すると、誰かが私に抱き着いた。
「ナミネ?」
もし、ナミネじゃなかったらどうしよう。変に誤解されるのもいやだし、ナミネかどうか確かめないと。
「ヨルクさん、どこ触ってるんですか!セクハラです!」
ナミネだった。
「うん、ごめん。暗くてよく見えないからナミネじゃないと、またナミネと喧嘩になると思って」
「だからって、どうしてそういうところ触るんですか!」
でも、それしか確かめる方法ないし、とにかくナミネでよかった。
「ヨルクさんて、女なら誰にでも反応するんですね!」
「ナミネ、やめて!私は後々誤解のないようナミネかどうか純粋に確認しただけだから!」
どうしていつも触ってくるの。本当、色んな意味で交際前だと考えられない。ナミネが私に心を許してくれているのは嬉しいけれど、変な罪を着せられるといやな気持ちになる。
「ナミネ、停電して火が使えないからフルーツサンドとスムージー作ったから、お腹すいたら食べて」
「今食べます」
えっ、ナミネいっぱい食べてたじゃない。どうしてこんなに食べるの?
「ナミネ、今日はいっぱい食べたし、これ以上食べるとお腹壊すよ。それに私、太った人無理だから!」
「ヨルクさんて、体型で決めるんですね。じゃあ、私が太れば関係も終わりですね」
「そうじゃなくって……」
私はただ、ナミネに食べすぎてほしくないだけなのに。ナミネの管理は難しい。
「ちょっと、何騒いでるの!」
セナ王女、起きてきたのかな。
「あ、カンザシさんが、金銭面で騒いでいまして」
「マンションとか見栄はらなくてもアパートで十分でしょ。明日のお祝い会、停電していても決行するから!」
停電でも決行?けれど、朝が来て明るくなっても電気もガスも水道も使えない。これではまるで紀元前村の蓮華町だ。
「しかし、電気もガスも水道も使えないんですよ?」
「何言ってるのよ!私たちには紀元前村で過ごした経験があるじゃない!携帯が必要な人はバッテリーでも持ってくることね」
そうか。携帯はバッテリーが持つ限り使えるのか。けれど、携帯のバッテリーなんてサバイバル用でしか買ってないから2つくらいしか持ってない。
「ねえ、ラルク。私ね、携帯のバッテリー20個あるの」
何故そんなに持っている。目が慣れてきた。ラルクだけでなく、メンバーの過半数が来ているのか。
てか、ナミネがさっき私が作ったフルーツサンド食べてる!それにナミネの部屋で携帯のバッテリーなんて見たこともない。まさか、ナミネ、押し入れに色んなもの詰め込んでいるのでは。
「なあ、ズーム……」
「ねえ、ナミネ!それ夜食だって言ったよね?それに、また押し入れグチャグチャになってるの?停電終わったら片付けるから!水は必要だから今からスーパーで箱買いしてくる」
ここは紀元前村の蓮華町と違って、飲み水の川など存在しない。停電が続くのなら色々買い溜めしておかないと。
「水なら庭に井戸があります。使用人が保管しているガスコンロもありますし、蔵には昔使っていたランプもあります」
そうか、確かに武家にはまだ井戸が存在している。ガスコンロとランプがあるならサバイバルにはなるけれど、過ごせなくもない。
あれ、ナミネのルームウェアが汚れている。
「ナミネ、生理なんじゃないの?今、ポーチと簡易トイレ組み立てるから待ってて!」
「はい」
私は慌ててサバイバルリュックを取りに部屋に戻った。
ナミネの部屋に入ると、ナミネの生理用品が入ったポーチと着替えと、簡易トイレとトイレットペーパーを持って、1回の適当な客間に簡易トイレを設置して、トイレットペーパーとポーチ、着替えを置いて、再び第4居間に戻った。
「ナミネ、4番目の客間に簡易トイレ設置したから行ってきて!着替えとポーチもあるから!汚れたのはビニール袋に入れて持って来て!」
「はい」
ナミネは第4居間を出た。紀元前村から戻って来て、また簡易トイレを使うことになるとは思わなかった。本当、いつ何が起きるか分からない。備えは常に必要だ。
「顔だけヨルク、皇室からだ」
皇室から知らせが入ったのか。私は落ち武者さんから文を受け取った。
『現在、妖精村全域停電。復旧は未定。
皇室』
やはり、いつ復旧するか分からないのか。
その時、ラルクがランプを人数分持って来て、炎の舞で明かりを灯した。こんな夜だとランプがあるとないとでは全然違う。
「みんな、第2のサバイバルよ!簡易トイレは男女別に客間に2つ置いて、ガスコンロは通常通りキッチンで使って、水は井戸で汲んだのをタンクに入れるわよ!」
リリカお姉様、いつ戻ってきたのだろう。これじゃあ、もうはたからみたらラハルさんと恋人だな。けれど、ラハルさんや、ここにいない人は大丈夫だろうか。
「分かったわ!また役割決めないとね!」
その時、ナミネが戻ってきた。
「ナミネ、大丈夫?汚れた衣類は後で洗っておくね」
「はい」
ただ、ここには果樹園も薬草園もない。スーパーやドラッグストアで色々買わないと。
「セナ王女、簡易トイレの設置が終わったら、明日のお祝い会で必要なものを紙に書き出してくれませんか?」
そうか、お祝い会でも不足のないよう準備をしなければならない。セナ王女も、どうしてこんな時に決行をするのだろう。
「分かったわ。簡易トイレの設置、お願い出来るかしら」
「はい。皆さん、再びサバイバルがやって来ました。サバイバルとはいえ、電気、水道、ガスが止まっただけで、あとのものは存在しますが、それでも、洗濯器は使えません。お風呂も湧かせません。ガスコンロも限りがあります。ここには果樹園も薬草園もないので、おおむね混むだろうスーパーに買い出しもしに行かないといけません。簡易トイレの設置は私とラルク、落ち武者さんて行います。ヨルクさんは、ここにいない人たちに連絡してください。注意点ですが、タライで洗濯はしますが、分厚いコートとかは流石に入り切りません。もう4月なのでカーディガン程度にしてください。では、取り掛かります」
さっきまで、ゴロゴロしていたナミネは、また紀元前村の時のように仕切りはじめた。何故ナミネはいつもキビキビ動かないのだろう。仕事とプライベートというヤツなのだろうか。
ナミネとラルク、落ち武者さんは簡易トイレ設置のため、第4居間を出た。私は、ラハルさんと、ロォラさん、ナヤセスさんに連絡をした。
『あの、妖精村全域が停電ですが大丈夫ですか?』
『ああ、アニキいるし私は大丈夫だ。明日、決行だってな。セナ王女も曲げない人だな』
ロォラさんは大丈夫と。ロォハさんは医者だから、持ち前の知恵で乗り切るだろう。
『大丈夫だよ。色々買い溜めもしてたしね』
ナヤセスさんも大丈夫。やはり、こういった時の買い溜めはスペースがあるのなら、買っておくに越したことはない。
『こっちでは普通の暮らししたかったけど、慣れてるからね。僕は何もなくてもやっていけるよ』
こういう時に1番強いのは、やはり経験者より、その暮らしが当たり前だった人か。色々考えさせられるなあ。
『今日1日は大丈夫だけど、明日からそっちでお邪魔してもいい?』
『はい、大丈夫です。明日はナノハナ家で朝食取ってください』
ラハルさんは、やはり電気、ガス、水道が止まると調理も出来ないし不便だよね。
「リリカお姉様、明日からラハルさん、ここで過ごすそうです」
「今すぐ迎えに行くわ!」
何ともリリカお姉様らしい。ラハルさんのこととなると、奈落の果てまで着いて行きそうだ。
リリカお姉様と入れ違いにナミネたちが戻って来た。
「皆さん、今、客間に2つずつ簡易トイレを設置しました。女子用はナプキン、サニタリーパンツ、汚れた衣類を入れる箱を置いています。けれど、ここはナノハナ家。極力汚さないでください。何度も言いますが、これはサバイバルです。地面に簡易トイレわ置くのと、家の中に置くのとでは天と地の差です。我が家を汚されては困りますので、トイレ掃除は私がします。それと、ここには果樹園も薬草園もないため、スーパーに買い出しに行かないといけません。買い出しは私とラルクで行きます」
これが仕事モードのナミネなのだろうか。ダラけている時とは全然違う。
「いや、僕とエルナで行く」
買い出し。こんな状況では買えるかどうかも分からない。品物を人より先に取るには落ち武者さんやエルナが相応しいだろう。
「では、買い出しは落ち武者さんとエルナさんにお願いします。私はトイレ掃除と水汲みをします。水は洗濯用のタライと飲み水用のタンクに入れます」
「ナミネがそんなのすることないわ。トイレ掃除は、アヤネとセレナールにさせるわ。ここでも、紀元前村の時と似たような役割がよさそうね」
リリカお姉様、もう戻ってきたのか。ラハルさんのアパートはここから近いというけれど、本当に近いんだな。
「ミツメさん、素朴な疑問ですが、こういう時でもマンションの家賃て取られるのでしょうか?」
「はい、借りている以上は停電が起きたとはいえ、家賃は払わなくてはなりません。もうここまで来るとリーダーに借金してもらうしかありません」
「カンザシのことは私が助ける!マンション代も私が払う」
タルリヤさんは、かなりの困難な中、生きてきたというのに、パトロンのいる人は、こうまで楽が出来るものなのか。
「ナミネとラルクは水汲み係、カナエとナルホは植物係、セルファとエルナは買い出し係、セナ王女とナナミ、私は加熱係、カラン王子、ユメさん、クラフ、ズームは料理係、アルフォンス王子、カラルリさん、ヨルク、ミネスは洗濯係、セレナール、アヤネ、ミネルナ、カンザシ、ミツメはトイレ係をしてちょうだい」
私は洗濯係か。紀元前村の時と同じだな。
「洗濯係なんて出来ない。せめて加熱係に回してほしい」
紀元前村では、あれほど加熱係をいやがっていたのに、ここでは崖に登らなくてもいいから、難易度の高い加熱係を希望したか。
「それなら、水汲みをしてくれないかしら?ナミネとラルクだけでは足りないわ」
「分かった。ナミネとラルクがするのならやる」
何故、ナミネとラルクに拘る。あれ、ラハルさんは何をするのだろう。ここでも、リリカお姉様がいるからラハルさんだけはのんびりしてられるのだろうか。
「トイレ掃除なんていやです」
「私もいやだわ」
「どうして私がトイレ掃除なのよ!」
やはり、セレナールさん、アヤネさん、ミネルナさんは拒絶するか。
「与えられた役割をしない人は自分の家に帰りなさい!エンジンも限られているから馬で帰ることになるだろうけどね」
3人は黙り込んでしまった。予期せぬ、第2のサバイバル。乗り切れるだろうか。その時、セナ王女が明日必要なものをみんなに見せた。
……
あとがき。
サバイバルの後でまたサバイバル!
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ヨルク》
妖精村に戻ってきたナミネは、紀元前村にいた時とは別人になったかのようにナノハナ家では何もせずゴロゴロしている。それだけ、紀元前村では張り切っていたのだろうか。けれど、また私がナミネのお世話をする役目が出来て、とても嬉しい。
紀元前村でもナミネとは一緒の寝袋で寝ていたけれど、こっちに戻ってきてからも一緒にお風呂に入っているし一緒に寝ている。
でも、突然知ってしまったレタフルという人魚の存在。私は、そのような人魚に会ったことさえない。けれど、ナミネはレタフルという人魚の存在を気にして落ち込んでいる。どうにか励ましたくて可愛い下着ショップに誘ってみたものの……。
「ヨルクさん、セクハラです!」
ナミネは泣きながら第4居間を出て行ってしまった。
「あんたも不器用だな。強気なナミネはサイズが大きくなったんだよ」
「えっ、そうだったの!?」
いつもナミネの洗濯をしているのに全く気づかなかった。私はナミネを励まそうとして逆にナミネの乙女心を傷付けてしまったのか。このままではナミネに嫌われてしまう。
私はキッキンで、紀元前村で作っていた材料でスコーンを作った。
「ナミネ、入るよ」
私はスコーンを持ってナミネの部屋に入った。扉を閉めると私は机にスコーンの入ったお皿を置いた。洗濯物を見ると確かにAカップからBカップになっている。
毎日一緒にお風呂に入っているのに全く気づかなかったなんて恥ずかしい。ナミネはショックだったのか布団に横になっている。
「ナミネ、ごめんね。紀元前村で使っていた材料でスコーン作ったから食べて」
「ヨルクさんは浮気者です!すぐに心変わりします!胸の大きな人がいれば、そっちに乗り換えます!出てってください!」
多分ナミネは泣いている。私はナミネ以外を好きになったことはない。けれど、ラルクの結界でナミネとアルフォンス王子の会話を聞いていたとも言えず、私は慰めの言葉1つ見つけられずにいた。
「このスコーン、なかなかイケるじゃん」
ふと見ると、ナミネのために作ったスコーンを落ち武者さんが食べていた。
「ねえ、どうして落ち武者さんが食べてるの!ナミネのために作ったんだけど」
「これだけあるんだから1つくらいいいだろ」
まあ、1つならいいけれど。出来ればナミネに食べてほしい。
「ヨルクさん、出てってください!」
「ナミネ、何があったの?このままナミネに嫌われたままだといやだからちゃんと話したい」
私はナミネの布団をめくった。すると、ナミネは布団の中でポテトチップスを食べていた。しかも、布団にポロポロこぼれている。
「ナミネ、どうして布団の中で食べるの!布団が汚れてるじゃない!」
ナミネはそそくさに布団から出て、机に置いたスコーンを凄い勢いで食べはじめた。私はナミネが汚した布団を小型の掃除機で綺麗にした。
「浮気者はこうやって女の胃袋つかむんですね」
今度は机が汚れている。
「ナミネ、私は浮気なんてしてない!小さい頃からずっとナミネのこと見てきた。ナミネ、ちゃんと話そ」
「浮気者と話すことなんてありません!」
いくら夢を見たとはいえ、その言い方、癪に障る。
「どうして私が浮気者なの?証拠でもあるの?」
「今はありませんが、近いうちに出てきます!」
「何それ!話し合いもせず、いきなり私を浮気者扱いして気分が悪い!もういい!お風呂入る!」
心が狭いだろうか。レタフルという人魚のことで突然ナミネから無実の罪を着せられ、私も対処のしようがなく、怒ってしまった。
ただでさえ広いお風呂。1人で入ると余計に広く感じる。
少し眠ってしまっただろうか。ふと、横を見るとナミネがいた。
「ナミネ!」
ナミネは無言で私にもたれかかった。紀元前村で公衆浴場に入ったのは1回だけだから、こっちに戻って来てからナミネと2人きりで、お風呂に入るのは新鮮な気持ちだ。いつもは落ち武者さんに邪魔されるから。
「ヨルクさんは、本当に私と結婚するのですか?」
「するよ!ずっとナミネと一緒になりたくて、縁談書持って来てた。返事なくても、それでもナミネと交際したくて諦めなかった。あの日、思い切って告白してよかったと思ってる!」
ナミネは今どんな気持ちだろう。やはり、見知らぬ人魚のことで落ち込んでいるだろうか。それでも、私はこの先、何世紀経とうと、ずっとナミネを好きでいる。ナミネ以外だなんて考えられない。
「ヨルクさん、絶対心変わりしないでください。私を捨てないでください」
ナミネ、いったいどんな夢を見たの。こんなにも落ち込んでいるだなんて可哀想に。
「絶対に心変わりなんかしない!私は何世紀経とうとナミネと、ずっと一緒にいる!」
「ヨルクさん、人魚の湖は、お留守番していてください」
何故そうなる。今は信用してもらえないのだろうか。けれど、そこに行かないわけにはいかない。ちゃんと、ナミネが精神を病んだ原因のレタフルという人魚に会って話を聞かないと。
「ナミネ、私も行くよ」
私はナミネの手を握った。
「あんたら、仲良いな」
「ねえ、落ち武者さん、どうしていつも邪魔するの?せっかくのナミネと2人きりの時間なのに」
「ここ、あんたらだけの風呂じゃないだろ。もうすぐみんな入ってくるし、みんなに出てけって言うのかよ」
もう、そんな時間になっていたのか。ナミネはポテトチップスとスコーンをいっぱい食べたから夜食は、お粥でも作っておこう。
「ナミネ、夜食にお粥作るから、お腹すいたら食べて」
「はい」
私はお風呂から上がりキッチンへ向かった。
ナミネのお粥っと。
私は玄米と白米を混ぜて塩で味付けして上に梅干しを乗っけた。ナミネの部屋に持って行こうとすると、ナミネが濡れた髪のままで後ろにいた。
「ナミネ、髪濡れてる。部屋に行こっか」
「はい」
私はナミネを連れて部屋に行った。
お粥を机に置くと、私はナミネの髪をタオルで拭いて乾かしはじめた。ナミネの髪も定期的に乾かしている。紀元前村では、ナミネはずっとお風呂に入らず髪を後ろで結んだままだったから、こっちに戻ってきてからの暮らしは何気なく新鮮だ。
ナミネ、少し髪が伸びただろうか。また伸ばすのかな。
「ナミネ、お腹すいたら、お粥食べてね」
「はい」
ナミネはテレビを付けて私にくっついた。ナミネ、可愛すぎる。私がナミネを抱き締めた瞬間、落ち武者さんが入って来た。
「ねえ、落ち武者さん、どうして家に帰らないの?」
「みんないるんだからいいだろ」
「でも、ここじゃなくても客間とかあるでしょ」
「僕だけ仲間外れってわけ」
また、この狡い反応。どうして客間に行かず私とナミネとの時間を邪魔するのだろう。
「そうじゃないけど……」
後からエルナも来た。これでは、紀元前村のテントの中の時と変わらない。
「エルナも帰らないの?お家の人とか心配しない?」
「やっぱり紀元前村での名残がなかなか消えないのよ。今は役割なんてないのに、それでも、あの時の時間が忘れられないわ」
みんなそういうものなのか。私はナミネがいるからナノハナ家に留まっているけれど、みんな共に暮らしていた紀元前村でのことが頭から離れないのかな。私もナミネと交際していなくて片想いのままだったら、ナミネに近づくためにここに来ていたかもしれない。
「そういうもんなんだね」
「強気なナミネ、僕、副委員長なんだ」
何故こういう時に関係のない話で自慢する。
「わあ、やっぱり落ち武者さん社交的だから、そういうの似合いますね!こっちはまた委員長は同じです」
そして、何故私以外の人と話す時、ナミネは明るくなるのだろう。
「あんたは副委員長とかしないのかよ?」
「私は作業とかめんどくさいので、そういうのはしてません。副委員長は、おっとりした女の子です。茶道部もラルクが部長をするかで話し合ってます」
何故、3年生の私を差し置いてラルクが部長をするのだ。
「へえ、あんたら、また同じクラスってわけ。僕も茶道部入ろうかな。甘えセナやセリルたちも高校3年生になったし、進路とか忙しそうだから、僕らが遊んでられるのも今のうちだね?」
「ですよねー!けど、ナヤセス殿も進路はもう決まってますし、カラルリさんは家業継ぐでしょうでし、何だかんだで今年もいっぱい遊べるんじゃないんですか?落ち武者さんも是非、茶道部に入部してください。もうミナクさんもナナミお姉様も高等部に行ってしまったから今の茶道部は案外自由なんですよね」
何故、急に明るくなる。さっきまで、めちゃくちゃ落ち込んでいたのに。
「じゃ、僕とエルナ、茶道部入る」
何故、エルナも入ると決めた。私もナミネと楽しく会話したいんだけどな。私が話しかけると、やっぱりナミネは暗い気持ちになるだろうか。
「分かりました。入部手続きしたら、その日から入れますので」
「ナミネ、そろそろ寝ようか」
「今日はエリートを目指す教室があるので起きてます」
今日というより、それ明日だよね。あまり夜更かしすると明日に響くだろうから心配だな。
「ナミネ、それは0時半からだから、録画して今度見よう。明日のお祝い会のほうが重要だし」
どうしてかナミネは膨れてしまった。そして、私の作った夜食のお粥をレンジで温めると食べはじめた。ナミネってどうしてすぐに食べるのだろう。これだと、またナミネがお腹すいた時のために何か作らないと。
「ナミネ、それ夜食に作ったんだよ。お腹すいても我慢してね」
「ヨルクさん、意地悪です!私、晩ご飯も食べてないんです!」
スコーン食べてたから、夕ご飯入らないと思って、あえて夜食作ったのに。けれど、今のナミネは精神的に不安定だから刺激するのもよくない。
「分かった。別の夜食作ってくるから、エリートを目指す教室見たらすぐ寝てよ?ナヤセスさんとロォハさんのお祝い会行けなかったら後悔するのナミネだからね」
「ヨルクさん、いちいちうるさいです!エリートを目指す教室見てもちゃんと起きれます!」
もうっ、どうして、こんなに憎たらしくなっちゃったの。そういえば、ナミネ、生理遅れてる。生理前でイライラしているのだろうか。仕方ない。夜食だけ作り直してこよう。
「ナミネ、夜食だけ作ってくるね」
「はい」
私は部屋を出て夜食を作りに行った。
キッチンに入るなり停電して、炎の舞を十分に使えない私は咄嗟にイチゴとミカンのフルーツサンドと、フルーツスムージーを作った。あまりクリームは使いたくなかったが、停電してしまっては仕方ない。それにしても、どうして突然停電したのだろう。すぐに復旧するだろうか。
私は再び部屋に戻ろうとした。
「ズーム!もう、あのマンションの家賃払いきれない!これまでみたいに払え!」
「カンザシ!僕にはもうその義務はない!自分の力で稼いで払え!」
カンザシさんとズームさんが口論しているが、私はナミネの夜食を持って行こうとした。すると、誰かが私に抱き着いた。
「ナミネ?」
もし、ナミネじゃなかったらどうしよう。変に誤解されるのもいやだし、ナミネかどうか確かめないと。
「ヨルクさん、どこ触ってるんですか!セクハラです!」
ナミネだった。
「うん、ごめん。暗くてよく見えないからナミネじゃないと、またナミネと喧嘩になると思って」
「だからって、どうしてそういうところ触るんですか!」
でも、それしか確かめる方法ないし、とにかくナミネでよかった。
「ヨルクさんて、女なら誰にでも反応するんですね!」
「ナミネ、やめて!私は後々誤解のないようナミネかどうか純粋に確認しただけだから!」
どうしていつも触ってくるの。本当、色んな意味で交際前だと考えられない。ナミネが私に心を許してくれているのは嬉しいけれど、変な罪を着せられるといやな気持ちになる。
「ナミネ、停電して火が使えないからフルーツサンドとスムージー作ったから、お腹すいたら食べて」
「今食べます」
えっ、ナミネいっぱい食べてたじゃない。どうしてこんなに食べるの?
「ナミネ、今日はいっぱい食べたし、これ以上食べるとお腹壊すよ。それに私、太った人無理だから!」
「ヨルクさんて、体型で決めるんですね。じゃあ、私が太れば関係も終わりですね」
「そうじゃなくって……」
私はただ、ナミネに食べすぎてほしくないだけなのに。ナミネの管理は難しい。
「ちょっと、何騒いでるの!」
セナ王女、起きてきたのかな。
「あ、カンザシさんが、金銭面で騒いでいまして」
「マンションとか見栄はらなくてもアパートで十分でしょ。明日のお祝い会、停電していても決行するから!」
停電でも決行?けれど、朝が来て明るくなっても電気もガスも水道も使えない。これではまるで紀元前村の蓮華町だ。
「しかし、電気もガスも水道も使えないんですよ?」
「何言ってるのよ!私たちには紀元前村で過ごした経験があるじゃない!携帯が必要な人はバッテリーでも持ってくることね」
そうか。携帯はバッテリーが持つ限り使えるのか。けれど、携帯のバッテリーなんてサバイバル用でしか買ってないから2つくらいしか持ってない。
「ねえ、ラルク。私ね、携帯のバッテリー20個あるの」
何故そんなに持っている。目が慣れてきた。ラルクだけでなく、メンバーの過半数が来ているのか。
てか、ナミネがさっき私が作ったフルーツサンド食べてる!それにナミネの部屋で携帯のバッテリーなんて見たこともない。まさか、ナミネ、押し入れに色んなもの詰め込んでいるのでは。
「なあ、ズーム……」
「ねえ、ナミネ!それ夜食だって言ったよね?それに、また押し入れグチャグチャになってるの?停電終わったら片付けるから!水は必要だから今からスーパーで箱買いしてくる」
ここは紀元前村の蓮華町と違って、飲み水の川など存在しない。停電が続くのなら色々買い溜めしておかないと。
「水なら庭に井戸があります。使用人が保管しているガスコンロもありますし、蔵には昔使っていたランプもあります」
そうか、確かに武家にはまだ井戸が存在している。ガスコンロとランプがあるならサバイバルにはなるけれど、過ごせなくもない。
あれ、ナミネのルームウェアが汚れている。
「ナミネ、生理なんじゃないの?今、ポーチと簡易トイレ組み立てるから待ってて!」
「はい」
私は慌ててサバイバルリュックを取りに部屋に戻った。
ナミネの部屋に入ると、ナミネの生理用品が入ったポーチと着替えと、簡易トイレとトイレットペーパーを持って、1回の適当な客間に簡易トイレを設置して、トイレットペーパーとポーチ、着替えを置いて、再び第4居間に戻った。
「ナミネ、4番目の客間に簡易トイレ設置したから行ってきて!着替えとポーチもあるから!汚れたのはビニール袋に入れて持って来て!」
「はい」
ナミネは第4居間を出た。紀元前村から戻って来て、また簡易トイレを使うことになるとは思わなかった。本当、いつ何が起きるか分からない。備えは常に必要だ。
「顔だけヨルク、皇室からだ」
皇室から知らせが入ったのか。私は落ち武者さんから文を受け取った。
『現在、妖精村全域停電。復旧は未定。
皇室』
やはり、いつ復旧するか分からないのか。
その時、ラルクがランプを人数分持って来て、炎の舞で明かりを灯した。こんな夜だとランプがあるとないとでは全然違う。
「みんな、第2のサバイバルよ!簡易トイレは男女別に客間に2つ置いて、ガスコンロは通常通りキッチンで使って、水は井戸で汲んだのをタンクに入れるわよ!」
リリカお姉様、いつ戻ってきたのだろう。これじゃあ、もうはたからみたらラハルさんと恋人だな。けれど、ラハルさんや、ここにいない人は大丈夫だろうか。
「分かったわ!また役割決めないとね!」
その時、ナミネが戻ってきた。
「ナミネ、大丈夫?汚れた衣類は後で洗っておくね」
「はい」
ただ、ここには果樹園も薬草園もない。スーパーやドラッグストアで色々買わないと。
「セナ王女、簡易トイレの設置が終わったら、明日のお祝い会で必要なものを紙に書き出してくれませんか?」
そうか、お祝い会でも不足のないよう準備をしなければならない。セナ王女も、どうしてこんな時に決行をするのだろう。
「分かったわ。簡易トイレの設置、お願い出来るかしら」
「はい。皆さん、再びサバイバルがやって来ました。サバイバルとはいえ、電気、水道、ガスが止まっただけで、あとのものは存在しますが、それでも、洗濯器は使えません。お風呂も湧かせません。ガスコンロも限りがあります。ここには果樹園も薬草園もないので、おおむね混むだろうスーパーに買い出しもしに行かないといけません。簡易トイレの設置は私とラルク、落ち武者さんて行います。ヨルクさんは、ここにいない人たちに連絡してください。注意点ですが、タライで洗濯はしますが、分厚いコートとかは流石に入り切りません。もう4月なのでカーディガン程度にしてください。では、取り掛かります」
さっきまで、ゴロゴロしていたナミネは、また紀元前村の時のように仕切りはじめた。何故ナミネはいつもキビキビ動かないのだろう。仕事とプライベートというヤツなのだろうか。
ナミネとラルク、落ち武者さんは簡易トイレ設置のため、第4居間を出た。私は、ラハルさんと、ロォラさん、ナヤセスさんに連絡をした。
『あの、妖精村全域が停電ですが大丈夫ですか?』
『ああ、アニキいるし私は大丈夫だ。明日、決行だってな。セナ王女も曲げない人だな』
ロォラさんは大丈夫と。ロォハさんは医者だから、持ち前の知恵で乗り切るだろう。
『大丈夫だよ。色々買い溜めもしてたしね』
ナヤセスさんも大丈夫。やはり、こういった時の買い溜めはスペースがあるのなら、買っておくに越したことはない。
『こっちでは普通の暮らししたかったけど、慣れてるからね。僕は何もなくてもやっていけるよ』
こういう時に1番強いのは、やはり経験者より、その暮らしが当たり前だった人か。色々考えさせられるなあ。
『今日1日は大丈夫だけど、明日からそっちでお邪魔してもいい?』
『はい、大丈夫です。明日はナノハナ家で朝食取ってください』
ラハルさんは、やはり電気、ガス、水道が止まると調理も出来ないし不便だよね。
「リリカお姉様、明日からラハルさん、ここで過ごすそうです」
「今すぐ迎えに行くわ!」
何ともリリカお姉様らしい。ラハルさんのこととなると、奈落の果てまで着いて行きそうだ。
リリカお姉様と入れ違いにナミネたちが戻って来た。
「皆さん、今、客間に2つずつ簡易トイレを設置しました。女子用はナプキン、サニタリーパンツ、汚れた衣類を入れる箱を置いています。けれど、ここはナノハナ家。極力汚さないでください。何度も言いますが、これはサバイバルです。地面に簡易トイレわ置くのと、家の中に置くのとでは天と地の差です。我が家を汚されては困りますので、トイレ掃除は私がします。それと、ここには果樹園も薬草園もないため、スーパーに買い出しに行かないといけません。買い出しは私とラルクで行きます」
これが仕事モードのナミネなのだろうか。ダラけている時とは全然違う。
「いや、僕とエルナで行く」
買い出し。こんな状況では買えるかどうかも分からない。品物を人より先に取るには落ち武者さんやエルナが相応しいだろう。
「では、買い出しは落ち武者さんとエルナさんにお願いします。私はトイレ掃除と水汲みをします。水は洗濯用のタライと飲み水用のタンクに入れます」
「ナミネがそんなのすることないわ。トイレ掃除は、アヤネとセレナールにさせるわ。ここでも、紀元前村の時と似たような役割がよさそうね」
リリカお姉様、もう戻ってきたのか。ラハルさんのアパートはここから近いというけれど、本当に近いんだな。
「ミツメさん、素朴な疑問ですが、こういう時でもマンションの家賃て取られるのでしょうか?」
「はい、借りている以上は停電が起きたとはいえ、家賃は払わなくてはなりません。もうここまで来るとリーダーに借金してもらうしかありません」
「カンザシのことは私が助ける!マンション代も私が払う」
タルリヤさんは、かなりの困難な中、生きてきたというのに、パトロンのいる人は、こうまで楽が出来るものなのか。
「ナミネとラルクは水汲み係、カナエとナルホは植物係、セルファとエルナは買い出し係、セナ王女とナナミ、私は加熱係、カラン王子、ユメさん、クラフ、ズームは料理係、アルフォンス王子、カラルリさん、ヨルク、ミネスは洗濯係、セレナール、アヤネ、ミネルナ、カンザシ、ミツメはトイレ係をしてちょうだい」
私は洗濯係か。紀元前村の時と同じだな。
「洗濯係なんて出来ない。せめて加熱係に回してほしい」
紀元前村では、あれほど加熱係をいやがっていたのに、ここでは崖に登らなくてもいいから、難易度の高い加熱係を希望したか。
「それなら、水汲みをしてくれないかしら?ナミネとラルクだけでは足りないわ」
「分かった。ナミネとラルクがするのならやる」
何故、ナミネとラルクに拘る。あれ、ラハルさんは何をするのだろう。ここでも、リリカお姉様がいるからラハルさんだけはのんびりしてられるのだろうか。
「トイレ掃除なんていやです」
「私もいやだわ」
「どうして私がトイレ掃除なのよ!」
やはり、セレナールさん、アヤネさん、ミネルナさんは拒絶するか。
「与えられた役割をしない人は自分の家に帰りなさい!エンジンも限られているから馬で帰ることになるだろうけどね」
3人は黙り込んでしまった。予期せぬ、第2のサバイバル。乗り切れるだろうか。その時、セナ王女が明日必要なものをみんなに見せた。
……
あとがき。
サバイバルの後でまたサバイバル!
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
PR
純愛偏差値 未来編 一人称版 88話
《ナミネ》
感染症コロディーが蓮華町に流行り出して3日が経った。看病しているメンバーが疲れて来ているのは目に見えている。コロディーは体内の菌を出し切れば10日で治るそうだが、患者は1日目の夜中に嘔吐だけでなく下痢もするようになり、みんなは患者のお尻も拭きはじめた。
ユメさんは貴族ゆえ、かなり抵抗があるみたいだが、それでも頑張ってくれている。
みんな食事もしているし、20時には寝ているものの、このまま患者の看病をし続ければ、この中のメンバーが感染してもおかしくない。
患者は嘔吐と下痢を何度も繰り返すため、消毒液も半分になった。その時、ユメさん、カラン王子、ミネルナさんが倒れた。
「ユメさん!カラン王子!ミネルナさん!」
私が駆け寄るより前にナヤセス殿とロォハさんが診察をした。疲労からかコロディーに感染していた。私とラルクは3人を結界の中に運んだ。
コロディーは止むどころか悪化している。体内から菌を出そうとしているからだろうか。経口補水液もすぐになくなるから、定期的に作らなくてはならない。
「あの、コロディーはまだ完治の方法が分からない病気ですし、リンゴを使うのもやむを得ないのではないでしょうか」
「ナミネ、僕は全員を必ず救う。リンゴは使わないよ」
ナヤセス殿。あくまで持ち前の医療の知識で治すつもりなのか。それでも、熱の酷い人はナヤセス殿とロォハさんが交互で夜中も診ているから、熱冷ましの薬が与えられ、患者の熱は最高でも41度までで治まってくれている。
みんなは、患者の清潔を常に保った。
私は毎日4時に水を汲んでいる。タライの横にはズームさんの作った石鹸と消毒液を置いているのである。
その時、アヤネさんとアルフォンス王子が顔が真っ青なまま、こちらへ向かって来た。ナヤセス殿が診察したところ、コロディーに感染していた。私とラルクは2人を結界の中へ運んだ。
逃げていても感染する時はする。それが感染症なのだ。
コロディーが流行り出して6日が経つと、患者の体内から菌が減っていた。患者の嘔吐も下痢も水っぽくなっていて、酷い時に比べたら、かなり拭きやすくなったと思う。
ロォラさんが作ってくれた布オムツも活躍していた。
点滴を打つ患者も少なくなり、みんな経口補水液を飲むようにもなって来た。あとひと息、あとひと息だ。私たちは辛いながらも患者を救うため、持ち堪えていた。
けれど、コロディーが終息したら、私たちは妖精村に戻る。2ヶ月近くいたこの蓮華町ともお別れだ。そう思うと少し寂しい。
コロディーが流行り出して14日後、結界にいた患者は全員完治し、金が1回鳴った。
「コロディーが終息したぞ!」
「やっと治った!」
「本当辛かった!」
「これでやっと元の暮らしに戻れる!」
(以下略)
蓮華町にやって来たコロディーは終息した。
私は結界を解き、患者だった人に着替えを配った。コロディーに使用したものはワラの敷物やタライも含め全てゴミ捨て場に捨てた。
メンバーのみんなもエプロンを処分し、新しい服に着替えた。
その時、お姉さん家族が来た。
「ナミネ、今更だけどごめんなさい。あの頃の私は、いいところに生まれたナミネに嫉妬してナミネを妖精村に戻さなかった。今となっては取り返しのつかないことをしてしまったと思っている。謝って済むことではないけれど、謝るしかないわ」
「ナミネ、何度も相談に来てくれていたのに、わざと何もしなくて辛い目に合わせてごめんなさい。ここにいる以上、私の人生は楽しむことさえままならないけど、反省しながら生きていく」
お姉さんと私が産婦人科で取り違えられて、どのくらい経ったのだろう。大昔のこととはいえ、フルートさんから聞いた時はショックだったけど、時を超えて謝ってくれた。私も、お姉さんにはやり過ぎたかもしれない。妖精村に戻ったら、お姉さんに下された皇室の罰は番人にお願いして、なかったことにしてもらう。それでも、ここでの暮らしは辛いだろうけど。
「謝っていただいただけで、もういいです。私は明日ここを発ちます。短い間でしたが再び出会えてよかったです。どうか、お元気に過ごしてください」
「もう帰るのね。もう、同じ過ちは繰り返さない。ナミネ、元気でね」
「私は、また縫い物の仕事をして市場に売るわ。妖精村に戻っても、ここで過ごした時間忘れないでね」
今のお姉さんは、いい人だ。古代のような暮らしを受け入れ必死に生きている。辛い場所ではあるかもしれないけれど、お姉さんには、ここでやるべきことをして生きて欲しい。この町が他の町と同じ暮らしになるまで、諦めないでほしい。
「はい、この町はきっといつか変わります。それまで頑張ってください」
お姉さんと母親は一礼すると家族とともに家に帰って行った。
私とラルクと落ち武者さんは、おばあさんの家に行き挨拶をし、必ずまた来ると言った。私は別れの悲しさからさ、おばあさんに少しの間抱き着いていた。
おばあさんは、妖精村に戻っても、ここでの暮らしは忘れないで今後に役立ててと言っていた。おばあさんとは、妖精村でまた会えるかもしれない。それまで、私はガムシャラに生きる。ここの暮らしで学んだように。
その後、タルリヤさんの家に戻るとフルートさんとヤクゼンさんらしきコビトが別れの挨拶に来た。私は2人とも抱き締めた。泣きながら抱き締め、また会おうと約束をした。
ここでの食事は、これで最後だ。
煮物を作ってくれたタルリヤさんのお母様にも感謝をしないと。
その時、紙飛行機が飛んで来た。私は紙飛行機を開いた。
『この度の働き、ご苦労だった。ナヤセスとロォハの功績を認め、2人を正式な医師に認定する。 紀元前村 皇帝陛下』
中には証明書も入っていた。私は2人に証明書を渡すと同時に紙飛行機の内容も見せた。これで2人は晴れて医師だ。妖精村に帰ったらお祝いをしないと。
翌日、私たちは不要なものは全てゴミ捨て場に捨て、テントを畳んだ。タルリヤさんのお母様に挨拶をすると、みんなナノハナ家のヘリコプターに乗って妖精村へと帰って行った。
最初は、現場を見たら帰るつもりだったけれど、流れで2ヶ月少し、この蓮華町で暮らした。右も左も分からない状況だったし、仲間割れもしたけれど、ガス、電気、水道は全てない。携帯も繋がらない。蓮華町の周りには囲いがあって、隣町にさえ行けない。古代のような暮らしは、これからも続くだろう。その暮らしの厳しさを私たちは身を持って知った。ここで学んだことは絶対に忘れない。
妖精村に戻って、どれだけの日が経っただろう。私は紀元前村での暮らしの疲れが一気に出て、ずっと眠り続けていた。私は寝ぼけながらも、テナロスさんを呼び出し、お姉さんが受けた罰をなかったことにしてもらった。
紀元前村では、毎日のように働いていた私だけど、いざナノハナ家に戻ると、私はまたダラけていた。
そんな私も中学2年生になっていた。また、ラルクと委員長と同じクラスだ。まだまだ人生これからだ。
この先、またヨルクさんといっぱい喧嘩するだろうし、そのたびにどちらも傷つくだろう。それでも私はヨルクさんをもう二度と待たせない。ヨルクさんを心から愛していることを二度と記憶から消さない。まだ、交際して1年も経っていないけど、今ではこんなにも愛おしい。
私にはヨルクさんがいる。
それが生きるみなもとなのだ。
数日後、落ち武者さんを連れてラルクと森の湖南町に行ったら、何故かヨルクさんが後から着いてきて、おじいさんに挨拶をした。ヨルクさんは律儀に取り寄せた高価なお菓子をおじいさんに渡したのだ。その日は、息子さん夫婦やお孫さんも来ていた。1年に1度は里帰りをしているらしい。
おじいさんは相変わらず元気にしていた。おばあさんの話をすると、おじいさんは涙を流していた。おじいさんとしては、おばあさんが転生してもまた一緒になりたい気持ちはあるものの、人が亡くなってから転生するまでには60年から3億年かかる。おじいさんは、いつも愛した人の転生を待っているうちに他に好きな人が出来てしまっていたようだ。どれだけ愛し合ってもいなくなった相方を待つというのは、かなりの忍耐力がいるものだ。妖精村では平均転生するまで100~150年はかかる。そんな年月を1人で待つのは辛い。他に好きな人が出来ても不思議ではないと思う。それでも、またおばあさんが転生した時には一緒になって欲しい。何となくだけど、おばあさんとおじいさんにはずっと愛し合っていてほしい。そんな気がするのだ。
お孫さんといっても、20歳を過ぎていて、その日、私はおじいさんと一緒にお風呂に入った。
紅葉町に戻る時、おじいさんには絶対またいっぱい来ると言った。
翌日、自分の部屋で寝ていた。そして夢を見ていた。
夢の中は未来だろう世界だった。
私とヨルクさんは、当たり前のように恋人だった。けれど、ヨルクさんは次第にナノハナ家に来なくなっていた。
ある日、私がクレナイ家のヨルクさんの部屋に行くと、ヨルクさんは他の女と愛し合っていた。
『ヨルクさん、どういうことですか!』
『ずっと話そうと思ってたんだけど、なかなか話せなくて今になった。ナミネ、ごめん。好きな人が出来た。ナミネとはもう一緒にいられない』
そんな……。ずっと私だけを愛してくれていたヨルクさんが心変わりだなんて、とてもじゃないけど信じられない。また、ハメられたのだろうか。
しかし、番人に聞いても変わったことは何もなく、ヨルクさんは本当に心変わりをしたらしい。番人によると、いくら、大昔からずっと愛し合っていても、いつかはその気持ちも色褪せて少しずつ過去になっていって、別の未来が用意されているらしい。
私はヨルクさんをたぶらかした女が許せなくて、ある夜、ヨルクさんの部屋にカンザシさんを布団に寝かせた。
翌日、ヨルクさんが目を覚ますと、別の布団の中で女とカンザシさんは愛し合っていた。ヨルクさんは、かなりショックを受けたものの、女が事情を説明するとヨルクさんは泣きながら女を許した。
悔しい。
どうしたらヨルクさんを取り戻せるの。
私は嫉妬のあまり、女をナノハナ家に連れて、客間に閉じ込めた。また、岩の結界をかけて外に出れないようにした。
そんなある日、客間を開けると、女は人魚の姿をしていた。女は2週間に一度人魚の姿になるらしい。
私は、人魚の尾ヒレを切り落とした。人魚は悲鳴をあげた。その時、ヨルクさんが来た。
『どうしてこんなことするの!結界解いて!病院連れていくから!』
『解きません!私、ヨルクさんがいないとダメなんです!心変わりしないでください!私のところへ戻ってきてください!』
『ナミネって最低だね。私の好きな人にこんなことして!大嫌いだよ』
ヨルクさんが私に対して思ったこともない感情。ヨルクさんを奪ったこの女が憎くて仕方がない。けれど、時間が経つごとに尾ヒレの切断によって人魚は人間に戻れなくなるらしい。
『お願い!元に戻して!このままだと人間に戻れないわ!』
『戻しません!この泥棒猫!』
そのまま朝が来ると人魚は倒れていた。
『レタフルさん!』
『ヨルク……愛してる……この先もずっと……私を忘れないで……』
人魚は息を引き取った。
ヨルクさんは大粒の涙を零しその場に崩れた。
『レタフルさん、行かないで……愛してる……』
『ヨルクさん、目を覚ましてください!』
その瞬間、ヨルクさんは私を引っぱたいた。
『よくこんなことが出来たよね!ナミネのこと一生恨むから!』
その後、クレナイ家に行ってもヨルクさんは会ってくれず、私はひたすらヨルクさんが部屋を出るのを待って話しかけたが全て無視をされた。
『ヨルクさん、無視しないでください!』
翌日、目を覚ますと書き置きがしてあった。
《天の川村に引っ越します。さようなら。
ヨルク》
『ヨルクさん!!』
私は走ってクレナイ家に向かったがヨルクさんは既に妖精村を出たあとだった。
もし、私があの女のこと我慢していれば、片想いでもヨルクさんの傍にいられたの?
全て私が悪いの?
どうしてヨルクさんは心変わりしてしまったの?
片想いでも私はそれで耐えられたの?
「お願い、ヨルクさん行かないで!!」
気が付くと私は目を覚ましていた。
部屋には誰もいない。
「ヨルクさん!ヨルクさん!ヨルクさん!」
私は慌てて布団から出た。
「あんた、どんな夢見てたんだよ。すんごいうなされてけど?」
落ち武者さん、いたんだ。
「あの、夢の中でヨルクさんが心変わりしたんです!」
「ただの夢だろ」
確かに夢だったけど、物凄くリアルだった。
「夢の中は未来でしたが、私たちは人魚の湖に行きますよね?もし、その時にレタフルという人魚がいたら……」
「未来で顔だけヨルクは、その人魚に乗り換えたんだな?だったら、そのレタフルって野郎がいたら本人に聞くしかないな」
そうだよね。夢のことだけで判断しても仕方ないけれど、本当にいたら怖い。ヨルクさんとは、どんな関係だったのだろう。やっぱり恋人かな。夢の内容が本当なら、ヨルクさんが心変わりした理由が知りたいのだけど、どうすればいいのだろう。
「ヨルクさんが心変わりした理由が知りたいです!」
「あんた、流石に焦りすぎ。明日はナヤセスとロォハの医師免許取得祝いだし、そもそも心変わりしたかなんて、その話だけでは判断し兼ねる。とにかく、あんたは明日のことだけ考えろ!顔だけヨルクは何だかんだで、ずっと、あんたを愛してきたんだ!」
そうは言われても、やっぱり気になってしまうのが乙女心。私はヨルクさんみたいに、いつまでも待てる人ではない。ヨルクさんの心が私から離れてしまえば私は他の人を好きになるかもしれない。それでも、ヨルクさんとはやっとの思いで恋人になれたのだから心変わりなんて絶対にいや。
「分かってるんですけど……」
「もうすぐ夕飯だから第4居間行くぞ」
あれ、部屋で食べないのだろうか。私は落ち武者さんに言われるまま第4居間に向かった。
第4居間では、何故か過半数のメンバーが集まっていた。
「あ、皆さん、いらしてたんですね」
「やっぱり、紀元前村の暮らしの名残が残っちゃって」
セナ王女、あれからミナクさんとはどうなったのだろう。ミナクさんはナナミお姉様と話しているけれど、ミナクさんとセナ王女のその後の恋愛事情全く知らないや。
「あー、ですよね」
「ナミネ、銀のリンゴはヨルクが持ってて、金のリンゴ1つはセナ王女、もう1つは私が持ってるけど、それでいいかしら?」
そういえば、病気を治すリンゴもらったんだっけ。
「はい、それで構いません」
あんな夢を見ただけにヨルクさんが同じ空間にいると気まずい。
「あの、この中でレタフルという人魚を知っている方いますか?」
「名前は知ってるけど、それ以上知りたかったら2人で話してくれる?」
って、実在してるの!?凄く怖いけど聞くしかない!
「はい、お願いします」
私とアルフォンス王子は第4居間を出て適当な客間に向かった。
客間に入ると、お互い座布団に座った。
この時、別の客間でラルクが闇の結界をかけて、落ち武者さんとヨルクさんが私とアルフォンス王子の話を盗み聞きしていることは全く知らなかったのである。
結界なんて遠い昔に消滅したのに、また復活するなんて思ってなかった。結界があると有利な面、盗み聞きし放題な気がして微妙な気持ちだ。
「レタフルとはカナエと出会った後に人魚の湖で知り合った。ひと目見るなり恋に落ち、私は毎日人魚の湖に通うようになっていた。そのうちにレタフルと両想いになってカナエに別れを告げた。レタフルと知り合ってからは何度転生してもカナエがどうしても2番になってしまって、今でもレタフルを忘れられずにいる」
人物を変えれば私が見た夢そのまんまだ。人魚の湖にいるだなんて会うのめちゃくちゃ気まずい。けれど、会ってレタフルさんからも話を聞かないと。
「そうでしたか。アルフォンス王子にそのような過去があったとは知りませんでした。どうして今はレタフルさんとは交際していないのですか?」
「私とレタフルは確かに愛し合っていた。けれど、ある日、レタフルは理由も言わず私に別れを告げた。私は何度も人魚の湖に行ったけれど、取り合ってもらえず、現世ではまたカナエと交際していたけど、レタフルのことがどうしても忘れられず、カナエとは上手くいかなかった」
そうだったのか。カナエさんを超える好きな人がアルフォンス王子にいたというわけか。そして、その想いは今でも続いている。
「そうでしたか。あの、レタフルさんて他に交際していた人とかいますか?例えばヨルクさんとか」
「ヨルクではないが、大昔に大恋愛した男がいるとは聞いていた」
「もしかして、レタフルさんて、人間になったりします?」
「ああ、2週間に一度人間になる。私は毎週レタフルが人間になる日を心待ちしていた。レタフルが人間になった夜は朝まで愛し合った」
やっぱり人間になるんだ!私が見た夢、ただの夢じゃないかもしれない。
「私、夢を見たんです。未来の夢でした。ヨルクさんと交際していたのに、ヨルクさんはレタフルさんに心変わりするんです。そのレタフルさんがまさか実在していただなんて、とてもじゃないけど受け入れがたいです」
「そうであったか。未来となると正夢の可能性もあるな。どれだけ愛し合っていても、時が経てば、その人以上に好きになる人も出てくる。ヨルクはどうか分からないが、少なくとも私は、この世で最も美しいのはカナエだと思っていた。けれど、レタフルに会って、その思いは打ち砕かれた。好きで好きでたまらなくて、ずっと一緒にいても飽きるどころか幸せで、出来ることならレタフルが私をフッた理由を知りたい」
カナエさんではなくレタフルさんか。ヨルクさんも、いつか私より好きな人が出来るのかな。
実在なんてして欲しくなかった。けれど、実在していたと聞いたからには、レタフルさんから聞き出せるだけのことは聞き出さないと。
「近いうちに人魚の湖に行くので、レタフルさんとちゃんと話し合ったほうがいいと思います。私もレタフルさんには聞きたいことがたくさんありますので」
「そうだな。随分と時代は流れた。久々に行くなら、あの時のことを全て話し合おうと思う」
人魚の湖行きは私とアルフォンス王子にとっては、精神的かなりダメージを抱くかもしれない。正直、今から気が重たい。けれど、もしかするとアルフォンス王子とレタフルさんの復縁もあるかもしれない。ヨルクさんはレタフルさんを見たらどう思うだろう。
話が終わると私とアルフォンス王子は再び第4居間に戻って行った。
第4居間に入ると、ミナクさんの風俗通いがセナ王女にバレ、セナ王女はミナクさんを責めながらミナクさんを殴り付けていた。メンバーでいると、いつも騒がしい。けれど、1人よりかはきっとマシだ。
そういえば、ミナクさん、妖精村に戻って来てからナナミお姉様の部屋にしょっちゅう出入りしている。
ううん、今はそんなことよりレタフルさんとヨルクさんが本当に恋愛していたかどうかだ。
「強気なナミネ、見ろよ。ラハルが編集した紀元前村での動画が放送されてるぜ」
私はテレビに目を向けた。私たちのサバイバル生活が映っている。
「本当ですね。少しでも多くの人がこれを見て、蓮華町も現代の暮らしが出来るようになるといいですよね」
こんなふうに紀元前村でのサバイバルの映像をみると、私たちが紀元前村に行ったことも無駄ではなかったと思える。私たちが、あの場所で必死に生きたことが大勢の人に伝わってほしい。
「ナミネ、下着変えた?前のはもう着ないの?」
え、どうして今聞くの?いくら彼氏だからってサイズ変わったこと教える必要があるのだろうか。ヨルクさんて、どうしてこんなにデリカシーがないの。
「はい」
「そっか。小さいサイズ売ってるお店見付けたから今度行こうね」
小さいサイズ?ワンサイズ大きくなったのに、どうして気付いてくれないの?ヨルクさんは私と一緒にお風呂入ってても何も思わないのだろうか。結局胸の大きな綺麗な人にしか興味ないのだろう。レタフルさんのこともあるし、私は気分を害していた。
「ヨルクさん、セクハラです!」
私は泣きながら第4居間を出て部屋に戻って行った。
……
あとがき。
古代編でもそうでしたが、やはり紀元前村のサバイバルが終わると気が抜けて、スランプに陥ってしまいました。
けれど、小説は書きたいので、更新遅れてでもゆっくり書いていきたいなあと思っています。
この小説は出来るだけ長く続けたいです。
続けられるかな。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
感染症コロディーが蓮華町に流行り出して3日が経った。看病しているメンバーが疲れて来ているのは目に見えている。コロディーは体内の菌を出し切れば10日で治るそうだが、患者は1日目の夜中に嘔吐だけでなく下痢もするようになり、みんなは患者のお尻も拭きはじめた。
ユメさんは貴族ゆえ、かなり抵抗があるみたいだが、それでも頑張ってくれている。
みんな食事もしているし、20時には寝ているものの、このまま患者の看病をし続ければ、この中のメンバーが感染してもおかしくない。
患者は嘔吐と下痢を何度も繰り返すため、消毒液も半分になった。その時、ユメさん、カラン王子、ミネルナさんが倒れた。
「ユメさん!カラン王子!ミネルナさん!」
私が駆け寄るより前にナヤセス殿とロォハさんが診察をした。疲労からかコロディーに感染していた。私とラルクは3人を結界の中に運んだ。
コロディーは止むどころか悪化している。体内から菌を出そうとしているからだろうか。経口補水液もすぐになくなるから、定期的に作らなくてはならない。
「あの、コロディーはまだ完治の方法が分からない病気ですし、リンゴを使うのもやむを得ないのではないでしょうか」
「ナミネ、僕は全員を必ず救う。リンゴは使わないよ」
ナヤセス殿。あくまで持ち前の医療の知識で治すつもりなのか。それでも、熱の酷い人はナヤセス殿とロォハさんが交互で夜中も診ているから、熱冷ましの薬が与えられ、患者の熱は最高でも41度までで治まってくれている。
みんなは、患者の清潔を常に保った。
私は毎日4時に水を汲んでいる。タライの横にはズームさんの作った石鹸と消毒液を置いているのである。
その時、アヤネさんとアルフォンス王子が顔が真っ青なまま、こちらへ向かって来た。ナヤセス殿が診察したところ、コロディーに感染していた。私とラルクは2人を結界の中へ運んだ。
逃げていても感染する時はする。それが感染症なのだ。
コロディーが流行り出して6日が経つと、患者の体内から菌が減っていた。患者の嘔吐も下痢も水っぽくなっていて、酷い時に比べたら、かなり拭きやすくなったと思う。
ロォラさんが作ってくれた布オムツも活躍していた。
点滴を打つ患者も少なくなり、みんな経口補水液を飲むようにもなって来た。あとひと息、あとひと息だ。私たちは辛いながらも患者を救うため、持ち堪えていた。
けれど、コロディーが終息したら、私たちは妖精村に戻る。2ヶ月近くいたこの蓮華町ともお別れだ。そう思うと少し寂しい。
コロディーが流行り出して14日後、結界にいた患者は全員完治し、金が1回鳴った。
「コロディーが終息したぞ!」
「やっと治った!」
「本当辛かった!」
「これでやっと元の暮らしに戻れる!」
(以下略)
蓮華町にやって来たコロディーは終息した。
私は結界を解き、患者だった人に着替えを配った。コロディーに使用したものはワラの敷物やタライも含め全てゴミ捨て場に捨てた。
メンバーのみんなもエプロンを処分し、新しい服に着替えた。
その時、お姉さん家族が来た。
「ナミネ、今更だけどごめんなさい。あの頃の私は、いいところに生まれたナミネに嫉妬してナミネを妖精村に戻さなかった。今となっては取り返しのつかないことをしてしまったと思っている。謝って済むことではないけれど、謝るしかないわ」
「ナミネ、何度も相談に来てくれていたのに、わざと何もしなくて辛い目に合わせてごめんなさい。ここにいる以上、私の人生は楽しむことさえままならないけど、反省しながら生きていく」
お姉さんと私が産婦人科で取り違えられて、どのくらい経ったのだろう。大昔のこととはいえ、フルートさんから聞いた時はショックだったけど、時を超えて謝ってくれた。私も、お姉さんにはやり過ぎたかもしれない。妖精村に戻ったら、お姉さんに下された皇室の罰は番人にお願いして、なかったことにしてもらう。それでも、ここでの暮らしは辛いだろうけど。
「謝っていただいただけで、もういいです。私は明日ここを発ちます。短い間でしたが再び出会えてよかったです。どうか、お元気に過ごしてください」
「もう帰るのね。もう、同じ過ちは繰り返さない。ナミネ、元気でね」
「私は、また縫い物の仕事をして市場に売るわ。妖精村に戻っても、ここで過ごした時間忘れないでね」
今のお姉さんは、いい人だ。古代のような暮らしを受け入れ必死に生きている。辛い場所ではあるかもしれないけれど、お姉さんには、ここでやるべきことをして生きて欲しい。この町が他の町と同じ暮らしになるまで、諦めないでほしい。
「はい、この町はきっといつか変わります。それまで頑張ってください」
お姉さんと母親は一礼すると家族とともに家に帰って行った。
私とラルクと落ち武者さんは、おばあさんの家に行き挨拶をし、必ずまた来ると言った。私は別れの悲しさからさ、おばあさんに少しの間抱き着いていた。
おばあさんは、妖精村に戻っても、ここでの暮らしは忘れないで今後に役立ててと言っていた。おばあさんとは、妖精村でまた会えるかもしれない。それまで、私はガムシャラに生きる。ここの暮らしで学んだように。
その後、タルリヤさんの家に戻るとフルートさんとヤクゼンさんらしきコビトが別れの挨拶に来た。私は2人とも抱き締めた。泣きながら抱き締め、また会おうと約束をした。
ここでの食事は、これで最後だ。
煮物を作ってくれたタルリヤさんのお母様にも感謝をしないと。
その時、紙飛行機が飛んで来た。私は紙飛行機を開いた。
『この度の働き、ご苦労だった。ナヤセスとロォハの功績を認め、2人を正式な医師に認定する。 紀元前村 皇帝陛下』
中には証明書も入っていた。私は2人に証明書を渡すと同時に紙飛行機の内容も見せた。これで2人は晴れて医師だ。妖精村に帰ったらお祝いをしないと。
翌日、私たちは不要なものは全てゴミ捨て場に捨て、テントを畳んだ。タルリヤさんのお母様に挨拶をすると、みんなナノハナ家のヘリコプターに乗って妖精村へと帰って行った。
最初は、現場を見たら帰るつもりだったけれど、流れで2ヶ月少し、この蓮華町で暮らした。右も左も分からない状況だったし、仲間割れもしたけれど、ガス、電気、水道は全てない。携帯も繋がらない。蓮華町の周りには囲いがあって、隣町にさえ行けない。古代のような暮らしは、これからも続くだろう。その暮らしの厳しさを私たちは身を持って知った。ここで学んだことは絶対に忘れない。
妖精村に戻って、どれだけの日が経っただろう。私は紀元前村での暮らしの疲れが一気に出て、ずっと眠り続けていた。私は寝ぼけながらも、テナロスさんを呼び出し、お姉さんが受けた罰をなかったことにしてもらった。
紀元前村では、毎日のように働いていた私だけど、いざナノハナ家に戻ると、私はまたダラけていた。
そんな私も中学2年生になっていた。また、ラルクと委員長と同じクラスだ。まだまだ人生これからだ。
この先、またヨルクさんといっぱい喧嘩するだろうし、そのたびにどちらも傷つくだろう。それでも私はヨルクさんをもう二度と待たせない。ヨルクさんを心から愛していることを二度と記憶から消さない。まだ、交際して1年も経っていないけど、今ではこんなにも愛おしい。
私にはヨルクさんがいる。
それが生きるみなもとなのだ。
数日後、落ち武者さんを連れてラルクと森の湖南町に行ったら、何故かヨルクさんが後から着いてきて、おじいさんに挨拶をした。ヨルクさんは律儀に取り寄せた高価なお菓子をおじいさんに渡したのだ。その日は、息子さん夫婦やお孫さんも来ていた。1年に1度は里帰りをしているらしい。
おじいさんは相変わらず元気にしていた。おばあさんの話をすると、おじいさんは涙を流していた。おじいさんとしては、おばあさんが転生してもまた一緒になりたい気持ちはあるものの、人が亡くなってから転生するまでには60年から3億年かかる。おじいさんは、いつも愛した人の転生を待っているうちに他に好きな人が出来てしまっていたようだ。どれだけ愛し合ってもいなくなった相方を待つというのは、かなりの忍耐力がいるものだ。妖精村では平均転生するまで100~150年はかかる。そんな年月を1人で待つのは辛い。他に好きな人が出来ても不思議ではないと思う。それでも、またおばあさんが転生した時には一緒になって欲しい。何となくだけど、おばあさんとおじいさんにはずっと愛し合っていてほしい。そんな気がするのだ。
お孫さんといっても、20歳を過ぎていて、その日、私はおじいさんと一緒にお風呂に入った。
紅葉町に戻る時、おじいさんには絶対またいっぱい来ると言った。
翌日、自分の部屋で寝ていた。そして夢を見ていた。
夢の中は未来だろう世界だった。
私とヨルクさんは、当たり前のように恋人だった。けれど、ヨルクさんは次第にナノハナ家に来なくなっていた。
ある日、私がクレナイ家のヨルクさんの部屋に行くと、ヨルクさんは他の女と愛し合っていた。
『ヨルクさん、どういうことですか!』
『ずっと話そうと思ってたんだけど、なかなか話せなくて今になった。ナミネ、ごめん。好きな人が出来た。ナミネとはもう一緒にいられない』
そんな……。ずっと私だけを愛してくれていたヨルクさんが心変わりだなんて、とてもじゃないけど信じられない。また、ハメられたのだろうか。
しかし、番人に聞いても変わったことは何もなく、ヨルクさんは本当に心変わりをしたらしい。番人によると、いくら、大昔からずっと愛し合っていても、いつかはその気持ちも色褪せて少しずつ過去になっていって、別の未来が用意されているらしい。
私はヨルクさんをたぶらかした女が許せなくて、ある夜、ヨルクさんの部屋にカンザシさんを布団に寝かせた。
翌日、ヨルクさんが目を覚ますと、別の布団の中で女とカンザシさんは愛し合っていた。ヨルクさんは、かなりショックを受けたものの、女が事情を説明するとヨルクさんは泣きながら女を許した。
悔しい。
どうしたらヨルクさんを取り戻せるの。
私は嫉妬のあまり、女をナノハナ家に連れて、客間に閉じ込めた。また、岩の結界をかけて外に出れないようにした。
そんなある日、客間を開けると、女は人魚の姿をしていた。女は2週間に一度人魚の姿になるらしい。
私は、人魚の尾ヒレを切り落とした。人魚は悲鳴をあげた。その時、ヨルクさんが来た。
『どうしてこんなことするの!結界解いて!病院連れていくから!』
『解きません!私、ヨルクさんがいないとダメなんです!心変わりしないでください!私のところへ戻ってきてください!』
『ナミネって最低だね。私の好きな人にこんなことして!大嫌いだよ』
ヨルクさんが私に対して思ったこともない感情。ヨルクさんを奪ったこの女が憎くて仕方がない。けれど、時間が経つごとに尾ヒレの切断によって人魚は人間に戻れなくなるらしい。
『お願い!元に戻して!このままだと人間に戻れないわ!』
『戻しません!この泥棒猫!』
そのまま朝が来ると人魚は倒れていた。
『レタフルさん!』
『ヨルク……愛してる……この先もずっと……私を忘れないで……』
人魚は息を引き取った。
ヨルクさんは大粒の涙を零しその場に崩れた。
『レタフルさん、行かないで……愛してる……』
『ヨルクさん、目を覚ましてください!』
その瞬間、ヨルクさんは私を引っぱたいた。
『よくこんなことが出来たよね!ナミネのこと一生恨むから!』
その後、クレナイ家に行ってもヨルクさんは会ってくれず、私はひたすらヨルクさんが部屋を出るのを待って話しかけたが全て無視をされた。
『ヨルクさん、無視しないでください!』
翌日、目を覚ますと書き置きがしてあった。
《天の川村に引っ越します。さようなら。
ヨルク》
『ヨルクさん!!』
私は走ってクレナイ家に向かったがヨルクさんは既に妖精村を出たあとだった。
もし、私があの女のこと我慢していれば、片想いでもヨルクさんの傍にいられたの?
全て私が悪いの?
どうしてヨルクさんは心変わりしてしまったの?
片想いでも私はそれで耐えられたの?
「お願い、ヨルクさん行かないで!!」
気が付くと私は目を覚ましていた。
部屋には誰もいない。
「ヨルクさん!ヨルクさん!ヨルクさん!」
私は慌てて布団から出た。
「あんた、どんな夢見てたんだよ。すんごいうなされてけど?」
落ち武者さん、いたんだ。
「あの、夢の中でヨルクさんが心変わりしたんです!」
「ただの夢だろ」
確かに夢だったけど、物凄くリアルだった。
「夢の中は未来でしたが、私たちは人魚の湖に行きますよね?もし、その時にレタフルという人魚がいたら……」
「未来で顔だけヨルクは、その人魚に乗り換えたんだな?だったら、そのレタフルって野郎がいたら本人に聞くしかないな」
そうだよね。夢のことだけで判断しても仕方ないけれど、本当にいたら怖い。ヨルクさんとは、どんな関係だったのだろう。やっぱり恋人かな。夢の内容が本当なら、ヨルクさんが心変わりした理由が知りたいのだけど、どうすればいいのだろう。
「ヨルクさんが心変わりした理由が知りたいです!」
「あんた、流石に焦りすぎ。明日はナヤセスとロォハの医師免許取得祝いだし、そもそも心変わりしたかなんて、その話だけでは判断し兼ねる。とにかく、あんたは明日のことだけ考えろ!顔だけヨルクは何だかんだで、ずっと、あんたを愛してきたんだ!」
そうは言われても、やっぱり気になってしまうのが乙女心。私はヨルクさんみたいに、いつまでも待てる人ではない。ヨルクさんの心が私から離れてしまえば私は他の人を好きになるかもしれない。それでも、ヨルクさんとはやっとの思いで恋人になれたのだから心変わりなんて絶対にいや。
「分かってるんですけど……」
「もうすぐ夕飯だから第4居間行くぞ」
あれ、部屋で食べないのだろうか。私は落ち武者さんに言われるまま第4居間に向かった。
第4居間では、何故か過半数のメンバーが集まっていた。
「あ、皆さん、いらしてたんですね」
「やっぱり、紀元前村の暮らしの名残が残っちゃって」
セナ王女、あれからミナクさんとはどうなったのだろう。ミナクさんはナナミお姉様と話しているけれど、ミナクさんとセナ王女のその後の恋愛事情全く知らないや。
「あー、ですよね」
「ナミネ、銀のリンゴはヨルクが持ってて、金のリンゴ1つはセナ王女、もう1つは私が持ってるけど、それでいいかしら?」
そういえば、病気を治すリンゴもらったんだっけ。
「はい、それで構いません」
あんな夢を見ただけにヨルクさんが同じ空間にいると気まずい。
「あの、この中でレタフルという人魚を知っている方いますか?」
「名前は知ってるけど、それ以上知りたかったら2人で話してくれる?」
って、実在してるの!?凄く怖いけど聞くしかない!
「はい、お願いします」
私とアルフォンス王子は第4居間を出て適当な客間に向かった。
客間に入ると、お互い座布団に座った。
この時、別の客間でラルクが闇の結界をかけて、落ち武者さんとヨルクさんが私とアルフォンス王子の話を盗み聞きしていることは全く知らなかったのである。
結界なんて遠い昔に消滅したのに、また復活するなんて思ってなかった。結界があると有利な面、盗み聞きし放題な気がして微妙な気持ちだ。
「レタフルとはカナエと出会った後に人魚の湖で知り合った。ひと目見るなり恋に落ち、私は毎日人魚の湖に通うようになっていた。そのうちにレタフルと両想いになってカナエに別れを告げた。レタフルと知り合ってからは何度転生してもカナエがどうしても2番になってしまって、今でもレタフルを忘れられずにいる」
人物を変えれば私が見た夢そのまんまだ。人魚の湖にいるだなんて会うのめちゃくちゃ気まずい。けれど、会ってレタフルさんからも話を聞かないと。
「そうでしたか。アルフォンス王子にそのような過去があったとは知りませんでした。どうして今はレタフルさんとは交際していないのですか?」
「私とレタフルは確かに愛し合っていた。けれど、ある日、レタフルは理由も言わず私に別れを告げた。私は何度も人魚の湖に行ったけれど、取り合ってもらえず、現世ではまたカナエと交際していたけど、レタフルのことがどうしても忘れられず、カナエとは上手くいかなかった」
そうだったのか。カナエさんを超える好きな人がアルフォンス王子にいたというわけか。そして、その想いは今でも続いている。
「そうでしたか。あの、レタフルさんて他に交際していた人とかいますか?例えばヨルクさんとか」
「ヨルクではないが、大昔に大恋愛した男がいるとは聞いていた」
「もしかして、レタフルさんて、人間になったりします?」
「ああ、2週間に一度人間になる。私は毎週レタフルが人間になる日を心待ちしていた。レタフルが人間になった夜は朝まで愛し合った」
やっぱり人間になるんだ!私が見た夢、ただの夢じゃないかもしれない。
「私、夢を見たんです。未来の夢でした。ヨルクさんと交際していたのに、ヨルクさんはレタフルさんに心変わりするんです。そのレタフルさんがまさか実在していただなんて、とてもじゃないけど受け入れがたいです」
「そうであったか。未来となると正夢の可能性もあるな。どれだけ愛し合っていても、時が経てば、その人以上に好きになる人も出てくる。ヨルクはどうか分からないが、少なくとも私は、この世で最も美しいのはカナエだと思っていた。けれど、レタフルに会って、その思いは打ち砕かれた。好きで好きでたまらなくて、ずっと一緒にいても飽きるどころか幸せで、出来ることならレタフルが私をフッた理由を知りたい」
カナエさんではなくレタフルさんか。ヨルクさんも、いつか私より好きな人が出来るのかな。
実在なんてして欲しくなかった。けれど、実在していたと聞いたからには、レタフルさんから聞き出せるだけのことは聞き出さないと。
「近いうちに人魚の湖に行くので、レタフルさんとちゃんと話し合ったほうがいいと思います。私もレタフルさんには聞きたいことがたくさんありますので」
「そうだな。随分と時代は流れた。久々に行くなら、あの時のことを全て話し合おうと思う」
人魚の湖行きは私とアルフォンス王子にとっては、精神的かなりダメージを抱くかもしれない。正直、今から気が重たい。けれど、もしかするとアルフォンス王子とレタフルさんの復縁もあるかもしれない。ヨルクさんはレタフルさんを見たらどう思うだろう。
話が終わると私とアルフォンス王子は再び第4居間に戻って行った。
第4居間に入ると、ミナクさんの風俗通いがセナ王女にバレ、セナ王女はミナクさんを責めながらミナクさんを殴り付けていた。メンバーでいると、いつも騒がしい。けれど、1人よりかはきっとマシだ。
そういえば、ミナクさん、妖精村に戻って来てからナナミお姉様の部屋にしょっちゅう出入りしている。
ううん、今はそんなことよりレタフルさんとヨルクさんが本当に恋愛していたかどうかだ。
「強気なナミネ、見ろよ。ラハルが編集した紀元前村での動画が放送されてるぜ」
私はテレビに目を向けた。私たちのサバイバル生活が映っている。
「本当ですね。少しでも多くの人がこれを見て、蓮華町も現代の暮らしが出来るようになるといいですよね」
こんなふうに紀元前村でのサバイバルの映像をみると、私たちが紀元前村に行ったことも無駄ではなかったと思える。私たちが、あの場所で必死に生きたことが大勢の人に伝わってほしい。
「ナミネ、下着変えた?前のはもう着ないの?」
え、どうして今聞くの?いくら彼氏だからってサイズ変わったこと教える必要があるのだろうか。ヨルクさんて、どうしてこんなにデリカシーがないの。
「はい」
「そっか。小さいサイズ売ってるお店見付けたから今度行こうね」
小さいサイズ?ワンサイズ大きくなったのに、どうして気付いてくれないの?ヨルクさんは私と一緒にお風呂入ってても何も思わないのだろうか。結局胸の大きな綺麗な人にしか興味ないのだろう。レタフルさんのこともあるし、私は気分を害していた。
「ヨルクさん、セクハラです!」
私は泣きながら第4居間を出て部屋に戻って行った。
……
あとがき。
古代編でもそうでしたが、やはり紀元前村のサバイバルが終わると気が抜けて、スランプに陥ってしまいました。
けれど、小説は書きたいので、更新遅れてでもゆっくり書いていきたいなあと思っています。
この小説は出来るだけ長く続けたいです。
続けられるかな。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 87話
《ナミネ》
16時。
テントの中では重たい空気が漂っていた。
果樹園から戻る時には大雨は小降りになっていて、朝、私が汲んだ水はタルリヤさんが家の中に入れてくれたらしい。
「率直に言うわ!アルフォンス王子、これからは果物係は任せられない。加熱係に回ってちょうだい」
「それは出来ない。私はそのような屈辱を味わえない」
やはり、簡単に果物係を引退はしてくれないか。加熱係だって十分ハードル高い役割なのに。
「じゃあ、これから何をするのかしら?何もしない人には新鮮な食事は与えられないわ」
「それでも構わない。他の役割をするくらいなら死んだほうがマシだ」
何だその軍人のような考え方は。カラン王子でさえ洗濯をしているというのに、アルフォンス王子はカッコばかり気にしている。こんなことでは、次の国王はカラン王子に決まったようなものではないか。
その時、金のリンゴの成分を調べ終えたナヤセス殿がリリカさんにリンゴを戻した。
「ナヤセス殿、金のリンゴは全ての病気を治せるのですよ」
「そうみたいだね。これはまさに新種だ。帰ったら量産出来ないかハル院長に話したいと思う」
ナヤセス殿は運動神経は全然だけれど、持ち前の知識で、ここでは好奇心いっぱいに過ごしている。とてもイキイキしていると思う。
「そうね、いきなりのことで気持ちの整理もすぐにはつかないだろうから、何日か考えてちょうだい」
誰でもそう言うしかないだろう。その日に割り切れるものではない。もし、アルフォンス王子が、ここで何かしら作業をする気になれるのなら、ここは本人に現状と向き合ってもらうしかないだろう。
あれ、セレナールさんの下着がまた変わっている。別に持って来ていたのだろうか。それにしても、指定の下着を付けないなんて、私は認められない。
「あの、セレナールさん、その下着どうしたんですか?私言いましたよね?指定の下着つけるようにと。公衆浴場でも分かったように、ここには、とんでもないイジワル魔もいます。そのように透けるものを着られては迷惑です」
「だって、ここの下着ダサイんだもん。下着なら他の町の売れ残りが入って来て市場でセールしてるわよ」
他の町のものが、ここで売られているのか?セレナールさんの着ている下着は確かに現代物だ。他にも何か、ここで役立つものが売られているだろうか。
「ねえ、ラルク。市場行ってみようよ」
「そうだな。他の町のものが手に入る機会なんて、そうそうないからな」
「じゃ、僕も行く」
市場に行くメンバーは、私とラルク、落ち武者さん、ヨルクさん、リリカさん、ロォラさん、ズームさんが行くことになった。
市場に行くと、はじまったのが昨日かして、品物は少なくなっていた。えっと、カーディガンとセーターは確保しておいたほうがいいだろう。あ、米も売っている。他の客に取られないようロォラさんが手に持った。
「じゃ、確認する。カーディガン2つ、セーター3つ、ニット帽2つ、米10キロ、紅茶の茶葉20グラム、マグボトル3つ、栄養ドリンク10本でいいな?」
初日はもっとあったのだろうか。あのガタイの大きい男にとらわれすぎていた。セレナールさんも教えてくれたら良かったのに。
「はい、それでお願いします」
落ち武者さんは店主にお金を支払った。
その時、公衆浴場で会ったお姉さんがいた。お母様と着ているのだろうか。
「あ、お姉さん」
私が声をかけるとお姉さんの母親は怪訝した。
「あら、今も蓮華町暮らしなのかしら?こんなところで見たくもない顔を見るだなんてね。我が子じゃない子を5年も育ててやったのに恩知らずが!」
この人が……この人が、本当の子供が見つかるなり私を捨てたんだ。お姉さんも、私が追い出されて、そのまま知らぬフリして暮らしていたのだろうか。
「あの、よくもヌケヌケとそんなこと言えますね!ナノハナ家に私を届ける約束はどうしたんですか?そもそも、どうして私を追い出したのですか!」
「ナノハナ家?そんな約束したかしらね?あなたは私の我が子じゃないの!とやかく言わないでくれるかしら?それにあなたと娘は何度も取り違えられたわ!」
何度も取り違えられた?1回だけじゃないの?それにしても酷い言い方。私は知らない村で1人きりで心細く暮らしていたというのに。許せない。許せない。許せない。
私はお姉さんが縫い物をして作った衣類に扇子で穴をあけ、ウジ虫をつけた。
「あ、おばさん、この衣類不良品ですよ!」
「あら、本当だわね。昨日見た時はこんなんじゃなかったのに。これでは売り物にならないから捨てるしかないわね」
こんなことだけでは私は許さない。
「え、何?どうなっているの!?」
「あの、お姉さん。私、大昔に産婦人科であなたと取り違えられたんです!でも、あなたの家族があなたを見つけるなり5歳だった私は家から追い出された。それなのにお姉さんは助けてもくれなかったんですか!私は空き家で1人で心細く暮らしている中、お姉さんはぬくぬくと暮らしていたんですね」
公衆浴場では暮らしは酷いと言っていたけれど、お姉さんは、ここで幸せに暮らしてたんじゃない。大昔とはいえ、私は確かに生きていた。生きていたんだよ。
「ごめんなさい。そんなことがあったなんて全く知らなかった。償いはするから、許してくれないかしら?」
お姉さんも私を見捨てた1人だ。許せるわけがない!
私は紀元前村の皇室に紙飛行機を飛ばした。数分すると返事は帰ってきた。私は紙飛行機を開いた。
『シリアを50年死ねない身体にして、蓮華町のど真ん中で公開赤花咲に処する』
私は皇帝陛下からの文をお姉さんに見せた。
「皇帝陛下の決断は絶対です!逃げても無駄です!人を辱めたら自分が辱め返されるんです!私をあんな目に合わせた以上、もっと苦しみながら生きてください」
「本当にごめんなさい!あなたの家にはちゃんと謝りに行く!だから助けて!!こんな屈辱受けたら生きていけない!!」
妖精村もそうだけれど、紀元前村にも復讐権が存在する。誰かに家族を殺されたり、誘拐されたり、過度なイジメを受けたりなど、酷いことをされ、暮らしに支障が出たり、精神的に立ち直れなくなるなどの困難に陥れば、自分を陥れた人を復讐する権利が与えられるのである。
「50年は生きられるからいいじゃないですか」
「お願い、許して!母さん、謝って!出ないと、私の人生が奪われるわ!」
「結婚しないなら誰かに授けてもらえばいいじゃないの。私は悪くないから謝らないわ!」
こんな下賎な親なら町の評判も悪いだろう。娘1人大切に出来ないのか。お姉さんも運のない人だ。
「謝らないなら、皇帝陛下の罰は受けてもらいます!」
「待って!私は本当に何も知らないの!母さん、お願いだから謝って!」
その時、落ち武者さんが、ある映像を見せた。
映像はかなり古いものだった。少なくとも妖精村時代ではないだろう。
妖精村の紅葉町の産婦人科にて私とお姉さんは取り違えられた。紀元前村の蓮華町に住む、お姉さんの母親は私を我が子だと思い家に連れて帰った。
私は、お姉さんの家で、腐った煮物を食べていた。それでも、家族は私を可愛がってくれた。
けれど、私が5歳になった頃、妖精村の紅葉町の産婦人科から連絡があり、私とお姉さんが取り違えられたことが分かった。お姉さんの家族は、すぐにお姉さんを迎えに行った。
そして、私はお姉さんの家から追い出され空き家で住むことになる。
私は何度もお姉さんの家に行ったが、お姉さんの母親が私を育てることを認めず、私の家は一夜にしてなくなってしまった。
ある日私はお姉さんに相談した。
『あの、助けてもらえないでしょうか?私、まだ5歳で、とてもじゃないけど、1人では暮らしていけないんです』
『分かった。私から母に話してみる』
私はその言葉を何日も何ヶ月も信じて待ち続けた。けれど、市場でお姉さんを見かけるたび、お姉さんは平然としていた。
『あの、相談の件どうなったでしょうか?』
『ごめんなさい。母がどうしても、その話をするとヒステリーを起こすの。何も出来なくて本当にごめんなさい』
お姉さんも私のことを救えなかった。
『そうですか』
2年経った頃、私はお姉さんと、その友人との会話を聞いてしまった。
『ねえ、シリア。妹追い出したって本当?』
『妹なんかじゃないわ。母さんは産んでないもの。それに母さんは、あの子が武家のお嬢様と知って、わざと妖精村に返さないのよ。なんかちょっといい気味。私がこんなに苦労しているのに、あの子だけ楽に暮らすなんて許せないもの』
『でも、本当の親が知ったら不味いんじゃないか?』
『シラを切り通すに決まってるじゃない。あの子は、ここで1人で苦労すればいいわ。助けてあげるもんですか』
お姉さんたちの会話を聞いた私は泣きながら、家でもない空き家に戻った。
映像はそこで途切れていた。
なにが何も知らないだ。母親と共犯して私をイジメていたんじゃない。この映像を見た以上は、絶対にお姉さんを許さない。
「あんた、罰受けろ」
「許して!ここの暮らしが辛くて、この子に嫉妬してしまったのよ!お願い、赤花咲だけは見逃して!」
許すもんですか!あの時、私が苦しんだ分、今度はお姉さんが苦しめばいい。
「お姉さん、人を辱めれば、時を超えて自分が辱められるものですよ」
「お願い、あなたの家にはちゃんと謝りに行く!だから許して欲しい!」
その時、皇室の武官が来た。
「これより、皇帝陛下の命により、シリアを赤花咲とする!」
内官が読み上げたあと、ものの一瞬だった。40代くらいの太った武官はお姉さんを赤花咲した。お姉さんは、途中で気絶したが、終わった後に内官に水をかけられ、目を覚ました。
「いやぁあああああああああ!!!見ないで!!!!」
お姉さんは叫んだものの、後の祭りであった。市場に来ていた多くの町の人がバッチリ罰を見ていたのだ。お姉さんは、あっという間にこの町の笑いものになった。
「お姉さん、あの時はあなたの嫌がらせで妖精村に帰れませんでしたが、私、今、婚約者もいて、学校も楽しくて幸せなんです。お姉さんも幸せになってくださいね」
最後に私はそう言い残した。
お姉さんは、ただただ無言で悲鳴を上げていた。
ちなみに、私とお姉さんの年齢は、やはり当時も同じだけ差があった。聞くところによると、お姉さんは未熟児で成長も遅く、大きかった私と取り違えられたそうだ。
復讐なんてしないほうがいい。幸せになることが1番の復讐などと戯れ言を言う者もいるが、復讐権がある限り、私は私なりに公平な判断をしていく。
黙ったままでは、同じように私自身が生きられなくなってしまう。生きるということは白黒問わず公平を保つことの中に存在している。
「じゃ、帰る」
私は米を、ラルクは栄養ドリンクを、他の人は適当に品物を持ち、私たちはタルリヤさんの家に向かった。
店仕舞いの準備はじめていたから少しでも買うことが出来てよかったのかもしれない。
「ここはチームワークを大切にしてもらわないと困るわ。市場のセールを教えなかったセレナールには米も紅茶も栄養ドリンクも与えない。カーディガンやセーターは必要な人が使って」
私はすかさずヨルクさんにセーターを着せた。下に履いてるステテコもどきとは全然合わないけれど。
「ありがとう、ナミネ。でも、私は大丈夫だからナミネが着て」
「昼間は比較的温かいので私は今のままで大丈夫です」
色んなことを聞いた私は頭の中がぐちゃぐちゃになって、ヨルクさんに抱き着いた。
その後、果物も薬草も順調に採取され、加熱によって料理となった。洗濯係も洗い物係もサボらず働いてくれて、サプリメントも紙も市場では人気となり、売るたびに多くのお金が入って来た。
けれど、あの日以来、アルフォンス王子は何もしなくなってしまった。
ちなみに、あの後お姉さんは、母親に無理に市場に連れて行かれるものの、そのたびに悲鳴をあげ、周りの迷惑となった。縫い物の件も信用を失い、あの一家は町の人のイジメの対象になったのであった。
人は、おじいさんみたいに儀式で人魚の肉を食べて不老不死となり、ずっと生き続ける人もいれば、そうでなくても、初代前世からずっと繋がっている。いくら、昔、大昔とはいえ、人に対してよくないことをしてしまえば、何らかの形で自分に返ってくる。死んだらそこで終わりではないのだ。消された記憶は、そのうち蘇り、償わなかったものに関してはいつかは償わなくてはならない。転生したからといって人にしたことが消えるわけではない。お姉さんには、今すぐでなくても人を辱めた罪を現世にて償ってくれればと思う。
金がなっている。
町が荒れている。
「コロディーだ!」
「今すぐ避難所に行け!」
「コロディーだ、コロディーだ!」
「怖い!」
この町に来て、ひと月半が経とうとしている。こんなにも早くコロディーがやって来るとは思わなかった。
コロディー。主な症状は下痢で、それが悪化すると下痢と嘔吐を繰り返す。そして、そのうちに酷い脱水症状が起きる。下痢が多く排泄されてしまうためだ。ここまでは、コロリに似ている。しかし、コロディーはコロリとは違って発熱がある。それも酷い時は46度も熱が出て、生死を彷徨う。
コロディーもコロリと同じで感染症である。感染した人は隔離する必要がある。ひとたびコロディーが流行れば、町の病院は患者でいっぱいになり、入り切らなかった患者は外に敷かれたワラに寝かされる。
かつてのカナエさんたちが患者の世話をしていた時は医師免許なんて必要なかった。けれど、現代は違う。医師免許なしでの医療行為は問題に問われてしまう。
皇帝陛下にナヤセス殿とロォハさんの医療行為の許可をもらわないと。
「皆さん、感染症コロディーがやってきました!持って来た不織布マスクをマスクカバーに挟んでつけてください!不織布マスクだけでは大量の汗をかくことが予測されますので!マスクカバーは少なくとも2日に1度は替えてください!洗濯は各々でするように!病院はここから5キロもあるため、感染した患者は近くの人で溢れかえるでしょう。まずは感染している隣人を1箇所に集め、結界をかけます!いくら暮らしが古代とはいえ、無免許の医療行為は認められません!今すぐ、紀元前村と妖精村の皇室にナヤセス殿とロォハさんの医療行為の許可を申請します!皆さんは経口補水液を作ってください!ラルク!」
私は、ナヤセス殿とロォハさんの経歴を紙飛行機に挟むと紀元前村の皇室に飛ばした。問題は、妖精村に飛ばす方法だ。ここからでは少なくとも1週間かそれ以上はかかるだろう。
「ラルク、妖精村の皇室にどうやって飛ばそう」
「少なくとも、時速300キロで飛んでもらわないとな」
時速300キロ。もはや新幹線レベルだ。そのような速度で飛ばすことは出来ない。どうすればいいのだろう。
「ラルク、そんな速度で飛ばせないよ」
「セナ王女、すみませんがこの紙飛行機を時速300キロくらいで妖精村の皇室に飛ばしてもらえませんか?」
ラルクはセナ王女に紙飛行機を渡した。
「分かったわ!」
セナ王女は、妖精村の皇室に紙飛行機を飛ばした。
……。
物凄い猛スピードだ。はやり、セナ王女は遠い昔の力量は残っている。こんなスピードで紙飛行機を飛ばせるのは、このメンバーの中ではセナ王女くらいしかいないだろう。
20分後、紀元前村の皇室から紙飛行機が飛んで来た。45分後、妖精村の皇室から紙飛行機が飛んで来たのである。
私は紙飛行機の中を開いた。
『ナヤセスとロォハのコロディーに対する医療行為を認める。紀元前村 皇帝陛下』
『ナヤセスとロォハのコロディーに対する医療行為を認める。妖精村 皇帝陛下』
やった!これで、ここには2人の医者がいるも同然だ。
「ナヤセス殿、ロォハさん、コロディーに対しての医療行為が認められました。感染者の診察をお願いします。他の皆さんは疎らにタライを置いて、水に塩と砂糖を入れてください」
紙飛行機を飛ばしている間に、リリカさんたちが感染者をワラに寝かせ、岩の結界をかけてくれていた。もう既に嘔吐をしている人がいる。私は、ヨルクさんが作ってくれたマスクカバーにマスクを通して付けると、通し(とおし)でタライを置きに行った。
ふとテントを確認すると、セレナールさんとアヤネさん、カンザシさん、アルフォンス王子が、何もしないまま寝袋に入っていた。
「あの、4人ともコロディーで町が大変なんです。看病手伝ってもらえませんか?」
「私も具合悪いのよ!」
「怖いです」
「無理です」
「手伝うことは出来ない」
4人とも何なの。寝袋に入っているからといって感染を防げるわけではないのに。他のメンバーは必死で経口補水液を作っている。ここで口論している暇はない。私も感染者の面倒を見なければ。私は再びテントから出た。
外は感染者が増えている。結界かけて隔離しているのに。
「皆さん、患者さんに触れたあとは、必ず持って来た消毒液で消毒してください」
私は感染者が吐いたあとの口元を拭いてから感染者に、持って来た薄型のオムツを履かせた。
「カナエさん、ナルホお兄様、熱の酷い患者には、熱を冷ます薬草を煎じたものを与えてもらえませんか?」
麻黄、杏仁、桂枝、甘草。これを調合したものが現代で言うところの麻黄湯だ。普段飲む機会なんて今ではないけれど、昔の人は熱が強くなった時に飲んでいたんだなあ。
「分かりましたのです」
「分かった」
薬のことはカナエさんとナルホお兄様に任せるとして……。
「ねえ、ラルク、セレナールさんと、アヤネさん、カンザシさん、アルフォンス王子が寝袋に入っているよ」
「放っておけ。ここに来てもどうせ何もしないだろ」
だよね。ここまで何もしない人、はじめて見た。ナノハナ家での私みたい。アルフォンス王子は帰ったらしばらくはトラウマに苦しむだろうか。
「患者の手をシートで拭いて、シートがなくなったら、消毒液を布に付けて拭いてあげてください。布はハギレがたくさんあるため、一度使ったものは捨ててください。くれぐれも自分の消毒を忘れないでください」
「ナミネ、消毒液なんだけど、1人1つの持って来たものだけなのよね。今は足りているけれど、そのうちなくなると思うわ」
そうか。消毒液はサバイバルリュックに入れてきたものだから市場には売っていない。
「消毒液がなくなったらズームさんが作った石鹸を使ってください。患者の手を拭く時も患者の手に石鹸を付けたら、水で濡らした布で拭いてください。紙オムツもなくなった時に誰か布オムツを作っていただけませんか?」
下痢と嘔吐を1日に何度も繰り返すなら紙オムツも、そのうちなくなる。補充をしないと。
「分かった。私が作る」
「では、ロォラさんにお願いします。患者の汚れたお尻は水を濡らした布で1日に数回拭いてあげてください」
完全に汚れ作業だ。これでは、こちらもいつ感染してもおかしくない。ナヤセス殿とロォハさんは経口補水液を飲めない人に点滴を打っている。吐いたり下したりすると、体内の水分がなくなる。だから、定期的に経口補水液を与える必要がある。今は嘔吐だけだけれど、そのうち下す人も出てくるだろう。
みんなとても苦しそうだ。けれど、誰1人死なせたりはしない。
「皆さん、エプロンは必ず付けてください。患者の嘔吐なとで服が汚れてしまうと厄介ですので」
「うん、分かった」
「分かったわ」
「りょーかい」
「ああ、分かった」
(以下略)
これでみんなエプロンを付けた。本当は病院にあるような作業着があればいいのだけど、この町にはまず存在しない。この町の病院には医師のみに白衣は配布されているが、看護師には何も配布されない。女は薄いワンピース、男は薄いステテコもどきの上にエプロンを付けるといった心細いものだけれど、ないよりかはマシだ。
そういえば、遠い昔、占い師が遠い未来にコロナという感染症が流行ると言っていた。デマなのか本当なのか分からないけれど、コロディーでさえ未だに完治する方法は見つかっていないらしい。蓮華町以外の町では、試験的に開発されたワクチンを受けているらしい。けれど、そのワクチンは蓮華町だけには配布されない。
その時、お姉さん家族が来た。弟さんも一緒だ。
「病院は満員で治療薬も尽きたみたい。ここで治療してるって聞いて来たの。どうか助けて」
家族全員が感染したパターンか。私は通し(とおし)を使って空いているところにワラの敷物を敷いた。
「この紙オムツを履いて、あのワラの敷物に横になってください」
会いたくなかったけれど、死なせるわけにもいかない。弟さんは私くらいの年齢の子が3人いる。お姉さん家族は通し(とおし)で結界の中に入った。
みんな、これから一日中患者の看病をすることになるだろう。料理を作っている余裕などない。しばらくはドライフルーツや干し肉、干し魚などでしのいでいくしかない。
……
あとがき。
しばらくイラストのほうに集中していて、更新遅れました。
コロナじゃないけど、コロディーは遠い昔、カナエたちが感染者を看病していたのだ。The 古代編。
ずっと続いている感染症なのに今でも完治する方法が見つからないなんて、今後のコロナみたいだな。
今後もイラストは描くけど小説も定期的に更新していくよ!
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
16時。
テントの中では重たい空気が漂っていた。
果樹園から戻る時には大雨は小降りになっていて、朝、私が汲んだ水はタルリヤさんが家の中に入れてくれたらしい。
「率直に言うわ!アルフォンス王子、これからは果物係は任せられない。加熱係に回ってちょうだい」
「それは出来ない。私はそのような屈辱を味わえない」
やはり、簡単に果物係を引退はしてくれないか。加熱係だって十分ハードル高い役割なのに。
「じゃあ、これから何をするのかしら?何もしない人には新鮮な食事は与えられないわ」
「それでも構わない。他の役割をするくらいなら死んだほうがマシだ」
何だその軍人のような考え方は。カラン王子でさえ洗濯をしているというのに、アルフォンス王子はカッコばかり気にしている。こんなことでは、次の国王はカラン王子に決まったようなものではないか。
その時、金のリンゴの成分を調べ終えたナヤセス殿がリリカさんにリンゴを戻した。
「ナヤセス殿、金のリンゴは全ての病気を治せるのですよ」
「そうみたいだね。これはまさに新種だ。帰ったら量産出来ないかハル院長に話したいと思う」
ナヤセス殿は運動神経は全然だけれど、持ち前の知識で、ここでは好奇心いっぱいに過ごしている。とてもイキイキしていると思う。
「そうね、いきなりのことで気持ちの整理もすぐにはつかないだろうから、何日か考えてちょうだい」
誰でもそう言うしかないだろう。その日に割り切れるものではない。もし、アルフォンス王子が、ここで何かしら作業をする気になれるのなら、ここは本人に現状と向き合ってもらうしかないだろう。
あれ、セレナールさんの下着がまた変わっている。別に持って来ていたのだろうか。それにしても、指定の下着を付けないなんて、私は認められない。
「あの、セレナールさん、その下着どうしたんですか?私言いましたよね?指定の下着つけるようにと。公衆浴場でも分かったように、ここには、とんでもないイジワル魔もいます。そのように透けるものを着られては迷惑です」
「だって、ここの下着ダサイんだもん。下着なら他の町の売れ残りが入って来て市場でセールしてるわよ」
他の町のものが、ここで売られているのか?セレナールさんの着ている下着は確かに現代物だ。他にも何か、ここで役立つものが売られているだろうか。
「ねえ、ラルク。市場行ってみようよ」
「そうだな。他の町のものが手に入る機会なんて、そうそうないからな」
「じゃ、僕も行く」
市場に行くメンバーは、私とラルク、落ち武者さん、ヨルクさん、リリカさん、ロォラさん、ズームさんが行くことになった。
市場に行くと、はじまったのが昨日かして、品物は少なくなっていた。えっと、カーディガンとセーターは確保しておいたほうがいいだろう。あ、米も売っている。他の客に取られないようロォラさんが手に持った。
「じゃ、確認する。カーディガン2つ、セーター3つ、ニット帽2つ、米10キロ、紅茶の茶葉20グラム、マグボトル3つ、栄養ドリンク10本でいいな?」
初日はもっとあったのだろうか。あのガタイの大きい男にとらわれすぎていた。セレナールさんも教えてくれたら良かったのに。
「はい、それでお願いします」
落ち武者さんは店主にお金を支払った。
その時、公衆浴場で会ったお姉さんがいた。お母様と着ているのだろうか。
「あ、お姉さん」
私が声をかけるとお姉さんの母親は怪訝した。
「あら、今も蓮華町暮らしなのかしら?こんなところで見たくもない顔を見るだなんてね。我が子じゃない子を5年も育ててやったのに恩知らずが!」
この人が……この人が、本当の子供が見つかるなり私を捨てたんだ。お姉さんも、私が追い出されて、そのまま知らぬフリして暮らしていたのだろうか。
「あの、よくもヌケヌケとそんなこと言えますね!ナノハナ家に私を届ける約束はどうしたんですか?そもそも、どうして私を追い出したのですか!」
「ナノハナ家?そんな約束したかしらね?あなたは私の我が子じゃないの!とやかく言わないでくれるかしら?それにあなたと娘は何度も取り違えられたわ!」
何度も取り違えられた?1回だけじゃないの?それにしても酷い言い方。私は知らない村で1人きりで心細く暮らしていたというのに。許せない。許せない。許せない。
私はお姉さんが縫い物をして作った衣類に扇子で穴をあけ、ウジ虫をつけた。
「あ、おばさん、この衣類不良品ですよ!」
「あら、本当だわね。昨日見た時はこんなんじゃなかったのに。これでは売り物にならないから捨てるしかないわね」
こんなことだけでは私は許さない。
「え、何?どうなっているの!?」
「あの、お姉さん。私、大昔に産婦人科であなたと取り違えられたんです!でも、あなたの家族があなたを見つけるなり5歳だった私は家から追い出された。それなのにお姉さんは助けてもくれなかったんですか!私は空き家で1人で心細く暮らしている中、お姉さんはぬくぬくと暮らしていたんですね」
公衆浴場では暮らしは酷いと言っていたけれど、お姉さんは、ここで幸せに暮らしてたんじゃない。大昔とはいえ、私は確かに生きていた。生きていたんだよ。
「ごめんなさい。そんなことがあったなんて全く知らなかった。償いはするから、許してくれないかしら?」
お姉さんも私を見捨てた1人だ。許せるわけがない!
私は紀元前村の皇室に紙飛行機を飛ばした。数分すると返事は帰ってきた。私は紙飛行機を開いた。
『シリアを50年死ねない身体にして、蓮華町のど真ん中で公開赤花咲に処する』
私は皇帝陛下からの文をお姉さんに見せた。
「皇帝陛下の決断は絶対です!逃げても無駄です!人を辱めたら自分が辱め返されるんです!私をあんな目に合わせた以上、もっと苦しみながら生きてください」
「本当にごめんなさい!あなたの家にはちゃんと謝りに行く!だから助けて!!こんな屈辱受けたら生きていけない!!」
妖精村もそうだけれど、紀元前村にも復讐権が存在する。誰かに家族を殺されたり、誘拐されたり、過度なイジメを受けたりなど、酷いことをされ、暮らしに支障が出たり、精神的に立ち直れなくなるなどの困難に陥れば、自分を陥れた人を復讐する権利が与えられるのである。
「50年は生きられるからいいじゃないですか」
「お願い、許して!母さん、謝って!出ないと、私の人生が奪われるわ!」
「結婚しないなら誰かに授けてもらえばいいじゃないの。私は悪くないから謝らないわ!」
こんな下賎な親なら町の評判も悪いだろう。娘1人大切に出来ないのか。お姉さんも運のない人だ。
「謝らないなら、皇帝陛下の罰は受けてもらいます!」
「待って!私は本当に何も知らないの!母さん、お願いだから謝って!」
その時、落ち武者さんが、ある映像を見せた。
映像はかなり古いものだった。少なくとも妖精村時代ではないだろう。
妖精村の紅葉町の産婦人科にて私とお姉さんは取り違えられた。紀元前村の蓮華町に住む、お姉さんの母親は私を我が子だと思い家に連れて帰った。
私は、お姉さんの家で、腐った煮物を食べていた。それでも、家族は私を可愛がってくれた。
けれど、私が5歳になった頃、妖精村の紅葉町の産婦人科から連絡があり、私とお姉さんが取り違えられたことが分かった。お姉さんの家族は、すぐにお姉さんを迎えに行った。
そして、私はお姉さんの家から追い出され空き家で住むことになる。
私は何度もお姉さんの家に行ったが、お姉さんの母親が私を育てることを認めず、私の家は一夜にしてなくなってしまった。
ある日私はお姉さんに相談した。
『あの、助けてもらえないでしょうか?私、まだ5歳で、とてもじゃないけど、1人では暮らしていけないんです』
『分かった。私から母に話してみる』
私はその言葉を何日も何ヶ月も信じて待ち続けた。けれど、市場でお姉さんを見かけるたび、お姉さんは平然としていた。
『あの、相談の件どうなったでしょうか?』
『ごめんなさい。母がどうしても、その話をするとヒステリーを起こすの。何も出来なくて本当にごめんなさい』
お姉さんも私のことを救えなかった。
『そうですか』
2年経った頃、私はお姉さんと、その友人との会話を聞いてしまった。
『ねえ、シリア。妹追い出したって本当?』
『妹なんかじゃないわ。母さんは産んでないもの。それに母さんは、あの子が武家のお嬢様と知って、わざと妖精村に返さないのよ。なんかちょっといい気味。私がこんなに苦労しているのに、あの子だけ楽に暮らすなんて許せないもの』
『でも、本当の親が知ったら不味いんじゃないか?』
『シラを切り通すに決まってるじゃない。あの子は、ここで1人で苦労すればいいわ。助けてあげるもんですか』
お姉さんたちの会話を聞いた私は泣きながら、家でもない空き家に戻った。
映像はそこで途切れていた。
なにが何も知らないだ。母親と共犯して私をイジメていたんじゃない。この映像を見た以上は、絶対にお姉さんを許さない。
「あんた、罰受けろ」
「許して!ここの暮らしが辛くて、この子に嫉妬してしまったのよ!お願い、赤花咲だけは見逃して!」
許すもんですか!あの時、私が苦しんだ分、今度はお姉さんが苦しめばいい。
「お姉さん、人を辱めれば、時を超えて自分が辱められるものですよ」
「お願い、あなたの家にはちゃんと謝りに行く!だから許して欲しい!」
その時、皇室の武官が来た。
「これより、皇帝陛下の命により、シリアを赤花咲とする!」
内官が読み上げたあと、ものの一瞬だった。40代くらいの太った武官はお姉さんを赤花咲した。お姉さんは、途中で気絶したが、終わった後に内官に水をかけられ、目を覚ました。
「いやぁあああああああああ!!!見ないで!!!!」
お姉さんは叫んだものの、後の祭りであった。市場に来ていた多くの町の人がバッチリ罰を見ていたのだ。お姉さんは、あっという間にこの町の笑いものになった。
「お姉さん、あの時はあなたの嫌がらせで妖精村に帰れませんでしたが、私、今、婚約者もいて、学校も楽しくて幸せなんです。お姉さんも幸せになってくださいね」
最後に私はそう言い残した。
お姉さんは、ただただ無言で悲鳴を上げていた。
ちなみに、私とお姉さんの年齢は、やはり当時も同じだけ差があった。聞くところによると、お姉さんは未熟児で成長も遅く、大きかった私と取り違えられたそうだ。
復讐なんてしないほうがいい。幸せになることが1番の復讐などと戯れ言を言う者もいるが、復讐権がある限り、私は私なりに公平な判断をしていく。
黙ったままでは、同じように私自身が生きられなくなってしまう。生きるということは白黒問わず公平を保つことの中に存在している。
「じゃ、帰る」
私は米を、ラルクは栄養ドリンクを、他の人は適当に品物を持ち、私たちはタルリヤさんの家に向かった。
店仕舞いの準備はじめていたから少しでも買うことが出来てよかったのかもしれない。
「ここはチームワークを大切にしてもらわないと困るわ。市場のセールを教えなかったセレナールには米も紅茶も栄養ドリンクも与えない。カーディガンやセーターは必要な人が使って」
私はすかさずヨルクさんにセーターを着せた。下に履いてるステテコもどきとは全然合わないけれど。
「ありがとう、ナミネ。でも、私は大丈夫だからナミネが着て」
「昼間は比較的温かいので私は今のままで大丈夫です」
色んなことを聞いた私は頭の中がぐちゃぐちゃになって、ヨルクさんに抱き着いた。
その後、果物も薬草も順調に採取され、加熱によって料理となった。洗濯係も洗い物係もサボらず働いてくれて、サプリメントも紙も市場では人気となり、売るたびに多くのお金が入って来た。
けれど、あの日以来、アルフォンス王子は何もしなくなってしまった。
ちなみに、あの後お姉さんは、母親に無理に市場に連れて行かれるものの、そのたびに悲鳴をあげ、周りの迷惑となった。縫い物の件も信用を失い、あの一家は町の人のイジメの対象になったのであった。
人は、おじいさんみたいに儀式で人魚の肉を食べて不老不死となり、ずっと生き続ける人もいれば、そうでなくても、初代前世からずっと繋がっている。いくら、昔、大昔とはいえ、人に対してよくないことをしてしまえば、何らかの形で自分に返ってくる。死んだらそこで終わりではないのだ。消された記憶は、そのうち蘇り、償わなかったものに関してはいつかは償わなくてはならない。転生したからといって人にしたことが消えるわけではない。お姉さんには、今すぐでなくても人を辱めた罪を現世にて償ってくれればと思う。
金がなっている。
町が荒れている。
「コロディーだ!」
「今すぐ避難所に行け!」
「コロディーだ、コロディーだ!」
「怖い!」
この町に来て、ひと月半が経とうとしている。こんなにも早くコロディーがやって来るとは思わなかった。
コロディー。主な症状は下痢で、それが悪化すると下痢と嘔吐を繰り返す。そして、そのうちに酷い脱水症状が起きる。下痢が多く排泄されてしまうためだ。ここまでは、コロリに似ている。しかし、コロディーはコロリとは違って発熱がある。それも酷い時は46度も熱が出て、生死を彷徨う。
コロディーもコロリと同じで感染症である。感染した人は隔離する必要がある。ひとたびコロディーが流行れば、町の病院は患者でいっぱいになり、入り切らなかった患者は外に敷かれたワラに寝かされる。
かつてのカナエさんたちが患者の世話をしていた時は医師免許なんて必要なかった。けれど、現代は違う。医師免許なしでの医療行為は問題に問われてしまう。
皇帝陛下にナヤセス殿とロォハさんの医療行為の許可をもらわないと。
「皆さん、感染症コロディーがやってきました!持って来た不織布マスクをマスクカバーに挟んでつけてください!不織布マスクだけでは大量の汗をかくことが予測されますので!マスクカバーは少なくとも2日に1度は替えてください!洗濯は各々でするように!病院はここから5キロもあるため、感染した患者は近くの人で溢れかえるでしょう。まずは感染している隣人を1箇所に集め、結界をかけます!いくら暮らしが古代とはいえ、無免許の医療行為は認められません!今すぐ、紀元前村と妖精村の皇室にナヤセス殿とロォハさんの医療行為の許可を申請します!皆さんは経口補水液を作ってください!ラルク!」
私は、ナヤセス殿とロォハさんの経歴を紙飛行機に挟むと紀元前村の皇室に飛ばした。問題は、妖精村に飛ばす方法だ。ここからでは少なくとも1週間かそれ以上はかかるだろう。
「ラルク、妖精村の皇室にどうやって飛ばそう」
「少なくとも、時速300キロで飛んでもらわないとな」
時速300キロ。もはや新幹線レベルだ。そのような速度で飛ばすことは出来ない。どうすればいいのだろう。
「ラルク、そんな速度で飛ばせないよ」
「セナ王女、すみませんがこの紙飛行機を時速300キロくらいで妖精村の皇室に飛ばしてもらえませんか?」
ラルクはセナ王女に紙飛行機を渡した。
「分かったわ!」
セナ王女は、妖精村の皇室に紙飛行機を飛ばした。
……。
物凄い猛スピードだ。はやり、セナ王女は遠い昔の力量は残っている。こんなスピードで紙飛行機を飛ばせるのは、このメンバーの中ではセナ王女くらいしかいないだろう。
20分後、紀元前村の皇室から紙飛行機が飛んで来た。45分後、妖精村の皇室から紙飛行機が飛んで来たのである。
私は紙飛行機の中を開いた。
『ナヤセスとロォハのコロディーに対する医療行為を認める。紀元前村 皇帝陛下』
『ナヤセスとロォハのコロディーに対する医療行為を認める。妖精村 皇帝陛下』
やった!これで、ここには2人の医者がいるも同然だ。
「ナヤセス殿、ロォハさん、コロディーに対しての医療行為が認められました。感染者の診察をお願いします。他の皆さんは疎らにタライを置いて、水に塩と砂糖を入れてください」
紙飛行機を飛ばしている間に、リリカさんたちが感染者をワラに寝かせ、岩の結界をかけてくれていた。もう既に嘔吐をしている人がいる。私は、ヨルクさんが作ってくれたマスクカバーにマスクを通して付けると、通し(とおし)でタライを置きに行った。
ふとテントを確認すると、セレナールさんとアヤネさん、カンザシさん、アルフォンス王子が、何もしないまま寝袋に入っていた。
「あの、4人ともコロディーで町が大変なんです。看病手伝ってもらえませんか?」
「私も具合悪いのよ!」
「怖いです」
「無理です」
「手伝うことは出来ない」
4人とも何なの。寝袋に入っているからといって感染を防げるわけではないのに。他のメンバーは必死で経口補水液を作っている。ここで口論している暇はない。私も感染者の面倒を見なければ。私は再びテントから出た。
外は感染者が増えている。結界かけて隔離しているのに。
「皆さん、患者さんに触れたあとは、必ず持って来た消毒液で消毒してください」
私は感染者が吐いたあとの口元を拭いてから感染者に、持って来た薄型のオムツを履かせた。
「カナエさん、ナルホお兄様、熱の酷い患者には、熱を冷ます薬草を煎じたものを与えてもらえませんか?」
麻黄、杏仁、桂枝、甘草。これを調合したものが現代で言うところの麻黄湯だ。普段飲む機会なんて今ではないけれど、昔の人は熱が強くなった時に飲んでいたんだなあ。
「分かりましたのです」
「分かった」
薬のことはカナエさんとナルホお兄様に任せるとして……。
「ねえ、ラルク、セレナールさんと、アヤネさん、カンザシさん、アルフォンス王子が寝袋に入っているよ」
「放っておけ。ここに来てもどうせ何もしないだろ」
だよね。ここまで何もしない人、はじめて見た。ナノハナ家での私みたい。アルフォンス王子は帰ったらしばらくはトラウマに苦しむだろうか。
「患者の手をシートで拭いて、シートがなくなったら、消毒液を布に付けて拭いてあげてください。布はハギレがたくさんあるため、一度使ったものは捨ててください。くれぐれも自分の消毒を忘れないでください」
「ナミネ、消毒液なんだけど、1人1つの持って来たものだけなのよね。今は足りているけれど、そのうちなくなると思うわ」
そうか。消毒液はサバイバルリュックに入れてきたものだから市場には売っていない。
「消毒液がなくなったらズームさんが作った石鹸を使ってください。患者の手を拭く時も患者の手に石鹸を付けたら、水で濡らした布で拭いてください。紙オムツもなくなった時に誰か布オムツを作っていただけませんか?」
下痢と嘔吐を1日に何度も繰り返すなら紙オムツも、そのうちなくなる。補充をしないと。
「分かった。私が作る」
「では、ロォラさんにお願いします。患者の汚れたお尻は水を濡らした布で1日に数回拭いてあげてください」
完全に汚れ作業だ。これでは、こちらもいつ感染してもおかしくない。ナヤセス殿とロォハさんは経口補水液を飲めない人に点滴を打っている。吐いたり下したりすると、体内の水分がなくなる。だから、定期的に経口補水液を与える必要がある。今は嘔吐だけだけれど、そのうち下す人も出てくるだろう。
みんなとても苦しそうだ。けれど、誰1人死なせたりはしない。
「皆さん、エプロンは必ず付けてください。患者の嘔吐なとで服が汚れてしまうと厄介ですので」
「うん、分かった」
「分かったわ」
「りょーかい」
「ああ、分かった」
(以下略)
これでみんなエプロンを付けた。本当は病院にあるような作業着があればいいのだけど、この町にはまず存在しない。この町の病院には医師のみに白衣は配布されているが、看護師には何も配布されない。女は薄いワンピース、男は薄いステテコもどきの上にエプロンを付けるといった心細いものだけれど、ないよりかはマシだ。
そういえば、遠い昔、占い師が遠い未来にコロナという感染症が流行ると言っていた。デマなのか本当なのか分からないけれど、コロディーでさえ未だに完治する方法は見つかっていないらしい。蓮華町以外の町では、試験的に開発されたワクチンを受けているらしい。けれど、そのワクチンは蓮華町だけには配布されない。
その時、お姉さん家族が来た。弟さんも一緒だ。
「病院は満員で治療薬も尽きたみたい。ここで治療してるって聞いて来たの。どうか助けて」
家族全員が感染したパターンか。私は通し(とおし)を使って空いているところにワラの敷物を敷いた。
「この紙オムツを履いて、あのワラの敷物に横になってください」
会いたくなかったけれど、死なせるわけにもいかない。弟さんは私くらいの年齢の子が3人いる。お姉さん家族は通し(とおし)で結界の中に入った。
みんな、これから一日中患者の看病をすることになるだろう。料理を作っている余裕などない。しばらくはドライフルーツや干し肉、干し魚などでしのいでいくしかない。
……
あとがき。
しばらくイラストのほうに集中していて、更新遅れました。
コロナじゃないけど、コロディーは遠い昔、カナエたちが感染者を看病していたのだ。The 古代編。
ずっと続いている感染症なのに今でも完治する方法が見つからないなんて、今後のコロナみたいだな。
今後もイラストは描くけど小説も定期的に更新していくよ!
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 86話
《ナミネ》
私たちはガタイの大きな男を交番の人に引き渡した後、お姉さんを家まで送り届け、タルリヤさんの家へと向かった。
お姉さんによると、ガタイの大きな男はたまに町に下りてきては、年頃の女の子をイジワルしているらしい。イジワルされた女の子の4割は自殺しているとか。けれど、この町にお墓を建てることは政府が許していないため、死んだ人は残酷にもごみ捨て場に置かなければならないのである。差別されている町だからといって無慈悲にもほどがある。
タルリヤさんの家に着くと16時を回っていた。明日は、果物係はカギで崖を登らなければならないため、料理係は早めの夕ご飯作りに取りかかった。
私はヨルクさんがお団子にした髪をほどき、炎の舞で髪を乾かした。こんなふうに髪を下ろすのも久しぶりだ。お風呂に入れず、ずっと髪を結んでいたから。
「あ、ミツメさん、ここでは指定の下着を着てください。ガーゼ布が薄いため、目立つ下着だと、ヨルクさんのようにダサイパンツが丸見えになってしまいますので」
「何故、私を侮辱する。私は慣れたものしか着ない」
セレナールさんほどではないけど、いくら慣れていないからといって指定した下着着てこないヨルクさんもヨルクさんだ。ダサイパンツがステテコもどきから丸見えでは、彼氏と思われるのが何だか恥ずかしい。
「分かりました。空き家にある余っているものを着ればいいんですよね?」
「はい、全てフリーサイズですので、ヨルクさんによると胸の大きな人でも、ゆったり着ることが出来るそうです」
「ねえ、どうして私のこと馬鹿にするの?私はみんなのためにロォラさんと作ったんだよ!ナミネの下着が透けないためにも下着は布を二重にしたし」
ヨルクさんは、ちょっとした言葉に過剰反応をする。ワンピースもフリーサイズとはいえ、身長高い人は、ミニスカみたいになっているし。
「ナミネさん、少し2人になれませんか?」
どうして、カンザシさんって自分の都合しか考えないの?ここはナノハナ家とは違う。少しの時間の乱れが命取りにもなる。
「あの、明日は重要な役割をしなければならないので、夕ご飯食べた後はすぐに寝ます」
「リーダー、ここは妖精村とは違うんです。リーダーはリーダーの役割をこなしてください!」
本当その通りだ。体力を削ってまで、お喋りするほどの余裕なんて、ここの暮らしにはないのだ。その時、料理係が今日の夕ご飯を運んで来た。今日はカラン王子か。
「ラルク、ドーナツだよ!」
「カラン王子、セレナールとアヤネには与えなくていいわ」
リリカさんはどこまでも厳しい。けれど、ここでのリーダーはリリカさんだ。
「クラスでは優しくしてくれていたのに、どうしてここでは冷たくするんですか!」
「サバイバルって、人の本性がよく分かるものよ。こんな暮らしてもナミネやナナミは少しも文句を言わない。けれど、あなたは何もしない上に文句ばかり。根はいやな女だったのね」
何もしない人は本当に苛立つ。私はアヤネさんとセレナールさんに下剤を飲ませると岩の結界をかけた。
「アヤネさん、セレナールさん、このまま、ここでご飯抜いていると、そのうち脚気になりますよ?いい加減トイレ掃除してください!しないなら、妖精村に戻しません!一生その結界の中で暮らしてもらうことになります!選ぶのはあなた方です」
さあ、どう出るか。流石に通しで水は与えるけど、それだけだ。トイレに間に合わなくても私が知ったことではない。
「わ、分かりました!今すぐしますから、結界解いてください!」
「分かったわよ!このゲス女!やるから結界解きなさいよ!」
やはり、ここでお漏らしをするわけにはいかないか。
「では、ミツメさん、証拠の動画撮ってきてください」
念には念を入れねば。結界を解くなりサボられては困る。
「分かりました」
私は結界を解いた。セレナールさんとアヤネさんは慌ててテントを出てトイレに向かって行った。続くようにミツメさんも2人を追いかけた。
「あの、セナ王女、カギで崖を登って落ちそうになった時に、舞で対処して上まで登るのはありでしょうか?」
「ええ、もちろんありよ。武器も完璧ではない。咄嗟の対応が出来るのならカギで登れることを認めるわ」
よし、これなら私とラルクは余裕だ。ただ、今後はもうワイヤーは使えず、果物係は全員カギで登らなくてはならない。特に崖から下りる時に重たい荷物を背負いながら下りるのは慎重になる必要がある。前みたいに気が抜けないのは確かだ。それでも、2人も転落しているゆえ、暮らしが古代なら現代のものは逆に合わないのかもしれない。
「分かりました」
私はヨルクさんにもたれかかった。服はダサイけど、ヨルクさんはいつもいい香り。
「ナミネ、明日は無理しないで。果物係でなくても役割はいっぱいあるんだし」
「大丈夫です」
やっぱり何だかんだ言って、一度果物係になれば、それを引退するのは詫びしいものである。自分はもう用済みなんだって自責するだろうし、何がいけなかったのか考え込むと思う。そういう意味ではアルフォンス王子の気持ちも分からなくもない。
30分ほどするとセレナールさん、アヤネさん、ミツメさんが戻って来た。
「ミツメ、動画見せてちょうだい」
ミツメさんはリリカさんに携帯を渡した。
「これでようやく女子トイレは綺麗になったわね。アヤネ、セレナール、ここではそれぞれの役割をこなさなければならないの。もし、妖精村で一人暮らししていて、トイレが故障してそのままにしておいたらどうなる?水道、お風呂も壊れてそのままにしておいたらどうなるかしら?ここにはみんながいるけど、1人になった時のことも考えなさい!」
リリカさんはクレナイ家でも、いつも仕切っているのだろうか。学校とは全然違うリリカさんの姿。ここにいるメンバーくらいしか知らない。
「分かりました……今後は何かしらします」
「分かったわよ!けれど、トイレは溜まってきたと感じた人が処理する決まりは、今後は遂行して!」
今後は本当にセレナールさんとアヤネさんはここで与えられた役割をしてくれるのだろうか。
「ええ、今後は溜まったと感じた人が処理をし、汚した人は汚れを掃除してちょうだい。それと、ズーム、石鹸は十分に出来たから他の作業してくれるかしら?小麦がなくなったからミツメは洗濯係に回ってくれる?」
そっか。ズームさん物凄いスピードで作ってたから石鹸は市場で余るほどなのか。
「この町で十分な栄養を取るのは厳しいため、脚気の患者が病院にしばしばかけこんでいるそうです。果物と薬草を分けていただけるならサプリメントを作ろうかと思いますがいかがでしょうか?」
サプリメントか。それなら脚気も防げるし、楽に栄養を補給することが出来る。カラルリさんが加熱で食べ物を作りそれを市場に売っているなら、それに加えサプリメントも市場で売り出されたら買う人は多くいるはずだ。
「分かりました。洗濯係に回ります」
「サプリメントか。考えたわね。じゃあ、明日からズームはサプリメントを作ってちょうだい」
「ねえ、ラルク。公衆浴場に行ったからアヤネさんの酷い体臭もなくなってよく眠れるね」
「ナミネ、今そんな話全然してなかっただろ」
案の定アヤネさんは泣きはじめた。アヤネさんってどうしてこんなにメンタルが弱いのだろう。
「いい加減、このようなイジメはやめてください」
「はいはい、すみませんでしたー!」
アヤネさんは泣きながらテントを出て行った。
「あんたさ、そろそろ人なじるのやめな」
「ですが、アヤネさんはまた何もしません。それにこんなにメンタル弱くてはここではやっていけません!」
アヤネさんはずっと何もしていない。ここひと月も。それなのに当たり前のように楽して暮らして。私はそういう人は嫌いだ。
「ナミネの言う通りよ。アヤネは何もしないわ。何もしないままここで甘え続けていたのよ。私、そんな人間大嫌いよ!」
やっぱりリリカさんも同じ考えだ。ここでは、それぞれが与えられた役割をこなさなければ暮らしていけない。それをずっと何もしないなんて言語道断だ。
あれ、カンザシさんがテントの中にいる。エルナさんはとっくに洗い物しているのに。
「あの、カンザシさん、洗い物して来てくれませんか?エルナさん1人ではエルナさんに負担がかかります」
「どうして命令するんですか。だったらナミネさんも一緒にしてください」
何その言い方。私は明日からカギで崖を登らなくてはならないのに。
「カンザシ、ここでは与えられた役割はちゃんとする!サボる人がいればそれだけ効率が悪くなるのよ!ナミネは朝4時に起きて水汲みをしてるわ!7時半には崖を登って、そこから15時半まで作業をしているわ!あなたに同じことが出来るのかしら?ナミネに倒れられては困るの。だから、無闇にナミネに無理強いをしないでちょうだい」
ここでもリリカさんはビシッとキメる。数年後はカナコさんやレイカさんみたいに成長していそう。どこも長女はしっかりしてるんだなあ。
「分かりました」
カンザシさんは気を落としながらトボトボとテントを出て行った。
この日も私はヨルクさんと同じ寝袋でぐっすり眠った。後から聞くところによると、夜中にカンザシさんが自分の寝袋に私を入れようとしたところを落ち武者さんが気付いて阻止したらしい。ミツメさんはともかく、カンザシさんがここにいては調子が狂う。
早朝4時。
私はいつものように水汲みをした。けれど、この日は雨が降っていた。私はリュックからビニール袋を取り出し、タライ2つにかけた。
ここに来てからヨルクさんに一度も起こしてもらっていない。おじいさんの修行効果だろうか。
5時半になるとみんな起きはじめた。
「あの、セナ王女、今日は雨ですが果物はどうしますか?」
「もちろん決行よ!雨だからといって1日でも休めば、1日分の食糧は消える。ここでは一日一日働かないといけないの」
サバイバル慣れしているせいか、セナ王女の言い分は筋が通っている。雨の日の崖上りは晴れている日に比べたら随分難易度は高いが、私は登りたい。自分の限界を知りたいのだ。
「分かりました」
私を含めみんなレインコートを来ている。
「ナミネ、このポシェットに折りたたんだ箱と、果物入れる薄いリュック入れたから」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
そっか、これまではワイヤーで登っていたからリュックを背負っていたけれど、これからはカギで登るからリュックよりポシェットのほうがいい。ヨルクさんから渡されたのは腰に巻く大きめのポシェットだった。ここへ来てはじめて使う。
朝食は、この家の煮物とドライフルーツだった。あれ、水に味がある。
「ねえ、ラルク。水に味があるよ」
「ロォラさんが余ったフルーツの皮で味付けしてくれたんだよ」
余った皮。ロォラさんって無駄のない人なんだなあ。ナノハナ家ではどれだけ捨てていたことか。妖精村に帰ったら私も試してみようかな。
そして、いよいよ崖に向かう時間が来た。
「ナミネ、無理は絶対しないで。果物係以外にも役割はあるから」
「私は大丈夫です」
雨は小降りから大降りになっている。
果物係は崖へと向かいはじめた。
地面は泥に水が混ざって、ところどころ大きな水溜まりが出来ている。私はカギを取り出した。本来ならカギ縄といって、クモのようなカギの部分を引っかけ、縄を掴み登って行くのだが。ここに来る前のセナ王女の指示でカギ縄ではなく、カギのみで直接登るものをみんな持って来ているのだ。また、カギはクモ型ではなく、1本のストレートフックになっている。これではまるで釣りの道具のようだ。けれど、釣り用ほど細くはなく、1.5センチほどの太さで、全長はだいたい25センチほどだろうか。このカギを両手に持ち登っていくのだ。そして、命綱を付けることも許されなかった。このような登り方は妖精村の武官くらいだろう。
私は崖で靴の泥をはらうと、釣り用具の大きい版のようなカギで崖を登ろうとした。はじめて使うが、やはりこれまでワイヤーを使っていただけに難易度の高さが手に取るように分かる。持ち手のカギは確実なところに引っかけないといけないし、足も確実なところを踏む必要がある。今日は大雨ゆえ、滑りやすくなっている。私は下のほうでシュミレーションしたあと、ゆっくり崖を登りはじめ、コツを掴むと少し速度を速めて中間地点からは猛スピードで崖を登った。
果樹園に着くと既にセナ王女とラルクがいた。やはり、2人は慣れているか。続いてナナミお姉様、リリカさんが来た。その時、風が吹いてミナクさんが飛ばされた。
「ミナク!」
ナナミお姉様は咄嗟にロープを投げた。
「大丈夫だ、ナナミ!」
ミナクさんは花の舞で少し上に上がり、無事に果樹園に着いた。あとは、アルフォンス王子だが……。足を上手く引っかけられないのか、ずっと下で苦戦している。そして焦りが見られた。足場を見つけられないのなら、崖を登るのは無理だろう。
「アルフォンス!あなたは戻って他の作業してちょうだい!」
見かねたセナ王女が声をかけた。しかし、アルフォンス王子は諦めようとしなかった。これも果物係引退への拒否感からだろう。私がアルフォンス王子の立場でも足掻いたかもしれない。自分の力量を否定されるような場面に陥ると誰もが、力不足な自分を嘘だと認めないものである。
「あの子も頑固ね。とりあえずアルフォンス以外合格よ!」
セナ王女はアルフォンス王子を失格にした。このような場面は見たくなかったが、誰もが何でもかんでも出来るわけではない。アルフォンス王子にとっては、かなりの屈辱だろうけど、これも1つの経験だ。
あれ、小さな人間がいる。
「ねえ、ラルク。コビトがいるよ」
「ナミネ、今すぐ捕まえろ!」
私はコビトの元へ走った。するとコビトは逃げなかった。
「久しぶり、ナミネ」
え、知り合いなの?でも、私は知らない。
「あの、どちら様でしょうか?」
「僕も忘れられたもんだね。僕はここの果樹園を管理しているフルート」
ここには管理者がいたのか。だから毎日果物がかわっていたわけか。よく見ると今日は果物が多い。
「そ、そうですか。あの、ここは果物が毎日変わってますよね?果物が殆どない日もあるのですか?」
「僕の気まぐれで変えてる。果物があまりない日もあるよ。でも、気まぐれだから毎日そんなことはしないけどね」
そうだったのか。とりあえず、果物はこれからも定期的にあることは分かった。
「あの、ここの果物って自由に取っていいんですよね?でも、土を持っていくのがダメなのはどうしてですか?」
「ここまで来れたなら果物は自由に取っていいよ。この際だから言うけれど、ここの果樹園は特別なところでそれを僕がマニュアル通りに管理しているから当然禁止事項はあるよ。ただでさえ小さな果樹園なのに土を取られたらここの果物に支障が出るからね。ここにある土は特別な土だから、少しも持ち帰ることは禁止。事故なら仕方ないけど、わざと枝を折るのも禁止。木ごと持ち帰りも禁止。勝手に別のもの植えるのも禁止。とにかく果樹園を勝手に変えるような真似をしなければ大丈夫」
雇われ管理者だろうか。けれど、私を知っているということは、私はここに来たことがあるんだ。果樹園に管理者がいるということは薬草園にも管理者がいるのだろうか。
それにしても、私はここに来た記憶なんて全くない。
「あの、私は昔、ここに来たことがあるのでしょうか?」
「そうだね。悲しい話だけど、大昔、妖精村に生まれたナミネはナノハナ家の5女だった。けれど、赤ん坊の時に産婦人科で取り違えられてしまい、ここの紀元前村の家族の子として育てられた。でも、ナミネが5歳になる頃に育て親は産婦人科で取り違えられたことを知り、ナノハナ家から本当の子を連れてくるなりナミネを家から追い出したんだ。小さいナミネは空き家で1人で住みはじめ、ある日、この崖を登って果物を取りに来たんだよ。その後、ナミネは町の人気者となった。ナミネが14歳になった頃、ヨルクはナミネを迎えに来たけどナミネはここが家だと言って、ヨルクと結婚し、ヨルクは家事をナミネは崖を登って果物や薬草を取って暮らしてたんだよ。僕とはナミネが老いて亡くなるまで、ずっと仲良しの友達だったんだよね」
私にそんな過去があったんだ。取り違えられて、いっときは育ての親だったのに、本当の子供と暮らせるようになれば、私を追い出しただなんて、酷い。話を聞いているだけでも苛立ってきた。
でも、ヨルクさんはどうやってここまで私を迎えに来たのだろう。そもそもナノハナ家の人間は誰も私を迎えに来なかったの?
「あの、その時、ナノハナ家の人は誰も私を迎えに来なかったのでしょうか?ヨルクさんはどうやってここまで来たのですか?」
「ナノハナ家の人間は、ナミネの育ての親が近いうちに連れて行くと嘘をついて、それを信じてずっと待ってた。ここには妖精村と紀元前村に繋がる洞窟のような通路があるんだよ。無論徒歩だと最低でも20日はかかるけど、ヨルクはナミネを迎えに行く一心で24日かけて歩いて来たんだよ。今もその通路は森の手前にあることにはあるけれど、妖精村まで繋がっているかは分からないね」
そういえば、遠い昔、セレナールさんやカナエさんたちがここに来た時にセイさんは通路を通って来たはず。あまりに昔のことだから今も通れるかは分からないけど、ヨルクさんは私のために24日もかけて来てくれたんだ。今と変わらず、ずっと私のことを愛してくれていたんだ。
「そうでしたか。その通路の存在は聞いたことはあります。フルートさんと私は、仲良しだったんですね。あの、フルートさんは、ずっとここにいるんですか?薬草園のほうも管理者がいるのでしょうか?」
「僕は毎日ここにいるよ。薬草園のほうは双子の兄のヤクゼンが管理してる」
かつての私は、ここでひとりぼっちになってもフルートさんがいたから、ここでの暮らしをやっていけたのだと思う。きっと、私にとってフルートさんは家族のようなものだったんだろうなあ。
「久しぶりに会えた記念にあげる」
フルートさんは私に金のリンゴを3つ渡した。3つ!?そんなにもらっていいのだろうか。
「あの、このような貴重なものを3つももらっていいのでしょうか?」
「いいよ。銅の果物は人の病を60%治す。銀の果物は人の病を80%治す。金の果物は人の病を完全に治すんだ。市場には売り出さずナミネや友達が困った時に持っておいて。まあ、感染症の人に与えてもいいけど。3つでは足りないだろうね。1人長さは0.5センチで横幅は薄切りで効果が出るよ。あまり人のために使いすぎないでね」
感染症が出たらこのリンゴで多くの人の命が助かる。けれど、私たちは経口補水液も作れるし、点滴もある。1つは家に持って帰りたいところだ。
「分かりました。大切に使います」
「ナミネ、そのリンゴ、何もしてない誰かさんに盗まれないためにも私が厳重に結界かけて保管するから渡してくれるかしら?」
リリカさんは果物係として、ここで食べる果物は全て管理している。リリカさんに預ければ安心だ。
「はい、分かりました。あの、1つは持って帰りたいのですがいいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
私はリリカさんに金のリンゴ3つを渡した。今日はパイナップルがいっぱい生えていて、私はフルートさんと話している間にたくさんのパイナップルを収穫した。
「フルートさん、ここにいる間は毎日来ます。そして、妖精村に戻ったあともきっと来ます」
「待ってる。何世紀も待ってるよ」
フルートさんから貴重な金のリンゴをもらったはいいけれど、帰ると今度はアルフォンス王子の今後の役目について話し合わなければならない。
フルートさんに会えたことはとても嬉しいが、ここでの暮らしの現実を思うと私の心は気が重たかった。
崖を下りる時は登る時とは違って風の舞が使えるから空中に浮きながらも楽に下りられた。そして、私たちは果物を持ってタルリヤさんの家に向かいはじめた。いよいよ、長い会議がはじまる。
……
あとがき。
やっと女子トイレが綺麗になった。
のはいいけれど、今度はアルフォンスが何もしなくなるフラグ?
フルートと再会出来たナミネ。
けれど、何世紀ぶりなのだろう。ずっと生きている者は死者の転生を待たなければならない。そういう運命も悲しい気がする。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
私たちはガタイの大きな男を交番の人に引き渡した後、お姉さんを家まで送り届け、タルリヤさんの家へと向かった。
お姉さんによると、ガタイの大きな男はたまに町に下りてきては、年頃の女の子をイジワルしているらしい。イジワルされた女の子の4割は自殺しているとか。けれど、この町にお墓を建てることは政府が許していないため、死んだ人は残酷にもごみ捨て場に置かなければならないのである。差別されている町だからといって無慈悲にもほどがある。
タルリヤさんの家に着くと16時を回っていた。明日は、果物係はカギで崖を登らなければならないため、料理係は早めの夕ご飯作りに取りかかった。
私はヨルクさんがお団子にした髪をほどき、炎の舞で髪を乾かした。こんなふうに髪を下ろすのも久しぶりだ。お風呂に入れず、ずっと髪を結んでいたから。
「あ、ミツメさん、ここでは指定の下着を着てください。ガーゼ布が薄いため、目立つ下着だと、ヨルクさんのようにダサイパンツが丸見えになってしまいますので」
「何故、私を侮辱する。私は慣れたものしか着ない」
セレナールさんほどではないけど、いくら慣れていないからといって指定した下着着てこないヨルクさんもヨルクさんだ。ダサイパンツがステテコもどきから丸見えでは、彼氏と思われるのが何だか恥ずかしい。
「分かりました。空き家にある余っているものを着ればいいんですよね?」
「はい、全てフリーサイズですので、ヨルクさんによると胸の大きな人でも、ゆったり着ることが出来るそうです」
「ねえ、どうして私のこと馬鹿にするの?私はみんなのためにロォラさんと作ったんだよ!ナミネの下着が透けないためにも下着は布を二重にしたし」
ヨルクさんは、ちょっとした言葉に過剰反応をする。ワンピースもフリーサイズとはいえ、身長高い人は、ミニスカみたいになっているし。
「ナミネさん、少し2人になれませんか?」
どうして、カンザシさんって自分の都合しか考えないの?ここはナノハナ家とは違う。少しの時間の乱れが命取りにもなる。
「あの、明日は重要な役割をしなければならないので、夕ご飯食べた後はすぐに寝ます」
「リーダー、ここは妖精村とは違うんです。リーダーはリーダーの役割をこなしてください!」
本当その通りだ。体力を削ってまで、お喋りするほどの余裕なんて、ここの暮らしにはないのだ。その時、料理係が今日の夕ご飯を運んで来た。今日はカラン王子か。
「ラルク、ドーナツだよ!」
「カラン王子、セレナールとアヤネには与えなくていいわ」
リリカさんはどこまでも厳しい。けれど、ここでのリーダーはリリカさんだ。
「クラスでは優しくしてくれていたのに、どうしてここでは冷たくするんですか!」
「サバイバルって、人の本性がよく分かるものよ。こんな暮らしてもナミネやナナミは少しも文句を言わない。けれど、あなたは何もしない上に文句ばかり。根はいやな女だったのね」
何もしない人は本当に苛立つ。私はアヤネさんとセレナールさんに下剤を飲ませると岩の結界をかけた。
「アヤネさん、セレナールさん、このまま、ここでご飯抜いていると、そのうち脚気になりますよ?いい加減トイレ掃除してください!しないなら、妖精村に戻しません!一生その結界の中で暮らしてもらうことになります!選ぶのはあなた方です」
さあ、どう出るか。流石に通しで水は与えるけど、それだけだ。トイレに間に合わなくても私が知ったことではない。
「わ、分かりました!今すぐしますから、結界解いてください!」
「分かったわよ!このゲス女!やるから結界解きなさいよ!」
やはり、ここでお漏らしをするわけにはいかないか。
「では、ミツメさん、証拠の動画撮ってきてください」
念には念を入れねば。結界を解くなりサボられては困る。
「分かりました」
私は結界を解いた。セレナールさんとアヤネさんは慌ててテントを出てトイレに向かって行った。続くようにミツメさんも2人を追いかけた。
「あの、セナ王女、カギで崖を登って落ちそうになった時に、舞で対処して上まで登るのはありでしょうか?」
「ええ、もちろんありよ。武器も完璧ではない。咄嗟の対応が出来るのならカギで登れることを認めるわ」
よし、これなら私とラルクは余裕だ。ただ、今後はもうワイヤーは使えず、果物係は全員カギで登らなくてはならない。特に崖から下りる時に重たい荷物を背負いながら下りるのは慎重になる必要がある。前みたいに気が抜けないのは確かだ。それでも、2人も転落しているゆえ、暮らしが古代なら現代のものは逆に合わないのかもしれない。
「分かりました」
私はヨルクさんにもたれかかった。服はダサイけど、ヨルクさんはいつもいい香り。
「ナミネ、明日は無理しないで。果物係でなくても役割はいっぱいあるんだし」
「大丈夫です」
やっぱり何だかんだ言って、一度果物係になれば、それを引退するのは詫びしいものである。自分はもう用済みなんだって自責するだろうし、何がいけなかったのか考え込むと思う。そういう意味ではアルフォンス王子の気持ちも分からなくもない。
30分ほどするとセレナールさん、アヤネさん、ミツメさんが戻って来た。
「ミツメ、動画見せてちょうだい」
ミツメさんはリリカさんに携帯を渡した。
「これでようやく女子トイレは綺麗になったわね。アヤネ、セレナール、ここではそれぞれの役割をこなさなければならないの。もし、妖精村で一人暮らししていて、トイレが故障してそのままにしておいたらどうなる?水道、お風呂も壊れてそのままにしておいたらどうなるかしら?ここにはみんながいるけど、1人になった時のことも考えなさい!」
リリカさんはクレナイ家でも、いつも仕切っているのだろうか。学校とは全然違うリリカさんの姿。ここにいるメンバーくらいしか知らない。
「分かりました……今後は何かしらします」
「分かったわよ!けれど、トイレは溜まってきたと感じた人が処理する決まりは、今後は遂行して!」
今後は本当にセレナールさんとアヤネさんはここで与えられた役割をしてくれるのだろうか。
「ええ、今後は溜まったと感じた人が処理をし、汚した人は汚れを掃除してちょうだい。それと、ズーム、石鹸は十分に出来たから他の作業してくれるかしら?小麦がなくなったからミツメは洗濯係に回ってくれる?」
そっか。ズームさん物凄いスピードで作ってたから石鹸は市場で余るほどなのか。
「この町で十分な栄養を取るのは厳しいため、脚気の患者が病院にしばしばかけこんでいるそうです。果物と薬草を分けていただけるならサプリメントを作ろうかと思いますがいかがでしょうか?」
サプリメントか。それなら脚気も防げるし、楽に栄養を補給することが出来る。カラルリさんが加熱で食べ物を作りそれを市場に売っているなら、それに加えサプリメントも市場で売り出されたら買う人は多くいるはずだ。
「分かりました。洗濯係に回ります」
「サプリメントか。考えたわね。じゃあ、明日からズームはサプリメントを作ってちょうだい」
「ねえ、ラルク。公衆浴場に行ったからアヤネさんの酷い体臭もなくなってよく眠れるね」
「ナミネ、今そんな話全然してなかっただろ」
案の定アヤネさんは泣きはじめた。アヤネさんってどうしてこんなにメンタルが弱いのだろう。
「いい加減、このようなイジメはやめてください」
「はいはい、すみませんでしたー!」
アヤネさんは泣きながらテントを出て行った。
「あんたさ、そろそろ人なじるのやめな」
「ですが、アヤネさんはまた何もしません。それにこんなにメンタル弱くてはここではやっていけません!」
アヤネさんはずっと何もしていない。ここひと月も。それなのに当たり前のように楽して暮らして。私はそういう人は嫌いだ。
「ナミネの言う通りよ。アヤネは何もしないわ。何もしないままここで甘え続けていたのよ。私、そんな人間大嫌いよ!」
やっぱりリリカさんも同じ考えだ。ここでは、それぞれが与えられた役割をこなさなければ暮らしていけない。それをずっと何もしないなんて言語道断だ。
あれ、カンザシさんがテントの中にいる。エルナさんはとっくに洗い物しているのに。
「あの、カンザシさん、洗い物して来てくれませんか?エルナさん1人ではエルナさんに負担がかかります」
「どうして命令するんですか。だったらナミネさんも一緒にしてください」
何その言い方。私は明日からカギで崖を登らなくてはならないのに。
「カンザシ、ここでは与えられた役割はちゃんとする!サボる人がいればそれだけ効率が悪くなるのよ!ナミネは朝4時に起きて水汲みをしてるわ!7時半には崖を登って、そこから15時半まで作業をしているわ!あなたに同じことが出来るのかしら?ナミネに倒れられては困るの。だから、無闇にナミネに無理強いをしないでちょうだい」
ここでもリリカさんはビシッとキメる。数年後はカナコさんやレイカさんみたいに成長していそう。どこも長女はしっかりしてるんだなあ。
「分かりました」
カンザシさんは気を落としながらトボトボとテントを出て行った。
この日も私はヨルクさんと同じ寝袋でぐっすり眠った。後から聞くところによると、夜中にカンザシさんが自分の寝袋に私を入れようとしたところを落ち武者さんが気付いて阻止したらしい。ミツメさんはともかく、カンザシさんがここにいては調子が狂う。
早朝4時。
私はいつものように水汲みをした。けれど、この日は雨が降っていた。私はリュックからビニール袋を取り出し、タライ2つにかけた。
ここに来てからヨルクさんに一度も起こしてもらっていない。おじいさんの修行効果だろうか。
5時半になるとみんな起きはじめた。
「あの、セナ王女、今日は雨ですが果物はどうしますか?」
「もちろん決行よ!雨だからといって1日でも休めば、1日分の食糧は消える。ここでは一日一日働かないといけないの」
サバイバル慣れしているせいか、セナ王女の言い分は筋が通っている。雨の日の崖上りは晴れている日に比べたら随分難易度は高いが、私は登りたい。自分の限界を知りたいのだ。
「分かりました」
私を含めみんなレインコートを来ている。
「ナミネ、このポシェットに折りたたんだ箱と、果物入れる薄いリュック入れたから」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
そっか、これまではワイヤーで登っていたからリュックを背負っていたけれど、これからはカギで登るからリュックよりポシェットのほうがいい。ヨルクさんから渡されたのは腰に巻く大きめのポシェットだった。ここへ来てはじめて使う。
朝食は、この家の煮物とドライフルーツだった。あれ、水に味がある。
「ねえ、ラルク。水に味があるよ」
「ロォラさんが余ったフルーツの皮で味付けしてくれたんだよ」
余った皮。ロォラさんって無駄のない人なんだなあ。ナノハナ家ではどれだけ捨てていたことか。妖精村に帰ったら私も試してみようかな。
そして、いよいよ崖に向かう時間が来た。
「ナミネ、無理は絶対しないで。果物係以外にも役割はあるから」
「私は大丈夫です」
雨は小降りから大降りになっている。
果物係は崖へと向かいはじめた。
地面は泥に水が混ざって、ところどころ大きな水溜まりが出来ている。私はカギを取り出した。本来ならカギ縄といって、クモのようなカギの部分を引っかけ、縄を掴み登って行くのだが。ここに来る前のセナ王女の指示でカギ縄ではなく、カギのみで直接登るものをみんな持って来ているのだ。また、カギはクモ型ではなく、1本のストレートフックになっている。これではまるで釣りの道具のようだ。けれど、釣り用ほど細くはなく、1.5センチほどの太さで、全長はだいたい25センチほどだろうか。このカギを両手に持ち登っていくのだ。そして、命綱を付けることも許されなかった。このような登り方は妖精村の武官くらいだろう。
私は崖で靴の泥をはらうと、釣り用具の大きい版のようなカギで崖を登ろうとした。はじめて使うが、やはりこれまでワイヤーを使っていただけに難易度の高さが手に取るように分かる。持ち手のカギは確実なところに引っかけないといけないし、足も確実なところを踏む必要がある。今日は大雨ゆえ、滑りやすくなっている。私は下のほうでシュミレーションしたあと、ゆっくり崖を登りはじめ、コツを掴むと少し速度を速めて中間地点からは猛スピードで崖を登った。
果樹園に着くと既にセナ王女とラルクがいた。やはり、2人は慣れているか。続いてナナミお姉様、リリカさんが来た。その時、風が吹いてミナクさんが飛ばされた。
「ミナク!」
ナナミお姉様は咄嗟にロープを投げた。
「大丈夫だ、ナナミ!」
ミナクさんは花の舞で少し上に上がり、無事に果樹園に着いた。あとは、アルフォンス王子だが……。足を上手く引っかけられないのか、ずっと下で苦戦している。そして焦りが見られた。足場を見つけられないのなら、崖を登るのは無理だろう。
「アルフォンス!あなたは戻って他の作業してちょうだい!」
見かねたセナ王女が声をかけた。しかし、アルフォンス王子は諦めようとしなかった。これも果物係引退への拒否感からだろう。私がアルフォンス王子の立場でも足掻いたかもしれない。自分の力量を否定されるような場面に陥ると誰もが、力不足な自分を嘘だと認めないものである。
「あの子も頑固ね。とりあえずアルフォンス以外合格よ!」
セナ王女はアルフォンス王子を失格にした。このような場面は見たくなかったが、誰もが何でもかんでも出来るわけではない。アルフォンス王子にとっては、かなりの屈辱だろうけど、これも1つの経験だ。
あれ、小さな人間がいる。
「ねえ、ラルク。コビトがいるよ」
「ナミネ、今すぐ捕まえろ!」
私はコビトの元へ走った。するとコビトは逃げなかった。
「久しぶり、ナミネ」
え、知り合いなの?でも、私は知らない。
「あの、どちら様でしょうか?」
「僕も忘れられたもんだね。僕はここの果樹園を管理しているフルート」
ここには管理者がいたのか。だから毎日果物がかわっていたわけか。よく見ると今日は果物が多い。
「そ、そうですか。あの、ここは果物が毎日変わってますよね?果物が殆どない日もあるのですか?」
「僕の気まぐれで変えてる。果物があまりない日もあるよ。でも、気まぐれだから毎日そんなことはしないけどね」
そうだったのか。とりあえず、果物はこれからも定期的にあることは分かった。
「あの、ここの果物って自由に取っていいんですよね?でも、土を持っていくのがダメなのはどうしてですか?」
「ここまで来れたなら果物は自由に取っていいよ。この際だから言うけれど、ここの果樹園は特別なところでそれを僕がマニュアル通りに管理しているから当然禁止事項はあるよ。ただでさえ小さな果樹園なのに土を取られたらここの果物に支障が出るからね。ここにある土は特別な土だから、少しも持ち帰ることは禁止。事故なら仕方ないけど、わざと枝を折るのも禁止。木ごと持ち帰りも禁止。勝手に別のもの植えるのも禁止。とにかく果樹園を勝手に変えるような真似をしなければ大丈夫」
雇われ管理者だろうか。けれど、私を知っているということは、私はここに来たことがあるんだ。果樹園に管理者がいるということは薬草園にも管理者がいるのだろうか。
それにしても、私はここに来た記憶なんて全くない。
「あの、私は昔、ここに来たことがあるのでしょうか?」
「そうだね。悲しい話だけど、大昔、妖精村に生まれたナミネはナノハナ家の5女だった。けれど、赤ん坊の時に産婦人科で取り違えられてしまい、ここの紀元前村の家族の子として育てられた。でも、ナミネが5歳になる頃に育て親は産婦人科で取り違えられたことを知り、ナノハナ家から本当の子を連れてくるなりナミネを家から追い出したんだ。小さいナミネは空き家で1人で住みはじめ、ある日、この崖を登って果物を取りに来たんだよ。その後、ナミネは町の人気者となった。ナミネが14歳になった頃、ヨルクはナミネを迎えに来たけどナミネはここが家だと言って、ヨルクと結婚し、ヨルクは家事をナミネは崖を登って果物や薬草を取って暮らしてたんだよ。僕とはナミネが老いて亡くなるまで、ずっと仲良しの友達だったんだよね」
私にそんな過去があったんだ。取り違えられて、いっときは育ての親だったのに、本当の子供と暮らせるようになれば、私を追い出しただなんて、酷い。話を聞いているだけでも苛立ってきた。
でも、ヨルクさんはどうやってここまで私を迎えに来たのだろう。そもそもナノハナ家の人間は誰も私を迎えに来なかったの?
「あの、その時、ナノハナ家の人は誰も私を迎えに来なかったのでしょうか?ヨルクさんはどうやってここまで来たのですか?」
「ナノハナ家の人間は、ナミネの育ての親が近いうちに連れて行くと嘘をついて、それを信じてずっと待ってた。ここには妖精村と紀元前村に繋がる洞窟のような通路があるんだよ。無論徒歩だと最低でも20日はかかるけど、ヨルクはナミネを迎えに行く一心で24日かけて歩いて来たんだよ。今もその通路は森の手前にあることにはあるけれど、妖精村まで繋がっているかは分からないね」
そういえば、遠い昔、セレナールさんやカナエさんたちがここに来た時にセイさんは通路を通って来たはず。あまりに昔のことだから今も通れるかは分からないけど、ヨルクさんは私のために24日もかけて来てくれたんだ。今と変わらず、ずっと私のことを愛してくれていたんだ。
「そうでしたか。その通路の存在は聞いたことはあります。フルートさんと私は、仲良しだったんですね。あの、フルートさんは、ずっとここにいるんですか?薬草園のほうも管理者がいるのでしょうか?」
「僕は毎日ここにいるよ。薬草園のほうは双子の兄のヤクゼンが管理してる」
かつての私は、ここでひとりぼっちになってもフルートさんがいたから、ここでの暮らしをやっていけたのだと思う。きっと、私にとってフルートさんは家族のようなものだったんだろうなあ。
「久しぶりに会えた記念にあげる」
フルートさんは私に金のリンゴを3つ渡した。3つ!?そんなにもらっていいのだろうか。
「あの、このような貴重なものを3つももらっていいのでしょうか?」
「いいよ。銅の果物は人の病を60%治す。銀の果物は人の病を80%治す。金の果物は人の病を完全に治すんだ。市場には売り出さずナミネや友達が困った時に持っておいて。まあ、感染症の人に与えてもいいけど。3つでは足りないだろうね。1人長さは0.5センチで横幅は薄切りで効果が出るよ。あまり人のために使いすぎないでね」
感染症が出たらこのリンゴで多くの人の命が助かる。けれど、私たちは経口補水液も作れるし、点滴もある。1つは家に持って帰りたいところだ。
「分かりました。大切に使います」
「ナミネ、そのリンゴ、何もしてない誰かさんに盗まれないためにも私が厳重に結界かけて保管するから渡してくれるかしら?」
リリカさんは果物係として、ここで食べる果物は全て管理している。リリカさんに預ければ安心だ。
「はい、分かりました。あの、1つは持って帰りたいのですがいいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
私はリリカさんに金のリンゴ3つを渡した。今日はパイナップルがいっぱい生えていて、私はフルートさんと話している間にたくさんのパイナップルを収穫した。
「フルートさん、ここにいる間は毎日来ます。そして、妖精村に戻ったあともきっと来ます」
「待ってる。何世紀も待ってるよ」
フルートさんから貴重な金のリンゴをもらったはいいけれど、帰ると今度はアルフォンス王子の今後の役目について話し合わなければならない。
フルートさんに会えたことはとても嬉しいが、ここでの暮らしの現実を思うと私の心は気が重たかった。
崖を下りる時は登る時とは違って風の舞が使えるから空中に浮きながらも楽に下りられた。そして、私たちは果物を持ってタルリヤさんの家に向かいはじめた。いよいよ、長い会議がはじまる。
……
あとがき。
やっと女子トイレが綺麗になった。
のはいいけれど、今度はアルフォンスが何もしなくなるフラグ?
フルートと再会出来たナミネ。
けれど、何世紀ぶりなのだろう。ずっと生きている者は死者の転生を待たなければならない。そういう運命も悲しい気がする。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 85話
《ナミネ》
この蓮華町に来て、ひと月が経とうとしている。
みんな、それぞれの役割にも慣れてきたし、食糧や衣類、石鹸、トイレの紙などの日常品も確保出来つつある。
順調に進んでいるかのように見えたのに、カラルリさんに続いて今度はアルフォンス王子が崖から転落した。
ここでは、少しも気を抜けない。上手くいっていても、またすぐに問題は起きてしまう。本当、どうしたものか。
「あんたら、また何かあったのかよ」
「あ、落ち武者さん、アルフォンス王子が崖から転落したんです。崖には途中で止まった伝説ワイヤーがありました。止まってしまった時に、思わず手を離してしまったかと思われます」
お武家ワイヤーも王室ワイヤーも速度はかなり早い。当たり前のように上まで行くと思っていたものが突然泊まってしまったら、人はイレギュラーな事態に混乱してしまう。
「一目惚れカラルリの次は、平凡アルフォンスか。今日はナヤセスもロォハもいないから、詳しいことは分かんないな。とりあえず、テントの中に寝かせておけ。あと、市場でもやっぱり小麦粉は貴重品でこれだけしか買えなかった。塩と砂糖は指定の500gずつ買えたんだけどね?」
そうか、小麦粉があれば多くの料理が作れる。値段も野菜ほどではないけれど、収穫量が多いため、町の人が手の出せる値段で売っているらしいし。
「そうですか。小麦のある場所探してみます」
私はとりあえずアルフォンス王子をテントの中に寝かせた。アルフォンス王子、とても震えている。予測もしていない事態に気持ちが着いていかなくて混乱したのだろうか。
けれど、カラルリさんにしてもアルフォンス王子にしても、何かあった時に舞などで対処出来ないのはどうしてだろう。もう遠い昔の力量はないのだろうか。
その時、カンザシさんが倒れた。
「カンザシさん!」
そっか、あの時カンザシさんごと飛び降りたから、カンザシさんも精神的にかなり滅入ってしまったのか。過呼吸起こしてる。私はカンザシさんをワラの上に寝かせ、リュックからビニール袋を取り出し、カンザシさんの口元に当てた。
「お2人ともしばらく休んでいてください」
「ナミネさん、行かないでください」
「すみませんが、ここに来た以上、みんな働いて暮らしているんです。私もやることがあるので、休んでいてください」
私はカンザシさんに掴まれた手を振りほどき、テントから出た。
そっか、落ち武者さんも一応加熱係だから手が離せない。
「ミツメさん、すみませんが赤いテントの中にある女子トイレの掃除してきてもらえないでしょうか?便器は紙に消毒液を付けて拭いて、置いてあるビニール袋は、この町のゴミ捨て場に捨てます。簡易トイレなので、ビニール袋を取り出して括って新しいビニール袋を付けてください」
「あんた、それは流石に酷だろ」
「私もミツメがやることではないと思う。ミツメは差し入れも持って来てくれたんだし、他の作業をさせるべきと思うが」
まあ確かにそうなんだよね。いきなり来たミツメさんに女子トイレの掃除をさせるのは無理があるか。女子トイレはもう諦めるしかないな。
「やります。リーダーに無理矢理連れてこられたとはいえ、このような、まるで古代のような町だとは思っていませんでした。皆さんの苦労お察しします。僕に出来ることなら何でもします」
はあ、ミツメさんは真面目だ。ここではしっかり働いてくれそう。けれど、女子トイレはいくらミツメさんが掃除しても、どの道同じことの繰り返しだ。ミツメさんにも、この町の暮らしを知ってもらわなくては。女子トイレのことは一旦放置しよう。
「あ、やっぱり女子トイレの掃除はいいです。ミツメさんは今後の役割はリリカさんの指示に従ってください」
私は、この町のことをミツメさんに説明した。川はこの町の人の飲み水であること、トイレのも含め全てのゴミはゴミ捨て場に持って行くこと、公衆浴場は3キロ先だからお風呂には入れないこと、崖を登る果物係や薬草係、洗濯係、買い出し係、加熱係などの役割で回していること、着替えは薄いガーゼ布の上下セットなことなどを話したのである。けれど、ミツメさんは真剣な表情をしていた。
「あ、カンザシさんは過呼吸でテントの中で横になっています」
「そうですか。リーダーのことは僕が面倒を見ます」
ミツメさん、優しすぎる。カンザシさんのワガママで連れてこられたのに、持ってくるべきものはちゃんと持って来ているみたいだし、ここへ来る覚悟がそれとなく伝わってくるよ。
「カンザシさんは、この町での生活はかなり厳しいと思います。あと、タルリヤさん、小麦取れる場所ありませんか?」
「家の裏に少しだけ生えてるよ」
「分かりました。それを採取して石臼で小麦粉を作ります」
私はタルリヤさんの家の裏に向かおうとした。
「その作業、僕がやります!」
どうしよう。来たばかりなのに、いきなり作業をさせて身体がもつだろうか。
「ナミネ、私がミツメさんを市場に連れて行って石臼買ってくるから、ナミネは休んでて。ナミネ、顔色悪いよ。クラフ、少しの間、洗濯任せてもいい?」
アルフォンス王子が目の前で転落し、一歩間違えたら命を落としていただろうから、私も動転しているのかもしれない。
「はい、大丈夫です。小麦粉作れるといいですね」
「では、すみませんが石臼の購入お願いします。私は適当な空き家で休んでいます」
「ナミネ、1人で何もかも考えなくていいからね」
ヨルクさんは私の頭を撫でた。何だか、恋人と言うより兄みたいだ。
ヨルクさんとミツメさんが市場に向かうと私は適当な空き家で横になった。
「おい、会議はじまるぞ。気分どうだ?」
落ち武者さん……。私、眠ってしまってたんだ。時計を見れば、まだ12時。どうして早く帰ってきたのだろう。ここでの暮らしは、私は4時に起きて水を汲み、6時に朝食、7時半からそれぞれが役割をし、15時半に作業は終わり、16時から会議、18時に夕ご飯、21時に就寝である。こんなに早く帰ってきたってことは、また何かあったのだろうか。
「あの、まだ12時ですが」
「果樹園に果物が殆どなかったんだよ。それで、薬草係に紙飛行機飛ばして今日の作業は中断になって、平凡アルフォンスとカンザシやミツメのことについて話し合うことになった」
果樹園に果物が殆どない!?こういう時期は今後も続くのだろうか。突然の予想外の出来事に私は戸惑った。
「そうですか。今テントに行きます」
私は落ち武者さんとテントに向かった。
テントでは、カンザシさんとアルフォンス王子が起き上がっていた。
「ナミネ、アルフォンス王子はどこも悪いところはなかったよ。映像見たセルファによると、伝説ワイヤーで登っている途中に伝説ワイヤーが突然止まった弾みでアルフォンス王子は手を離してしまったみたいなんだ。ズームさんによると伝説ワイヤーは故障したみたいで、ここの職人さんでも直せないし新しく作ることも出来ないらしい」
やっぱりアルフォンス王子は、伝説ワイヤーが止まった時に手を離してしまったのか。確かにものは完璧ではない。いつ故障してもおかしくないものである。けれど、修理も出来なければ、オーダーも出来ないなんて。伝説ワイヤーは1つしか持って来てないのに、アルフォンス王子みたいに壊れてしまえばどうしたらいいの?
「そうでしたか。今後、アルフォンス王子はどのような役割をするのでしょうか?」
「そのことなんだけど、セナ王女がワイヤーではなく、カギで登れる人のみ果物係をすべきだと言ってるの。明日、カギで登れるか果物係全員が試すわ。それと、今日みたいに果物が殆どない日が1週間続いたら、果物係は別の役割に回るしかないと思うの。例えば、動物捕獲係とかね。
ミツメはしばらくは小麦粉係、カンザシは洗い物係をしてちょうだい」
逆物質の逆バージョンとでも言うべきだろうか。やはり、古代の暮らしだからこそ、崖を登るにも古代のもののほうがワイヤーほどは壊れる心配がなく登ることが出来るのかもしれない。
「分かりました。頑張って小麦粉作ります」
「分かりました……」
カンザシさんは、本当にサボらずちゃんと作業出来るのだろうか。それにやっぱり女子トイレの件はそのままか。カギは市場で買わなくても崖を登ることを想定して来た人はみんな持っている。私は明日、必ずカギで登り切る。
あれ、アルフォンス王子の顔が青ざめている。どうしたんだろう。
「カラルリ、伝説ワイヤー貸してくれないか?」
「別に構わないけど、カギで登れないと果物係から外されるんだろ?」
「頼む!私だけカギで登ることは免除して欲しい!他のダサイ係なんてとてもじゃないけど出来ない!」
はあ、アルフォンス王子がカギで登れないなら、これからはアルフォンス王子も何もしないってこと?そんなの許せない。
「あの、加熱係は炎の舞使いますので、かなり難易度の高い役割で、今はカラルリさんだけなので、もう1人欲しいと私は思っています」
「無理だ!私は果物係しかやらない!」
アルフォンス王子ってワガママ。カナエさんはこんな男と別れて正解だったと思う。
「あら、森で動物捕まえてきてくれてもいいのよ?とにかく明日からはカギで登る。それが出来ないなら他の役割することね」
アルフォンス王子は一度転落してるんだし、カギも使えないなら他の安全な役割をしたほうがいい。アルフォンス王子はもう果物係は無理だ。
「あの、ここで何もしない人はタルリヤさんの家のご飯のみ食べて、みんなが一生懸命取ってきたものは食べないでください!そんな権利ありませんから!」
「私も同感ね。今後、何もしてない人が人の取ってきたもの食べようとするから阻止するわ!」
これで、約3人はこの家のご飯しか食べられない。係の人が一生懸命取ってきたものを何もしない人に食べられてはチームワークの乱れに繋がる。
「おい、誰に向かって口聞いてんだ、リリカ」
アルフォンス王子はタロットカードをリリカさんに突き付けた。が、リリカさんは扇子で一瞬にして吹き飛ばした。
「ナミネがあなたを助けなかったら、あなた死んでたかもしれないのよ?命あるだけ感謝しなさい!今から公衆浴場に行くわ!」
公衆浴場。やっとお風呂に入れる!
「ラルク、はじめての公衆浴場だね」
「そうだな。かなり歩くけど、流石にずっと風呂入ってなかったから、そろそろ入らないとな」
「ナミネ、公衆浴場では絶対布2枚巻いて」
どうしてヨルクさんって、こうやっていつも束縛みたいなことするの?公衆浴場は男女兼用なんだし、この町の人はまず布なんて巻かないだろう。
「ていうか、みんな水着持って来てるだろ。それ着たらいいと思うけど?」
「水着で入るも布巻くのもみんなの自由にして」
私は水着も布もいらない。けれど、念の為持って行こう。
「分かりました」
「石鹸はここに置いておきますので一人一つ持って行ってください」
石鹸いっぱいある。ズームさん、ハイスピードで量産してるんだ。
「ありがとうございます、ズームさん。あ、ミツメさんとカンザシさんはここで休んでいてください。ここから3キロ先なので」
「僕も行きます」
「リーダーが行くなら僕も行きます」
結局こうなるのか。私は少しずつカンザシさんから離れ、ヨルクさんの腕を組んだ。でも、古代の公衆浴場って……ヨルクさん変な気起こさないといいけど。
公衆浴場まではやや遠い。みんなのペースに合わせると30分では着けない。この往復が明日の崖登りに支障を来さなければいいのだけれど。私はゆっくり歩いた。
途中、何人か息切れしたものの、50分で公衆浴場に着いた。公衆浴場はを積み重ねられ作られた、そこそこ広い建物だった。
「ラルク、公衆浴場だよ!」
「だな」
「ナミネ、水着は絶対に着て!」
「分かりました!着ますけど、でも、ここは古代の暮らしなんですから、ヨルクさんこそ変な気起こさないでください」
「私はそのような気など起こさない」
中に入ると、思っていた通り服を脱ぐのも男女同じ場所だった。年頃な綺麗な人もいる。なんだかな。私はワンピース着たまま水着に着替えた。
「ナミネ、ビキニだったの?」
もう、いちいち何?
「下着の代わりに持って来たんですから、当然でしょう!何も着ないだけマシですよね?」
「う、うん、そうだね」
公衆浴場はお風呂は温泉のようだった。というか、かなり広い。私は髪をお団子にした。
「ナミネ、身体洗ってあげる」
2人の時はいつもヨルクさんに洗ってもらっているけど、公衆浴場だとそういうのは恥ずかしい。けれど、ここは人はそれなりにいるけれど、広いから誰も見てないか。
「はい」
ヨルクさんはズームさんが作った石鹸を泡立たせ、持って来たボディタオルで私の身体を洗いはじめた。何だか、ここに来てからずっと恋人らしい時間持てなかったから、少し新鮮。
「あの、ここって洗顔とかシャンプーとかってありますか?」
え、どうして知らない人に話しかけるの?それも黒髪の胸の大きなスタイルのいい美人。結局ヨルクさんって、これが目的だったんだじゃん。
「ふふっ、はじめて来たのね。ここは石鹸のみよ。髪も顔も身体も全て置いてある石鹸を使うのよ」
「そうなんですね。ボディタオルやバスタオルもないんですか?」
「身体はみんな手で洗ってるわ。バスタオルどころかここはタオルさえないのよ。出る時はみんな持って来た市場の布で身体拭いてるわ」
ここにあるのは、手洗い石鹸のようなものだ。それで顔を洗えば顔が荒れてしまう。21世紀にして家にお風呂がないどころか、公衆浴場通いで、そこには石鹸1つしか置かれていない。タオルさえも仕入れられないなんて、何度も思うが現代人には過酷すぎる生活だ。
あれ、セレナールさんと、リリカさん、ナナミお姉様、ロォラさん、セナ王女、カナエさんはタオル1つ巻いてない。
「あの、お姉さん。ここでは男性は女性を口説かないのですか?」
「ここは公衆浴場で、みんないるからタイプの子がいても、みんな素知らぬ顔してるわ。こんなところで変なことされても迷惑だしね」
なるほど。一応TPOはわきまえているというわけか。けれど、ここに来ている男は殆どセレナールさんを見てる。何だかいやだな。
「あの、お姉さんも合意でしてるんですか?あと、ここの暮らしはお姉さんにとってどんな感じでしょうか?」
「ふふっ、可愛らしい妹さんね。私はいくらここが古代の暮らしのままとはいえ、好きでもない人には許さないわ。それにここにいる男性は論外かしら。そうね、私は崖は登れないし、市場で野菜を買うしかなくて、いくら縫い物をしても、暮らしていけるほどのお金はもらえない。何より、ここで生まれた人はこの町から出ることは許されないから学校に行けないことが何より辛いわね」
お姉さんは、ナノハお姉様くらいの歳だろうか。私たちみたいに妖精村に生まれていたら学校にも行けて花盛りの今をめいいっぱい楽しめていただろうに。青春1つ出来ずこの町で歳をとっていくだなんて、何だか可哀想。
「あんた、そこそこ綺麗だし、果物とか男から分けてもらえないのかよ?」
「果物じゃないけど最初は干し魚とか分けてくれていたわ。でも拒み続けていたら、そのうち誰も何もくれなくなった。私は長女だから、下の子たちを養っていかないといけないけど、流石にこんな町でも綺麗な身体は貫きたいの」
この町の男は見返りを求めるのか。汚い。心が穢れている。この町の人には助け合いというものがないのだろうか。
「ナミネ、洗顔で顔洗うから目をつむって」
ヨルクさん、洗顔持って来たんだ。って、みんな持って来ているけど、なんか、容量が地味に多いような。
「はい」
「仲の良い兄妹なのね」
「彼女です。私の兄弟は、彼女の隣に座っているのが弟で、緑色の髪の女の子の隣にいるのが兄で、金髪で浴場の端っこにいるのがあねです」
「あら、そうだったの。全然似てないのね」
ヨルクさんは私の顔を洗い流し、次は髪を洗いはじめた。やっぱり、クレナイ家はヨルクさんだけ似てないか。
「お姉さんは、ここまでくるの大変じゃないですか?」
「ううん、家この近くだから。寧ろ、市場に通うのが体力いるわね」
公衆浴場の近くに家があるのか。頻繁にお風呂に入れるか、毎日楽に市場に通えるか、どっちがいいだろう。やっぱり、市場だろうか。ヨルクさんは私の髪を洗い流すと再び私の髪をお団子にした。
「私たち妖精村から来たんですけど、果物も干し魚もあるので、少し分けます」
「ううん、いいの。ここでは自力で生きていかないといけないから。それ相応な暮らしをしていくわ」
この人、根がしっかりしている。セナ王女なんて、失恋ひとつで騒ぎ立てるのに。私もそうだけどさ。この町の人は生きることが目標で、生きるために必死で働いているんだ。
「あんたさ、そこそこいい女なんだから、いい男見つけて幸せになれ!」
「ちょっとヨルクさん、どこ見てるんですか!ヨルクさんって胸の大きな人が好きですよね!いっそ、このお姉さんと一緒になればどうですか?」
本当いやになっちゃう。ヨルクさん、ずっとお姉さんのほうばっかり見てて、いやらしいったらありゃしない。
「ねえ、どうしてそういうこと言うの?私はナミネが話してたから話聞いてただけで、変な感情とかないから!決めつけないで!」
どうせ落ち武者さんにフェアリーングかけてもらったら、いやらしい本心話すだろうに。あー、やだやだ。私は無言でズームさんのところに行った。
「ロォラ、タオルくらい巻け!」
「でも、みんなありのままだぞ?ズーム」
私はズームさんの膝の上に頭を乗せた。
「ロォラさんてセクシーですよね。他の男に見られたくない?ない?」
ズームさんは無言で私にタオルをかけた。そうだった。ヨルクさんに身体洗ってもらう時に水着脱げちゃったんだった。ああいった白いビキニって私のような小さいサイズ売ってないんだよね。大きめの買ったら、スルリと脱げちゃった。
「僕は何度も話した通りです」
うーん、ズームさんて、あまり恋したことないのかな。いや、かつてのカンザシさんに元カノを取られたってことは、そこそこ恋愛はしているはず。
「水着、大きいのしかなかったんです。だから脱げちゃった。えへへ」
「ナミネ、水着脱いで何してるの?お風呂入るよ。早く水着着て!」
私は起き上がった。
「水着大きいから脱げちゃったんです!あ、ズームさん、タオルありがとうございました」
私は水着を着るとヨルクさんに手を引っぱられ、浴場に入った。
温かい。お風呂なんて何日ぶりだろう。当たり前のことが、ここではそうではない。お風呂に入ることがこんなに尊いものだと感じたのははじめてだと思う。
その時ヨルクさんは私を膝の上に乗せた。ヨルクさんの紅葉の香りが心地いい。このまま眠ってしまいたい。
「はい、ストップ!ここ公衆浴場だからね?あんたら2人で入っているわけじゃないからね?」
私は咄嗟にヨルクさんから離れた。
「ねえ、落ち武者さん、公衆浴場に来てから、ずっと私たちの近くにいたよね?」
「別にどこにいてもいいと思うけど?」
「もういい!ナミネ、身体洗えたから汚れも落ちたね」
「はい」
その時、さっき話していたお姉さんがヨルクさんにぶつかった。
「大丈夫ですか?」
「助けて!」
え、何が起きたのだろう。ふと横を見るとガタイの大きな男が年頃の綺麗な女の子を押し倒していた。
「なあ、あの男誰だよ」
お姉さんは起き上がった。
「普段は森で住んでいて、たまに町に下りてきては気に入った女性を次々に襲っているの。あの男に初を奪われた子も何人もいるわ!」
そういえば、遠い昔、ターリャさんが皇太子様を公衆浴場まで連れて行き、その帰りに、長身のガタイの大きな男が襲いかかってきた。その時はターリャさんが男を倒したけれど。あの時の男なのだろうか。
「ナミネ、交番に紙飛行機飛ばせ!」
「分かった、ラルク!」
私は交番に紙飛行機を飛ばした。ラルクが男を拘束しようとした時、リリカさんがギリギリのところで襲われている女の子を助け、男を思いっきり殴った。そして、花札で男を拘束した。
少しすると、交番の人が来た。暮らしは古代とはいえ、交番の人まで市場のステテコもどき姿だと調子が狂ってしまう。
交番の人が男を連れて行こうとした時、男は自力で拘束を解くなり、こちらに向かって来た。狙いはお姉さんか。
「ラルク!」
「ああ」
私が男を押さえている間にラルクは公衆浴場に置いてある緊急用の縄を持ち、男を縄で拘束した。お姉さんは泣きながら倒れるようにヨルクさんにもたれかかった。
……
あとがき。
伝説ワイヤーよりカギ登りを指定したセナ。
ナミネは無事カギで崖を登ることが出来るのだろうか?
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
この蓮華町に来て、ひと月が経とうとしている。
みんな、それぞれの役割にも慣れてきたし、食糧や衣類、石鹸、トイレの紙などの日常品も確保出来つつある。
順調に進んでいるかのように見えたのに、カラルリさんに続いて今度はアルフォンス王子が崖から転落した。
ここでは、少しも気を抜けない。上手くいっていても、またすぐに問題は起きてしまう。本当、どうしたものか。
「あんたら、また何かあったのかよ」
「あ、落ち武者さん、アルフォンス王子が崖から転落したんです。崖には途中で止まった伝説ワイヤーがありました。止まってしまった時に、思わず手を離してしまったかと思われます」
お武家ワイヤーも王室ワイヤーも速度はかなり早い。当たり前のように上まで行くと思っていたものが突然泊まってしまったら、人はイレギュラーな事態に混乱してしまう。
「一目惚れカラルリの次は、平凡アルフォンスか。今日はナヤセスもロォハもいないから、詳しいことは分かんないな。とりあえず、テントの中に寝かせておけ。あと、市場でもやっぱり小麦粉は貴重品でこれだけしか買えなかった。塩と砂糖は指定の500gずつ買えたんだけどね?」
そうか、小麦粉があれば多くの料理が作れる。値段も野菜ほどではないけれど、収穫量が多いため、町の人が手の出せる値段で売っているらしいし。
「そうですか。小麦のある場所探してみます」
私はとりあえずアルフォンス王子をテントの中に寝かせた。アルフォンス王子、とても震えている。予測もしていない事態に気持ちが着いていかなくて混乱したのだろうか。
けれど、カラルリさんにしてもアルフォンス王子にしても、何かあった時に舞などで対処出来ないのはどうしてだろう。もう遠い昔の力量はないのだろうか。
その時、カンザシさんが倒れた。
「カンザシさん!」
そっか、あの時カンザシさんごと飛び降りたから、カンザシさんも精神的にかなり滅入ってしまったのか。過呼吸起こしてる。私はカンザシさんをワラの上に寝かせ、リュックからビニール袋を取り出し、カンザシさんの口元に当てた。
「お2人ともしばらく休んでいてください」
「ナミネさん、行かないでください」
「すみませんが、ここに来た以上、みんな働いて暮らしているんです。私もやることがあるので、休んでいてください」
私はカンザシさんに掴まれた手を振りほどき、テントから出た。
そっか、落ち武者さんも一応加熱係だから手が離せない。
「ミツメさん、すみませんが赤いテントの中にある女子トイレの掃除してきてもらえないでしょうか?便器は紙に消毒液を付けて拭いて、置いてあるビニール袋は、この町のゴミ捨て場に捨てます。簡易トイレなので、ビニール袋を取り出して括って新しいビニール袋を付けてください」
「あんた、それは流石に酷だろ」
「私もミツメがやることではないと思う。ミツメは差し入れも持って来てくれたんだし、他の作業をさせるべきと思うが」
まあ確かにそうなんだよね。いきなり来たミツメさんに女子トイレの掃除をさせるのは無理があるか。女子トイレはもう諦めるしかないな。
「やります。リーダーに無理矢理連れてこられたとはいえ、このような、まるで古代のような町だとは思っていませんでした。皆さんの苦労お察しします。僕に出来ることなら何でもします」
はあ、ミツメさんは真面目だ。ここではしっかり働いてくれそう。けれど、女子トイレはいくらミツメさんが掃除しても、どの道同じことの繰り返しだ。ミツメさんにも、この町の暮らしを知ってもらわなくては。女子トイレのことは一旦放置しよう。
「あ、やっぱり女子トイレの掃除はいいです。ミツメさんは今後の役割はリリカさんの指示に従ってください」
私は、この町のことをミツメさんに説明した。川はこの町の人の飲み水であること、トイレのも含め全てのゴミはゴミ捨て場に持って行くこと、公衆浴場は3キロ先だからお風呂には入れないこと、崖を登る果物係や薬草係、洗濯係、買い出し係、加熱係などの役割で回していること、着替えは薄いガーゼ布の上下セットなことなどを話したのである。けれど、ミツメさんは真剣な表情をしていた。
「あ、カンザシさんは過呼吸でテントの中で横になっています」
「そうですか。リーダーのことは僕が面倒を見ます」
ミツメさん、優しすぎる。カンザシさんのワガママで連れてこられたのに、持ってくるべきものはちゃんと持って来ているみたいだし、ここへ来る覚悟がそれとなく伝わってくるよ。
「カンザシさんは、この町での生活はかなり厳しいと思います。あと、タルリヤさん、小麦取れる場所ありませんか?」
「家の裏に少しだけ生えてるよ」
「分かりました。それを採取して石臼で小麦粉を作ります」
私はタルリヤさんの家の裏に向かおうとした。
「その作業、僕がやります!」
どうしよう。来たばかりなのに、いきなり作業をさせて身体がもつだろうか。
「ナミネ、私がミツメさんを市場に連れて行って石臼買ってくるから、ナミネは休んでて。ナミネ、顔色悪いよ。クラフ、少しの間、洗濯任せてもいい?」
アルフォンス王子が目の前で転落し、一歩間違えたら命を落としていただろうから、私も動転しているのかもしれない。
「はい、大丈夫です。小麦粉作れるといいですね」
「では、すみませんが石臼の購入お願いします。私は適当な空き家で休んでいます」
「ナミネ、1人で何もかも考えなくていいからね」
ヨルクさんは私の頭を撫でた。何だか、恋人と言うより兄みたいだ。
ヨルクさんとミツメさんが市場に向かうと私は適当な空き家で横になった。
「おい、会議はじまるぞ。気分どうだ?」
落ち武者さん……。私、眠ってしまってたんだ。時計を見れば、まだ12時。どうして早く帰ってきたのだろう。ここでの暮らしは、私は4時に起きて水を汲み、6時に朝食、7時半からそれぞれが役割をし、15時半に作業は終わり、16時から会議、18時に夕ご飯、21時に就寝である。こんなに早く帰ってきたってことは、また何かあったのだろうか。
「あの、まだ12時ですが」
「果樹園に果物が殆どなかったんだよ。それで、薬草係に紙飛行機飛ばして今日の作業は中断になって、平凡アルフォンスとカンザシやミツメのことについて話し合うことになった」
果樹園に果物が殆どない!?こういう時期は今後も続くのだろうか。突然の予想外の出来事に私は戸惑った。
「そうですか。今テントに行きます」
私は落ち武者さんとテントに向かった。
テントでは、カンザシさんとアルフォンス王子が起き上がっていた。
「ナミネ、アルフォンス王子はどこも悪いところはなかったよ。映像見たセルファによると、伝説ワイヤーで登っている途中に伝説ワイヤーが突然止まった弾みでアルフォンス王子は手を離してしまったみたいなんだ。ズームさんによると伝説ワイヤーは故障したみたいで、ここの職人さんでも直せないし新しく作ることも出来ないらしい」
やっぱりアルフォンス王子は、伝説ワイヤーが止まった時に手を離してしまったのか。確かにものは完璧ではない。いつ故障してもおかしくないものである。けれど、修理も出来なければ、オーダーも出来ないなんて。伝説ワイヤーは1つしか持って来てないのに、アルフォンス王子みたいに壊れてしまえばどうしたらいいの?
「そうでしたか。今後、アルフォンス王子はどのような役割をするのでしょうか?」
「そのことなんだけど、セナ王女がワイヤーではなく、カギで登れる人のみ果物係をすべきだと言ってるの。明日、カギで登れるか果物係全員が試すわ。それと、今日みたいに果物が殆どない日が1週間続いたら、果物係は別の役割に回るしかないと思うの。例えば、動物捕獲係とかね。
ミツメはしばらくは小麦粉係、カンザシは洗い物係をしてちょうだい」
逆物質の逆バージョンとでも言うべきだろうか。やはり、古代の暮らしだからこそ、崖を登るにも古代のもののほうがワイヤーほどは壊れる心配がなく登ることが出来るのかもしれない。
「分かりました。頑張って小麦粉作ります」
「分かりました……」
カンザシさんは、本当にサボらずちゃんと作業出来るのだろうか。それにやっぱり女子トイレの件はそのままか。カギは市場で買わなくても崖を登ることを想定して来た人はみんな持っている。私は明日、必ずカギで登り切る。
あれ、アルフォンス王子の顔が青ざめている。どうしたんだろう。
「カラルリ、伝説ワイヤー貸してくれないか?」
「別に構わないけど、カギで登れないと果物係から外されるんだろ?」
「頼む!私だけカギで登ることは免除して欲しい!他のダサイ係なんてとてもじゃないけど出来ない!」
はあ、アルフォンス王子がカギで登れないなら、これからはアルフォンス王子も何もしないってこと?そんなの許せない。
「あの、加熱係は炎の舞使いますので、かなり難易度の高い役割で、今はカラルリさんだけなので、もう1人欲しいと私は思っています」
「無理だ!私は果物係しかやらない!」
アルフォンス王子ってワガママ。カナエさんはこんな男と別れて正解だったと思う。
「あら、森で動物捕まえてきてくれてもいいのよ?とにかく明日からはカギで登る。それが出来ないなら他の役割することね」
アルフォンス王子は一度転落してるんだし、カギも使えないなら他の安全な役割をしたほうがいい。アルフォンス王子はもう果物係は無理だ。
「あの、ここで何もしない人はタルリヤさんの家のご飯のみ食べて、みんなが一生懸命取ってきたものは食べないでください!そんな権利ありませんから!」
「私も同感ね。今後、何もしてない人が人の取ってきたもの食べようとするから阻止するわ!」
これで、約3人はこの家のご飯しか食べられない。係の人が一生懸命取ってきたものを何もしない人に食べられてはチームワークの乱れに繋がる。
「おい、誰に向かって口聞いてんだ、リリカ」
アルフォンス王子はタロットカードをリリカさんに突き付けた。が、リリカさんは扇子で一瞬にして吹き飛ばした。
「ナミネがあなたを助けなかったら、あなた死んでたかもしれないのよ?命あるだけ感謝しなさい!今から公衆浴場に行くわ!」
公衆浴場。やっとお風呂に入れる!
「ラルク、はじめての公衆浴場だね」
「そうだな。かなり歩くけど、流石にずっと風呂入ってなかったから、そろそろ入らないとな」
「ナミネ、公衆浴場では絶対布2枚巻いて」
どうしてヨルクさんって、こうやっていつも束縛みたいなことするの?公衆浴場は男女兼用なんだし、この町の人はまず布なんて巻かないだろう。
「ていうか、みんな水着持って来てるだろ。それ着たらいいと思うけど?」
「水着で入るも布巻くのもみんなの自由にして」
私は水着も布もいらない。けれど、念の為持って行こう。
「分かりました」
「石鹸はここに置いておきますので一人一つ持って行ってください」
石鹸いっぱいある。ズームさん、ハイスピードで量産してるんだ。
「ありがとうございます、ズームさん。あ、ミツメさんとカンザシさんはここで休んでいてください。ここから3キロ先なので」
「僕も行きます」
「リーダーが行くなら僕も行きます」
結局こうなるのか。私は少しずつカンザシさんから離れ、ヨルクさんの腕を組んだ。でも、古代の公衆浴場って……ヨルクさん変な気起こさないといいけど。
公衆浴場まではやや遠い。みんなのペースに合わせると30分では着けない。この往復が明日の崖登りに支障を来さなければいいのだけれど。私はゆっくり歩いた。
途中、何人か息切れしたものの、50分で公衆浴場に着いた。公衆浴場はを積み重ねられ作られた、そこそこ広い建物だった。
「ラルク、公衆浴場だよ!」
「だな」
「ナミネ、水着は絶対に着て!」
「分かりました!着ますけど、でも、ここは古代の暮らしなんですから、ヨルクさんこそ変な気起こさないでください」
「私はそのような気など起こさない」
中に入ると、思っていた通り服を脱ぐのも男女同じ場所だった。年頃な綺麗な人もいる。なんだかな。私はワンピース着たまま水着に着替えた。
「ナミネ、ビキニだったの?」
もう、いちいち何?
「下着の代わりに持って来たんですから、当然でしょう!何も着ないだけマシですよね?」
「う、うん、そうだね」
公衆浴場はお風呂は温泉のようだった。というか、かなり広い。私は髪をお団子にした。
「ナミネ、身体洗ってあげる」
2人の時はいつもヨルクさんに洗ってもらっているけど、公衆浴場だとそういうのは恥ずかしい。けれど、ここは人はそれなりにいるけれど、広いから誰も見てないか。
「はい」
ヨルクさんはズームさんが作った石鹸を泡立たせ、持って来たボディタオルで私の身体を洗いはじめた。何だか、ここに来てからずっと恋人らしい時間持てなかったから、少し新鮮。
「あの、ここって洗顔とかシャンプーとかってありますか?」
え、どうして知らない人に話しかけるの?それも黒髪の胸の大きなスタイルのいい美人。結局ヨルクさんって、これが目的だったんだじゃん。
「ふふっ、はじめて来たのね。ここは石鹸のみよ。髪も顔も身体も全て置いてある石鹸を使うのよ」
「そうなんですね。ボディタオルやバスタオルもないんですか?」
「身体はみんな手で洗ってるわ。バスタオルどころかここはタオルさえないのよ。出る時はみんな持って来た市場の布で身体拭いてるわ」
ここにあるのは、手洗い石鹸のようなものだ。それで顔を洗えば顔が荒れてしまう。21世紀にして家にお風呂がないどころか、公衆浴場通いで、そこには石鹸1つしか置かれていない。タオルさえも仕入れられないなんて、何度も思うが現代人には過酷すぎる生活だ。
あれ、セレナールさんと、リリカさん、ナナミお姉様、ロォラさん、セナ王女、カナエさんはタオル1つ巻いてない。
「あの、お姉さん。ここでは男性は女性を口説かないのですか?」
「ここは公衆浴場で、みんないるからタイプの子がいても、みんな素知らぬ顔してるわ。こんなところで変なことされても迷惑だしね」
なるほど。一応TPOはわきまえているというわけか。けれど、ここに来ている男は殆どセレナールさんを見てる。何だかいやだな。
「あの、お姉さんも合意でしてるんですか?あと、ここの暮らしはお姉さんにとってどんな感じでしょうか?」
「ふふっ、可愛らしい妹さんね。私はいくらここが古代の暮らしのままとはいえ、好きでもない人には許さないわ。それにここにいる男性は論外かしら。そうね、私は崖は登れないし、市場で野菜を買うしかなくて、いくら縫い物をしても、暮らしていけるほどのお金はもらえない。何より、ここで生まれた人はこの町から出ることは許されないから学校に行けないことが何より辛いわね」
お姉さんは、ナノハお姉様くらいの歳だろうか。私たちみたいに妖精村に生まれていたら学校にも行けて花盛りの今をめいいっぱい楽しめていただろうに。青春1つ出来ずこの町で歳をとっていくだなんて、何だか可哀想。
「あんた、そこそこ綺麗だし、果物とか男から分けてもらえないのかよ?」
「果物じゃないけど最初は干し魚とか分けてくれていたわ。でも拒み続けていたら、そのうち誰も何もくれなくなった。私は長女だから、下の子たちを養っていかないといけないけど、流石にこんな町でも綺麗な身体は貫きたいの」
この町の男は見返りを求めるのか。汚い。心が穢れている。この町の人には助け合いというものがないのだろうか。
「ナミネ、洗顔で顔洗うから目をつむって」
ヨルクさん、洗顔持って来たんだ。って、みんな持って来ているけど、なんか、容量が地味に多いような。
「はい」
「仲の良い兄妹なのね」
「彼女です。私の兄弟は、彼女の隣に座っているのが弟で、緑色の髪の女の子の隣にいるのが兄で、金髪で浴場の端っこにいるのがあねです」
「あら、そうだったの。全然似てないのね」
ヨルクさんは私の顔を洗い流し、次は髪を洗いはじめた。やっぱり、クレナイ家はヨルクさんだけ似てないか。
「お姉さんは、ここまでくるの大変じゃないですか?」
「ううん、家この近くだから。寧ろ、市場に通うのが体力いるわね」
公衆浴場の近くに家があるのか。頻繁にお風呂に入れるか、毎日楽に市場に通えるか、どっちがいいだろう。やっぱり、市場だろうか。ヨルクさんは私の髪を洗い流すと再び私の髪をお団子にした。
「私たち妖精村から来たんですけど、果物も干し魚もあるので、少し分けます」
「ううん、いいの。ここでは自力で生きていかないといけないから。それ相応な暮らしをしていくわ」
この人、根がしっかりしている。セナ王女なんて、失恋ひとつで騒ぎ立てるのに。私もそうだけどさ。この町の人は生きることが目標で、生きるために必死で働いているんだ。
「あんたさ、そこそこいい女なんだから、いい男見つけて幸せになれ!」
「ちょっとヨルクさん、どこ見てるんですか!ヨルクさんって胸の大きな人が好きですよね!いっそ、このお姉さんと一緒になればどうですか?」
本当いやになっちゃう。ヨルクさん、ずっとお姉さんのほうばっかり見てて、いやらしいったらありゃしない。
「ねえ、どうしてそういうこと言うの?私はナミネが話してたから話聞いてただけで、変な感情とかないから!決めつけないで!」
どうせ落ち武者さんにフェアリーングかけてもらったら、いやらしい本心話すだろうに。あー、やだやだ。私は無言でズームさんのところに行った。
「ロォラ、タオルくらい巻け!」
「でも、みんなありのままだぞ?ズーム」
私はズームさんの膝の上に頭を乗せた。
「ロォラさんてセクシーですよね。他の男に見られたくない?ない?」
ズームさんは無言で私にタオルをかけた。そうだった。ヨルクさんに身体洗ってもらう時に水着脱げちゃったんだった。ああいった白いビキニって私のような小さいサイズ売ってないんだよね。大きめの買ったら、スルリと脱げちゃった。
「僕は何度も話した通りです」
うーん、ズームさんて、あまり恋したことないのかな。いや、かつてのカンザシさんに元カノを取られたってことは、そこそこ恋愛はしているはず。
「水着、大きいのしかなかったんです。だから脱げちゃった。えへへ」
「ナミネ、水着脱いで何してるの?お風呂入るよ。早く水着着て!」
私は起き上がった。
「水着大きいから脱げちゃったんです!あ、ズームさん、タオルありがとうございました」
私は水着を着るとヨルクさんに手を引っぱられ、浴場に入った。
温かい。お風呂なんて何日ぶりだろう。当たり前のことが、ここではそうではない。お風呂に入ることがこんなに尊いものだと感じたのははじめてだと思う。
その時ヨルクさんは私を膝の上に乗せた。ヨルクさんの紅葉の香りが心地いい。このまま眠ってしまいたい。
「はい、ストップ!ここ公衆浴場だからね?あんたら2人で入っているわけじゃないからね?」
私は咄嗟にヨルクさんから離れた。
「ねえ、落ち武者さん、公衆浴場に来てから、ずっと私たちの近くにいたよね?」
「別にどこにいてもいいと思うけど?」
「もういい!ナミネ、身体洗えたから汚れも落ちたね」
「はい」
その時、さっき話していたお姉さんがヨルクさんにぶつかった。
「大丈夫ですか?」
「助けて!」
え、何が起きたのだろう。ふと横を見るとガタイの大きな男が年頃の綺麗な女の子を押し倒していた。
「なあ、あの男誰だよ」
お姉さんは起き上がった。
「普段は森で住んでいて、たまに町に下りてきては気に入った女性を次々に襲っているの。あの男に初を奪われた子も何人もいるわ!」
そういえば、遠い昔、ターリャさんが皇太子様を公衆浴場まで連れて行き、その帰りに、長身のガタイの大きな男が襲いかかってきた。その時はターリャさんが男を倒したけれど。あの時の男なのだろうか。
「ナミネ、交番に紙飛行機飛ばせ!」
「分かった、ラルク!」
私は交番に紙飛行機を飛ばした。ラルクが男を拘束しようとした時、リリカさんがギリギリのところで襲われている女の子を助け、男を思いっきり殴った。そして、花札で男を拘束した。
少しすると、交番の人が来た。暮らしは古代とはいえ、交番の人まで市場のステテコもどき姿だと調子が狂ってしまう。
交番の人が男を連れて行こうとした時、男は自力で拘束を解くなり、こちらに向かって来た。狙いはお姉さんか。
「ラルク!」
「ああ」
私が男を押さえている間にラルクは公衆浴場に置いてある緊急用の縄を持ち、男を縄で拘束した。お姉さんは泣きながら倒れるようにヨルクさんにもたれかかった。
……
あとがき。
伝説ワイヤーよりカギ登りを指定したセナ。
ナミネは無事カギで崖を登ることが出来るのだろうか?
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。