日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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地主(土地貸してます)
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漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
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模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
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→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
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2025年05月19日
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2025年07月01日
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2025年08月04日
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〈資格証明バナー〉

純愛偏差値 古代編 1話 修正前
《エミリ》
私とアランは森の湖で知り合って2年になる。私は半年前からアランの家で暮らし始め、2人は毎週末にデートをするほどラブラブな仲である。お互い助け合いながら生きてきて、今でも周りからは理想のカップルと言われているのだ。
けれど、私は悩んでいた。アランは私と付き合い始めてからは森の湖に行くことはなかったけれど、3ヶ月前から再び通い始めたのである。私としては他の美少女妖精に揺れて欲しくないけれど、喧嘩になると思い、ずっと言い出せずにいる。でも、話し合わずにいるとモヤモヤは募るばかり。
ある日、エミリはアランが森の湖に行く理由を知りたくてアランに見つからないように森の湖に行った。アランは湖に入る前の衣を着た1人の美少女妖精と楽しそうに話していた。エミリはアランに気づかれないように湖に入って美少女妖精たちに話しかけた。
「みんな久しぶり」
「久しぶりね、エミリ。元気だった?」
「え、ええ。ところでアランのことなんだけど……」
エミリが切り出すと美少女妖精たちは気まずそうにした。
「アランとはラブラブなんでしょ?」
「そうかもしれないけど……アランがあそこで話している美少女妖精は誰?」
「セレナールよ」
セレナールは黒く腰まである長い髪を真ん中で分けていて、パッチリとした平行二重で、品があって、美しい美少女妖精だった。男子妖精からは、美男子妖精からおじさん妖精、オタク妖精と幅広い異性から度々告白を受けているのである。
「セレナールとは親しいの?」
「そうね、ここへ来たら決まってセレナールに話しかけているわ」
「アランにセレナールへの恋愛感情はありそう?」
「……分からないわ。でもひと月前アランはセレナールを抱き締めてた」
「そう……」
美少女妖精たちの話を聞いた私の心の中は嫉妬の感情が生まれた。
「私、アランのところへ行くわ」
私はアランの元へ飛び立った。
「え、エミリ……水浴びに来たの?」
アランは驚いた様子でエミリを見た。
「そうよ、アランは?」
「ちょっと通りかかっただけだよ」
「そう。こちらの方は?」
「私はセレナールよ。よろしくね、エミリ」
これが噂のセレナール。
「よろしく」
目の前で見るセレナールはやはり美しく男たちが夢中になるのも無理がないと思った。
「アラン、私は先に帰ってるわね、じゃ」
家に帰った私はポロポロ涙を流した。アランのセレナールを見る目は恋する目だったからである。上手くいっていたと思ったのに気がついたら心変わりされていたと疑い始めた。
私は部屋に閉じこもり、アランが帰って来てもリビングには行かなかった。
「エミリ、帰ったよ。ご飯は?」
最初の頃はアランも家事をしてくれていたのに、気が付けば、全て私がするようになっている。それなのに、アランは毎日毎日、森の湖通い。それも、セレナール一人のために。
許せない気持ちはかなりある。けれど、今は話し合う気分にはなれない。
「エミリ、どうかしたのか?」
アランは何も分かっていない。
「ごめんなさい、具合悪いの。外食してきてくれないかしら」
顔を合わせたくない。
「分かった。エミリ、大丈夫?」
私は答えなかった。アランの足音が消えた後、私は泣きながらカナエとセイが住む近所の家に駆け込んだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
今日から古代編も載せることにしました。
純愛偏差値は現代編のみを投稿する予定でしたが、やっぱり古代編がある以上は、現代編をより深く知ってもらいたいと思ったのです。
ただ、走り書きからの書き直しは結構大変な作業なので、どのような頻度で更新出来るかは分からないです。
古代編がシーズン1、現代編がシーズン2となります。
『雨の音を聴きながら』では、古代編がシーズン1、未来編がシーズン2となります。未来編は現代編なのですが、シーズン2を書き始めた頃、古代から見て現代は未来だという概念が強く、未来編と記載したのです。
なので、未来編の記載は、そのままで進めてゆこうと思います。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
《エミリ》
私とアランは森の湖で知り合って2年になる。私は半年前からアランの家で暮らし始め、2人は毎週末にデートをするほどラブラブな仲である。お互い助け合いながら生きてきて、今でも周りからは理想のカップルと言われているのだ。
けれど、私は悩んでいた。アランは私と付き合い始めてからは森の湖に行くことはなかったけれど、3ヶ月前から再び通い始めたのである。私としては他の美少女妖精に揺れて欲しくないけれど、喧嘩になると思い、ずっと言い出せずにいる。でも、話し合わずにいるとモヤモヤは募るばかり。
ある日、エミリはアランが森の湖に行く理由を知りたくてアランに見つからないように森の湖に行った。アランは湖に入る前の衣を着た1人の美少女妖精と楽しそうに話していた。エミリはアランに気づかれないように湖に入って美少女妖精たちに話しかけた。
「みんな久しぶり」
「久しぶりね、エミリ。元気だった?」
「え、ええ。ところでアランのことなんだけど……」
エミリが切り出すと美少女妖精たちは気まずそうにした。
「アランとはラブラブなんでしょ?」
「そうかもしれないけど……アランがあそこで話している美少女妖精は誰?」
「セレナールよ」
セレナールは黒く腰まである長い髪を真ん中で分けていて、パッチリとした平行二重で、品があって、美しい美少女妖精だった。男子妖精からは、美男子妖精からおじさん妖精、オタク妖精と幅広い異性から度々告白を受けているのである。
「セレナールとは親しいの?」
「そうね、ここへ来たら決まってセレナールに話しかけているわ」
「アランにセレナールへの恋愛感情はありそう?」
「……分からないわ。でもひと月前アランはセレナールを抱き締めてた」
「そう……」
美少女妖精たちの話を聞いた私の心の中は嫉妬の感情が生まれた。
「私、アランのところへ行くわ」
私はアランの元へ飛び立った。
「え、エミリ……水浴びに来たの?」
アランは驚いた様子でエミリを見た。
「そうよ、アランは?」
「ちょっと通りかかっただけだよ」
「そう。こちらの方は?」
「私はセレナールよ。よろしくね、エミリ」
これが噂のセレナール。
「よろしく」
目の前で見るセレナールはやはり美しく男たちが夢中になるのも無理がないと思った。
「アラン、私は先に帰ってるわね、じゃ」
家に帰った私はポロポロ涙を流した。アランのセレナールを見る目は恋する目だったからである。上手くいっていたと思ったのに気がついたら心変わりされていたと疑い始めた。
私は部屋に閉じこもり、アランが帰って来てもリビングには行かなかった。
「エミリ、帰ったよ。ご飯は?」
最初の頃はアランも家事をしてくれていたのに、気が付けば、全て私がするようになっている。それなのに、アランは毎日毎日、森の湖通い。それも、セレナール一人のために。
許せない気持ちはかなりある。けれど、今は話し合う気分にはなれない。
「エミリ、どうかしたのか?」
アランは何も分かっていない。
「ごめんなさい、具合悪いの。外食してきてくれないかしら」
顔を合わせたくない。
「分かった。エミリ、大丈夫?」
私は答えなかった。アランの足音が消えた後、私は泣きながらカナエとセイが住む近所の家に駆け込んだ。
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あとがき。
今日から古代編も載せることにしました。
純愛偏差値は現代編のみを投稿する予定でしたが、やっぱり古代編がある以上は、現代編をより深く知ってもらいたいと思ったのです。
ただ、走り書きからの書き直しは結構大変な作業なので、どのような頻度で更新出来るかは分からないです。
古代編がシーズン1、現代編がシーズン2となります。
『雨の音を聴きながら』では、古代編がシーズン1、未来編がシーズン2となります。未来編は現代編なのですが、シーズン2を書き始めた頃、古代から見て現代は未来だという概念が強く、未来編と記載したのです。
なので、未来編の記載は、そのままで進めてゆこうと思います。
よろしくお願い致します。
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この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 132話
《ミナク》
カラルリさんの勝負の前、私とセナ王女はクローゼットの部屋で口付けをした。事故とはいえ、セナ王女は素振りからして、はじめてだった気がする。一瞬戸惑ったような素振りを見せた後は、普通を装っていた。セナ王女はファーストキスを奪われて何も思わなかったのだろうか。私は、口付けなんて行きずりの女と何度もしてきたけど、あの時のことだけは何故か何度も頭を過ぎる。
正直、別荘ではじめてセナ王女を見た時は、あまりの美しさに驚いた。これまで遊んだ女の中でもセナ王女ほどの美人はいなかった。
私は本気で人を好きになったことがない。そして、その理由が遠い前世の彼女であるアヤネという人物とカラルリさんの浮気によるものだということは全く知らなかったのである。けれど、知らないだけでトラウマはキッチリ残っていたから女遊びに明け暮れていたのだと思う。はじめて女の白梅咲かせたのは小三の時だった。それ以降、適当な女見付けては空咲をした。気付けば、貴族と同級生合わせて約80人ほどになっていた。
一度、空咲をした女には興味がなくなっていた。家の近くまで来られて泣かれながら交際を迫られたこともあったけれど、冷たくあしらった。
この先も、特定の女との交際はないと思っていた。なのに、セナ王女と口付けしてから、どうしてもそのことが離れない。それに、あの時セナ王女は水着姿だったから、体型がクッキリ見えていた。身長の割りには、めちゃくちゃ理想の体型だった。ビキニじゃなかったのが惜しいところ。
セナ王女と交際したいわけではないものの、ただ気にしてしまう。でも、セナ王女とカラルリさんは多分両想いだ。私が入る隙など、これっぽっちもないだろう。それに、キクリ家の両親と国王陛下・王妃は同級生。身分違いなのに、カラルリさんはセナ王女と交際出来る特権を持っている。
誰とも交際なんかするはずないって今でも思っているのに、心のどこかでカラルリさんを妬んでしまっている自分が情けない。私はセナ王女のことが好きなのだろうか。ただ、セナ王女だけは他の女と同じ扱いはしたくない。出来れば一度だけでもデートが出来たら……。
時間は遡る。
夜になり、別荘の庭でBBQがはじまった。いつぶりだろう、BBQなんて。小さい時は、よくナノハナ家でしてたけど、今となっては良い思い出だ。
「はい、ミナクの分です」
カナエさんは、どこでも働き者だ。エプロン姿もよく似合う。
「カナエさんは、働き者ですね。私がカナエさんの分入れます」
私がカナエさんの分をお皿に盛っていた時、謝って肉を落としてしまい、セナ王女のスカートが汚れてしまった。
「すみません! 今すぐクリーニングに出してきます!」
多分相当高い服だろう。
「大丈夫よ。気にしないで楽しんで」
セナ王女は微笑んだ。けれど、そういうわけにもいかない。
「あの、やっぱりクリーニングに出しますので別の服に着替えてもらえませんか?」
このままでは、めちゃくちゃ申し訳ない。その時、セナ王女は私の両頬に触れた。
「真面目なのね。でも本当に気にしないで。服が汚れることなんて珍しいことではないわ」
私は間近で見るセナ王女の美しさにドキドキしていた。正直、女にときめいたのは生まれてはじめてだった。
「この程度の汚れなら直ぐ落とせますので、今カナエが落とします」
カナエさんは、BBQ用のレモンを手に取り少し切るとセナ王女のスカートを拭いた後に、汚れの部分にレモン汁をかけた。少しすると汚れは浮かび上がり、カナエさんはタオルに水を濡らして拭き取った。汚れなど最初からなかったかのように綺麗になっている。やっぱりカナエさんは何でも出来る。
「カナエさん、すみません」
どうしてか、セナ王女にカッコ悪いところを見せてしまったことに対して恥ずかしくなっていた。
「ミナク、料理が冷めますよ。それに、あの時、少しユメさんと当たっていたので、その弾みでしょう」
当たっていたっけ。全く覚えていない。
「えっ、気付かなかった。ごめんね」
プールの時は泣いていたけれど、今は機嫌が良さそうだ。
「いえ、私も不注意だったと思いますので」
カナエさんは周りをよく見ている。そして、食べずに動いてばかりだ。
「セナさん、あーん」
はあ、こういう光景は二人きりの時だけにしてもらいたい。やっぱり、二人は好き合っているのだろうか。
「あつつ……」
焼きたてだったのか、セナ王女は唇に触れた瞬間玉ねぎを落とした。かと思ったら、今度はセレナールさんのスカートが汚れた。私は今度こそセナ王女に良いところを見せたくて弟のヨルクにレインをしていた。すると、布のパターン別に対処法が書かれていた。ヨルクはカナエさんに憧れ家事をするようになった。カナエさんほどではないが、部屋は常に片付いていて、ヨルクの作る料理はクレナイ食堂の料理より美味しい。兄弟仲は悪いものの、私はこっそりヨルクの料理中に摘み食いをしていた。
「セレナールさん、服の素材って分かります?」
セレナールさんはロングスカートを膝までめくった。
「えっと、綿90%のポリエステル10%よ」
私は再度フェアホを見た。ヨルクはキッチリしているから、布率もパターン別にズラーっと並んでいた。綿90%のポリエステル10%……割りと上の方にあった。カナエさんが、さっき使っていたレモンの方法は、どの村も共通しているらしい。けれど、綿や麻など繊細な素材は、レモンでも良いが煮詰めると、ブドウとリンゴを混ぜた水に浸した方が布を傷めずに汚れを落とせるらしい。妖精村の果実は不思議な力があって、汚れは勿論のこと時には薬としての効力も発揮すると言われている。そんな感じのニュースを昔見たことがある。
「セレナールさん。ブドウとリンゴを混ぜた水に浸すと汚れが落ちますので、今タライにブドウとリンゴと水入れますので待っていてください」
私は近くにあるタライを手に取った。
「私がやるわ。汚したの私だし」
ここには多くの使用人がいる。なのに、セナ王女はずっと使用人に頼っていない。こういう純粋さは男心をくすぐる。
「あ、いえ、セナ王女は食べていてください」
私がブドウを入れた時、カナエさんが走ってきた。
「カナエがやりますので、お二人共食べていてください。ブドウもリンゴもほんの少しで良いのです」
そうか、分量があったか。やっぱりカナエさんには敵わない。
「汚れたなら僕が舐めてあげる」
突然、セイさんはセレナールさんのスカートを舐めはじめた。そういえば、この人、私が連れて来たんだっけ。もうめちゃくちゃ見てはいけないものを見てしまった気がする。こんな人、本当にいるんだ。正直ありえないし気持ち悪い。
「いや!! やめて!!」
セレナールさんはセイさんを突き飛ばそうとしたが、セイさんはあろうことかセレナールさんのスカートをめくった。意外にも派手目のピンクの下着だった。こういうの流行っているのだろうか。ナンパした女たちも似たようなものを履いている。けれど、よく見たら薄いワンピースに透けている。
「レースのパンツ良いね。こっちも舐めてあげようか」
うわ……この人異常だ。
「いや!! 誰か助けて!!」
どうして誰も助けようとしないのだろう。その瞬間、セナ王女がセイさんを引っぱたいた。
「あなた本当に最低ね! 姉さん恥ずかしいわ!」
私はセイさんからセレナールさんを遠ざけた。
「あの、透けてます」
私はパーカーを脱いでセレナールさんにかけた。
「えっ、全然気付かなかった!」
よく見ると、ワンピースは随分とくたびれている。長く着ていたのだろうか。
「インナーとかもってないんですか?」
見るならセナ王女の下着が良かったと思ってしまう私は確信犯だろうか。
「持ってないわ。ここまで物価が値上がりしたら買うものも買えない。服も下着もセール品だし」
そうだったのか。家、貧乏なのだろうか。何だか勿体ないな。
「そうですか。けれど、勿体ないですね。こんなに美人なのに。オシャレしたらきっと似合うと思うんです」
セレナールさんは美人だ。セナ王女とは違うタイプの。私はセナ王女の方が好みだけれど、多くの男はセレナールさんに釘付けだろう。
「オシャレ……か。したことないわ。うち貧乏だから」
世の中というものは不公平である。ブスという表現は不適切ではないが、男ウケしない女が不釣り合いなオシャレをして、セレナールさんのようなオシャレが映える人がオシャレを出来ないなんて、どうも煮え切らない。
「良かったら今度買いましょうか?」
セレナールさんを見ていると同情してしまい思わず言葉に出てしまった。
「ううん、悪いからいいわ」
セナ王女とは違った形で思ったより控えめ。あまり思いたくはないが、容姿が砕けた女ほど、あれこれ騒ぎ立て、容姿端麗の女はお淑やかだ。
「セレナール、昼間のビキニ姿、超セクシーだったよ。今度、学校の理科室で見せてくれないかな?」
もうここまで来るとホラーだ。セイさんは行き過ぎた恋愛感情をセレナールさんに抱いている。
「やめて! 気持ち悪い! セイが来るなら今日来てなかったわ! 服舐めたりスカートめくったり、私がどれだけ嫌な思いしてるか! それに誰も助けてくれないし!」
セイさんもセイさんだけど、どうして、あの時、誰もセレナールさんを助けようとしなかったのだろう。このままセイさんとセレナールさんが今日ここで泊まるのは良くない気がする。
「あの、セレナールさん。今日はお家に帰りませんか? 送って行きます」
セレナールさんは少し涙ぐみながら私の腕を組んだ。と思いきや、セナ王女まで私の腕を組んだのである。何故か両手に花状態。けれど、セナ王女に密着されると、やっぱり鼓動が速くなってしまう。セナ王女ほどの美人なら速攻で口説いて空咲まで持ち込みたい。でも、どうしてかセナ王女を適当な女と同じにはしたくなかった。
「どうしてミナクが送るのよ。私、セイにちゃんと注意したわ。セレナールを助けなかったわけじゃない!」
言われてみれば、セナ王女がセイさんを引っぱたいたからこそ、あの場は止まったわけで、それは助けなかったというより、セナ王女なりに助けたと位置付けした方がしっくり来る。
「怖いのよ……。好きでもない人に服舐められたり下着見られたり、ハッキリ言って気持ち悪いわ!」
確かに、あれは度を超えている。
「だから、注意したじゃない! でも、一応は弟だから、あまり悪く言われるのも良い気はしないわ! だって、ミナクにはくっついてるじゃない!」
セナ王女は、セレナールさんから私を少し遠ざけようとしたが、セレナールさんが私のタンクトップをつかんで、私はバランスを崩しセナ王女を押し倒す形で転んでしまった。
「ミナ……ク……」
しまった。転んだ時にセナ王女の胸に触れてしまっていた。私は咄嗟に起き上がりセナ王女を起こした。もし、二人きりだったら、どうなっていたか。
「すみません、大丈夫ですか?」
私はセナ王女に付いた草などを払った。
「大丈夫」
その瞬間、不意打ちにカラルリさんに殴り飛ばされた。カラルリさんは昔から私を嫌っている。けれど、私にはどうしてか分からなかった。
「やめて、カラルリ! セレナールがミナクの服つかんだから! ミナクのせいじゃないわ!」
セナ王女はこちらに向かって来たが、それより先にセレナールさんが私を抱き締めた。何だかカナエさんとは違う形で姉のように感じてしまった。弟はヨルクと同い歳だっけ。写真のツーショット見た限り仲も良さそうで羨ましい。
「ごめんなさい」
別にセレナールさんは悪くない。セナ王女に触れてしまったことがカラルリさんの心に火を付けてしまったのだろう。
「あ、いえ、セレナールさん悪くないんで」
と言ってる間に、今度はカナエさんが私からセレナールさんを少し遠ざけ私を抱き締めた。カナエさんの香り、ずっと変わっていない。小さい頃から好きだった。この香りは、いつも私を癒してくれた。
「セレナールのことは食い違いがあるようです。お兄様もミナクばかり攻撃しないでください! セレナールやセナさんの傍にいると無限ループですので、ミナクはカナエの傍にいてください」
本当に姉みたいだ。というか、カナエさんが実の姉だったらどれだけ良かったか。
その後も色々あったが、この日は私も別荘に泊まり、セイさんは、後に越してくるセナ王女とアルフォンス王子の弟の部屋で外側から鍵をかけられ朝まで出れなくなってセレナールさんに危害は及ばなかった。
けれど、私の心は、ほんの少しセナ王女に傾いていた。
昼休みに、他校の女子高校生と歩いていた。
「ごめん、今日はデート出来ない。友達のお見舞い行くの」
この女子高校生とは知り合って二週間ほどキープしている。今や、ご縁系サイトが流行っていて、昔みたいに適当な女がつかまらなくなってしまったからだ。この女だけでなく後二人キープしているが、空咲するだけでデートなんてめんどくさい。
その時、女子高校生のフェアホが落ちて私は拾った。
『愛してる』
『私も。今度いつデート出来る?』
『次の土曜日かな』
『嬉しい! バイキングレストランがいいな! 私の友達、いつも安っぽい店しか入らなくて』
『うん、行こう。奢るよ』
フェアホ画面を見た途端、私は女子高校生を殴り付けていた。
「やめて! お願い!」
女子高校生は怯えながら、この場だけ逃げようとするけれど、私は逃がさなかった。そして、女子高校生を殴る手は止まらなかった。
「何してるの!?」
気が付いたら私は投げ飛ばされていた。相手がセナ王女とも知らずに。正気を失った私は再び女子高校生に近付こうとしたが、また投げ飛ばされた。ダメだ、怒りが収まらない。けれど、勝てそうにもない。
「リリカ……お姉様……」
私は仰向けになったまま動けずにいた。すると、セナ王女が私を起き上がらせた。まさか、セナ王女が!? いや、そんなわけない。
「何があったか分からないけど、無抵抗の人間をあそこまで殴るのは良くないわ」
今はダメだ。セナ王女を傷付けてしまう。
「離れてください……」
セナ王女に手は出したくない。けれど、セナ王女は離れない。せっかく、あの日、別荘で楽しい時間を過ごしたのに。結局私は人間関係を作れない。私はセナ王女に殴りかかった。が、拳はあっさりつかまれてしまった。物凄い力だ。私がセナ王女を押し倒そうとした瞬間、セナ王女は私の上を飛び越え私の後ろに回った。
「あなたは強い。けれど、この世に強い人はいくらでもいるの」
別荘の時のあどけないセナ王女とは真逆の姿にただただ私は驚いていた。と、同時に幻滅されたと胸が傷んだ。けれど、セナ王女は愚かな私を抱き締めた。
「セナ……王女……?」
どうして、こんなみすぼらしい私に構うのだろう。
「これまでにも同じこと繰り返してたの? さっきはどうして殴ってたの?」
今更、嘘なんかついてもどうしようもない。
「他に男がいたのもイラッとしましたが、行きたくもないデートに行かされた挙句に安っぽい店と送信されているのを見た時は侮辱されたと思いました」
金なんてないし、そもそも好きでもない女に奢るなんて真っ平だ。けれど、パパ活が流行りだしてからは女も行きずりを選ぶより、好きでもないおっさんと空咲して儲けている。結局、世の中金なんだ。
「どんなお店?」
どうしてそこまで聞くのだろう。私のことなんて放っておけば良いのに。
「古びれたレトロカフェです」
2024年だというのに、レトロカフェは案外残っている。けれど、時代も時代だからレトロなんて、あまり流行らなくなって、今ではフェアスタ映えするメニューが豊富のカフェやレストランに行きたがる女ばかりだ。そういうのを、フェァリーZ広場などに載せて、自分の彼はハイスペだとアピールをしてマウントを取り合うのが女の日課になっている。
「合わないのよ。相手はSNSに載せたいためにカフェに入りたいけど、あなたはカフェに入る1ターンをなくしたい。本音がぶつかり合ってるのでは、いくら遊びでも、そのうち拗れると思うのよね」
セナ王女の言う通りだ。私は、ただ二人きりになることしか考えていない。女のSNS状況なんてどうでもいい。
「はい……。私が愚かでした……」
情けない。それでも、私にはリリカお姉様みたいに推しもしなければ、本命もいない。いつも何かに苛立って発散してしまう。
「あなたの求めてるのは好みの子と関係持つこと? それとも癒し?」
考えたことなかった。ただ、恐怖から逃れることしか考えてこなかった。
「癒し……だと思います」
何故か涙が溢れた。女の前で涙を溢すのは、はじめてだった。セナ王女の温もりが、私の凍り付いた心を溶かしたのかもしれない。
その時、セナ王女は私のピアスを片方外すとブレザーに付けた。
「だったら、あなたに色んな世界見せてあげる。もうこれからは一人で悩まないで。私が傍にいるから。遊びの代わりにはなれないけど、それ以上の幸せを与えるわ」
そして、私たちは連絡先交換をした。
この瞬間からセナ王女と頻繁に二人きりで会うようになった。
「昨日は晴れているから公園デートもいいわね」
デートって言われると、まるで恋人みたいだ。けれど、セナ王女とならカフェの個室で二人きりになりたい。
セナ王女は私に商店街で買ったサンドイッチを渡した。
「あの、やっぱり自分の分は払います。悪いですし」
情けなくも、これまで奢ってもらってばかりだ。
「気にしないで。まずは、あなたが楽しまないと。無理無理の遊びじゃなくて」
そういえば、カラルリさんとはどうなっているのだろう。
「あの、カラルリさんと会わなくて良いんですか? 両想いですよね?」
もう白梅は済んでいるのだろうか。こういう風に妬いてしまうのが嫌になる。セナ王女は本命ってわけではないのに。ただ、私の方が、ほんの少し意識しているに過ぎない。
「普通に会ってるけど?」
やっぱりそうか。セナ王女は狡い。こんなに思わせぶりなことしておきながら、カラルリさんからも好かれていて。まるで両手に花。
「家でですか?」
こんな風に聞いてしまうのが本当に嫌になってくる。
「ええ、カラルリの部屋で宿題してる」
部屋……。ってことはカラルリさんとはもう既に……。
「カラルリさんと関係持ったんですか?」
完全な嫉妬だ。
「何もしてないわ。強いて言うなら、あなたにファーストキス奪われた程度ね」
本当にそうなのだろうか。あの事故のファーストキスだけって、男女が同じ部屋に二人きりでいて、そんなことありえるのだろうか。
「カラルリさんのこと好きなんじゃないんですか?」
聞いてしまった。遊ぶ側の私がセナ王女の前では女々しくなっている。
「うーん、好きは好きね。転校して友達作れない私に何かと優しくしてくれて、今のグループがあるのもカラルリのお陰だし。良い人って思うわ。でも、恋愛感情かて言われてみれば正直分からないの」
それって、私と恋人のようにデートしながら、あわよくばカラルリさんと交際するってことじゃないか。狡い。
「狡いですね。ここまで思わせぶりなことしておいて、カラルリさんにも気があるだなんて」
その時、セナ王女は私に口付けをした。私はカラルリさんの存在を気にしてセナ王女を抱き寄せ激しく口付けをした。そして、軽くセナ王女の太ももを触ろうとした時、セナ王女は私の手をつかんだ。
「場所変える? 休日だから、ここだと家族連れもいるし」
セナ王女は真剣な眼差しで私を見た。そうか、揺れているのは私の方だった。
「い、いえ。すみません」
私はセナ王女から離れた。
この日、セナ王女は初白咲をした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
流れでは明らかカラルリと付き合うはずだったのに。
ひとたび、人が加われば心境の変化も起きうる。
恋愛って分からないものですね。
けれど、カラルリにとっては二の舞にならなくて済んだのではないでしょうか。
記憶を思い出さないなら、三角関係突入だったでしょうけど。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
《ミナク》
カラルリさんの勝負の前、私とセナ王女はクローゼットの部屋で口付けをした。事故とはいえ、セナ王女は素振りからして、はじめてだった気がする。一瞬戸惑ったような素振りを見せた後は、普通を装っていた。セナ王女はファーストキスを奪われて何も思わなかったのだろうか。私は、口付けなんて行きずりの女と何度もしてきたけど、あの時のことだけは何故か何度も頭を過ぎる。
正直、別荘ではじめてセナ王女を見た時は、あまりの美しさに驚いた。これまで遊んだ女の中でもセナ王女ほどの美人はいなかった。
私は本気で人を好きになったことがない。そして、その理由が遠い前世の彼女であるアヤネという人物とカラルリさんの浮気によるものだということは全く知らなかったのである。けれど、知らないだけでトラウマはキッチリ残っていたから女遊びに明け暮れていたのだと思う。はじめて女の白梅咲かせたのは小三の時だった。それ以降、適当な女見付けては空咲をした。気付けば、貴族と同級生合わせて約80人ほどになっていた。
一度、空咲をした女には興味がなくなっていた。家の近くまで来られて泣かれながら交際を迫られたこともあったけれど、冷たくあしらった。
この先も、特定の女との交際はないと思っていた。なのに、セナ王女と口付けしてから、どうしてもそのことが離れない。それに、あの時セナ王女は水着姿だったから、体型がクッキリ見えていた。身長の割りには、めちゃくちゃ理想の体型だった。ビキニじゃなかったのが惜しいところ。
セナ王女と交際したいわけではないものの、ただ気にしてしまう。でも、セナ王女とカラルリさんは多分両想いだ。私が入る隙など、これっぽっちもないだろう。それに、キクリ家の両親と国王陛下・王妃は同級生。身分違いなのに、カラルリさんはセナ王女と交際出来る特権を持っている。
誰とも交際なんかするはずないって今でも思っているのに、心のどこかでカラルリさんを妬んでしまっている自分が情けない。私はセナ王女のことが好きなのだろうか。ただ、セナ王女だけは他の女と同じ扱いはしたくない。出来れば一度だけでもデートが出来たら……。
時間は遡る。
夜になり、別荘の庭でBBQがはじまった。いつぶりだろう、BBQなんて。小さい時は、よくナノハナ家でしてたけど、今となっては良い思い出だ。
「はい、ミナクの分です」
カナエさんは、どこでも働き者だ。エプロン姿もよく似合う。
「カナエさんは、働き者ですね。私がカナエさんの分入れます」
私がカナエさんの分をお皿に盛っていた時、謝って肉を落としてしまい、セナ王女のスカートが汚れてしまった。
「すみません! 今すぐクリーニングに出してきます!」
多分相当高い服だろう。
「大丈夫よ。気にしないで楽しんで」
セナ王女は微笑んだ。けれど、そういうわけにもいかない。
「あの、やっぱりクリーニングに出しますので別の服に着替えてもらえませんか?」
このままでは、めちゃくちゃ申し訳ない。その時、セナ王女は私の両頬に触れた。
「真面目なのね。でも本当に気にしないで。服が汚れることなんて珍しいことではないわ」
私は間近で見るセナ王女の美しさにドキドキしていた。正直、女にときめいたのは生まれてはじめてだった。
「この程度の汚れなら直ぐ落とせますので、今カナエが落とします」
カナエさんは、BBQ用のレモンを手に取り少し切るとセナ王女のスカートを拭いた後に、汚れの部分にレモン汁をかけた。少しすると汚れは浮かび上がり、カナエさんはタオルに水を濡らして拭き取った。汚れなど最初からなかったかのように綺麗になっている。やっぱりカナエさんは何でも出来る。
「カナエさん、すみません」
どうしてか、セナ王女にカッコ悪いところを見せてしまったことに対して恥ずかしくなっていた。
「ミナク、料理が冷めますよ。それに、あの時、少しユメさんと当たっていたので、その弾みでしょう」
当たっていたっけ。全く覚えていない。
「えっ、気付かなかった。ごめんね」
プールの時は泣いていたけれど、今は機嫌が良さそうだ。
「いえ、私も不注意だったと思いますので」
カナエさんは周りをよく見ている。そして、食べずに動いてばかりだ。
「セナさん、あーん」
はあ、こういう光景は二人きりの時だけにしてもらいたい。やっぱり、二人は好き合っているのだろうか。
「あつつ……」
焼きたてだったのか、セナ王女は唇に触れた瞬間玉ねぎを落とした。かと思ったら、今度はセレナールさんのスカートが汚れた。私は今度こそセナ王女に良いところを見せたくて弟のヨルクにレインをしていた。すると、布のパターン別に対処法が書かれていた。ヨルクはカナエさんに憧れ家事をするようになった。カナエさんほどではないが、部屋は常に片付いていて、ヨルクの作る料理はクレナイ食堂の料理より美味しい。兄弟仲は悪いものの、私はこっそりヨルクの料理中に摘み食いをしていた。
「セレナールさん、服の素材って分かります?」
セレナールさんはロングスカートを膝までめくった。
「えっと、綿90%のポリエステル10%よ」
私は再度フェアホを見た。ヨルクはキッチリしているから、布率もパターン別にズラーっと並んでいた。綿90%のポリエステル10%……割りと上の方にあった。カナエさんが、さっき使っていたレモンの方法は、どの村も共通しているらしい。けれど、綿や麻など繊細な素材は、レモンでも良いが煮詰めると、ブドウとリンゴを混ぜた水に浸した方が布を傷めずに汚れを落とせるらしい。妖精村の果実は不思議な力があって、汚れは勿論のこと時には薬としての効力も発揮すると言われている。そんな感じのニュースを昔見たことがある。
「セレナールさん。ブドウとリンゴを混ぜた水に浸すと汚れが落ちますので、今タライにブドウとリンゴと水入れますので待っていてください」
私は近くにあるタライを手に取った。
「私がやるわ。汚したの私だし」
ここには多くの使用人がいる。なのに、セナ王女はずっと使用人に頼っていない。こういう純粋さは男心をくすぐる。
「あ、いえ、セナ王女は食べていてください」
私がブドウを入れた時、カナエさんが走ってきた。
「カナエがやりますので、お二人共食べていてください。ブドウもリンゴもほんの少しで良いのです」
そうか、分量があったか。やっぱりカナエさんには敵わない。
「汚れたなら僕が舐めてあげる」
突然、セイさんはセレナールさんのスカートを舐めはじめた。そういえば、この人、私が連れて来たんだっけ。もうめちゃくちゃ見てはいけないものを見てしまった気がする。こんな人、本当にいるんだ。正直ありえないし気持ち悪い。
「いや!! やめて!!」
セレナールさんはセイさんを突き飛ばそうとしたが、セイさんはあろうことかセレナールさんのスカートをめくった。意外にも派手目のピンクの下着だった。こういうの流行っているのだろうか。ナンパした女たちも似たようなものを履いている。けれど、よく見たら薄いワンピースに透けている。
「レースのパンツ良いね。こっちも舐めてあげようか」
うわ……この人異常だ。
「いや!! 誰か助けて!!」
どうして誰も助けようとしないのだろう。その瞬間、セナ王女がセイさんを引っぱたいた。
「あなた本当に最低ね! 姉さん恥ずかしいわ!」
私はセイさんからセレナールさんを遠ざけた。
「あの、透けてます」
私はパーカーを脱いでセレナールさんにかけた。
「えっ、全然気付かなかった!」
よく見ると、ワンピースは随分とくたびれている。長く着ていたのだろうか。
「インナーとかもってないんですか?」
見るならセナ王女の下着が良かったと思ってしまう私は確信犯だろうか。
「持ってないわ。ここまで物価が値上がりしたら買うものも買えない。服も下着もセール品だし」
そうだったのか。家、貧乏なのだろうか。何だか勿体ないな。
「そうですか。けれど、勿体ないですね。こんなに美人なのに。オシャレしたらきっと似合うと思うんです」
セレナールさんは美人だ。セナ王女とは違うタイプの。私はセナ王女の方が好みだけれど、多くの男はセレナールさんに釘付けだろう。
「オシャレ……か。したことないわ。うち貧乏だから」
世の中というものは不公平である。ブスという表現は不適切ではないが、男ウケしない女が不釣り合いなオシャレをして、セレナールさんのようなオシャレが映える人がオシャレを出来ないなんて、どうも煮え切らない。
「良かったら今度買いましょうか?」
セレナールさんを見ていると同情してしまい思わず言葉に出てしまった。
「ううん、悪いからいいわ」
セナ王女とは違った形で思ったより控えめ。あまり思いたくはないが、容姿が砕けた女ほど、あれこれ騒ぎ立て、容姿端麗の女はお淑やかだ。
「セレナール、昼間のビキニ姿、超セクシーだったよ。今度、学校の理科室で見せてくれないかな?」
もうここまで来るとホラーだ。セイさんは行き過ぎた恋愛感情をセレナールさんに抱いている。
「やめて! 気持ち悪い! セイが来るなら今日来てなかったわ! 服舐めたりスカートめくったり、私がどれだけ嫌な思いしてるか! それに誰も助けてくれないし!」
セイさんもセイさんだけど、どうして、あの時、誰もセレナールさんを助けようとしなかったのだろう。このままセイさんとセレナールさんが今日ここで泊まるのは良くない気がする。
「あの、セレナールさん。今日はお家に帰りませんか? 送って行きます」
セレナールさんは少し涙ぐみながら私の腕を組んだ。と思いきや、セナ王女まで私の腕を組んだのである。何故か両手に花状態。けれど、セナ王女に密着されると、やっぱり鼓動が速くなってしまう。セナ王女ほどの美人なら速攻で口説いて空咲まで持ち込みたい。でも、どうしてかセナ王女を適当な女と同じにはしたくなかった。
「どうしてミナクが送るのよ。私、セイにちゃんと注意したわ。セレナールを助けなかったわけじゃない!」
言われてみれば、セナ王女がセイさんを引っぱたいたからこそ、あの場は止まったわけで、それは助けなかったというより、セナ王女なりに助けたと位置付けした方がしっくり来る。
「怖いのよ……。好きでもない人に服舐められたり下着見られたり、ハッキリ言って気持ち悪いわ!」
確かに、あれは度を超えている。
「だから、注意したじゃない! でも、一応は弟だから、あまり悪く言われるのも良い気はしないわ! だって、ミナクにはくっついてるじゃない!」
セナ王女は、セレナールさんから私を少し遠ざけようとしたが、セレナールさんが私のタンクトップをつかんで、私はバランスを崩しセナ王女を押し倒す形で転んでしまった。
「ミナ……ク……」
しまった。転んだ時にセナ王女の胸に触れてしまっていた。私は咄嗟に起き上がりセナ王女を起こした。もし、二人きりだったら、どうなっていたか。
「すみません、大丈夫ですか?」
私はセナ王女に付いた草などを払った。
「大丈夫」
その瞬間、不意打ちにカラルリさんに殴り飛ばされた。カラルリさんは昔から私を嫌っている。けれど、私にはどうしてか分からなかった。
「やめて、カラルリ! セレナールがミナクの服つかんだから! ミナクのせいじゃないわ!」
セナ王女はこちらに向かって来たが、それより先にセレナールさんが私を抱き締めた。何だかカナエさんとは違う形で姉のように感じてしまった。弟はヨルクと同い歳だっけ。写真のツーショット見た限り仲も良さそうで羨ましい。
「ごめんなさい」
別にセレナールさんは悪くない。セナ王女に触れてしまったことがカラルリさんの心に火を付けてしまったのだろう。
「あ、いえ、セレナールさん悪くないんで」
と言ってる間に、今度はカナエさんが私からセレナールさんを少し遠ざけ私を抱き締めた。カナエさんの香り、ずっと変わっていない。小さい頃から好きだった。この香りは、いつも私を癒してくれた。
「セレナールのことは食い違いがあるようです。お兄様もミナクばかり攻撃しないでください! セレナールやセナさんの傍にいると無限ループですので、ミナクはカナエの傍にいてください」
本当に姉みたいだ。というか、カナエさんが実の姉だったらどれだけ良かったか。
その後も色々あったが、この日は私も別荘に泊まり、セイさんは、後に越してくるセナ王女とアルフォンス王子の弟の部屋で外側から鍵をかけられ朝まで出れなくなってセレナールさんに危害は及ばなかった。
けれど、私の心は、ほんの少しセナ王女に傾いていた。
昼休みに、他校の女子高校生と歩いていた。
「ごめん、今日はデート出来ない。友達のお見舞い行くの」
この女子高校生とは知り合って二週間ほどキープしている。今や、ご縁系サイトが流行っていて、昔みたいに適当な女がつかまらなくなってしまったからだ。この女だけでなく後二人キープしているが、空咲するだけでデートなんてめんどくさい。
その時、女子高校生のフェアホが落ちて私は拾った。
『愛してる』
『私も。今度いつデート出来る?』
『次の土曜日かな』
『嬉しい! バイキングレストランがいいな! 私の友達、いつも安っぽい店しか入らなくて』
『うん、行こう。奢るよ』
フェアホ画面を見た途端、私は女子高校生を殴り付けていた。
「やめて! お願い!」
女子高校生は怯えながら、この場だけ逃げようとするけれど、私は逃がさなかった。そして、女子高校生を殴る手は止まらなかった。
「何してるの!?」
気が付いたら私は投げ飛ばされていた。相手がセナ王女とも知らずに。正気を失った私は再び女子高校生に近付こうとしたが、また投げ飛ばされた。ダメだ、怒りが収まらない。けれど、勝てそうにもない。
「リリカ……お姉様……」
私は仰向けになったまま動けずにいた。すると、セナ王女が私を起き上がらせた。まさか、セナ王女が!? いや、そんなわけない。
「何があったか分からないけど、無抵抗の人間をあそこまで殴るのは良くないわ」
今はダメだ。セナ王女を傷付けてしまう。
「離れてください……」
セナ王女に手は出したくない。けれど、セナ王女は離れない。せっかく、あの日、別荘で楽しい時間を過ごしたのに。結局私は人間関係を作れない。私はセナ王女に殴りかかった。が、拳はあっさりつかまれてしまった。物凄い力だ。私がセナ王女を押し倒そうとした瞬間、セナ王女は私の上を飛び越え私の後ろに回った。
「あなたは強い。けれど、この世に強い人はいくらでもいるの」
別荘の時のあどけないセナ王女とは真逆の姿にただただ私は驚いていた。と、同時に幻滅されたと胸が傷んだ。けれど、セナ王女は愚かな私を抱き締めた。
「セナ……王女……?」
どうして、こんなみすぼらしい私に構うのだろう。
「これまでにも同じこと繰り返してたの? さっきはどうして殴ってたの?」
今更、嘘なんかついてもどうしようもない。
「他に男がいたのもイラッとしましたが、行きたくもないデートに行かされた挙句に安っぽい店と送信されているのを見た時は侮辱されたと思いました」
金なんてないし、そもそも好きでもない女に奢るなんて真っ平だ。けれど、パパ活が流行りだしてからは女も行きずりを選ぶより、好きでもないおっさんと空咲して儲けている。結局、世の中金なんだ。
「どんなお店?」
どうしてそこまで聞くのだろう。私のことなんて放っておけば良いのに。
「古びれたレトロカフェです」
2024年だというのに、レトロカフェは案外残っている。けれど、時代も時代だからレトロなんて、あまり流行らなくなって、今ではフェアスタ映えするメニューが豊富のカフェやレストランに行きたがる女ばかりだ。そういうのを、フェァリーZ広場などに載せて、自分の彼はハイスペだとアピールをしてマウントを取り合うのが女の日課になっている。
「合わないのよ。相手はSNSに載せたいためにカフェに入りたいけど、あなたはカフェに入る1ターンをなくしたい。本音がぶつかり合ってるのでは、いくら遊びでも、そのうち拗れると思うのよね」
セナ王女の言う通りだ。私は、ただ二人きりになることしか考えていない。女のSNS状況なんてどうでもいい。
「はい……。私が愚かでした……」
情けない。それでも、私にはリリカお姉様みたいに推しもしなければ、本命もいない。いつも何かに苛立って発散してしまう。
「あなたの求めてるのは好みの子と関係持つこと? それとも癒し?」
考えたことなかった。ただ、恐怖から逃れることしか考えてこなかった。
「癒し……だと思います」
何故か涙が溢れた。女の前で涙を溢すのは、はじめてだった。セナ王女の温もりが、私の凍り付いた心を溶かしたのかもしれない。
その時、セナ王女は私のピアスを片方外すとブレザーに付けた。
「だったら、あなたに色んな世界見せてあげる。もうこれからは一人で悩まないで。私が傍にいるから。遊びの代わりにはなれないけど、それ以上の幸せを与えるわ」
そして、私たちは連絡先交換をした。
この瞬間からセナ王女と頻繁に二人きりで会うようになった。
「昨日は晴れているから公園デートもいいわね」
デートって言われると、まるで恋人みたいだ。けれど、セナ王女とならカフェの個室で二人きりになりたい。
セナ王女は私に商店街で買ったサンドイッチを渡した。
「あの、やっぱり自分の分は払います。悪いですし」
情けなくも、これまで奢ってもらってばかりだ。
「気にしないで。まずは、あなたが楽しまないと。無理無理の遊びじゃなくて」
そういえば、カラルリさんとはどうなっているのだろう。
「あの、カラルリさんと会わなくて良いんですか? 両想いですよね?」
もう白梅は済んでいるのだろうか。こういう風に妬いてしまうのが嫌になる。セナ王女は本命ってわけではないのに。ただ、私の方が、ほんの少し意識しているに過ぎない。
「普通に会ってるけど?」
やっぱりそうか。セナ王女は狡い。こんなに思わせぶりなことしておきながら、カラルリさんからも好かれていて。まるで両手に花。
「家でですか?」
こんな風に聞いてしまうのが本当に嫌になってくる。
「ええ、カラルリの部屋で宿題してる」
部屋……。ってことはカラルリさんとはもう既に……。
「カラルリさんと関係持ったんですか?」
完全な嫉妬だ。
「何もしてないわ。強いて言うなら、あなたにファーストキス奪われた程度ね」
本当にそうなのだろうか。あの事故のファーストキスだけって、男女が同じ部屋に二人きりでいて、そんなことありえるのだろうか。
「カラルリさんのこと好きなんじゃないんですか?」
聞いてしまった。遊ぶ側の私がセナ王女の前では女々しくなっている。
「うーん、好きは好きね。転校して友達作れない私に何かと優しくしてくれて、今のグループがあるのもカラルリのお陰だし。良い人って思うわ。でも、恋愛感情かて言われてみれば正直分からないの」
それって、私と恋人のようにデートしながら、あわよくばカラルリさんと交際するってことじゃないか。狡い。
「狡いですね。ここまで思わせぶりなことしておいて、カラルリさんにも気があるだなんて」
その時、セナ王女は私に口付けをした。私はカラルリさんの存在を気にしてセナ王女を抱き寄せ激しく口付けをした。そして、軽くセナ王女の太ももを触ろうとした時、セナ王女は私の手をつかんだ。
「場所変える? 休日だから、ここだと家族連れもいるし」
セナ王女は真剣な眼差しで私を見た。そうか、揺れているのは私の方だった。
「い、いえ。すみません」
私はセナ王女から離れた。
この日、セナ王女は初白咲をした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
流れでは明らかカラルリと付き合うはずだったのに。
ひとたび、人が加われば心境の変化も起きうる。
恋愛って分からないものですね。
けれど、カラルリにとっては二の舞にならなくて済んだのではないでしょうか。
記憶を思い出さないなら、三角関係突入だったでしょうけど。
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この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
純愛偏差値 未来編 一人称版 131話
《カラルリ》
商店街に新しく出来たカフェで、ユメさんは機嫌を損ねてしまった。けれど、数日後の話し合いで、アルフォンス王子が週に三回、ユメさんに勉強を教える形で状況は収まった。私としても、妹のカナエを目の敵にされたままでは心境があまり良くないゆえ、これで良かったと思っている。
時が経つのも早いもので、もう五月だ。つまり、セナさんと知り合って、ひと月以上過ぎたことになる。
セナさんが妖精村学園に転校してきたその日から私はセナさんに一目惚れをした。それがだんだんと恋愛感情に変わってきた気がする。いつもセナさんのこと考えているし、セナさんに話しかける男子にヤキモチも妬く。少なくとも私はセナさんのことが好きなのだろう。けれど、セナさんはどうだろう。私としては仲良くしているつもりだけど、セナさんは仮にも王女だし私とは釣り合わない。それでもセナさんのことばかり見てしまう。
美人で強くて意見はハッキリ言うタイプで、セナさんの一つ一つが私の胸をときめかせる。
「お兄様、お手紙です」
またか。小学生の時からカナエには何度も言っているが、それでもカナエはこうやって持って来る。
「悪いが、私はカナエを通したものは全て受け取らない」
というか、セナさんの前で受け取れるわけないし、前なんて、そのまま教室のゴミ箱に捨てていた。私は恋を知らなかった。手紙を書いてくれる人は少なくとも私の何かに惹かれているのだろうけど、私にはそういう乙女心は全く分からなかったのである。そう、セナさんと出会うまで。
「カラルリ固すぎ。適当に返事書けば?」
エミルはエミリの兄でカラクリ家の長男である。そして、私とは小さい頃からの幼なじみ。
「いや、流石にめんどくさい」
好きでもない女に返事など気が引ける。
「でも何も捨てることないと思うわ。アルフォンスなんて手紙の相手全員に次からいらないって返事書いたら手紙少なくなったし」
アルフォンス王子も徹底してるなあ。まあ、今はユメさんと交際してるし他の女と個人的にやり取りというのも出来ないよな。
「僕は全員に返事書いてるけど。カラルリはどうして一通も読まないのかな?」
セリルはクラスの副委員長でセレナールの兄。小さい頃から、よくキクリ家に来ていて、武家でないもののセリルとも幼なじみなのだ。
「あのさセリル。それ自分の時間持てるわけ?」
アルフォンス王子って、時折どこか冷めたような雰囲気。いや、元からクールなタイプだったか。
「長文じゃないし、せっかくもらった手紙を読まないなんて相手に失礼だから。それに宿題した後に返事は書いてるし、家事もしてるし、特に支障はきたしてないよ」
セリルは頭脳明晰で要領が良い。私やエミルとは違って誰にでも優しくて学年だと一番のイケメンだと思う。
「そんなことよりカナエ、また胸大きくなったんじゃないのか」
カナエは身長の割りに胸が大きい。
「お兄様、セクハラはやめるのです!」
姉たちとは違ってカナエとは今でも一緒にお風呂に入っている。
「二人、本当に仲良いね」
いや、エミルとエミリだってそうだろう。
チャイムがなり、カナエはクラスに戻って行き、みんな席に着いた。
そういえば、ここのところ転生ローンとかいう請求書が届いている。現代は、このような悪質な嫌がらせをしているのかと思うと苛立つ。1億9千万円なんて誰が借りるものか。冗談でも許せないくらい、しつこく催促の通知が来る。それも郵便だけでなくメールも来るのである。
転生ローンだなんて馬鹿馬鹿しい。死んだらそこで終わりだろう。転生してまで買うものなんて、この世にあるのだろうか。
休日、セナさんの別荘で集まった。
セナさんの別荘には何回か来たことはあるが、やはり何回来ても王室の別荘は規模が違うなあと感じさせられてしまう。
お昼までは温水プールで遊ぶことになった。
「カナエ、ここだと良いけど他所でビキニなんか着るなよ」
カナエは高校生に上がってから、やたらとオシャレに気を使っている。カナエも女の子なのだろうか。あの小さくて、いつも私の後を追いかけていたカナエが……。
「2メートルはあるから浮き輪使って」
振り返るとワンピースの水着を着たセナさんがいた。ガッカリしてしまったのは下心からだろうか。このメンバーだけならビキニを着てくれても良いのに。いや、セナさんに告白するのは今月だ気を引き締めないと。
「ありがとう」
私は浮き輪を受け取るとカナエに渡した。
「お兄様、カナエは泳げます! それにセレナールもユメさんもビキニではありませんか!」
けれど、セナさんはビキニではない。セレナールのビキニ姿は学年の男が喜ぶだろうけど、ユメさんは痩せすぎて映えない気がする。
「カラルリ、泳ぎ方教えて」
いきなりセレナールが腕を組んできた。めちゃくちゃ困る。セナさん、誤解しないと良いけど。
「そんなことより、まずはカラルリがプール入ってみたら? 実際の深さ知っておいた方が良いと思うのよね。ライフジャケットなら20メートル置きにあるから、万が一の時は使って」
セナさんはセレナールを振り解き、私の手をつかんでプールにダイブした。これって期待しても良いのだろうか。さっきのがヤキモチだったなら、私とセナさんは両想い……?
「ちょっと、カラルリ! 待ってよ!!」
セレナールの声が聞こえるけど泳いでは来れないだろう。
「手離すわよ。浮いてみて」
そっか。手を繋いだままダイブしたんだっけ。けれど、こういう時こそ逃したくない。本当は泳げるけれど私はセナさんの両肩に手を置いた。
「ちょっと久々だから怖いかな」
セナさんはジッとしている。
「そう。でも、元々泳げるなら大丈夫よ」
私は、もっとセナさんに近付きたくてセナさんを抱き締めた。早すぎただろうか。けれど、我慢出来なかった。
「そうだね。でもやっぱりまだ慣れないや」
セナさんの身体柔らかい。その時、いきなりカナエに扇子で肩を叩かれた。
「お兄様! こんなところでイチャつくのはやめてください!」
ったく。あわよくば口付け出来たかもしれない良いところだったのに。私はセナさんから引き離され、一人で浮いた。けれど、ワンピースタイプのものとはいえ、セナさんの水着姿を眺めているのも幸せだ。身長はカナエくらいだけれど、めちゃくちゃ美人で一つ一つの仕草が色っぽい。四月の頭に学校でセナさんのスカートがめくれた時のことを思い出す。あの時に見た純白の下着は今でも頭から離れない。
「カナエ、泳げる? サポートしようか?」
またアルフォンス王子、カナエのこと構おうとしている。
「カナエは大丈夫です。ユメさんは泳げませんので、ユメさんのお傍にいてあげてください」
またユメさん泣きそうになっている。咄嗟に私は叫んだ。
「みんな、こっち来なよ!」
けれど、ユメさんはその場に崩れ落ちた。プールに入らないまま、夜のBBQも楽しめないなんて、あんまりだ。どうして、こうも上手くいかないのだろう。
「セナさん、私ユメさんのところ行ってくる」
メンバーが誰か一人でも欠けてはダメだ。このメンバーで青春を送ると決めたのだから。
「私も行くわ」
私は泳ぎはじめるセナさんの手を取って一緒に泳いだ。セナさんも私の手を握り返してくれた。まるで恋人みたいだ。こんな時間がずっと続けば良いのに。
プールから上がると、私は使用人にタオルをもらい、ユメさんにかけた。
「ごめん、ユメさん。カナエとアルフォンス王子は兄妹のような関係で、ユメさんが思っているようなものじゃないから」
そうであってほしいと願うものの、アルフォンス王子は明らかカナエに気がある。カナエもまた、アルフォンス王子に気を使っている。
「ユメさん、アルフォンスには言い聞かせるから大目に見てくれないかしら」
けれど、ユメさんはずっと泣いている。
「二人は良いじゃない!幸せなあなたたちを見てると余計に惨めになるわ!」
セナさんと私、仲良しに見えるのだろうか。その時、チャイムが鳴った。
「私行ってくるわ」
私は思わずセナさんの腕をつかんだ。
「セナさん、今プールにいるし、その姿で行くのは不味いよ」
いくらワンピース水着とはいえ、やっぱり見られたくない。濡れた髪も、より色っぽくなっている。好きだなあ、セナさんのこと。
「あ、そうよね。客も来たことだしリビング行きましょうか」
そのほうがいい。けれど、その客とやらは光の速さでここへ来た。
「お客様でございます」
セイ……と、ミナク。どうしてミナクが……! この時、一瞬嫌な予感がした。けれど、それは一瞬で頭の中から消え、何事もなかったかのように思えた。
「セイ! どうしてあなたがここにいるのよ!」
本当にどうしているんだ。けれど、それより私はミナクがこの別荘にいることのほうが不自然に思えた。
「あの、弟さんですよね? この人が一人だと兄も姉も入れてくれないからと私に着いてきて欲しいと……」
ミナクは金髪にピアス。ワザと肌の出した服装。相変わらずだな。
「ミナク! お久しぶりです! 元気ですか?」
カナエは昔からクレナイ家三兄弟を弟のように可愛がっている。
「え、知り合いなの? それより弟を届けてもらってごめんなさい。そうだ! あなたも参加しない? 今日はお家パーティーしてるの」
セナさんも、どうしてこんなヤツ誘うんだ。
「セナさん、やめといたほうがいいよ。コイツ、女遊び凄くって学年中の女の子泣かされてるんだ」
セナさんとは知り合ってほしくなかった。こんな遊び人、ロクでもない。どうせ、セナさんまで口説くに決まっている。
「用事は済みましたので私はこれで失礼します」
そうだ、帰ればいい。見知らぬ女と遊べばいい。ここは私とセナさんの愛の巣だ。
「ミナク、せっかくセナさんも誘っていますし、少しだけでも遊んでいきませんか?」
カナエもカナエだな。私はセナさんとの時間を引き裂かれるのは絶対に嫌だ。
「カナエも知ってるだろ? ミナクがどれだけ女泣かせてきたか。こんなヤツと関わったら、こっちまで巻き込まれる」
どうしてセイを連れて来たのがよりによってミナクなんだ。お武家の中では二番目に嫌いなヤツだ。
「えっと、ミナクだっけ? カナエとはどんな関係?」
アルフォンス王子もどうして引き止める。
「カナエとミナクは幼なじみで、ミナクはカナエにとって弟のような存在です!」
はあ、ミナクと会えて嬉しいからってミナクに聞いたことをカナエが答えてどうする。
「カナエ、アルフォンス王子はミナクに聞いてるんだ。カナエには聞いてない」
なんだか苛立ってくる。その時、セナさんが私の手を握ってくれた。一瞬にして変わる世界観。セナさん、好きだよ。
「カナエさんの言う通り、幼なじみでカナエさんは私にとって姉のような存在です」
姉って。お前の姉はリリカだろうが。それもカナエのクラスメイト。
「そっか。ただ、私もセナもはじめて会うし、カラルリは君を良く思ってないみたいだから、ここで勝負してもらえるかな?」
どうしてそうなる。けれど、勝負に勝てばミナクを追い払うことが出来る。とっとと追い払うに越したことはない。
「あの、このまま帰る選択肢はないでしょうか?」
帰る? 逃げるつもりなのか?
「ミナク、日頃の成果をカナエに見せてください」
ミナクミナクって、同じ武家なだけで赤の他人じゃないか。
「……分かりました」
こんなチャランポランなヤツが私に勝てるものか。
「水着渡すから着いて来て、ミナク」
どうしてセナさんが……! そんなの使用人に頼めば良いじゃないか! 私が口を開こうとした瞬間、二人はプールを出た。
心配だ。私も行ったほうがいいだろうか。もし、ミナクが無理矢理セナさんに何かしたら……。
そんな心配もよそに20分後、二人は戻って来た。けれど、どことなくセナさんの顔が火照っている気がする。ミナクが何かしたのだろうか。聞くに聞けないのがもどかしい。
「ルールはカラルリとミナクがプールの端まで泳いで再びスタート地点に速く戻って来たほうの勝ち。泳ぎの型式は問わない。向こうにはカナエと私が、ここはセナとセレナールが見てるから」
いや、ここでカナエと向こうに行ったら、またユメさんが機嫌を損ねてしまう。けれど、今はそんなこと考えている余裕はない。ミナクに勝って、ここからミナクを追い出すほうが先だ!
ここのプールは確か端まで200メートル。勝負は400メートル。絶対に勝つ!
「二人とも位置について!」
アルフォンス王子の掛け声と共に私たちはスタート地点に立った。
「スタート!」
私とミナクはプールへ飛び込んだ。この勝負勝ったも同然だ。
とタカをくくっていたが、ミナクに抜かされている。私は焦りはじめた。私が知るミナクは弱かった。武家の恥なくらいに。そのミナクが今、私から徐々に遠ざかってゆく。
「カラルリ! 頑張って!」
セナさん……。そうだ、まだはじまったばかりじゃないか。けれど、ダメだ。追いつくどころが、どんどん引き離されている。それでも泳ぐしかない。セナさんにかっこ悪いところ見せて、めちゃくちゃ恥ずかしいけど、一度入ったなら出ないと。私はとにかく泳ぎ続けた。どのくらい経っただろう。まだ200メートル地点にも辿り着けていない。えっ、今ミナクとすれ違った!? ダメだ……。不正でもしたのか?
「2分48秒。勝者ミナク! カラルリ、戻って来て!」
セレナールの声と共に試合も私の人生も終わった。私は、折り返し地点には行かず、しぶしぶスタート地点へ戻りはじめた。かっこ悪い。セナさん、絶望しただろうか。400メートルは4分はかかる。それをミナクは2分台でクリアした。
私がプールから上がるとカナエがミナクを抱き締めていた。
「訓練は怠っていなかったのですね、ミナク」
ミナクミナクって本当に……。
「はい、カナエさんとの約束ですから」
姉とか弟とか、姉はリリカで弟はヨルクとラルクだろうが。他人の妹を姉呼ばわりするなんて本当に気に入らない。けれど、負けた以上口答えも出来ない。
「とりあえず、ミナクはここにいていいけど、カナエとは本当に幼なじみ?」
アルフォンス王子……。やっぱりユメさんじゃなくカナエに気があるのか。そしてカナエも……。
「はい、ずっと実の姉のように慕ってきました。もし、異性としてタイプがいるとするなら、セナ王女ですね」
やっぱりセナさんを狙っているのか! セナさんを渡すものか!
「だって、セナ」
アルフォンス王子はセナさんを見た。セナさんの頬を赤らめている。まさかミナクに意識してるのか!?
「私は恋愛とか考えられないわ。ゆっくりするために転校したわけだし」
それって、私が告白しても交際はしないということだろうか。
「ユメさん、ちょっと話そうか」
アルフォンス王子はユメさんを連れ、プールを出た。
「セレナールのビキニ姿セクシー」
そういえば、セイいたんだった。
「いや! いつから撮ってたの? 返して!」
セイの野郎、無音カメラでセレナールを撮影していたのか。セイの手がセレナールの太ももに触れようとしたのをミナクが止めた。
「無理矢理は良くないんじゃないんですか?」
ミナクのヤツ、カッコつけやがって。ミナクが来てから散々だ。カッコ悪いところばかり、セナさんに見られている。
「おい、フェアホ返せ!」
ミナクは、どこまでこのグループに割り込んでくるつもりだ。
「データ消しておきました、セレナールさん」
まさか、セレナールのことまで口説こうとしているのか?
「ありがとう」
ミナクにメンタルを荒らされ、その後のプールでの出来事は殆ど覚えていなかった。
気が付けば、カナエが作った料理が並んでいた。そして、ミナクの手当てをしている。アルフォンス王子とユメさんは、まだ戻っていない。
「ミナク、また喧嘩でもしたのか。とんでもない野郎だな」
こんな女遊びをしているヤツなんか、これっきりにしてほしい。このグループには不釣り合いだ。
「リリカは気が強いですから」
例えリリカだとしてもミナクに問題があるだろう。
「え、リリカって……」
そうか、武家以外はミナクがどんなヤツなのかを知らない。クレナイ家もミナクがいなければ、まともな人間ばかりなのだけど。ミナクだけがイカれている。
「ミナクはリリカの弟なのです」
セレナールもどうしてこんなヤツに興味持つのか。セレナールは妹同然だからミナクには渡せない。セナさんはもっと渡せない。
「えっ、そうだったの? 全然似てないから気付かなかったわ。私、リリカと同じクラスなの」
はあ、ミナクが来てからつまらない。
「姉がお世話になっています」
ミナクも、ここではすっかりいい子ぶって、気に入らない。
「リリカとは似てないかもしれませんが弟とミナクは似ているのです」
どうして似てる似てないの話題になっているんだ。クレナイ家が似てなさすぎだろう。
「いや、ヨルクとは全然似てないだろ」
ミナクもラルクも容姿は整っている。けれど、ヨルクは整っているなんてもんじゃない。セレナールのような誰もが振り返るほどの美男だ。
「弟いるの? いくつ?」
ああ、私の居場所がない。苛立ってくる。
「一番下が中一で二番目が中二です」
そういえば、セレナールって弟いたっけ。見たこともないけれど。
「本当!? 私の弟も中学二年生なの」
セレナールはミナクにフェアホを見せた。
「セレナールさんに似て容姿端麗ですね」
けれど、ヨルクには敵わない。と思う。ヨルクは容姿に恵まれすぎて私の一番気に入らない人物だ。
「ミナクも武家なの?」
どうしてセナさんまで話題に入るんだ。私はセナさんの手を握ろうとしたけど、セナさんは机に手を置いた。
「はい、クレナイ家の長男です」
ミナクが来てから本当につまらない。セイもどうして、ここへ来たんだ。せっかくセナさんとの時間を楽しめると思っていたのに。
「クレナイ家って、どこにあるの?」
ダメだ。このままではセナさんとミナクが仲良くなってしまう。
「セナさん、部屋行っていい?」
ミナクがここにいるならセナさんと二人きりになればいい。
「ごめんなさい。私はここでお話してたいから、部屋に行きたいなら一人で行ってくれるかしら」
そんな……。どうしてみんなミナクに興味持つんだ。セナさんのことは気がかりだけど、今はここにいたくない。私はセナさんの部屋に向かった。
何だかんだでミナクは夜のBBQも参加して、あろうことかこの別荘に泊まって行った。おかげで、私はBBQも楽しめなかったし、夜はセナさんの部屋で休むことも出来ず朝を迎えた。
ふと私は、フェアリー日記を開けた。フェアリーZ広場などのSNSは全体公開になってしまうから、私たちはグループが出来て直ぐにグループのメンバーだけが見れる日記のようなフェアリー日記を登録していたのである。そして、みんながユメさんを見ていた。ユメさんのフェアリー日記にはこう書かれていた。
『水花卒業しました』
えっ、ユメさんとアルフォンス王子が!? そこまで親睦深まっていたようには見えなかったけど。この時は誰もが知らなかった。カナエとの関わりを許す代わりにユメさんがアルフォンス王子に交換条件を提示したことを。
「ユ、ユメさん、おめでとう」
セレナールは半ば苦笑していた。
アルフォンス王子は気まずそうにしている。カナエは知らぬフリをしている。大丈夫なのだろうか。
それにしても人というのは分からないものである。いくら交際しているとはいえ、最初に交わした『友達のような関係』を破ってまでカナエの存在を気にしすぎていたのだろうか。このような状況にひとたび陥れば、自分の存在が消えてしまうような恐怖に陥るのだ。そう、今の私のように。
ある日の学校帰り。セリルとカラクリ家で集まった。こんな風に男同士で語り合うのも久々だし、セナさんのこともボヤけられて今の私にとっては良いかもしれない。
「へえ、ミナクも変わんないねえ」
もし、エミルだったら勝てただろうか。頭を過ぎるほどにモヤモヤしてくる。あの時はセナさんにカッコ悪いとこ見せてしまって今でも気まずい。
「まあな。あんなチャラいヤツにセナさんと仲良くされて、こっちはめちゃくちゃ迷惑だ」
もし、ミナクがいなければ、あの日、セナさんの部屋で過ごせただろうか。私から見てもセナさんとは徐々に友達以上になっていた気がする。
「でも、カラルリとセナ王女、良い感じじゃん。告白するんだろ?」
エミルは淡々としてるから、この人と感じたら告白するだろう。けれど、私は先延ばしにしてしまっている。
「うん、今月するつもり!」
もう出来るだけ早く告白して恋人になりたい。それだけミナクの存在が目障りだ。あれだけ女遊びしておいて、セナさんにも言い寄って本当に何様だ。
その時、テレビからニュースが流れた。
『2020年から流行りだした転生ローンを利用する人は4年前の何倍にも増えました。しかし、その反面、返し切れなくて緑風華をする人も出はじめました。転生ローンは契約で誰でも組めますが返し切れず人生に歪みが生じてしまうことが現在問題に問われています』
転生ローン!? これって、本当にあったのか!? 嘘だろ!?
「な、なあ。私、転生ローンの催促来てるんだけど……これってマジなのか?」
私が言うと、二人は顔を見合わせた。
「淡い緑の封筒で、いつ何を買ったか書いてあった? 返済は後どのくらいかな?」
真剣そうにセリルは私を見つめた。
「確かに淡い緑だったと思う。えっと……」
私は念の為撮っておいた写真を見るため、フェアホを取り出した。そして、エミルは私のフェアホを覗き込んだ。
「え、1億9千万円て! それも、元々2億三千万円のもので、4千万円は返してる。どうやって返したんだ!?」
転生……? てことは前世があるのか!? とてもじゃないけど信じられない。
「なあ、前世なんてあるのか?」
嘘だろ! 2億三千万円のものなんて買った記憶も前世も全く覚えていない! どうしたらいいんだ!
「うん、あるみたいだよ。私は古代の記憶を思い出すことがある」
エミルは前世を信じているのか。
「カラルリ、よく聞いて。転生ローンは確実に存在していて、転生しても払い終わるまで催促が来るローンなんだ。だからニュースの緑風華だなんて何の意味もない。町役場で、その転生ローンの催促が事実か確認出来るから今から行こう」
セリルの言葉で私たちは制服のまま紅葉町役場へ向かった。
「確かに、催促通り2億三千万円のフェアリーフォンの指輪を購入し、四千万円を返されて残り1億9000万円ですね。三回転生して返済出来ない人が家を取り上げられている事例もありますので、お早い返済をオススメします」
そんな……1億9000万円だなんて……。
返す当てがない……。
私はその場に崩れた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
忘れた頃にとは言いますが。
転生ローンとか現実にあったら怖いです。
それに、せっかく記憶を失ったセナともう一度元の関係になれそうな時にミナクが現れるなんて、これって三角関係のはじまりでしょうか。
なかなか上手く行きませんねえ。
転生ローン、返せるのか!?
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
《カラルリ》
商店街に新しく出来たカフェで、ユメさんは機嫌を損ねてしまった。けれど、数日後の話し合いで、アルフォンス王子が週に三回、ユメさんに勉強を教える形で状況は収まった。私としても、妹のカナエを目の敵にされたままでは心境があまり良くないゆえ、これで良かったと思っている。
時が経つのも早いもので、もう五月だ。つまり、セナさんと知り合って、ひと月以上過ぎたことになる。
セナさんが妖精村学園に転校してきたその日から私はセナさんに一目惚れをした。それがだんだんと恋愛感情に変わってきた気がする。いつもセナさんのこと考えているし、セナさんに話しかける男子にヤキモチも妬く。少なくとも私はセナさんのことが好きなのだろう。けれど、セナさんはどうだろう。私としては仲良くしているつもりだけど、セナさんは仮にも王女だし私とは釣り合わない。それでもセナさんのことばかり見てしまう。
美人で強くて意見はハッキリ言うタイプで、セナさんの一つ一つが私の胸をときめかせる。
「お兄様、お手紙です」
またか。小学生の時からカナエには何度も言っているが、それでもカナエはこうやって持って来る。
「悪いが、私はカナエを通したものは全て受け取らない」
というか、セナさんの前で受け取れるわけないし、前なんて、そのまま教室のゴミ箱に捨てていた。私は恋を知らなかった。手紙を書いてくれる人は少なくとも私の何かに惹かれているのだろうけど、私にはそういう乙女心は全く分からなかったのである。そう、セナさんと出会うまで。
「カラルリ固すぎ。適当に返事書けば?」
エミルはエミリの兄でカラクリ家の長男である。そして、私とは小さい頃からの幼なじみ。
「いや、流石にめんどくさい」
好きでもない女に返事など気が引ける。
「でも何も捨てることないと思うわ。アルフォンスなんて手紙の相手全員に次からいらないって返事書いたら手紙少なくなったし」
アルフォンス王子も徹底してるなあ。まあ、今はユメさんと交際してるし他の女と個人的にやり取りというのも出来ないよな。
「僕は全員に返事書いてるけど。カラルリはどうして一通も読まないのかな?」
セリルはクラスの副委員長でセレナールの兄。小さい頃から、よくキクリ家に来ていて、武家でないもののセリルとも幼なじみなのだ。
「あのさセリル。それ自分の時間持てるわけ?」
アルフォンス王子って、時折どこか冷めたような雰囲気。いや、元からクールなタイプだったか。
「長文じゃないし、せっかくもらった手紙を読まないなんて相手に失礼だから。それに宿題した後に返事は書いてるし、家事もしてるし、特に支障はきたしてないよ」
セリルは頭脳明晰で要領が良い。私やエミルとは違って誰にでも優しくて学年だと一番のイケメンだと思う。
「そんなことよりカナエ、また胸大きくなったんじゃないのか」
カナエは身長の割りに胸が大きい。
「お兄様、セクハラはやめるのです!」
姉たちとは違ってカナエとは今でも一緒にお風呂に入っている。
「二人、本当に仲良いね」
いや、エミルとエミリだってそうだろう。
チャイムがなり、カナエはクラスに戻って行き、みんな席に着いた。
そういえば、ここのところ転生ローンとかいう請求書が届いている。現代は、このような悪質な嫌がらせをしているのかと思うと苛立つ。1億9千万円なんて誰が借りるものか。冗談でも許せないくらい、しつこく催促の通知が来る。それも郵便だけでなくメールも来るのである。
転生ローンだなんて馬鹿馬鹿しい。死んだらそこで終わりだろう。転生してまで買うものなんて、この世にあるのだろうか。
休日、セナさんの別荘で集まった。
セナさんの別荘には何回か来たことはあるが、やはり何回来ても王室の別荘は規模が違うなあと感じさせられてしまう。
お昼までは温水プールで遊ぶことになった。
「カナエ、ここだと良いけど他所でビキニなんか着るなよ」
カナエは高校生に上がってから、やたらとオシャレに気を使っている。カナエも女の子なのだろうか。あの小さくて、いつも私の後を追いかけていたカナエが……。
「2メートルはあるから浮き輪使って」
振り返るとワンピースの水着を着たセナさんがいた。ガッカリしてしまったのは下心からだろうか。このメンバーだけならビキニを着てくれても良いのに。いや、セナさんに告白するのは今月だ気を引き締めないと。
「ありがとう」
私は浮き輪を受け取るとカナエに渡した。
「お兄様、カナエは泳げます! それにセレナールもユメさんもビキニではありませんか!」
けれど、セナさんはビキニではない。セレナールのビキニ姿は学年の男が喜ぶだろうけど、ユメさんは痩せすぎて映えない気がする。
「カラルリ、泳ぎ方教えて」
いきなりセレナールが腕を組んできた。めちゃくちゃ困る。セナさん、誤解しないと良いけど。
「そんなことより、まずはカラルリがプール入ってみたら? 実際の深さ知っておいた方が良いと思うのよね。ライフジャケットなら20メートル置きにあるから、万が一の時は使って」
セナさんはセレナールを振り解き、私の手をつかんでプールにダイブした。これって期待しても良いのだろうか。さっきのがヤキモチだったなら、私とセナさんは両想い……?
「ちょっと、カラルリ! 待ってよ!!」
セレナールの声が聞こえるけど泳いでは来れないだろう。
「手離すわよ。浮いてみて」
そっか。手を繋いだままダイブしたんだっけ。けれど、こういう時こそ逃したくない。本当は泳げるけれど私はセナさんの両肩に手を置いた。
「ちょっと久々だから怖いかな」
セナさんはジッとしている。
「そう。でも、元々泳げるなら大丈夫よ」
私は、もっとセナさんに近付きたくてセナさんを抱き締めた。早すぎただろうか。けれど、我慢出来なかった。
「そうだね。でもやっぱりまだ慣れないや」
セナさんの身体柔らかい。その時、いきなりカナエに扇子で肩を叩かれた。
「お兄様! こんなところでイチャつくのはやめてください!」
ったく。あわよくば口付け出来たかもしれない良いところだったのに。私はセナさんから引き離され、一人で浮いた。けれど、ワンピースタイプのものとはいえ、セナさんの水着姿を眺めているのも幸せだ。身長はカナエくらいだけれど、めちゃくちゃ美人で一つ一つの仕草が色っぽい。四月の頭に学校でセナさんのスカートがめくれた時のことを思い出す。あの時に見た純白の下着は今でも頭から離れない。
「カナエ、泳げる? サポートしようか?」
またアルフォンス王子、カナエのこと構おうとしている。
「カナエは大丈夫です。ユメさんは泳げませんので、ユメさんのお傍にいてあげてください」
またユメさん泣きそうになっている。咄嗟に私は叫んだ。
「みんな、こっち来なよ!」
けれど、ユメさんはその場に崩れ落ちた。プールに入らないまま、夜のBBQも楽しめないなんて、あんまりだ。どうして、こうも上手くいかないのだろう。
「セナさん、私ユメさんのところ行ってくる」
メンバーが誰か一人でも欠けてはダメだ。このメンバーで青春を送ると決めたのだから。
「私も行くわ」
私は泳ぎはじめるセナさんの手を取って一緒に泳いだ。セナさんも私の手を握り返してくれた。まるで恋人みたいだ。こんな時間がずっと続けば良いのに。
プールから上がると、私は使用人にタオルをもらい、ユメさんにかけた。
「ごめん、ユメさん。カナエとアルフォンス王子は兄妹のような関係で、ユメさんが思っているようなものじゃないから」
そうであってほしいと願うものの、アルフォンス王子は明らかカナエに気がある。カナエもまた、アルフォンス王子に気を使っている。
「ユメさん、アルフォンスには言い聞かせるから大目に見てくれないかしら」
けれど、ユメさんはずっと泣いている。
「二人は良いじゃない!幸せなあなたたちを見てると余計に惨めになるわ!」
セナさんと私、仲良しに見えるのだろうか。その時、チャイムが鳴った。
「私行ってくるわ」
私は思わずセナさんの腕をつかんだ。
「セナさん、今プールにいるし、その姿で行くのは不味いよ」
いくらワンピース水着とはいえ、やっぱり見られたくない。濡れた髪も、より色っぽくなっている。好きだなあ、セナさんのこと。
「あ、そうよね。客も来たことだしリビング行きましょうか」
そのほうがいい。けれど、その客とやらは光の速さでここへ来た。
「お客様でございます」
セイ……と、ミナク。どうしてミナクが……! この時、一瞬嫌な予感がした。けれど、それは一瞬で頭の中から消え、何事もなかったかのように思えた。
「セイ! どうしてあなたがここにいるのよ!」
本当にどうしているんだ。けれど、それより私はミナクがこの別荘にいることのほうが不自然に思えた。
「あの、弟さんですよね? この人が一人だと兄も姉も入れてくれないからと私に着いてきて欲しいと……」
ミナクは金髪にピアス。ワザと肌の出した服装。相変わらずだな。
「ミナク! お久しぶりです! 元気ですか?」
カナエは昔からクレナイ家三兄弟を弟のように可愛がっている。
「え、知り合いなの? それより弟を届けてもらってごめんなさい。そうだ! あなたも参加しない? 今日はお家パーティーしてるの」
セナさんも、どうしてこんなヤツ誘うんだ。
「セナさん、やめといたほうがいいよ。コイツ、女遊び凄くって学年中の女の子泣かされてるんだ」
セナさんとは知り合ってほしくなかった。こんな遊び人、ロクでもない。どうせ、セナさんまで口説くに決まっている。
「用事は済みましたので私はこれで失礼します」
そうだ、帰ればいい。見知らぬ女と遊べばいい。ここは私とセナさんの愛の巣だ。
「ミナク、せっかくセナさんも誘っていますし、少しだけでも遊んでいきませんか?」
カナエもカナエだな。私はセナさんとの時間を引き裂かれるのは絶対に嫌だ。
「カナエも知ってるだろ? ミナクがどれだけ女泣かせてきたか。こんなヤツと関わったら、こっちまで巻き込まれる」
どうしてセイを連れて来たのがよりによってミナクなんだ。お武家の中では二番目に嫌いなヤツだ。
「えっと、ミナクだっけ? カナエとはどんな関係?」
アルフォンス王子もどうして引き止める。
「カナエとミナクは幼なじみで、ミナクはカナエにとって弟のような存在です!」
はあ、ミナクと会えて嬉しいからってミナクに聞いたことをカナエが答えてどうする。
「カナエ、アルフォンス王子はミナクに聞いてるんだ。カナエには聞いてない」
なんだか苛立ってくる。その時、セナさんが私の手を握ってくれた。一瞬にして変わる世界観。セナさん、好きだよ。
「カナエさんの言う通り、幼なじみでカナエさんは私にとって姉のような存在です」
姉って。お前の姉はリリカだろうが。それもカナエのクラスメイト。
「そっか。ただ、私もセナもはじめて会うし、カラルリは君を良く思ってないみたいだから、ここで勝負してもらえるかな?」
どうしてそうなる。けれど、勝負に勝てばミナクを追い払うことが出来る。とっとと追い払うに越したことはない。
「あの、このまま帰る選択肢はないでしょうか?」
帰る? 逃げるつもりなのか?
「ミナク、日頃の成果をカナエに見せてください」
ミナクミナクって、同じ武家なだけで赤の他人じゃないか。
「……分かりました」
こんなチャランポランなヤツが私に勝てるものか。
「水着渡すから着いて来て、ミナク」
どうしてセナさんが……! そんなの使用人に頼めば良いじゃないか! 私が口を開こうとした瞬間、二人はプールを出た。
心配だ。私も行ったほうがいいだろうか。もし、ミナクが無理矢理セナさんに何かしたら……。
そんな心配もよそに20分後、二人は戻って来た。けれど、どことなくセナさんの顔が火照っている気がする。ミナクが何かしたのだろうか。聞くに聞けないのがもどかしい。
「ルールはカラルリとミナクがプールの端まで泳いで再びスタート地点に速く戻って来たほうの勝ち。泳ぎの型式は問わない。向こうにはカナエと私が、ここはセナとセレナールが見てるから」
いや、ここでカナエと向こうに行ったら、またユメさんが機嫌を損ねてしまう。けれど、今はそんなこと考えている余裕はない。ミナクに勝って、ここからミナクを追い出すほうが先だ!
ここのプールは確か端まで200メートル。勝負は400メートル。絶対に勝つ!
「二人とも位置について!」
アルフォンス王子の掛け声と共に私たちはスタート地点に立った。
「スタート!」
私とミナクはプールへ飛び込んだ。この勝負勝ったも同然だ。
とタカをくくっていたが、ミナクに抜かされている。私は焦りはじめた。私が知るミナクは弱かった。武家の恥なくらいに。そのミナクが今、私から徐々に遠ざかってゆく。
「カラルリ! 頑張って!」
セナさん……。そうだ、まだはじまったばかりじゃないか。けれど、ダメだ。追いつくどころが、どんどん引き離されている。それでも泳ぐしかない。セナさんにかっこ悪いところ見せて、めちゃくちゃ恥ずかしいけど、一度入ったなら出ないと。私はとにかく泳ぎ続けた。どのくらい経っただろう。まだ200メートル地点にも辿り着けていない。えっ、今ミナクとすれ違った!? ダメだ……。不正でもしたのか?
「2分48秒。勝者ミナク! カラルリ、戻って来て!」
セレナールの声と共に試合も私の人生も終わった。私は、折り返し地点には行かず、しぶしぶスタート地点へ戻りはじめた。かっこ悪い。セナさん、絶望しただろうか。400メートルは4分はかかる。それをミナクは2分台でクリアした。
私がプールから上がるとカナエがミナクを抱き締めていた。
「訓練は怠っていなかったのですね、ミナク」
ミナクミナクって本当に……。
「はい、カナエさんとの約束ですから」
姉とか弟とか、姉はリリカで弟はヨルクとラルクだろうが。他人の妹を姉呼ばわりするなんて本当に気に入らない。けれど、負けた以上口答えも出来ない。
「とりあえず、ミナクはここにいていいけど、カナエとは本当に幼なじみ?」
アルフォンス王子……。やっぱりユメさんじゃなくカナエに気があるのか。そしてカナエも……。
「はい、ずっと実の姉のように慕ってきました。もし、異性としてタイプがいるとするなら、セナ王女ですね」
やっぱりセナさんを狙っているのか! セナさんを渡すものか!
「だって、セナ」
アルフォンス王子はセナさんを見た。セナさんの頬を赤らめている。まさかミナクに意識してるのか!?
「私は恋愛とか考えられないわ。ゆっくりするために転校したわけだし」
それって、私が告白しても交際はしないということだろうか。
「ユメさん、ちょっと話そうか」
アルフォンス王子はユメさんを連れ、プールを出た。
「セレナールのビキニ姿セクシー」
そういえば、セイいたんだった。
「いや! いつから撮ってたの? 返して!」
セイの野郎、無音カメラでセレナールを撮影していたのか。セイの手がセレナールの太ももに触れようとしたのをミナクが止めた。
「無理矢理は良くないんじゃないんですか?」
ミナクのヤツ、カッコつけやがって。ミナクが来てから散々だ。カッコ悪いところばかり、セナさんに見られている。
「おい、フェアホ返せ!」
ミナクは、どこまでこのグループに割り込んでくるつもりだ。
「データ消しておきました、セレナールさん」
まさか、セレナールのことまで口説こうとしているのか?
「ありがとう」
ミナクにメンタルを荒らされ、その後のプールでの出来事は殆ど覚えていなかった。
気が付けば、カナエが作った料理が並んでいた。そして、ミナクの手当てをしている。アルフォンス王子とユメさんは、まだ戻っていない。
「ミナク、また喧嘩でもしたのか。とんでもない野郎だな」
こんな女遊びをしているヤツなんか、これっきりにしてほしい。このグループには不釣り合いだ。
「リリカは気が強いですから」
例えリリカだとしてもミナクに問題があるだろう。
「え、リリカって……」
そうか、武家以外はミナクがどんなヤツなのかを知らない。クレナイ家もミナクがいなければ、まともな人間ばかりなのだけど。ミナクだけがイカれている。
「ミナクはリリカの弟なのです」
セレナールもどうしてこんなヤツに興味持つのか。セレナールは妹同然だからミナクには渡せない。セナさんはもっと渡せない。
「えっ、そうだったの? 全然似てないから気付かなかったわ。私、リリカと同じクラスなの」
はあ、ミナクが来てからつまらない。
「姉がお世話になっています」
ミナクも、ここではすっかりいい子ぶって、気に入らない。
「リリカとは似てないかもしれませんが弟とミナクは似ているのです」
どうして似てる似てないの話題になっているんだ。クレナイ家が似てなさすぎだろう。
「いや、ヨルクとは全然似てないだろ」
ミナクもラルクも容姿は整っている。けれど、ヨルクは整っているなんてもんじゃない。セレナールのような誰もが振り返るほどの美男だ。
「弟いるの? いくつ?」
ああ、私の居場所がない。苛立ってくる。
「一番下が中一で二番目が中二です」
そういえば、セレナールって弟いたっけ。見たこともないけれど。
「本当!? 私の弟も中学二年生なの」
セレナールはミナクにフェアホを見せた。
「セレナールさんに似て容姿端麗ですね」
けれど、ヨルクには敵わない。と思う。ヨルクは容姿に恵まれすぎて私の一番気に入らない人物だ。
「ミナクも武家なの?」
どうしてセナさんまで話題に入るんだ。私はセナさんの手を握ろうとしたけど、セナさんは机に手を置いた。
「はい、クレナイ家の長男です」
ミナクが来てから本当につまらない。セイもどうして、ここへ来たんだ。せっかくセナさんとの時間を楽しめると思っていたのに。
「クレナイ家って、どこにあるの?」
ダメだ。このままではセナさんとミナクが仲良くなってしまう。
「セナさん、部屋行っていい?」
ミナクがここにいるならセナさんと二人きりになればいい。
「ごめんなさい。私はここでお話してたいから、部屋に行きたいなら一人で行ってくれるかしら」
そんな……。どうしてみんなミナクに興味持つんだ。セナさんのことは気がかりだけど、今はここにいたくない。私はセナさんの部屋に向かった。
何だかんだでミナクは夜のBBQも参加して、あろうことかこの別荘に泊まって行った。おかげで、私はBBQも楽しめなかったし、夜はセナさんの部屋で休むことも出来ず朝を迎えた。
ふと私は、フェアリー日記を開けた。フェアリーZ広場などのSNSは全体公開になってしまうから、私たちはグループが出来て直ぐにグループのメンバーだけが見れる日記のようなフェアリー日記を登録していたのである。そして、みんながユメさんを見ていた。ユメさんのフェアリー日記にはこう書かれていた。
『水花卒業しました』
えっ、ユメさんとアルフォンス王子が!? そこまで親睦深まっていたようには見えなかったけど。この時は誰もが知らなかった。カナエとの関わりを許す代わりにユメさんがアルフォンス王子に交換条件を提示したことを。
「ユ、ユメさん、おめでとう」
セレナールは半ば苦笑していた。
アルフォンス王子は気まずそうにしている。カナエは知らぬフリをしている。大丈夫なのだろうか。
それにしても人というのは分からないものである。いくら交際しているとはいえ、最初に交わした『友達のような関係』を破ってまでカナエの存在を気にしすぎていたのだろうか。このような状況にひとたび陥れば、自分の存在が消えてしまうような恐怖に陥るのだ。そう、今の私のように。
ある日の学校帰り。セリルとカラクリ家で集まった。こんな風に男同士で語り合うのも久々だし、セナさんのこともボヤけられて今の私にとっては良いかもしれない。
「へえ、ミナクも変わんないねえ」
もし、エミルだったら勝てただろうか。頭を過ぎるほどにモヤモヤしてくる。あの時はセナさんにカッコ悪いとこ見せてしまって今でも気まずい。
「まあな。あんなチャラいヤツにセナさんと仲良くされて、こっちはめちゃくちゃ迷惑だ」
もし、ミナクがいなければ、あの日、セナさんの部屋で過ごせただろうか。私から見てもセナさんとは徐々に友達以上になっていた気がする。
「でも、カラルリとセナ王女、良い感じじゃん。告白するんだろ?」
エミルは淡々としてるから、この人と感じたら告白するだろう。けれど、私は先延ばしにしてしまっている。
「うん、今月するつもり!」
もう出来るだけ早く告白して恋人になりたい。それだけミナクの存在が目障りだ。あれだけ女遊びしておいて、セナさんにも言い寄って本当に何様だ。
その時、テレビからニュースが流れた。
『2020年から流行りだした転生ローンを利用する人は4年前の何倍にも増えました。しかし、その反面、返し切れなくて緑風華をする人も出はじめました。転生ローンは契約で誰でも組めますが返し切れず人生に歪みが生じてしまうことが現在問題に問われています』
転生ローン!? これって、本当にあったのか!? 嘘だろ!?
「な、なあ。私、転生ローンの催促来てるんだけど……これってマジなのか?」
私が言うと、二人は顔を見合わせた。
「淡い緑の封筒で、いつ何を買ったか書いてあった? 返済は後どのくらいかな?」
真剣そうにセリルは私を見つめた。
「確かに淡い緑だったと思う。えっと……」
私は念の為撮っておいた写真を見るため、フェアホを取り出した。そして、エミルは私のフェアホを覗き込んだ。
「え、1億9千万円て! それも、元々2億三千万円のもので、4千万円は返してる。どうやって返したんだ!?」
転生……? てことは前世があるのか!? とてもじゃないけど信じられない。
「なあ、前世なんてあるのか?」
嘘だろ! 2億三千万円のものなんて買った記憶も前世も全く覚えていない! どうしたらいいんだ!
「うん、あるみたいだよ。私は古代の記憶を思い出すことがある」
エミルは前世を信じているのか。
「カラルリ、よく聞いて。転生ローンは確実に存在していて、転生しても払い終わるまで催促が来るローンなんだ。だからニュースの緑風華だなんて何の意味もない。町役場で、その転生ローンの催促が事実か確認出来るから今から行こう」
セリルの言葉で私たちは制服のまま紅葉町役場へ向かった。
「確かに、催促通り2億三千万円のフェアリーフォンの指輪を購入し、四千万円を返されて残り1億9000万円ですね。三回転生して返済出来ない人が家を取り上げられている事例もありますので、お早い返済をオススメします」
そんな……1億9000万円だなんて……。
返す当てがない……。
私はその場に崩れた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
忘れた頃にとは言いますが。
転生ローンとか現実にあったら怖いです。
それに、せっかく記憶を失ったセナともう一度元の関係になれそうな時にミナクが現れるなんて、これって三角関係のはじまりでしょうか。
なかなか上手く行きませんねえ。
転生ローン、返せるのか!?
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
純愛偏差値 未来編 一人称版 130話
《ナミネ》
落ち武者さんの話していたカフェは、最近出来たばかりなのか、とても混んでいた。ここ、前は空き店舗だった気がする。その前は、確か呉服店。時代も変わってゆくもんなんだなあ。
何気にズームさんから貰った花柄の傘、可愛くて貰うことになってしまった。花は見たことないもので、デザインチームが手がけたらしい。
けれど、どう見ても満席だ。待っている人もいるし、ここは諦めた方が良さそう。
「ここ、1時間は待つでしょうし、他に行きませんか?」
カナエさんは早速、skyグループ試作のパーカーを着て身を隠した。そして、偶然なのか必然なのかセナ王女たちが入って来た。私たちは咄嗟にフード付きのパーカーを着た。が、ヨルクさんがポカンとしている。私は咄嗟にヨルクさんをパーカーに入れた。久々に感じるヨルクさんの温もり。飛ばされる前は当たり前だった。だからこそ、当たり前でないことに今実感をする。
「5人でお願い」
うわー、セナ王女、王室育ちなだけに『待つ』ということを知らない。
「ご予約のお客様でしょうか?」
そりゃそうなるわな。1時間待ちだろう一般人もかなりいる。特別扱いは狡い。
「してないわ」
セナ王女たちは、あくまで待たない気なのだろうか。
「でしたら、順番待ちしてもらえますでしょうか? 今からだとだいたい2時間待ちとなります」
2時間待ち!? というか、よく見たら待ち椅子超えて店舗の外で並んで待っている客がズラーっといる! ここで、セナ王女たちが諦めてくれれば私たちもスムーズなのだけれど。ナノハナ家では、かなり話し込んでいたから丁度お昼時で私のお腹もペコペコだ。
その時、ヨルクさんが私から離れようとした。
「ヨルクさん! 離れないでください!」
私は咄嗟にヨルクさんを抱き寄せた。ここで見つかってしまえば元も子もない。
「おい、そこイチャつくな」
そうは言っても見つかってしまえば本末転倒ではないか。
「第六王女よ。ここで待たせるなら、お父様に言いつけて、あなたをクビにしちゃおうかしら」
セナ王女……強引過ぎる。けれど、王女とはいえ、他の人はみんな順番待ちしているわけだし、ここは公平に……
「セ、セナ王女でしたか。失礼しました。直ぐに席を空けますので少々お待ちください」
えええええ! 流石にこんなやり方……!
咄嗟に私がパーカーから抜けようとした時、ラルクに手をつかまれた。
「ナミネ、落ち着け! 今ナミネが行けば、それこそ本末転倒だ!」
はあ……。これが縦社会とでも言うのだろうか。いや、権力者の特権か。
「分かったよ、ラルク。でも、空いたテーブルあるのに、わざわざ食べかけの人を追い出すだなんて、なんかいやだよ」
こんなの間違っている。けれど、世の中間違っていることで溢れ返っている。
「どうして俺らが退かなきゃいけないんだよ! みんな順番待ちしてるだろうが!」
まだ交際して間もないアベックだろうか。本当に見ていられないくらいに苛立たしい。けれど、弱い立場の私は何も出来ない。
「申し訳ありませんが、第五王子と第六王女が来ていますので他のカフェに移るか、再度順番待ちしてください。食べかけのものはパックに詰めますので王室の方にご迷惑のないよう席をお立ちください」
めちゃくちゃ腹が立つし気分が悪い。こんなやり方、あんまりすぎる。私は紙飛行機を飛ばそうとしたが、今度は落ち武者さんに止められた。
「後でサイトから苦情入れればいいだろ。強気なナミネ、アンタ何も出来ないのに無駄な心配しすぎ」
む、無駄な心配って! そんな言い方ないだろうに。私たちが、あのアベックだったら、絶対落ち武者さんは拒否して逆に、あの店員の弱みつかんで立ち退かないのが目に見えている。けれど、世の中落ち武者さんみたいに、恐ろしいほどに気の強い者ばかりではない。
「ですが、あんなのあんまりじゃないですか! 付き合いはじめの仲睦まじいアベックが……!」
言いかけて遮られてしまった。
「アベックか何だか知らないけど本当に愛し合ってるなら他に移れるだろ。とにかく、甘えセナたちが強行突破する手前だから、こっちもそうする。ズーム、行け!」
え、今度はブランケット家の権力使うの? そんなことしたら、私たちもセナ王女と同じになるじゃない。
「セルファさん、物事は公平に行わなければなりませんよ。ここへ来た時からネコ団子妖精を並ばせていますので素直に待ちましょう」
やっぱり、ズームさんはお金持ちでありながら不公平なことはしない。ネコ団子妖精、今も連れてるんだ。私は懐かしさあまりに後ろを向いた。って、ちっさ! 小さいのに変えたのだろうか。
「公平にとか綺麗事だろうがよ! 毎日、妖精村の誰かが理不尽な目にあってんだ! 今だけ心配しても世の中変わんねえだろ!」
ダメだ。落ち武者さんは、列の1番前でパーカーを脱いだ後、セレナールさんの目を盗み、近くの店員さんに声をかけた。
「あのテーブル空いてるから案内してくれる?」
これ一番最初に並んでる人を苛立たせるじゃない。
「あ、はい、かしこまりました」
人間、上手くやればバレないものなのか。いくらセナ王女たちみたいに権力を使わなくても、こういうやり方も気が引ける。
「ねえ、行こうよ。こんな店、不愉快だし、王女も性格悪いし、お金払わず出よう?」
追い出されかけているアベックの彼女が啖呵をきった。
「おい、行くぞ!」
え、でも、セナ王女たちはまだ席空けてもらってないし、個室じゃないと姿さえ見せられない。
「あ、でも普通のテーブルではセナ王女たちに見つかってしまいます」
もう全然計画性ないじゃない。それも、天気予報の大ハズレも原因にあるだろうけど。
「やっぱり、一人具合悪い友人いるから個室空けてくれる?」
やっぱりって何!? それじゃあもうセナ王女と同じじゃない!
「お客様、個室は予約のお客様が使用していますので、空いたテーブルに案内します」
そうなるわな。最後に並んでいる人は2時間待ち。個室だなんて、どうせVIP客だろうし、この店員さんもなんだかんだで、セナ王女の言いなりになっている店員さんと同じだ。
「へえ、じゃあれ何? この店、不正やってるわけ? 動画投稿しても良いけど?」
落ち武者さんも、どこまでも折れない人間だ。『強さ』。それは時として凶器にもなりうる。
「私が行っているわけではありませんので、お持ちの動画は投稿していただいても構いません。個室をご希望されるのでしたら、個室があくまで待っていただくか、他のお店に移ってください」
なるほど。自分じゃないから。たったそれだけの理由で、店の信用失っても、この店員にとってはどうでもいいことなのか。このカフェ、チームワークが全然なってない。二度と来たくない。
「ふーん、隣のヤツ、ブランケット家の次男で僕の親友なんだけど? 個室に入れてくんないんなら、あんたの知られたくない過去、ここの店員全員に話しちゃおっかな〜!」
こういう時、落ち武者さんは必ず携帯かパソコンを相手に見せていたが、店員に見せたのはズームさんの時計騎士の資格証だった。そうか、私やラルクが伝説武官の資格証を2024年のこっちの世界でも持っていたように、ズームさんも時計騎士試験もう一度受けなくていいんだ。やっぱり、この世界はあの時の紅葉神社から繋がっている。
「し、失礼しました。今すぐ個室をお空けします」
ブランケット家。王室や皇室とも交流があり、祖父同士はとにかく仲が良い。結局、私たちも権力を使ってしまった。
ここまで焦るほどのことだったのだろうか。また別の日にすれば良かったのではないのだろうか。もう色々分からなくなる。
その時、あのアベックの彼氏が立ち上がった。
「この店最悪だな! 二度と来ねえよ!!」
店員はジュースをかけられたのか頭から胸元までずぶ濡れになった。そして、アベックは立ち去った。気性の荒い男性は好きじゃないけど、こればかりは店員が悪い。人道を外すべきではなかった。クビになってでも正義を貫くべきだったと思うし、私ならそうしていた。いや、そうしてきた。だから、権力に怯える人たちの気持ちは私には分からない。
「本当にあなたは、どこまでも強引な人ですね」
ズームさんは呆れ返っている。そして、個室は直ぐに空いた。中からは高価なスーツや時計を身にまとった人たちが出て来た。こういう人たちを追い出せるほど、ブランケット家の権力は、とてつもなく大きいのか。
個室に入ってもヨルクさんとカナエさんは立ったままだった。
「悪いが、私はこのような強引で卑劣なやり方は好かぬ。帰らせてもらう」
ヨルクさんはそうだよね。曲がったことを常に嫌い、命懸けで公平を守り抜いて来た。だから、好きだった。いつの時代もヨルクさんのことが大好きだった。
「カナエも帰らせてもらいます」
はあ……、これじゃあここに来た意味ないじゃない。
「先程の人たちはrainグループの取引先の上層部です。後から僕がお詫びを送っておきます。強引ではありますが、せっかく来ましたし、今日の機会逃さないでもらえませんか?」
ズームさんは、どこまでも恵まれていながら権力は一切使わず常に人の気持ちを考えている。そういう人が、この先の未来、妖精村を引っ張っていくべきだと思う。
「分かりました。先程の者たちの機嫌を取り戻せるのでしたら……」
ヨルクさんは私の隣に座った。
「そうですか。それでしたらカナエも残ります」
カナエさんはズームさんの隣に座った。
とりあえず、こちらの方は向こうと違って先にいた客を怒らせずに済んだだけ良かったのかもしれない。
「てゆうか、男尽くしカナエ。アンタさっき、帰るとかほざいてたけど、もし甘えセナのグループにいたとしたらどうだったわけ?」
どうして落ち武者さんは人の弱みに、こうまで漬け込むのだろう。私だったら帰っていたかもしれない。けれど、カナエさんは多分出来ない。気は強いけど、ある程度は調和の保つ人だから。
「それは……」
ズームさんはタッチパネルを机に置いた。2024年もタッチパネルはまだあったんだ。私はほんの少し安心した。
「ほらな? 世の中、権力なんだよ! 次同じことしてみろ! カナコの命ないからね?」
はあ、せっかく個室に入れたのに仲間割れ。落ち武者さんも落ち武者さんで、意地悪なこと言わなければいいのに。
「カナエ先輩、分かってあげてください。いきなり、このようなことになり、落ち武者さんも内心は焦っているのです」
そして何故か落ち武者さんの肩を持つラルク。焦っているのはラルクのほうなんじゃないの?
「分かりました。無意識に仲間に優劣を付けてしまったカナエにも問題がありますゆえ、今後は気を付けます」
何もカナエさんが謝ることないのに。元々カナエさんはセナ王女たちのメンバーにいたじゃない。今後はただでさえ、こちらのグループに入ってまで向こうの様子報告しなければならない重役なのに。
「じゃあ、とりあえず注文しましょうか」
ズームさんが言うと同時にネコ団子妖精は扉を開けて入って来た。私はネコ団子妖精を抱っこした。
「サイズ小さいですが、前のは使わなくなったんですか?」
ネコ団子妖精はジタバタしている。私を覚えていないのだろうか。やっぱり、全く違うネコ団子妖精なの?
「いえ、あの時のネコ団子妖精です。時代も移り変わり大きさが変えられるようになったのです」
そして、ネコ団子妖精は突然大きくなり私から離れズームさんの元へ駆け寄った。
「そうでしたか。ここも昔は呉服店でした。変わらないものなんてないんですよね」
つい侘しさが溢れてしまった。
「この店は評判も悪くなるでしょうし、また別の何かに移り変わりますよ」
そっか。そうだよね。いくら時代が変わっても、人の心を持たない店なんてなくなればいい。
「そうですね。あ、ヨルクさん。いつもみたいにシェアしませんか?」
しまった。どうしてもヨルクさんのこと恋人だと思ってしまって、そういう風に接してしまう。
「うん、そうしよう」
え。横を見るとヨルクさんは微笑んでいる。私たち、また恋人に戻れるだろうか。
「じゃ、巨大ピザと大盛りパスタみんなでシェアする」
みんなでシェア。そんな時もあったっけ。けれど、日に日に前の世界が遠くなるようで記憶も薄くなってゆく気がする。
落ち武者さんは巨大ピザと大盛りパスタを注文した。そして、ノートパソコンを机に置いた。いつもの光景。けれど、どうやって映しているのだろう。
「あの、この映像って……」
いったいどこから……。
「机にペン型カメラ置いて、その上にパーカーかけた」
落ち武者さんも本当に手段を選ばない人だ。パーカーがある限りセナ王女には見つからないか。
そして映像から音声が聴こえてきた。セナ王女が無理矢理に席を空けるよう詰め寄った時のものだ。あの時は全く気づかなかったけど、アルフォンス王子が何度も止めようとしている。
『やめな、セナ。別のところ行こう』
こんなこと言っていたっけ。やっぱり覚えていない。
『いやよ! 私、このカフェがいいわ!』
あんなもの見せられて、もうこのカフェに良い印象など一つもない。
「あの、アルフォンス王子ってセナ王女を止めようとしてたんですね」
みんなは気付いていたのだろうか。
「そうですね。声が小さかったので聞こえてなかったかもしれませんが何度か注意をされていました」
ズームさんは気付いていたのか。もし、アルフォンス王子が止めていたのなら、今回のアルフォンス王子は少しはまともだろうか。期待したって何の意味もないけれど、期待してしまう。少しでも良い現在になっているようにと。
場面は今の時刻のものに移り変わった。
『セナさん、シェアしようよ』
やっぱり、カラルリさんセナ王女のこと……。こういうのをデジャブとでも言うのだろうか。それとも必然? どちらにしても、また誰かが悲しむ。
『待って! 私もシェアしたいわ!』
ここでセレナールさんが割り込む。カラルリさんもセレナールさんのこと妹としてではなく、女として見れていたら少しは未来は変わっていただろうか。いや、セレナールさんはラルクと一緒になるんだ。
『カナエ、何食べたい?』
またこれか。ユメさんと交際しながら、気にするのはいつもカナエさん。そもそも向こうにカナエさんいないのに。
「平凡アルフォンスが呼んでるぞ」
落ち武者さんは、やっぱりからかう。
「からかわないでください。カナエはこちら側にいます」
そう、偶然鉢合わせただけで、今日のカナエさんは私たちのグループにいる。
『ちょっと! カナエいないじゃない! どうしてユメさんを放ったらかしにするのよ!』
完全に愛していない。昔も今も。ユメさんとなら、幸せな家庭を築けるとでも思ったのだろうか。
『だったら、みんなでシェアしない?』
カラルリさんのカッコつけがはじまった。みんなでシェア。地味にこっちと同じだ。
「はい、これナミネの分」
映像見ていて、注文したの来ていたことに全く気づかなかった。5人で分けるとはいえ、物凄い量だな。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
交際時もこうだった。あの時と変わらない仕草をする時のヨルクさんを見てると切なくなる。
『そうね。巨大ピザと大盛りパスタでどうかしら?』
こっちと同じだ。人気メニューなのだろうか。
けれど、ユメさんが泣きはじめた。
「あーあ、平凡アルフォンスやらかしたね?」
アルフォンス王子は恋を優先したかったのか、平和を優先したかったのか。遠い遠い前世では、あれほどにカナエさんとの恋愛を慈しんでいたのに。
『ごめんユメさん、シェアしよう』
こういう時の後付けって、傷付いた側にとっては余計に追い討ちとなる。
『私、帰る!』
ユメさんは立ち上がった。
『待って! 許してくれないかしら』
引き止めるセナ王女。私がユメさんの立場だったら絶対許せないし、とことん白黒付けると思う。
『何度も何度も許してきた。でも、こんなのあんまりだわ! カナエカナエって!』
恋愛というのはむつかしい。一方が気持ちのない恋愛は特に厄介だ。そして、ユメさんはアルフォンス王子に水をかけるとカフェの外に出た。
『ちょっと、追いかけなさいよ!』
セナ王女は言うものの、追いかけてどうにかなる問題ではない気がする。追いかけなくても、それはそれで必要とされていないと落ち込むけれど。
「ユメさんのほうは、ドローンで追いかけます」
skyグループのあのドローン! って、ちっさ! 最近の流行りだろうか。小型ドローンは窓から飛んでいった。
「あ、ドローンも小さくなったんですね」
ちょっとついていけないかもしれない。たった数日で時代そのものが変わっていれば誰だってそうなるものだろうか。
「追跡用は超小型になりました。妖精村警察にも提供しているんです」
うわー、お金持ちってやっぱり違う。あ、映像に気を取られ、すっかりお腹空いている。さっきから、お腹がグーグーなっていたようだ。
「ナミネ、少しは食べて」
周りを見ると満遍なく食べている。要領悪いのは私だけか。
「あ、はい」
私はタマゴピザを加えた。
『私が追いかける』
カラルリさんは立ち上がった。
『だったら私も追いかけるわ!』
セナ王女も。これは、カフェを出るパターンだろうか。
『いや、今追いかけてもユメさんを追い詰めるだけだと思う。後で連絡入れておくし、食事も来たから今日はここで過ごそう』
こういう人が彼氏だったら正直嫌だ。こんなの蔑ろではないか。そして、店員さんはアルフォンス王子におしぼりを渡した。
『すみません。食べきれなくなったのでパックに詰めてもらえませんか?』
ついこないだまでは私たちもそうしていたっけ。
『申し訳ありませんが、店内で食べ切れないものは持ち帰ることは出来ません』
え、捨てるってこと!? 食べ物を何だと思っているの!? 私は思わず立ち上がった。
「ナミネ、落ち着け! ナノハナ食堂だって毎日捨ててるだろ! 一つ一つに反応するな! 目的から逸れる」
はあ、ラルクはセレナールさんのことしか頭にないのか。けれど、確かにナノハナ食堂でも、その日に食べ切れなかったものは処分している。けれど、客が持ち帰りたいと言ったものを、あえて捨てるのは何だか違う気がする。
「うーん……」
もったいない。でも、ここで私が勝手な行動をすれば本末転倒だ。その時、カナエさんのフェアホが鳴った。カナエさんは、フェアホを取り出した。
「ユメさんからです。もうグループに入らないでほしいと」
ユメさんからしてみればそうなるか。けれど、今のカナエさんはアルフォンス王子を好きかどうかも分からない。不変な三角関係は結局のところ誰も幸せにはなれない可能性が高い。
「とりあえず、言いなりになったフリすれば? ここで否定すれば時間ずれユメがヒートアップするだけだと思うけど?」
そうだけれど、今ここでユメさんに合わせてもカナエさんがいる限り、アルフォンス王子はカナエさんを優先する。どうして上手くいかないのだろう。早く元の委員長が現れてくれたら。クラフはどうしているの?
「そのように返信しました」
カナエさんに連絡するってことは、まだこの近くにいるのだろうか。
「あの、ユメさんて、まだ近くにいますか?」
て、映像を見ればいいのか。薄いタブレット。時代が急に進みはじめたように感じてしまう。
「別のカフェにいますね」
別荘には帰ってないわけか。サンドイッチセットを注文している。また合流するつもりだろうか。
「カナエは、しばらくは向こうのグループには入れません。二重スパイは不可能ですね」
ユメさんを思うと、それが無難か。
「短期間にしろ。直ぐに戻れ」
直ぐって。それだと、ユメさんを刺激しかねない。
けれど、時間というものは不可思議である。今現在は、セナ王女とカラルリさんが良い感じなのに、後々にはユメさんのほうが確実な幸せを手に入れる。クラフ委員長と。今回もそうだとは限らないけど、いずれはみんな思い出す。その時に元に戻るだろう。
「セルファさん。焦っては良い方向に向きませんよ」
そうだ。焦れば焦るほど事態は悪化することの方が多い。けれど、事が事なだけに、焦ってしまう。私とて早くヨルクさんと元の関係に戻りたい。
結局、誰もユメさんを追いかけなかった。そして、またカナエさんのフェアホは鳴った。
「ユメさん、かなり怒っているのです。誰もユメさんを追わなかったからでしょうけど、カナエに転校しろと言ってきました」
転校……。そこまでユメさんの心は荒れているのか。
「もう返信するな。男尽くしカナエのせいにするなら、時間ずれユメが、あっちのグループ抜ければいい」
落ち武者さんって他人事となると冷たくなる。当然と言っちゃ当然だけど、この時のユメさんを思うと胸が痛む。とはいえ、前も私があちら側のグループに入ったのは、それなりに後だったが。
「神山くらふ。いないのかなあ……」
思わず呟いてしまった。
「僕はいると思う。でも、どうしても最初はアルフォンス王子のこと好きだったから、しばらくは変わらないだろうな」
ラルクも、だいたいのことは元に戻ると思っている。私もそうなればいいと思う。
私たちが時間をかけて巨大ピザと大盛りパスタを食べ終わった頃、セナ王女たちはカフェを出た。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
セナみたいに並ばず無理矢理に席を空けさせる人がリアルにいたら怖いと思いました(^_^;)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
《ナミネ》
落ち武者さんの話していたカフェは、最近出来たばかりなのか、とても混んでいた。ここ、前は空き店舗だった気がする。その前は、確か呉服店。時代も変わってゆくもんなんだなあ。
何気にズームさんから貰った花柄の傘、可愛くて貰うことになってしまった。花は見たことないもので、デザインチームが手がけたらしい。
けれど、どう見ても満席だ。待っている人もいるし、ここは諦めた方が良さそう。
「ここ、1時間は待つでしょうし、他に行きませんか?」
カナエさんは早速、skyグループ試作のパーカーを着て身を隠した。そして、偶然なのか必然なのかセナ王女たちが入って来た。私たちは咄嗟にフード付きのパーカーを着た。が、ヨルクさんがポカンとしている。私は咄嗟にヨルクさんをパーカーに入れた。久々に感じるヨルクさんの温もり。飛ばされる前は当たり前だった。だからこそ、当たり前でないことに今実感をする。
「5人でお願い」
うわー、セナ王女、王室育ちなだけに『待つ』ということを知らない。
「ご予約のお客様でしょうか?」
そりゃそうなるわな。1時間待ちだろう一般人もかなりいる。特別扱いは狡い。
「してないわ」
セナ王女たちは、あくまで待たない気なのだろうか。
「でしたら、順番待ちしてもらえますでしょうか? 今からだとだいたい2時間待ちとなります」
2時間待ち!? というか、よく見たら待ち椅子超えて店舗の外で並んで待っている客がズラーっといる! ここで、セナ王女たちが諦めてくれれば私たちもスムーズなのだけれど。ナノハナ家では、かなり話し込んでいたから丁度お昼時で私のお腹もペコペコだ。
その時、ヨルクさんが私から離れようとした。
「ヨルクさん! 離れないでください!」
私は咄嗟にヨルクさんを抱き寄せた。ここで見つかってしまえば元も子もない。
「おい、そこイチャつくな」
そうは言っても見つかってしまえば本末転倒ではないか。
「第六王女よ。ここで待たせるなら、お父様に言いつけて、あなたをクビにしちゃおうかしら」
セナ王女……強引過ぎる。けれど、王女とはいえ、他の人はみんな順番待ちしているわけだし、ここは公平に……
「セ、セナ王女でしたか。失礼しました。直ぐに席を空けますので少々お待ちください」
えええええ! 流石にこんなやり方……!
咄嗟に私がパーカーから抜けようとした時、ラルクに手をつかまれた。
「ナミネ、落ち着け! 今ナミネが行けば、それこそ本末転倒だ!」
はあ……。これが縦社会とでも言うのだろうか。いや、権力者の特権か。
「分かったよ、ラルク。でも、空いたテーブルあるのに、わざわざ食べかけの人を追い出すだなんて、なんかいやだよ」
こんなの間違っている。けれど、世の中間違っていることで溢れ返っている。
「どうして俺らが退かなきゃいけないんだよ! みんな順番待ちしてるだろうが!」
まだ交際して間もないアベックだろうか。本当に見ていられないくらいに苛立たしい。けれど、弱い立場の私は何も出来ない。
「申し訳ありませんが、第五王子と第六王女が来ていますので他のカフェに移るか、再度順番待ちしてください。食べかけのものはパックに詰めますので王室の方にご迷惑のないよう席をお立ちください」
めちゃくちゃ腹が立つし気分が悪い。こんなやり方、あんまりすぎる。私は紙飛行機を飛ばそうとしたが、今度は落ち武者さんに止められた。
「後でサイトから苦情入れればいいだろ。強気なナミネ、アンタ何も出来ないのに無駄な心配しすぎ」
む、無駄な心配って! そんな言い方ないだろうに。私たちが、あのアベックだったら、絶対落ち武者さんは拒否して逆に、あの店員の弱みつかんで立ち退かないのが目に見えている。けれど、世の中落ち武者さんみたいに、恐ろしいほどに気の強い者ばかりではない。
「ですが、あんなのあんまりじゃないですか! 付き合いはじめの仲睦まじいアベックが……!」
言いかけて遮られてしまった。
「アベックか何だか知らないけど本当に愛し合ってるなら他に移れるだろ。とにかく、甘えセナたちが強行突破する手前だから、こっちもそうする。ズーム、行け!」
え、今度はブランケット家の権力使うの? そんなことしたら、私たちもセナ王女と同じになるじゃない。
「セルファさん、物事は公平に行わなければなりませんよ。ここへ来た時からネコ団子妖精を並ばせていますので素直に待ちましょう」
やっぱり、ズームさんはお金持ちでありながら不公平なことはしない。ネコ団子妖精、今も連れてるんだ。私は懐かしさあまりに後ろを向いた。って、ちっさ! 小さいのに変えたのだろうか。
「公平にとか綺麗事だろうがよ! 毎日、妖精村の誰かが理不尽な目にあってんだ! 今だけ心配しても世の中変わんねえだろ!」
ダメだ。落ち武者さんは、列の1番前でパーカーを脱いだ後、セレナールさんの目を盗み、近くの店員さんに声をかけた。
「あのテーブル空いてるから案内してくれる?」
これ一番最初に並んでる人を苛立たせるじゃない。
「あ、はい、かしこまりました」
人間、上手くやればバレないものなのか。いくらセナ王女たちみたいに権力を使わなくても、こういうやり方も気が引ける。
「ねえ、行こうよ。こんな店、不愉快だし、王女も性格悪いし、お金払わず出よう?」
追い出されかけているアベックの彼女が啖呵をきった。
「おい、行くぞ!」
え、でも、セナ王女たちはまだ席空けてもらってないし、個室じゃないと姿さえ見せられない。
「あ、でも普通のテーブルではセナ王女たちに見つかってしまいます」
もう全然計画性ないじゃない。それも、天気予報の大ハズレも原因にあるだろうけど。
「やっぱり、一人具合悪い友人いるから個室空けてくれる?」
やっぱりって何!? それじゃあもうセナ王女と同じじゃない!
「お客様、個室は予約のお客様が使用していますので、空いたテーブルに案内します」
そうなるわな。最後に並んでいる人は2時間待ち。個室だなんて、どうせVIP客だろうし、この店員さんもなんだかんだで、セナ王女の言いなりになっている店員さんと同じだ。
「へえ、じゃあれ何? この店、不正やってるわけ? 動画投稿しても良いけど?」
落ち武者さんも、どこまでも折れない人間だ。『強さ』。それは時として凶器にもなりうる。
「私が行っているわけではありませんので、お持ちの動画は投稿していただいても構いません。個室をご希望されるのでしたら、個室があくまで待っていただくか、他のお店に移ってください」
なるほど。自分じゃないから。たったそれだけの理由で、店の信用失っても、この店員にとってはどうでもいいことなのか。このカフェ、チームワークが全然なってない。二度と来たくない。
「ふーん、隣のヤツ、ブランケット家の次男で僕の親友なんだけど? 個室に入れてくんないんなら、あんたの知られたくない過去、ここの店員全員に話しちゃおっかな〜!」
こういう時、落ち武者さんは必ず携帯かパソコンを相手に見せていたが、店員に見せたのはズームさんの時計騎士の資格証だった。そうか、私やラルクが伝説武官の資格証を2024年のこっちの世界でも持っていたように、ズームさんも時計騎士試験もう一度受けなくていいんだ。やっぱり、この世界はあの時の紅葉神社から繋がっている。
「し、失礼しました。今すぐ個室をお空けします」
ブランケット家。王室や皇室とも交流があり、祖父同士はとにかく仲が良い。結局、私たちも権力を使ってしまった。
ここまで焦るほどのことだったのだろうか。また別の日にすれば良かったのではないのだろうか。もう色々分からなくなる。
その時、あのアベックの彼氏が立ち上がった。
「この店最悪だな! 二度と来ねえよ!!」
店員はジュースをかけられたのか頭から胸元までずぶ濡れになった。そして、アベックは立ち去った。気性の荒い男性は好きじゃないけど、こればかりは店員が悪い。人道を外すべきではなかった。クビになってでも正義を貫くべきだったと思うし、私ならそうしていた。いや、そうしてきた。だから、権力に怯える人たちの気持ちは私には分からない。
「本当にあなたは、どこまでも強引な人ですね」
ズームさんは呆れ返っている。そして、個室は直ぐに空いた。中からは高価なスーツや時計を身にまとった人たちが出て来た。こういう人たちを追い出せるほど、ブランケット家の権力は、とてつもなく大きいのか。
個室に入ってもヨルクさんとカナエさんは立ったままだった。
「悪いが、私はこのような強引で卑劣なやり方は好かぬ。帰らせてもらう」
ヨルクさんはそうだよね。曲がったことを常に嫌い、命懸けで公平を守り抜いて来た。だから、好きだった。いつの時代もヨルクさんのことが大好きだった。
「カナエも帰らせてもらいます」
はあ……、これじゃあここに来た意味ないじゃない。
「先程の人たちはrainグループの取引先の上層部です。後から僕がお詫びを送っておきます。強引ではありますが、せっかく来ましたし、今日の機会逃さないでもらえませんか?」
ズームさんは、どこまでも恵まれていながら権力は一切使わず常に人の気持ちを考えている。そういう人が、この先の未来、妖精村を引っ張っていくべきだと思う。
「分かりました。先程の者たちの機嫌を取り戻せるのでしたら……」
ヨルクさんは私の隣に座った。
「そうですか。それでしたらカナエも残ります」
カナエさんはズームさんの隣に座った。
とりあえず、こちらの方は向こうと違って先にいた客を怒らせずに済んだだけ良かったのかもしれない。
「てゆうか、男尽くしカナエ。アンタさっき、帰るとかほざいてたけど、もし甘えセナのグループにいたとしたらどうだったわけ?」
どうして落ち武者さんは人の弱みに、こうまで漬け込むのだろう。私だったら帰っていたかもしれない。けれど、カナエさんは多分出来ない。気は強いけど、ある程度は調和の保つ人だから。
「それは……」
ズームさんはタッチパネルを机に置いた。2024年もタッチパネルはまだあったんだ。私はほんの少し安心した。
「ほらな? 世の中、権力なんだよ! 次同じことしてみろ! カナコの命ないからね?」
はあ、せっかく個室に入れたのに仲間割れ。落ち武者さんも落ち武者さんで、意地悪なこと言わなければいいのに。
「カナエ先輩、分かってあげてください。いきなり、このようなことになり、落ち武者さんも内心は焦っているのです」
そして何故か落ち武者さんの肩を持つラルク。焦っているのはラルクのほうなんじゃないの?
「分かりました。無意識に仲間に優劣を付けてしまったカナエにも問題がありますゆえ、今後は気を付けます」
何もカナエさんが謝ることないのに。元々カナエさんはセナ王女たちのメンバーにいたじゃない。今後はただでさえ、こちらのグループに入ってまで向こうの様子報告しなければならない重役なのに。
「じゃあ、とりあえず注文しましょうか」
ズームさんが言うと同時にネコ団子妖精は扉を開けて入って来た。私はネコ団子妖精を抱っこした。
「サイズ小さいですが、前のは使わなくなったんですか?」
ネコ団子妖精はジタバタしている。私を覚えていないのだろうか。やっぱり、全く違うネコ団子妖精なの?
「いえ、あの時のネコ団子妖精です。時代も移り変わり大きさが変えられるようになったのです」
そして、ネコ団子妖精は突然大きくなり私から離れズームさんの元へ駆け寄った。
「そうでしたか。ここも昔は呉服店でした。変わらないものなんてないんですよね」
つい侘しさが溢れてしまった。
「この店は評判も悪くなるでしょうし、また別の何かに移り変わりますよ」
そっか。そうだよね。いくら時代が変わっても、人の心を持たない店なんてなくなればいい。
「そうですね。あ、ヨルクさん。いつもみたいにシェアしませんか?」
しまった。どうしてもヨルクさんのこと恋人だと思ってしまって、そういう風に接してしまう。
「うん、そうしよう」
え。横を見るとヨルクさんは微笑んでいる。私たち、また恋人に戻れるだろうか。
「じゃ、巨大ピザと大盛りパスタみんなでシェアする」
みんなでシェア。そんな時もあったっけ。けれど、日に日に前の世界が遠くなるようで記憶も薄くなってゆく気がする。
落ち武者さんは巨大ピザと大盛りパスタを注文した。そして、ノートパソコンを机に置いた。いつもの光景。けれど、どうやって映しているのだろう。
「あの、この映像って……」
いったいどこから……。
「机にペン型カメラ置いて、その上にパーカーかけた」
落ち武者さんも本当に手段を選ばない人だ。パーカーがある限りセナ王女には見つからないか。
そして映像から音声が聴こえてきた。セナ王女が無理矢理に席を空けるよう詰め寄った時のものだ。あの時は全く気づかなかったけど、アルフォンス王子が何度も止めようとしている。
『やめな、セナ。別のところ行こう』
こんなこと言っていたっけ。やっぱり覚えていない。
『いやよ! 私、このカフェがいいわ!』
あんなもの見せられて、もうこのカフェに良い印象など一つもない。
「あの、アルフォンス王子ってセナ王女を止めようとしてたんですね」
みんなは気付いていたのだろうか。
「そうですね。声が小さかったので聞こえてなかったかもしれませんが何度か注意をされていました」
ズームさんは気付いていたのか。もし、アルフォンス王子が止めていたのなら、今回のアルフォンス王子は少しはまともだろうか。期待したって何の意味もないけれど、期待してしまう。少しでも良い現在になっているようにと。
場面は今の時刻のものに移り変わった。
『セナさん、シェアしようよ』
やっぱり、カラルリさんセナ王女のこと……。こういうのをデジャブとでも言うのだろうか。それとも必然? どちらにしても、また誰かが悲しむ。
『待って! 私もシェアしたいわ!』
ここでセレナールさんが割り込む。カラルリさんもセレナールさんのこと妹としてではなく、女として見れていたら少しは未来は変わっていただろうか。いや、セレナールさんはラルクと一緒になるんだ。
『カナエ、何食べたい?』
またこれか。ユメさんと交際しながら、気にするのはいつもカナエさん。そもそも向こうにカナエさんいないのに。
「平凡アルフォンスが呼んでるぞ」
落ち武者さんは、やっぱりからかう。
「からかわないでください。カナエはこちら側にいます」
そう、偶然鉢合わせただけで、今日のカナエさんは私たちのグループにいる。
『ちょっと! カナエいないじゃない! どうしてユメさんを放ったらかしにするのよ!』
完全に愛していない。昔も今も。ユメさんとなら、幸せな家庭を築けるとでも思ったのだろうか。
『だったら、みんなでシェアしない?』
カラルリさんのカッコつけがはじまった。みんなでシェア。地味にこっちと同じだ。
「はい、これナミネの分」
映像見ていて、注文したの来ていたことに全く気づかなかった。5人で分けるとはいえ、物凄い量だな。
「ありがとうございます、ヨルクさん」
交際時もこうだった。あの時と変わらない仕草をする時のヨルクさんを見てると切なくなる。
『そうね。巨大ピザと大盛りパスタでどうかしら?』
こっちと同じだ。人気メニューなのだろうか。
けれど、ユメさんが泣きはじめた。
「あーあ、平凡アルフォンスやらかしたね?」
アルフォンス王子は恋を優先したかったのか、平和を優先したかったのか。遠い遠い前世では、あれほどにカナエさんとの恋愛を慈しんでいたのに。
『ごめんユメさん、シェアしよう』
こういう時の後付けって、傷付いた側にとっては余計に追い討ちとなる。
『私、帰る!』
ユメさんは立ち上がった。
『待って! 許してくれないかしら』
引き止めるセナ王女。私がユメさんの立場だったら絶対許せないし、とことん白黒付けると思う。
『何度も何度も許してきた。でも、こんなのあんまりだわ! カナエカナエって!』
恋愛というのはむつかしい。一方が気持ちのない恋愛は特に厄介だ。そして、ユメさんはアルフォンス王子に水をかけるとカフェの外に出た。
『ちょっと、追いかけなさいよ!』
セナ王女は言うものの、追いかけてどうにかなる問題ではない気がする。追いかけなくても、それはそれで必要とされていないと落ち込むけれど。
「ユメさんのほうは、ドローンで追いかけます」
skyグループのあのドローン! って、ちっさ! 最近の流行りだろうか。小型ドローンは窓から飛んでいった。
「あ、ドローンも小さくなったんですね」
ちょっとついていけないかもしれない。たった数日で時代そのものが変わっていれば誰だってそうなるものだろうか。
「追跡用は超小型になりました。妖精村警察にも提供しているんです」
うわー、お金持ちってやっぱり違う。あ、映像に気を取られ、すっかりお腹空いている。さっきから、お腹がグーグーなっていたようだ。
「ナミネ、少しは食べて」
周りを見ると満遍なく食べている。要領悪いのは私だけか。
「あ、はい」
私はタマゴピザを加えた。
『私が追いかける』
カラルリさんは立ち上がった。
『だったら私も追いかけるわ!』
セナ王女も。これは、カフェを出るパターンだろうか。
『いや、今追いかけてもユメさんを追い詰めるだけだと思う。後で連絡入れておくし、食事も来たから今日はここで過ごそう』
こういう人が彼氏だったら正直嫌だ。こんなの蔑ろではないか。そして、店員さんはアルフォンス王子におしぼりを渡した。
『すみません。食べきれなくなったのでパックに詰めてもらえませんか?』
ついこないだまでは私たちもそうしていたっけ。
『申し訳ありませんが、店内で食べ切れないものは持ち帰ることは出来ません』
え、捨てるってこと!? 食べ物を何だと思っているの!? 私は思わず立ち上がった。
「ナミネ、落ち着け! ナノハナ食堂だって毎日捨ててるだろ! 一つ一つに反応するな! 目的から逸れる」
はあ、ラルクはセレナールさんのことしか頭にないのか。けれど、確かにナノハナ食堂でも、その日に食べ切れなかったものは処分している。けれど、客が持ち帰りたいと言ったものを、あえて捨てるのは何だか違う気がする。
「うーん……」
もったいない。でも、ここで私が勝手な行動をすれば本末転倒だ。その時、カナエさんのフェアホが鳴った。カナエさんは、フェアホを取り出した。
「ユメさんからです。もうグループに入らないでほしいと」
ユメさんからしてみればそうなるか。けれど、今のカナエさんはアルフォンス王子を好きかどうかも分からない。不変な三角関係は結局のところ誰も幸せにはなれない可能性が高い。
「とりあえず、言いなりになったフリすれば? ここで否定すれば時間ずれユメがヒートアップするだけだと思うけど?」
そうだけれど、今ここでユメさんに合わせてもカナエさんがいる限り、アルフォンス王子はカナエさんを優先する。どうして上手くいかないのだろう。早く元の委員長が現れてくれたら。クラフはどうしているの?
「そのように返信しました」
カナエさんに連絡するってことは、まだこの近くにいるのだろうか。
「あの、ユメさんて、まだ近くにいますか?」
て、映像を見ればいいのか。薄いタブレット。時代が急に進みはじめたように感じてしまう。
「別のカフェにいますね」
別荘には帰ってないわけか。サンドイッチセットを注文している。また合流するつもりだろうか。
「カナエは、しばらくは向こうのグループには入れません。二重スパイは不可能ですね」
ユメさんを思うと、それが無難か。
「短期間にしろ。直ぐに戻れ」
直ぐって。それだと、ユメさんを刺激しかねない。
けれど、時間というものは不可思議である。今現在は、セナ王女とカラルリさんが良い感じなのに、後々にはユメさんのほうが確実な幸せを手に入れる。クラフ委員長と。今回もそうだとは限らないけど、いずれはみんな思い出す。その時に元に戻るだろう。
「セルファさん。焦っては良い方向に向きませんよ」
そうだ。焦れば焦るほど事態は悪化することの方が多い。けれど、事が事なだけに、焦ってしまう。私とて早くヨルクさんと元の関係に戻りたい。
結局、誰もユメさんを追いかけなかった。そして、またカナエさんのフェアホは鳴った。
「ユメさん、かなり怒っているのです。誰もユメさんを追わなかったからでしょうけど、カナエに転校しろと言ってきました」
転校……。そこまでユメさんの心は荒れているのか。
「もう返信するな。男尽くしカナエのせいにするなら、時間ずれユメが、あっちのグループ抜ければいい」
落ち武者さんって他人事となると冷たくなる。当然と言っちゃ当然だけど、この時のユメさんを思うと胸が痛む。とはいえ、前も私があちら側のグループに入ったのは、それなりに後だったが。
「神山くらふ。いないのかなあ……」
思わず呟いてしまった。
「僕はいると思う。でも、どうしても最初はアルフォンス王子のこと好きだったから、しばらくは変わらないだろうな」
ラルクも、だいたいのことは元に戻ると思っている。私もそうなればいいと思う。
私たちが時間をかけて巨大ピザと大盛りパスタを食べ終わった頃、セナ王女たちはカフェを出た。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
セナみたいに並ばず無理矢理に席を空けさせる人がリアルにいたら怖いと思いました(^_^;)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。
小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
純愛偏差値 未来編 一人称版 129話
《カナエ》
『あ、男尽くしカナエ? 僕だけど』
これはこれは。
ある程度の予想はしていましたが、やはり覚えている方はいましたか。
カナエはキクリ家の4女で現在はキクリ食堂の中級料理人の指導をしています。2024年の4月から高校1年生になりました。
2020年の時に仲間だったセナさん、アルフォンス王子様、セレナール、ユメさんとは、必然なのか、直ぐに仲間になりました。カナエは1つ上に兄がいます。これも必然なのか、セナさんの親睦が深まりそうにあります。
カナエは元々巫女の仕事もしておりまして、その関連からか2020年のことも覚えています。あのような出来事は、例え仲間であれ信じてもらえるかどうか分かりません。ですので、カナエは、何も知らないフリをして今のメンバーと過ごしております。
「数日ぶりですね、セルファさん」
カナエはフェアホの電話に出ました。
『ふーん、やっぱアンタ覚えてんだ。向こう側についてるのは僕らを蔑ろにするため?』
やはり、セルファさんは変わっていません。そうですよね。2024年は2020年の続きのようなものですから。
「まるで、カナエに二重スパイをしてほしいと言わんばかりのお言葉ですね」
キクリ家は他のお武家連盟とは違って刺客です。これまでの前世、何度もスパイをしてきました。二重スパイもです。やはり、この時はやってきましたか。
『話分かってんじゃん。じゃ、今からしてくんない? 後、明日キクリ家行くから』
セルファさんは、いつもどこかカタコトです。そちらには誰がいるのかカナエは知りません。話というのは要点のみでなく、その周辺のことも話さないと相手に伝わらないこともあるようにカナエは感じます。
「明日、キクリ家に来ることは分かりました。今のセナさんのメンバーとセルファさんのメンバーの両方に個別で加わらなければならないことも承知しました。しかし、そちらにはどれだけのお仲間がいるのでしょうか?」
セルファさんは、あのようなカタコトな伝え方で人間関係築いているのでしょうか。カナエは不思議でたまりません。
『僕と、強気なナミネ、顔だけヨルク、ラルク、恵まれズームだけど? 後、電話だけどラハルも』
随分と集められたようですね。しかし、これでは誰が覚えていて誰が覚えていなかったのか分かりません。
「誰が2020年を覚えていたのでしょうか?」
カナエは、確実なことを聞き出すタイプのようです。お兄様は多分違うでしょうけど。
『別に要件だけでいいだろ。
僕、強気なナミネ、恵まれズームだけど?』
つまり、ラルク、ヨルク、ラハルさんは記憶がない状態でメンバーに加わったということですね。
『あ、あの、私たちがキクリ家に行くよりカナエさんがナノハナ家に来た方が安全だと思うのですが』
数日前までは当たり前のように聞いていたナミネの声。しかし、2024年に飛ばされた今、ナミネの存在は遠く感じるのです。
『じゃ、男尽くしカナエがこっち来い』
セルファさんは、いつも本人より先に答えてしまうところがあります。けれど、キクリ家はお兄様もいますし、カナエがナノハナ家へ行った方がいいでしょう。
「分かりました。明日の朝、ナノハナ家に伺います。お武家連盟加入の人たちの連絡先は入っていますが、そうでない方の連絡先は入っていませんので、セルファさんとズームさんの携帯番号、メールアドレス、レインをどなたか送っていただけますか?」
セルファさんのメンバーにも加わるなら全員の連絡先を知る必要があるでしょう。
『あ、カナエさん、私が今送りました』
ヨルクは自分のカラに閉じこもり人付き合いはあまりしていませんが、カナエにとっては弟のような存在で、人当たりも良い子です。
「ありがとうございます。後で確認致します」
またナミネと付き合うのでしょうけど、今のヨルクは、あの時の記憶がありません。色々困難になるでしょう。元に戻すにも新たな人生を歩むにも。
『で? 男尽くしカナエ、アンタまた平凡アルフォンスと付き合うわけ?』
どうしてセルファさんは、そのようなことを知りたがるのでしょう。2019年の時は確かにアルフォンス王子様のことは好きでしたし運命だとも思っていました。けれど、今はと聞かれるとカナエにも分かりません。けれど、新たな人生よりも元に戻す必要があるように感じます。あの時のようにアルフォンス王子様に告白しなければならいでしょう。
「では、要件はお聞きしましたので今日はこの辺で」
カナエは電話を切りました。
カナエは自分のことはどうにかしますが、心配なのはお兄様です。このままいくと、セナさんとは再び交際するでしょう。しかし、シャム軍医が現れたら、お兄様は捨てられてしまいます。それも運命のイタズラでしょうか。
カナエとしては、お兄様には幸せになってもらいたいですが、セナさんとは無理でしょう。お2人は若すぎます。若すぎたのです。そして、互いが互いの想いを汲み取れていませんでした。 交際したとしても用意されている未来は別れでしょう。お兄様にはセナさんでなく他の人とお付き合いしてもらえたら良いのですが。
翌朝、ナノハナ家に行ったら皆さんまだ眠っているようなので朝食を作りました。この第4居間も懐かしいです。2024年の幼少時代も皆さんと遊んでいたのでしょうか。
もし、今回ラルクとセレナールが上手くいったら何か変わるでしょうか。それでも、カナエにはラルクの核心の部分に存在しているのはナミネな気がします。いくらセレナールを愛して愛してどうしようもなく愛していたとしても、本音と核心は別物。核心に気づいてしまえば、多かれ少なかれセレナールとはぎこちなくなるでしょう。
「アンタ、早いな」
セルファさんたちが起きてきました。
「カナエさん、朝食ありがとうございます」
こちらのメンバーとも関わるなら、またヨルクともお料理出来たらいいですね。
「皆さん、おはようございます。まずはカナエが作った朝食を食べて、そこからお話しましょう」
みんなは、あの時の配置に座りました。間は開けずに。
「で? 一目惚れカラルリは甘えセナとくっつきそうなわけ?」
カナエは、物を口に入れながら話す人はあまり好きではありません。それでもみんな話したいのでしょう。
「このままいくとそうなるでしょう」
こればかりは誰にも止められません。セナさんとお兄様は日に日に仲良くなっています。
「となると、セレナールさんとセナさんの妊娠を食い止めなければなりませんね」
ズームさんの言う通りですが、簡単にいくでしょうか。
「そうですね。けれど、食い止められなかった時のことも考えなければいけないとカナエは思うのです」
もし食い止められなかったら……お兄様はセナさんから友達としても見てもらえなくなります。
「うーん、これはもう本人に雲リラを買わせるしかありませんね。妊娠のところだけは何がなんでも私たちが食い止めなければなりません」
ナミネも強引に物事を進めるところがあります。カナエとて、前のような事態にはなってほしくありません。けれど、それは交際する2人が大きく関わることで他者が口を挟めばややこしくなりかねないと思うのです。
「ま、無理な時は無理なんじゃないの?」
セルファさんは、とてもじゃないけどセリルの弟には思えません。真剣な時に、あえて冗談ぽくなる。
「しかし、僕はもう二度とセレナール先輩に苦しんでほしくありません」
セレナールも、あの時は酷く苦しんだでしょう。遠い遠い前世ではカナエもエミリもセレナールと親しかったのに、いつの間にか少し距離が空くようになった気もします。
「大丈夫だよ、ラルク。今回はそんなことにならないよ!」
ナミネはラルクが好きなのかヨルクが好きなのか。助けたい人が1人だけでないというのも考えものです。
「ところで、ミネスさんはどうしていますか? ミネスさんも覚えていると思うのですが」
絶対覚えている。けれど、ここにいないということは……。
「確かに覚えてはいます。けれど、ショックのあまり寝込んでいます」
寝込んでいる……。カンザシさんとミネルナさんが最後の最後で通じ合ってしまったからでしょうか。けれど、そのせいでカナエたちは今の状況下にあります。
「そうですか……」
重要な時ほど言葉というのは見つからないものなのかもしれません。ミネスさんもミネスさんで辛く、カナエたちもカナエたちで新たな問題を抱えてしまいました。
「ま、いずれはみんな思い出すからいんじゃない? 二度目の人生に後悔してるかもだけどね?」
後悔は致し方ないものだとカナエは思っています。後悔しない人間などいませんし、抗えないものがあるのではないでしょうか。
「あ、そういえば、ナルホお兄様とナヤセス殿も覚えています。今はまだ研究が忙しく妖精村に帰って来れないそうです」
そういえば、お2人は紀元前村、天の川村に留学をしていましたね。この非常事態に戻って来れないことには何かしら理由があるのでしょうか。
「じゃ、覚えてるメンバーはそれなりにいるってわけね?」
2020年を覚えている人がいるに越したことはありませんが、少なくともカナエのメンバーと言いますか、お兄様を通して知り合った二度目のメンバーはカナエ以外覚えておりません。これでは、以前を修復する目処が立たないとカナエは思うのです。
「しかし、覚えてないメンバーやまだ出会っていないメンバーが気がかりです」
カナエは多分、意見はハッキリ言うタイプです。カナコお姉様に似たのでしょうか。
「男尽くしカナエ。アンタさ、普通に考えて全員覚えてるわけないだろ。覚えているメンバーがいるってだけでも今は救いだと僕は言ってるんだけど?」
セルファさんとは気が合うようには思えません。何も、端から否定しなくても良いでしょうに。
「あ、私も以前と同じになってしまわないか心配ではあります。セナ王女たちのグループが誰かと恋人になったとして、学生としての健全な交際を出来るかどうかも気がかりですし、以前の二の舞だけは避けたいです」
ナミネは、カナエと同じ末っ子ではありますが、ポイントは抑えた性格です。恐らく、ナミネのように『以前の二の舞』を気にしている人は、この中にいる気がします。
「ナミネ、そこは僕も極力避ける努力はする。今、空理空論を述べても何もならないんだ。心配する気持ちは分かるけど、その人の行動は誰にも止められないんだ」
確かに、他者の行動は簡単には止められません。その人はその人の意思で動いているわけですから。それにしても、ラルクはセレナールのことで焦っているのでしょうか。
「そうだね。例え親しい友人であれ、行動に関しては本人の責任だもんね。逆に今はそこまで考える余裕ないか」
やはり、ナミネはラルクの言葉だけには素直になります。行き過ぎた幼馴染みの絆とでも言うのでしょうか。
「じゃ、今から商店街に新しく出来たカフェ行く」
えっ、外出されるのですか? もし、お兄様に見つかってしまったら、どのように言い訳したら良いのでしょう。
「あの、カナエは、こちらのグループにも入っていますし、外出は控えたいのです」
今日は、お兄様たちも集まっています。行き先は遊園地だそうですが、やはりカナエとしては、このメンバーでの外出は気がかりです。
「アンタにとって仲間は向こうのメンバーだけなわけ? 僕たちはただてさえ向こうを避けてんのに、休日にどこも行くなって? アンタ、思った以上に依怙贔屓だな」
やはり、セルファさんとは気が合う感じは少しもしません。カナエは、どこにも行くなだなんて言ってませんし、そもそも二重スパイを切り出したのはセルファさんですし、カナエとて、気を引き締めているのです。それをキツイ言い方されてはカナエも気分を害してしまいます。
「うーん、カナエさんの気持ちも分かりますが、私も休日集まる度、どこかの家に引きこもりは辛いです」
ナミネはアウトドア派なので、インドアはキツイものがあるでしょう。一人は寂しいですが、人が集まるのも、それはそれで意見が分かれて困る時があります。そういうのが続いたら人は一人の時間を求めてしまうものなのでしょうか。
「あの文具店の隣のカフェでしたら個室ありますよ」
ズームさんは変わりないですね。いつも、周りのことを考えていらっしゃる。2024年に飛ばされる前にカナエが揺れたのもズームさんの優しい性格がきっかけだと思います。そして、今回もまた好意を抱いてしまうかもしれません。
「じゃ、個室で」
セルファさんの強引なやり方に、この先カナエはついていけるでしょうか。
「カナエさん。これはskyグループの試作ですが、30分だけ姿を消すことが出来ます。化学チームと未来研究チームが提案してくれたのです」
本当にズームさんは人想いです。それにしても、skyグループの勢いは止まることを知りませんね。これから何世紀も存続してほしいとカナエは願います。
「じゃ、みんなそれ着て行く」
どうしてセルファさんが答えるのでしょう。本当にセリルの弟なのか何度でも疑ってしまいます。
「ねえ、落ち武者さん。それだとバスタダ乗りになるよね? 私は不正はしない」
ヨルクは真面目ですが少し固すぎるところが、引きこもりの原因の一つなのかもしれません。それ以外にも人知れずな事情もお持ちですが。
「商店街は直ぐそこですし、雨も降ってますから傘で顔を隠して行きませんか?」
いかにもラルクらしい言い分です。ここからバスに乗っても一停留所です。商店街からカフェまでは遠く、商店街はアーケードがありますので傘は必要ありません。
「では、ここから傘を指して歩いて商店街からカナエだけズームさんの持っているパーカーを着ます」
やっとセルファさんより先に答えることが出来ました。しかし、天気予報の外れた雨で、お兄様たちは遊園地には行っていないでしょう。紅葉町にいる気がします。鉢合わせにならなければ良いのですが。
「ていうか、顔だけヨルク、アンタ固すぎ。僕は店内で鉢合わせた時に着るって意味で言ったんだけど?」
ヨルクのことも心配ですが、セルファさんこそワガママで人間関係築けるかカナエは心配です。そもそも、セルファさんが『着て行く』と仰られましたのに。
「ねえ、どうしていつもそういう言い方するの? 落ち武者さん全然調和出来てないよね」
ヨルクは、理不尽な物事に関しては自己主張が強くなります。幼稚園からそうでした。
「ここでお喋りしていても時間の無駄になります。ズームさん、そのパーカー、全員分貰えますか?今すぐ出ましょう」
ラルクは、記憶はないものの、2024年の前を知ってからは焦っているように感じます。今すぐと言いましても、ズームさんとヨルク以外部屋着ですし、そもそもどこかで話を区切って着替えたほうが良かったと思うのですが。出かけること前提だったのでしたら。
そんな矢先、ナミネが着替えはじめました。ナミネも変わりません。
「ナミネ、ここで着替えないで! ちょっと、ナミネを着替えさせてくるからみんなも着替えてて」
まだ正式に交際しているわけでもないのに、やはりこのお二人はずっとあの頃のままですね。
「なんでアンタが強気なナミネを着替えさせるわけ? 付き合ってもないのに」
どうしてセルファさんは時間ロスばかりするのでしょう。
「もうっ! ナミネはカナエが着替えさせます!」
カナエはナミネの手を取り、二階へ走りました。
ナミネの部屋は、ヨルクとの交際前になっています。
ナミネは地味なワンピースを取り出しました。まだオシャレに目覚めていない頃のナミネ。遠く感じます。
「懐かしいですね。そのワンピース」
グレー一色の春物にしては暗めの膝下丈のワンピース。ナミネは可愛いのですから、もう少しオシャレすればいいのに……と思いますが、これも辻褄合わせでしょう。
「あ、はい。2024年に飛ばされた時、こういうのしかなかったんですよね。時間て未来に行けば進んでいるかと思っていましたが、逆に戻っていることもあるのですね」
ナミネは学校の時の二つ括りとは違って長いストレートの髪を下ろしています。
確かに、妖精村には時間の法則が定着していないかもしれません。そして、今回のことはカナエたちに課せられた試練であるとカナエは思っています。
「そうですね。また同じ時間を過ごすというのは奇妙なものですね」
覚えていない人はどうか分かりませんが、覚えている人が一番恐れるのは二の舞でしょう。今回もトケイ草を用いることにならなければ良いのですが。
「私たち、きっと何かを変えなければならないのですね。知らない何かを」
ナミネは天然なようで、重要なことはしっかり計画性を持って行動が出来る子です。ナミネが前の世界を覚えていたのも何かしら理由があるのでしょう。
そしてナミネは部屋を出て階段を降りていきました。カナエもナミネの後に続きました。
「じゃ、行く」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき。
まさかのカナエが二重スパイ!?
スパイというか、セナたちが覚えてないから必然的にこうなってしまうんですよね。
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この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
現在、小説に関する模倣(程度による)の一切を禁じております。
詳しくはこちらを参照→ 禁止事項
無断転載もご遠慮ください。
《カナエ》
『あ、男尽くしカナエ? 僕だけど』
これはこれは。
ある程度の予想はしていましたが、やはり覚えている方はいましたか。
カナエはキクリ家の4女で現在はキクリ食堂の中級料理人の指導をしています。2024年の4月から高校1年生になりました。
2020年の時に仲間だったセナさん、アルフォンス王子様、セレナール、ユメさんとは、必然なのか、直ぐに仲間になりました。カナエは1つ上に兄がいます。これも必然なのか、セナさんの親睦が深まりそうにあります。
カナエは元々巫女の仕事もしておりまして、その関連からか2020年のことも覚えています。あのような出来事は、例え仲間であれ信じてもらえるかどうか分かりません。ですので、カナエは、何も知らないフリをして今のメンバーと過ごしております。
「数日ぶりですね、セルファさん」
カナエはフェアホの電話に出ました。
『ふーん、やっぱアンタ覚えてんだ。向こう側についてるのは僕らを蔑ろにするため?』
やはり、セルファさんは変わっていません。そうですよね。2024年は2020年の続きのようなものですから。
「まるで、カナエに二重スパイをしてほしいと言わんばかりのお言葉ですね」
キクリ家は他のお武家連盟とは違って刺客です。これまでの前世、何度もスパイをしてきました。二重スパイもです。やはり、この時はやってきましたか。
『話分かってんじゃん。じゃ、今からしてくんない? 後、明日キクリ家行くから』
セルファさんは、いつもどこかカタコトです。そちらには誰がいるのかカナエは知りません。話というのは要点のみでなく、その周辺のことも話さないと相手に伝わらないこともあるようにカナエは感じます。
「明日、キクリ家に来ることは分かりました。今のセナさんのメンバーとセルファさんのメンバーの両方に個別で加わらなければならないことも承知しました。しかし、そちらにはどれだけのお仲間がいるのでしょうか?」
セルファさんは、あのようなカタコトな伝え方で人間関係築いているのでしょうか。カナエは不思議でたまりません。
『僕と、強気なナミネ、顔だけヨルク、ラルク、恵まれズームだけど? 後、電話だけどラハルも』
随分と集められたようですね。しかし、これでは誰が覚えていて誰が覚えていなかったのか分かりません。
「誰が2020年を覚えていたのでしょうか?」
カナエは、確実なことを聞き出すタイプのようです。お兄様は多分違うでしょうけど。
『別に要件だけでいいだろ。
僕、強気なナミネ、恵まれズームだけど?』
つまり、ラルク、ヨルク、ラハルさんは記憶がない状態でメンバーに加わったということですね。
『あ、あの、私たちがキクリ家に行くよりカナエさんがナノハナ家に来た方が安全だと思うのですが』
数日前までは当たり前のように聞いていたナミネの声。しかし、2024年に飛ばされた今、ナミネの存在は遠く感じるのです。
『じゃ、男尽くしカナエがこっち来い』
セルファさんは、いつも本人より先に答えてしまうところがあります。けれど、キクリ家はお兄様もいますし、カナエがナノハナ家へ行った方がいいでしょう。
「分かりました。明日の朝、ナノハナ家に伺います。お武家連盟加入の人たちの連絡先は入っていますが、そうでない方の連絡先は入っていませんので、セルファさんとズームさんの携帯番号、メールアドレス、レインをどなたか送っていただけますか?」
セルファさんのメンバーにも加わるなら全員の連絡先を知る必要があるでしょう。
『あ、カナエさん、私が今送りました』
ヨルクは自分のカラに閉じこもり人付き合いはあまりしていませんが、カナエにとっては弟のような存在で、人当たりも良い子です。
「ありがとうございます。後で確認致します」
またナミネと付き合うのでしょうけど、今のヨルクは、あの時の記憶がありません。色々困難になるでしょう。元に戻すにも新たな人生を歩むにも。
『で? 男尽くしカナエ、アンタまた平凡アルフォンスと付き合うわけ?』
どうしてセルファさんは、そのようなことを知りたがるのでしょう。2019年の時は確かにアルフォンス王子様のことは好きでしたし運命だとも思っていました。けれど、今はと聞かれるとカナエにも分かりません。けれど、新たな人生よりも元に戻す必要があるように感じます。あの時のようにアルフォンス王子様に告白しなければならいでしょう。
「では、要件はお聞きしましたので今日はこの辺で」
カナエは電話を切りました。
カナエは自分のことはどうにかしますが、心配なのはお兄様です。このままいくと、セナさんとは再び交際するでしょう。しかし、シャム軍医が現れたら、お兄様は捨てられてしまいます。それも運命のイタズラでしょうか。
カナエとしては、お兄様には幸せになってもらいたいですが、セナさんとは無理でしょう。お2人は若すぎます。若すぎたのです。そして、互いが互いの想いを汲み取れていませんでした。 交際したとしても用意されている未来は別れでしょう。お兄様にはセナさんでなく他の人とお付き合いしてもらえたら良いのですが。
翌朝、ナノハナ家に行ったら皆さんまだ眠っているようなので朝食を作りました。この第4居間も懐かしいです。2024年の幼少時代も皆さんと遊んでいたのでしょうか。
もし、今回ラルクとセレナールが上手くいったら何か変わるでしょうか。それでも、カナエにはラルクの核心の部分に存在しているのはナミネな気がします。いくらセレナールを愛して愛してどうしようもなく愛していたとしても、本音と核心は別物。核心に気づいてしまえば、多かれ少なかれセレナールとはぎこちなくなるでしょう。
「アンタ、早いな」
セルファさんたちが起きてきました。
「カナエさん、朝食ありがとうございます」
こちらのメンバーとも関わるなら、またヨルクともお料理出来たらいいですね。
「皆さん、おはようございます。まずはカナエが作った朝食を食べて、そこからお話しましょう」
みんなは、あの時の配置に座りました。間は開けずに。
「で? 一目惚れカラルリは甘えセナとくっつきそうなわけ?」
カナエは、物を口に入れながら話す人はあまり好きではありません。それでもみんな話したいのでしょう。
「このままいくとそうなるでしょう」
こればかりは誰にも止められません。セナさんとお兄様は日に日に仲良くなっています。
「となると、セレナールさんとセナさんの妊娠を食い止めなければなりませんね」
ズームさんの言う通りですが、簡単にいくでしょうか。
「そうですね。けれど、食い止められなかった時のことも考えなければいけないとカナエは思うのです」
もし食い止められなかったら……お兄様はセナさんから友達としても見てもらえなくなります。
「うーん、これはもう本人に雲リラを買わせるしかありませんね。妊娠のところだけは何がなんでも私たちが食い止めなければなりません」
ナミネも強引に物事を進めるところがあります。カナエとて、前のような事態にはなってほしくありません。けれど、それは交際する2人が大きく関わることで他者が口を挟めばややこしくなりかねないと思うのです。
「ま、無理な時は無理なんじゃないの?」
セルファさんは、とてもじゃないけどセリルの弟には思えません。真剣な時に、あえて冗談ぽくなる。
「しかし、僕はもう二度とセレナール先輩に苦しんでほしくありません」
セレナールも、あの時は酷く苦しんだでしょう。遠い遠い前世ではカナエもエミリもセレナールと親しかったのに、いつの間にか少し距離が空くようになった気もします。
「大丈夫だよ、ラルク。今回はそんなことにならないよ!」
ナミネはラルクが好きなのかヨルクが好きなのか。助けたい人が1人だけでないというのも考えものです。
「ところで、ミネスさんはどうしていますか? ミネスさんも覚えていると思うのですが」
絶対覚えている。けれど、ここにいないということは……。
「確かに覚えてはいます。けれど、ショックのあまり寝込んでいます」
寝込んでいる……。カンザシさんとミネルナさんが最後の最後で通じ合ってしまったからでしょうか。けれど、そのせいでカナエたちは今の状況下にあります。
「そうですか……」
重要な時ほど言葉というのは見つからないものなのかもしれません。ミネスさんもミネスさんで辛く、カナエたちもカナエたちで新たな問題を抱えてしまいました。
「ま、いずれはみんな思い出すからいんじゃない? 二度目の人生に後悔してるかもだけどね?」
後悔は致し方ないものだとカナエは思っています。後悔しない人間などいませんし、抗えないものがあるのではないでしょうか。
「あ、そういえば、ナルホお兄様とナヤセス殿も覚えています。今はまだ研究が忙しく妖精村に帰って来れないそうです」
そういえば、お2人は紀元前村、天の川村に留学をしていましたね。この非常事態に戻って来れないことには何かしら理由があるのでしょうか。
「じゃ、覚えてるメンバーはそれなりにいるってわけね?」
2020年を覚えている人がいるに越したことはありませんが、少なくともカナエのメンバーと言いますか、お兄様を通して知り合った二度目のメンバーはカナエ以外覚えておりません。これでは、以前を修復する目処が立たないとカナエは思うのです。
「しかし、覚えてないメンバーやまだ出会っていないメンバーが気がかりです」
カナエは多分、意見はハッキリ言うタイプです。カナコお姉様に似たのでしょうか。
「男尽くしカナエ。アンタさ、普通に考えて全員覚えてるわけないだろ。覚えているメンバーがいるってだけでも今は救いだと僕は言ってるんだけど?」
セルファさんとは気が合うようには思えません。何も、端から否定しなくても良いでしょうに。
「あ、私も以前と同じになってしまわないか心配ではあります。セナ王女たちのグループが誰かと恋人になったとして、学生としての健全な交際を出来るかどうかも気がかりですし、以前の二の舞だけは避けたいです」
ナミネは、カナエと同じ末っ子ではありますが、ポイントは抑えた性格です。恐らく、ナミネのように『以前の二の舞』を気にしている人は、この中にいる気がします。
「ナミネ、そこは僕も極力避ける努力はする。今、空理空論を述べても何もならないんだ。心配する気持ちは分かるけど、その人の行動は誰にも止められないんだ」
確かに、他者の行動は簡単には止められません。その人はその人の意思で動いているわけですから。それにしても、ラルクはセレナールのことで焦っているのでしょうか。
「そうだね。例え親しい友人であれ、行動に関しては本人の責任だもんね。逆に今はそこまで考える余裕ないか」
やはり、ナミネはラルクの言葉だけには素直になります。行き過ぎた幼馴染みの絆とでも言うのでしょうか。
「じゃ、今から商店街に新しく出来たカフェ行く」
えっ、外出されるのですか? もし、お兄様に見つかってしまったら、どのように言い訳したら良いのでしょう。
「あの、カナエは、こちらのグループにも入っていますし、外出は控えたいのです」
今日は、お兄様たちも集まっています。行き先は遊園地だそうですが、やはりカナエとしては、このメンバーでの外出は気がかりです。
「アンタにとって仲間は向こうのメンバーだけなわけ? 僕たちはただてさえ向こうを避けてんのに、休日にどこも行くなって? アンタ、思った以上に依怙贔屓だな」
やはり、セルファさんとは気が合う感じは少しもしません。カナエは、どこにも行くなだなんて言ってませんし、そもそも二重スパイを切り出したのはセルファさんですし、カナエとて、気を引き締めているのです。それをキツイ言い方されてはカナエも気分を害してしまいます。
「うーん、カナエさんの気持ちも分かりますが、私も休日集まる度、どこかの家に引きこもりは辛いです」
ナミネはアウトドア派なので、インドアはキツイものがあるでしょう。一人は寂しいですが、人が集まるのも、それはそれで意見が分かれて困る時があります。そういうのが続いたら人は一人の時間を求めてしまうものなのでしょうか。
「あの文具店の隣のカフェでしたら個室ありますよ」
ズームさんは変わりないですね。いつも、周りのことを考えていらっしゃる。2024年に飛ばされる前にカナエが揺れたのもズームさんの優しい性格がきっかけだと思います。そして、今回もまた好意を抱いてしまうかもしれません。
「じゃ、個室で」
セルファさんの強引なやり方に、この先カナエはついていけるでしょうか。
「カナエさん。これはskyグループの試作ですが、30分だけ姿を消すことが出来ます。化学チームと未来研究チームが提案してくれたのです」
本当にズームさんは人想いです。それにしても、skyグループの勢いは止まることを知りませんね。これから何世紀も存続してほしいとカナエは願います。
「じゃ、みんなそれ着て行く」
どうしてセルファさんが答えるのでしょう。本当にセリルの弟なのか何度でも疑ってしまいます。
「ねえ、落ち武者さん。それだとバスタダ乗りになるよね? 私は不正はしない」
ヨルクは真面目ですが少し固すぎるところが、引きこもりの原因の一つなのかもしれません。それ以外にも人知れずな事情もお持ちですが。
「商店街は直ぐそこですし、雨も降ってますから傘で顔を隠して行きませんか?」
いかにもラルクらしい言い分です。ここからバスに乗っても一停留所です。商店街からカフェまでは遠く、商店街はアーケードがありますので傘は必要ありません。
「では、ここから傘を指して歩いて商店街からカナエだけズームさんの持っているパーカーを着ます」
やっとセルファさんより先に答えることが出来ました。しかし、天気予報の外れた雨で、お兄様たちは遊園地には行っていないでしょう。紅葉町にいる気がします。鉢合わせにならなければ良いのですが。
「ていうか、顔だけヨルク、アンタ固すぎ。僕は店内で鉢合わせた時に着るって意味で言ったんだけど?」
ヨルクのことも心配ですが、セルファさんこそワガママで人間関係築けるかカナエは心配です。そもそも、セルファさんが『着て行く』と仰られましたのに。
「ねえ、どうしていつもそういう言い方するの? 落ち武者さん全然調和出来てないよね」
ヨルクは、理不尽な物事に関しては自己主張が強くなります。幼稚園からそうでした。
「ここでお喋りしていても時間の無駄になります。ズームさん、そのパーカー、全員分貰えますか?今すぐ出ましょう」
ラルクは、記憶はないものの、2024年の前を知ってからは焦っているように感じます。今すぐと言いましても、ズームさんとヨルク以外部屋着ですし、そもそもどこかで話を区切って着替えたほうが良かったと思うのですが。出かけること前提だったのでしたら。
そんな矢先、ナミネが着替えはじめました。ナミネも変わりません。
「ナミネ、ここで着替えないで! ちょっと、ナミネを着替えさせてくるからみんなも着替えてて」
まだ正式に交際しているわけでもないのに、やはりこのお二人はずっとあの頃のままですね。
「なんでアンタが強気なナミネを着替えさせるわけ? 付き合ってもないのに」
どうしてセルファさんは時間ロスばかりするのでしょう。
「もうっ! ナミネはカナエが着替えさせます!」
カナエはナミネの手を取り、二階へ走りました。
ナミネの部屋は、ヨルクとの交際前になっています。
ナミネは地味なワンピースを取り出しました。まだオシャレに目覚めていない頃のナミネ。遠く感じます。
「懐かしいですね。そのワンピース」
グレー一色の春物にしては暗めの膝下丈のワンピース。ナミネは可愛いのですから、もう少しオシャレすればいいのに……と思いますが、これも辻褄合わせでしょう。
「あ、はい。2024年に飛ばされた時、こういうのしかなかったんですよね。時間て未来に行けば進んでいるかと思っていましたが、逆に戻っていることもあるのですね」
ナミネは学校の時の二つ括りとは違って長いストレートの髪を下ろしています。
確かに、妖精村には時間の法則が定着していないかもしれません。そして、今回のことはカナエたちに課せられた試練であるとカナエは思っています。
「そうですね。また同じ時間を過ごすというのは奇妙なものですね」
覚えていない人はどうか分かりませんが、覚えている人が一番恐れるのは二の舞でしょう。今回もトケイ草を用いることにならなければ良いのですが。
「私たち、きっと何かを変えなければならないのですね。知らない何かを」
ナミネは天然なようで、重要なことはしっかり計画性を持って行動が出来る子です。ナミネが前の世界を覚えていたのも何かしら理由があるのでしょう。
そしてナミネは部屋を出て階段を降りていきました。カナエもナミネの後に続きました。
「じゃ、行く」
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あとがき。
まさかのカナエが二重スパイ!?
スパイというか、セナたちが覚えてないから必然的にこうなってしまうんですよね。
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