日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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地主(土地貸してます)
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漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
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ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
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〈資格証明バナー〉

純愛偏差値 未来編 一人称版 47話
《ヨルク》
もしも、記憶が抜けた1週間のことを、私がちゃんと割り切れていれば。あの時、ナミネを疑いナミネを突き放さなければ。
カナミさんはクラスのど真ん中で辱めを受けることはなかったし、アルフォンス王子のものも切断されることはなかった。
全て私のせい。私のせいなのだ。
私はナミネを突き放して取り返しのつかないことをしてしまった。
カナミさんは1週間経たないと元に戻らない。
あれからもナミネはカナミさんを攻撃した。カナミさんは酷い状態になり、閉鎖病棟で暴れまわっているらしい。
こんなことなら、ナミネの話をちゃんと聞くんだった。
もう、周りの人を巻き込ませない。
二度とナミネを突き放さない。
そう決めた頃、ナミネから、ラルクが本当に好きなのは森の湖にいるセレナールさんで、ラルクは時を超えた恋愛をしようとしていると聞かされた。
もし、ラルクと森の湖にいるセレナールさんの恋愛が成就してしまえば、また歴史が変わってしまう。そうなれば、もう一度、私とナミネは交際していた事実を忘れてしまう。ラルクは、どうして自分のことしか考えられないのだ。
あれ、でも、引っかかることがある。
森の湖を抜けて誰もいない古い民家が並ぶところにあるレストランで……。
『は、はい、お代官様』
『あんた全然変わんねえな』
記憶を失って、みんな初対面のはずだったのに、落ち武者さんは、ナミネに『変わらない』と言った。まるで、ナミネのことを知っているかのように。
私は落ち武者さんを疑った。
「ねえ、落ち武者さん、あの時、古い民家が並ぶとこにあるレストランでナミネに『変わらない』って言ったよね?落ち武者さん、まさか記憶失ってなかったの?」
「全て覚えてたよー!でも、あの時、あんたらに事実話しても信じてくれてたわけ?まさか、あんたらが拗れたこと僕に責任転嫁するつもりじゃないよね?」
やっぱり覚えていたのか。別に私は責任転嫁するつもりではない。でも、覚えてるなら覚えてるで黙っていることもないと思う。けれど、確かに、あの時、落ち武者さんが事実話してもナミネは悩んだだろうし。もう何が正しいのか分からない。
「落ち武者さん、だったら、せめて、覚えていることをみんなに話すべきだったんじゃないですか?私とヨルクさんの仲が拗れるの見て楽しかったですか?」
やっぱりナミネは怒るよな。
「あんたらさ、何かあれば僕に全て丸投げかよ!自力で思い出そうともしないで!だから、別れろと言ったんだよ!その程度の関係ならな!」
その程度の関係……。何も知らないくせに。遠い遠い昔の私の暗殺さえなければ、ナミネと私は普通の恋人でいられた。
「落ち武者さん、ムカつきます。今から森の湖に行って、そこで生涯を過ごしてもらいます」
ナミネは呼び出しカードでキクスケさんを呼んだ。
「分かった。あの時、あんたらに忠告しなかった分、今回は全力を尽くす!だから、ここで仲間割れはやめろ!」
「分かりました。二度と私を陥れないでください」
ナミネは落ち武者さんを1発殴るとキクスケさんを番人部屋に戻した。え……エルナが殴られてる?落ち武者さんを庇ったのか?
「あんた、エルナを殴るな!」
落ち武者さんは、1分前に時間を戻し、必然的にキクスケさんが現れた。ナミネは素早く、番人?だろう人を5人呼び出した。
「キクスケ、今すぐラルクと森の湖にいる姉さんを交際させろ!」
「残念ながらそれは出来ません。歴史を変えるなどと規則に反したことは出来ません」
番人が6人。いったいどうなるのだろう。落ち武者さんも、エルナが好きなら好きで一言言ってくれればいいのに。
「では、私が呼び出した番人さん。落ち武者さんを徹底的に私に従わせ、落ち武者さんを森の湖に連れて行き、そこから出さないでください!」
「待て!分かった!あんたにはもう逆らわない!けれど、エルナを殴ることだけはやめろ!」
「はい?何かあれば全て私に責任転嫁ですか?落ち武者さんが言ったセリフですよ!人には自分で記憶思い出せと言ったわりに、エルナさん1人守れず責任転嫁ですか!落ち武者さんは自己中です!ワガママです!あなたの親は貧乏の脳なしです!いい加減にしてください!」
こうなった時のナミネは手が付けられない。ナミネに何かあれば、ナノハナ家が動く。そうなれば、いくら抗議しても悪者にされてしまう。
「分かった。僕の負けだ。あんたのこと好きだった。だから、空白の1週間黙ってた」
って、いきなり告白?そもそも本当なのか?
「セルファの言ってることは本当よ!セルファはナミネのことが好きで、たびたび私に相談してたわ!」
「白々しい嘘も甚だしいですね。落ち武者さんはエルナさんが殴られて、また私を陥れようとしていたではありませんか。私、ミドリお姉様のことで辛いんです!幸せだった日常が突然壊れてしまったんです!私だってみんなみたいに普通に生きたかったです!でもどうすればいいか分からないんです!」
ナミネは泣きはじめた。私はナミネを抱き締めた。過去のニュース記事でも見たけれど、ミドリさんの死に方は尋常ではない。
「悪かった。今からはあんたに尽くす。だから、戻らない過去より、今の仲間を見ろ」
ナミネはしばらく泣いていたが、番人たちが戻った頃、ナミネは落ち着きはじめた。正直ほっとした。伝説最上級武官の資格を取ったナミネは遥かに強くなった。何かあれば、力で人を縛りかねない。
数日後、私たちはまたナミネの部屋に集まり、話し合った。
「とりあえず、カップル日記から見るぞ」
私たちはカップル日記を見た。
えっ、遠い昔のセレナールさんとラルクがカップル日記をはじめてる?私はラルクと遠い昔のセレナールさんのカップル日記を開いた。
『セレナール先生と交際しました。
時を超えての恋愛ですが、やっぱり好きな人と交際したいので、自分の意思を貫きました。
今後は僕が森の湖に通います』
いったいこんな最短でどうやって殆ど知らない森の湖にいるセレナールさんを口説いたのだろう。
『未来から来たラルクと交際しました。
携帯とやらをもらいました。
時を超えての恋愛。
はじめての経験だけどラルクを大切にします』
いったい何が起きているのだ。私にはさっぱり分からなかった。
私はコメント欄を見た。
『セレナール:ラルク、考え直して!そんな恋愛成り立たないわ!それに歴史を変えたことになるのよ!皇太子様と交際できなければ、現世に支障が及ぶわ!』
『セナ:何だかよく分からないけど、私は祝福するわ』
『カナエ:カナエも祝福します』
『ユメ:いったいどうなってるの?幸せならそれでいいかもしれないけど』
つまり、現世のセレナールさんのみが不利になったというわけか。こんな恋愛、続くわけがないのに。ラルクも馬鹿だな。
一度退会したアルフォンス王子は、また再開して、カナエさんと仲直りし、カナエさんはアルフォンス王子の別荘に住んでいるわけか。
ユメさんとクラフも順調。
セナ王女とミナクお兄様も上手くいっているようだ。
「このままだと、ラルクは間違いなく姉さんとは上手くいかず、どん底に落ちるね」
けれど、こんなのラルクの自己責任じゃない。
「もう別れさせたほうがいいのでしょうか」
「もう遅いね。歴史は変わってしまったからね?」
そういえば、時を超えた恋愛と言えば、ナミネがラハルさんと映画撮影してたよな。ラストどうなったんだろう。
「ナミネがラハルさんと撮影した花夢物語は最後どうなるの?」
「ラハルさんは何度ピアノを弾いても過去には戻れず2人は別れます」
ハッピーエンドではないのか。歴史は変えられないということなのだろうか?
「そっか、悲しい話なんだね」
「それでも、とても愛し合ってました。その愛が長く続かなかったというだけの話です。ラルクも、少しでも幸せになれたのなら、私はそれでいいと思います。それと、ヨルクさんの制服とパンツ返します」
「う、うん」
彼女から追い剥ぎにあった私は複雑な気持ちだった。あの後は、落ち武者さんがブレザーで隠してくれたんだっけ。
「あ、しばらく泊まり込みなら洗濯物はここに入れて」
「じゃ、そうする」
その時、玄関のチャイムが鳴った。落ち武者さんは猛スピードで玄関に行った。しまった。私も向かわなくては。
私は急いで階段を下りた。
「で、あんた誰?」
「この家の者だけど。君は誰かな?ナミネの新しい友達かな?」
「へえ、強気なナミネに兄がいたのかよ。全然似てないな」
ナルホさん!?いつ戻って来たのだろう。とにかく私はナルホさんに駆け寄った。
「ナルホさん、帰ってきてたの?これからはこっちで住むの?」
「一昨日、妖精村に着いた。紀元前村で転校手続きして来たから明日から、また妖精村学園に通うよ」
そっか。ナルホさん、これからはずっとここにいるんだ。その時、ナミネがナルホさんに抱き着いた。
「ナルホお兄様!」
離れていてもナミネはやっぱりナルホさんのこと大好きなんだな。
「ヨルクさん、すみません。今日はナルホお兄様とお風呂に入ってナルホお兄様の部屋で寝ます。ヨルクさんたちは私の部屋使ってください」
「うん、分かった。積もる話もあるだろうし、ゆっくりしてね」
……何故、ニンジャ妖精さんがいるのだろう。カンザシさんがナミネに会いに来たのかな。
「突然なんだけど、ナミネとカンザシさんは僕の部屋に来てくれるかな?」
「はい……」
えっ、何の話だろう?私は突然不安になった。
「ナルホさん、私もナミネに着いてていい?」
「分かった。じゃあ、ヨルクだけね」
私は不安なまま階段を上がった。
ナルホさんの部屋は全然変わっていなかった。ほんのり植物の香りがしている。
って、どうして落ち武者さんもいるの!?
「本題に入るね」
そう言うと、ナルホさんは1枚の書類を机に置いた。落ち武者さんは、すかさず書類を手に取った。
「紀元前村にいた時、ナヤセスさん、ナヤレスさん以外に、お父様の子がいるか調べていたんだ。すると、カンザシさんのお母様がヒットした。僕は、休みを取ってカンザシさんの実の母親に会いに行ったんだ。すると、確かに17年前頃、お父様と交際していたって言ってた。その交際期間にお父様の子供が出来たんだけど、お父様はナノハナ家に戻り、カンザシさんとお母様とはあまり会わなくなってしまったんだよね。お父様はカンザシさんのお母様に養育費は払っていたものの、マタニティブルーになったカンザシさんのお母様はパチンコに使ってしまったんだ。お父様からの養育費を。カンザシさんが生まれてからは、カンザシさんはお母様から虐待を受け、僕のお母様が一般家庭にカンザシさんを預けたんだ。だから、カンザシさんの今の戸籍はカンザシさんの育ての親のところに入っているよ。お父様は、今も養育費をカンザシさんの実家に払い続けてる。でも、どうしてか、カンザシさんには1円も入ってないんだよね」
私は頭の中が真っ白になった。カンザシさんとナミネが実の兄妹だなんて……。カンザシさんは、明らかナミネに恋愛感情があるかのような素振り見せてたし、とてもじゃないけど、普通の兄妹だなんて受け入れられない。
ナミネはカンザシさんとも、一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝たりするのかな。そんなのまるで、赤の他人の男女がしているみたいじゃないか。
落ち武者さんは、書類を机に置いた。ナミネは書類を手に取った。私も内容を見た。
DNA鑑定。カンザシさんとナミネのお父様が親子である確率。99.999999996%……。カンザシさんとナミネは間違いなく兄妹だ。私は残酷な夢を見ているようだった。
「ふむふむ、私とカンザシさんは血縁者のようですな。カンザシお兄様、これからは兄妹として仲良くしましょうね」
あれ?カンザシさん、少し泣いてる?
「はい、突然のことで驚きましたが、これからはナミネさんのこと、妹として大切にします。普通の兄妹のように長い時間一緒に過ごせなかったのは、とても残念ですが。これからは、ナミネさんとは深い関係になりたいと思います」
深い関係って何?まさか、ナミネと恋愛関係になろうとしてるの?
「カンザシお兄様、私、カンザシお兄様のこと、大切にします。たくさん思い出作りましょうね」
ナミネ……どうしてカンザシさんのこと抱き締めるの。私は見ていられなくて泣きながらナルホさんの部屋を出てナミネの部屋に入った。
その時、ナミネが私を抱き締めた。
ってか、ナルホさんと落ち武者さんもいる?
「ヨルクさん、どうして泣くんですか!」
「だって、この前の今日なだけに、いきなり兄妹だなんて……。受け入れられなくて。私の中ではまだナミネとカンザシさんは赤の他人で……。ナミネ、カンザシさんのこと気に入ってるし、私から離れていかないか不安で不安で仕方なくて。ナミネがカンザシさんとも一緒にお風呂に入るなら……私……」
ナミネは袖で私の涙を拭いた。こんなかっこ悪い姿見せたくなかった。また、ナミネを疑ってる自分が情けない。
「カンザシさんのことは兄として親睦を深めたいだけです。私はヨルクさんだけです!私のこと信じられませんか?」
「顔だけヨルク、あんたちょっと落ち着け。どう足掻いても強気なナミネとカンザシは兄妹なんだから、お風呂云々の制限は流石に束縛だろ!」
そんなこと分かってる。でも、気持ちが着いていかない。
「まず、君たち2人の名前はなんて言うのかな?」
「セルファだけど?」
「エルナよ」
「何年生?」
「僕もエルナも中学2年生だ」
「そっか、僕も中学2年生。こっちに戻って友達全然いないから、仲良くしようね」
何故か、落ち武者さんとエルナとナルホさんは2年というだけで、突然距離が縮まった。
「で、話しにくいんだけど、カナエはカンザシさんとぶつかった時に、お互いの苛立ちの感情が入れ替わったみたいなんだ。だから、今戻すね」
そう言うと、ナルホさんは呼び出しカードを手に持った。え、呼び出しカード?どうしてナルホさんが持ってるの?
「お呼びでしょうか」
「カナエとカンザシさんの苛立ちの感情、元に戻してくれるかな」
「かしこまりました。5分後、2人の感情は元に戻ります。では、これにて失礼」
一瞬のやり取りだった。
「ナミネ、ナミネとカンザシさんが兄妹だっていうのは、学校のみんなにも、芸能界でも話しちゃダメだよ」
「流石はナルホお兄様、私が芸能活動していることをもうご存知なのですね!」
「こっちのホテルでテレビ付けたらナミネがコマーシャルに出ててビックリしたよ。で、ラルクはどうしたのかな?」
そうだ、ラルクのこと。ナルホさんにちゃんと話さないと。私がナミネと交際していることも。
「ラルクは森の湖で姉さんと時を超えた交際楽しんでるけど?」
「そっか。セルファの昔のお姉様とラルクが時を超えた交際をしてるんだね。ナミネはそれでいいの?」
やっぱりそうなっちゃうか。
「正直、ラルクから現世のセレナールさんではなく、森の湖にいるセレナールさんのこと好きだから森の湖に通うって聞いた時はビックリしましたが、私、ラルクを応援することにしたんです」
「分かった。カナエも元に戻ったことだし、ラルクの話はゆっくりしていこう」
ゆっくりか。既に2人は交際しているのに間に合うのだろうか。けれど、ナルホさんはいまさっき帰ってきたばかりで、こっちのこれまでの事情を全く知らない。
「今日はナルホさん帰ってきたし、天ぷら作るね」
「別にいいよ。ナノハナ食堂のご飯食べるから」
「いつもナミネのお弁当も作ってるし、せめて、私からの気持ちだと思って受け取って。これからはずっとこっちにいるんだし」
「ナミネのお弁当って?」
しまった。先に言うの忘れてた。その時、ナミネが私の作ったお弁当の写真一覧をナルホさんに見せた。
「へえ、ヨルクって昔から料理好きだったけど、まだ続けてたんだ」
「ナルホさん、私ナミネと真剣交際してる」
え、この間は何?やっぱり私じゃなく、ラルクを婿にって考えていたのだろうか。私は少し気を落とした。
「え、ナミネがヨルクと!?ラルクじゃなくて?」
「平和ボケなあんたさ、ラルクは姉さんと時を超えた交際してるって言ったの聞こえてなかったのかよ!」
「ナルホお兄様、確かにヨルクさんは昔から女にだらしないし、すぐに女に変な感情抱くし、いやらしいサイトも見てるし、森の湖では水浴びしてる妖精口説くし、とにかく女にはだらしないですが、私、将来的にはヨルクさんと結婚するんです。ヨルクさんのこと好きなんです!」
ナミネ……。どうして普通に紹介してくれないのか分からないけど、私は嬉しくてまた泣いた。
「そっか、ナミネ、幸せになったんだね。良かった。ずっと心配してた。ナヤセスさんもメールでチラッと言ってたけど、ナミネ、愛されてるんだね」
とりあえず、認めてくれてる……?
「しかし、ラルクが歴史を変えてしまったことで、ナヤセス殿とロナさんが恋の危機ですぞ!」
確か、ナヤセスさんとロナさんて無自覚で惹かれ合ってたんだっけ。はたらから見たら恋に見えるけど、本人は否定してたな。
「そういえば、ミナクさん元気?」
「うん、やっと女遊び抜け出してまともな道歩きはじめたよ。今は第6王女のセナ王女と交際してるよ」
ナミネは以前のミナクお兄様の写真と今のミナクお兄様の写真をナルホさんに見せた。
「え、何だかもう僕がいない間に色んなこと起きてて着いていけないよ。でも、ラルクのこと心配だし、今から第4居間で話し合おうと思う」
「そうするしかないな。ラルクもそうだけど、一目惚れカラルリも危ないし、平和ボケなあんた、励ましてやれよ」
私たちは第4居間に向かった。ラルクは無事でいられるのだろうか。どうして現世のセレナールさんじゃダメなのだろう。
第4居間に行くと、誰が呼んだのかグループのみんなが来ていた。そして、ナナミさんとリリカさんがいると思ったら、ラハルさんまで来てる!?
「え、ナルホ?全然変わってない」
「ナルホ、お前小さい頃のまんまだな」
リリカお姉様、ミナクお兄様……。
「ええっと、ここにいるみんながナミネの友達かな?」
「はい。元々はラルクを通してのメンバーです」
「あ、ナルホさん、キッチン借りるね」
「じゃ、僕も行く」
え、どうして落ち武者さんが着いてくるの?でも、この人数だし、いたほうが料理もはかどるか。
私と落ち武者さんはキッチンへ向かった。
えっと、小麦粉、小麦粉。
「あんた、このまま、強気になれないナミネとカンザシを一緒にお風呂に入ることも許さず、一緒に寝ることも許さないのかよ」
「さっきは、ビックリしただけで、今はナミネの好きにさせようと思ってるから!」
もういきなり何なの。落ち武者さんはすぐ人のプライベートに踏み込んでくる。
「だったら言う。カンザシとレオルは完全に強気なナミネに惚れてる。恐らくラハルもな。カンザシとラハルは遠い前世、強気なナミネと交際してた。そして、2人は前世の記憶を覚えてるだろう。この映像見ろ!」
「うーん、それとなくカンザシさんとレオルさんがナミネに気があるのは気付いてたけど……交際してたのがナミネなら、ナミネも映像見るべきだと思う」
私はメールでナミネを呼び出した。ナミネはすぐにキッチンに来た。
「はいはい、何ですかな?」
「強気なナミネ、あんた、遠い昔、カンザシともラハルとも交際してた。この映像見ろ!」
落ち武者さんは携帯を固定させて映像を再生した。私は料理をしながら、映像を見た。
映像は、言うほど昔のものではない気がする。
ラハルさんのほうは高級マンションか。
相変わらず、ナミネはリビングに仕事着を脱ぎっぱなしにすると、ソファーに寝転び、お菓子をポロポロ零しながらテレビを見ている。
人というものは何世紀経っても変わらないものなのだろうか。
カンザシさんのほうは、ワンルームのかなりくたびれたアパート。2人で住むには狭そうだ。
それにしても、カンザシさんも家事全般をしていたのか。
ナミネはラハルさんともカンザシさんとも関係を持っていた。
少しは胸が痛んだが、もう折れたくなかった。今のナミネの彼氏は私だから。
映像を見終わったナミネは私を後ろから抱き締めた。
「ヨルクさん、記憶にはありませんが、カンザシさんとラハルさんと会うたびに懐かしい気持ちになっていた理由が分かりました。でも、これはこの時だけのものです。ラハルさんとは良き仕事仲間ですし、カンザシさんのことは兄として接していくつもりです。私が好きなのはヨルクさんだけです!揺るがないでください!」
ナミネは私だけを想ってくれている。だったら、私もイケメン男子に惑わされない!
「ナミネ、さっきは取り乱してごめんね。過去にナミネがカンザシさんとラハルさんと交際してたのは分かったから。虹色街で会ってた時も、それとなく気付いていたし。現世では、ナミネとカンザシさんは兄妹だから、ナミネがカンザシさんと一緒にお風呂に入っても一緒に寝ても口は挟まないからね」
ナミネが実の妹だと知ってもカンザシさんはナミネを想い続けるだろう。それでも、私はナミネを誰にも渡さない。
「ヨルクさん……大好き……」
ナミネは子供に戻ったみたいに私から離れなかった。
「で?顔だけヨルクは女子高生の変なサイト見てるけど、強気なナミネはどこまで許せるわけ?甘えセナは一目惚れカラルリの携帯真っ二つに割ってたけど?」
どうして今そんなこと聞くの!せっかく私とナミネの関係が順調なところなのに。
「ナミネ、ナミネがいやなら見ないからね」
「私はネットまでなら構いません。けれど、同級生など、身近な人の水着写真や下着写真の保存はいやです」
「ナミネ、それは絶対にしないから!同級生からのメールも最近見なくなったし、身近すぎる人は返って気持ち悪いというか、ナミネがいるのに、私と交際するためにハニートラップなんて有り得ないから!」
「分かりました。ヨルクさんを信じます」
私とナミネは再度抱きしめ合った。
ナミネ、私は絶対にナミネを手放さないからね。私はナミネの菜の花の香りに包まれていた。
この時の私は、時間の進みが遅いことに全く気付いていなかった。
……
あとがき。
ついに、ナノハナ家 長男であるナルホが紀元前村から戻ってきました。
《ヨルク》
もしも、記憶が抜けた1週間のことを、私がちゃんと割り切れていれば。あの時、ナミネを疑いナミネを突き放さなければ。
カナミさんはクラスのど真ん中で辱めを受けることはなかったし、アルフォンス王子のものも切断されることはなかった。
全て私のせい。私のせいなのだ。
私はナミネを突き放して取り返しのつかないことをしてしまった。
カナミさんは1週間経たないと元に戻らない。
あれからもナミネはカナミさんを攻撃した。カナミさんは酷い状態になり、閉鎖病棟で暴れまわっているらしい。
こんなことなら、ナミネの話をちゃんと聞くんだった。
もう、周りの人を巻き込ませない。
二度とナミネを突き放さない。
そう決めた頃、ナミネから、ラルクが本当に好きなのは森の湖にいるセレナールさんで、ラルクは時を超えた恋愛をしようとしていると聞かされた。
もし、ラルクと森の湖にいるセレナールさんの恋愛が成就してしまえば、また歴史が変わってしまう。そうなれば、もう一度、私とナミネは交際していた事実を忘れてしまう。ラルクは、どうして自分のことしか考えられないのだ。
あれ、でも、引っかかることがある。
森の湖を抜けて誰もいない古い民家が並ぶところにあるレストランで……。
『は、はい、お代官様』
『あんた全然変わんねえな』
記憶を失って、みんな初対面のはずだったのに、落ち武者さんは、ナミネに『変わらない』と言った。まるで、ナミネのことを知っているかのように。
私は落ち武者さんを疑った。
「ねえ、落ち武者さん、あの時、古い民家が並ぶとこにあるレストランでナミネに『変わらない』って言ったよね?落ち武者さん、まさか記憶失ってなかったの?」
「全て覚えてたよー!でも、あの時、あんたらに事実話しても信じてくれてたわけ?まさか、あんたらが拗れたこと僕に責任転嫁するつもりじゃないよね?」
やっぱり覚えていたのか。別に私は責任転嫁するつもりではない。でも、覚えてるなら覚えてるで黙っていることもないと思う。けれど、確かに、あの時、落ち武者さんが事実話してもナミネは悩んだだろうし。もう何が正しいのか分からない。
「落ち武者さん、だったら、せめて、覚えていることをみんなに話すべきだったんじゃないですか?私とヨルクさんの仲が拗れるの見て楽しかったですか?」
やっぱりナミネは怒るよな。
「あんたらさ、何かあれば僕に全て丸投げかよ!自力で思い出そうともしないで!だから、別れろと言ったんだよ!その程度の関係ならな!」
その程度の関係……。何も知らないくせに。遠い遠い昔の私の暗殺さえなければ、ナミネと私は普通の恋人でいられた。
「落ち武者さん、ムカつきます。今から森の湖に行って、そこで生涯を過ごしてもらいます」
ナミネは呼び出しカードでキクスケさんを呼んだ。
「分かった。あの時、あんたらに忠告しなかった分、今回は全力を尽くす!だから、ここで仲間割れはやめろ!」
「分かりました。二度と私を陥れないでください」
ナミネは落ち武者さんを1発殴るとキクスケさんを番人部屋に戻した。え……エルナが殴られてる?落ち武者さんを庇ったのか?
「あんた、エルナを殴るな!」
落ち武者さんは、1分前に時間を戻し、必然的にキクスケさんが現れた。ナミネは素早く、番人?だろう人を5人呼び出した。
「キクスケ、今すぐラルクと森の湖にいる姉さんを交際させろ!」
「残念ながらそれは出来ません。歴史を変えるなどと規則に反したことは出来ません」
番人が6人。いったいどうなるのだろう。落ち武者さんも、エルナが好きなら好きで一言言ってくれればいいのに。
「では、私が呼び出した番人さん。落ち武者さんを徹底的に私に従わせ、落ち武者さんを森の湖に連れて行き、そこから出さないでください!」
「待て!分かった!あんたにはもう逆らわない!けれど、エルナを殴ることだけはやめろ!」
「はい?何かあれば全て私に責任転嫁ですか?落ち武者さんが言ったセリフですよ!人には自分で記憶思い出せと言ったわりに、エルナさん1人守れず責任転嫁ですか!落ち武者さんは自己中です!ワガママです!あなたの親は貧乏の脳なしです!いい加減にしてください!」
こうなった時のナミネは手が付けられない。ナミネに何かあれば、ナノハナ家が動く。そうなれば、いくら抗議しても悪者にされてしまう。
「分かった。僕の負けだ。あんたのこと好きだった。だから、空白の1週間黙ってた」
って、いきなり告白?そもそも本当なのか?
「セルファの言ってることは本当よ!セルファはナミネのことが好きで、たびたび私に相談してたわ!」
「白々しい嘘も甚だしいですね。落ち武者さんはエルナさんが殴られて、また私を陥れようとしていたではありませんか。私、ミドリお姉様のことで辛いんです!幸せだった日常が突然壊れてしまったんです!私だってみんなみたいに普通に生きたかったです!でもどうすればいいか分からないんです!」
ナミネは泣きはじめた。私はナミネを抱き締めた。過去のニュース記事でも見たけれど、ミドリさんの死に方は尋常ではない。
「悪かった。今からはあんたに尽くす。だから、戻らない過去より、今の仲間を見ろ」
ナミネはしばらく泣いていたが、番人たちが戻った頃、ナミネは落ち着きはじめた。正直ほっとした。伝説最上級武官の資格を取ったナミネは遥かに強くなった。何かあれば、力で人を縛りかねない。
数日後、私たちはまたナミネの部屋に集まり、話し合った。
「とりあえず、カップル日記から見るぞ」
私たちはカップル日記を見た。
えっ、遠い昔のセレナールさんとラルクがカップル日記をはじめてる?私はラルクと遠い昔のセレナールさんのカップル日記を開いた。
『セレナール先生と交際しました。
時を超えての恋愛ですが、やっぱり好きな人と交際したいので、自分の意思を貫きました。
今後は僕が森の湖に通います』
いったいこんな最短でどうやって殆ど知らない森の湖にいるセレナールさんを口説いたのだろう。
『未来から来たラルクと交際しました。
携帯とやらをもらいました。
時を超えての恋愛。
はじめての経験だけどラルクを大切にします』
いったい何が起きているのだ。私にはさっぱり分からなかった。
私はコメント欄を見た。
『セレナール:ラルク、考え直して!そんな恋愛成り立たないわ!それに歴史を変えたことになるのよ!皇太子様と交際できなければ、現世に支障が及ぶわ!』
『セナ:何だかよく分からないけど、私は祝福するわ』
『カナエ:カナエも祝福します』
『ユメ:いったいどうなってるの?幸せならそれでいいかもしれないけど』
つまり、現世のセレナールさんのみが不利になったというわけか。こんな恋愛、続くわけがないのに。ラルクも馬鹿だな。
一度退会したアルフォンス王子は、また再開して、カナエさんと仲直りし、カナエさんはアルフォンス王子の別荘に住んでいるわけか。
ユメさんとクラフも順調。
セナ王女とミナクお兄様も上手くいっているようだ。
「このままだと、ラルクは間違いなく姉さんとは上手くいかず、どん底に落ちるね」
けれど、こんなのラルクの自己責任じゃない。
「もう別れさせたほうがいいのでしょうか」
「もう遅いね。歴史は変わってしまったからね?」
そういえば、時を超えた恋愛と言えば、ナミネがラハルさんと映画撮影してたよな。ラストどうなったんだろう。
「ナミネがラハルさんと撮影した花夢物語は最後どうなるの?」
「ラハルさんは何度ピアノを弾いても過去には戻れず2人は別れます」
ハッピーエンドではないのか。歴史は変えられないということなのだろうか?
「そっか、悲しい話なんだね」
「それでも、とても愛し合ってました。その愛が長く続かなかったというだけの話です。ラルクも、少しでも幸せになれたのなら、私はそれでいいと思います。それと、ヨルクさんの制服とパンツ返します」
「う、うん」
彼女から追い剥ぎにあった私は複雑な気持ちだった。あの後は、落ち武者さんがブレザーで隠してくれたんだっけ。
「あ、しばらく泊まり込みなら洗濯物はここに入れて」
「じゃ、そうする」
その時、玄関のチャイムが鳴った。落ち武者さんは猛スピードで玄関に行った。しまった。私も向かわなくては。
私は急いで階段を下りた。
「で、あんた誰?」
「この家の者だけど。君は誰かな?ナミネの新しい友達かな?」
「へえ、強気なナミネに兄がいたのかよ。全然似てないな」
ナルホさん!?いつ戻って来たのだろう。とにかく私はナルホさんに駆け寄った。
「ナルホさん、帰ってきてたの?これからはこっちで住むの?」
「一昨日、妖精村に着いた。紀元前村で転校手続きして来たから明日から、また妖精村学園に通うよ」
そっか。ナルホさん、これからはずっとここにいるんだ。その時、ナミネがナルホさんに抱き着いた。
「ナルホお兄様!」
離れていてもナミネはやっぱりナルホさんのこと大好きなんだな。
「ヨルクさん、すみません。今日はナルホお兄様とお風呂に入ってナルホお兄様の部屋で寝ます。ヨルクさんたちは私の部屋使ってください」
「うん、分かった。積もる話もあるだろうし、ゆっくりしてね」
……何故、ニンジャ妖精さんがいるのだろう。カンザシさんがナミネに会いに来たのかな。
「突然なんだけど、ナミネとカンザシさんは僕の部屋に来てくれるかな?」
「はい……」
えっ、何の話だろう?私は突然不安になった。
「ナルホさん、私もナミネに着いてていい?」
「分かった。じゃあ、ヨルクだけね」
私は不安なまま階段を上がった。
ナルホさんの部屋は全然変わっていなかった。ほんのり植物の香りがしている。
って、どうして落ち武者さんもいるの!?
「本題に入るね」
そう言うと、ナルホさんは1枚の書類を机に置いた。落ち武者さんは、すかさず書類を手に取った。
「紀元前村にいた時、ナヤセスさん、ナヤレスさん以外に、お父様の子がいるか調べていたんだ。すると、カンザシさんのお母様がヒットした。僕は、休みを取ってカンザシさんの実の母親に会いに行ったんだ。すると、確かに17年前頃、お父様と交際していたって言ってた。その交際期間にお父様の子供が出来たんだけど、お父様はナノハナ家に戻り、カンザシさんとお母様とはあまり会わなくなってしまったんだよね。お父様はカンザシさんのお母様に養育費は払っていたものの、マタニティブルーになったカンザシさんのお母様はパチンコに使ってしまったんだ。お父様からの養育費を。カンザシさんが生まれてからは、カンザシさんはお母様から虐待を受け、僕のお母様が一般家庭にカンザシさんを預けたんだ。だから、カンザシさんの今の戸籍はカンザシさんの育ての親のところに入っているよ。お父様は、今も養育費をカンザシさんの実家に払い続けてる。でも、どうしてか、カンザシさんには1円も入ってないんだよね」
私は頭の中が真っ白になった。カンザシさんとナミネが実の兄妹だなんて……。カンザシさんは、明らかナミネに恋愛感情があるかのような素振り見せてたし、とてもじゃないけど、普通の兄妹だなんて受け入れられない。
ナミネはカンザシさんとも、一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝たりするのかな。そんなのまるで、赤の他人の男女がしているみたいじゃないか。
落ち武者さんは、書類を机に置いた。ナミネは書類を手に取った。私も内容を見た。
DNA鑑定。カンザシさんとナミネのお父様が親子である確率。99.999999996%……。カンザシさんとナミネは間違いなく兄妹だ。私は残酷な夢を見ているようだった。
「ふむふむ、私とカンザシさんは血縁者のようですな。カンザシお兄様、これからは兄妹として仲良くしましょうね」
あれ?カンザシさん、少し泣いてる?
「はい、突然のことで驚きましたが、これからはナミネさんのこと、妹として大切にします。普通の兄妹のように長い時間一緒に過ごせなかったのは、とても残念ですが。これからは、ナミネさんとは深い関係になりたいと思います」
深い関係って何?まさか、ナミネと恋愛関係になろうとしてるの?
「カンザシお兄様、私、カンザシお兄様のこと、大切にします。たくさん思い出作りましょうね」
ナミネ……どうしてカンザシさんのこと抱き締めるの。私は見ていられなくて泣きながらナルホさんの部屋を出てナミネの部屋に入った。
その時、ナミネが私を抱き締めた。
ってか、ナルホさんと落ち武者さんもいる?
「ヨルクさん、どうして泣くんですか!」
「だって、この前の今日なだけに、いきなり兄妹だなんて……。受け入れられなくて。私の中ではまだナミネとカンザシさんは赤の他人で……。ナミネ、カンザシさんのこと気に入ってるし、私から離れていかないか不安で不安で仕方なくて。ナミネがカンザシさんとも一緒にお風呂に入るなら……私……」
ナミネは袖で私の涙を拭いた。こんなかっこ悪い姿見せたくなかった。また、ナミネを疑ってる自分が情けない。
「カンザシさんのことは兄として親睦を深めたいだけです。私はヨルクさんだけです!私のこと信じられませんか?」
「顔だけヨルク、あんたちょっと落ち着け。どう足掻いても強気なナミネとカンザシは兄妹なんだから、お風呂云々の制限は流石に束縛だろ!」
そんなこと分かってる。でも、気持ちが着いていかない。
「まず、君たち2人の名前はなんて言うのかな?」
「セルファだけど?」
「エルナよ」
「何年生?」
「僕もエルナも中学2年生だ」
「そっか、僕も中学2年生。こっちに戻って友達全然いないから、仲良くしようね」
何故か、落ち武者さんとエルナとナルホさんは2年というだけで、突然距離が縮まった。
「で、話しにくいんだけど、カナエはカンザシさんとぶつかった時に、お互いの苛立ちの感情が入れ替わったみたいなんだ。だから、今戻すね」
そう言うと、ナルホさんは呼び出しカードを手に持った。え、呼び出しカード?どうしてナルホさんが持ってるの?
「お呼びでしょうか」
「カナエとカンザシさんの苛立ちの感情、元に戻してくれるかな」
「かしこまりました。5分後、2人の感情は元に戻ります。では、これにて失礼」
一瞬のやり取りだった。
「ナミネ、ナミネとカンザシさんが兄妹だっていうのは、学校のみんなにも、芸能界でも話しちゃダメだよ」
「流石はナルホお兄様、私が芸能活動していることをもうご存知なのですね!」
「こっちのホテルでテレビ付けたらナミネがコマーシャルに出ててビックリしたよ。で、ラルクはどうしたのかな?」
そうだ、ラルクのこと。ナルホさんにちゃんと話さないと。私がナミネと交際していることも。
「ラルクは森の湖で姉さんと時を超えた交際楽しんでるけど?」
「そっか。セルファの昔のお姉様とラルクが時を超えた交際をしてるんだね。ナミネはそれでいいの?」
やっぱりそうなっちゃうか。
「正直、ラルクから現世のセレナールさんではなく、森の湖にいるセレナールさんのこと好きだから森の湖に通うって聞いた時はビックリしましたが、私、ラルクを応援することにしたんです」
「分かった。カナエも元に戻ったことだし、ラルクの話はゆっくりしていこう」
ゆっくりか。既に2人は交際しているのに間に合うのだろうか。けれど、ナルホさんはいまさっき帰ってきたばかりで、こっちのこれまでの事情を全く知らない。
「今日はナルホさん帰ってきたし、天ぷら作るね」
「別にいいよ。ナノハナ食堂のご飯食べるから」
「いつもナミネのお弁当も作ってるし、せめて、私からの気持ちだと思って受け取って。これからはずっとこっちにいるんだし」
「ナミネのお弁当って?」
しまった。先に言うの忘れてた。その時、ナミネが私の作ったお弁当の写真一覧をナルホさんに見せた。
「へえ、ヨルクって昔から料理好きだったけど、まだ続けてたんだ」
「ナルホさん、私ナミネと真剣交際してる」
え、この間は何?やっぱり私じゃなく、ラルクを婿にって考えていたのだろうか。私は少し気を落とした。
「え、ナミネがヨルクと!?ラルクじゃなくて?」
「平和ボケなあんたさ、ラルクは姉さんと時を超えた交際してるって言ったの聞こえてなかったのかよ!」
「ナルホお兄様、確かにヨルクさんは昔から女にだらしないし、すぐに女に変な感情抱くし、いやらしいサイトも見てるし、森の湖では水浴びしてる妖精口説くし、とにかく女にはだらしないですが、私、将来的にはヨルクさんと結婚するんです。ヨルクさんのこと好きなんです!」
ナミネ……。どうして普通に紹介してくれないのか分からないけど、私は嬉しくてまた泣いた。
「そっか、ナミネ、幸せになったんだね。良かった。ずっと心配してた。ナヤセスさんもメールでチラッと言ってたけど、ナミネ、愛されてるんだね」
とりあえず、認めてくれてる……?
「しかし、ラルクが歴史を変えてしまったことで、ナヤセス殿とロナさんが恋の危機ですぞ!」
確か、ナヤセスさんとロナさんて無自覚で惹かれ合ってたんだっけ。はたらから見たら恋に見えるけど、本人は否定してたな。
「そういえば、ミナクさん元気?」
「うん、やっと女遊び抜け出してまともな道歩きはじめたよ。今は第6王女のセナ王女と交際してるよ」
ナミネは以前のミナクお兄様の写真と今のミナクお兄様の写真をナルホさんに見せた。
「え、何だかもう僕がいない間に色んなこと起きてて着いていけないよ。でも、ラルクのこと心配だし、今から第4居間で話し合おうと思う」
「そうするしかないな。ラルクもそうだけど、一目惚れカラルリも危ないし、平和ボケなあんた、励ましてやれよ」
私たちは第4居間に向かった。ラルクは無事でいられるのだろうか。どうして現世のセレナールさんじゃダメなのだろう。
第4居間に行くと、誰が呼んだのかグループのみんなが来ていた。そして、ナナミさんとリリカさんがいると思ったら、ラハルさんまで来てる!?
「え、ナルホ?全然変わってない」
「ナルホ、お前小さい頃のまんまだな」
リリカお姉様、ミナクお兄様……。
「ええっと、ここにいるみんながナミネの友達かな?」
「はい。元々はラルクを通してのメンバーです」
「あ、ナルホさん、キッチン借りるね」
「じゃ、僕も行く」
え、どうして落ち武者さんが着いてくるの?でも、この人数だし、いたほうが料理もはかどるか。
私と落ち武者さんはキッチンへ向かった。
えっと、小麦粉、小麦粉。
「あんた、このまま、強気になれないナミネとカンザシを一緒にお風呂に入ることも許さず、一緒に寝ることも許さないのかよ」
「さっきは、ビックリしただけで、今はナミネの好きにさせようと思ってるから!」
もういきなり何なの。落ち武者さんはすぐ人のプライベートに踏み込んでくる。
「だったら言う。カンザシとレオルは完全に強気なナミネに惚れてる。恐らくラハルもな。カンザシとラハルは遠い前世、強気なナミネと交際してた。そして、2人は前世の記憶を覚えてるだろう。この映像見ろ!」
「うーん、それとなくカンザシさんとレオルさんがナミネに気があるのは気付いてたけど……交際してたのがナミネなら、ナミネも映像見るべきだと思う」
私はメールでナミネを呼び出した。ナミネはすぐにキッチンに来た。
「はいはい、何ですかな?」
「強気なナミネ、あんた、遠い昔、カンザシともラハルとも交際してた。この映像見ろ!」
落ち武者さんは携帯を固定させて映像を再生した。私は料理をしながら、映像を見た。
映像は、言うほど昔のものではない気がする。
ラハルさんのほうは高級マンションか。
相変わらず、ナミネはリビングに仕事着を脱ぎっぱなしにすると、ソファーに寝転び、お菓子をポロポロ零しながらテレビを見ている。
人というものは何世紀経っても変わらないものなのだろうか。
カンザシさんのほうは、ワンルームのかなりくたびれたアパート。2人で住むには狭そうだ。
それにしても、カンザシさんも家事全般をしていたのか。
ナミネはラハルさんともカンザシさんとも関係を持っていた。
少しは胸が痛んだが、もう折れたくなかった。今のナミネの彼氏は私だから。
映像を見終わったナミネは私を後ろから抱き締めた。
「ヨルクさん、記憶にはありませんが、カンザシさんとラハルさんと会うたびに懐かしい気持ちになっていた理由が分かりました。でも、これはこの時だけのものです。ラハルさんとは良き仕事仲間ですし、カンザシさんのことは兄として接していくつもりです。私が好きなのはヨルクさんだけです!揺るがないでください!」
ナミネは私だけを想ってくれている。だったら、私もイケメン男子に惑わされない!
「ナミネ、さっきは取り乱してごめんね。過去にナミネがカンザシさんとラハルさんと交際してたのは分かったから。虹色街で会ってた時も、それとなく気付いていたし。現世では、ナミネとカンザシさんは兄妹だから、ナミネがカンザシさんと一緒にお風呂に入っても一緒に寝ても口は挟まないからね」
ナミネが実の妹だと知ってもカンザシさんはナミネを想い続けるだろう。それでも、私はナミネを誰にも渡さない。
「ヨルクさん……大好き……」
ナミネは子供に戻ったみたいに私から離れなかった。
「で?顔だけヨルクは女子高生の変なサイト見てるけど、強気なナミネはどこまで許せるわけ?甘えセナは一目惚れカラルリの携帯真っ二つに割ってたけど?」
どうして今そんなこと聞くの!せっかく私とナミネの関係が順調なところなのに。
「ナミネ、ナミネがいやなら見ないからね」
「私はネットまでなら構いません。けれど、同級生など、身近な人の水着写真や下着写真の保存はいやです」
「ナミネ、それは絶対にしないから!同級生からのメールも最近見なくなったし、身近すぎる人は返って気持ち悪いというか、ナミネがいるのに、私と交際するためにハニートラップなんて有り得ないから!」
「分かりました。ヨルクさんを信じます」
私とナミネは再度抱きしめ合った。
ナミネ、私は絶対にナミネを手放さないからね。私はナミネの菜の花の香りに包まれていた。
この時の私は、時間の進みが遅いことに全く気付いていなかった。
……
あとがき。
ついに、ナノハナ家 長男であるナルホが紀元前村から戻ってきました。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 46話
《ナミネ》
ヨルクさんが、ビルの屋上から飛び降りて数日が経った。
あの時の私の精神状態は酷く取り乱され、カナエさんにヨルクさんとの中を引き裂かれたと思い、カナミさんのクラスでカナミさんの制服をちぎり、カナミさんがボロボロになるまで殴り続け、カナエさんの前でアルフォンス王子のものを切断した。
けれど、ヨルクさんとの中を引き裂かれた私は少しも悪いことをしたとは思っていなかった。寧ろ、ヨルクさんとの幸せな日々を返して欲しい、そんな思いで私は壊れた。
カナミさんのことは、キクスケさんに頼んでなかったことにしてもらったが、カナミさんはショックのあまり、閉鎖病棟送りとなった。
その後、ナノハお姉様が、カナミさんに何度も謝罪をし、持ち前の精神分析能力でボロボロになったカナミさんの80%を回復させた。カナミさんは元の状態に戻ることが出来た。カナミさんとナノハお姉様は同級生で昔からそこそこ仲が良い。カナミさんはナノハお姉様に私のことは恨まないと言っていたらしい。
けれど、私はカナミさんに謝らなかった。
逆にカナミさんから『ごめんなさい。私の監督不足だったわ。カナエには二度とあんな真似はさせない』と謝られた。
セリルさんが説得したのかカナコさんも『ごめんなさい、会議では、あなたの責任にしようとしたけれど、同じ立場だったら、私もカナエを恨んだわ。カナエには言い聞かせるから時間を頂戴』と謝られた。
そうだね、カナコさんがもし他者のしたことでセリルさんと離れ離れになったら、タダでは済ませないよね。
私は悪くない。
だから、ヨルクさんとも別れない。
けれど、カナミさんとアルフォンス王子を傷付けても私の心は何も晴れなかった。私がヨルクさんに助けを求めるメールをした時、ヨルクさんと、落ち武者さん、エルナさんが駆け付けた。私は何故か、桜木町の空き地にいた。
ヨルクさんが何度も謝る中、落ち武者さんは無理矢理私とヨルクさんを別れさせようとした。
『悪いのは私ですか!』
私は無意識に落ち武者さんを殴り付けた。落ち武者さんは死にかけ、救急車で運ばれた。
落ち武者さんが気が付き次第、私は自分のしたことを悔い、落ち武者さんに謝った。
『二度とあんたらを無理矢理別れさせることはしない。今後はあんたを支える』
落ち武者さんは、放心状態の中、私に助けを求めるかのように言った。
ヨルクさんは、キクリ家と王室に毎日謝罪に行った。
元々は、私との話し合いを放棄して私を追い込んだ自分の責任だと、ひたすら謝り続けた。けれど、キクリ家も王室もヨルクさんを相手にしないどころか、ヨルクさんを殴る蹴るなどして憂さ晴らしをした。私は、キクスケさんに依頼し、ヨルクさんを殴った全ての人に罰を与え二度とヨルクさんに危害を加えないよう皇帝陛下に書類を作成してもらった。
ヨルクさんが殴られて、苛立った私はヨルクさんを殴った男の性器を切断しようとしたところ、落ち武者さんとエルナさんに止められ、思いとどまった。ヨルクさんは、ただただ泣いていた。
関係のない人を巻き込んだ挙句、力でみんなを支配しているのは分かっている。でも、私は悪くない。みんなの兄弟は健全じゃない。でも、私は違う。不本意なやり方でミドリお姉様を奪われた。
カナエさんのような幸せな人が、私を陥れて、カナミさんやアルフォンス王子を傷付けて何が悪いの?傷付けられたくなければ、歴史なんて変えなければ良かったじゃない。
私はヨルクさんとは別れない。寧ろ、ヨルクさんとの幸せをみんなに見せつけてやる。無理矢理引き裂こうものなら、私が容赦しない。
私はカナエさんのしたことに対して、完全に苛立っていた。
けれど、気になることが1つある。
カナミさんの件は、お母様が皇帝陛下に頼んで私を不問にしたけれど、でも、アルフォンス王子の件が不問になったのは何故だろう。誰が私を助けてくれたのだろう。
お昼休み。
私はいつものように広場に向かった。やっぱりみんな来ていた。
「今日は皆さんにお伝えしたいことがあります。私は誰からも攻撃を受けなければ私からは皆さんに何もしません。けれど、今までの状況からしてどうでしょう。何かあった時、自分の身を自分で守れなかったことを私に責任転嫁。助けたい人のために私を囮にする。挙句には歴史を変えて私とヨルクさんの仲を引き裂く。私からは一度たりとも皆さんに攻撃していないのに、皆さんは違いますね。では、宦官になったアルフォンス王子のものを見てください」
私はタッパーのフタを開けた。
アルフォンス王子の切り取られたものを見たみんなは顔を青ざめた。ヨルクさん、セレナールさん、ミナクさん、カナエさん、アルフォンス王子、カラン王子、ユメさん、委員長は吐いた。
「では次に、皆さんに送った画像を開けてください」
また、さっき吐いた人が再び吐いた。
「私はこのようにミドリお姉様を無惨な形で亡くしています。皆さんに送ったのはミドリお姉様の最後の姿です。私は泣きました。叫びました。病室中の窓ガラスを割りました。今でも傷は癒えていません。そんな私にカナエさんは、私の唯一の支えであるヨルクさんとの仲を引き裂きました!だからアルフォンス王子にはミドリお姉様と同じ状態になってもらいました。アルフォンス王子、宦官になった気分はどうですか?カナエさんと別れるなら元に戻しても構いませんよ」
「本当にすまなかった。二度とカナエにナミネとヨルクの仲を引き裂く真似はさせない。どうか、私を元に戻して欲しい」
流石のアルフォンス王子も懲りたか。一応、キクスケさんにお願いして元には戻すつもりだけど、今すぐは出来ない。私とヨルクさんの仲を引き裂いて私を陥れて、すぐには許せない。
「カナエは悪くありません!ナミネとヨルクは勝手に仲違いしたのでしょう!カナエは、あの時、誤って扇子を開いてしまいました!」
「何が誤ってよ!私をセイにイジワルさせたことは絶対に許さないし兄さんからカナコさんに話してもらうわ!」
「セレナール!卑怯な真似はやめるのです!カナエは何もしていません!」
この期に及んで白々しい。彼氏が宦官になったというのに、まだ足掻くのか。
「念を押しますが、私とヨルクさんの仲を裂く者は、女も男も切断の罰を受けてもらいます!二度と私とヨルクさんの仲を引き裂かないでください!」
「ナミネ、お姉さんはどうして……」
そっか、委員長は知らないんだっけ。
「姉は帰り道にガラの悪い同級生と出くわして、姉の友達は助けを呼びに行くから時間を稼いでと嘘を言って姉を差し出したの。姉はイヤガラセされた。第3が破られた後、突然死したの。顔は殴られ腫れて、お腹まで引き裂かれて中のもの出てるよね。当時、姉の縫合をしたのが月城総合病院の先代だったんだよ。私ね、受け入れられなくて毎日病院の屋上で心臓刺して飛び降りたの。そのたびに、先代は私を治療したんだよね。先代は……」
言いかけて私は涙を流していた。
ミドリお姉様の最後の姿を見た私は喚き散らして病院中に迷惑をかけた。それでも受け入れられなくて、私は壊れた。そして、ミドリお姉様をあんな目にあわせた全員の復讐を決意した。
ヨルクさんとの幸せを手に入れても邪魔をされる。森の湖でカナエさんがしたことに対しては我慢の限界だった。
「そうだったんだ。全然知らなかった。僕に出来ることがあったら言って。役に立てるか分からないけど」
「ありがとう、委員長」
その時、ミナクさんが私を抱き締めた。
「これがミドリさんの最後の姿だったんだな……ナミネ、これからは私が兄としてナミネを支える」
「ミナクさん……」
私は、ただ泣いていた。
「ナミネ、本当にごめん。二度とナミネを突き放したりしない」
私はあの時、ヨルクさんとの交際はちゃんと考えていた。けれど、突然のことで、すぐにヨルクさんと向き合えなかった。そしたら、ヨルクさんが私を拒みはじめたのだ。いざ、拒まれるといい気はしなかった。でも、その後、ヨルクさんが自殺を図ったと聞いて、私は、カナエさんに陥れられたと思った。
「カナエさん、一度だけ聞きます。どうして森の湖で歴史を変えてしまったのですか?」
カラン王子……。聞いたって答えてくれないよ。
「カナエは本当にわざとではありません。みんなでカナエを責めないでください!ナミネからはアルフォンス王子を酷い目にあわされ、こっちは完全な被害者です!」
私がカナエさんの脇腹を蹴ろうとした時、落ち武者さんが、代わりに蹴った。私はセレナールさんにセイさんとのラブ映像を送った。その瞬間、セレナールさんはカナエさんを押し倒し殴り付けた。
「やめるのです!みんなでカナエをイジメないでください!」
みんなは見て見ぬフリをした。
「カナエさんが、わざと歴史を変えたせいでヨルクさんはビルから飛び降りました。皆さんもカナエさんに歴史を変えられて幸せでしたか?セレナールさん?アルフォンス王子?」
「幸せどころか、大っ嫌いなセイにイジワルされて今にもカナエを殺してやりたいわ!」
「正直、大切なものを奪われる事態になってカナエとは少し距離を置きたい」
アルフォンス王子は相当滅入っているわけか。本来ならここで2人には別れて欲しくはないが、もう私は介入しない。2人の未来など私が知ったことではない。
「そうですか。カナエさんと別れたいなら好きにしてください。セレナールさんもラルクに何とかしてもらってください。私はヨルクさんとは別れません!ヨルクさんとは愛し合っています。後、これはアルフォンス王子のものなので、お返しします」
私はアルフォンス王子に、切断したものを返却した。その瞬間、アルフォンス王子はカナエさんを殴り付けた。
「よくも歴史を変えて、みんなを不幸にしてくれたな!こんな卑怯な女だとは思わなかった」
「まあ、後のことは皆さん次第です。別れるなり何なり好きにしてください。私は知りません」
それだけ言うと私は立ち上がり、クラスに向かった。後ろからヨルクさんと落ち武者さん、エルナさんが着いてきた。
「ナミネ、本当に……」
私はヨルクさんを突き飛ばした。
「あの日、私は仲直りしたと思い込んでいました。けれど、ヨルクさんは私の話も聞かず私を突き飛ばしました。同じことされた気持ちはいかがですか?あなたを陥れたのはカナエさんでしょう!二度と私に当たらないでください!次、同じことしたら誰のが切断されるでしょうかね。カラルリさんですかね?セイさんですかね?」
ヨルクさんは起き上がるなり私に土下座した。
「本当にごめん。全て私があの時ナミネを突き放したせいでみんなが拗れてしまった。二度と同じ誤ちは繰り返さない。だから許して欲しい」
「ナミネ、セルファに危害を加えないで欲しいの。セルファはあなたに再会出来てとても喜んでるわ」
エルナさんは、まだ落ち武者さんのことが好きなのか。
「けれど、落ち武者さんはミドリお姉様を失った私を更にどん底に突き落とそうとしました。それがいいことなんですか?だったら、私もお二方に恋人が出来た時に自由に関係を引き裂いても構いませんよね」
「強気なナミネ、僕が間違ってた。二度とあんたら引き離さない」
そもそも、どうして落ち武者さんが勝手に私とヨルクさんを引き離そうとしたのか。私には理解出来なかった。過度に他人のことに首を突っ込む落ち武者さんが。
「ナミネ、本当にごめん。全て私のせいだ。二度とナミネに酷いことはしない」
「ヨルクさんは身勝手ですね。私が話し合いを持ちかけた時は全く聞かず、カナミさんとアルフォンス王子を犠牲にしたのはヨルクさんです!次に同じことをすれば破談にし、みんなの前では恋人を装ってもらいます!正直、今めちゃくちゃ気分を害しています。あの時、話し合いに応じれば良かったものの」
ヨルクさんの謝罪を聞かず、私はヨルクさんのズボンとパンツを脱がせ、そのまま猛ダッシュで、その場から立ち去った。
その足で私はカナミさんのクラスへ行った。
カナミさんのクラスに着くなり、私はキクスケさんを呼び出した。そして、カナミさんのクラスに入った。
私はカナミさんのクラスに入るなり、またカナミさんの制服を引き裂いた。カナエさんのことで猛烈に苛立っていた私はキクスケさんが連れて来た中年おじさんにカナミさんを犯させた。
クラスのみんなはアラレもないカナミさんの姿を見て嘲笑った。
「カナミさん、カナエさんは全く反省していません!カナエさんを反省させないとあなたには一生苦しんでもらいます!今回は1週間後、今カナミさんが体験されたことはなかったこととし、カナミさんの記憶の中からも消えます。しかし、私が1週間カナエさんに苦しめられたように、1週間は苦しんで恐怖に怯えてください」
カナミさんは泣いたまま、何も言わなかった。
「返事は?」
「わ……かった……」
「では、1週間お楽しみください。キクリ家の次女が無様ですね。でも、こういうのって連帯責任ですし、家族が責任取るのは当たり前ですよね」
カナミさんはボロボロになったまま起き上がった。クラスの視線に耐え切れなくなったカナミさんは走ってクラスを出て行った。
中等部に戻るなり、私はヨルクさんにメールをした。
『ヨルクさんのせいで、またカナミさんが犠牲になりましたよ。私の機嫌が直らない限り、次々に人に苦しんでもらいます』
『ナミネ、私が悪かった。許して欲しい』
その時、落ち武者さんからもメールが来た。
『あんたの機嫌を損ねることはしない。顔だけヨルクは今、保健室にいる。会いに来てやれ』
私は歴史を変えたカナエさんが許せない。私の話し合いに応じなかったヨルクさんが許せない。けれど、膨らみ続ける風船をどうにも出来ず更に空気を入れてしまう自分が1番許せなかった。なのに、ミドリお姉様との別れは私を大きく変えてしまった。もう引き返せない。私はミドリお姉様を置き去りにした4人よりも残酷な人間になってしまった。
放課後、私は教壇の下でラルクといた。
「ラルク、この1週間で何もかも変わっちゃったね。セナ王女がカラルリさんとまた寝ちゃうなんて笑えるよね」
「まあ、記憶が抜けていたらああなっても不思議ではないだろ。ナミネ、僕はセレナール先輩のこと好きでもなんでもない。僕が好きなのは森の湖にいるセレナール先生なんだ」
そっか。困っている時に少しもセレナールさんに寄り添ってなかったとは思っていたけど、やっぱり、現世のセレナールさんには何の感情もないんだ。
「そうなんだね。時を超えての恋愛にはなるけど、森の湖にはまた行けるし、乗り継ぎややこしいけど民家側の森の湖南駅で下りたら森の湖まですぐだしさ」
今更ながら森の湖南駅で下りれば、セレナールさんもユメさんも体調を崩さずに済んだと思う。調べが足りていなかった。
「そうだな。これからは、森の湖に定期的に行く。相手は時代の違う人だけど、必ず恋仲になる」
「でも、皇太子様と交際したら森の湖にいなくなっちゃうよ」
「それまでに恋人になる」
えっ、それって歴史変わってしまわない?私、またヨルクさんと交際してたこと忘れてしまうの?
「ラルク、それって、歴史変えてしまうことにならない?」
「そうかもしれない。でも、好きな人と幸せになりたい。僕だって幸せになりたい。みんなの幸せ見てるだけじゃもう辛すぎる」
「そっか。そうだよね。ラルク、幸せになりなよ。私はラルクを応援する」
「ナミネ……」
私とラルクは抱き締め合った。
この時の私は、先のことなんて少しも考えていなかった。ラルクが昔のセレナールさんと交際した後のことなんて視野になかった。ただ、私はラルクに幸せになって欲しい。その気持ちしか今はなかった。
私と話した後、ラルクは早速、森の湖に行ってしまった。
私はキクスケさんにメールをした。
『あの、もし、森の湖にいるセレナールさんとラルクが交際したらどうなりますか?歴史変わりますか?』
『その場合もやはり歴史は変わります。現世でセレナールさんと関わった全ての人の記憶が変わってしまいます』
そっか。ラルクと森の湖にいるセレナールさんが交際しても、またみんなの人生変わっちゃうんだ。でも、もうヨルクさんとのことは忘れたくないよ。
『例え歴史が変わっても、私とヨルクさんの記憶は今のまま、交際をしたままでいられるようにしてもらえませんか?』
『かしこまりました。ですが、万が一、遠い昔のセレナールさんとラルクさんが交際したとしても上手くはいかないでしょう。時を超えての恋愛が成立した事例はかなり少ないです』
それでも、ラルクが幸せになれるならば……。もう色々仕方ない気がする。
『そうですか。あの、やっぱり、今のメンバー全員の記憶を変えないでもらえないでしょうか?』
『カップル日記を開くようナミネさんから皆さんに伝えてください。ラルクさんは遠い昔のセレナールさんと交際出来れば、遠い昔のセレナールさんに携帯を渡してカップル日記をさせるでしょう。ラルクさんが森の湖に行くたびに遠い昔のセレナールさんの投稿は反映されるでしょう』
そうか。あの時、この方法を知っていれば、ラルクが遠い昔のセレナールさんに携帯渡していれば、みんなは記憶失わずに済んだのか。もう、色々難しいな。
『分かりました』
キクスケさんとのメールを終えた私は保健室にヨルクさんを迎えに行き、話があることを伝え、ナノハナ家に連れて行った。
ナノハナ家に着くなり、私たちは私の部屋に行った。部屋に入ると……。
そっか、忘れてた。あれからクレナイ家ばかり行ってたから、このままだったんだ。
「あんた、これ何なのさ」
「今片付けます」
空白の1週間の最後に私はヨルクさんとの交際を決意し、部屋に飾り付けをしたのだ。まるで、誰かの誕生日パーティーだ。
「待って!ナミネ、私との交際考えてくれてたの?」
今更言われてもなあ……。
「はい、記憶の抜けた1週間のうちにヨルクさんとの交際を決めて、飾り付けしました」
「そうだったんだ……私何も知らなくて……」
ヨルクさんはまた泣き崩れた。
「とりあえず、記念に写真だけ撮っとけ」
私とヨルクさんは飾り付けの真ん中に行き、落ち武者さんに写真を撮ってもらった。後でカップル日記に投稿しよう。
私たちは飾り付けを片付けた。
使用人が茶菓子を運んで来る中、私は本題に入った。
「ラルクは現世のセレナールさんではなく、森の湖にいるセレナールさんが好きなんです。ラルクは今後、森の湖に通うつもりです。交際が成立すれば、またみんなの記憶は失われてしまいます。けれど、交際が成立すれば逆にラルクはセレナールさんに携帯を持たせるかもなので、カップル日記を開くことでみんなの記憶は消えないそうです」
「難しい話しね。私は例え交際が成立したとしても上手くいかないと思うわ」
そうなんだよね。分かってはいるけれど、あんな必死なラルク見たら止めるに止められなかったし。
「とりあえず、カップル日記のみんなのとこにコメントしといた。けど、ラルクの前に誰かが歴史変えたらカップル日記の効力なくなるな」
それは私も薄々気付いてはいた。落ち武者さんによると、あの後、月城総合病院で手術を受け、大切なものが元に戻った後、カナエさんに別れを告げたらしい。
カナミさんは、私の怒りに触れた後、高等部の保健室で酷いヒステリーを起こし、カナコさんとセリルさんが月城総合病院に連れて行って、今は閉鎖病棟にいるとか。
一度目のカナミさんのことがあってから、キクリ家は、カナエさんを馬小屋に閉じ込めたらしい。今回の件ではキクリ家は歴史を変えたカナエさんに全責任があると見なし、引き続き住まいは馬小屋となり、カナエさんはキクリ家どころか、全てのお武家から四面楚歌になってしまった。
「そうですね、森の湖南駅からだと私たちが歩いた険しい森道なんて行かなくていいですし。タクシー使えば定期的に行けなくもないですよね」
「今、リリカお姉様に詳細話して、お武家連盟会議開かれるみたい。カナエさんの森の湖行きは阻止されると思う」
うーん、カナエさんって、案外手強いし、そんなに上手くいくかな。もし、私がヨルクさんとの記憶を失ったら、もうその時は全てを諦めよう。ラルクの幸せのためだから。でも、記憶が抜けた時、自分が伝説最上級武官の資格取ってたことも忘れてしまったんだよな。
一応、個人日記には一部始終を書いておこう。
「交際が成立したらラルクはそのまま森の湖に残るのかしらね」
「流石にそれはないだろ。24時間一緒にいられるわけでもないし。姉さんは森の湖に来なくなるかもしれない。リスクかかったことラルクがやるとは思えないけどね?」
多分、ラルクは『残る』ではなく『通う』だろう。
落ち武者さんのコメントにより、カップル日記は荒れた。セレナールさんのところからラルクが退会していたため、ヨルクさんと喧嘩した時に作った私とラルクのカップル日記に、みんなからの不安と苦情のコメントがたくさん投稿されていた。
『森の湖のセレナールを亡き者にするしかありません』
やっぱりカナエさんはセレナールさんのみを恨んでいる。ラルクが私とのカップル日記を退会しないのは、閲覧のためだと思う。セレナールさんのとこ退会しても、私のとこ退会しなければ、みんなの動向知ることが出来るから。
ラルク、あの後、森の湖でセレナールさんと会えたかな?
……
あとがき。
何だか言葉に出来ません。
自分で書いていて自分で分からないです。
走り書きの時は、ラルクとセレナールはまだこの時点では拗れていませんでしたし、まさか、ラルクが森の湖通いをすることになってしまうだなんて。
ラルクの片想いは成就するのでしょうか。
《ナミネ》
ヨルクさんが、ビルの屋上から飛び降りて数日が経った。
あの時の私の精神状態は酷く取り乱され、カナエさんにヨルクさんとの中を引き裂かれたと思い、カナミさんのクラスでカナミさんの制服をちぎり、カナミさんがボロボロになるまで殴り続け、カナエさんの前でアルフォンス王子のものを切断した。
けれど、ヨルクさんとの中を引き裂かれた私は少しも悪いことをしたとは思っていなかった。寧ろ、ヨルクさんとの幸せな日々を返して欲しい、そんな思いで私は壊れた。
カナミさんのことは、キクスケさんに頼んでなかったことにしてもらったが、カナミさんはショックのあまり、閉鎖病棟送りとなった。
その後、ナノハお姉様が、カナミさんに何度も謝罪をし、持ち前の精神分析能力でボロボロになったカナミさんの80%を回復させた。カナミさんは元の状態に戻ることが出来た。カナミさんとナノハお姉様は同級生で昔からそこそこ仲が良い。カナミさんはナノハお姉様に私のことは恨まないと言っていたらしい。
けれど、私はカナミさんに謝らなかった。
逆にカナミさんから『ごめんなさい。私の監督不足だったわ。カナエには二度とあんな真似はさせない』と謝られた。
セリルさんが説得したのかカナコさんも『ごめんなさい、会議では、あなたの責任にしようとしたけれど、同じ立場だったら、私もカナエを恨んだわ。カナエには言い聞かせるから時間を頂戴』と謝られた。
そうだね、カナコさんがもし他者のしたことでセリルさんと離れ離れになったら、タダでは済ませないよね。
私は悪くない。
だから、ヨルクさんとも別れない。
けれど、カナミさんとアルフォンス王子を傷付けても私の心は何も晴れなかった。私がヨルクさんに助けを求めるメールをした時、ヨルクさんと、落ち武者さん、エルナさんが駆け付けた。私は何故か、桜木町の空き地にいた。
ヨルクさんが何度も謝る中、落ち武者さんは無理矢理私とヨルクさんを別れさせようとした。
『悪いのは私ですか!』
私は無意識に落ち武者さんを殴り付けた。落ち武者さんは死にかけ、救急車で運ばれた。
落ち武者さんが気が付き次第、私は自分のしたことを悔い、落ち武者さんに謝った。
『二度とあんたらを無理矢理別れさせることはしない。今後はあんたを支える』
落ち武者さんは、放心状態の中、私に助けを求めるかのように言った。
ヨルクさんは、キクリ家と王室に毎日謝罪に行った。
元々は、私との話し合いを放棄して私を追い込んだ自分の責任だと、ひたすら謝り続けた。けれど、キクリ家も王室もヨルクさんを相手にしないどころか、ヨルクさんを殴る蹴るなどして憂さ晴らしをした。私は、キクスケさんに依頼し、ヨルクさんを殴った全ての人に罰を与え二度とヨルクさんに危害を加えないよう皇帝陛下に書類を作成してもらった。
ヨルクさんが殴られて、苛立った私はヨルクさんを殴った男の性器を切断しようとしたところ、落ち武者さんとエルナさんに止められ、思いとどまった。ヨルクさんは、ただただ泣いていた。
関係のない人を巻き込んだ挙句、力でみんなを支配しているのは分かっている。でも、私は悪くない。みんなの兄弟は健全じゃない。でも、私は違う。不本意なやり方でミドリお姉様を奪われた。
カナエさんのような幸せな人が、私を陥れて、カナミさんやアルフォンス王子を傷付けて何が悪いの?傷付けられたくなければ、歴史なんて変えなければ良かったじゃない。
私はヨルクさんとは別れない。寧ろ、ヨルクさんとの幸せをみんなに見せつけてやる。無理矢理引き裂こうものなら、私が容赦しない。
私はカナエさんのしたことに対して、完全に苛立っていた。
けれど、気になることが1つある。
カナミさんの件は、お母様が皇帝陛下に頼んで私を不問にしたけれど、でも、アルフォンス王子の件が不問になったのは何故だろう。誰が私を助けてくれたのだろう。
お昼休み。
私はいつものように広場に向かった。やっぱりみんな来ていた。
「今日は皆さんにお伝えしたいことがあります。私は誰からも攻撃を受けなければ私からは皆さんに何もしません。けれど、今までの状況からしてどうでしょう。何かあった時、自分の身を自分で守れなかったことを私に責任転嫁。助けたい人のために私を囮にする。挙句には歴史を変えて私とヨルクさんの仲を引き裂く。私からは一度たりとも皆さんに攻撃していないのに、皆さんは違いますね。では、宦官になったアルフォンス王子のものを見てください」
私はタッパーのフタを開けた。
アルフォンス王子の切り取られたものを見たみんなは顔を青ざめた。ヨルクさん、セレナールさん、ミナクさん、カナエさん、アルフォンス王子、カラン王子、ユメさん、委員長は吐いた。
「では次に、皆さんに送った画像を開けてください」
また、さっき吐いた人が再び吐いた。
「私はこのようにミドリお姉様を無惨な形で亡くしています。皆さんに送ったのはミドリお姉様の最後の姿です。私は泣きました。叫びました。病室中の窓ガラスを割りました。今でも傷は癒えていません。そんな私にカナエさんは、私の唯一の支えであるヨルクさんとの仲を引き裂きました!だからアルフォンス王子にはミドリお姉様と同じ状態になってもらいました。アルフォンス王子、宦官になった気分はどうですか?カナエさんと別れるなら元に戻しても構いませんよ」
「本当にすまなかった。二度とカナエにナミネとヨルクの仲を引き裂く真似はさせない。どうか、私を元に戻して欲しい」
流石のアルフォンス王子も懲りたか。一応、キクスケさんにお願いして元には戻すつもりだけど、今すぐは出来ない。私とヨルクさんの仲を引き裂いて私を陥れて、すぐには許せない。
「カナエは悪くありません!ナミネとヨルクは勝手に仲違いしたのでしょう!カナエは、あの時、誤って扇子を開いてしまいました!」
「何が誤ってよ!私をセイにイジワルさせたことは絶対に許さないし兄さんからカナコさんに話してもらうわ!」
「セレナール!卑怯な真似はやめるのです!カナエは何もしていません!」
この期に及んで白々しい。彼氏が宦官になったというのに、まだ足掻くのか。
「念を押しますが、私とヨルクさんの仲を裂く者は、女も男も切断の罰を受けてもらいます!二度と私とヨルクさんの仲を引き裂かないでください!」
「ナミネ、お姉さんはどうして……」
そっか、委員長は知らないんだっけ。
「姉は帰り道にガラの悪い同級生と出くわして、姉の友達は助けを呼びに行くから時間を稼いでと嘘を言って姉を差し出したの。姉はイヤガラセされた。第3が破られた後、突然死したの。顔は殴られ腫れて、お腹まで引き裂かれて中のもの出てるよね。当時、姉の縫合をしたのが月城総合病院の先代だったんだよ。私ね、受け入れられなくて毎日病院の屋上で心臓刺して飛び降りたの。そのたびに、先代は私を治療したんだよね。先代は……」
言いかけて私は涙を流していた。
ミドリお姉様の最後の姿を見た私は喚き散らして病院中に迷惑をかけた。それでも受け入れられなくて、私は壊れた。そして、ミドリお姉様をあんな目にあわせた全員の復讐を決意した。
ヨルクさんとの幸せを手に入れても邪魔をされる。森の湖でカナエさんがしたことに対しては我慢の限界だった。
「そうだったんだ。全然知らなかった。僕に出来ることがあったら言って。役に立てるか分からないけど」
「ありがとう、委員長」
その時、ミナクさんが私を抱き締めた。
「これがミドリさんの最後の姿だったんだな……ナミネ、これからは私が兄としてナミネを支える」
「ミナクさん……」
私は、ただ泣いていた。
「ナミネ、本当にごめん。二度とナミネを突き放したりしない」
私はあの時、ヨルクさんとの交際はちゃんと考えていた。けれど、突然のことで、すぐにヨルクさんと向き合えなかった。そしたら、ヨルクさんが私を拒みはじめたのだ。いざ、拒まれるといい気はしなかった。でも、その後、ヨルクさんが自殺を図ったと聞いて、私は、カナエさんに陥れられたと思った。
「カナエさん、一度だけ聞きます。どうして森の湖で歴史を変えてしまったのですか?」
カラン王子……。聞いたって答えてくれないよ。
「カナエは本当にわざとではありません。みんなでカナエを責めないでください!ナミネからはアルフォンス王子を酷い目にあわされ、こっちは完全な被害者です!」
私がカナエさんの脇腹を蹴ろうとした時、落ち武者さんが、代わりに蹴った。私はセレナールさんにセイさんとのラブ映像を送った。その瞬間、セレナールさんはカナエさんを押し倒し殴り付けた。
「やめるのです!みんなでカナエをイジメないでください!」
みんなは見て見ぬフリをした。
「カナエさんが、わざと歴史を変えたせいでヨルクさんはビルから飛び降りました。皆さんもカナエさんに歴史を変えられて幸せでしたか?セレナールさん?アルフォンス王子?」
「幸せどころか、大っ嫌いなセイにイジワルされて今にもカナエを殺してやりたいわ!」
「正直、大切なものを奪われる事態になってカナエとは少し距離を置きたい」
アルフォンス王子は相当滅入っているわけか。本来ならここで2人には別れて欲しくはないが、もう私は介入しない。2人の未来など私が知ったことではない。
「そうですか。カナエさんと別れたいなら好きにしてください。セレナールさんもラルクに何とかしてもらってください。私はヨルクさんとは別れません!ヨルクさんとは愛し合っています。後、これはアルフォンス王子のものなので、お返しします」
私はアルフォンス王子に、切断したものを返却した。その瞬間、アルフォンス王子はカナエさんを殴り付けた。
「よくも歴史を変えて、みんなを不幸にしてくれたな!こんな卑怯な女だとは思わなかった」
「まあ、後のことは皆さん次第です。別れるなり何なり好きにしてください。私は知りません」
それだけ言うと私は立ち上がり、クラスに向かった。後ろからヨルクさんと落ち武者さん、エルナさんが着いてきた。
「ナミネ、本当に……」
私はヨルクさんを突き飛ばした。
「あの日、私は仲直りしたと思い込んでいました。けれど、ヨルクさんは私の話も聞かず私を突き飛ばしました。同じことされた気持ちはいかがですか?あなたを陥れたのはカナエさんでしょう!二度と私に当たらないでください!次、同じことしたら誰のが切断されるでしょうかね。カラルリさんですかね?セイさんですかね?」
ヨルクさんは起き上がるなり私に土下座した。
「本当にごめん。全て私があの時ナミネを突き放したせいでみんなが拗れてしまった。二度と同じ誤ちは繰り返さない。だから許して欲しい」
「ナミネ、セルファに危害を加えないで欲しいの。セルファはあなたに再会出来てとても喜んでるわ」
エルナさんは、まだ落ち武者さんのことが好きなのか。
「けれど、落ち武者さんはミドリお姉様を失った私を更にどん底に突き落とそうとしました。それがいいことなんですか?だったら、私もお二方に恋人が出来た時に自由に関係を引き裂いても構いませんよね」
「強気なナミネ、僕が間違ってた。二度とあんたら引き離さない」
そもそも、どうして落ち武者さんが勝手に私とヨルクさんを引き離そうとしたのか。私には理解出来なかった。過度に他人のことに首を突っ込む落ち武者さんが。
「ナミネ、本当にごめん。全て私のせいだ。二度とナミネに酷いことはしない」
「ヨルクさんは身勝手ですね。私が話し合いを持ちかけた時は全く聞かず、カナミさんとアルフォンス王子を犠牲にしたのはヨルクさんです!次に同じことをすれば破談にし、みんなの前では恋人を装ってもらいます!正直、今めちゃくちゃ気分を害しています。あの時、話し合いに応じれば良かったものの」
ヨルクさんの謝罪を聞かず、私はヨルクさんのズボンとパンツを脱がせ、そのまま猛ダッシュで、その場から立ち去った。
その足で私はカナミさんのクラスへ行った。
カナミさんのクラスに着くなり、私はキクスケさんを呼び出した。そして、カナミさんのクラスに入った。
私はカナミさんのクラスに入るなり、またカナミさんの制服を引き裂いた。カナエさんのことで猛烈に苛立っていた私はキクスケさんが連れて来た中年おじさんにカナミさんを犯させた。
クラスのみんなはアラレもないカナミさんの姿を見て嘲笑った。
「カナミさん、カナエさんは全く反省していません!カナエさんを反省させないとあなたには一生苦しんでもらいます!今回は1週間後、今カナミさんが体験されたことはなかったこととし、カナミさんの記憶の中からも消えます。しかし、私が1週間カナエさんに苦しめられたように、1週間は苦しんで恐怖に怯えてください」
カナミさんは泣いたまま、何も言わなかった。
「返事は?」
「わ……かった……」
「では、1週間お楽しみください。キクリ家の次女が無様ですね。でも、こういうのって連帯責任ですし、家族が責任取るのは当たり前ですよね」
カナミさんはボロボロになったまま起き上がった。クラスの視線に耐え切れなくなったカナミさんは走ってクラスを出て行った。
中等部に戻るなり、私はヨルクさんにメールをした。
『ヨルクさんのせいで、またカナミさんが犠牲になりましたよ。私の機嫌が直らない限り、次々に人に苦しんでもらいます』
『ナミネ、私が悪かった。許して欲しい』
その時、落ち武者さんからもメールが来た。
『あんたの機嫌を損ねることはしない。顔だけヨルクは今、保健室にいる。会いに来てやれ』
私は歴史を変えたカナエさんが許せない。私の話し合いに応じなかったヨルクさんが許せない。けれど、膨らみ続ける風船をどうにも出来ず更に空気を入れてしまう自分が1番許せなかった。なのに、ミドリお姉様との別れは私を大きく変えてしまった。もう引き返せない。私はミドリお姉様を置き去りにした4人よりも残酷な人間になってしまった。
放課後、私は教壇の下でラルクといた。
「ラルク、この1週間で何もかも変わっちゃったね。セナ王女がカラルリさんとまた寝ちゃうなんて笑えるよね」
「まあ、記憶が抜けていたらああなっても不思議ではないだろ。ナミネ、僕はセレナール先輩のこと好きでもなんでもない。僕が好きなのは森の湖にいるセレナール先生なんだ」
そっか。困っている時に少しもセレナールさんに寄り添ってなかったとは思っていたけど、やっぱり、現世のセレナールさんには何の感情もないんだ。
「そうなんだね。時を超えての恋愛にはなるけど、森の湖にはまた行けるし、乗り継ぎややこしいけど民家側の森の湖南駅で下りたら森の湖まですぐだしさ」
今更ながら森の湖南駅で下りれば、セレナールさんもユメさんも体調を崩さずに済んだと思う。調べが足りていなかった。
「そうだな。これからは、森の湖に定期的に行く。相手は時代の違う人だけど、必ず恋仲になる」
「でも、皇太子様と交際したら森の湖にいなくなっちゃうよ」
「それまでに恋人になる」
えっ、それって歴史変わってしまわない?私、またヨルクさんと交際してたこと忘れてしまうの?
「ラルク、それって、歴史変えてしまうことにならない?」
「そうかもしれない。でも、好きな人と幸せになりたい。僕だって幸せになりたい。みんなの幸せ見てるだけじゃもう辛すぎる」
「そっか。そうだよね。ラルク、幸せになりなよ。私はラルクを応援する」
「ナミネ……」
私とラルクは抱き締め合った。
この時の私は、先のことなんて少しも考えていなかった。ラルクが昔のセレナールさんと交際した後のことなんて視野になかった。ただ、私はラルクに幸せになって欲しい。その気持ちしか今はなかった。
私と話した後、ラルクは早速、森の湖に行ってしまった。
私はキクスケさんにメールをした。
『あの、もし、森の湖にいるセレナールさんとラルクが交際したらどうなりますか?歴史変わりますか?』
『その場合もやはり歴史は変わります。現世でセレナールさんと関わった全ての人の記憶が変わってしまいます』
そっか。ラルクと森の湖にいるセレナールさんが交際しても、またみんなの人生変わっちゃうんだ。でも、もうヨルクさんとのことは忘れたくないよ。
『例え歴史が変わっても、私とヨルクさんの記憶は今のまま、交際をしたままでいられるようにしてもらえませんか?』
『かしこまりました。ですが、万が一、遠い昔のセレナールさんとラルクさんが交際したとしても上手くはいかないでしょう。時を超えての恋愛が成立した事例はかなり少ないです』
それでも、ラルクが幸せになれるならば……。もう色々仕方ない気がする。
『そうですか。あの、やっぱり、今のメンバー全員の記憶を変えないでもらえないでしょうか?』
『カップル日記を開くようナミネさんから皆さんに伝えてください。ラルクさんは遠い昔のセレナールさんと交際出来れば、遠い昔のセレナールさんに携帯を渡してカップル日記をさせるでしょう。ラルクさんが森の湖に行くたびに遠い昔のセレナールさんの投稿は反映されるでしょう』
そうか。あの時、この方法を知っていれば、ラルクが遠い昔のセレナールさんに携帯渡していれば、みんなは記憶失わずに済んだのか。もう、色々難しいな。
『分かりました』
キクスケさんとのメールを終えた私は保健室にヨルクさんを迎えに行き、話があることを伝え、ナノハナ家に連れて行った。
ナノハナ家に着くなり、私たちは私の部屋に行った。部屋に入ると……。
そっか、忘れてた。あれからクレナイ家ばかり行ってたから、このままだったんだ。
「あんた、これ何なのさ」
「今片付けます」
空白の1週間の最後に私はヨルクさんとの交際を決意し、部屋に飾り付けをしたのだ。まるで、誰かの誕生日パーティーだ。
「待って!ナミネ、私との交際考えてくれてたの?」
今更言われてもなあ……。
「はい、記憶の抜けた1週間のうちにヨルクさんとの交際を決めて、飾り付けしました」
「そうだったんだ……私何も知らなくて……」
ヨルクさんはまた泣き崩れた。
「とりあえず、記念に写真だけ撮っとけ」
私とヨルクさんは飾り付けの真ん中に行き、落ち武者さんに写真を撮ってもらった。後でカップル日記に投稿しよう。
私たちは飾り付けを片付けた。
使用人が茶菓子を運んで来る中、私は本題に入った。
「ラルクは現世のセレナールさんではなく、森の湖にいるセレナールさんが好きなんです。ラルクは今後、森の湖に通うつもりです。交際が成立すれば、またみんなの記憶は失われてしまいます。けれど、交際が成立すれば逆にラルクはセレナールさんに携帯を持たせるかもなので、カップル日記を開くことでみんなの記憶は消えないそうです」
「難しい話しね。私は例え交際が成立したとしても上手くいかないと思うわ」
そうなんだよね。分かってはいるけれど、あんな必死なラルク見たら止めるに止められなかったし。
「とりあえず、カップル日記のみんなのとこにコメントしといた。けど、ラルクの前に誰かが歴史変えたらカップル日記の効力なくなるな」
それは私も薄々気付いてはいた。落ち武者さんによると、あの後、月城総合病院で手術を受け、大切なものが元に戻った後、カナエさんに別れを告げたらしい。
カナミさんは、私の怒りに触れた後、高等部の保健室で酷いヒステリーを起こし、カナコさんとセリルさんが月城総合病院に連れて行って、今は閉鎖病棟にいるとか。
一度目のカナミさんのことがあってから、キクリ家は、カナエさんを馬小屋に閉じ込めたらしい。今回の件ではキクリ家は歴史を変えたカナエさんに全責任があると見なし、引き続き住まいは馬小屋となり、カナエさんはキクリ家どころか、全てのお武家から四面楚歌になってしまった。
「そうですね、森の湖南駅からだと私たちが歩いた険しい森道なんて行かなくていいですし。タクシー使えば定期的に行けなくもないですよね」
「今、リリカお姉様に詳細話して、お武家連盟会議開かれるみたい。カナエさんの森の湖行きは阻止されると思う」
うーん、カナエさんって、案外手強いし、そんなに上手くいくかな。もし、私がヨルクさんとの記憶を失ったら、もうその時は全てを諦めよう。ラルクの幸せのためだから。でも、記憶が抜けた時、自分が伝説最上級武官の資格取ってたことも忘れてしまったんだよな。
一応、個人日記には一部始終を書いておこう。
「交際が成立したらラルクはそのまま森の湖に残るのかしらね」
「流石にそれはないだろ。24時間一緒にいられるわけでもないし。姉さんは森の湖に来なくなるかもしれない。リスクかかったことラルクがやるとは思えないけどね?」
多分、ラルクは『残る』ではなく『通う』だろう。
落ち武者さんのコメントにより、カップル日記は荒れた。セレナールさんのところからラルクが退会していたため、ヨルクさんと喧嘩した時に作った私とラルクのカップル日記に、みんなからの不安と苦情のコメントがたくさん投稿されていた。
『森の湖のセレナールを亡き者にするしかありません』
やっぱりカナエさんはセレナールさんのみを恨んでいる。ラルクが私とのカップル日記を退会しないのは、閲覧のためだと思う。セレナールさんのとこ退会しても、私のとこ退会しなければ、みんなの動向知ることが出来るから。
ラルク、あの後、森の湖でセレナールさんと会えたかな?
……
あとがき。
何だか言葉に出来ません。
自分で書いていて自分で分からないです。
走り書きの時は、ラルクとセレナールはまだこの時点では拗れていませんでしたし、まさか、ラルクが森の湖通いをすることになってしまうだなんて。
ラルクの片想いは成就するのでしょうか。
純愛偏差値 未来編 一人称版 45話
《ヨルク》
少し前まで、ナミネの温もりを確かに感じていたはずなのに、今は違う。ナミネが遠く感じる。
そして、私は何故、古くて誰も住んでいない民家が並ぶ町にいるのかさえ分からずにいた。
みんなはレストランを出た後、遠い前世、カナエさんとセイさんが住んでいた家に向かった。
レストランからそう遠くはなかった。
けれど、民家は確かに残っているものの、完全な廃墟となっていた。いったい、いつ頃に住んでいたのだろう。
しかし、手入れもされていないのに、周りには雑草1つなく、ただ、廃墟のみがポツンと立っていたのだ。
この廃墟が何の手がかりになるのだろうと思っていたら、カナエさんが、その時の番人であったウルクさんを呼び出して、一時的に当時の様子を再現してもらえることになった。
5分ほどすると、当時、カナエさんとセイさんが住んでいた家が再現された。廃墟からは想像もつかないくらい可愛らしい家だった。表面は丸くて二階建てで、屋根は丸い赤で、まるでイチゴが乗っかっているようだった。
遠い昔なのに、こんなオシャレな家だったとは。
私たちは、当時のカナエさんとセイさんの家の中に入った。
リビングには昔のカナエさんとセイさんがいた。
「セイ、今夜は何が食べたいですか?」
カナエさんは着物にエプロンをしていた。まるで大正ロマンだ。
「カナエ、セレナールと結婚することになった」
「どういうことですか?セイ」
「セレナールに正式に僕と結婚したいと言われた」
カナエさんは涙を流した。
「カナエを捨てるのですか?」
「ごめん」
「ちゃんと話し合いたいのでセレナールをここに呼びます」
カナエさんは窓を開けて紙飛行機を飛ばした。
数分後、セレナールさんが来た。
カナエさんはセレナールさんに紅茶を入れた。しかし、セレナールさんは紅茶を少しも飲まなかった。
「セレナール、セイと結婚するというのは本当ですか?どうしてカナエを裏切ったのですか?」
「私だって、好きな人と一緒になりたかった!でも、あの日、森の湖でセイに後ろから無理矢理されたの。ふた月後、妊娠が発覚したわ」
セレナールさんは泣き、カナエさんの表情は強ばった。
「セイ、どうしてですか!どうしてセレナールを無理矢理キズモノにしたのですか!」
「セレナールは、妖精村1番の美少女妖精だ!男なら誰もがセレナールとの交際を望んでる!あの時、無理矢理するつもりじゃなかった。後ろから抱き締めていただけなんだ!」
セイさんは、妖精村1番の美少女妖精のセレナールさんとの結婚が決まって表情がかなり豊かだった。
「セイのことは死んでも許せないし、結婚はしても心は許さないわ!」
セレナールさんは泣きながら訴えた。けれど、お腹の子は、妊娠2ヶ月というより、もっと成長しているように見える。
「セレナール、考え直してください!イジワルで生まれた子の殆どが幸せにはなれません。中絶を考えてください!」
「私、人より2倍のスピードで子供が成長するらしいから、もう中絶出来ないのよ!」
カナエさんは、セイさんとセレナールさんを引っぱたいた。
「2人とも最低なのです!カナエは絶対に許しません!」
「カナエは、このままここに住んでもらって構わない。僕とセレナールは新居に住むから」
横を見ると、もう荷造りしてあるだろう荷物が置かれていた。
「カナエは実家に戻ります!どうぞ2人で幸せになってください!」
そう言うとカナエさんは何も持たずに家を出た。
ここで時空は現代へと巻き戻り、さっきまで私たちがいたリビングはなくなり、カナエさんとセイさんの家は廃墟になっていた。
「セレナールはセイとの結婚生活は幸せだったのですよね?けれど、カナエは、2人に裏切られたことを忘れられないまま生涯を送りました」
カナエさんはセレナールさんを睨みつけた。
「けど、あの時は私だって無理矢理だったし、エミリが皇太子様と婚約した時は心から泣いたわ。セイは尽くしてくれたけど、好きにはなれなかった」
「そうですか。では、現世では幸せになれるといいですね。カナエはアルフォンス王子様と今幸せなので」
「そ、そう」
何だか歯切れが悪い。
用事が済んだのか、カナエさんはバス停でバスを待った。私たちも、ここにいる理由がないゆえ、バスで帰ることにした。
生涯、違和感しかない。
何故、あんな古い民家が並ぶところにいたのかも分からないし、人気は全くないのに、ポツンと一軒レストランがあって……。いったい何なのだろう。
最寄りのバス停まで着いた。
「セレナール先輩、家まで送ります」
「あら、ありがとう」
ラルクはデレデレしながらセレナールさんの家に向かった。
「ナミネ、送ってく」
「い、いえ、私は大丈夫です」
「ナミネと話したい。ダメかな?」
「わ、分かりました。それなら、私がクレナイ家に行きます」
良かった。完全に避けられているわけではなさそうだ。けれど、今のぎこちない関係が私の心を壊そうとしていた。
クレナイ家の私の部屋に入ると、ナミネの衣類が畳んであった。どうしてだろう。どうして、ナミネの衣類がここにあるのだろう。
「私の服……」
「あ、ごめん。これ返しておくね。帰る時持って帰って」
ナミネは私の部屋を見渡した。
「あれ、私たち同じ指輪してません?」
「確かに……」
今まで全く気づかなかった。何か手がかりはないだろうか。
そうだ、カップル日記!
「ナミネ、カップル日記を見てみよう」
「はい」
カップル日記を見ると、デパートでみんなと一緒にペアリングを買ったらしく、私とナミネの投稿もあったのだ。
それだけでない。
一番最初に遡ると、交際したと確かに書いてある。けれど、ナミネはラルクのことが……。
「ナミネ、無理に私と交際しなくていいから!何がどうなっているのか分からないけど、ナミネの生きたいように生きて!」
「え、でも……」
ナミネはしばらく考え込んでいた。
カップル日記の通り、ナミネと本当に交際していたのなら嬉しい。けれど、このカップル日記が偽りだったとしたら……。
この日は、ナミネも私も汗をかいていたゆえ、別々にお風呂に入り、ナミネは私の部屋に泊まった。
それから3日後の夜、私はナミネを抱いた。
翌日、私は作った朝食をテーブルに置き、ナミネに伝えることにした。
「ナミネのことは私が責任を取る」
10秒ほど間があった。
「すみません、ヨルクさん……。昨日のことは忘れてください。ヨルクさんと交際は出来ません」
「え……じゃあ、昨日のことは何だったの?」
「その……勢いと言いますか……えっと……」
そっか。私はただの慰め役だったのか。馬鹿みたいに思えてきた。
「ナミネにとっては、軽い気持ちだったんだね。ラルクを忘れるために私のこと利用したんだね」
私は涙が零れていた。
「ち、違います!ラルクを忘れるためとかそういうんじゃないです!昨日は私もとても幸せでした。けれど、ヨルクさんと交際は出来ないんです」
「そっか、もういいよ。私たち、他人になろう」
「本当にすみません」
そう言うとナミネは服も待たず走って部屋を出てナノハナ家に戻って行った。私は1人取り残された部屋の中で何時間も泣き続けた。
その後、私は登校はしたものの、ナミネとの関係が壊れてしまったショックで生きた心地がしなかった。町ですれ違ってもナミネは私を避けるし、余計に辛さが重たくのしかかっていた。
そんな朝、目が覚めると、ナミネが横で眠っていた。
「ナミネ……?」
その瞬間、空白の1週間の記憶を思い出した。
あの日、森の湖でセレナールさんの歴史を変えてしまったから、現世でセレナールさんと出会ってからの記憶が全て消えてしまっていたのだ。
1週間なのに、地獄のような日々だった。
けれど、私とナミネはちゃんと交際していた。私は安心からか涙を流した。
「ヨルクさん……」
起きるなりナミネは私に抱き着いた。
「酷いこと言ってごめんなさい。私、ずっとヨルクさんの傍にいます」
ナミネの記憶も戻ってる。
「ナミネ……良かった……。1週間なのに、凄く長く感じて、ナミネと気まずくなって、孤独だった。でも、森の湖で歴史が変わって一時的に記憶がなくなってたんだって、ナミネとちゃんと交際してるんだって分かったら安心した」
私はナミネの前で大泣きした。
本当に私の日常から私の人生からナミネがいなくなるかと思った。とても怖かった。
私はナミネを抱き締めた。
「おい、顔だけヨルク、飯作れ」
えっ、落ち武者さん!?
私は咄嗟に起き上がった。
「ねえ、落ち武者さん、どうしているの?どうして自分の家に帰らないの?」
「釣れないこと言うなよ。あんたら、無事記憶戻って良かったな」
「もう本当何なの!私はナミネと2人でいたいの!」
私は苛立ちながら朝食を作りに行った。
ナミネと離れて1週間経ったから、今日はサンドイッチにしようかな。ナミネ、喜んでくれるかな。
私はうさぎのサンドイッチを3人分作って、再び2階に上がった。
「ナミネ、朝食出来たよ……って、何してるの?」
私はサンドイッチを机に置いて、ナミネとツーショットを撮った。本当、朝っぱらから何なのだろう。
「カップル日記見てみろよ。凄いことになってるぜ」
カップル日記……?
……。
そういえば、レストランで、記憶を失ったセナ王女とカラルリさんが交際したんだっけ!?
私は慌ててカップル日記を開いた。
『カラルリとは遠い前世も恋人だった。
またこうやって恋人になれたのはとても嬉しい』
『カラルリと初Fメモリイ♡』
これは浮気に入るのか入らないのか。
そもそも、自分を流産させた男と、また交際して同じこと繰り返すなんて……。記憶がなかったから仕方ないかもだけど。
『セナさんとは運命の絆で結ばれている。
この気持ちは一生変わらない。
セナさんを一生大切にする』
カラルリさん……。何だかもう言葉に出来ない……。
「投稿消される前に証拠撮っておこうぜ」
落ち武者さんはナミネの携帯画面を撮った。
「記憶を失ったせいで、セナ王女たち、三角関係になりましたな」
「一言で言うとアホだな」
そもそも、カナエさんが、あんなことしなければ……。
「ねえ、あれって、カナエさんが歴史変えたんだよね?どうしてカナエさんはあんなことしたのかな」
そうだ、カナエさんが余計なことしたせいで、私の人生潰れるところだったんだ。絶対みんなで話し合わないといけないと思う。
「男尽くしカナエは、もうずっと昔から姉さんのこと嫌ってたんだよ。友達なフリして、いつも見下す姉さんのこと恨んでたんだよ」
「でも、みんなの記憶は元に戻りましたし、歴史変えたの意味あったんでしょうか」
「男尽くしカナエのカップル日記見てみろ」
私なナミネはカナエさんとアルフォンス王子のカップル日記にアクセスした。
『この1週間とても幸せでした。
キクリ家でアルフォンス王子様と馬に乗ったり、図書館デートしたり、オシャレなカフェに行きました。
遊園地の観覧車の中でカナエはアルフォンス王子様からプロポーズされました。
アルフォンス王子様と幸せな家庭を築くのです』
凄い高そうな婚約指輪を投稿している。
「歴史を変えたことで、みんなの記憶を消して、平凡アルフォンスの頭の中を、遠い前世の男尽くしカナエへの強い想いだけにして、自分だけ幸せになる魂胆なんだよ」
けれど、みんなの記憶が戻れば、意味がないのではないだろうか。私にはカナエさんの魂胆が分からなかった。
「カナエさんは、2番目の番人だった時は特別な人でしたし、みんなの記憶が抜けている間何か力を使ったかもしれませんね。王室の別荘も元に戻っていますし、王室も復旧しました。アルフォンス王子からのプロポーズも得られましたし、1番得しましたよね」
「ああ見えてずる賢い女だったんだな。まさか、セイの野郎が姉さんに気持ち向いてから姉さんのこと恨んでたとは思いもしなかったね。姉さんも地味に損してるしさ」
セレナールさんも損……?私はセレナールさんのカップル日記を見てみた。
えっ、セイさんと……カップル日記!?
『何だか急に懐かしくなっちゃってセイとカフェデートした』
『セレナールと交際することになった。
セレナールとは遠い前世で結婚もしてるし、現世でも幸せになれると思う。セレナール、僕が幸せにするよ』
『早いし気持ち定まってないけどセイと初Fメモリイꯁꯧ』
『セレナールのはじめてゲット!天にも登る思い』
〈セレナールさんが退会しました〉
ん?どういうことだろう。
それにしても、流石に同情してしまう。カナエさんとセイさんが縁がなかったという話なだけだっただろうに。
「ほら、男尽くしカナエと平凡アルフォンスのカップル日記のコメント見てみろよ。かなり荒れてるぜ」
私とナミネは2人のコメント欄を見た。
『セナ:どうしてくれるのよ!カナエのせいで、私、カラルリと浮気してしまったじゃない!私の1週間返してよ!』
『セレナール:カナエ、あんまりだわ!セイに初を捧げてしまうだなんて!絶対にカナエを許さないわ!』
『セナ:カナエ、こんなことして自分だけ幸せになれるはずがないわ』
『セレナール:この馬鹿カナエ!ブスだから、やることも卑怯なのね』
『セレナール:不細工カナエ』
『セレナール:ピル飲みカナエ』
『セレナール:カナエの幸せタイム(写真)』
はあ、見ているだけで疲れる。自業自得な面もあると思うのは私だけだろうか。
私はさっき撮ったナミネのツーショットと共にカップル日記を書いた。
『記憶を失った空白の1週間。
とても長く感じた。
ナミネと交際する前に時間が巻き戻っていて何度も泣いた。
現実でなくて良かった。
本当に良かった。
どこにも行かないで、ナミネ』
もう、あのような思いはしたくない。グループ付き合いも考えものだな。
『森の湖から1週間が過ぎました。
記憶が抜けている間、私はヨルクさんを失いかけました。
本当に失っていたら私の現世はロクなものになっていなかったでしょう。
こうやって朝食を一緒に取れるのは奇跡なことを改めて思い知りました』
私がサンドイッチを食べているところが投稿されていた。
ナミネ……。ナミネも辛かったんだね。
あの1週間を思うと何度でも涙が出てくる。
「あの、セレナールさんやセナ王女が妊娠したことはなかったことになったのでしょうか?」
「そんなことないけど?ただ、元々あった記憶に、あの1週間が上書きされただけ。当人らは2つの記憶に縛られることになるだろうね?」
セレナールさんとセナ王女は二度も初を失ったのか。空白の1週間に関してはセレナールさんのは殆どイジワルじゃないか。カナエさん、どうしてなんだ。復讐をしたつもりなのか?
森の湖に行った意味などあったのだろうか。
「そういえば、ナミネ、また映画撮影したの?」
あの後、ナミネとは会わないようにしていたが、みんなはナミネがまた映画に出ると噂していたけれど、私はナミネを失ったショックで全てをシャットしてしまっていたのである。
「はい、ラハルさんから突然誘われて、興味深い内容だったので、共演しました。花夢物語といって、主役がバイオリンを弾く度に過去に戻りヒロインと会って恋に落ちるんです」
私が伏せっている間、ナミネは楽しく過ごしていたのだろうか。そう思うと、私の胸は痛んだ。ナミネにとって私は、軽い存在なのだろうか。
「そっか。DVD観るね」
私はまた涙が零れていた。
「ヨルクさん、泣かないでください。あの時は、交際のことすぐに考えられなかったんです。ヨルクさんを愛おしい理由が分からなくて時間が欲しかったんです」
だったら、そう言ってくれれば良いのに……。私とは交際出来ないだなんて言われると、ずっとそうなのかと、私は死にそうな気持ちだった。
「どうして言ってくれなかったの……。私、ナミネとは二度と交際出来ないと思って、ずっと苦しかった」
「すみません。ヨルクさんとの交際はちゃんと考えてました。でも、あの時は頭が真っ白になって逃げてしまったんです」
「何それ……酷いね。私は毎日泣いたのに、ナミネはラハルさんと楽しく映画撮影してたんだね。最低だね。しばらく1人になりたい」
私は、ダメだと分かりながらも自分の感情をナミネにぶつけてしまった。
「あんた、せっかく記憶戻って、こうやって強気なナミネと交際出来てんのに、何で拗れさせるんだよ!強気なナミネ失うぞ!」
「ヨルクさん、傍にいさせてください」
ナミネは私に抱き着いてきたが私はナミネを突き飛ばした。
「やめて!あの時も、ラルクの代用品だったんでしょ!私の気持ち利用して何が楽しいの?」
「私、ヨルクさんを利用してなんかいません!ヨルクさんのこと好きだから傍にいたんです!」
「だったら、どうして交際出来ないって言ったの?」
「抜けた記憶の中、はじめてで、恥ずかしかくて思ってもないこと言ってしまったんです!でも、その後、ヨルクさんと気まずくなり、ヨルクさんと前みたいに接することが出来なくなってしまったんです」
ダメだ。気持ちが全く整理出来ない。記憶が抜けていたとは言え、恥ずかしいだけで、交際出来ないなどと言われ、私の心はズタズタになっていた。
私は悔しくて苦しくてその場に泣き崩れた。
「もういい。たかが恥ずかしいで、交際出来ないと私を陥れたことは、どうしても許せない。ナミネにハメられてやり切れない……ナミネに利用されて苦しい……ナミネにラルクの代わりにされて不愉快……。ナミネなんか大嫌い!」
「おい、やめろ!本当に強気なナミネが他の男と交際しても良いのか?」
私の心は酷く乱れていた。
「ヨルクさん、落ち着いてください。私はヨルクさんだけです!」
「ねえ、ナミネ、本当に私だけなら私を利用していないのなら、セイさんとセレナールさんを交際させてよ」
「分かりました。ヨルクさんがそれで気が収まるならそうします」
ナミネは、呼び出しカードを取り出した。
「顔だけヨルク、あんた落ち着くまで、強気なナミネとは会うな。1人で苦しんでろ」
落ち武者さんは、ナミネをナノハナ家に連れて行った。ナミネから辱められたと思った私は、近くのビルの屋上から飛び降りた。
この私の行動がナミネの病気を酷く悪化させた。
月城総合病院で目を覚ますと、落ち武者さんがいた。
「あんた、ここまで負いつまってたなら何で言わなかった!強気なナミネは、あんたの信用と愛情を失ったと思い込んで、いきなりカナミのクラス行くなり、カナミの制服脱がせて、カナミをひたすら殴り病院送りにした。カナミはショックのあまり、パニック障害になった。平凡アルフォンスは男尽くしカナエの前で儀式起こした。カナミの件は男尽くしカナエが原因作ったから、ナノハナ家に慰謝料を請求出来ず、平凡アルフォンスの件は、皇帝陛下が不問にした」
そんな。私が不安定になっている、その向こう側でナミネはもっと不安定になっていただなんて。私は取り返しのつかないことをナミネにさせてしまった責任を今になって痛感した。今すぐナミネと会って話がしたい。ナミネ、本当にごめんね。
「ナミネは、ナミネはどこにいるの?」
「さあな。ここまで追い込ませたんだから、悪いけど、あんたら別れさせる」
「待って!もう二度とナミネを責めない!」
「あんた、何度もそう言って強気なナミネに責任転嫁してんだろ!今、お武家連盟会議が開かれてて、カナコはカナミは関係ないと主張したけど、ナノハナ家の母親が男尽くしカナエがしたことはキクリ家がしたことも同然と、男尽くしカナエに慰謝料1億請求した。カナコが訴えると主張したらナノハナ家の母親は皇帝陛下からの強気なナミネを不問にする書類提出してカナコはセリルに泣き付き、カナミは、強気なナミネからこっちの人生壊しておいて幸せになろうものなら、妖精村中に映像ばら撒くと脅した。カナミはヒステリー起こし、ここの閉鎖病棟に入れられた。全部あんたのせいだ。あんたが、強気なナミネに責任転嫁したから、関係ないヤツらに飛び火したんだよ!」
落ち武者さんは、私とナミネを別れさせるつもりだ。どうしたら、ナミネと別れられずに済む。ちゃんと、ナミネと話し合えば良かった。どうしてそれが出来なかったのだろう。
私は後悔してもし切れず大泣きをした。
その時、ナミネからメールが来た。
『ヨルクさんの愛情得られないなら、ヨルクさんに何も信じてもらえないなら生きてる意味など何もないよ。ヨルクさん、さようなら』
『待ってナミネ!私が悪かった!ナミネのしたことは私が全て責任取るし、ナミネのこと愛してる!ナミネが私のこと好きじゃないと思ってショック受けてた!ナミネ、どこにいるの?』
「落ち武者さん、ナミネが……」
私は携帯画面を落ち武者さんに見せた。
「あんたが強気なナミネと別れるなら協力する」
え……、全て私が悪いの?みんなそう思ってるの?私はまた涙を零した。
「ナミネとは絶対別れない!落ち武者さんてひねくれてるよね!何かあれば全て私が悪いの?ムカつく!痛い目あえばいいのに!」
その時、ナミネからまたメールが来た。
『ヨルクさん助けて……助けて……助けて……』
……
あとがき。
関係のない人まで巻き込まれてしまいました。
《ヨルク》
少し前まで、ナミネの温もりを確かに感じていたはずなのに、今は違う。ナミネが遠く感じる。
そして、私は何故、古くて誰も住んでいない民家が並ぶ町にいるのかさえ分からずにいた。
みんなはレストランを出た後、遠い前世、カナエさんとセイさんが住んでいた家に向かった。
レストランからそう遠くはなかった。
けれど、民家は確かに残っているものの、完全な廃墟となっていた。いったい、いつ頃に住んでいたのだろう。
しかし、手入れもされていないのに、周りには雑草1つなく、ただ、廃墟のみがポツンと立っていたのだ。
この廃墟が何の手がかりになるのだろうと思っていたら、カナエさんが、その時の番人であったウルクさんを呼び出して、一時的に当時の様子を再現してもらえることになった。
5分ほどすると、当時、カナエさんとセイさんが住んでいた家が再現された。廃墟からは想像もつかないくらい可愛らしい家だった。表面は丸くて二階建てで、屋根は丸い赤で、まるでイチゴが乗っかっているようだった。
遠い昔なのに、こんなオシャレな家だったとは。
私たちは、当時のカナエさんとセイさんの家の中に入った。
リビングには昔のカナエさんとセイさんがいた。
「セイ、今夜は何が食べたいですか?」
カナエさんは着物にエプロンをしていた。まるで大正ロマンだ。
「カナエ、セレナールと結婚することになった」
「どういうことですか?セイ」
「セレナールに正式に僕と結婚したいと言われた」
カナエさんは涙を流した。
「カナエを捨てるのですか?」
「ごめん」
「ちゃんと話し合いたいのでセレナールをここに呼びます」
カナエさんは窓を開けて紙飛行機を飛ばした。
数分後、セレナールさんが来た。
カナエさんはセレナールさんに紅茶を入れた。しかし、セレナールさんは紅茶を少しも飲まなかった。
「セレナール、セイと結婚するというのは本当ですか?どうしてカナエを裏切ったのですか?」
「私だって、好きな人と一緒になりたかった!でも、あの日、森の湖でセイに後ろから無理矢理されたの。ふた月後、妊娠が発覚したわ」
セレナールさんは泣き、カナエさんの表情は強ばった。
「セイ、どうしてですか!どうしてセレナールを無理矢理キズモノにしたのですか!」
「セレナールは、妖精村1番の美少女妖精だ!男なら誰もがセレナールとの交際を望んでる!あの時、無理矢理するつもりじゃなかった。後ろから抱き締めていただけなんだ!」
セイさんは、妖精村1番の美少女妖精のセレナールさんとの結婚が決まって表情がかなり豊かだった。
「セイのことは死んでも許せないし、結婚はしても心は許さないわ!」
セレナールさんは泣きながら訴えた。けれど、お腹の子は、妊娠2ヶ月というより、もっと成長しているように見える。
「セレナール、考え直してください!イジワルで生まれた子の殆どが幸せにはなれません。中絶を考えてください!」
「私、人より2倍のスピードで子供が成長するらしいから、もう中絶出来ないのよ!」
カナエさんは、セイさんとセレナールさんを引っぱたいた。
「2人とも最低なのです!カナエは絶対に許しません!」
「カナエは、このままここに住んでもらって構わない。僕とセレナールは新居に住むから」
横を見ると、もう荷造りしてあるだろう荷物が置かれていた。
「カナエは実家に戻ります!どうぞ2人で幸せになってください!」
そう言うとカナエさんは何も持たずに家を出た。
ここで時空は現代へと巻き戻り、さっきまで私たちがいたリビングはなくなり、カナエさんとセイさんの家は廃墟になっていた。
「セレナールはセイとの結婚生活は幸せだったのですよね?けれど、カナエは、2人に裏切られたことを忘れられないまま生涯を送りました」
カナエさんはセレナールさんを睨みつけた。
「けど、あの時は私だって無理矢理だったし、エミリが皇太子様と婚約した時は心から泣いたわ。セイは尽くしてくれたけど、好きにはなれなかった」
「そうですか。では、現世では幸せになれるといいですね。カナエはアルフォンス王子様と今幸せなので」
「そ、そう」
何だか歯切れが悪い。
用事が済んだのか、カナエさんはバス停でバスを待った。私たちも、ここにいる理由がないゆえ、バスで帰ることにした。
生涯、違和感しかない。
何故、あんな古い民家が並ぶところにいたのかも分からないし、人気は全くないのに、ポツンと一軒レストランがあって……。いったい何なのだろう。
最寄りのバス停まで着いた。
「セレナール先輩、家まで送ります」
「あら、ありがとう」
ラルクはデレデレしながらセレナールさんの家に向かった。
「ナミネ、送ってく」
「い、いえ、私は大丈夫です」
「ナミネと話したい。ダメかな?」
「わ、分かりました。それなら、私がクレナイ家に行きます」
良かった。完全に避けられているわけではなさそうだ。けれど、今のぎこちない関係が私の心を壊そうとしていた。
クレナイ家の私の部屋に入ると、ナミネの衣類が畳んであった。どうしてだろう。どうして、ナミネの衣類がここにあるのだろう。
「私の服……」
「あ、ごめん。これ返しておくね。帰る時持って帰って」
ナミネは私の部屋を見渡した。
「あれ、私たち同じ指輪してません?」
「確かに……」
今まで全く気づかなかった。何か手がかりはないだろうか。
そうだ、カップル日記!
「ナミネ、カップル日記を見てみよう」
「はい」
カップル日記を見ると、デパートでみんなと一緒にペアリングを買ったらしく、私とナミネの投稿もあったのだ。
それだけでない。
一番最初に遡ると、交際したと確かに書いてある。けれど、ナミネはラルクのことが……。
「ナミネ、無理に私と交際しなくていいから!何がどうなっているのか分からないけど、ナミネの生きたいように生きて!」
「え、でも……」
ナミネはしばらく考え込んでいた。
カップル日記の通り、ナミネと本当に交際していたのなら嬉しい。けれど、このカップル日記が偽りだったとしたら……。
この日は、ナミネも私も汗をかいていたゆえ、別々にお風呂に入り、ナミネは私の部屋に泊まった。
それから3日後の夜、私はナミネを抱いた。
翌日、私は作った朝食をテーブルに置き、ナミネに伝えることにした。
「ナミネのことは私が責任を取る」
10秒ほど間があった。
「すみません、ヨルクさん……。昨日のことは忘れてください。ヨルクさんと交際は出来ません」
「え……じゃあ、昨日のことは何だったの?」
「その……勢いと言いますか……えっと……」
そっか。私はただの慰め役だったのか。馬鹿みたいに思えてきた。
「ナミネにとっては、軽い気持ちだったんだね。ラルクを忘れるために私のこと利用したんだね」
私は涙が零れていた。
「ち、違います!ラルクを忘れるためとかそういうんじゃないです!昨日は私もとても幸せでした。けれど、ヨルクさんと交際は出来ないんです」
「そっか、もういいよ。私たち、他人になろう」
「本当にすみません」
そう言うとナミネは服も待たず走って部屋を出てナノハナ家に戻って行った。私は1人取り残された部屋の中で何時間も泣き続けた。
その後、私は登校はしたものの、ナミネとの関係が壊れてしまったショックで生きた心地がしなかった。町ですれ違ってもナミネは私を避けるし、余計に辛さが重たくのしかかっていた。
そんな朝、目が覚めると、ナミネが横で眠っていた。
「ナミネ……?」
その瞬間、空白の1週間の記憶を思い出した。
あの日、森の湖でセレナールさんの歴史を変えてしまったから、現世でセレナールさんと出会ってからの記憶が全て消えてしまっていたのだ。
1週間なのに、地獄のような日々だった。
けれど、私とナミネはちゃんと交際していた。私は安心からか涙を流した。
「ヨルクさん……」
起きるなりナミネは私に抱き着いた。
「酷いこと言ってごめんなさい。私、ずっとヨルクさんの傍にいます」
ナミネの記憶も戻ってる。
「ナミネ……良かった……。1週間なのに、凄く長く感じて、ナミネと気まずくなって、孤独だった。でも、森の湖で歴史が変わって一時的に記憶がなくなってたんだって、ナミネとちゃんと交際してるんだって分かったら安心した」
私はナミネの前で大泣きした。
本当に私の日常から私の人生からナミネがいなくなるかと思った。とても怖かった。
私はナミネを抱き締めた。
「おい、顔だけヨルク、飯作れ」
えっ、落ち武者さん!?
私は咄嗟に起き上がった。
「ねえ、落ち武者さん、どうしているの?どうして自分の家に帰らないの?」
「釣れないこと言うなよ。あんたら、無事記憶戻って良かったな」
「もう本当何なの!私はナミネと2人でいたいの!」
私は苛立ちながら朝食を作りに行った。
ナミネと離れて1週間経ったから、今日はサンドイッチにしようかな。ナミネ、喜んでくれるかな。
私はうさぎのサンドイッチを3人分作って、再び2階に上がった。
「ナミネ、朝食出来たよ……って、何してるの?」
私はサンドイッチを机に置いて、ナミネとツーショットを撮った。本当、朝っぱらから何なのだろう。
「カップル日記見てみろよ。凄いことになってるぜ」
カップル日記……?
……。
そういえば、レストランで、記憶を失ったセナ王女とカラルリさんが交際したんだっけ!?
私は慌ててカップル日記を開いた。
『カラルリとは遠い前世も恋人だった。
またこうやって恋人になれたのはとても嬉しい』
『カラルリと初Fメモリイ♡』
これは浮気に入るのか入らないのか。
そもそも、自分を流産させた男と、また交際して同じこと繰り返すなんて……。記憶がなかったから仕方ないかもだけど。
『セナさんとは運命の絆で結ばれている。
この気持ちは一生変わらない。
セナさんを一生大切にする』
カラルリさん……。何だかもう言葉に出来ない……。
「投稿消される前に証拠撮っておこうぜ」
落ち武者さんはナミネの携帯画面を撮った。
「記憶を失ったせいで、セナ王女たち、三角関係になりましたな」
「一言で言うとアホだな」
そもそも、カナエさんが、あんなことしなければ……。
「ねえ、あれって、カナエさんが歴史変えたんだよね?どうしてカナエさんはあんなことしたのかな」
そうだ、カナエさんが余計なことしたせいで、私の人生潰れるところだったんだ。絶対みんなで話し合わないといけないと思う。
「男尽くしカナエは、もうずっと昔から姉さんのこと嫌ってたんだよ。友達なフリして、いつも見下す姉さんのこと恨んでたんだよ」
「でも、みんなの記憶は元に戻りましたし、歴史変えたの意味あったんでしょうか」
「男尽くしカナエのカップル日記見てみろ」
私なナミネはカナエさんとアルフォンス王子のカップル日記にアクセスした。
『この1週間とても幸せでした。
キクリ家でアルフォンス王子様と馬に乗ったり、図書館デートしたり、オシャレなカフェに行きました。
遊園地の観覧車の中でカナエはアルフォンス王子様からプロポーズされました。
アルフォンス王子様と幸せな家庭を築くのです』
凄い高そうな婚約指輪を投稿している。
「歴史を変えたことで、みんなの記憶を消して、平凡アルフォンスの頭の中を、遠い前世の男尽くしカナエへの強い想いだけにして、自分だけ幸せになる魂胆なんだよ」
けれど、みんなの記憶が戻れば、意味がないのではないだろうか。私にはカナエさんの魂胆が分からなかった。
「カナエさんは、2番目の番人だった時は特別な人でしたし、みんなの記憶が抜けている間何か力を使ったかもしれませんね。王室の別荘も元に戻っていますし、王室も復旧しました。アルフォンス王子からのプロポーズも得られましたし、1番得しましたよね」
「ああ見えてずる賢い女だったんだな。まさか、セイの野郎が姉さんに気持ち向いてから姉さんのこと恨んでたとは思いもしなかったね。姉さんも地味に損してるしさ」
セレナールさんも損……?私はセレナールさんのカップル日記を見てみた。
えっ、セイさんと……カップル日記!?
『何だか急に懐かしくなっちゃってセイとカフェデートした』
『セレナールと交際することになった。
セレナールとは遠い前世で結婚もしてるし、現世でも幸せになれると思う。セレナール、僕が幸せにするよ』
『早いし気持ち定まってないけどセイと初Fメモリイꯁꯧ』
『セレナールのはじめてゲット!天にも登る思い』
〈セレナールさんが退会しました〉
ん?どういうことだろう。
それにしても、流石に同情してしまう。カナエさんとセイさんが縁がなかったという話なだけだっただろうに。
「ほら、男尽くしカナエと平凡アルフォンスのカップル日記のコメント見てみろよ。かなり荒れてるぜ」
私とナミネは2人のコメント欄を見た。
『セナ:どうしてくれるのよ!カナエのせいで、私、カラルリと浮気してしまったじゃない!私の1週間返してよ!』
『セレナール:カナエ、あんまりだわ!セイに初を捧げてしまうだなんて!絶対にカナエを許さないわ!』
『セナ:カナエ、こんなことして自分だけ幸せになれるはずがないわ』
『セレナール:この馬鹿カナエ!ブスだから、やることも卑怯なのね』
『セレナール:不細工カナエ』
『セレナール:ピル飲みカナエ』
『セレナール:カナエの幸せタイム(写真)』
はあ、見ているだけで疲れる。自業自得な面もあると思うのは私だけだろうか。
私はさっき撮ったナミネのツーショットと共にカップル日記を書いた。
『記憶を失った空白の1週間。
とても長く感じた。
ナミネと交際する前に時間が巻き戻っていて何度も泣いた。
現実でなくて良かった。
本当に良かった。
どこにも行かないで、ナミネ』
もう、あのような思いはしたくない。グループ付き合いも考えものだな。
『森の湖から1週間が過ぎました。
記憶が抜けている間、私はヨルクさんを失いかけました。
本当に失っていたら私の現世はロクなものになっていなかったでしょう。
こうやって朝食を一緒に取れるのは奇跡なことを改めて思い知りました』
私がサンドイッチを食べているところが投稿されていた。
ナミネ……。ナミネも辛かったんだね。
あの1週間を思うと何度でも涙が出てくる。
「あの、セレナールさんやセナ王女が妊娠したことはなかったことになったのでしょうか?」
「そんなことないけど?ただ、元々あった記憶に、あの1週間が上書きされただけ。当人らは2つの記憶に縛られることになるだろうね?」
セレナールさんとセナ王女は二度も初を失ったのか。空白の1週間に関してはセレナールさんのは殆どイジワルじゃないか。カナエさん、どうしてなんだ。復讐をしたつもりなのか?
森の湖に行った意味などあったのだろうか。
「そういえば、ナミネ、また映画撮影したの?」
あの後、ナミネとは会わないようにしていたが、みんなはナミネがまた映画に出ると噂していたけれど、私はナミネを失ったショックで全てをシャットしてしまっていたのである。
「はい、ラハルさんから突然誘われて、興味深い内容だったので、共演しました。花夢物語といって、主役がバイオリンを弾く度に過去に戻りヒロインと会って恋に落ちるんです」
私が伏せっている間、ナミネは楽しく過ごしていたのだろうか。そう思うと、私の胸は痛んだ。ナミネにとって私は、軽い存在なのだろうか。
「そっか。DVD観るね」
私はまた涙が零れていた。
「ヨルクさん、泣かないでください。あの時は、交際のことすぐに考えられなかったんです。ヨルクさんを愛おしい理由が分からなくて時間が欲しかったんです」
だったら、そう言ってくれれば良いのに……。私とは交際出来ないだなんて言われると、ずっとそうなのかと、私は死にそうな気持ちだった。
「どうして言ってくれなかったの……。私、ナミネとは二度と交際出来ないと思って、ずっと苦しかった」
「すみません。ヨルクさんとの交際はちゃんと考えてました。でも、あの時は頭が真っ白になって逃げてしまったんです」
「何それ……酷いね。私は毎日泣いたのに、ナミネはラハルさんと楽しく映画撮影してたんだね。最低だね。しばらく1人になりたい」
私は、ダメだと分かりながらも自分の感情をナミネにぶつけてしまった。
「あんた、せっかく記憶戻って、こうやって強気なナミネと交際出来てんのに、何で拗れさせるんだよ!強気なナミネ失うぞ!」
「ヨルクさん、傍にいさせてください」
ナミネは私に抱き着いてきたが私はナミネを突き飛ばした。
「やめて!あの時も、ラルクの代用品だったんでしょ!私の気持ち利用して何が楽しいの?」
「私、ヨルクさんを利用してなんかいません!ヨルクさんのこと好きだから傍にいたんです!」
「だったら、どうして交際出来ないって言ったの?」
「抜けた記憶の中、はじめてで、恥ずかしかくて思ってもないこと言ってしまったんです!でも、その後、ヨルクさんと気まずくなり、ヨルクさんと前みたいに接することが出来なくなってしまったんです」
ダメだ。気持ちが全く整理出来ない。記憶が抜けていたとは言え、恥ずかしいだけで、交際出来ないなどと言われ、私の心はズタズタになっていた。
私は悔しくて苦しくてその場に泣き崩れた。
「もういい。たかが恥ずかしいで、交際出来ないと私を陥れたことは、どうしても許せない。ナミネにハメられてやり切れない……ナミネに利用されて苦しい……ナミネにラルクの代わりにされて不愉快……。ナミネなんか大嫌い!」
「おい、やめろ!本当に強気なナミネが他の男と交際しても良いのか?」
私の心は酷く乱れていた。
「ヨルクさん、落ち着いてください。私はヨルクさんだけです!」
「ねえ、ナミネ、本当に私だけなら私を利用していないのなら、セイさんとセレナールさんを交際させてよ」
「分かりました。ヨルクさんがそれで気が収まるならそうします」
ナミネは、呼び出しカードを取り出した。
「顔だけヨルク、あんた落ち着くまで、強気なナミネとは会うな。1人で苦しんでろ」
落ち武者さんは、ナミネをナノハナ家に連れて行った。ナミネから辱められたと思った私は、近くのビルの屋上から飛び降りた。
この私の行動がナミネの病気を酷く悪化させた。
月城総合病院で目を覚ますと、落ち武者さんがいた。
「あんた、ここまで負いつまってたなら何で言わなかった!強気なナミネは、あんたの信用と愛情を失ったと思い込んで、いきなりカナミのクラス行くなり、カナミの制服脱がせて、カナミをひたすら殴り病院送りにした。カナミはショックのあまり、パニック障害になった。平凡アルフォンスは男尽くしカナエの前で儀式起こした。カナミの件は男尽くしカナエが原因作ったから、ナノハナ家に慰謝料を請求出来ず、平凡アルフォンスの件は、皇帝陛下が不問にした」
そんな。私が不安定になっている、その向こう側でナミネはもっと不安定になっていただなんて。私は取り返しのつかないことをナミネにさせてしまった責任を今になって痛感した。今すぐナミネと会って話がしたい。ナミネ、本当にごめんね。
「ナミネは、ナミネはどこにいるの?」
「さあな。ここまで追い込ませたんだから、悪いけど、あんたら別れさせる」
「待って!もう二度とナミネを責めない!」
「あんた、何度もそう言って強気なナミネに責任転嫁してんだろ!今、お武家連盟会議が開かれてて、カナコはカナミは関係ないと主張したけど、ナノハナ家の母親が男尽くしカナエがしたことはキクリ家がしたことも同然と、男尽くしカナエに慰謝料1億請求した。カナコが訴えると主張したらナノハナ家の母親は皇帝陛下からの強気なナミネを不問にする書類提出してカナコはセリルに泣き付き、カナミは、強気なナミネからこっちの人生壊しておいて幸せになろうものなら、妖精村中に映像ばら撒くと脅した。カナミはヒステリー起こし、ここの閉鎖病棟に入れられた。全部あんたのせいだ。あんたが、強気なナミネに責任転嫁したから、関係ないヤツらに飛び火したんだよ!」
落ち武者さんは、私とナミネを別れさせるつもりだ。どうしたら、ナミネと別れられずに済む。ちゃんと、ナミネと話し合えば良かった。どうしてそれが出来なかったのだろう。
私は後悔してもし切れず大泣きをした。
その時、ナミネからメールが来た。
『ヨルクさんの愛情得られないなら、ヨルクさんに何も信じてもらえないなら生きてる意味など何もないよ。ヨルクさん、さようなら』
『待ってナミネ!私が悪かった!ナミネのしたことは私が全て責任取るし、ナミネのこと愛してる!ナミネが私のこと好きじゃないと思ってショック受けてた!ナミネ、どこにいるの?』
「落ち武者さん、ナミネが……」
私は携帯画面を落ち武者さんに見せた。
「あんたが強気なナミネと別れるなら協力する」
え……、全て私が悪いの?みんなそう思ってるの?私はまた涙を零した。
「ナミネとは絶対別れない!落ち武者さんてひねくれてるよね!何かあれば全て私が悪いの?ムカつく!痛い目あえばいいのに!」
その時、ナミネからまたメールが来た。
『ヨルクさん助けて……助けて……助けて……』
……
あとがき。
関係のない人まで巻き込まれてしまいました。
純愛偏差値 未来編 一人称版 44話
《ナミネ》
セレナールさん、ユメさん、委員長がナノハナ家の武官と共に戻った後、みんなは食事をして、テントで眠った。
5時になると、再びリュックを背負い歩きはじめた。
しかし、ラルクの歩くスピードは昨日より断然に早い。焦らないで、ラルク。ラルクがこんなだと、みんなが着いていけないよ。
私は落ち武者さんがまた具合悪くならないか心配になっていた。
早い。みんな大丈夫なのだろうか。私が心配しているそばから、アルフォンス王子が倒れた。
「ラルク、アルフォンス王子が倒れたよ!」
「放っておけ、人殺し野郎なんか!」
アルフォンス王子がセレナールさんのお腹の子を殺したのは確か。けれど、この状況で放っておくのも不味い。でも、私も手を貸す気にはなれなかった。
私が通り過ぎようとした時、カナエさんがアルフォンス王子を背負った。
カナエさんって、身体小さいのに力あるんだなあ。
「すまない、カナエ」
「カナエは、アルフォンス王子様を置き去りになどしません!カナエはアルフォンス王子様に誠心誠意尽くします!」
はあ……。恋愛って、一方のみが尽くすだけでは成り立たないんだよな。
あれ、速度また早まってる?
私はもうラルクに何も言うことはしなかった。今のラルクは、森の湖にいるセレナールさんに会いたがっている。
時を超えての想い。
遠い過去のセレナールさんに届くだろうか。
私たちは、ひたすらラルクのペースに合わせてガムシャラに歩き続けた。2時間半は歩いただろうか。現時刻は7時45分だった。そろそろ休憩しなければいけない。
その時、森の中からある光が見えた。あれが、あれが、森の湖!?
「ラルク、あれじゃない?森の湖」
「進むぞ!橋を渡れば、時空が古代になる。みんなストップウォッチを用意してください。制限時間は2時間です」
そう言うとラルクは1人走って行った。
2時間半。それを超えると、永遠に戻れなくなってしまう。みんなはストップウォッチを用意した。
橋が見えていた。あれ?橋が途切れている?と思いきや、途切れたところまで来ると、繋がった。
「皆さん、ここから古代に突入します。ストップウォッチをオンにしてください」
私はストップウォッチをオンにして橋を渡った。
ここが……森の湖……?
森の湖には、たくさんの女の子妖精が水浴びをしていた。
遥か昔のこの時代。一部の者が妖精だった。学校に行く日も少なく、卒業後、働かなくても生きていくことが出来て、空き家がいっぱいあったため、カップルは空いている家で同棲していたらしい。
男性は立ち入り禁止だが、そんなルールを守る男性などいなかった。寧ろ、この森の湖で出会って交際するカップルが多かったと聞いている。
それにしてもこの場所……。
私はチラッとヨルクさんを見た。そして、徐々にヨルクさんに近付き……。
「ナミネ、やめて!どうしてこんなことするの!何故私のみを攻撃し傷付け貶める」
「付きまとう罪は奈落の底」
「ぶざけないで!煉獄女官見習いは見てないって言ってるでしょ!」
複雑な気持ちになった私は徐々にヨルクさんから離れた。
「ねえ、ラルク、ヨルクさんが変な感情抱いてるよ」
「仕方ないだろ!水浴びしてるんだから」
「撮影は僕がしてるから」
この時代なら、カナエさんがよく知っているはず。私はカナエさんに近付いた。
え、どうしてヨルクさんも来るの?場所が場所なだけに何だか気まずい。
「あの、カナエさん、カナエさんはセイさんと一緒にここに来てたんですか?」
「いえ、セイとは高校時代に知り合って交際し、セイはカナエと交際してからは森の湖には行ってませんでした」
え、でも、セイさん思いっきりいるよね。いるよね。いるよね。
「でも、セイさんいますよね」
「セイはカナエを裏切りました」
そうだよね。セイさんは、ある時からセレナールさんのことを気にしはじめた。
ああ、ヨルクさん、どこ見てるの。何だかイライラしてくる。
「あの、ヨルクさん、どこ見てるんですか?」
「え?普通に風景見てるけど。みんな妖精なんだね。セイさんってどの人?」
風景だなんて……妖精の間違いなんじゃないの?
「あの人です」
私は指をさした。
「え……」
やっぱり、そういう反応する。こういうヨルクさんの無知さが時折私をモヤモヤさせる。
「この時代、ここにいる妖精たちは、みんな、美少女妖精、美男子妖精と呼ばれていたんです。現代の美的感覚とは全く違うんです。どれだけ女ウケしない男も美少女妖精と簡単に交際することが出来たんです」
「そ、そうなんだ」
「そうです。あの頃のカナエにとって、セイは美男子妖精でした。みんな美少女、美男子だったのです。けれど、男の子は好みの女の子とすんなり交際出来るゆえ、みんなは、妖精村1番の美少女妖精と言われているセレナールに心奪われたのです。セイもその1人です」
そう、今の時代だと考えられない。カナエさんほど可愛い人と交際出来ているのに、セイさんはセレナールさんに半ば心変わりをしたのだ。
「ヨルクさん、いちいち美少女妖精たちを見ないでください」
「えっ、見てないよ。本当にこんなところあったんだってビックリしてる。水浴び終わっても服着ないの?」
もう、ガッツリ見てるじゃん。何だかやだな。
「規則です。森の湖に来る時は太ももまでの短くて薄い着物のみを着るんです」
「ナミネは、ナミネはいないよね?」
「私はいません!ヨルクさんは後ろ向いててください!」
私はヨルクさんを後ろ向けるなりラルクの元に駆け寄った。
あ、いつかのセレナールさんがいる!セレナールさんも妖精だったんだなあ。20歳前後だろうか。今より少し大人っぽい。けれど、とても綺麗。
「ラルク、セレナールさんいるよ!」
「ああ、今話しかける」
ラルクはセレナールさんの元に走った。私もラルクを追いかけた。ラルク、セレナールさんに会えて良かったね。これがきっかけに、今の現世のセレナールさんのこと、ちゃんと好きになれるといいよね。
え、どうしてヨルクさん、着いてくるの?
「ヨルクさん、着いてこないでください!そんなに妖精の水浴び見たいんですか?」
本当苛立つ。ヨルクさんって、イケメンだからって何しても許されると思ってるんじゃないの?
「ナミネの傍にいたいから」
「セレナール先輩!」
ラルクはいつかのセレナールさんに話しかけた。セレナールさんは薄手の着物を着て突っ立っていた。水浴びはしないのだろうか?
「誰?」
「未来から来ました!あなたの交際相手です」
「ごめんなさい、私好きな人がいるの」
「セレナール先輩、よく聞いてください。あなたは約4年後、死にます。僕のせいで!○年○月○日は絶対外には出ないでください!」
どうか、ラルクの言うことを聞いて。
って、彼女持ちの男の子妖精がセレナールさんのこと見てる?てか、近付いてるよね。
「よく分からないけど分かったわ」
「あ、セレナールさんて身長高いんですね」
え、どうしてヨルクさんが昔のセレナールさんに話しかけるの?
「そうかしら。あなた見ない顔ね。この辺の人?家はどこにあるの?この後、食事しない?」
えええええ!この頃のセレナールさんって、皇太子様のこと好きなんじゃ……。てか、彼氏持ちの女の子妖精がヨルクさんの周りに集まってる!?
「あ、私ここから出るとセレナールさんとは会えないんです」
「彼女いるの?」
「はい、ナミネと交際してます」
ヨルクさんは私の肩を抱いた。
「なーんだ、彼女持ちか」
「でも、別れ待ちもありじゃない?」
「私あの人と交際したいわ」
「住所聞こうかしら」
(省略)
もう、ヨルクさんが来るとややこしいことになるじゃない。
「姉さん……」
あ、そっか、一応時を超えて落ち武者さんの姉か。
「え?私に弟はいないわ」
「母さんが流産して、この時代の姉さんは僕に出会えなかったんだよ」
そうだったんだ。落ち武者さん、生まれてこなかったんだ。
「カナエからも伝言です。この時代のセレナールは、皇太子様と交際後、皇太子様の見ているビデオに苛立ち、仲違いします。そして、お兄様を好きになるんです」
「カナエ、セイのことはごめんなさい。必ずセイを説得してみせるわ!」
「カナエは今、アルフォンス王子様と交際しています!セイとは別れました!もうセイのことは、これっぽっちも好きではありません!」
「え……その人と……?何だかカナエらしくないわ。カナエは高貴な人より、セイのほうが似合ってる」
セレナールさん、純粋に見えて、この頃から周りの女の子見下してたんだ。人って分からない。
「カナエは、アルフォンス王子様から愛されています!今とても幸せです!セイのことはセレナールに譲ります!」
「うーん、やっぱり似合わないわね」
「セレナール先輩……生きてください!!」
ラルクは昔のセレナールさんを抱き締めた。
ラルク、セレナールさん生き延びるといいよね。でも、多分歴史は変えられない。
「あら、よく見ると可愛いわね。小学生かしら?」
「中学1年生です」
ヨルクさんは身長高いのに、ラルクって高校2年生辺りからしか身長伸びないんだよね。伸びても他の男に比べたら低いほうだし。
「どうして泣いてるのかしら?」
「セレナール先輩が死ぬからです」
「私は死なないわ」
ラルクは1枚の写真を見せた。
「あら、あの人と私かしら?」
ヨルクさんにしても、何故、綺麗な人やイケメンは鈍いのだろう。それミナクさんだよ。
「昔の高校時代の僕です」
「そうなの。兄弟かしら?」
「はい。あなたは教師になります。そこで僕と知り合います」
「ふふっ、私が教師?想像出来ないわ」
そうなんだよね。現世にしても、この頃にしても、セレナールさんが持っているのは綺麗な容姿だけ。
その時、カナエさんがセイさんを連れて来た。
「セレナール、少し抱き締めさせてくれたら、もうここには来ないしカナエだけを見る」
ここで来たか、あの時のセリフ。
「ほ、本当!?」
「ああ、本当だ。必ず約束する」
その時、カナエさんが扇子でセイさん以外を吹き飛ばした。え、カナエさん怒ってる?どうして?
ダメだ。落ち武者さんが着地出来ない。私は空中で落ち武者さんを抱き締めた。
「や、やめて!」
「ご、ごめん、当たっちゃった」
このままじゃ、歴史が変わっちゃう!
「ラルク!」
「ナミネも早く着地しろ!」
「分かったよ」
私は落ち武者さんを抱きかかえ着地して、落ち武者さんを離すとセレナールさんの元に走った。
「きゃっ!」
「ごめん、手が滑っちゃった」
セイさんって、こんな人だったの。本当信じられない。
「い、いや!!それだけは許して!!私、好きな人がいるの!!」
どうにか間に合って!
「セレナール、好きだ!」
「いやーーー!!!」
私とラルクはセイさんを扇子で吹き飛ばした。
不安だ。今少し歴史変わったんじゃ……。
「ラルク、歴史変わってないよね?」
「分からない。でも、皇太子様と交際は可能だとは思う」
カナエさん、歴史を変えようとしていたの?何のために?
セレナールさん、酷くショック受けてる。
「セレナールさん、何があったんですか?」
「な、何もないわ」
でも、地面に血が……。
その時、キクスケさんが現れた。
「先程のことで、歴史が変わってしまいました。セレナールさんは皇太子様とは交際出来なくなり、セイさんの子供を妊娠します」
そんな……どうしたらいいの?私たちどうなるの?
「あの、私たちの今の人生にも何か影響はあるのでしょうか?」
「この時のセレナールさんと関わった全ての人の記憶が変わってしまいます。セレナールさんは妊娠が分かり次第、皇太子様のことは諦め、セイさんと結婚します。皇太子様はエミリさんと婚約し、セレナールさんとカナエさんは険悪の仲になり、紀元前村でのこともカラクリ家でのこともセレナールさんだけいなくなります。また、セレナールさんとラルクさんが出会うこともなくなるでしょう」
あんまりだ。あんまりだよ。ラルクの中からセレナールさんの記憶がなくなっちゃう。というか、カナエさんとアルフォンス王子も出会った事実なくなっちゃうんじゃないの?
「どうしたら、どうしたら歴史を元に戻せますか?」
「今すぐ戻すことは出来ません。早くて1週間かかります。それまでは、現世でセレナールさんと出会ってからのあなた方の記憶はなくなります。復旧までお待ちくださいませ。では、これにて失礼」
そう言うとキクスケさんは番人部屋に戻って行った。
とりあえず、歴史は変わらずに済みそうだけど、ここにいるみんなの記憶なくなっちゃうのか。
「セレナール先輩……いえ、セレナール先生、一生あなたを愛し続けます。どうか無事でいてください」
ラルクが昔のセレナールさんに別れを告げると、私たちは森の湖を出た。
行きと違って帰りは別の道を通る。カナエさんとセイさんの住んでいた家を見るためだ。けれど……私の記憶、どんどん薄らいでいる。怖い。でも今は歩かないと。
30分ほど歩くと、かなり古い民家が見えて来た。人は住んでいなさそうだ。みんな、ここから森の湖に通っていたのだろうか。
「あの、汗もかきましたし、カナエさんのセイさんの家に行く前に、近くの民家で服を着替えませんか?」
「そうね」
「じゃあ、着替えるか」
みんなは男女別に登山服から普通着に着替えた。もう山を登ることはないから、私服で大丈夫だろう。
着替え終わると私たちは民家の外に出た。
向こうから真っ白なワンピースを着た人が歩いてくる。高校生くらいだろうか。綺麗な人。
「セレナール」
カナエさんの知り合いだろうか?
「カナエ」
「どうしてここにいるのですか?」
「何だか懐かしくなっちゃって来ちゃった」
「そうですか。立ち話も何ですから、そこのレストランに入りましょう」
レストラン……。誰もいなさそうな町に、レストランなんてあるんだ。外観からして、かなりレトロ。
私たちはレストランに入った。そして、私たちはセレナールさんと会ってからの記憶を全て失った。
とりあえずメニューをっと。
「セレナール、昔話ですが、セイと結婚した後はどうでしたか?」
「最初は気乗りしなかったけど、いざ結婚してみると、とっても優しくて幸せな結婚生活だったわ」
「それは良かったです。カナエは今、アルフォンス王子様と交際しています」
「えっ、とても意外。カナエにはセイが似合ってると思ってたわ」
うーん、何のやり取りかさっぱり分からない。てか、ラルクずっとセレナールさんのこと見てるような……。何だかいやな予感がする。
「セレナール先輩、連絡先教えてもらえませんか?」
えええええ!初対面でいきなりアタック!?まさか一目惚れ?ラルクを見ると、とても幸せそうな顔。私は胸が痛んだ。
「いいわよ、小学生かしら?」
「中学1年生です」
ラルクって、面食いだったんだ。こんな綺麗な人、とっくに彼氏いるだろうに。
「ねえ、とりあえず何故か分からないけど居合わせたわけだし自己紹介しない?」
セナ王女だっけ。確か、今年の4月に転校してきたんだよね。
「あ、はい。私はナノハナ家の4女 ナミネと申します。中学1年生です」
「僕は、クレナイ家 三男 ラルクです」
「僕はセルファ」
見たことないなあ。誰だろう。
「私はエルナよ」
綺麗な金髪。
「私は第6王女のセナよ」
王室の人だけあって気品あるなあ。
「ミナク」
ミナクさん、いつ黒髪にしたんだろう。
「キクリ家 4女 カナエです。アルフォンス王子様と交際中です」
いつの間に交際したんだろう。
「第5王子 アルフォンスだ」
何か普通の人。
「第7王子のカランです」
高校生かな。可愛い系の人だなあ。
「キクリ家 長男 カラルリだ」
変わんないなあ。
「クレナイ家 次男 ヨルクです」
えっ、どうしてヨルクさんがここにいるの!?
気まずい。でも、カッコイイ。
私はぼんやりヨルクさんを眺めた。
「てか、あんたら何にも覚えてないわけ?」
だ、誰だっけ……。
「は、はい、お代官様」
「あんた、全然変わんねえな」
え、私のこと知ってるの?でも、私は全然知らないや。
みんな注文しはじめた。えっと、どれにしよう。
「ナミネ、オムライスにしよう」
えっ、どうして勝手に決めるの。恋人でもないのに。でも、断ると厄介だし……。
「は、はい」
ダメだ……。私、どうしてここにいるのか全然分からない。そもそも何をしに来たのだろう。
「ねえ、ラルク、私たちどうしてここにいるのかな?」
「さあな。でも、そんなことどうだっていいだろ。セレナール先輩って趣味とかあります?」
もう、ラルクったらセレナールさんにデレデレしちゃって。ラルクがこんなにも面食いだとは思わなかった。私は機嫌を損ねてしまった。
「趣味かあ。今のところはないわ」
「セレナールはまたセイと交際するのですか?」
「この前、告白されたけど、今は好きな人がいるの」
えっ、誰だろう。もしかして、両想いかな。ラルク、残念だったね。その時、料理が運ばれてきた。
私は無意識に写真に撮った。あれ……待ち受け……。ど、どうしてヨルクさんとのツーショットになってるの!?これ結婚式の時の写真だよね。しかも、物凄く古いし。
「あんたらさ、記憶ないなら、携帯のカップル日記見てみたら?」
カップル日記?何だろう。私は何故かダウンロードしてあるカップル日記を開いた。えっ、私とヨルクさんが交際!?いったいどういうことなの!?それだけじゃない。ラルクとセレナールさんが交際してる!!私はかなりショックを受けた。
ダメだ。ここにいられない。少し外の風に当たろう。
私がレストランの外に出るとヨルクさんが来た。えっ、どうして来るの?
「ナミネ、全く覚えていないんだけど、カップル日記いやだった?」
ど、どうしてそんなこと聞くの?そっとしといてよ。
「えっと、いやというか、私、他に好きな人いるんです」
「そっか、分かった」
え、どうして泣くの?私は慌てて袖でヨルクさんの涙を拭いた。
「ナミネの気持ちは分かったから私はレストランに戻るね。カップル日記も退会しておく」
「待ってください!あれだけ想い出が綴られているってことは、実際にみんなで行ったということでしょう?まだ消さないでください」
私、どうしてヨルクさんのこと引き止めているのだろう。でも、どうしてか、ヨルクさんに消して欲しくない。
「そっか、分かった」
「ヨルクさん、ここでツーショット撮りましょう」
私はレストランが入るようにヨルクさんとツーショットを撮ってカップル日記に投稿した。
『全く知らない町。
どうしてここにいるのかも分からない。
でも、記念の1枚』
私とヨルクさんはレストランの中に入った。
「セナさん、好きだ!私と交際して欲しい!」
えええええ!いきなりの告白!?
「カラルリ、私もカラルリが好き!」
カップル誕生……?あれっ、でも、カップル日記はセナ王女とミナクさんになってる。
もう何がなんだか分からないよ。
「この後、カナエとセイが住んでいた家に行くのですが、セレナールも行きますか?」
「ええ、是非行くわ!」
私はヨルクさんが分けてくれたオムライスを食べた。
「ナミネ、ケチャップ付いてる」
ヨルクさんはハンカチで私のケチャップを拭いた。
「す、すみません」
小さい頃は、よくヨルクさんとも遊んだけど、ミドリお姉様のことがあってからは、あまりクレナイ家に行ってなかったから気まずい。
レストランを出ると私たちは、カナエさんとセイさんが住んでいた家に向かいはじめた。
……
あとがき。
セレナールと会う前の記憶に戻っているってことは、ナミネとヨルクは交際してないことになるんだよね。何だかヨルクが可哀想。
そして、酷い形で別れたセナとカラルリが両想いだった頃に戻っている。
ラルクはセレナールにメロメロだし。
みんなの記憶戻ったらどうなるのだろう。
《ナミネ》
セレナールさん、ユメさん、委員長がナノハナ家の武官と共に戻った後、みんなは食事をして、テントで眠った。
5時になると、再びリュックを背負い歩きはじめた。
しかし、ラルクの歩くスピードは昨日より断然に早い。焦らないで、ラルク。ラルクがこんなだと、みんなが着いていけないよ。
私は落ち武者さんがまた具合悪くならないか心配になっていた。
早い。みんな大丈夫なのだろうか。私が心配しているそばから、アルフォンス王子が倒れた。
「ラルク、アルフォンス王子が倒れたよ!」
「放っておけ、人殺し野郎なんか!」
アルフォンス王子がセレナールさんのお腹の子を殺したのは確か。けれど、この状況で放っておくのも不味い。でも、私も手を貸す気にはなれなかった。
私が通り過ぎようとした時、カナエさんがアルフォンス王子を背負った。
カナエさんって、身体小さいのに力あるんだなあ。
「すまない、カナエ」
「カナエは、アルフォンス王子様を置き去りになどしません!カナエはアルフォンス王子様に誠心誠意尽くします!」
はあ……。恋愛って、一方のみが尽くすだけでは成り立たないんだよな。
あれ、速度また早まってる?
私はもうラルクに何も言うことはしなかった。今のラルクは、森の湖にいるセレナールさんに会いたがっている。
時を超えての想い。
遠い過去のセレナールさんに届くだろうか。
私たちは、ひたすらラルクのペースに合わせてガムシャラに歩き続けた。2時間半は歩いただろうか。現時刻は7時45分だった。そろそろ休憩しなければいけない。
その時、森の中からある光が見えた。あれが、あれが、森の湖!?
「ラルク、あれじゃない?森の湖」
「進むぞ!橋を渡れば、時空が古代になる。みんなストップウォッチを用意してください。制限時間は2時間です」
そう言うとラルクは1人走って行った。
2時間半。それを超えると、永遠に戻れなくなってしまう。みんなはストップウォッチを用意した。
橋が見えていた。あれ?橋が途切れている?と思いきや、途切れたところまで来ると、繋がった。
「皆さん、ここから古代に突入します。ストップウォッチをオンにしてください」
私はストップウォッチをオンにして橋を渡った。
ここが……森の湖……?
森の湖には、たくさんの女の子妖精が水浴びをしていた。
遥か昔のこの時代。一部の者が妖精だった。学校に行く日も少なく、卒業後、働かなくても生きていくことが出来て、空き家がいっぱいあったため、カップルは空いている家で同棲していたらしい。
男性は立ち入り禁止だが、そんなルールを守る男性などいなかった。寧ろ、この森の湖で出会って交際するカップルが多かったと聞いている。
それにしてもこの場所……。
私はチラッとヨルクさんを見た。そして、徐々にヨルクさんに近付き……。
「ナミネ、やめて!どうしてこんなことするの!何故私のみを攻撃し傷付け貶める」
「付きまとう罪は奈落の底」
「ぶざけないで!煉獄女官見習いは見てないって言ってるでしょ!」
複雑な気持ちになった私は徐々にヨルクさんから離れた。
「ねえ、ラルク、ヨルクさんが変な感情抱いてるよ」
「仕方ないだろ!水浴びしてるんだから」
「撮影は僕がしてるから」
この時代なら、カナエさんがよく知っているはず。私はカナエさんに近付いた。
え、どうしてヨルクさんも来るの?場所が場所なだけに何だか気まずい。
「あの、カナエさん、カナエさんはセイさんと一緒にここに来てたんですか?」
「いえ、セイとは高校時代に知り合って交際し、セイはカナエと交際してからは森の湖には行ってませんでした」
え、でも、セイさん思いっきりいるよね。いるよね。いるよね。
「でも、セイさんいますよね」
「セイはカナエを裏切りました」
そうだよね。セイさんは、ある時からセレナールさんのことを気にしはじめた。
ああ、ヨルクさん、どこ見てるの。何だかイライラしてくる。
「あの、ヨルクさん、どこ見てるんですか?」
「え?普通に風景見てるけど。みんな妖精なんだね。セイさんってどの人?」
風景だなんて……妖精の間違いなんじゃないの?
「あの人です」
私は指をさした。
「え……」
やっぱり、そういう反応する。こういうヨルクさんの無知さが時折私をモヤモヤさせる。
「この時代、ここにいる妖精たちは、みんな、美少女妖精、美男子妖精と呼ばれていたんです。現代の美的感覚とは全く違うんです。どれだけ女ウケしない男も美少女妖精と簡単に交際することが出来たんです」
「そ、そうなんだ」
「そうです。あの頃のカナエにとって、セイは美男子妖精でした。みんな美少女、美男子だったのです。けれど、男の子は好みの女の子とすんなり交際出来るゆえ、みんなは、妖精村1番の美少女妖精と言われているセレナールに心奪われたのです。セイもその1人です」
そう、今の時代だと考えられない。カナエさんほど可愛い人と交際出来ているのに、セイさんはセレナールさんに半ば心変わりをしたのだ。
「ヨルクさん、いちいち美少女妖精たちを見ないでください」
「えっ、見てないよ。本当にこんなところあったんだってビックリしてる。水浴び終わっても服着ないの?」
もう、ガッツリ見てるじゃん。何だかやだな。
「規則です。森の湖に来る時は太ももまでの短くて薄い着物のみを着るんです」
「ナミネは、ナミネはいないよね?」
「私はいません!ヨルクさんは後ろ向いててください!」
私はヨルクさんを後ろ向けるなりラルクの元に駆け寄った。
あ、いつかのセレナールさんがいる!セレナールさんも妖精だったんだなあ。20歳前後だろうか。今より少し大人っぽい。けれど、とても綺麗。
「ラルク、セレナールさんいるよ!」
「ああ、今話しかける」
ラルクはセレナールさんの元に走った。私もラルクを追いかけた。ラルク、セレナールさんに会えて良かったね。これがきっかけに、今の現世のセレナールさんのこと、ちゃんと好きになれるといいよね。
え、どうしてヨルクさん、着いてくるの?
「ヨルクさん、着いてこないでください!そんなに妖精の水浴び見たいんですか?」
本当苛立つ。ヨルクさんって、イケメンだからって何しても許されると思ってるんじゃないの?
「ナミネの傍にいたいから」
「セレナール先輩!」
ラルクはいつかのセレナールさんに話しかけた。セレナールさんは薄手の着物を着て突っ立っていた。水浴びはしないのだろうか?
「誰?」
「未来から来ました!あなたの交際相手です」
「ごめんなさい、私好きな人がいるの」
「セレナール先輩、よく聞いてください。あなたは約4年後、死にます。僕のせいで!○年○月○日は絶対外には出ないでください!」
どうか、ラルクの言うことを聞いて。
って、彼女持ちの男の子妖精がセレナールさんのこと見てる?てか、近付いてるよね。
「よく分からないけど分かったわ」
「あ、セレナールさんて身長高いんですね」
え、どうしてヨルクさんが昔のセレナールさんに話しかけるの?
「そうかしら。あなた見ない顔ね。この辺の人?家はどこにあるの?この後、食事しない?」
えええええ!この頃のセレナールさんって、皇太子様のこと好きなんじゃ……。てか、彼氏持ちの女の子妖精がヨルクさんの周りに集まってる!?
「あ、私ここから出るとセレナールさんとは会えないんです」
「彼女いるの?」
「はい、ナミネと交際してます」
ヨルクさんは私の肩を抱いた。
「なーんだ、彼女持ちか」
「でも、別れ待ちもありじゃない?」
「私あの人と交際したいわ」
「住所聞こうかしら」
(省略)
もう、ヨルクさんが来るとややこしいことになるじゃない。
「姉さん……」
あ、そっか、一応時を超えて落ち武者さんの姉か。
「え?私に弟はいないわ」
「母さんが流産して、この時代の姉さんは僕に出会えなかったんだよ」
そうだったんだ。落ち武者さん、生まれてこなかったんだ。
「カナエからも伝言です。この時代のセレナールは、皇太子様と交際後、皇太子様の見ているビデオに苛立ち、仲違いします。そして、お兄様を好きになるんです」
「カナエ、セイのことはごめんなさい。必ずセイを説得してみせるわ!」
「カナエは今、アルフォンス王子様と交際しています!セイとは別れました!もうセイのことは、これっぽっちも好きではありません!」
「え……その人と……?何だかカナエらしくないわ。カナエは高貴な人より、セイのほうが似合ってる」
セレナールさん、純粋に見えて、この頃から周りの女の子見下してたんだ。人って分からない。
「カナエは、アルフォンス王子様から愛されています!今とても幸せです!セイのことはセレナールに譲ります!」
「うーん、やっぱり似合わないわね」
「セレナール先輩……生きてください!!」
ラルクは昔のセレナールさんを抱き締めた。
ラルク、セレナールさん生き延びるといいよね。でも、多分歴史は変えられない。
「あら、よく見ると可愛いわね。小学生かしら?」
「中学1年生です」
ヨルクさんは身長高いのに、ラルクって高校2年生辺りからしか身長伸びないんだよね。伸びても他の男に比べたら低いほうだし。
「どうして泣いてるのかしら?」
「セレナール先輩が死ぬからです」
「私は死なないわ」
ラルクは1枚の写真を見せた。
「あら、あの人と私かしら?」
ヨルクさんにしても、何故、綺麗な人やイケメンは鈍いのだろう。それミナクさんだよ。
「昔の高校時代の僕です」
「そうなの。兄弟かしら?」
「はい。あなたは教師になります。そこで僕と知り合います」
「ふふっ、私が教師?想像出来ないわ」
そうなんだよね。現世にしても、この頃にしても、セレナールさんが持っているのは綺麗な容姿だけ。
その時、カナエさんがセイさんを連れて来た。
「セレナール、少し抱き締めさせてくれたら、もうここには来ないしカナエだけを見る」
ここで来たか、あの時のセリフ。
「ほ、本当!?」
「ああ、本当だ。必ず約束する」
その時、カナエさんが扇子でセイさん以外を吹き飛ばした。え、カナエさん怒ってる?どうして?
ダメだ。落ち武者さんが着地出来ない。私は空中で落ち武者さんを抱き締めた。
「や、やめて!」
「ご、ごめん、当たっちゃった」
このままじゃ、歴史が変わっちゃう!
「ラルク!」
「ナミネも早く着地しろ!」
「分かったよ」
私は落ち武者さんを抱きかかえ着地して、落ち武者さんを離すとセレナールさんの元に走った。
「きゃっ!」
「ごめん、手が滑っちゃった」
セイさんって、こんな人だったの。本当信じられない。
「い、いや!!それだけは許して!!私、好きな人がいるの!!」
どうにか間に合って!
「セレナール、好きだ!」
「いやーーー!!!」
私とラルクはセイさんを扇子で吹き飛ばした。
不安だ。今少し歴史変わったんじゃ……。
「ラルク、歴史変わってないよね?」
「分からない。でも、皇太子様と交際は可能だとは思う」
カナエさん、歴史を変えようとしていたの?何のために?
セレナールさん、酷くショック受けてる。
「セレナールさん、何があったんですか?」
「な、何もないわ」
でも、地面に血が……。
その時、キクスケさんが現れた。
「先程のことで、歴史が変わってしまいました。セレナールさんは皇太子様とは交際出来なくなり、セイさんの子供を妊娠します」
そんな……どうしたらいいの?私たちどうなるの?
「あの、私たちの今の人生にも何か影響はあるのでしょうか?」
「この時のセレナールさんと関わった全ての人の記憶が変わってしまいます。セレナールさんは妊娠が分かり次第、皇太子様のことは諦め、セイさんと結婚します。皇太子様はエミリさんと婚約し、セレナールさんとカナエさんは険悪の仲になり、紀元前村でのこともカラクリ家でのこともセレナールさんだけいなくなります。また、セレナールさんとラルクさんが出会うこともなくなるでしょう」
あんまりだ。あんまりだよ。ラルクの中からセレナールさんの記憶がなくなっちゃう。というか、カナエさんとアルフォンス王子も出会った事実なくなっちゃうんじゃないの?
「どうしたら、どうしたら歴史を元に戻せますか?」
「今すぐ戻すことは出来ません。早くて1週間かかります。それまでは、現世でセレナールさんと出会ってからのあなた方の記憶はなくなります。復旧までお待ちくださいませ。では、これにて失礼」
そう言うとキクスケさんは番人部屋に戻って行った。
とりあえず、歴史は変わらずに済みそうだけど、ここにいるみんなの記憶なくなっちゃうのか。
「セレナール先輩……いえ、セレナール先生、一生あなたを愛し続けます。どうか無事でいてください」
ラルクが昔のセレナールさんに別れを告げると、私たちは森の湖を出た。
行きと違って帰りは別の道を通る。カナエさんとセイさんの住んでいた家を見るためだ。けれど……私の記憶、どんどん薄らいでいる。怖い。でも今は歩かないと。
30分ほど歩くと、かなり古い民家が見えて来た。人は住んでいなさそうだ。みんな、ここから森の湖に通っていたのだろうか。
「あの、汗もかきましたし、カナエさんのセイさんの家に行く前に、近くの民家で服を着替えませんか?」
「そうね」
「じゃあ、着替えるか」
みんなは男女別に登山服から普通着に着替えた。もう山を登ることはないから、私服で大丈夫だろう。
着替え終わると私たちは民家の外に出た。
向こうから真っ白なワンピースを着た人が歩いてくる。高校生くらいだろうか。綺麗な人。
「セレナール」
カナエさんの知り合いだろうか?
「カナエ」
「どうしてここにいるのですか?」
「何だか懐かしくなっちゃって来ちゃった」
「そうですか。立ち話も何ですから、そこのレストランに入りましょう」
レストラン……。誰もいなさそうな町に、レストランなんてあるんだ。外観からして、かなりレトロ。
私たちはレストランに入った。そして、私たちはセレナールさんと会ってからの記憶を全て失った。
とりあえずメニューをっと。
「セレナール、昔話ですが、セイと結婚した後はどうでしたか?」
「最初は気乗りしなかったけど、いざ結婚してみると、とっても優しくて幸せな結婚生活だったわ」
「それは良かったです。カナエは今、アルフォンス王子様と交際しています」
「えっ、とても意外。カナエにはセイが似合ってると思ってたわ」
うーん、何のやり取りかさっぱり分からない。てか、ラルクずっとセレナールさんのこと見てるような……。何だかいやな予感がする。
「セレナール先輩、連絡先教えてもらえませんか?」
えええええ!初対面でいきなりアタック!?まさか一目惚れ?ラルクを見ると、とても幸せそうな顔。私は胸が痛んだ。
「いいわよ、小学生かしら?」
「中学1年生です」
ラルクって、面食いだったんだ。こんな綺麗な人、とっくに彼氏いるだろうに。
「ねえ、とりあえず何故か分からないけど居合わせたわけだし自己紹介しない?」
セナ王女だっけ。確か、今年の4月に転校してきたんだよね。
「あ、はい。私はナノハナ家の4女 ナミネと申します。中学1年生です」
「僕は、クレナイ家 三男 ラルクです」
「僕はセルファ」
見たことないなあ。誰だろう。
「私はエルナよ」
綺麗な金髪。
「私は第6王女のセナよ」
王室の人だけあって気品あるなあ。
「ミナク」
ミナクさん、いつ黒髪にしたんだろう。
「キクリ家 4女 カナエです。アルフォンス王子様と交際中です」
いつの間に交際したんだろう。
「第5王子 アルフォンスだ」
何か普通の人。
「第7王子のカランです」
高校生かな。可愛い系の人だなあ。
「キクリ家 長男 カラルリだ」
変わんないなあ。
「クレナイ家 次男 ヨルクです」
えっ、どうしてヨルクさんがここにいるの!?
気まずい。でも、カッコイイ。
私はぼんやりヨルクさんを眺めた。
「てか、あんたら何にも覚えてないわけ?」
だ、誰だっけ……。
「は、はい、お代官様」
「あんた、全然変わんねえな」
え、私のこと知ってるの?でも、私は全然知らないや。
みんな注文しはじめた。えっと、どれにしよう。
「ナミネ、オムライスにしよう」
えっ、どうして勝手に決めるの。恋人でもないのに。でも、断ると厄介だし……。
「は、はい」
ダメだ……。私、どうしてここにいるのか全然分からない。そもそも何をしに来たのだろう。
「ねえ、ラルク、私たちどうしてここにいるのかな?」
「さあな。でも、そんなことどうだっていいだろ。セレナール先輩って趣味とかあります?」
もう、ラルクったらセレナールさんにデレデレしちゃって。ラルクがこんなにも面食いだとは思わなかった。私は機嫌を損ねてしまった。
「趣味かあ。今のところはないわ」
「セレナールはまたセイと交際するのですか?」
「この前、告白されたけど、今は好きな人がいるの」
えっ、誰だろう。もしかして、両想いかな。ラルク、残念だったね。その時、料理が運ばれてきた。
私は無意識に写真に撮った。あれ……待ち受け……。ど、どうしてヨルクさんとのツーショットになってるの!?これ結婚式の時の写真だよね。しかも、物凄く古いし。
「あんたらさ、記憶ないなら、携帯のカップル日記見てみたら?」
カップル日記?何だろう。私は何故かダウンロードしてあるカップル日記を開いた。えっ、私とヨルクさんが交際!?いったいどういうことなの!?それだけじゃない。ラルクとセレナールさんが交際してる!!私はかなりショックを受けた。
ダメだ。ここにいられない。少し外の風に当たろう。
私がレストランの外に出るとヨルクさんが来た。えっ、どうして来るの?
「ナミネ、全く覚えていないんだけど、カップル日記いやだった?」
ど、どうしてそんなこと聞くの?そっとしといてよ。
「えっと、いやというか、私、他に好きな人いるんです」
「そっか、分かった」
え、どうして泣くの?私は慌てて袖でヨルクさんの涙を拭いた。
「ナミネの気持ちは分かったから私はレストランに戻るね。カップル日記も退会しておく」
「待ってください!あれだけ想い出が綴られているってことは、実際にみんなで行ったということでしょう?まだ消さないでください」
私、どうしてヨルクさんのこと引き止めているのだろう。でも、どうしてか、ヨルクさんに消して欲しくない。
「そっか、分かった」
「ヨルクさん、ここでツーショット撮りましょう」
私はレストランが入るようにヨルクさんとツーショットを撮ってカップル日記に投稿した。
『全く知らない町。
どうしてここにいるのかも分からない。
でも、記念の1枚』
私とヨルクさんはレストランの中に入った。
「セナさん、好きだ!私と交際して欲しい!」
えええええ!いきなりの告白!?
「カラルリ、私もカラルリが好き!」
カップル誕生……?あれっ、でも、カップル日記はセナ王女とミナクさんになってる。
もう何がなんだか分からないよ。
「この後、カナエとセイが住んでいた家に行くのですが、セレナールも行きますか?」
「ええ、是非行くわ!」
私はヨルクさんが分けてくれたオムライスを食べた。
「ナミネ、ケチャップ付いてる」
ヨルクさんはハンカチで私のケチャップを拭いた。
「す、すみません」
小さい頃は、よくヨルクさんとも遊んだけど、ミドリお姉様のことがあってからは、あまりクレナイ家に行ってなかったから気まずい。
レストランを出ると私たちは、カナエさんとセイさんが住んでいた家に向かいはじめた。
……
あとがき。
セレナールと会う前の記憶に戻っているってことは、ナミネとヨルクは交際してないことになるんだよね。何だかヨルクが可哀想。
そして、酷い形で別れたセナとカラルリが両想いだった頃に戻っている。
ラルクはセレナールにメロメロだし。
みんなの記憶戻ったらどうなるのだろう。
純愛偏差値 未来編 一人称版 43話
《ヨルク》
森の湖に行く途中の険しい森の中で落ち武者さんは動けなくなり、セレナールさんは熱を出した。落ち武者さんはナミネが背負い、セレナールさんはカラルリさんが背負うことになったが。ラルクはずっとセレナールさんに冷たい。何故こんなにも彼女に冷たくするのだろう。
正直、こういったサバイバルは経験者以外が来ると足を引っ張ることもある。私は、落ち武者さんを背負いながら歩くナミネが心配で仕方ない。
休憩スポットから再び歩きはじめて30分ほど経っただろうか。またユメさんが息を切らしている。
「ラルク、ユメさんが息を切らしてる。歩くペース下げられないのか?」
「これだから素人は来て欲しくなかったんです。先はまだ長いです。着いて来れないなら帰るしかないでしょう」
「ラルク、何をそんなに苛立っている」
何故なのだ。あれほどにセレナールさんを軸に生きていたラルクが、セレナールさんの心配もせず、仲間のペースにも合わせないなんて。
「ラルク、みんなの体調を考慮しようよ。森の湖は逃げないよ」
「ナミネは黙って落ち武者さん背負って歩け!」
私にはラルクが何を苛立っているのか分からない。けれど、みんなで来ている以上は、もっと助け合うべきだと思う。
「ラルク!未経験者にとって、この旅は過酷なんだよ!みんな参加していいって言ったのラルクじゃん。どうして今になって体力のない人を冷たくあしらうの?」
「ハッキリ言うわ!私もセレナールやユメさんみたいに登山を知らない人間の参加は迷惑でしかないわ!夕方までにテントを張らないといけないのに、それが遅れて夜になったら、みんなが危なくなるのよ!」
正論を正論で潰す。私はいくら体力があって場数が多いからって弱い者の悪口を叩く人は好かぬ。
アルフォンス王子がいる以上、カナエさんも、そこまで助けにはなってくれないし。
「クラフの酸素ボンベもなくなったわ。誰か助けて」
「ユメ、歩くスピード落とそう」
「苦しい……息が出来ないわ」
このままでは、ユメさんの酸欠は重症化して他の症状も現れ、そのうちユメさんも動けなくなってしまう。
「ラルク!ペース落とせ!このままではユメさんも倒れてしまう!」
「これ以上ペースは落とせません!足を引っ張る人に合わせていたら、みんなが危険に晒されます!」
ダメだ。ラルクには何を言っても通用しない。
「ユメ、あんた僕の酸素ボンベ使え!」
落ち武者さんはナミネが腕にかけたリュックから酸素ボンベを取り出し、ユメさんに渡した。
酸素は下にいた時より確実に薄くなっている。
その時、ナミネがユメさんを片方の手で抱え、カラルリさんからセレナールさんを下ろし、セレナールさんも抱えたのである。
ナミネ、いったい何を……。
「ナミネ!無茶しないで!」
「これでは、ユメさんの命が危ないです!私は3人を連れて先にテント地点に行きます」
「ナミネ、ダメ!お願い、こんな無茶な真似やめて!誰か!ユメさんを背負ってもらえませんか?」
ナミネの無茶に私は頭が真っ白になった。けれど、ナミネは振り返ることなく、落ち武者さんと、セレナールさん、ユメさんを背負い、猛スピードでテント地点へと走って行った。
ナミネは、いつかの前世で伝説武官をしていた時、いったいどんな任務をしていたのだろう。小さい頃、私が部屋に行くと私の部屋で眠っていたナミネはどこへ行ってしまったの?
「ナミネは大丈夫よ。寧ろあのままだったら、ユメさんが死んでいたかもしれないわ」
「エルナ……」
慰めてくれているのだろうか。もし、ナミネに何かあったら……。私はこの場にいなくなったナミネのことが心配で心配でたまらなかった。
「あのさ、ヨルクって世間知らずだよね。明らか、足引っ張る人間が迷惑かけてるでしょ。ナミネも放っておけばいいものを」
「ユメのこと悪く言わないでください!ユメは、森の湖に行くことを楽しみにしてたんです!」
「は?酸素ボンベ3つも使って倒れそうになってる時点で迷惑でしょ。彼女だからって、自分の意見があたかも正しいみたいに言わないでくれる?」
アルフォンス王子はどうしてこんなにも人に冷たいのだろう。ナミネの話では、いつかのアルフォンス王子はカナエさんを一途に想う優しい人だったらしいが。今のアルフォンス王子は、気に入らない人間を言葉で排除している。
ナミネは……ナミネは無事にテント地点に到着しただろうか。
30分後、テント地点に到着した。
ナミネは焚き火を起こして、落ち武者さんとセレナールさん、ユメさんを横にさせていた。
「ナミネ、大丈夫?」
私はナミネに駆け寄った。
「落ち武者さんには、非常用のお粥を食べさせて今眠ってます。セレナールさんの熱は下がりません。ユメさんの容態は安定しましたが、森の湖まで歩くことは無理でしょう」
ナミネ、汗だくだ。身体が冷えて風を引かないか心配である。ナミネはクラフに駆け寄った。
「あのね、委員長、ユメさんの容態安定したけど、これ以上先に進むとユメさんの身体は持たないの。だから、ユメさんはナノハナ家に応援を呼んで下山させるけど、委員長はどうする?」
「ユメと一緒にいる」
「分かった。今から手配するね」
その時、カナエさんやセナ王女たちがテントを張りはじめた。私も応援に行った。ナミネはラルクの元へ駆け寄った。
「ラルク、セレナールさん熱が下がらないの。このままだと森の湖に行くことは出来なさそうなんだよ。だからね、応援呼んで、セレナールさんは下山させようと思うの」
「本当に鬱陶しい女だな。とっとと応援呼んでくれ」
どうして、どうしてなのだ。こんなの私が知ってるラルクなどではない。
「ラルク、どうしてそんなに冷たいの?セレナールさんはラルクの彼女でしょ?心配じゃないの?」
「こっちは、森の湖に行くことが目的なんだ。それを潰されるような真似する人間は鬱陶しい」
何て酷い言い方。セレナールさんのために森の湖に行くんじゃないの?
「ラルク、私ラルクのこと分かんないよ」
ナミネは泣きはじめた。
「ナミネ……もう僕もいっぱいいっぱいなんだ。前みたいにセレナール先輩のことに集中出来ない」
「ラルク……ごめんね。ラルクのこと何も考えてなかった。私、ラルクのサポートするよ」
ナミネは泣きながらラルクを抱き締めていた。
正直、胸がモヤモヤする。ラルクにはセレナールさんがいるのに。どうしてナミネにもたれかかろうとするんだ。
テントを張り終わった私はナミネの元に行った。
「ラルク、ナミネに頼るな!」
「ヨルクさん、今、ラルクは辛いんです」
「ナミネは、私の彼女だよ!ラルクと親しくしないで!」
私は嫉妬のあまり、ナミネの気持ちを汲み取れていなかった。ナミネは泣きながら、ナノハナ家へ救助の紙飛行機を飛ばした。
「ナミネ、ごめん……落ち武者さんたちを、ここまで運んだのナミネなのに……」
「仕方ないです。みんなピリピリしてるんですよ」
ナミネ、本当にごめん。
テントは2つ張った。1つ目は、私とナミネ、ラルク、落ち武者さん、カラン王子、エルナが入る。2つ目は、セナ王女、ミナクお兄様、カナエさん、アルフォンス王子、カラルリさんが入る。
「ナミネ、応援はいつ来る?」
「2時間半らしいよ、ラルク」
「そんなにもかかるのか。とりあえず、落ち武者さんをテントの中に運べ!」
ラルク、焦るな。ラルクが焦ると、みんなが混乱する。
「その前に、これだけ汗かいたから新しい登山服に着替えないと」
「はあ、めんどくさいヤツが2人もいるせいで、予定は狂うし、見るだけで鬱陶しい」
ナミネはもはや何も言わなかった。
「皆さん、男女に分かれて、しっかり汗を拭き取って新しい登山服に着替えてください!夜は非常食とミネラルウォーターでしのいでください!」
「エルナ、落ち武者さんの服着替えさせてくれる?」
「分かったわ」
みんなは、2つのテントで着替えはじめた。着替え終わると、みんな焚き火のところへ集まった。
カナエさんは、もう1つ焚き火を作った。
「ねえ、3人も下山するんなら、非常食こっちにくれない?お腹空くんだけど」
「アルフォンス王子にあげるものなど何もありません!これはユメの非常食です!」
クラフは非常食を与えようとはしなかった。当然と言ったら当然だと思う。
「アルフォンス、あなたどうしちゃったのよ。元々1人で1つ分じゃない。ナミネは3人をここまで運んだし、後は他のみんながしっかり引っ張っていかないと」
「セナは何も分かってないね。下山する人の食糧はこっちのものでしょ。それまで持って帰るなんて何てがめついヤツなんだ。ウザイ」
アルフォンス王子もいったい何をそんなに苛立っているんだ?
「いい加減にしてください!これ以上、無駄口叩くと、次回からはアルフォンス王子とカナエさんは、個別で行動してもらいます!」
「は?何上から目線してんの?めんどくさいヤツのこと我慢してやったのに」
その瞬間、ナミネはアルフォンス王子に究極奥義を使った。
「私に従えない者は今すぐ扇子で1km戻るに飛ばし、メンバーから外れてもらいます!」
「ナミネ、やめてください!アルフォンス王子様はみんなのためを思って言ったまでです。こんなやり方間違ってます」
「間違ってる?だったら、アルフォンス王子に加え、カナエ先輩も1km戻ってもらいます。2人で自論並べるなんて鬱陶しいです。あくまで指揮を執っているのは僕です。僕に従えない者はどんどん切り捨てます」
「やめるのです!カナエは間違ったことなんて言ってません!」
その瞬間、ラルクが扇子を開いた。完全な仲間割れだ。けれど、アルフォンス王子の言い分のほうが酷い。
「アルフォンスには私から言い聞かせるわ!だから、究極奥義を解いてちょうだい!」
ナミネは究極奥義を解いた。
「いいですか!次に輪を乱す者がいれば容赦しません!」
「ちょっと強いからっていい気になりやがって!ムカつく」
その瞬間、ラルクはアルフォンス王子とカナエさんを扇子で1km戻した。
「こうなりたくなかったら、強い者に従ってください。アルフォンス王子とカナエ先輩は自業自得です。みんなも無駄口叩いて足を引っ張る者がいれば、扇子で何度も戻します」
「ラルク、やりすぎだ!2人を元に戻せ!」
「ヨルク!お前甘すぎだ!カナエさんまで飛ばしたのはいささか理解し兼ねるが、動けなくなった3人をここまで運んだのはナミネなのに、アルフォンス王子は弱い人間を悪く言いすぎだ!そういうヤツは体罰でしか分かんねーんだよ!」
どうして言葉で諭そうとせず、わざわざ2人を戻させる。苛立ちながらのキャンプなんて誰も楽しくないだろうに。あの流産事件があってから、みんなの輪がどんどん拗れている気がする。
カナエさんとアルフォンス王子はどのくらいで戻って来るだろう。
「委員長、今回はユメさんが倒れて残念だったけど、次の天使の湖は駅からすぐだから行こうね」
「ユメを助けてくれてありがとう、ナミネ」
「仲間だもん。また一緒に遊びに行こうね」
35分でカナエさんとアルフォンス王子は戻って来た。2人とも無言だった。ラルクはアルフォンス王子に扇子を突き付けた。
「これで分かりましたか?僕に逆らえば逆らうほど歩く距離が多くなりますよ」
「分かりました。カナエはもうラルクには何も言いません」
アルフォンス王子も懲りたのか、反論ひとつしなかった。
2時間半が経ち、ナノハナ家の救助が来て、セレナールさんとユメさんは武官に背負われクラフも着いて行った。
「委員長、帰ったら連絡するね!」
「ナミネ、絶対森の湖の景色見せてね!」
3人はナノハナ家 武官によって、下山して行った。
そろそろ食事の時間だ。
みんなは非常食を取り出し、ミネラルウォーターと共に夕食を取った。これまでの人生で非常食を食べる機会など殆どなかった。非常食は本当に非常な時にしか使うことはないってくらい食べづらい。それにこの量だと持たない。
ユメさんとセレナールさんは戻って良かったかもしれない。
「ああ、食べづらい。これだけじゃ足りない。誰か魚釣って来い!」
もう日も暮れた。こんな時間に釣りなど……。
「アルフォンス王子様、カナエが作って来たお弁当です。食べてください」
カナエさんのお弁当、ゴージャス。
「ありがとう、カナエ。カナエは気が利くな」
アルフォンス王子は、カナエさんが作ったお弁当を食べはじめた。
「アルフォンスだけ狡いわ」
「羨ましかったら用意周到の彼氏に切り替えることだな。カナエは本当に良い女だ」
アルフォンス王子、ミナクお兄様を馬鹿にしてる。何だかいやな感じ。
「ナミネ、今夜は一緒の寝袋で寝ようね」
「はい」
「カナエ、2人用の寝袋持って来たか?」
「持って来ております、アルフォンス王子様」
よく見るとカナエさんのリュック、やたら重たそう?アルフォンス王子が持たせたのだろうか。いくら気が利くとは言え、こういうのは好かぬ。
「ミナク、私たちも一緒に寝たいわ」
「すみません、セナ王女、準備不足で用意が出来ませんでした」
「そう」
「セナさん、ちゃんと話がしたい」
カラルリさん。こんな時に、よく悠長なこと言えるよね。セナ王女はカラルリさんを無視した。
暗くなって来たな。
「明日は5時にここを出る。遅刻する者は置いてくからな!」
5時だなんて早すぎる。ラルクは何をそんなに焦ってるんだ?
ナミネは眠っている落ち武者さんをテントに運んで寝袋に入れた。みんなもテントに入り、寝袋に入った。2人用の寝袋を持って来て良かった。こんな時だからこそナミネの温もりを感じられるのは嬉しい。
「ナミネ、今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね」
「ヨルクさんもゆっくり休んでください」
ナミネが眠った後、私も眠りについた。
翌朝、目が覚めると横にナミネはいなかった。時計を見るとまだ3時半だった。ナミネはどこにいるのだろう。私はテントを出た。すると、川沿いにナミネとラルクがいた。私は木の後ろに隠れて2人の様子を伺った。
「セレナール先輩のこと好きか分からない」
えっ、だから、あんなに冷たい態度取っていたのか?
「うん、何となくそんな感じしてたよ。ラルク、無理に人を好きになることないと思う。セレナールさんなら、いっぱい男いるだろうし、ラルクが最後まで面倒見ることないよ」
「ナミネ、僕はどうしたらいいか分からない。セレナール先輩だけが生きる希望だったのに……」
ナミネはラルクを抱き締めた。見たくない場面。けれど、私はナミネのことが気になって仕方なかった。このタイミングでナミネがまたラルクを好きになってしまったらと思うと気が気でなかった。
「大丈夫だよ、ラルク。セレナールさんとは縁がなかったんだよ。ラルクが大切にしたいって思うほどの人じゃなかったんだよ。今は恋愛のこと考えないで」
「セレナール先輩に再会した時は愛おしくて胸が高鳴って毎日セレナール先輩にドキドキしてた。今度こそ絶対失いたくない、そんな気持ちをずっと張り詰めながらセレナール先輩を全力で守ろうと思ってきた。でも、細工された時、セレナール先輩が分からなくなった」
ラルクといる時のナミネは私といる時のナミネとは全然違う。難しい話もするし、私が分からない話をいっぱいしてる。
「ラルクはセレナールさんが妊娠した時、嬉しくなかったの?細工だけで気持ちがなくなったの?」
「セレナール先輩とは大学卒業してお互いに就職した後に結婚しようと思ってた。だから、責任取れない時に妊娠されて苛立たしい気持ちの方が大きかった。気持ちが完全になくなったわけではないけれど、恋愛にのめり込むセレナール先輩が僕には分からない」
「いつかのセレナールさんとラルクが出会ったのはセレナールさんが全てを割り切った後だよ。現世では、また、仲間外れのところからはじまった。セレナールさんの悪いところは愛せない?」
「僕が知ってる教師だった頃のセレナール先輩は、今のハルミ先生のような感じで、誰にでも優しくて正義の強い人だったから、夢中になれた。誰にだって悪い面はある。そんなの分かってる。でも、常に人の上に立ちたがる今のセレナール先輩のことは理解出来ない」
私といる時は、常にだらしないナミネ。なのに、ラルクといる時は対等に話せるのか。私はラルクに嫉妬を覚えていた。
「立ち聞きなんて人が悪いな」
「わっ、落ち武者さん。身体大丈夫なの?」
「すっかり回復したよ。あんたの彼女のおかげでな」
「そっか、良かった」
ビックリした。立ち聞きは立ち聞きだけど、やっぱりどうしてもナミネのことが気になる。
「そうだね、いつかのあの頃とは全く別人だもんね。難しいよね。セレナールさんとは別れるの?」
「いや、そこまではまだ考えてない。でも、もう優しくしたり、楽しさを共有したり、愛情を温めることは出来ない」
「それでいいんじゃない?無理なんて続かないし、恋人なんて薄っぺらいもんだよ。赤の他人だしさ。セナ王女とカラルリさんがそうだったじゃん」
セナ王女とカラルリさんか。ああいったカップルは世の中に溢れているんだろうな。互いのことを思い合えない。常に自分の有利しか考えられない。そういう人らはいずれ別れる。
「そうだな。ミナクお兄様とも、いずれは別れるだろう」
「ラルク、私はラルクを応援するよ。セレナールさんのこと恋人として見れないならラルクの好きな人一緒に探すよ」
ナミネ、私はどんなナミネでも、どの時代のナミネでも必ず好きになる。必ず好きになって、いっぱいアタックし続けるから!
4時半になると、みんな起きてきてテントを畳むと、朝食を取った。ラルクとナミネは地図を広げた。
「まだ、遠いね」
「セレナール先輩と、委員長、ユメさんがいなくなったんだから、歩くペースはあげる。必ず今日中に着く!」
「あんた、何をそんなに急いでんのさ。今の姉さんのこと、どうでもいいなら、急ぐ必要ないんじゃないの?」
「どうでもよくはありません。知りたいんです!僕と出会う前の遠い前世のセレナール先輩を!」
今のセレナールさんを愛せないのに、遥か過去のセレナールさんを知ってどうするのだろう。今のセレナールさんを愛せるようにでもなると言うのだろうか。
5時になり、みんなは再びリュックを背負い、歩きはじめた。今日中だなんて、そんなの可能なのだろうか?それでも、ラルクは昨日より歩くペースを早めた。
……
あとがき。
書いてると何だか文字数すぐに増えちゃいます。
一旦区切るとして……
ユメと、クラフ、セレナールは残念だよね。
走り書きではセレナールも辿り着けたのに。
どうして今回は辿り着けなかったのだろう。
どうして、こんなに早くラルクから愛想尽かされるのだろう。
出来るだけ、元の話に近付けているのに、案外そうじゃないかも。
古代編では気軽に行けた森の湖が、現代ではこんなにも遠いだなんて……。遥か昔は、近くに民家でも立っていたのだろうか。
《ヨルク》
森の湖に行く途中の険しい森の中で落ち武者さんは動けなくなり、セレナールさんは熱を出した。落ち武者さんはナミネが背負い、セレナールさんはカラルリさんが背負うことになったが。ラルクはずっとセレナールさんに冷たい。何故こんなにも彼女に冷たくするのだろう。
正直、こういったサバイバルは経験者以外が来ると足を引っ張ることもある。私は、落ち武者さんを背負いながら歩くナミネが心配で仕方ない。
休憩スポットから再び歩きはじめて30分ほど経っただろうか。またユメさんが息を切らしている。
「ラルク、ユメさんが息を切らしてる。歩くペース下げられないのか?」
「これだから素人は来て欲しくなかったんです。先はまだ長いです。着いて来れないなら帰るしかないでしょう」
「ラルク、何をそんなに苛立っている」
何故なのだ。あれほどにセレナールさんを軸に生きていたラルクが、セレナールさんの心配もせず、仲間のペースにも合わせないなんて。
「ラルク、みんなの体調を考慮しようよ。森の湖は逃げないよ」
「ナミネは黙って落ち武者さん背負って歩け!」
私にはラルクが何を苛立っているのか分からない。けれど、みんなで来ている以上は、もっと助け合うべきだと思う。
「ラルク!未経験者にとって、この旅は過酷なんだよ!みんな参加していいって言ったのラルクじゃん。どうして今になって体力のない人を冷たくあしらうの?」
「ハッキリ言うわ!私もセレナールやユメさんみたいに登山を知らない人間の参加は迷惑でしかないわ!夕方までにテントを張らないといけないのに、それが遅れて夜になったら、みんなが危なくなるのよ!」
正論を正論で潰す。私はいくら体力があって場数が多いからって弱い者の悪口を叩く人は好かぬ。
アルフォンス王子がいる以上、カナエさんも、そこまで助けにはなってくれないし。
「クラフの酸素ボンベもなくなったわ。誰か助けて」
「ユメ、歩くスピード落とそう」
「苦しい……息が出来ないわ」
このままでは、ユメさんの酸欠は重症化して他の症状も現れ、そのうちユメさんも動けなくなってしまう。
「ラルク!ペース落とせ!このままではユメさんも倒れてしまう!」
「これ以上ペースは落とせません!足を引っ張る人に合わせていたら、みんなが危険に晒されます!」
ダメだ。ラルクには何を言っても通用しない。
「ユメ、あんた僕の酸素ボンベ使え!」
落ち武者さんはナミネが腕にかけたリュックから酸素ボンベを取り出し、ユメさんに渡した。
酸素は下にいた時より確実に薄くなっている。
その時、ナミネがユメさんを片方の手で抱え、カラルリさんからセレナールさんを下ろし、セレナールさんも抱えたのである。
ナミネ、いったい何を……。
「ナミネ!無茶しないで!」
「これでは、ユメさんの命が危ないです!私は3人を連れて先にテント地点に行きます」
「ナミネ、ダメ!お願い、こんな無茶な真似やめて!誰か!ユメさんを背負ってもらえませんか?」
ナミネの無茶に私は頭が真っ白になった。けれど、ナミネは振り返ることなく、落ち武者さんと、セレナールさん、ユメさんを背負い、猛スピードでテント地点へと走って行った。
ナミネは、いつかの前世で伝説武官をしていた時、いったいどんな任務をしていたのだろう。小さい頃、私が部屋に行くと私の部屋で眠っていたナミネはどこへ行ってしまったの?
「ナミネは大丈夫よ。寧ろあのままだったら、ユメさんが死んでいたかもしれないわ」
「エルナ……」
慰めてくれているのだろうか。もし、ナミネに何かあったら……。私はこの場にいなくなったナミネのことが心配で心配でたまらなかった。
「あのさ、ヨルクって世間知らずだよね。明らか、足引っ張る人間が迷惑かけてるでしょ。ナミネも放っておけばいいものを」
「ユメのこと悪く言わないでください!ユメは、森の湖に行くことを楽しみにしてたんです!」
「は?酸素ボンベ3つも使って倒れそうになってる時点で迷惑でしょ。彼女だからって、自分の意見があたかも正しいみたいに言わないでくれる?」
アルフォンス王子はどうしてこんなにも人に冷たいのだろう。ナミネの話では、いつかのアルフォンス王子はカナエさんを一途に想う優しい人だったらしいが。今のアルフォンス王子は、気に入らない人間を言葉で排除している。
ナミネは……ナミネは無事にテント地点に到着しただろうか。
30分後、テント地点に到着した。
ナミネは焚き火を起こして、落ち武者さんとセレナールさん、ユメさんを横にさせていた。
「ナミネ、大丈夫?」
私はナミネに駆け寄った。
「落ち武者さんには、非常用のお粥を食べさせて今眠ってます。セレナールさんの熱は下がりません。ユメさんの容態は安定しましたが、森の湖まで歩くことは無理でしょう」
ナミネ、汗だくだ。身体が冷えて風を引かないか心配である。ナミネはクラフに駆け寄った。
「あのね、委員長、ユメさんの容態安定したけど、これ以上先に進むとユメさんの身体は持たないの。だから、ユメさんはナノハナ家に応援を呼んで下山させるけど、委員長はどうする?」
「ユメと一緒にいる」
「分かった。今から手配するね」
その時、カナエさんやセナ王女たちがテントを張りはじめた。私も応援に行った。ナミネはラルクの元へ駆け寄った。
「ラルク、セレナールさん熱が下がらないの。このままだと森の湖に行くことは出来なさそうなんだよ。だからね、応援呼んで、セレナールさんは下山させようと思うの」
「本当に鬱陶しい女だな。とっとと応援呼んでくれ」
どうして、どうしてなのだ。こんなの私が知ってるラルクなどではない。
「ラルク、どうしてそんなに冷たいの?セレナールさんはラルクの彼女でしょ?心配じゃないの?」
「こっちは、森の湖に行くことが目的なんだ。それを潰されるような真似する人間は鬱陶しい」
何て酷い言い方。セレナールさんのために森の湖に行くんじゃないの?
「ラルク、私ラルクのこと分かんないよ」
ナミネは泣きはじめた。
「ナミネ……もう僕もいっぱいいっぱいなんだ。前みたいにセレナール先輩のことに集中出来ない」
「ラルク……ごめんね。ラルクのこと何も考えてなかった。私、ラルクのサポートするよ」
ナミネは泣きながらラルクを抱き締めていた。
正直、胸がモヤモヤする。ラルクにはセレナールさんがいるのに。どうしてナミネにもたれかかろうとするんだ。
テントを張り終わった私はナミネの元に行った。
「ラルク、ナミネに頼るな!」
「ヨルクさん、今、ラルクは辛いんです」
「ナミネは、私の彼女だよ!ラルクと親しくしないで!」
私は嫉妬のあまり、ナミネの気持ちを汲み取れていなかった。ナミネは泣きながら、ナノハナ家へ救助の紙飛行機を飛ばした。
「ナミネ、ごめん……落ち武者さんたちを、ここまで運んだのナミネなのに……」
「仕方ないです。みんなピリピリしてるんですよ」
ナミネ、本当にごめん。
テントは2つ張った。1つ目は、私とナミネ、ラルク、落ち武者さん、カラン王子、エルナが入る。2つ目は、セナ王女、ミナクお兄様、カナエさん、アルフォンス王子、カラルリさんが入る。
「ナミネ、応援はいつ来る?」
「2時間半らしいよ、ラルク」
「そんなにもかかるのか。とりあえず、落ち武者さんをテントの中に運べ!」
ラルク、焦るな。ラルクが焦ると、みんなが混乱する。
「その前に、これだけ汗かいたから新しい登山服に着替えないと」
「はあ、めんどくさいヤツが2人もいるせいで、予定は狂うし、見るだけで鬱陶しい」
ナミネはもはや何も言わなかった。
「皆さん、男女に分かれて、しっかり汗を拭き取って新しい登山服に着替えてください!夜は非常食とミネラルウォーターでしのいでください!」
「エルナ、落ち武者さんの服着替えさせてくれる?」
「分かったわ」
みんなは、2つのテントで着替えはじめた。着替え終わると、みんな焚き火のところへ集まった。
カナエさんは、もう1つ焚き火を作った。
「ねえ、3人も下山するんなら、非常食こっちにくれない?お腹空くんだけど」
「アルフォンス王子にあげるものなど何もありません!これはユメの非常食です!」
クラフは非常食を与えようとはしなかった。当然と言ったら当然だと思う。
「アルフォンス、あなたどうしちゃったのよ。元々1人で1つ分じゃない。ナミネは3人をここまで運んだし、後は他のみんながしっかり引っ張っていかないと」
「セナは何も分かってないね。下山する人の食糧はこっちのものでしょ。それまで持って帰るなんて何てがめついヤツなんだ。ウザイ」
アルフォンス王子もいったい何をそんなに苛立っているんだ?
「いい加減にしてください!これ以上、無駄口叩くと、次回からはアルフォンス王子とカナエさんは、個別で行動してもらいます!」
「は?何上から目線してんの?めんどくさいヤツのこと我慢してやったのに」
その瞬間、ナミネはアルフォンス王子に究極奥義を使った。
「私に従えない者は今すぐ扇子で1km戻るに飛ばし、メンバーから外れてもらいます!」
「ナミネ、やめてください!アルフォンス王子様はみんなのためを思って言ったまでです。こんなやり方間違ってます」
「間違ってる?だったら、アルフォンス王子に加え、カナエ先輩も1km戻ってもらいます。2人で自論並べるなんて鬱陶しいです。あくまで指揮を執っているのは僕です。僕に従えない者はどんどん切り捨てます」
「やめるのです!カナエは間違ったことなんて言ってません!」
その瞬間、ラルクが扇子を開いた。完全な仲間割れだ。けれど、アルフォンス王子の言い分のほうが酷い。
「アルフォンスには私から言い聞かせるわ!だから、究極奥義を解いてちょうだい!」
ナミネは究極奥義を解いた。
「いいですか!次に輪を乱す者がいれば容赦しません!」
「ちょっと強いからっていい気になりやがって!ムカつく」
その瞬間、ラルクはアルフォンス王子とカナエさんを扇子で1km戻した。
「こうなりたくなかったら、強い者に従ってください。アルフォンス王子とカナエ先輩は自業自得です。みんなも無駄口叩いて足を引っ張る者がいれば、扇子で何度も戻します」
「ラルク、やりすぎだ!2人を元に戻せ!」
「ヨルク!お前甘すぎだ!カナエさんまで飛ばしたのはいささか理解し兼ねるが、動けなくなった3人をここまで運んだのはナミネなのに、アルフォンス王子は弱い人間を悪く言いすぎだ!そういうヤツは体罰でしか分かんねーんだよ!」
どうして言葉で諭そうとせず、わざわざ2人を戻させる。苛立ちながらのキャンプなんて誰も楽しくないだろうに。あの流産事件があってから、みんなの輪がどんどん拗れている気がする。
カナエさんとアルフォンス王子はどのくらいで戻って来るだろう。
「委員長、今回はユメさんが倒れて残念だったけど、次の天使の湖は駅からすぐだから行こうね」
「ユメを助けてくれてありがとう、ナミネ」
「仲間だもん。また一緒に遊びに行こうね」
35分でカナエさんとアルフォンス王子は戻って来た。2人とも無言だった。ラルクはアルフォンス王子に扇子を突き付けた。
「これで分かりましたか?僕に逆らえば逆らうほど歩く距離が多くなりますよ」
「分かりました。カナエはもうラルクには何も言いません」
アルフォンス王子も懲りたのか、反論ひとつしなかった。
2時間半が経ち、ナノハナ家の救助が来て、セレナールさんとユメさんは武官に背負われクラフも着いて行った。
「委員長、帰ったら連絡するね!」
「ナミネ、絶対森の湖の景色見せてね!」
3人はナノハナ家 武官によって、下山して行った。
そろそろ食事の時間だ。
みんなは非常食を取り出し、ミネラルウォーターと共に夕食を取った。これまでの人生で非常食を食べる機会など殆どなかった。非常食は本当に非常な時にしか使うことはないってくらい食べづらい。それにこの量だと持たない。
ユメさんとセレナールさんは戻って良かったかもしれない。
「ああ、食べづらい。これだけじゃ足りない。誰か魚釣って来い!」
もう日も暮れた。こんな時間に釣りなど……。
「アルフォンス王子様、カナエが作って来たお弁当です。食べてください」
カナエさんのお弁当、ゴージャス。
「ありがとう、カナエ。カナエは気が利くな」
アルフォンス王子は、カナエさんが作ったお弁当を食べはじめた。
「アルフォンスだけ狡いわ」
「羨ましかったら用意周到の彼氏に切り替えることだな。カナエは本当に良い女だ」
アルフォンス王子、ミナクお兄様を馬鹿にしてる。何だかいやな感じ。
「ナミネ、今夜は一緒の寝袋で寝ようね」
「はい」
「カナエ、2人用の寝袋持って来たか?」
「持って来ております、アルフォンス王子様」
よく見るとカナエさんのリュック、やたら重たそう?アルフォンス王子が持たせたのだろうか。いくら気が利くとは言え、こういうのは好かぬ。
「ミナク、私たちも一緒に寝たいわ」
「すみません、セナ王女、準備不足で用意が出来ませんでした」
「そう」
「セナさん、ちゃんと話がしたい」
カラルリさん。こんな時に、よく悠長なこと言えるよね。セナ王女はカラルリさんを無視した。
暗くなって来たな。
「明日は5時にここを出る。遅刻する者は置いてくからな!」
5時だなんて早すぎる。ラルクは何をそんなに焦ってるんだ?
ナミネは眠っている落ち武者さんをテントに運んで寝袋に入れた。みんなもテントに入り、寝袋に入った。2人用の寝袋を持って来て良かった。こんな時だからこそナミネの温もりを感じられるのは嬉しい。
「ナミネ、今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね」
「ヨルクさんもゆっくり休んでください」
ナミネが眠った後、私も眠りについた。
翌朝、目が覚めると横にナミネはいなかった。時計を見るとまだ3時半だった。ナミネはどこにいるのだろう。私はテントを出た。すると、川沿いにナミネとラルクがいた。私は木の後ろに隠れて2人の様子を伺った。
「セレナール先輩のこと好きか分からない」
えっ、だから、あんなに冷たい態度取っていたのか?
「うん、何となくそんな感じしてたよ。ラルク、無理に人を好きになることないと思う。セレナールさんなら、いっぱい男いるだろうし、ラルクが最後まで面倒見ることないよ」
「ナミネ、僕はどうしたらいいか分からない。セレナール先輩だけが生きる希望だったのに……」
ナミネはラルクを抱き締めた。見たくない場面。けれど、私はナミネのことが気になって仕方なかった。このタイミングでナミネがまたラルクを好きになってしまったらと思うと気が気でなかった。
「大丈夫だよ、ラルク。セレナールさんとは縁がなかったんだよ。ラルクが大切にしたいって思うほどの人じゃなかったんだよ。今は恋愛のこと考えないで」
「セレナール先輩に再会した時は愛おしくて胸が高鳴って毎日セレナール先輩にドキドキしてた。今度こそ絶対失いたくない、そんな気持ちをずっと張り詰めながらセレナール先輩を全力で守ろうと思ってきた。でも、細工された時、セレナール先輩が分からなくなった」
ラルクといる時のナミネは私といる時のナミネとは全然違う。難しい話もするし、私が分からない話をいっぱいしてる。
「ラルクはセレナールさんが妊娠した時、嬉しくなかったの?細工だけで気持ちがなくなったの?」
「セレナール先輩とは大学卒業してお互いに就職した後に結婚しようと思ってた。だから、責任取れない時に妊娠されて苛立たしい気持ちの方が大きかった。気持ちが完全になくなったわけではないけれど、恋愛にのめり込むセレナール先輩が僕には分からない」
「いつかのセレナールさんとラルクが出会ったのはセレナールさんが全てを割り切った後だよ。現世では、また、仲間外れのところからはじまった。セレナールさんの悪いところは愛せない?」
「僕が知ってる教師だった頃のセレナール先輩は、今のハルミ先生のような感じで、誰にでも優しくて正義の強い人だったから、夢中になれた。誰にだって悪い面はある。そんなの分かってる。でも、常に人の上に立ちたがる今のセレナール先輩のことは理解出来ない」
私といる時は、常にだらしないナミネ。なのに、ラルクといる時は対等に話せるのか。私はラルクに嫉妬を覚えていた。
「立ち聞きなんて人が悪いな」
「わっ、落ち武者さん。身体大丈夫なの?」
「すっかり回復したよ。あんたの彼女のおかげでな」
「そっか、良かった」
ビックリした。立ち聞きは立ち聞きだけど、やっぱりどうしてもナミネのことが気になる。
「そうだね、いつかのあの頃とは全く別人だもんね。難しいよね。セレナールさんとは別れるの?」
「いや、そこまではまだ考えてない。でも、もう優しくしたり、楽しさを共有したり、愛情を温めることは出来ない」
「それでいいんじゃない?無理なんて続かないし、恋人なんて薄っぺらいもんだよ。赤の他人だしさ。セナ王女とカラルリさんがそうだったじゃん」
セナ王女とカラルリさんか。ああいったカップルは世の中に溢れているんだろうな。互いのことを思い合えない。常に自分の有利しか考えられない。そういう人らはいずれ別れる。
「そうだな。ミナクお兄様とも、いずれは別れるだろう」
「ラルク、私はラルクを応援するよ。セレナールさんのこと恋人として見れないならラルクの好きな人一緒に探すよ」
ナミネ、私はどんなナミネでも、どの時代のナミネでも必ず好きになる。必ず好きになって、いっぱいアタックし続けるから!
4時半になると、みんな起きてきてテントを畳むと、朝食を取った。ラルクとナミネは地図を広げた。
「まだ、遠いね」
「セレナール先輩と、委員長、ユメさんがいなくなったんだから、歩くペースはあげる。必ず今日中に着く!」
「あんた、何をそんなに急いでんのさ。今の姉さんのこと、どうでもいいなら、急ぐ必要ないんじゃないの?」
「どうでもよくはありません。知りたいんです!僕と出会う前の遠い前世のセレナール先輩を!」
今のセレナールさんを愛せないのに、遥か過去のセレナールさんを知ってどうするのだろう。今のセレナールさんを愛せるようにでもなると言うのだろうか。
5時になり、みんなは再びリュックを背負い、歩きはじめた。今日中だなんて、そんなの可能なのだろうか?それでも、ラルクは昨日より歩くペースを早めた。
……
あとがき。
書いてると何だか文字数すぐに増えちゃいます。
一旦区切るとして……
ユメと、クラフ、セレナールは残念だよね。
走り書きではセレナールも辿り着けたのに。
どうして今回は辿り着けなかったのだろう。
どうして、こんなに早くラルクから愛想尽かされるのだろう。
出来るだけ、元の話に近付けているのに、案外そうじゃないかも。
古代編では気軽に行けた森の湖が、現代ではこんなにも遠いだなんて……。遥か昔は、近くに民家でも立っていたのだろうか。