日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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地主(土地貸してます)
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漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
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お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
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現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
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が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
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→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
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2025年08月04日
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〈資格証明バナー〉

純愛偏差値 未来編 一人称版 94話
《ナミネ》
「なあ、そこのあんた。これ皇帝陛下かよ?」
「それに関しましては今となっては正確なことは分かりません。皇帝陛下が五つ子だったという噂もありますし、この町で分かる人はいないと思います」
例え、皇帝陛下が五つ子だったとしても、妖精村の前だと今の皇帝陛下ではない。だから皇帝陛下が、こんなに着飾った服を着ているのは何だか奇妙だ。
人魚の肉を食べるなら、その時の皇帝陛下のはずだと思うのだけど。
「ねえ、ラルク。これって本当に皇帝陛下なのかな」
「どう見たって皇帝陛下だわな」
うーん、じゃあ、皇帝陛下は、かなりの年月を生きてきたということなのだろうか。昔のことほど、分かる人は、だんだんいなくなる。時間とともに風化して、正確なことは本人のみしか知らない。
「皇帝陛下ですね。現代の皇帝陛下は、大昔、紀元前村の皇帝陛下をしていたと言われています。背景も今の蓮華町に似ていますし。実際のところどうか分かりませんが」
言われてみれば、背景は今の蓮華町だ。だとしたら、皇帝陛下は、どこかのタイミングで妖精村に移り住んだのだろうか。
とりあえず、他の写真も見ないと。私はアルバムを何個か机に乗せた。
すると、皇帝陛下と皇后陛下とミドリお姉様が仲睦まじそうに映っていた。ミドリお姉様とナクリお姉様は、一卵性の双子だ。けれど、あまり似ていない。でも、この写真だとミドリお姉様のチャームポイントであるソバカスはなく、髪も綺麗なストレートのロングヘアだ。
その時、キクスケさんからメールが来た。圏外なのに、どうしてメールが来るのだろう。私はメールを開けた。
『皇帝陛下と皇后陛下の間にはなかなか子供が出来ませんでした。そこで、あなたのお母様がミドリさんを代理出産したのです。その時に、あなたのお父様との受精卵と皇帝陛下と皇后陛下の受精卵が混合しました。妖精村特有の、2卵生混合受精です。
けれど、その時にナクリさんも同時に妊娠しました。ミドリさんとナクリさんは双子として生まれましたが、ミドリさんには母親も父親も2人います。ですが、似たような時期に賤民が皇帝陛下の子を生みました。それがレオナルド第1王子です。その後、クリレータ皇女とレナード皇太子が生まれました。でも、本当の皇女はミドリさんなのです。この真実を公にしてはならないと、皇帝陛下はミドリさんをナノハナ家の子として育てるよう、あなたの母親に言いました。もし、真実が公になれば、クリレータ皇女は皇女を剥奪されるでしょう』
ミドリお姉様が皇帝陛下と皇后陛下の娘だったの?本当の皇女はミドリお姉様?じゃあ、いつかミドリお姉様は皇室に行くのだろうか。いつも親しくしていたミドリお姉様が皇女と聞くと、何だか遠い存在に感じてしまう。
『あ、でも皇帝陛下って人魚の肉食べたんですよね?だったら、子供いっぱいいるんじゃないんですか?』
『残念ながら、皇帝陛下の食べた肉は人魚の肉ではありませんでした。ゆえに、皇帝陛下は何度も転生しています』
なんだ、人魚の肉じゃなかったんだ。紛らわしい写真だな。
けれど、ミドリお姉様が皇帝陛下と皇后陛下の子供という事実は誰にも知られてはいけない。隠し通さないと。でないと、皇室を揺るがす事態になってしまう。
「ナミネ、ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょう、ナヤセス殿」
ナヤセス殿は私を誰もいないところに連れて行った。ここの図書館は本はたくさんあるけど、飲み物も飲めて、ゆったり出来る空間だな。
「ナミネはね、ヨウセイ型なんだよ。だから、無闇に血を分けちゃダメだからね。ヨウセイ型は常に90%を維持していないといけない。70%で老いて来て、40%で老人のような姿になってしまう。30%で死を彷徨うんだ」
「そうですか。どういう経緯でヨウセイ型なのかは分かりませんが、血は分けません。私はヨルクさんと生きます!」
「悪いけど、その話聞かせてもらったぜ」
落ち武者さん、ラルク。まあ、血液型の話なら別に聞かれてもいいか。
「あ、ラルクと落ち武者さんいたんですね」
「ナミネの血液は絶対使わない!ナミネがヨウセイ型なのも誰にも知られないようにする」
ラルク……。
「強気なナミネのことは僕らで守るから安心しろ!」
落ち武者さん……。
「ナミネのおばあさんが昔、女神だったんだよ」
おばあ様が女神……。そんなの聞いたことない。
「あ、では、他の姉たちもヨウセイ型なのでしょうか?」
「ナミネとミドリさんだけだよ」
やっぱり、ミドリお姉様は特別なんだ。皇帝陛下と皇后陛下の子供ってだけで、一国の皇女だもんな。出来ることなら遠くへ行かないでほしい。
「じゃ、参考になるものは、ある程度写真に撮ったからキクリ家行く」
私たちは図書館を出ようとしたが、ヨルクさんが泣き崩れたままだった。
「あんた、いつまでそうしてんのさ」
「ヨルクさん、帰りますよ。別荘には井戸がないのでキクリ家に向かいます」
私はヨルクさんを立たせようとした。けれど、ヨルクさんに突き飛ばされた。
「馬鹿にしないで!」
「ヨルクさん、しっかりしてください!」
落ち武者さんは、ヨルクさんを背負い図書館から出て、通路を通ると人魚の湖から出た。
人魚の湖の外は晴れている。
「私はここに残る。ユウサクさんの家でお世話になる。ナミネ、別れよう」
「あんた、本気で言ってんのかよ!強気なナミネしかいないと気づいた時には遅いんだぞ!」
「もういいです!別れるもここに残るも好きにしてください!縁談は完全に取り消しますし、復縁はありません!お互い別々の人と幸せになりましょう!」
たかが写真1枚で別れとか、本当腹立つ。あたかも私が悪いことしたように言われて、こっちも気分が悪い。ヨルクさんなんか好きに生きればいい。私はもう知らない。
「アルフォンス王子、乗ってください」
「あ、ああ」
私はアルフォンス王子を乗せると猛スピードで馬を走らせた。別荘にいるメンバーには、落ち武者さんが紙飛行機飛ばしてキクリ家に集まるよう伝えたらしい。
昨日の大雨で、地面はぬかるんでいるが、それでも昨日よりかはマシだ。また、ここに来ることがあるだろうか。
キクリ家に着くと、どうやら別荘にいたメンバーも集まっているようだ。
「ラルク、水汲みしよ」
「そうだな」
私とラルクは中庭に行った。そして、井戸から水を汲み上げた。
あれ、この水、泡がある。誰かが井戸の中に石鹸で洗ったタライの水ごと入れたんだ。
「ラルク、この井戸使えないよ」
「ナミネ、こっちもだ。カナコさんに知らせよう」
私とラルクは家の中に入ろうとした。すると、声が聞こえてきて、再び戻ったのだ。
「ねえ、ラァナさんて、中学生の時、イジワルにあったのよね?」
ラァナさん来てたんだ。てか、どうしてアヤネさんがそれを知っているの。
「何の話かしら」
「この映像見て」
「やめて!!!」
私はアヤネさんのお腹を蹴ろうとした。けれど、その前にカナコさんがアヤネさんを殴り付けた。
「カナコさん、暴力はやめてください!とにかく事情聞きましょう!」
セリルさんがアヤネさんからカナコさんを引き離した。ラァナさんは泣いている。
「あの、カナコさん、この井戸、泡が入ってるんです。まるで誰かが、石鹸で洗った何かをタライごと井戸に入れたような」
「はあ、この非常事態に井戸も使えないなんて不便だわ」
この後、カナコさんは修理屋を呼ぶことになるのである。
「アヤネ、井戸使えなくしたのは君だね」
やっぱり、アヤネさん、ここでも迷惑かけているのか。
「紀元前村に行ってから、私みんなからイジメられてばかりで、辛いんです。でも、私、みんなみたいに慣れていなくて全部分からないのに。無理矢理いやなことさせられたり、笑われたり。こっちに戻って来てからも内官とか笑わられて。けれど、何をどうしたらいいか分からないんです!」
分からない?とぼけるのも、いい加減にしてほしい。
「あの、アヤネさん、自分でトイレ汚したのに放置してましたよね!紀元前村では何もせず、汚いことはしたくないと馬鹿にしてるのはどっちですか!」
「アヤネは、どうして井戸にタライの汚れた水ごと入れたのかな?」
「庭には捨てられないと、井戸に入れてしまったんです」
何それ。私ちゃんと説明したよね。
「その場合は別のタライに入れてと言ったじゃないですか!自分で忘れて責任転嫁とかどういう神経してるんですか!」
「アヤネは言われても覚えきれなかったのかな?」
「はい、はじめてのことなので全くわからないです。なのに、分からないがイジメの対象になって、やり切れませんでした」
私たち、そんなにアヤネさんのこと蔑ろにしていたのだろうか。私は普通に教えていたつもりだったんだけど。
「でも、いくらストレス溜まったからといって、ラァナさんイジメたら、余計にしんどいこと増えるよね?ラァナさんもいやな気持ちになるし、ラァナさんの友達からも怒り買っちゃうし。ナミネ、ラルク、みんなもアヤネのことは分かるまで教えてあげてくれないかな?」
あ、みんな戻って来てたんだ。なんだかんだで、ヨルクさんもいる。ユウサクさんの家に住むんじゃなかったの?
「私は平等に接してきたつもりだったし、洗濯係でなかったから何も分からなかったわ。アヤネが苦しんでいたことも」
セナ王女は、確かに色々は言っていない。
「カナエもキツく言ったつもりはありません」
「私はアヤネが、お嬢様だからと逆に見下されていると思っていたわ」
ユメさんとアヤネさんとでは、アヤネさんのほうが階級が高く、王室の人間とも多く接しているはず。
「アヤネは不器用だね」
頭のいいミネスさんからしたら、頭の回らない人は全員不器用なのだろうか。
「皆さん酷いです!カナエもリリカもナミネもめちゃくちゃキツくて、あんなのイジメでした!」
どっちがイジメなのだろう。私はアヤネさんには随分迷惑かけられたけど。
「カナエはアヤネをイジメてません!」
「イジメって思うなら、そうやって私たちのせいにするなら、自分の家に帰ればいいでしょ!どうしてここにいるのよ!」
あーあ、カナエさんもリリカさんも不快な気持ちになっている。
「何も分からない。でも、みんなといたいんです!そういう気持ち、どうして分かってくれないんですか!」
家には家族がいるだろうに、どうして、みんなに拘るのだろう。そっか、ズームさんがいるからか。
「アヤネさん、紀元前村で何もしなかった時点でアウトですよ!愛しの王子様は、もはやロォラさんに気持ちが向いています。アヤネさんが、どれだけ愛しの王子様の傍にいたくても、王子様の心はロォラ姫に向いていて、そのうち2人は付き合うんです!」
「どうして、どうして、そんなこと言うんですか!」
アヤネさんは、混乱したのか力の弱いユメさんに掴みかかり、引っぱたいた。
「痛い!何するの!」
「これがアヤネの本性よ。汚いわね」
だんだん、アヤネさんに不利な方向に向かっている。
「あなたも本当に懲りませんね。僕はロォラを女として見たことはありませんよ」
兄妹揃って無自覚なのか。
「誰だか知らないけど、同年多いし、仲良くしようと思ってたし、チームワーク考えてたつもりだけど、アヤネが汚いことはしたくないとアヤネから、みんなを蔑ろにしたんだ」
そうなんだよね。今は2年生だけど、高校1年生だったんだよな。
「みんなの言い分も分かったよ。でも、みんなも分からないことの1つや2つあるよね?それを間違えるたびに指摘されたら、いやな気持ちにならないかな?誰にでも出来ないこと、どうしていいか分からないことはあるんだよ。せっかく知り合ったんだし、アヤネと仲良くしてあげてくれないかな?」
「分かりました。僕なりに努力はします」
ラルク……。ラルクが心がけるなら私も……。
「カナエもカナエなりに努力はしてみます」
「分かった。アヤネにやる気があるなら協力はする」
「アヤネ次第かな」
「アヤネ次第だと思うけど?」
「紀元前村では、一人一人が自分のことしか考えられない状況でした。ゆえに、僕らの配慮が足りなかったかもしれません。今後はアヤネさんのことも気を配るつもりです。けれど、ナミネさんの指導は間違っていなかったと僕は思っています」
ズームさんは紀元前村での映像をセリルさんに渡した。ズームさんは、やっぱり気が回る。
「私はいや!何もしてないのに暴力振られて、理不尽だわ!こんな怪物と一緒には暮らせない!ズームにフラれて当然だわ!」
「僕もユメを殴る人には帰ってもらいたいです」
誰でも自分が不利な立場になれば、思ってないことを言ってしまったり行動に出てしまったりする。
「とりあえず、ユメさんの件は後で話し合おうか。ズームさんも気を配るって言ってるし、一旦アヤネの苦手の件は、みんなのサポートで様子を見るってことでいいかな?」
「はい、ラルクも努力するなら私も努力します!」
その時、ユメさんがアヤネさんを蹴りつけた。あーあ、キクリ家がめちゃくちゃだよ。どうして、人は迷惑ばかりかけてしまうのだろう。
「あなたたち、何やってるの?」
レイカさんも来てるんだ。やっぱり3人仲良いな。私はラルクだけでいいけど。
「レイカ、アヤネって子がラァナの過去持ち出してイジメてて、紀元前村でも何もしなかったらしいわ。オマケにキクリ家の井戸使えなくされるし、散々よ」
「まあ、貴族ってそういう生き物なんじゃない?けれど、誰がそのアヤネって子にラァナのこと話したのかしら?」
みんなの視線がセレナールさんを向いている。というか、セレナールさん以外誰がいるのだろう。
「姉さん、あんた、なんでチームワーク乱すのさ」
「セレナール、やっていいことと悪いことがあるよね?ラァナさんがどれだけ傷ついたか分かる?」
「なあ、話が見えてこないんだが。セレナールは、そのラァナって人の何を話したんだ?」
ロォラさんは何も知らない。知るはずがない。けれど、ここで公にしたら、またラァナさんが立ち直れなくなる。天界にいたミドリお姉様のように。
「ロォラ、人には言いたくない秘密の1つや2つあるんだ」
「でも兄貴、私はあいまいは嫌いだ。ちゃんとハッキリ話し合うべきだと思う」
その時、ミドリお姉様とズルエヌさんが来た。
「ラァナ、どうしたの?」
「ミドリ……」
ラァナさんはミドリお姉様に泣きついた。
「ミネス、元気にしてた?」
「元気元気。ズルエヌが死んでる間もね」
やっぱり、どこか落ち武者さんに似ている。
「あ、ズルエヌさん、ナノハお姉様は……」
「もうすぐ来るよ。こっちの大学入って、マンションも契約したから、たまに来てるよ。キクリ家には、これから同級生のみんなに挨拶に来たんだよ」
ズルエヌさん、こっちの大学通うんだ。マンションも近くだろうか。ズルエヌさんも、カナコさんもレイカさんもラァナさんもミドリお姉様も大学2年生か。
「そうだったんですね」
「ラァナ、中に入りましょう」
「みんな誰かに庇われて不公平よ!ミドリさんだって、とんでもないイジワルされたくせに!」
私は泣きながらアヤネさんに大量の下剤を飲ませたあと、残飯をアヤネさんにかけ、アヤネさんを井戸に落とそうとした。
「ナミネ、落ち着こうか」
気が付いたらセリルさんに抱き締められていた。
「セレナールさん、覚えていてください」
「兄さん、助けて!ナミネがイジメる!」
その瞬間、カナコさんがセレナールさんを引っぱたいた。気付いたらミドリお姉様とラァナさんはいなくなっていた。
「あの人がセレナールの兄なのか?」
「どう見ても似てるだろ!ロォラ!」
セレナールさんが、裏でこんなことしていただなんて全く知らなかった。
「僕はナミネをキクリ家に連れて行くから、ラルクはアヤネを頼めるかな?」
「分かりました」
ヨルクさんの声が聞こえる。けれど、私は気絶するように眠ってしまっていた。
目を覚ますと私はキクリ家の客間にいた。窓の外は暗い。もう夜なのだろうか。
「ナミネ、ここにフルーツ置いておくから食べれそうだったら食べて」
私は身体を起こした。
「ありがとうございます、セリルさん」
私はフルーツを一気に食べた。
「ナミネ、大丈……」
私は無意識にヨルクさんを突き飛ばしてしまった。どうせ、もう別れたのだし、関係ない。これからは、私も別の殿方と交際するのだし、ヨルクさんみたいなノロマなんか知らない。
「ヨルクは、ずっとナミネを心配してたんだよ」
「もうヨルクさんとは別れました」
「ナミネ、あの時は不安定になって、思ってもないことを言ってしまった!許してほしい。ナミネと別れたくない!」
今更なに?別れるって言ったのヨルクさんじゃない。
「あ、もう他人ですので出てってください」
「ナミネは昔からヨルクにくっ付いてたね。どの女の子も寄せ付けないように。ナミネは何度転生してもヨルクを好きになってるんじゃないかな?ヨルクは優しいしナミネとお似合いだと思うよ」
「セリルさんだって優しいじゃないですか!」
そうだよ。優しい男なんて、この世にいくらでもいる。何もヨルクさんでなくても。
「優しくなんかないよ。僕はヨルクみたいに何でも許す人間ではないからね」
みんなそう言う。でも、それってどういう意味なのだろう。ラルクもセレナールさんを許しきれなくて愛想が尽きてしまった。
「あの、それって……」
「例えば、愛する人がいたとして、僕はその人を全力で信用するし、全力で助けるけれど、裏切られたなら、そこで縁は切れるよ。みんなそうなんだよ。でも、ヨルクは人の全てを許してる。戦闘向けではないけど、いつもナミネのお世話するヨルクを手放して、ナミネは他の人と幸せになれるかな?」
そりゃそうか。誰だって、浮気とか許せるわけないか。そんなの許せるのヨルクさんくらいだ。セリルさんとカナコさんは、ずっと上手くいっているだろうけど、上手くいってない恋人のほうが世の中多いんだよな。
「ヨルクさんしかいません……ヨルクさんじゃなきゃ本気で愛せません……。あの、セリルさんはカナコさんとは、ずっと上手くいっていたんですか?」
「そうだね。カナコさんは優しいし、気配り上手だから。遠い昔、同棲してた時とか、2人で仲良くやっていたよ」
やっぱり2人は理想の恋人だ。どうやったら、対等な恋人関係でいられるのだろう。
「そうなんですね。やっぱりセリルさんとカナコさんて、どこまでも理想の恋人ですよね」
「どうだろうね。互いに譲り合ってるしね。あ、井戸は修理屋の人が来て、元に戻ったよ。ラァナさんも落ち着いたし、アヤネのことは明日話し合う予定だよ。セレナールのことはごめんね。あの子は何度言い聞かせても反抗的な態度しか取らないんだ」
「い、いえ、セリルさんは悪くないです。タルリヤさんとラァナさんは会えましたか?」
「会えたよ。友達としてね」
あ、そっか。まだラァナさんはセリルさんのこと好きだった。
「そうですか。でも、時を超えてまた会えてよかったです。カラルリさんも、また、あの頃のように元気に……」
「あの後ね、ラァナさんとタルリヤは婚約後、別れたんだよ。カラルリは、随分とやつれたね。去年の4月までは、恋愛とか分からないとか言ってカナエとはしゃいでいたのに。幼なじみとしては心配だよ」
え、かつてのタルリヤさんとラァナさん、別れたの?恋人って分からないものだな。カラルリさんは、遠い昔から少しずつ変わってきたように思う。本当にセナ王女のことが好きだったかも今となっては分からない。
「そうでしたか。全く知りませんでした。恋は分からないものですね」
「そうだね。だからこそ、ナミネはヨルクを手放しちゃダメだよ。知っての通り、トイレは外にボットン便所、料理は火鉢でしてるし、お風呂は五右衛門風呂があるから」
そうだった。キクリ家は、非常事態に備えて昔の作りをそのままにしている。ナノハナ家だと、ボットン便所までは使用人が住んでる離れまで行かないといけない。火鉢はあるけど、五右衛門風呂は第2母屋からだし。
「はい、分かりました」
「じゃ、困ったことあったら、いつでも言ってね」
そう言うとセリルさんは客間から去って行った。
気が付くと、ヨルクさんの紅葉の香りが漂っていた。
……
あとがき。
カラクリ家ではなく、キクリ家で。
古代編の人、集まっちゃいましたね。
結局、ラァナとタルリヤは別れたのか。
今となってはアルフォンスの「ここまで来たらカラルリはセレナールを妹以上に想っているとしか思えない」が意味深に思える。
レイカは、もうアロンとは交際してない。
エミルも、今のターリャとは無理がありそう。
何世紀も経てば変わるもんなんですね。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
「なあ、そこのあんた。これ皇帝陛下かよ?」
「それに関しましては今となっては正確なことは分かりません。皇帝陛下が五つ子だったという噂もありますし、この町で分かる人はいないと思います」
例え、皇帝陛下が五つ子だったとしても、妖精村の前だと今の皇帝陛下ではない。だから皇帝陛下が、こんなに着飾った服を着ているのは何だか奇妙だ。
人魚の肉を食べるなら、その時の皇帝陛下のはずだと思うのだけど。
「ねえ、ラルク。これって本当に皇帝陛下なのかな」
「どう見たって皇帝陛下だわな」
うーん、じゃあ、皇帝陛下は、かなりの年月を生きてきたということなのだろうか。昔のことほど、分かる人は、だんだんいなくなる。時間とともに風化して、正確なことは本人のみしか知らない。
「皇帝陛下ですね。現代の皇帝陛下は、大昔、紀元前村の皇帝陛下をしていたと言われています。背景も今の蓮華町に似ていますし。実際のところどうか分かりませんが」
言われてみれば、背景は今の蓮華町だ。だとしたら、皇帝陛下は、どこかのタイミングで妖精村に移り住んだのだろうか。
とりあえず、他の写真も見ないと。私はアルバムを何個か机に乗せた。
すると、皇帝陛下と皇后陛下とミドリお姉様が仲睦まじそうに映っていた。ミドリお姉様とナクリお姉様は、一卵性の双子だ。けれど、あまり似ていない。でも、この写真だとミドリお姉様のチャームポイントであるソバカスはなく、髪も綺麗なストレートのロングヘアだ。
その時、キクスケさんからメールが来た。圏外なのに、どうしてメールが来るのだろう。私はメールを開けた。
『皇帝陛下と皇后陛下の間にはなかなか子供が出来ませんでした。そこで、あなたのお母様がミドリさんを代理出産したのです。その時に、あなたのお父様との受精卵と皇帝陛下と皇后陛下の受精卵が混合しました。妖精村特有の、2卵生混合受精です。
けれど、その時にナクリさんも同時に妊娠しました。ミドリさんとナクリさんは双子として生まれましたが、ミドリさんには母親も父親も2人います。ですが、似たような時期に賤民が皇帝陛下の子を生みました。それがレオナルド第1王子です。その後、クリレータ皇女とレナード皇太子が生まれました。でも、本当の皇女はミドリさんなのです。この真実を公にしてはならないと、皇帝陛下はミドリさんをナノハナ家の子として育てるよう、あなたの母親に言いました。もし、真実が公になれば、クリレータ皇女は皇女を剥奪されるでしょう』
ミドリお姉様が皇帝陛下と皇后陛下の娘だったの?本当の皇女はミドリお姉様?じゃあ、いつかミドリお姉様は皇室に行くのだろうか。いつも親しくしていたミドリお姉様が皇女と聞くと、何だか遠い存在に感じてしまう。
『あ、でも皇帝陛下って人魚の肉食べたんですよね?だったら、子供いっぱいいるんじゃないんですか?』
『残念ながら、皇帝陛下の食べた肉は人魚の肉ではありませんでした。ゆえに、皇帝陛下は何度も転生しています』
なんだ、人魚の肉じゃなかったんだ。紛らわしい写真だな。
けれど、ミドリお姉様が皇帝陛下と皇后陛下の子供という事実は誰にも知られてはいけない。隠し通さないと。でないと、皇室を揺るがす事態になってしまう。
「ナミネ、ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょう、ナヤセス殿」
ナヤセス殿は私を誰もいないところに連れて行った。ここの図書館は本はたくさんあるけど、飲み物も飲めて、ゆったり出来る空間だな。
「ナミネはね、ヨウセイ型なんだよ。だから、無闇に血を分けちゃダメだからね。ヨウセイ型は常に90%を維持していないといけない。70%で老いて来て、40%で老人のような姿になってしまう。30%で死を彷徨うんだ」
「そうですか。どういう経緯でヨウセイ型なのかは分かりませんが、血は分けません。私はヨルクさんと生きます!」
「悪いけど、その話聞かせてもらったぜ」
落ち武者さん、ラルク。まあ、血液型の話なら別に聞かれてもいいか。
「あ、ラルクと落ち武者さんいたんですね」
「ナミネの血液は絶対使わない!ナミネがヨウセイ型なのも誰にも知られないようにする」
ラルク……。
「強気なナミネのことは僕らで守るから安心しろ!」
落ち武者さん……。
「ナミネのおばあさんが昔、女神だったんだよ」
おばあ様が女神……。そんなの聞いたことない。
「あ、では、他の姉たちもヨウセイ型なのでしょうか?」
「ナミネとミドリさんだけだよ」
やっぱり、ミドリお姉様は特別なんだ。皇帝陛下と皇后陛下の子供ってだけで、一国の皇女だもんな。出来ることなら遠くへ行かないでほしい。
「じゃ、参考になるものは、ある程度写真に撮ったからキクリ家行く」
私たちは図書館を出ようとしたが、ヨルクさんが泣き崩れたままだった。
「あんた、いつまでそうしてんのさ」
「ヨルクさん、帰りますよ。別荘には井戸がないのでキクリ家に向かいます」
私はヨルクさんを立たせようとした。けれど、ヨルクさんに突き飛ばされた。
「馬鹿にしないで!」
「ヨルクさん、しっかりしてください!」
落ち武者さんは、ヨルクさんを背負い図書館から出て、通路を通ると人魚の湖から出た。
人魚の湖の外は晴れている。
「私はここに残る。ユウサクさんの家でお世話になる。ナミネ、別れよう」
「あんた、本気で言ってんのかよ!強気なナミネしかいないと気づいた時には遅いんだぞ!」
「もういいです!別れるもここに残るも好きにしてください!縁談は完全に取り消しますし、復縁はありません!お互い別々の人と幸せになりましょう!」
たかが写真1枚で別れとか、本当腹立つ。あたかも私が悪いことしたように言われて、こっちも気分が悪い。ヨルクさんなんか好きに生きればいい。私はもう知らない。
「アルフォンス王子、乗ってください」
「あ、ああ」
私はアルフォンス王子を乗せると猛スピードで馬を走らせた。別荘にいるメンバーには、落ち武者さんが紙飛行機飛ばしてキクリ家に集まるよう伝えたらしい。
昨日の大雨で、地面はぬかるんでいるが、それでも昨日よりかはマシだ。また、ここに来ることがあるだろうか。
キクリ家に着くと、どうやら別荘にいたメンバーも集まっているようだ。
「ラルク、水汲みしよ」
「そうだな」
私とラルクは中庭に行った。そして、井戸から水を汲み上げた。
あれ、この水、泡がある。誰かが井戸の中に石鹸で洗ったタライの水ごと入れたんだ。
「ラルク、この井戸使えないよ」
「ナミネ、こっちもだ。カナコさんに知らせよう」
私とラルクは家の中に入ろうとした。すると、声が聞こえてきて、再び戻ったのだ。
「ねえ、ラァナさんて、中学生の時、イジワルにあったのよね?」
ラァナさん来てたんだ。てか、どうしてアヤネさんがそれを知っているの。
「何の話かしら」
「この映像見て」
「やめて!!!」
私はアヤネさんのお腹を蹴ろうとした。けれど、その前にカナコさんがアヤネさんを殴り付けた。
「カナコさん、暴力はやめてください!とにかく事情聞きましょう!」
セリルさんがアヤネさんからカナコさんを引き離した。ラァナさんは泣いている。
「あの、カナコさん、この井戸、泡が入ってるんです。まるで誰かが、石鹸で洗った何かをタライごと井戸に入れたような」
「はあ、この非常事態に井戸も使えないなんて不便だわ」
この後、カナコさんは修理屋を呼ぶことになるのである。
「アヤネ、井戸使えなくしたのは君だね」
やっぱり、アヤネさん、ここでも迷惑かけているのか。
「紀元前村に行ってから、私みんなからイジメられてばかりで、辛いんです。でも、私、みんなみたいに慣れていなくて全部分からないのに。無理矢理いやなことさせられたり、笑われたり。こっちに戻って来てからも内官とか笑わられて。けれど、何をどうしたらいいか分からないんです!」
分からない?とぼけるのも、いい加減にしてほしい。
「あの、アヤネさん、自分でトイレ汚したのに放置してましたよね!紀元前村では何もせず、汚いことはしたくないと馬鹿にしてるのはどっちですか!」
「アヤネは、どうして井戸にタライの汚れた水ごと入れたのかな?」
「庭には捨てられないと、井戸に入れてしまったんです」
何それ。私ちゃんと説明したよね。
「その場合は別のタライに入れてと言ったじゃないですか!自分で忘れて責任転嫁とかどういう神経してるんですか!」
「アヤネは言われても覚えきれなかったのかな?」
「はい、はじめてのことなので全くわからないです。なのに、分からないがイジメの対象になって、やり切れませんでした」
私たち、そんなにアヤネさんのこと蔑ろにしていたのだろうか。私は普通に教えていたつもりだったんだけど。
「でも、いくらストレス溜まったからといって、ラァナさんイジメたら、余計にしんどいこと増えるよね?ラァナさんもいやな気持ちになるし、ラァナさんの友達からも怒り買っちゃうし。ナミネ、ラルク、みんなもアヤネのことは分かるまで教えてあげてくれないかな?」
あ、みんな戻って来てたんだ。なんだかんだで、ヨルクさんもいる。ユウサクさんの家に住むんじゃなかったの?
「私は平等に接してきたつもりだったし、洗濯係でなかったから何も分からなかったわ。アヤネが苦しんでいたことも」
セナ王女は、確かに色々は言っていない。
「カナエもキツく言ったつもりはありません」
「私はアヤネが、お嬢様だからと逆に見下されていると思っていたわ」
ユメさんとアヤネさんとでは、アヤネさんのほうが階級が高く、王室の人間とも多く接しているはず。
「アヤネは不器用だね」
頭のいいミネスさんからしたら、頭の回らない人は全員不器用なのだろうか。
「皆さん酷いです!カナエもリリカもナミネもめちゃくちゃキツくて、あんなのイジメでした!」
どっちがイジメなのだろう。私はアヤネさんには随分迷惑かけられたけど。
「カナエはアヤネをイジメてません!」
「イジメって思うなら、そうやって私たちのせいにするなら、自分の家に帰ればいいでしょ!どうしてここにいるのよ!」
あーあ、カナエさんもリリカさんも不快な気持ちになっている。
「何も分からない。でも、みんなといたいんです!そういう気持ち、どうして分かってくれないんですか!」
家には家族がいるだろうに、どうして、みんなに拘るのだろう。そっか、ズームさんがいるからか。
「アヤネさん、紀元前村で何もしなかった時点でアウトですよ!愛しの王子様は、もはやロォラさんに気持ちが向いています。アヤネさんが、どれだけ愛しの王子様の傍にいたくても、王子様の心はロォラ姫に向いていて、そのうち2人は付き合うんです!」
「どうして、どうして、そんなこと言うんですか!」
アヤネさんは、混乱したのか力の弱いユメさんに掴みかかり、引っぱたいた。
「痛い!何するの!」
「これがアヤネの本性よ。汚いわね」
だんだん、アヤネさんに不利な方向に向かっている。
「あなたも本当に懲りませんね。僕はロォラを女として見たことはありませんよ」
兄妹揃って無自覚なのか。
「誰だか知らないけど、同年多いし、仲良くしようと思ってたし、チームワーク考えてたつもりだけど、アヤネが汚いことはしたくないとアヤネから、みんなを蔑ろにしたんだ」
そうなんだよね。今は2年生だけど、高校1年生だったんだよな。
「みんなの言い分も分かったよ。でも、みんなも分からないことの1つや2つあるよね?それを間違えるたびに指摘されたら、いやな気持ちにならないかな?誰にでも出来ないこと、どうしていいか分からないことはあるんだよ。せっかく知り合ったんだし、アヤネと仲良くしてあげてくれないかな?」
「分かりました。僕なりに努力はします」
ラルク……。ラルクが心がけるなら私も……。
「カナエもカナエなりに努力はしてみます」
「分かった。アヤネにやる気があるなら協力はする」
「アヤネ次第かな」
「アヤネ次第だと思うけど?」
「紀元前村では、一人一人が自分のことしか考えられない状況でした。ゆえに、僕らの配慮が足りなかったかもしれません。今後はアヤネさんのことも気を配るつもりです。けれど、ナミネさんの指導は間違っていなかったと僕は思っています」
ズームさんは紀元前村での映像をセリルさんに渡した。ズームさんは、やっぱり気が回る。
「私はいや!何もしてないのに暴力振られて、理不尽だわ!こんな怪物と一緒には暮らせない!ズームにフラれて当然だわ!」
「僕もユメを殴る人には帰ってもらいたいです」
誰でも自分が不利な立場になれば、思ってないことを言ってしまったり行動に出てしまったりする。
「とりあえず、ユメさんの件は後で話し合おうか。ズームさんも気を配るって言ってるし、一旦アヤネの苦手の件は、みんなのサポートで様子を見るってことでいいかな?」
「はい、ラルクも努力するなら私も努力します!」
その時、ユメさんがアヤネさんを蹴りつけた。あーあ、キクリ家がめちゃくちゃだよ。どうして、人は迷惑ばかりかけてしまうのだろう。
「あなたたち、何やってるの?」
レイカさんも来てるんだ。やっぱり3人仲良いな。私はラルクだけでいいけど。
「レイカ、アヤネって子がラァナの過去持ち出してイジメてて、紀元前村でも何もしなかったらしいわ。オマケにキクリ家の井戸使えなくされるし、散々よ」
「まあ、貴族ってそういう生き物なんじゃない?けれど、誰がそのアヤネって子にラァナのこと話したのかしら?」
みんなの視線がセレナールさんを向いている。というか、セレナールさん以外誰がいるのだろう。
「姉さん、あんた、なんでチームワーク乱すのさ」
「セレナール、やっていいことと悪いことがあるよね?ラァナさんがどれだけ傷ついたか分かる?」
「なあ、話が見えてこないんだが。セレナールは、そのラァナって人の何を話したんだ?」
ロォラさんは何も知らない。知るはずがない。けれど、ここで公にしたら、またラァナさんが立ち直れなくなる。天界にいたミドリお姉様のように。
「ロォラ、人には言いたくない秘密の1つや2つあるんだ」
「でも兄貴、私はあいまいは嫌いだ。ちゃんとハッキリ話し合うべきだと思う」
その時、ミドリお姉様とズルエヌさんが来た。
「ラァナ、どうしたの?」
「ミドリ……」
ラァナさんはミドリお姉様に泣きついた。
「ミネス、元気にしてた?」
「元気元気。ズルエヌが死んでる間もね」
やっぱり、どこか落ち武者さんに似ている。
「あ、ズルエヌさん、ナノハお姉様は……」
「もうすぐ来るよ。こっちの大学入って、マンションも契約したから、たまに来てるよ。キクリ家には、これから同級生のみんなに挨拶に来たんだよ」
ズルエヌさん、こっちの大学通うんだ。マンションも近くだろうか。ズルエヌさんも、カナコさんもレイカさんもラァナさんもミドリお姉様も大学2年生か。
「そうだったんですね」
「ラァナ、中に入りましょう」
「みんな誰かに庇われて不公平よ!ミドリさんだって、とんでもないイジワルされたくせに!」
私は泣きながらアヤネさんに大量の下剤を飲ませたあと、残飯をアヤネさんにかけ、アヤネさんを井戸に落とそうとした。
「ナミネ、落ち着こうか」
気が付いたらセリルさんに抱き締められていた。
「セレナールさん、覚えていてください」
「兄さん、助けて!ナミネがイジメる!」
その瞬間、カナコさんがセレナールさんを引っぱたいた。気付いたらミドリお姉様とラァナさんはいなくなっていた。
「あの人がセレナールの兄なのか?」
「どう見ても似てるだろ!ロォラ!」
セレナールさんが、裏でこんなことしていただなんて全く知らなかった。
「僕はナミネをキクリ家に連れて行くから、ラルクはアヤネを頼めるかな?」
「分かりました」
ヨルクさんの声が聞こえる。けれど、私は気絶するように眠ってしまっていた。
目を覚ますと私はキクリ家の客間にいた。窓の外は暗い。もう夜なのだろうか。
「ナミネ、ここにフルーツ置いておくから食べれそうだったら食べて」
私は身体を起こした。
「ありがとうございます、セリルさん」
私はフルーツを一気に食べた。
「ナミネ、大丈……」
私は無意識にヨルクさんを突き飛ばしてしまった。どうせ、もう別れたのだし、関係ない。これからは、私も別の殿方と交際するのだし、ヨルクさんみたいなノロマなんか知らない。
「ヨルクは、ずっとナミネを心配してたんだよ」
「もうヨルクさんとは別れました」
「ナミネ、あの時は不安定になって、思ってもないことを言ってしまった!許してほしい。ナミネと別れたくない!」
今更なに?別れるって言ったのヨルクさんじゃない。
「あ、もう他人ですので出てってください」
「ナミネは昔からヨルクにくっ付いてたね。どの女の子も寄せ付けないように。ナミネは何度転生してもヨルクを好きになってるんじゃないかな?ヨルクは優しいしナミネとお似合いだと思うよ」
「セリルさんだって優しいじゃないですか!」
そうだよ。優しい男なんて、この世にいくらでもいる。何もヨルクさんでなくても。
「優しくなんかないよ。僕はヨルクみたいに何でも許す人間ではないからね」
みんなそう言う。でも、それってどういう意味なのだろう。ラルクもセレナールさんを許しきれなくて愛想が尽きてしまった。
「あの、それって……」
「例えば、愛する人がいたとして、僕はその人を全力で信用するし、全力で助けるけれど、裏切られたなら、そこで縁は切れるよ。みんなそうなんだよ。でも、ヨルクは人の全てを許してる。戦闘向けではないけど、いつもナミネのお世話するヨルクを手放して、ナミネは他の人と幸せになれるかな?」
そりゃそうか。誰だって、浮気とか許せるわけないか。そんなの許せるのヨルクさんくらいだ。セリルさんとカナコさんは、ずっと上手くいっているだろうけど、上手くいってない恋人のほうが世の中多いんだよな。
「ヨルクさんしかいません……ヨルクさんじゃなきゃ本気で愛せません……。あの、セリルさんはカナコさんとは、ずっと上手くいっていたんですか?」
「そうだね。カナコさんは優しいし、気配り上手だから。遠い昔、同棲してた時とか、2人で仲良くやっていたよ」
やっぱり2人は理想の恋人だ。どうやったら、対等な恋人関係でいられるのだろう。
「そうなんですね。やっぱりセリルさんとカナコさんて、どこまでも理想の恋人ですよね」
「どうだろうね。互いに譲り合ってるしね。あ、井戸は修理屋の人が来て、元に戻ったよ。ラァナさんも落ち着いたし、アヤネのことは明日話し合う予定だよ。セレナールのことはごめんね。あの子は何度言い聞かせても反抗的な態度しか取らないんだ」
「い、いえ、セリルさんは悪くないです。タルリヤさんとラァナさんは会えましたか?」
「会えたよ。友達としてね」
あ、そっか。まだラァナさんはセリルさんのこと好きだった。
「そうですか。でも、時を超えてまた会えてよかったです。カラルリさんも、また、あの頃のように元気に……」
「あの後ね、ラァナさんとタルリヤは婚約後、別れたんだよ。カラルリは、随分とやつれたね。去年の4月までは、恋愛とか分からないとか言ってカナエとはしゃいでいたのに。幼なじみとしては心配だよ」
え、かつてのタルリヤさんとラァナさん、別れたの?恋人って分からないものだな。カラルリさんは、遠い昔から少しずつ変わってきたように思う。本当にセナ王女のことが好きだったかも今となっては分からない。
「そうでしたか。全く知りませんでした。恋は分からないものですね」
「そうだね。だからこそ、ナミネはヨルクを手放しちゃダメだよ。知っての通り、トイレは外にボットン便所、料理は火鉢でしてるし、お風呂は五右衛門風呂があるから」
そうだった。キクリ家は、非常事態に備えて昔の作りをそのままにしている。ナノハナ家だと、ボットン便所までは使用人が住んでる離れまで行かないといけない。火鉢はあるけど、五右衛門風呂は第2母屋からだし。
「はい、分かりました」
「じゃ、困ったことあったら、いつでも言ってね」
そう言うとセリルさんは客間から去って行った。
気が付くと、ヨルクさんの紅葉の香りが漂っていた。
……
あとがき。
カラクリ家ではなく、キクリ家で。
古代編の人、集まっちゃいましたね。
結局、ラァナとタルリヤは別れたのか。
今となってはアルフォンスの「ここまで来たらカラルリはセレナールを妹以上に想っているとしか思えない」が意味深に思える。
レイカは、もうアロンとは交際してない。
エミルも、今のターリャとは無理がありそう。
何世紀も経てば変わるもんなんですね。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 93話
《ヨルク》
私たちは、ひょんなことから、レタフルという人魚を送り届けることになった。しかし、別荘を出た時から大雨で、地面が土のところまで来ると、ぬかるんでいて馬の速度が落ちてしまったのである。
そんな時、アルフォンス王子の馬が竿立ちし、アルフォンス王子とレタフルさんが投げ出されそうになり、ナミネとラルクが引き換えし、2人を受け止めた。
ラルクはレタフルさんを、ナミネはアルフォンス王子を、私はロォハさんを乗せて人魚の湖に向かうことになった。
もう間に合いそうにない。
ここでレタフルさんの命は尽きてしまうのだろうか。
「0時、3分前だ!もう間に合わない。強気なナミネ、ラルクごとクソレタフル吹き飛ばせ!」
「分かりました!ラルク、頑張って!」
ナミネは扇子を開いて、ラルクごとレタフルさんを人魚の湖に向けて吹き飛ばしたもよう。
間に合ったのだろうか。後方にいる私には強い霧で前が殆ど見えない。それでも、レタフルさんがどうなったのか確認するため、私は、ぬかるんだ地面を馬で走り続けた。
随分とかかった。案の定、人魚の湖には、みんな到着している。1番遅かったのは、やはり私か。
レタフルさんも人魚の湖に入っている。間に合ったんだ。
あれ、ユウサクさんがいない。そういえば、ユウサクさんの馬だけフェアリーサラブラーではない。普通の農家の馬だ。けれど、ユウサクさんは、人魚の湖町に住んでいる。この辺の土地勘はあるはずだろう。
それにしても、町は、あれだけの大雨だったのに、ここは雨が降っていない。
「じゃ、クソレタフル送り届けたから宿探す」
そうか、もう1時前なのか。そろそろ明日の帰りに向けて休まないと。
「待って!ヨルクはここにいて!」
その瞬間、カンザシさんがレタフルさんを殴りかけた。
「カンザシ、その人魚の結婚相手見つかった」
「お願い!縁談は取り消して!私を自由にさせて!」
「カンザシのこと馬鹿にして、自分だけ幸せになろうと思わないで」
「悪かったと思ってる!双子だなんて知らなかったの!」
何故、双子と間違える。私は双子などではない。そういった時代もあったかもしれないけど、少なくとも今は、カンザシさんはナノハナ家の庶子だ。
「ねえ、ラルク。青い桜が咲いてるよ」
「だな。ロクに花見も出来なかったから、いい機会だな」
青い桜。はじめて見る。妖精村は不可思議だ。
「ナミネ、一緒に写真撮ろ」
私はインカメラにした。
「ちょっと、ヨルクさん!どうして人魚入れるんですか!セクハラです!」
「うーん、でもどうしても入っちゃうよ」
暗いし、そんなに気にするほどのことではないと思うのだけれど。私は、虚しくも青い桜だけ撮った。
その時、ユウサクさんが来た。
「ユウサクさん、すみませんが今夜泊めていただけませんか?」
「いいよ。布団もあるし、適当に使って」
そうか、ユウサクさんの家に泊めてもらうのが手っ取り早いか。けれど、こんな大人数入り切るのだろうか。でも、これ以上の長居は無用だ。
「ねえ、ラルク。湖の向こうに通路があるよ」
「ナミネ、明日にしろ。まずはユウサクさんの家で休むんだ」
「じゃ、ユウサクとこ行く」
レタフルさんが何度も私の名前を呼ぶ中、私たちは人魚の湖を出た。
ユウサクさんの家は人魚の湖から15分ほどだった。この距離なら毎日通えるだろう。
ユウサクさんの家は、旧家で二階建てだった。みんなは玄関で、レインウェアをタオルで拭いた。けれど、セレナールさんにレインウェアを貸したカラルリさんが、ずぶ濡れだ。
カラルリさんは、ユウサクさんにタオルと着替えを借りた。
ここで1人で住むのは寂しいだろうな。
押し入れの中にはたくさんの布団があり、何部屋かに布団を敷いた。疲れたのか、ナミネは眠ってしまった。私はナミネを抱きかかえ、手前の部屋の布団に寝かせた。そして、私もナミネと同じ布団に入った。
朝8時。
こんなにも寝てしまったのか。隣を見るとナミネはいない。
「あんた、いつまで寝てんのさ。もう、みんな食事済ませたぜ?」
「ナミネはどこ?」
「トイレだ」
「トイレ使えるの?」
「この町は、だいたいボットン便所だからね?」
そうか。湖のある町は、何気にどこも古いところが多いな。ナミネ、生理大丈夫だろうか。
「あんた、どこ行くのさ。今日は晴れてるし、もうすぐ人魚の湖行く。さっさと朝食済ませろ!」
「分かった」
朝食って、停電してるのに、ちゃんとしたものあるのだろうか。私はナミネを心配しながらも居間へ向かった。
居間では、みんなラジオを聞いている。
雑穀米に味噌汁、干し魚。ふと見ると火鉢がある。これで料理を作っているのか。
「ユウサクさん、朝食ありがとうございます」
「こんな町だから大したものないけどね。畑で取れないのは無人市場に買いに行ってるし」
畑の野菜に、田んぼのお米、無人市場。まるで紀元前村の蓮華町だな。案外妖精村にも存在していたのか。
「雑穀も作ってるんですか?」
「庭で栽培してる。なんせ自給自足の生活だからね」
大手企業のflowerグループで働いていたエリートが、このような暮らしをしているというのは、どうも不自然に感じてしまう。それでも、今のユウサクさんにとっては、この暮らしが馴染んでるのだろう。
その時、ラジオからニュースが流れてきた。
『数日前から妖精村全域停電しています。復旧は未定。スーパーやコンビニも、お弁当やお惣菜はありません。全て、米や生野菜、生魚、生肉など火を通していないものばかりです。購入しても、ご自宅で加熱しないといけません。カセットコンロも完売してしまいました。殆どのご家庭ではサラダなど火を通さない料理でまかなっているそうです』
ついにガスコンロ完売か。火を通してないとはいえ、食材があるだけ紀元前村の蓮華町に比べたらマシだろうけど、私たちも火鉢で料理したほうが効率よさそうな気がする。
ナミネが来た。
「ナミネ、大丈夫?それもらっておくね」
私はナミネからビニール袋を受け取った。
「あなたたちは、ずっと仲良しね」
「セナ王女は、もう恋愛しないのですか?」
「紀元前村に行ってから考え方も変わったわ。カラルリとは全然運命なんかじゃなかったし、ミナクにはすぐに捨てられたし、恋愛はもうコリゴリよ」
知り合った当初は恋愛にのめり込んでいたセナ王女が、すっかり変わってしまった。それでも、セナ王女なら、いくらでもいるだろう。夢中になれる人でなくても、社交界に行けば、いい人はたくさんいる。
「そうですね。無理に繋ぎ止める恋愛より、いっそ1人で自由に生きてみるのもいいかもしれませんね。大学院まで行くなら、まだまだこれからですし」
「そうね。もうロクでもない男とは付き合わないわ。これからは将来に向けて勉強に励む」
「応援しています」
「ナミネもヨルクと幸せになって」
大学院か。今、ナクリさんが大学を休学しているが、休学も含めたら大学院卒業となると、それなりに年齢がいっているだろう。ちょっと昔までは19歳とかで結婚していたのに、現代では、すっかり晩婚化。40代で結婚する人が、わりと多い。私は大学までだけれど。ナヤセスさんとかなら学生結婚も十分ありうるだろう。セナ王女も、王室頼るなら学生結婚が可能だ。けれど、私はのんびりやっていきたい。きっと、ナミネもそうだろう。
遠い昔はナミネとは学生結婚だったけれど、今はそうもいかない。
「じゃ、人魚の湖行く」
「あ、ユウサクさん、一晩お世話になりありがとうございました」
「ユウサクさん、停電終わったら、また会いに来ます」
人懐っこいナミネは、一晩一緒にいただけなのに歩きながらユウサクさんに、ずっと手を振っていた。
ユウサクさんの家からだと人魚の湖はすぐだった。私たちは人魚の湖の入り口の前に王室の馬を置いた。
「いいか、人魚の湖にいられるのは2時間だからな!みんなストップウォッチ用意しろ!」
私たちはストップウォッチを設定して人魚の湖に入った。
あれ、昨夜は晴れていたのに今日は小雨が降っている。人魚って伝説かと思っていたけど本当にいるんだなあ。
「ちょっと、ヨルクさん。どこ見てるんですか!セクハラですよ!」
「え、本当に人魚いるんだなあて思って」
「じゃあ、人魚のどこ見てたんですか!」
どこと言われても……人魚は人魚だし、なんて答えればいいのだろう。
「普通に湖全体見てたよ」
「ヨルクさんって、いつもそうですよね!いやらしいったらありゃしい!」
またナミネにイタズラされた。
「ねえ、どうしてこういうことするの!何故、私を辱める」
「ねえ、ラルク。ヨルクさん、人魚見て興奮してるよ」
「妖精の水浴びみたいなもんだから仕方ないだろ!」
交際当初のナミネからは、かなり距離を置かれていたけれど、今となっては、すっかり私に気を許している。いいのか悪いのか。
ラルクは人魚に近付いた。
「あの、すみません。あの通路の先ってどうなっているんですか?」
「人魚が人間になった時に過ごす家が並んでるわ。市場もね」
人魚の家まであるのか。1日なら市場も使わないだろうに。
「皆さん、彼氏持ちですか?」
ナミネはすぐ深入りする。
「そうね、人魚同士のカップルや人魚と人間のカップルがいるわね。でも、独り身の人魚もたくさんいるわ」
人間と人魚か。交際が大変そうだな。
「君も人魚に興味あるの?」
「普通かな。僕は人間も人魚も、そんなに変わらないと思ってるよ」
「じゃあ、人魚と付き合えるの?」
「告白されたらね」
ナルホさんのタイプってイマイチよく分からない。でも、ミネスさんとの距離が近いようにも思える。
「すみません、この人とお付き合いしてくださる方いますか?」
「カナエ、もういいんだ。私はセナさんが振り向いてくれるまで、ずっと待つ」
カラルリさんはセナ王女に未練タラタラだな。けれど、私もナミネにフラれたら、どこまでも諦めないだろう。
「じゃ、通路通る」
人魚の家ってどんなふうだろう。町の環境も気になる。
通路を通ると、やはり小さな2人か3人が住めるような森の湖町のような古民家が並んでいた。丸い屋根。こういうの流行っているのだろうか。
ここは晴れている。こういうところの天気も、よく分からないものだな。
歩いているのは、やはり人間なのか。
「ヨルクさん!どこ見てるんですか!そういうのセクハラですし、彼氏と思いたくないです!」
「ねえ、どうしてそういう言い方するの?私はただ、この町を見てるだけなのに」
小さい頃のナミネはあんなに可愛かったのに、どうしてこんなふうになってしまったの。
「ナミネはヤキモチ妬きよ」
「ナミネはすぐ嫉妬するからね」
何故かハモった。
「そうだっけ?」
「そうよ。あなたに近付く同級生がいれば、その子のお弁当放り投げてたわ」
いつの時代の話だろう。
「幼稚園でヨルクと遊んでる子いたら、ナミネはその子突き飛ばしてたよ」
え、でも、その頃ナミネはラルクのこと好きだったんじゃ……。それに、全然覚えていない。
「そ、そうだっけな。エルナとは知り合いだっけ?」
「遠い昔、同級生だったわ。今みたいに落ち武者さんとも同じクラスだったのよ」
そうだったのか。でも、全然覚えていない。
「そ、そっか」
あれ、ナミネが同い歳くらいの男の子と仲睦まじ気に話している。
「あのね、私、レタフルさん送り届けるために紅葉町から来たの」
「随分遠くから来たんだね」
「うん、そうなの。レタフルさんって好きな人いるの?てか、この町って収めてる人いるの?」
「レタフルは、定期的に彼氏変わってるよ。ここは、町長が収めてるよ。町長は、人魚でありながら、大昔に人魚の肉を食べて不老不死になって、いつでも人間の姿になれるんだ」
どこにでも町長はいるが、この町にも存在していたのか。
「あー、なんかね、森の湖南町にも似たような人いるよ」
ナミネとラルクがお世話になった、あのおじいさんのことか。
「そうなんだ。町長は夫が亡くなるたび、また違う人と結婚して子孫作ってるけど、町長と家族でいるのは子供が生きている間だけで、ひ孫までなると、もう他人同然なんだ」
「そっかあ。不老不死の運命も悲しいものなんだね」
子孫がいるのに時の流れと共に他人同然になってしまうのか。長く生きるというのも切ないものだな。
「ナミネ、みんな服来てないから、あまり異性と仲良くしないで」
「私、ヤキモチ妬く男って大嫌いです!ヨルクさんって、小さい男ですね!」
何故、私はいけないのに自分はいいみたいなローカルルールでものを言う。けれど、ナミネと仲違いしたくなくて、私はナミネの手を握った。でも、ナミネは私の手を振り払った。こういう時は、虚しくなるし寂しくもなる。
「あ、あれが町長だよ!」
随分若い人だな。もう少し歳増かと思っていた。
「町長さんー!この町は平和ですか?」
「うーん、難しいわね。子供のために寺子屋も作っているし、職業こそないけれど、人魚以外の何かに転生した時の準備はしているつもりよ。でもね、300年ほど前から、また儀式がはじまったのよ。不老不死を求める貴族が皇室に訴えて、たまに武官が来ては人魚を連れて行かれるの。私は人魚を絶やさないためにも、女には多くの子供を産んでもらってる。それに人魚を天然記念物に指定してもらえるよう、何度も皇帝陛下にかけあってるわ」
不老不死なんてロクな人生遅れないだろうに。貴族というものは無いものねだりをする。そうやって、人魚の湖のような平和なとのころを壊していく生き物なのである。
「人魚って数億年前から存在してますよね。私も人魚がいなくなるのはいやです。人魚の湖町に住む人は、人魚の湖に通うことが楽しみだったりもします。古くから存在するものがなくなって、時代がどんどん変わっていくのは悲しいです」
「そうね、ここは幸い今は当時のまんまだけれど、外の世界は、随分と変わったのよね。私も変わっていくのは苦手だわ。この町の雰囲気はずっとこのままでいてほしいわね」
やはり、皆変わっていくことを恐れる。それは人間だけでなく、人魚も同じなのか。私も、このような空間を見ていると昔を思い出して切なくもなる。あの頃と今、どっちがいいのだろう。
「あの、私、夢を見たんです。彼氏が未来で心変わりしてレタフルさんと交際するんです!それって正夢だったりするのでしょうか?」
ナミネ、ずっとレタフルさんの夢気にしてるんだ。
「うーん、図書館の古い本によると、確かに、そういう夢を見た人は転生後、実際にそうなる確率が高く、ここ最近はその確率が特に高まっているみたい。私も実際に何度も見てきたわ。ある日、人間が人魚を迎えに来るの。人間は前世で夢を見たからだと言っていた。時には、あなたのように心変わりした人間が来て、拗れたりしてる。確実にそうなるわけではないのよ。けれど、私は図書館にもない、もっと古い本に答えが書かれていると思っているわ」
町長さんの発言は、まるで正夢のようなものに聞こえる。けれど、確実ではない。ずっとずっと昔に何かがあって、それが何らかの形で今でも引き継がれているのだろうか。それこそ1つの儀式だ。
「そうですか……」
ナミネ、また落ち込んでる。
「けれど、本当に愛しているなら、いっとき心変わりしても遠い未来でまた愛し合うものよ。私は本命と何度も結婚してるわ。それと、ここに来た記念に市場のものを1人1つ買って帰っていいわよ。何かの参考になるかもしれないから、図書館にも行ってみて。これがここの地図よ」
町長さんはナミネに地図を渡した。
「ありがとうございます!」
「じゃ、市場でもの買って図書館行く」
この町の町長さんは、しっかりしてるんだな。この町みたいな穏やかなところばかりだと争いごともないだろうに。人はいつから争うようになってしまったのだろう。
市場は見たこともないもので溢れていた。
「ナミネ、どれにする?」
「今は非常事態なので、役に立つものを買います」
「ナミネ、それは私が買うから、ナミネは記念に残るようなものを買って」
ナミネは、しばらく考え込んだ。
「はい」
よかった。ナミネには少しでも喜んでほしい。
人魚の灯火。これは電池などがなくても明かりが付いているのか。人魚の水。飲めば長寿。水はほしいけど、ペットボトルだと足りなくなる。
「僕は人魚の薬買うから、あんたは人魚の灯火買え!」
「分かった!ナミネはどうする?」
ナミネは人魚の絵を持っていた。この町にも絵描きさんがいるのだろうか。
「これにします」
「うん、分かった」
私は人魚の灯火と人魚の絵を買った。
「なあ、ズーム。人魚のサプリってあるぞ」
「ロォラ、他に欲しいのないならそれ買っとけ!」
人魚のサプリなんてあるのか。ここの市場は変わっている。遠い昔からそうだったのだろうか。
「分かった、ズーム!」
ロォラさんは人魚のサプリを購入した。
「あ、君、透明人間になれる透明人魚の粉買うの?」
「見てるだけだよ」
こういうところは、普通の町では売ってないものばかりで、逆に何を買えばいいのか分からなくなる。
「透明人魚の粉は僕が買うよ。研究の材料になりそうだ」
ナヤセスさんは、ずっと研究ばかりして来たんだな。
「はい、ストップ!」
突然、落ち武者さんがカンザシさんの持っていたものを取り上げた。
「人魚の恋の瓶。あんた、これ何に使うのさ?」
まさか、ナミネに惚れ薬を飲ませる気なのか!
「それは僕が買うよ」
ナヤセスさんに続いて今度はロォハさんが購入。ここには研究材料がいっぱいだ。
「ただ、見ていただけです!」
「言っとくけど、兄妹、姉弟での婚姻は取り消されるそうだからな!強気なナミネを顔だけヨルクから奪えると思うなよ!」
あの法律なくなるのか。そのほうが私も気持ち的に楽だ。
「僕は、無理矢理ナミネさんと、どうこうなろうと思ってません!ただ、ナミネさんの家族になりたいだけです!」
どこまで信じていいのか分からない。
「じゃ、図書館行く」
ナミネは地図を開いた。人魚の湖って広いんだな。ここからだと、図書館は、そこまで遠くはないか。私たちは図書館に向かって歩きはじめた。
少しすると図書館が見えてきた。図書館も古民家風な建物なのか。この町の風景考えたの誰だろう。
図書館の中はとても広い。1階の作りだけれど、かなりの書物が置いてある。
「ねえ、ラルク。人魚のセレナールさんいるよ」
「ナミネ、念の為、写真に撮っとけ!」
私はナミネに駆け寄った。
他人の空似でもなく、先祖でもなく、セレナールさんそのものだ。セレナールさんは、かつて妖精だったけど、人魚な時もあったのか。
このような大昔の写真が綺麗に保管されているだなんて、ここには修復する人がいるのだろうか。私は本棚を整理しているお姉さんに声をかけた。
「あの、この図書館って、いつ頃からあるのでしょうか?」
「そうね、私が聞いた話では1億年前らしいけど、実際どうだかね」
1億年前。そんなに昔のものが、ここまでいい状態で残っているのか。
「そうですか。随分と歴史あるところなんですね」
妖精村から紀元後だから、その前は全て紀元前になる。何故かカメラだけは古くから存在しているが、それも何か理由があるのだろう。
「町長が変わってからね、図書館もそうだけど寺子屋も託児所も管理者は人間の姿しているのよ。歴史を絶やさないためにね」
「そうでしたか。素敵な発想だと思います」
管理者のお姉さんは来客に呼ばれ行ってしまった。
私はたまたま手に取ったアルバムを開いた。すると、15歳くらいのナミネが男性人魚に抱き締められている写真があった。私はあまりのショックに、その場に泣き崩れた。
「あんた、なにしてんのさ。時間限られてんだから、とっとと参考になるのは写真に撮れ!」
ナミネは、色んな男と恋愛をしてきたんだ。私はナミネしか愛したことないのに。このどうしようもない感情、どうしたらいいのだろう。
「ヨルクさん、どうしたんですか!」
私を立ち上がらせようとするナミネを私は思わず振り払った。
「ナミネって、男ったらしだよね!色んな男と愛し合って、馬鹿にするのも、いい加減にして!」
「私はヨルクさんだけです!ヨルクさん、少し休みましょう」
「放っておいて!」
私は、いつからこんなにヤキモチを妬くようになったのだろう。それとも、疎外感からだろうか。こんなことではナミネに嫌われてしまう。
「ねえ、ラルク。皇帝陛下が人魚の肉食べてる写真あるよ」
……
あとがき。
妖精村には、どうして湖が多いのでしょうね。
もし、本当に物凄く古い時代の写真が現実に残っていたとしたら、私たちは恐竜も見れるのでしょうか。
紀元前1億年前の世界とか予想出来ないです。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ヨルク》
私たちは、ひょんなことから、レタフルという人魚を送り届けることになった。しかし、別荘を出た時から大雨で、地面が土のところまで来ると、ぬかるんでいて馬の速度が落ちてしまったのである。
そんな時、アルフォンス王子の馬が竿立ちし、アルフォンス王子とレタフルさんが投げ出されそうになり、ナミネとラルクが引き換えし、2人を受け止めた。
ラルクはレタフルさんを、ナミネはアルフォンス王子を、私はロォハさんを乗せて人魚の湖に向かうことになった。
もう間に合いそうにない。
ここでレタフルさんの命は尽きてしまうのだろうか。
「0時、3分前だ!もう間に合わない。強気なナミネ、ラルクごとクソレタフル吹き飛ばせ!」
「分かりました!ラルク、頑張って!」
ナミネは扇子を開いて、ラルクごとレタフルさんを人魚の湖に向けて吹き飛ばしたもよう。
間に合ったのだろうか。後方にいる私には強い霧で前が殆ど見えない。それでも、レタフルさんがどうなったのか確認するため、私は、ぬかるんだ地面を馬で走り続けた。
随分とかかった。案の定、人魚の湖には、みんな到着している。1番遅かったのは、やはり私か。
レタフルさんも人魚の湖に入っている。間に合ったんだ。
あれ、ユウサクさんがいない。そういえば、ユウサクさんの馬だけフェアリーサラブラーではない。普通の農家の馬だ。けれど、ユウサクさんは、人魚の湖町に住んでいる。この辺の土地勘はあるはずだろう。
それにしても、町は、あれだけの大雨だったのに、ここは雨が降っていない。
「じゃ、クソレタフル送り届けたから宿探す」
そうか、もう1時前なのか。そろそろ明日の帰りに向けて休まないと。
「待って!ヨルクはここにいて!」
その瞬間、カンザシさんがレタフルさんを殴りかけた。
「カンザシ、その人魚の結婚相手見つかった」
「お願い!縁談は取り消して!私を自由にさせて!」
「カンザシのこと馬鹿にして、自分だけ幸せになろうと思わないで」
「悪かったと思ってる!双子だなんて知らなかったの!」
何故、双子と間違える。私は双子などではない。そういった時代もあったかもしれないけど、少なくとも今は、カンザシさんはナノハナ家の庶子だ。
「ねえ、ラルク。青い桜が咲いてるよ」
「だな。ロクに花見も出来なかったから、いい機会だな」
青い桜。はじめて見る。妖精村は不可思議だ。
「ナミネ、一緒に写真撮ろ」
私はインカメラにした。
「ちょっと、ヨルクさん!どうして人魚入れるんですか!セクハラです!」
「うーん、でもどうしても入っちゃうよ」
暗いし、そんなに気にするほどのことではないと思うのだけれど。私は、虚しくも青い桜だけ撮った。
その時、ユウサクさんが来た。
「ユウサクさん、すみませんが今夜泊めていただけませんか?」
「いいよ。布団もあるし、適当に使って」
そうか、ユウサクさんの家に泊めてもらうのが手っ取り早いか。けれど、こんな大人数入り切るのだろうか。でも、これ以上の長居は無用だ。
「ねえ、ラルク。湖の向こうに通路があるよ」
「ナミネ、明日にしろ。まずはユウサクさんの家で休むんだ」
「じゃ、ユウサクとこ行く」
レタフルさんが何度も私の名前を呼ぶ中、私たちは人魚の湖を出た。
ユウサクさんの家は人魚の湖から15分ほどだった。この距離なら毎日通えるだろう。
ユウサクさんの家は、旧家で二階建てだった。みんなは玄関で、レインウェアをタオルで拭いた。けれど、セレナールさんにレインウェアを貸したカラルリさんが、ずぶ濡れだ。
カラルリさんは、ユウサクさんにタオルと着替えを借りた。
ここで1人で住むのは寂しいだろうな。
押し入れの中にはたくさんの布団があり、何部屋かに布団を敷いた。疲れたのか、ナミネは眠ってしまった。私はナミネを抱きかかえ、手前の部屋の布団に寝かせた。そして、私もナミネと同じ布団に入った。
朝8時。
こんなにも寝てしまったのか。隣を見るとナミネはいない。
「あんた、いつまで寝てんのさ。もう、みんな食事済ませたぜ?」
「ナミネはどこ?」
「トイレだ」
「トイレ使えるの?」
「この町は、だいたいボットン便所だからね?」
そうか。湖のある町は、何気にどこも古いところが多いな。ナミネ、生理大丈夫だろうか。
「あんた、どこ行くのさ。今日は晴れてるし、もうすぐ人魚の湖行く。さっさと朝食済ませろ!」
「分かった」
朝食って、停電してるのに、ちゃんとしたものあるのだろうか。私はナミネを心配しながらも居間へ向かった。
居間では、みんなラジオを聞いている。
雑穀米に味噌汁、干し魚。ふと見ると火鉢がある。これで料理を作っているのか。
「ユウサクさん、朝食ありがとうございます」
「こんな町だから大したものないけどね。畑で取れないのは無人市場に買いに行ってるし」
畑の野菜に、田んぼのお米、無人市場。まるで紀元前村の蓮華町だな。案外妖精村にも存在していたのか。
「雑穀も作ってるんですか?」
「庭で栽培してる。なんせ自給自足の生活だからね」
大手企業のflowerグループで働いていたエリートが、このような暮らしをしているというのは、どうも不自然に感じてしまう。それでも、今のユウサクさんにとっては、この暮らしが馴染んでるのだろう。
その時、ラジオからニュースが流れてきた。
『数日前から妖精村全域停電しています。復旧は未定。スーパーやコンビニも、お弁当やお惣菜はありません。全て、米や生野菜、生魚、生肉など火を通していないものばかりです。購入しても、ご自宅で加熱しないといけません。カセットコンロも完売してしまいました。殆どのご家庭ではサラダなど火を通さない料理でまかなっているそうです』
ついにガスコンロ完売か。火を通してないとはいえ、食材があるだけ紀元前村の蓮華町に比べたらマシだろうけど、私たちも火鉢で料理したほうが効率よさそうな気がする。
ナミネが来た。
「ナミネ、大丈夫?それもらっておくね」
私はナミネからビニール袋を受け取った。
「あなたたちは、ずっと仲良しね」
「セナ王女は、もう恋愛しないのですか?」
「紀元前村に行ってから考え方も変わったわ。カラルリとは全然運命なんかじゃなかったし、ミナクにはすぐに捨てられたし、恋愛はもうコリゴリよ」
知り合った当初は恋愛にのめり込んでいたセナ王女が、すっかり変わってしまった。それでも、セナ王女なら、いくらでもいるだろう。夢中になれる人でなくても、社交界に行けば、いい人はたくさんいる。
「そうですね。無理に繋ぎ止める恋愛より、いっそ1人で自由に生きてみるのもいいかもしれませんね。大学院まで行くなら、まだまだこれからですし」
「そうね。もうロクでもない男とは付き合わないわ。これからは将来に向けて勉強に励む」
「応援しています」
「ナミネもヨルクと幸せになって」
大学院か。今、ナクリさんが大学を休学しているが、休学も含めたら大学院卒業となると、それなりに年齢がいっているだろう。ちょっと昔までは19歳とかで結婚していたのに、現代では、すっかり晩婚化。40代で結婚する人が、わりと多い。私は大学までだけれど。ナヤセスさんとかなら学生結婚も十分ありうるだろう。セナ王女も、王室頼るなら学生結婚が可能だ。けれど、私はのんびりやっていきたい。きっと、ナミネもそうだろう。
遠い昔はナミネとは学生結婚だったけれど、今はそうもいかない。
「じゃ、人魚の湖行く」
「あ、ユウサクさん、一晩お世話になりありがとうございました」
「ユウサクさん、停電終わったら、また会いに来ます」
人懐っこいナミネは、一晩一緒にいただけなのに歩きながらユウサクさんに、ずっと手を振っていた。
ユウサクさんの家からだと人魚の湖はすぐだった。私たちは人魚の湖の入り口の前に王室の馬を置いた。
「いいか、人魚の湖にいられるのは2時間だからな!みんなストップウォッチ用意しろ!」
私たちはストップウォッチを設定して人魚の湖に入った。
あれ、昨夜は晴れていたのに今日は小雨が降っている。人魚って伝説かと思っていたけど本当にいるんだなあ。
「ちょっと、ヨルクさん。どこ見てるんですか!セクハラですよ!」
「え、本当に人魚いるんだなあて思って」
「じゃあ、人魚のどこ見てたんですか!」
どこと言われても……人魚は人魚だし、なんて答えればいいのだろう。
「普通に湖全体見てたよ」
「ヨルクさんって、いつもそうですよね!いやらしいったらありゃしい!」
またナミネにイタズラされた。
「ねえ、どうしてこういうことするの!何故、私を辱める」
「ねえ、ラルク。ヨルクさん、人魚見て興奮してるよ」
「妖精の水浴びみたいなもんだから仕方ないだろ!」
交際当初のナミネからは、かなり距離を置かれていたけれど、今となっては、すっかり私に気を許している。いいのか悪いのか。
ラルクは人魚に近付いた。
「あの、すみません。あの通路の先ってどうなっているんですか?」
「人魚が人間になった時に過ごす家が並んでるわ。市場もね」
人魚の家まであるのか。1日なら市場も使わないだろうに。
「皆さん、彼氏持ちですか?」
ナミネはすぐ深入りする。
「そうね、人魚同士のカップルや人魚と人間のカップルがいるわね。でも、独り身の人魚もたくさんいるわ」
人間と人魚か。交際が大変そうだな。
「君も人魚に興味あるの?」
「普通かな。僕は人間も人魚も、そんなに変わらないと思ってるよ」
「じゃあ、人魚と付き合えるの?」
「告白されたらね」
ナルホさんのタイプってイマイチよく分からない。でも、ミネスさんとの距離が近いようにも思える。
「すみません、この人とお付き合いしてくださる方いますか?」
「カナエ、もういいんだ。私はセナさんが振り向いてくれるまで、ずっと待つ」
カラルリさんはセナ王女に未練タラタラだな。けれど、私もナミネにフラれたら、どこまでも諦めないだろう。
「じゃ、通路通る」
人魚の家ってどんなふうだろう。町の環境も気になる。
通路を通ると、やはり小さな2人か3人が住めるような森の湖町のような古民家が並んでいた。丸い屋根。こういうの流行っているのだろうか。
ここは晴れている。こういうところの天気も、よく分からないものだな。
歩いているのは、やはり人間なのか。
「ヨルクさん!どこ見てるんですか!そういうのセクハラですし、彼氏と思いたくないです!」
「ねえ、どうしてそういう言い方するの?私はただ、この町を見てるだけなのに」
小さい頃のナミネはあんなに可愛かったのに、どうしてこんなふうになってしまったの。
「ナミネはヤキモチ妬きよ」
「ナミネはすぐ嫉妬するからね」
何故かハモった。
「そうだっけ?」
「そうよ。あなたに近付く同級生がいれば、その子のお弁当放り投げてたわ」
いつの時代の話だろう。
「幼稚園でヨルクと遊んでる子いたら、ナミネはその子突き飛ばしてたよ」
え、でも、その頃ナミネはラルクのこと好きだったんじゃ……。それに、全然覚えていない。
「そ、そうだっけな。エルナとは知り合いだっけ?」
「遠い昔、同級生だったわ。今みたいに落ち武者さんとも同じクラスだったのよ」
そうだったのか。でも、全然覚えていない。
「そ、そっか」
あれ、ナミネが同い歳くらいの男の子と仲睦まじ気に話している。
「あのね、私、レタフルさん送り届けるために紅葉町から来たの」
「随分遠くから来たんだね」
「うん、そうなの。レタフルさんって好きな人いるの?てか、この町って収めてる人いるの?」
「レタフルは、定期的に彼氏変わってるよ。ここは、町長が収めてるよ。町長は、人魚でありながら、大昔に人魚の肉を食べて不老不死になって、いつでも人間の姿になれるんだ」
どこにでも町長はいるが、この町にも存在していたのか。
「あー、なんかね、森の湖南町にも似たような人いるよ」
ナミネとラルクがお世話になった、あのおじいさんのことか。
「そうなんだ。町長は夫が亡くなるたび、また違う人と結婚して子孫作ってるけど、町長と家族でいるのは子供が生きている間だけで、ひ孫までなると、もう他人同然なんだ」
「そっかあ。不老不死の運命も悲しいものなんだね」
子孫がいるのに時の流れと共に他人同然になってしまうのか。長く生きるというのも切ないものだな。
「ナミネ、みんな服来てないから、あまり異性と仲良くしないで」
「私、ヤキモチ妬く男って大嫌いです!ヨルクさんって、小さい男ですね!」
何故、私はいけないのに自分はいいみたいなローカルルールでものを言う。けれど、ナミネと仲違いしたくなくて、私はナミネの手を握った。でも、ナミネは私の手を振り払った。こういう時は、虚しくなるし寂しくもなる。
「あ、あれが町長だよ!」
随分若い人だな。もう少し歳増かと思っていた。
「町長さんー!この町は平和ですか?」
「うーん、難しいわね。子供のために寺子屋も作っているし、職業こそないけれど、人魚以外の何かに転生した時の準備はしているつもりよ。でもね、300年ほど前から、また儀式がはじまったのよ。不老不死を求める貴族が皇室に訴えて、たまに武官が来ては人魚を連れて行かれるの。私は人魚を絶やさないためにも、女には多くの子供を産んでもらってる。それに人魚を天然記念物に指定してもらえるよう、何度も皇帝陛下にかけあってるわ」
不老不死なんてロクな人生遅れないだろうに。貴族というものは無いものねだりをする。そうやって、人魚の湖のような平和なとのころを壊していく生き物なのである。
「人魚って数億年前から存在してますよね。私も人魚がいなくなるのはいやです。人魚の湖町に住む人は、人魚の湖に通うことが楽しみだったりもします。古くから存在するものがなくなって、時代がどんどん変わっていくのは悲しいです」
「そうね、ここは幸い今は当時のまんまだけれど、外の世界は、随分と変わったのよね。私も変わっていくのは苦手だわ。この町の雰囲気はずっとこのままでいてほしいわね」
やはり、皆変わっていくことを恐れる。それは人間だけでなく、人魚も同じなのか。私も、このような空間を見ていると昔を思い出して切なくもなる。あの頃と今、どっちがいいのだろう。
「あの、私、夢を見たんです。彼氏が未来で心変わりしてレタフルさんと交際するんです!それって正夢だったりするのでしょうか?」
ナミネ、ずっとレタフルさんの夢気にしてるんだ。
「うーん、図書館の古い本によると、確かに、そういう夢を見た人は転生後、実際にそうなる確率が高く、ここ最近はその確率が特に高まっているみたい。私も実際に何度も見てきたわ。ある日、人間が人魚を迎えに来るの。人間は前世で夢を見たからだと言っていた。時には、あなたのように心変わりした人間が来て、拗れたりしてる。確実にそうなるわけではないのよ。けれど、私は図書館にもない、もっと古い本に答えが書かれていると思っているわ」
町長さんの発言は、まるで正夢のようなものに聞こえる。けれど、確実ではない。ずっとずっと昔に何かがあって、それが何らかの形で今でも引き継がれているのだろうか。それこそ1つの儀式だ。
「そうですか……」
ナミネ、また落ち込んでる。
「けれど、本当に愛しているなら、いっとき心変わりしても遠い未来でまた愛し合うものよ。私は本命と何度も結婚してるわ。それと、ここに来た記念に市場のものを1人1つ買って帰っていいわよ。何かの参考になるかもしれないから、図書館にも行ってみて。これがここの地図よ」
町長さんはナミネに地図を渡した。
「ありがとうございます!」
「じゃ、市場でもの買って図書館行く」
この町の町長さんは、しっかりしてるんだな。この町みたいな穏やかなところばかりだと争いごともないだろうに。人はいつから争うようになってしまったのだろう。
市場は見たこともないもので溢れていた。
「ナミネ、どれにする?」
「今は非常事態なので、役に立つものを買います」
「ナミネ、それは私が買うから、ナミネは記念に残るようなものを買って」
ナミネは、しばらく考え込んだ。
「はい」
よかった。ナミネには少しでも喜んでほしい。
人魚の灯火。これは電池などがなくても明かりが付いているのか。人魚の水。飲めば長寿。水はほしいけど、ペットボトルだと足りなくなる。
「僕は人魚の薬買うから、あんたは人魚の灯火買え!」
「分かった!ナミネはどうする?」
ナミネは人魚の絵を持っていた。この町にも絵描きさんがいるのだろうか。
「これにします」
「うん、分かった」
私は人魚の灯火と人魚の絵を買った。
「なあ、ズーム。人魚のサプリってあるぞ」
「ロォラ、他に欲しいのないならそれ買っとけ!」
人魚のサプリなんてあるのか。ここの市場は変わっている。遠い昔からそうだったのだろうか。
「分かった、ズーム!」
ロォラさんは人魚のサプリを購入した。
「あ、君、透明人間になれる透明人魚の粉買うの?」
「見てるだけだよ」
こういうところは、普通の町では売ってないものばかりで、逆に何を買えばいいのか分からなくなる。
「透明人魚の粉は僕が買うよ。研究の材料になりそうだ」
ナヤセスさんは、ずっと研究ばかりして来たんだな。
「はい、ストップ!」
突然、落ち武者さんがカンザシさんの持っていたものを取り上げた。
「人魚の恋の瓶。あんた、これ何に使うのさ?」
まさか、ナミネに惚れ薬を飲ませる気なのか!
「それは僕が買うよ」
ナヤセスさんに続いて今度はロォハさんが購入。ここには研究材料がいっぱいだ。
「ただ、見ていただけです!」
「言っとくけど、兄妹、姉弟での婚姻は取り消されるそうだからな!強気なナミネを顔だけヨルクから奪えると思うなよ!」
あの法律なくなるのか。そのほうが私も気持ち的に楽だ。
「僕は、無理矢理ナミネさんと、どうこうなろうと思ってません!ただ、ナミネさんの家族になりたいだけです!」
どこまで信じていいのか分からない。
「じゃ、図書館行く」
ナミネは地図を開いた。人魚の湖って広いんだな。ここからだと、図書館は、そこまで遠くはないか。私たちは図書館に向かって歩きはじめた。
少しすると図書館が見えてきた。図書館も古民家風な建物なのか。この町の風景考えたの誰だろう。
図書館の中はとても広い。1階の作りだけれど、かなりの書物が置いてある。
「ねえ、ラルク。人魚のセレナールさんいるよ」
「ナミネ、念の為、写真に撮っとけ!」
私はナミネに駆け寄った。
他人の空似でもなく、先祖でもなく、セレナールさんそのものだ。セレナールさんは、かつて妖精だったけど、人魚な時もあったのか。
このような大昔の写真が綺麗に保管されているだなんて、ここには修復する人がいるのだろうか。私は本棚を整理しているお姉さんに声をかけた。
「あの、この図書館って、いつ頃からあるのでしょうか?」
「そうね、私が聞いた話では1億年前らしいけど、実際どうだかね」
1億年前。そんなに昔のものが、ここまでいい状態で残っているのか。
「そうですか。随分と歴史あるところなんですね」
妖精村から紀元後だから、その前は全て紀元前になる。何故かカメラだけは古くから存在しているが、それも何か理由があるのだろう。
「町長が変わってからね、図書館もそうだけど寺子屋も託児所も管理者は人間の姿しているのよ。歴史を絶やさないためにね」
「そうでしたか。素敵な発想だと思います」
管理者のお姉さんは来客に呼ばれ行ってしまった。
私はたまたま手に取ったアルバムを開いた。すると、15歳くらいのナミネが男性人魚に抱き締められている写真があった。私はあまりのショックに、その場に泣き崩れた。
「あんた、なにしてんのさ。時間限られてんだから、とっとと参考になるのは写真に撮れ!」
ナミネは、色んな男と恋愛をしてきたんだ。私はナミネしか愛したことないのに。このどうしようもない感情、どうしたらいいのだろう。
「ヨルクさん、どうしたんですか!」
私を立ち上がらせようとするナミネを私は思わず振り払った。
「ナミネって、男ったらしだよね!色んな男と愛し合って、馬鹿にするのも、いい加減にして!」
「私はヨルクさんだけです!ヨルクさん、少し休みましょう」
「放っておいて!」
私は、いつからこんなにヤキモチを妬くようになったのだろう。それとも、疎外感からだろうか。こんなことではナミネに嫌われてしまう。
「ねえ、ラルク。皇帝陛下が人魚の肉食べてる写真あるよ」
……
あとがき。
妖精村には、どうして湖が多いのでしょうね。
もし、本当に物凄く古い時代の写真が現実に残っていたとしたら、私たちは恐竜も見れるのでしょうか。
紀元前1億年前の世界とか予想出来ないです。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 92話
《ナミネ》
パーティーの途中で、突然現れたレタフルという人魚。今日は人間の姿でいる。けれど、まさかのキクスケさんが主人公の未来望遠鏡に登場しているユウサクさんが今彼だなんて。少しぶっ飛んでいる気がする。
それでも、ヨルクさんがレタフルさんを愛していた事実がなかったことは、よかったけれど、どことなくまだ安心しきれていない自分がいる。
「ナヤセス殿〜!ここに人魚いますよ」
ナヤセス殿はすぐに飛んで来た。それにしても、この人魚、帰りどうするんだろう。ユウサクさん怒らせて、送ってもらえるのだろうか。
「はじめて見たよ。今日は人間の日なんだね。血液採取してもいいかな?」
「ええ、構わないわ」
ナヤセス殿はレタフルさんの血液を採取しはじめた。人魚って何型なんだろう。
「ヤオビクニ型だ。はじめて採取した。人魚の肉を食べれば不老不死になって、人魚の血を体内に入れれば殆どの病が治ると言われている。けれど、今や人魚は天然記念物だから、昔のような儀式的なことは一切行えないけどね」
ヤオビクニ型。はじめて聞く。女神のヨウセイ型のようなものなのだろうか。
「ねえ、ラルク。この人魚、今日帰れなかったら不味くない?」
「完全に不味いな。レタフルさんはパーティーが終わったら、僕らで送り届けるしかない。人魚の湖町は行ったことないけれど、宿がないなら、テント張って一晩過ごすしかないな」
やっぱりそうなっちゃうか。でも、このまま帰さないと死んじゃうかもしれないし、送り届ける人らだけで送り届けるしかない。
「てか、ユウサク、あんた今何してんのさ?」
「農作業……」
え、flowerグループの社員なんじゃないの?いつから農家になったのだろう。
「あの、ユウサクさんて、キクスケさんの大学の同期ですよね?」
「そうだけど、昔に死んだよ。あの頃は景気もよく大手企業で務められたけど、今は大学出てても就職にありつけないんだ」
「そのこと、サトコさんは知ってるんですか?」
「知らないよ。言うに言えないし、大手企業で務めてるって嘘ついてる」
もし、ヨルクさんが会社クビになって、農作業していて、私にはクビになったこと何も言ってくれなかったらいやだな。というか、それサトコさんが知ったら別れるか別れないかの危機に陥るんじゃないだろうか。
「人魚の湖の近くに農家があるんですか?」
「うん、もう誰も住んでないような家が並んでて、何もないところだよ。流石に電気、ガス、水道はあったけどね」
何という都落ちだ。けれど、農業も立派な職業だし、それで食べていけているなら問題はないか。サトコさんからは別れ切り出されそうだけど、それならレタフルさんと一緒になればいい。
「パーティーまだあるんだから、あんたらは、石鹸作り体験でもしてろ!パーティーが終われば登山着に着替えて、レタフル送り届ける」
1日のことだから、サバイバル服じゃなくて登山服で大丈夫か。
「ラルク、石鹸作り体験行こ」
「そうだな、まだ時間あるしな」
私はラルクと石鹸作り体験に向かった。パーティーが終わるなり、どこの誰だか分からない人魚を送り届けないといけないのは心が重たいけど、今はイベントを楽しもう。
石鹸作り体験コーナーには、それなりに人がいる。やっぱり普段馴染みないものほど人は興味を示すものなのかもしれない。
私は材料を混ぜはじめた。
「ねえ、ラルク。レタフルさん、どう思う?」
「顔は普通よりかは綺麗なほうかもしれないけど、痩せすぎな気がして、ちょっとタイプからは外れるな」
レタフルさんはユメさんより痩せている。ヨルクさんは、痩せすぎな人が好みなのだろうか。恋愛感情はないとはいえ、目の前でタイプとか言われたら、やっぱりいい気はしないし、それにレタフルさんがヨルクさんやアルフォンス王子と出会う前のことを何も知らない。大昔とはいえ、ヨルクさんが夢中になった女がいたらいやだな。私はヨルクさん以外の人とも恋愛したし、ヨルクさんのこと責められる立場じゃないけど、それでもヨルクさんが他の人と大恋愛してた事実があったら受け止めきれないと思う。
「あんた、何個型に入れてんのさ」
あ、考えごとしてたら、石鹸いっぱい作っちゃった。
「えへへ」
「なあ、ズーム。あの人、本当に人魚なのか?」
「さっきから何度もメンバーがそう言ってただろ!」
ロォラさん、石鹸作り慣れてる。今となっては、ズームさんをイジメてたキラキラ女子とは思えないな。
「ズームも人魚に興味あるのか?」
「少なくとも、あのレタフルって人魚は痩せすぎていて、どこに魅力があるのか分からないし、人魚の湖で少し見たら二度までもは行かないだろうな」
「昔は痩せてなかったんだ。セレナールのようにスタイルがよかった。顔も一目見ただけで恋に落ちたし。だから、余計にヨルクに心変わりされたことが胸が痛む」
アルフォンス王子いたんだ。人って、体型でそこまで変わるものなのだろうか。太ったりしたら魅力に欠けるかもしれないけど、痩せただけで顔つきまで大きく変わるものなのかな。
「ねえ、ラルク。人って体型で印象変わる?」
「まあ、多少はそうだろうな。けど、ナミネはナミネでいいと僕は思うけど」
そうなのかなあ。ヨルクさんって、ナナクサガユさんみたいに太った人がタイプかと思いきや、現在のやせ細ったレタフルさんがタイプとか言い出すし、ヨルクさんのタイプよく分からない。
「君も人魚の湖に行くの?」
「ナミネが心配だからね」
「じゃあ、私も行く!君は2人の人を好きになったらどうする?」
「唐突な質問だね。そんな経験ないけど、もしそうなったら、どっちとも交際しないよ」
「君は真面目だね。私は卑怯かも」
「君のしたいようにしたらいいと僕は思うけどね」
何だかんだでズームさんとロォラさんて心の距離近いし、結局ナルホお兄様とミネスさんだって1月に色んなこと変えたのに、また元に戻っている。2組とも自覚なし。ナルホお兄様にはカナエさんがいるのに、やっぱりミネスさんとのほうが話しやすいのだろうか。
「あ、お2組とも仲が宜しゅうことで」
「気のせいですよ、ナミネさん。僕は異性として見れない人はノーカウントなので」
異性として見れない。どこがだ。今となっては学校で1番仲良いのではないのだろうか。
「ねえ、ラルク。どう思う?」
「まあ、そんなもんだろ。ナミネだって、ヨルクお兄様への気持ちに気付くまでかなり時間かかっただろ?」
それはそうだけど、最後の天使村であのようなお願いをしてしまったわけで、それがなかったら、妖精村時代も変わらずヨルクさんのこと好きだったと思う。
「うーん、最後の天使村で、あんなお願いしちゃったからなあ。ね、この先、ラルクに本当に好きな人が出来たら心から応援するよ」
「その必要はない。僕はヨルクお兄様みたいに何でも許せる人間ではないから、セレナール先輩との関係は壊れてるけど、新たに好きな人が出来たとしても気持ちは伝えない」
ラルク、どうしてそんなこと言うの。私はラルクに幸せになってほしい。セレナールさんとの恋愛が偽物だったからって諦めてほしくないよ。
「ラルクは幸せになっていいんだよ!ヨルクさんは、ただのMなだけ!許せないならそれでいいんだよ。新しく好きな人出来るの待とうよ」
私はラルクを抱き締めた。ラルクへの好きは確かに好きだったけど、ヨルクさんのほうが、もっともっと好きだった。けれど、どれだけ愛していても相手が浮気したり壊れてしまう時は、とことん壊れるものだ。
「あんたらさ、どんな関係なわけ?」
「え、ラルクとは、ずっと一緒でしたし学年も同じで大切な存在です」
「僕は男女の友情なんて存在しないと思うけど?」
そういう考え方はメジャーかもしれないけど、私とラルクは特別なの。
「ねえ、2人とも離れて!そんな関係じゃないでしょ!」
ヨルクさんは、ラルクから私を引き離した。ヨルクさんって、こんなにヤキモチ妬きだっけ。
「私、ヤキモチ妬く男、嫌いです!ラルクとは幼なじみでずっと一緒だったんです!大切な人の幸せ応援するのは当然なことでしょう!」
私は立ち上がるなり、パーティー会場を出てトイレに走った。
また、ヨルクさんのこと突き放してしまった。ヨルクさんは誰よりも大切な人なのに。どうしていつも些細なことで拗れてしまうのだろう。私は恋愛向けではない。でも、ヨルクさんと一緒にいたい。
トイレは案の定汚れている。来客者が汚したのなら仕方がない。私はウエットティッシュでトイレを拭いて、タライで手を洗った。あ、これヨルクさんからもらったナプキンだ。ここで使おう。ヨルクさんのマグボトルの水飲みすぎたかな。レタフルさんの送り届けもあるし、気を付けないと。
時計を見ると14時。停電のため、パーティーは14時半までだ。戻らないと。
客室の扉を開くと、ヨルクさんがいた。
「ナミネ、さっきはごめんね。レタフルさんのことで気を張りつめてた。ナミネとの間に溝出来てほしくなくて」
私はヨルクさんに抱き着いた。ヨルクさんの紅葉の香り。私の大好きな香り。
「溝が出来てもヨルクさんとは離れません」
「ナミネ……」
「あんたら、なんでいつもそうなのさ。雨降って来たから来客も帰りはじめてる!向こうで宿がなければテント張るし、レタフル送り届ける準備しろ!」
雨が降り出しているのか。人魚の湖に行く人は、登山服に着替えて、リュック対応のレインウェアを着ないと。
私たちはパーティー会場に向かった。
パーティー会場には殆どの人がいなくなっていた。
「本日は、停電の中、お越しくださりありがとうございました。雨が降ってきましたので、予定より早くパーティーを終えます。気を付けてお帰りになられてください。また、このようなパーティーを開くことがありましたら、是非来てください。お帰りの際は、受け付けでレインコートを受け取ってください」
閉会式が終わった。使用人たちが片付けをしはじめている。来客者も慌ててパーティー会場を出て行った。来客者の殆どは馬で来ていたのだろう。そして、私たちも馬で人魚の湖まで行かないといけない。
「皆さん、これからレタフルさんを人魚の湖まで送り届けます。送り届ける人は、登山服に着替え、リュック対応のレインウェアを来てください。無線は絶対に忘れないでください。レタフルさんのことは0時までに送り届けないといけません。ですので、馬に乗れない人は送り届けは、ご遠慮していただけると助かります。宿がなければテントを張ります」
行かないのはユメさん、委員長、アヤネさん、ミネルナさん、カラン王子だけか。
「じゃ、女はここで男は廊下で着替えろ!」
男性陣が廊下に出たあと、私たちは登山服に着替えた。パーティーのあとは、ナノハナ家に戻るとばかり思っていたからリュックは少し軽くしてある。けれど、朝には戻るわけだから足りるだろう。私はレインウェアを着た。靴はスニーカーだけど仕方ない。一応サバイバルに適しているし、少々濡れてもやむを得ないだろう。
外に出ると大雨だ。王室の馬がいる。
「ねえ、ラルク。王室の馬、仮面かぶいてるよ」
「撃球だってそうだろ」
もう随分と行っていない。キクリ家ではやく大会が行われているそうだけれど。そういうスポーツ系はヨルクさん、全くやらないし。下手でも、ヨルクさんの有志見たいんだけれどなあ。
「じゃ、馬乗れないヤツは乗れるヤツに乗せてもらえ!」
アルフォンス王子、ちゃっかりレタフルさんを馬に乗せている。何だかんだで帰るところなだけに、ユウサクさんも行かなきゃならないか。
「あ、セレナールさん。服、指定しましたよね?こんな大雨なのにレインコート1つ着ないのでは濡れてしまいます」
みんなレインウェア着ているのに、どうしてセレナールさんだけ着替えさえしていないのだろう。
「そんなの聞いてないもの」
私は、みんなの前で言ったのに。セレナールさんて、本当人をイラつかせる。
「セレナールはお留守番ね」
「リリカ、本当に聞いてなかったのよ」
「セレナール、私のを着ろ」
カラルリさんって、セレナールさんに甘い。やっぱり、ずっと妹同然の存在として可愛がってきたからかな。セレナールさんは、カラルリさんのレインウェアを着た。
「ラルク、一緒に乗ろ」
「あんた、それだとバランス悪くなるだろ。クソレタフルを0時までに送り届けないといけないからね?本来、電車3本分の道だからね?」
電車3本分。実際に馬走らせると、どのくらいで着くのだろう。停電となると乗れるのは馬くらいだから遠くの移動は厄介だ。
「ヨルクさんは、馬乗れますよね。誰か、馬乗れない人、私の馬に……」
「私がナミネと一緒に乗る!」
ヨルクさんは、馬に乗れるのに。
「君の馬に乗せてくれる?」
「いいよ」
そっか。ナルホお兄様もカナエさんも乗馬は得意だから別々になっちゃうか。
私とヨルクさん、ラルクとロォハさん、ユウサクさん、カラルリさんとセレナールさん、落ち武者さんとエルナさん、ナルホお兄様とミネスさん、ズームさんとロォラさん、リリカさんとラハルさん、アルフォンス王子とレタフルさん、セナ王女とミツメさん、ナナミお姉様とナヤセス殿、カナエさんとカンザシさん、ミナクさん。
ユウサクさんは、乗ってきた馬があるから、どうしても偶数になりきらない。って、ズームさん、馬乗れたんだ。
「じゃ、行く。とにかく飛ばせ!」
私は、落ち武者さんから渡された地図を元に赤線で引かれたルートを見た。ここからだとかなり距離がある。それでも0時までにレタフルさんを送り届けないと。私は地図をレインウェアのポケットにしまうと、馬を走らせた。ユウサクさん以外の馬は全て親衛隊が使う馬だ。武家にも速度の出る馬はたくさんいるけれど、やっぱり王室の馬は違う。
常歩は長距離移動には向いているものの、時速5~6キロしか出ない。速歩は1時間走らせることは可能だが、時速13~15キロが限界。駆歩は20~30キロ出るが30分しか走らせられなく長距離には向いていない。襲歩の場合だと60~70キロ出るが、たったの5分しか走らせることが出来ない。
けれど、親衛隊の馬はフェアリーサラブラーといって乗る人によれば、時速170キロ出せる。遠い昔は、貴族や一般市民の乗る馬と王室の乗る馬は、ほぼ同じだったが、王室の武官が馬を早く走らせているうちに、馬も進化し、フェアリーサラブラーが生まれたらしい。今となっては伝説話だが。
前にはセナ王女がいる。最近のセナ王女は、どことなく垢抜けている気がする。
「ねえ、ラルク。セナ王女、速いよね」
「もう、フェアリーサラブラーのプロだな」
「後ろの人、着いてこれるかな」
「まあ、レタフルさんさえ時間内に人魚の湖に入ればいいからな」
けれど、何か様子がおかしい。でも、この時の私は大雨で周囲がよく見えていなかった。
私はフェアリーサラブラーに乗るのははじめてである。生きている間に乗れるとは思っていなかった。セナ王女は、この馬でずっと訓練してたんだな。
時計を見ると15時半。別荘を出たのが15時くらいだから、30分経ったのか。けれど、まだ殆ど進めていない。150キロは出しているのに。人魚の湖ってどれだけ遠いの。
私たちはガムシャラに馬を走らせた。
時刻は19時。それでも、まだ中間地点だ。霧が出てきている。セナ王女は見えなくなっているし、後方も同じ。
その時、後方でおかしい音がした。
「落ち武者さん、後ろで何が起きてるか見てもらえませんか?」
「りょーかい。エルナ、手綱しっかり持て!」
「分かったわ!」
落ち武者さんは立ち上がって後ろを見た。
「おい、不味いぞ。時速90キロで平凡アルフォンスがクソレタフルと落馬しかけてる!」
そんな……。これでは、アルフォンス王子とレタフルさんが命を落としてしまうかもしれない。
「ラルク!」
「戻るしかないな」
一刻を争う。戻らないと。
「ヨルクさん、すみませんが引き返します」
「うん、分かった」
私とラルクは、引き返しアルフォンス王子の馬に向かって馬を走らせた。気付かなかったけど、アルフォンス王子って、それなりに後方にいたんだ。その時、アルフォンス王子の馬が竿立ちした。このままでは、アルフォンス王子とレタフルさんが落馬してしまう。私とラルクはもうスピードで馬を走らせ、アルフォンス王子の馬のところで止まると、私はアルフォンス王子をラルクはレタフルさんを受け止めた。
「僕はレタフルさんを乗せるから、ナミネはアルフォンス王子乗せろ!」
「分かった、ラルク!ヨルクさん、ロォハさんを乗せてゆっくり来てください」
「うん、分かったよ。ナミネ、気を付けてね」
ロォハさんはラルクの馬からヨルクさんの馬へ移動し、ラルクはレタフルさんを乗せ、私はアルフォンス王子を乗せて、再び速度を出して走らせた。
けれど、どうして竿立ちなんかしたのだろう。アルフォンス王子の乗り方が不安定だったのだろうか。
時刻は21時。もう間に合うかどうかも分からない。
「ラルク、21時だよ」
「ギリギリというレベルではないな。それでも向かうしかない」
もし、間に合わなかったらどうなるのだろう。
「甘えセナに無線飛ばす」
何の無線だろう。
落ち武者さんは、無線を手に持った。
「甘えセナ、人魚の湖に着いたら、湖の水をタライに入れろ!」
『こちらセナ。了解』
間に合わなくても僅かな湖の水だけで、こと足りるのだろうか。でも、ないよりかはマシかもしれない。
停電の中、こんなことに巻き込まれたくなかった。けれど、放っておいたら、それはそれで後悔するだろう。
地面が土のところに入った。さっきより走りにくい。
霧も濃くなってきて後方が見えない。
「ヨルクさん、大丈夫ですか?」
私は無線で話しかけた。
『大丈夫だよ』
「あんた、なんで顔だけヨルクだけなのさ」
あ、つい無意識にヨルクさんのことしか考えてなかった。
「い、いえ、皆さんのこと心配してますよ。地面もぬかるんでますし」
「あんたさ、もっとマシな嘘つけないわけ?」
落ち武者さんて、最初から距離感近かったように思うけど、それって私からじゃなく、落ち武者さんから私に歩み寄ってたからなんだ。昔からの知り合いなのだろうか。
馬を走らせる速度が落ちてゆく。だんだん進みにくくなっている。ぬかるんだ地面に、どんどん時間を奪われてゆく。
時刻は23時半。
まだ、距離はあるのに……。それでは間に合わない。それでもギリギリまで走らせるしかない。多分、私は諦めかけている。この世に生きたものは、いつかは死んでゆくものだし。レタフルさんも転生して新しい人生を歩めば今より……。
ダメだ。この進みにくさで思考がマイナスになっている。
それでも、コクコクと0時に近付いている。
「どうしてヨルクなんだ……」
アルフォンス王子の眠そうな声。また落馬されては困る。
「アルフォンス王子、目を覚ましてください!あと少して0時です!」
「分かっている。けれど、永遠だと思っていた。カナエには悪いが、それでもレタフルだけが私の生きる全てだった。レタフルと別れた瞬間から私は自暴自棄になった」
今更知る事実に私は戸惑いさえ持てなかった。それでも、アルフォンス王子の性格は何度も疑った。それさえも、時代の流れだと位置付けしてしまっていたと思う。あれだけ冷静沈着で、カナエさんを心から愛していたアルフォンス王子が、失恋で、ここまで変わってしまうものなのか。
きっと、私もそうかもしれない。ヨルクさんに愛想つかれたら、アルフォンス王子みたいに冷酷な人間になっている気がする。
「レタフルさんのことは、いつ思い出したんですか?」
「カナエと交際してすぐだ」
それで、カナエさんにピルなんか飲ませていたのか。
「どうしても、レタフルさんじゃないとダメなんですか?」
「ナミネだってヨルクが他の女と交際していたら今みたいな幸せを失うだろ」
ああ、そうか。他者視点だと分からないけど、自分がなってみたら、他者からすれば、とんでもない人間に見えてしまうものか。
「確かにそうですが……」
ダメだ。言葉を失ってしまった。
「どうして人は心変わりなどしてしまうのだろう。この世に永遠というものはないのだろうか」
愛してやまない人がいれば、誰だって永遠を求む。私だって、大昔にヨルクさんが誰かを愛していたりしたら、いっぱい悩むだろうし、今心変わりされたら、とてもじゃないけど耐えきれない。
私の見た夢はいったいなんだったのだろう。
「0時、3分前だ!もう間に合わない。強気なナミネ、ラルクごとクソレタフル吹き飛ばせ!」
「分かりました!ラルク、頑張って!」
私は扇子を開いて、ラルクごとレタフルさんを人魚の湖に向けて吹き飛ばした。
……
あとがき。
最近、クレナイ家 三兄弟 描きました。
何千年、何億年も、同じ人のみを愛することの方が無理かもしれません。でも、ずっと想ってる側からすれば、受け入れがたい事実ですね。
あれだけ冷静沈着で余裕のあったアルフォンスの現代が悲しすぎます。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
パーティーの途中で、突然現れたレタフルという人魚。今日は人間の姿でいる。けれど、まさかのキクスケさんが主人公の未来望遠鏡に登場しているユウサクさんが今彼だなんて。少しぶっ飛んでいる気がする。
それでも、ヨルクさんがレタフルさんを愛していた事実がなかったことは、よかったけれど、どことなくまだ安心しきれていない自分がいる。
「ナヤセス殿〜!ここに人魚いますよ」
ナヤセス殿はすぐに飛んで来た。それにしても、この人魚、帰りどうするんだろう。ユウサクさん怒らせて、送ってもらえるのだろうか。
「はじめて見たよ。今日は人間の日なんだね。血液採取してもいいかな?」
「ええ、構わないわ」
ナヤセス殿はレタフルさんの血液を採取しはじめた。人魚って何型なんだろう。
「ヤオビクニ型だ。はじめて採取した。人魚の肉を食べれば不老不死になって、人魚の血を体内に入れれば殆どの病が治ると言われている。けれど、今や人魚は天然記念物だから、昔のような儀式的なことは一切行えないけどね」
ヤオビクニ型。はじめて聞く。女神のヨウセイ型のようなものなのだろうか。
「ねえ、ラルク。この人魚、今日帰れなかったら不味くない?」
「完全に不味いな。レタフルさんはパーティーが終わったら、僕らで送り届けるしかない。人魚の湖町は行ったことないけれど、宿がないなら、テント張って一晩過ごすしかないな」
やっぱりそうなっちゃうか。でも、このまま帰さないと死んじゃうかもしれないし、送り届ける人らだけで送り届けるしかない。
「てか、ユウサク、あんた今何してんのさ?」
「農作業……」
え、flowerグループの社員なんじゃないの?いつから農家になったのだろう。
「あの、ユウサクさんて、キクスケさんの大学の同期ですよね?」
「そうだけど、昔に死んだよ。あの頃は景気もよく大手企業で務められたけど、今は大学出てても就職にありつけないんだ」
「そのこと、サトコさんは知ってるんですか?」
「知らないよ。言うに言えないし、大手企業で務めてるって嘘ついてる」
もし、ヨルクさんが会社クビになって、農作業していて、私にはクビになったこと何も言ってくれなかったらいやだな。というか、それサトコさんが知ったら別れるか別れないかの危機に陥るんじゃないだろうか。
「人魚の湖の近くに農家があるんですか?」
「うん、もう誰も住んでないような家が並んでて、何もないところだよ。流石に電気、ガス、水道はあったけどね」
何という都落ちだ。けれど、農業も立派な職業だし、それで食べていけているなら問題はないか。サトコさんからは別れ切り出されそうだけど、それならレタフルさんと一緒になればいい。
「パーティーまだあるんだから、あんたらは、石鹸作り体験でもしてろ!パーティーが終われば登山着に着替えて、レタフル送り届ける」
1日のことだから、サバイバル服じゃなくて登山服で大丈夫か。
「ラルク、石鹸作り体験行こ」
「そうだな、まだ時間あるしな」
私はラルクと石鹸作り体験に向かった。パーティーが終わるなり、どこの誰だか分からない人魚を送り届けないといけないのは心が重たいけど、今はイベントを楽しもう。
石鹸作り体験コーナーには、それなりに人がいる。やっぱり普段馴染みないものほど人は興味を示すものなのかもしれない。
私は材料を混ぜはじめた。
「ねえ、ラルク。レタフルさん、どう思う?」
「顔は普通よりかは綺麗なほうかもしれないけど、痩せすぎな気がして、ちょっとタイプからは外れるな」
レタフルさんはユメさんより痩せている。ヨルクさんは、痩せすぎな人が好みなのだろうか。恋愛感情はないとはいえ、目の前でタイプとか言われたら、やっぱりいい気はしないし、それにレタフルさんがヨルクさんやアルフォンス王子と出会う前のことを何も知らない。大昔とはいえ、ヨルクさんが夢中になった女がいたらいやだな。私はヨルクさん以外の人とも恋愛したし、ヨルクさんのこと責められる立場じゃないけど、それでもヨルクさんが他の人と大恋愛してた事実があったら受け止めきれないと思う。
「あんた、何個型に入れてんのさ」
あ、考えごとしてたら、石鹸いっぱい作っちゃった。
「えへへ」
「なあ、ズーム。あの人、本当に人魚なのか?」
「さっきから何度もメンバーがそう言ってただろ!」
ロォラさん、石鹸作り慣れてる。今となっては、ズームさんをイジメてたキラキラ女子とは思えないな。
「ズームも人魚に興味あるのか?」
「少なくとも、あのレタフルって人魚は痩せすぎていて、どこに魅力があるのか分からないし、人魚の湖で少し見たら二度までもは行かないだろうな」
「昔は痩せてなかったんだ。セレナールのようにスタイルがよかった。顔も一目見ただけで恋に落ちたし。だから、余計にヨルクに心変わりされたことが胸が痛む」
アルフォンス王子いたんだ。人って、体型でそこまで変わるものなのだろうか。太ったりしたら魅力に欠けるかもしれないけど、痩せただけで顔つきまで大きく変わるものなのかな。
「ねえ、ラルク。人って体型で印象変わる?」
「まあ、多少はそうだろうな。けど、ナミネはナミネでいいと僕は思うけど」
そうなのかなあ。ヨルクさんって、ナナクサガユさんみたいに太った人がタイプかと思いきや、現在のやせ細ったレタフルさんがタイプとか言い出すし、ヨルクさんのタイプよく分からない。
「君も人魚の湖に行くの?」
「ナミネが心配だからね」
「じゃあ、私も行く!君は2人の人を好きになったらどうする?」
「唐突な質問だね。そんな経験ないけど、もしそうなったら、どっちとも交際しないよ」
「君は真面目だね。私は卑怯かも」
「君のしたいようにしたらいいと僕は思うけどね」
何だかんだでズームさんとロォラさんて心の距離近いし、結局ナルホお兄様とミネスさんだって1月に色んなこと変えたのに、また元に戻っている。2組とも自覚なし。ナルホお兄様にはカナエさんがいるのに、やっぱりミネスさんとのほうが話しやすいのだろうか。
「あ、お2組とも仲が宜しゅうことで」
「気のせいですよ、ナミネさん。僕は異性として見れない人はノーカウントなので」
異性として見れない。どこがだ。今となっては学校で1番仲良いのではないのだろうか。
「ねえ、ラルク。どう思う?」
「まあ、そんなもんだろ。ナミネだって、ヨルクお兄様への気持ちに気付くまでかなり時間かかっただろ?」
それはそうだけど、最後の天使村であのようなお願いをしてしまったわけで、それがなかったら、妖精村時代も変わらずヨルクさんのこと好きだったと思う。
「うーん、最後の天使村で、あんなお願いしちゃったからなあ。ね、この先、ラルクに本当に好きな人が出来たら心から応援するよ」
「その必要はない。僕はヨルクお兄様みたいに何でも許せる人間ではないから、セレナール先輩との関係は壊れてるけど、新たに好きな人が出来たとしても気持ちは伝えない」
ラルク、どうしてそんなこと言うの。私はラルクに幸せになってほしい。セレナールさんとの恋愛が偽物だったからって諦めてほしくないよ。
「ラルクは幸せになっていいんだよ!ヨルクさんは、ただのMなだけ!許せないならそれでいいんだよ。新しく好きな人出来るの待とうよ」
私はラルクを抱き締めた。ラルクへの好きは確かに好きだったけど、ヨルクさんのほうが、もっともっと好きだった。けれど、どれだけ愛していても相手が浮気したり壊れてしまう時は、とことん壊れるものだ。
「あんたらさ、どんな関係なわけ?」
「え、ラルクとは、ずっと一緒でしたし学年も同じで大切な存在です」
「僕は男女の友情なんて存在しないと思うけど?」
そういう考え方はメジャーかもしれないけど、私とラルクは特別なの。
「ねえ、2人とも離れて!そんな関係じゃないでしょ!」
ヨルクさんは、ラルクから私を引き離した。ヨルクさんって、こんなにヤキモチ妬きだっけ。
「私、ヤキモチ妬く男、嫌いです!ラルクとは幼なじみでずっと一緒だったんです!大切な人の幸せ応援するのは当然なことでしょう!」
私は立ち上がるなり、パーティー会場を出てトイレに走った。
また、ヨルクさんのこと突き放してしまった。ヨルクさんは誰よりも大切な人なのに。どうしていつも些細なことで拗れてしまうのだろう。私は恋愛向けではない。でも、ヨルクさんと一緒にいたい。
トイレは案の定汚れている。来客者が汚したのなら仕方がない。私はウエットティッシュでトイレを拭いて、タライで手を洗った。あ、これヨルクさんからもらったナプキンだ。ここで使おう。ヨルクさんのマグボトルの水飲みすぎたかな。レタフルさんの送り届けもあるし、気を付けないと。
時計を見ると14時。停電のため、パーティーは14時半までだ。戻らないと。
客室の扉を開くと、ヨルクさんがいた。
「ナミネ、さっきはごめんね。レタフルさんのことで気を張りつめてた。ナミネとの間に溝出来てほしくなくて」
私はヨルクさんに抱き着いた。ヨルクさんの紅葉の香り。私の大好きな香り。
「溝が出来てもヨルクさんとは離れません」
「ナミネ……」
「あんたら、なんでいつもそうなのさ。雨降って来たから来客も帰りはじめてる!向こうで宿がなければテント張るし、レタフル送り届ける準備しろ!」
雨が降り出しているのか。人魚の湖に行く人は、登山服に着替えて、リュック対応のレインウェアを着ないと。
私たちはパーティー会場に向かった。
パーティー会場には殆どの人がいなくなっていた。
「本日は、停電の中、お越しくださりありがとうございました。雨が降ってきましたので、予定より早くパーティーを終えます。気を付けてお帰りになられてください。また、このようなパーティーを開くことがありましたら、是非来てください。お帰りの際は、受け付けでレインコートを受け取ってください」
閉会式が終わった。使用人たちが片付けをしはじめている。来客者も慌ててパーティー会場を出て行った。来客者の殆どは馬で来ていたのだろう。そして、私たちも馬で人魚の湖まで行かないといけない。
「皆さん、これからレタフルさんを人魚の湖まで送り届けます。送り届ける人は、登山服に着替え、リュック対応のレインウェアを来てください。無線は絶対に忘れないでください。レタフルさんのことは0時までに送り届けないといけません。ですので、馬に乗れない人は送り届けは、ご遠慮していただけると助かります。宿がなければテントを張ります」
行かないのはユメさん、委員長、アヤネさん、ミネルナさん、カラン王子だけか。
「じゃ、女はここで男は廊下で着替えろ!」
男性陣が廊下に出たあと、私たちは登山服に着替えた。パーティーのあとは、ナノハナ家に戻るとばかり思っていたからリュックは少し軽くしてある。けれど、朝には戻るわけだから足りるだろう。私はレインウェアを着た。靴はスニーカーだけど仕方ない。一応サバイバルに適しているし、少々濡れてもやむを得ないだろう。
外に出ると大雨だ。王室の馬がいる。
「ねえ、ラルク。王室の馬、仮面かぶいてるよ」
「撃球だってそうだろ」
もう随分と行っていない。キクリ家ではやく大会が行われているそうだけれど。そういうスポーツ系はヨルクさん、全くやらないし。下手でも、ヨルクさんの有志見たいんだけれどなあ。
「じゃ、馬乗れないヤツは乗れるヤツに乗せてもらえ!」
アルフォンス王子、ちゃっかりレタフルさんを馬に乗せている。何だかんだで帰るところなだけに、ユウサクさんも行かなきゃならないか。
「あ、セレナールさん。服、指定しましたよね?こんな大雨なのにレインコート1つ着ないのでは濡れてしまいます」
みんなレインウェア着ているのに、どうしてセレナールさんだけ着替えさえしていないのだろう。
「そんなの聞いてないもの」
私は、みんなの前で言ったのに。セレナールさんて、本当人をイラつかせる。
「セレナールはお留守番ね」
「リリカ、本当に聞いてなかったのよ」
「セレナール、私のを着ろ」
カラルリさんって、セレナールさんに甘い。やっぱり、ずっと妹同然の存在として可愛がってきたからかな。セレナールさんは、カラルリさんのレインウェアを着た。
「ラルク、一緒に乗ろ」
「あんた、それだとバランス悪くなるだろ。クソレタフルを0時までに送り届けないといけないからね?本来、電車3本分の道だからね?」
電車3本分。実際に馬走らせると、どのくらいで着くのだろう。停電となると乗れるのは馬くらいだから遠くの移動は厄介だ。
「ヨルクさんは、馬乗れますよね。誰か、馬乗れない人、私の馬に……」
「私がナミネと一緒に乗る!」
ヨルクさんは、馬に乗れるのに。
「君の馬に乗せてくれる?」
「いいよ」
そっか。ナルホお兄様もカナエさんも乗馬は得意だから別々になっちゃうか。
私とヨルクさん、ラルクとロォハさん、ユウサクさん、カラルリさんとセレナールさん、落ち武者さんとエルナさん、ナルホお兄様とミネスさん、ズームさんとロォラさん、リリカさんとラハルさん、アルフォンス王子とレタフルさん、セナ王女とミツメさん、ナナミお姉様とナヤセス殿、カナエさんとカンザシさん、ミナクさん。
ユウサクさんは、乗ってきた馬があるから、どうしても偶数になりきらない。って、ズームさん、馬乗れたんだ。
「じゃ、行く。とにかく飛ばせ!」
私は、落ち武者さんから渡された地図を元に赤線で引かれたルートを見た。ここからだとかなり距離がある。それでも0時までにレタフルさんを送り届けないと。私は地図をレインウェアのポケットにしまうと、馬を走らせた。ユウサクさん以外の馬は全て親衛隊が使う馬だ。武家にも速度の出る馬はたくさんいるけれど、やっぱり王室の馬は違う。
常歩は長距離移動には向いているものの、時速5~6キロしか出ない。速歩は1時間走らせることは可能だが、時速13~15キロが限界。駆歩は20~30キロ出るが30分しか走らせられなく長距離には向いていない。襲歩の場合だと60~70キロ出るが、たったの5分しか走らせることが出来ない。
けれど、親衛隊の馬はフェアリーサラブラーといって乗る人によれば、時速170キロ出せる。遠い昔は、貴族や一般市民の乗る馬と王室の乗る馬は、ほぼ同じだったが、王室の武官が馬を早く走らせているうちに、馬も進化し、フェアリーサラブラーが生まれたらしい。今となっては伝説話だが。
前にはセナ王女がいる。最近のセナ王女は、どことなく垢抜けている気がする。
「ねえ、ラルク。セナ王女、速いよね」
「もう、フェアリーサラブラーのプロだな」
「後ろの人、着いてこれるかな」
「まあ、レタフルさんさえ時間内に人魚の湖に入ればいいからな」
けれど、何か様子がおかしい。でも、この時の私は大雨で周囲がよく見えていなかった。
私はフェアリーサラブラーに乗るのははじめてである。生きている間に乗れるとは思っていなかった。セナ王女は、この馬でずっと訓練してたんだな。
時計を見ると15時半。別荘を出たのが15時くらいだから、30分経ったのか。けれど、まだ殆ど進めていない。150キロは出しているのに。人魚の湖ってどれだけ遠いの。
私たちはガムシャラに馬を走らせた。
時刻は19時。それでも、まだ中間地点だ。霧が出てきている。セナ王女は見えなくなっているし、後方も同じ。
その時、後方でおかしい音がした。
「落ち武者さん、後ろで何が起きてるか見てもらえませんか?」
「りょーかい。エルナ、手綱しっかり持て!」
「分かったわ!」
落ち武者さんは立ち上がって後ろを見た。
「おい、不味いぞ。時速90キロで平凡アルフォンスがクソレタフルと落馬しかけてる!」
そんな……。これでは、アルフォンス王子とレタフルさんが命を落としてしまうかもしれない。
「ラルク!」
「戻るしかないな」
一刻を争う。戻らないと。
「ヨルクさん、すみませんが引き返します」
「うん、分かった」
私とラルクは、引き返しアルフォンス王子の馬に向かって馬を走らせた。気付かなかったけど、アルフォンス王子って、それなりに後方にいたんだ。その時、アルフォンス王子の馬が竿立ちした。このままでは、アルフォンス王子とレタフルさんが落馬してしまう。私とラルクはもうスピードで馬を走らせ、アルフォンス王子の馬のところで止まると、私はアルフォンス王子をラルクはレタフルさんを受け止めた。
「僕はレタフルさんを乗せるから、ナミネはアルフォンス王子乗せろ!」
「分かった、ラルク!ヨルクさん、ロォハさんを乗せてゆっくり来てください」
「うん、分かったよ。ナミネ、気を付けてね」
ロォハさんはラルクの馬からヨルクさんの馬へ移動し、ラルクはレタフルさんを乗せ、私はアルフォンス王子を乗せて、再び速度を出して走らせた。
けれど、どうして竿立ちなんかしたのだろう。アルフォンス王子の乗り方が不安定だったのだろうか。
時刻は21時。もう間に合うかどうかも分からない。
「ラルク、21時だよ」
「ギリギリというレベルではないな。それでも向かうしかない」
もし、間に合わなかったらどうなるのだろう。
「甘えセナに無線飛ばす」
何の無線だろう。
落ち武者さんは、無線を手に持った。
「甘えセナ、人魚の湖に着いたら、湖の水をタライに入れろ!」
『こちらセナ。了解』
間に合わなくても僅かな湖の水だけで、こと足りるのだろうか。でも、ないよりかはマシかもしれない。
停電の中、こんなことに巻き込まれたくなかった。けれど、放っておいたら、それはそれで後悔するだろう。
地面が土のところに入った。さっきより走りにくい。
霧も濃くなってきて後方が見えない。
「ヨルクさん、大丈夫ですか?」
私は無線で話しかけた。
『大丈夫だよ』
「あんた、なんで顔だけヨルクだけなのさ」
あ、つい無意識にヨルクさんのことしか考えてなかった。
「い、いえ、皆さんのこと心配してますよ。地面もぬかるんでますし」
「あんたさ、もっとマシな嘘つけないわけ?」
落ち武者さんて、最初から距離感近かったように思うけど、それって私からじゃなく、落ち武者さんから私に歩み寄ってたからなんだ。昔からの知り合いなのだろうか。
馬を走らせる速度が落ちてゆく。だんだん進みにくくなっている。ぬかるんだ地面に、どんどん時間を奪われてゆく。
時刻は23時半。
まだ、距離はあるのに……。それでは間に合わない。それでもギリギリまで走らせるしかない。多分、私は諦めかけている。この世に生きたものは、いつかは死んでゆくものだし。レタフルさんも転生して新しい人生を歩めば今より……。
ダメだ。この進みにくさで思考がマイナスになっている。
それでも、コクコクと0時に近付いている。
「どうしてヨルクなんだ……」
アルフォンス王子の眠そうな声。また落馬されては困る。
「アルフォンス王子、目を覚ましてください!あと少して0時です!」
「分かっている。けれど、永遠だと思っていた。カナエには悪いが、それでもレタフルだけが私の生きる全てだった。レタフルと別れた瞬間から私は自暴自棄になった」
今更知る事実に私は戸惑いさえ持てなかった。それでも、アルフォンス王子の性格は何度も疑った。それさえも、時代の流れだと位置付けしてしまっていたと思う。あれだけ冷静沈着で、カナエさんを心から愛していたアルフォンス王子が、失恋で、ここまで変わってしまうものなのか。
きっと、私もそうかもしれない。ヨルクさんに愛想つかれたら、アルフォンス王子みたいに冷酷な人間になっている気がする。
「レタフルさんのことは、いつ思い出したんですか?」
「カナエと交際してすぐだ」
それで、カナエさんにピルなんか飲ませていたのか。
「どうしても、レタフルさんじゃないとダメなんですか?」
「ナミネだってヨルクが他の女と交際していたら今みたいな幸せを失うだろ」
ああ、そうか。他者視点だと分からないけど、自分がなってみたら、他者からすれば、とんでもない人間に見えてしまうものか。
「確かにそうですが……」
ダメだ。言葉を失ってしまった。
「どうして人は心変わりなどしてしまうのだろう。この世に永遠というものはないのだろうか」
愛してやまない人がいれば、誰だって永遠を求む。私だって、大昔にヨルクさんが誰かを愛していたりしたら、いっぱい悩むだろうし、今心変わりされたら、とてもじゃないけど耐えきれない。
私の見た夢はいったいなんだったのだろう。
「0時、3分前だ!もう間に合わない。強気なナミネ、ラルクごとクソレタフル吹き飛ばせ!」
「分かりました!ラルク、頑張って!」
私は扇子を開いて、ラルクごとレタフルさんを人魚の湖に向けて吹き飛ばした。
……
あとがき。
最近、クレナイ家 三兄弟 描きました。
何千年、何億年も、同じ人のみを愛することの方が無理かもしれません。でも、ずっと想ってる側からすれば、受け入れがたい事実ですね。
あれだけ冷静沈着で余裕のあったアルフォンスの現代が悲しすぎます。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 91話
《ヨルク》
「あんたら、何してんのさ。もうすぐはじまるから、とっとと配置につけ!」
「落ち武者さん、それがカンザシさんがこの写真ナミネに見せて、ナミネ大泣きちゃって」
カンザシさんは、どうしていきなりこんな写真見せてきたのだろう。それにこれだけ古いと私かカンザシさんか分からない。
「強気なナミネ、この写真、別に密着してるわけでもないだろ。真相は人魚の湖で確認するって言ってただろ。今日は大切な日なんだから、ちゃんと1日やり切れ!」
ナミネ、どうして写真1枚でこんなにもショックを受けるのだろう。私はレタフルなんて人魚を知らない。
「はい……すみません……」
私はナミネを立ち上がらせた。何か言葉にしようとした時、ナミネはラルクのところへ行ってしまった。
「カンザシ、あんた、あとで覚えとけよ!平凡アルフォンスも、いつまでそうしてんのさ。時代が違えばパートナーだって違うだろ、普通」
「レタフルは、怪我をした時、知らない男に手当してもらったと言っていた。もしかしたら、その男がヨルクでレタフルはヨルクに心変わりして私との交際をやめたのかもしれない」
手当て。やっぱり全く覚えていない。そもそも、どうしてカンザシさんが、この写真持っているかも分からないし、ナミネが心配だ。
「それが事実だったとしても、今日1日はやり切れ!」
「けれど、事実を言って何が悪いんですか!受け取り方は相手の問題でしょう!」
こんな大切な日を台無しにしようとしているカンザシさんの気持ちが全く分からない。紀元前村でのことは私たちが命懸けで暮らした証なのに。
「あんた、本気で言ってるのかよ!今すぐ転生させてやろうか?」
「セルファ、セナ王女がマイク持ってる。はじまるわ」
そういえば、気付いたら貴族や一般市民でパーティー会場は埋め尽くされている。セナ王女が持っているのは電池式のマイクか。予備の電池も一応は買っているが、そう多くはない。
「落ち武者さん、ナミネが心配だからナミネのところに行きたいんだけど」
「今あんたが行っても余計に追い詰めるだけだろ!ラルクに任せとけ!平凡アルフォンス、あんたここの別荘の主だろ!写真1枚でクヨクヨしてんな!」
こういう時にナミネを慰められないのは悔しいし辛い。私よりラルクのほうが癒されるのだろうか。何だか複雑な気持ちだ。彼氏の私が傍にいて励ましてあげたかった。
セナ王女はセッティングされたスクリーンの前に立った。
「本日は、妖精村全域が停電の中、お越しくださりありがとうございます。本日は、皆様にも知ってもらいたいことがあり、あえてこの状況でパーティーを決行しました。
紀元前村は先進国です。しかし、1つの町だけ差別を受け、まるで古代のような暮らしをしています。その町は蓮華町です。
友人が蓮華町出身で、話を聞いて直接行ってみたところ、その環境は酷いものでした。電気、ガス、水道は一切なし。まさに、今の妖精村のような状況ですね。けれど、蓮華町は、この紅葉町とは異なりすぎています。市場で野菜は買えますが、殆ど腐っています。学校にも通えず、職業もなく、女性は家事をし、男性は食糧を取りに行くのが蓮華町の1日です。果物や薬草は崖の上にあり、家族のために登った人が何人も転落死しています。かといって、新鮮な魚や肉は高くて手が出せません。お風呂に入りたくても家にはなく、公衆浴場まで通わないといけないのです。
衣類は、今まさに私とカランが着ているものしかありません。
私たちは蓮華町で約2ヶ月過ごしました。果物係、薬草係、加熱係、洗濯係、料理係、洗い物係などに役割を分けて、それぞれがそれぞれの役割をして暮らしていました。
そうしているうちに感染症コロディーが町で流行り、私たちは感染者の看病をしたのです。蓮華町に病院はありますが、ひとたび感染症が流行れば満員になります。そのため、私たちは紀元前村と妖精村の皇帝陛下の許可を得て医者志望のナヤセスとロォハが患者の治療を行いました。コロディーが終息したあと、2人はその功績が認められ、医師免許を取得しました。そのお2人がこちらの高校生です。
今日、机に置かれているものは全て紀元前村で作っていた料理を再現しました。石鹸作り体験や紙作り体験も行っております。
話は長くなりましたが、今から後ろにあるスクリーンで、私たちがどのような暮らしをしていたのか、映像を流します。妖精村が停電の今、少しでも何か感じ取っていただけたら嬉しいです。
また、トイレや手洗いなど分からないことは使用人に聞いてください。
それでは、パーティースタート!」
セナ王女は演説を終わるなりマイクを置いた。来客者は映像を見はじめた。この映像で普段何不自由ない暮らしをしている貴族たちに蓮華町の暮らしの厳しさが少しでも伝わればいいのだが。私たちが死ぬ気で過ごした2ヶ月だから伝わって欲しい。
その時、ナミネが来た。
「ナミネ!大丈夫?」
「ヨルクさん、お腹痛いです」
ナミネ、顔色が悪い。
「ナミネ、すぐに痛み止めとマグボトル持ってくるから待ってて!」
「はい」
私はロッカーに入れたリュックを取り出し、マグボトルと痛み止めを持った。ナミネやラルクは結界を物凄い数値でかけることが出来る。けれど、私も10までならかけられるから、カンザシさんにイタズラされないためにも念の為かけている。
結界も舞も公式は10までだが、研究者によって、それ以上か があることが分かり、公式ではないものの、最後に想定と言うことで使うことが出来る。その研究者による結界と舞の公式以上の数値は古代には既に存在していたのだ。
「ナミネ、痛み止めとマグボトルだよ」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
ナミネは私からマグボトルと痛み止めを受け取った。
こういう時、頼ってくれると嬉しい。やっぱりナミネの役に立ちたい。
来客者は料理を食べながら映像を見ている。
「お水に味がついてる」
ナミネの驚いた顔、可愛い。
「果物の皮で味付けしたんだよ」
「てか、あんた、そのマグボトル大きすぎだろ」
「ナミネが飲み物に困らないように大きいの持ってきたの!」
「ナミネ、ナミネって、あんたの頭の中それしかないのかよ」
誰だってそうだろうに。落ち武者さんとてエルナのこと特別扱いだし。普通だと思う。
「ヨルクさん、大好き」
ナミネ……。生きててよかった。もう二度とナミネに振り向いてもらえないと思っていただけに、現世は悔いのないものにしたい。私はナミネの手を握った。
「そうやって見せ付けていてもヨルクさんがレタフルさんを好きだった事実は変わりませんよ」
いくらナミネのことが好きだからって、今のナミネの彼氏は私だし、こういう邪魔のされ方は気に食わない。
「気にすることないわ。カンザシは焦ってる。余裕があるなら、こんなふうに言葉のみで追い詰めたりしない。人魚の湖まで待てばいいだけのことよ」
エルナって落ち武者さんの元カノなだけに、気が強い。相手の策略に簡単にハマったりはしないんだろうな。
「カンザシさん、私は前世で他の男と交際したように、ヨルクさんも、たくさんの嫁がいたんです。だから気にしません」
何だか複雑な気持ちにさせられる言葉だけれど、今私たちは愛し合っている。ちゃんと同じ気持ちで。だから、カンザシさんにはどうかナミネを諦めてほしい。
「ナミネさん、好きでもない女と結婚するのと、本気で惚れた女と大恋愛するのとでは違いますよね。本気で惚れた女は何世紀経っても忘れられないものです。ナミネさんがいくらヨルクさんのことが大好きでもヨルクさんはナミネさん以上にレタフルさんを愛していたんです」
私はナミネ以上に愛した女子(おなご)などいない。カンザシさんのハッタリとしか思えない。
「へえ、あんた、それ証明出来るわけ?映像でもあるわけ?人魚の湖は乗り継ぎが必要でクレナイ家からは遠い。それを定期的に通ってた証拠でもあるのかよ!」
「ご自分で調べたらどうです?」
「なるほどね?手駒はないってわけ」
「言葉ではなんとでも言えますよね。人は直接見て聞いてはじめて自覚するものなんですよ」
いくらナミネのことが好きでも、こんなやり方で私とナミネを引き裂こうだなんて気分が悪い。
「ヨルク、今すぐ確認したい。もういても経ってもいられない」
何故ここでアルフォンス王子自ら巻き込まれる。私もナミネも悩んでいるというのに、ことを荒らげられては困る。
「アルフォンス王子、気持ちは分かるんですけど、流石に今すぐはどうこう出来ないです」
その時、ナミネがまた料理を手で掴んで食べている。私はナミネを机から下ろした。
「ナミネ、手で食べないで。今、お皿に入れるから」
「はい」
私は紀元前村で使っていた今にも折れそうなお箸ではないものの、お箸で料理をお皿に入れてナミネに渡そうとしたら、今度は私がナミネ用に持って来たマグボトルの水をナミネがカブ飲みしている。
「ナミネ、そんなに飲んだらトイレ行きたくなるでしょ!ほら、この料理食べて」
私はナミネからマグボトルを取り上げ、ナミネに料理の入ったお皿を渡した。
「はい」
その時、ナミネが私に何かを握らせた。手を開いてみるとスフェーンの原石だった。
「ナミネ、これどうしたの?」
「蓮華町の市場で買いました」
あの時、ナミネを怒らせて砕けてしまったスフェーン。けれど、また買ってくれたんだ。
「ありがとう、ナミネ。大切にするね」
私はマグボトルと痛み止めとスフェーンを一度リュックに入れに行った。何だかんだでナミネは私を想ってくれている。私は少し浮かれていた。
スクリーンの映像が終わったのか、映像ではなく、写真が流れはじめた。
「では、ひと通り私たちの紀元前村での暮らしの映像を見てもらったところで、蓮華町出身のタルリヤに話を聞いてみましょう。
また、スクリーン映像の感想はよかったら意見箱に入れてください」
セナ王女はタルリヤさんにマイクを渡した。
「はじめまして、紀元前村出身のタルリヤです。僕はかなり昔から紀元前村の蓮華町で暮らしています。基本この世の仕組みは、転生後も同じところに生まれますから。それでも、古代はよかったんです。紀元前村は発展途上国で、全ての町が同じ暮らしをしていましたから。どこも同じだと不思議とその時代に染まりますよね。でも、2020年現代も蓮華町のみが差別を受け、古代のような暮らしをしているんです。セナ王女も仰ったように、電気、水道、ガスは存在しません。
蓮華町には恋愛感情もないので、世帯を持つ人も少ないです。蓮華町の人は殆どお金なんて持っていません。だから、だいたい腐った煮物しか食べるものはないです。けれど、蓮華町に生まれるたびに、辛いというかコンプレックスになったのは、学問を学べないことです。誰だって学校に行きたいし、将来の進路を決めて、それに向かって進みたいものです。蓮華町にいる限り未来はありません。だから、僕は妖精村の紅葉町に引っ越してきたんです。今は生活保護を受けながら学校に通っています。僕はたまたま引っ越すことが出来ましたが、蓮華町の周りには高い囲いがあって、隣町に行くことさえ許されません。
今でも多くの蓮華町民が苦しくてもどかしい暮らしを送っています。ナミネたちが実際に僕の故郷を見に来てくれたことには感謝しています。また、映像を撮ってくれたラハルさん、このパーティーを開いてくれたセナ王女にも感謝です。
今はどうにもならないことだとは思いますが、いつか蓮華町も、この紅葉町のような暮らしが出来ることを心より祈っております。
本日は停電の中、お越しくださりありがとうございます」
タルリヤさんは一礼をしてマイクをセナ王女に戻した。
もし、私がタルリヤさんの立場だったらどうしていただろう。私には何の力もない。だから、流されるまま死ぬまで暮らしていた可能性が高いだろう。
「スクリーン映像の暮らしをタルリヤさんは大昔からしています。今だからこそですが、電気、水道、ガスは必要ですよね。昔はそんなものありませんでしたし、妖精村も、今の蓮華町と似たような暮らしをしていたでしょうけど。現代は、もう昔ではありません。まして、古代のような暮らしなんて考えられませんよね。タルリヤさんから、直接話を伺ったところで、引き続きパーティーをお楽しみください」
セナ王女はマイクを置いて、こちらに向かって来た。
「あー、喉乾いた」
セナ王女はグラスに入ったフルーツで味付けした水を飲んだ。そういえば、ミナクお兄様とはどうなったのだろう。ミナクお兄様は最近しょっちゅう、ナナミさんの部屋に行っているみたいだけど、2人は交際しているのだろうか。
「セナ王女は、レタフルさんを知ってますか?」
ナミネ、やっぱり気にしてるんだ。
「ええ、知っているわ。その昔、と言っても、妖精村半ばくらいかしら。あの近くの別荘で住んでたのよ」
「アルフォンス王子は、カナエさんよりレタフルさんが好きですか?この写真は事実ですか?」
ナミネは、私とレタフルさんのツーショットをセナ王女に見せた。
「そうね、アルフォンスは、カナエと交際していたけど、人魚の湖でレタフルに会ってから心変わりしたのよ。写真は色褪せているからヨルクかカンザシか分からないわね。けれど、私が知っている限り、その後レタフルが交際したのは確かに人間だったけど、ヨルクではないはずよ」
やはり、私ではなかったか。では、いったい誰と交際していたのだろう。その人がレタフルさんが心変わりした人なのだろうか。
「レタフルさんは心変わりしたのですか?」
「そこまでは分からないわね。本人が話さなかったから。けれど、人魚は結婚すれば人間になるの。レタフルは彼と盛大な結婚式を挙げていたわ」
結婚すれば人間になるだなんて、まるでおとぎ話の世界だ。
「そうですか。レタフルさんは、幸せになったのですね」
「どうかしらね。何となく、本命ではない気がしたけどね」
そういうパターンか。本命の人とは一緒になれない何かしらの事情があって、別に交際した人と結婚したわけか。
「レタフル!」
え、ここにいるの?
ふと少し遠くを見るとアルフォンス王子が貴族の腕を掴んでいる。
「ナミネ、レタフルさんをこっちに連れてくるぞ!」
「分かった!ラルク!」
ナミネとラルクはレタフルさんか分からない貴族を連れに行った。
「顔だけヨルク。あんたは、机の下で隠れてろ」
え、どうして。でも、ナミネたちがこっちに向かってくる。私は咄嗟に机の下に隠れた。ナミネたちが貴族を連れてくるなり、落ち武者さんはフェアリーングをかけた。
「あんた、レタフルか?」
「ええ、そうよ」
ダメだ。ここからだと何も見えない。
「この写真の相手はコイツで間違えないか?」
多分、カンザシさんのことを聞いているのだろう。
「ええ、そうよ」
「コイツの名前なんだ?どういう関係だったんだ?」
何だか緊張してきた。
「ヨルクよ。ひと目見た瞬間、一目惚れして、私の傷の手当てをしてくれたわ。ずっと好きで今でも好きでたまらないの。でも、会ったのは、この一度だけ。写真もその時に撮ったものなの」
何故、重要なところを間違える。ナミネは私とカンザシさんを間違えたことないのに。
「で、あんた人間だけど、結婚したのか?」
「いいえ、独身よ。彼の馬で帰るわ」
彼氏いるのか。でも、何だかアルフォンス王子みたいな状況だな。
「どいつと付き合ってんだ?」
「ユウサクさんという普通の人よ」
まさか、ここで未来望遠鏡のキクスケさんの大学の同期の名前が上がるだなんて思ってもみなかった。
「その彼氏は、あんたがコイツ好きなこと知ってんのかよ」
「知らないわ。ただ、もう会えないかと思って新しい道を歩んだのよ」
人は何百年、何千年も1人の人を待ってはいられない。その人は今を生きなくてはいけないから。
「強気なナミネ、ユウサク連れてこい!」
「分かりました」
ナミネはユウサクさんを連れに行った。少しすると、ナミネの足音が聞こえてきた。
「なあ、ユウサク。あんた、サトコとはどうしたんだよ?」
「今も交際している」
何なんだ、それ。完全な二股じゃないか。本命はどっちなのだろう。
「あんたら揃って同じことしてんだな。レタフルもコイツが忘れられないらしいぜ」
「レタフル!どういうことだ!俺を裏切っていたのか!」
何故、自分のことは棚に上げる。
「違う!もう大昔のことで、一度しか会ったことなくて、その人とは何もないわ!300年待ったけど、もう二度と会えないと思って、新しい道を歩むことにしたの」
ユウサクさんとで、本当に幸せになれるのだろうか。私は立ち上がってズームさんの後ろに隠れた。
「疑似恋愛ですよ」
「疑似恋愛?」
つまり、レタフルさんは本気で私を好きではないということなのだろうか。
「人魚は1番に見た目を重視します。レタフルさんは、ハンサムなアルフォンス王子に惹かれたものの、それよりイケメンなあなたを好きにはなりましたが、あくまで人魚の本能である見た目のみです。言ってしまえば人魚も本当の意味では恋愛感情を知らないのでしょうね」
そういうことか。何だか、不憫だな。アルフォンス王子がカナエさんより好きになった人魚なのに。
「ごめんなさい、ユウサク。私、片想いでも構わない。ヨルクと再会して、私、自分の気持ち偽れない」
レタフルさんはカンザシさんに抱き着いた。その瞬間、カンザシさんは、レタフルさんを殴り付けた。
「あなた方、どこまで僕を侮辱したら気が済むんですか!」
「ヨルク……どうして……」
カンザシさんは、またレタフルさんを殴った。
「やめてくれ!レタフルはかつて私の恋人だった」
落ち武者さんが、レタフルさんから本心を聞き出したことで、アルフォンス王子はボロボロだ。ボロボロながらにアルフォンス王子はレタフルさんを抱き締めた。
「強気なナミネ、これで疑いは晴れたか?ま、人魚の湖は、近いうちに行くけどね?」
「ヨルクさんの想いも聞いてもらえないでしょうか?」
「りょーかい。顔だけヨルク、あんた、レタフルのことどう思ってる」
ダメだ。落ち武者さんの、フェアリーングに逆らえない。
「綺麗な人だなあて思うし、結構タイプ。水着姿見てみたい。会ったこととか全然覚えてないけど、毎日眺めてたい」
落ち武者さんは、ため息をついた。
「で、レタフルとはどうなりたいんだよ。強気なナミネはどうするんだよ」
「どうこうなりたいわけじゃないけど、目の保養というか……。ナミネとは別れないよ」
ダメだ。ナミネに嫌われてしまった。人の本心というのは、知るべき時に知るものであって、知らないほうがいいことのほうが断然に多い。
落ち武者さんは、フェアリーングを解いた。
「ナミネ、レタフルさんに恋愛感情はないから!」
「ヨルクって双子だったの!?」
何故そうなる。
「あ、レタフルさん、ヨルクさんが、あなたの水着姿見たいらしいので着てもらえませんかね?」
「いらない!そんなのいらない!私が好きなのはナミネだから!」
私はナミネを抱き締めた。
「レタフルなんか、こっちから願い下げだ!この不細工人魚!」
ユウサクさんは怒ってしまった。
「ヨルク、どうして!そんな子供より私のほうがずっと綺麗でしょ?」
「ずっとずっと昔からナミネのこと好きだったんです!レタフルさんのこと何とも思ってないですし、やっとの思いでナミネと交際出来たので、邪魔しないでください」
「あんたも気の多い男だな。こんな下賎な女、僕なら絶対にいやだけどね?」
私だって別に好きとかじゃないし、タイプかもしれないけど、人魚と交際とか考えられないし、ナミネ以外の女子(おなご)を好きになったことなどない。
「私はナミネ以外の人好きになったことないの!」
「ミネス、この不気味な人魚を不細工な男と結婚させてほしい」
「いいよ。適当な人探しとく」
「やめて!私はただ、片想いでもいいからヨルクを想っていたいの!邪魔しないで!私の幸せ奪わないで!」
どうしたものか。レタフルさんが、私とカンザシさんを間違えたことで、カンザシさんは完全にキレてしまった。
セナ王女はカンザシさんの肩にイエローカードを貼った。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ヨルク》
「あんたら、何してんのさ。もうすぐはじまるから、とっとと配置につけ!」
「落ち武者さん、それがカンザシさんがこの写真ナミネに見せて、ナミネ大泣きちゃって」
カンザシさんは、どうしていきなりこんな写真見せてきたのだろう。それにこれだけ古いと私かカンザシさんか分からない。
「強気なナミネ、この写真、別に密着してるわけでもないだろ。真相は人魚の湖で確認するって言ってただろ。今日は大切な日なんだから、ちゃんと1日やり切れ!」
ナミネ、どうして写真1枚でこんなにもショックを受けるのだろう。私はレタフルなんて人魚を知らない。
「はい……すみません……」
私はナミネを立ち上がらせた。何か言葉にしようとした時、ナミネはラルクのところへ行ってしまった。
「カンザシ、あんた、あとで覚えとけよ!平凡アルフォンスも、いつまでそうしてんのさ。時代が違えばパートナーだって違うだろ、普通」
「レタフルは、怪我をした時、知らない男に手当してもらったと言っていた。もしかしたら、その男がヨルクでレタフルはヨルクに心変わりして私との交際をやめたのかもしれない」
手当て。やっぱり全く覚えていない。そもそも、どうしてカンザシさんが、この写真持っているかも分からないし、ナミネが心配だ。
「それが事実だったとしても、今日1日はやり切れ!」
「けれど、事実を言って何が悪いんですか!受け取り方は相手の問題でしょう!」
こんな大切な日を台無しにしようとしているカンザシさんの気持ちが全く分からない。紀元前村でのことは私たちが命懸けで暮らした証なのに。
「あんた、本気で言ってるのかよ!今すぐ転生させてやろうか?」
「セルファ、セナ王女がマイク持ってる。はじまるわ」
そういえば、気付いたら貴族や一般市民でパーティー会場は埋め尽くされている。セナ王女が持っているのは電池式のマイクか。予備の電池も一応は買っているが、そう多くはない。
「落ち武者さん、ナミネが心配だからナミネのところに行きたいんだけど」
「今あんたが行っても余計に追い詰めるだけだろ!ラルクに任せとけ!平凡アルフォンス、あんたここの別荘の主だろ!写真1枚でクヨクヨしてんな!」
こういう時にナミネを慰められないのは悔しいし辛い。私よりラルクのほうが癒されるのだろうか。何だか複雑な気持ちだ。彼氏の私が傍にいて励ましてあげたかった。
セナ王女はセッティングされたスクリーンの前に立った。
「本日は、妖精村全域が停電の中、お越しくださりありがとうございます。本日は、皆様にも知ってもらいたいことがあり、あえてこの状況でパーティーを決行しました。
紀元前村は先進国です。しかし、1つの町だけ差別を受け、まるで古代のような暮らしをしています。その町は蓮華町です。
友人が蓮華町出身で、話を聞いて直接行ってみたところ、その環境は酷いものでした。電気、ガス、水道は一切なし。まさに、今の妖精村のような状況ですね。けれど、蓮華町は、この紅葉町とは異なりすぎています。市場で野菜は買えますが、殆ど腐っています。学校にも通えず、職業もなく、女性は家事をし、男性は食糧を取りに行くのが蓮華町の1日です。果物や薬草は崖の上にあり、家族のために登った人が何人も転落死しています。かといって、新鮮な魚や肉は高くて手が出せません。お風呂に入りたくても家にはなく、公衆浴場まで通わないといけないのです。
衣類は、今まさに私とカランが着ているものしかありません。
私たちは蓮華町で約2ヶ月過ごしました。果物係、薬草係、加熱係、洗濯係、料理係、洗い物係などに役割を分けて、それぞれがそれぞれの役割をして暮らしていました。
そうしているうちに感染症コロディーが町で流行り、私たちは感染者の看病をしたのです。蓮華町に病院はありますが、ひとたび感染症が流行れば満員になります。そのため、私たちは紀元前村と妖精村の皇帝陛下の許可を得て医者志望のナヤセスとロォハが患者の治療を行いました。コロディーが終息したあと、2人はその功績が認められ、医師免許を取得しました。そのお2人がこちらの高校生です。
今日、机に置かれているものは全て紀元前村で作っていた料理を再現しました。石鹸作り体験や紙作り体験も行っております。
話は長くなりましたが、今から後ろにあるスクリーンで、私たちがどのような暮らしをしていたのか、映像を流します。妖精村が停電の今、少しでも何か感じ取っていただけたら嬉しいです。
また、トイレや手洗いなど分からないことは使用人に聞いてください。
それでは、パーティースタート!」
セナ王女は演説を終わるなりマイクを置いた。来客者は映像を見はじめた。この映像で普段何不自由ない暮らしをしている貴族たちに蓮華町の暮らしの厳しさが少しでも伝わればいいのだが。私たちが死ぬ気で過ごした2ヶ月だから伝わって欲しい。
その時、ナミネが来た。
「ナミネ!大丈夫?」
「ヨルクさん、お腹痛いです」
ナミネ、顔色が悪い。
「ナミネ、すぐに痛み止めとマグボトル持ってくるから待ってて!」
「はい」
私はロッカーに入れたリュックを取り出し、マグボトルと痛み止めを持った。ナミネやラルクは結界を物凄い数値でかけることが出来る。けれど、私も10までならかけられるから、カンザシさんにイタズラされないためにも念の為かけている。
結界も舞も公式は10までだが、研究者によって、それ以上か があることが分かり、公式ではないものの、最後に想定と言うことで使うことが出来る。その研究者による結界と舞の公式以上の数値は古代には既に存在していたのだ。
「ナミネ、痛み止めとマグボトルだよ」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
ナミネは私からマグボトルと痛み止めを受け取った。
こういう時、頼ってくれると嬉しい。やっぱりナミネの役に立ちたい。
来客者は料理を食べながら映像を見ている。
「お水に味がついてる」
ナミネの驚いた顔、可愛い。
「果物の皮で味付けしたんだよ」
「てか、あんた、そのマグボトル大きすぎだろ」
「ナミネが飲み物に困らないように大きいの持ってきたの!」
「ナミネ、ナミネって、あんたの頭の中それしかないのかよ」
誰だってそうだろうに。落ち武者さんとてエルナのこと特別扱いだし。普通だと思う。
「ヨルクさん、大好き」
ナミネ……。生きててよかった。もう二度とナミネに振り向いてもらえないと思っていただけに、現世は悔いのないものにしたい。私はナミネの手を握った。
「そうやって見せ付けていてもヨルクさんがレタフルさんを好きだった事実は変わりませんよ」
いくらナミネのことが好きだからって、今のナミネの彼氏は私だし、こういう邪魔のされ方は気に食わない。
「気にすることないわ。カンザシは焦ってる。余裕があるなら、こんなふうに言葉のみで追い詰めたりしない。人魚の湖まで待てばいいだけのことよ」
エルナって落ち武者さんの元カノなだけに、気が強い。相手の策略に簡単にハマったりはしないんだろうな。
「カンザシさん、私は前世で他の男と交際したように、ヨルクさんも、たくさんの嫁がいたんです。だから気にしません」
何だか複雑な気持ちにさせられる言葉だけれど、今私たちは愛し合っている。ちゃんと同じ気持ちで。だから、カンザシさんにはどうかナミネを諦めてほしい。
「ナミネさん、好きでもない女と結婚するのと、本気で惚れた女と大恋愛するのとでは違いますよね。本気で惚れた女は何世紀経っても忘れられないものです。ナミネさんがいくらヨルクさんのことが大好きでもヨルクさんはナミネさん以上にレタフルさんを愛していたんです」
私はナミネ以上に愛した女子(おなご)などいない。カンザシさんのハッタリとしか思えない。
「へえ、あんた、それ証明出来るわけ?映像でもあるわけ?人魚の湖は乗り継ぎが必要でクレナイ家からは遠い。それを定期的に通ってた証拠でもあるのかよ!」
「ご自分で調べたらどうです?」
「なるほどね?手駒はないってわけ」
「言葉ではなんとでも言えますよね。人は直接見て聞いてはじめて自覚するものなんですよ」
いくらナミネのことが好きでも、こんなやり方で私とナミネを引き裂こうだなんて気分が悪い。
「ヨルク、今すぐ確認したい。もういても経ってもいられない」
何故ここでアルフォンス王子自ら巻き込まれる。私もナミネも悩んでいるというのに、ことを荒らげられては困る。
「アルフォンス王子、気持ちは分かるんですけど、流石に今すぐはどうこう出来ないです」
その時、ナミネがまた料理を手で掴んで食べている。私はナミネを机から下ろした。
「ナミネ、手で食べないで。今、お皿に入れるから」
「はい」
私は紀元前村で使っていた今にも折れそうなお箸ではないものの、お箸で料理をお皿に入れてナミネに渡そうとしたら、今度は私がナミネ用に持って来たマグボトルの水をナミネがカブ飲みしている。
「ナミネ、そんなに飲んだらトイレ行きたくなるでしょ!ほら、この料理食べて」
私はナミネからマグボトルを取り上げ、ナミネに料理の入ったお皿を渡した。
「はい」
その時、ナミネが私に何かを握らせた。手を開いてみるとスフェーンの原石だった。
「ナミネ、これどうしたの?」
「蓮華町の市場で買いました」
あの時、ナミネを怒らせて砕けてしまったスフェーン。けれど、また買ってくれたんだ。
「ありがとう、ナミネ。大切にするね」
私はマグボトルと痛み止めとスフェーンを一度リュックに入れに行った。何だかんだでナミネは私を想ってくれている。私は少し浮かれていた。
スクリーンの映像が終わったのか、映像ではなく、写真が流れはじめた。
「では、ひと通り私たちの紀元前村での暮らしの映像を見てもらったところで、蓮華町出身のタルリヤに話を聞いてみましょう。
また、スクリーン映像の感想はよかったら意見箱に入れてください」
セナ王女はタルリヤさんにマイクを渡した。
「はじめまして、紀元前村出身のタルリヤです。僕はかなり昔から紀元前村の蓮華町で暮らしています。基本この世の仕組みは、転生後も同じところに生まれますから。それでも、古代はよかったんです。紀元前村は発展途上国で、全ての町が同じ暮らしをしていましたから。どこも同じだと不思議とその時代に染まりますよね。でも、2020年現代も蓮華町のみが差別を受け、古代のような暮らしをしているんです。セナ王女も仰ったように、電気、水道、ガスは存在しません。
蓮華町には恋愛感情もないので、世帯を持つ人も少ないです。蓮華町の人は殆どお金なんて持っていません。だから、だいたい腐った煮物しか食べるものはないです。けれど、蓮華町に生まれるたびに、辛いというかコンプレックスになったのは、学問を学べないことです。誰だって学校に行きたいし、将来の進路を決めて、それに向かって進みたいものです。蓮華町にいる限り未来はありません。だから、僕は妖精村の紅葉町に引っ越してきたんです。今は生活保護を受けながら学校に通っています。僕はたまたま引っ越すことが出来ましたが、蓮華町の周りには高い囲いがあって、隣町に行くことさえ許されません。
今でも多くの蓮華町民が苦しくてもどかしい暮らしを送っています。ナミネたちが実際に僕の故郷を見に来てくれたことには感謝しています。また、映像を撮ってくれたラハルさん、このパーティーを開いてくれたセナ王女にも感謝です。
今はどうにもならないことだとは思いますが、いつか蓮華町も、この紅葉町のような暮らしが出来ることを心より祈っております。
本日は停電の中、お越しくださりありがとうございます」
タルリヤさんは一礼をしてマイクをセナ王女に戻した。
もし、私がタルリヤさんの立場だったらどうしていただろう。私には何の力もない。だから、流されるまま死ぬまで暮らしていた可能性が高いだろう。
「スクリーン映像の暮らしをタルリヤさんは大昔からしています。今だからこそですが、電気、水道、ガスは必要ですよね。昔はそんなものありませんでしたし、妖精村も、今の蓮華町と似たような暮らしをしていたでしょうけど。現代は、もう昔ではありません。まして、古代のような暮らしなんて考えられませんよね。タルリヤさんから、直接話を伺ったところで、引き続きパーティーをお楽しみください」
セナ王女はマイクを置いて、こちらに向かって来た。
「あー、喉乾いた」
セナ王女はグラスに入ったフルーツで味付けした水を飲んだ。そういえば、ミナクお兄様とはどうなったのだろう。ミナクお兄様は最近しょっちゅう、ナナミさんの部屋に行っているみたいだけど、2人は交際しているのだろうか。
「セナ王女は、レタフルさんを知ってますか?」
ナミネ、やっぱり気にしてるんだ。
「ええ、知っているわ。その昔、と言っても、妖精村半ばくらいかしら。あの近くの別荘で住んでたのよ」
「アルフォンス王子は、カナエさんよりレタフルさんが好きですか?この写真は事実ですか?」
ナミネは、私とレタフルさんのツーショットをセナ王女に見せた。
「そうね、アルフォンスは、カナエと交際していたけど、人魚の湖でレタフルに会ってから心変わりしたのよ。写真は色褪せているからヨルクかカンザシか分からないわね。けれど、私が知っている限り、その後レタフルが交際したのは確かに人間だったけど、ヨルクではないはずよ」
やはり、私ではなかったか。では、いったい誰と交際していたのだろう。その人がレタフルさんが心変わりした人なのだろうか。
「レタフルさんは心変わりしたのですか?」
「そこまでは分からないわね。本人が話さなかったから。けれど、人魚は結婚すれば人間になるの。レタフルは彼と盛大な結婚式を挙げていたわ」
結婚すれば人間になるだなんて、まるでおとぎ話の世界だ。
「そうですか。レタフルさんは、幸せになったのですね」
「どうかしらね。何となく、本命ではない気がしたけどね」
そういうパターンか。本命の人とは一緒になれない何かしらの事情があって、別に交際した人と結婚したわけか。
「レタフル!」
え、ここにいるの?
ふと少し遠くを見るとアルフォンス王子が貴族の腕を掴んでいる。
「ナミネ、レタフルさんをこっちに連れてくるぞ!」
「分かった!ラルク!」
ナミネとラルクはレタフルさんか分からない貴族を連れに行った。
「顔だけヨルク。あんたは、机の下で隠れてろ」
え、どうして。でも、ナミネたちがこっちに向かってくる。私は咄嗟に机の下に隠れた。ナミネたちが貴族を連れてくるなり、落ち武者さんはフェアリーングをかけた。
「あんた、レタフルか?」
「ええ、そうよ」
ダメだ。ここからだと何も見えない。
「この写真の相手はコイツで間違えないか?」
多分、カンザシさんのことを聞いているのだろう。
「ええ、そうよ」
「コイツの名前なんだ?どういう関係だったんだ?」
何だか緊張してきた。
「ヨルクよ。ひと目見た瞬間、一目惚れして、私の傷の手当てをしてくれたわ。ずっと好きで今でも好きでたまらないの。でも、会ったのは、この一度だけ。写真もその時に撮ったものなの」
何故、重要なところを間違える。ナミネは私とカンザシさんを間違えたことないのに。
「で、あんた人間だけど、結婚したのか?」
「いいえ、独身よ。彼の馬で帰るわ」
彼氏いるのか。でも、何だかアルフォンス王子みたいな状況だな。
「どいつと付き合ってんだ?」
「ユウサクさんという普通の人よ」
まさか、ここで未来望遠鏡のキクスケさんの大学の同期の名前が上がるだなんて思ってもみなかった。
「その彼氏は、あんたがコイツ好きなこと知ってんのかよ」
「知らないわ。ただ、もう会えないかと思って新しい道を歩んだのよ」
人は何百年、何千年も1人の人を待ってはいられない。その人は今を生きなくてはいけないから。
「強気なナミネ、ユウサク連れてこい!」
「分かりました」
ナミネはユウサクさんを連れに行った。少しすると、ナミネの足音が聞こえてきた。
「なあ、ユウサク。あんた、サトコとはどうしたんだよ?」
「今も交際している」
何なんだ、それ。完全な二股じゃないか。本命はどっちなのだろう。
「あんたら揃って同じことしてんだな。レタフルもコイツが忘れられないらしいぜ」
「レタフル!どういうことだ!俺を裏切っていたのか!」
何故、自分のことは棚に上げる。
「違う!もう大昔のことで、一度しか会ったことなくて、その人とは何もないわ!300年待ったけど、もう二度と会えないと思って、新しい道を歩むことにしたの」
ユウサクさんとで、本当に幸せになれるのだろうか。私は立ち上がってズームさんの後ろに隠れた。
「疑似恋愛ですよ」
「疑似恋愛?」
つまり、レタフルさんは本気で私を好きではないということなのだろうか。
「人魚は1番に見た目を重視します。レタフルさんは、ハンサムなアルフォンス王子に惹かれたものの、それよりイケメンなあなたを好きにはなりましたが、あくまで人魚の本能である見た目のみです。言ってしまえば人魚も本当の意味では恋愛感情を知らないのでしょうね」
そういうことか。何だか、不憫だな。アルフォンス王子がカナエさんより好きになった人魚なのに。
「ごめんなさい、ユウサク。私、片想いでも構わない。ヨルクと再会して、私、自分の気持ち偽れない」
レタフルさんはカンザシさんに抱き着いた。その瞬間、カンザシさんは、レタフルさんを殴り付けた。
「あなた方、どこまで僕を侮辱したら気が済むんですか!」
「ヨルク……どうして……」
カンザシさんは、またレタフルさんを殴った。
「やめてくれ!レタフルはかつて私の恋人だった」
落ち武者さんが、レタフルさんから本心を聞き出したことで、アルフォンス王子はボロボロだ。ボロボロながらにアルフォンス王子はレタフルさんを抱き締めた。
「強気なナミネ、これで疑いは晴れたか?ま、人魚の湖は、近いうちに行くけどね?」
「ヨルクさんの想いも聞いてもらえないでしょうか?」
「りょーかい。顔だけヨルク、あんた、レタフルのことどう思ってる」
ダメだ。落ち武者さんの、フェアリーングに逆らえない。
「綺麗な人だなあて思うし、結構タイプ。水着姿見てみたい。会ったこととか全然覚えてないけど、毎日眺めてたい」
落ち武者さんは、ため息をついた。
「で、レタフルとはどうなりたいんだよ。強気なナミネはどうするんだよ」
「どうこうなりたいわけじゃないけど、目の保養というか……。ナミネとは別れないよ」
ダメだ。ナミネに嫌われてしまった。人の本心というのは、知るべき時に知るものであって、知らないほうがいいことのほうが断然に多い。
落ち武者さんは、フェアリーングを解いた。
「ナミネ、レタフルさんに恋愛感情はないから!」
「ヨルクって双子だったの!?」
何故そうなる。
「あ、レタフルさん、ヨルクさんが、あなたの水着姿見たいらしいので着てもらえませんかね?」
「いらない!そんなのいらない!私が好きなのはナミネだから!」
私はナミネを抱き締めた。
「レタフルなんか、こっちから願い下げだ!この不細工人魚!」
ユウサクさんは怒ってしまった。
「ヨルク、どうして!そんな子供より私のほうがずっと綺麗でしょ?」
「ずっとずっと昔からナミネのこと好きだったんです!レタフルさんのこと何とも思ってないですし、やっとの思いでナミネと交際出来たので、邪魔しないでください」
「あんたも気の多い男だな。こんな下賎な女、僕なら絶対にいやだけどね?」
私だって別に好きとかじゃないし、タイプかもしれないけど、人魚と交際とか考えられないし、ナミネ以外の女子(おなご)を好きになったことなどない。
「私はナミネ以外の人好きになったことないの!」
「ミネス、この不気味な人魚を不細工な男と結婚させてほしい」
「いいよ。適当な人探しとく」
「やめて!私はただ、片想いでもいいからヨルクを想っていたいの!邪魔しないで!私の幸せ奪わないで!」
どうしたものか。レタフルさんが、私とカンザシさんを間違えたことで、カンザシさんは完全にキレてしまった。
セナ王女はカンザシさんの肩にイエローカードを貼った。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 90話
《ナミネ》
妖精村に戻って来た私は、再びダラけた生活になり、身の回りの世話はヨルクさんがしていた。そんな中、私は、ある夢を見てヨルクさんを警戒するようになる。
けれど、物事というのは上手くいかないものだ。
今度は、妖精村全域停電し、電気、水道、ガスが使えなくなってしまった。皇室からの文によるも復旧は未定。これでは、紀元前村のサバイバルと同じだ。オマケに紅葉町には公衆浴場なんてないし。
「皆さん、最初に話しておきます。ナノハナ家でも、野菜や果物は栽培していますが、これは私たちのサバイバルなので、買い出しは私たちでやるべきだと思うのです。それと、このような状況になり、学校は週に3回となりましたが、この紅葉町には公衆浴場なんて存在しません。森の湖で水浴びをするか、お風呂にタライで水を入れたあと、炎の舞で温める必要がありますが、その場合、皆さんに手伝ってもらう必要がありますし、効率が悪いです。1人1つのタライで身体や髪を洗ったほうが効率的と思われます」
紀元前村では学校行かなくてよかったから何日もお風呂に入らなくてよかったけど、妖精村では、こんな時なのに学校に行かなくてはならない。だとしたら、お風呂には入っておきたい。
「そうね、あの広いお風呂にタライで水を入れても時間の無駄になるから、1人1つのタライで身体と髪洗ったほうがいいわね」
私も、それが効率いいと思う。少ない水を炎の舞で温め、それで洗ったほうがいいだろう。お風呂に入れないまま学校に行くよりかはマシだ。
「大型貯水タンク200リットルは2つを庭に置きます。部屋を汚されるのは困りますので。それではセナ王女、明日必要なものを読み上げてください」
大型貯水タンク、本当はキッチンに置きたいけれど、慣れてない人が使って、濡れてしまったら最悪床ごと変えないといけないかもしれない。
「じゃあ言うわね。ランプは机1つずつにおきたいから、ここにあるのより小さいのがほしいわ。あと、料理は紀元前村で作ってたものを並べたい。いつも貴族が集まるパーティーだけど、大型スクリーンに紀元前村での映像を流したいわね。石鹸作り体験、紙作り体験もしたいわ」
紀元前村での映像か。それはいい考えだと思う。ナヤセス殿とロォハさんの有志も見てもらえるし。何より、映像を多くの貴族が見ることによって、寄付金が得られたら……。今の状況では無理か。停電になって、我が暮らしが大変だもんな。
「では、映像はラハルさんが用意して、料理係の指導はヨルクさんがしてください。ランプは明日、蔵で探しておきます。石鹸作りの材料一式はズームさん、紙作りの材料一式はミネスさんにお願いしてもいいですか?」
小さいランプなら少し昔に使っていた気がする。
「うん、映像は持っていくね」
「分かった。紀元前村の料理並べるね」
「はい、石鹸作りに使ったものは全て持っていきます」
「分かった。道具はタルリヤの家の使ってたから、紙作りの材料は妖精村のになるけど持ってく」
こんな時だけど、こんな時だからこそ知ってもらいたい。私たちが紀元前村で、どんな暮らしをしていたかを。妖精村全域が停電した今、みんなに知ってもらおう。
早朝4時。
私とラルクは水汲みをしていた。アルフォンス王子は寝ているのか来ない。200リットルの大型貯水タンクとなると、何度も井戸から水を汲まないといけない。
遠い昔、井戸は当たり前のように使われていた。それゆえ、ナノハナ家には11個の井戸が存在していた。改装された今残っているのは5つだけど。
「ラルク、これくらいでいいね。タライには木のフタしておこ」
「ああ、これだけあれば十分だろ。水が必要な時、ここまで来るのは不便なところだけどな」
「紀元前村では当たり前だったんだし、今回もなんとかなるよ」
「そうだな。今日のパーティー成功させるか!」
「だね!」
私とラルクは客間で仮眠を取ることにした。
「ナミネ、ここにいたの?探したんだよ」
私はヨルクさんの声で目が覚めた。時計を見ると6時。私は布団から出た。
「4時にラルクと水汲みをしていました」
「そっか。ナミネ、それって……」
そう、私は紀元前村で着ていた薄いワンピースを着ている。下着も紀元前村のものを身に付けている。ワンピースはノースリーブだから流石にカーディガンを羽織るけれど。
「はい、パーティーとはいえ、みんなの栄光を知ってもらう日です。私はこの格好で行きます。ですから、ヨルクさんも紀元前村で着ていた服でパーティーに行ってください」
「いや、それはちょっと……」
「ラルクも落ち武者さんも紀元前村で着ていた服と下着で挑みます。ヨルクさんだけ、いい服着てたら、せっかくのパーティーが台無しになってしまうかもしれません」
「うーん……」
ほら、やっぱり自分でダサイって自覚してるじゃん。ヨルクさんて見た目ばかり気にしている。小学生の頃だって、ミナクさん真似して夏はタンクトップと半ズボン着てたし。
「ラルク、ヨルクさん、着ないって。みんな着るのにね」
「それ不味いだろ。今回のパーティーは僕たちの紀元前村での暮らしを知ってもらうために行われるのに、1人だけ別の着てたら信用を失いかねないな」
そうなんだよね。みんな恥を忍んで、あのステテコモドキ着るのに、ヨルクさんだけ別の着られたら、来る人に本当に紀元前村で大変な暮らしをしていたのか疑われてしまう。
「ロングカーディガンでも羽織ればいいのにね」
「分かった、着る!私1人が雰囲気壊すわけにはいかないから!」
ダメだ。あのダサイ格好をヨルクさんが着るだなんて笑いそう。けれど、ヨルクさんの前では普通にしていないと。
「では、そうしてください。私とラルクは第4居間に行きます」
「ナミネ、これから毎日4時に起きて水汲みするの?」
「はい」
「そっか。無理しないで」
これはサバイバルだ。手を抜くわけにはいかない。みんなの暮らしがかかっている。私は髪を結ぶと第4居間に向かった。
第4居間では机に3つランプがついていた。
「あの、アルフォンス王子。どうして水汲み来てくれなかったんですか。妖精村全域停電なんです!これは第2のサバイバルです!与えられた役割はしてもらわないと困ります!」
「すまない。明日は必ずする」
本当だろうか。水汲みをナメているのではないのだろうか。
「アルフォンス王子、明日水汲みしなかったら、洗濯係をしてもらうわよ」
ここでもリリカさんは仕切り役だ。
「分かった。明日からは絶対サボらない!」
サボった?まさか、わざと来なかったのだろうか。だとしたら、腹立つ。水汲みだって体力のいる仕事なのに。
「ナミネ、今からパーティーに出す料理作るから、朝食は使用人が作ったの食べてね」
「はい、ヨルクさん。頑張ってください」
ヨルクさんたち、どんな料理作るんだろう。パーティーではいっぱい食べよう。石鹸作り体験も紙作り体験もする。
私は使用人が持って来た朝食を食べはじめた。ご飯と味噌汁とシャケ。何だか質素な和食だ。それでも紀元前村で食べていた、あの煮物に比べたら、やっぱり何だかんだで妖精村は揃っていると思わされる。
「ほら、新聞だ」
テレビは見れないけど新聞は来るのか。って、手書き!?そっか、コピー機が使えないから手書きするしかないんだ。
読んでみると、停電に便乗して真夜中のスーパーで窃盗が起きる。防犯カメラも作動しないし、いくらランプを付けても夜は暗い。災害の時ほど盗みを働く人は出てくる。紅葉町も平和とは言えないな。
「あ、落ち武者さん、それって……」
「さっき、買い出しに行ってきた。紀元前村で使ってた材料買ってきたから顔だけヨルクに渡す。スーパー、かなり混んでたけどね?」
やはり、この非常事態。商店街は人で溢れているのか。特に、非常用リュックを買っていない人は慌てて買いに行く人もいそう。トイレとか死活問題だもんな。
「セナ王女、階段とか危ないですので、電池なしの懐中電灯を置いてはいかがでしょう?」
貴族はいつも膨らんだスカートのドレスで来るから、ランプだとスカートに引っかかった時が厄介だ。
「そうするわ」
「ねえ、ラルク。朝食が質素だね」
「朝なんだから少ないほうがいいだろ」
そうだろうか。私はいっぱい食べたい。けれど、この非常事態では食べられる食事も限られている。その点も紀元前村の時のようだ。テレビも付けられないと朝の時間が長く感じる。
時計を見ると7時。停電ひとつで、こんなにも時間って進まないものなのか。紀元前村では常に動いていたからなあ。
パーティーは10時から。そろそろ準備しはじめたほうがいいだろうか。
その時、ヨルクさんが来た。え、もう終わったの?しかも、あの服に着替えてるし。ダ、ダサイ。せめて、指定の下着履いてくれていたら……。
「ナミネ、色々説明したらズームさんが既にノート取ってて、料理係はかどってるよ」
私は咄嗟にヨルクさんから目を逸らした。
「そ、そうですか。私たちはそろそろパーティー会場のセッティングをしに行こうかと思っています」
私はラルクにもたれかかった。
「そっか、じゃあ私も一緒に行くね」
「ヨ、ヨルクさん。寒いのでカーディガン羽織ってください」
「ずっとではないけど、パーティーの時、少しだけカーディガンは脱いでもらうから」
カーディガンがあると紀元前村の時の雰囲気出ないもんね。今は4月だし紀元前村にいた時ほど寒くはないから少しくらいノースリーブでいても大丈夫か。
「はい、承知しています」
みんな集まって来た。どうしても男性陣のステテコもどきは目立って仕方ない。落ち武者さんとかナルホお兄様みたいに、あどけない人は不自然じゃないんだけどな。
とりあえず、トイレ行っておこう。
客間の扉を開けると、まさかとは思っていたけど案の定、便座に大きいのがついている。私は写真に撮ったあと、ウエットティッシュで落として便座を拭いたら、ナプキンを取り替えた。念の為、ナプキン入れは大きめのにしてあるけど、誰も掃除しなさそう。とにかく、この写真、リリカさんに見せないと。
私は再び第4居間に戻って行った。
「あの、今トイレに行ったら、こういう状態だったんですけど!どうして自分で汚したのは自分で掃除してくれないんですか!」
私は画像をみんなに見せた。案の定、アヤネさんは目を背けた。
「本当、迷惑ね。ナミネは、ただでさえ水汲みで忙しいのに、こういうの困るわ」
「アヤネさん、あの部屋には電池式のカメラ取り付けています。紀元前村の時の二の舞にならないように。今後掃除しないなら、カメラの映像を今すぐズームさんに見せてきます!」
カメラなんて取り付けていないけど、もうここまで来たら取り付けちゃおうかな。
「やめてください!どうしてプライバシーの侵害的なことをするんですか」
「お言葉ですが、紀元前村にはプライバシーもヘチマもありませんでした!」
これって、自白してるも同然じゃない。どうして、自分で汚したものをそのままにするのだろう。教育がなってない。
「アヤネ、今後、自分で汚したものを掃除しないのなら、ここを出ていってもらうわ!自分の別荘で使用人に何もかもやってもらいなさい!」
それがいいと思う。貴族は結局、自分のことは全て使用人に丸投げだ。人のこと言えないけど、私はトイレを汚したりなんかしない。そもそも、武士はある程度トイレが長い仕組みになっている。それに対して貴族は内官並にトイレが近い。
「分かりました。別荘には戻りたくないので、今後は必ず同じ過ちは繰り返しません」
好きな人がいると、傍にいたいというわけか。既にロォラさんがロックオンしてるのに。
「あ、セナ王女の別荘にも簡易トイレを置かないといけませんね」
「そうなのよ。すっかり忘れていたわ。料理係の料理が出来次第、みんなで手伝ってくれるかしら」
ここでは凝固剤も使えるし、ナプキンとかトイレットペーパーとかウエットティッシュなど、必要なものは置かないと。
「ナミネ、パーティーは長いし、普通のナプキンよりこっちのほうが、あまりトイレ行かなくていいんじゃない?薄型で目立たないし」
しまった。思わずヨルクさんを直視してしまった。ステテコもどきから、あのダサイパンツ透けてる。
「いらないです!!」
私は無意識にヨルクさんを突き飛ばしてしまった。ヨルクさんは後ろ向けに尻もちをついた。
「そっか。余計なお世話だったね」
「ごめんなさい、ヨルクさん!使います!」
私はヨルクさんを起こし、抱き締めた。ヨルクさん、ごめんなさい。大切な彼氏なのに、恥ずかしいとか思ってしまって。
ヨルクさんは私の頭を撫でた。
「ナミネは悪くないよ。痛み止めも無理せず飲んでね」
「はい」
どうして突き飛ばしてしまったのだろう。今になって後悔している。いつも私のことを考えてくれるヨルクさん。何世紀も待っていてくれたヨルクさん。愛おしくて仕方ないよ。
「セナ王女、飲み物はフルーツで味付けした水がいいと思うのですが、だとしたら、タンクも運ばないといけません。私とラルクは水を運ぶので、折りたたみ式トイレや付属品、ランプ、料理、その他必要なものは、他のメンバーで運んでもらえますか?移動は徒歩になるので、重たいものは力のある人が運んだほうがいいと思います」
ナノハナ家からセナ王女の別荘までだと、キクリ家からより少し遠くなる。今は徒歩で運ばないといけないから、どうしてもキクリ家は通らないといけない。
「水も簡易トイレもキクリ家から運んだほうが効率いいとカナエは思います」
そっか、それだと、ナノハナ家から持っていくより体力的に楽だ。
「分かりました。私とラルクはキクリ家から水を持って行きます」
「じゃあ、私とリリカとナナミは簡易トイレね」
「僕は箱に入れてランプを運びます」
ミツメさんはランプと。グラスはセナ王女の別荘にあるから、持って行かなくてもよし。あれ、でも、セナ王女の別荘に簡易トイレないのだろうか?
「あのセナ王女の別荘に簡易トイレってないですか?」
「私、非常時はトイレって殆ど使わないから非常用トイレは全てビニール袋なのよ。カランのなら1つあるけど、足りないわ」
そうか、セナ王女もそんなにトイレに行かない体質なのか。どうしても、武士、騎士と内官とでは暮らしに差があるな。
「そうですか。ではキクリ家から運ばなくてはいけませんね」
「足りないものは私の別荘から持って行って」
そうだった。キクリ家よりユメさんの別荘がセナ王女の別荘に1番近いんだった。
「では、足りないと気づいた時は体力のある人がユメさんの別荘に行かなくてはなりませんね。ここから持って行くもの以外は全てキクリ家から持って行きましょう」
「料理は落とされたりしたら困るから、私やカラン王子など丁寧に運べる人が運ぶ」
グラスやランプは変えが効くけれど、料理だけは、何としても確実に持って行かないといけない。
「そうですね。では、料理はロォラさん、カラン王子、ナヤセス殿、ロォハさん、ヨルクさんが持って行ってください」
「分かりました」
「ナミネ、心配いらないよ」
「分かった」
「うん、分かった。頑張るね、ナミネ」
役割は決まった。私は白いカーディガンを着てリュックを背負った。いよいよ、年度はじめビッグイベントがはじまる。
私たちはナノハナ家を出て、キクリ家で一旦止まって、私とラルクはキクリ家の井戸から水を汲んでナノハナ家に置いているほどの大きなタンクではないものの、100リットルのタンクに水を入れた。セナ王女たちも簡易トイレをリュックに入れ、ミツメさんは箱にランプを入れた。ここでもセレナールさんとアヤネさん、ミネルナさんは何もしないが、他の人は薬やタライ、消毒液などを運んだ。
「ねえ、ラルク。アヤネさんて、内官だよね」
「今それ言うなよ」
「ナミネの言う通りアヤネは内官よ。簡易トイレがなかったらどうするのかしらね」
やはり、思うことは皆同じだ。リリカさんもアヤネさんを内官と言っている。
「内官て、どういうことですか」
「ねえ、ラルク。アヤネさんて頭も悪いんだね」
「現代の内官は昔とは違うだろ」
そうだろうか。違うところなんて、手術がほぼ成功するところだけのようにしか思えないけど。まあ、今はオムツもあるし、内官も間に合うか。
「あんた、なんで内官に拘るのさ」
「簡易トイレ汚すのがアヤネさんばかりだからです。アヤネさんは臭いです」
「だから、なんで内官なわけ?」
落ち武者さん、本気で言っているのかな。
「内官は手術をします。その手術によって、トイレがかなり近くなり、間に合わないこともあるんです。今でこそオムツがありますが、それがなかった時代は決して今みたいに綺麗なものではありませんでした。制服だって毎日洗濯出来るわけではありませんし」
「そゆこと。ま、汚したのはアヤネなわけだから言われても仕方ないだろうけど。内官には失礼だけどね?」
失礼かもしれないけど。遠い昔は制服汚してたのは事実だし、それって周りからしたら結構迷惑だと思う。国王とかどうしていたのだろう。側近なだけに、悪くも言えないだろうし。
あ、セナ王女の別荘が見えてきた。やっぱりキクリ家から運んだほうが楽だった。
「あの、どうして私ばかり侮辱するんですか!」
「お言葉ですが、アヤネさんて便秘薬飲んでますよね?紀元前村で、やたらカナエさんの調合した便秘に効く薬が減っていました。出すもの出すのはいいですが、それを掃除しないことを私は指摘しているんです!」
この時の私は、アヤネさんが極度の便秘症で、便秘薬も非刺激的のものではなく、刺激的のものを毎日飲んで、だんだん効かなくなって酷い時は1箱飲んでいることを知らなかった。
「今後は掃除すると言ったではありませんか!あんまりです!」
アヤネさんは泣きはじめた。
「ナミネ、やめようか。トイレの件は分かった。言ってくれれば僕が掃除するから、誰か1人を攻撃するのはやめよう」
ナルホお兄様って平和主義だけど、何だかカナエさんとは恋人というより友達に見えるんだよな。
「はいはい、すみませんでしたー!」
私たちはセナ王女の別荘に入りはじめた。
今から10時までに、セッティングしなければ。水はどうしても零してしまうと大変だから、私とラルクは別荘の庭にタンクを置いた。水が出るところにタライを置いて、横に石鹸。これで完了。
4階でパーティーが行われるから、他の係は4階の客室に簡易トイレと付属品を設置したら、料理とランプは机に置いて、紙作り体験と石鹸作り体験の道具は四角い木の机に置いた。
今日は天気がいいからカーテンを開けると、そこそこ明るい。昔の人はこんなふうに過ごしていたんだな。
料理、美味しそう。少しつまみ食いしてもいいかな。私は、料理に手を伸ばした。
「ナミネ、何してるの?」
「い、いえ、何もしていません」
ヨルクさん、いつも私のこと見てるのかな。私はヨルクさんに抱き着いた。
「そうやって見せ付けるのやめてください。元々は僕とナミネさんが愛し合っていたんです。でも、兄妹だから、何度も縁談話持ってくるヨルクさんを家族は選んで、僕とナミネさんは引き離されたんです」
いったい、いつの話をしているのだろう。カンザシさんと兄妹でも、私はずっとヨルクさんのことが好きだったはず。カンザシさんの言っていることがよく分からない。
「あの、カンザシさん……」
「レタフルさんとヨルクさんは恋人でした。これが証拠の写真です」
私はカンザシさんから渡された写真を見た。かなり古いものだけれど、確かにヨルクさんだ。私は涙が零れていた。
「そんな……嘘だろ……」
アルフォンス王子も傷付くと同時に私は大泣きしてその場に崩れた。
……
あとがき。
内官の方、ごめんなさい。でも、死ぬリスクもあるのに、暮らしのために人生の選択してたんだね。
これ現実だったら非常用品を徒歩で運ぶの大変そう。
ヨルクを突き飛ばしちゃうけど、そのことで、ヨルクのことを改めて大切だと気づくナミネ。2人にはずっと恋人でいてほしい。セナやカラルリ、カナエやアルフォンスみたいになってほしくない。2組も今のナミネとヨルクほど愛し合っていたのに。
もし、次、純愛偏差値を別の時代で書くとしたらナミネとヨルクも拗れていたらいやだな。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
妖精村に戻って来た私は、再びダラけた生活になり、身の回りの世話はヨルクさんがしていた。そんな中、私は、ある夢を見てヨルクさんを警戒するようになる。
けれど、物事というのは上手くいかないものだ。
今度は、妖精村全域停電し、電気、水道、ガスが使えなくなってしまった。皇室からの文によるも復旧は未定。これでは、紀元前村のサバイバルと同じだ。オマケに紅葉町には公衆浴場なんてないし。
「皆さん、最初に話しておきます。ナノハナ家でも、野菜や果物は栽培していますが、これは私たちのサバイバルなので、買い出しは私たちでやるべきだと思うのです。それと、このような状況になり、学校は週に3回となりましたが、この紅葉町には公衆浴場なんて存在しません。森の湖で水浴びをするか、お風呂にタライで水を入れたあと、炎の舞で温める必要がありますが、その場合、皆さんに手伝ってもらう必要がありますし、効率が悪いです。1人1つのタライで身体や髪を洗ったほうが効率的と思われます」
紀元前村では学校行かなくてよかったから何日もお風呂に入らなくてよかったけど、妖精村では、こんな時なのに学校に行かなくてはならない。だとしたら、お風呂には入っておきたい。
「そうね、あの広いお風呂にタライで水を入れても時間の無駄になるから、1人1つのタライで身体と髪洗ったほうがいいわね」
私も、それが効率いいと思う。少ない水を炎の舞で温め、それで洗ったほうがいいだろう。お風呂に入れないまま学校に行くよりかはマシだ。
「大型貯水タンク200リットルは2つを庭に置きます。部屋を汚されるのは困りますので。それではセナ王女、明日必要なものを読み上げてください」
大型貯水タンク、本当はキッチンに置きたいけれど、慣れてない人が使って、濡れてしまったら最悪床ごと変えないといけないかもしれない。
「じゃあ言うわね。ランプは机1つずつにおきたいから、ここにあるのより小さいのがほしいわ。あと、料理は紀元前村で作ってたものを並べたい。いつも貴族が集まるパーティーだけど、大型スクリーンに紀元前村での映像を流したいわね。石鹸作り体験、紙作り体験もしたいわ」
紀元前村での映像か。それはいい考えだと思う。ナヤセス殿とロォハさんの有志も見てもらえるし。何より、映像を多くの貴族が見ることによって、寄付金が得られたら……。今の状況では無理か。停電になって、我が暮らしが大変だもんな。
「では、映像はラハルさんが用意して、料理係の指導はヨルクさんがしてください。ランプは明日、蔵で探しておきます。石鹸作りの材料一式はズームさん、紙作りの材料一式はミネスさんにお願いしてもいいですか?」
小さいランプなら少し昔に使っていた気がする。
「うん、映像は持っていくね」
「分かった。紀元前村の料理並べるね」
「はい、石鹸作りに使ったものは全て持っていきます」
「分かった。道具はタルリヤの家の使ってたから、紙作りの材料は妖精村のになるけど持ってく」
こんな時だけど、こんな時だからこそ知ってもらいたい。私たちが紀元前村で、どんな暮らしをしていたかを。妖精村全域が停電した今、みんなに知ってもらおう。
早朝4時。
私とラルクは水汲みをしていた。アルフォンス王子は寝ているのか来ない。200リットルの大型貯水タンクとなると、何度も井戸から水を汲まないといけない。
遠い昔、井戸は当たり前のように使われていた。それゆえ、ナノハナ家には11個の井戸が存在していた。改装された今残っているのは5つだけど。
「ラルク、これくらいでいいね。タライには木のフタしておこ」
「ああ、これだけあれば十分だろ。水が必要な時、ここまで来るのは不便なところだけどな」
「紀元前村では当たり前だったんだし、今回もなんとかなるよ」
「そうだな。今日のパーティー成功させるか!」
「だね!」
私とラルクは客間で仮眠を取ることにした。
「ナミネ、ここにいたの?探したんだよ」
私はヨルクさんの声で目が覚めた。時計を見ると6時。私は布団から出た。
「4時にラルクと水汲みをしていました」
「そっか。ナミネ、それって……」
そう、私は紀元前村で着ていた薄いワンピースを着ている。下着も紀元前村のものを身に付けている。ワンピースはノースリーブだから流石にカーディガンを羽織るけれど。
「はい、パーティーとはいえ、みんなの栄光を知ってもらう日です。私はこの格好で行きます。ですから、ヨルクさんも紀元前村で着ていた服でパーティーに行ってください」
「いや、それはちょっと……」
「ラルクも落ち武者さんも紀元前村で着ていた服と下着で挑みます。ヨルクさんだけ、いい服着てたら、せっかくのパーティーが台無しになってしまうかもしれません」
「うーん……」
ほら、やっぱり自分でダサイって自覚してるじゃん。ヨルクさんて見た目ばかり気にしている。小学生の頃だって、ミナクさん真似して夏はタンクトップと半ズボン着てたし。
「ラルク、ヨルクさん、着ないって。みんな着るのにね」
「それ不味いだろ。今回のパーティーは僕たちの紀元前村での暮らしを知ってもらうために行われるのに、1人だけ別の着てたら信用を失いかねないな」
そうなんだよね。みんな恥を忍んで、あのステテコモドキ着るのに、ヨルクさんだけ別の着られたら、来る人に本当に紀元前村で大変な暮らしをしていたのか疑われてしまう。
「ロングカーディガンでも羽織ればいいのにね」
「分かった、着る!私1人が雰囲気壊すわけにはいかないから!」
ダメだ。あのダサイ格好をヨルクさんが着るだなんて笑いそう。けれど、ヨルクさんの前では普通にしていないと。
「では、そうしてください。私とラルクは第4居間に行きます」
「ナミネ、これから毎日4時に起きて水汲みするの?」
「はい」
「そっか。無理しないで」
これはサバイバルだ。手を抜くわけにはいかない。みんなの暮らしがかかっている。私は髪を結ぶと第4居間に向かった。
第4居間では机に3つランプがついていた。
「あの、アルフォンス王子。どうして水汲み来てくれなかったんですか。妖精村全域停電なんです!これは第2のサバイバルです!与えられた役割はしてもらわないと困ります!」
「すまない。明日は必ずする」
本当だろうか。水汲みをナメているのではないのだろうか。
「アルフォンス王子、明日水汲みしなかったら、洗濯係をしてもらうわよ」
ここでもリリカさんは仕切り役だ。
「分かった。明日からは絶対サボらない!」
サボった?まさか、わざと来なかったのだろうか。だとしたら、腹立つ。水汲みだって体力のいる仕事なのに。
「ナミネ、今からパーティーに出す料理作るから、朝食は使用人が作ったの食べてね」
「はい、ヨルクさん。頑張ってください」
ヨルクさんたち、どんな料理作るんだろう。パーティーではいっぱい食べよう。石鹸作り体験も紙作り体験もする。
私は使用人が持って来た朝食を食べはじめた。ご飯と味噌汁とシャケ。何だか質素な和食だ。それでも紀元前村で食べていた、あの煮物に比べたら、やっぱり何だかんだで妖精村は揃っていると思わされる。
「ほら、新聞だ」
テレビは見れないけど新聞は来るのか。って、手書き!?そっか、コピー機が使えないから手書きするしかないんだ。
読んでみると、停電に便乗して真夜中のスーパーで窃盗が起きる。防犯カメラも作動しないし、いくらランプを付けても夜は暗い。災害の時ほど盗みを働く人は出てくる。紅葉町も平和とは言えないな。
「あ、落ち武者さん、それって……」
「さっき、買い出しに行ってきた。紀元前村で使ってた材料買ってきたから顔だけヨルクに渡す。スーパー、かなり混んでたけどね?」
やはり、この非常事態。商店街は人で溢れているのか。特に、非常用リュックを買っていない人は慌てて買いに行く人もいそう。トイレとか死活問題だもんな。
「セナ王女、階段とか危ないですので、電池なしの懐中電灯を置いてはいかがでしょう?」
貴族はいつも膨らんだスカートのドレスで来るから、ランプだとスカートに引っかかった時が厄介だ。
「そうするわ」
「ねえ、ラルク。朝食が質素だね」
「朝なんだから少ないほうがいいだろ」
そうだろうか。私はいっぱい食べたい。けれど、この非常事態では食べられる食事も限られている。その点も紀元前村の時のようだ。テレビも付けられないと朝の時間が長く感じる。
時計を見ると7時。停電ひとつで、こんなにも時間って進まないものなのか。紀元前村では常に動いていたからなあ。
パーティーは10時から。そろそろ準備しはじめたほうがいいだろうか。
その時、ヨルクさんが来た。え、もう終わったの?しかも、あの服に着替えてるし。ダ、ダサイ。せめて、指定の下着履いてくれていたら……。
「ナミネ、色々説明したらズームさんが既にノート取ってて、料理係はかどってるよ」
私は咄嗟にヨルクさんから目を逸らした。
「そ、そうですか。私たちはそろそろパーティー会場のセッティングをしに行こうかと思っています」
私はラルクにもたれかかった。
「そっか、じゃあ私も一緒に行くね」
「ヨ、ヨルクさん。寒いのでカーディガン羽織ってください」
「ずっとではないけど、パーティーの時、少しだけカーディガンは脱いでもらうから」
カーディガンがあると紀元前村の時の雰囲気出ないもんね。今は4月だし紀元前村にいた時ほど寒くはないから少しくらいノースリーブでいても大丈夫か。
「はい、承知しています」
みんな集まって来た。どうしても男性陣のステテコもどきは目立って仕方ない。落ち武者さんとかナルホお兄様みたいに、あどけない人は不自然じゃないんだけどな。
とりあえず、トイレ行っておこう。
客間の扉を開けると、まさかとは思っていたけど案の定、便座に大きいのがついている。私は写真に撮ったあと、ウエットティッシュで落として便座を拭いたら、ナプキンを取り替えた。念の為、ナプキン入れは大きめのにしてあるけど、誰も掃除しなさそう。とにかく、この写真、リリカさんに見せないと。
私は再び第4居間に戻って行った。
「あの、今トイレに行ったら、こういう状態だったんですけど!どうして自分で汚したのは自分で掃除してくれないんですか!」
私は画像をみんなに見せた。案の定、アヤネさんは目を背けた。
「本当、迷惑ね。ナミネは、ただでさえ水汲みで忙しいのに、こういうの困るわ」
「アヤネさん、あの部屋には電池式のカメラ取り付けています。紀元前村の時の二の舞にならないように。今後掃除しないなら、カメラの映像を今すぐズームさんに見せてきます!」
カメラなんて取り付けていないけど、もうここまで来たら取り付けちゃおうかな。
「やめてください!どうしてプライバシーの侵害的なことをするんですか」
「お言葉ですが、紀元前村にはプライバシーもヘチマもありませんでした!」
これって、自白してるも同然じゃない。どうして、自分で汚したものをそのままにするのだろう。教育がなってない。
「アヤネ、今後、自分で汚したものを掃除しないのなら、ここを出ていってもらうわ!自分の別荘で使用人に何もかもやってもらいなさい!」
それがいいと思う。貴族は結局、自分のことは全て使用人に丸投げだ。人のこと言えないけど、私はトイレを汚したりなんかしない。そもそも、武士はある程度トイレが長い仕組みになっている。それに対して貴族は内官並にトイレが近い。
「分かりました。別荘には戻りたくないので、今後は必ず同じ過ちは繰り返しません」
好きな人がいると、傍にいたいというわけか。既にロォラさんがロックオンしてるのに。
「あ、セナ王女の別荘にも簡易トイレを置かないといけませんね」
「そうなのよ。すっかり忘れていたわ。料理係の料理が出来次第、みんなで手伝ってくれるかしら」
ここでは凝固剤も使えるし、ナプキンとかトイレットペーパーとかウエットティッシュなど、必要なものは置かないと。
「ナミネ、パーティーは長いし、普通のナプキンよりこっちのほうが、あまりトイレ行かなくていいんじゃない?薄型で目立たないし」
しまった。思わずヨルクさんを直視してしまった。ステテコもどきから、あのダサイパンツ透けてる。
「いらないです!!」
私は無意識にヨルクさんを突き飛ばしてしまった。ヨルクさんは後ろ向けに尻もちをついた。
「そっか。余計なお世話だったね」
「ごめんなさい、ヨルクさん!使います!」
私はヨルクさんを起こし、抱き締めた。ヨルクさん、ごめんなさい。大切な彼氏なのに、恥ずかしいとか思ってしまって。
ヨルクさんは私の頭を撫でた。
「ナミネは悪くないよ。痛み止めも無理せず飲んでね」
「はい」
どうして突き飛ばしてしまったのだろう。今になって後悔している。いつも私のことを考えてくれるヨルクさん。何世紀も待っていてくれたヨルクさん。愛おしくて仕方ないよ。
「セナ王女、飲み物はフルーツで味付けした水がいいと思うのですが、だとしたら、タンクも運ばないといけません。私とラルクは水を運ぶので、折りたたみ式トイレや付属品、ランプ、料理、その他必要なものは、他のメンバーで運んでもらえますか?移動は徒歩になるので、重たいものは力のある人が運んだほうがいいと思います」
ナノハナ家からセナ王女の別荘までだと、キクリ家からより少し遠くなる。今は徒歩で運ばないといけないから、どうしてもキクリ家は通らないといけない。
「水も簡易トイレもキクリ家から運んだほうが効率いいとカナエは思います」
そっか、それだと、ナノハナ家から持っていくより体力的に楽だ。
「分かりました。私とラルクはキクリ家から水を持って行きます」
「じゃあ、私とリリカとナナミは簡易トイレね」
「僕は箱に入れてランプを運びます」
ミツメさんはランプと。グラスはセナ王女の別荘にあるから、持って行かなくてもよし。あれ、でも、セナ王女の別荘に簡易トイレないのだろうか?
「あのセナ王女の別荘に簡易トイレってないですか?」
「私、非常時はトイレって殆ど使わないから非常用トイレは全てビニール袋なのよ。カランのなら1つあるけど、足りないわ」
そうか、セナ王女もそんなにトイレに行かない体質なのか。どうしても、武士、騎士と内官とでは暮らしに差があるな。
「そうですか。ではキクリ家から運ばなくてはいけませんね」
「足りないものは私の別荘から持って行って」
そうだった。キクリ家よりユメさんの別荘がセナ王女の別荘に1番近いんだった。
「では、足りないと気づいた時は体力のある人がユメさんの別荘に行かなくてはなりませんね。ここから持って行くもの以外は全てキクリ家から持って行きましょう」
「料理は落とされたりしたら困るから、私やカラン王子など丁寧に運べる人が運ぶ」
グラスやランプは変えが効くけれど、料理だけは、何としても確実に持って行かないといけない。
「そうですね。では、料理はロォラさん、カラン王子、ナヤセス殿、ロォハさん、ヨルクさんが持って行ってください」
「分かりました」
「ナミネ、心配いらないよ」
「分かった」
「うん、分かった。頑張るね、ナミネ」
役割は決まった。私は白いカーディガンを着てリュックを背負った。いよいよ、年度はじめビッグイベントがはじまる。
私たちはナノハナ家を出て、キクリ家で一旦止まって、私とラルクはキクリ家の井戸から水を汲んでナノハナ家に置いているほどの大きなタンクではないものの、100リットルのタンクに水を入れた。セナ王女たちも簡易トイレをリュックに入れ、ミツメさんは箱にランプを入れた。ここでもセレナールさんとアヤネさん、ミネルナさんは何もしないが、他の人は薬やタライ、消毒液などを運んだ。
「ねえ、ラルク。アヤネさんて、内官だよね」
「今それ言うなよ」
「ナミネの言う通りアヤネは内官よ。簡易トイレがなかったらどうするのかしらね」
やはり、思うことは皆同じだ。リリカさんもアヤネさんを内官と言っている。
「内官て、どういうことですか」
「ねえ、ラルク。アヤネさんて頭も悪いんだね」
「現代の内官は昔とは違うだろ」
そうだろうか。違うところなんて、手術がほぼ成功するところだけのようにしか思えないけど。まあ、今はオムツもあるし、内官も間に合うか。
「あんた、なんで内官に拘るのさ」
「簡易トイレ汚すのがアヤネさんばかりだからです。アヤネさんは臭いです」
「だから、なんで内官なわけ?」
落ち武者さん、本気で言っているのかな。
「内官は手術をします。その手術によって、トイレがかなり近くなり、間に合わないこともあるんです。今でこそオムツがありますが、それがなかった時代は決して今みたいに綺麗なものではありませんでした。制服だって毎日洗濯出来るわけではありませんし」
「そゆこと。ま、汚したのはアヤネなわけだから言われても仕方ないだろうけど。内官には失礼だけどね?」
失礼かもしれないけど。遠い昔は制服汚してたのは事実だし、それって周りからしたら結構迷惑だと思う。国王とかどうしていたのだろう。側近なだけに、悪くも言えないだろうし。
あ、セナ王女の別荘が見えてきた。やっぱりキクリ家から運んだほうが楽だった。
「あの、どうして私ばかり侮辱するんですか!」
「お言葉ですが、アヤネさんて便秘薬飲んでますよね?紀元前村で、やたらカナエさんの調合した便秘に効く薬が減っていました。出すもの出すのはいいですが、それを掃除しないことを私は指摘しているんです!」
この時の私は、アヤネさんが極度の便秘症で、便秘薬も非刺激的のものではなく、刺激的のものを毎日飲んで、だんだん効かなくなって酷い時は1箱飲んでいることを知らなかった。
「今後は掃除すると言ったではありませんか!あんまりです!」
アヤネさんは泣きはじめた。
「ナミネ、やめようか。トイレの件は分かった。言ってくれれば僕が掃除するから、誰か1人を攻撃するのはやめよう」
ナルホお兄様って平和主義だけど、何だかカナエさんとは恋人というより友達に見えるんだよな。
「はいはい、すみませんでしたー!」
私たちはセナ王女の別荘に入りはじめた。
今から10時までに、セッティングしなければ。水はどうしても零してしまうと大変だから、私とラルクは別荘の庭にタンクを置いた。水が出るところにタライを置いて、横に石鹸。これで完了。
4階でパーティーが行われるから、他の係は4階の客室に簡易トイレと付属品を設置したら、料理とランプは机に置いて、紙作り体験と石鹸作り体験の道具は四角い木の机に置いた。
今日は天気がいいからカーテンを開けると、そこそこ明るい。昔の人はこんなふうに過ごしていたんだな。
料理、美味しそう。少しつまみ食いしてもいいかな。私は、料理に手を伸ばした。
「ナミネ、何してるの?」
「い、いえ、何もしていません」
ヨルクさん、いつも私のこと見てるのかな。私はヨルクさんに抱き着いた。
「そうやって見せ付けるのやめてください。元々は僕とナミネさんが愛し合っていたんです。でも、兄妹だから、何度も縁談話持ってくるヨルクさんを家族は選んで、僕とナミネさんは引き離されたんです」
いったい、いつの話をしているのだろう。カンザシさんと兄妹でも、私はずっとヨルクさんのことが好きだったはず。カンザシさんの言っていることがよく分からない。
「あの、カンザシさん……」
「レタフルさんとヨルクさんは恋人でした。これが証拠の写真です」
私はカンザシさんから渡された写真を見た。かなり古いものだけれど、確かにヨルクさんだ。私は涙が零れていた。
「そんな……嘘だろ……」
アルフォンス王子も傷付くと同時に私は大泣きしてその場に崩れた。
……
あとがき。
内官の方、ごめんなさい。でも、死ぬリスクもあるのに、暮らしのために人生の選択してたんだね。
これ現実だったら非常用品を徒歩で運ぶの大変そう。
ヨルクを突き飛ばしちゃうけど、そのことで、ヨルクのことを改めて大切だと気づくナミネ。2人にはずっと恋人でいてほしい。セナやカラルリ、カナエやアルフォンスみたいになってほしくない。2組も今のナミネとヨルクほど愛し合っていたのに。
もし、次、純愛偏差値を別の時代で書くとしたらナミネとヨルクも拗れていたらいやだな。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。