日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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女性
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地主(土地貸してます)
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漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にてフリーイラスト素材について考えるブログはじめました✩.*˚
不定期に更新していく予定です。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
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お知らせ。
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ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
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→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

トイレ代理人 五話
<良介>
半年前、浜口を担当したのは斉藤望という社員だった。
ひと月前、浜口本人に会って直接聞いたのだ。
そして、その事を知ってから、僕は斉藤という人物について調べていた。
すると、トイレ代理人の仕事が失敗に終わった依頼は全て斉藤という人物が担当であった。けれど、しばし奇妙だった。斉藤は引き受けた依頼を全て失敗しているわけではない。成功している依頼と失敗している依頼が見事に真っ二つに分かれていたのだ。
山田の言うように本当にミスならいいのだが、やはり僕はただのミスで済ますには何かおかしいと思っていた。
それでも、今の段階では斉藤一人を疑うだけの証拠がなかった。
そんなある日、残業をして帰る途中、機械操作室である光景を目にしてしまった。
男性社員が機械操作担当員にコーヒーを渡し、それを飲んだ担当員は直ぐに居眠りをしてしまったのだ。
男性社員が機械操作室から出た後、僕は機械操作室に入り、眠っている担当員の代わりにボタンを押した。
男性社員が渡したコーヒーには恐らく睡眠薬が入っていたのだろう。そして、何故男性社員がそのような事をしたのかは分からない。
何か理由があったにしろ、失敗を促す行為はトイレ代理人としては失格だ。
皆、様々な悩みを抱えトイレ代理人にすがるしかない。そんな世の中なのだ。我々が代理する事によって幸せになれる人が一人でも増える事をこの会社は目的としている。
それを、故意に失敗に終わらそうとするなんて僕は許せなかった。
そして、それを実行した男性社員が斉藤望である事を僕は後に知った。
僕はタイムカードを置く場所で待ち伏せをしていた。
少しすると彼はやってきた。
「お疲れ様です」
僕が声をかけると向こうは誰?と言わんばかりの怪訝な表情をした。
「お疲れ様です…えっと」
返事はしたものの、戸惑っている様子だった。
「冴木です。冴木良介です」
僕は名乗った。けれど、向こうはきょとんとしていた。
「そう…ですか」
そう言って彼が帰ろうとするのを僕は逃さなかった。
「浜口さんを担当したのはあなたですね? 斉藤さん」
僕が言うと斉藤は一瞬焦ったように見えた。僕がそう見えただけかもしれない。
「そうですが、何か?」
何事もなかったかのように振る舞う斉藤に僕は苛立った。
「あの件、失敗に終わっているようですが、何故です?」
僕は攻撃態勢に入った。
「会社側のミスです。どうしてですか」
斉藤はシラを切った。
「どうしてですか? それはこっちのセリフですよ、斉藤さん。何故あなたは依頼者の期待に応えない。何故依頼者の将来を壊すんですか!」
僕は既に感情的になっていた。そうせざるを得なかった。この会社に入った目的を成し遂げるためにも。
「あの…聞いていると僕のみが悪いような口ぶりですが、何か証拠でもお持ちで?」
この斉藤という男、思ったよりしぶとかった。
「証拠もなしであなたに話しかけたとでも? これ見て下さい。機械操作室であなたが依頼を阻止した動画です」
僕はもう言い逃れはできないと切り札を出した。この切り札を出すのは早かったかもしれない。けれど、犠牲になった依頼者を思うとこの土俵から降りるわけにはいかなかった。
斉藤は無言だった。
「これで分かったでしょう。あなたの阻止が何故近頃失敗するようになったのか。僕は絶対あなたを許さない。あなたがどんな手を使おうとも僕は必ず依頼者全員を救ってみせる」
僕は真剣だった。
「…こせ」
「はい?」
「寄こせよ! そのスマホ!!」
斉藤は人が変わったように僕のスマホを奪い取ろうとした。けれど、僕は斉藤が飛びかかってきたのを咄嗟に避けた。
「やめろ! やめろ! やめろ! この卑怯者!」
そう言って斉藤は倒れた。
<良介>
半年前、浜口を担当したのは斉藤望という社員だった。
ひと月前、浜口本人に会って直接聞いたのだ。
そして、その事を知ってから、僕は斉藤という人物について調べていた。
すると、トイレ代理人の仕事が失敗に終わった依頼は全て斉藤という人物が担当であった。けれど、しばし奇妙だった。斉藤は引き受けた依頼を全て失敗しているわけではない。成功している依頼と失敗している依頼が見事に真っ二つに分かれていたのだ。
山田の言うように本当にミスならいいのだが、やはり僕はただのミスで済ますには何かおかしいと思っていた。
それでも、今の段階では斉藤一人を疑うだけの証拠がなかった。
そんなある日、残業をして帰る途中、機械操作室である光景を目にしてしまった。
男性社員が機械操作担当員にコーヒーを渡し、それを飲んだ担当員は直ぐに居眠りをしてしまったのだ。
男性社員が機械操作室から出た後、僕は機械操作室に入り、眠っている担当員の代わりにボタンを押した。
男性社員が渡したコーヒーには恐らく睡眠薬が入っていたのだろう。そして、何故男性社員がそのような事をしたのかは分からない。
何か理由があったにしろ、失敗を促す行為はトイレ代理人としては失格だ。
皆、様々な悩みを抱えトイレ代理人にすがるしかない。そんな世の中なのだ。我々が代理する事によって幸せになれる人が一人でも増える事をこの会社は目的としている。
それを、故意に失敗に終わらそうとするなんて僕は許せなかった。
そして、それを実行した男性社員が斉藤望である事を僕は後に知った。
僕はタイムカードを置く場所で待ち伏せをしていた。
少しすると彼はやってきた。
「お疲れ様です」
僕が声をかけると向こうは誰?と言わんばかりの怪訝な表情をした。
「お疲れ様です…えっと」
返事はしたものの、戸惑っている様子だった。
「冴木です。冴木良介です」
僕は名乗った。けれど、向こうはきょとんとしていた。
「そう…ですか」
そう言って彼が帰ろうとするのを僕は逃さなかった。
「浜口さんを担当したのはあなたですね? 斉藤さん」
僕が言うと斉藤は一瞬焦ったように見えた。僕がそう見えただけかもしれない。
「そうですが、何か?」
何事もなかったかのように振る舞う斉藤に僕は苛立った。
「あの件、失敗に終わっているようですが、何故です?」
僕は攻撃態勢に入った。
「会社側のミスです。どうしてですか」
斉藤はシラを切った。
「どうしてですか? それはこっちのセリフですよ、斉藤さん。何故あなたは依頼者の期待に応えない。何故依頼者の将来を壊すんですか!」
僕は既に感情的になっていた。そうせざるを得なかった。この会社に入った目的を成し遂げるためにも。
「あの…聞いていると僕のみが悪いような口ぶりですが、何か証拠でもお持ちで?」
この斉藤という男、思ったよりしぶとかった。
「証拠もなしであなたに話しかけたとでも? これ見て下さい。機械操作室であなたが依頼を阻止した動画です」
僕はもう言い逃れはできないと切り札を出した。この切り札を出すのは早かったかもしれない。けれど、犠牲になった依頼者を思うとこの土俵から降りるわけにはいかなかった。
斉藤は無言だった。
「これで分かったでしょう。あなたの阻止が何故近頃失敗するようになったのか。僕は絶対あなたを許さない。あなたがどんな手を使おうとも僕は必ず依頼者全員を救ってみせる」
僕は真剣だった。
「…こせ」
「はい?」
「寄こせよ! そのスマホ!!」
斉藤は人が変わったように僕のスマホを奪い取ろうとした。けれど、僕は斉藤が飛びかかってきたのを咄嗟に避けた。
「やめろ! やめろ! やめろ! この卑怯者!」
そう言って斉藤は倒れた。
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トイレ代理人 四話
〈望〉
「寒っ」
目が覚めるなり僕は小声で叫んだ。
カーテンを開けると雨がパラパラと降っていた。この時期は雨が降るか降らないかで気温は物凄く変わる。
「雨か」
呟くなり窓をぼーっと見つめていると、窓にかかる雫はいつもよりも少しだけゆっくり落ちていた。雨ではなく霙であることを知った僕はもしかすると雪になるかもしれないと思った。
寒いながらもパジャマの上にちゃんちゃんこを羽織り、僕は階段を下りた。ポストから新聞を取り出した僕は少し微笑みながら再び部屋へと戻った。
「嘘だろ!」
リビングのソファーに座り新聞を見るなり僕は隣の建物に聞こえるくらいの大声を出した。
「そんな、そんなはずはない」
僕は新聞を隅から隅へと目を通した。
「ありえない」
僕は慌ててテレビをつけ、ニュースへとチャンネルをまわした。
「ない。ないないないないないないないない!」
僕は一瞬にして頭が真っ白になった。
けれど、気を失いたくても失えないし、失うわけにはいかなかった。
僕は震える手でパジャマのボタンに手をかけた。
そして、白紙になりかけながらも抗う感情を一瞬だけ無にし、パジャマを脱ぎすぐ様スーツを着た。今日は有休を入れていたけれど、僕は出勤することにした。
会社に着くなり、タイムカードも押さず僕は自分の部署まで階段で走った。エレベーターを待つ余裕さえもなかった。
扉を開けると、朝礼はすでに終わっていて、みんなそれぞれの席でそれぞれの仕事をしていた。
ふと思った。
ニュースや世間のちっさな情報というのは一日で得られるものではない。誰かが告訴をしてはじめて事件になるニュースもある。きっと、病気を患わない普通の人間ならば慌てはしないことを僕は必死になって慌てていた。
そして、そんなみっともない自分を僕は自ら恥じていた。
「そういえば、昨日機械担当が居眠りしてたらしいな」
二つとなりの席の人が隣の人に話しかけた言葉を僕は瞬時に捉えた。そして、会話に耳を凝らせた。
「ああ、今日出勤するなり部長の怒鳴り声凄かったな」
隣の席の人が返事をした途端、その言葉を聞いた途端、僕はほっと胸を撫で下ろした。きっと今の僕の感情を知る者は誰もいないだろう。そして、この安堵の一割を共感できる人間は一人たりともいないに違いない。
「だけど、依頼は無事成功して良かったよな」
「えっ!!!」
僕は思わず大声を出してしまった。その瞬間に会話をしていた二人が揃って僕を見た。僕は驚きを咄嗟に隠すように机にあった書類を手に取った。
「この書類まだ提出していなかったのか」
言いながら僕は判子を押した。
それを見ただろう二人は僕から目を離し、僕はふぅと小さなため息をついた。
けれど、僕はすぐに二人の会話に対する混乱を抱いた一分前に戻された。
「ああ、機械担当が居眠りしたにも関わらず、依頼はミスなしで終わるなんて逆に前代未聞だけどな」
「そうだな。でも、会社に影響なくて本当良かったわ。じゃあ、俺ちょっと出るわ」
「ああ、気をつけてな」
会話が終わっても僕はだけは「良かった」とは思えずにひたすら混乱していた。
僕は混乱しながらも、椅子にさえ座っている事が出来ず、震えながらトイレへ向かった。
天井の光がぼんやりと目に入ってきた。
「またか」
まただった。僕は極度のパニック状態になり、過呼吸が起きるたび、絡まり合った感情を心の中で爆発させてしまうのだ。そして、気がついたら眠ってしまっている。一年ほど前からこのパターンが定着していた。
だけど、目が覚めるなり僕は追われる現実に逆戻った。
きっと今の僕は混乱している。いや、混乱状態が継続したままである。それでも僕は今抱える不安をどうにかしたくて冷静になれないながらもひたすら安心だけを求めた。
夜になった僕は機械室へと足を運んだ。そして、僕は機械担当者にコーヒーを渡し部屋を出た。
何日か同じ事をしてみたが、僕は安心するどころか不安になる一方だった。
もう何がなんだかわからなくなっていた。僕は一気に青ざめた。
〈望〉
「寒っ」
目が覚めるなり僕は小声で叫んだ。
カーテンを開けると雨がパラパラと降っていた。この時期は雨が降るか降らないかで気温は物凄く変わる。
「雨か」
呟くなり窓をぼーっと見つめていると、窓にかかる雫はいつもよりも少しだけゆっくり落ちていた。雨ではなく霙であることを知った僕はもしかすると雪になるかもしれないと思った。
寒いながらもパジャマの上にちゃんちゃんこを羽織り、僕は階段を下りた。ポストから新聞を取り出した僕は少し微笑みながら再び部屋へと戻った。
「嘘だろ!」
リビングのソファーに座り新聞を見るなり僕は隣の建物に聞こえるくらいの大声を出した。
「そんな、そんなはずはない」
僕は新聞を隅から隅へと目を通した。
「ありえない」
僕は慌ててテレビをつけ、ニュースへとチャンネルをまわした。
「ない。ないないないないないないないない!」
僕は一瞬にして頭が真っ白になった。
けれど、気を失いたくても失えないし、失うわけにはいかなかった。
僕は震える手でパジャマのボタンに手をかけた。
そして、白紙になりかけながらも抗う感情を一瞬だけ無にし、パジャマを脱ぎすぐ様スーツを着た。今日は有休を入れていたけれど、僕は出勤することにした。
会社に着くなり、タイムカードも押さず僕は自分の部署まで階段で走った。エレベーターを待つ余裕さえもなかった。
扉を開けると、朝礼はすでに終わっていて、みんなそれぞれの席でそれぞれの仕事をしていた。
ふと思った。
ニュースや世間のちっさな情報というのは一日で得られるものではない。誰かが告訴をしてはじめて事件になるニュースもある。きっと、病気を患わない普通の人間ならば慌てはしないことを僕は必死になって慌てていた。
そして、そんなみっともない自分を僕は自ら恥じていた。
「そういえば、昨日機械担当が居眠りしてたらしいな」
二つとなりの席の人が隣の人に話しかけた言葉を僕は瞬時に捉えた。そして、会話に耳を凝らせた。
「ああ、今日出勤するなり部長の怒鳴り声凄かったな」
隣の席の人が返事をした途端、その言葉を聞いた途端、僕はほっと胸を撫で下ろした。きっと今の僕の感情を知る者は誰もいないだろう。そして、この安堵の一割を共感できる人間は一人たりともいないに違いない。
「だけど、依頼は無事成功して良かったよな」
「えっ!!!」
僕は思わず大声を出してしまった。その瞬間に会話をしていた二人が揃って僕を見た。僕は驚きを咄嗟に隠すように机にあった書類を手に取った。
「この書類まだ提出していなかったのか」
言いながら僕は判子を押した。
それを見ただろう二人は僕から目を離し、僕はふぅと小さなため息をついた。
けれど、僕はすぐに二人の会話に対する混乱を抱いた一分前に戻された。
「ああ、機械担当が居眠りしたにも関わらず、依頼はミスなしで終わるなんて逆に前代未聞だけどな」
「そうだな。でも、会社に影響なくて本当良かったわ。じゃあ、俺ちょっと出るわ」
「ああ、気をつけてな」
会話が終わっても僕はだけは「良かった」とは思えずにひたすら混乱していた。
僕は混乱しながらも、椅子にさえ座っている事が出来ず、震えながらトイレへ向かった。
天井の光がぼんやりと目に入ってきた。
「またか」
まただった。僕は極度のパニック状態になり、過呼吸が起きるたび、絡まり合った感情を心の中で爆発させてしまうのだ。そして、気がついたら眠ってしまっている。一年ほど前からこのパターンが定着していた。
だけど、目が覚めるなり僕は追われる現実に逆戻った。
きっと今の僕は混乱している。いや、混乱状態が継続したままである。それでも僕は今抱える不安をどうにかしたくて冷静になれないながらもひたすら安心だけを求めた。
夜になった僕は機械室へと足を運んだ。そして、僕は機械担当者にコーヒーを渡し部屋を出た。
何日か同じ事をしてみたが、僕は安心するどころか不安になる一方だった。
もう何がなんだかわからなくなっていた。僕は一気に青ざめた。
トイレ代理人 三話
〈望〉
綺麗に色を染めていた木々たちはすっかり枯葉になっていて、昨日は霙も降っていた。
うつ病である僕は、春を過ぎたあたりから体調を崩し、会社を休む事が増えていた。憂鬱な気持ちで寝込んでいる程に時間は砂時計のように流れていき、夏のひまわり畑も、秋の紅葉もじっくり見れないまま、街はすっかりクリスマスモードへと移り変わっていた。
ずっとうつ状態から抜け出せないままだった僕にとって、日常という空気を思いっきり吸うことが出来たのは本当に久しぶりのことかもしれない。
僕は足の赴くままに会社の中にある図書館へと向かった。
扉を開けると山田がいた。
「あれ、斎藤さんじゃないですか。具合は良くなったんですか? みんな心配してたんすよ」
山田は僕の後輩で、新人の頃から真面目に仕事をしている。
「ああ、だいぶ落ち着いてきたよ。それより、こんな場所で何してるんだ?」
「ちょっと調べてたんです」
「と言うと?」
「トイレ代理人っていつ頃からいるのかふと気になったんで、それらしき書物をあさってました」
言いながらも山田は棚にある本を手にとりページをめくっていた。
「そっか。珍しいな」
「何がです?」
「君はそういうことには無関心な人間かと思ってた」
「えー、それは酷いっすよ。僕だって学習心はちゃんとあるんですよ。
それより聞いてくださいよー。トイレ代理人て江戸時代からいるらしいんすよ。当時は受けた依頼を霊能者が担当してたらしいんです」
「霊能者? 今とは随分異なっているな」
そう、異なりすぎている。今は、小型の機械を依頼人に取り付け、依頼人の危険時にトイレ代理人がボタンを押している。こちらにも機械があり、依頼人の危険時には赤いランプが点滅する。それを確認して、あるボタンを押す。あるボタンには尿意をなくす波動が送られるようになっていて、押すと依頼人に取り付けた機械に反応するシステムになっている。
尿意をなくす波動。それはどこの誰が開発したのかは未だに誰一人知る人間はいない。
「そうっすね。今の時代は何でもかんでも機械ですもんね。
ちなみに、トイレ代理人は江戸時代からいるらしいっすけど、本当は卑弥呼の時代からいたっていう説もあるんですよ。まあ霊能者なら大昔からいましたしね」
「霊能者、か。それはそれで奇妙だが、そんな昔の人はいったいどんな依頼をしてたのか気になるな」
「依頼は様々あったらしいけど、その大半が戦らしいっすよ」
「戦?」
「戦はいつ終わるかわからないだけに、トイレの近い人は不安抱いてたみたいっすね」
「なるほど。だけど、戦国時代とかまで遡ると戦も生々しいイメージからは遠ざかるな」
「斎藤さん、それ言っちゃお終いっすよ。国民が忘れまいとする第二次世界大戦も三百年後とかには皆の心の中から綺麗さっぱり忘れ去られていたらまた過ちを繰り返すかもしれないですよ」
僕は思わず笑ってしまった。
山田にしては案外考えるとこ考えてるんだなとちょっと意外だった。
「それもそうだな」
知りたいことの半分以上は知ることができたのか、山田は手にしていた本を棚に戻した。
「そういえば、冴木さん、半年以上前のミスを未だに事件とか騒いでまるで警察のように色んな人に聞き取りしてるらしいっすよ」
「半年以上前のミス?」ミス。その言葉に僕は思わず反応してしまった。「依頼人は誰だったか覚えているか?」
「えっと、確か浜田。いや、んー。あ、浜口! 浜口って男だったと思います」
浜口。それは紛れもなく僕が担当した依頼だった。確かに依頼は失敗に終わったかもしれない。だけどあれは機械担当の人のミスで、こちらも謝罪して事は終えたはず。それなのに、季節が変わってまで真相を追い求める人物がいる事に僕は心底驚いた。
「僕の担当した依頼だ。だけど、今になってその人はどうして真相を追い求めているんです?」
「冴木さんは絶対にミスではないと言い張ってるんです」
「ミスではない?」
「はい。それも人為的によるものとかなんとかわけのわからないこと並べてるんですよ」
僕は一瞬顔をしかめた。
「担当したのが僕である以上、僕の責任なのかもな」
声のトーンを落としたつもりはなかったが、自然と人と話す声より低くなっていた。
「そんな、斎藤さんのせいじゃないですよ。斎藤はいつも仕事熱心じゃないですか。それに比べ冴木さんは」
言いかけた最中に山田の携帯が鳴った。
「はい、トイレ代理人、山田です」山田は携帯に出るなり腕時計を見た。「はい、わかりました。今すぐ伺います」
「仕事が入ったので俺行きますね。斎藤さんあまり重い悩まないでくださいね」
言うと山田は図書館を出た。
せっかく気分よく出社したものの、僕はまたうつ状態になってしまった。
さえき。そんな人物に僕は会った事がない。そもそも本当にこの会社にいるのだろうか。
僕は身体の震えを無視したまま、図書館を出て会社の入口へと向かった。
この会社の社員は多くもなく少なくもなかった。僕はタイムカードを片っ端から探った。
さえき…さえき…
僕は頭の中で名前を言いながら一枚のタイムカードを手に取った。
さえきと言う人物は一人しかいなかった。冴木良介。恐らくこの人物だ。
身体の震えが悪化し、過呼吸になった僕はトイレにこもったきり動けずにいた。僕の頭の中は真っ白になっていた。いや、真っ白にさせなければいけなかった。過呼吸が起きた時、考え事をすると身体が痛くなったりと状態は悪くなる。そうならないためにも、一度過呼吸が起きたらゼーゼー呼吸しながらも僕は何も考えないように心がけていた。
だけど、今日は僕にとって重要な日だった。
腕に目をやると、19時を過ぎていた。過呼吸を治す時間は限られていた。
僕はゆっくり目を閉じ、深く鼻で呼吸をした。
「戦うしかない」
僕は覚悟を決め、トイレから出た。
給湯室に向かった僕は、コーヒーを入れた。精神状態が乱れた僕の手は震えていた。僕は呼吸が上手く吸えないながらも、ポケットから瓶を取り出し蓋を開けた。真っ白な錠剤は瓶の中にまだ半分は残っていた。僕は錠剤を一つ取り出し、コーヒーに入れスプーンでかき混ぜた。
機械室へ行くと機械担当の人がランプに注意を払いながら機会の前で座っていた。
「お疲れ様です。いつも残業大変ですね。これ良かったら眠気覚ましにどうぞ」
僕は機械担当の人に先程入れたコーヒーを渡した。
「お疲れ様です。どうもありがとうございます」
受け取るなりその人はコーヒーを二口飲んだ。
それを確認した僕は
「頑張ってくださいね」
と言い残し機械室を出た。
〈望〉
綺麗に色を染めていた木々たちはすっかり枯葉になっていて、昨日は霙も降っていた。
うつ病である僕は、春を過ぎたあたりから体調を崩し、会社を休む事が増えていた。憂鬱な気持ちで寝込んでいる程に時間は砂時計のように流れていき、夏のひまわり畑も、秋の紅葉もじっくり見れないまま、街はすっかりクリスマスモードへと移り変わっていた。
ずっとうつ状態から抜け出せないままだった僕にとって、日常という空気を思いっきり吸うことが出来たのは本当に久しぶりのことかもしれない。
僕は足の赴くままに会社の中にある図書館へと向かった。
扉を開けると山田がいた。
「あれ、斎藤さんじゃないですか。具合は良くなったんですか? みんな心配してたんすよ」
山田は僕の後輩で、新人の頃から真面目に仕事をしている。
「ああ、だいぶ落ち着いてきたよ。それより、こんな場所で何してるんだ?」
「ちょっと調べてたんです」
「と言うと?」
「トイレ代理人っていつ頃からいるのかふと気になったんで、それらしき書物をあさってました」
言いながらも山田は棚にある本を手にとりページをめくっていた。
「そっか。珍しいな」
「何がです?」
「君はそういうことには無関心な人間かと思ってた」
「えー、それは酷いっすよ。僕だって学習心はちゃんとあるんですよ。
それより聞いてくださいよー。トイレ代理人て江戸時代からいるらしいんすよ。当時は受けた依頼を霊能者が担当してたらしいんです」
「霊能者? 今とは随分異なっているな」
そう、異なりすぎている。今は、小型の機械を依頼人に取り付け、依頼人の危険時にトイレ代理人がボタンを押している。こちらにも機械があり、依頼人の危険時には赤いランプが点滅する。それを確認して、あるボタンを押す。あるボタンには尿意をなくす波動が送られるようになっていて、押すと依頼人に取り付けた機械に反応するシステムになっている。
尿意をなくす波動。それはどこの誰が開発したのかは未だに誰一人知る人間はいない。
「そうっすね。今の時代は何でもかんでも機械ですもんね。
ちなみに、トイレ代理人は江戸時代からいるらしいっすけど、本当は卑弥呼の時代からいたっていう説もあるんですよ。まあ霊能者なら大昔からいましたしね」
「霊能者、か。それはそれで奇妙だが、そんな昔の人はいったいどんな依頼をしてたのか気になるな」
「依頼は様々あったらしいけど、その大半が戦らしいっすよ」
「戦?」
「戦はいつ終わるかわからないだけに、トイレの近い人は不安抱いてたみたいっすね」
「なるほど。だけど、戦国時代とかまで遡ると戦も生々しいイメージからは遠ざかるな」
「斎藤さん、それ言っちゃお終いっすよ。国民が忘れまいとする第二次世界大戦も三百年後とかには皆の心の中から綺麗さっぱり忘れ去られていたらまた過ちを繰り返すかもしれないですよ」
僕は思わず笑ってしまった。
山田にしては案外考えるとこ考えてるんだなとちょっと意外だった。
「それもそうだな」
知りたいことの半分以上は知ることができたのか、山田は手にしていた本を棚に戻した。
「そういえば、冴木さん、半年以上前のミスを未だに事件とか騒いでまるで警察のように色んな人に聞き取りしてるらしいっすよ」
「半年以上前のミス?」ミス。その言葉に僕は思わず反応してしまった。「依頼人は誰だったか覚えているか?」
「えっと、確か浜田。いや、んー。あ、浜口! 浜口って男だったと思います」
浜口。それは紛れもなく僕が担当した依頼だった。確かに依頼は失敗に終わったかもしれない。だけどあれは機械担当の人のミスで、こちらも謝罪して事は終えたはず。それなのに、季節が変わってまで真相を追い求める人物がいる事に僕は心底驚いた。
「僕の担当した依頼だ。だけど、今になってその人はどうして真相を追い求めているんです?」
「冴木さんは絶対にミスではないと言い張ってるんです」
「ミスではない?」
「はい。それも人為的によるものとかなんとかわけのわからないこと並べてるんですよ」
僕は一瞬顔をしかめた。
「担当したのが僕である以上、僕の責任なのかもな」
声のトーンを落としたつもりはなかったが、自然と人と話す声より低くなっていた。
「そんな、斎藤さんのせいじゃないですよ。斎藤はいつも仕事熱心じゃないですか。それに比べ冴木さんは」
言いかけた最中に山田の携帯が鳴った。
「はい、トイレ代理人、山田です」山田は携帯に出るなり腕時計を見た。「はい、わかりました。今すぐ伺います」
「仕事が入ったので俺行きますね。斎藤さんあまり重い悩まないでくださいね」
言うと山田は図書館を出た。
せっかく気分よく出社したものの、僕はまたうつ状態になってしまった。
さえき。そんな人物に僕は会った事がない。そもそも本当にこの会社にいるのだろうか。
僕は身体の震えを無視したまま、図書館を出て会社の入口へと向かった。
この会社の社員は多くもなく少なくもなかった。僕はタイムカードを片っ端から探った。
さえき…さえき…
僕は頭の中で名前を言いながら一枚のタイムカードを手に取った。
さえきと言う人物は一人しかいなかった。冴木良介。恐らくこの人物だ。
身体の震えが悪化し、過呼吸になった僕はトイレにこもったきり動けずにいた。僕の頭の中は真っ白になっていた。いや、真っ白にさせなければいけなかった。過呼吸が起きた時、考え事をすると身体が痛くなったりと状態は悪くなる。そうならないためにも、一度過呼吸が起きたらゼーゼー呼吸しながらも僕は何も考えないように心がけていた。
だけど、今日は僕にとって重要な日だった。
腕に目をやると、19時を過ぎていた。過呼吸を治す時間は限られていた。
僕はゆっくり目を閉じ、深く鼻で呼吸をした。
「戦うしかない」
僕は覚悟を決め、トイレから出た。
給湯室に向かった僕は、コーヒーを入れた。精神状態が乱れた僕の手は震えていた。僕は呼吸が上手く吸えないながらも、ポケットから瓶を取り出し蓋を開けた。真っ白な錠剤は瓶の中にまだ半分は残っていた。僕は錠剤を一つ取り出し、コーヒーに入れスプーンでかき混ぜた。
機械室へ行くと機械担当の人がランプに注意を払いながら機会の前で座っていた。
「お疲れ様です。いつも残業大変ですね。これ良かったら眠気覚ましにどうぞ」
僕は機械担当の人に先程入れたコーヒーを渡した。
「お疲れ様です。どうもありがとうございます」
受け取るなりその人はコーヒーを二口飲んだ。
それを確認した僕は
「頑張ってくださいね」
と言い残し機械室を出た。
トイレ代理人 あらすじ 3
密やかに情報収集していた冴木の行動が社内で噂されるようになる。
そんな冴木に苛立ちを更に増す山田。
そして、冴木の存在を斎藤も知ることになるが、自分の仕事に集中したい斎藤は情報収集だけに出社する冴木を避けなるべく顔を合わさないようにする。
誰もが一生懸命。されどその一生懸命はすれ違っている。
そして、新たに生まれる葛藤の数々。
次回、トイレ代理人3話!
お楽しみに!
密やかに情報収集していた冴木の行動が社内で噂されるようになる。
そんな冴木に苛立ちを更に増す山田。
そして、冴木の存在を斎藤も知ることになるが、自分の仕事に集中したい斎藤は情報収集だけに出社する冴木を避けなるべく顔を合わさないようにする。
誰もが一生懸命。されどその一生懸命はすれ違っている。
そして、新たに生まれる葛藤の数々。
次回、トイレ代理人3話!
お楽しみに!
トイレ代理人 二話
〈良介〉
「お願いします。少しだけでいいんだす。少し だけでも話を聞かせてはいただけませんか?」
『アンタもしつこい人間だな! もう二度と電話してこないでくれ!』
「ちょっと待ってください! 少しだけでも…!」
僕が説得する間もなくその電話は一方的に切られてしまった。これで何度目になるだろう。未だ誰1人として僕と会ってくれる人は現れない。それでも僕は尻尾をまいて諦めるわけにはいかなかった。
僕がコーヒーを入れようと給湯室に向かったのを見計らったようなや後輩の山田が僕の前に立った。
「冴木さん、まだ事件とか言って騒いでるんですか?」
彼の言葉に少しムッときたが僕は無言で給湯室に入った。コーヒーカップを取るなり山田は給湯室の壁にもたれ掛かった。
「冴木さんってここに入社して一年経ちますよね。アルバイトだからって後輩の俺の方が休日も惜しまずせっせと働いてるってどういうことっすか」
僕は山田を無視してコーヒーを注いだ。それが気に入らないのか彼はチッと舌打ちをした。
「俺らも人間なんですよ。ミスの一つや二つ受け入れられないでいてどうするんですか?」
「ミス?」山田の言葉に僕は思わず反応してしまった。「本当にミスならいいんですけどね」
僕は一度山田の顔を見たあと苦笑し中身の入ったコーヒーカップを持ちながら自分の机へと戻った。
コーヒーを一口飲むなり僕は煮え切らない気持ちを誤魔化すかのようにボールペンをクルクル回した。
その時だった。僕の携帯が鳴った。知らない番号だったが僕はすぐに応答ボタンを右にスライドさせた。
「はい、冴木と申します」
僕は引き出しからメモを取り出した。
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます! はい、わかりました! 今すぐ伺います!」
僕は電話を切るなりカバンを持ち直様会社を出た。
喫茶店を入るなり待ち合わせの人物を探したがそれらしき人はいなかった。まだ来てないのだろうと窓際のテーブルの椅子にカバンを置こうとした時、一つ隣のテーブルに座っている人に目がいった。30歳前半だろうか。手入れの行き届いてない毛先の広がった茶色い髪は上から黒い髪が生えていてプリンのようになっていた。そして、少し伸びた髭は彼の印象を暗くさせていた。整えられた茶色い髪に綺麗に剃られた顎、持っている写真と見比べても同一人物とは思えず誰もいないテーブルに腰を降ろそうとしたその時耳に開けられたピアスの穴が目に入った。写真の人物はピアスをしていた。もしかしてこの人ではないかと彼の前に行き軽く会釈した。
「恐れ入りますが桐乃さんでいらっしゃいますでしょうか?」
僕を見るなり彼は頷いた。
「はじめまして。冴木良介と申します」僕は彼に名刺を渡した。「本日はお越しいただいてありがとうございます」
僕が座っても桐乃さんはただ無表情で焦点の合わないどこかを見つめていた。
「早速ですが、三年前何があったかお話していただけますでしょうか?」
桐乃さんは一瞬目蓋を閉じ再び目蓋を開いた。
「あの頃の俺は悪さばかりしていた。万引きにカツアゲ、浮気を繰り返しては色んな女を泣かせてきた。
あの日は急遽合コンへ行くことになったが前の晩から夜通し飲んでいた俺は朝から何度もトイレに行っていた。元々トイレが近かったこともあって余計にトイレの回数が多かった。あろう事かその日の合コンは地元の高原だったんだ。あんな山奥トイレに行きたくてもすぐに行けるわけがなく、追い打ちをかけるように当時付き合っていた彼女が合鍵で俺の部屋に入り俺がトイレに入ってる時に合コンのメールを見てしまったんだ。問い詰める彼女を振り払うかのように俺は万全の準備をしないままアパートを出た。俺は友人のアパートでシャワーを済ませ着替えをして、トイレ代理人に電話した。予約をしていなかったが依頼を受けてくれると言われ俺はその日の合コンを助けてほしいと頼んだ。これで気起きなく合コンを楽しめると待ち合わせ場所の公園へと向かった。メンバーが全員揃ったところで男女一組がペアになって高原までバイクで行くことななったんだ。15分ほど走らせた時に俺は尿意を催したが直に消えるだろうと気にすることなくそのままバイクを走らせた。けれど、しばらく経っても尿意は消えることなく俺は限界に近づいていた。それでもトイレ代理人が何とかしてくれるだろうと俺は心配することはなかった。けれど、少し呼吸を乱していた俺は赤信号に気づかず横から走ってくる車を避けようとしたその時後ろに乗せていた女とともにバイクごと横転してしまった。幸い2人とも無傷で済んだが俺は無傷ではなかった。俺のズボンを見るなり相手の女の表情が変わった。俺を蔑むような目をしていた。衝撃とともに現状を受け入れきれなかった俺はいたたまれなくなって倒れたバイクを起こし女を置き去りにしたまま俺はその場から逃げた」
桐乃さんは苦しそうな表情をして一口水を飲んだ。話しているうちに過去の出来事があたかも今起きたような気持ちになりそんな葛藤に苦しんでいることが僕には痛いくらいに伝わってきた。
「あれからしばらく経った頃、会社側のミスであったと謝罪の手紙とともに依頼の時に支払った全額が送られてきた。責める気にもなれなかった。あれ以来俺は外に出る事を拒み家にこもり続けた」
話し終えると桐乃さんはタバコを取り出した。ライターで火をつけるもののむせこんで、そのままタバコを灰皿へとこすりつけた。
「桐乃さんは本当に会社側のミスであったと思っているんですか?」
「さぁな。どっちにしろ俺の時間はあの日から止まったままだ」
「担当者は誰だったんです?」
僕が言うと桐乃さんは突然立ち上がった。
「なぁ、今日はもう疲れた。過去は全て話したんだしそろそろ帰っていいか?」
桐乃さんは話をする前よりもやつれていた。聞きたいことはもう少しあったが僕は彼の心情を察して喉まででかかった用意していた質問をごくりと飲み込んだ。
「ええ。今日は僕の勝手で貴重な話をしていただき本当にありがとうございました」
僕が一礼した後桐乃さんは立ち止まり振り返った。
「嘘じゃないよな?」
「はい?」
「本当に被害にあった依頼主の名前や素姓は明かさず会社を告訴し、被害者全員に多額の賠償金を支払ってくれるんだよな?」
桐乃さんの声は少しかすれていた。
「はい、僕は必ず真実を明らかにし被害者全員の未来をお助けします!」
会社に戻るなり缶コーヒーを右手に持った山田が突っ立っていた。僕を見るなり山田は手に持っていた缶コーヒーをゴミ箱に放り投げた。
「ナイスシュート」
小声で呟いた山田はそのまま僕に近づいて、一枚の名刺を僕に見せつけた。
「人の机を勝手にあさるなんて悪趣味にも程があるな」
僕は低い声で言った。
「冴木さん、いったいどういうつもりなんすかね? この一年依頼主に会ったこと一度だってあるんすか? いつもいつも依頼主ではない人間の話を聞きに行って仕事をしないにも限度があります。あげくに前の会社の名刺を今も大事にしてるなんてこの仕事バカにするのもいい加減にしてください! 俺ら遊びでやってんじゃないんすよ! 冴木さん、アンタこの仕事向いてないんじゃないんですか? いっそのこと前の会社に戻ったらどうなんです?」
山田が怒るのも無理はなかった。同じ立場なら僕も怒ってたに違いない。今の僕に弁解する権利はないと僕は十分に理解していた。
「そうかもな」
僕は彼を残し食堂へ向かった。
「はい、唐揚げ定食お待ち! 560円になります」
会計を済ませた僕は人が殆どいない隅っこの机へとご飯を運んだ。
椅子に腰をかけるなり御膳に箸をつけることなく、ため息をついた。
あれは二年前の事だった。
当時僕は雑誌の出版社に勤務していて恋愛コラムを担当していた。恋愛は100人いれば100通りの形や流れがあるのは当然の事で、そんな空模様のようなどこかあやふやで掴めないのに確かにそこにある、そんな淡い時間を僕なりに記事にして世の中の人に伝えることに当時の僕は全力を注いでいた。
始めて彼女の部屋に行った時に見たファッション雑誌の恋愛コラムが僕を記者の業界へ進ませた大きなきっかけとなったのだ。人を好きになるということは少なくとも相手に与えたい気持ちに対し細やかな喜びを感じているものだと僕は思う。それぞれの形はあったにしろ、僕は恋愛をする全ての人に幸せになってほしかった。そんな思いから高校三年生の時に出版社に送った記事があろう事か評価され高校を卒業して直ぐに出版社に入ったのだ。最初の二年は見習いとして先輩の取材に同行していた。だから、プロとしての活動を許可されたのは成人してからだった。
僕は取材を受けてくれたカップルには取材後必ず花束に手紙を添えてその人たちに届けていた。それが反響を呼んでか雑誌の名前が変わった後も僕が担当する恋愛コラムはずっと昔のまま残っていた。
仕事に対する情熱、取材を受けてくれた人たちへの思いやり、どこまでも読者を裏切らない頑張りが上司に対する信頼へと繋がった。課長は将来は誰よりも早く出世するだとうとまで僕を高く評価してくれていたのだ。
だから、出版社を辞める時は本当に辛かったしできることならずっと恋愛コラムを書いていたかった。
今までの僕の情熱を見事に覆したのは「トイレ代理人」だった。
僕が記者として花を咲かせていた頃、一人の男性がノイローゼになってしまった。その男性は僕が過去に取材した人物だったのだ。その男性こと佐久間俊は、彼女とのデートを前にして膀胱炎になってしまい、トイレ代理人に相談したそうだ。膀胱炎といっても一週間もすれば治るわけで高いお金を払ってまでトイレ代理人に依頼するほどのことでもないかもしれないが、佐久間氏にとって付き合って一年目のデートはとても重要だったのだろう。いくら抗生物質を処方してもらっているとはいえ、意識的に水分を多くとることは大切なため佐久間氏はトイレ代理人に依頼せざるをえなかったのだと思う。けれど、デート当時トイレ代理人が佐久間氏を救うことはなかった。佐久間氏の彼女、杉崎笹は引きこもるようになった佐久間氏を心配し何度か見舞いに行ったそうだが、その後新しく知り合った男性と恋に落ちたそうだ。
恋愛コラムに置ける幸せを世の中の人々に伝える僕のメンツが丸つぶれになったなんて気持ちは一切なく、僕はただ一人でも多くの人に幸せになってほしかった。だから、佐久間氏の真相を知るべくしてあの日裏取材の名目をつけトイレ代理人へと乗り込んだ。
佐久間氏の件に対しては「担当者の居眠りによる事故」であったと誰もが口を揃えて主張した。実際担当者は不覚にも居眠りをしてしまったと認めているし、そこに間違いはないのだろう。それでも僕は佐久間氏の無念を「ミス」なんかでは片付けたくはなかった。
半年後僕はスパイでトイレ代理人にアルバイトとして入社をした。最初は本当にスパイとして真相を探るつもりだった。けれど、深く調べるにあたって不自然な点がいくつかでてきたのだ。
事件は五年前から始まり、事故の全ては担当者による居眠り。いくら会社側がミスと主張し続けても僕は納得がいかなく、いつしか被害者全員を救ってあげたい、そんな気持ちが芽生えたのだった。
そして、一年前トイレ代理人に正式に身を置くことを僕は決意した。
絶対ミスなんかでは片付けさせないし、ミスでない証拠を見つけた暁には被害者全員の賠償と未来をかけて会社側を告訴するつもりでいる。
必ず真相を突き詰め被害者全員を救ってみせる。僕は今改めて自分に誓った。
〈良介〉
「お願いします。少しだけでいいんだす。少し だけでも話を聞かせてはいただけませんか?」
『アンタもしつこい人間だな! もう二度と電話してこないでくれ!』
「ちょっと待ってください! 少しだけでも…!」
僕が説得する間もなくその電話は一方的に切られてしまった。これで何度目になるだろう。未だ誰1人として僕と会ってくれる人は現れない。それでも僕は尻尾をまいて諦めるわけにはいかなかった。
僕がコーヒーを入れようと給湯室に向かったのを見計らったようなや後輩の山田が僕の前に立った。
「冴木さん、まだ事件とか言って騒いでるんですか?」
彼の言葉に少しムッときたが僕は無言で給湯室に入った。コーヒーカップを取るなり山田は給湯室の壁にもたれ掛かった。
「冴木さんってここに入社して一年経ちますよね。アルバイトだからって後輩の俺の方が休日も惜しまずせっせと働いてるってどういうことっすか」
僕は山田を無視してコーヒーを注いだ。それが気に入らないのか彼はチッと舌打ちをした。
「俺らも人間なんですよ。ミスの一つや二つ受け入れられないでいてどうするんですか?」
「ミス?」山田の言葉に僕は思わず反応してしまった。「本当にミスならいいんですけどね」
僕は一度山田の顔を見たあと苦笑し中身の入ったコーヒーカップを持ちながら自分の机へと戻った。
コーヒーを一口飲むなり僕は煮え切らない気持ちを誤魔化すかのようにボールペンをクルクル回した。
その時だった。僕の携帯が鳴った。知らない番号だったが僕はすぐに応答ボタンを右にスライドさせた。
「はい、冴木と申します」
僕は引き出しからメモを取り出した。
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます! はい、わかりました! 今すぐ伺います!」
僕は電話を切るなりカバンを持ち直様会社を出た。
喫茶店を入るなり待ち合わせの人物を探したがそれらしき人はいなかった。まだ来てないのだろうと窓際のテーブルの椅子にカバンを置こうとした時、一つ隣のテーブルに座っている人に目がいった。30歳前半だろうか。手入れの行き届いてない毛先の広がった茶色い髪は上から黒い髪が生えていてプリンのようになっていた。そして、少し伸びた髭は彼の印象を暗くさせていた。整えられた茶色い髪に綺麗に剃られた顎、持っている写真と見比べても同一人物とは思えず誰もいないテーブルに腰を降ろそうとしたその時耳に開けられたピアスの穴が目に入った。写真の人物はピアスをしていた。もしかしてこの人ではないかと彼の前に行き軽く会釈した。
「恐れ入りますが桐乃さんでいらっしゃいますでしょうか?」
僕を見るなり彼は頷いた。
「はじめまして。冴木良介と申します」僕は彼に名刺を渡した。「本日はお越しいただいてありがとうございます」
僕が座っても桐乃さんはただ無表情で焦点の合わないどこかを見つめていた。
「早速ですが、三年前何があったかお話していただけますでしょうか?」
桐乃さんは一瞬目蓋を閉じ再び目蓋を開いた。
「あの頃の俺は悪さばかりしていた。万引きにカツアゲ、浮気を繰り返しては色んな女を泣かせてきた。
あの日は急遽合コンへ行くことになったが前の晩から夜通し飲んでいた俺は朝から何度もトイレに行っていた。元々トイレが近かったこともあって余計にトイレの回数が多かった。あろう事かその日の合コンは地元の高原だったんだ。あんな山奥トイレに行きたくてもすぐに行けるわけがなく、追い打ちをかけるように当時付き合っていた彼女が合鍵で俺の部屋に入り俺がトイレに入ってる時に合コンのメールを見てしまったんだ。問い詰める彼女を振り払うかのように俺は万全の準備をしないままアパートを出た。俺は友人のアパートでシャワーを済ませ着替えをして、トイレ代理人に電話した。予約をしていなかったが依頼を受けてくれると言われ俺はその日の合コンを助けてほしいと頼んだ。これで気起きなく合コンを楽しめると待ち合わせ場所の公園へと向かった。メンバーが全員揃ったところで男女一組がペアになって高原までバイクで行くことななったんだ。15分ほど走らせた時に俺は尿意を催したが直に消えるだろうと気にすることなくそのままバイクを走らせた。けれど、しばらく経っても尿意は消えることなく俺は限界に近づいていた。それでもトイレ代理人が何とかしてくれるだろうと俺は心配することはなかった。けれど、少し呼吸を乱していた俺は赤信号に気づかず横から走ってくる車を避けようとしたその時後ろに乗せていた女とともにバイクごと横転してしまった。幸い2人とも無傷で済んだが俺は無傷ではなかった。俺のズボンを見るなり相手の女の表情が変わった。俺を蔑むような目をしていた。衝撃とともに現状を受け入れきれなかった俺はいたたまれなくなって倒れたバイクを起こし女を置き去りにしたまま俺はその場から逃げた」
桐乃さんは苦しそうな表情をして一口水を飲んだ。話しているうちに過去の出来事があたかも今起きたような気持ちになりそんな葛藤に苦しんでいることが僕には痛いくらいに伝わってきた。
「あれからしばらく経った頃、会社側のミスであったと謝罪の手紙とともに依頼の時に支払った全額が送られてきた。責める気にもなれなかった。あれ以来俺は外に出る事を拒み家にこもり続けた」
話し終えると桐乃さんはタバコを取り出した。ライターで火をつけるもののむせこんで、そのままタバコを灰皿へとこすりつけた。
「桐乃さんは本当に会社側のミスであったと思っているんですか?」
「さぁな。どっちにしろ俺の時間はあの日から止まったままだ」
「担当者は誰だったんです?」
僕が言うと桐乃さんは突然立ち上がった。
「なぁ、今日はもう疲れた。過去は全て話したんだしそろそろ帰っていいか?」
桐乃さんは話をする前よりもやつれていた。聞きたいことはもう少しあったが僕は彼の心情を察して喉まででかかった用意していた質問をごくりと飲み込んだ。
「ええ。今日は僕の勝手で貴重な話をしていただき本当にありがとうございました」
僕が一礼した後桐乃さんは立ち止まり振り返った。
「嘘じゃないよな?」
「はい?」
「本当に被害にあった依頼主の名前や素姓は明かさず会社を告訴し、被害者全員に多額の賠償金を支払ってくれるんだよな?」
桐乃さんの声は少しかすれていた。
「はい、僕は必ず真実を明らかにし被害者全員の未来をお助けします!」
会社に戻るなり缶コーヒーを右手に持った山田が突っ立っていた。僕を見るなり山田は手に持っていた缶コーヒーをゴミ箱に放り投げた。
「ナイスシュート」
小声で呟いた山田はそのまま僕に近づいて、一枚の名刺を僕に見せつけた。
「人の机を勝手にあさるなんて悪趣味にも程があるな」
僕は低い声で言った。
「冴木さん、いったいどういうつもりなんすかね? この一年依頼主に会ったこと一度だってあるんすか? いつもいつも依頼主ではない人間の話を聞きに行って仕事をしないにも限度があります。あげくに前の会社の名刺を今も大事にしてるなんてこの仕事バカにするのもいい加減にしてください! 俺ら遊びでやってんじゃないんすよ! 冴木さん、アンタこの仕事向いてないんじゃないんですか? いっそのこと前の会社に戻ったらどうなんです?」
山田が怒るのも無理はなかった。同じ立場なら僕も怒ってたに違いない。今の僕に弁解する権利はないと僕は十分に理解していた。
「そうかもな」
僕は彼を残し食堂へ向かった。
「はい、唐揚げ定食お待ち! 560円になります」
会計を済ませた僕は人が殆どいない隅っこの机へとご飯を運んだ。
椅子に腰をかけるなり御膳に箸をつけることなく、ため息をついた。
あれは二年前の事だった。
当時僕は雑誌の出版社に勤務していて恋愛コラムを担当していた。恋愛は100人いれば100通りの形や流れがあるのは当然の事で、そんな空模様のようなどこかあやふやで掴めないのに確かにそこにある、そんな淡い時間を僕なりに記事にして世の中の人に伝えることに当時の僕は全力を注いでいた。
始めて彼女の部屋に行った時に見たファッション雑誌の恋愛コラムが僕を記者の業界へ進ませた大きなきっかけとなったのだ。人を好きになるということは少なくとも相手に与えたい気持ちに対し細やかな喜びを感じているものだと僕は思う。それぞれの形はあったにしろ、僕は恋愛をする全ての人に幸せになってほしかった。そんな思いから高校三年生の時に出版社に送った記事があろう事か評価され高校を卒業して直ぐに出版社に入ったのだ。最初の二年は見習いとして先輩の取材に同行していた。だから、プロとしての活動を許可されたのは成人してからだった。
僕は取材を受けてくれたカップルには取材後必ず花束に手紙を添えてその人たちに届けていた。それが反響を呼んでか雑誌の名前が変わった後も僕が担当する恋愛コラムはずっと昔のまま残っていた。
仕事に対する情熱、取材を受けてくれた人たちへの思いやり、どこまでも読者を裏切らない頑張りが上司に対する信頼へと繋がった。課長は将来は誰よりも早く出世するだとうとまで僕を高く評価してくれていたのだ。
だから、出版社を辞める時は本当に辛かったしできることならずっと恋愛コラムを書いていたかった。
今までの僕の情熱を見事に覆したのは「トイレ代理人」だった。
僕が記者として花を咲かせていた頃、一人の男性がノイローゼになってしまった。その男性は僕が過去に取材した人物だったのだ。その男性こと佐久間俊は、彼女とのデートを前にして膀胱炎になってしまい、トイレ代理人に相談したそうだ。膀胱炎といっても一週間もすれば治るわけで高いお金を払ってまでトイレ代理人に依頼するほどのことでもないかもしれないが、佐久間氏にとって付き合って一年目のデートはとても重要だったのだろう。いくら抗生物質を処方してもらっているとはいえ、意識的に水分を多くとることは大切なため佐久間氏はトイレ代理人に依頼せざるをえなかったのだと思う。けれど、デート当時トイレ代理人が佐久間氏を救うことはなかった。佐久間氏の彼女、杉崎笹は引きこもるようになった佐久間氏を心配し何度か見舞いに行ったそうだが、その後新しく知り合った男性と恋に落ちたそうだ。
恋愛コラムに置ける幸せを世の中の人々に伝える僕のメンツが丸つぶれになったなんて気持ちは一切なく、僕はただ一人でも多くの人に幸せになってほしかった。だから、佐久間氏の真相を知るべくしてあの日裏取材の名目をつけトイレ代理人へと乗り込んだ。
佐久間氏の件に対しては「担当者の居眠りによる事故」であったと誰もが口を揃えて主張した。実際担当者は不覚にも居眠りをしてしまったと認めているし、そこに間違いはないのだろう。それでも僕は佐久間氏の無念を「ミス」なんかでは片付けたくはなかった。
半年後僕はスパイでトイレ代理人にアルバイトとして入社をした。最初は本当にスパイとして真相を探るつもりだった。けれど、深く調べるにあたって不自然な点がいくつかでてきたのだ。
事件は五年前から始まり、事故の全ては担当者による居眠り。いくら会社側がミスと主張し続けても僕は納得がいかなく、いつしか被害者全員を救ってあげたい、そんな気持ちが芽生えたのだった。
そして、一年前トイレ代理人に正式に身を置くことを僕は決意した。
絶対ミスなんかでは片付けさせないし、ミスでない証拠を見つけた暁には被害者全員の賠償と未来をかけて会社側を告訴するつもりでいる。
必ず真相を突き詰め被害者全員を救ってみせる。僕は今改めて自分に誓った。