忍者ブログ
日常のこととかオリジナル小説のこととか。
カレンダー
01 2026/02 03
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
プロフィール
HN:
ashita
Webサイト:
性別:
女性
職業:
地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ブログ、もう書かないと思ってました。

けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。

小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。

純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。

元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。

ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。

小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。

よろしくお願い致します。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

お知らせ。

イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。

また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚

フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。

ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

X @kigenzen1874

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ブログ内検索
QRコード
フリーエリア
〈資格履歴〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
〈資格証明バナー〉

鉛筆デッサンマスター®認定試験資格取得証明
絵画インストラクター資格資格認定証
宝石鑑定アドバイザー資格認定試験資格取得証明
鉱石セラピスト資格資格保持証明
茶道アドバイザー資格認定試験資格取得証明
お点前インストラクター資格資格認定証
着物マイスター®資格認定試験資格取得証明
着付け方インストラクター資格資格認定証
サイキックアドバイザー®資格資格証明
サイキックヒーラー資格資格保持証明
アンガーカウンセラー®資格資格保持証明
アンガーコントロール士資格資格認定証
漢方コーディネーター®資格認定試験資格保持証明
薬膳調整師®資格認定試験資格保持証明
[1] [2] [3] [4] [5] [6
純愛偏差値 未来編 一人称版 142話

《サヤキ》

私には、切ない前世の記憶がある。
ずっと恵まれなかった。ずっと不幸だった。ずっと孤児院育ちだった。恋愛さえも知らず、高校生になれば自立して適当に暮らしてきた。
今世でズームと会った時は一目惚れをした。
結婚はしたことはあったけど、どの男もみんな同じ。私は貢がせられていた。浮気もされていたし、愛されたことなんて一度もなかった。
ズームと出会って、はじめて恋を知り、ズームと交際したいと思った。何度もアタックしたがズームには既に心に決めた人がいたのである。前世で何度か恋人だったとか。
部屋に飾ってある写真を見て、とても綺麗な人だと思った。でも、その人には運命の人がいて、一緒になれないと聞いた時、私にもチャンスがあると思った。何度も何度もアタックしたのにズームは振り向いてさえもくれない。
そのうちに、同じクラスのロォラがズームと距離を縮めはじめた。ロォラとはそれなりの関係でいたかったけど、私の方が明らかズームと近い距離にいるのに、ズームがロォラと親しくしたことに私は嫉妬した。いやってほど嫉妬したのである。そんな自分の醜さは受け入れがたかった。
更には、ズームの想い人がまさかのナミネだったことには驚いた。私はナミネにも嫉妬をしている。
どうして私だけ上手くいかないのだろう。私はフラワー女優として人気もあるし、孤児院もそろそろ卒業して独り立ちする。仕事は上手くいっているのに、満たされない。
カラルリと交際したのはズームのことを忘れたかったから。私も普通の恋愛をしてみたかったから。お互い好きな人に未練残したままの交際だけど、いやじゃない。寧ろ、好きなほう。ただ、ズームを忘れられないだけ。
交際したその日のうちにカラルリに水花を捧げた。それで良かったと思っている。カラルリとは空咲の相性もいいし、趣味も合うし、初カレとしてはマシだと思う。いつかカラルリだけを好きになれる気もする。
「サヤキ、ゆっくりでいいから。私はサヤキを待つ」
カラルリは優しい。何かと気遣ってくれるし、はじめて過ごした夜、勉強も教えてくれた。こんな人を騙すのは胸が痛む。でも、私も普通になりたい。
「あ、う、うん。私もカラルリのペースに合わせる」
かつてはセナ王女と両想いだったそうだが。
「ありがとう。何か食べに行く?」
このホテルに泊まって2日経つ。その間、カラルリとは恋人らしい時間を過ごしていると思う。ラハルのマンションで何が起きたかも知らずに。
古代、博物館にてセレナールが襲われたことが、間に合わなかったのがカナエとセナ王女になっていて、セレナールは無傷だったことを知るのは少し後になる。
「え、別になんでもいいよ。コンビニで買ってくる?」
カフェなどに行くのも恋人の普通なのだろうか。よく分からない。
「遠慮しなくていいよ。こういう隠れ家なら大丈夫じゃない?」
カラルリは彼氏としては完璧だ。カラルリとなら上手くいく気がする。
「そ、そうだね。私、奢るよ」
私は稼いでいる。彼氏とかいなかったし、貯金もしている。
「私が出す。サヤキはそういうの気にしなくていいから」
え、いいのだろうか。キクリ家とかいう、そこそこな家柄だとは聞いていたけれど、やっぱりカラルリもお金持ちなのだろうか。
「ありがとう」
私は思わずカラルリに抱き着いた。本当に恋人みたい。カラルリは私に口付けをした。やっぱりカラルリとなら自然的だ。撮影所で触れられた時、全然いやじゃなかった。
「行こっか」
カラルリは大人びている。このままカラルリに身を任せれば幸せになれるだろうか。

私たちはカラルリがフェアホで調べてくれたオシャレなカフェに来た。カラルリが気を利かせてくれて私たちは個室に案内された。
また二人だけの空間。何だか嬉しい。
えっと、今はタッチパネルになってるんだっけ。ちょっとついていけないかも。
「あ、カラルリってどうしてセナ王女と別れたの?」
前の世界では別れたってズームが言ってた。けれど、このタイミングで聞いてしまう私も私だ。
「互いの部屋を行き来はしていたし、いい感じだったけど交際はしてない。ミナクに取られた」
え、取られたって、あの私のファンとかいう男の子にだろうか。少し以外。ミナクって子よりカラルリのほうが大人びているのに。セナ王女は子供っぽい男が好きなのだろうか。
「え、あ、そうなんだ。でも、前の世界では交際してたんだよね?」
口説いだろうか。でも、どうしてか気になってしまう。
「前の世界? 何それ?」
え……。まさか、カラルリって前世とか覚えていないのだろうか。確かにそういう人もいる。私も、抜けている記憶ばかりだし。
「あ、前世とか……」
何だかカラルリにとって非現実的かと思うと、話すのが恥ずかしい。
「サヤキって夢見る女の子なんだ。可愛いし、いいと思うよ!」
本当に何も覚えていないんだ。私も古代までは覚えていないし、近時代からだけど。今の状況ではセナ王女とどうして別れたのか聞き出せない。
「あ、ありがとう。カラルリ、何食べる?」
私はタッチパネルをカラルリに向けた。
こんな風に外でも横に並んで座れるのは何だか嬉しい。
「サヤキの好きなもの選んで。それともシェアする?」
シェア……。今まで経験のないこと。私は多分カラルリと交際して良かったのだと思う。
「うん、シェアしよ。オムライスとかどう?」
私は少しカラルリにくっついた。
「うん、そうしよ。サヤキ和風好き?」
やっぱりカラルリは大人だ。
「オムライスなら何でも好きだよ!」
ずっと孤児院暮らしでロクなご飯食べてなかったし、一人でこういう店入るのも気が引けたら、何だか今という時間が夢みたい。冷めないでほしい。
「じゃ、和風で」
カラルリはタッチパネルで中盛りを注文した。
「あのさ」
と言いかけて、よろめく私をカラルリが受け止めた。
「サヤキ、ラハルと同じアパートで住むんだよね? だったらキクリ家で一緒に住まない?」
え、いいのだろうか。でも、カラルリの家がどんなところか知りたい。それにせっかく交際したのだし、私も好きになれそうな気がするから出来るだけ一緒にいたい。
「いいの?」
カラルリは私を抱き締めた。
「うん、サヤキと一緒にいたいから」
なんだか恋人みたい。恋人だけど、互いに好きな人いるから不思議な感じである。
「ありがとう! 私、カラルリの家から通う!」
もう孤児院も卒業だ。親が誰かも分からない。ずっと寂しくて貧しい暮らしをしてきた。そんな私も幸せになれるだろうか。
その時、カラルリが不意に私を押し倒した。
「カラルリ、ダメ!」
カラルリって思ったより大胆。
「ごめん、サヤキ色っぽくてつい……」
カラルリは私を起こした。
だったらセナ王女はどうなのだろう。容姿端麗で何でも持っている。
「セナ王女は?」
どうして聞いてしまうのだろう。
「うーん、綺麗だし、そういう雰囲気作ろうとしたけど空振りだった。それにセナさん身長低いし私はサヤキのほうが魅力感じるけどな」
そういう雰囲気って。空振りって。私とズームのような関係だったのだろうか。
運ばれてきたオムライスは、それなりに大きい。本当に二人分だ。カラルリは私のお皿にオムライスをよそった。
「ありがとう」
理想の彼氏だと思う。カラルリとならやっていける。私は確信した。
しばらくすると、またカラルリのフェアホが鳴った。いや、鳴り続いている。
「カラルリ、出なよ」
もっと一緒にいたいけど、引っ越したらキクリ家から学校に通える。カラルリとずっと一緒にいられる。
「ごめん」
カラルリはフェアホに出た。
「カナエが!? 今すぐ行く!」
何があったのだろう。というか、みんなもまだラハルのところにいたんだ。今行けばズームに会える。こんな良い彼氏差し置いて他に心傾けるなんて狡いけど、それでも会いたい。
「カラルリ、私も行く」
私はカラルリの手を握った。なんとなく嫌な予感がする。せっかく交際したのに上手くいかないような。私の気のせいかもしれないけれど、私の中で未来への不安は募っていた。
カラルリは私の手を振り払った。
「タクシー拾うから急いで!」
まだ少ししか食べてないオムライス。なんだか勿体ないし切ない。2人で楽しむはずだったのに。

タクシーに乗って辿り着いたグルグル妖精のマンションはめちゃくちゃになっていた。
「え、何これ! 何があったの!?」
ここにいたわけじゃないから何も分からない。惚気気分だったのが一気に暗くなったような、まるで別の世界に来た感覚さえする。
ただ事ではない。もしかして、前世が絡んでいる? 誰か口を開いて。
「お兄様! カナエはセレナールに陥れられました!」
セレナール!? また幼馴染みとやらだろうか。
「は? 姉さん陥れたのアンタらだろ! 十分報い受けるんだな」
完全に仲間割れしている。私がズームに駆け寄ろうとした時、ある映像が私の中を駆け巡った。

そう昔ではない。寧ろ、真新しい。
『サヤキのこと絶対幸せにする』
え、カンザシ!?
『嬉しい。私、カンザシを支える!』
桜木町のアパート。私とカンザシは同棲していたのだろうか。けれど、そんな雰囲気だし、駆け出しのカンザシだ。
私が仕事仲間と食事をして帰ったら殴られた。
『痛い! カンザシ、やめて!』
カンザシは何度も何度も私を殴る蹴るする。無抵抗な私はボロボロになっていくだけだった。
数時間後、カンザシは私を抱き締めた。
『ごめん、妬いた。もう絶対サヤキを殴ったりしない』
私はこの言葉を信じカンザシを許した。
『う……ん』
けれど、違った。カンザシは何かあるたび、私を殴り付けた。殴った後は必ず謝られ、私はカンザシから離れられなかった。
私がいないとカンザシはダメになる。私が支えないとカンザシは生きていけない。一種の洗脳概念はカンザシが私を捨てるまで消えることはなかった。
『ナミネさんと交際することになった』
え、ナミネ!?
『ちょっと待って! ここまで支えてきたの私じゃない! 今更捨てるの!? いや!!』
私はカンザシにしがみついた。カンザシが私を振り払おうとしたところをナミネが止めた。よく見ると武官の制服を着ている。私があれだけ無抵抗に殴られ続けていたのにナミネはなんの傷も追わずカンザシを丸め込めるわけか。私はナミネを睨んだ。
『よくも、よくも幸せな交際を壊してくれたわね!』
私はナミネをひっぱたこうとしたが、すんなり避けられた。
『カンザシさん、フリーだと言ってましたよね! 私、こういうやり方は好きではありません! カンザシさんとの交際はなかったことにします!』
賢明な判断だ。けれど、私だけが惨め。惨めすぎて私は泣き叫んだ。
カンザシとの別れは避けられたもののナミネを想うカンザシを見兼ねて、私は身を引いた。
カンザシは直ぐにナミネと付き合いはじめた。
風の噂でカンザシはナミネに養ってもらいながら高級マンションに引っ越したらしい。
そして、あれほどに仕事が忙しい中、家事も必死にこなしていた私と違って、家事全般は全てカンザシがしていると聞いた瞬間、私は復讐を考えるようになった。
最初はイタズラの手紙を出したけれど何もなかった。イタズラ電話に部屋の前にゴミを置いたりもしたけれど、何もなかった。私は稼いだ収入で武官を雇いナミネの人生をめちゃくちゃにしようとしたが、武官はあっさりナミネに返り討ちにあった。
この時、私はナミネが伝説最上級武官であることを知る。
打つ手がなかった。

「サヤキ! サヤキ!」
え、ズームに揺すられてる?
「ズーム……?」
すっかり、昔の記憶にとらわれていた。私とナミネには因縁があったのか。そして、撮影現場でヨルクをやたら気持ち的に避けていたのもカンザシとのかつての交際に原因があったことになるのか。
「サヤキ、どうしたんだ?」
私は、色んな感情が溢れて思わず泣きながらズームに抱き着いた。
「ズーム、私カンザシにDV受けてた! なのにナミネにあっさりカンザシ取られた!!」
この時の私は、セナ王女とカナエに起きたことの重要さに全然気付いていなかった。
「すみません、サヤキさん。あの時の女性はサヤキさんだったのですね」
今でも負けている。ナミネの出すオーラは輝いている。私は、ナミネが長女のミドリのことで散々苦しんだことも知らずにナミネに嫉妬した。
「この泥棒ネコ!」
私がナミネをひっぱたこうとしたら、また避けられた。動きは変わっていない。
「サヤキ、ちょっと向こう行こうか」
ラハルに腕を掴まれハッとなった。
「ごめん……何があったの?」
また惨めだ。ナミネがいると惨めになる。ナミネは何でも持っている。私にない演技力も人間関係を作る能力も強さも美貌も。勝てない。ズームさえ振り向いてくれたらそれで良かったのに!
「では、混乱していない私が説明しよう」
誰かこの子。よく見たら高価なネックレス身に付けている。良いとこのお嬢様なのだろうか。みんなお金持ち。みんな恵まれている。
ダメだ。今はそんなこと考えている時ではない。
「えと……」
でも、どこかで見たことあるような。
「フラワーブルー家のメナリだ。ブランケット家とは古くからの付き合いになる」
そっか。ブランケット家で見たのか。
「そ、そっか」
私は惨めな気持ちを押し殺した。
「説明に入るが、時は古代。戦場から帰ったセナ王女はカラクリ家でお世話になった。カナエも度々カラクリ家に来るようになり、そこにいる者は仲間となった。皇太子もおったな。
ずっと良いチームワークだったゆえ、それが壊れるだなんて誰も思わなかっただろう。けれど、人というのは集まれば集まるほど人間関係の糸が拗れるものだ。いつしか、心の優しかったセレナールはセナ王女に嫉妬するようになり、グループも孤立するようになった。
そんなある日、博物館でカナエは襲われた。セレナールの雇った武官にな。カナエは咄嗟にセレナールごと結界に閉じ込め逃げた。それを知ったカラルリはカナエに結界を解くよう説得し、解いたもののカラルリはセナ王女が襲われているのを見捨てセレナールを助けに行ったが間に合わなかったのだよ。これが後にカラルリとセナ王女の別れの危機となった。
間に合わなかったのは確かにセレナールだった。なのに、ここに泊まった次の日、変わっていた。セレナールが助かり、カナエとセナ王女が間に合わなかった歴史になっていたのだよ」
そんなことが……。自分だけが不幸で恵まれてなくてどうしようもないと思っていたけれど、セレナールという人も辛い思いをしてきたわけか。
なんとなく、セナ王女とカナエに同情出来ない自分がいた。セレナールという女のことは何も知らないけど、それでもメナリの聞いた話だけでも不幸さが伝わってくる。
「そ、そうなんだ。なんか非科学的だよね。元に戻るのかな」
本気で心配することの出来ない相手だと、どうしても心がこもらない。でも、カラルリは実の妹がこんなことになり胸が傷んでいるだろう。
カラルリはふとこちらを見た。
「なあ、みんなさっきからなんの話してんだ?」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あとがき。

サヤキ視点でした。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。

小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
PR
純愛偏差値 未来編 一人称版 141話

《ミナク》

虹色街にて、ナミネの映画撮影は無事に終わった。序盤でナミネが襲われかけたけれど、襲うだけ無駄だ。ナミネは強いが弱い武士でも一般人に負けるなんてことはない。
41%の華の涙のモデルになった事件は紅葉町 廃墟 集団事件で、今となっては誰もが忘れているだろう事件だと思っていた。それでも、最初に上映された『さよなら、ごめん、でも……』が、あまりにリアルだったため、あの時は高校生の同級生が盛り上がっていた。けれど私は、あの映画が女優の犠牲だということには気付いていた。実際に起きた事件を再現するなら手段を選ばないのかと恐ろしくもなった。
「あら、あなたの好きなサヤキよ。良いのかしら? カラルリと仲良さげだけど」
サヤキは高校生フラワー女優だ。フラワー女優にも関わらずキュート女優のような写真集も出していて、妖精村の男を魅了している。まだ芸能界デビューして浅いのに、ベテランのフラワー女優よりランキング上位にある。美人だし、キュート女優にはない色っぽさに私もサヤキの写真集やフェアスタ、フェアリーZ広場はチェックしている。学年の男子もダントツでサヤキ推しが多い。サヤキがキュート女優の真似事をしたことで、サヤキは他のフラワー女優を引き離した。写真集は2まで出ていて、大勢のファンが3待ちである。
「寧ろ、カラルリさんに付きまとわれなくていいんじゃないですか?」
サヤキにガチ恋する男は当然多い。けれど、ナミネじゃあるまいし、芸能人と交際とか夢のまた夢。そんな私は王女と交際している。
ふと見ると、確かにカラルリさんとサヤキは仲良さげに話している。私から見てスピード交際のパターンだ。にしては、少し不自然な気もする。さっき、落ち武者さんから、ラルクとシャナ、セレナールさんと皇太子様が交際したと聞いたけど、早すぎる。カラルリさんとサヤキにしてもだ。
「どうかしら。サイン、いいの?」
欲しいことには欲しいけど、セナ王女の前ではなんだか気が引ける。その時、カラルリさんとサヤキがこっちへ向かってきた。
「アンタって本当にスケベな女ったらしよね! サヤキさん、この男とだけは関わらない方がいいです」
何故ナナミにそこまで言われなければならない。だいたい、この場にいる男殆どがサヤキに釘付けだろう。
「ナナミ、お前さあ」
言いかけてサヤキが会話を遮った。
「いつも見てくれてるの?」
めちゃくちゃ見てるけど、セナ王女の前で言うのは気まずい。でも、サヤキに会えることなんて人生で一度でもあれば奇跡だろう。
「はい、大ファンです! 写真集も買ってますし、フェアスタやフェアリーZ広場もいつも見てます! 本当綺麗ですね! こんなに魅了された芸能人はサヤキだけです」
セナ王女、嫉妬してないだろうか。チラッとセナ王女を見た。めちゃくちゃ普通にしてる。それはそれで寂しい。
「嬉しい! これ、サイン。後、非売品のグッズよ」
え、めちゃくちゃ嬉しい。
「あ、ありがとうございます」
私は躊躇わずサヤキからグッズを受け取った。
「サヤキって彼氏とかいるんですか?」
なんとなく聞いてしまった。別に狙ってはいないが、これだけ美人だと彼氏いながら恋愛禁止のルールに乗っかって清純派を売りにしているのかとも思ってしまう。
「彼氏どころか異性を好きになったことさえないの」
普段なら疑うところだけど、サヤキの素振りからして本当だろう。明らか男を知らなさそうだ。セナ王女と出会っていなければ口説いていただろう。
「意外ですね。サヤキのような美人、男が放っておきませんよ。白咲は流石に済んでますよね?」
芸能人のプライベートって何気に気になってしまう。けれど、これだけ色々聞いてしまったらセナ王女の機嫌を悪くさせただろうか。
「まだなの。咲かせてくれる男の人、募集中かな」
サヤキってネットの姿とは違って、リアルはそれより純粋だったのか。けれど、あくまで写真だから、そこからリアルは想像しきれないか。
「セナさん、今夜はサヤキのマンション泊まるから」
……。マジか。カラルリさん、顔はイケてるほうだけど、この短時間でサヤキを口説き落とせたとは意外すぎて、ファンが知ったら悲しむだろうな。
「良かったわね、カラルリ」
セナ王女は笑顔をカラルリさんに向けた。カラルリさんは、ちゃっかりサヤキの腰に腕を回した。セナ王女にとっては良かったかもしれないけど、交際出来たとして続くのだろうか。この時の私は、変な違和感を無意識に揉み消していた。
「あ、あの、サヤキはカラルリさんと交際するのですか?」
しまった。友人感覚で聞いてしまった。
「泊まりってことは、そういうことになるわよね」
マジか。けれど、相性は合ってそうだし、セナ王女が付きまとわれないなら私はそれに超したことはないと思う。どの道、サヤキは彼氏を作る。そういう年頃だし、恋愛だって直ぐにするだろう。それが今になったというだけかもしれない。
それにしても、顔が真っ赤になっているサヤキ色っぽいな。
「ミナクお兄様、そろそろコメントですよ」
はあ、兄弟と思われたくないのに。こんなダサイヤツと。
「えっ、弟さん? 似てないわね」
やっぱり思うことは皆同じ。
「はい、もう全然似てません」
似たくもない。けれど、小さい頃から、やたらヨルクに真似をされているようで鳥肌が立つ。
「それでは、今から41%の華の涙の主役を務めたラハルさんとヒロイン役のナミネさんに撮影の感想を語ってもらいましょう。まずは、ラハルさんからどうぞ」
はじまった。撮影時間が長かっただけに、2人とも疲れているだろう。ラハルさんはマイクを手に持った。
「映画をご覧になられた方々には心より感謝致します。恐らく皆様もお気付きになっているかと思いますが、41%の華の涙は妖精村で実際に起きた事件がモチーフとなっています。決してあってはならない事件を伝えるため、僕たちは精一杯演じました。少しでも伝わっていたら嬉しいです。僕は隠したり揉み消したり嘘を付くことが嫌いなので今ハッキリ言います。41%の華の涙の元の作品である『さよなら、ごめん、でも……』のヒロイン役は無理矢理でした。だから、あのようなリアリティな作品に仕上がったのでしょう。けれど、僕は誰かを犠牲にしてまで、まして大切な人を犠牲にしてまでリアリティを求めたいとは思いません。今回の撮影でも色々ありましたが、誰にも犠牲にならなかったことは幸いですし、忘れ去られたと思われている事件を再び皆様に知ってもらえる機会となり良かったと思っています。このような事件が少しでも減っていくよう僕は祈っています」
ナミネに本気なラハルさんは、あの時確かに降板しようとしていた。相手がナミネだったからだろう。決められた運命の中で、あそこまで本命を想えるのは正直尊敬に値する。
「ラハルさん、リアルなコメントをありがとうございます。続いてナミネさんの意見を伺いましょう」
ナミネはマイクを手に持った。
「私は、『さよなら、ごめん、でも……』という作品があったことは知っていたものの、実際に起きた事件だとか、当時の女優が犠牲となり自ら命を絶っていたことは全く知りませんでした。けれど、撮影の合間に知り、私はリアルを演じようと思えたのだと思います。ラハルさんの言うように、決してあってはならないことだと私も思っていますので、よりリアルを皆様にお伝えしたかったです。何より主役がラハルさんだったからこそ、ラハルさんと共演出来たからこそ、私は安心して最後まで演じ切ることが出来ました。作品を演じる役者はチームワークを持つ必要があると思います。そういう意味で、ラハルさんは場をまとめてくださったので、とても感謝しています。最後になりましたが、41%の華の涙をご覧になられた方には心より感謝致します。少しでも私たちの全力が伝わっていたら嬉しいです。ありがとうございました」
ナミネはマイクをスタッフに渡した。遠い昔から女優業やっていたせいか、慣れている。けれど、ミドリさんと違ってナミネは女優業は志望せず、どこまでも武士であることを選ぶだろう。
「サヤキ、来てたんだ」
そうか。芸能界ってことは知り合いか、それ以上なわけか。
「ええ、ラハル演技良かったよ! またマンション行っていい?」
幼なじみのようなやり取りだな。
「いーよ。サヤキも本当勉強苦手だよね」
めちゃくちゃ仲がいい。というか、こういった友達関係と恋人の境界線てどこにあるのだろう。
「だって両立って難しいもん」
そうだよな。まだ学生な中、仕事と勉強を両立させなきゃいけないわけなんだよな、芸能人って。

その後、サヤキはカラルリさんと一緒にビジネスホテルに行き、私たちはグルグル妖精のマンションへ向かった。
カンザシさんがいないだけで、あの時と同じ部屋。懐かしいような切ないような、どうにもならない感情である。
夕ご飯は、ヨルクとカナエさんが作ることになった。ヨルクは本当に昔からカナエさんに懐いている。
「私も何かお手伝いしたいです」
ナミネは絶対にやらかす。
「ナミネは落ち武者さんたちと話してて」
ヨルクも何も突き放すことはないだろう。
「どうして、そういう言い方するのですか!」
案の定、ナミネはヨルクに扇子を突き付けた。
「ナミネ、ここはカナエとヨルクで足りますので楽にしていてください。撮影の後ですし」
やっぱりカナエさんは、昔から気遣い上手だ。
「あ、セナ王女。これでカラルリさんのこと解決しましたね」
あれ、セナ王女の顔色が曇っている。どうかしたのだろうか。
「うーん。サヤキは売れっ子だから、カラルリ1人ってわけにはいかないのよね。少なくとも後2人は……。女優目指してるみたいで演技作りをしなきゃいけないのよ」
演技作りって。なんだか、まるでさっきのナミネの撮影を思い出す。いくら芸能人とはいえ、そこまでしなければいけないのだろうか。だったらカラルリさんとの交際はなくなってしまうのだろうか。
「それって合意なのですか? カラルリさんとは交際しないのでしょうか?」
まだセナ王女のこと全然忘れてなさそうだけど、サヤキと交際すれば気持ちも紛れるだろうに。サヤキはいい人だし仮にも芸能人でいい女過ぎてカラルリさんには勿体ないくらいだ。
「今の職業続けるための証かしら。交際はすると思うわ。雰囲気も良かったし。でも、一般人と芸能人の交際。続くかは分からないわね」
身分差……というわけではないけれど、普通には交際出来ない。まるで私とセナ王女みたいだ。
「僕は胡散臭く感じるけど?」
胡散臭い? 何がだろう。
「まあ、芸能界ってそういうものですからね」
ズームさんまで。私には落ち武者さんとズームさんの言ってることが分からない。
「サヤキは稼いでいるし、そういうことはないんじゃない?」
セナ王女まで。なんだか蚊帳の外にいるようだ。
「難しいね。サヤキ、本命いるから」
ラハルさんまで入って来た。サヤキ、本命いたのか。どんな人だろう。
「サヤキさん、本命いるんだ。なんだかカラルリさんかわいそう」
かわいそうにはかわいそうだが、芸能人と付き合えるってだけでラッキーだと思うが。いや、そうでもないか。セナ王女に2人目作られたら私は正気ではいられないだろう。
「そうだね。本人目の前に言っちゃうのもなんだけど、サヤキは昔からズーム狙いなんだよね」
……。あまりに意外すぎて真実が分からない。まさか、財産狙いではないよな。けれど、カラルリさんと比較すればズームさんのほうが身分が上すぎて少しかわいそうな気もする。って、ズームさんてメガネ外せばかなりのイケメンだったんだ。今更思い出した。けれど、サヤキはそれを知っているのだろうか。
「サヤキはズームさんがイケメンなこと知ってるんですか?」
もし知らずに好きになったならカナエさんと同じだ。けれど、サヤキには申し訳ないが、私はカナエさんとズームさんに幸せになってほしい。
「知ってるよ。学校同じだし、そもそも幼馴染みだから、よくブランケット家行ってて、中学時代までお風呂一緒に入ってたらしいよ」
これを世の中の男性陣が聞いたらどれだけ羨ましがるだろう。サヤキと混浴だなんて少し前の私だったら、羨ましすぎて言葉を失っていただろう。それにしても現場での初恋はまだというのは、周りの目を気遣っていたところだろうか。今のサヤキは片想いでさえもファンが相当ガッカリしそうだからな。
「あの、サヤキって中学の時から胸デカかったですか?」
私は何を聞いているんだ。そもそもカナエさんほどではないだろうに。
「そういうのはあまり見ていなかったので分かりません。ただ、サヤキは小学校低学年までは兄のことが好きだったんです。でも、歳が同じで、たびたびブランケット家に遊びに来てくれていたので夜通し話し込んだりもしていました。そのうちに告白されるようになりましたが好きな人がいると、ずっと断り続けてきたのです。それでもサヤキは僕にアプローチし続けていたした。だからカラルリさんとのことは僕なりには喜ばしいです。僕はナミネさんのこと……」
ナミネか。私はナミネの兄のような存在だから恋愛感情なんて持ったこと一度もないけど、ナミネは高校生になれば見違えるほど美人になる。寄ってくる男は山ほどいたが、その中でナミネは玉の輿に乗り続けた。何だかんだでナミネも金持ち選んでんだなって、ずっと思い続けていたと思う。今はヨルク一筋に戻ったけれど。
「ナミネのほうが体型のバランスいいし美人だし、僕はナミネのほうが好きだけどな」
ナミネは整いすぎている。ミスコン銀賞のナハリさんの娘なだけに。もしかして、ラハルさんもサヤキと混浴したことあるのだろうか。
「ラハルさんもサヤキと混浴したことあるのですか?」
もし、セナ王女と出会っていなければサヤキを口説いていたかもしれない。と、思うこともあった。
「うん、今でもね。毎回ズームの話されるけど」
今でも……か。ズームさんもモテるな。
「サヤキって、どうしてズームさんのこと好きなんですか?」
ちょっと聞きすぎているだろうか。私はセナ王女を見た。あまり動揺してなさそうだ。
「普通にイケメンだかららしい」
サヤキも結局イケメン好きか。女ってみんなこうなのだろうか。私よりヨルクのほうが何だかんだでモテるし。上には上がいるっていうの、私は昔から嫌いだった。
「でも、カラルリも許容範囲なの?」
興味ないかと思っていたけれど、黙って聞いていたのはセナ王女も興味あったからなのか。嫉妬されないのは寂しいけれどセナ王女が今この時を楽しめていることは私も嬉しい。
「うん、普通にイケメンだし『趣味がかなり合う』ってレイン来てたから、初カレとしてはいいほうだと思う」
趣味……か。私とセナ王女はどうだろう。趣味は合ってなかった気がする。けれど、セナ王女は私の好きなフェアリー地平線のアルバムを買って私を知ろうとしてくれていた。そんなセナ王女を私は裏切った。もう二度とあんな目には合わせたくない。
「私もラハルと混浴したい〜!」
ナナミもガッツク奴だな。
「ナナミ、お前みたいなブスがサヤキと比べもんになんねーんだよ」
とは言ったものの、ナナミはナナミの色っぽさもある。今はセナ王女しか見れないけど、2024年に飛ばされなければナナミと添い遂げていただろう。
「話遮るようで悪いのだけど、ラハル、ちょっといいかしら」
リリカお姉様の真剣な表情に立ち上がったナナミも再び座った。
「皆さん〜! 夕ご飯が出来ました〜!」
ラハルさんとリリカお姉様は別の部屋に行き、私たちはテーブルに向かった。このマンションは広くてリビングだけでも生活が成り立ちそうだ。
やっぱりカナエさんの料理は美味しい。
「私、ちょっとトイレ」
座ったばかりなのにセナ王女は立ち上がった。私はセナ王女が置いていったフェアホを手に取った。行きずりの女からフェアホ見られた時は殴り付けたのに、今は束縛したいくらいセナ王女のことが気になって仕方ない。幸い、ロックはかかってなかった。
私はすかさずレインを開きカラルリさんとの窓を開いた。案の定、カラルリさんからのレインは来ていた。
『サヤキと寝た。でも、ずっとセナさんのこと考えてた。忘れるに忘れられない』
『サヤキとは交際することになった。時期見てラハルとアパート借りて転校するらしい』
『遠恋にならなくて良かったというより、私は今でもセナさんが好きだ』
苛立つ内容だ。サヤキと交際しておきながら、サヤキの水花奪っておきながらセナ王女セナ王女って。こんな奴にサヤキを渡したくない。
その時、不意にフェアホを取り上げられた。振り向くとセナ王女がいた。
「私のこと気になるの?」
気になる。誤魔化せないくらいに素直に答えたい。
「束縛したいくらい気になると言ったらどうします?」
素直ではなかったかもしれない。
「あら、やれるもんならやってみなさいよ」
ほんのり頬を赤らめるセナ王女。今の私は本当にどうしようもないくらいセナ王女に夢中だ。
「アンタさ、本当に好きなら彼女のフェアホとか見ないだろ」
私は落ち武者さんみたいにハッキングは出来ない。落ち武者さんはエルナやナミネのフェアホは気にならないのだろうか。
「ミナク、冷めますよ」
カナエさんは、取り皿におかずを追加してくれた。
「あ、すみません」
せっかくのカナエさんの料理、冷めたら勿体ない。
「セナ王女は妬かないのですか? サヤキのこと」
セナ王女さえいなければ本気で狙っていたかもしれない。本気で愛することは出来ないだろうけど。
「うーん、なんとなくミナクとサヤキって合わない気がするのよね。でも、私は浮気は許さないわ」
合わないってどういう意味だろう。
「あの、合わないって。もう浮気なんてしません。そこは約束します」
セナ王女とは何もないというわけではないけれど、もう簡単に安易な行動はしようとは思わない。
「価値観かしら」
けれど、サヤキははじめて会ったカラルリさんに許した。十分合うと思うけど。
「でも、サヤキはカラルリさんと寝ましたよね。早すぎませんか?」
私は何を気にしているのだろう。カラルリさんがセナ王女に付きまとわないきっかけが出来たのなら、それに越したことはないだろうに。
「仕事だからよ。3人と寝ることが仕事を続ける条件だから。1人目は見た目マシなカラルリにしただけよ」
ということは、カラルリさんは弄ばれているかもしれないのか。ちょっと笑える。
「あの、私のこと体型いいとか言ってましたが、どうですか?」
ナミネは上を全て脱ぎ下まで脱ごうとした。しかも、何故話を遮った。
「ちょっとナミネ! こんなとこで脱がないで! 落ち武者さんいるんだし!」
ヨルクは慌ててナミネの服を元に戻した。
「アンタさ、何で僕だけなわけ? てか、今でも十分いい身体だけど、僕は高校時代からのアンタの身体の方が好きだけど?」
みんなそうだ。そして、ズームさんは顔を真っ赤にしている。私としてはズームさんとロォラさんはお似合いだと思うのだが。
この時の私は知らなかった。かつて、大学時代になれば2人は交際し添い遂げていたことを。そんな前世を何度も繰り返していたことを知らなかったのである。
「もうはじまっていたのか」
え、委員長!? というか、これって思いっきりピッキングなのでは。
「待って! 私はラハルのこと本気なの! 2番でもいい! 私を……!」
やっぱりナナミとは違っていたか。リリカお姉様は推しとしてではなく、本気でラハルさんとの交際を求めている。
「今日はおアツいな」
委員長はチャッカリ取り皿におかずを入れて食べている。
「委員長はどう思う? サヤキのこと」
また聞いてしまった。
「少なくともズームのことだけは本気だろうな。でも、カラルリとも相性いいみたいだぞ。電気も付けずに、こちらもおアツいな」
どうして密閉した空間のことまで知っているのだろう。
「委員長、何でそういうの分かんの?」
何となく少し見てみたい気がする。相性いいってことは、カラルリさんとは上手くいったということか。
「1人目を確認しなきゃいけないのよ。映像ならここにあるけど」
セナ王女はフェアホを渡そうとした。
「あ、いえ。プライベートなことは見れません。それに今はセナ王女一筋なので」
気にはなるけど、SNS以上のことを知る、ましてやカラルリさんとの行為だなんてサヤキにも悪いし、セナ王女に誤解もされたくない。
「僕は見るけど? サヤキと恵まれズームが幼馴染みってのも前と変わってるし、少しでも今の手がかりになることは知っておきたい」
落ち武者さんはそうなるか。一理あるが、流石に見てはいけないような気がする。
「私も同感だな。ほぼ同じなのに少しだけ変に変えられているところが気になる。どの道、スタッフに提出するなら我々が見たとて同じだろう」
いや、全然同じじゃない。
「僕も見るべきだと思います。サヤキとはじゃれ合っては来ましたが、全然普通でした。カラルリさんとの相性がいいのも何となく作られた気がします」
いや、サヤキはズームさんの前では強がっていただけだろう。ズームさんて、恋愛に関しては随分と鈍いな。
「サヤキには悪いけど僕は見る。サヤキとは前も幼馴染みだったけど、前は駆け出し止まりで女優諦めたんだ。今回成功したのは何かしら意味があると思う」
ラハルさんまで。しかし、前も女優目指していたのか。前の世界で知っていてもファンになっていただろう。
そしてセナ王女が再生しようとした時、キクスケさんが現れた。
「残念ですが、この映像は削除済みです。映像を見れば裏番人が何かしら仕掛けます」
少し期待していたから気が抜けた。けれど、ズームさんで白咲は済んでいるのなら、カラルリさんとは全くはじめてとは言いきれない。
「カラルリとの映像は諦めてラハルかズームとの映像でも見たらどうだ?」
委員長にはプライベートとと言う概念が全くないのだろうか。
「悪いけど僕はパス」
そりゃそうだわな。その時、落ち武者さんがテレビを付けた。そこにはズームさんとサヤキが映っていた。
中学時代のサヤキはボブヘアーだったのか。サヤキのほうからズームさんにくっついている。スタイルもいい。この頃から女優目指していたのだろうか。
『ズームって鈍い。ロォラはいい子よ』
やはりサヤキから見てもズームさんは鈍いか。
『ああいうパパ活とかしている女は嫌いだ。それに僕は……』
またナミネか。ズームさんもラハルさんもナミネ一筋だな。
『あの写真の人? 前世よね? 今も知り合いなの?』
やっぱりナミネだ。
『知り合いではないけど忘れられない』
何世紀もずっと同じ人を好きになれるって何だか羨ましい。
『ゆっくりでいいから。好き……ズーム』
うわー、サヤキめちゃくちゃ可愛い。ズームさんも狡いな。でも、ロォラさんを応援してしまう。
『サヤキ、勉強しようか』
興味なしか。
その時、突然テレビが消えた。
「何かが邪魔しているな。我々には情報を与えたくない誰かが」
裏番人だろうか。まさか、シャナか!? ラルクは大丈夫なのだろうか。
その時、ナナミに引っぱたかれた。
「アンタって最低! こういうの見ていやらしい気持ちになってるんでしょ!」
何故、私だけ叩く。
「ナナミは分かりやすいな」
リリカお姉様はラハルさんにとって重たいだろうか。出来ればナミネのことは想い出としてリリカお姉様と新しい道を歩んでほしいのだが。
「ラハルさん、恋愛する気にはなれませんか?」
流石にリリカお姉様がかわいそうだ。
「恋愛ならしてるよ。でも、彼女は作るつもりはないな」
ラハルさんもラハルさんで頑固。けれど、こればかりはどうしようもない。
「話変えるようで悪いのだが、ズーム、サヤキは君のお金でデビューしたんだね?」
まさか、サヤキが! それってカンザシさんの時と同じだ。サヤキのことは信じたかったのに、少しショックかもしれない。けれど、理由はなんだろう。
「そうですね。最初は実力を認められていましたが、契約前になり賄賂でデビューしたフラワー女優が原因でサヤキは契約出来ず、泣きじゃくるサヤキを放っておけず、デビューさせました」
サヤキより人気のあったフラワー女優なんていただろうか。
「賄賂があったとはいえ、どこの業界も実力社会だ。君はサヤキが孤児院で育ったから特別扱いしすぎているように見えるが」
孤児院!? サヤキが!? 人というのは分からない。私は、てっきりお金持ちのお嬢様かと思っていた。
「そうだね、サヤキは孤児院で酷いイジメにあっていて僕もどうにかしたかった。メナリのいうことも分かるけど、メナリは貧乏の辛さ知らないよね?」
話がむつかしくなってきた。この世はやはり縦社会なのだろうか。もしかして、サヤキがカラルリさんを選んだのも、そこそこな家柄だからだろうか。
「例えそうでも私は不正は好きではない。現にサヤキは実力以外の方法で役者にもなろうとしている。まるでカンザシの時のようだな」
セナ王女の少なくとも3人はというのは、そういう意味だったのか。芸能界のことはよく分からないけれど、少なくともサヤキのファンは大勢いる。私もファンであり続けたい。
「そうですね。僕もサヤキの気持ちに応えられない後ろめたさがあったかもしれません」
率直にズームさんが羨ましい。けれど、ロォラさんとはそこそこ距離感近いのに対してサヤキとはどうして距離を置いた感じに見えるのだろう。
「あの、サヤキのことは少しも好きじゃなかったんですか? 理由とかあるんですか?」
いくら好きな人がいたとしても、聞いている限りの距離感ではいつ恋愛関係になってもおかしくはない。
「サヤキは大切な友達です。でも、恋人となれば話は別というかサヤキとは続かない気がするんです。何より僕自身、サヤキに傾いたことは一度もありません」
続かない。セナ王女も私に対して似たようなことを言っていた。これ以上は掘り下げられないけれど、恋人としては成り立たない意味が私には分からなかったのである。
「確かに僕もサヤキとは半ば同情で付き合いしてたと思う。でも、もう1人の幼馴染みがズームで良かったとも思ってる」
ややこしいけれど、なんだかんだでサヤキは心配されている。両者共に恋愛感情までは持たれていないものの、ちゃんと人間としてサヤキを支えようとしている。少し羨ましいかもしれない。けれど、サヤキと同じ立場だったら、きっと私もナヤセスさんみたいに逃げ出していたかもしれない。
サヤキは事務所名義でアパートは契約しているものの、基本は孤児院で暮らしているらしい。これは委員長の情報だ。
「ラハル……」
リリカお姉様は泣き崩れた。前はここまでではなかったのに。恋愛感情だとハッキリ気付いたからだろうか。
「リリカのこともちゃんと構う。これでいい?」
ラハルさんもなんだかんだでお人好しだ。
「カナエからしたらリリカは羨ましいのです」
今のアルフォンス王子はともかくとして、カナエさんはセイさんといい、前のアルフォンス王子といい、恋愛は上手くいっていない。特にセイさんのセレナールさんへの感情は許し難いものがある。
「男尽くしカナエは僕と交際中だけど?」
落ち武者さんみたいに適当に生きてみたい。とはいえわ落ち武者さんもエルナのことでは随分と苦しんだだろう。私もアヤネさんに裏切られて変わってしまった。
「セレナールも皇太子様と交際しはじめましたし、時期を見てセルファさんとは終わりにしたいです」
そういえば、セレナールさんも玉の輿に乗ったな。あれだけの美人は男が放っておかないというわけか。
「姉さんはレナード拒んでるらしいけど?」
セレナールさんも乙女だな。
「やはりそうですか。私たちが飛ばされたのは真実を明らかにするためかもしれませんね」
ずっとテレビを見ていたナミネがいきなり話に加わって来た。やはりってなんだろう。
「ナミネ、お前何か知っているのか?」
とはいえ、ナミネのほうが覚えているのは確かだ。けれど、セレナールさんと皇太子様は仲が悪いようには見えないが。
「知らなかったのですか? 教科書の妖精村 初代皇太子が婚約者とその兄を死罪にしたの、あれセレナールさんとセリルさんのことです」
……。言葉が出てこない。教科書の内容は知っているが、それがセレナールさんとセリルさんだっただなんて、今の今まで全く知らなかった。そもそも、セレナールさんの本命はセリルさんだったのか!?
「今の姉さんはセリル好きじゃないけどね? 女遊びミナク気になってるらしいけど?」
わ、私? 何故だろう。そういう雰囲気は全くなかったし、セレナールさんとは弟同士が仲が良くって仲良くしていたイメージが強い。
「君も女を騙すのが上手くなったな」
委員長は相変わらずだ。私が口説いた時、アッサリ振られたのを今でも覚えている。
「セレナールって欲張り! いくら古代に因縁があっても今はレナードと交際してるんだから余所見だなんてありえないわ」
突然セナ王女にくっつかれた。今すぐ2人きりになれたらいいのに。もうセナ王女を傷付けないと決めたし、セナ王女から離れて欲しくもない。

その夜中、セナ王女のフェアホが鳴り、私はまたセナ王女のフェアホを手に取った。ホーム画面に出ていたのはバッチリ、カラルリさんからのレインメッセージ。
『セナさん、今すぐ会いたい!』
『好きだよ』
『私は別にミナクのお古でも構わないから、セナさんを抱きたい』
『サヤキと交際すれば忘れられると思っていたけど、違った。サヤキのことは彼女だけど、心の中はセナさんで埋め尽くされてる』
なんだこれ。サヤキと交際しておきながらサヤキがいながら、セナ王女セナ王女って。やっぱりカラルリさんには渡せない。別れさせるしか……。
「前とは違って束縛するのね」
やっぱり起きていたか。
「会うんですか?」
会って欲しくない。もうセナ王女もカラルリさんも別の道を歩んでいる。付き合っていればカラルリさんだってサヤキを好きになる日が来ると思う。
「会わない。どのみちカラルリも思い出すわ。それに、サヤキとは私とミナクより進んでるし」
セナ王女……。私だって、セナ王女とは前みたいにラフな交際をしたい。それに、流石にカラルリさんとサヤキは早すぎる。
「カラルリさんとサヤキ、早すぎませんか? サヤキはここで水花失ってよかったのでしょうか?」
別の相手だったらと思ってしまう。カラルリさんがセナ王女に付きまとう限りサヤキがかわいそうだ。
「好きなことは好きなんじゃないかしら。あの2人、似ているようにも感じるし」
似ている……だろうか。サヤキはちゃんと自分を持っている。けれど、カラルリさんは心があやふやでふらつきまくりだ。けれど、サヤキがカラルリさんと交際して幸せならそれでいいかもしれない。
「そうですね。確かに好きなのでしょう。サヤキのこと羨ましいですか?」
何故か聞いてしまった。セナ王女の中にカラルリさんは元からいないのに。
「そうね。あなた、サヤキに口説かれたら交際してたでしょ」
私のこと? そうかもしれない。けれど、男としてサヤキに尽くせる自信はない。
「そうだったかもしれません。めちゃくちゃタイプですし、美人でセクシーですし」
結局見た目だ。私はサヤキのことを何も知らない。
「今度はミネスじゃなくてサヤキなのかしら?」
違う。付き合いたいと思うだけで、きっと夢で終わっている。
「そうじゃないです。ただの憧れです。二度とセナ王女を傷付けません」
もう手放さない。手放せば私が後悔する。
私はセナ王女を抱き締めた。今年の秋なら許されるだろうか。
私は今の時間がゆっくり進んでいくと思っていた。
けれど、翌朝、歴史は変わっていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あとがき。

カラルリがサヤキと交際したのは良かったとは思います。でも、カラルリ未練タラタラすぎ。これは、前の世界と変わっていないような。
いつか、サヤキを本気で好きになれるのでしょうか。

ここに来てセレナールとレナードの因縁が明らかに。
セレナールのレナードへの好きは古代編でもレナードへの本人さえも自覚のない復讐心があるからなのかな。

飛ばされる前とは色々違って、みんなの感情が切ないです。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。

小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
純愛偏差値 未来編 一人称版 140話

《ナミネ》

「セナ元帥! もう一度、僕とやり直してもらえませんか?」
どういうこと? 今そんな発言したら、シャナが余計に苦しむじゃない。
私たちは、カラルリさんに襲われてナノハナ家から逃げたセナ王女とミナクさんを探すべく、廃墟になった写真館へ行った。そこで、思いの外、ヨルクさんが記憶を取り戻したのである。ただ、油断は出来ない。真新しいアルバムのみが床に落ちていたあたり、キクスケさんか他の誰かによる何らかを目的としたものである可能性もある。
けれど、私はヨルクさんに思い出してもらえて、とても嬉しかった。
その後、私たちは、セナ王女の汚れた服をどうにかするため紅葉病院へ行った。
そこで、なんとシャナがいたのである。
シャナは、2020年で飛ばされず、2023年までの世界を知っていた。シャム軍医は職場で知り合った同僚と恋仲になりセナ王女に別れを告げたところ、セナ王女はシャナに復讐をしたらしい。
また、ズームさんや落ち武者さんによると、この世界で未来の自分に出会うこともありうるとか。
「私、ミナクと交際してるの。それに、今そういうこと言われたら余計にシャナから恨まれるし迷惑だわ!」
そりゃそうだ。ミナクさんより早くに出会っていたなら可能性もあっただろうけど、こんな状況では付き合えたもんじゃない。
「ていうか、そもそもなんで心変わりしたんだよ?」
それって今重要だろうか。シャナがこんなに苦しんでいるのに。ナヤセス殿とは出会わなかったのだろうか。
「交際して1年くらいしたら、セナ元帥からブランドなど強請られるようになって、転生ローンも組んだし、セナ元帥が喜んでくれるならと最初は負担ではなかったけど、だんだん負担になった。仕事してから転生ローンは返せたけど、癒しがほしかった。そんな時に職場の同僚と両想いになってセナ元帥を見捨ててしまった。後悔している。ちゃんと話し合うべきだったと思うし、同僚のことは恋愛ではなかった。僕が愛していたのはセナ元帥だけだった」
何だか煮え切らない言い分。他に揺れた時点で私だったら元の関係に戻ろうとは思えないと思う。いっときの気の迷いみたいなものでシャナの人生が壊れてしまったかと思うと、シャナが可哀想すぎる。
けれど、シャム軍医にまでブランドを強請っていたとは思わなかった。恋人というのは最初だけなのだろうか。それともセナ王女がもたれかかっただけなのか。
「覚えていないことを言われても私には何も出来ない。もしシャナが何かしてきたらルール違反よ? レナードに今日のこと話すわ」
セナ王女も折れない。といっても、全く身に覚えないことを言われても人は解釈しきれないものだ。寧ろ、取り乱しながら突き放すのが普通だろう。残酷だけど。
けれど、私は今のシャナを助けたい。
「ナミネ、悪いけど、今ナミネに降板されたら困るし、今は映画のことだけ考えてくれないかな?」
そう……だった。私は、ラハルさんと最高の作品にすると誓った。シャナのこと直ぐにでも助けたいけれど今は出来ない。ナヤセス殿も、シャナを選ぶかロナさんを選ぶか分からない。私に出来ることは何もないかもしれない。
「あ、はい、すみません。私、ラハルさんと最高の作品になるよう精一杯演じます!」
一度引き受けた仕事に支障をきたすことは許されない。シャナには申し訳ないけど、ラルクに連絡して意見を伺おう。私は、フェアホを取り出し、ラルクにレインを打った。
「じゃ、僕たちは別のとこで寝る。甘えセナはもう女遊びミナクと付き合ってるし、アンタら迷惑」
何もそんな言い方しなくっても。シャナもシャム軍医も仲間だったはずなのに。やっとカラルリさんの転生ローンがゼロに出来たと思ったら、今度はまた別の問題に苛まれている。私たちに問題のない日は与えられないのだろうか。
「ナミネ、一緒に寝よう」
ヨルクさんは私の手を繋いで来た。シャナの問題さえなければこのまま恋人に戻れるかもしれないのに、シャナがいる手前、私のみ幸せを見せつけてしまったらシャナが可哀想だ。
「すみません。私、一人で寝ます」
どうして……どうして上手くいかないのだろう。
「シャナのことはカナエが見てます。皆さんは休んでください」
ここでもカナエさんは率先して困難な問題を引き受ける。やっぱりカナエさんは変わらない。
「アンタ、聞こえなかった? この二人とこちら側は関わらないけど?」
落ち武者さん、どうしてそんなに冷たいのだろう。氷河期町にいた時、あれだけ助け合った仲じゃない。
「それはセルファさんの身勝手な言い分です。カナエはセルファさんの召使いではありません」
カナエさんて、本当ハッキリ意見言う人だなあ。小さい頃は私たちの面倒見ててくれていたし末っ子にしてお姉さん要素も兼ね備えているのかもしれない。
「召使いのような存在としてって契約だけど?」
そういえば、落ち武者さんに償うような約束してたんだっけ。
「ねえ、セナ王女。今妊娠何ヶ月?」
え、どういうことなのだろう。シャナが何かしたのだろうか。それともミナクさんとの……?
「アンタ、何かすると思ってた。悪いけど、アンタ見た時に裏番人封じしといたから。アンタだったんだな。裏番人と通じてたの。けど、甘えセナを助けるのも今回切り。僕が先手打ってなかったら、今頃アンタ中絶も出来なくなってたけど?」
裏番人!? シャナに仕えているの!? ダメだ。今はこの問題はラルクに預けないと。
「あなた、よくも……!」
セナ王女めちゃくちゃ怒っている。本人には全くもって記憶ないことだし怒るのも当然かもしれないけど、やっぱりシャナが可哀想だ。
「セナ王女、行きましょう。シャナ、お前にはガッカリした」
ミナクさんは半ば無理矢理セナ王女の手を引っ張って、この部屋から出て行った。
「ナミネ、僕らも行こう」
ラハルさんは一瞬、シャナを切なそうに見た。
「あ、はい」
シャナとここで会ったのは本当に予想外だった。助けたい。けれど、私には41%の華の涙を演じ切る使命がある。
「ナミネまで私を見捨てるの? ナミネって自分さえ良ければそれでいいの?」
引き止められるのはいつも私だ。理由は分からないけどモヤモヤする。
「そうじゃないよ! シャナとここで再会すると思わなかった! ラルクには連絡したし、撮影終わったらまた会いに来る! シャナのこと助けるから!」
その気持ちに偽りはない。けれど、シャナからしてみれば酷だろう。私は普通に学校に通って、女優業までする。でも、シャナは全てを失った。私が知らないセナ王女によって人生を奪われた。私たちがシャナと関わること自体が残酷なのかもしれない。
「私より撮影のほうが大事なんだ! そういうの友達と呼ばないし自分の幸せ見せ付けてるだけだよね」
やっぱりこうなってしまう。友人が困っていたら、やりたいこと諦めなければならないのだろうか。
もはや、入院している人とそうでない人とは時間軸が違う。同じ空間に存在しながらシャナは別の世界に生きているのだ。

数日後、私とラハルさんは41%の華の涙の予告コマーシャル撮影を行った。
シャム軍医は相変わらずセナ王女にアプローチしているらしく、シャナはあの後駆け付けたラルクによって落ち着きを取り戻したものの、セナ王女のことを許せないままでいる。また、シャナはラルクを頼りつつもある。ラルクとセレナールさんの間に亀裂が入らないか心配だ。
ナヤセス殿に手紙は出したが返事は返って来ていない。
41%の華の涙は脚本を見た時に、さよなら、ごめん、でも……と殆ど同じだと感じた。脚本家は確実に世に広めるつもりだ。モデルは、この世界に存在しているか分からないし、いつの事件かも今となっては曖昧である。それでも、ラハルさん同様、私も世に伝えたい思いでいる。
そして今日、撮影が行われる。読み合わせはプロの役者さんとしていたため、エキストラのみんなと会うのははじめてだ。
ラハルさん含め、中学2年生という設定だからか、4人のエキストラは中学2年生らしい。私は身長が低いし、みんなより1つ下だけど中学2年生に見えるだろうか。
スカートは思ったより短い。事件に巻き込まれた学生のその時の服装なのだろう。
ラルクはセレナールさんと紅葉病院でシャナを見ている。セナ王女とカラルリさんには同じ空間にはいてほしくないけど、私の撮影ということで来てしまっている。
虹色街は、あの頃とあまり変わっていないと思う。
ナナミお姉様とリリカさんはラハルさんに釘付けだ。
「ナミネ、本当に大丈夫? 撮影中に変なことされたりしたら……」
ヨルクさんは心配しすぎだ。エキストラとはいえプロを目指す役者なのだから。それに、 さよなら、ごめん、でも…… だってフリをするだけだった。あの演技はリアル過ぎて本当の事件を目の前で見ているようだった。
この時の私は、真実を全く知らなかった。さよなら、ごめん、でも…… でヒロインを演じた女優は何も知らないまま黒鈴酷華に持ち込まれ必死に抵抗し、それがリアリティあると評判になったものの、第二まで失った女優は絶ったことを。本当の雰囲気をそのまま出すため、監督が裏でアドリブをするよう話していたことは女優には知らされていなかったのである。それを私が知るのは全然遠くない未来であった。
「ヨルクさん、心配しすぎです。私は大丈夫です」
この時の私の考えは甘すぎた。それに気付くのは数十分後。
撮影がはじまる。私たちは配置に付いた。

「41%の華の涙 撮影スタート!」
はじまった。
エキストラは、レインレルさん、ハランレさん、ミルミークさん、ヨハナカさんの4人。そして、ラハルさん含め私たちは同じ中学校の同級生で同じクラスという設定になっている。
「何だか不気味ね」
真夜中の廃墟になった本屋の中でレインレルさんが身震いした。エキストラとはいえ、演技力はある。
「怖がりすぎじゃないのか?」
ミルミークさんは懐中電灯を顔に当てた。驚いたハランレさんは転んで下着が丸見えになった。レースの下着。確か下着はスポーツタイプのものと指定されていたはず。何かが違う。
「とりあえず、あの畳の部屋に入ろ」
私は脚本を元に戻した。
ラハルさんに手を取られながらハランレさんは立ち上がり、私たち6人は奥の畳の部屋に入って懐中電灯を照らしながら輪になった。
「この時期だから暖房も冷房もいらなくて肝試しにはちょうどいいな」
こんなセリフだっけ? ミルミークさんがアドリブ使ったのだろうか。NGは出ない。
「うん、そうだね。夏に入りかけの春の夜って過ごしやすいよね。私たち2年生だけど、みんな夢とかあるの?」
私はまた脚本通りに戻した。
「うーん、特にないかな」
ラハルさんは脚本通りに進めている。そして、ラハルさんに続くように他のメンバーも特にないと答えた。
「あー、そうだよね。私も勉強についていくだけで精一杯で夢とか考える余裕ないや」
現実は違うけど、ヒロインのモデルたちはそうだったのだろう。
「ナミネ、勉強出来るのに?」
そういう設定ではなかったような。ミルミークさんはセリフ覚えてないのだろうか。
「えー、出来ないよ」
私は苦笑した。
「ナミネ、好きな人いる?」
また台本と違う。
「それよりさ、ここいつから廃墟だっけ?」
ラハルさんが戻してくれた。やっぱりラハルさんは信用出来る。きっとミルミークさんは緊張しているだけだろう。
「当主なくなって跡取りいなかったんじゃないの?」
それって……紅葉町にある商店街を出た……。まさか、紅葉町で起きた事件だったの!?
「幽霊出るんだってな」
やっぱりミルミークさん以外は台本通りに進めている。そして、紅葉町で起きた事件なら幽霊というより転生している可能性も高い。
「怖いよねー」
私は少し後ろず去った。台本通りに少し膝を曲げた。こういうの私は気にしないけど、中には気にする人もいそう。
「みんなで手を繋ごう」
ヨハナカさんの言葉と共に、私たちは輪になり手を握り合った。片方がラハルさんなことに暗黙に安心している私がいる。
その時、レインレルさんが俯き、胸元がはだけた。
ひやー、中学2年生なのに胸ある。ちょっと羨ましい。
その瞬間、ミルミークさんは手を離しレインレルさんの太ももに触れた。ここは台本通りなんだ。男ってみんなそうなのかな。
「今、音鳴ったから見てくる」
レインレルさんは立ち上がった。
「私も……」
ハランレさんも立ち上がり、2人は外へ向かった。
私たちはその後、他愛ない話を10分ほどした。
その時、私はミルミークさんに押し倒された。なんか、息遣い荒いように感じるけど気のせいだろうか。
「や、やめて!」
私は抵抗をした。台本通りラハルさんもヨハナカさんも見ているだけで助けない。
ミルミークさんは私のブラウスを脱がした。私はキャミソール姿となった。
「やめてってば!」
ジタバタする私の両手をヨハナカさんが掴んだ。なんだか、リアリティあるなあ。
その時、戻ってこない設定のレインレルさんとハランレさんが何故か戻ってきた。
「あー、勘違いだった」
レインレルさんもハランレさんも何事もなかったように座った。
私はミルミークさんにパンツを下ろされ……あれ、2枚下ろしている! ここはフリなはずなのに、ミルミークさんもズボンだけでなく下着丸ごと脱いでいる。
「いやー! やめてー!」
私は咄嗟に結界をかけた。
「あ、あれ入んない」
その時、ラハルさんがミルミークさんを突き飛ばした。
「ストップ! ナミネ、大丈夫?」
ラハルさんは私に触れようとした。私は結界を解いた。
「なあ、アンタ、今本当にやろうとしただろ?」
落ち武者さんは、ミルミークさんの前に立った。私は下着とブラウスを元に戻した。
「あ、はい、何ともありません」
信じられない。こんな人が役者志望だなんて。
「あ、いや、僕は台本通りにしただけで……」
台本通り!? どこがだよ。
「台本通りって?」
落ち武者さんはフェアリーングをかけそうな勢いだ。私一人でも多分どうにかなった。けれど、あの時、止めてくれたラハルさんがいるから、私は取り乱さずに済んだのだと思う。私は弄ばれたりなんかしない。けれど、さっきは、ミドリお姉様の過去をリアルに実感した気がする。
「台本通りって言うか、元になっている『さよなら、ごめん、でも……』がヒロインに予告なしで本番したから、41%の華の涙でもヒロインに予告なしで本番って監督から言われてて……」
何それ!? 監督が黒鈴酷華を言い出すだなんて、とてもじゃないけど正気とは思えない。そもそも、『さよなら、ごめん、でも……』のヒロインは無理矢理だったの? 女優はモノなんかじゃない。私は、はじめて知った『さよなら、ごめん、でも……』のヒロインを不憫に思った。映画の撮影で人生を奪われることになるだなんて、もし、転生しているなら、どこかで復讐を考えている可能性も高い。
「監督、本当? 僕は何も聞いてない。ナミネを危険に晒すならナミネにはヒロインやめてもらう。僕も下りる」
ラハルさん……。やっぱり、ラハルさんがいないと私一人では違う展開になっていたかもしれない。
「言わせてもらうが、演技ではダメなんだ。役者は綺麗事では勤まらない。『さよなら、ごめん、でも……』はヒロインの犠牲あったからこそ、リアリティある作品を生み出せた。フリじゃダメなんだ。リアルで行うからこそ良い作品になる。悪いけど、ヒロインにはリアルを行ってもらう。君の容姿でリアリティある作品生み出せたなら2024年ベストな作品を生み出せる。女優業するなら、それくらいの覚悟は持ってもらわないと困るね。実際、今放送しているドラマも何人かの女優が犠牲になってるしね。女優はそういう仕事なんだよ」
完全に狂っている。とてもじゃないけど信じられない。監督に言われたからと、そのまま女優を犠牲にした過去の役者もミルミークさんも、屈折したものの考えで、女優1人亡くなっている以上、人殺しと言っても過言ではない。
私は監督に向かって歩き出した。そして扇子を突き付けた。
「あの、女優は辱められる存在でもなく犠牲になる存在でもありません。仮に……いえ、実際でしたね。その当時の女優を他の役者が黒鈴酷華したことでリアリティな作品になっていたとしても、犠牲では意味がないのです! 女優なら、リアルで行うではなく、リアルを演じられます! 私は『さよなら、ごめん、でも……』以上の演技をします! 私の演技が納得いかなかった場合は、そのリアルを行うとやらをしましょう! まずは、私の演技を見てください!!」
言ってしまった。後には引けない。引くつもりもない。私は、この作品を最高のものにしたいと思っている。
「ナミネ、やめよう。グルグル妖精のマンションで休もう」
ラハルさんは危険を犯さない人だ。いかなる場合でも。常にマイペースを保つ。諦めるところは諦め、本領発揮出来るところで登ってゆく。それがラハルさんだ。でも、私は違う。売られた喧嘩は買う。それが武士なのだ。
「いえ、私やります!」
その時、監督は武家のものではないけれど、芸能界のものなのか、伝統の扇子で、私の扇子をパチンと叩いた。
交渉成立だ。
「ナミネ、ダメだ! この撮影はやめよう! ナミネにもしものことがあったら、僕は生きていけない!」
そこまで私のこと想ってくれてる人、どれだけいるのだろう。
「ナミネは大丈夫。必ず過去超えするわ」
リリカさんはさらりと言った。
「交渉成立した以上、取り消しは不可能! みんな配置に付け!」
監督の言葉に、私たちはさっきの配置についた。ラハルさんは心配そうに私を見ている。私はラハルさんに笑顔で返した。
「では、ミルミークがナミネを押し倒すシーンからスタートだ! 約束通り一度目はナミネの演技力を見させてもらう! けれど、私が納得いかず二度目になった場合、リアルを行ってもらう! シーン2、スタート!」
監督の声と共に、ミルミークさんは私を押し倒した。
「えっ、何!? ミルミーク、どうしたの?」
私は動かなかった。
ミルミークさんは私のブラウスのボタンを外しはじめた。
「な、何してるの!? いや、やめて!!」
私は手足をシタバタさせた。ヨハナカさんは私の両手を掴んだ。
「ちょっと、そういう気持ちになっちゃった」
アドリブだ。
「勘違いだったみたい」
レインレルさんとラハンレさんもアドリブで戻ってきた。後で聞くところによると、2人はヒロインが犠牲になる姿を目に焼き付けて役者を極めたかったらしい。
「ねえ、助けてよ! 見てないで助けてよ!!」
私は涙を零しながらレインレルさんとラハンレさんを見た。2人は目を逸らした。
私は上はキャミソール姿になった。
「どうしてこんなことするの! やめて!!」
私はわざと身体を逸らし片方のキャミソールの肩ひもをブラひもと共に腕10cmくらいのところまで下ろした。
「ナミネって可愛いよな。ナミネみたいな子としてみたかった」
ミルミークさんは私のスカートの中に手を入れ、今度は約束通り下着を1枚だけ脱がした。
「いやー!!」
私は泣き叫びながらミルミークさんの頭を蹴った。
「おい、なにすんだ!」
ミルミークさんはヒートアップし、私の股を開かせた。
「いやー!! いやー!!」
私は大粒の涙を零しながら押さえつけられている両手以外を暴れさせた。けれど、ミルミークさんは容赦なく私の中に入れるフリをした。めちゃくちゃ当たってる。
「いやぁあああああああ!!!」
私は抵抗をやめ、ミルミークさんにされるがまま、声のトーンだけ上げて泣き叫んだ。ミルミークさんが終わると、ヨハナカさん、ラハルさんと腰を振り、私は気絶したフリをした。
「カット! 合格だよ、ナミネ君」
やり切った。と思う私の横で明らかミルミークさんは残念がっている。けれど、これで私は犠牲にならずに済んだ。
「『さよなら、ごめん、でも……』で監督を務めたのは、私の親友だった。女優を犠牲にすると聞いた時は流石に驚いたし、大丈夫なのか聞いたけど、作品は見事なものだった。それ以降、私も同じことで名作を見出してきたつもりだった。私は親友を超える作品を生み出したい執念に取り憑かれていたんだ。けれど、それは間違いだったと気付いたよ。女優ならリアルを演じられる。ナミネ君のような女優の中の女優がいることにやっと目を向けられた。この作品は『さよなら、ごめん、でも……』を超えるだろう。このまま台本通りに演じてほしい」
知り合いが、元の作品の監督だったのか。その人も、この監督と争う上で手段を選ばなかったのだろう。そして、犠牲者は出てしまった。この先も、そういった女優は出てくるかもしれない。けれど、私は私の演技を見る人に伝えたい。
「はい、最後までやります!」
まだ序盤だ。気を緩められない。
その後、撮影は続いた。
廃墟に入っただけで、人生を奪われた私は登校拒否の後、ホスピタルに入居した。ホスピタルでの生活は完全に心が健康な人の人生との関わりをシャットされていたと思う。来る日も来る日も同じ暮らし。けれど、学校には行きたくない。それでも、青春を奪われた恨みはつのってゆく。
そんなある日、ラハルさんが見舞いに来た。
「ナミネ、許してもらえないことは分かっている。それでも謝りたかった。ごめん、本当にごめん……」
ラハルさんは、その場に泣き崩れた。
流石はラハルさん。高校生にして、演技が優れている。努力した分だけの思いが伝わってくる演技だ。
私はラハルさんが持ってきた花束を奪い取り地面に叩き付けた。そして、ラハルさんを引っぱたくフリをした。私の手がラハルさんの頬に少し当たった瞬間ラハルさんは転んだ。
「許すとか許さないじゃないよ! あの日から私、学校行けなくなったんだよ! 家にさえいれなくなったんだよ! 元に戻りたくても戻れない! あの日、私の人生壊れたんだよ!」
私は徐々に声を張り上げ泣いた。
「黙ってないで返してよ、返してよ、私の人生!!」
私はそのまま倒れ、ラハルさんはナースコールを押した。
その後、ラハルさんは何度も私に会いに来た。私は憎しみから来る度にラハルさんを殴り付けた。結界をかけるまでもなく、ラハルさんはその前に転んでくれた。これが本当のプロの演技なのだろう。
そして、いつしかラハルさんが来る度私たちは他愛のない話をし、私はラハルさんが来るのを楽しみに待つようになっていた。
「ナミネ、結婚を前提に付き合ってほしい! 償いじゃなく、本当にナミネが好きなんだ!」
ラハルさんの突然の告白に私は微笑みながら涙を流した。
「うん、私もラハルのこと好きだと思う。私、付き合う! ラハルと付き合うよ!」
この日から私はラハルさんと交際をはじめた。
ラハルさんが来てくれる日は幸せな気持ちを抱けるようになった。
私は、中学三年生の夏に復学をした。
「ナミネ、久しぶり! 元気だった?」
レインレルさんは見下すように私に微笑みかけた。
「うん、元気元気! あのね、私、ラハルと交際してるの」
その瞬間、レインレルさんとハランレさんの顔が強ばった。
「え、それって同情?」
ハランレさんから笑顔が消え失せていた。
「ラハルね、何度も私のお見舞いに来てくれたの。そのうちに、互いに好きになっちゃって。私、ラハルと幸せになるね」
まだ本調子ではない私は、無理して精一杯の笑顔を作った。
「でもさ、ナミネ汚れてるし続かないんじゃない?」
その時、ラハルさんが来た。
「ナミネのことは本気。汚れてるって何? ナミネは純粋だよ。人を嘲笑うほうが心汚れてるんじゃない?」
ラハルさんは私の手を握った。私はラハルさんを見つめた。
下校はいつもラハルさんとするようになり、私は元の自分を取り戻そうとしていた。このまま幸せでいられる。そう信じていた。
レインレルさんとハランレさんがラハルさんのことを好きなのを知っても私は知らぬフリしてラハルさんとの青春を楽しんだ。
そんなある日、ラハルさんと下校していたら新たな廃墟を目にし、私はパニックに陥り、その場に倒れ込んだ。ラハルさんは直ぐに救急車を呼んだ。
搬送先で私は心的外傷後ストレス障害 (PTSD)と診断され、薬も処方された。
「私、治ってなかったんだ……。ラハルといるとあんなに楽しかったのに、こんなに幸せなのに……どうして……どうして!!」
私は突き付けられた現実を受け止めきれず、震えながら涙を零した。ラハルさんは私を優しく抱き締めた。
「ナミネ、直ぐには無理だと思う。でも、僕は支え続ける。だから、僕と一緒に乗り越えていこう?」
私はラハルさんの声さえ耳に入っていなかった。
学校で私は、ことある事に暴れた。
「よくも、よくも私の人生奪ってくれたよね! 私だけ不幸になってみんなは幸せなんて認めない! 許せないよ!」
私は、ミルミークさんとヨハナカさんにカッターナイフを突き付けた。
「ご、ごめん! あの時は魔が差した!」
ミルミークさんはリアルでもしそうで怖い。
「ナミネ、許してほしい! 悪かったと思ってる!」
ヨハナカさんは自分が助かりたいだけ。
この事件の関係者もそうだったのかな。
「ナミネ、落ち着こうか」
ラハルさんが私からカッターナイフを取り上げようとした時、ラハルさんから血が流れた。
実際は朱肉だけど、素早い。何度も練習してきたかのよう。そうか、ラハルさんは、この作品にかけていたんだ。やめなくて良かった。ラハルさんがいれば最後まで演じ切れる。
私は夜は眠れず勉強も出来なくなり、また家に居づらくなった。かといって、ホスピタルにも私の居場所はない。
そんなある日の放課後、理科室から声が聞こえてきた。
「ナミネって男子からチヤホヤされてて、タダでさえウザイから廃墟でハメてやったのに、ラハルと付き合うなんて……」
レインレルさんの声……。あまり悔しさは出ていないけど、この作品はあくまで主役とヒロインにスポットが当たったものだから、これはこれでいいのかもしれない。
「意外にしぶといわね。私たちだってラハルと付き合いたいのに」
廃墟のことはレインレルさんとハランレさんが仕組んだことだと知った私はその場に蹲った。
数日後、私は元グループに提案をした。
「ねえ、あの廃墟、もう一度6人で行ってみようよ」
その夜、私たち6人は私が人生を壊された廃墟へ行った。私とラハルさんは、畳のところまで行くと直ぐに外に出た。そして、中の様子を伺った。
ミルミークさんはレインレルさんを、ヨハナカさんはハランレさんを押し倒していた。
「やめて」
レインレルさんは押し倒されたまま棒読みした。
「いや!」
ハランレさんも抵抗しない。
「カット! せっかくナミネ君が名演技をしたのに、これでは作品として成り立たない! ちゃんとした演技が出来ないなら、この書類にサインしてくれないかね?」
監督はNGを出すなり、書類とやらを2人に突き付けた。いったいなんの書類だろう。
「え、リアルを行うだなんて出来ません」
リ、リアルを行う!? どうして今更!?
「損害賠償も払えません」
損害賠償!? さっきと言ってること違うじゃない。監督はまだ、もういない親友と争ってるんだ。けれど、犠牲者を出した作品になどしたくはない。
「あの、あくまで演技で良い作品をと約束しましたよね? どうして今更覆すんですか?」
作品は作品。失敗する時だってある。必ずしも名作にしなければいけないのなら、もうそれは撮影ではなく拷問だ。
「それはナミネ君の場合だよ。君は素晴らしい演技力を持っている。だからこそ、この作品は原作を超える作品にしなければならない」
監督は折れそうにない。犠牲にする書類を突き付けるあたり、説得出来る人なんているのだろうか。終盤になってのハプニングに私たちは戸惑った。
「うーん、終盤ですし、復讐シーンだけカットするとかは出来ないのでしょうか?」
別に復讐がなくたって、最後は主役とヒロインは幸せになるのだから、カットしたっていいと思う。でないと、せっかくここまで演じてきた努力がもったいない。
「それは出来ない。実際に起きた事件は女性は復讐をして自己嫌悪を抱いたわけだから、その1つの名シーンを抜くわけにはいかないのだよ」
だからって、まだエキストラの若者を犠牲にするのは間違っている。
「ナミネ、ちょっといいかな?」
ラハルさんは、私の手を取り、そして私を押し倒した。
「あ、はい」
なんだか、昔を思い出す。
「レインレルとハランレは、ちゃんと見てて」
ラハルさんは私のブラウスのボタンを外した。こういう時でさえ、ラハルさんは優しい。
「な、なにするの!」
私はラハルさんの手を押さえた。疲れているせいか、胸が高鳴っている。
「ナミネのこと好きだった。だから一度だけ……」
リアルでラハルさんに言われたら断る女いないだろうな。
「いや!」
私は手足をバタバタさせた。ラハルさんは私を殴るフリをした。
「や……め……て……」
私は抵抗出来ないフリをした。
ラハルさんはそこまま無理矢理するフリをした。
「いや……いや……!」
私は大粒の涙を零した。
リアルな演技なのに、相手がラハルさんだと安心してしまう。
「今の演じてくれる?」
ラハルさんは私のブラウスのボタンを付けた。
「じゃあ、廃墟で押し倒されるところからスタート!」
再び撮影ははじまった。
ミルミークさんはレインレルさんを押し倒し、ヨハナカさんはハランレさんを押し倒した。
「い、いやっ!」
レインレルさんは手足をバタバタさせた。
「な、なにするの!やめて!」
ハランレさんも抵抗をした。
ミルミークさんとヨハナカさんは押し倒した相手を殴ったフリをした。レインレルさんとハランレさんは抵抗をやめた。
この二人、ちゃんと訓練したら役者に近付ける。
そのまま、レインレルさんとハランレさんは水花を失った。
私は再び廃墟の中へ入った。
「あはは、私と同じだね」
私はあどけない笑顔で二人を見下した。
その後、レインレルさんとハランレさんは学校へ来なくなった。
「ラハル、復讐したのに……なのに少しも気が晴れない。それどころか私についた汚れが落ちないの……落ちないの!!」
私は泣き崩れた。
「ナミネ、時間はかかると思う。それでも、僕はナミネと人生を共に送りたい」
こんな感じのこと、いつかの交際時にも言ってたな。
「ううん、もういいの。ありがとう、ラハル」
私はラハルさんと別れ、転校をした。
きちんと別れたはずなのに、私はラハルさんのことを忘れきれず、結局引きずったままだった。
1年後の春、高校生になった私はバイト先でラハルさんと再会した。
数日後のバイト帰り、ラハルさんが追ってきた。
「もう二度と離さない。二度と手放さない。僕はナミネと結婚する」
ラハルさんは小さな箱を私に渡した。箱を開けると婚約指輪が入っていた。
「うん……私ももう現実から逃げないよ。ラハルが好き」
私とラハルさんは抱きしめ合った。
「カット! OK!」
4時間にも及ぶ撮影がやっと終わった。
「皆さん、お疲れ様です」
その瞬間、ラハルさんが私を抱き締めた。
「ナミネ、もう危険なことはしないで! 撮影中、どれだけ心配だったか」
ラハルさん……。
「ラハルさん、ありがとうございます。ラハルさんは、この作品にかけていたのですよね? そんな想いを簡単に消したくはなかったですし、ラハルさんがいる撮影だからこそ最後まで演じきれたんです! これからも私はラハルさんの夢を傍で応援し続けます!」
ラハルさん泣いてる。私が戦死したことや、カンザシさんに無理矢理引き離されたことを思い出したのだろうか。
「ナミネが危険な目に遭うなら最後までとかどうでもいい。僕はナミネが全てだから」
私、調和性に欠けてたのかな。いつかの私もそうだった気がする。
「分かりました。次はちゃんと話し合います」
武士はどうしても突っ走りがちだ。それは捨て身の心を常に持っているからである。自分が助かること前提では間に合わないことがあるからだ。されど、時代も2024年。捨て身というのは、殆どの武家では消滅されつつある。私たちは、お武家連盟会議では『各々の判断に委ねる』と位置づけされているが、本気で捨て身を今でも極めているのはコノハ家が強いだろう。
「アンタら、ここ撮影場所なんだけど? それと、デブミルミーク! この動画晒されたくなかったら、今ここで強気なナミネに謝れ!」
落ち武者さんの言葉にラハルさんは私を話した。ヨルクさんには申し訳ないけれど、なんだか愛おしい。人生を共にする相手は今世ではラハルさんではないし、私が命を懸けて守りたいのはヨルクさんだけど、全部ひっくるめて、ラハルさんは良きパートナーであると思う。ラハルさんなら、この先も女優のお仕事を引き受けたい。
「わ、悪かった。ナミネ可愛いし、ラハル先輩とのコマーシャルでもキュンとして、共演出来るって知れた時、思わず監督の指示に飛びついてしまった。ナミネの水花がほしかった」
この人、謝る気あるのだろうか。学校でもスカート捲られたり覗かれたりは当たり前だったけど、まさか本気であんなことするとは思わなくて、ミルミークさんとは友達にはなれそうにはない。
「あー、別にいーよ。監督の指示なら仕方ないよね。でも、本気で俳優目指すなら獣道は歩かない方がいいと思うな」
私はヘラヘラ作り笑いをした。
その時、ラハルさんがミルミークさんの胸ぐらを掴んだ。
「本気で悪いと思ってないよね。俳優目指すのやめてくれる?」
ラハルさんの真剣な顔。私に危機が迫った時は必ず取り乱していた。その時、リリカさんがミルミークさんを突き飛ばした。
「悪いけど、ミルミーク君はエキストラ、クビってことで」
『さよなら、ごめん、でも……』では、ヒロインのみが犠牲となった。けれど、今回は誰も犠牲にならず撮影を終えることが出来てよかった。
「か、監督! 反省しています! もう一度チャンスをください!」
こういうのは、どこの業界も程度によるだろう。私の中ではミルミークさんはアウトだし、ほとぼりが冷めたら、また同じことをしかねない。
「ナミネだけ狡い! 私もラハルと共演したい!」
間近で涙を零しながらラハルさんを見つめるリリカさんに対し、ミナクさんを好きながらも推しとしてラハルさんに迫るナナミお姉様。二人の相反する想いに胸を傷めているのは私だけではないはず。
「僕は、この先もドラマ出演決まってるから、まずはオーディション受けてくれる? ナナミもリリカもね」
オーディションかあ。前の世界では、役を取り戻すためにオーディション受けたっけ。私は普通の中学生でいたいけれど、ラハルさんがいるから女優業もかけもちしてしまっている。それに、今はミドリお姉様も表舞台に立とうとしている。
「ほら、コメントするんだろ。最後まで撮影してこい!」
そうだった。撮影中に色々ありすぎて、映画のコメントの存在を忘れていた。
「ナミネ、行こう」
ラハルさんは私の手を引っ張って走り出した。この光景も懐かしい。そして、この時、ヨルクさんが胸を傷めていたことを私は全く知らなかったのである。

撮影のコメントの後、私はフェアホを見た。
『シャナと交際することになった。セレナール先輩は皇太子様と交際はじめた』
ど、どういうこと? ラルクはセレナールさんを助けるためにセレナールさんに本気じゃなかったの? シャナと付き合うって何……?
私は何がなんだか分からないまま呆然とした。

✄-------------------‐✄

あとがき。

予告したかは忘れましたが、41%の華の涙(元は『さよなら、ごめん、でも……』)は実話です。
ある映画を見て、それが実話だと知り、その過酷で切なくて奪われた青春を少しでも多くの人に知ってもらいたくて今回140話に盛り込みました。
あ、えっとブログ 純愛偏差値では17話でしたね。

ある映画のタイトルは伏せてます。
その映画のタイトルを私が勝手に『さよなら、ごめん、でも……』と表記しました。

また、小説内では『紅葉町 廃墟 集団事件』としています。
実際の事件名は忘れちゃいました。

ただ、内容が内容で私も表現力がないため、見た人は一発で、どの映画か分かるとは思いますが。
電子漫画にも似たようなのありましたが、それではなく、あくまで映画ね。

その映画となった事件は本来、あってはならないことだと思うので、今後も私は、マイナーな実際に起きた事件を小説に盛り込んでいくつもりです。
もちろん、タイトルや事件名は変えますが。

『伝える』『知ってもらう』
ということも、時として大切なことだと感じましたm(*_ _)m

✄-------------------‐✄

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。

小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
純愛偏差値 未来編 一人称版 139話

《ヨルク》

ナミネが幼稚園に上がる前、私とナミネは婚約していた。けれど、幼稚園の時に『ラルクが好きだから婚約破棄する』と言われ、ずっとそれを引きずっている。けれど、ナミネを諦め切れなくて、何度も縁談書を持って行った。ナミネもナミネで小学生の頃は、よく私の部屋に来てくれていた。でも、ミドリさんがあのようなことになり、ナミネは変わってしまった。
最初はどうにか励まそうとしたけれど、ナミネはしばらく学校に行けなくなり引きこもっていた。それでも、ナミネを幸せにすると何度も何度も、ひたすらナミネとの縁談まとめることだけを考えて生きて来た。
「あのね、ラルク。今回もカラン王子の食事会あるをだって! 私、そこでヨルクさんにプロポーズするんだ!」
ナミネ、ミドリさんのところへ行ったんじゃなかったのか。私は、カナエさんと後片付けがあるから残っているけれど、盗み聞きしているようで、いい気はしない。それでも気になってしまう。
「まあ、いいんじゃね? ナミネ、ヨルクお兄様と交際して落ち着きたいんだろ?」
気持ちは嬉しいけど、ナミネからじゃなくて、私からナミネに花束とプレゼント渡して告白したい。カラン王子って、次期国王の……だよね。
「青春ですね。カナエは、あの兄弟に恋愛感情そのものを奪われてしまったので、お二人が羨ましいです」
今のアルフォンス王子は、まともに見えるし、寧ろカナエさんに気があるように見えるけど。カナエさんは、もうコリゴリか。無理もない。最初がセイさんだったことが、とてもじゃないけど、信じられない。それが不幸のはじまりというか、カナエさんの恋愛にトラウマを与えてしまったのではと思うくらいに。
「カナエさんなら、いっぱいいるでしょう。あ、カナエさんはミドリさんとラハルさんの演奏聴かないのですか?」
ここは私一人で十分だ。
「カナエはカナエで練習しているのでかまいません。キクリ家との行き来ですが、どこにいてもカナエの役目はカナエがやるつもりです」
きっちりしている。カナコさんたちもそうだったな。あ、そういえば、私ってカラルリさんから嫌われているのだろうか。聞いてはいけない気もするけれど、やっぱりはっきりさせておきたい。
「あの、私ってカラルリさんに嫌われているのでしょうか? どうしてでしょうか?」
カナエさんは少し悲しそうな顔をしたように見えた。けれど、私には恨まれる見覚えは全くない。
「お兄様は、チャラチャラしているミナクを嫌っております。けれど、それとは別にコンプレックスがあるのです。クレナイ家はヨルクだけが似ていませんよね? お兄様は、ヨルクの整った容姿に酷く嫉妬しているのです。一方的なものですし、お気になさらないでください」
し、嫉妬!? でも、カラルリさんだってイケメンだし、勉強も運動も出来て、ラブレターだってたくさんもらっている。
「あの、カラルリさんこそイケメンですよね? 文武両道で学年の女子からモテていますし」
私は自分をイケメンだと感じたことはない。私は……ミナクお兄様に憧れていた。服装や髪型を真似しても、ちっとも様似ならなくて。自分は冴えないと思っていた。
「上には上がいます。人は表面上では何も決まりませんが、お兄様は表面的なものも、とても求めています。その一つが容姿なのです。一つのコンプレックスとでも言いましょうか。お兄様は、まだ自分の生き方を見つけられていないようにカナエは思います」
よく分からない。イケメンで文武両道でも悩むということなのだろうか。カラルリさんが、そのようなコンプレックス的なものを抱えていたとは全く知らなかった。
「ねえ、ラルク。さよなら、ごめん、でも……、どう思う?」
何故、今それを聞くのだろう。そもそも、二人はミドリさんのところには行くつもりないのだろうか。
「みんな同級生なら、知れた仲だろうけど、魔が差したんだろうな。仲間割れというより、元々そこまで仲良いメンバーではなかったと思うし、夜中の廃墟で助けを呼べない状況に後々のことは頭になかったと思うが」
そもそも、夜中に廃墟に行く時点でどうかと思う。廃墟だけでない。心霊スポットに行って似たような事件に巻き込まれている若者がたくさんいる。
「そうだねえ。実際かは分からないけど脚本では仕組まれた出来事になってるの」
仕組まれたって、あの事件は興味本位で廃墟に入ったはずだ。けれど、仲良しのグループと見なされ、黒鈴酷華もなかったと少年院にも入れることが出来なかったと書いてあった。
「まあ、そのほうが雰囲気出るしな。でも、良かったじゃん。ナミネまた女優業出来て」
そういう役を中学一年生のナミネが演じるのは正直不安だ。けれど、ナミネの夢も壊したくはない。
「ラハルさんだからだよ。女優とか全然興味ないけど、ラハルさんとなら演じられる、演じたいって思うの」
聞かなければ良かった。物凄く胸が痛む。あくまで演じるだけなのに、二人はそう遠くはない前世、本当に恋人関係だったから。
「まあ、ナミネが今の状況で少しでも、やりたいって思うことあるなら僕は応援する」
ここで話は途切れた。二人はどこかへ行ったのだろうか。
「アンタらミドリんとこ行かなかったのかよ。甘えセナが風呂で話したいことあるって。強気なナミネは行ったけど? ちなみにラルクは姉さんと合流した」
え、セレナールさんにとってラルクは初対面なのに混浴するの? しばし、理解し兼ねる。
「あ、カナエさん、行きましょうか」
他に誰がいるのか不安だし、ナミネまた素っ裸で泳いでるかと思うと早く行きたい。
「カナエはいいです。セナさんに転生ローン払ってもらえませんでしたし。お兄様と入ります」
仲良いんだな。私なら考えられない。姉と混浴とか地獄絵図だ。
「とにかく来い! アンタだけの現在じゃないんだからね? 話し合わなきゃいけないからね?」
落ち武者さんは抵抗するカナエさんの手を無理矢理引っ張った。

私は、慌てて着物を脱ぎ、水着に着替えると露天風呂に向かった。良かった、ナミネちゃんと水着着ている。
「あら、遅かったわね」
セナ王女と、ミナクお兄様と、ズームさん、ロォラさん。なんか微妙なメンバーだな。ラルクとセレナールさんは第二浴場だろうか。
「すみません、カナエさんと後片付けしていました」
てか、二人きりのほうがいいんじゃないのか?
「ロォラ! さっき言ったこと今言え!」
ズームさん、裏表激しい。リリカお姉様ほどではないが。
「あ、ああ。だから、ミネルナさんの痴漢をアニキが助けて、その日に連絡先交換して、交際になって。ブランケット家で食事もしたらしい。アニキ、今は月城総合病院の研究員もしてて、貧乏だった家もすっかり景気良くなって、大学生になったら、医師と掛け持ちになるから、婚約も今年中にするとか」
急展開だな。けれど、カンザシさんと交際するよりずっといいし、幸せになれる気がする。カンザシさんには申し訳ないが。
「ふむふむ、運命ですな。ロォラさんとズームさんも交際したらどうですかな?」
ナミネはどうして真剣な話の時に茶化すのだろう。
「別にズームのこと好きじゃないから!」
今、思いっきり好きだと聞こえたのは気のせいだろうか。
「ロォラとはただの同級生ですよ」
ただの同級生が、ここまで来るだろうか。もう明らかズームさんのこと追いかけてきたよね。ロォラさんてグイグイいくほうなんだな。容姿端麗でスタイルもいい。私はセレナールさんよりロォラさんのほうが好みかもしれない。
「私もバイトしてるし、高卒で働くからアニキに頼らなくても大丈夫だと思う」
ロォラさんバイトしてるのか。
「どんなバイトだ? またパパ活か?」
ズームさんてナミネの話ではロォラさんに散々イジメられていたそうだけど、めちゃくちゃ気にかけている。
「商店街の魚屋。そこに就職する」
意外だなあ。アパレル業界かと思った。
「バイトはいいけど、大学くらい行け! 僕も兄さんも大学は妖精村学園だから!」
大学かあ。武家は基本、大学までは行く。就職の幅を広げるために。今とか就職氷河期だし、奨学金でも大学は行った方がいい気がする。
「うーん、アニキは結婚資金もあるし……」
ロォラさんて誰にも頼らない人なんだ。ナミネも少しは見習ってほしい。
「僕が出す! 出世したら返せ! ロォラならアパレル業界のほうが似合うし、就職ならいくらでも紹介出来る!」
もはや婚約者だな。それもロォラさんが魅力的だからだろうか。人として。
「えと、そろそろ良いかしら?」
そうだった。私たちは今後の話をするんだった。
「あ、ああ。私は正直何の記憶もないけれど、アニキによると私、結婚するらしい」
え、みんな飛ばされたんじゃなかったの? キクスケさんがそういう夢を見せたのだろうか。相手はズームさんだろうか。
「カナエは、お兄様を蔑ろにする時点でセナさんとは関わりたくありません」
カラルリさんも不運な人だな。けれど、ナミネの話ではセナ王女がカラルリさんと交際すれば、妊娠し、中絶薬を盛られてしまう。いくらルリコさんの計画とはいえ、カラルリさんは責任取る気などさらさらなかったのだろう。
「カナエさん、そのことは少し時間もらえませんか?」
ミナクお兄様もカナエさんのこと大好きだよな。夜のキクリ家で一人でトイレ行けないとカナエさん起こしてたっけ。カナエさんは少しも怒らずミナクお兄様をトイレに連れて行っていた。
「ミナク、カナエにとってお兄様は大切な人なのです。いくらセナさんが嫌っていてもカナエのたった一人の兄なのです! カナエはお兄様が幸せなら、それ以上は望みません」
そうだよな。カナエさんとカラルリさんは、まるで恋人のように、いつもベッタリくっついていた。それが羨ましかった。多分今も。
「男尽くしカナエ、焦るな! 僕だってエルナと別れてからずっと一人だけど? 恋人がいることが幸せとは限らない。今はアンタが幸せにしてやれ!」
エルナが本命か。カナエさんと仮交際してるけど、結局、現れてもいないエルナのこと気にしているし。落ち武者さんて恋愛に興味ないようで、めちゃくちゃ引きずっている。
「分かりました。話くらいは聞きましょう」
落ち武者さんもセレナールさんのことで手を焼いている。本音ではセナ王女のこと許せていないだろうな。
「で? 赤線町行きはなくなったからどうする?」
何が何だか頭がついていかないけど、2020年は赤線町に第二王室があることが分かり、セナ王女とアルフォンス王子の実の姉に会うために計画を立てていたけど、今は第二王室の存在の確認が取れていない。
「あ、私も森の湖行ってみたいです」
どうして敢えてそこなんだ。
「へえ、生身がいいってことかしら?」
けれど、セレナールさんが元々は純粋なら私も確認したい。
「いえ、私だけ行っていないので。セナ王女、もう少し離れてもらえませんか?」
惚気けたいのか、今後の話をしたいのか。
「離れたわよ」
セナ王女はビキニの上にタオルを巻いた。やっぱり、二人きりの方がいい気がする。
「あ、やっぱりさっきのほうが……」
はあ、ミナクお兄様がセナ王女の白梅もらったかも分からず、何だかモヤモヤしてしまう。てか、セナ王女のビキニ姿見るの今日がはじめてなのだろうか。それもナノハナ家のものじゃない。白い紐のレースビキニ。セナ王女って、あまり派手なの着ないタイプだろうか。着付け前も素朴な服だったような。
「今日はダメ。カラルリに見られたくないの。前みたいに」
ま、前……。この二人大丈夫だろうか。
「話戻すけど、僕も森の湖行きたい。もう一度、古代の姉さんと話したい。あと、この女優呼び寄せ出来る?」
最後のひと言がなければ姉想いの弟だったのに。呼び寄せって。いくらカナエさんとは仮交際でも、私はそういったものは好かぬ。
「ええ、どの子?」
落ち武者さんはフェアホをセナ王女に見せた。
「新人ね。別荘に呼び寄せ出来るわ。ミナクも来る?」
どうして試すようなことを言うのだろう。
「い、いえ、私はリビングで待ってます」
別荘には行くわけか。
「白梅咲かせていい?」
えっ……女優にとって白梅は命。見たところまだ学生のようだし、芸能生命に関わることはしないほうがいいと思う。
「ええ、契約書にサインしてくれたら構わないわ。それに、この子、白梅はまだだけど、それ以外ので枕営業してるわよ」
いくら清純そうでも、芸能界の裏側は分からない。
「セルファさんはセイ以下ですね!」
最初は落ち武者さんは恋とか知らないあどけなさが特徴だったけど、こんなに女たらしだっただなんて、まるでこれまでのミナクお兄様だ。
「弟をバカにしないで! バカにするくらいなら付き合ったりしないでよ!」
いや、古代のことを言われても誰も何も出来ない。案の定カナエさんは何も言わない。
「セナさん、いる?」
このタイミングでカラルリさんが入って来るとは。セナ王女は、咄嗟に結界をかけた。
「ナミネ、私は第二浴場にいるって言ってくれるかしら? ミナク、私についてきて」
セナ王女は下に降り始めた。てか、命綱なしなのか!? ナミネは結界を出てカラルリさんに近付いた。あんな格好で大丈夫だろうか。
「あ、カラルリさん。セナ王女は10分前第二浴場に移動しました」
そんな嘘は直ぐにバレる。
「分かった」
第二浴場はセレナールさんとラルクがいるんだっけ。
「セナ王女、無事に1階第四居間に着いたらしいですよ」
は、早すぎる。このまま別荘に帰るだろうか。
「なあ、セナ王女って運動神経いいんだな。ズームも運動したらどうだ?」
セナ王女は特別だから。武家でさえも引けを取るくらい優れた運動神経の持ち主だ。
「どうでもいいだろ!」
私もセナ王女くらいの力量ならナミネを守れただろうか。
「カラルリさんが戻る前に出ましょう!」
ナミネは結界を解いた。私たちは慌てて露天風呂を出た。今頃、カラルリさんはセナ王女がいないことに、また苛立っているだろう。

第四居間にセナ王女はいなかった。
「あ、セナ王女とミナクさん、ミドリお姉様のところにいるらしいです」
このままミドリさんのところで朝までいるか、それとも私みたいに使用人の部屋に隠れるか。ここまで来たら別荘に戻るのが安全だと思うけど。
「セナ見なかった?」
え、アルフォンス王子は今までどこにいたのだろう。
「さっきまでは露天風呂にいましたが、その後、カラルリさんが第一浴場に入って来て第四居間に移動し、今はミドリさんのところにいるそうです」
ミドリさんとラハルさんは、まだ演奏をしているのだろうか。
「そっか。セナ、カラルリから変なことされたらしくって」
変なこと? ずっとミナクお兄様と一緒じゃなかったのか?
「ていうか、一度は許し合った仲なんだし、少しくらいいんじゃない?」
落ち武者さんて、どうしてこうも人を苛立たせるようなことを言うのだろう。
「カラルリ、トイレにカメラ仕掛けて、セナとミナクとの様子監視してたんだ。二人がトイレから出る時にミナクに痺れ薬かけて、セナをトイレに押し込めたんだけど結界かけられて逃げられたとか。今はミドリさんとこいないと思うんだよね」
ミナクお兄様もどうして、わざわざトイレまで入るのだろう。前も見られたとか言っていたし、監視カメラとかショックだっただろう。
「とりあえず、データは削除しました。あとはドローンを飛ばして……」
ズームさんの言葉を落ち武者さんは遮った。
「その必要はない。元はと言えば姉さん蔑ろにしたバチが当たったんだろ!」
落ち武者さんはセレナールさんの恨みから協力しようともしない。
「カナエ、転生ローンは私が払う。助けてほしい」
展開が変わりかけている。今、アルフォンス王子がカラルリさんの転生ローンを一括すれば、もう転生ローンのことはカラルリさんの中からもみんなの中からも消えてゆく。何より、カラルリさんにとって、カナエさんにとっても悪くはない話だ。
「本当に払っていただけるのですか? でしたら、前払いでお願いします」
アルフォンス王子は小切手をカナエさんに渡した。交渉成立だ。
「ふぅん、契約と違うけど? アンタとセイの交際写真、学園中にばら撒いてもいいわけ?」
古代のことまで持ち出すだなんて、どうしてそこまで人を許せないのだろう。ロォラさんは写真を手に取った。
「私もイジメしてたから人のこと言えないけど、これ後悔する」
そうなんだけどね。そうなんだけど、落ち武者さんにはまともな話が通用しない。ここまでシスコンだとは思わなかったけど。
「カナエは別に構いません! お兄様の境遇が少しでも良くなるなら、カナエの人生はどうなっても構いません!」
兄妹の絆。私には一生手に入らないもの。カラルリさんの人生もカナエさんの人生もまだ終わってはいない。
セナ王女とは無理でもカラルリさんなら恋愛なんてどうとでもなる。
「いい度胸だね? 今、僕が時間古代に巻き戻したらアンタらどうなる?」
どうして、いつも肝心なところで仲間割れするのだろう。ただ、セナ王女を探すだけじゃないか。カナエさんに扇子を突き付ける落ち武者さんにカナエさんも扇子を突き付けた。
「戻したいのならやってごらんなさい! カナエはセルファさんの脅しでは動揺なんかしません! そもそも古代に戻ればセルファさんは存在さえしていなくて、カナエたちはヨルクの神様呼び出しカードで現代に戻るまでです!」
ああ、そうか。その2020年とやらで所持していたから今も持っているんだっけ。けれど、神様はずっと同じではない。古代が今の神様とも限らないし。でも、神様なら番人以上のことが出来る。理不尽に古代に飛ばされたなら戻してもらえそうな気もするが。
「はあ、仮交際のアンタの償いは、もはや無しに等しく、姉さんは、あの時のアンタの結界で苦しむわけね? アンタ、中身悪魔だ」
カナエさんは悪魔なんかじゃない! そもそも、セレナールさんがカナエさんを陥れようとして、逆に閉じ込められたと聞いているが。どうして落ち武者さんはカナエさんにばかり当たるのだろう。
その時、床が光った。

ここはどこだろう。暗くて何も見えない。
「誰!?」
セナ王女の声だろうか?
「セナ王女! 私です!」
ナミネは炎の舞で明かりを付けた。廃墟になった写真館!? ナミネは確か、ここで私とのことを思い出したと言っていた。
「ナミネ……?」
廃墟とはいえ、本棚にはアルバムがたくさん並べられている。掃除をすれば、また使えそうな気もする。いつまで運営していたのだろう。天使村時代に、ここでナミネとの仮祝言の前撮り写真を撮ったことがある。その他、最後の紅葉橋前のナミネとの思い出も……。辛いから今は押し入れに仕舞ったままだけど。
「セナ王女、何があったのですか!」
パッと見るとミナクお兄様が泣いているセナ王女を抱き締めている。やはりカラルリさん絡みか。あの光はズームさんが数式を書いていたわけか。床に真新しい桜の花びらが落ちているのも、今納得した。
よく見ると足元に数冊積み上げられたアルバムがある。私は無意識に足元の古いアルバムを開いた。
これ、カラーで真新しい。まるで最近撮ったようなものばかりだ。薄い埃で古く見えたのか。確かに、本棚にあるアルバムと比べると色が全然違う。
私はアルバムのページを次々に捲った。まさか、2019年〜2020年までのものなのか!? 私は……私は……。

『ナミネ、私と結婚を前提に交際して欲しい。正直、恋愛感情があるわけではないけれど、未来の結婚相手として結婚を前提に交際して欲しい。ナミネはこのままラルクと交際を続けても口を挟まないしナミネの気になる人に対しても口を挟まなければ、ナミネのプライベートにも口を挟まない。出来れば今すぐ返事が欲しい』
私は、カラン王子の食事会にてナミネに告白をした。ダメ元だったし期待はしていなかった。それでも、あの時は、ただ伝えたかった。ナミネと交際したい気持ちで心が埋め尽くされていた。
『分かりました。その話、お受けしますぞ!』
断られると思っていたが、ナミネはあっさり受け入れてくれた。私は、星型のサファイアのネックレスをナミネに渡した。
その後、ぎこちない関係は続いたものの、私はナノハナ家でナミネのお世話をすることにした。
その後、今のグループと行動をするようになり、森の湖や天使の湖、女神の湖、人魚の湖など、色んなところへ、私たちの真実を求めに行った。紀元前村では電気も水道もない古代の暮らしを体験した。
カラルリさんの転生ローンを返すために、みんなで氷河期町で原石採取のバイトもした。フェアリーフォンは今は寝あがっている。ルナも。
ナミネとは、それなりには上手くいっていたと思う。けれど、あの日の紅葉神社にて全て変わってしまった。
ナミネも……ナミネも……、ここで私との真実を知った時、こんな気持ちだったのだろうか。きっと、ナミネに凄く寂しい思いをさせていただろう。私は思わず涙が溢れた。
「思い出した。全て思い出した。ナミネ、正式に交際してほしい!」
その瞬間、落ち武者さんに扇子で肩を叩かれた。
「アンタさ、今重要な話してんだろうがよ! 一人だけお花畑になってんな!」
あ、忘れていた。抜けた記憶を遡ることで精一杯で周りが見えなくなっていた。
「二人きりで話したいことがあって、ミナクとトイレにいたら生理来ちゃって、ミナクが下着持って来るって出て行った瞬間、カラルリが入って来たの。生理だし何もされないだろうと思っていたけどスカート捲り上げられて壁に押し付けられた。結界かけて逃げて倒れているミナク連れてここまで来たの」
確か2019年ではカラルリさんのほうからセナ王女に冷たい態度取っていたのが、2024年では先にミナクお兄様と交際したため、カラルリさんは孤立したというところだろうか。けれど、聞くところによると、それまではセナ王女とカラルリさんは互いの部屋を行き来していたとか。普通、何とも思っていない男の部屋に行くだろうか。好きでもない異性と部屋に二人きりだなんて私には考えられない。けれど、カラルリさんはまたセナ王女を襲うだろう。
「甘えセナ。アンタ血塗れなんだし、ここから一番近い紅葉病院行くぞ!」
落ち武者さんの提案と共に、みんなは立ち上がり、紅葉病院へと向かった。
紅葉病院……か。かつて、ナヤセスさんが働いていたっけ。

紅葉病院は少しも変わっていなくって、セナ王女を見るなり看護師さんが着替えを用意してくれた。今日はここに休むことになるだろう。けれど、明日は帰らなくてはならない。
「シャナ? シャナなの?」
シャナ? 生きていたのか!? ということはシャム軍医も……。一瞬、私の中にいやな空気が流れた。
「ナミネ……」
シャナはナミネを見たかと思うとベッドから出て、セナ王女に近付くなりセナ王女を引っぱたいた。
「シャナ、どうしたの!?」
何があったのだろう。そもそも、どうしてシャナはここにいるのかも分からない。
「兄さんが月城総合病院で医師として働きはじめた頃、好きな人が出来てセナ王女に何度も別れを告げたもののセナ王女は別れないの一点張りで、私は武官から集団黒鈴酷華を受けた。第二まで喪失したわ!」
どういうことだろう。私たちはそこまでは成長していない。そもそも、運命とも思われたシャム軍医とセナ王女が別れていたという事実には驚いた。
「シャナ、それいつのこと? 私たち、2020年から突然2024年に飛ばされたの!」
そう、私のように記憶を失ったものもいる。
「2023年よ! その後、突然今の世界に飛ばされたけど、私の白梅は元に戻っていないし、あのおぞましい記憶を思い出すたび何度も生きていることがいやになった。私の人生返してよ! 絶対許さない!」
人によって、飛ばされる時間軸が違うということなのだろうか。けれど、聞いている限りではセナ王女は変われていなかったというわけか。シャナを犠牲にするだなんて、いくらなんでも酷すぎる。
「で? シャムはどうしてるわけ?」
シャナがいるなら、当然シャム軍医もいるだろう。氷河期町で再開した時は、セナ王女とあれだけ運命を誓いあっていたのに。時の流れは残酷だ。
「兄さんは実家から妖精村学園に通っているわ。今は高校二年生よ。セナ王女にも同じ目にあってもらうわ! 私には後ろ盾がいるから、足掻いても無駄よ!」
後ろ盾? 誰だろう。シャナも神様呼び出しカードでも持っているのだろうか。
「悪いけど、私にはその記憶はない。2020年から2024年までのことは、皇帝陛下も罪に問わないと公表してるし、私は何も出来ないわ。後ろ盾だろうが、なんだろうが使えば?」
記憶がないから申し訳ないと思わないのだろうか。それとも、また別の理由だろうか。
これで、シャム軍医とセナ王女の恋愛はなくなったけれど、今度はミナクお兄様がナナミさんを好きになってセナ王女に別れを切り出さないか心配だ。
「シャナ、出来ることは何でもする。ただ、私もセナも2023年の記憶は別のものになっているんだ。許してほしいとか図々しいことは言わない。今の私には出来る限りのことをしてあげることしか術がないんだ」
アルフォンス王子は同情するような目でシャナを見た。
「シャナ! 遅れてごめん! セナ元帥……!?」
高校生姿のシャム軍医。考えてみれば、シャナがこんな状況なら毎日でも来るのが当然か。
「シャム軍医……」
セナ王女は切なそうにシャム軍医を見た。二人とも今何を思っているのだろう。
「すみません、セナ元帥。あの時、僕が心変わりしたばかりに、全てがダメになった。あなたを裏切るべきではなかった。後悔してもしきれません」
どうしてシャム軍医が謝るのだろう。恨むでなく、謝る。よく分からない。
「兄さん! どうしてよ! 私はこの女に人生奪われたのよ! 転生しても身体はそのままだった! 許せない!」
そもそもどうしてシャナだけ前の世界のトラウマが身体に残ったままなのだろう。
「シャナ。アンタ、時間飛んでないだろ? 何らかの方法で、いや、シャムが時間を巻き戻したのだろうけど、それが裏目に出たんだよ。記憶もそのまんま。身体もそのまんま」
落ち武者さんの推測が事実なら、シャナはどうして飛ばされたと嘘をついたのだろう。あれ、時間を巻き戻したのなら、どうして出会ってしまったのが2020年のセナ王女でないのだろう。妖精村はいったいどうなっているのだろう。
「でも、だったらどうしてシャナは2024年にいるの?」
私は落ち武者さんみたいに頭が良くないからサッパリ分からない。
「時間は確実に操作したのでしょう。けれど、シャム軍医が書いた数式は過去へ戻るものではなく、未来へ進むものだったのではないでしょうか?」
み、未来? それじゃ、シャナが余計に苦しむだけなのでは。過去だったとしてもシャム軍医がまたセナ王女以外の人を好きになってしまえば同じことの繰り返しだけれど。
「うん、僕は未来へ進ませた。それも80年先の。直ぐに転生してシャナを救ってあげたかった。けれど、番人が現れてルール違反だと記憶も身体もそのまま2024年に戻されてしまった。僕のせいでシャナは人生を失った」
キクスケさんが……。なんだか、残酷に思えて仕方がない。シャナの経験した2023年が、そのまま残った状態で更に若返り不幸を引き継ぐだなんて。
「そんな……兄さんが……」
でも、シャナを救おうとしたシャム軍医をシャナは恨めないだろう。シャナが恨んでいるのはセナ王女1人だ。けれど、2023年のセナ王女や私たちはどうなっているのだろう。
「あの、ズームさん。2023年の私たちはどうなっているのでしょう?」
話についていけない。私は結界は使えても数式に関しては全くの無知。時間というものが全く分からない。
「普通に存在しているでしょう。シャナさんの話が真実なら。成長した本人に会うなんてこともありえると僕は思います」
そ、そんなまさか……! 同じ人が二人!? 常識では検討も付かない。
「僕は未来の自分に会いたくなんかないけどね?」
私とナミネは、あの後結婚したのだろうか。
「うーん、でも、あの世界と今の世界は時間軸が違うので本人同士が出会うことはないと思うんですけど」
確かに私もそこが引っかかっていた。ナミネの言い分のほうが正しく思えるがどうなのだろう。
「兄さんが言ってました。どれだけ別の時間軸に存在していても、時として別々の時間が重なり合うこともあると。遠い昔、そういった事例があったんです。新聞も残っているかと」
ダメだ。また分からなくなってきた。私は、ズームさんや落ち武者さんの世界についていけない。
「セナ元帥! もう一度、僕とやり直してもらえませんか?」
……。何がどうなっているんだ……?

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あとがき。

時間を戻す。これは禁忌だと考えちゃいます。
でも、本当にセナがシャナを……。

それにしても、やっとヨルクの記憶が戻ったのに、新たな問題が発生しちゃいましたね。

最後の告白はシャナにとって残酷……。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。

小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
純愛偏差値 未来編 一人称版 138話

《ナミネ》

ミナクさんはセナ王女と正式交際をした。それも、二人とも記憶を思い出してのことだった。最初は驚いたものの、人生というものに答えなどない。いくら、前世でああだったからと言って、現世も同じかと言えば異なる場合もある。私は、あまり経験のないことだから、その辺は詳しくはないが。
少なくとも二人は、ナナミお姉様とシャム軍医の存在を受け止めた上での交際だと言えるだろう。けれど、カラルリさんと今回も付き合うことを思うと、ミナクさんで良かったと思う。
また、同じ展開になったり、その他のことで、どちらかが傷付くこともあるかもしれないけど、私はもうカラルリさんを応援することは出来ない。ミナクさんは、遊びの女とは全て縁を切ったし、今はどう見てもセナ王女に釘付けだし、このまま幸せになってほしい。
だって、ナヤセス殿だって運命の人が二人いるのだから、どちらかと一緒になるのは本人の気持ちやタイミング、双方の時間軸が一致してこそ成り立つもとだと思う。私は運命の人はヨルクさんだけだけど。少なくとも現世に関してはミナクさんとセナ王女には二人いる可能性があるということなのだろう。恐らく、ナヤセス殿も。
「ナミネ、早く着替えて! あと20分しかないよ!」
2020年の時は出来なかった茶道体験。まさか、5月の終わりに行うことになるなんて思ってもみなかった。
「あ、はい!」
今年は紅葉柄の着物にしよう。青い紅葉柄の着物。商店街のお得意さんの冬桜呉服店で仕入れたものだ。二つあったから、ラルクとお揃いで買った。帯は青い紅葉柄。今の私なら半巾帯でもいいのだけど、やはり半幅帯にした。パール帯は一応は購入したが、茶道体験では使えない。髪は、長いままアレンジして紅葉のかんざしを付けた。
「へえ、アンタ似合うじゃん」
落ち武者さん、いつ着付けてもらうのだろう。
「ちょっと、落ち武者さんナミネの着替え見ないで!」
と言っても、もう着物を着ている。
今日はラハルさんが来るから楽しみだ。だから、気合いが入ったのかもしれない。ただ、私が受け持つ第四教室は一般人が気軽にお茶会感覚で来るから他の教室に比べて満員になる。だから、ラハルさんには事情を話し、ナナミお姉様の第三教室に行ってもらうことにした。ナナミお姉様もリリカさんも大喜びだ。皇太子様とカラン王子も第三教室に行ってもらえることになった。そして、カラン王子はこちらのグループに入ったのである。
「私、教室行きますので皆さんはごゆっくり来てください」
私は第四教室へと急いだ。
そういえば、裏番人の噂が出ているとか。キクスケさんの裏番人……。何だかいやな気がする。それだけでなく、過去の一部は裏番人によって操られていたものもあるとか。事実はまだ分からないが、前より危険が迫っていることは確かだ。私も早くヨルクさんに思い出してほしいけど、もう夢ごとを言っている場合ではない。

第四教室には、既にたくさんの体験者が来ていた。
色々あったから、久々な気がする。2024年の世界でも多分毎年していただろうけど。それはビデオを見たら分かることか。
遠い昔は高校生になった時に第三教室を任され、第四教室はナノハナ家の講師が受け持っていた。その時も、何故か私の教室には溢れんばかりの人がいた。
「セルファさんは第一教室でしょう!」
あ、カナエさんだったら本格的に極めた方がいいだろう。年に一度なわけだし。それにしても、カナエさんは赤い着物が良く似合う。そして、髪はいつも下ろしている。
「僕、第四教室だけど?」
落ち武者さんって、ひと月で本当にカナエさんと別れてくれるのだろうか。
「セルファさん、動画なら僕が撮りますので第一教室に行ってください」
あ、以前も撮影してもらっていたことあったっけ。
体験者が集まって来た。私は落ち武者さんを廊下に出し、襖を閉めた。
「皆さん、本日は茶道体験にお越しくださりありがとうございます。第一教室は上級者向け、第二教室は初級者向け、第三教室は中級者向け、この第四教室は初心者向けとなっております。講義中の移動は可能ですので、お好きな教室の体験をしてください。
では、最初に簡単な説明を行います」
って、聞いている人あまりいない。この後出てくるナノハナ食堂のお菓子目当てだろうか。私は続けた。
「茶道と聞くと、少し小難しく考える人もいるかもしれません。けれど、仲の良い友達同士が開くお茶会にてお菓子と共にお茶をいただき、お友達と楽しい時間を過ごすのも、また茶道の1つです。
基本、お菓子はお盆に載っています。お菓子が自分のところへ来たら一言「お先に」と左の隣の人に言いましょう。お菓子は、だいたい2つほど手で取ります。汚れてしまった手は懐紙で拭いてください。お菓子は、手で食べても黒文字で食べてもどちらでも大丈夫です。出来れば、お菓子はお茶をちょうだいする前に食べたほうがいいですね。
『お手前頂戴いたします』これは、お茶をちょうだいする時に亭主に言ってください。
茶道は、今や様々な流派があります。
ここは第4教室なので、基本的な説明を軽くさせてもらいました。
それでは、実際に茶菓子を食べてみましょう」
初心者向けなだけに詳しいことは言えない。簡単な教科書が配布されるのは中級者向けからだ。初心者向けは簡単なパンフレット。けれど、第四教室以外は、多かれ少なかれ茶道に興味を持っていて、第一教室に来る人は既に茶道教室を開いている人もいる。
私は一人一人の前に茶菓子を置いて行った。
ミドリお姉様はと言うと、完全に武家の道からは離れ、ひたすらピアノを練習している。
「なあ、ズームって、こういうとこ興味あったのか?」
ロォラさん! 来てたんだ! ということは、ロォハさんも生きている可能性は高い。そして、ロォラさんは恐らくズームさんが、この茶道体験に参加するから来たのだろう。
「どうぞ」
私は、ロォラさんの前に茶菓子を置いた。
「ロォラ、なんでいるんだよ! 宿は取ってるのか?」
やっぱり、この二人いい感じ。
「後一時間したら帰る」
帰るって、ここまで遠かっただろうに。
「宿取るから泊まっていけ!」
ズームさんて、元イジメっ子とはいえ、ロォラさんには態度が違う。私と交際していた時は、どこまでも真面目だったのに。
「あ、部屋空いていますので良かったら泊まっていってください」
ロォラさんには色々聞かないといけないことがある。
「ズームも泊まるのか?」
あ、やっぱり気になるか。なんだか微笑ましい。
「ああ、泊まる。夜は危ないからお前も泊まっていけ!」
ツンデレズームさんもなかなか良い。
「ナミネ、セレナール先輩来てる。カラルリさんも。第四居間で白黒つけようと思う」
あ、ラルクいたんだ。
「うん、そうだね。解決はしないだろうけど、逃げれば逃げるほど不利って思う人の気持ち悪化するだけだもんね」
本来、上下など存在しない。全くではないが、冷静になれば、惨めだと思わなくて済みやすい。
私は体験者に着付け体験のチラシを配った。
「来月は着付け体験も行います。これも、第一教室から第四教室までありますので、興味のある方はご参加ください」
今年はイベントが多くなりそうだ。茶道教室の講師出来たのは嬉しいけれど、ナノハお姉様の計算だろう。ナノハお姉様は知らないフリをしている。
「ズーム、着付け体験も来るのか?」
なんかもう好きって言っているみたいに聞こえる。
「ロォラには関係ないだろ!」
ズームさんて元は本当にツンデレなんだ。
「そういえば、ミネルナさんとアニキ交際するかもしれないんだ」
未来は変わっていると思っていた。けれど、変わらないものも存在している。
「あの、そのお話、後で詳しく聞かせてもらえませんか?」
やっぱり運命はあると思う。こんなにバラバラになったのに、また他人同士が再び出会い、深い中になるだなんて。
「あ、ああ」
あと半時間で16時だ。帰っていく体験者もいる。お喋りを続けている体験者もいるが。直に帰るだろう。第一教室は19時まで話し込んでいたりもするけれど。それだけ、茶道の道を極めたい思いが伝わって来る。茶道の道を歩まなくても体験に来てくれる人がいるだけで講師のやりがいがある。
「ナミネ、この後話し合いがあるなら、カナエさんと夕ご飯の準備して来るから」
少し早いけど、キクリ食堂の下準備はナノハナ食堂より早い。
「あ、ヨルクさん! ツーショット撮りませんか?」
やっぱり想い出は残したい。
「うん、そうしよう」
私とヨルクさんは中庭に向かった。

ここで何度ヨルクさんと写真を撮っただろう。
「アンタら抜けがけ? てか、まだ体験終わってないだろ」
どうして落ち武者さんがここに……。
「あ、ヨルクさんとの想い出を撮りたいんです」
カナエさんはどうしたのだろう。
「じゃ、撮ってやる」
意外に素直だ。私は落ち武者さんにフェアホを渡した。
私はヨルクさんの手を握った。ヨルクさんも握り返してくれた。
「はい、よーせいむら」
古代のカラクリ家での……。どうして落ち武者さんが知っているのだろう。私は落ち武者さんからフェアホを受け取った。なかなか良い感じに撮れている。
「ナミネ、それ私のところにも送って」
ヨルクさん……。互いに好きなのに、2024年に繋がる2020年の記憶がないだけで、恋人になれないことは辛い。ずっと辛い。けれど、あの時よりもっと危ない状況だし、恋愛のことを考え過ぎている場合でもない。分かっているのに、早くヨルクさんに記憶を思い出してもらいたくて胸がキュッと締め付けられる。
「はい」
でも、やっぱりヨルクさんとの縁談をまとめたい。今の状況だと不安で仕方ない。どこか、落ち武者さんとカナエさんが羨ましかったのは、仮でも交際していることにあるのだと思う。形より中身と人は軽々しく言うが、武家はどちらかというと形も肝心である。特に縁談なんかはそうだろう。
私はヨルクさんに写真を送った。
「待ち受けにするね」
ヨルクさんは、今の状態でいいのだろうか。
「ヨルクさん! ヨルクさんは、将来的に私のお婿さんになってくれるのでしょうか?」
多分、聞くタイミングを間違えた。
「はい、その話は今はなしね? 姉さんがあんなことになったのに、アンタらだけ幸せになるの不公平」
はあ、落ち武者さんに遮られてしまった。私も夕飯の下ごしらえしようかな。
「ナミネ、私はナミネの気持ちがラルクではなく私に向いているのなら、今すぐではないけど、ナミネと交際するつもりだよ。2020年のこと云々ではなくて、ナミネの気持ちの確証がほしいんだ」
か、確証!? これだけ気持ちを伝えていても少しも伝わっていない。いざ、逆の立場になればこんなにも苦しく、こんな感情をヨルクさんは何世紀も抱いていたのか。あんなお願いしなければよかった。今からでも天使村最後の番人に取り消したい。ヨルクさんを二度と好きにならないようになんて間違いすぎていた。どれだけ苦しくても好きを失うべきではなかった。
「ヨルクさんの気持ちは分かりました。もういいです。これ以上の引き伸ばしは、その気がないとも取れますゆえ、縁談は他でまとめます」
どうして待てないのだろう。どうして素直になれないのだろう。どうしてこんなにも一方的になってしまうのだろう。
「ナミネ、引き伸ばしているわけではない! 気持ちが追い付かないんだ! ついこないだまでラルクラルク言っていたナミネが私に気があるというのが、どうしても分からない。でも、他の縁談は待ってほしい!」
こんなにも互いの『好き』がすれ違うのは苦しい。ミナクさんとセナ王女が羨ましい。仮交際している落ち武者さんとカナエさんも羨ましい。
今の私、惨めだ。
「もういいです!! ヨルクさんの縁談はお受けしません! 私、ラハルさんと交際します!!」
私は泣きながら自分の部屋へ走った。

部屋に入るとラハルさんがいた。
「ラハルさん!?」
会うの、とても久しぶりに感じる。記憶はないものの、夢で見ているなら、2020年を知っているわけだし、そこまで遠い存在というわけではない気がする。
「ナミネ、やっと会えた」
ラハルさんは私を抱き締めた。この感覚、懐かしい。ラハルさんは本当に変わらない。
「今日、お休み取れたのですか?」
ラハルさんは私を抱き締めたままだ。
「忌引き休暇使った」
なんか、そういう展開のドラマを見た気がする。誰を殺めたのだろう。
「そうなのですね。この後、話し合いがあるのですが、ラハルさんは、ここで休んでいてください」
ラハルさんは無関係だし、巻き込みたくない。
「僕も参加する。だいたいの事情はフェアリー日記で知ったし、あちら側こちら側より、みんなの声を聞きたい」
やっぱりラハルさんは、どこまでも真面目だ。優等生っていいな。芸能界でも清純派だし。
「分かりました。あ、ニンジャ妖精ももうすぐデビューだとか」
ああ、久しぶりに会ったのに、どうでもいいことを聞いてしまった。
「うん、ミツメはソロだけどね。記憶は全員覚えてないよ。マモルがセレナール見たら、また同じことにならないか不安なんだよね。あ、ナミネ。コマーシャル出てくれない?」
コマーシャル。前の世界ではラハルさんとよくコラボしていた。何も知らないあの頃、グルグル妖精さんのマンションでプチパーティーしたり楽しかった。今となっては遠く感じてしまう。実際、半年は過ぎているし。
「はい、出ます! どのようなコマーシャルですか?」
あれ、途切れた。私がよく知っているコマーシャルではないのだろうか。
「41%の華の涙のヒロインを演じてほしい。43%の恋の涙の姉妹作なんだ。ナミネ次第だけど、僕は43%の恋の涙、共演したナミネに演じてほしい」
姉妹作出たんだ。やっぱり、実話で似たような内容だろうか。
「あの内容って……」
姉妹作なら、また同じ演技をすることにはなるだろう。
「43%の恋の涙は脚本が甘いと、本当の事件にもっと近付けた内容かな。黒鈴酷華された女の子が、その犯人と恋仲になるんだ」
それって、遠い遠い前世、ベテラン俳優が演じていた実話を元に描かれた映画。が、リメイクされたのか。ラハルさんなら、必ず配慮してくれる。こんな時期だけど、やりたいことを諦めるのも違う気がする。
「やります! ヒロインやります! えっと、43%の時のような格好でいいんですよね?」
キュート女優のようなことは出来ない。
「うん、『さよなら、ごめん、でも……』と変わりないよ。あれは、フリだよね。スポーツブラに下はミニスカートまではなってもらわないといけないけど、どうかな?」
スポーツブラなら、下着と言うよりインナー的なものだし、いわゆる、ブラウスを脱がされる時のシーンだろう。
「はい、私はかまいません! ラハルさんと共演したいです!」
さっきの涙はすっかり枯れていた。女優になるわけではない。けれど、ラハルさんとの縁だから。
「良かった。あくまで主役にスポットを当てた映画だから、黒鈴酷華した他の役者も、その前に逃げた子もエキストラだよ」
そうなのか。事件そのものは、『さよなら、ごめん、でも……』ではじめて知ったけれど、ヒロインは何度もパニックになりながらも許せなくて許せなくて恨みながらも犯人の一人への恋心までは隠せなかった。ラハルさんとなら演じ切れる!
「私、絶対に期待に応えます!」
色々ある日常の中、1つの希望が見えた気がした。
「じゃあ、来月の頭に予告のコマーシャルに出て。髪は切らなくていいから。寧ろ、そほのうが雰囲気出ると思う」
そうか、ヒロインは美容院にも行けないくらい病んで、休学し、ホスピタルに入るんだっけ。
「ナミネ! 立ち聞きしてたわけじゃないけど、本当にラハルさんと交際するの? その映画で水花卒業するの?」
いきなりヨルクさんが扉を開けて入って来た。扉の前に居ただなんて全然気付かなかった。
「あ、はい」
めちゃくちゃ気まずい。
「交際しないよ。ナミネにはヨルクしかいないから。残念だけどね。映画もフリだから。正直、交際のことは焦らなくていいと思うけど。僕はこの15年が本物だと思い込んでいたし、寧ろ、正確に覚えている人の方が少ないと思うよ」
残念……。ラハルさんて今でも私のことを……? いい人。カンザシさんとは大違い。こんな風に真剣に想ってくれる人がいるのに、ヨルクさんを手放したくない気持ちが確定していて申し訳ないけれど、やっぱりヨルクさんとの縁談はちゃんとまとめたい。
「そうですよね。このようなことになり、まさかの未来まで変わって混乱もしました。だから、確かなものにしがみつこうとしていたのかもしれません」
ラハルさんがいるせいか、素直になってしまう。交際相手がラハルさんなら、常に素直にいられたと思う。というか、喧嘩とかした記憶ないし、上手くいっていたはず。
「ナミネと交際する! 2020年とか2024年とか分からないけど、それでも縁談書、何度も届けていたのは事実だし」
2024年でも縁談書ずっと届けてくれてたんだ。けれど、曖昧な状況下で言われてもパッとしない。
「すみません。今のヨルクさんとお付き合いすることは出来ません。その確証とやらを明らかにするまで待ちます」
辛いけど……! 辛いけど……! ミナクさんやセナ王女のような自然的な流れでない限り、後から何らかの混乱が生じると思う。恐らく行き違いも。
「違う! 幼稚園の時、ナミネ、泣きながら『ラルクのことが好きだから』私とは婚約破棄するって言って、あれから部屋に閉じこもってずっと泣いてた。一度婚約した仲で凄く浮かれてたから割り切れなくって辛くって苦しくって……。今はそうじゃないけど、あれからはずっと一人で片想いだった。でも、ナミネが今現在私を好きなら交際したい!」
そっか。私の身勝手は、ヨルクさんをただただ悲しませていたのか。幼稚園の頃とはいえ、何気なく……ではないか。泣きながら言った婚約破棄はヨルクさんにとてつもない苦しみを与えていた。そんなこと知らなかった。『分かった』て言われたから、それで終わりだと思っていた。でも、私も違った。何度もヨルクさんの部屋に行っては不在の部屋で眠って、気が付けばヨルクさんが布団に入れてくれていたこと。もうあの時点で私はヨルクさんのことを意識していたんだ。確かにラルクのことは、どうしようもなく好きでたまらなかった。例え、番人云々でなくても『好き』という気持ちはあったと思う。でも、いくらラルクが特別な人でも、私が結婚したいのはヨルクさんだ。ラルクのセレナールさん好きだって、とっくに応援しているし。最後の紅葉橋だってそう。私は、ヨルクさんへの『好き』に気付けないままヨルクさんを手放してしまった。
「お気持ちは分かりました。ヨルクさんをそこまで苦しませていたとは知りもしませんでした。私が愚かでした。けれど、交際は不自然な形ではなく、自然的にそのような関係になりたいと私は思っています。そろそろ話し合いの時間です」
私は立ち上がった。
「ちょっと素直じゃないね」
え、そうなのだろうか。私、ドラマのような恋愛形式に夢でも見ているのだろうか。お互いに気持ちが同じなら今すぐ交際するのが逆に自然なのだろうか。分からない。ただ、ヨルクさんを縛り付けずに手放したくない気持ちだけは確かに実感している。
「そっか。分かった」
やっぱり上手くいかない。さっき、交際すると言えば良かったのだろうか。どうしてこんなにもすれ違ってしまうのだろう。

第四居間では、重たい空気が流れている。
「ハッキリ言うわ! 今後、セレナールとカラルリの別荘の出入りは禁止したから! グループから抜けないなら私とミナクがグループ抜ける!」
もう、この二人は最初から馬が合わないのだろう。原点がいくら、カラルリさんの取り合いでもだ。
「何よそれ! イジメだわ! それにユメさんまで私を裏切っていただなんて。皇帝陛下にかけ合うから!」
落ち武者さんが話したか。
「狡いわね。セレナールってセリルとその弟後ろ盾にして、人の気持ちを考えられない愚か者よ!」
けれど、ユメさんがしたことは許されることではない。皇帝陛下から罰を言い渡されてもおかしくはない。ラハルさんは黙って聞いている。ここには記憶のない者もいるから迂闊な発言は出来ない。
セレナールさんが湯呑みを持った瞬間、落ち武者さんがユメさんにお茶をかけた。話し合いだと言うのに、どうして熱いお茶なんか……。誰が持ってきたのだろう。
「熱い!!」
ユメさんはその場に蹲った。アルフォンス王子は主治医を呼んだ。
「あの、話し合いなので暴力はやめてもらえませんか?」
この話し合いには仲裁がいない。セレナールさんが悪者にならないためだろうけど、ここで暴れてほしくはない。
「時間ずれユメのしたことも十分暴力だけど? 時間ずれユメのした暴力は許されるわけ? それ誰が決めた? 僕は甘えセナのことも捌くつもりだけど?」
ダメだ。落ち武者さん、めちゃくちゃ怒ってる。
「落ち武者さん、どちらもセレナールさんにとっては酷だけど、少なくともセナ王女は体育館でセレナールさんに見捨てられたことを気にしてて……その……」
恋人は庇い合うものなのか。ヨルクさんはどうだったっけ。なんだかもう、前の世界が遠く感じる。あの時は、私も許されないことを数々してしまった。自分の中の何かがそうさせた。まるで、膨らみ切った風船がパンッて弾けるように。
「ラルク! 待ちなさいよ!」
このタイミングでラルクとリリカさんが入って来た。ラルクは、ちゃっかりセレナールさんの隣に座った。
「え、この子ミナクの弟? そっくりね! てか、リリカも来てたの?」
リリカさんの着物姿めちゃくちゃ久しぶりだ。武家なだけに、やっぱり似合うなあ。リリカさんはラハルさんを見たが何も言わない。
「ええ、茶道に興味あるの」
そうか、リリカさんもプライベートと学校は分けているんだっけ。私はそこまでではないし、そもそも周りに言われただけで自覚はないけれど、リリカさんはお嬢様を演じている。
そして、カラルリさんの前で頭を下げた。
「カラルリさん、すみません。ミナクがご迷惑をおかけして」
兄弟はこういうものなのだろうか。何だかパッとしない。
「え、何かあったの?」
そうか、記憶がないと色々ややこしくなってしまう。
「いや、リリカは何も悪くない。ただ、私はミナクにセナさん寝盗られて、それでもセナさんを想っているのに、セナさん騙されたままで。私の前でセナさんにこういうことしてたんだ」
カラルリさんはリリカさんにフェアホを見せた。なんかカラルリさんって昔からセコイところあるような。真面目で勉強も出来るのに、どこか残念な人だ。
「そんな……ミナクが……」
リリカさんは驚いたフリをした。
「違う。ミナクとセナさんは正式交際してるの! 私はセナさんとカラルリに見捨てられてユメさんからは武官を使って襲わされたの! 私、グループにイジメられているの!」
正式交際……か。こんな時なのに自分のことを考えてしまう。
「そうだったの。セレナール、仲間が出来たって喜んでたわよね。ここだと私は部外者だからセレナールの話は学校でじっくり聞くわ。少なくとも私はセレナールのこと友達だと思ってる」
リリカさんは群れを嫌う。基本は単独行動。こんなふうに誰かに合わせながら自分を見失わないって大変なことなんだろうな。
「ありがとう、リリカ……。私もうリリカしかいない」
セレナールさんはリリカさんに泣き付いた。
「ちょっと!! やっぱりラハルいるじゃない!! ナミネ、どうして言ってくれないのよ!」
はあ、次から次へと。私はナナミお姉様の花札を扇子で吹き飛ばした。
「ナナミお姉様、今真剣な話をしているので、ここから出てもらえませんか?」
ナナミお姉様は私を睨み付けたかと思ったら、ミナクさんを蹴り飛ばした。
「アンタ! 王女弄んだって学年中の噂になってるわよ! 本当最低ね! アンタみたいな男大嫌い!」
懐かしい人は懐かしい光景だろう。ナナミお姉様の嫌いは好きの裏返し。ずっとミナクさんのこと見てたのを見てきたから。ここに集まっていた時からずっと。
「ナナミ、今は出ましょう。状況説明するわ」
武家は基本、歳上の言うことは聞かなくてはならない。会社とは違う上下関係があるのである。
「分かりました……」
やっとナナミお姉様が出てくれる。ラハルさんとは後で話せばいい。
「ナナミ、聞いてくれ! ミナクは私からセナさん奪っただけじゃなく、私の目の前でセナさんに黒鈴酷華したんだ! セナさん中古品になっちゃった」
はあ、やっと話し合いに戻れると思ったのに。どうして敢えて引き止めるのだろう。これでは、リリカさんも何も言えなくなる。
「そ、そんな……!」
ナナミお姉様、ガチで驚いている。ほぼ嘘にここまで反応されると調子が狂ってしまう。話し合いは延期にするしかないか。
「あー、ラハルここにいたんだあ。連絡ありがとう。コラボ、顔は伏せててもいいかな? 出来ればネットだけの配信にしてほしいかな」
そこまで話進んでいたのか。
「ミドリお姉様だけ狡いです!」
ここはどうにかミドリお姉様に摘み出してもらうしか……。
「うん、構わないよ。この後、一緒に練習していい?」
ラハルさん、ミドリお姉様のこと高く評価してるんだ。私も負けてられないな。
「うん、構わないよ。うーん、ナナミを連れ出した方がいい? みんなのお話聞いた方がいい?」
いや、どうして敢えて加わろうとするのだろう。
「ミドリ、今真剣な話してて、ナナミを連れ出してくれるかな。ナナミとは後で話すから」
その瞬間、案の定ナナミお姉様の顔色が変わった。ラハルさん、今夜は泊まりだな。いつまでいれるのだろう。忌引休暇だから、そう何日もいれないか。
「分かった。リリカはどうする? ラハルは今日ここに泊まるから、話す時間は必ず作るよ。この話し合い1時間経っても終わらないなら私が終わらせるから」
なるほど。ミドリお姉様も前の世界を知っているわけか。1時間という目安があるなら持ち堪えるまで。
「私もナナミと出ます。ラハル、後で。セレナール、学校でね」
ミドリお姉様は、ナナミお姉様とリリカさんを連れ出した。私は思わずため息を着いた。
「え、さっきの緑の髪の二人が、この子のお姉さん? 上の人とは似てるわね」
え、はじめて言われた。私だけ似ていなくて、私はお母様似で……。どうしてミドリお姉様と似てるって感じたのだろう。
「あ、一応姉ですので。ラルクがセレナールさんのファンで、公式ファンクラブ作って欲しいそうです」
私は話を逸らした。
「本当? じゃあ、作っちゃおうかな。可愛いわね、ラルク」
今のセレナールさんにとって、ラルクは落ち武者さんのような存在だろうか。けれど、もうカラルリさんへの気持ちは薄れている気がする。悪い人ではないのだけど、容量が悪いというか、運がないというか、これはこれで可哀想な人だ。カンザシさんほどでないならマシだとは思うが。
「あ、えと、クレナイ家三男のラルクです。セレナール先輩の噂は中等部まで広がってまして、僕は小学生の時から憧れてるんです!」
もう早速告白みたいなことをしている。ヨルクさんも奥手じゃなければなあ。でも、私は奥手なヨルクさんが好きなんだ。私から再度交際を申し込もう。
「ラルク、お前面食いだな」
いや、それミナクさんが言うか? セナ王女だって美人だろうに。
「ミナクお兄様には言われたくありませんが」
どっちもどっちだ。ヨルクさんの、よく分からないタイプを思うと。遠い前世の、他の女との縁談の基準が未だに分からないのは私だけだろうか。
「あ、もしかしてリリカの弟? よく見たら似てる!」
に、似てるかな。金髪と黒髪という時点で似てない気がするけれど。
「え、全然似てませんよ。私はセレナールさんが姉だったら良かったと、はじめて会った時から思っていました」
うーん、リリカさんのほうがビシッとしてるし、やっぱりリリカさんがクレナイ家を仕切るから、クレナイ家は成り立っていると思う。
「ねえ、さっきからセレナールばかりチヤホヤされてるけど、私、その弟に熱湯かけられたんだけど!」
今は辛いかもしれない。けれど、ユメさんにはクラフがいる。クラフに出会えたらユメさんは不幸から解放され、幸せになれる。教えてあげたいのに、それは禁忌だから出来ないのがもどかしい。
「だから言ってるだろ? アンタから暴力奮ったんだろうがよ!」
暴力には暴力。それは、ある程度はどの家庭にもあるかもしれないが、ユメさんは幸せになれるのに。クラフ、どこにいるの……。
「あの、このタイミングですが、カラン王子の食事会ってありますか?」
話し合いなのにヨルクさんのことを気にしてしまう。
「ええ、あるわ。カランの奢りでね。場所は紅葉レストランの五つ星ホテルよ」
あの時と同じだ。告白のタイミング……。
「なあ、ズーム。私はいつ話せばいいんだ?」
そうだった。私がロォラさんに話してほしいって言って、ゴタゴタになって今に至っている。
「今は黙ってろ!」
その時、カナエさんとヨルクさんが夕飯を運んで来た。
「ヨルク、ポイント稼ぎかよ。ダセーな」
カラルリさん、今にもブチ切れそうだ。もう話し合いの終わりをミドリお姉様に頼むしかないだろうか。
「カラルリさん。あなたが嫌いなのは私でしょう。わざわざ弟に八つ当たりしないでもらえます?」
表面上では何も分からない。ある程度表に出していても気付かないのが人間だ。カラルリさんが最も嫌っているのはヨルクさん。自分が一番ハンサムだと思っていたのが、クレナイ家とナノハナ家が武家として稼働しはじめ、お武家連盟に加わってから、カラルリさんはヨルクさんを目の敵にしている。
「え、この子がセルファの同級生? みんな似てるわね」
ヨルクさんだけは似ていない。ヨルクさんはお母様似だから。私と同じお母様似だから。千里眼で何か見えているのだろうか。やはり、セリルさんの妹。あなどれない。
「あ、落ち武者さんのお姉様」
セレナールさんも着物が似合う。というか、もはや芸能人レベルだ。
「ヨルクは似てませんよ。気も弱いですし」
あれ、セナ王女ちょっとヤキモチ妬いてる?
「やっぱりセレナールって狡い。ユメさん、こんなの気にすることないわ。ユメさんのことはアルフォンスが悪いんだし、セレナールってあたかも主役気取りで私嫌いだわ」
その瞬間、落ち武者さんはフェアリーパッドを机に置いた。あの商店街のカフェの映像だ。けれど、セナ王女は少しも動じない。
「アンタ、思ったより肝座ってるな」
そこがセレナールさんとの性格や相性の分かれ目だろう。ミナクさんはクスリと笑った。
「セナ王女のこと、また1つ知れて嬉しいです」
二人は見つめ合った。
「引かれるかと思った」
本当に本当に恋人なんだ。
「引きません。この時のセナ王女、具合悪そうですし」
そんなふうには見えないけど。どこが具合悪いのだろう。
「エッチ」
えええ。もはや、惚気だ。
私はラルクにもたれかかった。
「ねえ、ラルク。私のお婿さん優柔不断なんだよね」
このシチュエーションは地味に昨日のように感じる。こういう時間感覚は不思議だ。それが妖精村の特徴なのだろうけど。
「けど、ナミネはヨルクお兄様がいいんだろ?」
ヨルクさん以外は考えられない。
「うん。頼りないけど。あ、ロォラさんの着物姿似合ってるよね」
あれ、着た時は私服だった。この着付け方、ナノハお姉様か。着付けてもらってるの全然気づかなかった。
「まあ、似合うわな。カナエさんと違って淡い赤ってところが本人の魅力引き出してるし、兵児帯とのコラボでお姫様みたいだな」
本当、お姫様みたい。ズームさんは逃しちゃいけない気がする。
「なあ、ズーム。この子らも友達なのか?」
なんとなく、私とラルクのような関係に見えたりもするけれど、同じようで全く違う。
「ロォラの着付け、カナエよりレベル高い。私もお姫様みたいな着付けが良かったな」
セレナールさんは何着てもお姫様だろうに。カナエさんへの当てつけだろうか。
「セレナール先輩は今のほうが僕はいいと思います」
そうかもしれない。ナノハお姉様は武家の作法はほぼ完璧だけど、あまり完璧で本格すぎるのは銀髪のセレナールさんには返って派手になりそうな気もする。
「だね〜。水色ってチョイスがセレナールさんの良さ引き出してるよね〜」
淡い水色はセレナールさん自身の美しさを引き出すには持ってこいの色合いだ。
「あの、カラルリさんのことですが……」
その瞬間、ユメさんが投げた湯呑みがロォラさんに当たった。セレナールさんに当てようとして誤って当たったというところだろうか。着物はビショ濡れだ。
「ロォラ!!」
ズームさんは素早く数式を書き、ロォラさんに氷の舞を譲渡した。
「なあ、ズーム。私恨まれてるのか?」
熱くなかったのだろうか。もう今日は話し合いは無理だ。
「バチが当たったんだ! それより大丈夫なのか? 主治医呼ぶぞ?」
ズームさんも好きなんだ。自覚なさそうだけど。まるで41%の華の涙みたい。
「大丈夫。元カレに根性焼きされてたから」
こんなにも容姿に恵まれているのに男運悪すぎる。それも本命はズームさんなのに。
「ごめん! わざとじゃない! 火傷した?」
誤魔化そうとしても無駄だ。
「あ、ああ。何ともない」
その時、ナノハナ家主治医がロォラさんを診た。主治医は塗り薬を置いて行った。
「あの、ユメさん、やめてもらえませんか? 怒られるの私なんです!」
気が付けば私はユメさんに扇子を突き付けていた。
「ズーム、この着物いくらするんだ?」
ズームさんはロォラさんの首に薬を塗った。
「1億はする。弁償は僕がするから。これは一点物だから特注の必要あるけど、ロォラが零したわけじゃないから心配するな」
1億を簡単に出せるブランケット家。
「うーん、アニキにローン組んでもらう」
あ、そうか。私が伝説武官の資格証あるってことは……ロォハさんも医師免許を所有しているってことだ。けれど、明らかユメさんが悪い。それにセレナールさん襲わせたことも、いかなる場合も許されたことではない。
「私が出すわ」
とセナ王女が言うと同時にカラルリさんはズームさんに泣き付いた。
「どこの誰だか分からないけど助けてほしい! 礼は必ずする!」
その瞬間、ラルク、ミナクさん、落ち武者さんはカラルリさんに扇子を突き付けた。
「なあ、一目惚れカラルリ。それは虫が良過ぎないか? 僕は反対だけど?」
カラルリさんはセレナールさんにそこまで酷いことはしていないが、あの体育館でのことはマイナスポイントになってしまったか。
「カラルリ先輩、それは狡くないですか? セレナール先輩よりセナ王女を優先し、セレナール先輩の人生狂っていたらどうしてくれるんですか!」
ラルクは怒ると怖いというか、歯止めが聞かなくなる。今は抑えているほうだけど、ブチ切れたらどうなることやら。
「カラルリさん、ご自分で組んだ転生ローンでしょう。ご自身で返済してください」
みんなで出し合うことは、今は無理か。でも、元々はセナ王女が組ませたし、ナルホお兄様もカラルリさんの意思だとカラルリさんが緑風華するまで負いつまっていたこと気付いていなかったし。なんか、いやな予感がする。
「ねえ、みんなやめて! どちらかしか助けられないって言われたんでしょ? 私だって冷静な判断出来ないし、カラルリさんだけが悪いわけじゃないよね?」
どうして間の悪いことするのだろう。
「おい、ヨルク! 喧嘩売ってんのか!!」
カラルリさんはヨルクさんに湯呑みを投げたが、咄嗟にミナクさんが結界をかけた。
「カラルリさん、表出てもらえます?」
ミナクさんはカラルリさんに扇子を突き付けた。その時、セレナールさんがカラルリさんを引っぱたいた。
「カラルリ、あなたどうかしてるわ! 今のカラルリはミナクに勝てると思わないし、カラルリが私を見捨てたからこうなってるんじゃない!」
セレナールさんのヒロイン気取りは役者レベルだ。本番では大根になるのに、こういう時のセレナールさんはドラマのヒロインそのものだ。
「あの、僕は近々大金を動かさなければならないんです。どうしてもお困りでしたら兄に相談しますが」
ズームさん……人がよすぎる。大金てことは、カンザシさんデビューか。芸能界の裏金も相当なんだろうな。それでも、カンザシさんをデビューさせなければズームさんがいなくなってしまうもしれない。
「やっぱりいい。私はズームにどうにかしてもらおうとは思わない。バイトする」
本心は真面目なロォラさん。やっぱりズームさんとロォラさんはお似合いだ。
「聞きました? カラルリさん。ロォラさんは自分は悪くないのにズームさんに頼ろうとせず自力でどうにかしようとしています。それに対し、カラルリさんは他力本願、他力本願、他力本願、他力……」
その瞬間、カラルリさんはミナクさんを殴ろうとしたが、ミナクさんは扇子を開いた。カラルリさんて、こんなに弱かったっけ。
「恵まれズーム、アンタさ、自分のことだけでも精一杯なんだから、こんなクズのこと考えんな! アンタ必要な人材だ。消えられたら困るんだよ!」
このナノハナ家で暴れまくり。私は百人一首を投げようとした。
「あの、皆さん……!」
その瞬間、ラハルさんが立ち上がった。
「部外者だから口を挟むつもりなかったけど。まず、ロォラは弁償しなくていい。持ち主に事情話せば分かってくれる。転生ローンの返済はカラルリ一人でとまでは言わないけど、本当に誰かを頼りたいなら、今みたいに暴れないでくれる? みんなももうちょっと冷静になってほしい」
ラハルさんは本当に本当に、あの時のままだ。遠い……いや、そこまで遠くない前世で交際していた時の優しくて真面目でリーダーシップのラハルさんのまま。
その時、扉が開いた。
「ちょっと時間切れかな」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あとがき。

今度はナミネとヨルクがもどかしくなってる?

茶道体験実施出来たのは良かったし、ミドリのラハルのコラボ、ナミネとラハルの共演も希望が見えてきた気がする。

その反面、転生ローンや後回しにされる苦しみを訴えるメンバーがいることに悲しさ感じたり。

今となってはカラルリのみ悪いとは言い切れないような。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。

また、程度によりますが模倣はご遠慮願います。
詳しくは《カテゴリ》→《説明事項》→《模倣のご遠慮願います》をご覧ください。

小説の無断転載もご遠慮くださいませ〜♪
Copyright (C) 2009 雨の音を聴きながら, All right Resieved.
*Powered by ニンジャブログ *Designed by 小雷飛
忍者ブログ / [PR]