日常のこととかオリジナル小説のこととか。
カレンダー
プロフィール
HN:
ashita
Webサイト:
性別:
女性
職業:
地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
X @kigenzen1874
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
X @kigenzen1874
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カテゴリー
アーカイブ
最新記事
ブログ内検索
フリーエリア
〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
〈資格証明バナー〉

純愛偏差値 未来編 一人称版 57話
《ナミネ》
私とラルクは久しぶりにクレナイ家のお風呂に入っている。ヨルクさんと交際してからは、ヨルクさんとばかりお風呂に入っていたから、ラルクとこんなふうに過ごすのはヨルクさんと交際前振りになる。ヨルクさんと交際する前はラルクとよく一緒にお風呂に入っていたのだけど、だんだんヨルクさんと過ごす時間のほうが多くなって、ラルクと2人で過ごしていた時間が薄れていた。
「ラルク、一緒にお風呂入るの久しぶりだね」
「ナミネ、ごめん」
ラルク、反省しているのかな。
「まだ、セレナールさんのこと恨んでる?」
「全く恨んでないわけじゃないけど、伝説武官に辿り着けなかったことは僕自身のせいなんだ。僕が恋愛に明け暮れているうちに、ナミネと差がついて焦るようになっていた」
セレナールさんとの恋も実らず、伝説武官にも辿り着けないラルクは八方塞がりになっていたのかもしれない。でも、私はもうラルクに復讐なんかして欲しくない。
「ラルク、もうあんな女放っておきなよ。どの道、エミリさんと皇太子様の記憶が戻るまでの儚い夢なんだからさ」
エミリさんと皇太子様の記憶が戻ればただでは済まされない。2人はずっと純粋な関係を築いていただけに、エミリさんが不本意に喪失したものは大きい。
変わったのは過去ではなく、未来だったんだ。
「分かってる。それでも、あの時は馬鹿にされた挙句、皇太子様に乗り換えたセレナール先輩を恨んでしまった。でも、もうこれからは彼女なんかいらない。ナミネや落ち武者さんに追い付いて、前みたいに訓練に集中する」
ラルク、今度こそ正気に戻ったんだよね。信じていいんだよね?
「焦らなくていいよ。ラルクなら、必ず受かるんだしさ」
「でも、僕はセレナール先輩に訴えられるかもしれない」
「大丈夫だよ。セレナールさん助かったんだし」
お武家連盟会議では、ラルクの暴力行為が問題視されているけど、私は人を騙して辱める行為も1つの暴力であると思う。ラルクを追い詰めたセレナールさんなんか、とっとと記憶戻した皇太子様にフラれて、自分で作り上げた残酷な現実を直視すればいい。
「僕は元に戻れるかな」
「ラルクは進むんだよ!私が支えるよ。ラルクのことずっと支えるよ。でも、焦らないで。いつまでにこうしなきゃとかないんだからさ」
ラルクはやたら惚れっぽいところがある。クレナイ家の男はみんなそうだ。ヨルクさんだってミネルナさんに気があるような素振りしてたし。(全くしてません)
「ありがとう、ナミネ」
期待してるよ、ラルク。今度こそ、邪魔する人に惑わされないで。
お風呂から上がると私はヨルクさんの部屋に向かった。
あれ、電気ついてない?ヨルクさん、いないのだろうか。私は電気をつけた。すると、机には私の分の夕飯が置いてあって、ヨルクさんは布団の上で泣いていた。私はヨルクさんに駆け寄った。
「ヨルクさん、どうして泣いているのですか!?」
また、私が何かしたのだろうか。
「ナミネはズームさんのこと好きなの?」
え、いきなり何?
「い、いえ、交際のこととか正直全く覚えてないです!」
やっぱり、私がまた泣かせたのか。どうしたらいいのだろう。ヨルクさんはちょっとしたことですぐに泣く。
「ナミネは私のどこが好きなの?」
私はヨルクさんを抱き締めた。
「優しくて私を本気で愛してくれて、いつも心配してくれて、美味しい料理作ってくれるヨルクさんが好きです!そもそも、ヨルクさんは誰と比べているのですか?私はどんな男が現れてもヨルクさんだけを見てるんです。ヨルクさんとは別れません!」
はあ、ヨルクさんは優しいけど、優しすぎてメンタルが脆い。こんなふうに泣かれると私が悪いみたいじゃない。
「うん、ごめんね。ナミネのこと信じる。今、ご飯温め直すね」
「あ、はい」
何か主婦みたい。熱、上がって来てる。私は布団に寝転んだ。その時、部屋がノックされた。私は扉を開けた。
え、カンザシさん……。何の用だろう。
「ナミネさん、少し2人で話せませんか?」
ヨルクさんは、夕飯温め直しに言ってるし気まずいな。
「すみません。熱が上がってきたので、今日はご飯食べたら寝ます」
「どうしてですか!ラルクさんとは一緒にお風呂に入ったのに、どうして僕とは少しも時間取ってくれないんですか!」
やっぱりカンザシさんは自分のことしか考えていない。私は別荘でラルクを引き止めるだけで、かなりの体力使ったのに。どうして気遣ってくれないのだろう。
「本当に具合が悪いんです」
その瞬間、カンザシさんは私に殴りかかった。私は避けた。そして、天井にしがみついた。
「ナミネさん、下りてきてください」
その時、またノックされた。
「どうぞ」
あ、ズームさん!
「ズームさん!助けて!」
「おい、カンザシ、ここで何してたんだ!」
あれ、何か持ってる?
「ナミネさんが僕との時間作ってくれないから言い聞かせてる!」
「いい加減にしろ!カンザシ!」
ズームさんはカンザシさんを部屋から追い出した。入れ替わりにヨルクさんが戻って来た。私は天井から下りた。
「ナミネさん、冬用のルームウェアです。良かったら使ってください。それと、熱さまシートとドリスポです」
「わあ、暖かそう!ありがとうございます!」
ズームさんて、本当は優しい人なんだ。カンザシさんとは大違い。
「では、これで失礼します」
ズームさんはヨルクさんの部屋を出て、カンザシさんをどこかに連れて行った。
「ナミネ、ご飯ここに置いとくね」
「あ、ヨルクさん、ズームさんのことは、その……」
めちゃくちゃ気まずい。
「うん、何となく分かる。ズームさんから色々もらえて良かったね。着せてあげる」
ヨルクさんは私にズームさんからもらったルームウェアを着せた。
「カンザシさんに具合悪いって言ったら殴りかかってきたんです」
「え、ナミネ、大丈夫?」
私は夕飯を食べはじめた。
「はい」
「ナミネ、カンザシさんとは2人で会わないほうがいいんじゃない?」
「私もそうしたいんですけど……何か付きまとわれているというか……別に嫌いとかではないんですけど、私の体調を全然考えてくれないんです」
ダメだ。眠くなってきた。私は急いでご飯を食べた。ヨルクさんは私のおでこに手を当てた。
「ナミネ、また熱上がってる」
ヨルクさんは、さっきズームさんがくれた熱さまシートを私のおでこに貼った。
「あ、すみません」
「ナミネ、もう寝て」
「はい」
私は布団に入るなり眠りについた。
この時の私は何も知らなかった。アランさんがセレナールさんに気があることを。タルリヤさんが紀元前村から妖精村学園に転校していたことを。エミリさんが密かにタルリヤさんと関係を持っていたことを。エミリさんがアランさんとタルリヤさんの子供を異父過妊娠していることを。セレナールさんが皇太子様の子を妊娠していることを。アヤネさんという貴族が妖精村学園に転校していたことを。
数日後、私はふとした瞬間に、みんなで行った星空レストランに飾られていた絵を描いたのは昔の自分であることを思い出した。いつかの私は小さな絵画展もしていた。
そのことを落ち武者さんに話したら、絵画展全体の写真や、私のサインが入った絵の写真、私が絵を描いている様子の写真をくれた。
後日、私は星空レストランのサイトにアクセスするとタルリヤさんのプロフィール欄にメールアドレスが載せてあり、私はタルリヤさんに写真と共にメールをした。すると、タルリヤさんは星空レストランの店長に詳細を話してくれて、星空レストランには、私がタルリヤさんに送った写真のコピーと元の作者は昔の私である説明書きを載せてくれたそうだ。また、タルリヤさんが所有している1点の昔の私が描いた絵画もお店に飾ってくれたらしい。
それ以降、私とタルリヤさんはメールでやり取りをするようになった。
カンザシさん以外のニンジャ妖精のみんなとラハルさんは、虹色街に戻り、仕事を再開するようになっていた。時にはカンザシさん抜きのテレビ出演もしていたそうだ。けれど、カンザシさんがずっと紅葉町に残り続けるから、ラハルさんとミツメさんは仕事の合間に紅葉町に様子を見に来てくれた。
ズームさんとミネルナさんは、エミリさんと皇太子様の記憶が戻らないことを心配し、クレナイ家と実家を行ったり来たりしている。カラルリさんは、たまにクレナイ家に来てはミネルナさんを口説いていた。
また、ミネルナさんは、あの後、セレナールさんを救った恩人として皇太子様から多くのお礼の品物をもらったらしい。
セナ王女はクレナイ家で過ごすごとが多くなっていて、カナエさんは王室の別荘でアルフォンス王子のお世話をしている。
ナルホお兄様は私を心配し、しばらくクレナイ家で過ごすことになり、ナヤセス殿もたまにクレナイ家で泊まるようになったのである。
私は第4居間に入った。
そっか、今日はニンジャ妖精さんがいるのか。
「あ、ズームさんもミネルナさんも、洗濯物あったら、遠慮なく、廊下のカゴに入れてください」
「僕は結構です」
「じゃあ、お願いするわ」
また、ヨルクさんミネルナさんが綺麗だからって、いい子ちゃんぶってる。
「ミネルナさんの生下着見ることが目的の変態ですな」
「ナミネ、どうしてそんなこと言うの?私、そんなつもりないし、カゴの中の衣類なんて見てないから!」
「干す時にはガッツリ変な想像するわけですな」
「変な想像してるのナミネのほうでしょ!」
ミネルナさんの下着か……。ミネルナさんて彼氏いるのかな。
この時の私は知らなかった。ミネルナさんがカンザシさんに想いを寄せていることを。
ミナクさんとセナ王女は使用人に洗濯してもらっているのか。まあ、ここミナクさんの家だもんな。
「ミツメさんは、コマーシャル出演やドラマ撮影もされているそうですな」
「はい、オーディション受けたら受かったので全力尽くそうと思います。ソロでも活動しています」
「ふむふむ、努力をされてますな」
ミツメさんならソロでもやっていけるだろう。こんな短期間で、ラハルさん同等の実力を身に付けるとは。その時、ヨルクさんが私の首にマフラーをかけた。
「ナミネ、寒いからこれ使って」
「ふむふむヨルクさんの手編みのマフラーですか。ヨルクさんは器用ですな」
「小学生の頃からナミネに毎年編んでたけど、やっと渡せた」
そうだったんだ。ダメだ。好きすぎる。
「ありがとうございます、ヨルクさん。大切にします」
私はヨルクさんにもたれかかった。
「ナミネ、もうすぐ生理でしょ。いつものポーチ渡しておくね」
やっぱりヨルクさんてズレてる。みんなの前でこういうの恥ずかしい。
「あ、ありがとうございます」
私はポーチを受け取ると徐々にヨルクさんから離れ、ラルクの隣に座った。
「ねえ、ラルク、ズームさん伊達メガネしてるよ」
「わざわざ言うなよ。今の時代だから、ブルーライトの特注とかだろ」
そっか、ズームさんて普段かなりパソコン使ってそうだもんな。
私はズームさんの膝に頭を乗せ寝転んだ。
「ズームさん、どうして伊達メガネなの?教えて教えて」
「知りません」
その瞬間、カンザシさんは私を殴ろうとした。私は避けて立ち上がった。
「リーダー!いい加減にしてください!」
「ミツメ、お前反則したんだってな」
反則?何のことだろう。
「リーダー、今度は脅しですか!僕は反則なんてしていません!」
「これ見ろよ」
カンザシさんは写真をばらまいた。ミツメさんて空手初段だったんだ。これって大会の時の写真かな?禁止技の写真がリークされたということか。
「まだまだお若いのに青春を奪われるのは酷ですな。良かったら私が詳細を調べましょう」
「もう終わったことなのでいいです。今は音楽に集中します」
私はミツメさんに扇子を突き付けた。
「いけませんな。そうやって、濡れ衣着せられたまましっぽ巻いて逃げるなんて。そんなことでは芸能界でもまた同じことの繰り返しですぞ」
「僕にどうしろっていうんですか!」
「完全な負け犬ですな。芸能界でも変な噂されますぞ」
ミツメさんは何も言わなかった。私はミツメさんが怒るまで負け犬と煽り続けた。ミツメさんは私に殴りかかった。私は扇子をしまい、ミツメさんの攻撃を避け続けた。
「おや?一発も当たってませんぞ?」
それに加えカンザシさんも私に攻撃してきた。
「今こそ、ナミネさんがいかに僕に酷い態度を取っているか思い知らせます!」
私は2人の攻撃をひたすら避け続けた。20分もすればカンザシさんは息を切らしはじめた。
「カンザシさんはログアウトですかな?」
私は天井まで飛び上がり着地した瞬間にミツメさんに前蹴り寸止めを行った。
「ここまでですな。まあまあ基礎は良いでしょう」
ミツメさんは、その場に泣き崩れた。やっぱり過去に何かあったのか。
「僕だって続けたかったです!でも、ハメられたんです。試合開始の前に僕の床の所にだけ何か塗られていました。試合開始と共に別の場所に移動しましたが、足が滑り、相手にぶつかり気がつけば相手を押し倒したまま相手の喉が押し潰されていたんです。僕はその場で失格になり、二度と試合に出られなくなったんです」
若くて強い。先輩の妬みだろうか。
「今、続けたいと仰りましたね。では、私に助けを求めますか?」
「お願いします……」
私は無線を手に取った。
「これよりナノハナ家 第1出動の要請を行います。ナノハナ家初級武官は今すぐ数年前のミツメさんの虹色街での空手大会で細工された証拠を見つけ出してください!顧問弁護士は細工した人を訴え慰謝料請求の書類を持ってきてください」
ミツメさんは何年前か言わなかったけど、ナノハナ家の武官は優秀だし、当時の監視カメラの証拠でも見つけてくれるだろう。
2時間後、ナノハナ家 初級武官と顧問弁護士が来た。
私は初級武官から渡された資料を見た。
3年前か。表向きには、ミツメさんが開始同時に相手を押し倒し禁止技を使い失格とあるが、防犯カメラの映像では、高校生らしき人物3人が前の日にミツメさんの立ち位置のみに油を塗っていた。理由は、ミツメさんが妬ましくて見るたびに悔しくてどうしようもなかったと書かれてある。しかし、ミツメさんの件で、ミツメさんの実家である道場は信用を失い、生徒は次々にやめていき、ミツメさんのお父様は清掃員の仕事をしはじめた。ふむふむ、ミツメさんのご実家は道場だったのか。
当時、ミツメさんの試合相手だった人は、ミツメさんがハメられたことを知り、当時床に油を塗った高校生3人をナノハナ家 顧問弁護士を通して訴えることにしたらしい。
ミツメさんもナノハナ家 顧問弁護士を通して訴えることとなった。
先の話になるが、裁判は案外早く行われ、当時の証拠の映像が決め手となり、ミツメさんと当時の試合相手は勝訴し、油を塗ってミツメさんを陥れた当時高校生だった3人は懲役2年、ミツメさんと試合相手の双方に300万円を慰謝料として支払うことになった。裁判のことはニュースにもなり、ミツメさんの実家の道場は再び信用を取り戻し、ミツメさんのお父様はまた道場を運営することになったらしい。
私はヨルクさんが持ってきたお茶を飲んだ。
「ナミネさん、ありがとうございます。裁判に負けても、悔いはありません」
裁判で戦う決意。それがミツメさんに勇気をもたらしたのだろうか。
「まだ、負けると決まったわけではないですぞ。では、ミツメさん、私からのお題です。当時の状況を再現して試合をしてみましょう。もちろん私が油が塗られたほうに立ちます」
「え、でも……」
私は無理矢理ミツメさんをクレナイ家 道場に連れて行った。ふむふむ、皆さんも見学と言うわけですな。私はミツメさんに油の塗られた所を確認させた。
「確かに油が塗られてますね」
「はい……」
私は油の塗られた所に立った。
「全力でかかって来なされ!」
「じゃ、はじめ」
落ち武者さんの合図と共にミツメさんは私に向かって来た。確かに、1歩でも動けばかなり滑る。私はその場から動かなかった。
ミツメさんが私に手刀を使った瞬間、私は天井まで飛び上がり、ミツメさんの後ろに立ち、ミツメさんが前を向いた瞬間、私はミツメさんに正拳アゴ打ち寸止めをした。
「じゃ、そこまで」
私はヨルクさんからタオルを受け取り足を拭くと、クレナイ家 武官見習いに挨拶をした。
「皆さん、遅くまで訓練お疲れ様です!」
武官見習いには中学生くらいの男の子もいた。
武官見習いのみんなは、さっきのミツメさんとの試し試合を見てか私に拍手を送った。
「あれがヨルク坊っちゃまの婚約者か?」
「強すぎだろ」
「クレナイ家は安泰だな」
ミツメさんは呆然としていた。
「ナミネ、ここ道場だよね?」
「ここは集会所ですぞ、ラハルさん。では、第4居間に戻りますかな」
私は道場を出ようとした。
「どうして……」
道場の師範の息子ゆえ、自分が1番強いと思い込んでいたのだろうか。
「ミツメさん、あなたはお強い。大会では常に優勝候補だったでしょう。しかし、天は二物を与えませんぞ!ご実家は道場。けれど、ミツメさんは芸能界の道を歩まれました。これからは音楽の道を歩みなされ!」
「は、はい!」
ミツメさん、いい顔してる。
「流石ね。でも、ヨルクの縁談だけが決まっても、ラルクとミナクがこれじゃあねえ……」
「リリカお姉様、まだ時間は十分にあるでしょう」
リリカさんは、ラルクとミナクさんのお嫁さん探しに悩んでいる。ずっと悩んでるのだ。セナ王女もセレナールさんもリリカさんは反対している。セナ王女は強いんだけどなあ。
「どうして……僕だって頑張っているのに、ミツメは恵まれた環境で何不自由なく暮らして、やりたい放題生きてきたのに……不公平だ……」
お母様は一般家庭にカンザシさんを預けたはずなのに、カンザシさんはそこで虐待を受けた。それに比べ、家が道場で3歳の頃から音楽教室に通わせてもらえて、家では空手の訓練も受けられる。ミツメさんは確かに恵まれているのだろう。
「カンザシさんには音楽があるではありませんか」
「ヨルクのお父さんは建築士でナミネのお父さんはサラリーマンなんだよね?」
「はい。しかしながら、現代は社員切り、派遣切りによって多くの人が就職困難に陥ってます。お父様も先日会社をクビになり、床屋に転職しました」
ラハルさんは、どうしてナノハナ家とクレナイ家をそんなに気にするのだろう。
「なんで、僕のお父様が建築士なんだよ!」
「あのね、ラルク。ラルクのお父様は仕事掛け持ちしてラルクにご飯食べさせてるの。ラルクに大学まで行かせるためだよ」
「強気なナミネ、あんたなんで嘘つくのさ。クレナイ家もナノハナ家も武家だ、ラハル!」
あーあ、意外な人物が言っちゃったよ。実際問題、現代の武家なんて仕事もそんなになくて、次々に潰れていってるのに。そりゃ、昔は武士ともあれば、暮らしには困らなかった。けれど、このデジタル世界の現代に剣なんていらない。
「そっか。それでみんな強いんだ」
その瞬間、カンザシさんはラハルさんにピストルを突き付けた。道場の武官見習いは騒ぎはじめた。
「ナミネ、逃げて!」
「まあ、そう焦りなさんな」
私は扇子を動かし、カンザシさんからピストルを離させ、ラルクはカンザシさんを扇子で吹き飛ばし、落ち武者さんは花札でカンザシさんを拘束した。
「あんた、ここ武家だって言ってんだろ!」
「惨めですね、リーダー。ピストル持っても少しも敵わないなんて」
武官見習いが道場を出た後、落ち武者さんは電気を切った。
「待ってください!置いていかないでください」
カンザシさんは過呼吸を起こした。
「あんた、自分のしたこと分かってんのかよ!」
「カンザシさん、音楽で成功してください!」
「ナミネさんに僕の何が分かるんですか!何の苦労もなしに、裕福な家庭でぬくぬくと過ごして。ムカつきます!ヨルクさんと別れて僕に一生償ってください!」
私がカンザシさんに対して苦手意識を持っていたのは、カンザシさんがずっと前から私のことを恨んでいるからだと私は位置付けした。実際どうか分からないが、カンザシさんは庶子として私の兄である事実をこれまでの苦労を私に償わせようとしている。
カンザシさんの言葉に私は分からなくなった。
私が間違っていたのだろうか。
……
あとがき。
前回は脱字をしてしまい、その箇所だけ訂正しました。というか、最近、脱字が増えてる気がする。
今回の話は難しいですね。
虐待を受けて育った人は虐待を受けていなかった人より、生きることに関してはかなり不利です。大人になるほどに、過去の記憶が膨らんで、イルージョンと呼ばれる症状が出てしまうからです。
普通に考えても、暴力振るわれるよりそうでないほうが、笑顔でいられますよね?
しかし、人というのは残酷な生き物で、虐待され90%の重たいものを抱えている人がイジメの的にされやすいのです。虐待された人は上手く人間関係を作れないんです。そこに付け入るのが虐待を経験したことがない一般市民で、気に入らないことがあれば、憂さ晴らしをするわけですね。
負いつまっている人を更に窮地に追い込むことを『落ち武者を槍で突き刺す』と言います。
『不利な状況から成功した』と言う人もいますが、その人はその人ですよね。自分の価値観を押し付ける人は私は好きではありません。
カンザシのように八方塞がりな人も世の中には存在します。
そんな人をイジメるような行為はしないで欲しいと思った回でした。
《ナミネ》
私とラルクは久しぶりにクレナイ家のお風呂に入っている。ヨルクさんと交際してからは、ヨルクさんとばかりお風呂に入っていたから、ラルクとこんなふうに過ごすのはヨルクさんと交際前振りになる。ヨルクさんと交際する前はラルクとよく一緒にお風呂に入っていたのだけど、だんだんヨルクさんと過ごす時間のほうが多くなって、ラルクと2人で過ごしていた時間が薄れていた。
「ラルク、一緒にお風呂入るの久しぶりだね」
「ナミネ、ごめん」
ラルク、反省しているのかな。
「まだ、セレナールさんのこと恨んでる?」
「全く恨んでないわけじゃないけど、伝説武官に辿り着けなかったことは僕自身のせいなんだ。僕が恋愛に明け暮れているうちに、ナミネと差がついて焦るようになっていた」
セレナールさんとの恋も実らず、伝説武官にも辿り着けないラルクは八方塞がりになっていたのかもしれない。でも、私はもうラルクに復讐なんかして欲しくない。
「ラルク、もうあんな女放っておきなよ。どの道、エミリさんと皇太子様の記憶が戻るまでの儚い夢なんだからさ」
エミリさんと皇太子様の記憶が戻ればただでは済まされない。2人はずっと純粋な関係を築いていただけに、エミリさんが不本意に喪失したものは大きい。
変わったのは過去ではなく、未来だったんだ。
「分かってる。それでも、あの時は馬鹿にされた挙句、皇太子様に乗り換えたセレナール先輩を恨んでしまった。でも、もうこれからは彼女なんかいらない。ナミネや落ち武者さんに追い付いて、前みたいに訓練に集中する」
ラルク、今度こそ正気に戻ったんだよね。信じていいんだよね?
「焦らなくていいよ。ラルクなら、必ず受かるんだしさ」
「でも、僕はセレナール先輩に訴えられるかもしれない」
「大丈夫だよ。セレナールさん助かったんだし」
お武家連盟会議では、ラルクの暴力行為が問題視されているけど、私は人を騙して辱める行為も1つの暴力であると思う。ラルクを追い詰めたセレナールさんなんか、とっとと記憶戻した皇太子様にフラれて、自分で作り上げた残酷な現実を直視すればいい。
「僕は元に戻れるかな」
「ラルクは進むんだよ!私が支えるよ。ラルクのことずっと支えるよ。でも、焦らないで。いつまでにこうしなきゃとかないんだからさ」
ラルクはやたら惚れっぽいところがある。クレナイ家の男はみんなそうだ。ヨルクさんだってミネルナさんに気があるような素振りしてたし。(全くしてません)
「ありがとう、ナミネ」
期待してるよ、ラルク。今度こそ、邪魔する人に惑わされないで。
お風呂から上がると私はヨルクさんの部屋に向かった。
あれ、電気ついてない?ヨルクさん、いないのだろうか。私は電気をつけた。すると、机には私の分の夕飯が置いてあって、ヨルクさんは布団の上で泣いていた。私はヨルクさんに駆け寄った。
「ヨルクさん、どうして泣いているのですか!?」
また、私が何かしたのだろうか。
「ナミネはズームさんのこと好きなの?」
え、いきなり何?
「い、いえ、交際のこととか正直全く覚えてないです!」
やっぱり、私がまた泣かせたのか。どうしたらいいのだろう。ヨルクさんはちょっとしたことですぐに泣く。
「ナミネは私のどこが好きなの?」
私はヨルクさんを抱き締めた。
「優しくて私を本気で愛してくれて、いつも心配してくれて、美味しい料理作ってくれるヨルクさんが好きです!そもそも、ヨルクさんは誰と比べているのですか?私はどんな男が現れてもヨルクさんだけを見てるんです。ヨルクさんとは別れません!」
はあ、ヨルクさんは優しいけど、優しすぎてメンタルが脆い。こんなふうに泣かれると私が悪いみたいじゃない。
「うん、ごめんね。ナミネのこと信じる。今、ご飯温め直すね」
「あ、はい」
何か主婦みたい。熱、上がって来てる。私は布団に寝転んだ。その時、部屋がノックされた。私は扉を開けた。
え、カンザシさん……。何の用だろう。
「ナミネさん、少し2人で話せませんか?」
ヨルクさんは、夕飯温め直しに言ってるし気まずいな。
「すみません。熱が上がってきたので、今日はご飯食べたら寝ます」
「どうしてですか!ラルクさんとは一緒にお風呂に入ったのに、どうして僕とは少しも時間取ってくれないんですか!」
やっぱりカンザシさんは自分のことしか考えていない。私は別荘でラルクを引き止めるだけで、かなりの体力使ったのに。どうして気遣ってくれないのだろう。
「本当に具合が悪いんです」
その瞬間、カンザシさんは私に殴りかかった。私は避けた。そして、天井にしがみついた。
「ナミネさん、下りてきてください」
その時、またノックされた。
「どうぞ」
あ、ズームさん!
「ズームさん!助けて!」
「おい、カンザシ、ここで何してたんだ!」
あれ、何か持ってる?
「ナミネさんが僕との時間作ってくれないから言い聞かせてる!」
「いい加減にしろ!カンザシ!」
ズームさんはカンザシさんを部屋から追い出した。入れ替わりにヨルクさんが戻って来た。私は天井から下りた。
「ナミネさん、冬用のルームウェアです。良かったら使ってください。それと、熱さまシートとドリスポです」
「わあ、暖かそう!ありがとうございます!」
ズームさんて、本当は優しい人なんだ。カンザシさんとは大違い。
「では、これで失礼します」
ズームさんはヨルクさんの部屋を出て、カンザシさんをどこかに連れて行った。
「ナミネ、ご飯ここに置いとくね」
「あ、ヨルクさん、ズームさんのことは、その……」
めちゃくちゃ気まずい。
「うん、何となく分かる。ズームさんから色々もらえて良かったね。着せてあげる」
ヨルクさんは私にズームさんからもらったルームウェアを着せた。
「カンザシさんに具合悪いって言ったら殴りかかってきたんです」
「え、ナミネ、大丈夫?」
私は夕飯を食べはじめた。
「はい」
「ナミネ、カンザシさんとは2人で会わないほうがいいんじゃない?」
「私もそうしたいんですけど……何か付きまとわれているというか……別に嫌いとかではないんですけど、私の体調を全然考えてくれないんです」
ダメだ。眠くなってきた。私は急いでご飯を食べた。ヨルクさんは私のおでこに手を当てた。
「ナミネ、また熱上がってる」
ヨルクさんは、さっきズームさんがくれた熱さまシートを私のおでこに貼った。
「あ、すみません」
「ナミネ、もう寝て」
「はい」
私は布団に入るなり眠りについた。
この時の私は何も知らなかった。アランさんがセレナールさんに気があることを。タルリヤさんが紀元前村から妖精村学園に転校していたことを。エミリさんが密かにタルリヤさんと関係を持っていたことを。エミリさんがアランさんとタルリヤさんの子供を異父過妊娠していることを。セレナールさんが皇太子様の子を妊娠していることを。アヤネさんという貴族が妖精村学園に転校していたことを。
数日後、私はふとした瞬間に、みんなで行った星空レストランに飾られていた絵を描いたのは昔の自分であることを思い出した。いつかの私は小さな絵画展もしていた。
そのことを落ち武者さんに話したら、絵画展全体の写真や、私のサインが入った絵の写真、私が絵を描いている様子の写真をくれた。
後日、私は星空レストランのサイトにアクセスするとタルリヤさんのプロフィール欄にメールアドレスが載せてあり、私はタルリヤさんに写真と共にメールをした。すると、タルリヤさんは星空レストランの店長に詳細を話してくれて、星空レストランには、私がタルリヤさんに送った写真のコピーと元の作者は昔の私である説明書きを載せてくれたそうだ。また、タルリヤさんが所有している1点の昔の私が描いた絵画もお店に飾ってくれたらしい。
それ以降、私とタルリヤさんはメールでやり取りをするようになった。
カンザシさん以外のニンジャ妖精のみんなとラハルさんは、虹色街に戻り、仕事を再開するようになっていた。時にはカンザシさん抜きのテレビ出演もしていたそうだ。けれど、カンザシさんがずっと紅葉町に残り続けるから、ラハルさんとミツメさんは仕事の合間に紅葉町に様子を見に来てくれた。
ズームさんとミネルナさんは、エミリさんと皇太子様の記憶が戻らないことを心配し、クレナイ家と実家を行ったり来たりしている。カラルリさんは、たまにクレナイ家に来てはミネルナさんを口説いていた。
また、ミネルナさんは、あの後、セレナールさんを救った恩人として皇太子様から多くのお礼の品物をもらったらしい。
セナ王女はクレナイ家で過ごすごとが多くなっていて、カナエさんは王室の別荘でアルフォンス王子のお世話をしている。
ナルホお兄様は私を心配し、しばらくクレナイ家で過ごすことになり、ナヤセス殿もたまにクレナイ家で泊まるようになったのである。
私は第4居間に入った。
そっか、今日はニンジャ妖精さんがいるのか。
「あ、ズームさんもミネルナさんも、洗濯物あったら、遠慮なく、廊下のカゴに入れてください」
「僕は結構です」
「じゃあ、お願いするわ」
また、ヨルクさんミネルナさんが綺麗だからって、いい子ちゃんぶってる。
「ミネルナさんの生下着見ることが目的の変態ですな」
「ナミネ、どうしてそんなこと言うの?私、そんなつもりないし、カゴの中の衣類なんて見てないから!」
「干す時にはガッツリ変な想像するわけですな」
「変な想像してるのナミネのほうでしょ!」
ミネルナさんの下着か……。ミネルナさんて彼氏いるのかな。
この時の私は知らなかった。ミネルナさんがカンザシさんに想いを寄せていることを。
ミナクさんとセナ王女は使用人に洗濯してもらっているのか。まあ、ここミナクさんの家だもんな。
「ミツメさんは、コマーシャル出演やドラマ撮影もされているそうですな」
「はい、オーディション受けたら受かったので全力尽くそうと思います。ソロでも活動しています」
「ふむふむ、努力をされてますな」
ミツメさんならソロでもやっていけるだろう。こんな短期間で、ラハルさん同等の実力を身に付けるとは。その時、ヨルクさんが私の首にマフラーをかけた。
「ナミネ、寒いからこれ使って」
「ふむふむヨルクさんの手編みのマフラーですか。ヨルクさんは器用ですな」
「小学生の頃からナミネに毎年編んでたけど、やっと渡せた」
そうだったんだ。ダメだ。好きすぎる。
「ありがとうございます、ヨルクさん。大切にします」
私はヨルクさんにもたれかかった。
「ナミネ、もうすぐ生理でしょ。いつものポーチ渡しておくね」
やっぱりヨルクさんてズレてる。みんなの前でこういうの恥ずかしい。
「あ、ありがとうございます」
私はポーチを受け取ると徐々にヨルクさんから離れ、ラルクの隣に座った。
「ねえ、ラルク、ズームさん伊達メガネしてるよ」
「わざわざ言うなよ。今の時代だから、ブルーライトの特注とかだろ」
そっか、ズームさんて普段かなりパソコン使ってそうだもんな。
私はズームさんの膝に頭を乗せ寝転んだ。
「ズームさん、どうして伊達メガネなの?教えて教えて」
「知りません」
その瞬間、カンザシさんは私を殴ろうとした。私は避けて立ち上がった。
「リーダー!いい加減にしてください!」
「ミツメ、お前反則したんだってな」
反則?何のことだろう。
「リーダー、今度は脅しですか!僕は反則なんてしていません!」
「これ見ろよ」
カンザシさんは写真をばらまいた。ミツメさんて空手初段だったんだ。これって大会の時の写真かな?禁止技の写真がリークされたということか。
「まだまだお若いのに青春を奪われるのは酷ですな。良かったら私が詳細を調べましょう」
「もう終わったことなのでいいです。今は音楽に集中します」
私はミツメさんに扇子を突き付けた。
「いけませんな。そうやって、濡れ衣着せられたまましっぽ巻いて逃げるなんて。そんなことでは芸能界でもまた同じことの繰り返しですぞ」
「僕にどうしろっていうんですか!」
「完全な負け犬ですな。芸能界でも変な噂されますぞ」
ミツメさんは何も言わなかった。私はミツメさんが怒るまで負け犬と煽り続けた。ミツメさんは私に殴りかかった。私は扇子をしまい、ミツメさんの攻撃を避け続けた。
「おや?一発も当たってませんぞ?」
それに加えカンザシさんも私に攻撃してきた。
「今こそ、ナミネさんがいかに僕に酷い態度を取っているか思い知らせます!」
私は2人の攻撃をひたすら避け続けた。20分もすればカンザシさんは息を切らしはじめた。
「カンザシさんはログアウトですかな?」
私は天井まで飛び上がり着地した瞬間にミツメさんに前蹴り寸止めを行った。
「ここまでですな。まあまあ基礎は良いでしょう」
ミツメさんは、その場に泣き崩れた。やっぱり過去に何かあったのか。
「僕だって続けたかったです!でも、ハメられたんです。試合開始の前に僕の床の所にだけ何か塗られていました。試合開始と共に別の場所に移動しましたが、足が滑り、相手にぶつかり気がつけば相手を押し倒したまま相手の喉が押し潰されていたんです。僕はその場で失格になり、二度と試合に出られなくなったんです」
若くて強い。先輩の妬みだろうか。
「今、続けたいと仰りましたね。では、私に助けを求めますか?」
「お願いします……」
私は無線を手に取った。
「これよりナノハナ家 第1出動の要請を行います。ナノハナ家初級武官は今すぐ数年前のミツメさんの虹色街での空手大会で細工された証拠を見つけ出してください!顧問弁護士は細工した人を訴え慰謝料請求の書類を持ってきてください」
ミツメさんは何年前か言わなかったけど、ナノハナ家の武官は優秀だし、当時の監視カメラの証拠でも見つけてくれるだろう。
2時間後、ナノハナ家 初級武官と顧問弁護士が来た。
私は初級武官から渡された資料を見た。
3年前か。表向きには、ミツメさんが開始同時に相手を押し倒し禁止技を使い失格とあるが、防犯カメラの映像では、高校生らしき人物3人が前の日にミツメさんの立ち位置のみに油を塗っていた。理由は、ミツメさんが妬ましくて見るたびに悔しくてどうしようもなかったと書かれてある。しかし、ミツメさんの件で、ミツメさんの実家である道場は信用を失い、生徒は次々にやめていき、ミツメさんのお父様は清掃員の仕事をしはじめた。ふむふむ、ミツメさんのご実家は道場だったのか。
当時、ミツメさんの試合相手だった人は、ミツメさんがハメられたことを知り、当時床に油を塗った高校生3人をナノハナ家 顧問弁護士を通して訴えることにしたらしい。
ミツメさんもナノハナ家 顧問弁護士を通して訴えることとなった。
先の話になるが、裁判は案外早く行われ、当時の証拠の映像が決め手となり、ミツメさんと当時の試合相手は勝訴し、油を塗ってミツメさんを陥れた当時高校生だった3人は懲役2年、ミツメさんと試合相手の双方に300万円を慰謝料として支払うことになった。裁判のことはニュースにもなり、ミツメさんの実家の道場は再び信用を取り戻し、ミツメさんのお父様はまた道場を運営することになったらしい。
私はヨルクさんが持ってきたお茶を飲んだ。
「ナミネさん、ありがとうございます。裁判に負けても、悔いはありません」
裁判で戦う決意。それがミツメさんに勇気をもたらしたのだろうか。
「まだ、負けると決まったわけではないですぞ。では、ミツメさん、私からのお題です。当時の状況を再現して試合をしてみましょう。もちろん私が油が塗られたほうに立ちます」
「え、でも……」
私は無理矢理ミツメさんをクレナイ家 道場に連れて行った。ふむふむ、皆さんも見学と言うわけですな。私はミツメさんに油の塗られた所を確認させた。
「確かに油が塗られてますね」
「はい……」
私は油の塗られた所に立った。
「全力でかかって来なされ!」
「じゃ、はじめ」
落ち武者さんの合図と共にミツメさんは私に向かって来た。確かに、1歩でも動けばかなり滑る。私はその場から動かなかった。
ミツメさんが私に手刀を使った瞬間、私は天井まで飛び上がり、ミツメさんの後ろに立ち、ミツメさんが前を向いた瞬間、私はミツメさんに正拳アゴ打ち寸止めをした。
「じゃ、そこまで」
私はヨルクさんからタオルを受け取り足を拭くと、クレナイ家 武官見習いに挨拶をした。
「皆さん、遅くまで訓練お疲れ様です!」
武官見習いには中学生くらいの男の子もいた。
武官見習いのみんなは、さっきのミツメさんとの試し試合を見てか私に拍手を送った。
「あれがヨルク坊っちゃまの婚約者か?」
「強すぎだろ」
「クレナイ家は安泰だな」
ミツメさんは呆然としていた。
「ナミネ、ここ道場だよね?」
「ここは集会所ですぞ、ラハルさん。では、第4居間に戻りますかな」
私は道場を出ようとした。
「どうして……」
道場の師範の息子ゆえ、自分が1番強いと思い込んでいたのだろうか。
「ミツメさん、あなたはお強い。大会では常に優勝候補だったでしょう。しかし、天は二物を与えませんぞ!ご実家は道場。けれど、ミツメさんは芸能界の道を歩まれました。これからは音楽の道を歩みなされ!」
「は、はい!」
ミツメさん、いい顔してる。
「流石ね。でも、ヨルクの縁談だけが決まっても、ラルクとミナクがこれじゃあねえ……」
「リリカお姉様、まだ時間は十分にあるでしょう」
リリカさんは、ラルクとミナクさんのお嫁さん探しに悩んでいる。ずっと悩んでるのだ。セナ王女もセレナールさんもリリカさんは反対している。セナ王女は強いんだけどなあ。
「どうして……僕だって頑張っているのに、ミツメは恵まれた環境で何不自由なく暮らして、やりたい放題生きてきたのに……不公平だ……」
お母様は一般家庭にカンザシさんを預けたはずなのに、カンザシさんはそこで虐待を受けた。それに比べ、家が道場で3歳の頃から音楽教室に通わせてもらえて、家では空手の訓練も受けられる。ミツメさんは確かに恵まれているのだろう。
「カンザシさんには音楽があるではありませんか」
「ヨルクのお父さんは建築士でナミネのお父さんはサラリーマンなんだよね?」
「はい。しかしながら、現代は社員切り、派遣切りによって多くの人が就職困難に陥ってます。お父様も先日会社をクビになり、床屋に転職しました」
ラハルさんは、どうしてナノハナ家とクレナイ家をそんなに気にするのだろう。
「なんで、僕のお父様が建築士なんだよ!」
「あのね、ラルク。ラルクのお父様は仕事掛け持ちしてラルクにご飯食べさせてるの。ラルクに大学まで行かせるためだよ」
「強気なナミネ、あんたなんで嘘つくのさ。クレナイ家もナノハナ家も武家だ、ラハル!」
あーあ、意外な人物が言っちゃったよ。実際問題、現代の武家なんて仕事もそんなになくて、次々に潰れていってるのに。そりゃ、昔は武士ともあれば、暮らしには困らなかった。けれど、このデジタル世界の現代に剣なんていらない。
「そっか。それでみんな強いんだ」
その瞬間、カンザシさんはラハルさんにピストルを突き付けた。道場の武官見習いは騒ぎはじめた。
「ナミネ、逃げて!」
「まあ、そう焦りなさんな」
私は扇子を動かし、カンザシさんからピストルを離させ、ラルクはカンザシさんを扇子で吹き飛ばし、落ち武者さんは花札でカンザシさんを拘束した。
「あんた、ここ武家だって言ってんだろ!」
「惨めですね、リーダー。ピストル持っても少しも敵わないなんて」
武官見習いが道場を出た後、落ち武者さんは電気を切った。
「待ってください!置いていかないでください」
カンザシさんは過呼吸を起こした。
「あんた、自分のしたこと分かってんのかよ!」
「カンザシさん、音楽で成功してください!」
「ナミネさんに僕の何が分かるんですか!何の苦労もなしに、裕福な家庭でぬくぬくと過ごして。ムカつきます!ヨルクさんと別れて僕に一生償ってください!」
私がカンザシさんに対して苦手意識を持っていたのは、カンザシさんがずっと前から私のことを恨んでいるからだと私は位置付けした。実際どうか分からないが、カンザシさんは庶子として私の兄である事実をこれまでの苦労を私に償わせようとしている。
カンザシさんの言葉に私は分からなくなった。
私が間違っていたのだろうか。
……
あとがき。
前回は脱字をしてしまい、その箇所だけ訂正しました。というか、最近、脱字が増えてる気がする。
今回の話は難しいですね。
虐待を受けて育った人は虐待を受けていなかった人より、生きることに関してはかなり不利です。大人になるほどに、過去の記憶が膨らんで、イルージョンと呼ばれる症状が出てしまうからです。
普通に考えても、暴力振るわれるよりそうでないほうが、笑顔でいられますよね?
しかし、人というのは残酷な生き物で、虐待され90%の重たいものを抱えている人がイジメの的にされやすいのです。虐待された人は上手く人間関係を作れないんです。そこに付け入るのが虐待を経験したことがない一般市民で、気に入らないことがあれば、憂さ晴らしをするわけですね。
負いつまっている人を更に窮地に追い込むことを『落ち武者を槍で突き刺す』と言います。
『不利な状況から成功した』と言う人もいますが、その人はその人ですよね。自分の価値観を押し付ける人は私は好きではありません。
カンザシのように八方塞がりな人も世の中には存在します。
そんな人をイジメるような行為はしないで欲しいと思った回でした。
PR
純愛偏差値 未来編 一人称版 56話
《ヨルク》
今日は落ち武者さんの誕生日だ。
淡い膝下丈のオレンジ色のかすみ草の刺繍のドレスを着たナミネ可愛すぎる。パーティー会場は、王室の別荘なだけに貴族がたくさん来ていた。
けれど、落ち込むラルクを見て、ナミネが悲しまないか私は心配だった。
あれ、ナミネがいなくなっている。落ち武者さんも。
私はナミネを探した。すると、ナミネはパーティー会場の入口にいた。私はナミネの元に駆け寄った。
え、リリカお姉様と、セナ王女とアルフォンス王子もいる?ここで何をしているのだろう。
「ナミネ、何してるの?」
「顔だけヨルク!姉さんがラルクに針刺された!」
そんなまさか!ラルクは割り切ったのではなかったのか?
「え……」
どうしたらいいのだろう。私はリリカお姉様に腕を掴まれた。
「ヨルク、もうここまで来たらセレナールを許せないわ!」
「リリカお姉様、これは流石に違うでしょう!」
あれ、目を背けた?
「落ち武者さん、今救急車呼ぶね!」
「無駄だ!」
え、何?セナ王女とアルフォンス王子……。王室のF938……。まさか、リリカお姉様は脅されたのか!?
「セナ王女、アルフォンス王子、リリカお姉様を脅したんですか?」
それともリリカお姉様の意思で組んだのだろうか。どちらにしても、復讐を続けるなんて間違っている。
「あら、リリカが提案したことよ」
でも、リリカお姉様の顔色が悪い。リリカお姉様は2人に話を持ちかけたが、それを利用されてリリカお姉様の不利な結論になってしまったということだろうか。
「姉さんは確かに酷いことした。でも、あれでも、小さい頃は僕の誕生をセリルと一緒に喜んでくれたんだ」
落ち武者さん……。セレナールさんの教師時代は水子だった落ち武者さんが、現世ではこうやって生きている。
あれ、さっきから、ナミネが一言も話してない。どうしてだろう。
「ズームさん!」
え、ズームさん?
「ズーム!姉さんは!」
「毒ですね。速効性のあるものではなく、ゆっくり、刺した部分を腐敗するものです。卵巣に刺されていました。ラルクさんはセレナールさんを現世では妊娠させないおつもりでしょう。毒は24時間で完全に卵巣が機能しなくなります。12時間も経てば取り除かなくてはなりませんが、今この瞬間も毒は進んでいます」
12時間。そんな長時間こんなところで足止めなんて出来ないだろう。だったら、どうして、ナミネたちは足止めされているのだ?
「あの、12時間もこんなところで時間稼ぎなんて出来ませんよね?」
「1時間で妊娠しても奇形児しか生まれなくなり、3時間で妊娠しても悪魔が生まれてしまい、6時間で妊娠しても流産し、9時間で妊娠しても死産、12時間で卵巣の半分に毒が回り取り除く必要があるのです。毒は時針草です。ナミネさんが気付かないと思い、24時間後にセレナールさんの卵巣の腐敗を待つつもりが、予定外となったんです」
つまり、ナミネが気付かなければ、みんなにとって好都合というわけだったのか。
「リリカはどれだけ関わってる?」
「リリカさんは、ラルクさんがセレナールさんに針を刺したのを見るなり、セナ王女と目が合ってしまい、絶対助けるなと言われました。そのことがなければ、セレナールさんの容態を確かめたでしょう」
良かった。リリカお姉様が見て見ぬふりしようとしたわけではなくて。けれど、このまま足止めされては、毒が進行してしまう。
ズームさんは皇室のF938をセナ王女とアルフォンス王子に見せた。いったいどこで手に入れたのだろう。
「人を殺すのはよくありませんね。セレナールさんはもうすぐ病院に運ばれます」
ナミネはズームさんの助けを待っていたのか。
「卑怯じゃない!私、セレナールのせいで二度までもカラルリと交際させられて苦痛だわ!私を流産させたカラルリと!」
「私もセレナールのような悪魔が傍にいたら夜も眠れない。ここでセレナールの人生を奪わないと」
セレナールさんをトケイ草で流産させといて今更被害者ヅラしても遅いだろうに。
「ズーム!何してるの!」
え、誰?随分と綺麗な人だな。友達だろうか。
「姉さん!毒盛られました!あの銀髪の女性をここに連れて来てください」
ね、姉さん!?あまり似てないような……。
「分かったわ!」
「させないわ!」
その瞬間、ズームさんのお姉様は口笛を吹いた。すると、10匹くらいの小さい犬が現れた。随分小さいな。まだ生まれたばかりの犬だろうか。
しかし、その犬はセナ王女とアルフォンス王子に噛み付いた。
「痛い!」
「くっ!」
2人の手はあっという間に血まみれになった。え、この犬何?小型犬はリリカお姉様にも噛み付こうとした。私は咄嗟に庇った。
「ヨルクさん!」
けれどナミネが私を庇った。
「ナミネ!危ないから向こう行って!」
すると、小型犬はナミネに懐き、大人しくナミネに抱っこされた。
「噛んじゃダメだよ」
小型犬を抱っこするナミネ可愛すぎる。けれど、この小型犬っていったい……。
「この犬何なんだよ!」
「番犬です」
こんな小さな犬が番犬なのか。はじめて見る種類だ。その時、ズームお姉様がセレナールさんと皇太子様を連れて来た。
「セナさん、何があったの?……あの、私はキクリ家 長男 カラルリと申す。そなたの名前を教えて欲しい」
え、何この展開。てか、この展開いらないよね。
「ブランケット家 長女 ミネルナ。この銀髪の子、毒を体内に入れられたわ」
ブランケット家。聞いたことないな。
「セレナールが!?」
セナ王女に中絶薬を盛ったカラルリさんが心配した素振り見せると、何だか嘘らしく感じてしまう。
「セナ、どういうことだ!」
「私じゃないわよ!ラルクがやったのよ!」
F938使ってセレナールさんの容態悪化させようとした時点で、もう共犯者だよね。
「ねえ、助けて!」
「ズーム、救急車はどうなってるの?」
「交通事故が発生して大渋滞に呑み込まれてます」
そんな……。だったら、セレナールさんの容態はどんどん悪化するではないか。私は思わず無線を手に取った。
「これより、クレナイ家 第4出動の要請を行います。クレナイ家のヘリコプター操縦者は今すぐ王室の別荘に来てください!」
『申し訳ございません。強い雷雨のためヘリコプターを出すことが出来ません』
そんな……。だったら、どうやってセレナールさんを病院まで連れて行けばいいのだ。
「強気なナミネ、あんた、あの折り鶴で姉さん病院に連れてけ!」
「分かりました」
ナミネはセレナールさんを大きな折り鶴に乗せた。その時、ラルクが来た。
「ラルク!もうやめて!これだとセレナールさんの未来がなくなっちゃう!ラルクのためにもならないよ!」
ナミネはラルクに結界をかけた。けれど、ラルクはすぐに結界を解いた。
「ナミネ、僕を見くびるな!」
ラルクはセレナールさんに結界をかけた。
「ラルク!セレナールさん傷付けてもラルクは前に進めないよ!」
ナミネは折り鶴から降り、扇子を開いた。ラルクとナミネの扇子の風が大きくぶつかり合う。その時、床に光が現れた。ズームさんの錬金術だ!(違います。ズームは数式で結界を解いたのです)
「解!姉さん!あの折り鶴に乗ってセレナールさんを月城総合病院へ連れて行ってください!」
「分かったわ!」
ミネルナさんは、大きな折り鶴に乗り、セレナールさんを支え飛び立った。ラルクは追いかけようとしたが、ナミネが阻止した。
「ラルク、行かせないよ!」
「顔だけヨルク、僕らも行くぞ!」
え、行くって?落ち武者さんが走るとズームさんや皇太子様、リリカお姉様も走り出した。私は慌てて後を追った。
別荘の外に出ると馬がいた。ナノハナ家の馬だ。ナミネは、ラルクとの戦闘中に落ち武者さんに紙飛行機飛ばしたのか。
「顔だけヨルク、乗れ!」
え?落ち武者さんは私の腕を引っ張って馬に乗せた。そして猛スピードで町を走った。私は必死で落ち武者さんにしがみついた。
リリカお姉様と皇太子様は別々に乗っている。何故私だけ落ち武者さんと乗らなければならない。
町は大渋滞していて、物凄い雷雨だった。私たちはひたすら馬で町を駆け抜けた。
月城総合病院に着くと、セレナールさんは既に治療が終わった後で病室で点滴を受けていた。
「姉さん!セレナールさんは!」
「大丈夫よ!針治療で完全に毒を抜いてもらったわ!」
ハル院長は、ミネルナさんの的確な説明でセレナールさんの体内に入った毒を完全に取り除き、セレナールさんの治療を成功することが出来たらしい。でも、後10分遅かったら、ズームさんが言っていたようにセレナールさんは妊娠しても奇形児しか産むことが出来なかったようだ。
時針草は、古代の研究者が皇帝陛下の命令で囚人やそれに類似する者に罰を与えるために開発したらしい。当時の人らは時針草が与えられれば治療は施されず、3ヶ月放置された後にギロチンにかけられた。つまり、死刑執行の合図で与えられていたのだろう。しかし、現代での入手は不可能らしい。ラルクはどうやって手に入れたのだろう。まさか、タイムスリップした時に手に入れたのか?
それにしても、今日は落ち武者さんもセレナールさんも誕生日会だというのに、ラルクのせいで、このようなことになり、何だか可哀想だ。
「セレナール、無事で良かった」
「皇太子様……」
その時、私と落ち武者さんの携帯が鳴った。私と落ち武者さんは携帯を開けた。ナミネからのメールだった。
『ラルクは委員長の通報で、紅葉町の警察署にいます。身元引受け人が必要なので、リリカさんに来てもらうよう言ってください』
ナミネ、無事で良かった。
「リリカお姉様、ラルクが紅葉町の警察署にいるそうで、身元引受け人が必要だそうです」
「分かったわ、今行く」
「私も行くわ!このままじゃ黙ってられない!」
ラルクのしたことは決して許されることではない。セレナールさんは完全に怒ってる。
「セレナール、外は豪雨だ。伝言だけ伝えてもらおう」
セレナールさんはしばらく考えていた。
「分かったわ。手紙を書くわ」
セレナールさんは手紙を書き終わるとリリカお姉様に渡した。
「散々私をイジメておいて、結局犯罪行為したのラルクじゃない!」
セレナールさんはリリカお姉様を引っぱたいた。
「ごめんなさい。弟に変わって謝るわ」
それだけ言うとリリカお姉様は病室を出て紅葉町の警察署に向かって行った。
「あんたも強気なナミネ、迎えに行ってやれ。僕は姉さんに付き添ってる」
「今日は落ち武者さんの誕生日でしょ!私もここにいる」
ナミネのことは心配だけれど、こんな状態の落ち武者さんを放っておけない。
私は何気なくカップル日記を開いた。
『馬に乗るヨルクさん』
ナミネ、タイムスリップした時の写真アップしてくれてたんだ。
『ミナクとFメモリイ♡』
セナ王女は相変わらずだな。
『エミリとFメモリイFメモリイᥫᩣ』
これ、エミリさんの記憶戻ったらセレナールさん、とんでもないことになるんじゃないかな。
『アラン大好き』
何だか同情してしまう。
ナルホさんは、パーティー会場に少し顔を出した後、ナヤセスさんのマンションに行ったらしい。
セナ王女とアルフォンス王子はカラン王子が王妃に相談したことにより、王妃が通報して紅葉町の警察署に連行された後、セイさんの母親が迎えに来て、今日はセイさんの家で泊まるようだ。
セレナールさんは点滴が終わるとミネルナさんにお礼を言い、皇太子様と共に皇室の別荘へと向かって行った。
雨も止んだし、交通面も元に戻っている。
「あ、ズームさんとミネルナさんはクレナイ家に泊まっていきますか?」
え、この間は何だろう。何だか気まずい。
「では、そうさせてもらいます」
「え、ええ、私も」
その時、リリカお姉様からメールが来た。
『紅葉町の警察署に行ったらナミネがずっとラルクに着いてたらしいんだけど、ナミネが顔から全身傷だらけで近くの病院で注射打ってもらったわ!あの子、ずっと痛みを我慢してたのよ!今、クレナイ家で寝てるわ!ニンジャ妖精とラハルも来てる!あんたも早く帰って来なさい!』
そんな、ナミネが……。どうして何も言ってくれなかったのだろう。
「落ち武者さん、ナミネが……!」
「今すぐクレナイ家に行くぞ!」
私たちは月城総合病院を出てタクシーを拾いクレナイ家に向かった。
クレナイ家に着くと、ナミネはラルクの部屋でラルクの隣の布団で寝ていた。そして、何故かニンジャ妖精さんとラハルさんがいる。カナエさんが看病してくれていたのだろうか。
「すみません、カナエさん」
カナエさんはキクリ家に戻らないのかな。
「カナエは夕ご飯を作ってきますので、ヨルクはナミネの側にいてあげてください」
「は、はい」
「ナミネはラルクに結界をかけた後、ラルクから仲直りしたいから結界の中に入って欲しいって言われ、通し(おとし)で入ったら結界を縮められ全身殴られたみたい。ナミネはラルクの気が済むまで殴ってと言ったそうよ」
酷すぎる。ナミネの可愛い顔に大きなアザ。全身もアザだらけなのだろうか。ナミネは守る価値のない人を守って犠牲になったのに。セレナールさんは本当に卑怯な人だ。
「ラルクはどうしてセレナールさんに、あんなことしたんですか?」
「伝説武官に届かなかったのを馬鹿にされたことと、皇太子様と交際して自分だけ幸せになることが気に入らなかったのよ」
そんな理由でおおごとにしたのか。でも、これで誰がセレナールさんを嫌っているのかハッキリはした。けど、いつも自信満々のラルクがここまで追い詰められるなんて。
「ヨルクさん……行かないで……」
ナミネ、寝言でうなされてる。
「ナミネ、私はここにいるよ。どこにも行かない」
私はナミネの手を握った。
「ヨルクさん!行かないで!」
「ナミネ、私はずっとナミネのそばにいる」
私はナミネの汗をハンカチで拭いた。
「どうして……どうして……僕じゃなくてヨルクさんなんですか!ナミネさん!!」
「おい、起こすな!寝かせてやれ!」
リリカお姉様は、ため息をついた。
「ラハルはここにいていいけど、どうしてニンジャ妖精がここにいるの?自分のアパートに帰りなさいよ!クレナイ家は溜まり場じゃないわ!」
何だ、その差別発言は……。
「ナミネさんがこんな状況で帰れません!」
「リーダー、帰りましょう!僕はよそ様に迷惑かけたくありません!」
あれ、ナミネな枕元に何かある。落ち武者さんに渡すはずだった誕生日プレゼントか。って、落ち武者さん勝手に開けてるし!
手袋……。もうそんな季節か。10月からあまりに色んなことがありすぎて季節さえも忘れていた。
「あの、でも、エミリさんが記憶戻ったらどうなるんですか?」
「お武家連盟会議でも話しているみたいだけど、エミリの記憶が戻ったらエミルがセレナールを訴えるらしいわ。ラルクがそれまで待てていれば良かったのだけど」
ラルクはすぐに復讐をしなければいけないほど苛立っていたのか。でも、ナミネを傷付けたことは許せない。
「過去が変わったんじゃない。未来が変わったんだ」
未来……か。だったら、いっそのこと、今すぐにキクスケさんにお願いしてエミリさんの記憶を取り戻させたい。
「エミリも可哀想だな。好きな男取られて、好きでもない男に、あんな目にあわされてさ」
え……。エミリさんは皇太子様と何もなかったのか?
「ねえ、落ち武者さん、なんでそんなことまで知ってるの?」
「セリルとカナコの話聞いてたからだけど?」
それじゃあ、エミリさんは……。
「じゃあ、エミリさんの記憶戻ったらどうなるの?」
「姉さんはカラクリ家から慰謝料請求されるだろうね?皇太子とも別れるかもね?」
「だったら、今回助かっても、この先はどの道苦しむ未来だよね?」
それを分かってて落ち武者さんは今回ナミネのみを犠牲にしたの?
「あのな、誰が誰を好きになろうが、姉さんの勝手だろ!森の湖の姉さんイヤガラセされた時、カナコかなり怒ってたけど?でも、皇帝陛下が不問にした。向こうの時代も今の時代もね。でも、カナコが訴えたいのは姉さんじゃなく、ラルクだ!セリルがいる以上、カナコは姉さんの味方につく。いくらカラクリ家が姉さん訴えても、それはカラクリ家と姉さんの問題。姉さんがラルク訴えれば少年院行きかもね?」
結局は手を出したほうの負けということか。ラルクは恋愛に呑まれ犯罪を犯したということなのか。悔しいけど言い返せない。セレナールさんは騙すことしかしていない。それに対してラルクはイヤガラセさせたり、毒を刺したりした。セレナールさんはエミリさんからしか恨まれないわけか。
「そうか……」
「けど、今回カナコが訴えたとしても皇帝陛下はラルクを不問にする。ラルクのバックには誰かいるんだろうね?姉さんはいくらカナコが味方についても、エミリと皇太子の記憶が戻れば、皇太子から捨てられ、結局ラルクに縋るだろうから、一番不利なのは姉さんなんだよ。顔だけしか取り柄ないからな」
それって、1周回るだけではないか。それに皇太子様から見捨てられたらセレナールさんはまた青春を失い、恋愛不安になるだろう。ラルクに縋られたりなんかされたら正直迷惑だ。
「これだから、セレナールとラルクの交際は反対だったのよ。こんなふうに面倒ごとに巻き込まれるから。ミナクもミナクよ。セナ王女なんてクレナイ家には相応しくないのに」
セナ王女は強い。けれど、自己主張が強すぎるのが棘だ。やはり、武家同士の交際が1番いいのだろうか。
「皆さん、夕ご飯が出来ましたよ。第4居間に来てください」
「あ、私が案内します」
「私が案内するわ。ニンジャ妖精も来なさい!」
リリカお姉様はズームさんたちを第4居間に案内した。……。カンザシさんとミツメさんはいかないのか?
「ヨルクさん!!」
「ナミネ!!」
「ヨルクさん……怖い夢を見ました」
「ナミネ、身体は大丈夫なの?」
「大丈夫です」
でも、まだ熱はあるみたいだ。汗も凄い。
「じゃ、風呂に入れてくる」
「ねえ、落ち武者さん、どうしてナミネに構うの?落ち武者さんにはエルナがいるよね?」
「あのね、ヨルクさん、ラルクに話があるの。だから、今日はラルクとお風呂に入るね」
話って?どうしてラルクと一緒にお風呂に入るの?
「ナミネさん!僕と一緒にお風呂に入ってください!」
何故ことをややこしくさせる。
「ごめんなさい。どうしてもラルクと話したいんです。行くよ、ラルク」
ラルクは起き上がった。ずっと起きていて、私たちの話を聞いていたのか。
「ねえ、ナミネ、本当にラルクとお風呂に入るの?」
「はい」
正直、複雑な気持ちである。けれど、今引き止めてまたナミネの機嫌を損ねてしまったら、それこそ取り返しがつかなくなる。
「分かった。湯冷めしないでね」
「ヨルクさん、大好き!」
ナミネは私に抱き着いた。
ナミネがラルクとお風呂に向かった後、私たちは第4居間に向かった。
第4居間の扉を開けた瞬間、私はズームさんとぶつかった。
「すみません」
あ、メガネ落ちてる。私はズームさんのメガネを拾った。
「あ、メガネ落ちましたよ」
……。誰?
「ありがとうございます」
ちょっと待って!めちゃくちゃイケメン!!昔のナミネはズームさんの容姿で、ズームさんとの交際を決めたのだろうか。てか、グルグル妖精さんのマンションで見た昔のナミネの映像で、彼氏は時計騎士って言ってたの、まさかズームさん!?
ズームさんはメガネをかけるとトイレに向かって行った。
周りで色んな出来事が起きる中、私は1人昔のナミネの恋愛について気にしていた。そして、現世でもナミネのことで物凄く不安になっていたのである。
……
あとがき。
走り書きには全くないラルクの執念が凄い。
でも、信じていた愛が偽物だったと何世紀も経ってから知らされたら心折れるかも?
セレナールは助かったけど、レナードとエミリの記憶が戻ったらどうなるのだろう。妖精村の象徴なセレナールはどうして普通に幸せになれないのか。
エミリとレナードには早く記憶戻って欲しいです。
《ヨルク》
今日は落ち武者さんの誕生日だ。
淡い膝下丈のオレンジ色のかすみ草の刺繍のドレスを着たナミネ可愛すぎる。パーティー会場は、王室の別荘なだけに貴族がたくさん来ていた。
けれど、落ち込むラルクを見て、ナミネが悲しまないか私は心配だった。
あれ、ナミネがいなくなっている。落ち武者さんも。
私はナミネを探した。すると、ナミネはパーティー会場の入口にいた。私はナミネの元に駆け寄った。
え、リリカお姉様と、セナ王女とアルフォンス王子もいる?ここで何をしているのだろう。
「ナミネ、何してるの?」
「顔だけヨルク!姉さんがラルクに針刺された!」
そんなまさか!ラルクは割り切ったのではなかったのか?
「え……」
どうしたらいいのだろう。私はリリカお姉様に腕を掴まれた。
「ヨルク、もうここまで来たらセレナールを許せないわ!」
「リリカお姉様、これは流石に違うでしょう!」
あれ、目を背けた?
「落ち武者さん、今救急車呼ぶね!」
「無駄だ!」
え、何?セナ王女とアルフォンス王子……。王室のF938……。まさか、リリカお姉様は脅されたのか!?
「セナ王女、アルフォンス王子、リリカお姉様を脅したんですか?」
それともリリカお姉様の意思で組んだのだろうか。どちらにしても、復讐を続けるなんて間違っている。
「あら、リリカが提案したことよ」
でも、リリカお姉様の顔色が悪い。リリカお姉様は2人に話を持ちかけたが、それを利用されてリリカお姉様の不利な結論になってしまったということだろうか。
「姉さんは確かに酷いことした。でも、あれでも、小さい頃は僕の誕生をセリルと一緒に喜んでくれたんだ」
落ち武者さん……。セレナールさんの教師時代は水子だった落ち武者さんが、現世ではこうやって生きている。
あれ、さっきから、ナミネが一言も話してない。どうしてだろう。
「ズームさん!」
え、ズームさん?
「ズーム!姉さんは!」
「毒ですね。速効性のあるものではなく、ゆっくり、刺した部分を腐敗するものです。卵巣に刺されていました。ラルクさんはセレナールさんを現世では妊娠させないおつもりでしょう。毒は24時間で完全に卵巣が機能しなくなります。12時間も経てば取り除かなくてはなりませんが、今この瞬間も毒は進んでいます」
12時間。そんな長時間こんなところで足止めなんて出来ないだろう。だったら、どうして、ナミネたちは足止めされているのだ?
「あの、12時間もこんなところで時間稼ぎなんて出来ませんよね?」
「1時間で妊娠しても奇形児しか生まれなくなり、3時間で妊娠しても悪魔が生まれてしまい、6時間で妊娠しても流産し、9時間で妊娠しても死産、12時間で卵巣の半分に毒が回り取り除く必要があるのです。毒は時針草です。ナミネさんが気付かないと思い、24時間後にセレナールさんの卵巣の腐敗を待つつもりが、予定外となったんです」
つまり、ナミネが気付かなければ、みんなにとって好都合というわけだったのか。
「リリカはどれだけ関わってる?」
「リリカさんは、ラルクさんがセレナールさんに針を刺したのを見るなり、セナ王女と目が合ってしまい、絶対助けるなと言われました。そのことがなければ、セレナールさんの容態を確かめたでしょう」
良かった。リリカお姉様が見て見ぬふりしようとしたわけではなくて。けれど、このまま足止めされては、毒が進行してしまう。
ズームさんは皇室のF938をセナ王女とアルフォンス王子に見せた。いったいどこで手に入れたのだろう。
「人を殺すのはよくありませんね。セレナールさんはもうすぐ病院に運ばれます」
ナミネはズームさんの助けを待っていたのか。
「卑怯じゃない!私、セレナールのせいで二度までもカラルリと交際させられて苦痛だわ!私を流産させたカラルリと!」
「私もセレナールのような悪魔が傍にいたら夜も眠れない。ここでセレナールの人生を奪わないと」
セレナールさんをトケイ草で流産させといて今更被害者ヅラしても遅いだろうに。
「ズーム!何してるの!」
え、誰?随分と綺麗な人だな。友達だろうか。
「姉さん!毒盛られました!あの銀髪の女性をここに連れて来てください」
ね、姉さん!?あまり似てないような……。
「分かったわ!」
「させないわ!」
その瞬間、ズームさんのお姉様は口笛を吹いた。すると、10匹くらいの小さい犬が現れた。随分小さいな。まだ生まれたばかりの犬だろうか。
しかし、その犬はセナ王女とアルフォンス王子に噛み付いた。
「痛い!」
「くっ!」
2人の手はあっという間に血まみれになった。え、この犬何?小型犬はリリカお姉様にも噛み付こうとした。私は咄嗟に庇った。
「ヨルクさん!」
けれどナミネが私を庇った。
「ナミネ!危ないから向こう行って!」
すると、小型犬はナミネに懐き、大人しくナミネに抱っこされた。
「噛んじゃダメだよ」
小型犬を抱っこするナミネ可愛すぎる。けれど、この小型犬っていったい……。
「この犬何なんだよ!」
「番犬です」
こんな小さな犬が番犬なのか。はじめて見る種類だ。その時、ズームお姉様がセレナールさんと皇太子様を連れて来た。
「セナさん、何があったの?……あの、私はキクリ家 長男 カラルリと申す。そなたの名前を教えて欲しい」
え、何この展開。てか、この展開いらないよね。
「ブランケット家 長女 ミネルナ。この銀髪の子、毒を体内に入れられたわ」
ブランケット家。聞いたことないな。
「セレナールが!?」
セナ王女に中絶薬を盛ったカラルリさんが心配した素振り見せると、何だか嘘らしく感じてしまう。
「セナ、どういうことだ!」
「私じゃないわよ!ラルクがやったのよ!」
F938使ってセレナールさんの容態悪化させようとした時点で、もう共犯者だよね。
「ねえ、助けて!」
「ズーム、救急車はどうなってるの?」
「交通事故が発生して大渋滞に呑み込まれてます」
そんな……。だったら、セレナールさんの容態はどんどん悪化するではないか。私は思わず無線を手に取った。
「これより、クレナイ家 第4出動の要請を行います。クレナイ家のヘリコプター操縦者は今すぐ王室の別荘に来てください!」
『申し訳ございません。強い雷雨のためヘリコプターを出すことが出来ません』
そんな……。だったら、どうやってセレナールさんを病院まで連れて行けばいいのだ。
「強気なナミネ、あんた、あの折り鶴で姉さん病院に連れてけ!」
「分かりました」
ナミネはセレナールさんを大きな折り鶴に乗せた。その時、ラルクが来た。
「ラルク!もうやめて!これだとセレナールさんの未来がなくなっちゃう!ラルクのためにもならないよ!」
ナミネはラルクに結界をかけた。けれど、ラルクはすぐに結界を解いた。
「ナミネ、僕を見くびるな!」
ラルクはセレナールさんに結界をかけた。
「ラルク!セレナールさん傷付けてもラルクは前に進めないよ!」
ナミネは折り鶴から降り、扇子を開いた。ラルクとナミネの扇子の風が大きくぶつかり合う。その時、床に光が現れた。ズームさんの錬金術だ!(違います。ズームは数式で結界を解いたのです)
「解!姉さん!あの折り鶴に乗ってセレナールさんを月城総合病院へ連れて行ってください!」
「分かったわ!」
ミネルナさんは、大きな折り鶴に乗り、セレナールさんを支え飛び立った。ラルクは追いかけようとしたが、ナミネが阻止した。
「ラルク、行かせないよ!」
「顔だけヨルク、僕らも行くぞ!」
え、行くって?落ち武者さんが走るとズームさんや皇太子様、リリカお姉様も走り出した。私は慌てて後を追った。
別荘の外に出ると馬がいた。ナノハナ家の馬だ。ナミネは、ラルクとの戦闘中に落ち武者さんに紙飛行機飛ばしたのか。
「顔だけヨルク、乗れ!」
え?落ち武者さんは私の腕を引っ張って馬に乗せた。そして猛スピードで町を走った。私は必死で落ち武者さんにしがみついた。
リリカお姉様と皇太子様は別々に乗っている。何故私だけ落ち武者さんと乗らなければならない。
町は大渋滞していて、物凄い雷雨だった。私たちはひたすら馬で町を駆け抜けた。
月城総合病院に着くと、セレナールさんは既に治療が終わった後で病室で点滴を受けていた。
「姉さん!セレナールさんは!」
「大丈夫よ!針治療で完全に毒を抜いてもらったわ!」
ハル院長は、ミネルナさんの的確な説明でセレナールさんの体内に入った毒を完全に取り除き、セレナールさんの治療を成功することが出来たらしい。でも、後10分遅かったら、ズームさんが言っていたようにセレナールさんは妊娠しても奇形児しか産むことが出来なかったようだ。
時針草は、古代の研究者が皇帝陛下の命令で囚人やそれに類似する者に罰を与えるために開発したらしい。当時の人らは時針草が与えられれば治療は施されず、3ヶ月放置された後にギロチンにかけられた。つまり、死刑執行の合図で与えられていたのだろう。しかし、現代での入手は不可能らしい。ラルクはどうやって手に入れたのだろう。まさか、タイムスリップした時に手に入れたのか?
それにしても、今日は落ち武者さんもセレナールさんも誕生日会だというのに、ラルクのせいで、このようなことになり、何だか可哀想だ。
「セレナール、無事で良かった」
「皇太子様……」
その時、私と落ち武者さんの携帯が鳴った。私と落ち武者さんは携帯を開けた。ナミネからのメールだった。
『ラルクは委員長の通報で、紅葉町の警察署にいます。身元引受け人が必要なので、リリカさんに来てもらうよう言ってください』
ナミネ、無事で良かった。
「リリカお姉様、ラルクが紅葉町の警察署にいるそうで、身元引受け人が必要だそうです」
「分かったわ、今行く」
「私も行くわ!このままじゃ黙ってられない!」
ラルクのしたことは決して許されることではない。セレナールさんは完全に怒ってる。
「セレナール、外は豪雨だ。伝言だけ伝えてもらおう」
セレナールさんはしばらく考えていた。
「分かったわ。手紙を書くわ」
セレナールさんは手紙を書き終わるとリリカお姉様に渡した。
「散々私をイジメておいて、結局犯罪行為したのラルクじゃない!」
セレナールさんはリリカお姉様を引っぱたいた。
「ごめんなさい。弟に変わって謝るわ」
それだけ言うとリリカお姉様は病室を出て紅葉町の警察署に向かって行った。
「あんたも強気なナミネ、迎えに行ってやれ。僕は姉さんに付き添ってる」
「今日は落ち武者さんの誕生日でしょ!私もここにいる」
ナミネのことは心配だけれど、こんな状態の落ち武者さんを放っておけない。
私は何気なくカップル日記を開いた。
『馬に乗るヨルクさん』
ナミネ、タイムスリップした時の写真アップしてくれてたんだ。
『ミナクとFメモリイ♡』
セナ王女は相変わらずだな。
『エミリとFメモリイFメモリイᥫᩣ』
これ、エミリさんの記憶戻ったらセレナールさん、とんでもないことになるんじゃないかな。
『アラン大好き』
何だか同情してしまう。
ナルホさんは、パーティー会場に少し顔を出した後、ナヤセスさんのマンションに行ったらしい。
セナ王女とアルフォンス王子はカラン王子が王妃に相談したことにより、王妃が通報して紅葉町の警察署に連行された後、セイさんの母親が迎えに来て、今日はセイさんの家で泊まるようだ。
セレナールさんは点滴が終わるとミネルナさんにお礼を言い、皇太子様と共に皇室の別荘へと向かって行った。
雨も止んだし、交通面も元に戻っている。
「あ、ズームさんとミネルナさんはクレナイ家に泊まっていきますか?」
え、この間は何だろう。何だか気まずい。
「では、そうさせてもらいます」
「え、ええ、私も」
その時、リリカお姉様からメールが来た。
『紅葉町の警察署に行ったらナミネがずっとラルクに着いてたらしいんだけど、ナミネが顔から全身傷だらけで近くの病院で注射打ってもらったわ!あの子、ずっと痛みを我慢してたのよ!今、クレナイ家で寝てるわ!ニンジャ妖精とラハルも来てる!あんたも早く帰って来なさい!』
そんな、ナミネが……。どうして何も言ってくれなかったのだろう。
「落ち武者さん、ナミネが……!」
「今すぐクレナイ家に行くぞ!」
私たちは月城総合病院を出てタクシーを拾いクレナイ家に向かった。
クレナイ家に着くと、ナミネはラルクの部屋でラルクの隣の布団で寝ていた。そして、何故かニンジャ妖精さんとラハルさんがいる。カナエさんが看病してくれていたのだろうか。
「すみません、カナエさん」
カナエさんはキクリ家に戻らないのかな。
「カナエは夕ご飯を作ってきますので、ヨルクはナミネの側にいてあげてください」
「は、はい」
「ナミネはラルクに結界をかけた後、ラルクから仲直りしたいから結界の中に入って欲しいって言われ、通し(おとし)で入ったら結界を縮められ全身殴られたみたい。ナミネはラルクの気が済むまで殴ってと言ったそうよ」
酷すぎる。ナミネの可愛い顔に大きなアザ。全身もアザだらけなのだろうか。ナミネは守る価値のない人を守って犠牲になったのに。セレナールさんは本当に卑怯な人だ。
「ラルクはどうしてセレナールさんに、あんなことしたんですか?」
「伝説武官に届かなかったのを馬鹿にされたことと、皇太子様と交際して自分だけ幸せになることが気に入らなかったのよ」
そんな理由でおおごとにしたのか。でも、これで誰がセレナールさんを嫌っているのかハッキリはした。けど、いつも自信満々のラルクがここまで追い詰められるなんて。
「ヨルクさん……行かないで……」
ナミネ、寝言でうなされてる。
「ナミネ、私はここにいるよ。どこにも行かない」
私はナミネの手を握った。
「ヨルクさん!行かないで!」
「ナミネ、私はずっとナミネのそばにいる」
私はナミネの汗をハンカチで拭いた。
「どうして……どうして……僕じゃなくてヨルクさんなんですか!ナミネさん!!」
「おい、起こすな!寝かせてやれ!」
リリカお姉様は、ため息をついた。
「ラハルはここにいていいけど、どうしてニンジャ妖精がここにいるの?自分のアパートに帰りなさいよ!クレナイ家は溜まり場じゃないわ!」
何だ、その差別発言は……。
「ナミネさんがこんな状況で帰れません!」
「リーダー、帰りましょう!僕はよそ様に迷惑かけたくありません!」
あれ、ナミネな枕元に何かある。落ち武者さんに渡すはずだった誕生日プレゼントか。って、落ち武者さん勝手に開けてるし!
手袋……。もうそんな季節か。10月からあまりに色んなことがありすぎて季節さえも忘れていた。
「あの、でも、エミリさんが記憶戻ったらどうなるんですか?」
「お武家連盟会議でも話しているみたいだけど、エミリの記憶が戻ったらエミルがセレナールを訴えるらしいわ。ラルクがそれまで待てていれば良かったのだけど」
ラルクはすぐに復讐をしなければいけないほど苛立っていたのか。でも、ナミネを傷付けたことは許せない。
「過去が変わったんじゃない。未来が変わったんだ」
未来……か。だったら、いっそのこと、今すぐにキクスケさんにお願いしてエミリさんの記憶を取り戻させたい。
「エミリも可哀想だな。好きな男取られて、好きでもない男に、あんな目にあわされてさ」
え……。エミリさんは皇太子様と何もなかったのか?
「ねえ、落ち武者さん、なんでそんなことまで知ってるの?」
「セリルとカナコの話聞いてたからだけど?」
それじゃあ、エミリさんは……。
「じゃあ、エミリさんの記憶戻ったらどうなるの?」
「姉さんはカラクリ家から慰謝料請求されるだろうね?皇太子とも別れるかもね?」
「だったら、今回助かっても、この先はどの道苦しむ未来だよね?」
それを分かってて落ち武者さんは今回ナミネのみを犠牲にしたの?
「あのな、誰が誰を好きになろうが、姉さんの勝手だろ!森の湖の姉さんイヤガラセされた時、カナコかなり怒ってたけど?でも、皇帝陛下が不問にした。向こうの時代も今の時代もね。でも、カナコが訴えたいのは姉さんじゃなく、ラルクだ!セリルがいる以上、カナコは姉さんの味方につく。いくらカラクリ家が姉さん訴えても、それはカラクリ家と姉さんの問題。姉さんがラルク訴えれば少年院行きかもね?」
結局は手を出したほうの負けということか。ラルクは恋愛に呑まれ犯罪を犯したということなのか。悔しいけど言い返せない。セレナールさんは騙すことしかしていない。それに対してラルクはイヤガラセさせたり、毒を刺したりした。セレナールさんはエミリさんからしか恨まれないわけか。
「そうか……」
「けど、今回カナコが訴えたとしても皇帝陛下はラルクを不問にする。ラルクのバックには誰かいるんだろうね?姉さんはいくらカナコが味方についても、エミリと皇太子の記憶が戻れば、皇太子から捨てられ、結局ラルクに縋るだろうから、一番不利なのは姉さんなんだよ。顔だけしか取り柄ないからな」
それって、1周回るだけではないか。それに皇太子様から見捨てられたらセレナールさんはまた青春を失い、恋愛不安になるだろう。ラルクに縋られたりなんかされたら正直迷惑だ。
「これだから、セレナールとラルクの交際は反対だったのよ。こんなふうに面倒ごとに巻き込まれるから。ミナクもミナクよ。セナ王女なんてクレナイ家には相応しくないのに」
セナ王女は強い。けれど、自己主張が強すぎるのが棘だ。やはり、武家同士の交際が1番いいのだろうか。
「皆さん、夕ご飯が出来ましたよ。第4居間に来てください」
「あ、私が案内します」
「私が案内するわ。ニンジャ妖精も来なさい!」
リリカお姉様はズームさんたちを第4居間に案内した。……。カンザシさんとミツメさんはいかないのか?
「ヨルクさん!!」
「ナミネ!!」
「ヨルクさん……怖い夢を見ました」
「ナミネ、身体は大丈夫なの?」
「大丈夫です」
でも、まだ熱はあるみたいだ。汗も凄い。
「じゃ、風呂に入れてくる」
「ねえ、落ち武者さん、どうしてナミネに構うの?落ち武者さんにはエルナがいるよね?」
「あのね、ヨルクさん、ラルクに話があるの。だから、今日はラルクとお風呂に入るね」
話って?どうしてラルクと一緒にお風呂に入るの?
「ナミネさん!僕と一緒にお風呂に入ってください!」
何故ことをややこしくさせる。
「ごめんなさい。どうしてもラルクと話したいんです。行くよ、ラルク」
ラルクは起き上がった。ずっと起きていて、私たちの話を聞いていたのか。
「ねえ、ナミネ、本当にラルクとお風呂に入るの?」
「はい」
正直、複雑な気持ちである。けれど、今引き止めてまたナミネの機嫌を損ねてしまったら、それこそ取り返しがつかなくなる。
「分かった。湯冷めしないでね」
「ヨルクさん、大好き!」
ナミネは私に抱き着いた。
ナミネがラルクとお風呂に向かった後、私たちは第4居間に向かった。
第4居間の扉を開けた瞬間、私はズームさんとぶつかった。
「すみません」
あ、メガネ落ちてる。私はズームさんのメガネを拾った。
「あ、メガネ落ちましたよ」
……。誰?
「ありがとうございます」
ちょっと待って!めちゃくちゃイケメン!!昔のナミネはズームさんの容姿で、ズームさんとの交際を決めたのだろうか。てか、グルグル妖精さんのマンションで見た昔のナミネの映像で、彼氏は時計騎士って言ってたの、まさかズームさん!?
ズームさんはメガネをかけるとトイレに向かって行った。
周りで色んな出来事が起きる中、私は1人昔のナミネの恋愛について気にしていた。そして、現世でもナミネのことで物凄く不安になっていたのである。
……
あとがき。
走り書きには全くないラルクの執念が凄い。
でも、信じていた愛が偽物だったと何世紀も経ってから知らされたら心折れるかも?
セレナールは助かったけど、レナードとエミリの記憶が戻ったらどうなるのだろう。妖精村の象徴なセレナールはどうして普通に幸せになれないのか。
エミリとレナードには早く記憶戻って欲しいです。
純愛偏差値 未来編 一人称版 55話
《ナミネ》
ラルクは森の湖にいる昔のセレナールさんに復讐をした。けれど、セレナールさんはエミリさんから皇太子様を奪い、2年後、紀元前村に行き、カラクリ家で過ごすという、元々の歴史通りになった。また、ラルクとは教師時代にラルクの猛アタックで交際している。
歴史とは何て奇妙にできているのだろう。
無理矢理変えても元に戻ってしまう。
歴史は絶対に変えられないように出来ているのだろうか。
それにしても一つだけ腑に落ちない。
どうして、エミリさんは現世でアランさんと交際しているのだろうか。やっぱりラルクが歴史を変えてしまったことと何か関係しているのだろうか。
落ち武者さんは伝説上級武官試験に合格したものの、ラルクは伝説には辿り着けず、特殊武官止まりだった。また、ズームさんは時計騎士試験に合格し、現世でも時計騎士を目指すらしい。
けれど、問題はラルクだ。復讐を終えて吹っ切ったはずなのに……違っていた。ラルクの根底の中ではまだ折り合いが付けられていないのかもしれない。だとしたら、ラルクはまだ正気に戻っていない可能性もある。私が何度も励ましてもラルクは私を目の敵にした。いったいどうしたらいいの。
落ち武者さんの誕生日はもうすぐだ。
セレナールさんとカナエさんもセナ王女の別荘で一緒に誕生日会を開く。あ、せっかくズームさんと知り合ったんだし、誘ってみよう。
「あの、30日に落ち武者さんとセレナールさん、カナエさんの誕生日会がセナ王女の別荘で開かれるんですけど、ズームさんも来ませんか?」
え、またこの間……。
「行きます」
声ちっさ!でも、来るんだ。
「あ、一応王室のパーティーなので、フォーマルとか……」
「持ってます」
「で、ですよね」
あんなでっかい家に住んでるんだから、パーティーに着ていく服なんかいっぱいあるか。
その時、ヨルクさんが番人部屋から戻って来た。
「ナミネ、時計騎士試験受かったよ」
え!ヨルクさんが!?私のほうが訓練いっぱいして来たのに。
「な、何回で合格したんですか?」
「1回だよ」
1回!?私なんて7回受けたのに!
「あんた、意外に反射神経良いんだな」
「時計騎士は、日常的に買い出しや料理、掃除、洗濯などの家事をしている人のほうが時間に正確だから受かる率が高いんですよ」
そうだったのか。ヨルクさんは規則正しい生活送ってるもんな。ヨルクさんは時計騎士するのだろうか。
「ヨルクさんは、時計騎士になるんですか?」
「ならないよ。ナミネが持ってるから体験してみた。これで、ナミネとお揃いの資格が出来たね」
はあ、ラルクは伝説に辿り着けままだというのに、ヨルクさんはちゃっかり時計騎士の資格取っちゃって。
「あ、落ち武者さんは時計騎士はどうするんですか?」
「考えてないけど?まずは夢騎士優先だし」
「ラルクがこんな状態ですし、夢騎士試験は遅らせますか?」
「あんた、なんでラルクに合わせんのさ。受けれる時に受けとかないでいつ受けんのさ。ラルクに合わせて今度はあんたが受けられない状況もあるかもしんないんだぞ!あんたも近々受けとけ!」
そういうものか。私は今は受けれる状態だけど、いざラルクが受けられる状態になって私が受けられなかったら意味ないもんな。ここは、自分軸か。
「ねえ、どうして落ち武者さんがいるの?」
そっか。セナ王女とナルホお兄様、ズームさん以外は帰ったんだっけ。
「村八分の家に帰れるかよ!」
「ねえ、ラルク。ラルクは今は受けなくていいよ。武官に拘ることないと思うしさ。ラルクは教師目指してるんだもん」
「ナミネ、馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
ラルクは私を突き飛ばした。私はラルクを花札で拘束し、岩の結界をかけ、畳に着地した。
「解!」
「ラルク、これが今のラルクの実力なんだよ。現実と向き合いなよ!セレナールさんの残像ばっか見てると、いつまでも特殊武官止まりだよ!」
「ナミネ、今のラルクを追い詰めるのは逆効果だよ」
ナルホお兄様は結界を解いた。ラルクは泣きながら2階へ行った。
「あんたら、時計騎士の制服着て並べよ。記念写真撮ってやる」
せっかくだから撮ってもらおうかな。私は廊下で着替えるとまた第4居間に入り、ズームさんとヨルクさんの真ん中に立つと落ち武者さんがシャッターボタンを押した。私はまた廊下でルームウェアに着替え直した。
「ナミネ、今日は何食べたい?」
「じゃ、オムライス」
「落ち武者さんに聞いてないんだけど!」
「私、食欲ないのでいいです」
とてもじゃないけど、こんな時に自分だけ楽しむ気分にはなれなかった。
「ヨルク、今夜はクレナイ食堂の料理頼んでくれるかな?」
「うん、分かった」
ヨルクさんは、使用人にクレナイ食堂の料理を人数分頼んだ。
「じゃ、強気なナミネ、風呂行くぞ」
「あ、はい」
「ねえ、落ち武者さん、ナミネは私の彼女なんだけど。ナミネ、一緒にお風呂入ろうね」
「はい」
私はヨルクさんに手を引っ張られ、お風呂に向かった。
お風呂ではヨルクさんが私を抱き締めた。
「久しぶりですね」
「うん」
ヨルクさんの紅葉の香りが強くなる。私はヨルクさんの首に腕を回し、何度もヨルクさんを好きだと言った。何か、息切れしてる。疲れてるのかな。
「ごめん」
え、なんで謝るの?
「ヨルクさんって、いつも弱気ですね!」
「ナミネがラルクのことばかりだから嫉妬した。ナミネと2人になりたかった」
「私だってそうです!ラルクのことは、落ち武者さんと3人で資格取ろうって話していましたので。別に特別扱いとかそんなんじゃありません」
特別扱いじゃないんだけどさ。ラルクとは、同学年でずっと一緒だったから、心配なんだよね。
「うん、そっか。ナミネ、酷いこと言ってごめんね」
「別に気にしてません」
もうっ、ヨルクさんて、すぐに泣くんだから。私はヨルクさんを抱き締めた。私とヨルクさんはしばらく抱き締め合っていた。
お風呂から上がり、第4居間に行くと、ニンジャ妖精さんとラハルさんがいた。てか、なんでいるの!?
「突然、記憶がなくなって、戻ると同時にナミネさんに連絡したけれど、繋がらなかったので心配で来ました」
連絡……?私は携帯を見た。メール206件……。怖っ!
「あ、すみません。私も記憶なくしてて、その後も色々バタバタしていたんです」
「そうでしたか。無事で良かったです」
カンザシさんは私を抱き締めた。うっ、汗ばんだタバコの臭い……。気絶しそう。その時、ラハルさんが、私からカンザシさんを離してくれた。
「カンザシ!僕は仕事全て終わらせて来たけど、カンザシはロクにレッスンもしないまま数日過ごし、ナミネにメールしてばかりで、ナミネからメールが来ないから来たんだろ」
「ラハルー!来てくれたのね。今日は私の部屋に泊まって」
リリカさん、ラハルさんがいるとすぐに来る。
「いや、今日は契約したアパートに帰るよ」
泊まらないんだ。てことは、ニンジャ妖精さんも?
「ナミネさん、今日は同じ部屋に泊まります!」
えええええ!なんでそうなるの?メールなんて見てる暇なかったし、ずっとラルクのこと心配だったのに。
「すみません。クレナイ家に来た時はヨルクさんの部屋に泊まってるんです」
てか、アパートに帰らないの?何のために契約したの?
「クレナイ家も広いね。両親何してるの?」
「サラリーマンしてます」
「建築士よ」
……。ヨルクさんてサバイバルになったら孤立しそう。
「あ、建築士でした」
「へえ、お父さん頑張ってるんだ」
「クレナイ家のお父様は愛妻家です!」
「ナミネも直球だねえ」
実際ナノハナ家だけなんだよね。庶子がいるの。キクリ家もカラクリ家もコノハ家も浮気なんかしてない。
「あ、ズームさんとこは愛妻家ですか?」
「知りません」
必要なこと以外は答えてくれないの?それとも、お金持ちあるあるの不倫三昧とか?
「ナミネさん、少し2人になれませんか?」
カンザシさんは、どうして私との距離を縮めようとするのだろう。いくら実の兄でも、何だか気まずいよ。
「すみません、私、ラルクのことが心配なんです」
私は落ち武者さんの腕を組んだ。
「リーダー!ここのところずっと、共演した女持ち帰ってるのに、まだ足りないんですか?」
カンザシさんて、女にだらしないんだ。何かやだな。
「シュリに頼まれただけだ!僕は何もしてない!」
「カンザシ、お前本当に最低だな」
「でも、ホイホイ着いてく女も女だよね」
私は無意識に言葉に出てしまっていた。
「ナミネはしっかりしてるけど、大抵の共演者はカンザシに誘われたら、すぐに着いていくんだ。マスコミの目だってあるし、何より他のメンバーが可哀想に思うよ」
まあ、カンザシさんの容姿なら女も着いていくよね。特に若い子は。
「ふむふむ、カンザシさんは手馴れているというわけですな。けれど、女はカンザシさんの容姿しか見てませんぞ」
「ナミネさん、本当にシュリに頼まれたんです」
シュリさん可哀想。
「しかし、それが本当なら女子が可哀想ですぞ。カンザシさんとの一夜を期待して入ったホテルの中には他の男がいた。もはや詐欺ですな」
「カンザシ、本当にいい加減にしろよ。カンザシみたいなのがいるから、同年代の他のグループも警戒されてるんだ」
デビューしたらデビューしたで、上玉の女に溺れたというわけか。昔の都会に染まる田舎育ちの男みたいだな。
「リーダー、流石に女遊びはもうやめてください!僕は真剣に芸能界に入ったんです!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんを殴ろうとしたがミツメさんは避けた。
「もう何を言ってもダメだな。ナミネ、僕も心配だったよ。でも、ちゃんと記憶覚えてて良かった。その髪型、前よりずっと似合ってる」
「ありがとうございます、ラハルさん。長いのも手入れが面倒で、思い切って美容院行ったんです」
ヨルクさんからも褒められたし、セミロングにして良かった。
「リーダー、リーダーならもっと真面目にやってください!だいたいナミネさんはリーダーにとってなんなんですか?」
「ナミネさんのことは記憶失う前に抱いた!」
どうして嘘つくかなあ。そんなのみんな信じないだろうに。
……。って、ニンジャ妖精さん、私のこと見てる!?
「いけませんなあ、嘘は。私はまだ中学生ですぞ」
「カンザシ、本当にナミネを抱いたのか?」
って、なんで私カンザシさんに抱かれたことになってるの!?
「抱いた!ナミネさんはじめてだったから、時間かけた!」
「カンザシ、お前!」
ラハルさんはカンザシさんを殴ろうとしたが、逆にカンザシさんがラハルさんを殴ろうとし、ミツメさんが止めた。
「ナミネ、カンザシさんと関係持ったの?」
何故、騙されやすい。
「どうして、こうも騙されやすいんですか!ついこないだまで生理だったのに、関係なんか持てるわけないでしょう!」
ラハルさんも信じ込んでるし、どうなってるの?私って、そんなに軽い女に見えるの?いやだな。誤解されたくない。
「カンザシ!まだ中学生なナミネを弄んだのか?」
「ナミネさんのことは真剣に抱いた!ナミネさんは右に身体を捩らせやすくて、潤んだ目になってた!終わるまで頬を赤らめながら恥じらい美しい声を出していた!」
なるほど。前世の時のことを明確に覚えているというわけか。けれど、こんなところで嘘つくなんて酷すぎる。
「あんたらさ、強気なナミネがカンザシに抱かれたと思ってんのかよ!」
うんうん、その調子。私の無実晴らして!って、なんで押し倒すの?
「きゃはは!落ち武者さん、くすぐったい!」
でも、やっぱり落ち武者さんの身体冷えてる。病気なのだろうか。私は落ち武者さんの背中をさすった。
「あんた、何してんのさ」
「落ち武者さんの身体冷えてるから温めてるんです!」
小さい時に大きな病気でもしたのかな。
「分かったか!こんな無邪気なヤツが処女奪われてるわけないだろ!」
何か微妙な言い方だけど、みんな信じてくれた雰囲気。ヨルクさん以外は。
「カンザシ!なんで嘘ついた!」
「本当に抱いたんだ!」
もうカンザシさんが分かんない。外で散々女遊びしてるのに、どうして私と関係持っただなんて言うのだろう。
「リーダー!いい加減にしてください!完全な片想いじゃないですか!実ることのない恋のせいでこっちはどれだけ迷惑しているか!」
「ナミネさんとは両想いだ!」
何なんだろう、この会話。何だかカンザシさんのこといやになってきた。ミツメさんは頭に血が登ったのか、カンザシさんを軽く殴った。
「ミツメ、お前、誰に向かって殴った!」
えっと、今度は正拳か?違う、禁止技だ!私と落ち武者さんは、ミツメさんを扇子で吹き飛ばした。
「どうして僕を攻撃したんですか!悪いのはリーダーでしょう!」
「あんた、禁止技は反則だ」
ミツメさんがニンジャ妖精さんのメンバーに加わってからは1番強いのはミツメさんになった。けれど、さっきのは知っていて喉を狙ったのだろうか。
「でも、僕もカンザシが悪いと思う。現にミツメが来てから、みんなへの暴力は格段に減ったし。格闘とか分からないけど、ミツメがいないと、みんな毎日カンザシに殴られていたと思うんだ」
難しいな。それなら普通の技で負かせば良かったのに。
この時の私は知らなかった。かつて、ミツメさんが大会で濡れ衣を着せられ失格になったことを。今でもミツメさんは、その時のことを恨みながら生きているということを。
私の疑いは落ち武者さんによって晴れたものの、ミツメさんは、あの後、何度もカンザシさんから責められた。私はヨルクさんの部屋でヨルクさんにカンザシさんと関係を持ったと思われ泣かれ、信じてもらえるまでかなり時間がかかった。ヨルクさんは、カンザシさんが私との前世を覚えていたことに気づかなかったらしい。
そして、いよいよ落ち武者さんの誕生日が来た。
セナ王女の別荘のパーティー会場には多くの貴族が来ていた。そして、何故かニンジャ妖精さんとラハルさんも来ていた。
私の時はプレゼントもらっていなかったから、私はセレナールさんとカナエさんにはチロルチョコを1つずつ渡した。
ラルクとは、気まずい関係が続いていて殆ど私が一方的に話しかける関係だった。それでも私は、ラルクは回復に向かっていると信じていたのだ。
エミリさんとアランさんはまるで恋人であるかのように手を繋いでいた。今の時代では不釣り合いな関係。
少しすると、信じられない光景を私は目にすることになる。
皇太子様が来たと思えば、セレナールさんの元に駆け寄った。
「セレナール、遅れてごめん」
「皇太子様……」
愛想を尽かしたラルクにすがっていたのは、ついこないだのことなのに。セレナールさんは、新たな駒を動かした。
セレナールさんと皇太子様は、パーティー会場の前で、マイク越しに語り合った。
「セレナール、遅くなったけど、誕生日おめでとう」
皇太子様は300本のレインボーの薔薇の花束と共にフェアリールナの紫色の月のネックレスが入った箱をセレナールさんに渡した。セレナールさんは、箱を開くなり皇太子様に抱き着いた。
「皇太子様、ありがとう!」
皇太子様はセレナールさんをお姫様抱っこした。
「みんな、聞いて欲しい。僕はクラスメイトのセレナールと交際をはじめた。セレナールは、心が清らかで誰にでも優しくて純粋で、どんな逆境にも打ち勝つ。そんな美しいセレナールに僕は惹かれた。セレナールを一生大切にする」
エミリさんがアランさんと交際しているカラクリはこういうことだったのか。
「私も、皇太子様の無垢な愛情に包まれてとっても幸せ。聞こえてる?ラルク!ラルクのことは弟のように可愛がってきた。だから、今1番祝福して欲しい。伝説武官試験落ちたことは私も本当に悲しいわ。でも、ラルクならやれる!頑張って!皇太子様とは互いに一目惚れだった。でも、その2つにない縁(えにし)を私は大切にしたい。皇太子様、愛してるわ!」
ラルクを名指しにして辱めるなんて、許せない。けれど、セレナールさんは強力なバックを手に入れた。こんなにも恐ろしい女を私は見たことがない。
私だけじゃない。グループのみんなが驚いていた。
「まさかセレナールがレナードと付き合うなんて」
「何だか腑に落ちないわ」
「エミリが可哀想なのです」
みんな負けごとを言うことしか出来ない。でも、悔しい。遠い昔、ラルクを騙したのに、現世でも騙していただなんて……。
「ラルク、あんなの気にすることないよ。長続きしないよ。そのうちエミリさんに打ちのめされるよ」
「ああ、あんな女だとは思わなかった。僕はまんまとあの容姿に騙されていたんだ」
ラルク、元に戻ったの?セレナールさんと皇太子様は、会場の拍手と共にこっちに向かって来た。
「セレナール、おめでとう」
「ありがとう、セナさん。ラルク、伝説武官落ちたくらいで落ち込むな!」
マイクで会場のみんなに聞こえるように言うだなんて。この女、どういう神経してるの?
「セレナール先輩、皇太子様との交際おめでとうございます。心から祝福します」
え、今セレナールさんの下腹部に2回針を刺した後、即抜いた?私は周りを見渡した。見ている人はいない。ズームさんとナルホお兄様は遠くにいる。でも、ここでラルクの味方したら私も共犯者になってしまう。
「ナミネ、ジュースだよ」
「あ、ありがとうございます」
私は震えた手でヨルクさんからジュースを受け取った。
ラルクの復讐は終わっていなかった。いや、セレナールさんが新たな駒を動かしたことによる抵抗なのかもしれない。
「ナミネさん、2人きりで話がしたいです」
タイミングが悪すぎる。
「すみません。せっかくパーティーに来たので私、パーティーを楽しみたいんです。落ち武者さん、お誕生日おめでとうございます」
私は落ち武者さんに抱き着いた。
「そうですよね。では夜に」
「すみません、今日はここに泊まるんです」
「え……」
「てか、あんたいつまでこうしてるつもりだよ。プレゼント寄越せ」
落ち武者さんは気付いているのだろうか。気付いていないなら言うべき?言わないべき?いや、言うしかない。
「落ち武者さん、話があるんです」
「ナミネさん、だったら、僕との時間を優先してください」
「でも、今日は落ち武者さんの誕生日だから、落ち武者さんを優先させてください」
「ナミネさん、15分だけでいいんです!」
どうして邪魔するの?カンザシさんって自分のことしか考えてない。昔の私はどうしてこんな人と交際していたのだろう。
「リーダー!もうやめてください!女ならいくらでもいるでしょう!」
ミツメさんがカンザシさんを引き止めている間に私は落ち武者さんの手を引っ張って猛スピードでパーティー会場を出た。
私は霧の結界と壁の結界をかけた。
「あんた、何なのさ」
「ラルクが、セレナールさんの下腹部2箇所に針を刺してたんです!」
「悪いけど、セレナールを助ける真似は許さないわ」
リリカさん!いつの間に入り込んでいたのだろう。リリカさんは岩の結界をかけた。
「強気なナミネ、結界解け!」
「リリカさん、このまま放っておけば、復讐は繰り返されます。そんなのラルクのためになりません!セレナールさんは必ず皇太子様と別れます!」
リリカさんとは敵同士になりたくない。
「おい、早く解け!!」
「はあ、分かったわ」
リリカさんは結界を全て解いた。その瞬間、アルフォンス王子とセナ王女が私と落ち武者さんにF938を見せた。
「リ、リリカさん……?」
そんな、事前に連絡し合っていたのか。
「悪いけどセレナールにはこのまま苦しんでもらうわ」
「ですが、なんの針か分からないことには、皆さんににメリットかデメリットか分かりません」
「だったら、ナミネが確認して来い!」
F938を使って私を脅すだなんて、何て卑怯なの。私は小さい紙飛行機をみんなにバレないようにズームさんに飛ばした。
「アルフォンス王子、私に命令しないでください!」
「ナミネ、何してるの?」
「顔だけヨルク!姉さんがラルクに針刺された!」
「え……」
……
あとがき。
もし、セレナールがレナードと交際していなければ、ラルクは何もしなかったのだろうか?
ラルクの闇堕ちはいつまで続くの?
キリのない展開。
果たして、セレナールは助かるのか?
《ナミネ》
ラルクは森の湖にいる昔のセレナールさんに復讐をした。けれど、セレナールさんはエミリさんから皇太子様を奪い、2年後、紀元前村に行き、カラクリ家で過ごすという、元々の歴史通りになった。また、ラルクとは教師時代にラルクの猛アタックで交際している。
歴史とは何て奇妙にできているのだろう。
無理矢理変えても元に戻ってしまう。
歴史は絶対に変えられないように出来ているのだろうか。
それにしても一つだけ腑に落ちない。
どうして、エミリさんは現世でアランさんと交際しているのだろうか。やっぱりラルクが歴史を変えてしまったことと何か関係しているのだろうか。
落ち武者さんは伝説上級武官試験に合格したものの、ラルクは伝説には辿り着けず、特殊武官止まりだった。また、ズームさんは時計騎士試験に合格し、現世でも時計騎士を目指すらしい。
けれど、問題はラルクだ。復讐を終えて吹っ切ったはずなのに……違っていた。ラルクの根底の中ではまだ折り合いが付けられていないのかもしれない。だとしたら、ラルクはまだ正気に戻っていない可能性もある。私が何度も励ましてもラルクは私を目の敵にした。いったいどうしたらいいの。
落ち武者さんの誕生日はもうすぐだ。
セレナールさんとカナエさんもセナ王女の別荘で一緒に誕生日会を開く。あ、せっかくズームさんと知り合ったんだし、誘ってみよう。
「あの、30日に落ち武者さんとセレナールさん、カナエさんの誕生日会がセナ王女の別荘で開かれるんですけど、ズームさんも来ませんか?」
え、またこの間……。
「行きます」
声ちっさ!でも、来るんだ。
「あ、一応王室のパーティーなので、フォーマルとか……」
「持ってます」
「で、ですよね」
あんなでっかい家に住んでるんだから、パーティーに着ていく服なんかいっぱいあるか。
その時、ヨルクさんが番人部屋から戻って来た。
「ナミネ、時計騎士試験受かったよ」
え!ヨルクさんが!?私のほうが訓練いっぱいして来たのに。
「な、何回で合格したんですか?」
「1回だよ」
1回!?私なんて7回受けたのに!
「あんた、意外に反射神経良いんだな」
「時計騎士は、日常的に買い出しや料理、掃除、洗濯などの家事をしている人のほうが時間に正確だから受かる率が高いんですよ」
そうだったのか。ヨルクさんは規則正しい生活送ってるもんな。ヨルクさんは時計騎士するのだろうか。
「ヨルクさんは、時計騎士になるんですか?」
「ならないよ。ナミネが持ってるから体験してみた。これで、ナミネとお揃いの資格が出来たね」
はあ、ラルクは伝説に辿り着けままだというのに、ヨルクさんはちゃっかり時計騎士の資格取っちゃって。
「あ、落ち武者さんは時計騎士はどうするんですか?」
「考えてないけど?まずは夢騎士優先だし」
「ラルクがこんな状態ですし、夢騎士試験は遅らせますか?」
「あんた、なんでラルクに合わせんのさ。受けれる時に受けとかないでいつ受けんのさ。ラルクに合わせて今度はあんたが受けられない状況もあるかもしんないんだぞ!あんたも近々受けとけ!」
そういうものか。私は今は受けれる状態だけど、いざラルクが受けられる状態になって私が受けられなかったら意味ないもんな。ここは、自分軸か。
「ねえ、どうして落ち武者さんがいるの?」
そっか。セナ王女とナルホお兄様、ズームさん以外は帰ったんだっけ。
「村八分の家に帰れるかよ!」
「ねえ、ラルク。ラルクは今は受けなくていいよ。武官に拘ることないと思うしさ。ラルクは教師目指してるんだもん」
「ナミネ、馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
ラルクは私を突き飛ばした。私はラルクを花札で拘束し、岩の結界をかけ、畳に着地した。
「解!」
「ラルク、これが今のラルクの実力なんだよ。現実と向き合いなよ!セレナールさんの残像ばっか見てると、いつまでも特殊武官止まりだよ!」
「ナミネ、今のラルクを追い詰めるのは逆効果だよ」
ナルホお兄様は結界を解いた。ラルクは泣きながら2階へ行った。
「あんたら、時計騎士の制服着て並べよ。記念写真撮ってやる」
せっかくだから撮ってもらおうかな。私は廊下で着替えるとまた第4居間に入り、ズームさんとヨルクさんの真ん中に立つと落ち武者さんがシャッターボタンを押した。私はまた廊下でルームウェアに着替え直した。
「ナミネ、今日は何食べたい?」
「じゃ、オムライス」
「落ち武者さんに聞いてないんだけど!」
「私、食欲ないのでいいです」
とてもじゃないけど、こんな時に自分だけ楽しむ気分にはなれなかった。
「ヨルク、今夜はクレナイ食堂の料理頼んでくれるかな?」
「うん、分かった」
ヨルクさんは、使用人にクレナイ食堂の料理を人数分頼んだ。
「じゃ、強気なナミネ、風呂行くぞ」
「あ、はい」
「ねえ、落ち武者さん、ナミネは私の彼女なんだけど。ナミネ、一緒にお風呂入ろうね」
「はい」
私はヨルクさんに手を引っ張られ、お風呂に向かった。
お風呂ではヨルクさんが私を抱き締めた。
「久しぶりですね」
「うん」
ヨルクさんの紅葉の香りが強くなる。私はヨルクさんの首に腕を回し、何度もヨルクさんを好きだと言った。何か、息切れしてる。疲れてるのかな。
「ごめん」
え、なんで謝るの?
「ヨルクさんって、いつも弱気ですね!」
「ナミネがラルクのことばかりだから嫉妬した。ナミネと2人になりたかった」
「私だってそうです!ラルクのことは、落ち武者さんと3人で資格取ろうって話していましたので。別に特別扱いとかそんなんじゃありません」
特別扱いじゃないんだけどさ。ラルクとは、同学年でずっと一緒だったから、心配なんだよね。
「うん、そっか。ナミネ、酷いこと言ってごめんね」
「別に気にしてません」
もうっ、ヨルクさんて、すぐに泣くんだから。私はヨルクさんを抱き締めた。私とヨルクさんはしばらく抱き締め合っていた。
お風呂から上がり、第4居間に行くと、ニンジャ妖精さんとラハルさんがいた。てか、なんでいるの!?
「突然、記憶がなくなって、戻ると同時にナミネさんに連絡したけれど、繋がらなかったので心配で来ました」
連絡……?私は携帯を見た。メール206件……。怖っ!
「あ、すみません。私も記憶なくしてて、その後も色々バタバタしていたんです」
「そうでしたか。無事で良かったです」
カンザシさんは私を抱き締めた。うっ、汗ばんだタバコの臭い……。気絶しそう。その時、ラハルさんが、私からカンザシさんを離してくれた。
「カンザシ!僕は仕事全て終わらせて来たけど、カンザシはロクにレッスンもしないまま数日過ごし、ナミネにメールしてばかりで、ナミネからメールが来ないから来たんだろ」
「ラハルー!来てくれたのね。今日は私の部屋に泊まって」
リリカさん、ラハルさんがいるとすぐに来る。
「いや、今日は契約したアパートに帰るよ」
泊まらないんだ。てことは、ニンジャ妖精さんも?
「ナミネさん、今日は同じ部屋に泊まります!」
えええええ!なんでそうなるの?メールなんて見てる暇なかったし、ずっとラルクのこと心配だったのに。
「すみません。クレナイ家に来た時はヨルクさんの部屋に泊まってるんです」
てか、アパートに帰らないの?何のために契約したの?
「クレナイ家も広いね。両親何してるの?」
「サラリーマンしてます」
「建築士よ」
……。ヨルクさんてサバイバルになったら孤立しそう。
「あ、建築士でした」
「へえ、お父さん頑張ってるんだ」
「クレナイ家のお父様は愛妻家です!」
「ナミネも直球だねえ」
実際ナノハナ家だけなんだよね。庶子がいるの。キクリ家もカラクリ家もコノハ家も浮気なんかしてない。
「あ、ズームさんとこは愛妻家ですか?」
「知りません」
必要なこと以外は答えてくれないの?それとも、お金持ちあるあるの不倫三昧とか?
「ナミネさん、少し2人になれませんか?」
カンザシさんは、どうして私との距離を縮めようとするのだろう。いくら実の兄でも、何だか気まずいよ。
「すみません、私、ラルクのことが心配なんです」
私は落ち武者さんの腕を組んだ。
「リーダー!ここのところずっと、共演した女持ち帰ってるのに、まだ足りないんですか?」
カンザシさんて、女にだらしないんだ。何かやだな。
「シュリに頼まれただけだ!僕は何もしてない!」
「カンザシ、お前本当に最低だな」
「でも、ホイホイ着いてく女も女だよね」
私は無意識に言葉に出てしまっていた。
「ナミネはしっかりしてるけど、大抵の共演者はカンザシに誘われたら、すぐに着いていくんだ。マスコミの目だってあるし、何より他のメンバーが可哀想に思うよ」
まあ、カンザシさんの容姿なら女も着いていくよね。特に若い子は。
「ふむふむ、カンザシさんは手馴れているというわけですな。けれど、女はカンザシさんの容姿しか見てませんぞ」
「ナミネさん、本当にシュリに頼まれたんです」
シュリさん可哀想。
「しかし、それが本当なら女子が可哀想ですぞ。カンザシさんとの一夜を期待して入ったホテルの中には他の男がいた。もはや詐欺ですな」
「カンザシ、本当にいい加減にしろよ。カンザシみたいなのがいるから、同年代の他のグループも警戒されてるんだ」
デビューしたらデビューしたで、上玉の女に溺れたというわけか。昔の都会に染まる田舎育ちの男みたいだな。
「リーダー、流石に女遊びはもうやめてください!僕は真剣に芸能界に入ったんです!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんを殴ろうとしたがミツメさんは避けた。
「もう何を言ってもダメだな。ナミネ、僕も心配だったよ。でも、ちゃんと記憶覚えてて良かった。その髪型、前よりずっと似合ってる」
「ありがとうございます、ラハルさん。長いのも手入れが面倒で、思い切って美容院行ったんです」
ヨルクさんからも褒められたし、セミロングにして良かった。
「リーダー、リーダーならもっと真面目にやってください!だいたいナミネさんはリーダーにとってなんなんですか?」
「ナミネさんのことは記憶失う前に抱いた!」
どうして嘘つくかなあ。そんなのみんな信じないだろうに。
……。って、ニンジャ妖精さん、私のこと見てる!?
「いけませんなあ、嘘は。私はまだ中学生ですぞ」
「カンザシ、本当にナミネを抱いたのか?」
って、なんで私カンザシさんに抱かれたことになってるの!?
「抱いた!ナミネさんはじめてだったから、時間かけた!」
「カンザシ、お前!」
ラハルさんはカンザシさんを殴ろうとしたが、逆にカンザシさんがラハルさんを殴ろうとし、ミツメさんが止めた。
「ナミネ、カンザシさんと関係持ったの?」
何故、騙されやすい。
「どうして、こうも騙されやすいんですか!ついこないだまで生理だったのに、関係なんか持てるわけないでしょう!」
ラハルさんも信じ込んでるし、どうなってるの?私って、そんなに軽い女に見えるの?いやだな。誤解されたくない。
「カンザシ!まだ中学生なナミネを弄んだのか?」
「ナミネさんのことは真剣に抱いた!ナミネさんは右に身体を捩らせやすくて、潤んだ目になってた!終わるまで頬を赤らめながら恥じらい美しい声を出していた!」
なるほど。前世の時のことを明確に覚えているというわけか。けれど、こんなところで嘘つくなんて酷すぎる。
「あんたらさ、強気なナミネがカンザシに抱かれたと思ってんのかよ!」
うんうん、その調子。私の無実晴らして!って、なんで押し倒すの?
「きゃはは!落ち武者さん、くすぐったい!」
でも、やっぱり落ち武者さんの身体冷えてる。病気なのだろうか。私は落ち武者さんの背中をさすった。
「あんた、何してんのさ」
「落ち武者さんの身体冷えてるから温めてるんです!」
小さい時に大きな病気でもしたのかな。
「分かったか!こんな無邪気なヤツが処女奪われてるわけないだろ!」
何か微妙な言い方だけど、みんな信じてくれた雰囲気。ヨルクさん以外は。
「カンザシ!なんで嘘ついた!」
「本当に抱いたんだ!」
もうカンザシさんが分かんない。外で散々女遊びしてるのに、どうして私と関係持っただなんて言うのだろう。
「リーダー!いい加減にしてください!完全な片想いじゃないですか!実ることのない恋のせいでこっちはどれだけ迷惑しているか!」
「ナミネさんとは両想いだ!」
何なんだろう、この会話。何だかカンザシさんのこといやになってきた。ミツメさんは頭に血が登ったのか、カンザシさんを軽く殴った。
「ミツメ、お前、誰に向かって殴った!」
えっと、今度は正拳か?違う、禁止技だ!私と落ち武者さんは、ミツメさんを扇子で吹き飛ばした。
「どうして僕を攻撃したんですか!悪いのはリーダーでしょう!」
「あんた、禁止技は反則だ」
ミツメさんがニンジャ妖精さんのメンバーに加わってからは1番強いのはミツメさんになった。けれど、さっきのは知っていて喉を狙ったのだろうか。
「でも、僕もカンザシが悪いと思う。現にミツメが来てから、みんなへの暴力は格段に減ったし。格闘とか分からないけど、ミツメがいないと、みんな毎日カンザシに殴られていたと思うんだ」
難しいな。それなら普通の技で負かせば良かったのに。
この時の私は知らなかった。かつて、ミツメさんが大会で濡れ衣を着せられ失格になったことを。今でもミツメさんは、その時のことを恨みながら生きているということを。
私の疑いは落ち武者さんによって晴れたものの、ミツメさんは、あの後、何度もカンザシさんから責められた。私はヨルクさんの部屋でヨルクさんにカンザシさんと関係を持ったと思われ泣かれ、信じてもらえるまでかなり時間がかかった。ヨルクさんは、カンザシさんが私との前世を覚えていたことに気づかなかったらしい。
そして、いよいよ落ち武者さんの誕生日が来た。
セナ王女の別荘のパーティー会場には多くの貴族が来ていた。そして、何故かニンジャ妖精さんとラハルさんも来ていた。
私の時はプレゼントもらっていなかったから、私はセレナールさんとカナエさんにはチロルチョコを1つずつ渡した。
ラルクとは、気まずい関係が続いていて殆ど私が一方的に話しかける関係だった。それでも私は、ラルクは回復に向かっていると信じていたのだ。
エミリさんとアランさんはまるで恋人であるかのように手を繋いでいた。今の時代では不釣り合いな関係。
少しすると、信じられない光景を私は目にすることになる。
皇太子様が来たと思えば、セレナールさんの元に駆け寄った。
「セレナール、遅れてごめん」
「皇太子様……」
愛想を尽かしたラルクにすがっていたのは、ついこないだのことなのに。セレナールさんは、新たな駒を動かした。
セレナールさんと皇太子様は、パーティー会場の前で、マイク越しに語り合った。
「セレナール、遅くなったけど、誕生日おめでとう」
皇太子様は300本のレインボーの薔薇の花束と共にフェアリールナの紫色の月のネックレスが入った箱をセレナールさんに渡した。セレナールさんは、箱を開くなり皇太子様に抱き着いた。
「皇太子様、ありがとう!」
皇太子様はセレナールさんをお姫様抱っこした。
「みんな、聞いて欲しい。僕はクラスメイトのセレナールと交際をはじめた。セレナールは、心が清らかで誰にでも優しくて純粋で、どんな逆境にも打ち勝つ。そんな美しいセレナールに僕は惹かれた。セレナールを一生大切にする」
エミリさんがアランさんと交際しているカラクリはこういうことだったのか。
「私も、皇太子様の無垢な愛情に包まれてとっても幸せ。聞こえてる?ラルク!ラルクのことは弟のように可愛がってきた。だから、今1番祝福して欲しい。伝説武官試験落ちたことは私も本当に悲しいわ。でも、ラルクならやれる!頑張って!皇太子様とは互いに一目惚れだった。でも、その2つにない縁(えにし)を私は大切にしたい。皇太子様、愛してるわ!」
ラルクを名指しにして辱めるなんて、許せない。けれど、セレナールさんは強力なバックを手に入れた。こんなにも恐ろしい女を私は見たことがない。
私だけじゃない。グループのみんなが驚いていた。
「まさかセレナールがレナードと付き合うなんて」
「何だか腑に落ちないわ」
「エミリが可哀想なのです」
みんな負けごとを言うことしか出来ない。でも、悔しい。遠い昔、ラルクを騙したのに、現世でも騙していただなんて……。
「ラルク、あんなの気にすることないよ。長続きしないよ。そのうちエミリさんに打ちのめされるよ」
「ああ、あんな女だとは思わなかった。僕はまんまとあの容姿に騙されていたんだ」
ラルク、元に戻ったの?セレナールさんと皇太子様は、会場の拍手と共にこっちに向かって来た。
「セレナール、おめでとう」
「ありがとう、セナさん。ラルク、伝説武官落ちたくらいで落ち込むな!」
マイクで会場のみんなに聞こえるように言うだなんて。この女、どういう神経してるの?
「セレナール先輩、皇太子様との交際おめでとうございます。心から祝福します」
え、今セレナールさんの下腹部に2回針を刺した後、即抜いた?私は周りを見渡した。見ている人はいない。ズームさんとナルホお兄様は遠くにいる。でも、ここでラルクの味方したら私も共犯者になってしまう。
「ナミネ、ジュースだよ」
「あ、ありがとうございます」
私は震えた手でヨルクさんからジュースを受け取った。
ラルクの復讐は終わっていなかった。いや、セレナールさんが新たな駒を動かしたことによる抵抗なのかもしれない。
「ナミネさん、2人きりで話がしたいです」
タイミングが悪すぎる。
「すみません。せっかくパーティーに来たので私、パーティーを楽しみたいんです。落ち武者さん、お誕生日おめでとうございます」
私は落ち武者さんに抱き着いた。
「そうですよね。では夜に」
「すみません、今日はここに泊まるんです」
「え……」
「てか、あんたいつまでこうしてるつもりだよ。プレゼント寄越せ」
落ち武者さんは気付いているのだろうか。気付いていないなら言うべき?言わないべき?いや、言うしかない。
「落ち武者さん、話があるんです」
「ナミネさん、だったら、僕との時間を優先してください」
「でも、今日は落ち武者さんの誕生日だから、落ち武者さんを優先させてください」
「ナミネさん、15分だけでいいんです!」
どうして邪魔するの?カンザシさんって自分のことしか考えてない。昔の私はどうしてこんな人と交際していたのだろう。
「リーダー!もうやめてください!女ならいくらでもいるでしょう!」
ミツメさんがカンザシさんを引き止めている間に私は落ち武者さんの手を引っ張って猛スピードでパーティー会場を出た。
私は霧の結界と壁の結界をかけた。
「あんた、何なのさ」
「ラルクが、セレナールさんの下腹部2箇所に針を刺してたんです!」
「悪いけど、セレナールを助ける真似は許さないわ」
リリカさん!いつの間に入り込んでいたのだろう。リリカさんは岩の結界をかけた。
「強気なナミネ、結界解け!」
「リリカさん、このまま放っておけば、復讐は繰り返されます。そんなのラルクのためになりません!セレナールさんは必ず皇太子様と別れます!」
リリカさんとは敵同士になりたくない。
「おい、早く解け!!」
「はあ、分かったわ」
リリカさんは結界を全て解いた。その瞬間、アルフォンス王子とセナ王女が私と落ち武者さんにF938を見せた。
「リ、リリカさん……?」
そんな、事前に連絡し合っていたのか。
「悪いけどセレナールにはこのまま苦しんでもらうわ」
「ですが、なんの針か分からないことには、皆さんににメリットかデメリットか分かりません」
「だったら、ナミネが確認して来い!」
F938を使って私を脅すだなんて、何て卑怯なの。私は小さい紙飛行機をみんなにバレないようにズームさんに飛ばした。
「アルフォンス王子、私に命令しないでください!」
「ナミネ、何してるの?」
「顔だけヨルク!姉さんがラルクに針刺された!」
「え……」
……
あとがき。
もし、セレナールがレナードと交際していなければ、ラルクは何もしなかったのだろうか?
ラルクの闇堕ちはいつまで続くの?
キリのない展開。
果たして、セレナールは助かるのか?
純愛偏差値 未来編 一人称版 54話
《ヨルク》
朝目が覚めるとナミネは横で寝ていた。
「お疲れ様、ナミネ」
私はナミネを起こさないように布団を出て、4人分の朝食を作りに行った。
朝食を持って部屋に入ったら、ナミネはまだ眠っていた。
「よっぽど疲れてたんだろう」
「そうだね」
私は机に朝食を置いた。
落ち武者さんとエルナは私の作った朝食を食べた。疲れているナミネのためにも和食にしたけど、ナミネの分はサランラップかけておこう。
「あんたも聞いた通り、カンザシは完全に強気なナミネに惚れてる。取られんなよ」
「兄妹で恋愛なんて出来ないでしょ。それに、紅葉町でアパート借りるって時点で、もうカンザシさんの気持ち明確だし」
ナミネが前世で誰と交際してても、今の彼氏は私だから。絶対にナミネを手放さない。
私はナミネに近付いた。
ナミネの寝顔可愛いなあ。写真撮っとこ。
「朝から見せ付けてくれるねえ」
「別にそんなんじゃないから。ねえ、落ち武者さん、いつまで居候するの?」
「釣れないこと言うなよ」
「いい加減、家に帰ってよ!私は、ナミネと2人でいたいの!」
本当なんで家に帰んないの?
「あんた、子作りでもする気かよ。甘えセナはどうなった?姉さんはどうなった?今、強気なナミネが妊娠したら強気なナミネの未来が奪われるんだ!強気なナミネは強くなろうと努力してる。妊娠なんかしたら、強気なナミネは自分責めるぞ!」
なんでそんなこと落ち武者さんに言われなきゃいけないの?私は私なりにナミネのこと大切に思ってるし、ナミネが妊娠してもナミネには苦労はかけないつもりだ。
「ねえ、落ち武者さんこそどうなの?エルナと……。あの日眠れなかったからセレナールさんとカンザシさん見てしまったんだよ!」
「そっか……」
反応薄いな。今となってはセレナールさんが悪者にされてるし、リリカお姉様は確実にラルクと切り離すつもりだ。落ち武者さん、落ち込んでいるのだろうか。
12時過ぎだろうか。
ナミネが目を覚ました。
「ヨルクさん……」
「ナミネ、眠れた?今、ご飯温め直すからね」
「ラルクは、ラルクはどうなったんですか?」
「ラルクは戻って来てるけど?」
「会いに行きます!」
待って!と声が出なかった私はナミネの手を掴んだ。
「あんた、好きにさせてやれよ」
どうしてラルクなの?試験とか来年受ければいいじゃない。どうして、私のこと見てくれないの?
ナミネが部屋を出るなり落ち武者さんとエルナも部屋を出た。
「え、ちょっと!」
私は慌てて追いかけた。
え、第4居間に行くんじゃないの?何故、客間の前で止まっている。
「何してるの?」
「黙ってろ」
中からはズームさんとカンザシさんの声が聞こえてきた。
『カンザシ、お前、ナミネさんのこと好きなんだろ。だから、この町でアパート借りるんだろ!叶わない恋なのにどうして諦めない!』
『ズームに関係ないだろ!』
『どうしてナミネさんに拘る!』
『妹だから当然だろ!』
やっぱりカンザシさん、ナミネのこと好きなのか。
『また、あの時みたいに引き離すのか!僕とナミネさんを無理矢理別れさせたあの時みたいに!』
え、無理矢理別れさせたって何?カンザシさんはナミネとズームさんの仲を壊したのだろうか。でも、何故だ?
『そんな昔のこと覚えてない』
『カンザシ!いい加減にしろ!あの時、僕の彼女寝盗ったのに、僕がいざナミネさんと交際しはじめたら、今度はナミネさん欲しさに卑怯な手で引き離しただろ!』
何それ。ズームさんの彼女奪って、ズームさんの次なる幸せも奪ったのか?
『僕だって辛かった!ニートとか早くまともな職に就けとか言われて毎日が喧嘩で、夢を応援してもらえなかった。でも、時代は違えどナミネさんだけは違った。僕の夢を応援してくれた。僕はナミネさんがいないとダメなんだ』
「行くぞ」
え、最後まで聞かないの?落ち武者さんが第4居間に向かうなり、ナミネとエルナも着いて行った。
ナミネ、あんな話聞いて大丈夫なのだろうか。
第4居間に入るなりナミネはラルクの元に走った。
「ラルク、大丈夫?」
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、1人にしないで。寂しいよ」
「ナミネ、ラルクは神経衰弱なんだよ。しばらくは、薬飲んで休んでないといけないんだ。学校も休ませるよ」
神経衰弱。長期に渡るストレスが原因でノイローゼとなる。ラルクは、あの古民家にいた時からノイローゼになっていたのだろうか。
「カンザシはどうだったんだよ」
「カンザシさんは、間欠性爆発性障害と診断されたよ」
間欠性爆発性障害。一度苛立つとその怒りを自分で抑えることが出来ない病気だ。誰も手がつけられなくなり、本人が落ち着いた頃には本人はかなり後悔をしているそうだが。しかし、その怒りはきっかけのストレスとは不釣り合いに強いと言われている。
問題になるのは、人間関係。人との絆が壊れやすいし、人から避けられやすい傾向にある。退学のリスクもあり、中には犯罪に繋がることも。怒りが後に鬱を引き起こすこともある。遺伝や幼少期の虐待などで起こりうるらしい。
何となくナミネと似た症状だな。だが、1番辛いのは本人だ。他者では分からないものがあるだろう。
「カンザシさんも薬で治療するの?」
「そうだね、薬と程よい療養かな。生き甲斐を見付けるのが1番の対策らしい。だから、紅葉町でアパート借りるらしいよ」
今後、カンザシさんは定期的にナノハナ家に来るのだろうか。だとしたら、ナミネをクレナイ家に避難させたほうがいいだろうか。
この時の私はカンザシさんのことよりラルクのほうが重症なことに何も気づいていなかった。
2日後、ニンジャ妖精さんとラハルさんは紅葉町でアパート契約をした後、虹色街に戻り、ズームさんも実家に帰って行った。
しかし、3日後、事件は起きた。
ラルクは公園に行くと嘘を言ってナノハナ家を出た後、森の湖に行き、近々、皇室に行く昔のセレナールさんを、元々セレナールさん狙いの彼女持ちのガラの悪い男4人にイヤガラセさせた。昔のセレナールさんは第2まで喪失し、皇太子様とは破局となった。
歴史は大きく変わった。
ナミネは、ナミネはまた私と交際していたことを綺麗さっぱり忘れてしまったのだろうか。私が部屋を出てナノハナ家に向かおうとした時、泣きながらナミネがクレナイ家に入って来た。あれ、ナルホさんと、ズームさんもいる?
「ヨルクさん、ヨルクさん、何もかも分からないんです」
とりあえず私は第1母屋の第4居間に上がってもらった。
何もかも分からないって、私と交際していたことも忘れてしまったの?ナミネ……。
「ナミネ、私と交際してることも忘れたの?」
「それは覚えてます!ヨルクさんを想った日々は二度と忘れません!でも、カップル日記に書かれている他の人のことが分からないんです!ラルクは時間超え恋愛をしているのでしょうか?」
私と交際してること……覚えてくれていた……。もう、それだけでいい。ナミネを失わないなら勝手なことする人のことなんかどうでもいい。
「おい、強気なナミネ、僕のことも忘れたのかよ!」
「は、はい、お代官様」
「あんた、全然変わってねえじゃないかよ!」
「こうなると思ってたわ。全部あの女がラルクをたぶらかしたせいよ」
リリカお姉様……。てか、現状を正確に覚えているのは誰なんだろう。
「ナルホさんは全部覚えてるの?」
「うん、ズームさんもね」
ということは、私と落ち武者さんとリリカお姉様とナルホさんとズームさんが、これまでのこと覚えているわけか。
「ナミネ、ラルクは森の湖の妖精と交際してたんだけど別れたんだよ」
「森の湖でいったい何があったんだよ!」
ズームさんは小型パソコンのある映像を再生した。
映像はカラーだった。
森の湖で、ラルクは昔のセレナールさんに近付いた。
『セレナール先生』
『いやっ!来ないで!私、2日後、皇室に行くの!誰か助けて!!』
昔のセレナールさんは、あの日私たちがタイムスリップしたことを覚えていた。
『よくも僕の気持ち弄んでくれましたね』
『許して!悪かったと思ってる!どうか、私のこれからの幸せは壊さないで!』
ラルクは、彼女持ちのガラの悪い4人の男に大金を渡すと、昔のセレナールさんを襲わせた。
『お願い、これだけは許して!一生かけて償うから!』
昔のセレナールさんの言葉は届かず、お金を手にした4人の男は彼女の目の前で昔のセレナールさんをイヤガラセした。
『いやーーーー!痛い、痛い!やめて!!』
4人がことを終えた後、昔のセレナールさんは大量出血をし、横たわった。
『人を騙し陥れ傷付けたら同じことで返されるんですよ、セレナール先生』
『た……すけ……て……』
ラルクは森の湖を出た。
その後、妖精村新聞が出回った。
[皇太子の彼女、森の湖でイヤガラセされる]
昔のセレナールさんは町中の笑い者となった。
そんなある日、皇太子様が昔のセレナールさんの前に現れた。
『セレナール、すまない。エミリと交際することになった』
『皇太子様、私をお捨てになるのですか?』
『僕はキズモノがいやなんじゃない。人から恨まれるほどのことを裏でしていた君に幻滅したんだ。せいぜい、幸せになってくれ』
皇太子様は去って行った。
昔のセレナールさんは、キクリ家の近くにある病院の閉鎖病棟で過ごすこととなった。
映像はそこで途切れていた。
ラルクはこんな惨いことをしていたのか。
「ラルクは、ラルクはどこですか?」
「ナミネ、ラルクは今部屋で眠ってるんだ」
「そうですか」
ナミネは大泣きしていた。
「本当、セレナールって、とんでもない女ね。皇帝陛下はラルクを不問にしたけど、お武家連盟でクレナイ家は一気に不利になったわ」
クレナイ家の未来はないかもしれない。けれど、それでも、私はナミネとの未来のほうが大事だった。
「おい、カップル日記が凄いことになってるぞ」
私はカップル日記を開いた。
セナ王女はカラルリさんと交際していて、エミリさんはカラルリさんにアランさんと交際しているとコメントしていて、カナエさんはセイさんと交際していて、セレナールさんはナヤレスさんと交際している。ユメさんとクラフはまだ出会ってない。
これではもうアベコベだ。
いったい何度歴史を変えれば、みんなは元に戻るのだ。
「グループのみんなの記憶だけでもキクスケさんに思い出させてもらおう。ラルクとセレナールのためにもね」
そっか。誰かが責任を取らないといけない……いや、自覚させないといけないというわけか。
ナルホさんは呼び出しカードでキクスケさんを呼び出した。
「お呼びでしょうか」
「ラルクが歴史変えてしまって、みんなの記憶がすり変わってしまったから、せめて、グループの人だけでも記憶、思い出させてくれないかな?」
「かしこまりました。グループの皆さんの記憶は5分後に元に戻ります。しかしながら、この度は、大きく歴史が変わってしまったため、元に戻すことは不可能でしょう」
大きく変えられた歴史は元には戻らないか。あの時のみんなの人生が変わってしまうのか。そして、私の人生も……。
5分後、みんなの記憶が戻るなり、ぞろぞろとクレナイ家にみんなは押しかけた。しかし、エミリさんはアランさんと交際したままだった。
「リリカ、許して!二度とラルクを傷付けない!」
「黙りなさい!」
リリカお姉様はセレナールさんを蹴った。
「ミナク……ごめんなさい……私、また……」
「セナ王女の意思ではないので、浮気などとカウントは致しません。私は一生、セナ王女を愛します」
何て白々しい嘘を並べられるもんなんだ。聞いているこっちが恥ずかしい。
「ミナク……」
セナ王女はミナクお兄様の手を握った。
「セレナール、大変だったわね。30日は、予定通り、私の別荘でセレナールとカナエ、セルファの誕生日会開くから来なさいよ」
「いいの?」
「もちろんよ」
「セレナール、カナエもお気持ちお察しします」
「セレナール、また新しい恋見つけなさいよ」
女という生き物は怖い。昔のセレナールさんがラルクを騙していたことを、みんな怒っているけれど、それを隠している。私にはそうとしか思えなかった。
お武家連盟会議では、レイナさんの『過去とはいえ、見かけだけの容姿で彼女持ちの男を誘惑し、数々のカップルが壊れていくところを嬉しがり、ラルクが歴史を変えるほど追い詰めたセレナールが悪い』という発言に多数が同意し、セレナールさんは家族もろとも村八分となった。
そして、私の中で少しずつ、あの頃の新しい記憶が流れた。
閉鎖病棟にいたセレナールさんは、カナエさんに頼んでウルクさんを呼び出してもらい、記憶を消してもらい、エミリさんから皇太子様を奪い、その後は、殆どすり替えられる前と変わらない人生を過ごしている。
歴史というものは、そう簡単には変えられないのだろうか。
何故、皇太子様はエミリさんよりセレナールさんを選んだのだろう。
結局ラルクも教師になったセレナールさんと交際をした。
誰がどう足掻いても、歴史は元に戻っていく。
私は歴史の恐ろしさを感じていた。
「ラルク、可哀想……」
どうして……どうしてなのだ。私はナミネが私と交際していた記憶を失ってなかっただけで、それだけでいいと思えたのに……。
「ねえ、ナミネ。私よりラルクが大事なの?酷くない?」
私はまたナミネを攻撃してしまった。
「ヨルクさん、違います。私はただ、ラルクに元に戻って欲しいんです」
「何それ……。それ言い訳だよね?ナミネってさ、色んな男たぶらかして、まるでセレナールさんみたいに汚いね」
ダメだ、コントロールが出来ない。
「ヨルクさん、落ち着いてください!」
ナミネは私の手を握った。
「気持ち悪い!ラルクが好きなら勝手にして!セレナールさんと同等の卑劣なナミネとは二度と関わりたくない!」
やってしまった……。
「そうですか」
「この男たらし!最低!」
それだけ言うと私は第4居間を出た。
やり過ぎてしまった。ナミネに謝らないと。私はすぐに第4居間に戻った。するとラルクが戻っていた。
「あ、すみませんヨルクさん。私、ヨルクさんとの縁談は白紙に戻してラルクと交際したんです」
え、嘘だよね?こんな短時間で……。
「あんた、終わりだ。あれだけのこと言って許されると思ってんのか?カップル日記は強気なナミネはあんたとこ退会済みだ」
「嘘、嘘でしょ!?」
「ヨルクさんには酷いこと言われましたし、一方的でしたし、とてもじゃないけど、彼女に対する接し方とは思えなかったんです。あの時、ラルクを心配する私に寄り添ってくれていたなら縁談はそのままでしたが、ヨルクさんに侮辱された瞬間、ラルクを大切にしたいと思いました。ヨルクさんも別の人と幸せになってください」
そんな。たったあれだけのやり取りで私はいつも悪者なのか?
「ねえ、ナミネっていつもちょっとしたことで私のこと悪者扱いするよね。ナミネはもっと人に酷いことしてるのに」
「ヨルクさんとは破談にしました!付きまとわないでください!!」
ナミネは大声を出した。
「あのさヨルク、うるさいんだけど!悪いの明らかヨルクだよね?ナミネはヨルクを馬鹿にした?してないよね?うるさくするなら、出て行ってくれない?」
アルフォンス王子、ここ私の家なんだけど。
「私もヨルクが悪いと思うわ。彼女にあんな酷いこと、別れられて当然よ」
「私もヨルクが悪いと思う」
今度は私が標的か。みんな本当に自分勝手だな。
「ナミネ、もう許しは請わない。同じ状況になっても二度と許しは請わない。でも、一方的な破談なんて認めないし、ナミネとは別れない」
「ストーカーはやめてください!!」
ナミネはまた大声を出した。その瞬間、私はアルフォンス王子に殴られた。
「うるさいって言ってるの分からないの?」
「お言葉ですが……」
言い終わる前にアルフォンス王子は私を蹴り続けた。今は耐えるしかない。こんな理不尽なこと絶対に認めない。
「ねえ、ラルク、もう吹っ切れた?」
「うん、復讐終わったら、何か呆気なくってさ。僕もナミネに置いていかれないように試験受ける」
「ラルク、頑張ってね。これからは私がラルクの彼女だよ」
ナミネ、本気なのか?私は必死で涙を堪えた。
「待って!ラルク、許して!」
ラルクはセレナールさんを無視した。
「落ち武者さんも受けるみたいだし、私も夢騎士受けるから、また3人で強くなっていこうね」
「だな。ナミネは時計騎士も取って凄いな」
「うん、結構苦労したけどね」
私はアルフォンス王子に蹴られながらナミネとラルクの会話を聞いていた。ここで、負けて溜まるか!私は立ち上がり扇子を取り出した。アルフォンス王子が私に殴りかかろうとした時、私は扇子でアルフォンス王子を吹き飛ばした。
その瞬間、私はセナ王女に熱湯をかけられた。私は机にあるミネラルウォーターを自分にかけるなり、扇子でセナ王女を吹き飛ばすと、クレナイ家を出た。
私はクレナイ家の玄関の外で泣き崩れた。
ナミネ……私がナミネを受け入れなければならないのに、どうしてあんな酷いことを言ってしまったのだろう。
私は行く宛てもなく町を歩きはじめた。
とりあえず、スーパーに買い出しに行こう。ナミネの好きなもの、また作ってあげなきゃ……。思うほどに涙が出てくる。
泣きながら会計を済ませ、スーパーを出た後、私は大泣きしながらクレナイ家に向かって歩いた。せっかく、やっとの思いでナミネと交際出来たのに、どうしてつまらない嫉妬でナミネを傷付けてしまうのだろう。
「ヨルクさんは泣き虫ですな」
ナミネ?私は振り向いた。すると、腰まであった長い髪がセミロングになったナミネがいた。
「ナミネ……ごめん……私、ナミネと別れたくない……」
私はナミネの前で泣き崩れた。ナミネは私を抱き締めた。
「ヨルクさん、すぐに怒るから私も意地悪しただけです」
「そうなの……?でも、カップル日記……」
退会してるよね。
「もう復旧してます」
「じゃあ、別れるって嘘だったの?」
「はい」
そうだったのか。良かった……。本当に見切り付けられたかと思った……。
「行きますよ、ヨルクさん」
ナミネは私を起き上がらせ、私の手を握った。
「ナミネ、髪切ったの?」
「はい。ラルクと落ち武者さんが試験受けている間に美容院行ってきました」
そっか。ラルクと落ち武者さんは、更なる上を目指しているのか。
「ナミネ、今の髪型のほうがずっと可愛い」
ナミネは微笑んだ。ナミネ、可愛すぎる。私は町のど真ん中でナミネを抱き締めた。
私とナミネがクレナイ家の第4居間に入ると、ラルクが落ち込んでいた。ナミネは私の手を離し、ラルクの元へ駆け寄った。
「どうしたの!ラルク!」
「ダメだったんだよ、試験。特殊武官止まりだったんだ」
その時、セレナールさんがラルクを抱き締めた。
「ラルク、また受ければいいわ。私が傍で応援する」
「セレナール先輩は黙っててください!」
ラルク大声を出すと共にセレナールさんを突き飛ばした。
「あのさ、セレナール、大声出すなら出てってくんない?迷惑なんだけど」
さっきと同じだ。ナミネやラルクには言わずに弱い者にあえて言う。アルフォンス王子は結局そういう人だったのか。
「落ち武者さんはどうだったんですか?」
「僕は伝説上級武官合格したけど?」
「そうですか。おめでとうございます。ラルク、病み上がりだからだよ。ラルクは強いもん。次受けたら必ず伝説受かるよ!」
ナミネは必死にラルクを励ました。
「ナミネなんかが受かって、なんで僕が落ちるんだ!」
「何言ってるの?あなた、セレナールのことばかりで修業全然してなかったからじゃない!ナミネは恋愛しながらも訓練はサボってなかったのよ!」
リリカお姉様は、ラルクの訓練不足を指摘した。
「ラルク、今は休んでようよ」
「はっ、自分は2ヶ月も前に受かってるからって余裕だな」
ラルクはナミネを突き飛ばした。けれど、ナミネは扇子を縦に持ちバランスを取った。ナミネはラルク相手なら何を言われても機嫌を損ねない。けれど、私が相手だと、すぐに破談を言い渡される。何だかモヤモヤするけど、今ナミネを指摘して、また破談とか言われたら凄く傷つくから私は黙っていた。
「顔だけヨルク、あんたも今のうちに何か試験受けといたらどうだ?」
「い、いや私は……」
みんなみたいに闘う人には向いていない。
その時、ズームさんがナミネに何かを見せた。
「えっ、ズームさん、時計騎士の資格取ったんですか?現世でも時計騎士するんですか?」
「あなたに時計騎士の合格証明書を見せたられた時は驚きましたが、懐かしくなり、もう一度、試験を受けました。また、将来的には時計騎士をしようかと思います」
時計騎士か……。いったいどのような仕事なのだろう。私は少し興味を持ちはじめていた。
今日はセナ王女以外のメンバーは帰って行った。落ち武者さんの誕生日は数日後。セレナールさんとカナエさんも一緒に祝うらしいが、そこで何か起きないか私は不安になっていた。
……
あとがき。
ラルクは復讐によって元の自分を取り戻した……はずだった。
けれど、伝説武官の資格は取れずジレンマに。
ラルクがセレナールに費やした時間がそうしてしまったのだろうか。それとも、ラルクの恨みが前を見えなくさせてしまったのだろうか。
ラルクはいつまで正気を失っているのだろう。
《ヨルク》
朝目が覚めるとナミネは横で寝ていた。
「お疲れ様、ナミネ」
私はナミネを起こさないように布団を出て、4人分の朝食を作りに行った。
朝食を持って部屋に入ったら、ナミネはまだ眠っていた。
「よっぽど疲れてたんだろう」
「そうだね」
私は机に朝食を置いた。
落ち武者さんとエルナは私の作った朝食を食べた。疲れているナミネのためにも和食にしたけど、ナミネの分はサランラップかけておこう。
「あんたも聞いた通り、カンザシは完全に強気なナミネに惚れてる。取られんなよ」
「兄妹で恋愛なんて出来ないでしょ。それに、紅葉町でアパート借りるって時点で、もうカンザシさんの気持ち明確だし」
ナミネが前世で誰と交際してても、今の彼氏は私だから。絶対にナミネを手放さない。
私はナミネに近付いた。
ナミネの寝顔可愛いなあ。写真撮っとこ。
「朝から見せ付けてくれるねえ」
「別にそんなんじゃないから。ねえ、落ち武者さん、いつまで居候するの?」
「釣れないこと言うなよ」
「いい加減、家に帰ってよ!私は、ナミネと2人でいたいの!」
本当なんで家に帰んないの?
「あんた、子作りでもする気かよ。甘えセナはどうなった?姉さんはどうなった?今、強気なナミネが妊娠したら強気なナミネの未来が奪われるんだ!強気なナミネは強くなろうと努力してる。妊娠なんかしたら、強気なナミネは自分責めるぞ!」
なんでそんなこと落ち武者さんに言われなきゃいけないの?私は私なりにナミネのこと大切に思ってるし、ナミネが妊娠してもナミネには苦労はかけないつもりだ。
「ねえ、落ち武者さんこそどうなの?エルナと……。あの日眠れなかったからセレナールさんとカンザシさん見てしまったんだよ!」
「そっか……」
反応薄いな。今となってはセレナールさんが悪者にされてるし、リリカお姉様は確実にラルクと切り離すつもりだ。落ち武者さん、落ち込んでいるのだろうか。
12時過ぎだろうか。
ナミネが目を覚ました。
「ヨルクさん……」
「ナミネ、眠れた?今、ご飯温め直すからね」
「ラルクは、ラルクはどうなったんですか?」
「ラルクは戻って来てるけど?」
「会いに行きます!」
待って!と声が出なかった私はナミネの手を掴んだ。
「あんた、好きにさせてやれよ」
どうしてラルクなの?試験とか来年受ければいいじゃない。どうして、私のこと見てくれないの?
ナミネが部屋を出るなり落ち武者さんとエルナも部屋を出た。
「え、ちょっと!」
私は慌てて追いかけた。
え、第4居間に行くんじゃないの?何故、客間の前で止まっている。
「何してるの?」
「黙ってろ」
中からはズームさんとカンザシさんの声が聞こえてきた。
『カンザシ、お前、ナミネさんのこと好きなんだろ。だから、この町でアパート借りるんだろ!叶わない恋なのにどうして諦めない!』
『ズームに関係ないだろ!』
『どうしてナミネさんに拘る!』
『妹だから当然だろ!』
やっぱりカンザシさん、ナミネのこと好きなのか。
『また、あの時みたいに引き離すのか!僕とナミネさんを無理矢理別れさせたあの時みたいに!』
え、無理矢理別れさせたって何?カンザシさんはナミネとズームさんの仲を壊したのだろうか。でも、何故だ?
『そんな昔のこと覚えてない』
『カンザシ!いい加減にしろ!あの時、僕の彼女寝盗ったのに、僕がいざナミネさんと交際しはじめたら、今度はナミネさん欲しさに卑怯な手で引き離しただろ!』
何それ。ズームさんの彼女奪って、ズームさんの次なる幸せも奪ったのか?
『僕だって辛かった!ニートとか早くまともな職に就けとか言われて毎日が喧嘩で、夢を応援してもらえなかった。でも、時代は違えどナミネさんだけは違った。僕の夢を応援してくれた。僕はナミネさんがいないとダメなんだ』
「行くぞ」
え、最後まで聞かないの?落ち武者さんが第4居間に向かうなり、ナミネとエルナも着いて行った。
ナミネ、あんな話聞いて大丈夫なのだろうか。
第4居間に入るなりナミネはラルクの元に走った。
「ラルク、大丈夫?」
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、1人にしないで。寂しいよ」
「ナミネ、ラルクは神経衰弱なんだよ。しばらくは、薬飲んで休んでないといけないんだ。学校も休ませるよ」
神経衰弱。長期に渡るストレスが原因でノイローゼとなる。ラルクは、あの古民家にいた時からノイローゼになっていたのだろうか。
「カンザシはどうだったんだよ」
「カンザシさんは、間欠性爆発性障害と診断されたよ」
間欠性爆発性障害。一度苛立つとその怒りを自分で抑えることが出来ない病気だ。誰も手がつけられなくなり、本人が落ち着いた頃には本人はかなり後悔をしているそうだが。しかし、その怒りはきっかけのストレスとは不釣り合いに強いと言われている。
問題になるのは、人間関係。人との絆が壊れやすいし、人から避けられやすい傾向にある。退学のリスクもあり、中には犯罪に繋がることも。怒りが後に鬱を引き起こすこともある。遺伝や幼少期の虐待などで起こりうるらしい。
何となくナミネと似た症状だな。だが、1番辛いのは本人だ。他者では分からないものがあるだろう。
「カンザシさんも薬で治療するの?」
「そうだね、薬と程よい療養かな。生き甲斐を見付けるのが1番の対策らしい。だから、紅葉町でアパート借りるらしいよ」
今後、カンザシさんは定期的にナノハナ家に来るのだろうか。だとしたら、ナミネをクレナイ家に避難させたほうがいいだろうか。
この時の私はカンザシさんのことよりラルクのほうが重症なことに何も気づいていなかった。
2日後、ニンジャ妖精さんとラハルさんは紅葉町でアパート契約をした後、虹色街に戻り、ズームさんも実家に帰って行った。
しかし、3日後、事件は起きた。
ラルクは公園に行くと嘘を言ってナノハナ家を出た後、森の湖に行き、近々、皇室に行く昔のセレナールさんを、元々セレナールさん狙いの彼女持ちのガラの悪い男4人にイヤガラセさせた。昔のセレナールさんは第2まで喪失し、皇太子様とは破局となった。
歴史は大きく変わった。
ナミネは、ナミネはまた私と交際していたことを綺麗さっぱり忘れてしまったのだろうか。私が部屋を出てナノハナ家に向かおうとした時、泣きながらナミネがクレナイ家に入って来た。あれ、ナルホさんと、ズームさんもいる?
「ヨルクさん、ヨルクさん、何もかも分からないんです」
とりあえず私は第1母屋の第4居間に上がってもらった。
何もかも分からないって、私と交際していたことも忘れてしまったの?ナミネ……。
「ナミネ、私と交際してることも忘れたの?」
「それは覚えてます!ヨルクさんを想った日々は二度と忘れません!でも、カップル日記に書かれている他の人のことが分からないんです!ラルクは時間超え恋愛をしているのでしょうか?」
私と交際してること……覚えてくれていた……。もう、それだけでいい。ナミネを失わないなら勝手なことする人のことなんかどうでもいい。
「おい、強気なナミネ、僕のことも忘れたのかよ!」
「は、はい、お代官様」
「あんた、全然変わってねえじゃないかよ!」
「こうなると思ってたわ。全部あの女がラルクをたぶらかしたせいよ」
リリカお姉様……。てか、現状を正確に覚えているのは誰なんだろう。
「ナルホさんは全部覚えてるの?」
「うん、ズームさんもね」
ということは、私と落ち武者さんとリリカお姉様とナルホさんとズームさんが、これまでのこと覚えているわけか。
「ナミネ、ラルクは森の湖の妖精と交際してたんだけど別れたんだよ」
「森の湖でいったい何があったんだよ!」
ズームさんは小型パソコンのある映像を再生した。
映像はカラーだった。
森の湖で、ラルクは昔のセレナールさんに近付いた。
『セレナール先生』
『いやっ!来ないで!私、2日後、皇室に行くの!誰か助けて!!』
昔のセレナールさんは、あの日私たちがタイムスリップしたことを覚えていた。
『よくも僕の気持ち弄んでくれましたね』
『許して!悪かったと思ってる!どうか、私のこれからの幸せは壊さないで!』
ラルクは、彼女持ちのガラの悪い4人の男に大金を渡すと、昔のセレナールさんを襲わせた。
『お願い、これだけは許して!一生かけて償うから!』
昔のセレナールさんの言葉は届かず、お金を手にした4人の男は彼女の目の前で昔のセレナールさんをイヤガラセした。
『いやーーーー!痛い、痛い!やめて!!』
4人がことを終えた後、昔のセレナールさんは大量出血をし、横たわった。
『人を騙し陥れ傷付けたら同じことで返されるんですよ、セレナール先生』
『た……すけ……て……』
ラルクは森の湖を出た。
その後、妖精村新聞が出回った。
[皇太子の彼女、森の湖でイヤガラセされる]
昔のセレナールさんは町中の笑い者となった。
そんなある日、皇太子様が昔のセレナールさんの前に現れた。
『セレナール、すまない。エミリと交際することになった』
『皇太子様、私をお捨てになるのですか?』
『僕はキズモノがいやなんじゃない。人から恨まれるほどのことを裏でしていた君に幻滅したんだ。せいぜい、幸せになってくれ』
皇太子様は去って行った。
昔のセレナールさんは、キクリ家の近くにある病院の閉鎖病棟で過ごすこととなった。
映像はそこで途切れていた。
ラルクはこんな惨いことをしていたのか。
「ラルクは、ラルクはどこですか?」
「ナミネ、ラルクは今部屋で眠ってるんだ」
「そうですか」
ナミネは大泣きしていた。
「本当、セレナールって、とんでもない女ね。皇帝陛下はラルクを不問にしたけど、お武家連盟でクレナイ家は一気に不利になったわ」
クレナイ家の未来はないかもしれない。けれど、それでも、私はナミネとの未来のほうが大事だった。
「おい、カップル日記が凄いことになってるぞ」
私はカップル日記を開いた。
セナ王女はカラルリさんと交際していて、エミリさんはカラルリさんにアランさんと交際しているとコメントしていて、カナエさんはセイさんと交際していて、セレナールさんはナヤレスさんと交際している。ユメさんとクラフはまだ出会ってない。
これではもうアベコベだ。
いったい何度歴史を変えれば、みんなは元に戻るのだ。
「グループのみんなの記憶だけでもキクスケさんに思い出させてもらおう。ラルクとセレナールのためにもね」
そっか。誰かが責任を取らないといけない……いや、自覚させないといけないというわけか。
ナルホさんは呼び出しカードでキクスケさんを呼び出した。
「お呼びでしょうか」
「ラルクが歴史変えてしまって、みんなの記憶がすり変わってしまったから、せめて、グループの人だけでも記憶、思い出させてくれないかな?」
「かしこまりました。グループの皆さんの記憶は5分後に元に戻ります。しかしながら、この度は、大きく歴史が変わってしまったため、元に戻すことは不可能でしょう」
大きく変えられた歴史は元には戻らないか。あの時のみんなの人生が変わってしまうのか。そして、私の人生も……。
5分後、みんなの記憶が戻るなり、ぞろぞろとクレナイ家にみんなは押しかけた。しかし、エミリさんはアランさんと交際したままだった。
「リリカ、許して!二度とラルクを傷付けない!」
「黙りなさい!」
リリカお姉様はセレナールさんを蹴った。
「ミナク……ごめんなさい……私、また……」
「セナ王女の意思ではないので、浮気などとカウントは致しません。私は一生、セナ王女を愛します」
何て白々しい嘘を並べられるもんなんだ。聞いているこっちが恥ずかしい。
「ミナク……」
セナ王女はミナクお兄様の手を握った。
「セレナール、大変だったわね。30日は、予定通り、私の別荘でセレナールとカナエ、セルファの誕生日会開くから来なさいよ」
「いいの?」
「もちろんよ」
「セレナール、カナエもお気持ちお察しします」
「セレナール、また新しい恋見つけなさいよ」
女という生き物は怖い。昔のセレナールさんがラルクを騙していたことを、みんな怒っているけれど、それを隠している。私にはそうとしか思えなかった。
お武家連盟会議では、レイナさんの『過去とはいえ、見かけだけの容姿で彼女持ちの男を誘惑し、数々のカップルが壊れていくところを嬉しがり、ラルクが歴史を変えるほど追い詰めたセレナールが悪い』という発言に多数が同意し、セレナールさんは家族もろとも村八分となった。
そして、私の中で少しずつ、あの頃の新しい記憶が流れた。
閉鎖病棟にいたセレナールさんは、カナエさんに頼んでウルクさんを呼び出してもらい、記憶を消してもらい、エミリさんから皇太子様を奪い、その後は、殆どすり替えられる前と変わらない人生を過ごしている。
歴史というものは、そう簡単には変えられないのだろうか。
何故、皇太子様はエミリさんよりセレナールさんを選んだのだろう。
結局ラルクも教師になったセレナールさんと交際をした。
誰がどう足掻いても、歴史は元に戻っていく。
私は歴史の恐ろしさを感じていた。
「ラルク、可哀想……」
どうして……どうしてなのだ。私はナミネが私と交際していた記憶を失ってなかっただけで、それだけでいいと思えたのに……。
「ねえ、ナミネ。私よりラルクが大事なの?酷くない?」
私はまたナミネを攻撃してしまった。
「ヨルクさん、違います。私はただ、ラルクに元に戻って欲しいんです」
「何それ……。それ言い訳だよね?ナミネってさ、色んな男たぶらかして、まるでセレナールさんみたいに汚いね」
ダメだ、コントロールが出来ない。
「ヨルクさん、落ち着いてください!」
ナミネは私の手を握った。
「気持ち悪い!ラルクが好きなら勝手にして!セレナールさんと同等の卑劣なナミネとは二度と関わりたくない!」
やってしまった……。
「そうですか」
「この男たらし!最低!」
それだけ言うと私は第4居間を出た。
やり過ぎてしまった。ナミネに謝らないと。私はすぐに第4居間に戻った。するとラルクが戻っていた。
「あ、すみませんヨルクさん。私、ヨルクさんとの縁談は白紙に戻してラルクと交際したんです」
え、嘘だよね?こんな短時間で……。
「あんた、終わりだ。あれだけのこと言って許されると思ってんのか?カップル日記は強気なナミネはあんたとこ退会済みだ」
「嘘、嘘でしょ!?」
「ヨルクさんには酷いこと言われましたし、一方的でしたし、とてもじゃないけど、彼女に対する接し方とは思えなかったんです。あの時、ラルクを心配する私に寄り添ってくれていたなら縁談はそのままでしたが、ヨルクさんに侮辱された瞬間、ラルクを大切にしたいと思いました。ヨルクさんも別の人と幸せになってください」
そんな。たったあれだけのやり取りで私はいつも悪者なのか?
「ねえ、ナミネっていつもちょっとしたことで私のこと悪者扱いするよね。ナミネはもっと人に酷いことしてるのに」
「ヨルクさんとは破談にしました!付きまとわないでください!!」
ナミネは大声を出した。
「あのさヨルク、うるさいんだけど!悪いの明らかヨルクだよね?ナミネはヨルクを馬鹿にした?してないよね?うるさくするなら、出て行ってくれない?」
アルフォンス王子、ここ私の家なんだけど。
「私もヨルクが悪いと思うわ。彼女にあんな酷いこと、別れられて当然よ」
「私もヨルクが悪いと思う」
今度は私が標的か。みんな本当に自分勝手だな。
「ナミネ、もう許しは請わない。同じ状況になっても二度と許しは請わない。でも、一方的な破談なんて認めないし、ナミネとは別れない」
「ストーカーはやめてください!!」
ナミネはまた大声を出した。その瞬間、私はアルフォンス王子に殴られた。
「うるさいって言ってるの分からないの?」
「お言葉ですが……」
言い終わる前にアルフォンス王子は私を蹴り続けた。今は耐えるしかない。こんな理不尽なこと絶対に認めない。
「ねえ、ラルク、もう吹っ切れた?」
「うん、復讐終わったら、何か呆気なくってさ。僕もナミネに置いていかれないように試験受ける」
「ラルク、頑張ってね。これからは私がラルクの彼女だよ」
ナミネ、本気なのか?私は必死で涙を堪えた。
「待って!ラルク、許して!」
ラルクはセレナールさんを無視した。
「落ち武者さんも受けるみたいだし、私も夢騎士受けるから、また3人で強くなっていこうね」
「だな。ナミネは時計騎士も取って凄いな」
「うん、結構苦労したけどね」
私はアルフォンス王子に蹴られながらナミネとラルクの会話を聞いていた。ここで、負けて溜まるか!私は立ち上がり扇子を取り出した。アルフォンス王子が私に殴りかかろうとした時、私は扇子でアルフォンス王子を吹き飛ばした。
その瞬間、私はセナ王女に熱湯をかけられた。私は机にあるミネラルウォーターを自分にかけるなり、扇子でセナ王女を吹き飛ばすと、クレナイ家を出た。
私はクレナイ家の玄関の外で泣き崩れた。
ナミネ……私がナミネを受け入れなければならないのに、どうしてあんな酷いことを言ってしまったのだろう。
私は行く宛てもなく町を歩きはじめた。
とりあえず、スーパーに買い出しに行こう。ナミネの好きなもの、また作ってあげなきゃ……。思うほどに涙が出てくる。
泣きながら会計を済ませ、スーパーを出た後、私は大泣きしながらクレナイ家に向かって歩いた。せっかく、やっとの思いでナミネと交際出来たのに、どうしてつまらない嫉妬でナミネを傷付けてしまうのだろう。
「ヨルクさんは泣き虫ですな」
ナミネ?私は振り向いた。すると、腰まであった長い髪がセミロングになったナミネがいた。
「ナミネ……ごめん……私、ナミネと別れたくない……」
私はナミネの前で泣き崩れた。ナミネは私を抱き締めた。
「ヨルクさん、すぐに怒るから私も意地悪しただけです」
「そうなの……?でも、カップル日記……」
退会してるよね。
「もう復旧してます」
「じゃあ、別れるって嘘だったの?」
「はい」
そうだったのか。良かった……。本当に見切り付けられたかと思った……。
「行きますよ、ヨルクさん」
ナミネは私を起き上がらせ、私の手を握った。
「ナミネ、髪切ったの?」
「はい。ラルクと落ち武者さんが試験受けている間に美容院行ってきました」
そっか。ラルクと落ち武者さんは、更なる上を目指しているのか。
「ナミネ、今の髪型のほうがずっと可愛い」
ナミネは微笑んだ。ナミネ、可愛すぎる。私は町のど真ん中でナミネを抱き締めた。
私とナミネがクレナイ家の第4居間に入ると、ラルクが落ち込んでいた。ナミネは私の手を離し、ラルクの元へ駆け寄った。
「どうしたの!ラルク!」
「ダメだったんだよ、試験。特殊武官止まりだったんだ」
その時、セレナールさんがラルクを抱き締めた。
「ラルク、また受ければいいわ。私が傍で応援する」
「セレナール先輩は黙っててください!」
ラルク大声を出すと共にセレナールさんを突き飛ばした。
「あのさ、セレナール、大声出すなら出てってくんない?迷惑なんだけど」
さっきと同じだ。ナミネやラルクには言わずに弱い者にあえて言う。アルフォンス王子は結局そういう人だったのか。
「落ち武者さんはどうだったんですか?」
「僕は伝説上級武官合格したけど?」
「そうですか。おめでとうございます。ラルク、病み上がりだからだよ。ラルクは強いもん。次受けたら必ず伝説受かるよ!」
ナミネは必死にラルクを励ました。
「ナミネなんかが受かって、なんで僕が落ちるんだ!」
「何言ってるの?あなた、セレナールのことばかりで修業全然してなかったからじゃない!ナミネは恋愛しながらも訓練はサボってなかったのよ!」
リリカお姉様は、ラルクの訓練不足を指摘した。
「ラルク、今は休んでようよ」
「はっ、自分は2ヶ月も前に受かってるからって余裕だな」
ラルクはナミネを突き飛ばした。けれど、ナミネは扇子を縦に持ちバランスを取った。ナミネはラルク相手なら何を言われても機嫌を損ねない。けれど、私が相手だと、すぐに破談を言い渡される。何だかモヤモヤするけど、今ナミネを指摘して、また破談とか言われたら凄く傷つくから私は黙っていた。
「顔だけヨルク、あんたも今のうちに何か試験受けといたらどうだ?」
「い、いや私は……」
みんなみたいに闘う人には向いていない。
その時、ズームさんがナミネに何かを見せた。
「えっ、ズームさん、時計騎士の資格取ったんですか?現世でも時計騎士するんですか?」
「あなたに時計騎士の合格証明書を見せたられた時は驚きましたが、懐かしくなり、もう一度、試験を受けました。また、将来的には時計騎士をしようかと思います」
時計騎士か……。いったいどのような仕事なのだろう。私は少し興味を持ちはじめていた。
今日はセナ王女以外のメンバーは帰って行った。落ち武者さんの誕生日は数日後。セレナールさんとカナエさんも一緒に祝うらしいが、そこで何か起きないか私は不安になっていた。
……
あとがき。
ラルクは復讐によって元の自分を取り戻した……はずだった。
けれど、伝説武官の資格は取れずジレンマに。
ラルクがセレナールに費やした時間がそうしてしまったのだろうか。それとも、ラルクの恨みが前を見えなくさせてしまったのだろうか。
ラルクはいつまで正気を失っているのだろう。
純愛偏差値 未来編 一人称版 53話
《ナミネ》
現代に戻された私たちはナノハナ家の第4居間で話し合っている。マモルさんの芸能界追放はもう覆りそうにはない。そして、裁判にもかけられるそうだ。
いくら、引き渡されたからって、思いとどまることも出来ただろうに。
そして、マモルさんの代わりに新しいメンバーであるミツメさんが加わった。
それにしても、森の湖にいたセレナールさんは、ラルクのこと本気で愛していたと思っていたのに、全て嘘で最初からラルクのこと利用しようとしていただなんて……。
絶対に許せない。
あの時のセレナールさんは、皇太子様に一目惚れをして、かなり上手くいっていたけれど、紀元前村から帰って来たカラクリ家にて、あの映像がきっかけに皇太子様と拗れてしまう。
そして、セレナールさんが本当に愛していたのは実の兄であるセリルさんであることを聞かされたとか。
全て吹っ切ったセレナールさんは、今の妖精村学園の教師になった。あの時は、人手不足だったらしく、高校2年生と1年生の担任を掛け持ちしていたらしい。
結局、セレナールさんの人生って何だったのだろう。セリルさんのことが吹っ切れた後に好きになったヨルクさんが初恋だったのだろうか。妖精村にとって、セレナールさんは特別な存在なのに、人生観はかなり酷いと思う。
もし、あの時、タルリヤさんが来てなくて、ずっと皇室にいたら幸せでいられたのかな。
「話の途中だけど、とりあえず、この映像見ろ!」
落ち武者さんは、携帯の映像を再生した。
ああ、タイムスリップした時の映像か。セレナールさんの本性をみんなに知ってもらうのか。
もうこの際だから白黒ハッキリ付けた方がいいよね。
馬に乗るヨルクさんカッコイイなあ。
みんなは映像を見終わった。
「え、セレナールってヨルク目当てでラルク騙してたの?酷すぎない?いくらなんでも、こんなやり方非道だわ。現世でイジワルされたのもバチが当たったのかもね」
セナ王女はやっぱり厳しい意見。
「セレナールの本性って思ってたより怖い。人を騙すだなんてあんまりだわ。ラルクは森の湖のセレナールと交際するために何日も帰らなかったのに。こんな真実聞かされて、かなり傷付いていると思う」
ユメさんもセレナールさんの味方はしないか。
「悪いけど、セレナール。弟には近づかないでちょうだい!こんなの認められないわ!何て品がなくて馬鹿な女なの!クレナイ家には相応しくないわ!」
カンザシさんのことといい、リリカさんから見たセレナールさんの印象はガタ落ちだな。
「リリカ、許して。昔は恋が分からなかったの。これからはラルクを大切にする!」
その瞬間、リリカさんはセレナールさんを殴り付けた。
「ラルクは渡さないわ!」
やっぱり、リリカさんは元から認めてなかったんだ。
そういえば、10月は色々バタバタしていて、そのまま11月になっちゃって、その11月も下旬にさしかかっているから、セレナールさんとカナエさん、落ち武者さんの誕生日会はセナ王女の別荘でしようって話してるけど、こんな状態で出来るのだろうか。
私は何となくズームさんを見た。
しまった。目が合っちゃった。咄嗟に目を逸らした。
時計騎士かあ……。身長高いし未来のヨルクさんより体型ガッチリしてる。
うーん、やっぱり気になる。
私はトイレに行くと嘘を付いて、第4居間を出て自分の部屋に入るなり呼び出しカードでキクスケさんを呼んで番人部屋に連れて行ってもらった。
「私、時計騎士の試験受けたいです!」
「時計騎士は難関です。まずは体験からしてみてください」
「分かりました」
私は、番人部屋の扉の向こうにある試験会場の受付で体験を申し込んで体験に挑んだ。
時計騎士。
確かに難しい。時間の管理って、こんなにハードなのか。0.001秒もズレてはいけない。けれど、次々に時間を狂わせる試練が来る。私は時計台の上で、時間が狂う度に時間を元に戻した。
体験はギリギリの合格だった。
キクスケさんが現れた。
「おめでとうございます。体験は合格です」
「本試験を受けたいです!」
「残念ながら今のナミネさんには無理でしょう。本試験は体験よりハードです。しかし、ナミネさんは体験の時点で、時間を戻すスピードが遅かったです。本試験では、もっと早く戻さなくてはいけません。妖精村の時間を正確に管理するそれが時計騎士なのです」
ズームさんは難関な資格をすんなり通ったということか。何だか悔しい。
「それでも受けます!」
「それでは受付を済ませた後、試験を受けてください」
私は受付に走った。
1回目は、いきなり台風が来て戻すスピードがかなり遅く失格となった。
2回目は、見知らぬ人に時間を巻き戻され躊躇しているうちに失格となった。
そして、3回目、4回目、5回目も失格だった。
難しい。難しすぎる。こんなのどうやって合格するの?
悔しさ余りに私は6回目を受けた。
台風が来て、私は即、分針を左に回した。時間を戻されたら、即秒針を右に回した。途中、物乞いの人に声をかけられ、失格となったが、私は少しずつ理屈を掴んでいた。
7回目、私は本気で挑んだ。
見知らぬ人に時間を戻されるなり即、秒針を右に回し、竜巻が来ると私は即、分針を1周左に回した。物乞いの人に声をかけられても、ひたすら時計台の上で次なる試練を待った。紀元前村の時間が狂うと私は時針を大きく右に回した。停電が起きると私は秒針を正確に右に回した。
「ナミネさん、おめでとうございます。時計騎士試験 合格です」
「ありがとうございます!」
私は時計騎士合格証明書を受け取った。
7回目にしてやっとギリギリの合格。
私は汗だくになりながら、試験会場を出て、キクスケさんに第4居間の前の廊下に戻してもらった。
時計を見ると、私がここを出てからまだ7分しか経ってなかった。まだ時間元に戻ってなかったんだ。でも、そろそろ、戻さないとな。私はずっとズレていた時間を元に戻した。そして、第4居間に入った。
「ナミネ、どうしたの?熱出したの?」
私は駆け寄るヨルクさんの横を通り抜けズームさんの前に立った。
「ズームさんて、頭良いんですね!」
私はズームさんに時計騎士合格証明書を見せた。
え、無視?
「おめでとうございます」
一応祝福はしてくれるんだ。
「あ、ありがとうございます」
「あんた、それ持ってても使わないだろうがよ」
「ただ、挑戦したかったんです!ラルクもさ、伝説と夢騎士取って、もっと強くなっていこうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
ラルク、しっかりしてよ!失恋は辛いけど、ラルクがそんなんだと、ラルクだけ置いてきぼりになっちゃうよ。
「ナミネ、時計騎士の試験受けてたの?」
「はい」
ていうか、話し合いどうなったんだろう。まだ、何か揉めてるようだけど。
「やっぱり、ナミネとラルクをくっ付けておけば良かった」
「リリカお姉様!私とナミネは愛し合ってるんです!」
「あんた、汗拭いてやるよ」
「もう、どうして落ち武者さんがそんなことするの!ナミネは私の彼女だから!ナミネ、部屋で着替えるよ」
私はヨルクさんに手を引っ張られ部屋へと向かった。
部屋でヨルクさんは私の身体を拭くと私にキャミソールとルームウェアを着せた。
「ナミネ、凄いね」
「そんなことないです。それよりラルクが心配です。せっかく、伝説受けるって意気込んでいたのに。失恋で受けられなくなるなんて……。落ち武者さんも近々試験受けますし、私も夢騎士の試験に備えてます」
「ナミネ、焦ってない?もっとゆっくりで良いと思う。ラルクだって、来年受けたらいいと思うし」
焦ってるのかな。何だか欠けているものを埋めたくて仕方ないんだよね。
「分かりました」
ヨルクさんは私を抱き締めた後、私の手を握り再び第4居間へと向かった。
第4居間では、セレナールさんが女性陣から攻撃を受けていた。これもう解散で良い気がする。
「落ち武者さんも伝説と夢騎士受けるんですよね?」
「うん、受けるけど?」
「ラルク、私、時計騎士受かったんだよ。ラルクもさ、巻き返そうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
私は泣きながらラルクを抱き締めた。
「もういいよ。ラルク、何もしなくていいよ。私が一生ラルクを支えるよ」
ラルク、可哀想に。こんなになるまで傷付けられて……。
「本当、セレナールって最低」
「流石にセレナールのしたことってアウトよね」
「セレナールがこんな人だとは思いませんでした」
「何よ、みんなイジメないで!」
セレナールさんなんか、ずっと攻撃受けていればいいのに。ラルクはもっと苦しんでいるんだよ。みんな、もうセレナールさんに同情なんかしないよ。
「おい、シュリ、物件見つけて来たか?」
「あの、リーダーのここでもアパートを借りる概念が理解出来ません。僕たちは虹色街で活動しなければならないんです。今だってこうやってレッスンさぼっているの良くないと思います」
私も芸能人なら、本来は虹色街にいるものだと思う。でも、ラハルさんも紅葉町でアパート借りるんだっけ?
「新入りが口答えするな!僕は紅葉町でもアパートを借りる!」
「何のためにですか!納得いく説明をしてください!」
「ナミネさんと長く一緒にいたいからだ!だからといってレッスンをサボるつもりはない!」
え、何だか私のせいみたいでいやだな。
「たかが女1人のために、わざわざアパートまで借りるんですか!グルグル妖精やサムライ妖精は毎日レッスンに明け暮れているというのに!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんに殴りかかろうとしたが、ミツメさんはかわした。え、かわした?この人強いんだ。けれど、カンザシさんは、諦めずミツメさんを攻撃する。
はあ、カンザシさんは、どうして私に拘るのだろう。
「カンザシ、ナミネがいるから紅葉町にアパート借りるのは僕もおかしいと思う。今だって、虹色街のマンションの家賃払えてないのに。月収9万円では何も出来ないだろう。オーディションも落ちてばかりだし、もっと努力しないとニンジャ妖精潰れるぞ!」
今度はラハルさんに殴りかかった。私は扇子で止めた。
「ラハルだって、紅葉町にアパート借りるんだろ!」
「僕はちゃんと家賃払えるくらい稼いでる。カンザシみたいにサボってないし」
「は?もう一度言え!」
「リーダー、やめましょう」
カンザシさんが攻撃しようとするのを、ミツメさんは止めた。この人強い。何か習ってるのかな。
「ミツメさんはお強いですなあ」
私は扇子を仰ぎながら言った。その時、テレビからニュースが流れた。
『マモルさんが脱退した後、ニンジャ妖精さんにミツメさんという新しいメンバーが加わりました。ミツメさんは3歳の頃から音楽教室に通い、6歳の頃には俳優業もしています。今後のニンジャ妖精さんに期待ですね』
ミツメさんて3歳から芸能人目指してたんだ。何かエリートって感じ。
「これで分かったか、カンザシ。芸能人目指す者はミツメのように小さい頃からミッチリとレッスン積んでるんだよ!」
ラハルさんも、音楽教室通ってたんだっけ。
「上から目線で物言うな!」
「リーダー、落ち着いてください」
「はい、ストップ!」
落ち武者さんはカンザシさんを止めた。
「芸能人続けたいなら死ぬ気でやれ!」
そうなんだよね。どの世界も命懸けなんだよ。中途半端なんて許されない。
「ミツメさんて、3歳の頃から芸能人目指していたとか、自分持ってて偉いですね」
私はまた扇子をパタパタさせていた。
「夢だったので」
「青春ですのお」
「ナミネさんは夢とかないんですか?」
「夢を持つにはまだ早い年齢ですな」
本当は、武官か指導官目指してるけど、今は言わなくていいかな。
「そうですか。中学生楽しんでください」
「はい!ミツメさんも芸能界で謳歌してくださいな」
私も小さい頃からラルクと訓練してたけど、そのラルクは今これだもんな。何だか寂しい。
「今更だけど、ナミネの家って大きいよね。親何してるの?」
「あ、サラリーマンしてます。兄は医者目指してます」
私は無意識にバレバレな嘘を着いていた。
「お兄さんって?」
「この人で、今はここに住んでます」
私はナヤセス殿の写真と住んでるマンションの写真をラハルさんに見せた。
「あまり似てないね。凄いマンション。学生なのにバイトでもしてるの?」
「腹違いの兄です。研究員のバイトしてます」
「そっか、エリートなんだ。どっかの誰かさんとは大違いだな」
ラハルさんはカンザシさんを見た。
そういえば、ナヤセス殿とロナさん、どうなったんだろ。
「僕に上から目線で物語るな!僕は全て独学でやって来た!学費だって自分で払ってきた!チート野郎が生意気な口叩いてんな!」
カンザシさんの実家って、お金ないのかな。ナヤセス殿みたいに下克上出来る人なら大人になってからの暮らしは安泰するだろうに。
「あんた、マモル脱退したばっかなんだから、これ以上問題起こすな!」
落ち武者さんが、カンザシさんに指摘した瞬間、疲れが出たのか倒れた。
「落ち武者さん!」
ヨルクさんは主治医を呼んだ。
落ち武者さんは、過労らしい。私は落ち武者さんを背負って2階へ行き、布団に寝かせた。
3日もタイムスリップしてたもんな。
私は再び第4居間に戻った。
まだ、カンザシさんとミツメさん揉めてる。私が原因だから何だか気まずいな。セレナールさんもまだ責められてるし。
「ナミネ、やっぱり生理遅れてたのおかしいと思うから、明日病院行こっか」
どうしてヨルクさんって、いつもタイミング悪い時に言うの。ズームさんが時間止めてたせいなのに。
「い、いえ、本当に何でもないんです!それより、ヨルクさん、これ試してみてはいかがですか?尿漏れを防いでくれます」
私はヨルクさんに失禁パンツを渡した。
「ねえ、私のこと馬鹿にしてるの?失禁パンツなんて必要ないから!」
ほら、自分のことになると、すぐに機嫌損ねる。まるで子供みたい。
「では捨ててください」
「別に捨てないけど……ナミネって趣味悪いよね」
「みんな、セルファが倒れたようにタイムスリップしてた人たちは疲れてるから、今日は出前頼んだよ」
卵がゆじゃないんだ。ヨルクさんも、ずっと動きっぱなしだったもんね。
「ありがとう、ナルホさん」
それにしてもカンザシさん、いつまでここにいるんだろう。ズームさんというパトロンがいるから甘えてるのかな。
ナルホお兄様もまだこっちの学校行けてないし。色々ありすぎで頭パンクしそうだよ。
その時、カナエさんを引っ張たこうとしたセレナールさんが躓いてズームさんを押し倒してしまった。
「いやっ!気持ち悪いっ!」
セレナールさんは慌てて身体を起こし、ズームさんから離れた。
顔が全てってこと?めちゃくちゃ苛立つ。
「あの、セレナールさん……!!」
「明日は、ラルクとカンザシさんを月城総合病院に連れて行くから」
そっか、ゴタゴタで忘れてたけど、カンザシさん、病院で診てもらわないと。
「カンザシさんも落ち着いてくれるかな」
ナルホお兄様の指摘でカンザシさんは平常心を取り戻した。
あっ、話しかけられる前に何とかしないと。
「あ、ズームさん、話したいことあるので、部屋まで来てもらえませんか?」
え、この間何……?
「分かりました」
私はズームさんの手を引っ張って逃げるように第4居間を出た。
部屋に入ると落ち武者さんはまだ寝ていた。
「話って何ですか?」
「あ、あの……その……別に嫌いとかじゃないし、寧ろ好きなんですけど、カンザシさんに付きまとわれている気がするんです。よく2人きりになりたいと言われて……。知り合って間もないし2人きりは流石に気まずくて……」
この時、私はヨルクさんが立ち聞きしていることを全く知らなかった。
「つまり、気まずいけど、突き放せないということですか?」
「はい、そうなんです。やはり、実の兄ですし……」
え、またこの間……いったい何なの?
「そうですか。ハッキリ言います。カンザシはあなたに恋愛感情があるんです。けれど、断るに断れないなら30分とキッチリ時間を決めたり、誰か1人連れて行く、或いはその1人に見張ってもらうしかないと思います」
2人きりだから誰かは連れて行けないから、見張ってもらうしかないかな。30分なら弾き語りも早く終わるだろうし。
「そ、そうですよね。そうします。って、れ、恋愛感情?それはないと思います。私、カンザシさんの妹ですし」
「てか、あんた、カンザシのこと気に入ってたんじゃなかったのかよ?」
え、落ち武者さん、いつ起きたの?もしかして、最初から起きてた?
「そうなんですけど。知り合ってまだ間もないから2人きりはやっぱり気まずくて……。ヨルクさんのことも心配だし……」
「では、話は終わったので僕は戻ります」
「ちょ、待ってください!」
私は何故か慌てて引き止めてしまった。え、何か落ちた?
「落ちましたよ、これ。大切なものならカード入れに入れたほうがいいですよ。せっかく取った資格なんですから」
ズームさんは時計騎士合格証明書とカードケースを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。このカードケース可愛いですね。どこのメーカーですか?」
「知りません」
やっぱり話しづらい。とりあえず私は財布から伝説最上級武官合格証明書と時計騎士合格証明書をカードケースに入れて、財布とカードケースをショルダーバッグに戻した。
「じゃあ、こらからは僕が着いててやるよ」
「あ、お願いします。ズームさん、ピアノ弾きますか?」
「弾きません」
用事以外は話さないってこと?
「あ、では今のうちに、お風呂入ってください。浴衣置いてあるので適当に使ってください。部屋は適当に空いてる客間使ってください。案内します」
え、またこの間……。めちゃくちゃ気まずいんだけど。
「では、お風呂はお借りします」
「じゃ、僕も入る。強気なナミネ、あんたはミツメに弾き語りでもしてもらえ!」
「は、はい」
その時、落ち武者さんは素早く扉を開けた。え、ヨルクさん?いつからいたの?そもそもどうしているの?
「あんた、立ち聞きとか趣味悪いな」
「ナミネのこと心配だったから……」
ヨルクさん……。好きすぎる……。
落ち武者さんとズームさんが、お風呂に行った後、ヨルクさんは出前が来てるからと私を第4居間に戻した。
お寿司か。グルグル妖精さんのマンションに泊まった時もお寿司だったな。ラルクに食べさせてあげよう。
「ナミネ、手で掴まないで。今取り皿に入れるから」
「ラルクの分です。ラルク、かなり前から食べてないです。ラルク、食べて」
私はラルクにお寿司を食べさせようとした。
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、お願い食べて」
「ラルクは、明日点滴打ってもらうから、とりあえず、ナミネ食べてくれる?明日は僕とニンジャ妖精さんで行くからナミネは疲れとるために休んでくれるかな」
うーん、ラルクのこと心配だし、私も付き添いたいんだけど……。
「ラルクが心配なので私も行きます!」
「ナルホ、1番お風呂のシャンプー切れてる」
「あ、私補充してきます!」
私は1番お風呂に向かった。
新しいシャンプーっと。2つでいいかな。
「シャンプー補充しに来ました」
「あんたさ、男2人いる風呂によく来れるな」
あ、落ち武者さんとズームさんいたんだった。
「すみません。これ、補充のシャンプーです」
私は落ち武者さんにシャンプーを渡した。
「はいよ」
「あの、ラルクのことなんですけど……」
「あんたさ、何もここで話すことないだろ」
「ハッキリ言います!あなたのような人の入浴中に堂々と入ってくるような女は大嫌いです!」
そ、そんな……。ここ私の家なのに……。
「すみません」
私は1番お風呂を出た。この時の私は、ズームさんが、私のコマーシャル映像や、まだDVD化されていない、飛べない翼と花夢物語を特注で入手していることを全く知らなかったのである。
この日は、ヨルクさんが部屋に持って来てくれたお寿司を食べて、私は眠りについた。
この時の私は予想もしていなかった。この後に起きる展開を。
……
あとがき。
走り書きでは常に全力疾走のラルクが、こっちではかなり病んでいる。書くたびに物語って変わるものなんですね。
ナミネにとっては平和な回。
でも、セレナール視点やラルク視点だと全然そうではないんだろうなあ。
そして、マモルはいつ帰るの?
《ナミネ》
現代に戻された私たちはナノハナ家の第4居間で話し合っている。マモルさんの芸能界追放はもう覆りそうにはない。そして、裁判にもかけられるそうだ。
いくら、引き渡されたからって、思いとどまることも出来ただろうに。
そして、マモルさんの代わりに新しいメンバーであるミツメさんが加わった。
それにしても、森の湖にいたセレナールさんは、ラルクのこと本気で愛していたと思っていたのに、全て嘘で最初からラルクのこと利用しようとしていただなんて……。
絶対に許せない。
あの時のセレナールさんは、皇太子様に一目惚れをして、かなり上手くいっていたけれど、紀元前村から帰って来たカラクリ家にて、あの映像がきっかけに皇太子様と拗れてしまう。
そして、セレナールさんが本当に愛していたのは実の兄であるセリルさんであることを聞かされたとか。
全て吹っ切ったセレナールさんは、今の妖精村学園の教師になった。あの時は、人手不足だったらしく、高校2年生と1年生の担任を掛け持ちしていたらしい。
結局、セレナールさんの人生って何だったのだろう。セリルさんのことが吹っ切れた後に好きになったヨルクさんが初恋だったのだろうか。妖精村にとって、セレナールさんは特別な存在なのに、人生観はかなり酷いと思う。
もし、あの時、タルリヤさんが来てなくて、ずっと皇室にいたら幸せでいられたのかな。
「話の途中だけど、とりあえず、この映像見ろ!」
落ち武者さんは、携帯の映像を再生した。
ああ、タイムスリップした時の映像か。セレナールさんの本性をみんなに知ってもらうのか。
もうこの際だから白黒ハッキリ付けた方がいいよね。
馬に乗るヨルクさんカッコイイなあ。
みんなは映像を見終わった。
「え、セレナールってヨルク目当てでラルク騙してたの?酷すぎない?いくらなんでも、こんなやり方非道だわ。現世でイジワルされたのもバチが当たったのかもね」
セナ王女はやっぱり厳しい意見。
「セレナールの本性って思ってたより怖い。人を騙すだなんてあんまりだわ。ラルクは森の湖のセレナールと交際するために何日も帰らなかったのに。こんな真実聞かされて、かなり傷付いていると思う」
ユメさんもセレナールさんの味方はしないか。
「悪いけど、セレナール。弟には近づかないでちょうだい!こんなの認められないわ!何て品がなくて馬鹿な女なの!クレナイ家には相応しくないわ!」
カンザシさんのことといい、リリカさんから見たセレナールさんの印象はガタ落ちだな。
「リリカ、許して。昔は恋が分からなかったの。これからはラルクを大切にする!」
その瞬間、リリカさんはセレナールさんを殴り付けた。
「ラルクは渡さないわ!」
やっぱり、リリカさんは元から認めてなかったんだ。
そういえば、10月は色々バタバタしていて、そのまま11月になっちゃって、その11月も下旬にさしかかっているから、セレナールさんとカナエさん、落ち武者さんの誕生日会はセナ王女の別荘でしようって話してるけど、こんな状態で出来るのだろうか。
私は何となくズームさんを見た。
しまった。目が合っちゃった。咄嗟に目を逸らした。
時計騎士かあ……。身長高いし未来のヨルクさんより体型ガッチリしてる。
うーん、やっぱり気になる。
私はトイレに行くと嘘を付いて、第4居間を出て自分の部屋に入るなり呼び出しカードでキクスケさんを呼んで番人部屋に連れて行ってもらった。
「私、時計騎士の試験受けたいです!」
「時計騎士は難関です。まずは体験からしてみてください」
「分かりました」
私は、番人部屋の扉の向こうにある試験会場の受付で体験を申し込んで体験に挑んだ。
時計騎士。
確かに難しい。時間の管理って、こんなにハードなのか。0.001秒もズレてはいけない。けれど、次々に時間を狂わせる試練が来る。私は時計台の上で、時間が狂う度に時間を元に戻した。
体験はギリギリの合格だった。
キクスケさんが現れた。
「おめでとうございます。体験は合格です」
「本試験を受けたいです!」
「残念ながら今のナミネさんには無理でしょう。本試験は体験よりハードです。しかし、ナミネさんは体験の時点で、時間を戻すスピードが遅かったです。本試験では、もっと早く戻さなくてはいけません。妖精村の時間を正確に管理するそれが時計騎士なのです」
ズームさんは難関な資格をすんなり通ったということか。何だか悔しい。
「それでも受けます!」
「それでは受付を済ませた後、試験を受けてください」
私は受付に走った。
1回目は、いきなり台風が来て戻すスピードがかなり遅く失格となった。
2回目は、見知らぬ人に時間を巻き戻され躊躇しているうちに失格となった。
そして、3回目、4回目、5回目も失格だった。
難しい。難しすぎる。こんなのどうやって合格するの?
悔しさ余りに私は6回目を受けた。
台風が来て、私は即、分針を左に回した。時間を戻されたら、即秒針を右に回した。途中、物乞いの人に声をかけられ、失格となったが、私は少しずつ理屈を掴んでいた。
7回目、私は本気で挑んだ。
見知らぬ人に時間を戻されるなり即、秒針を右に回し、竜巻が来ると私は即、分針を1周左に回した。物乞いの人に声をかけられても、ひたすら時計台の上で次なる試練を待った。紀元前村の時間が狂うと私は時針を大きく右に回した。停電が起きると私は秒針を正確に右に回した。
「ナミネさん、おめでとうございます。時計騎士試験 合格です」
「ありがとうございます!」
私は時計騎士合格証明書を受け取った。
7回目にしてやっとギリギリの合格。
私は汗だくになりながら、試験会場を出て、キクスケさんに第4居間の前の廊下に戻してもらった。
時計を見ると、私がここを出てからまだ7分しか経ってなかった。まだ時間元に戻ってなかったんだ。でも、そろそろ、戻さないとな。私はずっとズレていた時間を元に戻した。そして、第4居間に入った。
「ナミネ、どうしたの?熱出したの?」
私は駆け寄るヨルクさんの横を通り抜けズームさんの前に立った。
「ズームさんて、頭良いんですね!」
私はズームさんに時計騎士合格証明書を見せた。
え、無視?
「おめでとうございます」
一応祝福はしてくれるんだ。
「あ、ありがとうございます」
「あんた、それ持ってても使わないだろうがよ」
「ただ、挑戦したかったんです!ラルクもさ、伝説と夢騎士取って、もっと強くなっていこうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
ラルク、しっかりしてよ!失恋は辛いけど、ラルクがそんなんだと、ラルクだけ置いてきぼりになっちゃうよ。
「ナミネ、時計騎士の試験受けてたの?」
「はい」
ていうか、話し合いどうなったんだろう。まだ、何か揉めてるようだけど。
「やっぱり、ナミネとラルクをくっ付けておけば良かった」
「リリカお姉様!私とナミネは愛し合ってるんです!」
「あんた、汗拭いてやるよ」
「もう、どうして落ち武者さんがそんなことするの!ナミネは私の彼女だから!ナミネ、部屋で着替えるよ」
私はヨルクさんに手を引っ張られ部屋へと向かった。
部屋でヨルクさんは私の身体を拭くと私にキャミソールとルームウェアを着せた。
「ナミネ、凄いね」
「そんなことないです。それよりラルクが心配です。せっかく、伝説受けるって意気込んでいたのに。失恋で受けられなくなるなんて……。落ち武者さんも近々試験受けますし、私も夢騎士の試験に備えてます」
「ナミネ、焦ってない?もっとゆっくりで良いと思う。ラルクだって、来年受けたらいいと思うし」
焦ってるのかな。何だか欠けているものを埋めたくて仕方ないんだよね。
「分かりました」
ヨルクさんは私を抱き締めた後、私の手を握り再び第4居間へと向かった。
第4居間では、セレナールさんが女性陣から攻撃を受けていた。これもう解散で良い気がする。
「落ち武者さんも伝説と夢騎士受けるんですよね?」
「うん、受けるけど?」
「ラルク、私、時計騎士受かったんだよ。ラルクもさ、巻き返そうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
私は泣きながらラルクを抱き締めた。
「もういいよ。ラルク、何もしなくていいよ。私が一生ラルクを支えるよ」
ラルク、可哀想に。こんなになるまで傷付けられて……。
「本当、セレナールって最低」
「流石にセレナールのしたことってアウトよね」
「セレナールがこんな人だとは思いませんでした」
「何よ、みんなイジメないで!」
セレナールさんなんか、ずっと攻撃受けていればいいのに。ラルクはもっと苦しんでいるんだよ。みんな、もうセレナールさんに同情なんかしないよ。
「おい、シュリ、物件見つけて来たか?」
「あの、リーダーのここでもアパートを借りる概念が理解出来ません。僕たちは虹色街で活動しなければならないんです。今だってこうやってレッスンさぼっているの良くないと思います」
私も芸能人なら、本来は虹色街にいるものだと思う。でも、ラハルさんも紅葉町でアパート借りるんだっけ?
「新入りが口答えするな!僕は紅葉町でもアパートを借りる!」
「何のためにですか!納得いく説明をしてください!」
「ナミネさんと長く一緒にいたいからだ!だからといってレッスンをサボるつもりはない!」
え、何だか私のせいみたいでいやだな。
「たかが女1人のために、わざわざアパートまで借りるんですか!グルグル妖精やサムライ妖精は毎日レッスンに明け暮れているというのに!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんに殴りかかろうとしたが、ミツメさんはかわした。え、かわした?この人強いんだ。けれど、カンザシさんは、諦めずミツメさんを攻撃する。
はあ、カンザシさんは、どうして私に拘るのだろう。
「カンザシ、ナミネがいるから紅葉町にアパート借りるのは僕もおかしいと思う。今だって、虹色街のマンションの家賃払えてないのに。月収9万円では何も出来ないだろう。オーディションも落ちてばかりだし、もっと努力しないとニンジャ妖精潰れるぞ!」
今度はラハルさんに殴りかかった。私は扇子で止めた。
「ラハルだって、紅葉町にアパート借りるんだろ!」
「僕はちゃんと家賃払えるくらい稼いでる。カンザシみたいにサボってないし」
「は?もう一度言え!」
「リーダー、やめましょう」
カンザシさんが攻撃しようとするのを、ミツメさんは止めた。この人強い。何か習ってるのかな。
「ミツメさんはお強いですなあ」
私は扇子を仰ぎながら言った。その時、テレビからニュースが流れた。
『マモルさんが脱退した後、ニンジャ妖精さんにミツメさんという新しいメンバーが加わりました。ミツメさんは3歳の頃から音楽教室に通い、6歳の頃には俳優業もしています。今後のニンジャ妖精さんに期待ですね』
ミツメさんて3歳から芸能人目指してたんだ。何かエリートって感じ。
「これで分かったか、カンザシ。芸能人目指す者はミツメのように小さい頃からミッチリとレッスン積んでるんだよ!」
ラハルさんも、音楽教室通ってたんだっけ。
「上から目線で物言うな!」
「リーダー、落ち着いてください」
「はい、ストップ!」
落ち武者さんはカンザシさんを止めた。
「芸能人続けたいなら死ぬ気でやれ!」
そうなんだよね。どの世界も命懸けなんだよ。中途半端なんて許されない。
「ミツメさんて、3歳の頃から芸能人目指していたとか、自分持ってて偉いですね」
私はまた扇子をパタパタさせていた。
「夢だったので」
「青春ですのお」
「ナミネさんは夢とかないんですか?」
「夢を持つにはまだ早い年齢ですな」
本当は、武官か指導官目指してるけど、今は言わなくていいかな。
「そうですか。中学生楽しんでください」
「はい!ミツメさんも芸能界で謳歌してくださいな」
私も小さい頃からラルクと訓練してたけど、そのラルクは今これだもんな。何だか寂しい。
「今更だけど、ナミネの家って大きいよね。親何してるの?」
「あ、サラリーマンしてます。兄は医者目指してます」
私は無意識にバレバレな嘘を着いていた。
「お兄さんって?」
「この人で、今はここに住んでます」
私はナヤセス殿の写真と住んでるマンションの写真をラハルさんに見せた。
「あまり似てないね。凄いマンション。学生なのにバイトでもしてるの?」
「腹違いの兄です。研究員のバイトしてます」
「そっか、エリートなんだ。どっかの誰かさんとは大違いだな」
ラハルさんはカンザシさんを見た。
そういえば、ナヤセス殿とロナさん、どうなったんだろ。
「僕に上から目線で物語るな!僕は全て独学でやって来た!学費だって自分で払ってきた!チート野郎が生意気な口叩いてんな!」
カンザシさんの実家って、お金ないのかな。ナヤセス殿みたいに下克上出来る人なら大人になってからの暮らしは安泰するだろうに。
「あんた、マモル脱退したばっかなんだから、これ以上問題起こすな!」
落ち武者さんが、カンザシさんに指摘した瞬間、疲れが出たのか倒れた。
「落ち武者さん!」
ヨルクさんは主治医を呼んだ。
落ち武者さんは、過労らしい。私は落ち武者さんを背負って2階へ行き、布団に寝かせた。
3日もタイムスリップしてたもんな。
私は再び第4居間に戻った。
まだ、カンザシさんとミツメさん揉めてる。私が原因だから何だか気まずいな。セレナールさんもまだ責められてるし。
「ナミネ、やっぱり生理遅れてたのおかしいと思うから、明日病院行こっか」
どうしてヨルクさんって、いつもタイミング悪い時に言うの。ズームさんが時間止めてたせいなのに。
「い、いえ、本当に何でもないんです!それより、ヨルクさん、これ試してみてはいかがですか?尿漏れを防いでくれます」
私はヨルクさんに失禁パンツを渡した。
「ねえ、私のこと馬鹿にしてるの?失禁パンツなんて必要ないから!」
ほら、自分のことになると、すぐに機嫌損ねる。まるで子供みたい。
「では捨ててください」
「別に捨てないけど……ナミネって趣味悪いよね」
「みんな、セルファが倒れたようにタイムスリップしてた人たちは疲れてるから、今日は出前頼んだよ」
卵がゆじゃないんだ。ヨルクさんも、ずっと動きっぱなしだったもんね。
「ありがとう、ナルホさん」
それにしてもカンザシさん、いつまでここにいるんだろう。ズームさんというパトロンがいるから甘えてるのかな。
ナルホお兄様もまだこっちの学校行けてないし。色々ありすぎで頭パンクしそうだよ。
その時、カナエさんを引っ張たこうとしたセレナールさんが躓いてズームさんを押し倒してしまった。
「いやっ!気持ち悪いっ!」
セレナールさんは慌てて身体を起こし、ズームさんから離れた。
顔が全てってこと?めちゃくちゃ苛立つ。
「あの、セレナールさん……!!」
「明日は、ラルクとカンザシさんを月城総合病院に連れて行くから」
そっか、ゴタゴタで忘れてたけど、カンザシさん、病院で診てもらわないと。
「カンザシさんも落ち着いてくれるかな」
ナルホお兄様の指摘でカンザシさんは平常心を取り戻した。
あっ、話しかけられる前に何とかしないと。
「あ、ズームさん、話したいことあるので、部屋まで来てもらえませんか?」
え、この間何……?
「分かりました」
私はズームさんの手を引っ張って逃げるように第4居間を出た。
部屋に入ると落ち武者さんはまだ寝ていた。
「話って何ですか?」
「あ、あの……その……別に嫌いとかじゃないし、寧ろ好きなんですけど、カンザシさんに付きまとわれている気がするんです。よく2人きりになりたいと言われて……。知り合って間もないし2人きりは流石に気まずくて……」
この時、私はヨルクさんが立ち聞きしていることを全く知らなかった。
「つまり、気まずいけど、突き放せないということですか?」
「はい、そうなんです。やはり、実の兄ですし……」
え、またこの間……いったい何なの?
「そうですか。ハッキリ言います。カンザシはあなたに恋愛感情があるんです。けれど、断るに断れないなら30分とキッチリ時間を決めたり、誰か1人連れて行く、或いはその1人に見張ってもらうしかないと思います」
2人きりだから誰かは連れて行けないから、見張ってもらうしかないかな。30分なら弾き語りも早く終わるだろうし。
「そ、そうですよね。そうします。って、れ、恋愛感情?それはないと思います。私、カンザシさんの妹ですし」
「てか、あんた、カンザシのこと気に入ってたんじゃなかったのかよ?」
え、落ち武者さん、いつ起きたの?もしかして、最初から起きてた?
「そうなんですけど。知り合ってまだ間もないから2人きりはやっぱり気まずくて……。ヨルクさんのことも心配だし……」
「では、話は終わったので僕は戻ります」
「ちょ、待ってください!」
私は何故か慌てて引き止めてしまった。え、何か落ちた?
「落ちましたよ、これ。大切なものならカード入れに入れたほうがいいですよ。せっかく取った資格なんですから」
ズームさんは時計騎士合格証明書とカードケースを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。このカードケース可愛いですね。どこのメーカーですか?」
「知りません」
やっぱり話しづらい。とりあえず私は財布から伝説最上級武官合格証明書と時計騎士合格証明書をカードケースに入れて、財布とカードケースをショルダーバッグに戻した。
「じゃあ、こらからは僕が着いててやるよ」
「あ、お願いします。ズームさん、ピアノ弾きますか?」
「弾きません」
用事以外は話さないってこと?
「あ、では今のうちに、お風呂入ってください。浴衣置いてあるので適当に使ってください。部屋は適当に空いてる客間使ってください。案内します」
え、またこの間……。めちゃくちゃ気まずいんだけど。
「では、お風呂はお借りします」
「じゃ、僕も入る。強気なナミネ、あんたはミツメに弾き語りでもしてもらえ!」
「は、はい」
その時、落ち武者さんは素早く扉を開けた。え、ヨルクさん?いつからいたの?そもそもどうしているの?
「あんた、立ち聞きとか趣味悪いな」
「ナミネのこと心配だったから……」
ヨルクさん……。好きすぎる……。
落ち武者さんとズームさんが、お風呂に行った後、ヨルクさんは出前が来てるからと私を第4居間に戻した。
お寿司か。グルグル妖精さんのマンションに泊まった時もお寿司だったな。ラルクに食べさせてあげよう。
「ナミネ、手で掴まないで。今取り皿に入れるから」
「ラルクの分です。ラルク、かなり前から食べてないです。ラルク、食べて」
私はラルクにお寿司を食べさせようとした。
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、お願い食べて」
「ラルクは、明日点滴打ってもらうから、とりあえず、ナミネ食べてくれる?明日は僕とニンジャ妖精さんで行くからナミネは疲れとるために休んでくれるかな」
うーん、ラルクのこと心配だし、私も付き添いたいんだけど……。
「ラルクが心配なので私も行きます!」
「ナルホ、1番お風呂のシャンプー切れてる」
「あ、私補充してきます!」
私は1番お風呂に向かった。
新しいシャンプーっと。2つでいいかな。
「シャンプー補充しに来ました」
「あんたさ、男2人いる風呂によく来れるな」
あ、落ち武者さんとズームさんいたんだった。
「すみません。これ、補充のシャンプーです」
私は落ち武者さんにシャンプーを渡した。
「はいよ」
「あの、ラルクのことなんですけど……」
「あんたさ、何もここで話すことないだろ」
「ハッキリ言います!あなたのような人の入浴中に堂々と入ってくるような女は大嫌いです!」
そ、そんな……。ここ私の家なのに……。
「すみません」
私は1番お風呂を出た。この時の私は、ズームさんが、私のコマーシャル映像や、まだDVD化されていない、飛べない翼と花夢物語を特注で入手していることを全く知らなかったのである。
この日は、ヨルクさんが部屋に持って来てくれたお寿司を食べて、私は眠りについた。
この時の私は予想もしていなかった。この後に起きる展開を。
……
あとがき。
走り書きでは常に全力疾走のラルクが、こっちではかなり病んでいる。書くたびに物語って変わるものなんですね。
ナミネにとっては平和な回。
でも、セレナール視点やラルク視点だと全然そうではないんだろうなあ。
そして、マモルはいつ帰るの?