日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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地主(土地貸してます)
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漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
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が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
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2025年01月20日
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→絵画インストラクター 合格
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→鉱石セラピスト 合格
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〈資格証明バナー〉

純愛偏差値 未来編 一人称版 107話
《ナミネ》
結局、あのあと、ナルホお兄様がアヤネさんを説得し、再びナノハナ家に連れ戻したらしい。アヤネさんはアヤネさんなりに反省したそうだが、私はその現場を知らない。
ただ覚えているのは、ヨルクさんの紅葉の香りだけ。
第4居間では、氷河期町に行く人が既に支度をして、朝食を取っていた。私もヨルクさんの隣で朝食を食べはじめた。
「あの、ナミネさん。昨日はごめんなさい」
嘘っぽい言葉を朝から聞くと、いやな気持ちにさせられる。もう、アヤネさんとは同じ空間にいたくない。
「絶対許せません!氷河期町から帰ったら、私、ナノハナ家出ていきます!」
最初はこんなんじゃなかった。恐らく紀元前村からだ。
人は、ひとたび中身を見てしまうと嫌気がさすこともある。表面上は、いくら大人しくても、態度によっては苦手意識を持ってしまうものである。
「ナミネさん。本当に反省しています」
ズームさんがいるから、ここにいるだけの人。別に私とは仲良くしたいわけではないだろうに。
「ナミネ。停電で、お父様たちの任務も減ってきているし、ナノハナ家は部屋がたくさん余ってるから下宿にするつもりなんだよ。馬が合わない人がいるからって追い出すわけにはいかないよね」
だから、私のほうが出て行くって言ってるんじゃない。
「ですから、私が出ていきます!」
「ナミネ、そんなこと言わないで。ナミネが出て行ったら私がここにいる意味なくなる」
ヨルクさんは悲しそうに私の手を握った。
アヤネさんとヨルクさんは趣味で繋がっているから、いいかもしれないけど、私は何の繋がりもない。けれど、ヨルクさんと離れるのはいやだ。こんな矛盾、自分でも馬鹿げていると分かっているのに。私は転生するたびに大人になっていて、それゆえ、中身は大人なはずなのに、不思議なものだ。若いと自然に思考も幼くなるものなのである。
「努力はします。でも、アヤネさんと私は合わないと思います」
合わないものは合わない。それを我慢して同じ空間にいるか、離れるかは人それぞれだが。少なくとも私は同じ空間にいると苛立つタイプだ。
「ナミネさん。本当に反省しています。今後は私から歩み寄ります」
それが出来れば苦労はしない。
それに、ナルホお兄様の言ってた下宿って何だろう。知らない人が、ぞろぞろとナノハナ家で暮らすのだろうか。それはそれでやりにくいものがあるだろう。
「もういいです!私が我慢します!どうせ、ズームさんと一緒になれず、どこかのおじさんと政略結婚する可哀想なアヤネさんですもんね」
あれ、ズームさんと一緒になれない。もしかして、アヤネさんは、遠い昔、私とズームさんが交際していたことに嫉妬しているのだろうか。女の敵は女と言うが、大人しい人も惚れた男のことになれば、冷静ではいられなくなるのだろうか。
「ナミネ。アヤネさんは、あのあと、氷河期町で過ごすための説明も読んだし、覚悟の上で行くんだよ。すぐにとは言わない。でも、せっかく縁あって、グループにいるんだから、大切にしたほうがいいよ。今の時間をね。青春なんてあっという間だから」
そんなの覚えていない。中学に上がるまでは早く感じたように思うけど、20代だって言ってしまえば青春ではないか。なにも、10代だけが青春というわけではないと思うが。
それに、覚悟ではなく、ズームさんと一緒にいたいだけでしょ。貴族って、どこまで脳内優雅なの。
「はいはい、分かりましたー!今後は、アヤネさんのこと透明人間だと思うことにしますー!」
私は、どこまでも素直になれない。だから、妖精村時代、何度もヨルクさんを失ったのだろう。自分では分かっている。でも、どうしようもないのだ。
「じゃ、出発する」
いよいよ、命懸けの仕事のはじまりだ。
私たちは、荷物を確認したあと、馬小屋の王室のフェアリーサラブラーとロリハー家のエンジェルブェロッラを外に連れ、馬を走らせた。
町から町を越え、春風町の宿を借りたあと、馬は宿の駐車場に置いて、氷河期町へ続く洞窟を歩いた。洞窟は約45分ほどだろうか。長すぎず短くもなく。けれど、作業があって終わるたび、春風町の宿に戻らなくてはならない。自転車屋で、自転車を借りた方がいいだろうか。
歩けば歩くほど、だんだんと寒くなってきた。私は帽子を被いてフードを被いた。尋常ではない寒さだ。身体が凍りそう。
「皆さん、大丈夫ですか?」
私は、みんなの安否を確かめた。
「僕は大丈夫だけど?」
「私も大丈夫だよ」
「私も大丈夫だ」
「カナエも大丈夫です」
「私も大丈夫よ」
崖登り係は大丈夫そうだけど、ズームさんやミネスさん、ラハルさん、アヤネさんは、かなり寒そうだ。
もうしばらく歩いていたら、洞窟の向こうが見えてきた。もうすぐ洞窟を抜ける。私たちは覚悟を決めた。
吹雪がここまで吹いてくる。
洞窟を抜けると、銀世界なんてものではない。
もはや何も見えないのである。全くというのは大袈裟かもしれない。掻い摘んで言うと、視界がかなり悪い。
地面は雪と言うより氷だろうか。何気に滑りやすい感じがする。
「では、テントは僕とミネスで張りますね」
テントなんて張れるのだろうか。
「あ、私も手伝います!」
こういうのは、みんなでしないと。
「僕たち含め、アンタも崖登り係だ。テントはズームとお子ちゃまミネスに張ってもらうぞ」
そうか。ここでは、無駄な体力は少しも使えない。
それにしても崖も氷で覆われていて、登れるかどうかも分からなければ頂上がどこにあるのかも見えない。
「テント張れましたよ」
え、もう張れたの?早くないだろうか。
私たちは、テントの中に入った。
「あったかい!」
思わず声に出してしまった。
「今年の秋にskyグループで売り出す予定なんです。恒星の光で温もっているので電池とか充電とか全くいらないんです」
skyグループ。やっぱり、規模が違う。恒星の光でも、充電式が多い中、このテントは多くの光を取り込んでくれるというわけか。
「妖精村が停電でもブランケット家は、電気で全部使えるよー!」
いいな。私も、お金持ちに生まれたかった。でも、武家も悪くないと思ってしまう。何不自由ない、何でも手に入る暮らしも大切だろうけど、私は私なりに手に入れてきたものもたくさんある。
「凄いですね。これなら、ナヤセス殿もヨルクさんもエルナさんも、凍えずに済みますね」
わざと、アヤネさんの名前を出さなかった。私の中では、もう仲間ではないからだ。
「ナミネ、本当に無理しないでね」
ヨルクさんは、崖は登れないけど私が心配で着いてきた。
「はい」
私はサングラスを付けようとした。雪山ゆえ、ほぼゴーグルだ。
「シャム軍医!?」
これまた珍しい人の名前が出た。
私は咄嗟にテントの外に出た。本当にシャム軍医だ。私は多分会ったことはないが、遠い昔、セナ王女の同僚だったのである。
「セナ元帥、お久しぶりです」
何だか、随分やつれている気がする。バイトで来たのだろうか。
「久しぶりね。シャム軍医も、バイト?」
私も、そこめちゃくちゃ気になる。
「いえ、ここに住んでいるんです」
ここに住んでる!?いったいどういうことなのだろう。
「え、どういうこと?」
本当、何がなんだか分からない。
「僕は、ここで生まれたんです。ここの住人は皆、最下層と呼ばれ、宝石の原石を採取させられています」
何それ!まるで、紀元前村の蓮華町ではないか。というか、それより酷い。妖精村にも、古代……いや、それ以外の暮らしをしている町があっただなんて。
「えっ、でも、こんなところ住めないじゃない」
とてもじゃないけど、このような寒いところで住めるわけがない。私は再びテントに入り顔だけ出した。セナ王女は寒くないのだろうか。
「ここから400mほどのところに、住人たちの家があります。政府から提供された家で、その中だと普通の暮らしが出来るんです。原石も採取出来ない人ばかりで、政府から賞味期限1年切れなどの食材は提供されています。僕は、医師としての知識はありますが、とてもじゃないけど、崖は登れません。だから、細々と生活しているのです」
酷い話だ。あんな崖、登れるわけがないのに、無理矢理に差別して、こんな町に閉じ込めて。
シャム軍医。顔はそこそこハンサムでエリート医師だったのに、現代ではこの有り様。まるで、ユウサクさんみたいだ。時代は分からない。武家に生まれたからといって来世でも武家というわけではない。
「ナミネさん、これを」
ベスト、だろうか。
「ありがとうございます、ズームさん」
私は早速ベストを着てみた。
「軽くてあったかい!」
また思わず声を出してしまった。
「このベストは人が着ることによって温まるんです」
ズームさんとは、もう暮らしの規模そのものが違う。ズームさんのように、何もかも恵まれた人もいるのに、この町で不自由な民として暮らさなければならない人もいる。世の中というものは、こうも不公平なものなのか。
ズームさんは、崖登り係にベストを渡しはじめた。
「酷い話ね。シャム軍医は、あんなにもエリートだったのに。こんなところで暮らしているだなんて思ってもみなかったわ」
それは同僚の誰もが思っているだろう。
「じゃ、ズームからベストももらったことだし、崖登り係は原石採取に行くぞ!みんな、無線イヤホンマイク付けろ!」
私はリュックをテントの中に下ろし、ポシェットと無線イヤホンマイクを付けた。
「え、セナ元帥、あの崖登るんですか?」
やっぱり気になるよね。
「ええ、ちょっと事情があって」
セナ王女は苦笑していた。無理もないか。彼氏のローン返すためなんて言うに言えないものな。
「気を付けてください」
「大丈夫よ」
私たちは、崖の前に立った。もう後戻りは出来ない。
私は苦無を氷に突き刺した。分厚い氷ゆえ、崖までは刺さらない。けれど、問題は足元だ。滑り止めの靴は履いているが、踏み場は手探りになる。私は試しに1つ目に足をかけた。崖のとんがっている部分を覆う氷は確かに踏み場かもしれない。けれど、上まであるとは限らない。
私が止まっていると、セナ王女は、どんどん上に登りはじめている。やっぱり、セナ王女の力量は変わっていない。本当に元帥のままだ。
私も負けてられない。原石を採取しないと。私は、苦無を刺しては踏み場を見つけ、ゆっくり崖を登りはじめた。
アルフォンス王子とカラルリさんは、踏み場を見つけられないのか下で苦戦している。他のメンバーは、ゆっくりと登っていっているようだ。
「ねえ、ラルク。セナ王女、見えなくなっちゃったね」
こんな崖、プロでも苦戦するだろうに、セナ王女の姿は吹雪で、あっという間に見えなくなってしまった。
「まあ、場数が全然違うんだろうな」
それに、セナ王女はカラルリさんの責任も感じているのだろう。
「だねぇー。私たちも負けてられないね」
私たちは、とにかく登り続けた。この急過ぎて、頂上がどこか分からない崖を。ただただ、ひたすらに登り続けたのである。
踏み場が不安定な時は、近くの踏み場を探し、それもない時は、苦無を突き刺し、上の踏み場に足をかけた。命懸けの他、何ものでもない。けれど、これをクリア出来なければ、武士を極められない。
今は、ひたすら登り続けるのみ。
その時、カナエさんが踏み場を外し、パラシュートを開いた。されど、パラシュートは吹雪で吹き飛ばされ、カナエさんは咄嗟に岩の結界をかけた。
「男尽くしカナエ!アンタはテントで休んでろ!」
私たち、1時間半は登り続ている。カナエさんは、今日のところは休んだほうがいい。
「いいえ、カナエは登ります!お兄様をお救いします!」
カナエさんは、昔から根が強い。けれど、一度下りてしまったものを、1から登るというのは効率が悪い。けれど、カナエさんは、恐らくまた登りはじめている。
「ねえ、ラルク。頂上まで辿り着けるのかな」
こういう状況をチャレンジ精神と不安の隣り合わせとでも言うのだろうか。
「分からないな。ただ1つ言うなら、登りに3時間かかるなら、下りも3時間の合計6時間だ。上は温かいけど、下はかなり冷えてる。身体が使いものにならない前に下りるのが利口だ」
確かに、下は随分と冷えている。決して、マイナス50度を甘く見てはいけない。ズームさんとミネスさんが下で炎の舞を飛ばしてくれているが、上に行くほどに効き目が弱くなっている。
「平凡アルフォンス、一目惚れカラルリ。アンタら、結界係にまわれ!」
そうだ。結界をかけてもらえば、炎の舞で少しは温まるかもしれない。
「分かった」
最近のカラルリさんは、諦めが早いように思う。紀元前村では、それなりに粘っていたような記憶があるが。
「いや、私は諦め切れない。このまま、登れなかったら使いものにならない人間になってしまう」
アルフォンス王子も、遠い昔は強かったんだけどな。今となっては、プライド高いだけの人になっている。
カラルリさんが結界をかけてくれているのかもしれない。なのに、幅が狭くて、ここまでは届かない。
『結界かけた』
やっぱり、結界はかかってるんだ。でも、上までは届かない。ここまでくれば、時間の勝負だ。
『2時間半経ったよー!』
ミネスさんが時間を教えてくれた。
2時間半。紀元前村の果樹園の崖とは全然違う。
その時、ミナクさん、リリカさん、ナナミお姉様が結界をかけパラシュートで下りて行った。条件が厳しすぎる。
「悪い。僕もリタイア」
落ち武者さんまで、パラシュートで下りはじめた。
「ねえ、どうする?ラルク」
何だか、どうしていいか分からなくなってきた。姉が下りた時点で、私は諦めの気持ちを持ちはじめたのだと思う。
「僕はまだ登る。セナ王女1人で、このバイトは厳しいだろ」
確かに、セナ王女1人にさせるわけにはいかない。それだと、何のためにここに来たのか分からない。けれど、ナルホお兄様までパラシュートで下りて行った。
残されたのは、私とセナ王女、ラルクだけだ。
私、不安になっている。
『頂上よ!』
セナ王女の声。辿り着いたんだ。
『うーん。セナ王女で3時間15分21秒ってとこかな』
え、ズルエヌさん来てたの?
『アンタ、何でいんのさ』
てか、私たちはフェアリーサラブラーを走らせて来たと言うのに、ズルエヌさんは何で来たのだろう。
『ミネスから、氷河期町に古民家あるって聞いて興味本位で来ちゃった。てへ』
ズルエヌさんって、こんな人だったったっけ。朧気だけど、ズームさんとの結婚式では、物静かで大人しく口数も少なかったような。
「ズルエヌさん、僕たちも登るべきですか?」
どうしてラルクが聞くのだろう。
『登るべきだね。ラルクとナミネは残り124.5672……cm。この崖はまるで法則のようだ。40.6468……cmごとに踏み場があるよ。必ずしも真っ直ぐではないけどね。決められた位置のどこかに踏み場がある。だから、明日からはみんなが登れるよ』
法則?そんなふうには、とてもじゃないけど思えなかったが。124cmなら登るしかない!
『得体の知れないズルエヌ、アンタ、千里眼の持ち主かよ?』
千里眼。それなら落ち武者さんだって生まれつき持っている。
『そうだよー。君のように先天的じゃないけどね。時計騎士の研修極めたら崖の中まで見えるようになっちゃった』
かなりのレベルの持ち主なのか。
『へえ、アンタ、僕より見えんだ』
千里眼も後から学んでもズルエヌさんみたいに奥の奥まで見ることが出来る人もいるのか。
『あの、それって女の子の下着も見えるのでしょうか?』
どうして、こっちが真剣な時にヨルクさんはそういうこと聞くのだろう。
『もう、それ飛び越えて骨の中まで見えるけどね』
レントゲンより上回っている。ズルエヌさんの能力があれば、骨の病気の早期発見に繋がるのだろうな。
とりあえず私はズルエヌさんの40cmを参考に目分量で足をかけた。確かに、40cm感覚のどこかに踏み場がある。
『ダメだわ。原石が全く見つからない』
え、時間かけて命懸けで頂上まで登ったのに原石がない!?でも、自分の目で確かめないと。
「セナ王女、私とラルクも行きます!待っててください!」
原石なしで帰れるものか。私は諦めない。
私は、ひたすら集中に集中を重ね、正確に登り続けた。すると、崖の終わりが見えてきた。やっと、やっとだ。みんなみたいに諦めてパラシュートで下りなくてよかった。
「ナミネ、頂上到着」
私は崖の上にあがった。けれど、確かに原石がない。バイトのチラシには崖の上に原石がたくさん転がってる写真付いていたのに。広告というものは実にややこしい。あのチラシに騙された人もわんさかいるだろう。
『強気なナミネ、原石はどうだ?』
全く、欠片さえもないよ。
「全くありません!」
せっかく苦労して、ここまで登ってきたのに、これでは何のための苦労か分からない。
『土の中だよ。君のいるところから右50.2485……cm。深さ32.6475……cm』
下にあるというわけか。けれど、何で掘ろう。苦無を使ってしまえば、降りる時に困るだろう。
見るとセナ王女は短剣で氷を掘りはじめた。
「ナミネ、羽子板使うぞ!」
「うん、分かった、ラルク!」
私は羽子板を取り出し氷を掘りはじめた。理不尽なものだ。土が氷で覆われているから、氷から掘らなくてはならなくて、どのくらいかかるのか分からない。それに、原石を傷付けてしまってもダメだ。
うーん、羽子板だと掘りにくい。そうだ、サバイバルナイフ持ってた。
「ラルク、サバイバルナイフのほうが効率いいよ」
私はサバイバルナイフで氷を掘りはじめた。
「そうだな。セナ王女も結構掘り進めてるしな」
セナ王女、本当早い。カラルリさんに対する責任感からそうさせているかもしれないけれど。
氷が固くて掘りづらい。それでも、何もなしに帰るわけにはいかない。小さいのでいいから入手しなくては。
けれど、惚れども惚れども氷。土に辿り着けない。でも、ここで諦めては全てが台無しになってしまう。
「あった、あったわ!」
2cmほどの青い石。それがチラシで募集しているものかどうかは鑑定士しか分からないけれど。とりあえず、1つゲットってことでいいのだろうか。
ふう、やっと土に辿り着いた。
ん?何か当たってる。私はサバイバルナイフを地面に置いて手袋をつけた手で土を掘った。すると、赤い石があった。と言ってもわずか2mmくらいだ。これだと、学校の運動場の土に混じっているのと、そう変わらない。けれど、私は赤い石をチャック付きのビニール袋に入れた。
「小さいな」
ラルクのも5mmにも届かないくらいの小ささ。
「私もだよ。セナ王女の大きいよね」
「でも、これで少なくとも3つは採取したことになる。原石が、この町にしかないってことは原石の可能性も高いしな」
確かに、この町にしかないのなら原石である可能性が高い。チラシで求めてるのでなくて他の宝石の原石だとしても高値で買い取ってもらえるかもしれない。
『じゃ、3人とも下りてこい。今日の作業は終了だ』
私たちは、落ち武者さんの指示に従い、苦無を取り出した。
「はい、分かりました!」
「分かりました」
「了解よ」
セナ王女、下りるの早い。ズルエヌさんのアドバイスでコツ掴んだのかな。けれど、確かに40cm置きという法則があるのなら、踏み場がない不安が経験されるかもしれない。ラルクも早く下りている。本当は、パラシュート使いたいけれど、ここは確実な手段を取るべきだ。苦無で下りる!
私は禅を使った。遠い昔では、みんな使ってたっけ。アルフォンス王子とか凄かったな。
行きと違って下りは何となく吹雪にも慣れている気がする。けれど、早く身体を温めないと。宿には露天風呂があったはず。
セナ王女は1時間半で下り、ラルクは2時間、私は2時間20分で下りた。
「じゃ、今日の作業終了。宿に行く」
うう、寒い。私はテントの中に入った。
「あの、少し休ませてもらえませんか?」
ノンストップでの登り下り。ここで休憩しないと身体が持たない。
「じゃ、30分休憩する」
よかった。私たちが外にいる間、みんなここで休んでたのか。何だか、狡いと思ってしまう。
「僕は、シャム軍医の家に泊まるよ」
え、ズルエヌさん、この町に留まるの?けれど、家が温かいなら別に問題はないか。
「あ、春風町からここまで歩きだと、それなりに時間もかかりますし、体力も使いますので、自転車借りませんか?」
自転車があれば、少しは早く着くだろう。
「じゃ、自転車借りる」
「あの、私、自転車乗れないんです」
また、アヤネさんは迷惑かけるつもりなのだろうか。
「だったら、ズルエヌさんとシャム軍医の家に泊まればいいだけの話ですよね」
「そんな……400mも歩けません」
私はかなり頭に来た。
「ナミネ、お茶飲んで。喉乾いたでしょ」
ヨルクさんはマグボトルを私に渡した。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
私は、知らず知らずに喉が渇いていたのかマグボトルのお茶を一気に飲み干した。
時間とは早いものだ。あっという間に30分が経ち、ズルエヌさん以外は春風町の宿に向かう準備をしはじめた。
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あとがき。
しばらく時間空いてしまいました。
懐かしのシャム軍医ー!
かつてカラルリがライバル視してた人。
エリートがこんな町にいるなんて……。
でも、古代編が懐かしくなってきた!!
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この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
結局、あのあと、ナルホお兄様がアヤネさんを説得し、再びナノハナ家に連れ戻したらしい。アヤネさんはアヤネさんなりに反省したそうだが、私はその現場を知らない。
ただ覚えているのは、ヨルクさんの紅葉の香りだけ。
第4居間では、氷河期町に行く人が既に支度をして、朝食を取っていた。私もヨルクさんの隣で朝食を食べはじめた。
「あの、ナミネさん。昨日はごめんなさい」
嘘っぽい言葉を朝から聞くと、いやな気持ちにさせられる。もう、アヤネさんとは同じ空間にいたくない。
「絶対許せません!氷河期町から帰ったら、私、ナノハナ家出ていきます!」
最初はこんなんじゃなかった。恐らく紀元前村からだ。
人は、ひとたび中身を見てしまうと嫌気がさすこともある。表面上は、いくら大人しくても、態度によっては苦手意識を持ってしまうものである。
「ナミネさん。本当に反省しています」
ズームさんがいるから、ここにいるだけの人。別に私とは仲良くしたいわけではないだろうに。
「ナミネ。停電で、お父様たちの任務も減ってきているし、ナノハナ家は部屋がたくさん余ってるから下宿にするつもりなんだよ。馬が合わない人がいるからって追い出すわけにはいかないよね」
だから、私のほうが出て行くって言ってるんじゃない。
「ですから、私が出ていきます!」
「ナミネ、そんなこと言わないで。ナミネが出て行ったら私がここにいる意味なくなる」
ヨルクさんは悲しそうに私の手を握った。
アヤネさんとヨルクさんは趣味で繋がっているから、いいかもしれないけど、私は何の繋がりもない。けれど、ヨルクさんと離れるのはいやだ。こんな矛盾、自分でも馬鹿げていると分かっているのに。私は転生するたびに大人になっていて、それゆえ、中身は大人なはずなのに、不思議なものだ。若いと自然に思考も幼くなるものなのである。
「努力はします。でも、アヤネさんと私は合わないと思います」
合わないものは合わない。それを我慢して同じ空間にいるか、離れるかは人それぞれだが。少なくとも私は同じ空間にいると苛立つタイプだ。
「ナミネさん。本当に反省しています。今後は私から歩み寄ります」
それが出来れば苦労はしない。
それに、ナルホお兄様の言ってた下宿って何だろう。知らない人が、ぞろぞろとナノハナ家で暮らすのだろうか。それはそれでやりにくいものがあるだろう。
「もういいです!私が我慢します!どうせ、ズームさんと一緒になれず、どこかのおじさんと政略結婚する可哀想なアヤネさんですもんね」
あれ、ズームさんと一緒になれない。もしかして、アヤネさんは、遠い昔、私とズームさんが交際していたことに嫉妬しているのだろうか。女の敵は女と言うが、大人しい人も惚れた男のことになれば、冷静ではいられなくなるのだろうか。
「ナミネ。アヤネさんは、あのあと、氷河期町で過ごすための説明も読んだし、覚悟の上で行くんだよ。すぐにとは言わない。でも、せっかく縁あって、グループにいるんだから、大切にしたほうがいいよ。今の時間をね。青春なんてあっという間だから」
そんなの覚えていない。中学に上がるまでは早く感じたように思うけど、20代だって言ってしまえば青春ではないか。なにも、10代だけが青春というわけではないと思うが。
それに、覚悟ではなく、ズームさんと一緒にいたいだけでしょ。貴族って、どこまで脳内優雅なの。
「はいはい、分かりましたー!今後は、アヤネさんのこと透明人間だと思うことにしますー!」
私は、どこまでも素直になれない。だから、妖精村時代、何度もヨルクさんを失ったのだろう。自分では分かっている。でも、どうしようもないのだ。
「じゃ、出発する」
いよいよ、命懸けの仕事のはじまりだ。
私たちは、荷物を確認したあと、馬小屋の王室のフェアリーサラブラーとロリハー家のエンジェルブェロッラを外に連れ、馬を走らせた。
町から町を越え、春風町の宿を借りたあと、馬は宿の駐車場に置いて、氷河期町へ続く洞窟を歩いた。洞窟は約45分ほどだろうか。長すぎず短くもなく。けれど、作業があって終わるたび、春風町の宿に戻らなくてはならない。自転車屋で、自転車を借りた方がいいだろうか。
歩けば歩くほど、だんだんと寒くなってきた。私は帽子を被いてフードを被いた。尋常ではない寒さだ。身体が凍りそう。
「皆さん、大丈夫ですか?」
私は、みんなの安否を確かめた。
「僕は大丈夫だけど?」
「私も大丈夫だよ」
「私も大丈夫だ」
「カナエも大丈夫です」
「私も大丈夫よ」
崖登り係は大丈夫そうだけど、ズームさんやミネスさん、ラハルさん、アヤネさんは、かなり寒そうだ。
もうしばらく歩いていたら、洞窟の向こうが見えてきた。もうすぐ洞窟を抜ける。私たちは覚悟を決めた。
吹雪がここまで吹いてくる。
洞窟を抜けると、銀世界なんてものではない。
もはや何も見えないのである。全くというのは大袈裟かもしれない。掻い摘んで言うと、視界がかなり悪い。
地面は雪と言うより氷だろうか。何気に滑りやすい感じがする。
「では、テントは僕とミネスで張りますね」
テントなんて張れるのだろうか。
「あ、私も手伝います!」
こういうのは、みんなでしないと。
「僕たち含め、アンタも崖登り係だ。テントはズームとお子ちゃまミネスに張ってもらうぞ」
そうか。ここでは、無駄な体力は少しも使えない。
それにしても崖も氷で覆われていて、登れるかどうかも分からなければ頂上がどこにあるのかも見えない。
「テント張れましたよ」
え、もう張れたの?早くないだろうか。
私たちは、テントの中に入った。
「あったかい!」
思わず声に出してしまった。
「今年の秋にskyグループで売り出す予定なんです。恒星の光で温もっているので電池とか充電とか全くいらないんです」
skyグループ。やっぱり、規模が違う。恒星の光でも、充電式が多い中、このテントは多くの光を取り込んでくれるというわけか。
「妖精村が停電でもブランケット家は、電気で全部使えるよー!」
いいな。私も、お金持ちに生まれたかった。でも、武家も悪くないと思ってしまう。何不自由ない、何でも手に入る暮らしも大切だろうけど、私は私なりに手に入れてきたものもたくさんある。
「凄いですね。これなら、ナヤセス殿もヨルクさんもエルナさんも、凍えずに済みますね」
わざと、アヤネさんの名前を出さなかった。私の中では、もう仲間ではないからだ。
「ナミネ、本当に無理しないでね」
ヨルクさんは、崖は登れないけど私が心配で着いてきた。
「はい」
私はサングラスを付けようとした。雪山ゆえ、ほぼゴーグルだ。
「シャム軍医!?」
これまた珍しい人の名前が出た。
私は咄嗟にテントの外に出た。本当にシャム軍医だ。私は多分会ったことはないが、遠い昔、セナ王女の同僚だったのである。
「セナ元帥、お久しぶりです」
何だか、随分やつれている気がする。バイトで来たのだろうか。
「久しぶりね。シャム軍医も、バイト?」
私も、そこめちゃくちゃ気になる。
「いえ、ここに住んでいるんです」
ここに住んでる!?いったいどういうことなのだろう。
「え、どういうこと?」
本当、何がなんだか分からない。
「僕は、ここで生まれたんです。ここの住人は皆、最下層と呼ばれ、宝石の原石を採取させられています」
何それ!まるで、紀元前村の蓮華町ではないか。というか、それより酷い。妖精村にも、古代……いや、それ以外の暮らしをしている町があっただなんて。
「えっ、でも、こんなところ住めないじゃない」
とてもじゃないけど、このような寒いところで住めるわけがない。私は再びテントに入り顔だけ出した。セナ王女は寒くないのだろうか。
「ここから400mほどのところに、住人たちの家があります。政府から提供された家で、その中だと普通の暮らしが出来るんです。原石も採取出来ない人ばかりで、政府から賞味期限1年切れなどの食材は提供されています。僕は、医師としての知識はありますが、とてもじゃないけど、崖は登れません。だから、細々と生活しているのです」
酷い話だ。あんな崖、登れるわけがないのに、無理矢理に差別して、こんな町に閉じ込めて。
シャム軍医。顔はそこそこハンサムでエリート医師だったのに、現代ではこの有り様。まるで、ユウサクさんみたいだ。時代は分からない。武家に生まれたからといって来世でも武家というわけではない。
「ナミネさん、これを」
ベスト、だろうか。
「ありがとうございます、ズームさん」
私は早速ベストを着てみた。
「軽くてあったかい!」
また思わず声を出してしまった。
「このベストは人が着ることによって温まるんです」
ズームさんとは、もう暮らしの規模そのものが違う。ズームさんのように、何もかも恵まれた人もいるのに、この町で不自由な民として暮らさなければならない人もいる。世の中というものは、こうも不公平なものなのか。
ズームさんは、崖登り係にベストを渡しはじめた。
「酷い話ね。シャム軍医は、あんなにもエリートだったのに。こんなところで暮らしているだなんて思ってもみなかったわ」
それは同僚の誰もが思っているだろう。
「じゃ、ズームからベストももらったことだし、崖登り係は原石採取に行くぞ!みんな、無線イヤホンマイク付けろ!」
私はリュックをテントの中に下ろし、ポシェットと無線イヤホンマイクを付けた。
「え、セナ元帥、あの崖登るんですか?」
やっぱり気になるよね。
「ええ、ちょっと事情があって」
セナ王女は苦笑していた。無理もないか。彼氏のローン返すためなんて言うに言えないものな。
「気を付けてください」
「大丈夫よ」
私たちは、崖の前に立った。もう後戻りは出来ない。
私は苦無を氷に突き刺した。分厚い氷ゆえ、崖までは刺さらない。けれど、問題は足元だ。滑り止めの靴は履いているが、踏み場は手探りになる。私は試しに1つ目に足をかけた。崖のとんがっている部分を覆う氷は確かに踏み場かもしれない。けれど、上まであるとは限らない。
私が止まっていると、セナ王女は、どんどん上に登りはじめている。やっぱり、セナ王女の力量は変わっていない。本当に元帥のままだ。
私も負けてられない。原石を採取しないと。私は、苦無を刺しては踏み場を見つけ、ゆっくり崖を登りはじめた。
アルフォンス王子とカラルリさんは、踏み場を見つけられないのか下で苦戦している。他のメンバーは、ゆっくりと登っていっているようだ。
「ねえ、ラルク。セナ王女、見えなくなっちゃったね」
こんな崖、プロでも苦戦するだろうに、セナ王女の姿は吹雪で、あっという間に見えなくなってしまった。
「まあ、場数が全然違うんだろうな」
それに、セナ王女はカラルリさんの責任も感じているのだろう。
「だねぇー。私たちも負けてられないね」
私たちは、とにかく登り続けた。この急過ぎて、頂上がどこか分からない崖を。ただただ、ひたすらに登り続けたのである。
踏み場が不安定な時は、近くの踏み場を探し、それもない時は、苦無を突き刺し、上の踏み場に足をかけた。命懸けの他、何ものでもない。けれど、これをクリア出来なければ、武士を極められない。
今は、ひたすら登り続けるのみ。
その時、カナエさんが踏み場を外し、パラシュートを開いた。されど、パラシュートは吹雪で吹き飛ばされ、カナエさんは咄嗟に岩の結界をかけた。
「男尽くしカナエ!アンタはテントで休んでろ!」
私たち、1時間半は登り続ている。カナエさんは、今日のところは休んだほうがいい。
「いいえ、カナエは登ります!お兄様をお救いします!」
カナエさんは、昔から根が強い。けれど、一度下りてしまったものを、1から登るというのは効率が悪い。けれど、カナエさんは、恐らくまた登りはじめている。
「ねえ、ラルク。頂上まで辿り着けるのかな」
こういう状況をチャレンジ精神と不安の隣り合わせとでも言うのだろうか。
「分からないな。ただ1つ言うなら、登りに3時間かかるなら、下りも3時間の合計6時間だ。上は温かいけど、下はかなり冷えてる。身体が使いものにならない前に下りるのが利口だ」
確かに、下は随分と冷えている。決して、マイナス50度を甘く見てはいけない。ズームさんとミネスさんが下で炎の舞を飛ばしてくれているが、上に行くほどに効き目が弱くなっている。
「平凡アルフォンス、一目惚れカラルリ。アンタら、結界係にまわれ!」
そうだ。結界をかけてもらえば、炎の舞で少しは温まるかもしれない。
「分かった」
最近のカラルリさんは、諦めが早いように思う。紀元前村では、それなりに粘っていたような記憶があるが。
「いや、私は諦め切れない。このまま、登れなかったら使いものにならない人間になってしまう」
アルフォンス王子も、遠い昔は強かったんだけどな。今となっては、プライド高いだけの人になっている。
カラルリさんが結界をかけてくれているのかもしれない。なのに、幅が狭くて、ここまでは届かない。
『結界かけた』
やっぱり、結界はかかってるんだ。でも、上までは届かない。ここまでくれば、時間の勝負だ。
『2時間半経ったよー!』
ミネスさんが時間を教えてくれた。
2時間半。紀元前村の果樹園の崖とは全然違う。
その時、ミナクさん、リリカさん、ナナミお姉様が結界をかけパラシュートで下りて行った。条件が厳しすぎる。
「悪い。僕もリタイア」
落ち武者さんまで、パラシュートで下りはじめた。
「ねえ、どうする?ラルク」
何だか、どうしていいか分からなくなってきた。姉が下りた時点で、私は諦めの気持ちを持ちはじめたのだと思う。
「僕はまだ登る。セナ王女1人で、このバイトは厳しいだろ」
確かに、セナ王女1人にさせるわけにはいかない。それだと、何のためにここに来たのか分からない。けれど、ナルホお兄様までパラシュートで下りて行った。
残されたのは、私とセナ王女、ラルクだけだ。
私、不安になっている。
『頂上よ!』
セナ王女の声。辿り着いたんだ。
『うーん。セナ王女で3時間15分21秒ってとこかな』
え、ズルエヌさん来てたの?
『アンタ、何でいんのさ』
てか、私たちはフェアリーサラブラーを走らせて来たと言うのに、ズルエヌさんは何で来たのだろう。
『ミネスから、氷河期町に古民家あるって聞いて興味本位で来ちゃった。てへ』
ズルエヌさんって、こんな人だったったっけ。朧気だけど、ズームさんとの結婚式では、物静かで大人しく口数も少なかったような。
「ズルエヌさん、僕たちも登るべきですか?」
どうしてラルクが聞くのだろう。
『登るべきだね。ラルクとナミネは残り124.5672……cm。この崖はまるで法則のようだ。40.6468……cmごとに踏み場があるよ。必ずしも真っ直ぐではないけどね。決められた位置のどこかに踏み場がある。だから、明日からはみんなが登れるよ』
法則?そんなふうには、とてもじゃないけど思えなかったが。124cmなら登るしかない!
『得体の知れないズルエヌ、アンタ、千里眼の持ち主かよ?』
千里眼。それなら落ち武者さんだって生まれつき持っている。
『そうだよー。君のように先天的じゃないけどね。時計騎士の研修極めたら崖の中まで見えるようになっちゃった』
かなりのレベルの持ち主なのか。
『へえ、アンタ、僕より見えんだ』
千里眼も後から学んでもズルエヌさんみたいに奥の奥まで見ることが出来る人もいるのか。
『あの、それって女の子の下着も見えるのでしょうか?』
どうして、こっちが真剣な時にヨルクさんはそういうこと聞くのだろう。
『もう、それ飛び越えて骨の中まで見えるけどね』
レントゲンより上回っている。ズルエヌさんの能力があれば、骨の病気の早期発見に繋がるのだろうな。
とりあえず私はズルエヌさんの40cmを参考に目分量で足をかけた。確かに、40cm感覚のどこかに踏み場がある。
『ダメだわ。原石が全く見つからない』
え、時間かけて命懸けで頂上まで登ったのに原石がない!?でも、自分の目で確かめないと。
「セナ王女、私とラルクも行きます!待っててください!」
原石なしで帰れるものか。私は諦めない。
私は、ひたすら集中に集中を重ね、正確に登り続けた。すると、崖の終わりが見えてきた。やっと、やっとだ。みんなみたいに諦めてパラシュートで下りなくてよかった。
「ナミネ、頂上到着」
私は崖の上にあがった。けれど、確かに原石がない。バイトのチラシには崖の上に原石がたくさん転がってる写真付いていたのに。広告というものは実にややこしい。あのチラシに騙された人もわんさかいるだろう。
『強気なナミネ、原石はどうだ?』
全く、欠片さえもないよ。
「全くありません!」
せっかく苦労して、ここまで登ってきたのに、これでは何のための苦労か分からない。
『土の中だよ。君のいるところから右50.2485……cm。深さ32.6475……cm』
下にあるというわけか。けれど、何で掘ろう。苦無を使ってしまえば、降りる時に困るだろう。
見るとセナ王女は短剣で氷を掘りはじめた。
「ナミネ、羽子板使うぞ!」
「うん、分かった、ラルク!」
私は羽子板を取り出し氷を掘りはじめた。理不尽なものだ。土が氷で覆われているから、氷から掘らなくてはならなくて、どのくらいかかるのか分からない。それに、原石を傷付けてしまってもダメだ。
うーん、羽子板だと掘りにくい。そうだ、サバイバルナイフ持ってた。
「ラルク、サバイバルナイフのほうが効率いいよ」
私はサバイバルナイフで氷を掘りはじめた。
「そうだな。セナ王女も結構掘り進めてるしな」
セナ王女、本当早い。カラルリさんに対する責任感からそうさせているかもしれないけれど。
氷が固くて掘りづらい。それでも、何もなしに帰るわけにはいかない。小さいのでいいから入手しなくては。
けれど、惚れども惚れども氷。土に辿り着けない。でも、ここで諦めては全てが台無しになってしまう。
「あった、あったわ!」
2cmほどの青い石。それがチラシで募集しているものかどうかは鑑定士しか分からないけれど。とりあえず、1つゲットってことでいいのだろうか。
ふう、やっと土に辿り着いた。
ん?何か当たってる。私はサバイバルナイフを地面に置いて手袋をつけた手で土を掘った。すると、赤い石があった。と言ってもわずか2mmくらいだ。これだと、学校の運動場の土に混じっているのと、そう変わらない。けれど、私は赤い石をチャック付きのビニール袋に入れた。
「小さいな」
ラルクのも5mmにも届かないくらいの小ささ。
「私もだよ。セナ王女の大きいよね」
「でも、これで少なくとも3つは採取したことになる。原石が、この町にしかないってことは原石の可能性も高いしな」
確かに、この町にしかないのなら原石である可能性が高い。チラシで求めてるのでなくて他の宝石の原石だとしても高値で買い取ってもらえるかもしれない。
『じゃ、3人とも下りてこい。今日の作業は終了だ』
私たちは、落ち武者さんの指示に従い、苦無を取り出した。
「はい、分かりました!」
「分かりました」
「了解よ」
セナ王女、下りるの早い。ズルエヌさんのアドバイスでコツ掴んだのかな。けれど、確かに40cm置きという法則があるのなら、踏み場がない不安が経験されるかもしれない。ラルクも早く下りている。本当は、パラシュート使いたいけれど、ここは確実な手段を取るべきだ。苦無で下りる!
私は禅を使った。遠い昔では、みんな使ってたっけ。アルフォンス王子とか凄かったな。
行きと違って下りは何となく吹雪にも慣れている気がする。けれど、早く身体を温めないと。宿には露天風呂があったはず。
セナ王女は1時間半で下り、ラルクは2時間、私は2時間20分で下りた。
「じゃ、今日の作業終了。宿に行く」
うう、寒い。私はテントの中に入った。
「あの、少し休ませてもらえませんか?」
ノンストップでの登り下り。ここで休憩しないと身体が持たない。
「じゃ、30分休憩する」
よかった。私たちが外にいる間、みんなここで休んでたのか。何だか、狡いと思ってしまう。
「僕は、シャム軍医の家に泊まるよ」
え、ズルエヌさん、この町に留まるの?けれど、家が温かいなら別に問題はないか。
「あ、春風町からここまで歩きだと、それなりに時間もかかりますし、体力も使いますので、自転車借りませんか?」
自転車があれば、少しは早く着くだろう。
「じゃ、自転車借りる」
「あの、私、自転車乗れないんです」
また、アヤネさんは迷惑かけるつもりなのだろうか。
「だったら、ズルエヌさんとシャム軍医の家に泊まればいいだけの話ですよね」
「そんな……400mも歩けません」
私はかなり頭に来た。
「ナミネ、お茶飲んで。喉乾いたでしょ」
ヨルクさんはマグボトルを私に渡した。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
私は、知らず知らずに喉が渇いていたのかマグボトルのお茶を一気に飲み干した。
時間とは早いものだ。あっという間に30分が経ち、ズルエヌさん以外は春風町の宿に向かう準備をしはじめた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
しばらく時間空いてしまいました。
懐かしのシャム軍医ー!
かつてカラルリがライバル視してた人。
エリートがこんな町にいるなんて……。
でも、古代編が懐かしくなってきた!!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 106話
《ナミネ》
数日後。
ヨルクさんによって、私の熱は下がった。そして、私たちはまたナノハナ家に移動した。
あの日、カラクリ家でカラルリさんが首を吊った時、デパートで宝石ショップから離れるべきではないと思わされたのである。
他人ごと。されど、カラルリさんにだってキクリ家の家族がいる。もし、カラルリさんが命を失っていたら、セナ王女は王女の称号剥奪だけでは済まなかっただろう。
私はカラルリさんを助けたいと思った。
そんな時、カラクリ家のポストに、原石採取のバイトのチラシが入っていた。マイナス50度の猛吹雪の中、崖を登りフェアリールナとフェアリーフォンの原石を採取する。
紀元前村の果樹園の崖よりも、もっともっと高くて難易度が高い。けれど、私は自分の力量を試してみたかったのだ。
モールでは、落ち武者さんの指示した、雪山登山服、雪山登山靴、耳まで隠れる帽子、ヘルメット、サングラス、手袋、ポシェットを購入した。私が薄紫色の雪山登山服を選ぶとヨルクさんも同じものを選んだ。
紀元前村では、カギで登っていたが、今回は苦無を使う。キクリ家ではよく使うが、ナノハナ家では殆ど使わない。けれど、雪山となればカギでは不十分だろう。
また、崖の高さが半端ないため、命綱は使えない。猛吹雪のため、テントも張れない。妖精救命エアクッションを使ったとしても吹き飛ばされる可能性が高い。
とにかく今回はサバイバル以上の命懸けのミッションである。
崖を登るのは、私とラルク、セナ王女、アルフォンス王子、カナエさん、カラルリさん、ナルホお兄様、ナナミお姉様、リリカさん、落ち武者さん、ミナクさん。
医療係は、ナヤセス殿。
炎の舞係は、ズームさんとミネスさんである。炎の舞は数式で行われるが、上まで届くかは分からない。
見学は、ラハルさん。
私が心配でヨルクさんも着いて行くらしいが、ずっと動かず止まったままなんて大丈夫だろうか。ラハルさんとて同じだけれども。
崖を登る人が多いから、運が良ければ多くの給料がもらえる。しかし、油断は禁物だ。
他の人は、一部は作業はするだろうけど、セレナールさんとかアヤネさんとかはナノハナ家の使用人の世話になりそうだ。
行く時は、王室のフェアリーサラブラーに乗るが、毎日紅葉町に戻ることは出来ないから、氷河期町での仕事が終われば、隣町である春風町の宿を、しばらく借りることになるらしい。
崖は一度登って下りたら、その日の仕事は終わり。
鬼が出るか蛇が出るか。
分からないけど、やるしかない。
転生ローンなんて、ぼったくりもいいところだ。断れなかったカラルリさんもカラルリさんだが、お店側のやり方もやり方だ。そういうものを気にしない人もいるだろうけど、多くの人間は転生ローンなど組みたくはないだろう。
第4居間では、緊張感が溢れている。
そりゃそうだろう。私たちは、命懸けの仕事をするわけだから。それも、99%の人が命を落としている。そうまでして、売り出すハイブランドって何なのだろう。人の命より大切なのだろうか。妖精村の考え方も昔と随分と変わった。流されれば生きてはゆけない時代だ。
携帯はあれども、仲間うちの繋がりで、いざとなっても交番や病院に連絡することは出来ない。とにかく、みんなの無事を願うしかない。
「ナミネ、これ薄型だから使って」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
私はヨルクさんからオムツを受け取った。簡易トイレは一応置くが、あんな雪山でズボン下ろせば全身が冷えきってしまう。
「セルファ、本当に行くの?」
流石のエルナさんも、命懸けのバイトとなれば、いてもたってもいられないだろう。
「行くけど?とりあえず、必要なものは全部、紙にまとめたから目を通しとけ!一度転落すれば死ぬからね?例え生きてても転落者は二度と崖を登るな!炎の舞係にまわれ!間違っても伝説ワイヤーを使うのは禁止。必ず苦無を使え!万が一のパラシュートも吹き飛ばされることを想定しろ!絶対気を抜くな!」
落ち武者さんは、みんなに必要事項をまとめた紙を渡した。
ネットでは、上に上がりきれなかった人の投稿しかなかったから、崖の高さがどのくらいあるのかは分からない。登りも下りも苦無だ。原石を無事に採取しても1回にどのくらいの時間がかかるのだろう。
「はい、必ず原石を採取します!」
言ってみたものの、私自身、疑心暗鬼だ。もし、誰も登りきれなかったら、カラルリさんの転生ローンを返すことが出来ない。
されど、不安なのは皆同じ。やるかやらないかである。
「上の状況分からないから、無線イヤホンマイクは付けろ!僕の指示には必ず従え!」
今回は、落ち武者さんが指揮を執るのか。
ただでさえ、妖精村全域停電なのに。私たちは命懸けのバイトをしなくてはならない。それも長期間。
これも武士の宿命なのだろうか。
夕方過ぎに、バイトの申し込みに行ったら遺書を書かされた。予想は薄々していたけれど、やはり会社側も責任は負いたくないのだろう。けれど、ネットによると、チラシの書き方が悪いから家族が亡くなったなど、たくさん苦情も寄せられている。
私たちは潔く遺書を書いた。
まるで、僧侶の百日修行だな。あの者たちは、死んだとしても悔いはないのだろうか。そこまで己を極めて、いったいなんになるのだろう。
ちなみに、遺書は、崖を登る者だけでなく、氷河期町に行く人全員が書いたのである。マイナス50度ともあれば、何もしなくても命を失う可能性が高い。それでも行くしかないのだ。
遺書を書き終え、ナノハナ家に戻ってきた私は既に疲れている。ああいうのは、メンタルに堪える。周りを見ると、みんなも似たような感じだ。
「ナミネ、今からカナエさんたちと夕ご飯作るね」
「はい」
ここでヨルクさんの手作りご飯を食べるのは明日の朝までだ。バイトをしている間は、しばらくここには戻れない。けれど、私は必ず生きて戻る。
これは私にとっての1つの試練なのだ。
「やっぱり私も行きます」
突然、アヤネさんが行くと言い出した。正直、ズームさんがいるからといって、それだけで行くのは無謀だと思う。
「あの、アヤネさん。見学とて命懸けなんです。今回は諦めてください」
お荷物を抱えるのはごめんだ。ただでさえ自分のことで精一杯なのに。
「僕は別にいいけど?けど、誰にも頼らず自分のことは自分でやれるならね?」
落ち武者さん、また無責任なこと言ってる。そういう問題ではなく、貴族のアヤネさんには持ち堪えられないから私は反対しているのに。
「はい、誰にも迷惑はかけません!」
そんな嘘、誰が信じるのだろう。
「じゃ、ここで遺書書け!書いたら紙飛行機にして飛ばす」
「分かりました」
アヤネさんは、落ち武者さんが渡した遺書を書きはじめた。
紀元前村でもナノハナ家でも何もしてなかったアヤネさんが氷河期町の過酷さに耐え切れるとは到底思えない。
行くと決めたのはアヤネさんだから私は責任など一切取るつもりはない。
「アヤネさん。行くなら行くで馬もご自分で乗ってください」
ナヤセス殿やラハルさんは仕方ないけど、アヤネさんは己のワガママで行くわけだから、誰かの重荷になるのはおかしいと思う。
「分かりました。すぐに武官を呼びます」
そう来たか。
アヤネさんは、無線でロリハー家に連絡をした。貴族と武士は、分かり合えないというか、時折、犬猿の仲にも思えてくる。
25分ほどすると、ロリハー家の特殊武官がナノハナ家に来た。
「ナミネ、馬見に行こうぜ」
「え、あ、うん」
正直、興味ないけれど、私はラルクに着いて行った。
ナノハナ家の前には黒い馬が一頭いた。武家は普通の茶色い馬だというのに、貴族は贅沢なもんだ。
「これエンジェルブェロッラだぜ!」
何それ。聞いたこともない。
「そんなの聞いたことないよ」
「フェアリーサラブラーほどでないけど、ギャロップで時速100キロ出るんだ」
武家だって、そんな馬置いてない。
「へえ、そうなんだ。貴族っていい気なもんだよね。高価な馬所有してさ」
私は少し拗ねていた。別に貴族になりたいわけではないけれど、この世はやはり暗黙に暮らしの階級が存在してる。
「まあ、貴族は優雅がモットーだからな」
努力しなくても、なんでも手に入る。そういうの私はあまり好きではない。けれど、貴族にとっては、お金さえあれば何でも出来てしまうそんな世界で住んでいるのだ。
「この馬、服着てないけど大丈夫なのかな」
アヤネさんは、言葉足らずの世間知らずだ。王室の馬は万が一の時のために防寒服を着せている。
「まあ、春風町の宿に置いとくからいいんじゃないか?」
「そうだね」
とは言えども、やはり気になってしまう。
私は、第4居間に戻るなりアヤネさんの前に立った。
「あの、アヤネさん。連れて来た馬、服着てませんが、少し無防備すぎませんか?」
「アヤネお嬢様に命令するのではなく、何かあれば、私にお申し付けください」
貴族って、本当に何もしないんだ。
「あの、お言葉ですが、武官は使用人ではありません!馬を所有しているなら、ご自身で点検するのが普通でしょう!」
私は思わず声をあげてしまった。
「ナミネ、やめようか。アヤネさんにはアヤネさんの家のやり方があるんだよね。ナノハナ家のやり方の押し付けはよくないよ」
ナルホお兄様までアヤネさんのこと庇って。本当なんなの!
「もういいです!そうやって、周りに何もかもしてもらう人生送ればいいと思います!家が破綻したら何もかも失いますけどね!」
私が苛立っている間、結局、ロリハー家の武官が馬に防寒服を着せに行っていた。
「強気なナミネ、アンタ何そんなに苛立ってんのさ。人見下しアヤネは勝手にやってんだからいいと思うけどね?」
勝手にもほどがある。それに、落ち武者さんが必要事項をまとめた紙のものは持っているのだろうか。
「勝手にって。アヤネさんは、必要なもの、何も買ってなかったじゃないですか!」
「それなら、武官が全て持って来てくれました」
武官武官。本当に苛立つ。
「つまり、自分では何一つやってないってことですね」
準備もそうだけど、物ごとと言うのは自分がやらなければ、意味がない。自分の目で確認していないのなら、使い方だって分からないだろうし。現場で躊躇するのが目に見えている。
「あの、さっきから私のこと悪く言ってませんか?もうその手には乗りません。ナミネさんは、自分の価値観押し付けるだけ押し付けて自分が出来る人間だと威張りたいだけです。私からしてみれば滑稽です」
滑稽!?私はただ、自分で確認しろと言っているだけなのに。被害妄想もいいところだ。アヤネさんって、こんな人だったんだ。一見大人しそうに見えて、心の中では周囲のこと見下している。
けれど、家柄と現場で発する能力は別物だ。言っても分からないなら私はもう知らない。勝手にすればいい。
「はいはい、すみませんでしたー!」
あんな性格で貰い手なんているのだろうか。
「私もナミネが怒るの無理ないと思うわ。誰かにやってもらった。それって自分では何一つ確認してないってことよね。シュミレーションもせずに、ぶっつけ本番なんてありえないわ」
やはり、リリカさんも同じ意見。
私たちは失敗の許されない環境で育って来たから貴族とは価値観が異なってくる。
「僕もそう思うな。命懸けの場所に行くのに一度もシュミレーションしてないなんて、ちょっとどうかと思う。ナミネがどうして怒るのか、それさえ考えられない人間と行動するのは心苦しいね」
素人のラハルさんだって、ちゃんと心構えはしている。
「どうして、みんなして私を責めるんですか!」
さっきの強気な姿勢はどうした。結局、多数派に揺るぐほどの人間など、自分を持っていないにすぎない。
「みんな落ち着こうか。いくら正論でも、それが人を傷つけてしまうこともあるよね。現場では長時間の結界は使えないから、テントの中にいなければならないけど、アヤネさんのことはナヤセスさんが見ててくれるかな」
ナルホお兄様って甘すぎる。こんなことで、ナノハナ家の跡取りが務まるのだろうか。
「うん、分かった。春風町は洞窟抜けてすぐだから、いざとなれば春風町の医者も呼べるし、無理なら無理で宿で過ごしたらいいよ」
宿で過ごすなんて、何のために行くのか分からないじゃない。
「ねえ、ラルク。アヤネさんってワガママだよね」
「ナミネ、放っておけ」
「もうやめてください!」
アヤネさんは泣きはじめた。
その時、カナエさんたちが晩ご飯を運んできた。今日はお鍋か。季節外れだけれど、時経てば、よい思い出になるだろう。
「ナミネ、いっぱい食べて明日に備えてね」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
ヨルクさんは、取り皿に私の好きなものを入れてくれた。
「ナミネさんだって、ヨルクさんに何もかもしてもらっているじゃないですか」
本当、何?私はもうアヤネさんに何も言ってないのに。執着が凄い。
「何があったか知りませんが、ナミネはヨルクを守り、ヨルクはナミネのお世話をしています。カナエは、それでいいと思います」
アヤネさんは、孤立しがちだ。ここへ来る前も友達とかいなかったのだろうか。
「この料理、庶民的ですね」
もう我慢ならない。私は扇子を取り出した。
「セルファ、やっぱり私も行く!」
エ、エルナさんも!?今から準備出来るのだろうか。
「だろうと思ってた。強気なナミネの部屋にアンタの用意してあるから、それ使え!」
落ち武者さんって、やっぱりエルナさんのこと好きなんだ。どうして復縁しないのだろう。こんなに好き合っているのに。
「ありがとう、セルファ」
「エルナさんだって土壇場じゃないですか!それでも私だけを責めるんですか?」
責めているんじゃなくて、アヤネさんの態度が強かだから、こちらも心穏やかでなくなるのに。
「エルナさんは、雪山の経験ありますか?」
貴族って何して暮らして来たのだろう。
「氷河期町ではないけど、氷町でしょっちゅうスケートしてたわ。どこもかしこも地面は氷だからホテルに着くまでが寒かったわね」
氷町。そんなところが存在するのか。やっぱり貴族は違うんだな。
「氷町はスケートの本場だからね?」
スケートかあ。小さい頃は、紅葉町のスケート場に連れて行ってもらったりもしていたけど、本場はスケート場とは比べものにならないくらい広いのだろう。
「あー、なんかいかにも貴族って感じですね」
私がお変わりしようとしたら、既にヨルクさんが2杯目を入れてくれていた。
「ナミネさんこそ、何でもヨルクさんがやっていて、ご自分では何もなさらないんですね」
こういう言われ方、本当に気分を害する。私はアヤネさんを無視した。
「貴族と言っても、結局は就職活動になれば、みんなと同じよ。兄は画家を目指してるけど、絵で食べて行けるかどうか分からないわ」
就職活動か。貴族だからといって、企業が優遇してくれるわけではないのか。そりゃそうか。有能でない人材など必要ないだろう。
「エルナ、お兄様いるの?」
ヨルクさんって、やっぱり世間知らず。
「あら、あなたに兄弟がいるように私にもいるわ」
「あ、そうだよね」
昔は、貴族も武家並に跡取りがいたが、今では貴族の跡取りは減りつつあるらしい。アヤネさんとか、ひとりっ子なんじゃないの。
「ねえ、ラルク。アヤネさんって、ひとりっ子っぽいよね」
「まあ、そう見えなくもないけど、分かんないな」
「末っ子って、みんなこうなのでしょうか?私には姉がいます」
ひとりっ子じゃないんだ。なんか意外。
「アヤネ、どうしたのですか!カナエもナミネもラルクも末っ子です。姉ということは、アヤネも末っ子ですよね?」
なるほど。そういう見方もあるか。
「2人姉妹に末っ子も何もありませんよね。あなた方の兄弟の多さに比べたら。ナミネさんのお父様なんて浮気してますもんね」
私は思わずアヤネさんに熱いお茶をかけた。
「熱い!」
ロリハー家の武官は私を取り押さえようとしたが、その前に私は花札を投げ、武官に扇子を突き付けた。
「弱い武官ですね。貴族なのに、強い武官も雇えないのですか?」
私の家族を馬鹿にするなんて許せない。私は自分が思う以上に苛立っていた。
「武官の拘束は解かない。明日行きたいなら人見下しアヤネ1人で行け!」
「そんな……あんまりです……。どうして私だけをイジメるんですか!」
ナナミお姉様が立ち上がった。
「アヤネさん。ナノハナ家にいてもらうのは構いませんが、人の家族の悪口はやめてもらえませんか?ナミネも混乱しちゃいましたし」
「すみません。カッとなってしまいました。お許しください」
どうしてナナミお姉様なら生意気な態度取らないの。こういう差別、私はきらいだ。私はラルクに抱き着いた。
「悔しいよ。ラルク、私こんなふうに馬鹿にされて悔しい」
気が付いたら涙がポロポロ零れていた。
「アヤネ先輩をメンバーから外そう」
ラルクはナノハナ家の武官を呼んだ。
「やめてください!お父様に言いつけますわよ!」
その瞬間、武官はアヤネさんを離した。
結局、有利なのはお金持ちだ。悔しい。どうして浮気とか他所の家庭を侮辱されなければならないのだろう。
頭がグルグル回る。気が付けば私は泣きながら部屋中のものを投げていた。そして、羽子板でアヤネさんを叩いた。
「痛い!許してください!本当にカッとなっただけで馬鹿にしたわけではありません!」
今更謝られても、もう遅かった。アヤネさんを無理矢理ナノハナ家から追い出したあとのことは覚えていない。
気が付いたら部屋の布団の中にいたことも。ヨルクさんが、お風呂に入れてくれたことも。ヨルクさんに抱き締められながら眠ったことも。
精神的なショックで私は虚ろになっていたのだ。
目を覚ますと時刻は4時。
私はラルクと水汲みをしたあと、雪山登山服に着替え、持ち物を何度も確認した。
いよいよ、命懸けバイトのはじまりの幕が開けた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
最初に遺書書くとか、もう僧侶の百日行みたいですね。
ズームと一緒にいたさだけで、危険な場所に行くと決めたアヤネ。無謀だとナミネが指摘するものの、アヤネの態度がどんどん変わってゆく。
どうしてアヤネは孤立してしまうのでしょう。調和が取れないのでしょう。
せっかく気合い入れていたナミネがかわいそう。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
数日後。
ヨルクさんによって、私の熱は下がった。そして、私たちはまたナノハナ家に移動した。
あの日、カラクリ家でカラルリさんが首を吊った時、デパートで宝石ショップから離れるべきではないと思わされたのである。
他人ごと。されど、カラルリさんにだってキクリ家の家族がいる。もし、カラルリさんが命を失っていたら、セナ王女は王女の称号剥奪だけでは済まなかっただろう。
私はカラルリさんを助けたいと思った。
そんな時、カラクリ家のポストに、原石採取のバイトのチラシが入っていた。マイナス50度の猛吹雪の中、崖を登りフェアリールナとフェアリーフォンの原石を採取する。
紀元前村の果樹園の崖よりも、もっともっと高くて難易度が高い。けれど、私は自分の力量を試してみたかったのだ。
モールでは、落ち武者さんの指示した、雪山登山服、雪山登山靴、耳まで隠れる帽子、ヘルメット、サングラス、手袋、ポシェットを購入した。私が薄紫色の雪山登山服を選ぶとヨルクさんも同じものを選んだ。
紀元前村では、カギで登っていたが、今回は苦無を使う。キクリ家ではよく使うが、ナノハナ家では殆ど使わない。けれど、雪山となればカギでは不十分だろう。
また、崖の高さが半端ないため、命綱は使えない。猛吹雪のため、テントも張れない。妖精救命エアクッションを使ったとしても吹き飛ばされる可能性が高い。
とにかく今回はサバイバル以上の命懸けのミッションである。
崖を登るのは、私とラルク、セナ王女、アルフォンス王子、カナエさん、カラルリさん、ナルホお兄様、ナナミお姉様、リリカさん、落ち武者さん、ミナクさん。
医療係は、ナヤセス殿。
炎の舞係は、ズームさんとミネスさんである。炎の舞は数式で行われるが、上まで届くかは分からない。
見学は、ラハルさん。
私が心配でヨルクさんも着いて行くらしいが、ずっと動かず止まったままなんて大丈夫だろうか。ラハルさんとて同じだけれども。
崖を登る人が多いから、運が良ければ多くの給料がもらえる。しかし、油断は禁物だ。
他の人は、一部は作業はするだろうけど、セレナールさんとかアヤネさんとかはナノハナ家の使用人の世話になりそうだ。
行く時は、王室のフェアリーサラブラーに乗るが、毎日紅葉町に戻ることは出来ないから、氷河期町での仕事が終われば、隣町である春風町の宿を、しばらく借りることになるらしい。
崖は一度登って下りたら、その日の仕事は終わり。
鬼が出るか蛇が出るか。
分からないけど、やるしかない。
転生ローンなんて、ぼったくりもいいところだ。断れなかったカラルリさんもカラルリさんだが、お店側のやり方もやり方だ。そういうものを気にしない人もいるだろうけど、多くの人間は転生ローンなど組みたくはないだろう。
第4居間では、緊張感が溢れている。
そりゃそうだろう。私たちは、命懸けの仕事をするわけだから。それも、99%の人が命を落としている。そうまでして、売り出すハイブランドって何なのだろう。人の命より大切なのだろうか。妖精村の考え方も昔と随分と変わった。流されれば生きてはゆけない時代だ。
携帯はあれども、仲間うちの繋がりで、いざとなっても交番や病院に連絡することは出来ない。とにかく、みんなの無事を願うしかない。
「ナミネ、これ薄型だから使って」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
私はヨルクさんからオムツを受け取った。簡易トイレは一応置くが、あんな雪山でズボン下ろせば全身が冷えきってしまう。
「セルファ、本当に行くの?」
流石のエルナさんも、命懸けのバイトとなれば、いてもたってもいられないだろう。
「行くけど?とりあえず、必要なものは全部、紙にまとめたから目を通しとけ!一度転落すれば死ぬからね?例え生きてても転落者は二度と崖を登るな!炎の舞係にまわれ!間違っても伝説ワイヤーを使うのは禁止。必ず苦無を使え!万が一のパラシュートも吹き飛ばされることを想定しろ!絶対気を抜くな!」
落ち武者さんは、みんなに必要事項をまとめた紙を渡した。
ネットでは、上に上がりきれなかった人の投稿しかなかったから、崖の高さがどのくらいあるのかは分からない。登りも下りも苦無だ。原石を無事に採取しても1回にどのくらいの時間がかかるのだろう。
「はい、必ず原石を採取します!」
言ってみたものの、私自身、疑心暗鬼だ。もし、誰も登りきれなかったら、カラルリさんの転生ローンを返すことが出来ない。
されど、不安なのは皆同じ。やるかやらないかである。
「上の状況分からないから、無線イヤホンマイクは付けろ!僕の指示には必ず従え!」
今回は、落ち武者さんが指揮を執るのか。
ただでさえ、妖精村全域停電なのに。私たちは命懸けのバイトをしなくてはならない。それも長期間。
これも武士の宿命なのだろうか。
夕方過ぎに、バイトの申し込みに行ったら遺書を書かされた。予想は薄々していたけれど、やはり会社側も責任は負いたくないのだろう。けれど、ネットによると、チラシの書き方が悪いから家族が亡くなったなど、たくさん苦情も寄せられている。
私たちは潔く遺書を書いた。
まるで、僧侶の百日修行だな。あの者たちは、死んだとしても悔いはないのだろうか。そこまで己を極めて、いったいなんになるのだろう。
ちなみに、遺書は、崖を登る者だけでなく、氷河期町に行く人全員が書いたのである。マイナス50度ともあれば、何もしなくても命を失う可能性が高い。それでも行くしかないのだ。
遺書を書き終え、ナノハナ家に戻ってきた私は既に疲れている。ああいうのは、メンタルに堪える。周りを見ると、みんなも似たような感じだ。
「ナミネ、今からカナエさんたちと夕ご飯作るね」
「はい」
ここでヨルクさんの手作りご飯を食べるのは明日の朝までだ。バイトをしている間は、しばらくここには戻れない。けれど、私は必ず生きて戻る。
これは私にとっての1つの試練なのだ。
「やっぱり私も行きます」
突然、アヤネさんが行くと言い出した。正直、ズームさんがいるからといって、それだけで行くのは無謀だと思う。
「あの、アヤネさん。見学とて命懸けなんです。今回は諦めてください」
お荷物を抱えるのはごめんだ。ただでさえ自分のことで精一杯なのに。
「僕は別にいいけど?けど、誰にも頼らず自分のことは自分でやれるならね?」
落ち武者さん、また無責任なこと言ってる。そういう問題ではなく、貴族のアヤネさんには持ち堪えられないから私は反対しているのに。
「はい、誰にも迷惑はかけません!」
そんな嘘、誰が信じるのだろう。
「じゃ、ここで遺書書け!書いたら紙飛行機にして飛ばす」
「分かりました」
アヤネさんは、落ち武者さんが渡した遺書を書きはじめた。
紀元前村でもナノハナ家でも何もしてなかったアヤネさんが氷河期町の過酷さに耐え切れるとは到底思えない。
行くと決めたのはアヤネさんだから私は責任など一切取るつもりはない。
「アヤネさん。行くなら行くで馬もご自分で乗ってください」
ナヤセス殿やラハルさんは仕方ないけど、アヤネさんは己のワガママで行くわけだから、誰かの重荷になるのはおかしいと思う。
「分かりました。すぐに武官を呼びます」
そう来たか。
アヤネさんは、無線でロリハー家に連絡をした。貴族と武士は、分かり合えないというか、時折、犬猿の仲にも思えてくる。
25分ほどすると、ロリハー家の特殊武官がナノハナ家に来た。
「ナミネ、馬見に行こうぜ」
「え、あ、うん」
正直、興味ないけれど、私はラルクに着いて行った。
ナノハナ家の前には黒い馬が一頭いた。武家は普通の茶色い馬だというのに、貴族は贅沢なもんだ。
「これエンジェルブェロッラだぜ!」
何それ。聞いたこともない。
「そんなの聞いたことないよ」
「フェアリーサラブラーほどでないけど、ギャロップで時速100キロ出るんだ」
武家だって、そんな馬置いてない。
「へえ、そうなんだ。貴族っていい気なもんだよね。高価な馬所有してさ」
私は少し拗ねていた。別に貴族になりたいわけではないけれど、この世はやはり暗黙に暮らしの階級が存在してる。
「まあ、貴族は優雅がモットーだからな」
努力しなくても、なんでも手に入る。そういうの私はあまり好きではない。けれど、貴族にとっては、お金さえあれば何でも出来てしまうそんな世界で住んでいるのだ。
「この馬、服着てないけど大丈夫なのかな」
アヤネさんは、言葉足らずの世間知らずだ。王室の馬は万が一の時のために防寒服を着せている。
「まあ、春風町の宿に置いとくからいいんじゃないか?」
「そうだね」
とは言えども、やはり気になってしまう。
私は、第4居間に戻るなりアヤネさんの前に立った。
「あの、アヤネさん。連れて来た馬、服着てませんが、少し無防備すぎませんか?」
「アヤネお嬢様に命令するのではなく、何かあれば、私にお申し付けください」
貴族って、本当に何もしないんだ。
「あの、お言葉ですが、武官は使用人ではありません!馬を所有しているなら、ご自身で点検するのが普通でしょう!」
私は思わず声をあげてしまった。
「ナミネ、やめようか。アヤネさんにはアヤネさんの家のやり方があるんだよね。ナノハナ家のやり方の押し付けはよくないよ」
ナルホお兄様までアヤネさんのこと庇って。本当なんなの!
「もういいです!そうやって、周りに何もかもしてもらう人生送ればいいと思います!家が破綻したら何もかも失いますけどね!」
私が苛立っている間、結局、ロリハー家の武官が馬に防寒服を着せに行っていた。
「強気なナミネ、アンタ何そんなに苛立ってんのさ。人見下しアヤネは勝手にやってんだからいいと思うけどね?」
勝手にもほどがある。それに、落ち武者さんが必要事項をまとめた紙のものは持っているのだろうか。
「勝手にって。アヤネさんは、必要なもの、何も買ってなかったじゃないですか!」
「それなら、武官が全て持って来てくれました」
武官武官。本当に苛立つ。
「つまり、自分では何一つやってないってことですね」
準備もそうだけど、物ごとと言うのは自分がやらなければ、意味がない。自分の目で確認していないのなら、使い方だって分からないだろうし。現場で躊躇するのが目に見えている。
「あの、さっきから私のこと悪く言ってませんか?もうその手には乗りません。ナミネさんは、自分の価値観押し付けるだけ押し付けて自分が出来る人間だと威張りたいだけです。私からしてみれば滑稽です」
滑稽!?私はただ、自分で確認しろと言っているだけなのに。被害妄想もいいところだ。アヤネさんって、こんな人だったんだ。一見大人しそうに見えて、心の中では周囲のこと見下している。
けれど、家柄と現場で発する能力は別物だ。言っても分からないなら私はもう知らない。勝手にすればいい。
「はいはい、すみませんでしたー!」
あんな性格で貰い手なんているのだろうか。
「私もナミネが怒るの無理ないと思うわ。誰かにやってもらった。それって自分では何一つ確認してないってことよね。シュミレーションもせずに、ぶっつけ本番なんてありえないわ」
やはり、リリカさんも同じ意見。
私たちは失敗の許されない環境で育って来たから貴族とは価値観が異なってくる。
「僕もそう思うな。命懸けの場所に行くのに一度もシュミレーションしてないなんて、ちょっとどうかと思う。ナミネがどうして怒るのか、それさえ考えられない人間と行動するのは心苦しいね」
素人のラハルさんだって、ちゃんと心構えはしている。
「どうして、みんなして私を責めるんですか!」
さっきの強気な姿勢はどうした。結局、多数派に揺るぐほどの人間など、自分を持っていないにすぎない。
「みんな落ち着こうか。いくら正論でも、それが人を傷つけてしまうこともあるよね。現場では長時間の結界は使えないから、テントの中にいなければならないけど、アヤネさんのことはナヤセスさんが見ててくれるかな」
ナルホお兄様って甘すぎる。こんなことで、ナノハナ家の跡取りが務まるのだろうか。
「うん、分かった。春風町は洞窟抜けてすぐだから、いざとなれば春風町の医者も呼べるし、無理なら無理で宿で過ごしたらいいよ」
宿で過ごすなんて、何のために行くのか分からないじゃない。
「ねえ、ラルク。アヤネさんってワガママだよね」
「ナミネ、放っておけ」
「もうやめてください!」
アヤネさんは泣きはじめた。
その時、カナエさんたちが晩ご飯を運んできた。今日はお鍋か。季節外れだけれど、時経てば、よい思い出になるだろう。
「ナミネ、いっぱい食べて明日に備えてね」
「ありがとうございます、ヨルクさん」
ヨルクさんは、取り皿に私の好きなものを入れてくれた。
「ナミネさんだって、ヨルクさんに何もかもしてもらっているじゃないですか」
本当、何?私はもうアヤネさんに何も言ってないのに。執着が凄い。
「何があったか知りませんが、ナミネはヨルクを守り、ヨルクはナミネのお世話をしています。カナエは、それでいいと思います」
アヤネさんは、孤立しがちだ。ここへ来る前も友達とかいなかったのだろうか。
「この料理、庶民的ですね」
もう我慢ならない。私は扇子を取り出した。
「セルファ、やっぱり私も行く!」
エ、エルナさんも!?今から準備出来るのだろうか。
「だろうと思ってた。強気なナミネの部屋にアンタの用意してあるから、それ使え!」
落ち武者さんって、やっぱりエルナさんのこと好きなんだ。どうして復縁しないのだろう。こんなに好き合っているのに。
「ありがとう、セルファ」
「エルナさんだって土壇場じゃないですか!それでも私だけを責めるんですか?」
責めているんじゃなくて、アヤネさんの態度が強かだから、こちらも心穏やかでなくなるのに。
「エルナさんは、雪山の経験ありますか?」
貴族って何して暮らして来たのだろう。
「氷河期町ではないけど、氷町でしょっちゅうスケートしてたわ。どこもかしこも地面は氷だからホテルに着くまでが寒かったわね」
氷町。そんなところが存在するのか。やっぱり貴族は違うんだな。
「氷町はスケートの本場だからね?」
スケートかあ。小さい頃は、紅葉町のスケート場に連れて行ってもらったりもしていたけど、本場はスケート場とは比べものにならないくらい広いのだろう。
「あー、なんかいかにも貴族って感じですね」
私がお変わりしようとしたら、既にヨルクさんが2杯目を入れてくれていた。
「ナミネさんこそ、何でもヨルクさんがやっていて、ご自分では何もなさらないんですね」
こういう言われ方、本当に気分を害する。私はアヤネさんを無視した。
「貴族と言っても、結局は就職活動になれば、みんなと同じよ。兄は画家を目指してるけど、絵で食べて行けるかどうか分からないわ」
就職活動か。貴族だからといって、企業が優遇してくれるわけではないのか。そりゃそうか。有能でない人材など必要ないだろう。
「エルナ、お兄様いるの?」
ヨルクさんって、やっぱり世間知らず。
「あら、あなたに兄弟がいるように私にもいるわ」
「あ、そうだよね」
昔は、貴族も武家並に跡取りがいたが、今では貴族の跡取りは減りつつあるらしい。アヤネさんとか、ひとりっ子なんじゃないの。
「ねえ、ラルク。アヤネさんって、ひとりっ子っぽいよね」
「まあ、そう見えなくもないけど、分かんないな」
「末っ子って、みんなこうなのでしょうか?私には姉がいます」
ひとりっ子じゃないんだ。なんか意外。
「アヤネ、どうしたのですか!カナエもナミネもラルクも末っ子です。姉ということは、アヤネも末っ子ですよね?」
なるほど。そういう見方もあるか。
「2人姉妹に末っ子も何もありませんよね。あなた方の兄弟の多さに比べたら。ナミネさんのお父様なんて浮気してますもんね」
私は思わずアヤネさんに熱いお茶をかけた。
「熱い!」
ロリハー家の武官は私を取り押さえようとしたが、その前に私は花札を投げ、武官に扇子を突き付けた。
「弱い武官ですね。貴族なのに、強い武官も雇えないのですか?」
私の家族を馬鹿にするなんて許せない。私は自分が思う以上に苛立っていた。
「武官の拘束は解かない。明日行きたいなら人見下しアヤネ1人で行け!」
「そんな……あんまりです……。どうして私だけをイジメるんですか!」
ナナミお姉様が立ち上がった。
「アヤネさん。ナノハナ家にいてもらうのは構いませんが、人の家族の悪口はやめてもらえませんか?ナミネも混乱しちゃいましたし」
「すみません。カッとなってしまいました。お許しください」
どうしてナナミお姉様なら生意気な態度取らないの。こういう差別、私はきらいだ。私はラルクに抱き着いた。
「悔しいよ。ラルク、私こんなふうに馬鹿にされて悔しい」
気が付いたら涙がポロポロ零れていた。
「アヤネ先輩をメンバーから外そう」
ラルクはナノハナ家の武官を呼んだ。
「やめてください!お父様に言いつけますわよ!」
その瞬間、武官はアヤネさんを離した。
結局、有利なのはお金持ちだ。悔しい。どうして浮気とか他所の家庭を侮辱されなければならないのだろう。
頭がグルグル回る。気が付けば私は泣きながら部屋中のものを投げていた。そして、羽子板でアヤネさんを叩いた。
「痛い!許してください!本当にカッとなっただけで馬鹿にしたわけではありません!」
今更謝られても、もう遅かった。アヤネさんを無理矢理ナノハナ家から追い出したあとのことは覚えていない。
気が付いたら部屋の布団の中にいたことも。ヨルクさんが、お風呂に入れてくれたことも。ヨルクさんに抱き締められながら眠ったことも。
精神的なショックで私は虚ろになっていたのだ。
目を覚ますと時刻は4時。
私はラルクと水汲みをしたあと、雪山登山服に着替え、持ち物を何度も確認した。
いよいよ、命懸けバイトのはじまりの幕が開けた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
最初に遺書書くとか、もう僧侶の百日行みたいですね。
ズームと一緒にいたさだけで、危険な場所に行くと決めたアヤネ。無謀だとナミネが指摘するものの、アヤネの態度がどんどん変わってゆく。
どうしてアヤネは孤立してしまうのでしょう。調和が取れないのでしょう。
せっかく気合い入れていたナミネがかわいそう。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
『ナノハナ花火』
桜吹雪の 紅葉神社 あなたは いつも
菜の花とかすみ草の 花束くれた
遠い昔の 紅葉花の お守り いまは
真新しい模様だらけ 存在しない
桜の花びら 水面に映る 風に 揺れて
まるで滲んだ 油絵のよう
夕闇の 紅葉橋 あなたと 手を重ね
常しなえ夜桜が ライトアップ
人は 何世紀も経てば 変わると
私もおもう
花札一式 あなたの まっさら
訓練はどうしたの 箱柄眺めて
紙飛行機に おぼつかない 花文
不器用な愛し方が いまも慈しすぎて
夏祭り 法被を羽織り あなたの 笑顔で
商店街は賑わって 客あつまり
突然に 降り出した 大雨に 店入り
楽しみにしてた 花火見れない
人は 何世紀も経てば 変わると
私もおもう
花札一式 あなたの まっさら
訓練はどうしたの 箱柄眺めて
紙飛行機に おぼつかない 花文
不器用な愛し方が いまも慈しすぎて
天使の梯子 二重虹 くっきり
オレンジ色に染る 空をあおいで
ハイカラな 浴衣が たくさん
夜空を見上げる 刹那にナノハナ花火
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
現代と遠い昔がシンクロする。
それでも、紅葉町はあまり変わっていなくて。
昔の風習や背景に哀愁感じるナミネ。
そしてヨルクと平穏な日々。
時経てば人は変わるものなのでしょうか。
自分で書きながら。
私には分からないです(¯∇¯;)
オリジナル小説 純粋偏差値 詞
桜吹雪の 紅葉神社 あなたは いつも
菜の花とかすみ草の 花束くれた
遠い昔の 紅葉花の お守り いまは
真新しい模様だらけ 存在しない
桜の花びら 水面に映る 風に 揺れて
まるで滲んだ 油絵のよう
夕闇の 紅葉橋 あなたと 手を重ね
常しなえ夜桜が ライトアップ
人は 何世紀も経てば 変わると
私もおもう
花札一式 あなたの まっさら
訓練はどうしたの 箱柄眺めて
紙飛行機に おぼつかない 花文
不器用な愛し方が いまも慈しすぎて
夏祭り 法被を羽織り あなたの 笑顔で
商店街は賑わって 客あつまり
突然に 降り出した 大雨に 店入り
楽しみにしてた 花火見れない
人は 何世紀も経てば 変わると
私もおもう
花札一式 あなたの まっさら
訓練はどうしたの 箱柄眺めて
紙飛行機に おぼつかない 花文
不器用な愛し方が いまも慈しすぎて
天使の梯子 二重虹 くっきり
オレンジ色に染る 空をあおいで
ハイカラな 浴衣が たくさん
夜空を見上げる 刹那にナノハナ花火
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
現代と遠い昔がシンクロする。
それでも、紅葉町はあまり変わっていなくて。
昔の風習や背景に哀愁感じるナミネ。
そしてヨルクと平穏な日々。
時経てば人は変わるものなのでしょうか。
自分で書きながら。
私には分からないです(¯∇¯;)
オリジナル小説 純粋偏差値 詞
純粋偏差値 未来編 一人称版 105話
《ヨルク》
朝目を覚ますと、ナミネが苦しそうにしていた。熱を測ると39.7度。私は即主治医を呼んだ。
主治医によると、また軽いストレスらしく、主治医は薬を置いて行った。
ナミネ、私のせいでこんなにも不安定だったんだね。私は自分のことしか考えられなかったことを恥じた。何がなんでも守り抜くと大切にすると決めたのに。あの日、ナミネのことを置いていってしまった。ナミネを優先すると決めても、ひとたび傷付けば自分を優先してしまっている。それが、いつもナミネを苦しめる要因となる。
恋人はただ寄り添うだけではいけない。もっと強くならないと平穏な関係ではいられなくなる。私の弱さはナミネを傷付けるだけでしかない。いくら、仲の良いカップルでも弱ければ、ひとたび強い者が攻撃すれば関係が壊れることだってありうる。
遠い遠い昔、カンザシさんが私とナミネの仲を引き裂いたように。
友情も恋愛も綺麗事では成り立たない。各々が直面しているものを常に背負いながらも相手を支えなければならないからだ。誰だって綺麗事で人間関係築いているわけではない。けれど、結果論としては見直しが必要なことが多々出てしまいがちなのは、いつの時代も変わらない。その人の裏側を知っていても、抗えないことはわんさかある。
「ヨルクさん、身体が重たいです」
ナミネが布団から出てきた。
「ナミネ、熱あるから朝食取ったら薬飲んで休んでようね。今ポトフ温め直すから待ってて」
私は客間にある火鉢でポトフを温め直した。ナノハナ家も、使用している客間に火鉢があれば便利かもしれない。
「はい」
ナミネが後ろから抱き着いてきた。凄い汗だ。
「ナミネ、汗かいてるから着替えようね」
「はい」
私はナミネのルームウェアを脱がすとボディーシートでナミネの身体を拭いて、浴衣を着せた。カラクリ家の浴衣も変わっていない。このカラフルさ、小さい頃は見るたびに不思議で仕方なかった。
私はポトフが温まると、再びお椀に入れて、具材をほぐしてナミネに食べさせた。ナミネは嬉しそうにポトフを食べている。こういう平穏な日常がずっと続いたらいいのに。数分後、また問題が発生するとは夢にも思っていなかった。
「ナミネ、薬飲んで休んでて」
「はい」
ナミネは薬を飲んで布団に入ろうとした時、落ち武者さんとラルクが来た。
「いまさっき、一目惚れカラルリが客間で首吊ってるの甘えセナが発見して、一部のメンバーは王室の馬で月城総合病院に行く!アンタらも来い!」
カラルリさんが!?そういえば、私はあの後カラルリさんがどうしたのか全然知らなかった。自殺ということは、転生ローンを組んだのだろうか。
「ナミネは熱で休んでないといけないし、私は人魚の絵を持って来てカナエさんに供養してもらわないといけないから」
人魚の絵は一刻も早く供養してもらわないと、私たちの関係が変わってしまう。
「絵ってなんだ!」
「ナミネが人魚の湖の市場で買った絵、それを持ってる者が見た夢は近い未来に現実になるらしい。だからカナエさんが供養するってナミネに言ったの」
カラルリさんには申し訳ないけど、私はナミネとの関係を拗れさせたくない。危ないものはすぐにどうにかしたい。
「状況は分かった。絵は僕が取りに行くから、ラルクは男尽くしカナエを呼び戻せ!」
「分かりました。すぐに行きます」
ラルクが立ち上がった時、ナルホさんが入って来た。
「カラルリさんはロォハさんによって一命は取り止めたよ。でも、心肺停止状態から40分は経っているんだよね。心臓は動いて息もしてるけど、目覚めないからハル院長が往診に来るよ。
絵は僕が取りに行くからヨルクはナミネについててあげてくれるかな?」
ロォハさん、巻き込まれてカラクリ家に来てたんだった。とりあえず、カラルリさんが死ななくてよかった。
「うん、お願いするね、ナルホさん。ナミネは朝食取って薬飲んだところだよ」
「私、カラルリさんのところに行きます!」
「アンタは、とっとと寝てろ!」
落ち武者さんはナミネを布団に入れた。
「じゃあ、僕は行くね」
「僕はカナエさん呼びに行きます」
ラルクたちは客間を出て、私はナミネと2人きりになった。
ナミネはすっかり眠ってしまっている。
私は勉強をしはじめた。
この停電が続くなら少しの生徒は留年してしまうかもしれない。特に高校3年生になったカラルリさんやセナ王女、セリルさんとか、大事な時期なのに大丈夫だろうか。というか、大学生で就活している人とか就職先なんてあるとは思えない。
私たちの未来はどうなっていくのだろう。
なんだか眠たくなってきた。
夢の中だろうか。
結婚したばかりの私とナミネはカラクリ家にいた。そして何故かナミネは冥婚をしていたのである。
ナミネは毎日毎日、死者を成仏させるために死者の花嫁を務めていた。死者が成仏する時に、ナミネの精気も吸い取られる。
『ナミネ、冥婚やめられないの?』
私は危ない仕事をナミネにしてほしくなかった。
『今は戦時中です。私が冥婚をしないと食べていけません』
戦時中なのか?いったいいつの時代だろう。けれど、ナミネには働かずにゆっくり暮らしてほしい。
『私が戦争に行く!だからナミネは冥婚やめて!』
私は役所に手続きをし、軍人になった。
戦地での暮らしは厳しいなんてもんじゃない。常に『死』と隣り合わせだ。けれど、私は必ず生きてナミネの元に帰る。
そんな時、特別攻撃隊が新たに出来た。みんなに三択用紙が配られた。
熱望、志望、不可。
私は死ぬわけにはいかない。不可に丸を付け、提出した。
しかし、上官に呼び出され、殴られた。私は必死に耐えた。
『この戦争は何世紀にも渡り続いている。お前の嫁は3回も特攻志願し、名誉の死を遂げたと言うのに。お前は使えないな』
ナミネが特攻を志願したのか?そんな話は聞いたことがない。
『あの、本当に嫁が特攻を志願したのでしょうか?』
『ああ、元々陸軍少将だったが、上官が空軍に呼び寄せた。講習員としてだったが、部下だけに死なせるわけにはいかないと志願したんだ。陸軍として決死隊で戦っていたお前の嫁はパイロットには疎く、直掩機には乗らなかった。空で死に、海でも死んだ』
ナミネが私より死を選ぶだなんて……いったいどうして……。分からない。けれど、少なくとも私は死なない。
『そうですか。嫁がそのような選択をしていただなんて知りませんでした。けれど、私は必ず嫁の元に帰ります!』
『そうか。せいぜい頑張れ』
私の不可の意思は認めてもらえた。
けれど、物ごとというのは上手くいかないものだ。決死隊で多くの死者が出て、基地にいる皆が特攻に行かなくてはいけなくなってしまったのである。私は早急にナミネに隠語で文を書いた。
不運にも私は明日飛び立つ。せめて最期にナミネを抱き締めたい。
翌朝、私が妖精華に乗ろうとした時、ナミネが来た。
『どうして勝手に軍人になったんですか!』
『ナミネ……会えてよかった』
私は泣きながらナミネを抱き締めた。
『ヨルクさんが飛ぶなら私も飛びます!』
『ナミネは生きて!』
『いやです!ヨルクさんがいない人生などいりません!死ぬ時は一緒です!』
ナミネは真っ直ぐに私を見た。
そろそろ時間だ。ナミネはちゃっかり妖精華に乗っている。私も後ろに乗った。
必死隊が最期に見る山を超え私とナミネは飛び立った。
『私は裕福な暮らしがしたいのではなく、ヨルクさんと生活がしたいんです!このような真似、二度としないでください!』
私と生活がしたい。だから、ずっと冥婚をしていたのか。
『ナミネ、ごめんね』
ナミネは、敵空母を発見すると電文を打ち、体当たりした。
『ヨルクさん……愛してる』
「ナミネ!」
夢だったか。
「アンタ、何寝てんのさ」
あれ、落ち武者さんとラルク、ナルホさんがいる。
「ヨルク、人魚の絵はカナエがキクリ家で供養してくれたよ。セルファが映像撮ってるからあとで見るといいよ」
「ありがとう。あ、カラルリさんの容態は?」
「ロォハさんの処置で命に別状はないらしく、2日もすれば目が覚めるだろうってハル院長は言ってる。でも、カラルリさんが眠っている訳は目覚めたくないからだとも言っていたよ」
転生ローンのこと、よほどトラウマだったのだろう。誰にも気付いてもらえないまま、首を吊るだなんて。やっぱり人の助けはスルーしてはいけないと少しは考えさせられる。
「そっか。転生ローンのこと、よほど深刻に悩んでたんだね」
「まあ、カラルリさんは変に真面目だからね。じゃあ、僕はお武家連盟会議に戻るよ。行こうか、ラルク」
え、お武家連盟会議って何のことだろう。エミリさんの件は終わったはずでは。
「会議してるの?」
「セナ王女がカラルリさんを追い詰めたとカナコさんが開いたよ」
いわゆる、会議で2人を別れさせるつもりってとこだろうか。
「そうだったんだ」
返す言葉が見当たらない。けれど、何となく別れさせることは出来ない気がする。
ナルホさんが客間を出たあと、私は落ち武者さんが撮影したカナエさんの供養の映像を再生した。
映像はカナエさんが巫女の姿で舞うところからはじまっている。
キクリ家は、元々刺客の家系だが、昔は巫女もしていたらしく、カナエさんは今でも巫女の仕事もしているらしい。
舞は隣の小さな神社で行われている。昔はキクリ神社とも呼ばれていたって。
巫女の舞だろうか。いや、舞のコラボだ。
遠い昔のカナエさんは舞も、今の私並みだったそうだが、時が流れ今ではすっかり家業をこなしている。
『この世にとどまれし者。
我が道を行くがいい。
されど、人の未来を変えてはならぬ。
右も左も分からぬなら、この鳥居をくぐれ。
何億年もの歴史を持つ人魚よ。
今こそ呪いを解き放て!』
舞の途中で絵から光が出てきた。そして、微かに見える人魚の霊は絵から消えていった。
そして、カナエさんは、また舞う。
美しい舞。
この舞にアルフォンス王子も惹かれたのだろう。
『ナミネ、ヨルク。見ていますか?供養は完了しました。今から、この絵を人魚の湖に戻します』
カナエさんは紙に人魚の絵を入れ、文を書き、紙飛行機にして飛ばした。
映像は、そこで途切れていた。
これで供養は終わった。
私とナミネの未来は変わらなくて済む。引き離されなくて済む。本当によかった。
一安心したところでナミネの夕ご飯を作ろうとしたら、ナミネがいなくなっている。落ち武者さんもいない。
私は慌てて客間を出た。
ナミネは熱が出ていて、まだ寝ていなくちゃいけないのに、どこへ行ったのだろう。早く探し出して寝かせなくては。
廊下を歩いていると客間からナミネの話し声が聞こえる。
私は咄嗟に扉を開けた。
すると、ナミネとハル院長、落ち武者さん、カラルリさんがいた。
「ナミネ、寝てなくちゃダメだよ」
ハル院長も来てるから、ここにいるのだろうか。
「カラルリさんが心配なんです!」
そういえばセナ王女はいない。まだ、会議だろうか。
「セナ王女はどうしたの?」
「今、会議だ。正直もうセナさんのこと恋人としては無理だ」
そうだろうな。私だって、転生ローンなんか組まされたら、溜まったもんじゃない。
「カラルリさんが決めたことは反対しませんが、セナ王女は反省しています。カラルリさんが首を吊って、いっぱいいっぱい泣いていました」
そうは言えども、言い換えれば自殺するほど追い詰まっていたということではないか。死を考えるほどの女子(おなご)など、とっとと別れたほうが私はいいと思うが。
「ナミネはまだ子供なんだよ。成長すればセナさんみたいに高いのねだるようになる。ヨルクは何でも許すからな。されど、私は泣かれたからって、セナさんのこと、もう守りきれないし大切にできない」
ナミネは子供だけど、ちゃんとナミネなりに考えている。それに別に私は何でも許すというわけではないし。
「もう薔薇の花束で心満たされるセナ王女ではなくなったのですね。遠い昔、セナ王女はカラルリさんの告白の時に渡された薔薇の花束がなくなった時、必死に探していました。時は人を変えてしまうものなのですね」
他者はどうか分からない。けれど、少なくとも私は、この先もずっとナミネのこと想い続けてる。
現代は昔とは違って、色んな誘惑物がある。ナミネは、それをきらっている。セナ王女とてそうだっただろうに。みんなでペアリング見に行く時、セナ王女のネジは外れてしまったようだった。カラルリさんだって、フェアリーチューバーに夢中になるようになり、セナ王女のことはそっちのけだった。
昔は何もなく、それが返って互いのみしか見えなかったのかもしれない。
「ああ、もう昔のセナさんではない」
いや、普通にカラルリさんも変わっただろうに。ていうか、珍しく落ち武者さんが黙り込んでいる。何かあったのだろうか。
「あの、カラルリさん。転生ローンのことですが、このバイトをみんなでしてみませんか?」
ナミネは、カラルリさんにバイトのチラシを渡した。
横目で見てみると、フェアリールナとフェアリーフォンの原石を採取する仕事内容だ。それも、氷河期町で吹雪の吹く中、高い崖を登らなくてはならない。原石は1つ700万円以上らしいが、極めて危ない仕事だ。いくら、みんなですれば転生ローンを返しきれても、私はナミネに命懸けの仕事などしてほしくない。
「ナミネ、このバイトは危ないからやめようか」
私は、ただナミネのことが心配だった。
「ナミネ、頼む!このバイト手伝ってくれ!どうにか転生ローンを返したい!」
ナミネが答える前にカラルリさんがナミネにすがりついた。
その時、カナエさんが入ってきた。
「お兄様、お茶をどうぞ」
「ああ、ありがとう」
もう会議は終わったのだろうか。
「カナエさん、供養ありがとうございます。カナエさんは、ずっと巫女のお仕事続けているんですね。あ、会議ってもう終わったんですか?」
カナエさんは巫女姿が似合うな。小柄なのに胸も大きいし、童顔なのに美人だ。ナミネの前では言えないが。
「結局、セナさんを説得しきれず、カナコお姉様が会議を終わらせましたが、納得いかない人たちが、まだ話し合っています」
他人ごと。されど、自殺未遂があったとなれば、そうはいかない。カラルリさんの身体は、カラルリさんだけの身体ではないのだ。身内なら、口を挟むのも当然だろう。
「そうですか。恋愛と命は難しいですね」
私はナミネにねだられても転生ローンなど組まないが、カラルリさんは押しに弱い。
「ナミネ、俺はチラシのバイトは反対だからね。あまりに危険すぎる。転生ローンは苦しいかもしれないけど、こんなバイトしたらミイラ取りがミイラになってしまうよ。絶対にしないで」
ハル院長の言うことなら聞くだろうか。ナミネだけには、こんなバイトしてほしくない。こんなの、遠い昔で言うところの酷い差別を受けていた者ではないか。武士の仕事ではない。
「カナエがやります!カナエが、お兄様の転生ローンをゼロにします!」
今度はカナエさんが食い付いた。いくら大好きな兄のためとはいえ、このバイトでカナエさんが命を落としたら、それこそ王室が大問題だ。
「じゃ、僕もやる。けど、このバイトのサイト見とけ!」
そっか、携帯繋がるんだっけ。私は即サイトにアクセスをした。えっと、フェアリールナとフェアリーフォンの原石採取バイトっと。
検索をかけると、すぐに口コミがいっぱい出てきた。私は、1つ目を読むなり胸がドクンとした。他の記事も読んでみた。
このバイトで一発逆転を望んだチャレンジャーの99%が命を落としている。崖は紀元前村の果樹園の何倍も高く、前は吹雪で見えず、高すぎるゆえ、命綱も付けられず、年中真冬で気温もマイナス50度を超えていて、転落して亡くなる者、寒さに耐え切れず亡くなる者などがいる。
また、あまりに吹雪が酷いためヘリコプターなどは使えなく、人が登るしかないらしい。
こんなの自殺と同じじゃないか。サラハさんレベルじゃないと無理な仕事だ。
「カナエ、このバイトはナミネに手伝ってもらうから、カナエはしなくていいよ」
なんだ、そのローカルルールは。万が一、ナミネに何かあれば私は生きていけない。
「誰もしなくていい!私一人でやる!」
突然入ってきたセナ王女はチラシを手に取り、ポロポロ大粒の涙を零した。
「僕は仕事は出来ないけど、氷河期町を見てみたいな」
ラハルさんまで興味を持ちはじめている。
「ラハルが行くなら私も行くに決まってるじゃない!」
いくら最推しのラハルさんが興味を持ったとて、リリカお姉様でも務まる仕事か分からない。落ち武者さんも行くと行っているし、このままではナミネも行くだろう。
「ナミネは、どこからこのチラシ持ってきたのかな?」
ナルホさんなら止めてくれるだろうか。
「カラルリ家のポストに入ってました」
何故、他人の家のポストから持ってくる。
「僕は、ナミネにこんな危険なことはしてほしくない。けど、ナミネは何がなんでも行くよね?だったら、僕も手段は選ばない」
止めるんじゃなくて、ナミネを守るために行くというわけか。ナルホさんは、昔からナミネのことを可愛がっていた。たった1人の妹ゆえ、ナミネのことずっと愛してた。
ナミネが命を落とせばナルホさんとて平気ではいられない。
そして、ナミネがチラシを持ってきたばかりに、崖を登れそうな人は行くと言いはじめた。
みんな、そんなにカラルリさんのこと心配してたっけ。だったら、何故あの時、止めなかった。あの時は他人ごと。今は身内のことでは終始がつかない。
「じゃ、必要なもの書き出すから絶対忘れるな!服も指定だ!紀元前村ではカギを使っていたが氷河期町では苦無を使う!崖登る時に持っていいのはポシェットのみだ!下には妖精救命エアクッションを置くが、吹雪で役には立たないだろう!行く者は絶対気を抜くな!」
苦無。キクリ家で代々使われているものだ。しかし、雪に覆われ、どこにつき刺せばいいか分からないもので登れるだろうか。
何故か行くことになってしまったけど私は不安でいっぱいだった。
「ナミネ、本当に行くの?このバイト命懸けだよ」
本当は行ってほしくない。万が一、ナミネが転落してしまえば私は……。
「ナミネ、頼む!見捨てないでくれ!」
何故、カラルリさんはナミネにばかりすがる。
「私はカラルリさんを助けます!みんなでやれば全額返せると思うんです!」
全額って、そんな簡単な問題ではない。けれど、今のナミネには何を言っても無駄だろう。私も行くが崖は登れない。苦無なんて使ったことないし、キクリ家のイメージだ。
「顔だけヨルク、アンタ強気なナミネの心配してるけど、一目惚れカラルリの借金返せないと、また早まったこと起きかねないからね?」
そんなこと言ったってカラルリさんの問題ではないか。何故ナミネを巻き込む必要がある。
「ねえ、万が一のこと考えないの?行く人の誰かの命奪われたらどうするの?」
みんな簡単に捉えすぎだ。私は行かないことに全力で白旗を上げる。
「そんな弱気な気持ちなら、アンタは行くな。やる気あるヤツだけで行く」
何それ。やる気の問題?違うよね。人の命がかかったバイトなんて私は反対だ。もう決まってしまって遅いけど。
「ヨルクさん、登る人は絶対転落しません!私はカラルリさんを助けたいだけです!」
ナミネは事故は起こさないかもしれない。けれど、紀元前村では、アルフォンス王子とカラルリさんが果樹園の崖で転落している。あの崖より遥かに高く吹雪で前見えないのに。また転落者がいたらどうするのだろう。
「そっか……ネットで必要なものの目星付けといて……」
私はナミネを抱き締め気が付いたら涙が零れていた。
「ヨルクさんは泣き虫ですな」
ナミネのこの笑顔が、もし最後になってしまったら……。
私は心穏やかでいられないまま、みんなの会話を聞いていた。
……
あとがき。
カラルリ……どうして……。
もうサバイバルにサバイバル。
ずっとサバイバルですね。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ヨルク》
朝目を覚ますと、ナミネが苦しそうにしていた。熱を測ると39.7度。私は即主治医を呼んだ。
主治医によると、また軽いストレスらしく、主治医は薬を置いて行った。
ナミネ、私のせいでこんなにも不安定だったんだね。私は自分のことしか考えられなかったことを恥じた。何がなんでも守り抜くと大切にすると決めたのに。あの日、ナミネのことを置いていってしまった。ナミネを優先すると決めても、ひとたび傷付けば自分を優先してしまっている。それが、いつもナミネを苦しめる要因となる。
恋人はただ寄り添うだけではいけない。もっと強くならないと平穏な関係ではいられなくなる。私の弱さはナミネを傷付けるだけでしかない。いくら、仲の良いカップルでも弱ければ、ひとたび強い者が攻撃すれば関係が壊れることだってありうる。
遠い遠い昔、カンザシさんが私とナミネの仲を引き裂いたように。
友情も恋愛も綺麗事では成り立たない。各々が直面しているものを常に背負いながらも相手を支えなければならないからだ。誰だって綺麗事で人間関係築いているわけではない。けれど、結果論としては見直しが必要なことが多々出てしまいがちなのは、いつの時代も変わらない。その人の裏側を知っていても、抗えないことはわんさかある。
「ヨルクさん、身体が重たいです」
ナミネが布団から出てきた。
「ナミネ、熱あるから朝食取ったら薬飲んで休んでようね。今ポトフ温め直すから待ってて」
私は客間にある火鉢でポトフを温め直した。ナノハナ家も、使用している客間に火鉢があれば便利かもしれない。
「はい」
ナミネが後ろから抱き着いてきた。凄い汗だ。
「ナミネ、汗かいてるから着替えようね」
「はい」
私はナミネのルームウェアを脱がすとボディーシートでナミネの身体を拭いて、浴衣を着せた。カラクリ家の浴衣も変わっていない。このカラフルさ、小さい頃は見るたびに不思議で仕方なかった。
私はポトフが温まると、再びお椀に入れて、具材をほぐしてナミネに食べさせた。ナミネは嬉しそうにポトフを食べている。こういう平穏な日常がずっと続いたらいいのに。数分後、また問題が発生するとは夢にも思っていなかった。
「ナミネ、薬飲んで休んでて」
「はい」
ナミネは薬を飲んで布団に入ろうとした時、落ち武者さんとラルクが来た。
「いまさっき、一目惚れカラルリが客間で首吊ってるの甘えセナが発見して、一部のメンバーは王室の馬で月城総合病院に行く!アンタらも来い!」
カラルリさんが!?そういえば、私はあの後カラルリさんがどうしたのか全然知らなかった。自殺ということは、転生ローンを組んだのだろうか。
「ナミネは熱で休んでないといけないし、私は人魚の絵を持って来てカナエさんに供養してもらわないといけないから」
人魚の絵は一刻も早く供養してもらわないと、私たちの関係が変わってしまう。
「絵ってなんだ!」
「ナミネが人魚の湖の市場で買った絵、それを持ってる者が見た夢は近い未来に現実になるらしい。だからカナエさんが供養するってナミネに言ったの」
カラルリさんには申し訳ないけど、私はナミネとの関係を拗れさせたくない。危ないものはすぐにどうにかしたい。
「状況は分かった。絵は僕が取りに行くから、ラルクは男尽くしカナエを呼び戻せ!」
「分かりました。すぐに行きます」
ラルクが立ち上がった時、ナルホさんが入って来た。
「カラルリさんはロォハさんによって一命は取り止めたよ。でも、心肺停止状態から40分は経っているんだよね。心臓は動いて息もしてるけど、目覚めないからハル院長が往診に来るよ。
絵は僕が取りに行くからヨルクはナミネについててあげてくれるかな?」
ロォハさん、巻き込まれてカラクリ家に来てたんだった。とりあえず、カラルリさんが死ななくてよかった。
「うん、お願いするね、ナルホさん。ナミネは朝食取って薬飲んだところだよ」
「私、カラルリさんのところに行きます!」
「アンタは、とっとと寝てろ!」
落ち武者さんはナミネを布団に入れた。
「じゃあ、僕は行くね」
「僕はカナエさん呼びに行きます」
ラルクたちは客間を出て、私はナミネと2人きりになった。
ナミネはすっかり眠ってしまっている。
私は勉強をしはじめた。
この停電が続くなら少しの生徒は留年してしまうかもしれない。特に高校3年生になったカラルリさんやセナ王女、セリルさんとか、大事な時期なのに大丈夫だろうか。というか、大学生で就活している人とか就職先なんてあるとは思えない。
私たちの未来はどうなっていくのだろう。
なんだか眠たくなってきた。
夢の中だろうか。
結婚したばかりの私とナミネはカラクリ家にいた。そして何故かナミネは冥婚をしていたのである。
ナミネは毎日毎日、死者を成仏させるために死者の花嫁を務めていた。死者が成仏する時に、ナミネの精気も吸い取られる。
『ナミネ、冥婚やめられないの?』
私は危ない仕事をナミネにしてほしくなかった。
『今は戦時中です。私が冥婚をしないと食べていけません』
戦時中なのか?いったいいつの時代だろう。けれど、ナミネには働かずにゆっくり暮らしてほしい。
『私が戦争に行く!だからナミネは冥婚やめて!』
私は役所に手続きをし、軍人になった。
戦地での暮らしは厳しいなんてもんじゃない。常に『死』と隣り合わせだ。けれど、私は必ず生きてナミネの元に帰る。
そんな時、特別攻撃隊が新たに出来た。みんなに三択用紙が配られた。
熱望、志望、不可。
私は死ぬわけにはいかない。不可に丸を付け、提出した。
しかし、上官に呼び出され、殴られた。私は必死に耐えた。
『この戦争は何世紀にも渡り続いている。お前の嫁は3回も特攻志願し、名誉の死を遂げたと言うのに。お前は使えないな』
ナミネが特攻を志願したのか?そんな話は聞いたことがない。
『あの、本当に嫁が特攻を志願したのでしょうか?』
『ああ、元々陸軍少将だったが、上官が空軍に呼び寄せた。講習員としてだったが、部下だけに死なせるわけにはいかないと志願したんだ。陸軍として決死隊で戦っていたお前の嫁はパイロットには疎く、直掩機には乗らなかった。空で死に、海でも死んだ』
ナミネが私より死を選ぶだなんて……いったいどうして……。分からない。けれど、少なくとも私は死なない。
『そうですか。嫁がそのような選択をしていただなんて知りませんでした。けれど、私は必ず嫁の元に帰ります!』
『そうか。せいぜい頑張れ』
私の不可の意思は認めてもらえた。
けれど、物ごとというのは上手くいかないものだ。決死隊で多くの死者が出て、基地にいる皆が特攻に行かなくてはいけなくなってしまったのである。私は早急にナミネに隠語で文を書いた。
不運にも私は明日飛び立つ。せめて最期にナミネを抱き締めたい。
翌朝、私が妖精華に乗ろうとした時、ナミネが来た。
『どうして勝手に軍人になったんですか!』
『ナミネ……会えてよかった』
私は泣きながらナミネを抱き締めた。
『ヨルクさんが飛ぶなら私も飛びます!』
『ナミネは生きて!』
『いやです!ヨルクさんがいない人生などいりません!死ぬ時は一緒です!』
ナミネは真っ直ぐに私を見た。
そろそろ時間だ。ナミネはちゃっかり妖精華に乗っている。私も後ろに乗った。
必死隊が最期に見る山を超え私とナミネは飛び立った。
『私は裕福な暮らしがしたいのではなく、ヨルクさんと生活がしたいんです!このような真似、二度としないでください!』
私と生活がしたい。だから、ずっと冥婚をしていたのか。
『ナミネ、ごめんね』
ナミネは、敵空母を発見すると電文を打ち、体当たりした。
『ヨルクさん……愛してる』
「ナミネ!」
夢だったか。
「アンタ、何寝てんのさ」
あれ、落ち武者さんとラルク、ナルホさんがいる。
「ヨルク、人魚の絵はカナエがキクリ家で供養してくれたよ。セルファが映像撮ってるからあとで見るといいよ」
「ありがとう。あ、カラルリさんの容態は?」
「ロォハさんの処置で命に別状はないらしく、2日もすれば目が覚めるだろうってハル院長は言ってる。でも、カラルリさんが眠っている訳は目覚めたくないからだとも言っていたよ」
転生ローンのこと、よほどトラウマだったのだろう。誰にも気付いてもらえないまま、首を吊るだなんて。やっぱり人の助けはスルーしてはいけないと少しは考えさせられる。
「そっか。転生ローンのこと、よほど深刻に悩んでたんだね」
「まあ、カラルリさんは変に真面目だからね。じゃあ、僕はお武家連盟会議に戻るよ。行こうか、ラルク」
え、お武家連盟会議って何のことだろう。エミリさんの件は終わったはずでは。
「会議してるの?」
「セナ王女がカラルリさんを追い詰めたとカナコさんが開いたよ」
いわゆる、会議で2人を別れさせるつもりってとこだろうか。
「そうだったんだ」
返す言葉が見当たらない。けれど、何となく別れさせることは出来ない気がする。
ナルホさんが客間を出たあと、私は落ち武者さんが撮影したカナエさんの供養の映像を再生した。
映像はカナエさんが巫女の姿で舞うところからはじまっている。
キクリ家は、元々刺客の家系だが、昔は巫女もしていたらしく、カナエさんは今でも巫女の仕事もしているらしい。
舞は隣の小さな神社で行われている。昔はキクリ神社とも呼ばれていたって。
巫女の舞だろうか。いや、舞のコラボだ。
遠い昔のカナエさんは舞も、今の私並みだったそうだが、時が流れ今ではすっかり家業をこなしている。
『この世にとどまれし者。
我が道を行くがいい。
されど、人の未来を変えてはならぬ。
右も左も分からぬなら、この鳥居をくぐれ。
何億年もの歴史を持つ人魚よ。
今こそ呪いを解き放て!』
舞の途中で絵から光が出てきた。そして、微かに見える人魚の霊は絵から消えていった。
そして、カナエさんは、また舞う。
美しい舞。
この舞にアルフォンス王子も惹かれたのだろう。
『ナミネ、ヨルク。見ていますか?供養は完了しました。今から、この絵を人魚の湖に戻します』
カナエさんは紙に人魚の絵を入れ、文を書き、紙飛行機にして飛ばした。
映像は、そこで途切れていた。
これで供養は終わった。
私とナミネの未来は変わらなくて済む。引き離されなくて済む。本当によかった。
一安心したところでナミネの夕ご飯を作ろうとしたら、ナミネがいなくなっている。落ち武者さんもいない。
私は慌てて客間を出た。
ナミネは熱が出ていて、まだ寝ていなくちゃいけないのに、どこへ行ったのだろう。早く探し出して寝かせなくては。
廊下を歩いていると客間からナミネの話し声が聞こえる。
私は咄嗟に扉を開けた。
すると、ナミネとハル院長、落ち武者さん、カラルリさんがいた。
「ナミネ、寝てなくちゃダメだよ」
ハル院長も来てるから、ここにいるのだろうか。
「カラルリさんが心配なんです!」
そういえばセナ王女はいない。まだ、会議だろうか。
「セナ王女はどうしたの?」
「今、会議だ。正直もうセナさんのこと恋人としては無理だ」
そうだろうな。私だって、転生ローンなんか組まされたら、溜まったもんじゃない。
「カラルリさんが決めたことは反対しませんが、セナ王女は反省しています。カラルリさんが首を吊って、いっぱいいっぱい泣いていました」
そうは言えども、言い換えれば自殺するほど追い詰まっていたということではないか。死を考えるほどの女子(おなご)など、とっとと別れたほうが私はいいと思うが。
「ナミネはまだ子供なんだよ。成長すればセナさんみたいに高いのねだるようになる。ヨルクは何でも許すからな。されど、私は泣かれたからって、セナさんのこと、もう守りきれないし大切にできない」
ナミネは子供だけど、ちゃんとナミネなりに考えている。それに別に私は何でも許すというわけではないし。
「もう薔薇の花束で心満たされるセナ王女ではなくなったのですね。遠い昔、セナ王女はカラルリさんの告白の時に渡された薔薇の花束がなくなった時、必死に探していました。時は人を変えてしまうものなのですね」
他者はどうか分からない。けれど、少なくとも私は、この先もずっとナミネのこと想い続けてる。
現代は昔とは違って、色んな誘惑物がある。ナミネは、それをきらっている。セナ王女とてそうだっただろうに。みんなでペアリング見に行く時、セナ王女のネジは外れてしまったようだった。カラルリさんだって、フェアリーチューバーに夢中になるようになり、セナ王女のことはそっちのけだった。
昔は何もなく、それが返って互いのみしか見えなかったのかもしれない。
「ああ、もう昔のセナさんではない」
いや、普通にカラルリさんも変わっただろうに。ていうか、珍しく落ち武者さんが黙り込んでいる。何かあったのだろうか。
「あの、カラルリさん。転生ローンのことですが、このバイトをみんなでしてみませんか?」
ナミネは、カラルリさんにバイトのチラシを渡した。
横目で見てみると、フェアリールナとフェアリーフォンの原石を採取する仕事内容だ。それも、氷河期町で吹雪の吹く中、高い崖を登らなくてはならない。原石は1つ700万円以上らしいが、極めて危ない仕事だ。いくら、みんなですれば転生ローンを返しきれても、私はナミネに命懸けの仕事などしてほしくない。
「ナミネ、このバイトは危ないからやめようか」
私は、ただナミネのことが心配だった。
「ナミネ、頼む!このバイト手伝ってくれ!どうにか転生ローンを返したい!」
ナミネが答える前にカラルリさんがナミネにすがりついた。
その時、カナエさんが入ってきた。
「お兄様、お茶をどうぞ」
「ああ、ありがとう」
もう会議は終わったのだろうか。
「カナエさん、供養ありがとうございます。カナエさんは、ずっと巫女のお仕事続けているんですね。あ、会議ってもう終わったんですか?」
カナエさんは巫女姿が似合うな。小柄なのに胸も大きいし、童顔なのに美人だ。ナミネの前では言えないが。
「結局、セナさんを説得しきれず、カナコお姉様が会議を終わらせましたが、納得いかない人たちが、まだ話し合っています」
他人ごと。されど、自殺未遂があったとなれば、そうはいかない。カラルリさんの身体は、カラルリさんだけの身体ではないのだ。身内なら、口を挟むのも当然だろう。
「そうですか。恋愛と命は難しいですね」
私はナミネにねだられても転生ローンなど組まないが、カラルリさんは押しに弱い。
「ナミネ、俺はチラシのバイトは反対だからね。あまりに危険すぎる。転生ローンは苦しいかもしれないけど、こんなバイトしたらミイラ取りがミイラになってしまうよ。絶対にしないで」
ハル院長の言うことなら聞くだろうか。ナミネだけには、こんなバイトしてほしくない。こんなの、遠い昔で言うところの酷い差別を受けていた者ではないか。武士の仕事ではない。
「カナエがやります!カナエが、お兄様の転生ローンをゼロにします!」
今度はカナエさんが食い付いた。いくら大好きな兄のためとはいえ、このバイトでカナエさんが命を落としたら、それこそ王室が大問題だ。
「じゃ、僕もやる。けど、このバイトのサイト見とけ!」
そっか、携帯繋がるんだっけ。私は即サイトにアクセスをした。えっと、フェアリールナとフェアリーフォンの原石採取バイトっと。
検索をかけると、すぐに口コミがいっぱい出てきた。私は、1つ目を読むなり胸がドクンとした。他の記事も読んでみた。
このバイトで一発逆転を望んだチャレンジャーの99%が命を落としている。崖は紀元前村の果樹園の何倍も高く、前は吹雪で見えず、高すぎるゆえ、命綱も付けられず、年中真冬で気温もマイナス50度を超えていて、転落して亡くなる者、寒さに耐え切れず亡くなる者などがいる。
また、あまりに吹雪が酷いためヘリコプターなどは使えなく、人が登るしかないらしい。
こんなの自殺と同じじゃないか。サラハさんレベルじゃないと無理な仕事だ。
「カナエ、このバイトはナミネに手伝ってもらうから、カナエはしなくていいよ」
なんだ、そのローカルルールは。万が一、ナミネに何かあれば私は生きていけない。
「誰もしなくていい!私一人でやる!」
突然入ってきたセナ王女はチラシを手に取り、ポロポロ大粒の涙を零した。
「僕は仕事は出来ないけど、氷河期町を見てみたいな」
ラハルさんまで興味を持ちはじめている。
「ラハルが行くなら私も行くに決まってるじゃない!」
いくら最推しのラハルさんが興味を持ったとて、リリカお姉様でも務まる仕事か分からない。落ち武者さんも行くと行っているし、このままではナミネも行くだろう。
「ナミネは、どこからこのチラシ持ってきたのかな?」
ナルホさんなら止めてくれるだろうか。
「カラルリ家のポストに入ってました」
何故、他人の家のポストから持ってくる。
「僕は、ナミネにこんな危険なことはしてほしくない。けど、ナミネは何がなんでも行くよね?だったら、僕も手段は選ばない」
止めるんじゃなくて、ナミネを守るために行くというわけか。ナルホさんは、昔からナミネのことを可愛がっていた。たった1人の妹ゆえ、ナミネのことずっと愛してた。
ナミネが命を落とせばナルホさんとて平気ではいられない。
そして、ナミネがチラシを持ってきたばかりに、崖を登れそうな人は行くと言いはじめた。
みんな、そんなにカラルリさんのこと心配してたっけ。だったら、何故あの時、止めなかった。あの時は他人ごと。今は身内のことでは終始がつかない。
「じゃ、必要なもの書き出すから絶対忘れるな!服も指定だ!紀元前村ではカギを使っていたが氷河期町では苦無を使う!崖登る時に持っていいのはポシェットのみだ!下には妖精救命エアクッションを置くが、吹雪で役には立たないだろう!行く者は絶対気を抜くな!」
苦無。キクリ家で代々使われているものだ。しかし、雪に覆われ、どこにつき刺せばいいか分からないもので登れるだろうか。
何故か行くことになってしまったけど私は不安でいっぱいだった。
「ナミネ、本当に行くの?このバイト命懸けだよ」
本当は行ってほしくない。万が一、ナミネが転落してしまえば私は……。
「ナミネ、頼む!見捨てないでくれ!」
何故、カラルリさんはナミネにばかりすがる。
「私はカラルリさんを助けます!みんなでやれば全額返せると思うんです!」
全額って、そんな簡単な問題ではない。けれど、今のナミネには何を言っても無駄だろう。私も行くが崖は登れない。苦無なんて使ったことないし、キクリ家のイメージだ。
「顔だけヨルク、アンタ強気なナミネの心配してるけど、一目惚れカラルリの借金返せないと、また早まったこと起きかねないからね?」
そんなこと言ったってカラルリさんの問題ではないか。何故ナミネを巻き込む必要がある。
「ねえ、万が一のこと考えないの?行く人の誰かの命奪われたらどうするの?」
みんな簡単に捉えすぎだ。私は行かないことに全力で白旗を上げる。
「そんな弱気な気持ちなら、アンタは行くな。やる気あるヤツだけで行く」
何それ。やる気の問題?違うよね。人の命がかかったバイトなんて私は反対だ。もう決まってしまって遅いけど。
「ヨルクさん、登る人は絶対転落しません!私はカラルリさんを助けたいだけです!」
ナミネは事故は起こさないかもしれない。けれど、紀元前村では、アルフォンス王子とカラルリさんが果樹園の崖で転落している。あの崖より遥かに高く吹雪で前見えないのに。また転落者がいたらどうするのだろう。
「そっか……ネットで必要なものの目星付けといて……」
私はナミネを抱き締め気が付いたら涙が零れていた。
「ヨルクさんは泣き虫ですな」
ナミネのこの笑顔が、もし最後になってしまったら……。
私は心穏やかでいられないまま、みんなの会話を聞いていた。
……
あとがき。
カラルリ……どうして……。
もうサバイバルにサバイバル。
ずっとサバイバルですね。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。