日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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地主(土地貸してます)
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漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
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模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
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よろしくお願い致します。
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小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

純愛偏差値 未来編 一人称版 番外編
《ナミネ》
1941年12月8日。
日本村は大東亜戦争の幕開けとなった。
人はよく『戦争は決して繰り返してはいけない』と簡単に言うけれど、その人たちの言うところの戦争は大東亜戦争のことで、戦国時代は含まれていない。戦国時代だって多くの人が亡くなったのに、何故人は戦争のことを大東亜戦争のみしかカウントせず、戦国時代のことは楽しそうに書物を読んでいるのだろう。私には分からなかった。
真珠湾攻撃は呆気なく日本村の負けとなった。イソロクさんは言っていた。
『出来るヤツは言わなくてもする。けれど、ナグモはしない』
ナグモはしない。けれど、それには裏があったのだ。ナグモさんは軍令部総長から赤城を壊さず戻すよう事前に命じられていたのである。また、第3次攻撃の要請は赤城は行わなかったが、飛龍は行った。それに、第3次攻撃の要請を取り消したのは他でもないイソロクさんだったのだ。
何故、真珠湾攻撃が負けたのか。それは、石油タンクと修理工場を残してしまったからだ。
そして、日本村は間違いなく電文を送ったにも関わらず、大使館で解読が遅れ、ルーズベルトさんは大激怒した。よって、真珠湾攻撃は奇襲と呼ばれてしまったのであった。
イソロクさんは、挽回をするため、みんなが反対する中、ミッドウェー海戦を計画した。いや、真珠湾攻撃でさえ、みんなの反対を押し切って実行したものであったのだ。ミッドウェー海戦は翌年の6月4日から6月6日に行われた日本村とアメリカ村の海戦である。
しかし、この時、赤城の無線は故障していた。そうとも知らず、イソロクさんは信号を送らなかった。これによって赤城は兵装転換中に攻撃を受け、加賀、蒼龍、飛龍もあっという間に火の海となったのである。
『1942年6月6日、0時15分、総員退去!』
飛龍に残ったのは、タモンさんとトメオさんだった。そして、タモンさんは飛龍を味方に魚雷を打たせたのだ。
後世の人は言う。
『ナグモが戻ってきたから日本村は負けた』
時は大東亜戦争末期。
私は、婚約者のヨルクさんのお墓の前で手を合わせた。
「ヨルクさん、私は妖精村のために闘います!いつか……いつか……お会いしましょう」
そして私は空を見上げた。
「ラルク、何処にいるの?生きて戻るの?妖精神社で会おうね」
私はナノハナ家に戻り、荷物をまとめた。
世間は特攻のニュースで溢れていた。
特攻というのは、○6、○8、○大の4種類のことを示す。しかし、特攻の創案者と特攻を生み出した人は違う。また、P基地のコウゾウさんは『お金持ちだからこそ、特攻なんてことが実現出来るんだ』と言っていた。
どうして、若者が特攻へ行くのか。
お国のため?
上官の命令?
不可に丸を打てないから?
そうではない。
特攻をすれば、二階級昇進となる。つまり、国から手当を受けられ、残された家族の一生の暮らしが保証されるのである。そのために志願する人が多かったらしい。また、特攻をせず、死んでしまえば家族が路頭に迷うことも後を絶えなかったのは事実だ。
神風特攻隊の司令官に就任することになった私は、中将に挨拶をした。しかし、パイロットは人気の部隊で、私は特別基地に行くよう命じられた。
2日後、私はある基地に来た。それは回天基地だった。
人間魚雷回天。
話に聞いたことはあるが、全長15mととても大きな戦闘機だった。創案者はクロキ大尉とニシナ中尉。指揮官はイタクラさんである。また、イタクラさんは指揮官を任された以上は自分も特攻に行くと志願したが、上層部から反対されている。
私は、研修生のみんなに挨拶をした。
「この度は、回天の講習員を任されたナミネです。よろしくお願いします」
この時の私は25歳だった。研修生は16歳前後といったところだろうか。特攻に行くとは知らず、パイロットの基地から回された若者が大半だと私は思った。騙すのは良くない。だから私は言った。
「皆さんは、回天に乗って敵艦に体当たりをします。また、回天は桜花と違って、一度前に進めば後に戻ることは出来ません。ただ、前に進むのが回天です。全力は30ノットです」
その瞬間、若い研修生たちは騒ぎ始めた。
「体当たり?そんなの聞いてないぞ!」
「私たちは死ぬのか?」
「そんな……これじゃあ騙されたのと同じじゃないか!」
「死にたくない!」
イタクラ指揮官が騒ぎを止める前に私は怒鳴った。
「皆さん、静かにしてください!死にたくない者は無理に死ねとは言いません!けれど、ここに来たからには訓練はちゃんとしてもらいます!」
しかし、私の言ったことが納得いかなかったのか、ニシナ中尉が私の前に立った。
「死にたくない。そんな甘ったれた者は今すぐここから出ていけ!」
「ニシナ中尉、この子たちは本来なら高校生活を満喫している若者たちです。あまり厳しくしないでください」
「ナミネ少将、あなた何か勘違いをしていまけんか?戦争を甘く見ているあなたが司令官に就任だなんて私は認めたくないです!生きるか死ぬかと言う時に、死を恐れていては生きることさえままなりません!そして、研修生のためにもならないでしょう」
ニシナ中尉は21歳で本来なら大学生活を楽しんでいる年頃だろう。けれど、私の方が階級が上なのに私に楯突いたニシナ中尉の腕を私は掴んだ。
「勘違いしているのはあなたです!マサツラさんは特攻などしていません!あんなの袋のネズミじゃないですか!それに、あなたは『マサツラさんは観心寺の近くに住んでいた』と書いていますが、マサツラさんは観心寺に住んでいたんです!マサシゲさんが湊川の戦いに行くから観心寺に身を寄せたんです!歴史も知らないあなたに盾突かれる筋合いはありません!」
ニシナ中尉は私の腕を振り払い何も言わずに去って行った。ニシナ中尉は相部屋で意気投合し、人間魚雷回天を一緒に生み出したクロキ大尉を1944年9月7日に亡くしている。それ以降のニシナ中尉は悲しみを堪えながら心を鬼にし、回天隊を引っ張ってきたのである。
その夜、私は特攻熱望二重丸に丸を打ち、上層部に提出した。イタクラさんの時のように猛反対されたが、私はそれを押し切った。
少佐のイタクラさんなら、戦争後生きていても問題はないだろう。けれど、少将が戦後生きているなど許されることではなかったのである。どの道、私は死ななければならなかった。
1944年11月8日。
私はイ47にて搭乗服を着て大津島を出発した。潜水艦の中は40度を超えていて、男性のみんなは短パン1枚で計画を立てていた。女の私は服を脱ぐことも出来ず、ひたすら熱さに堪えていた。
1944年11月19日。
イ47はウルシーまでやって来た。
「総員配置に付け!」の号令が飛んだ。
1944年11月20日。
最後の日が来た。
午前3時、「1.2.5号艇、乗艇用意!」の発令を受け、私は七生報国のハチマキを締めた。ニシナ中尉はクロキ大尉の遺骨の入った箱を持っていた。
私は5号艇に乗艇した。
イ47はマヤガン島近海に着いたのである。
「ラルク、私行くよ!」
私はどこにいるかも分からないラルクに言葉を届けた。
そして、オリタ艦長との最後のやり取りがはじまった。
「5号艇、発進準備よーい!」
私は起動弁を全開にし、電話を手に取った。
「5号艇、発進準備用意よし!」
オリタ艦長はもう一度言った。
「5号艇、発進準備よーい!」
「5号艇、発進準備用意よし!」
「何か言い残すことは?」
「何もありません!」
「5号艇、発進!」
私は、上甲版から離脱した。電話線は切れ、私は米艦船郡に突入して行った。覚悟はしていたが、回天は本当に前にしか進まない。そして、見守るのはイ号。これが、神風隊だったら、1~3号機に1機の直掩機が付けられる。また、直掩機も特攻隊で、特攻する人の全てを上官に報告する、つまり、死なない特攻しない特攻隊なのである。
20m先に空母があるはず。けれど、何かがおかしい。私は潜望鏡を確認した。周りにワナが張られている。
「武士が水飲むわけにはいかないよ」
その言葉を最後に私は、事前に渡されていた青酸カリを飲んだ。私が死んだだろう後、5号艇はワナにぶつかり爆発した。
1945年5月8日、ドイツ降伏、1945年7月31日、インディアナポリスは沈没、1945年8月6日 午前8時15分17秒 広島にリトルボーイが投下、1945年8月9日 午前11時5分 長崎にファットマンが投下され、1945年8月15日、玉音が流れた。ウガキ少将は彗星に乗り、オオニシ中将は切腹した。
1945年9月2日。
日本村は終戦となった。
インディアナポリス艦長であるチャールズマクベイは、イ58のモチツラさんが『あの至近距離ではジグザグ航行をしていたとしても、私の魚雷からは逃れることは出来なかったでしょう』と証言するものの、『退去命令については無罪』の判決が下り、1968年11月6日に自殺をした。
また、後にキョウコさんがニシナ中尉のお母様に「あなたの息子さんは死んだのにイタクラが生きていて申し訳ありません」と言ったのに対し、ニシナ中尉のお母様は「イタクラさんだったからこそ、セキオは喜んで死んで行ったんです」と返している。
家族の死を恨まず強く生きる。戦争時代だからこそ、そういった強さは必要だったのかもしれない。
ねえ、戦争って……戦争だからこそ、自分を見失っちゃいけないんだよ。
私が戻ることなんて許されないし、戻って帰っちゃいけないんだよ。大元帥(天皇陛下)の計画に参加していたもの。戻れるわけがないよ。
ヨルクさん……会いたい……会いたいよ……。
〈完〉
《ナミネ》
1941年12月8日。
日本村は大東亜戦争の幕開けとなった。
人はよく『戦争は決して繰り返してはいけない』と簡単に言うけれど、その人たちの言うところの戦争は大東亜戦争のことで、戦国時代は含まれていない。戦国時代だって多くの人が亡くなったのに、何故人は戦争のことを大東亜戦争のみしかカウントせず、戦国時代のことは楽しそうに書物を読んでいるのだろう。私には分からなかった。
真珠湾攻撃は呆気なく日本村の負けとなった。イソロクさんは言っていた。
『出来るヤツは言わなくてもする。けれど、ナグモはしない』
ナグモはしない。けれど、それには裏があったのだ。ナグモさんは軍令部総長から赤城を壊さず戻すよう事前に命じられていたのである。また、第3次攻撃の要請は赤城は行わなかったが、飛龍は行った。それに、第3次攻撃の要請を取り消したのは他でもないイソロクさんだったのだ。
何故、真珠湾攻撃が負けたのか。それは、石油タンクと修理工場を残してしまったからだ。
そして、日本村は間違いなく電文を送ったにも関わらず、大使館で解読が遅れ、ルーズベルトさんは大激怒した。よって、真珠湾攻撃は奇襲と呼ばれてしまったのであった。
イソロクさんは、挽回をするため、みんなが反対する中、ミッドウェー海戦を計画した。いや、真珠湾攻撃でさえ、みんなの反対を押し切って実行したものであったのだ。ミッドウェー海戦は翌年の6月4日から6月6日に行われた日本村とアメリカ村の海戦である。
しかし、この時、赤城の無線は故障していた。そうとも知らず、イソロクさんは信号を送らなかった。これによって赤城は兵装転換中に攻撃を受け、加賀、蒼龍、飛龍もあっという間に火の海となったのである。
『1942年6月6日、0時15分、総員退去!』
飛龍に残ったのは、タモンさんとトメオさんだった。そして、タモンさんは飛龍を味方に魚雷を打たせたのだ。
後世の人は言う。
『ナグモが戻ってきたから日本村は負けた』
時は大東亜戦争末期。
私は、婚約者のヨルクさんのお墓の前で手を合わせた。
「ヨルクさん、私は妖精村のために闘います!いつか……いつか……お会いしましょう」
そして私は空を見上げた。
「ラルク、何処にいるの?生きて戻るの?妖精神社で会おうね」
私はナノハナ家に戻り、荷物をまとめた。
世間は特攻のニュースで溢れていた。
特攻というのは、○6、○8、○大の4種類のことを示す。しかし、特攻の創案者と特攻を生み出した人は違う。また、P基地のコウゾウさんは『お金持ちだからこそ、特攻なんてことが実現出来るんだ』と言っていた。
どうして、若者が特攻へ行くのか。
お国のため?
上官の命令?
不可に丸を打てないから?
そうではない。
特攻をすれば、二階級昇進となる。つまり、国から手当を受けられ、残された家族の一生の暮らしが保証されるのである。そのために志願する人が多かったらしい。また、特攻をせず、死んでしまえば家族が路頭に迷うことも後を絶えなかったのは事実だ。
神風特攻隊の司令官に就任することになった私は、中将に挨拶をした。しかし、パイロットは人気の部隊で、私は特別基地に行くよう命じられた。
2日後、私はある基地に来た。それは回天基地だった。
人間魚雷回天。
話に聞いたことはあるが、全長15mととても大きな戦闘機だった。創案者はクロキ大尉とニシナ中尉。指揮官はイタクラさんである。また、イタクラさんは指揮官を任された以上は自分も特攻に行くと志願したが、上層部から反対されている。
私は、研修生のみんなに挨拶をした。
「この度は、回天の講習員を任されたナミネです。よろしくお願いします」
この時の私は25歳だった。研修生は16歳前後といったところだろうか。特攻に行くとは知らず、パイロットの基地から回された若者が大半だと私は思った。騙すのは良くない。だから私は言った。
「皆さんは、回天に乗って敵艦に体当たりをします。また、回天は桜花と違って、一度前に進めば後に戻ることは出来ません。ただ、前に進むのが回天です。全力は30ノットです」
その瞬間、若い研修生たちは騒ぎ始めた。
「体当たり?そんなの聞いてないぞ!」
「私たちは死ぬのか?」
「そんな……これじゃあ騙されたのと同じじゃないか!」
「死にたくない!」
イタクラ指揮官が騒ぎを止める前に私は怒鳴った。
「皆さん、静かにしてください!死にたくない者は無理に死ねとは言いません!けれど、ここに来たからには訓練はちゃんとしてもらいます!」
しかし、私の言ったことが納得いかなかったのか、ニシナ中尉が私の前に立った。
「死にたくない。そんな甘ったれた者は今すぐここから出ていけ!」
「ニシナ中尉、この子たちは本来なら高校生活を満喫している若者たちです。あまり厳しくしないでください」
「ナミネ少将、あなた何か勘違いをしていまけんか?戦争を甘く見ているあなたが司令官に就任だなんて私は認めたくないです!生きるか死ぬかと言う時に、死を恐れていては生きることさえままなりません!そして、研修生のためにもならないでしょう」
ニシナ中尉は21歳で本来なら大学生活を楽しんでいる年頃だろう。けれど、私の方が階級が上なのに私に楯突いたニシナ中尉の腕を私は掴んだ。
「勘違いしているのはあなたです!マサツラさんは特攻などしていません!あんなの袋のネズミじゃないですか!それに、あなたは『マサツラさんは観心寺の近くに住んでいた』と書いていますが、マサツラさんは観心寺に住んでいたんです!マサシゲさんが湊川の戦いに行くから観心寺に身を寄せたんです!歴史も知らないあなたに盾突かれる筋合いはありません!」
ニシナ中尉は私の腕を振り払い何も言わずに去って行った。ニシナ中尉は相部屋で意気投合し、人間魚雷回天を一緒に生み出したクロキ大尉を1944年9月7日に亡くしている。それ以降のニシナ中尉は悲しみを堪えながら心を鬼にし、回天隊を引っ張ってきたのである。
その夜、私は特攻熱望二重丸に丸を打ち、上層部に提出した。イタクラさんの時のように猛反対されたが、私はそれを押し切った。
少佐のイタクラさんなら、戦争後生きていても問題はないだろう。けれど、少将が戦後生きているなど許されることではなかったのである。どの道、私は死ななければならなかった。
1944年11月8日。
私はイ47にて搭乗服を着て大津島を出発した。潜水艦の中は40度を超えていて、男性のみんなは短パン1枚で計画を立てていた。女の私は服を脱ぐことも出来ず、ひたすら熱さに堪えていた。
1944年11月19日。
イ47はウルシーまでやって来た。
「総員配置に付け!」の号令が飛んだ。
1944年11月20日。
最後の日が来た。
午前3時、「1.2.5号艇、乗艇用意!」の発令を受け、私は七生報国のハチマキを締めた。ニシナ中尉はクロキ大尉の遺骨の入った箱を持っていた。
私は5号艇に乗艇した。
イ47はマヤガン島近海に着いたのである。
「ラルク、私行くよ!」
私はどこにいるかも分からないラルクに言葉を届けた。
そして、オリタ艦長との最後のやり取りがはじまった。
「5号艇、発進準備よーい!」
私は起動弁を全開にし、電話を手に取った。
「5号艇、発進準備用意よし!」
オリタ艦長はもう一度言った。
「5号艇、発進準備よーい!」
「5号艇、発進準備用意よし!」
「何か言い残すことは?」
「何もありません!」
「5号艇、発進!」
私は、上甲版から離脱した。電話線は切れ、私は米艦船郡に突入して行った。覚悟はしていたが、回天は本当に前にしか進まない。そして、見守るのはイ号。これが、神風隊だったら、1~3号機に1機の直掩機が付けられる。また、直掩機も特攻隊で、特攻する人の全てを上官に報告する、つまり、死なない特攻しない特攻隊なのである。
20m先に空母があるはず。けれど、何かがおかしい。私は潜望鏡を確認した。周りにワナが張られている。
「武士が水飲むわけにはいかないよ」
その言葉を最後に私は、事前に渡されていた青酸カリを飲んだ。私が死んだだろう後、5号艇はワナにぶつかり爆発した。
1945年5月8日、ドイツ降伏、1945年7月31日、インディアナポリスは沈没、1945年8月6日 午前8時15分17秒 広島にリトルボーイが投下、1945年8月9日 午前11時5分 長崎にファットマンが投下され、1945年8月15日、玉音が流れた。ウガキ少将は彗星に乗り、オオニシ中将は切腹した。
1945年9月2日。
日本村は終戦となった。
インディアナポリス艦長であるチャールズマクベイは、イ58のモチツラさんが『あの至近距離ではジグザグ航行をしていたとしても、私の魚雷からは逃れることは出来なかったでしょう』と証言するものの、『退去命令については無罪』の判決が下り、1968年11月6日に自殺をした。
また、後にキョウコさんがニシナ中尉のお母様に「あなたの息子さんは死んだのにイタクラが生きていて申し訳ありません」と言ったのに対し、ニシナ中尉のお母様は「イタクラさんだったからこそ、セキオは喜んで死んで行ったんです」と返している。
家族の死を恨まず強く生きる。戦争時代だからこそ、そういった強さは必要だったのかもしれない。
ねえ、戦争って……戦争だからこそ、自分を見失っちゃいけないんだよ。
私が戻ることなんて許されないし、戻って帰っちゃいけないんだよ。大元帥(天皇陛下)の計画に参加していたもの。戻れるわけがないよ。
ヨルクさん……会いたい……会いたいよ……。
〈完〉
PR
純愛偏差値 未来編 一人称版 55話
《ナミネ》
ラルクは森の湖にいる昔のセレナールさんに復讐をした。けれど、セレナールさんはエミリさんから皇太子様を奪い、2年後、紀元前村に行き、カラクリ家で過ごすという、元々の歴史通りになった。また、ラルクとは教師時代にラルクの猛アタックで交際している。
歴史とは何て奇妙にできているのだろう。
無理矢理変えても元に戻ってしまう。
歴史は絶対に変えられないように出来ているのだろうか。
それにしても一つだけ腑に落ちない。
どうして、エミリさんは現世でアランさんと交際しているのだろうか。やっぱりラルクが歴史を変えてしまったことと何か関係しているのだろうか。
落ち武者さんは伝説上級武官試験に合格したものの、ラルクは伝説には辿り着けず、特殊武官止まりだった。また、ズームさんは時計騎士試験に合格し、現世でも時計騎士を目指すらしい。
けれど、問題はラルクだ。復讐を終えて吹っ切ったはずなのに……違っていた。ラルクの根底の中ではまだ折り合いが付けられていないのかもしれない。だとしたら、ラルクはまだ正気に戻っていない可能性もある。私が何度も励ましてもラルクは私を目の敵にした。いったいどうしたらいいの。
落ち武者さんの誕生日はもうすぐだ。
セレナールさんとカナエさんもセナ王女の別荘で一緒に誕生日会を開く。あ、せっかくズームさんと知り合ったんだし、誘ってみよう。
「あの、30日に落ち武者さんとセレナールさん、カナエさんの誕生日会がセナ王女の別荘で開かれるんですけど、ズームさんも来ませんか?」
え、またこの間……。
「行きます」
声ちっさ!でも、来るんだ。
「あ、一応王室のパーティーなので、フォーマルとか……」
「持ってます」
「で、ですよね」
あんなでっかい家に住んでるんだから、パーティーに着ていく服なんかいっぱいあるか。
その時、ヨルクさんが番人部屋から戻って来た。
「ナミネ、時計騎士試験受かったよ」
え!ヨルクさんが!?私のほうが訓練いっぱいして来たのに。
「な、何回で合格したんですか?」
「1回だよ」
1回!?私なんて7回受けたのに!
「あんた、意外に反射神経良いんだな」
「時計騎士は、日常的に買い出しや料理、掃除、洗濯などの家事をしている人のほうが時間に正確だから受かる率が高いんですよ」
そうだったのか。ヨルクさんは規則正しい生活送ってるもんな。ヨルクさんは時計騎士するのだろうか。
「ヨルクさんは、時計騎士になるんですか?」
「ならないよ。ナミネが持ってるから体験してみた。これで、ナミネとお揃いの資格が出来たね」
はあ、ラルクは伝説に辿り着けままだというのに、ヨルクさんはちゃっかり時計騎士の資格取っちゃって。
「あ、落ち武者さんは時計騎士はどうするんですか?」
「考えてないけど?まずは夢騎士優先だし」
「ラルクがこんな状態ですし、夢騎士試験は遅らせますか?」
「あんた、なんでラルクに合わせんのさ。受けれる時に受けとかないでいつ受けんのさ。ラルクに合わせて今度はあんたが受けられない状況もあるかもしんないんだぞ!あんたも近々受けとけ!」
そういうものか。私は今は受けれる状態だけど、いざラルクが受けられる状態になって私が受けられなかったら意味ないもんな。ここは、自分軸か。
「ねえ、どうして落ち武者さんがいるの?」
そっか。セナ王女とナルホお兄様、ズームさん以外は帰ったんだっけ。
「村八分の家に帰れるかよ!」
「ねえ、ラルク。ラルクは今は受けなくていいよ。武官に拘ることないと思うしさ。ラルクは教師目指してるんだもん」
「ナミネ、馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
ラルクは私を突き飛ばした。私はラルクを花札で拘束し、岩の結界をかけ、畳に着地した。
「解!」
「ラルク、これが今のラルクの実力なんだよ。現実と向き合いなよ!セレナールさんの残像ばっか見てると、いつまでも特殊武官止まりだよ!」
「ナミネ、今のラルクを追い詰めるのは逆効果だよ」
ナルホお兄様は結界を解いた。ラルクは泣きながら2階へ行った。
「あんたら、時計騎士の制服着て並べよ。記念写真撮ってやる」
せっかくだから撮ってもらおうかな。私は廊下で着替えるとまた第4居間に入り、ズームさんとヨルクさんの真ん中に立つと落ち武者さんがシャッターボタンを押した。私はまた廊下でルームウェアに着替え直した。
「ナミネ、今日は何食べたい?」
「じゃ、オムライス」
「落ち武者さんに聞いてないんだけど!」
「私、食欲ないのでいいです」
とてもじゃないけど、こんな時に自分だけ楽しむ気分にはなれなかった。
「ヨルク、今夜はクレナイ食堂の料理頼んでくれるかな?」
「うん、分かった」
ヨルクさんは、使用人にクレナイ食堂の料理を人数分頼んだ。
「じゃ、強気なナミネ、風呂行くぞ」
「あ、はい」
「ねえ、落ち武者さん、ナミネは私の彼女なんだけど。ナミネ、一緒にお風呂入ろうね」
「はい」
私はヨルクさんに手を引っ張られ、お風呂に向かった。
お風呂ではヨルクさんが私を抱き締めた。
「久しぶりですね」
「うん」
ヨルクさんの紅葉の香りが強くなる。私はヨルクさんの首に腕を回し、何度もヨルクさんを好きだと言った。何か、息切れしてる。疲れてるのかな。
「ごめん」
え、なんで謝るの?
「ヨルクさんって、いつも弱気ですね!」
「ナミネがラルクのことばかりだから嫉妬した。ナミネと2人になりたかった」
「私だってそうです!ラルクのことは、落ち武者さんと3人で資格取ろうって話していましたので。別に特別扱いとかそんなんじゃありません」
特別扱いじゃないんだけどさ。ラルクとは、同学年でずっと一緒だったから、心配なんだよね。
「うん、そっか。ナミネ、酷いこと言ってごめんね」
「別に気にしてません」
もうっ、ヨルクさんて、すぐに泣くんだから。私はヨルクさんを抱き締めた。私とヨルクさんはしばらく抱き締め合っていた。
お風呂から上がり、第4居間に行くと、ニンジャ妖精さんとラハルさんがいた。てか、なんでいるの!?
「突然、記憶がなくなって、戻ると同時にナミネさんに連絡したけれど、繋がらなかったので心配で来ました」
連絡……?私は携帯を見た。メール206件……。怖っ!
「あ、すみません。私も記憶なくしてて、その後も色々バタバタしていたんです」
「そうでしたか。無事で良かったです」
カンザシさんは私を抱き締めた。うっ、汗ばんだタバコの臭い……。気絶しそう。その時、ラハルさんが、私からカンザシさんを離してくれた。
「カンザシ!僕は仕事全て終わらせて来たけど、カンザシはロクにレッスンもしないまま数日過ごし、ナミネにメールしてばかりで、ナミネからメールが来ないから来たんだろ」
「ラハルー!来てくれたのね。今日は私の部屋に泊まって」
リリカさん、ラハルさんがいるとすぐに来る。
「いや、今日は契約したアパートに帰るよ」
泊まらないんだ。てことは、ニンジャ妖精さんも?
「ナミネさん、今日は同じ部屋に泊まります!」
えええええ!なんでそうなるの?メールなんて見てる暇なかったし、ずっとラルクのこと心配だったのに。
「すみません。クレナイ家に来た時はヨルクさんの部屋に泊まってるんです」
てか、アパートに帰らないの?何のために契約したの?
「クレナイ家も広いね。両親何してるの?」
「サラリーマンしてます」
「建築士よ」
……。ヨルクさんてサバイバルになったら孤立しそう。
「あ、建築士でした」
「へえ、お父さん頑張ってるんだ」
「クレナイ家のお父様は愛妻家です!」
「ナミネも直球だねえ」
実際ナノハナ家だけなんだよね。庶子がいるの。キクリ家もカラクリ家もコノハ家も浮気なんかしてない。
「あ、ズームさんとこは愛妻家ですか?」
「知りません」
必要なこと以外は答えてくれないの?それとも、お金持ちあるあるの不倫三昧とか?
「ナミネさん、少し2人になれませんか?」
カンザシさんは、どうして私との距離を縮めようとするのだろう。いくら実の兄でも、何だか気まずいよ。
「すみません、私、ラルクのことが心配なんです」
私は落ち武者さんの腕を組んだ。
「リーダー!ここのところずっと、共演した女持ち帰ってるのに、まだ足りないんですか?」
カンザシさんて、女にだらしないんだ。何かやだな。
「シュリに頼まれただけだ!僕は何もしてない!」
「カンザシ、お前本当に最低だな」
「でも、ホイホイ着いてく女も女だよね」
私は無意識に言葉に出てしまっていた。
「ナミネはしっかりしてるけど、大抵の共演者はカンザシに誘われたら、すぐに着いていくんだ。マスコミの目だってあるし、何より他のメンバーが可哀想に思うよ」
まあ、カンザシさんの容姿なら女も着いていくよね。特に若い子は。
「ふむふむ、カンザシさんは手馴れているというわけですな。けれど、女はカンザシさんの容姿しか見てませんぞ」
「ナミネさん、本当にシュリに頼まれたんです」
シュリさん可哀想。
「しかし、それが本当なら女子が可哀想ですぞ。カンザシさんとの一夜を期待して入ったホテルの中には他の男がいた。もはや詐欺ですな」
「カンザシ、本当にいい加減にしろよ。カンザシみたいなのがいるから、同年代の他のグループも警戒されてるんだ」
デビューしたらデビューしたで、上玉の女に溺れたというわけか。昔の都会に染まる田舎育ちの男みたいだな。
「リーダー、流石に女遊びはもうやめてください!僕は真剣に芸能界に入ったんです!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんを殴ろうとしたがミツメさんは避けた。
「もう何を言ってもダメだな。ナミネ、僕も心配だったよ。でも、ちゃんと記憶覚えてて良かった。その髪型、前よりずっと似合ってる」
「ありがとうございます、ラハルさん。長いのも手入れが面倒で、思い切って美容院行ったんです」
ヨルクさんからも褒められたし、セミロングにして良かった。
「リーダー、リーダーならもっと真面目にやってください!だいたいナミネさんはリーダーにとってなんなんですか?」
「ナミネさんのことは記憶失う前に抱いた!」
どうして嘘つくかなあ。そんなのみんな信じないだろうに。
……。って、ニンジャ妖精さん、私のこと見てる!?
「いけませんなあ、嘘は。私はまだ中学生ですぞ」
「カンザシ、本当にナミネを抱いたのか?」
って、なんで私カンザシさんに抱かれたことになってるの!?
「抱いた!ナミネさんはじめてだったから、時間かけた!」
「カンザシ、お前!」
ラハルさんはカンザシさんを殴ろうとしたが、逆にカンザシさんがラハルさんを殴ろうとし、ミツメさんが止めた。
「ナミネ、カンザシさんと関係持ったの?」
何故、騙されやすい。
「どうして、こうも騙されやすいんですか!ついこないだまで生理だったのに、関係なんか持てるわけないでしょう!」
ラハルさんも信じ込んでるし、どうなってるの?私って、そんなに軽い女に見えるの?いやだな。誤解されたくない。
「カンザシ!まだ中学生なナミネを弄んだのか?」
「ナミネさんのことは真剣に抱いた!ナミネさんは右に身体を捩らせやすくて、潤んだ目になってた!終わるまで頬を赤らめながら恥じらい美しい声を出していた!」
なるほど。前世の時のことを明確に覚えているというわけか。けれど、こんなところで嘘つくなんて酷すぎる。
「あんたらさ、強気なナミネがカンザシに抱かれたと思ってんのかよ!」
うんうん、その調子。私の無実晴らして!って、なんで押し倒すの?
「きゃはは!落ち武者さん、くすぐったい!」
でも、やっぱり落ち武者さんの身体冷えてる。病気なのだろうか。私は落ち武者さんの背中をさすった。
「あんた、何してんのさ」
「落ち武者さんの身体冷えてるから温めてるんです!」
小さい時に大きな病気でもしたのかな。
「分かったか!こんな無邪気なヤツが処女奪われてるわけないだろ!」
何か微妙な言い方だけど、みんな信じてくれた雰囲気。ヨルクさん以外は。
「カンザシ!なんで嘘ついた!」
「本当に抱いたんだ!」
もうカンザシさんが分かんない。外で散々女遊びしてるのに、どうして私と関係持っただなんて言うのだろう。
「リーダー!いい加減にしてください!完全な片想いじゃないですか!実ることのない恋のせいでこっちはどれだけ迷惑しているか!」
「ナミネさんとは両想いだ!」
何なんだろう、この会話。何だかカンザシさんのこといやになってきた。ミツメさんは頭に血が登ったのか、カンザシさんを軽く殴った。
「ミツメ、お前、誰に向かって殴った!」
えっと、今度は正拳か?違う、禁止技だ!私と落ち武者さんは、ミツメさんを扇子で吹き飛ばした。
「どうして僕を攻撃したんですか!悪いのはリーダーでしょう!」
「あんた、禁止技は反則だ」
ミツメさんがニンジャ妖精さんのメンバーに加わってからは1番強いのはミツメさんになった。けれど、さっきのは知っていて喉を狙ったのだろうか。
「でも、僕もカンザシが悪いと思う。現にミツメが来てから、みんなへの暴力は格段に減ったし。格闘とか分からないけど、ミツメがいないと、みんな毎日カンザシに殴られていたと思うんだ」
難しいな。それなら普通の技で負かせば良かったのに。
この時の私は知らなかった。かつて、ミツメさんが大会で濡れ衣を着せられ失格になったことを。今でもミツメさんは、その時のことを恨みながら生きているということを。
私の疑いは落ち武者さんによって晴れたものの、ミツメさんは、あの後、何度もカンザシさんから責められた。私はヨルクさんの部屋でヨルクさんにカンザシさんと関係を持ったと思われ泣かれ、信じてもらえるまでかなり時間がかかった。ヨルクさんは、カンザシさんが私との前世を覚えていたことに気づかなかったらしい。
そして、いよいよ落ち武者さんの誕生日が来た。
セナ王女の別荘のパーティー会場には多くの貴族が来ていた。そして、何故かニンジャ妖精さんとラハルさんも来ていた。
私の時はプレゼントもらっていなかったから、私はセレナールさんとカナエさんにはチロルチョコを1つずつ渡した。
ラルクとは、気まずい関係が続いていて殆ど私が一方的に話しかける関係だった。それでも私は、ラルクは回復に向かっていると信じていたのだ。
エミリさんとアランさんはまるで恋人であるかのように手を繋いでいた。今の時代では不釣り合いな関係。
少しすると、信じられない光景を私は目にすることになる。
皇太子様が来たと思えば、セレナールさんの元に駆け寄った。
「セレナール、遅れてごめん」
「皇太子様……」
愛想を尽かしたラルクにすがっていたのは、ついこないだのことなのに。セレナールさんは、新たな駒を動かした。
セレナールさんと皇太子様は、パーティー会場の前で、マイク越しに語り合った。
「セレナール、遅くなったけど、誕生日おめでとう」
皇太子様は300本のレインボーの薔薇の花束と共にフェアリールナの紫色の月のネックレスが入った箱をセレナールさんに渡した。セレナールさんは、箱を開くなり皇太子様に抱き着いた。
「皇太子様、ありがとう!」
皇太子様はセレナールさんをお姫様抱っこした。
「みんな、聞いて欲しい。僕はクラスメイトのセレナールと交際をはじめた。セレナールは、心が清らかで誰にでも優しくて純粋で、どんな逆境にも打ち勝つ。そんな美しいセレナールに僕は惹かれた。セレナールを一生大切にする」
エミリさんがアランさんと交際しているカラクリはこういうことだったのか。
「私も、皇太子様の無垢な愛情に包まれてとっても幸せ。聞こえてる?ラルク!ラルクのことは弟のように可愛がってきた。だから、今1番祝福して欲しい。伝説武官試験落ちたことは私も本当に悲しいわ。でも、ラルクならやれる!頑張って!皇太子様とは互いに一目惚れだった。でも、その2つにない縁(えにし)を私は大切にしたい。皇太子様、愛してるわ!」
ラルクを名指しにして辱めるなんて、許せない。けれど、セレナールさんは強力なバックを手に入れた。こんなにも恐ろしい女を私は見たことがない。
私だけじゃない。グループのみんなが驚いていた。
「まさかセレナールがレナードと付き合うなんて」
「何だか腑に落ちないわ」
「エミリが可哀想なのです」
みんな負けごとを言うことしか出来ない。でも、悔しい。遠い昔、ラルクを騙したのに、現世でも騙していただなんて……。
「ラルク、あんなの気にすることないよ。長続きしないよ。そのうちエミリさんに打ちのめされるよ」
「ああ、あんな女だとは思わなかった。僕はまんまとあの容姿に騙されていたんだ」
ラルク、元に戻ったの?セレナールさんと皇太子様は、会場の拍手と共にこっちに向かって来た。
「セレナール、おめでとう」
「ありがとう、セナさん。ラルク、伝説武官落ちたくらいで落ち込むな!」
マイクで会場のみんなに聞こえるように言うだなんて。この女、どういう神経してるの?
「セレナール先輩、皇太子様との交際おめでとうございます。心から祝福します」
え、今セレナールさんの下腹部に2回針を刺した後、即抜いた?私は周りを見渡した。見ている人はいない。ズームさんとナルホお兄様は遠くにいる。でも、ここでラルクの味方したら私も共犯者になってしまう。
「ナミネ、ジュースだよ」
「あ、ありがとうございます」
私は震えた手でヨルクさんからジュースを受け取った。
ラルクの復讐は終わっていなかった。いや、セレナールさんが新たな駒を動かしたことによる抵抗なのかもしれない。
「ナミネさん、2人きりで話がしたいです」
タイミングが悪すぎる。
「すみません。せっかくパーティーに来たので私、パーティーを楽しみたいんです。落ち武者さん、お誕生日おめでとうございます」
私は落ち武者さんに抱き着いた。
「そうですよね。では夜に」
「すみません、今日はここに泊まるんです」
「え……」
「てか、あんたいつまでこうしてるつもりだよ。プレゼント寄越せ」
落ち武者さんは気付いているのだろうか。気付いていないなら言うべき?言わないべき?いや、言うしかない。
「落ち武者さん、話があるんです」
「ナミネさん、だったら、僕との時間を優先してください」
「でも、今日は落ち武者さんの誕生日だから、落ち武者さんを優先させてください」
「ナミネさん、15分だけでいいんです!」
どうして邪魔するの?カンザシさんって自分のことしか考えてない。昔の私はどうしてこんな人と交際していたのだろう。
「リーダー!もうやめてください!女ならいくらでもいるでしょう!」
ミツメさんがカンザシさんを引き止めている間に私は落ち武者さんの手を引っ張って猛スピードでパーティー会場を出た。
私は霧の結界と壁の結界をかけた。
「あんた、何なのさ」
「ラルクが、セレナールさんの下腹部2箇所に針を刺してたんです!」
「悪いけど、セレナールを助ける真似は許さないわ」
リリカさん!いつの間に入り込んでいたのだろう。リリカさんは岩の結界をかけた。
「強気なナミネ、結界解け!」
「リリカさん、このまま放っておけば、復讐は繰り返されます。そんなのラルクのためになりません!セレナールさんは必ず皇太子様と別れます!」
リリカさんとは敵同士になりたくない。
「おい、早く解け!!」
「はあ、分かったわ」
リリカさんは結界を全て解いた。その瞬間、アルフォンス王子とセナ王女が私と落ち武者さんにF938を見せた。
「リ、リリカさん……?」
そんな、事前に連絡し合っていたのか。
「悪いけどセレナールにはこのまま苦しんでもらうわ」
「ですが、なんの針か分からないことには、皆さんににメリットかデメリットか分かりません」
「だったら、ナミネが確認して来い!」
F938を使って私を脅すだなんて、何て卑怯なの。私は小さい紙飛行機をみんなにバレないようにズームさんに飛ばした。
「アルフォンス王子、私に命令しないでください!」
「ナミネ、何してるの?」
「顔だけヨルク!姉さんがラルクに針刺された!」
「え……」
……
あとがき。
もし、セレナールがレナードと交際していなければ、ラルクは何もしなかったのだろうか?
ラルクの闇堕ちはいつまで続くの?
キリのない展開。
果たして、セレナールは助かるのか?
《ナミネ》
ラルクは森の湖にいる昔のセレナールさんに復讐をした。けれど、セレナールさんはエミリさんから皇太子様を奪い、2年後、紀元前村に行き、カラクリ家で過ごすという、元々の歴史通りになった。また、ラルクとは教師時代にラルクの猛アタックで交際している。
歴史とは何て奇妙にできているのだろう。
無理矢理変えても元に戻ってしまう。
歴史は絶対に変えられないように出来ているのだろうか。
それにしても一つだけ腑に落ちない。
どうして、エミリさんは現世でアランさんと交際しているのだろうか。やっぱりラルクが歴史を変えてしまったことと何か関係しているのだろうか。
落ち武者さんは伝説上級武官試験に合格したものの、ラルクは伝説には辿り着けず、特殊武官止まりだった。また、ズームさんは時計騎士試験に合格し、現世でも時計騎士を目指すらしい。
けれど、問題はラルクだ。復讐を終えて吹っ切ったはずなのに……違っていた。ラルクの根底の中ではまだ折り合いが付けられていないのかもしれない。だとしたら、ラルクはまだ正気に戻っていない可能性もある。私が何度も励ましてもラルクは私を目の敵にした。いったいどうしたらいいの。
落ち武者さんの誕生日はもうすぐだ。
セレナールさんとカナエさんもセナ王女の別荘で一緒に誕生日会を開く。あ、せっかくズームさんと知り合ったんだし、誘ってみよう。
「あの、30日に落ち武者さんとセレナールさん、カナエさんの誕生日会がセナ王女の別荘で開かれるんですけど、ズームさんも来ませんか?」
え、またこの間……。
「行きます」
声ちっさ!でも、来るんだ。
「あ、一応王室のパーティーなので、フォーマルとか……」
「持ってます」
「で、ですよね」
あんなでっかい家に住んでるんだから、パーティーに着ていく服なんかいっぱいあるか。
その時、ヨルクさんが番人部屋から戻って来た。
「ナミネ、時計騎士試験受かったよ」
え!ヨルクさんが!?私のほうが訓練いっぱいして来たのに。
「な、何回で合格したんですか?」
「1回だよ」
1回!?私なんて7回受けたのに!
「あんた、意外に反射神経良いんだな」
「時計騎士は、日常的に買い出しや料理、掃除、洗濯などの家事をしている人のほうが時間に正確だから受かる率が高いんですよ」
そうだったのか。ヨルクさんは規則正しい生活送ってるもんな。ヨルクさんは時計騎士するのだろうか。
「ヨルクさんは、時計騎士になるんですか?」
「ならないよ。ナミネが持ってるから体験してみた。これで、ナミネとお揃いの資格が出来たね」
はあ、ラルクは伝説に辿り着けままだというのに、ヨルクさんはちゃっかり時計騎士の資格取っちゃって。
「あ、落ち武者さんは時計騎士はどうするんですか?」
「考えてないけど?まずは夢騎士優先だし」
「ラルクがこんな状態ですし、夢騎士試験は遅らせますか?」
「あんた、なんでラルクに合わせんのさ。受けれる時に受けとかないでいつ受けんのさ。ラルクに合わせて今度はあんたが受けられない状況もあるかもしんないんだぞ!あんたも近々受けとけ!」
そういうものか。私は今は受けれる状態だけど、いざラルクが受けられる状態になって私が受けられなかったら意味ないもんな。ここは、自分軸か。
「ねえ、どうして落ち武者さんがいるの?」
そっか。セナ王女とナルホお兄様、ズームさん以外は帰ったんだっけ。
「村八分の家に帰れるかよ!」
「ねえ、ラルク。ラルクは今は受けなくていいよ。武官に拘ることないと思うしさ。ラルクは教師目指してるんだもん」
「ナミネ、馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
ラルクは私を突き飛ばした。私はラルクを花札で拘束し、岩の結界をかけ、畳に着地した。
「解!」
「ラルク、これが今のラルクの実力なんだよ。現実と向き合いなよ!セレナールさんの残像ばっか見てると、いつまでも特殊武官止まりだよ!」
「ナミネ、今のラルクを追い詰めるのは逆効果だよ」
ナルホお兄様は結界を解いた。ラルクは泣きながら2階へ行った。
「あんたら、時計騎士の制服着て並べよ。記念写真撮ってやる」
せっかくだから撮ってもらおうかな。私は廊下で着替えるとまた第4居間に入り、ズームさんとヨルクさんの真ん中に立つと落ち武者さんがシャッターボタンを押した。私はまた廊下でルームウェアに着替え直した。
「ナミネ、今日は何食べたい?」
「じゃ、オムライス」
「落ち武者さんに聞いてないんだけど!」
「私、食欲ないのでいいです」
とてもじゃないけど、こんな時に自分だけ楽しむ気分にはなれなかった。
「ヨルク、今夜はクレナイ食堂の料理頼んでくれるかな?」
「うん、分かった」
ヨルクさんは、使用人にクレナイ食堂の料理を人数分頼んだ。
「じゃ、強気なナミネ、風呂行くぞ」
「あ、はい」
「ねえ、落ち武者さん、ナミネは私の彼女なんだけど。ナミネ、一緒にお風呂入ろうね」
「はい」
私はヨルクさんに手を引っ張られ、お風呂に向かった。
お風呂ではヨルクさんが私を抱き締めた。
「久しぶりですね」
「うん」
ヨルクさんの紅葉の香りが強くなる。私はヨルクさんの首に腕を回し、何度もヨルクさんを好きだと言った。何か、息切れしてる。疲れてるのかな。
「ごめん」
え、なんで謝るの?
「ヨルクさんって、いつも弱気ですね!」
「ナミネがラルクのことばかりだから嫉妬した。ナミネと2人になりたかった」
「私だってそうです!ラルクのことは、落ち武者さんと3人で資格取ろうって話していましたので。別に特別扱いとかそんなんじゃありません」
特別扱いじゃないんだけどさ。ラルクとは、同学年でずっと一緒だったから、心配なんだよね。
「うん、そっか。ナミネ、酷いこと言ってごめんね」
「別に気にしてません」
もうっ、ヨルクさんて、すぐに泣くんだから。私はヨルクさんを抱き締めた。私とヨルクさんはしばらく抱き締め合っていた。
お風呂から上がり、第4居間に行くと、ニンジャ妖精さんとラハルさんがいた。てか、なんでいるの!?
「突然、記憶がなくなって、戻ると同時にナミネさんに連絡したけれど、繋がらなかったので心配で来ました」
連絡……?私は携帯を見た。メール206件……。怖っ!
「あ、すみません。私も記憶なくしてて、その後も色々バタバタしていたんです」
「そうでしたか。無事で良かったです」
カンザシさんは私を抱き締めた。うっ、汗ばんだタバコの臭い……。気絶しそう。その時、ラハルさんが、私からカンザシさんを離してくれた。
「カンザシ!僕は仕事全て終わらせて来たけど、カンザシはロクにレッスンもしないまま数日過ごし、ナミネにメールしてばかりで、ナミネからメールが来ないから来たんだろ」
「ラハルー!来てくれたのね。今日は私の部屋に泊まって」
リリカさん、ラハルさんがいるとすぐに来る。
「いや、今日は契約したアパートに帰るよ」
泊まらないんだ。てことは、ニンジャ妖精さんも?
「ナミネさん、今日は同じ部屋に泊まります!」
えええええ!なんでそうなるの?メールなんて見てる暇なかったし、ずっとラルクのこと心配だったのに。
「すみません。クレナイ家に来た時はヨルクさんの部屋に泊まってるんです」
てか、アパートに帰らないの?何のために契約したの?
「クレナイ家も広いね。両親何してるの?」
「サラリーマンしてます」
「建築士よ」
……。ヨルクさんてサバイバルになったら孤立しそう。
「あ、建築士でした」
「へえ、お父さん頑張ってるんだ」
「クレナイ家のお父様は愛妻家です!」
「ナミネも直球だねえ」
実際ナノハナ家だけなんだよね。庶子がいるの。キクリ家もカラクリ家もコノハ家も浮気なんかしてない。
「あ、ズームさんとこは愛妻家ですか?」
「知りません」
必要なこと以外は答えてくれないの?それとも、お金持ちあるあるの不倫三昧とか?
「ナミネさん、少し2人になれませんか?」
カンザシさんは、どうして私との距離を縮めようとするのだろう。いくら実の兄でも、何だか気まずいよ。
「すみません、私、ラルクのことが心配なんです」
私は落ち武者さんの腕を組んだ。
「リーダー!ここのところずっと、共演した女持ち帰ってるのに、まだ足りないんですか?」
カンザシさんて、女にだらしないんだ。何かやだな。
「シュリに頼まれただけだ!僕は何もしてない!」
「カンザシ、お前本当に最低だな」
「でも、ホイホイ着いてく女も女だよね」
私は無意識に言葉に出てしまっていた。
「ナミネはしっかりしてるけど、大抵の共演者はカンザシに誘われたら、すぐに着いていくんだ。マスコミの目だってあるし、何より他のメンバーが可哀想に思うよ」
まあ、カンザシさんの容姿なら女も着いていくよね。特に若い子は。
「ふむふむ、カンザシさんは手馴れているというわけですな。けれど、女はカンザシさんの容姿しか見てませんぞ」
「ナミネさん、本当にシュリに頼まれたんです」
シュリさん可哀想。
「しかし、それが本当なら女子が可哀想ですぞ。カンザシさんとの一夜を期待して入ったホテルの中には他の男がいた。もはや詐欺ですな」
「カンザシ、本当にいい加減にしろよ。カンザシみたいなのがいるから、同年代の他のグループも警戒されてるんだ」
デビューしたらデビューしたで、上玉の女に溺れたというわけか。昔の都会に染まる田舎育ちの男みたいだな。
「リーダー、流石に女遊びはもうやめてください!僕は真剣に芸能界に入ったんです!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんを殴ろうとしたがミツメさんは避けた。
「もう何を言ってもダメだな。ナミネ、僕も心配だったよ。でも、ちゃんと記憶覚えてて良かった。その髪型、前よりずっと似合ってる」
「ありがとうございます、ラハルさん。長いのも手入れが面倒で、思い切って美容院行ったんです」
ヨルクさんからも褒められたし、セミロングにして良かった。
「リーダー、リーダーならもっと真面目にやってください!だいたいナミネさんはリーダーにとってなんなんですか?」
「ナミネさんのことは記憶失う前に抱いた!」
どうして嘘つくかなあ。そんなのみんな信じないだろうに。
……。って、ニンジャ妖精さん、私のこと見てる!?
「いけませんなあ、嘘は。私はまだ中学生ですぞ」
「カンザシ、本当にナミネを抱いたのか?」
って、なんで私カンザシさんに抱かれたことになってるの!?
「抱いた!ナミネさんはじめてだったから、時間かけた!」
「カンザシ、お前!」
ラハルさんはカンザシさんを殴ろうとしたが、逆にカンザシさんがラハルさんを殴ろうとし、ミツメさんが止めた。
「ナミネ、カンザシさんと関係持ったの?」
何故、騙されやすい。
「どうして、こうも騙されやすいんですか!ついこないだまで生理だったのに、関係なんか持てるわけないでしょう!」
ラハルさんも信じ込んでるし、どうなってるの?私って、そんなに軽い女に見えるの?いやだな。誤解されたくない。
「カンザシ!まだ中学生なナミネを弄んだのか?」
「ナミネさんのことは真剣に抱いた!ナミネさんは右に身体を捩らせやすくて、潤んだ目になってた!終わるまで頬を赤らめながら恥じらい美しい声を出していた!」
なるほど。前世の時のことを明確に覚えているというわけか。けれど、こんなところで嘘つくなんて酷すぎる。
「あんたらさ、強気なナミネがカンザシに抱かれたと思ってんのかよ!」
うんうん、その調子。私の無実晴らして!って、なんで押し倒すの?
「きゃはは!落ち武者さん、くすぐったい!」
でも、やっぱり落ち武者さんの身体冷えてる。病気なのだろうか。私は落ち武者さんの背中をさすった。
「あんた、何してんのさ」
「落ち武者さんの身体冷えてるから温めてるんです!」
小さい時に大きな病気でもしたのかな。
「分かったか!こんな無邪気なヤツが処女奪われてるわけないだろ!」
何か微妙な言い方だけど、みんな信じてくれた雰囲気。ヨルクさん以外は。
「カンザシ!なんで嘘ついた!」
「本当に抱いたんだ!」
もうカンザシさんが分かんない。外で散々女遊びしてるのに、どうして私と関係持っただなんて言うのだろう。
「リーダー!いい加減にしてください!完全な片想いじゃないですか!実ることのない恋のせいでこっちはどれだけ迷惑しているか!」
「ナミネさんとは両想いだ!」
何なんだろう、この会話。何だかカンザシさんのこといやになってきた。ミツメさんは頭に血が登ったのか、カンザシさんを軽く殴った。
「ミツメ、お前、誰に向かって殴った!」
えっと、今度は正拳か?違う、禁止技だ!私と落ち武者さんは、ミツメさんを扇子で吹き飛ばした。
「どうして僕を攻撃したんですか!悪いのはリーダーでしょう!」
「あんた、禁止技は反則だ」
ミツメさんがニンジャ妖精さんのメンバーに加わってからは1番強いのはミツメさんになった。けれど、さっきのは知っていて喉を狙ったのだろうか。
「でも、僕もカンザシが悪いと思う。現にミツメが来てから、みんなへの暴力は格段に減ったし。格闘とか分からないけど、ミツメがいないと、みんな毎日カンザシに殴られていたと思うんだ」
難しいな。それなら普通の技で負かせば良かったのに。
この時の私は知らなかった。かつて、ミツメさんが大会で濡れ衣を着せられ失格になったことを。今でもミツメさんは、その時のことを恨みながら生きているということを。
私の疑いは落ち武者さんによって晴れたものの、ミツメさんは、あの後、何度もカンザシさんから責められた。私はヨルクさんの部屋でヨルクさんにカンザシさんと関係を持ったと思われ泣かれ、信じてもらえるまでかなり時間がかかった。ヨルクさんは、カンザシさんが私との前世を覚えていたことに気づかなかったらしい。
そして、いよいよ落ち武者さんの誕生日が来た。
セナ王女の別荘のパーティー会場には多くの貴族が来ていた。そして、何故かニンジャ妖精さんとラハルさんも来ていた。
私の時はプレゼントもらっていなかったから、私はセレナールさんとカナエさんにはチロルチョコを1つずつ渡した。
ラルクとは、気まずい関係が続いていて殆ど私が一方的に話しかける関係だった。それでも私は、ラルクは回復に向かっていると信じていたのだ。
エミリさんとアランさんはまるで恋人であるかのように手を繋いでいた。今の時代では不釣り合いな関係。
少しすると、信じられない光景を私は目にすることになる。
皇太子様が来たと思えば、セレナールさんの元に駆け寄った。
「セレナール、遅れてごめん」
「皇太子様……」
愛想を尽かしたラルクにすがっていたのは、ついこないだのことなのに。セレナールさんは、新たな駒を動かした。
セレナールさんと皇太子様は、パーティー会場の前で、マイク越しに語り合った。
「セレナール、遅くなったけど、誕生日おめでとう」
皇太子様は300本のレインボーの薔薇の花束と共にフェアリールナの紫色の月のネックレスが入った箱をセレナールさんに渡した。セレナールさんは、箱を開くなり皇太子様に抱き着いた。
「皇太子様、ありがとう!」
皇太子様はセレナールさんをお姫様抱っこした。
「みんな、聞いて欲しい。僕はクラスメイトのセレナールと交際をはじめた。セレナールは、心が清らかで誰にでも優しくて純粋で、どんな逆境にも打ち勝つ。そんな美しいセレナールに僕は惹かれた。セレナールを一生大切にする」
エミリさんがアランさんと交際しているカラクリはこういうことだったのか。
「私も、皇太子様の無垢な愛情に包まれてとっても幸せ。聞こえてる?ラルク!ラルクのことは弟のように可愛がってきた。だから、今1番祝福して欲しい。伝説武官試験落ちたことは私も本当に悲しいわ。でも、ラルクならやれる!頑張って!皇太子様とは互いに一目惚れだった。でも、その2つにない縁(えにし)を私は大切にしたい。皇太子様、愛してるわ!」
ラルクを名指しにして辱めるなんて、許せない。けれど、セレナールさんは強力なバックを手に入れた。こんなにも恐ろしい女を私は見たことがない。
私だけじゃない。グループのみんなが驚いていた。
「まさかセレナールがレナードと付き合うなんて」
「何だか腑に落ちないわ」
「エミリが可哀想なのです」
みんな負けごとを言うことしか出来ない。でも、悔しい。遠い昔、ラルクを騙したのに、現世でも騙していただなんて……。
「ラルク、あんなの気にすることないよ。長続きしないよ。そのうちエミリさんに打ちのめされるよ」
「ああ、あんな女だとは思わなかった。僕はまんまとあの容姿に騙されていたんだ」
ラルク、元に戻ったの?セレナールさんと皇太子様は、会場の拍手と共にこっちに向かって来た。
「セレナール、おめでとう」
「ありがとう、セナさん。ラルク、伝説武官落ちたくらいで落ち込むな!」
マイクで会場のみんなに聞こえるように言うだなんて。この女、どういう神経してるの?
「セレナール先輩、皇太子様との交際おめでとうございます。心から祝福します」
え、今セレナールさんの下腹部に2回針を刺した後、即抜いた?私は周りを見渡した。見ている人はいない。ズームさんとナルホお兄様は遠くにいる。でも、ここでラルクの味方したら私も共犯者になってしまう。
「ナミネ、ジュースだよ」
「あ、ありがとうございます」
私は震えた手でヨルクさんからジュースを受け取った。
ラルクの復讐は終わっていなかった。いや、セレナールさんが新たな駒を動かしたことによる抵抗なのかもしれない。
「ナミネさん、2人きりで話がしたいです」
タイミングが悪すぎる。
「すみません。せっかくパーティーに来たので私、パーティーを楽しみたいんです。落ち武者さん、お誕生日おめでとうございます」
私は落ち武者さんに抱き着いた。
「そうですよね。では夜に」
「すみません、今日はここに泊まるんです」
「え……」
「てか、あんたいつまでこうしてるつもりだよ。プレゼント寄越せ」
落ち武者さんは気付いているのだろうか。気付いていないなら言うべき?言わないべき?いや、言うしかない。
「落ち武者さん、話があるんです」
「ナミネさん、だったら、僕との時間を優先してください」
「でも、今日は落ち武者さんの誕生日だから、落ち武者さんを優先させてください」
「ナミネさん、15分だけでいいんです!」
どうして邪魔するの?カンザシさんって自分のことしか考えてない。昔の私はどうしてこんな人と交際していたのだろう。
「リーダー!もうやめてください!女ならいくらでもいるでしょう!」
ミツメさんがカンザシさんを引き止めている間に私は落ち武者さんの手を引っ張って猛スピードでパーティー会場を出た。
私は霧の結界と壁の結界をかけた。
「あんた、何なのさ」
「ラルクが、セレナールさんの下腹部2箇所に針を刺してたんです!」
「悪いけど、セレナールを助ける真似は許さないわ」
リリカさん!いつの間に入り込んでいたのだろう。リリカさんは岩の結界をかけた。
「強気なナミネ、結界解け!」
「リリカさん、このまま放っておけば、復讐は繰り返されます。そんなのラルクのためになりません!セレナールさんは必ず皇太子様と別れます!」
リリカさんとは敵同士になりたくない。
「おい、早く解け!!」
「はあ、分かったわ」
リリカさんは結界を全て解いた。その瞬間、アルフォンス王子とセナ王女が私と落ち武者さんにF938を見せた。
「リ、リリカさん……?」
そんな、事前に連絡し合っていたのか。
「悪いけどセレナールにはこのまま苦しんでもらうわ」
「ですが、なんの針か分からないことには、皆さんににメリットかデメリットか分かりません」
「だったら、ナミネが確認して来い!」
F938を使って私を脅すだなんて、何て卑怯なの。私は小さい紙飛行機をみんなにバレないようにズームさんに飛ばした。
「アルフォンス王子、私に命令しないでください!」
「ナミネ、何してるの?」
「顔だけヨルク!姉さんがラルクに針刺された!」
「え……」
……
あとがき。
もし、セレナールがレナードと交際していなければ、ラルクは何もしなかったのだろうか?
ラルクの闇堕ちはいつまで続くの?
キリのない展開。
果たして、セレナールは助かるのか?
純愛偏差値 未来編 一人称版 54話
《ヨルク》
朝目が覚めるとナミネは横で寝ていた。
「お疲れ様、ナミネ」
私はナミネを起こさないように布団を出て、4人分の朝食を作りに行った。
朝食を持って部屋に入ったら、ナミネはまだ眠っていた。
「よっぽど疲れてたんだろう」
「そうだね」
私は机に朝食を置いた。
落ち武者さんとエルナは私の作った朝食を食べた。疲れているナミネのためにも和食にしたけど、ナミネの分はサランラップかけておこう。
「あんたも聞いた通り、カンザシは完全に強気なナミネに惚れてる。取られんなよ」
「兄妹で恋愛なんて出来ないでしょ。それに、紅葉町でアパート借りるって時点で、もうカンザシさんの気持ち明確だし」
ナミネが前世で誰と交際してても、今の彼氏は私だから。絶対にナミネを手放さない。
私はナミネに近付いた。
ナミネの寝顔可愛いなあ。写真撮っとこ。
「朝から見せ付けてくれるねえ」
「別にそんなんじゃないから。ねえ、落ち武者さん、いつまで居候するの?」
「釣れないこと言うなよ」
「いい加減、家に帰ってよ!私は、ナミネと2人でいたいの!」
本当なんで家に帰んないの?
「あんた、子作りでもする気かよ。甘えセナはどうなった?姉さんはどうなった?今、強気なナミネが妊娠したら強気なナミネの未来が奪われるんだ!強気なナミネは強くなろうと努力してる。妊娠なんかしたら、強気なナミネは自分責めるぞ!」
なんでそんなこと落ち武者さんに言われなきゃいけないの?私は私なりにナミネのこと大切に思ってるし、ナミネが妊娠してもナミネには苦労はかけないつもりだ。
「ねえ、落ち武者さんこそどうなの?エルナと……。あの日眠れなかったからセレナールさんとカンザシさん見てしまったんだよ!」
「そっか……」
反応薄いな。今となってはセレナールさんが悪者にされてるし、リリカお姉様は確実にラルクと切り離すつもりだ。落ち武者さん、落ち込んでいるのだろうか。
12時過ぎだろうか。
ナミネが目を覚ました。
「ヨルクさん……」
「ナミネ、眠れた?今、ご飯温め直すからね」
「ラルクは、ラルクはどうなったんですか?」
「ラルクは戻って来てるけど?」
「会いに行きます!」
待って!と声が出なかった私はナミネの手を掴んだ。
「あんた、好きにさせてやれよ」
どうしてラルクなの?試験とか来年受ければいいじゃない。どうして、私のこと見てくれないの?
ナミネが部屋を出るなり落ち武者さんとエルナも部屋を出た。
「え、ちょっと!」
私は慌てて追いかけた。
え、第4居間に行くんじゃないの?何故、客間の前で止まっている。
「何してるの?」
「黙ってろ」
中からはズームさんとカンザシさんの声が聞こえてきた。
『カンザシ、お前、ナミネさんのこと好きなんだろ。だから、この町でアパート借りるんだろ!叶わない恋なのにどうして諦めない!』
『ズームに関係ないだろ!』
『どうしてナミネさんに拘る!』
『妹だから当然だろ!』
やっぱりカンザシさん、ナミネのこと好きなのか。
『また、あの時みたいに引き離すのか!僕とナミネさんを無理矢理別れさせたあの時みたいに!』
え、無理矢理別れさせたって何?カンザシさんはナミネとズームさんの仲を壊したのだろうか。でも、何故だ?
『そんな昔のこと覚えてない』
『カンザシ!いい加減にしろ!あの時、僕の彼女寝盗ったのに、僕がいざナミネさんと交際しはじめたら、今度はナミネさん欲しさに卑怯な手で引き離しただろ!』
何それ。ズームさんの彼女奪って、ズームさんの次なる幸せも奪ったのか?
『僕だって辛かった!ニートとか早くまともな職に就けとか言われて毎日が喧嘩で、夢を応援してもらえなかった。でも、時代は違えどナミネさんだけは違った。僕の夢を応援してくれた。僕はナミネさんがいないとダメなんだ』
「行くぞ」
え、最後まで聞かないの?落ち武者さんが第4居間に向かうなり、ナミネとエルナも着いて行った。
ナミネ、あんな話聞いて大丈夫なのだろうか。
第4居間に入るなりナミネはラルクの元に走った。
「ラルク、大丈夫?」
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、1人にしないで。寂しいよ」
「ナミネ、ラルクは神経衰弱なんだよ。しばらくは、薬飲んで休んでないといけないんだ。学校も休ませるよ」
神経衰弱。長期に渡るストレスが原因でノイローゼとなる。ラルクは、あの古民家にいた時からノイローゼになっていたのだろうか。
「カンザシはどうだったんだよ」
「カンザシさんは、間欠性爆発性障害と診断されたよ」
間欠性爆発性障害。一度苛立つとその怒りを自分で抑えることが出来ない病気だ。誰も手がつけられなくなり、本人が落ち着いた頃には本人はかなり後悔をしているそうだが。しかし、その怒りはきっかけのストレスとは不釣り合いに強いと言われている。
問題になるのは、人間関係。人との絆が壊れやすいし、人から避けられやすい傾向にある。退学のリスクもあり、中には犯罪に繋がることも。怒りが後に鬱を引き起こすこともある。遺伝や幼少期の虐待などで起こりうるらしい。
何となくナミネと似た症状だな。だが、1番辛いのは本人だ。他者では分からないものがあるだろう。
「カンザシさんも薬で治療するの?」
「そうだね、薬と程よい療養かな。生き甲斐を見付けるのが1番の対策らしい。だから、紅葉町でアパート借りるらしいよ」
今後、カンザシさんは定期的にナノハナ家に来るのだろうか。だとしたら、ナミネをクレナイ家に避難させたほうがいいだろうか。
この時の私はカンザシさんのことよりラルクのほうが重症なことに何も気づいていなかった。
2日後、ニンジャ妖精さんとラハルさんは紅葉町でアパート契約をした後、虹色街に戻り、ズームさんも実家に帰って行った。
しかし、3日後、事件は起きた。
ラルクは公園に行くと嘘を言ってナノハナ家を出た後、森の湖に行き、近々、皇室に行く昔のセレナールさんを、元々セレナールさん狙いの彼女持ちのガラの悪い男4人にイヤガラセさせた。昔のセレナールさんは第2まで喪失し、皇太子様とは破局となった。
歴史は大きく変わった。
ナミネは、ナミネはまた私と交際していたことを綺麗さっぱり忘れてしまったのだろうか。私が部屋を出てナノハナ家に向かおうとした時、泣きながらナミネがクレナイ家に入って来た。あれ、ナルホさんと、ズームさんもいる?
「ヨルクさん、ヨルクさん、何もかも分からないんです」
とりあえず私は第1母屋の第4居間に上がってもらった。
何もかも分からないって、私と交際していたことも忘れてしまったの?ナミネ……。
「ナミネ、私と交際してることも忘れたの?」
「それは覚えてます!ヨルクさんを想った日々は二度と忘れません!でも、カップル日記に書かれている他の人のことが分からないんです!ラルクは時間超え恋愛をしているのでしょうか?」
私と交際してること……覚えてくれていた……。もう、それだけでいい。ナミネを失わないなら勝手なことする人のことなんかどうでもいい。
「おい、強気なナミネ、僕のことも忘れたのかよ!」
「は、はい、お代官様」
「あんた、全然変わってねえじゃないかよ!」
「こうなると思ってたわ。全部あの女がラルクをたぶらかしたせいよ」
リリカお姉様……。てか、現状を正確に覚えているのは誰なんだろう。
「ナルホさんは全部覚えてるの?」
「うん、ズームさんもね」
ということは、私と落ち武者さんとリリカお姉様とナルホさんとズームさんが、これまでのこと覚えているわけか。
「ナミネ、ラルクは森の湖の妖精と交際してたんだけど別れたんだよ」
「森の湖でいったい何があったんだよ!」
ズームさんは小型パソコンのある映像を再生した。
映像はカラーだった。
森の湖で、ラルクは昔のセレナールさんに近付いた。
『セレナール先生』
『いやっ!来ないで!私、2日後、皇室に行くの!誰か助けて!!』
昔のセレナールさんは、あの日私たちがタイムスリップしたことを覚えていた。
『よくも僕の気持ち弄んでくれましたね』
『許して!悪かったと思ってる!どうか、私のこれからの幸せは壊さないで!』
ラルクは、彼女持ちのガラの悪い4人の男に大金を渡すと、昔のセレナールさんを襲わせた。
『お願い、これだけは許して!一生かけて償うから!』
昔のセレナールさんの言葉は届かず、お金を手にした4人の男は彼女の目の前で昔のセレナールさんをイヤガラセした。
『いやーーーー!痛い、痛い!やめて!!』
4人がことを終えた後、昔のセレナールさんは大量出血をし、横たわった。
『人を騙し陥れ傷付けたら同じことで返されるんですよ、セレナール先生』
『た……すけ……て……』
ラルクは森の湖を出た。
その後、妖精村新聞が出回った。
[皇太子の彼女、森の湖でイヤガラセされる]
昔のセレナールさんは町中の笑い者となった。
そんなある日、皇太子様が昔のセレナールさんの前に現れた。
『セレナール、すまない。エミリと交際することになった』
『皇太子様、私をお捨てになるのですか?』
『僕はキズモノがいやなんじゃない。人から恨まれるほどのことを裏でしていた君に幻滅したんだ。せいぜい、幸せになってくれ』
皇太子様は去って行った。
昔のセレナールさんは、キクリ家の近くにある病院の閉鎖病棟で過ごすこととなった。
映像はそこで途切れていた。
ラルクはこんな惨いことをしていたのか。
「ラルクは、ラルクはどこですか?」
「ナミネ、ラルクは今部屋で眠ってるんだ」
「そうですか」
ナミネは大泣きしていた。
「本当、セレナールって、とんでもない女ね。皇帝陛下はラルクを不問にしたけど、お武家連盟でクレナイ家は一気に不利になったわ」
クレナイ家の未来はないかもしれない。けれど、それでも、私はナミネとの未来のほうが大事だった。
「おい、カップル日記が凄いことになってるぞ」
私はカップル日記を開いた。
セナ王女はカラルリさんと交際していて、エミリさんはカラルリさんにアランさんと交際しているとコメントしていて、カナエさんはセイさんと交際していて、セレナールさんはナヤレスさんと交際している。ユメさんとクラフはまだ出会ってない。
これではもうアベコベだ。
いったい何度歴史を変えれば、みんなは元に戻るのだ。
「グループのみんなの記憶だけでもキクスケさんに思い出させてもらおう。ラルクとセレナールのためにもね」
そっか。誰かが責任を取らないといけない……いや、自覚させないといけないというわけか。
ナルホさんは呼び出しカードでキクスケさんを呼び出した。
「お呼びでしょうか」
「ラルクが歴史変えてしまって、みんなの記憶がすり変わってしまったから、せめて、グループの人だけでも記憶、思い出させてくれないかな?」
「かしこまりました。グループの皆さんの記憶は5分後に元に戻ります。しかしながら、この度は、大きく歴史が変わってしまったため、元に戻すことは不可能でしょう」
大きく変えられた歴史は元には戻らないか。あの時のみんなの人生が変わってしまうのか。そして、私の人生も……。
5分後、みんなの記憶が戻るなり、ぞろぞろとクレナイ家にみんなは押しかけた。しかし、エミリさんはアランさんと交際したままだった。
「リリカ、許して!二度とラルクを傷付けない!」
「黙りなさい!」
リリカお姉様はセレナールさんを蹴った。
「ミナク……ごめんなさい……私、また……」
「セナ王女の意思ではないので、浮気などとカウントは致しません。私は一生、セナ王女を愛します」
何て白々しい嘘を並べられるもんなんだ。聞いているこっちが恥ずかしい。
「ミナク……」
セナ王女はミナクお兄様の手を握った。
「セレナール、大変だったわね。30日は、予定通り、私の別荘でセレナールとカナエ、セルファの誕生日会開くから来なさいよ」
「いいの?」
「もちろんよ」
「セレナール、カナエもお気持ちお察しします」
「セレナール、また新しい恋見つけなさいよ」
女という生き物は怖い。昔のセレナールさんがラルクを騙していたことを、みんな怒っているけれど、それを隠している。私にはそうとしか思えなかった。
お武家連盟会議では、レイナさんの『過去とはいえ、見かけだけの容姿で彼女持ちの男を誘惑し、数々のカップルが壊れていくところを嬉しがり、ラルクが歴史を変えるほど追い詰めたセレナールが悪い』という発言に多数が同意し、セレナールさんは家族もろとも村八分となった。
そして、私の中で少しずつ、あの頃の新しい記憶が流れた。
閉鎖病棟にいたセレナールさんは、カナエさんに頼んでウルクさんを呼び出してもらい、記憶を消してもらい、エミリさんから皇太子様を奪い、その後は、殆どすり替えられる前と変わらない人生を過ごしている。
歴史というものは、そう簡単には変えられないのだろうか。
何故、皇太子様はエミリさんよりセレナールさんを選んだのだろう。
結局ラルクも教師になったセレナールさんと交際をした。
誰がどう足掻いても、歴史は元に戻っていく。
私は歴史の恐ろしさを感じていた。
「ラルク、可哀想……」
どうして……どうしてなのだ。私はナミネが私と交際していた記憶を失ってなかっただけで、それだけでいいと思えたのに……。
「ねえ、ナミネ。私よりラルクが大事なの?酷くない?」
私はまたナミネを攻撃してしまった。
「ヨルクさん、違います。私はただ、ラルクに元に戻って欲しいんです」
「何それ……。それ言い訳だよね?ナミネってさ、色んな男たぶらかして、まるでセレナールさんみたいに汚いね」
ダメだ、コントロールが出来ない。
「ヨルクさん、落ち着いてください!」
ナミネは私の手を握った。
「気持ち悪い!ラルクが好きなら勝手にして!セレナールさんと同等の卑劣なナミネとは二度と関わりたくない!」
やってしまった……。
「そうですか」
「この男たらし!最低!」
それだけ言うと私は第4居間を出た。
やり過ぎてしまった。ナミネに謝らないと。私はすぐに第4居間に戻った。するとラルクが戻っていた。
「あ、すみませんヨルクさん。私、ヨルクさんとの縁談は白紙に戻してラルクと交際したんです」
え、嘘だよね?こんな短時間で……。
「あんた、終わりだ。あれだけのこと言って許されると思ってんのか?カップル日記は強気なナミネはあんたとこ退会済みだ」
「嘘、嘘でしょ!?」
「ヨルクさんには酷いこと言われましたし、一方的でしたし、とてもじゃないけど、彼女に対する接し方とは思えなかったんです。あの時、ラルクを心配する私に寄り添ってくれていたなら縁談はそのままでしたが、ヨルクさんに侮辱された瞬間、ラルクを大切にしたいと思いました。ヨルクさんも別の人と幸せになってください」
そんな。たったあれだけのやり取りで私はいつも悪者なのか?
「ねえ、ナミネっていつもちょっとしたことで私のこと悪者扱いするよね。ナミネはもっと人に酷いことしてるのに」
「ヨルクさんとは破談にしました!付きまとわないでください!!」
ナミネは大声を出した。
「あのさヨルク、うるさいんだけど!悪いの明らかヨルクだよね?ナミネはヨルクを馬鹿にした?してないよね?うるさくするなら、出て行ってくれない?」
アルフォンス王子、ここ私の家なんだけど。
「私もヨルクが悪いと思うわ。彼女にあんな酷いこと、別れられて当然よ」
「私もヨルクが悪いと思う」
今度は私が標的か。みんな本当に自分勝手だな。
「ナミネ、もう許しは請わない。同じ状況になっても二度と許しは請わない。でも、一方的な破談なんて認めないし、ナミネとは別れない」
「ストーカーはやめてください!!」
ナミネはまた大声を出した。その瞬間、私はアルフォンス王子に殴られた。
「うるさいって言ってるの分からないの?」
「お言葉ですが……」
言い終わる前にアルフォンス王子は私を蹴り続けた。今は耐えるしかない。こんな理不尽なこと絶対に認めない。
「ねえ、ラルク、もう吹っ切れた?」
「うん、復讐終わったら、何か呆気なくってさ。僕もナミネに置いていかれないように試験受ける」
「ラルク、頑張ってね。これからは私がラルクの彼女だよ」
ナミネ、本気なのか?私は必死で涙を堪えた。
「待って!ラルク、許して!」
ラルクはセレナールさんを無視した。
「落ち武者さんも受けるみたいだし、私も夢騎士受けるから、また3人で強くなっていこうね」
「だな。ナミネは時計騎士も取って凄いな」
「うん、結構苦労したけどね」
私はアルフォンス王子に蹴られながらナミネとラルクの会話を聞いていた。ここで、負けて溜まるか!私は立ち上がり扇子を取り出した。アルフォンス王子が私に殴りかかろうとした時、私は扇子でアルフォンス王子を吹き飛ばした。
その瞬間、私はセナ王女に熱湯をかけられた。私は机にあるミネラルウォーターを自分にかけるなり、扇子でセナ王女を吹き飛ばすと、クレナイ家を出た。
私はクレナイ家の玄関の外で泣き崩れた。
ナミネ……私がナミネを受け入れなければならないのに、どうしてあんな酷いことを言ってしまったのだろう。
私は行く宛てもなく町を歩きはじめた。
とりあえず、スーパーに買い出しに行こう。ナミネの好きなもの、また作ってあげなきゃ……。思うほどに涙が出てくる。
泣きながら会計を済ませ、スーパーを出た後、私は大泣きしながらクレナイ家に向かって歩いた。せっかく、やっとの思いでナミネと交際出来たのに、どうしてつまらない嫉妬でナミネを傷付けてしまうのだろう。
「ヨルクさんは泣き虫ですな」
ナミネ?私は振り向いた。すると、腰まであった長い髪がセミロングになったナミネがいた。
「ナミネ……ごめん……私、ナミネと別れたくない……」
私はナミネの前で泣き崩れた。ナミネは私を抱き締めた。
「ヨルクさん、すぐに怒るから私も意地悪しただけです」
「そうなの……?でも、カップル日記……」
退会してるよね。
「もう復旧してます」
「じゃあ、別れるって嘘だったの?」
「はい」
そうだったのか。良かった……。本当に見切り付けられたかと思った……。
「行きますよ、ヨルクさん」
ナミネは私を起き上がらせ、私の手を握った。
「ナミネ、髪切ったの?」
「はい。ラルクと落ち武者さんが試験受けている間に美容院行ってきました」
そっか。ラルクと落ち武者さんは、更なる上を目指しているのか。
「ナミネ、今の髪型のほうがずっと可愛い」
ナミネは微笑んだ。ナミネ、可愛すぎる。私は町のど真ん中でナミネを抱き締めた。
私とナミネがクレナイ家の第4居間に入ると、ラルクが落ち込んでいた。ナミネは私の手を離し、ラルクの元へ駆け寄った。
「どうしたの!ラルク!」
「ダメだったんだよ、試験。特殊武官止まりだったんだ」
その時、セレナールさんがラルクを抱き締めた。
「ラルク、また受ければいいわ。私が傍で応援する」
「セレナール先輩は黙っててください!」
ラルク大声を出すと共にセレナールさんを突き飛ばした。
「あのさ、セレナール、大声出すなら出てってくんない?迷惑なんだけど」
さっきと同じだ。ナミネやラルクには言わずに弱い者にあえて言う。アルフォンス王子は結局そういう人だったのか。
「落ち武者さんはどうだったんですか?」
「僕は伝説上級武官合格したけど?」
「そうですか。おめでとうございます。ラルク、病み上がりだからだよ。ラルクは強いもん。次受けたら必ず伝説受かるよ!」
ナミネは必死にラルクを励ました。
「ナミネなんかが受かって、なんで僕が落ちるんだ!」
「何言ってるの?あなた、セレナールのことばかりで修業全然してなかったからじゃない!ナミネは恋愛しながらも訓練はサボってなかったのよ!」
リリカお姉様は、ラルクの訓練不足を指摘した。
「ラルク、今は休んでようよ」
「はっ、自分は2ヶ月も前に受かってるからって余裕だな」
ラルクはナミネを突き飛ばした。けれど、ナミネは扇子を縦に持ちバランスを取った。ナミネはラルク相手なら何を言われても機嫌を損ねない。けれど、私が相手だと、すぐに破談を言い渡される。何だかモヤモヤするけど、今ナミネを指摘して、また破談とか言われたら凄く傷つくから私は黙っていた。
「顔だけヨルク、あんたも今のうちに何か試験受けといたらどうだ?」
「い、いや私は……」
みんなみたいに闘う人には向いていない。
その時、ズームさんがナミネに何かを見せた。
「えっ、ズームさん、時計騎士の資格取ったんですか?現世でも時計騎士するんですか?」
「あなたに時計騎士の合格証明書を見せたられた時は驚きましたが、懐かしくなり、もう一度、試験を受けました。また、将来的には時計騎士をしようかと思います」
時計騎士か……。いったいどのような仕事なのだろう。私は少し興味を持ちはじめていた。
今日はセナ王女以外のメンバーは帰って行った。落ち武者さんの誕生日は数日後。セレナールさんとカナエさんも一緒に祝うらしいが、そこで何か起きないか私は不安になっていた。
……
あとがき。
ラルクは復讐によって元の自分を取り戻した……はずだった。
けれど、伝説武官の資格は取れずジレンマに。
ラルクがセレナールに費やした時間がそうしてしまったのだろうか。それとも、ラルクの恨みが前を見えなくさせてしまったのだろうか。
ラルクはいつまで正気を失っているのだろう。
《ヨルク》
朝目が覚めるとナミネは横で寝ていた。
「お疲れ様、ナミネ」
私はナミネを起こさないように布団を出て、4人分の朝食を作りに行った。
朝食を持って部屋に入ったら、ナミネはまだ眠っていた。
「よっぽど疲れてたんだろう」
「そうだね」
私は机に朝食を置いた。
落ち武者さんとエルナは私の作った朝食を食べた。疲れているナミネのためにも和食にしたけど、ナミネの分はサランラップかけておこう。
「あんたも聞いた通り、カンザシは完全に強気なナミネに惚れてる。取られんなよ」
「兄妹で恋愛なんて出来ないでしょ。それに、紅葉町でアパート借りるって時点で、もうカンザシさんの気持ち明確だし」
ナミネが前世で誰と交際してても、今の彼氏は私だから。絶対にナミネを手放さない。
私はナミネに近付いた。
ナミネの寝顔可愛いなあ。写真撮っとこ。
「朝から見せ付けてくれるねえ」
「別にそんなんじゃないから。ねえ、落ち武者さん、いつまで居候するの?」
「釣れないこと言うなよ」
「いい加減、家に帰ってよ!私は、ナミネと2人でいたいの!」
本当なんで家に帰んないの?
「あんた、子作りでもする気かよ。甘えセナはどうなった?姉さんはどうなった?今、強気なナミネが妊娠したら強気なナミネの未来が奪われるんだ!強気なナミネは強くなろうと努力してる。妊娠なんかしたら、強気なナミネは自分責めるぞ!」
なんでそんなこと落ち武者さんに言われなきゃいけないの?私は私なりにナミネのこと大切に思ってるし、ナミネが妊娠してもナミネには苦労はかけないつもりだ。
「ねえ、落ち武者さんこそどうなの?エルナと……。あの日眠れなかったからセレナールさんとカンザシさん見てしまったんだよ!」
「そっか……」
反応薄いな。今となってはセレナールさんが悪者にされてるし、リリカお姉様は確実にラルクと切り離すつもりだ。落ち武者さん、落ち込んでいるのだろうか。
12時過ぎだろうか。
ナミネが目を覚ました。
「ヨルクさん……」
「ナミネ、眠れた?今、ご飯温め直すからね」
「ラルクは、ラルクはどうなったんですか?」
「ラルクは戻って来てるけど?」
「会いに行きます!」
待って!と声が出なかった私はナミネの手を掴んだ。
「あんた、好きにさせてやれよ」
どうしてラルクなの?試験とか来年受ければいいじゃない。どうして、私のこと見てくれないの?
ナミネが部屋を出るなり落ち武者さんとエルナも部屋を出た。
「え、ちょっと!」
私は慌てて追いかけた。
え、第4居間に行くんじゃないの?何故、客間の前で止まっている。
「何してるの?」
「黙ってろ」
中からはズームさんとカンザシさんの声が聞こえてきた。
『カンザシ、お前、ナミネさんのこと好きなんだろ。だから、この町でアパート借りるんだろ!叶わない恋なのにどうして諦めない!』
『ズームに関係ないだろ!』
『どうしてナミネさんに拘る!』
『妹だから当然だろ!』
やっぱりカンザシさん、ナミネのこと好きなのか。
『また、あの時みたいに引き離すのか!僕とナミネさんを無理矢理別れさせたあの時みたいに!』
え、無理矢理別れさせたって何?カンザシさんはナミネとズームさんの仲を壊したのだろうか。でも、何故だ?
『そんな昔のこと覚えてない』
『カンザシ!いい加減にしろ!あの時、僕の彼女寝盗ったのに、僕がいざナミネさんと交際しはじめたら、今度はナミネさん欲しさに卑怯な手で引き離しただろ!』
何それ。ズームさんの彼女奪って、ズームさんの次なる幸せも奪ったのか?
『僕だって辛かった!ニートとか早くまともな職に就けとか言われて毎日が喧嘩で、夢を応援してもらえなかった。でも、時代は違えどナミネさんだけは違った。僕の夢を応援してくれた。僕はナミネさんがいないとダメなんだ』
「行くぞ」
え、最後まで聞かないの?落ち武者さんが第4居間に向かうなり、ナミネとエルナも着いて行った。
ナミネ、あんな話聞いて大丈夫なのだろうか。
第4居間に入るなりナミネはラルクの元に走った。
「ラルク、大丈夫?」
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、1人にしないで。寂しいよ」
「ナミネ、ラルクは神経衰弱なんだよ。しばらくは、薬飲んで休んでないといけないんだ。学校も休ませるよ」
神経衰弱。長期に渡るストレスが原因でノイローゼとなる。ラルクは、あの古民家にいた時からノイローゼになっていたのだろうか。
「カンザシはどうだったんだよ」
「カンザシさんは、間欠性爆発性障害と診断されたよ」
間欠性爆発性障害。一度苛立つとその怒りを自分で抑えることが出来ない病気だ。誰も手がつけられなくなり、本人が落ち着いた頃には本人はかなり後悔をしているそうだが。しかし、その怒りはきっかけのストレスとは不釣り合いに強いと言われている。
問題になるのは、人間関係。人との絆が壊れやすいし、人から避けられやすい傾向にある。退学のリスクもあり、中には犯罪に繋がることも。怒りが後に鬱を引き起こすこともある。遺伝や幼少期の虐待などで起こりうるらしい。
何となくナミネと似た症状だな。だが、1番辛いのは本人だ。他者では分からないものがあるだろう。
「カンザシさんも薬で治療するの?」
「そうだね、薬と程よい療養かな。生き甲斐を見付けるのが1番の対策らしい。だから、紅葉町でアパート借りるらしいよ」
今後、カンザシさんは定期的にナノハナ家に来るのだろうか。だとしたら、ナミネをクレナイ家に避難させたほうがいいだろうか。
この時の私はカンザシさんのことよりラルクのほうが重症なことに何も気づいていなかった。
2日後、ニンジャ妖精さんとラハルさんは紅葉町でアパート契約をした後、虹色街に戻り、ズームさんも実家に帰って行った。
しかし、3日後、事件は起きた。
ラルクは公園に行くと嘘を言ってナノハナ家を出た後、森の湖に行き、近々、皇室に行く昔のセレナールさんを、元々セレナールさん狙いの彼女持ちのガラの悪い男4人にイヤガラセさせた。昔のセレナールさんは第2まで喪失し、皇太子様とは破局となった。
歴史は大きく変わった。
ナミネは、ナミネはまた私と交際していたことを綺麗さっぱり忘れてしまったのだろうか。私が部屋を出てナノハナ家に向かおうとした時、泣きながらナミネがクレナイ家に入って来た。あれ、ナルホさんと、ズームさんもいる?
「ヨルクさん、ヨルクさん、何もかも分からないんです」
とりあえず私は第1母屋の第4居間に上がってもらった。
何もかも分からないって、私と交際していたことも忘れてしまったの?ナミネ……。
「ナミネ、私と交際してることも忘れたの?」
「それは覚えてます!ヨルクさんを想った日々は二度と忘れません!でも、カップル日記に書かれている他の人のことが分からないんです!ラルクは時間超え恋愛をしているのでしょうか?」
私と交際してること……覚えてくれていた……。もう、それだけでいい。ナミネを失わないなら勝手なことする人のことなんかどうでもいい。
「おい、強気なナミネ、僕のことも忘れたのかよ!」
「は、はい、お代官様」
「あんた、全然変わってねえじゃないかよ!」
「こうなると思ってたわ。全部あの女がラルクをたぶらかしたせいよ」
リリカお姉様……。てか、現状を正確に覚えているのは誰なんだろう。
「ナルホさんは全部覚えてるの?」
「うん、ズームさんもね」
ということは、私と落ち武者さんとリリカお姉様とナルホさんとズームさんが、これまでのこと覚えているわけか。
「ナミネ、ラルクは森の湖の妖精と交際してたんだけど別れたんだよ」
「森の湖でいったい何があったんだよ!」
ズームさんは小型パソコンのある映像を再生した。
映像はカラーだった。
森の湖で、ラルクは昔のセレナールさんに近付いた。
『セレナール先生』
『いやっ!来ないで!私、2日後、皇室に行くの!誰か助けて!!』
昔のセレナールさんは、あの日私たちがタイムスリップしたことを覚えていた。
『よくも僕の気持ち弄んでくれましたね』
『許して!悪かったと思ってる!どうか、私のこれからの幸せは壊さないで!』
ラルクは、彼女持ちのガラの悪い4人の男に大金を渡すと、昔のセレナールさんを襲わせた。
『お願い、これだけは許して!一生かけて償うから!』
昔のセレナールさんの言葉は届かず、お金を手にした4人の男は彼女の目の前で昔のセレナールさんをイヤガラセした。
『いやーーーー!痛い、痛い!やめて!!』
4人がことを終えた後、昔のセレナールさんは大量出血をし、横たわった。
『人を騙し陥れ傷付けたら同じことで返されるんですよ、セレナール先生』
『た……すけ……て……』
ラルクは森の湖を出た。
その後、妖精村新聞が出回った。
[皇太子の彼女、森の湖でイヤガラセされる]
昔のセレナールさんは町中の笑い者となった。
そんなある日、皇太子様が昔のセレナールさんの前に現れた。
『セレナール、すまない。エミリと交際することになった』
『皇太子様、私をお捨てになるのですか?』
『僕はキズモノがいやなんじゃない。人から恨まれるほどのことを裏でしていた君に幻滅したんだ。せいぜい、幸せになってくれ』
皇太子様は去って行った。
昔のセレナールさんは、キクリ家の近くにある病院の閉鎖病棟で過ごすこととなった。
映像はそこで途切れていた。
ラルクはこんな惨いことをしていたのか。
「ラルクは、ラルクはどこですか?」
「ナミネ、ラルクは今部屋で眠ってるんだ」
「そうですか」
ナミネは大泣きしていた。
「本当、セレナールって、とんでもない女ね。皇帝陛下はラルクを不問にしたけど、お武家連盟でクレナイ家は一気に不利になったわ」
クレナイ家の未来はないかもしれない。けれど、それでも、私はナミネとの未来のほうが大事だった。
「おい、カップル日記が凄いことになってるぞ」
私はカップル日記を開いた。
セナ王女はカラルリさんと交際していて、エミリさんはカラルリさんにアランさんと交際しているとコメントしていて、カナエさんはセイさんと交際していて、セレナールさんはナヤレスさんと交際している。ユメさんとクラフはまだ出会ってない。
これではもうアベコベだ。
いったい何度歴史を変えれば、みんなは元に戻るのだ。
「グループのみんなの記憶だけでもキクスケさんに思い出させてもらおう。ラルクとセレナールのためにもね」
そっか。誰かが責任を取らないといけない……いや、自覚させないといけないというわけか。
ナルホさんは呼び出しカードでキクスケさんを呼び出した。
「お呼びでしょうか」
「ラルクが歴史変えてしまって、みんなの記憶がすり変わってしまったから、せめて、グループの人だけでも記憶、思い出させてくれないかな?」
「かしこまりました。グループの皆さんの記憶は5分後に元に戻ります。しかしながら、この度は、大きく歴史が変わってしまったため、元に戻すことは不可能でしょう」
大きく変えられた歴史は元には戻らないか。あの時のみんなの人生が変わってしまうのか。そして、私の人生も……。
5分後、みんなの記憶が戻るなり、ぞろぞろとクレナイ家にみんなは押しかけた。しかし、エミリさんはアランさんと交際したままだった。
「リリカ、許して!二度とラルクを傷付けない!」
「黙りなさい!」
リリカお姉様はセレナールさんを蹴った。
「ミナク……ごめんなさい……私、また……」
「セナ王女の意思ではないので、浮気などとカウントは致しません。私は一生、セナ王女を愛します」
何て白々しい嘘を並べられるもんなんだ。聞いているこっちが恥ずかしい。
「ミナク……」
セナ王女はミナクお兄様の手を握った。
「セレナール、大変だったわね。30日は、予定通り、私の別荘でセレナールとカナエ、セルファの誕生日会開くから来なさいよ」
「いいの?」
「もちろんよ」
「セレナール、カナエもお気持ちお察しします」
「セレナール、また新しい恋見つけなさいよ」
女という生き物は怖い。昔のセレナールさんがラルクを騙していたことを、みんな怒っているけれど、それを隠している。私にはそうとしか思えなかった。
お武家連盟会議では、レイナさんの『過去とはいえ、見かけだけの容姿で彼女持ちの男を誘惑し、数々のカップルが壊れていくところを嬉しがり、ラルクが歴史を変えるほど追い詰めたセレナールが悪い』という発言に多数が同意し、セレナールさんは家族もろとも村八分となった。
そして、私の中で少しずつ、あの頃の新しい記憶が流れた。
閉鎖病棟にいたセレナールさんは、カナエさんに頼んでウルクさんを呼び出してもらい、記憶を消してもらい、エミリさんから皇太子様を奪い、その後は、殆どすり替えられる前と変わらない人生を過ごしている。
歴史というものは、そう簡単には変えられないのだろうか。
何故、皇太子様はエミリさんよりセレナールさんを選んだのだろう。
結局ラルクも教師になったセレナールさんと交際をした。
誰がどう足掻いても、歴史は元に戻っていく。
私は歴史の恐ろしさを感じていた。
「ラルク、可哀想……」
どうして……どうしてなのだ。私はナミネが私と交際していた記憶を失ってなかっただけで、それだけでいいと思えたのに……。
「ねえ、ナミネ。私よりラルクが大事なの?酷くない?」
私はまたナミネを攻撃してしまった。
「ヨルクさん、違います。私はただ、ラルクに元に戻って欲しいんです」
「何それ……。それ言い訳だよね?ナミネってさ、色んな男たぶらかして、まるでセレナールさんみたいに汚いね」
ダメだ、コントロールが出来ない。
「ヨルクさん、落ち着いてください!」
ナミネは私の手を握った。
「気持ち悪い!ラルクが好きなら勝手にして!セレナールさんと同等の卑劣なナミネとは二度と関わりたくない!」
やってしまった……。
「そうですか」
「この男たらし!最低!」
それだけ言うと私は第4居間を出た。
やり過ぎてしまった。ナミネに謝らないと。私はすぐに第4居間に戻った。するとラルクが戻っていた。
「あ、すみませんヨルクさん。私、ヨルクさんとの縁談は白紙に戻してラルクと交際したんです」
え、嘘だよね?こんな短時間で……。
「あんた、終わりだ。あれだけのこと言って許されると思ってんのか?カップル日記は強気なナミネはあんたとこ退会済みだ」
「嘘、嘘でしょ!?」
「ヨルクさんには酷いこと言われましたし、一方的でしたし、とてもじゃないけど、彼女に対する接し方とは思えなかったんです。あの時、ラルクを心配する私に寄り添ってくれていたなら縁談はそのままでしたが、ヨルクさんに侮辱された瞬間、ラルクを大切にしたいと思いました。ヨルクさんも別の人と幸せになってください」
そんな。たったあれだけのやり取りで私はいつも悪者なのか?
「ねえ、ナミネっていつもちょっとしたことで私のこと悪者扱いするよね。ナミネはもっと人に酷いことしてるのに」
「ヨルクさんとは破談にしました!付きまとわないでください!!」
ナミネは大声を出した。
「あのさヨルク、うるさいんだけど!悪いの明らかヨルクだよね?ナミネはヨルクを馬鹿にした?してないよね?うるさくするなら、出て行ってくれない?」
アルフォンス王子、ここ私の家なんだけど。
「私もヨルクが悪いと思うわ。彼女にあんな酷いこと、別れられて当然よ」
「私もヨルクが悪いと思う」
今度は私が標的か。みんな本当に自分勝手だな。
「ナミネ、もう許しは請わない。同じ状況になっても二度と許しは請わない。でも、一方的な破談なんて認めないし、ナミネとは別れない」
「ストーカーはやめてください!!」
ナミネはまた大声を出した。その瞬間、私はアルフォンス王子に殴られた。
「うるさいって言ってるの分からないの?」
「お言葉ですが……」
言い終わる前にアルフォンス王子は私を蹴り続けた。今は耐えるしかない。こんな理不尽なこと絶対に認めない。
「ねえ、ラルク、もう吹っ切れた?」
「うん、復讐終わったら、何か呆気なくってさ。僕もナミネに置いていかれないように試験受ける」
「ラルク、頑張ってね。これからは私がラルクの彼女だよ」
ナミネ、本気なのか?私は必死で涙を堪えた。
「待って!ラルク、許して!」
ラルクはセレナールさんを無視した。
「落ち武者さんも受けるみたいだし、私も夢騎士受けるから、また3人で強くなっていこうね」
「だな。ナミネは時計騎士も取って凄いな」
「うん、結構苦労したけどね」
私はアルフォンス王子に蹴られながらナミネとラルクの会話を聞いていた。ここで、負けて溜まるか!私は立ち上がり扇子を取り出した。アルフォンス王子が私に殴りかかろうとした時、私は扇子でアルフォンス王子を吹き飛ばした。
その瞬間、私はセナ王女に熱湯をかけられた。私は机にあるミネラルウォーターを自分にかけるなり、扇子でセナ王女を吹き飛ばすと、クレナイ家を出た。
私はクレナイ家の玄関の外で泣き崩れた。
ナミネ……私がナミネを受け入れなければならないのに、どうしてあんな酷いことを言ってしまったのだろう。
私は行く宛てもなく町を歩きはじめた。
とりあえず、スーパーに買い出しに行こう。ナミネの好きなもの、また作ってあげなきゃ……。思うほどに涙が出てくる。
泣きながら会計を済ませ、スーパーを出た後、私は大泣きしながらクレナイ家に向かって歩いた。せっかく、やっとの思いでナミネと交際出来たのに、どうしてつまらない嫉妬でナミネを傷付けてしまうのだろう。
「ヨルクさんは泣き虫ですな」
ナミネ?私は振り向いた。すると、腰まであった長い髪がセミロングになったナミネがいた。
「ナミネ……ごめん……私、ナミネと別れたくない……」
私はナミネの前で泣き崩れた。ナミネは私を抱き締めた。
「ヨルクさん、すぐに怒るから私も意地悪しただけです」
「そうなの……?でも、カップル日記……」
退会してるよね。
「もう復旧してます」
「じゃあ、別れるって嘘だったの?」
「はい」
そうだったのか。良かった……。本当に見切り付けられたかと思った……。
「行きますよ、ヨルクさん」
ナミネは私を起き上がらせ、私の手を握った。
「ナミネ、髪切ったの?」
「はい。ラルクと落ち武者さんが試験受けている間に美容院行ってきました」
そっか。ラルクと落ち武者さんは、更なる上を目指しているのか。
「ナミネ、今の髪型のほうがずっと可愛い」
ナミネは微笑んだ。ナミネ、可愛すぎる。私は町のど真ん中でナミネを抱き締めた。
私とナミネがクレナイ家の第4居間に入ると、ラルクが落ち込んでいた。ナミネは私の手を離し、ラルクの元へ駆け寄った。
「どうしたの!ラルク!」
「ダメだったんだよ、試験。特殊武官止まりだったんだ」
その時、セレナールさんがラルクを抱き締めた。
「ラルク、また受ければいいわ。私が傍で応援する」
「セレナール先輩は黙っててください!」
ラルク大声を出すと共にセレナールさんを突き飛ばした。
「あのさ、セレナール、大声出すなら出てってくんない?迷惑なんだけど」
さっきと同じだ。ナミネやラルクには言わずに弱い者にあえて言う。アルフォンス王子は結局そういう人だったのか。
「落ち武者さんはどうだったんですか?」
「僕は伝説上級武官合格したけど?」
「そうですか。おめでとうございます。ラルク、病み上がりだからだよ。ラルクは強いもん。次受けたら必ず伝説受かるよ!」
ナミネは必死にラルクを励ました。
「ナミネなんかが受かって、なんで僕が落ちるんだ!」
「何言ってるの?あなた、セレナールのことばかりで修業全然してなかったからじゃない!ナミネは恋愛しながらも訓練はサボってなかったのよ!」
リリカお姉様は、ラルクの訓練不足を指摘した。
「ラルク、今は休んでようよ」
「はっ、自分は2ヶ月も前に受かってるからって余裕だな」
ラルクはナミネを突き飛ばした。けれど、ナミネは扇子を縦に持ちバランスを取った。ナミネはラルク相手なら何を言われても機嫌を損ねない。けれど、私が相手だと、すぐに破談を言い渡される。何だかモヤモヤするけど、今ナミネを指摘して、また破談とか言われたら凄く傷つくから私は黙っていた。
「顔だけヨルク、あんたも今のうちに何か試験受けといたらどうだ?」
「い、いや私は……」
みんなみたいに闘う人には向いていない。
その時、ズームさんがナミネに何かを見せた。
「えっ、ズームさん、時計騎士の資格取ったんですか?現世でも時計騎士するんですか?」
「あなたに時計騎士の合格証明書を見せたられた時は驚きましたが、懐かしくなり、もう一度、試験を受けました。また、将来的には時計騎士をしようかと思います」
時計騎士か……。いったいどのような仕事なのだろう。私は少し興味を持ちはじめていた。
今日はセナ王女以外のメンバーは帰って行った。落ち武者さんの誕生日は数日後。セレナールさんとカナエさんも一緒に祝うらしいが、そこで何か起きないか私は不安になっていた。
……
あとがき。
ラルクは復讐によって元の自分を取り戻した……はずだった。
けれど、伝説武官の資格は取れずジレンマに。
ラルクがセレナールに費やした時間がそうしてしまったのだろうか。それとも、ラルクの恨みが前を見えなくさせてしまったのだろうか。
ラルクはいつまで正気を失っているのだろう。
純愛偏差値 未来編 一人称版 53話
《ナミネ》
現代に戻された私たちはナノハナ家の第4居間で話し合っている。マモルさんの芸能界追放はもう覆りそうにはない。そして、裁判にもかけられるそうだ。
いくら、引き渡されたからって、思いとどまることも出来ただろうに。
そして、マモルさんの代わりに新しいメンバーであるミツメさんが加わった。
それにしても、森の湖にいたセレナールさんは、ラルクのこと本気で愛していたと思っていたのに、全て嘘で最初からラルクのこと利用しようとしていただなんて……。
絶対に許せない。
あの時のセレナールさんは、皇太子様に一目惚れをして、かなり上手くいっていたけれど、紀元前村から帰って来たカラクリ家にて、あの映像がきっかけに皇太子様と拗れてしまう。
そして、セレナールさんが本当に愛していたのは実の兄であるセリルさんであることを聞かされたとか。
全て吹っ切ったセレナールさんは、今の妖精村学園の教師になった。あの時は、人手不足だったらしく、高校2年生と1年生の担任を掛け持ちしていたらしい。
結局、セレナールさんの人生って何だったのだろう。セリルさんのことが吹っ切れた後に好きになったヨルクさんが初恋だったのだろうか。妖精村にとって、セレナールさんは特別な存在なのに、人生観はかなり酷いと思う。
もし、あの時、タルリヤさんが来てなくて、ずっと皇室にいたら幸せでいられたのかな。
「話の途中だけど、とりあえず、この映像見ろ!」
落ち武者さんは、携帯の映像を再生した。
ああ、タイムスリップした時の映像か。セレナールさんの本性をみんなに知ってもらうのか。
もうこの際だから白黒ハッキリ付けた方がいいよね。
馬に乗るヨルクさんカッコイイなあ。
みんなは映像を見終わった。
「え、セレナールってヨルク目当てでラルク騙してたの?酷すぎない?いくらなんでも、こんなやり方非道だわ。現世でイジワルされたのもバチが当たったのかもね」
セナ王女はやっぱり厳しい意見。
「セレナールの本性って思ってたより怖い。人を騙すだなんてあんまりだわ。ラルクは森の湖のセレナールと交際するために何日も帰らなかったのに。こんな真実聞かされて、かなり傷付いていると思う」
ユメさんもセレナールさんの味方はしないか。
「悪いけど、セレナール。弟には近づかないでちょうだい!こんなの認められないわ!何て品がなくて馬鹿な女なの!クレナイ家には相応しくないわ!」
カンザシさんのことといい、リリカさんから見たセレナールさんの印象はガタ落ちだな。
「リリカ、許して。昔は恋が分からなかったの。これからはラルクを大切にする!」
その瞬間、リリカさんはセレナールさんを殴り付けた。
「ラルクは渡さないわ!」
やっぱり、リリカさんは元から認めてなかったんだ。
そういえば、10月は色々バタバタしていて、そのまま11月になっちゃって、その11月も下旬にさしかかっているから、セレナールさんとカナエさん、落ち武者さんの誕生日会はセナ王女の別荘でしようって話してるけど、こんな状態で出来るのだろうか。
私は何となくズームさんを見た。
しまった。目が合っちゃった。咄嗟に目を逸らした。
時計騎士かあ……。身長高いし未来のヨルクさんより体型ガッチリしてる。
うーん、やっぱり気になる。
私はトイレに行くと嘘を付いて、第4居間を出て自分の部屋に入るなり呼び出しカードでキクスケさんを呼んで番人部屋に連れて行ってもらった。
「私、時計騎士の試験受けたいです!」
「時計騎士は難関です。まずは体験からしてみてください」
「分かりました」
私は、番人部屋の扉の向こうにある試験会場の受付で体験を申し込んで体験に挑んだ。
時計騎士。
確かに難しい。時間の管理って、こんなにハードなのか。0.001秒もズレてはいけない。けれど、次々に時間を狂わせる試練が来る。私は時計台の上で、時間が狂う度に時間を元に戻した。
体験はギリギリの合格だった。
キクスケさんが現れた。
「おめでとうございます。体験は合格です」
「本試験を受けたいです!」
「残念ながら今のナミネさんには無理でしょう。本試験は体験よりハードです。しかし、ナミネさんは体験の時点で、時間を戻すスピードが遅かったです。本試験では、もっと早く戻さなくてはいけません。妖精村の時間を正確に管理するそれが時計騎士なのです」
ズームさんは難関な資格をすんなり通ったということか。何だか悔しい。
「それでも受けます!」
「それでは受付を済ませた後、試験を受けてください」
私は受付に走った。
1回目は、いきなり台風が来て戻すスピードがかなり遅く失格となった。
2回目は、見知らぬ人に時間を巻き戻され躊躇しているうちに失格となった。
そして、3回目、4回目、5回目も失格だった。
難しい。難しすぎる。こんなのどうやって合格するの?
悔しさ余りに私は6回目を受けた。
台風が来て、私は即、分針を左に回した。時間を戻されたら、即秒針を右に回した。途中、物乞いの人に声をかけられ、失格となったが、私は少しずつ理屈を掴んでいた。
7回目、私は本気で挑んだ。
見知らぬ人に時間を戻されるなり即、秒針を右に回し、竜巻が来ると私は即、分針を1周左に回した。物乞いの人に声をかけられても、ひたすら時計台の上で次なる試練を待った。紀元前村の時間が狂うと私は時針を大きく右に回した。停電が起きると私は秒針を正確に右に回した。
「ナミネさん、おめでとうございます。時計騎士試験 合格です」
「ありがとうございます!」
私は時計騎士合格証明書を受け取った。
7回目にしてやっとギリギリの合格。
私は汗だくになりながら、試験会場を出て、キクスケさんに第4居間の前の廊下に戻してもらった。
時計を見ると、私がここを出てからまだ7分しか経ってなかった。まだ時間元に戻ってなかったんだ。でも、そろそろ、戻さないとな。私はずっとズレていた時間を元に戻した。そして、第4居間に入った。
「ナミネ、どうしたの?熱出したの?」
私は駆け寄るヨルクさんの横を通り抜けズームさんの前に立った。
「ズームさんて、頭良いんですね!」
私はズームさんに時計騎士合格証明書を見せた。
え、無視?
「おめでとうございます」
一応祝福はしてくれるんだ。
「あ、ありがとうございます」
「あんた、それ持ってても使わないだろうがよ」
「ただ、挑戦したかったんです!ラルクもさ、伝説と夢騎士取って、もっと強くなっていこうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
ラルク、しっかりしてよ!失恋は辛いけど、ラルクがそんなんだと、ラルクだけ置いてきぼりになっちゃうよ。
「ナミネ、時計騎士の試験受けてたの?」
「はい」
ていうか、話し合いどうなったんだろう。まだ、何か揉めてるようだけど。
「やっぱり、ナミネとラルクをくっ付けておけば良かった」
「リリカお姉様!私とナミネは愛し合ってるんです!」
「あんた、汗拭いてやるよ」
「もう、どうして落ち武者さんがそんなことするの!ナミネは私の彼女だから!ナミネ、部屋で着替えるよ」
私はヨルクさんに手を引っ張られ部屋へと向かった。
部屋でヨルクさんは私の身体を拭くと私にキャミソールとルームウェアを着せた。
「ナミネ、凄いね」
「そんなことないです。それよりラルクが心配です。せっかく、伝説受けるって意気込んでいたのに。失恋で受けられなくなるなんて……。落ち武者さんも近々試験受けますし、私も夢騎士の試験に備えてます」
「ナミネ、焦ってない?もっとゆっくりで良いと思う。ラルクだって、来年受けたらいいと思うし」
焦ってるのかな。何だか欠けているものを埋めたくて仕方ないんだよね。
「分かりました」
ヨルクさんは私を抱き締めた後、私の手を握り再び第4居間へと向かった。
第4居間では、セレナールさんが女性陣から攻撃を受けていた。これもう解散で良い気がする。
「落ち武者さんも伝説と夢騎士受けるんですよね?」
「うん、受けるけど?」
「ラルク、私、時計騎士受かったんだよ。ラルクもさ、巻き返そうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
私は泣きながらラルクを抱き締めた。
「もういいよ。ラルク、何もしなくていいよ。私が一生ラルクを支えるよ」
ラルク、可哀想に。こんなになるまで傷付けられて……。
「本当、セレナールって最低」
「流石にセレナールのしたことってアウトよね」
「セレナールがこんな人だとは思いませんでした」
「何よ、みんなイジメないで!」
セレナールさんなんか、ずっと攻撃受けていればいいのに。ラルクはもっと苦しんでいるんだよ。みんな、もうセレナールさんに同情なんかしないよ。
「おい、シュリ、物件見つけて来たか?」
「あの、リーダーのここでもアパートを借りる概念が理解出来ません。僕たちは虹色街で活動しなければならないんです。今だってこうやってレッスンさぼっているの良くないと思います」
私も芸能人なら、本来は虹色街にいるものだと思う。でも、ラハルさんも紅葉町でアパート借りるんだっけ?
「新入りが口答えするな!僕は紅葉町でもアパートを借りる!」
「何のためにですか!納得いく説明をしてください!」
「ナミネさんと長く一緒にいたいからだ!だからといってレッスンをサボるつもりはない!」
え、何だか私のせいみたいでいやだな。
「たかが女1人のために、わざわざアパートまで借りるんですか!グルグル妖精やサムライ妖精は毎日レッスンに明け暮れているというのに!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんに殴りかかろうとしたが、ミツメさんはかわした。え、かわした?この人強いんだ。けれど、カンザシさんは、諦めずミツメさんを攻撃する。
はあ、カンザシさんは、どうして私に拘るのだろう。
「カンザシ、ナミネがいるから紅葉町にアパート借りるのは僕もおかしいと思う。今だって、虹色街のマンションの家賃払えてないのに。月収9万円では何も出来ないだろう。オーディションも落ちてばかりだし、もっと努力しないとニンジャ妖精潰れるぞ!」
今度はラハルさんに殴りかかった。私は扇子で止めた。
「ラハルだって、紅葉町にアパート借りるんだろ!」
「僕はちゃんと家賃払えるくらい稼いでる。カンザシみたいにサボってないし」
「は?もう一度言え!」
「リーダー、やめましょう」
カンザシさんが攻撃しようとするのを、ミツメさんは止めた。この人強い。何か習ってるのかな。
「ミツメさんはお強いですなあ」
私は扇子を仰ぎながら言った。その時、テレビからニュースが流れた。
『マモルさんが脱退した後、ニンジャ妖精さんにミツメさんという新しいメンバーが加わりました。ミツメさんは3歳の頃から音楽教室に通い、6歳の頃には俳優業もしています。今後のニンジャ妖精さんに期待ですね』
ミツメさんて3歳から芸能人目指してたんだ。何かエリートって感じ。
「これで分かったか、カンザシ。芸能人目指す者はミツメのように小さい頃からミッチリとレッスン積んでるんだよ!」
ラハルさんも、音楽教室通ってたんだっけ。
「上から目線で物言うな!」
「リーダー、落ち着いてください」
「はい、ストップ!」
落ち武者さんはカンザシさんを止めた。
「芸能人続けたいなら死ぬ気でやれ!」
そうなんだよね。どの世界も命懸けなんだよ。中途半端なんて許されない。
「ミツメさんて、3歳の頃から芸能人目指していたとか、自分持ってて偉いですね」
私はまた扇子をパタパタさせていた。
「夢だったので」
「青春ですのお」
「ナミネさんは夢とかないんですか?」
「夢を持つにはまだ早い年齢ですな」
本当は、武官か指導官目指してるけど、今は言わなくていいかな。
「そうですか。中学生楽しんでください」
「はい!ミツメさんも芸能界で謳歌してくださいな」
私も小さい頃からラルクと訓練してたけど、そのラルクは今これだもんな。何だか寂しい。
「今更だけど、ナミネの家って大きいよね。親何してるの?」
「あ、サラリーマンしてます。兄は医者目指してます」
私は無意識にバレバレな嘘を着いていた。
「お兄さんって?」
「この人で、今はここに住んでます」
私はナヤセス殿の写真と住んでるマンションの写真をラハルさんに見せた。
「あまり似てないね。凄いマンション。学生なのにバイトでもしてるの?」
「腹違いの兄です。研究員のバイトしてます」
「そっか、エリートなんだ。どっかの誰かさんとは大違いだな」
ラハルさんはカンザシさんを見た。
そういえば、ナヤセス殿とロナさん、どうなったんだろ。
「僕に上から目線で物語るな!僕は全て独学でやって来た!学費だって自分で払ってきた!チート野郎が生意気な口叩いてんな!」
カンザシさんの実家って、お金ないのかな。ナヤセス殿みたいに下克上出来る人なら大人になってからの暮らしは安泰するだろうに。
「あんた、マモル脱退したばっかなんだから、これ以上問題起こすな!」
落ち武者さんが、カンザシさんに指摘した瞬間、疲れが出たのか倒れた。
「落ち武者さん!」
ヨルクさんは主治医を呼んだ。
落ち武者さんは、過労らしい。私は落ち武者さんを背負って2階へ行き、布団に寝かせた。
3日もタイムスリップしてたもんな。
私は再び第4居間に戻った。
まだ、カンザシさんとミツメさん揉めてる。私が原因だから何だか気まずいな。セレナールさんもまだ責められてるし。
「ナミネ、やっぱり生理遅れてたのおかしいと思うから、明日病院行こっか」
どうしてヨルクさんって、いつもタイミング悪い時に言うの。ズームさんが時間止めてたせいなのに。
「い、いえ、本当に何でもないんです!それより、ヨルクさん、これ試してみてはいかがですか?尿漏れを防いでくれます」
私はヨルクさんに失禁パンツを渡した。
「ねえ、私のこと馬鹿にしてるの?失禁パンツなんて必要ないから!」
ほら、自分のことになると、すぐに機嫌損ねる。まるで子供みたい。
「では捨ててください」
「別に捨てないけど……ナミネって趣味悪いよね」
「みんな、セルファが倒れたようにタイムスリップしてた人たちは疲れてるから、今日は出前頼んだよ」
卵がゆじゃないんだ。ヨルクさんも、ずっと動きっぱなしだったもんね。
「ありがとう、ナルホさん」
それにしてもカンザシさん、いつまでここにいるんだろう。ズームさんというパトロンがいるから甘えてるのかな。
ナルホお兄様もまだこっちの学校行けてないし。色々ありすぎで頭パンクしそうだよ。
その時、カナエさんを引っ張たこうとしたセレナールさんが躓いてズームさんを押し倒してしまった。
「いやっ!気持ち悪いっ!」
セレナールさんは慌てて身体を起こし、ズームさんから離れた。
顔が全てってこと?めちゃくちゃ苛立つ。
「あの、セレナールさん……!!」
「明日は、ラルクとカンザシさんを月城総合病院に連れて行くから」
そっか、ゴタゴタで忘れてたけど、カンザシさん、病院で診てもらわないと。
「カンザシさんも落ち着いてくれるかな」
ナルホお兄様の指摘でカンザシさんは平常心を取り戻した。
あっ、話しかけられる前に何とかしないと。
「あ、ズームさん、話したいことあるので、部屋まで来てもらえませんか?」
え、この間何……?
「分かりました」
私はズームさんの手を引っ張って逃げるように第4居間を出た。
部屋に入ると落ち武者さんはまだ寝ていた。
「話って何ですか?」
「あ、あの……その……別に嫌いとかじゃないし、寧ろ好きなんですけど、カンザシさんに付きまとわれている気がするんです。よく2人きりになりたいと言われて……。知り合って間もないし2人きりは流石に気まずくて……」
この時、私はヨルクさんが立ち聞きしていることを全く知らなかった。
「つまり、気まずいけど、突き放せないということですか?」
「はい、そうなんです。やはり、実の兄ですし……」
え、またこの間……いったい何なの?
「そうですか。ハッキリ言います。カンザシはあなたに恋愛感情があるんです。けれど、断るに断れないなら30分とキッチリ時間を決めたり、誰か1人連れて行く、或いはその1人に見張ってもらうしかないと思います」
2人きりだから誰かは連れて行けないから、見張ってもらうしかないかな。30分なら弾き語りも早く終わるだろうし。
「そ、そうですよね。そうします。って、れ、恋愛感情?それはないと思います。私、カンザシさんの妹ですし」
「てか、あんた、カンザシのこと気に入ってたんじゃなかったのかよ?」
え、落ち武者さん、いつ起きたの?もしかして、最初から起きてた?
「そうなんですけど。知り合ってまだ間もないから2人きりはやっぱり気まずくて……。ヨルクさんのことも心配だし……」
「では、話は終わったので僕は戻ります」
「ちょ、待ってください!」
私は何故か慌てて引き止めてしまった。え、何か落ちた?
「落ちましたよ、これ。大切なものならカード入れに入れたほうがいいですよ。せっかく取った資格なんですから」
ズームさんは時計騎士合格証明書とカードケースを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。このカードケース可愛いですね。どこのメーカーですか?」
「知りません」
やっぱり話しづらい。とりあえず私は財布から伝説最上級武官合格証明書と時計騎士合格証明書をカードケースに入れて、財布とカードケースをショルダーバッグに戻した。
「じゃあ、こらからは僕が着いててやるよ」
「あ、お願いします。ズームさん、ピアノ弾きますか?」
「弾きません」
用事以外は話さないってこと?
「あ、では今のうちに、お風呂入ってください。浴衣置いてあるので適当に使ってください。部屋は適当に空いてる客間使ってください。案内します」
え、またこの間……。めちゃくちゃ気まずいんだけど。
「では、お風呂はお借りします」
「じゃ、僕も入る。強気なナミネ、あんたはミツメに弾き語りでもしてもらえ!」
「は、はい」
その時、落ち武者さんは素早く扉を開けた。え、ヨルクさん?いつからいたの?そもそもどうしているの?
「あんた、立ち聞きとか趣味悪いな」
「ナミネのこと心配だったから……」
ヨルクさん……。好きすぎる……。
落ち武者さんとズームさんが、お風呂に行った後、ヨルクさんは出前が来てるからと私を第4居間に戻した。
お寿司か。グルグル妖精さんのマンションに泊まった時もお寿司だったな。ラルクに食べさせてあげよう。
「ナミネ、手で掴まないで。今取り皿に入れるから」
「ラルクの分です。ラルク、かなり前から食べてないです。ラルク、食べて」
私はラルクにお寿司を食べさせようとした。
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、お願い食べて」
「ラルクは、明日点滴打ってもらうから、とりあえず、ナミネ食べてくれる?明日は僕とニンジャ妖精さんで行くからナミネは疲れとるために休んでくれるかな」
うーん、ラルクのこと心配だし、私も付き添いたいんだけど……。
「ラルクが心配なので私も行きます!」
「ナルホ、1番お風呂のシャンプー切れてる」
「あ、私補充してきます!」
私は1番お風呂に向かった。
新しいシャンプーっと。2つでいいかな。
「シャンプー補充しに来ました」
「あんたさ、男2人いる風呂によく来れるな」
あ、落ち武者さんとズームさんいたんだった。
「すみません。これ、補充のシャンプーです」
私は落ち武者さんにシャンプーを渡した。
「はいよ」
「あの、ラルクのことなんですけど……」
「あんたさ、何もここで話すことないだろ」
「ハッキリ言います!あなたのような人の入浴中に堂々と入ってくるような女は大嫌いです!」
そ、そんな……。ここ私の家なのに……。
「すみません」
私は1番お風呂を出た。この時の私は、ズームさんが、私のコマーシャル映像や、まだDVD化されていない、飛べない翼と花夢物語を特注で入手していることを全く知らなかったのである。
この日は、ヨルクさんが部屋に持って来てくれたお寿司を食べて、私は眠りについた。
この時の私は予想もしていなかった。この後に起きる展開を。
……
あとがき。
走り書きでは常に全力疾走のラルクが、こっちではかなり病んでいる。書くたびに物語って変わるものなんですね。
ナミネにとっては平和な回。
でも、セレナール視点やラルク視点だと全然そうではないんだろうなあ。
そして、マモルはいつ帰るの?
《ナミネ》
現代に戻された私たちはナノハナ家の第4居間で話し合っている。マモルさんの芸能界追放はもう覆りそうにはない。そして、裁判にもかけられるそうだ。
いくら、引き渡されたからって、思いとどまることも出来ただろうに。
そして、マモルさんの代わりに新しいメンバーであるミツメさんが加わった。
それにしても、森の湖にいたセレナールさんは、ラルクのこと本気で愛していたと思っていたのに、全て嘘で最初からラルクのこと利用しようとしていただなんて……。
絶対に許せない。
あの時のセレナールさんは、皇太子様に一目惚れをして、かなり上手くいっていたけれど、紀元前村から帰って来たカラクリ家にて、あの映像がきっかけに皇太子様と拗れてしまう。
そして、セレナールさんが本当に愛していたのは実の兄であるセリルさんであることを聞かされたとか。
全て吹っ切ったセレナールさんは、今の妖精村学園の教師になった。あの時は、人手不足だったらしく、高校2年生と1年生の担任を掛け持ちしていたらしい。
結局、セレナールさんの人生って何だったのだろう。セリルさんのことが吹っ切れた後に好きになったヨルクさんが初恋だったのだろうか。妖精村にとって、セレナールさんは特別な存在なのに、人生観はかなり酷いと思う。
もし、あの時、タルリヤさんが来てなくて、ずっと皇室にいたら幸せでいられたのかな。
「話の途中だけど、とりあえず、この映像見ろ!」
落ち武者さんは、携帯の映像を再生した。
ああ、タイムスリップした時の映像か。セレナールさんの本性をみんなに知ってもらうのか。
もうこの際だから白黒ハッキリ付けた方がいいよね。
馬に乗るヨルクさんカッコイイなあ。
みんなは映像を見終わった。
「え、セレナールってヨルク目当てでラルク騙してたの?酷すぎない?いくらなんでも、こんなやり方非道だわ。現世でイジワルされたのもバチが当たったのかもね」
セナ王女はやっぱり厳しい意見。
「セレナールの本性って思ってたより怖い。人を騙すだなんてあんまりだわ。ラルクは森の湖のセレナールと交際するために何日も帰らなかったのに。こんな真実聞かされて、かなり傷付いていると思う」
ユメさんもセレナールさんの味方はしないか。
「悪いけど、セレナール。弟には近づかないでちょうだい!こんなの認められないわ!何て品がなくて馬鹿な女なの!クレナイ家には相応しくないわ!」
カンザシさんのことといい、リリカさんから見たセレナールさんの印象はガタ落ちだな。
「リリカ、許して。昔は恋が分からなかったの。これからはラルクを大切にする!」
その瞬間、リリカさんはセレナールさんを殴り付けた。
「ラルクは渡さないわ!」
やっぱり、リリカさんは元から認めてなかったんだ。
そういえば、10月は色々バタバタしていて、そのまま11月になっちゃって、その11月も下旬にさしかかっているから、セレナールさんとカナエさん、落ち武者さんの誕生日会はセナ王女の別荘でしようって話してるけど、こんな状態で出来るのだろうか。
私は何となくズームさんを見た。
しまった。目が合っちゃった。咄嗟に目を逸らした。
時計騎士かあ……。身長高いし未来のヨルクさんより体型ガッチリしてる。
うーん、やっぱり気になる。
私はトイレに行くと嘘を付いて、第4居間を出て自分の部屋に入るなり呼び出しカードでキクスケさんを呼んで番人部屋に連れて行ってもらった。
「私、時計騎士の試験受けたいです!」
「時計騎士は難関です。まずは体験からしてみてください」
「分かりました」
私は、番人部屋の扉の向こうにある試験会場の受付で体験を申し込んで体験に挑んだ。
時計騎士。
確かに難しい。時間の管理って、こんなにハードなのか。0.001秒もズレてはいけない。けれど、次々に時間を狂わせる試練が来る。私は時計台の上で、時間が狂う度に時間を元に戻した。
体験はギリギリの合格だった。
キクスケさんが現れた。
「おめでとうございます。体験は合格です」
「本試験を受けたいです!」
「残念ながら今のナミネさんには無理でしょう。本試験は体験よりハードです。しかし、ナミネさんは体験の時点で、時間を戻すスピードが遅かったです。本試験では、もっと早く戻さなくてはいけません。妖精村の時間を正確に管理するそれが時計騎士なのです」
ズームさんは難関な資格をすんなり通ったということか。何だか悔しい。
「それでも受けます!」
「それでは受付を済ませた後、試験を受けてください」
私は受付に走った。
1回目は、いきなり台風が来て戻すスピードがかなり遅く失格となった。
2回目は、見知らぬ人に時間を巻き戻され躊躇しているうちに失格となった。
そして、3回目、4回目、5回目も失格だった。
難しい。難しすぎる。こんなのどうやって合格するの?
悔しさ余りに私は6回目を受けた。
台風が来て、私は即、分針を左に回した。時間を戻されたら、即秒針を右に回した。途中、物乞いの人に声をかけられ、失格となったが、私は少しずつ理屈を掴んでいた。
7回目、私は本気で挑んだ。
見知らぬ人に時間を戻されるなり即、秒針を右に回し、竜巻が来ると私は即、分針を1周左に回した。物乞いの人に声をかけられても、ひたすら時計台の上で次なる試練を待った。紀元前村の時間が狂うと私は時針を大きく右に回した。停電が起きると私は秒針を正確に右に回した。
「ナミネさん、おめでとうございます。時計騎士試験 合格です」
「ありがとうございます!」
私は時計騎士合格証明書を受け取った。
7回目にしてやっとギリギリの合格。
私は汗だくになりながら、試験会場を出て、キクスケさんに第4居間の前の廊下に戻してもらった。
時計を見ると、私がここを出てからまだ7分しか経ってなかった。まだ時間元に戻ってなかったんだ。でも、そろそろ、戻さないとな。私はずっとズレていた時間を元に戻した。そして、第4居間に入った。
「ナミネ、どうしたの?熱出したの?」
私は駆け寄るヨルクさんの横を通り抜けズームさんの前に立った。
「ズームさんて、頭良いんですね!」
私はズームさんに時計騎士合格証明書を見せた。
え、無視?
「おめでとうございます」
一応祝福はしてくれるんだ。
「あ、ありがとうございます」
「あんた、それ持ってても使わないだろうがよ」
「ただ、挑戦したかったんです!ラルクもさ、伝説と夢騎士取って、もっと強くなっていこうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
ラルク、しっかりしてよ!失恋は辛いけど、ラルクがそんなんだと、ラルクだけ置いてきぼりになっちゃうよ。
「ナミネ、時計騎士の試験受けてたの?」
「はい」
ていうか、話し合いどうなったんだろう。まだ、何か揉めてるようだけど。
「やっぱり、ナミネとラルクをくっ付けておけば良かった」
「リリカお姉様!私とナミネは愛し合ってるんです!」
「あんた、汗拭いてやるよ」
「もう、どうして落ち武者さんがそんなことするの!ナミネは私の彼女だから!ナミネ、部屋で着替えるよ」
私はヨルクさんに手を引っ張られ部屋へと向かった。
部屋でヨルクさんは私の身体を拭くと私にキャミソールとルームウェアを着せた。
「ナミネ、凄いね」
「そんなことないです。それよりラルクが心配です。せっかく、伝説受けるって意気込んでいたのに。失恋で受けられなくなるなんて……。落ち武者さんも近々試験受けますし、私も夢騎士の試験に備えてます」
「ナミネ、焦ってない?もっとゆっくりで良いと思う。ラルクだって、来年受けたらいいと思うし」
焦ってるのかな。何だか欠けているものを埋めたくて仕方ないんだよね。
「分かりました」
ヨルクさんは私を抱き締めた後、私の手を握り再び第4居間へと向かった。
第4居間では、セレナールさんが女性陣から攻撃を受けていた。これもう解散で良い気がする。
「落ち武者さんも伝説と夢騎士受けるんですよね?」
「うん、受けるけど?」
「ラルク、私、時計騎士受かったんだよ。ラルクもさ、巻き返そうよ」
「復讐してやる……復讐してやる……」
私は泣きながらラルクを抱き締めた。
「もういいよ。ラルク、何もしなくていいよ。私が一生ラルクを支えるよ」
ラルク、可哀想に。こんなになるまで傷付けられて……。
「本当、セレナールって最低」
「流石にセレナールのしたことってアウトよね」
「セレナールがこんな人だとは思いませんでした」
「何よ、みんなイジメないで!」
セレナールさんなんか、ずっと攻撃受けていればいいのに。ラルクはもっと苦しんでいるんだよ。みんな、もうセレナールさんに同情なんかしないよ。
「おい、シュリ、物件見つけて来たか?」
「あの、リーダーのここでもアパートを借りる概念が理解出来ません。僕たちは虹色街で活動しなければならないんです。今だってこうやってレッスンさぼっているの良くないと思います」
私も芸能人なら、本来は虹色街にいるものだと思う。でも、ラハルさんも紅葉町でアパート借りるんだっけ?
「新入りが口答えするな!僕は紅葉町でもアパートを借りる!」
「何のためにですか!納得いく説明をしてください!」
「ナミネさんと長く一緒にいたいからだ!だからといってレッスンをサボるつもりはない!」
え、何だか私のせいみたいでいやだな。
「たかが女1人のために、わざわざアパートまで借りるんですか!グルグル妖精やサムライ妖精は毎日レッスンに明け暮れているというのに!」
その瞬間、カンザシさんはミツメさんに殴りかかろうとしたが、ミツメさんはかわした。え、かわした?この人強いんだ。けれど、カンザシさんは、諦めずミツメさんを攻撃する。
はあ、カンザシさんは、どうして私に拘るのだろう。
「カンザシ、ナミネがいるから紅葉町にアパート借りるのは僕もおかしいと思う。今だって、虹色街のマンションの家賃払えてないのに。月収9万円では何も出来ないだろう。オーディションも落ちてばかりだし、もっと努力しないとニンジャ妖精潰れるぞ!」
今度はラハルさんに殴りかかった。私は扇子で止めた。
「ラハルだって、紅葉町にアパート借りるんだろ!」
「僕はちゃんと家賃払えるくらい稼いでる。カンザシみたいにサボってないし」
「は?もう一度言え!」
「リーダー、やめましょう」
カンザシさんが攻撃しようとするのを、ミツメさんは止めた。この人強い。何か習ってるのかな。
「ミツメさんはお強いですなあ」
私は扇子を仰ぎながら言った。その時、テレビからニュースが流れた。
『マモルさんが脱退した後、ニンジャ妖精さんにミツメさんという新しいメンバーが加わりました。ミツメさんは3歳の頃から音楽教室に通い、6歳の頃には俳優業もしています。今後のニンジャ妖精さんに期待ですね』
ミツメさんて3歳から芸能人目指してたんだ。何かエリートって感じ。
「これで分かったか、カンザシ。芸能人目指す者はミツメのように小さい頃からミッチリとレッスン積んでるんだよ!」
ラハルさんも、音楽教室通ってたんだっけ。
「上から目線で物言うな!」
「リーダー、落ち着いてください」
「はい、ストップ!」
落ち武者さんはカンザシさんを止めた。
「芸能人続けたいなら死ぬ気でやれ!」
そうなんだよね。どの世界も命懸けなんだよ。中途半端なんて許されない。
「ミツメさんて、3歳の頃から芸能人目指していたとか、自分持ってて偉いですね」
私はまた扇子をパタパタさせていた。
「夢だったので」
「青春ですのお」
「ナミネさんは夢とかないんですか?」
「夢を持つにはまだ早い年齢ですな」
本当は、武官か指導官目指してるけど、今は言わなくていいかな。
「そうですか。中学生楽しんでください」
「はい!ミツメさんも芸能界で謳歌してくださいな」
私も小さい頃からラルクと訓練してたけど、そのラルクは今これだもんな。何だか寂しい。
「今更だけど、ナミネの家って大きいよね。親何してるの?」
「あ、サラリーマンしてます。兄は医者目指してます」
私は無意識にバレバレな嘘を着いていた。
「お兄さんって?」
「この人で、今はここに住んでます」
私はナヤセス殿の写真と住んでるマンションの写真をラハルさんに見せた。
「あまり似てないね。凄いマンション。学生なのにバイトでもしてるの?」
「腹違いの兄です。研究員のバイトしてます」
「そっか、エリートなんだ。どっかの誰かさんとは大違いだな」
ラハルさんはカンザシさんを見た。
そういえば、ナヤセス殿とロナさん、どうなったんだろ。
「僕に上から目線で物語るな!僕は全て独学でやって来た!学費だって自分で払ってきた!チート野郎が生意気な口叩いてんな!」
カンザシさんの実家って、お金ないのかな。ナヤセス殿みたいに下克上出来る人なら大人になってからの暮らしは安泰するだろうに。
「あんた、マモル脱退したばっかなんだから、これ以上問題起こすな!」
落ち武者さんが、カンザシさんに指摘した瞬間、疲れが出たのか倒れた。
「落ち武者さん!」
ヨルクさんは主治医を呼んだ。
落ち武者さんは、過労らしい。私は落ち武者さんを背負って2階へ行き、布団に寝かせた。
3日もタイムスリップしてたもんな。
私は再び第4居間に戻った。
まだ、カンザシさんとミツメさん揉めてる。私が原因だから何だか気まずいな。セレナールさんもまだ責められてるし。
「ナミネ、やっぱり生理遅れてたのおかしいと思うから、明日病院行こっか」
どうしてヨルクさんって、いつもタイミング悪い時に言うの。ズームさんが時間止めてたせいなのに。
「い、いえ、本当に何でもないんです!それより、ヨルクさん、これ試してみてはいかがですか?尿漏れを防いでくれます」
私はヨルクさんに失禁パンツを渡した。
「ねえ、私のこと馬鹿にしてるの?失禁パンツなんて必要ないから!」
ほら、自分のことになると、すぐに機嫌損ねる。まるで子供みたい。
「では捨ててください」
「別に捨てないけど……ナミネって趣味悪いよね」
「みんな、セルファが倒れたようにタイムスリップしてた人たちは疲れてるから、今日は出前頼んだよ」
卵がゆじゃないんだ。ヨルクさんも、ずっと動きっぱなしだったもんね。
「ありがとう、ナルホさん」
それにしてもカンザシさん、いつまでここにいるんだろう。ズームさんというパトロンがいるから甘えてるのかな。
ナルホお兄様もまだこっちの学校行けてないし。色々ありすぎで頭パンクしそうだよ。
その時、カナエさんを引っ張たこうとしたセレナールさんが躓いてズームさんを押し倒してしまった。
「いやっ!気持ち悪いっ!」
セレナールさんは慌てて身体を起こし、ズームさんから離れた。
顔が全てってこと?めちゃくちゃ苛立つ。
「あの、セレナールさん……!!」
「明日は、ラルクとカンザシさんを月城総合病院に連れて行くから」
そっか、ゴタゴタで忘れてたけど、カンザシさん、病院で診てもらわないと。
「カンザシさんも落ち着いてくれるかな」
ナルホお兄様の指摘でカンザシさんは平常心を取り戻した。
あっ、話しかけられる前に何とかしないと。
「あ、ズームさん、話したいことあるので、部屋まで来てもらえませんか?」
え、この間何……?
「分かりました」
私はズームさんの手を引っ張って逃げるように第4居間を出た。
部屋に入ると落ち武者さんはまだ寝ていた。
「話って何ですか?」
「あ、あの……その……別に嫌いとかじゃないし、寧ろ好きなんですけど、カンザシさんに付きまとわれている気がするんです。よく2人きりになりたいと言われて……。知り合って間もないし2人きりは流石に気まずくて……」
この時、私はヨルクさんが立ち聞きしていることを全く知らなかった。
「つまり、気まずいけど、突き放せないということですか?」
「はい、そうなんです。やはり、実の兄ですし……」
え、またこの間……いったい何なの?
「そうですか。ハッキリ言います。カンザシはあなたに恋愛感情があるんです。けれど、断るに断れないなら30分とキッチリ時間を決めたり、誰か1人連れて行く、或いはその1人に見張ってもらうしかないと思います」
2人きりだから誰かは連れて行けないから、見張ってもらうしかないかな。30分なら弾き語りも早く終わるだろうし。
「そ、そうですよね。そうします。って、れ、恋愛感情?それはないと思います。私、カンザシさんの妹ですし」
「てか、あんた、カンザシのこと気に入ってたんじゃなかったのかよ?」
え、落ち武者さん、いつ起きたの?もしかして、最初から起きてた?
「そうなんですけど。知り合ってまだ間もないから2人きりはやっぱり気まずくて……。ヨルクさんのことも心配だし……」
「では、話は終わったので僕は戻ります」
「ちょ、待ってください!」
私は何故か慌てて引き止めてしまった。え、何か落ちた?
「落ちましたよ、これ。大切なものならカード入れに入れたほうがいいですよ。せっかく取った資格なんですから」
ズームさんは時計騎士合格証明書とカードケースを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。このカードケース可愛いですね。どこのメーカーですか?」
「知りません」
やっぱり話しづらい。とりあえず私は財布から伝説最上級武官合格証明書と時計騎士合格証明書をカードケースに入れて、財布とカードケースをショルダーバッグに戻した。
「じゃあ、こらからは僕が着いててやるよ」
「あ、お願いします。ズームさん、ピアノ弾きますか?」
「弾きません」
用事以外は話さないってこと?
「あ、では今のうちに、お風呂入ってください。浴衣置いてあるので適当に使ってください。部屋は適当に空いてる客間使ってください。案内します」
え、またこの間……。めちゃくちゃ気まずいんだけど。
「では、お風呂はお借りします」
「じゃ、僕も入る。強気なナミネ、あんたはミツメに弾き語りでもしてもらえ!」
「は、はい」
その時、落ち武者さんは素早く扉を開けた。え、ヨルクさん?いつからいたの?そもそもどうしているの?
「あんた、立ち聞きとか趣味悪いな」
「ナミネのこと心配だったから……」
ヨルクさん……。好きすぎる……。
落ち武者さんとズームさんが、お風呂に行った後、ヨルクさんは出前が来てるからと私を第4居間に戻した。
お寿司か。グルグル妖精さんのマンションに泊まった時もお寿司だったな。ラルクに食べさせてあげよう。
「ナミネ、手で掴まないで。今取り皿に入れるから」
「ラルクの分です。ラルク、かなり前から食べてないです。ラルク、食べて」
私はラルクにお寿司を食べさせようとした。
「復讐してやる……復讐してやる……」
「ラルク、お願い食べて」
「ラルクは、明日点滴打ってもらうから、とりあえず、ナミネ食べてくれる?明日は僕とニンジャ妖精さんで行くからナミネは疲れとるために休んでくれるかな」
うーん、ラルクのこと心配だし、私も付き添いたいんだけど……。
「ラルクが心配なので私も行きます!」
「ナルホ、1番お風呂のシャンプー切れてる」
「あ、私補充してきます!」
私は1番お風呂に向かった。
新しいシャンプーっと。2つでいいかな。
「シャンプー補充しに来ました」
「あんたさ、男2人いる風呂によく来れるな」
あ、落ち武者さんとズームさんいたんだった。
「すみません。これ、補充のシャンプーです」
私は落ち武者さんにシャンプーを渡した。
「はいよ」
「あの、ラルクのことなんですけど……」
「あんたさ、何もここで話すことないだろ」
「ハッキリ言います!あなたのような人の入浴中に堂々と入ってくるような女は大嫌いです!」
そ、そんな……。ここ私の家なのに……。
「すみません」
私は1番お風呂を出た。この時の私は、ズームさんが、私のコマーシャル映像や、まだDVD化されていない、飛べない翼と花夢物語を特注で入手していることを全く知らなかったのである。
この日は、ヨルクさんが部屋に持って来てくれたお寿司を食べて、私は眠りについた。
この時の私は予想もしていなかった。この後に起きる展開を。
……
あとがき。
走り書きでは常に全力疾走のラルクが、こっちではかなり病んでいる。書くたびに物語って変わるものなんですね。
ナミネにとっては平和な回。
でも、セレナール視点やラルク視点だと全然そうではないんだろうなあ。
そして、マモルはいつ帰るの?
純愛偏差値 未来編 一人称版 52話
《ヨルク》
私たちは、古民家の並んだ町にラルクを迎えに行った。
けれど、そこで私たちが目にしたのは、ラルクと森の湖にいるはずのセレナールさんだった。だが、ラルクは昔のセレナールさんに完全にカモにされているようだった。
それに気づきながらもラルクは昔のセレナールさんの説得をしていたらしい。
ラルクを利用し、皇太子様と私を天秤にかけたと知ったナミネは昔のセレナールさんに扇子を突き付けた。
「ラルクの心を返してください!」
「ラルク、会うのは今日で最後よ。私は皇太子様と交際するために皇室に行くの」
「姉さん、あんた、とんでもない女だな。あんたと皇太子は別れるんだよ!皇太子はエミリと交際するんだよ!」
現実はそうだが、今のこの人には何を言っても通用しないだろう。
「させません。セレナール先生には現代の人になってもらいます」
ラルク、何言ってるんだ?そして、ラルクは昔のセレナールさんに結界をかけた。結界?現代ではもう存在していないはずだが。何故、結界が使える。
「やめて!私、ラルクとは一緒になれない!皇太子様と幸せになるの!妨害しないで!」
「ねえ、落ち武者さん、どうして結界使えるの?もうなくなったんじゃなかったの?」
「あんた、何も知らないんだな。研究者が、遠い昔に結界が存在した証拠見つけたんだよ!それで、結界復活した。でないと、強気なナミネが伝説最上級武官に受かるわけないだろ」
えっ、ナミネは既に結界使えていたのか。
結界は基本は10までだが、研究者がそれ以以上は存在すると発表し、10を超える数字を使う時は最後に『想定』と言う。
「ナミネ、結界解いてあげて」
「いやです!私はラルクの幸せを守ります!」
ナミネは泣きながらラルクを抱き締めた。ナミネ、どうしてそこまでラルクの人生に拘る。
「ラルク、よく聞け!強気なナミネは既に伝説最上級武官に受かってる。平和ボケなナルホも妖精村初級武官の資格持ってる。僕も近々伝説受けるつもりだ。あんた、恋愛にうつつ抜かしてると置いてかれるぞ!」
はあ、ナミネも落ち武者さんもナルホさんも強い。どうして私は弱いのだろう。みんなと同じように訓練してきたのに。でも、現世では、ラルクのように私も教師を目指すつもりだ。また、ろう学校に就職することを考えている。
「もう武官なんてどうでもいいです。セレナール先生と一緒にいられるなら、全てどうでもいいんです」
「おいおい、この結界誰が解くんだよ」
ナミネが結界を解かない限り、昔のセレナールさんは閉じ込められたままだ。
「ラルクさん、結界かけても、昔のセレナールさんのお友達がそのうちここに来ますよ。実らない恋を受け止められない気持ちは分かりますが、これでは監禁になってしまいますよ」
え、床に何か書いてる?数式?随分と長いな。
その時、昔の?セリルさんが来た。
「セレナール!」
「兄さん!助けて!」
「今、みんな向かってる!」
「セリル、結界解けよ!」
「ごめんね、僕には解けないんだ」
「おい!あんた役に立たないじゃねえか!」
この時代のセリルさんは結界が使えなかったのか。何だか今より随分と雰囲気も違う。
「セリルさん、弟を助けてください」
私は自然と涙が流れていた。
「ヨルク、ラルクは大丈夫だよ。一時的にセレナールを好いているだけなんだよ」
一時的……。本当にそうなのだろうか。
「ナルホさん、結界解けなかったらどうなるの?」
「セレナールは皇太子はとは一緒になれず、歴史が変わり、現世にも大きく影響するよ。ナヤセスさんもカンザシさんも赤の他人で僕たちとは知り合わないかもね」
「そんなの、そんなのいやです!ズーム!何とかしろ!」
「カンザシ、お前の仲間ならお前が何とかしろ!」
歴史が変わる……。またナミネとの交際は取り消されるということなのだろうか。どうして弟に人生を狂わせられなければならない。ナミネのこと、ずっとずっと好きだったのに。
その時、昔のエミルさん、カラルリさん、カナエさん、エミリさんが来た。
「ラルク!セレナールを解放するのです!」
何だか魔法使いみたいだな。着物着てるけど。
「解!」
昔のエミリさんが結界を解こうとしたがダメだった。
「そんな……どうして結界が解けないの?」
「あの、カナコさんと、レイカさんは?」
「任務でここにはこれないわ」
そんな……。だったら、誰が結界を解くと言うのだ。
「では、カラルリさん、僕の合図でセレナールさんをこの家から連れ出して下さい」
「分かった!セレナール、今すぐ助けるからな!」
ズームさんは、数式の上に手を乗せた。すると手の周りが光った。これが錬金術なのだろうか!(全然違います。結界は元々は数式で出来ていて頭脳明晰な人は数式を使うケースがあるのです)
「解!今です!」
昔のカラルリさんは昔のセレナールさんを家から連れ出した。私も後を追った。
あれ、町に光が付いてる。民家には人のいる気配もあった。私たちがタイムスリップしたのだろうか。
「ラルク、セレナールさんを追うよ!」
え、何故まだ抗う。ナミネが馬に乗るとラルクもナミネの馬に乗り、猛スピードで昔のセレナールさんを追いかけた。私やナルホさんも近くの馬に乗った。
ダメだ、全く追いつけない。せっかく、外に出れたのに……。
「カナエ、セレナールと一緒に飛んでキクリ家まで行け!」
「分かりましたのです!」
カナエさんとセレナールさんは妖精の羽で飛び立った。
「ラルク、馬乗り捨てるよ!」
え、あのデカい折り鶴何!?
「ナミネ、待って!」
ナミネとラルクは馬を乗り捨て大きな折り鶴に乗ってキクリ家に向かった。仕方ない、私はこのまま馬でキクリ家に向かおう。乗馬、もう少し練習しておけば良かった。現代だからと、いざという時のこと何も考えてなかった。私は今更後悔した。
えっと、カンザシさんはナルホさんの馬に乗ってる。
キクリ家に着くと、ナミネとラルクが昔のセレナールさんに扇子を突き付けていた。間に合わなかったか。
「助けて!」
「ナミネ、ラルク、セレナールを解放してやってくれ」
「ナミネ、ラルク、歴史を変えてはいけないのです!」
「ナミネ、ラルク、セレナールは皇太子様と一緒になるのよ!」
いったいどうしたらいいのだ。それにしても、昔のキクリ家ってこんな感じだったのか。何だかとても古風だ。
えっ、昔のミナクお兄様と私……?
「ラルク、みんなに迷惑かけるのはやめろ」
って、この頃のミナクお兄様めっちゃまともじゃん。いつから、あんなふうになったのだろう。
というか、昔の私、今の私と同じくらいの年齢なのか?
「ラルク、何してる。大事にするな」
ナミネが昔の私に駆け寄ろうとした時、昔のセレナールさんがナミネを突き飛ばし、昔の私を抱き締めた。
「ヨルク……会いたかった……好き」
「悪いが私には心に決めた女子がいる」
昔の私は、昔のセレナールさんを振りほどいた。
「ヨルク、私を愛して!」
「セレナール!ヨルクはナミネとの縁談が決まりかけています」
そうなのか?だったら、どうして、私とナミネは一緒になれなかったのだろう。
「ヨルクさん!私はヨルクさんが好きです!だから、この時代の私を捨てないでください!」
「ナミネ、ここで何してる」
「てか、あんた、性格違いすぎるだろ!」
「そんなこと言われても私も流石に覚えてない!」
ナミネは昔の私を抱き締めた。何故、昔の私を抱き締める。
あれ、昔の私は妖精ではなかったのか?基準は何なのだろう。
「ヨルクさん、ラルクはこの時代のセレナールさんのことが好きなんです。どうか、ラルクの幸せを叶えてあげてください」
「そんなものは認められぬ。今すぐ元の時代に帰れ!」
え、昔の私が剣を抜いた?
「ナミネ、危ないからこっち来て!」
私の声も届かずナミネは扇子を構えた。昔の私の剣とナミネの扇子がバチバチ音を鳴らせた。
「あんた、何で弱くなった」
「だから、こんな昔のこと何も知らないって!」
昔の私が花の舞を使うと同時にナミネも花の舞を使った。2つの花吹雪が視界を狭めた。花吹雪が止む頃、昔の私の剣はナミネの扇子に弾かれたのか、ナミネは昔の私に扇子を突き付けた。
「昔のヨルクさんは最上級武官レベルですな」
「ナミネ……女がこのような戦いなどはしたない」
その時、昔のナミネが来た。ピンクのかすみ草の着物着た昔のナミネ可愛すぎる。私は思わず写真を撮った。
「ヨルクさん、縁談のことですが……」
「縁談は白紙にする」
「待ってください!もう少し時間をください!」
「悪いが好きな女子が出来た」
「誰なんだよ、言ってみろよ」
もう何が何だか分からなくなってきた。この時の私もナミネのことが好きだったはず。好きな人なんて嘘だろう。
「花屋で働いているサユリさんのことが好きだ。ナミネとは結婚出来ない」
えっ、どうなってるの?てか、この頃からサユリさんいたの?
現代のナミネが涙を流している。私は思わずナミネを抱き締めた。
「ナミネ、この時代は仕方ないんだよ。今の私たちで愛を育んでいこうね」
「おい、あんた、バレバレな嘘ついてんなよ」
落ち武者さんは昔の私にフェアリーングをかけた。
「昔の顔だけヨルク、あんた、昔の強気なナミネのこと好きなんだろ!」
「好きだ。私は小さい頃からずっとナミネを見てきた。だが、ナミネはラルクのことが好きだし、そんな気持ちで縁談がまとまっても個人的には気持ちの整理もつかないから、サユリさんとの縁談をまとめようと思う」
はあ、やっぱり、この時代の私もナミネ一筋だったか。
「ヨルクさん、本当にごめんなさい」
「昔の私さん、私は元々ヨルクさんが好きだったんです。でも、ヨルクさんの突然死を思い出すたび、私は若くで衰弱死して、最後の天使村の番人に二度とヨルクさんを好きにならないようお願いしてしまったんです」
ナミネは天使村の私との結婚式の写真を昔のナミネに見せた。
「うーん、ごめんなさい。天使村なんて知りませんし、私……」
「では、ご勝手にしてください」
その時、ナミネのナプキンが限界になったのか、床に血が流れた。昔の私は現代のナミネに布ナプキンを渡した。
「使え」
「あ、すみません」
ナミネがみんなの前でパンツを下ろそうとしたら、昔の私が現代のナミネをみんなから遠ざけた。
「ここで替えろ」
「はい」
ナミネは布ナプキンに替えて汚れたナプキンをビニール袋に入れた。
「昔のヨルクさんも料理をされていますか?」
「ああ、している」
「そうですか」
「ナミネ、お腹痛くない?」
私はナミネの手を握った。
「少し痛いです」
「ナミネ、これ飲んで」
私はナミネが持ってるポーチの中から痛み止めを取り出した。そして、小さいミネラルウォーターと共に渡した。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
ナミネは痛み止めを飲んだ。
「あの、そちらの時代では、本当に私とヨルクさんは好き合っているんですか?」
「うん、そうだよ。ナミネとはナノハナ家とクレナイ家を行き来してる。私はずっとナミネが好きだったんだよ。現世ではナミネも私のこと好きになってくれて幸せに暮らしてる。でも、ナミネは好きに生きて良いんだよ。無理に私との縁談をまとめることはないからね」
ナミネ、いつか気付いてくれればいいよ。今はラルクを好きでも、いつか私を好きになってくれたらそれでいい。
「何なのよ!ナミネがヨルクをいらないなら、私がもらうわ!」
「どうしてですか、セレナール先生……」
好きでもない女と結婚しようとしている昔の私と、好きな女と無理矢理一緒になろうとするラルク。恋というのは上手くいかない。
「皆さん、もうすぐキクスケさんが来ますよ。伝えたいことがあるなら、今ハッキリと伝えてください」
そっか、いつまでもはここにいられないのか。
「じゃ、一応集合写真撮っとく」
落ち武者さんはデジカメを適当な場所に置いてタイマー設定すると、みんなを並ばせ、写真を撮った。
そして、キクスケさんが来た。
「このようなことはルール違反です。未来から来た人は未来に戻ってもらいます」
「あの、キクスケさん、この時代のセレナールさんが私を好きだというのは本当でしょうか?」
私は真実を知るため、すかさず聞いた。
「本当です。セレナールさんが教師になり、ヨルクさんの担任になった時、セレナールさんはヨルクさんに一目惚れするものの、叶わず、それでも諦めきれずセレナールさんはラルクさんがヨルクさんの弟だと知るなりラルクさんと交際したんです。ヨルクさんの情報を知るためだけに。けれど、セレナールさんのヨルクさんへの想いは増すばかりで、ある日、セレナールさんは殺し屋に依頼しました。自分を殺すよう。あれは、ラルクさんを庇ったんじゃなく、自作自演の自殺でした」
そうだったのか。ラルクはまんまとセレナールさんに騙されていたわけか。その瞬間ラルクは昔のセレナールさんの羽を扇子で切り刻んだ。
「きゃーーーー!痛い!何するの!」
「よくも、よくも人の心弄んでくれましたね!二度とあなたを許しません」
「ラルク、もうやめよう。この時代のセレナールさんは最期までラルクを利用してたんだよ。ラルクにはもっといい人がいるよ」
ナミネはラルクを抱き締めた。
妖精村1番の美少女と言われたセレナールさんとはいったい何なのだろう。
「時間切れです」
その瞬間、私たちはキクスケさんによって、現代に戻された。
現代のキクリ家だ。そして、もう昔の私たちはいなくなっていた。
「ラルク、帰ろう」
「二度と許さない、許さない……復讐してやる……」
「あ、ズームさん、面倒かけたね。疲れただろうから、ナノハナ家で休んでいって」
「では、そうさせてもらいます」
ナルホさんはタクシーを呼び、みんなはタクシーでナノハナ家に向かった。
私たちはクタクタになりながら、ナノハナ家に着くなり第4居間に入った。
「みんなどうしてたのよ!3日も帰らないから心配してたのよ!」
3日も経っていたのか。全く気づかなかった。
って、知らない人いるし!誰?
「あの、はじめましてですよね?」
「はい、このたびは新しくニンジャ妖精に入ったミツメと申します」
もうマモルさんの代わりが決まったのか。やっぱり芸能人て、みんなイケメンなんだな。
「そうですか。私はナミネです!ナノハナ家へようこそ!」
「ナミネさん、とても可愛らしいですね」
思うことは皆同じか。
「頑張ってください。いつまでも、ニンジャ妖精さんを存続させてください!私、応援しています!」
「あの、こちらがリーダーですか?」
何故間違える。
「リーダーは僕だ!事務所が決めたとはいえ、一応力量を見たいから今ここで弾き語りしろ!」
「分かりました。指定の曲はありますか?」
「ニンジャ妖精、ファーストアルバム 2番目、ハートの夕陽だ」
「今から弾きます」
ミツバさんはハートの夕陽を弾き語りしはじめた。
「上手くいかないことが あっても
逃げ出さないで まだ早いから
一日一日 違う空
僕らは 眺めてる
夢を追うなら 掴んでよ
真っ白な キャンバス
埋めるのは 他でもない自分
全力で 未来作り上げて
一日の終わりを告げる ハートの夕陽
心休める時間 そして希望の明日
最初から 上手くいくこと
求めないで 何度もぶち当たれ
過去で決まる 現在(いま)
立ち上がれ ニンジャ妖精
人生は儚い だから絶望する
逃げても 追いかける見知らぬ影
一日一日 よく似ている
僕らは 疲れていた
一日の終わりを告げるハートの夕陽
心休める時間 そして希望の明日
最初から 上手くいくこと
求めないで 何度もぶち当たれ
過去で決まる 現在(いま)
立ち上がれ ニンジャ妖精」
ミツバさん、堂々としてるなあ。
「腕はいいな。シュリ、ロクメ!ミツバのようにギター練習しろ!」
マモルさんが、抜けてカンザシさんがリーダーか。カンザシさんの弾き語りはナミネも気に入ってるし、私もニンジャ妖精さん応援しないとな。
けれど、ふと思い出す。あの大きな折り鶴はいったい……。
「ねえ、ナミネ、あの大きな折り鶴は何?」
「覚えてません」
「そっか、今日はナミネの大好きな卵がゆだけど、ナミネはナノハナ食堂のご飯食べよっか」
「意地悪しないでください!紙飛行機もあれば折り鶴もあるでしょう!あの折り鶴は小さい時にラルクと私が開発したものです!」
そうだったのか。見たことなかったけど、家の中で作ってたのかな。大きな折り鶴か。まさか、あれで飛ぶとは思わなかった。
「カンザシ!どうして、自分だけ助かって、僕を切り捨てた!」
え、まだマモルさんいたの?
「じゃあ、ラルクも戻ったことだし、そのことについて話し合おうか」
「でも、ナルホお兄様、ラルクの様子がおかしいです」
「復讐してやる……復讐してやる……」
余程ショックだったのだろうか。けれど、セレナールさんほどの綺麗な人が簡単に落ちるとも思えない。でも、結論としては騙されたわけか。
「うん、ラルクはここから出さないようにするから、予定通り話し合うよ。まず、カンザシさんは夜中にセレナールの部屋に行って誘われたと思ったらヨルクと間違えられたことに気付いたんだね?そこまでなら許される範囲なんだけど、問題はセレナールに暴力ふるったことと、マモルさんにセレナールを引き渡したことなんだよね」
何だか、万が一私が寝言で他の人の名前言ってたら、私も引き渡されそうな気がしてきた。てか、ミツバさんは、いきなりこんな話聞いて大丈夫なのだろうか。
「ヨルクさんの代わりにされて馬鹿にされたと思いました。暴力のことは反省しています。けれど、マモルのことはマモルの意思ですよね。僕は強制はしていません」
「納得いかないわ!私はカンザシとマモルにイジワルされたわ!兄さんがマモルの両親から慰謝料取ったところよ!」
今回のことはセリルさんも内心はかなり苛立っているのだろうか。
「うん、でも、カンザシさんはイジワルとまではいかないよね。結論として、イジワルしたのはマモルさんだけで、そのマモルさんのご両親からは既に慰謝料をもらっている。裁判に持ち込んでもカンザシさんを有罪にするのは難しいと思う」
間違えた……か。もうホラーレベルだな。私が間違えたら間違いなく私はあの世行きだ。でも、それくらいナミネは私のことを……。私は思わずナミネを抱き締めた。
「私も間違えたという時点でセレナールさんの落ち度だと思います」
この間も、ラルクはずっと復讐してやるを繰り返している。流石に心配になってきた。
「私もセレナールはラルクがいるのにヨルクに抱かれようとしていたなんて、セレナールが浮気したと思うわ」
「私もユメさんと同じ」
女って怖いな。それでも、私もセレナールさんから狙われたくないし、セレナールさんにはラルクと元の関係に戻って欲しいが、そうもいかないか。
「でも、カンザシさんはどうして夜中にセレナールさんの部屋に入ったんですか?」
「それは……」
「答えろカンザシ!どうしてラルクがいるのに姉さん抱いた!」
落ち武者さんは、カンザシさんに扇子を突き付けた。
「ラルクさんの彼女だとは知りませんでした。セレナールさんの美しさに魔が差してしまいました。合意だと思っていたのにハメられて、今でも悔しいです」
難しいな。私ももし、ナミネに合意してもらったと思って後から泣かれたら立ち直れないだろうな。
「ナルホさん、マモルさんはどうなるの?」
「カナコさんが裁判に持ち込むらしいよ」
「嘘だろ!カンザシ、助けてくれ!」
「マモル、お前が勝手にしたことだろ!自分で何とかしろ!」
後ろに強力な助っ人のいる人は図に乗りやすい。自分の力でもないのに守られているからとやりたい放題だ。
けれど、話は明らかカンザシさんが有利な方向に進んでいた。
そして、この時の私はラルクのメンタルが極度に傷付いていることを知らないでいた。
……
あとがき。
まさか、タイムスリップしてしまうとは。
走り書きには全くないシーンだったので私もビックリしました。
けれど、歴史はそう簡単には変えられないものなんですね。
自分を愛し自分のために死んだと思っていたセレナールが、まさかラルクを騙していただなんて、残酷です。
《ヨルク》
私たちは、古民家の並んだ町にラルクを迎えに行った。
けれど、そこで私たちが目にしたのは、ラルクと森の湖にいるはずのセレナールさんだった。だが、ラルクは昔のセレナールさんに完全にカモにされているようだった。
それに気づきながらもラルクは昔のセレナールさんの説得をしていたらしい。
ラルクを利用し、皇太子様と私を天秤にかけたと知ったナミネは昔のセレナールさんに扇子を突き付けた。
「ラルクの心を返してください!」
「ラルク、会うのは今日で最後よ。私は皇太子様と交際するために皇室に行くの」
「姉さん、あんた、とんでもない女だな。あんたと皇太子は別れるんだよ!皇太子はエミリと交際するんだよ!」
現実はそうだが、今のこの人には何を言っても通用しないだろう。
「させません。セレナール先生には現代の人になってもらいます」
ラルク、何言ってるんだ?そして、ラルクは昔のセレナールさんに結界をかけた。結界?現代ではもう存在していないはずだが。何故、結界が使える。
「やめて!私、ラルクとは一緒になれない!皇太子様と幸せになるの!妨害しないで!」
「ねえ、落ち武者さん、どうして結界使えるの?もうなくなったんじゃなかったの?」
「あんた、何も知らないんだな。研究者が、遠い昔に結界が存在した証拠見つけたんだよ!それで、結界復活した。でないと、強気なナミネが伝説最上級武官に受かるわけないだろ」
えっ、ナミネは既に結界使えていたのか。
結界は基本は10までだが、研究者がそれ以以上は存在すると発表し、10を超える数字を使う時は最後に『想定』と言う。
「ナミネ、結界解いてあげて」
「いやです!私はラルクの幸せを守ります!」
ナミネは泣きながらラルクを抱き締めた。ナミネ、どうしてそこまでラルクの人生に拘る。
「ラルク、よく聞け!強気なナミネは既に伝説最上級武官に受かってる。平和ボケなナルホも妖精村初級武官の資格持ってる。僕も近々伝説受けるつもりだ。あんた、恋愛にうつつ抜かしてると置いてかれるぞ!」
はあ、ナミネも落ち武者さんもナルホさんも強い。どうして私は弱いのだろう。みんなと同じように訓練してきたのに。でも、現世では、ラルクのように私も教師を目指すつもりだ。また、ろう学校に就職することを考えている。
「もう武官なんてどうでもいいです。セレナール先生と一緒にいられるなら、全てどうでもいいんです」
「おいおい、この結界誰が解くんだよ」
ナミネが結界を解かない限り、昔のセレナールさんは閉じ込められたままだ。
「ラルクさん、結界かけても、昔のセレナールさんのお友達がそのうちここに来ますよ。実らない恋を受け止められない気持ちは分かりますが、これでは監禁になってしまいますよ」
え、床に何か書いてる?数式?随分と長いな。
その時、昔の?セリルさんが来た。
「セレナール!」
「兄さん!助けて!」
「今、みんな向かってる!」
「セリル、結界解けよ!」
「ごめんね、僕には解けないんだ」
「おい!あんた役に立たないじゃねえか!」
この時代のセリルさんは結界が使えなかったのか。何だか今より随分と雰囲気も違う。
「セリルさん、弟を助けてください」
私は自然と涙が流れていた。
「ヨルク、ラルクは大丈夫だよ。一時的にセレナールを好いているだけなんだよ」
一時的……。本当にそうなのだろうか。
「ナルホさん、結界解けなかったらどうなるの?」
「セレナールは皇太子はとは一緒になれず、歴史が変わり、現世にも大きく影響するよ。ナヤセスさんもカンザシさんも赤の他人で僕たちとは知り合わないかもね」
「そんなの、そんなのいやです!ズーム!何とかしろ!」
「カンザシ、お前の仲間ならお前が何とかしろ!」
歴史が変わる……。またナミネとの交際は取り消されるということなのだろうか。どうして弟に人生を狂わせられなければならない。ナミネのこと、ずっとずっと好きだったのに。
その時、昔のエミルさん、カラルリさん、カナエさん、エミリさんが来た。
「ラルク!セレナールを解放するのです!」
何だか魔法使いみたいだな。着物着てるけど。
「解!」
昔のエミリさんが結界を解こうとしたがダメだった。
「そんな……どうして結界が解けないの?」
「あの、カナコさんと、レイカさんは?」
「任務でここにはこれないわ」
そんな……。だったら、誰が結界を解くと言うのだ。
「では、カラルリさん、僕の合図でセレナールさんをこの家から連れ出して下さい」
「分かった!セレナール、今すぐ助けるからな!」
ズームさんは、数式の上に手を乗せた。すると手の周りが光った。これが錬金術なのだろうか!(全然違います。結界は元々は数式で出来ていて頭脳明晰な人は数式を使うケースがあるのです)
「解!今です!」
昔のカラルリさんは昔のセレナールさんを家から連れ出した。私も後を追った。
あれ、町に光が付いてる。民家には人のいる気配もあった。私たちがタイムスリップしたのだろうか。
「ラルク、セレナールさんを追うよ!」
え、何故まだ抗う。ナミネが馬に乗るとラルクもナミネの馬に乗り、猛スピードで昔のセレナールさんを追いかけた。私やナルホさんも近くの馬に乗った。
ダメだ、全く追いつけない。せっかく、外に出れたのに……。
「カナエ、セレナールと一緒に飛んでキクリ家まで行け!」
「分かりましたのです!」
カナエさんとセレナールさんは妖精の羽で飛び立った。
「ラルク、馬乗り捨てるよ!」
え、あのデカい折り鶴何!?
「ナミネ、待って!」
ナミネとラルクは馬を乗り捨て大きな折り鶴に乗ってキクリ家に向かった。仕方ない、私はこのまま馬でキクリ家に向かおう。乗馬、もう少し練習しておけば良かった。現代だからと、いざという時のこと何も考えてなかった。私は今更後悔した。
えっと、カンザシさんはナルホさんの馬に乗ってる。
キクリ家に着くと、ナミネとラルクが昔のセレナールさんに扇子を突き付けていた。間に合わなかったか。
「助けて!」
「ナミネ、ラルク、セレナールを解放してやってくれ」
「ナミネ、ラルク、歴史を変えてはいけないのです!」
「ナミネ、ラルク、セレナールは皇太子様と一緒になるのよ!」
いったいどうしたらいいのだ。それにしても、昔のキクリ家ってこんな感じだったのか。何だかとても古風だ。
えっ、昔のミナクお兄様と私……?
「ラルク、みんなに迷惑かけるのはやめろ」
って、この頃のミナクお兄様めっちゃまともじゃん。いつから、あんなふうになったのだろう。
というか、昔の私、今の私と同じくらいの年齢なのか?
「ラルク、何してる。大事にするな」
ナミネが昔の私に駆け寄ろうとした時、昔のセレナールさんがナミネを突き飛ばし、昔の私を抱き締めた。
「ヨルク……会いたかった……好き」
「悪いが私には心に決めた女子がいる」
昔の私は、昔のセレナールさんを振りほどいた。
「ヨルク、私を愛して!」
「セレナール!ヨルクはナミネとの縁談が決まりかけています」
そうなのか?だったら、どうして、私とナミネは一緒になれなかったのだろう。
「ヨルクさん!私はヨルクさんが好きです!だから、この時代の私を捨てないでください!」
「ナミネ、ここで何してる」
「てか、あんた、性格違いすぎるだろ!」
「そんなこと言われても私も流石に覚えてない!」
ナミネは昔の私を抱き締めた。何故、昔の私を抱き締める。
あれ、昔の私は妖精ではなかったのか?基準は何なのだろう。
「ヨルクさん、ラルクはこの時代のセレナールさんのことが好きなんです。どうか、ラルクの幸せを叶えてあげてください」
「そんなものは認められぬ。今すぐ元の時代に帰れ!」
え、昔の私が剣を抜いた?
「ナミネ、危ないからこっち来て!」
私の声も届かずナミネは扇子を構えた。昔の私の剣とナミネの扇子がバチバチ音を鳴らせた。
「あんた、何で弱くなった」
「だから、こんな昔のこと何も知らないって!」
昔の私が花の舞を使うと同時にナミネも花の舞を使った。2つの花吹雪が視界を狭めた。花吹雪が止む頃、昔の私の剣はナミネの扇子に弾かれたのか、ナミネは昔の私に扇子を突き付けた。
「昔のヨルクさんは最上級武官レベルですな」
「ナミネ……女がこのような戦いなどはしたない」
その時、昔のナミネが来た。ピンクのかすみ草の着物着た昔のナミネ可愛すぎる。私は思わず写真を撮った。
「ヨルクさん、縁談のことですが……」
「縁談は白紙にする」
「待ってください!もう少し時間をください!」
「悪いが好きな女子が出来た」
「誰なんだよ、言ってみろよ」
もう何が何だか分からなくなってきた。この時の私もナミネのことが好きだったはず。好きな人なんて嘘だろう。
「花屋で働いているサユリさんのことが好きだ。ナミネとは結婚出来ない」
えっ、どうなってるの?てか、この頃からサユリさんいたの?
現代のナミネが涙を流している。私は思わずナミネを抱き締めた。
「ナミネ、この時代は仕方ないんだよ。今の私たちで愛を育んでいこうね」
「おい、あんた、バレバレな嘘ついてんなよ」
落ち武者さんは昔の私にフェアリーングをかけた。
「昔の顔だけヨルク、あんた、昔の強気なナミネのこと好きなんだろ!」
「好きだ。私は小さい頃からずっとナミネを見てきた。だが、ナミネはラルクのことが好きだし、そんな気持ちで縁談がまとまっても個人的には気持ちの整理もつかないから、サユリさんとの縁談をまとめようと思う」
はあ、やっぱり、この時代の私もナミネ一筋だったか。
「ヨルクさん、本当にごめんなさい」
「昔の私さん、私は元々ヨルクさんが好きだったんです。でも、ヨルクさんの突然死を思い出すたび、私は若くで衰弱死して、最後の天使村の番人に二度とヨルクさんを好きにならないようお願いしてしまったんです」
ナミネは天使村の私との結婚式の写真を昔のナミネに見せた。
「うーん、ごめんなさい。天使村なんて知りませんし、私……」
「では、ご勝手にしてください」
その時、ナミネのナプキンが限界になったのか、床に血が流れた。昔の私は現代のナミネに布ナプキンを渡した。
「使え」
「あ、すみません」
ナミネがみんなの前でパンツを下ろそうとしたら、昔の私が現代のナミネをみんなから遠ざけた。
「ここで替えろ」
「はい」
ナミネは布ナプキンに替えて汚れたナプキンをビニール袋に入れた。
「昔のヨルクさんも料理をされていますか?」
「ああ、している」
「そうですか」
「ナミネ、お腹痛くない?」
私はナミネの手を握った。
「少し痛いです」
「ナミネ、これ飲んで」
私はナミネが持ってるポーチの中から痛み止めを取り出した。そして、小さいミネラルウォーターと共に渡した。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
ナミネは痛み止めを飲んだ。
「あの、そちらの時代では、本当に私とヨルクさんは好き合っているんですか?」
「うん、そうだよ。ナミネとはナノハナ家とクレナイ家を行き来してる。私はずっとナミネが好きだったんだよ。現世ではナミネも私のこと好きになってくれて幸せに暮らしてる。でも、ナミネは好きに生きて良いんだよ。無理に私との縁談をまとめることはないからね」
ナミネ、いつか気付いてくれればいいよ。今はラルクを好きでも、いつか私を好きになってくれたらそれでいい。
「何なのよ!ナミネがヨルクをいらないなら、私がもらうわ!」
「どうしてですか、セレナール先生……」
好きでもない女と結婚しようとしている昔の私と、好きな女と無理矢理一緒になろうとするラルク。恋というのは上手くいかない。
「皆さん、もうすぐキクスケさんが来ますよ。伝えたいことがあるなら、今ハッキリと伝えてください」
そっか、いつまでもはここにいられないのか。
「じゃ、一応集合写真撮っとく」
落ち武者さんはデジカメを適当な場所に置いてタイマー設定すると、みんなを並ばせ、写真を撮った。
そして、キクスケさんが来た。
「このようなことはルール違反です。未来から来た人は未来に戻ってもらいます」
「あの、キクスケさん、この時代のセレナールさんが私を好きだというのは本当でしょうか?」
私は真実を知るため、すかさず聞いた。
「本当です。セレナールさんが教師になり、ヨルクさんの担任になった時、セレナールさんはヨルクさんに一目惚れするものの、叶わず、それでも諦めきれずセレナールさんはラルクさんがヨルクさんの弟だと知るなりラルクさんと交際したんです。ヨルクさんの情報を知るためだけに。けれど、セレナールさんのヨルクさんへの想いは増すばかりで、ある日、セレナールさんは殺し屋に依頼しました。自分を殺すよう。あれは、ラルクさんを庇ったんじゃなく、自作自演の自殺でした」
そうだったのか。ラルクはまんまとセレナールさんに騙されていたわけか。その瞬間ラルクは昔のセレナールさんの羽を扇子で切り刻んだ。
「きゃーーーー!痛い!何するの!」
「よくも、よくも人の心弄んでくれましたね!二度とあなたを許しません」
「ラルク、もうやめよう。この時代のセレナールさんは最期までラルクを利用してたんだよ。ラルクにはもっといい人がいるよ」
ナミネはラルクを抱き締めた。
妖精村1番の美少女と言われたセレナールさんとはいったい何なのだろう。
「時間切れです」
その瞬間、私たちはキクスケさんによって、現代に戻された。
現代のキクリ家だ。そして、もう昔の私たちはいなくなっていた。
「ラルク、帰ろう」
「二度と許さない、許さない……復讐してやる……」
「あ、ズームさん、面倒かけたね。疲れただろうから、ナノハナ家で休んでいって」
「では、そうさせてもらいます」
ナルホさんはタクシーを呼び、みんなはタクシーでナノハナ家に向かった。
私たちはクタクタになりながら、ナノハナ家に着くなり第4居間に入った。
「みんなどうしてたのよ!3日も帰らないから心配してたのよ!」
3日も経っていたのか。全く気づかなかった。
って、知らない人いるし!誰?
「あの、はじめましてですよね?」
「はい、このたびは新しくニンジャ妖精に入ったミツメと申します」
もうマモルさんの代わりが決まったのか。やっぱり芸能人て、みんなイケメンなんだな。
「そうですか。私はナミネです!ナノハナ家へようこそ!」
「ナミネさん、とても可愛らしいですね」
思うことは皆同じか。
「頑張ってください。いつまでも、ニンジャ妖精さんを存続させてください!私、応援しています!」
「あの、こちらがリーダーですか?」
何故間違える。
「リーダーは僕だ!事務所が決めたとはいえ、一応力量を見たいから今ここで弾き語りしろ!」
「分かりました。指定の曲はありますか?」
「ニンジャ妖精、ファーストアルバム 2番目、ハートの夕陽だ」
「今から弾きます」
ミツバさんはハートの夕陽を弾き語りしはじめた。
「上手くいかないことが あっても
逃げ出さないで まだ早いから
一日一日 違う空
僕らは 眺めてる
夢を追うなら 掴んでよ
真っ白な キャンバス
埋めるのは 他でもない自分
全力で 未来作り上げて
一日の終わりを告げる ハートの夕陽
心休める時間 そして希望の明日
最初から 上手くいくこと
求めないで 何度もぶち当たれ
過去で決まる 現在(いま)
立ち上がれ ニンジャ妖精
人生は儚い だから絶望する
逃げても 追いかける見知らぬ影
一日一日 よく似ている
僕らは 疲れていた
一日の終わりを告げるハートの夕陽
心休める時間 そして希望の明日
最初から 上手くいくこと
求めないで 何度もぶち当たれ
過去で決まる 現在(いま)
立ち上がれ ニンジャ妖精」
ミツバさん、堂々としてるなあ。
「腕はいいな。シュリ、ロクメ!ミツバのようにギター練習しろ!」
マモルさんが、抜けてカンザシさんがリーダーか。カンザシさんの弾き語りはナミネも気に入ってるし、私もニンジャ妖精さん応援しないとな。
けれど、ふと思い出す。あの大きな折り鶴はいったい……。
「ねえ、ナミネ、あの大きな折り鶴は何?」
「覚えてません」
「そっか、今日はナミネの大好きな卵がゆだけど、ナミネはナノハナ食堂のご飯食べよっか」
「意地悪しないでください!紙飛行機もあれば折り鶴もあるでしょう!あの折り鶴は小さい時にラルクと私が開発したものです!」
そうだったのか。見たことなかったけど、家の中で作ってたのかな。大きな折り鶴か。まさか、あれで飛ぶとは思わなかった。
「カンザシ!どうして、自分だけ助かって、僕を切り捨てた!」
え、まだマモルさんいたの?
「じゃあ、ラルクも戻ったことだし、そのことについて話し合おうか」
「でも、ナルホお兄様、ラルクの様子がおかしいです」
「復讐してやる……復讐してやる……」
余程ショックだったのだろうか。けれど、セレナールさんほどの綺麗な人が簡単に落ちるとも思えない。でも、結論としては騙されたわけか。
「うん、ラルクはここから出さないようにするから、予定通り話し合うよ。まず、カンザシさんは夜中にセレナールの部屋に行って誘われたと思ったらヨルクと間違えられたことに気付いたんだね?そこまでなら許される範囲なんだけど、問題はセレナールに暴力ふるったことと、マモルさんにセレナールを引き渡したことなんだよね」
何だか、万が一私が寝言で他の人の名前言ってたら、私も引き渡されそうな気がしてきた。てか、ミツバさんは、いきなりこんな話聞いて大丈夫なのだろうか。
「ヨルクさんの代わりにされて馬鹿にされたと思いました。暴力のことは反省しています。けれど、マモルのことはマモルの意思ですよね。僕は強制はしていません」
「納得いかないわ!私はカンザシとマモルにイジワルされたわ!兄さんがマモルの両親から慰謝料取ったところよ!」
今回のことはセリルさんも内心はかなり苛立っているのだろうか。
「うん、でも、カンザシさんはイジワルとまではいかないよね。結論として、イジワルしたのはマモルさんだけで、そのマモルさんのご両親からは既に慰謝料をもらっている。裁判に持ち込んでもカンザシさんを有罪にするのは難しいと思う」
間違えた……か。もうホラーレベルだな。私が間違えたら間違いなく私はあの世行きだ。でも、それくらいナミネは私のことを……。私は思わずナミネを抱き締めた。
「私も間違えたという時点でセレナールさんの落ち度だと思います」
この間も、ラルクはずっと復讐してやるを繰り返している。流石に心配になってきた。
「私もセレナールはラルクがいるのにヨルクに抱かれようとしていたなんて、セレナールが浮気したと思うわ」
「私もユメさんと同じ」
女って怖いな。それでも、私もセレナールさんから狙われたくないし、セレナールさんにはラルクと元の関係に戻って欲しいが、そうもいかないか。
「でも、カンザシさんはどうして夜中にセレナールさんの部屋に入ったんですか?」
「それは……」
「答えろカンザシ!どうしてラルクがいるのに姉さん抱いた!」
落ち武者さんは、カンザシさんに扇子を突き付けた。
「ラルクさんの彼女だとは知りませんでした。セレナールさんの美しさに魔が差してしまいました。合意だと思っていたのにハメられて、今でも悔しいです」
難しいな。私ももし、ナミネに合意してもらったと思って後から泣かれたら立ち直れないだろうな。
「ナルホさん、マモルさんはどうなるの?」
「カナコさんが裁判に持ち込むらしいよ」
「嘘だろ!カンザシ、助けてくれ!」
「マモル、お前が勝手にしたことだろ!自分で何とかしろ!」
後ろに強力な助っ人のいる人は図に乗りやすい。自分の力でもないのに守られているからとやりたい放題だ。
けれど、話は明らかカンザシさんが有利な方向に進んでいた。
そして、この時の私はラルクのメンタルが極度に傷付いていることを知らないでいた。
……
あとがき。
まさか、タイムスリップしてしまうとは。
走り書きには全くないシーンだったので私もビックリしました。
けれど、歴史はそう簡単には変えられないものなんですね。
自分を愛し自分のために死んだと思っていたセレナールが、まさかラルクを騙していただなんて、残酷です。