日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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女性
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地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
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よろしくお願い致します。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉














[1] [2]
トイレ代理人 七話
<望>
「斎藤さん。あなたの言う正しいというのは、あなたのみの正しいなんですよ。言ってる意味分かります?」
冴木は完全に勝ち誇ったように僕を見た。そりゃそうだろう。今の僕と冴木では冴木のほうが断然有利なのだから。
「もういいです」
「はい?」
僕は訴えられる。その後どうなるのだろう。
家族は?
妹は?
妹は大手企業で勤務している。もし、僕が裁判沙汰になったら家族諸共路頭に迷うだろう。それでも、僕は正義とやらを貫きたかったのだろうか?いったい何のために……?
小学生から中学生の頃までイジメられていた。
体育が終わってカバンを見るとタバコが入っていたり、母さんの作ったお弁当が捨てられたり、誰かが吸ったタバコを僕のせいにされたり、誰もいないところでは殴る蹴るの暴行を加えられた。
『やめてほしい』
そんなこと言えなかった。
普通の学校だったのに、スクールカーストが存在した。1軍とか2軍とか、今考えればそんなローカルルールダサイのに、それなのに、お金持ちで容姿の整ったヤツが有利だった。
そんな僕をイジメていたヤツらは、今幸せな社員生活を過ごしている。
不公平だ。
あまりに不公平すぎる。
僕は登校拒否をしていた期間もあったというのに。
そして、僕は大人になってからのほうが、柄の悪い男を見ては目の敵にするようになっていた。
「警察に突き出すなり、裁判沙汰にするなりなんなりしてください。けれど、関係のない家族には危害を加えないでください」
「なるほど。降伏するというわけですか。残念ながら家族への今後の対応は被害者側、そして世間が決めることです」
世間……。この世で1番くだらない存在だ。
僕がしたことは間違っていない。けれど、現代では人が人を裁くのではなく、法が人を裁く。そんなこと僕にだって分かっている。
逃げ場のなくなった僕は、今はじめて罪に問われたくないと思った。どうして今までそんな概念がなかったのだろう。どうして1人で突っ走り過ぎたのだろう。
「そうですか」
「斎藤さん、あなたとは、このような形で出会いたくありませんでした。残念です」
そう言うと冴木は僕を通報した。
警察署で僕は色々聞かれ、一つ一つの質問に正確に答えた。そして、留置所で拘留されることになり、刑事裁判にかけられることになった。
寝て起きるだけの日々。
何日経ったのかも分からない。
けれど、何故か僕は釈放された。
後から聞くところによると、会社側が揉み消したらしい。裁判にかけられることもなくなり、僕は一度家に戻った。
会社からは、いつも通りに出勤して欲しいと言われた。
翌日、僕は出勤をした。
すると、冴木は数々の電話に対応していたのである。
「申し訳ございません。僕の力不足でした」
「本当に力及ばずすみません」
「会社側に揉み消されてしまいました」
「誠に申し訳ありません」
(以下略)
「冴木さん、斎藤さんを裁判にかけて、被害者全員を救うつもりだったらしいですよ」
「山田……」
久しぶりに話た気がする。僕に幻滅した後、山田はどうしていたのだろう。
「一度は斎藤さんを信じられなくなりました。けれど、斎藤さんがミスに追い込んだのは普段悪さばかりしている依頼人です。ルール違反ではありますが、僕は斎藤さんのみが悪いとは思えなくなりました」
山田は山田なりに色々考えていてくれていたのだろうか。ごめんな、山田。僕は間違っていた。
二度と同じ誤ちは繰り返さない。
「山田……迷惑をかけてごめん」
「水臭いですね、斎藤さん。こうやって元に戻れたんですから、また、ここからはじめましょうよ」
その時、冴木が立ち上がった。そして、僕のほうに向かってきたのである。
「正義とはなんなんでしょうね、斎藤さん」
冴木は、それだけ言い残し、会社を去った。
僕がタイムカードを押し、退社した帰り道で1人の男性に声をかけられた。
「正義までは貫けませんでしたが、救われた気持ちはどうですか?斎藤望さん」
「あの、どちら様でしょうか?」
「申し遅れました。私(わたくし)は菊助と申します。以後お見知り置きを」
「はあ」
見知らぬ男が僕に何の用なのだろう?もしかして、これから僕は裁かれるのだろうか?
「斎藤さん、あなたは確かに誤ちを犯しました。けれど、あなたの境遇を考えると、あなたのみ責任を負うというのも、いささかおかしいと思い、私(わたくし)が揉み消しました。最初で最後の私(わたくし)からあなたへのチャンスです。斎藤さん、今後は今回の誤ちを踏まえ、二度と同じ誤ちは繰り返さず、真っ当に生きてください」
そして、菊助と名乗る人物は去って行った。
数日後、テレビを付けるとニュースが流れていた。
『株式会社 トイレ代理人に乗り込んだ冴木良介は、社員のミスを疑い、被害者に必ず真実を明らかにし、匿名で加害者を訴え、被害者の人生を取り戻すと言ったところ、株式会社 トイレ代理人には何の過失もなく、被害者が冴木良介を訴えました。裁判は2ヶ月後になる予定です』
僕はテレビを切って会社へ出勤した。
なあ、正義っていったい何なのだろう?
〈完〉
……
あとがき。
6話まで書いて、7話のみが残っていました。年月も経っていますし、最初はどう繋げたらいいか分からなかったものの、とりあえず書き上げました。
私にしては呆気ない終わり方になったと思います。
正義とはなんなのか。
そんなこと誰にも分かりませんよね。一人一人が訳の分からない正義とやらを胸に刻んで生きているのですから。正義に関わらず物事に答えなど存在しないと私は思っています。
書き始め当初は望の正義を貫くつもりでしたが、私の中の正義というもの少しずつ変わったのでしょうか。終わりは予定していなかったものとなりました。
純愛偏差値では、菊助が登場する小説は全て現実で起きていることとされています。ゆえに、今の純愛偏差値は、色んなことでバタバタしちゃってます。
トイレ代理人。
終わらないまま横に置いておくつもりでしたが終わらせることが出来て良かった。
次は未来望遠鏡を復旧させたいですね。
<望>
「斎藤さん。あなたの言う正しいというのは、あなたのみの正しいなんですよ。言ってる意味分かります?」
冴木は完全に勝ち誇ったように僕を見た。そりゃそうだろう。今の僕と冴木では冴木のほうが断然有利なのだから。
「もういいです」
「はい?」
僕は訴えられる。その後どうなるのだろう。
家族は?
妹は?
妹は大手企業で勤務している。もし、僕が裁判沙汰になったら家族諸共路頭に迷うだろう。それでも、僕は正義とやらを貫きたかったのだろうか?いったい何のために……?
小学生から中学生の頃までイジメられていた。
体育が終わってカバンを見るとタバコが入っていたり、母さんの作ったお弁当が捨てられたり、誰かが吸ったタバコを僕のせいにされたり、誰もいないところでは殴る蹴るの暴行を加えられた。
『やめてほしい』
そんなこと言えなかった。
普通の学校だったのに、スクールカーストが存在した。1軍とか2軍とか、今考えればそんなローカルルールダサイのに、それなのに、お金持ちで容姿の整ったヤツが有利だった。
そんな僕をイジメていたヤツらは、今幸せな社員生活を過ごしている。
不公平だ。
あまりに不公平すぎる。
僕は登校拒否をしていた期間もあったというのに。
そして、僕は大人になってからのほうが、柄の悪い男を見ては目の敵にするようになっていた。
「警察に突き出すなり、裁判沙汰にするなりなんなりしてください。けれど、関係のない家族には危害を加えないでください」
「なるほど。降伏するというわけですか。残念ながら家族への今後の対応は被害者側、そして世間が決めることです」
世間……。この世で1番くだらない存在だ。
僕がしたことは間違っていない。けれど、現代では人が人を裁くのではなく、法が人を裁く。そんなこと僕にだって分かっている。
逃げ場のなくなった僕は、今はじめて罪に問われたくないと思った。どうして今までそんな概念がなかったのだろう。どうして1人で突っ走り過ぎたのだろう。
「そうですか」
「斎藤さん、あなたとは、このような形で出会いたくありませんでした。残念です」
そう言うと冴木は僕を通報した。
警察署で僕は色々聞かれ、一つ一つの質問に正確に答えた。そして、留置所で拘留されることになり、刑事裁判にかけられることになった。
寝て起きるだけの日々。
何日経ったのかも分からない。
けれど、何故か僕は釈放された。
後から聞くところによると、会社側が揉み消したらしい。裁判にかけられることもなくなり、僕は一度家に戻った。
会社からは、いつも通りに出勤して欲しいと言われた。
翌日、僕は出勤をした。
すると、冴木は数々の電話に対応していたのである。
「申し訳ございません。僕の力不足でした」
「本当に力及ばずすみません」
「会社側に揉み消されてしまいました」
「誠に申し訳ありません」
(以下略)
「冴木さん、斎藤さんを裁判にかけて、被害者全員を救うつもりだったらしいですよ」
「山田……」
久しぶりに話た気がする。僕に幻滅した後、山田はどうしていたのだろう。
「一度は斎藤さんを信じられなくなりました。けれど、斎藤さんがミスに追い込んだのは普段悪さばかりしている依頼人です。ルール違反ではありますが、僕は斎藤さんのみが悪いとは思えなくなりました」
山田は山田なりに色々考えていてくれていたのだろうか。ごめんな、山田。僕は間違っていた。
二度と同じ誤ちは繰り返さない。
「山田……迷惑をかけてごめん」
「水臭いですね、斎藤さん。こうやって元に戻れたんですから、また、ここからはじめましょうよ」
その時、冴木が立ち上がった。そして、僕のほうに向かってきたのである。
「正義とはなんなんでしょうね、斎藤さん」
冴木は、それだけ言い残し、会社を去った。
僕がタイムカードを押し、退社した帰り道で1人の男性に声をかけられた。
「正義までは貫けませんでしたが、救われた気持ちはどうですか?斎藤望さん」
「あの、どちら様でしょうか?」
「申し遅れました。私(わたくし)は菊助と申します。以後お見知り置きを」
「はあ」
見知らぬ男が僕に何の用なのだろう?もしかして、これから僕は裁かれるのだろうか?
「斎藤さん、あなたは確かに誤ちを犯しました。けれど、あなたの境遇を考えると、あなたのみ責任を負うというのも、いささかおかしいと思い、私(わたくし)が揉み消しました。最初で最後の私(わたくし)からあなたへのチャンスです。斎藤さん、今後は今回の誤ちを踏まえ、二度と同じ誤ちは繰り返さず、真っ当に生きてください」
そして、菊助と名乗る人物は去って行った。
数日後、テレビを付けるとニュースが流れていた。
『株式会社 トイレ代理人に乗り込んだ冴木良介は、社員のミスを疑い、被害者に必ず真実を明らかにし、匿名で加害者を訴え、被害者の人生を取り戻すと言ったところ、株式会社 トイレ代理人には何の過失もなく、被害者が冴木良介を訴えました。裁判は2ヶ月後になる予定です』
僕はテレビを切って会社へ出勤した。
なあ、正義っていったい何なのだろう?
〈完〉
……
あとがき。
6話まで書いて、7話のみが残っていました。年月も経っていますし、最初はどう繋げたらいいか分からなかったものの、とりあえず書き上げました。
私にしては呆気ない終わり方になったと思います。
正義とはなんなのか。
そんなこと誰にも分かりませんよね。一人一人が訳の分からない正義とやらを胸に刻んで生きているのですから。正義に関わらず物事に答えなど存在しないと私は思っています。
書き始め当初は望の正義を貫くつもりでしたが、私の中の正義というもの少しずつ変わったのでしょうか。終わりは予定していなかったものとなりました。
純愛偏差値では、菊助が登場する小説は全て現実で起きていることとされています。ゆえに、今の純愛偏差値は、色んなことでバタバタしちゃってます。
トイレ代理人。
終わらないまま横に置いておくつもりでしたが終わらせることが出来て良かった。
次は未来望遠鏡を復旧させたいですね。
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トイレ代理人 六話
<望>
目が覚めると、会社の静養室にいた。
「斎藤さん、大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない」
心配してくれる山田に言葉を返すと同時に、後ろのほうで手を組みながら立っている冴木の姿に再び具合が悪くなった。
出来ることなら、今この場から逃げ出してしまいたい。けれど、そんな思いと反比例するかのように冴木が近づいて来た。
「山田、ちょっと外してくれ。斎藤さんと話がしたい」
「話? 何の話です? 斎藤さんは、まだ安静にしていなければならないのですよ。病人に無理をさせる気ですか?」
「病人? 自分の行動に責任を持てない人間は病人なんかじゃない。それに、僕は斎藤さんを気遣ったつもりだ。」
こちらを見る冴木に鳥肌が立ち、思わず目を逸らしてしまった。
「僕は別に山田がいたって構わない。けれど、斎藤さんはどうかな?」
動揺しながらも、何か言おうとした僕を山田が遮った。
「それ、どういう意味です?」
「どういう意味も何も、こちらには意味なんて何も無い。」
「仰ってる意味が良く分からないのですが」
「斎藤さん、山田はあなたと僕との話を聞きたいみたいですが、どうします?」
再び、僕に表意を向けられ、僕はまた動揺してしまった。
「僕はあなたと話すことは何もありません。帰って頂けませんか? 僕は具合が悪いです」
「斎藤さんがこう言ってるんですから、素直に帰ったらどうです? 具合悪い人間を何故休ませてあげないのですか?」
「分かりました。だったらもはや手段を選んだりはしません」
そう言いながら冴木はスマホを取り出した。
「やめろ!」
僕は、咄嗟に叫んだ。
そして、無意識に冴木のスマホを奪おうとした。
「具合が悪いと言いながらも随分元気ですね」
ニッコリ笑った冴木を心の底から鬼だと思った。
僕は、確かにやってはいけないことをしてしまった。けれど、僕は自分が間違ったことをしたとは思ってはいなかった。
だったら、何故冴木のスマホを奪おうとするのだろう。自分でも矛盾している行動に呆れ返っていた。
どこかで分かっていたのだと思う。自分は、コソコソしたやり方しか出来ないのだということを。
それでも、曲げたくはなかった。どこかで自分の道理を通したかった。
それも間違いだったのだろうか。
人には、それぞれの正義があって、その正義は異なっているし、他の誰かからすれば悪意になっていることだってある。
僕は、僕なりの正義を貫きたかった。それだけなのだ。
「間違っていない……」
「はい?」
「僕は、間違ったことをしたとは思っていません」
「へえ、今度は開き直りですか。それとも開き直れば僕が見過ごすとでも思っているのでしょうか?」
「あなたにとっての間違いは、僕にとっての間違いではありません」
「随分と正当化されますね。その理屈がどこまで通用するか試してみましょう。山田、これを見ろ」
冴木からスマホを受け取った山田は、動画を再生した。こちらには、音声だけが聴こえてくる。
自分のしたことの全てを今、山田が見ている。山田はどう思っているのだろうか。僕を軽蔑しただろうか。化けの皮が剥がれた僕を山田はどう解釈するのだろうか。
しばらく沈黙が流れた。
そして、その沈黙を山田が終わらせた。
「斎藤さん……これ、本当なんですか? 斎藤さんがこんなこと……どうして……」
僕は何も言えなかった。いや、言わなかったと言ったほうが正しいだろうか。
わざわざ弁明したって何も変わらない。僕は、そう思っていた。
現代は、スマホを使って写真や動画を撮ったりすることが出来る。それはもう当たり前化されている。
犯してしまった失態を画像や動画に収められてしまえば、言い訳など出来ないのだ。
けれど、画像や動画に写っていることが全てなんかじゃない。何故、その人はそうしてしまったのか。その前後には何があったのか、あるいは、その背景にはどのような事情があるのか、そんな他人の心の奥深くまで知ろうとする人間なんてこの世にいるのだろうか。人の心理の根底を探す人間など、いつの時代も存在しない。
上辺の証拠である画像や動画で決めつけられてしまう。それが現実なのだ。
「俺には分かりません。斎藤さんが理解出来ません!」
そう言い残し、山田は去った。
<望>
目が覚めると、会社の静養室にいた。
「斎藤さん、大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない」
心配してくれる山田に言葉を返すと同時に、後ろのほうで手を組みながら立っている冴木の姿に再び具合が悪くなった。
出来ることなら、今この場から逃げ出してしまいたい。けれど、そんな思いと反比例するかのように冴木が近づいて来た。
「山田、ちょっと外してくれ。斎藤さんと話がしたい」
「話? 何の話です? 斎藤さんは、まだ安静にしていなければならないのですよ。病人に無理をさせる気ですか?」
「病人? 自分の行動に責任を持てない人間は病人なんかじゃない。それに、僕は斎藤さんを気遣ったつもりだ。」
こちらを見る冴木に鳥肌が立ち、思わず目を逸らしてしまった。
「僕は別に山田がいたって構わない。けれど、斎藤さんはどうかな?」
動揺しながらも、何か言おうとした僕を山田が遮った。
「それ、どういう意味です?」
「どういう意味も何も、こちらには意味なんて何も無い。」
「仰ってる意味が良く分からないのですが」
「斎藤さん、山田はあなたと僕との話を聞きたいみたいですが、どうします?」
再び、僕に表意を向けられ、僕はまた動揺してしまった。
「僕はあなたと話すことは何もありません。帰って頂けませんか? 僕は具合が悪いです」
「斎藤さんがこう言ってるんですから、素直に帰ったらどうです? 具合悪い人間を何故休ませてあげないのですか?」
「分かりました。だったらもはや手段を選んだりはしません」
そう言いながら冴木はスマホを取り出した。
「やめろ!」
僕は、咄嗟に叫んだ。
そして、無意識に冴木のスマホを奪おうとした。
「具合が悪いと言いながらも随分元気ですね」
ニッコリ笑った冴木を心の底から鬼だと思った。
僕は、確かにやってはいけないことをしてしまった。けれど、僕は自分が間違ったことをしたとは思ってはいなかった。
だったら、何故冴木のスマホを奪おうとするのだろう。自分でも矛盾している行動に呆れ返っていた。
どこかで分かっていたのだと思う。自分は、コソコソしたやり方しか出来ないのだということを。
それでも、曲げたくはなかった。どこかで自分の道理を通したかった。
それも間違いだったのだろうか。
人には、それぞれの正義があって、その正義は異なっているし、他の誰かからすれば悪意になっていることだってある。
僕は、僕なりの正義を貫きたかった。それだけなのだ。
「間違っていない……」
「はい?」
「僕は、間違ったことをしたとは思っていません」
「へえ、今度は開き直りですか。それとも開き直れば僕が見過ごすとでも思っているのでしょうか?」
「あなたにとっての間違いは、僕にとっての間違いではありません」
「随分と正当化されますね。その理屈がどこまで通用するか試してみましょう。山田、これを見ろ」
冴木からスマホを受け取った山田は、動画を再生した。こちらには、音声だけが聴こえてくる。
自分のしたことの全てを今、山田が見ている。山田はどう思っているのだろうか。僕を軽蔑しただろうか。化けの皮が剥がれた僕を山田はどう解釈するのだろうか。
しばらく沈黙が流れた。
そして、その沈黙を山田が終わらせた。
「斎藤さん……これ、本当なんですか? 斎藤さんがこんなこと……どうして……」
僕は何も言えなかった。いや、言わなかったと言ったほうが正しいだろうか。
わざわざ弁明したって何も変わらない。僕は、そう思っていた。
現代は、スマホを使って写真や動画を撮ったりすることが出来る。それはもう当たり前化されている。
犯してしまった失態を画像や動画に収められてしまえば、言い訳など出来ないのだ。
けれど、画像や動画に写っていることが全てなんかじゃない。何故、その人はそうしてしまったのか。その前後には何があったのか、あるいは、その背景にはどのような事情があるのか、そんな他人の心の奥深くまで知ろうとする人間なんてこの世にいるのだろうか。人の心理の根底を探す人間など、いつの時代も存在しない。
上辺の証拠である画像や動画で決めつけられてしまう。それが現実なのだ。
「俺には分かりません。斎藤さんが理解出来ません!」
そう言い残し、山田は去った。
トイレ代理人 五話
<良介>
半年前、浜口を担当したのは斉藤望という社員だった。
ひと月前、浜口本人に会って直接聞いたのだ。
そして、その事を知ってから、僕は斉藤という人物について調べていた。
すると、トイレ代理人の仕事が失敗に終わった依頼は全て斉藤という人物が担当であった。けれど、しばし奇妙だった。斉藤は引き受けた依頼を全て失敗しているわけではない。成功している依頼と失敗している依頼が見事に真っ二つに分かれていたのだ。
山田の言うように本当にミスならいいのだが、やはり僕はただのミスで済ますには何かおかしいと思っていた。
それでも、今の段階では斉藤一人を疑うだけの証拠がなかった。
そんなある日、残業をして帰る途中、機械操作室である光景を目にしてしまった。
男性社員が機械操作担当員にコーヒーを渡し、それを飲んだ担当員は直ぐに居眠りをしてしまったのだ。
男性社員が機械操作室から出た後、僕は機械操作室に入り、眠っている担当員の代わりにボタンを押した。
男性社員が渡したコーヒーには恐らく睡眠薬が入っていたのだろう。そして、何故男性社員がそのような事をしたのかは分からない。
何か理由があったにしろ、失敗を促す行為はトイレ代理人としては失格だ。
皆、様々な悩みを抱えトイレ代理人にすがるしかない。そんな世の中なのだ。我々が代理する事によって幸せになれる人が一人でも増える事をこの会社は目的としている。
それを、故意に失敗に終わらそうとするなんて僕は許せなかった。
そして、それを実行した男性社員が斉藤望である事を僕は後に知った。
僕はタイムカードを置く場所で待ち伏せをしていた。
少しすると彼はやってきた。
「お疲れ様です」
僕が声をかけると向こうは誰?と言わんばかりの怪訝な表情をした。
「お疲れ様です…えっと」
返事はしたものの、戸惑っている様子だった。
「冴木です。冴木良介です」
僕は名乗った。けれど、向こうはきょとんとしていた。
「そう…ですか」
そう言って彼が帰ろうとするのを僕は逃さなかった。
「浜口さんを担当したのはあなたですね? 斉藤さん」
僕が言うと斉藤は一瞬焦ったように見えた。僕がそう見えただけかもしれない。
「そうですが、何か?」
何事もなかったかのように振る舞う斉藤に僕は苛立った。
「あの件、失敗に終わっているようですが、何故です?」
僕は攻撃態勢に入った。
「会社側のミスです。どうしてですか」
斉藤はシラを切った。
「どうしてですか? それはこっちのセリフですよ、斉藤さん。何故あなたは依頼者の期待に応えない。何故依頼者の将来を壊すんですか!」
僕は既に感情的になっていた。そうせざるを得なかった。この会社に入った目的を成し遂げるためにも。
「あの…聞いていると僕のみが悪いような口ぶりですが、何か証拠でもお持ちで?」
この斉藤という男、思ったよりしぶとかった。
「証拠もなしであなたに話しかけたとでも? これ見て下さい。機械操作室であなたが依頼を阻止した動画です」
僕はもう言い逃れはできないと切り札を出した。この切り札を出すのは早かったかもしれない。けれど、犠牲になった依頼者を思うとこの土俵から降りるわけにはいかなかった。
斉藤は無言だった。
「これで分かったでしょう。あなたの阻止が何故近頃失敗するようになったのか。僕は絶対あなたを許さない。あなたがどんな手を使おうとも僕は必ず依頼者全員を救ってみせる」
僕は真剣だった。
「…こせ」
「はい?」
「寄こせよ! そのスマホ!!」
斉藤は人が変わったように僕のスマホを奪い取ろうとした。けれど、僕は斉藤が飛びかかってきたのを咄嗟に避けた。
「やめろ! やめろ! やめろ! この卑怯者!」
そう言って斉藤は倒れた。
<良介>
半年前、浜口を担当したのは斉藤望という社員だった。
ひと月前、浜口本人に会って直接聞いたのだ。
そして、その事を知ってから、僕は斉藤という人物について調べていた。
すると、トイレ代理人の仕事が失敗に終わった依頼は全て斉藤という人物が担当であった。けれど、しばし奇妙だった。斉藤は引き受けた依頼を全て失敗しているわけではない。成功している依頼と失敗している依頼が見事に真っ二つに分かれていたのだ。
山田の言うように本当にミスならいいのだが、やはり僕はただのミスで済ますには何かおかしいと思っていた。
それでも、今の段階では斉藤一人を疑うだけの証拠がなかった。
そんなある日、残業をして帰る途中、機械操作室である光景を目にしてしまった。
男性社員が機械操作担当員にコーヒーを渡し、それを飲んだ担当員は直ぐに居眠りをしてしまったのだ。
男性社員が機械操作室から出た後、僕は機械操作室に入り、眠っている担当員の代わりにボタンを押した。
男性社員が渡したコーヒーには恐らく睡眠薬が入っていたのだろう。そして、何故男性社員がそのような事をしたのかは分からない。
何か理由があったにしろ、失敗を促す行為はトイレ代理人としては失格だ。
皆、様々な悩みを抱えトイレ代理人にすがるしかない。そんな世の中なのだ。我々が代理する事によって幸せになれる人が一人でも増える事をこの会社は目的としている。
それを、故意に失敗に終わらそうとするなんて僕は許せなかった。
そして、それを実行した男性社員が斉藤望である事を僕は後に知った。
僕はタイムカードを置く場所で待ち伏せをしていた。
少しすると彼はやってきた。
「お疲れ様です」
僕が声をかけると向こうは誰?と言わんばかりの怪訝な表情をした。
「お疲れ様です…えっと」
返事はしたものの、戸惑っている様子だった。
「冴木です。冴木良介です」
僕は名乗った。けれど、向こうはきょとんとしていた。
「そう…ですか」
そう言って彼が帰ろうとするのを僕は逃さなかった。
「浜口さんを担当したのはあなたですね? 斉藤さん」
僕が言うと斉藤は一瞬焦ったように見えた。僕がそう見えただけかもしれない。
「そうですが、何か?」
何事もなかったかのように振る舞う斉藤に僕は苛立った。
「あの件、失敗に終わっているようですが、何故です?」
僕は攻撃態勢に入った。
「会社側のミスです。どうしてですか」
斉藤はシラを切った。
「どうしてですか? それはこっちのセリフですよ、斉藤さん。何故あなたは依頼者の期待に応えない。何故依頼者の将来を壊すんですか!」
僕は既に感情的になっていた。そうせざるを得なかった。この会社に入った目的を成し遂げるためにも。
「あの…聞いていると僕のみが悪いような口ぶりですが、何か証拠でもお持ちで?」
この斉藤という男、思ったよりしぶとかった。
「証拠もなしであなたに話しかけたとでも? これ見て下さい。機械操作室であなたが依頼を阻止した動画です」
僕はもう言い逃れはできないと切り札を出した。この切り札を出すのは早かったかもしれない。けれど、犠牲になった依頼者を思うとこの土俵から降りるわけにはいかなかった。
斉藤は無言だった。
「これで分かったでしょう。あなたの阻止が何故近頃失敗するようになったのか。僕は絶対あなたを許さない。あなたがどんな手を使おうとも僕は必ず依頼者全員を救ってみせる」
僕は真剣だった。
「…こせ」
「はい?」
「寄こせよ! そのスマホ!!」
斉藤は人が変わったように僕のスマホを奪い取ろうとした。けれど、僕は斉藤が飛びかかってきたのを咄嗟に避けた。
「やめろ! やめろ! やめろ! この卑怯者!」
そう言って斉藤は倒れた。
トイレ代理人 四話
〈望〉
「寒っ」
目が覚めるなり僕は小声で叫んだ。
カーテンを開けると雨がパラパラと降っていた。この時期は雨が降るか降らないかで気温は物凄く変わる。
「雨か」
呟くなり窓をぼーっと見つめていると、窓にかかる雫はいつもよりも少しだけゆっくり落ちていた。雨ではなく霙であることを知った僕はもしかすると雪になるかもしれないと思った。
寒いながらもパジャマの上にちゃんちゃんこを羽織り、僕は階段を下りた。ポストから新聞を取り出した僕は少し微笑みながら再び部屋へと戻った。
「嘘だろ!」
リビングのソファーに座り新聞を見るなり僕は隣の建物に聞こえるくらいの大声を出した。
「そんな、そんなはずはない」
僕は新聞を隅から隅へと目を通した。
「ありえない」
僕は慌ててテレビをつけ、ニュースへとチャンネルをまわした。
「ない。ないないないないないないないない!」
僕は一瞬にして頭が真っ白になった。
けれど、気を失いたくても失えないし、失うわけにはいかなかった。
僕は震える手でパジャマのボタンに手をかけた。
そして、白紙になりかけながらも抗う感情を一瞬だけ無にし、パジャマを脱ぎすぐ様スーツを着た。今日は有休を入れていたけれど、僕は出勤することにした。
会社に着くなり、タイムカードも押さず僕は自分の部署まで階段で走った。エレベーターを待つ余裕さえもなかった。
扉を開けると、朝礼はすでに終わっていて、みんなそれぞれの席でそれぞれの仕事をしていた。
ふと思った。
ニュースや世間のちっさな情報というのは一日で得られるものではない。誰かが告訴をしてはじめて事件になるニュースもある。きっと、病気を患わない普通の人間ならば慌てはしないことを僕は必死になって慌てていた。
そして、そんなみっともない自分を僕は自ら恥じていた。
「そういえば、昨日機械担当が居眠りしてたらしいな」
二つとなりの席の人が隣の人に話しかけた言葉を僕は瞬時に捉えた。そして、会話に耳を凝らせた。
「ああ、今日出勤するなり部長の怒鳴り声凄かったな」
隣の席の人が返事をした途端、その言葉を聞いた途端、僕はほっと胸を撫で下ろした。きっと今の僕の感情を知る者は誰もいないだろう。そして、この安堵の一割を共感できる人間は一人たりともいないに違いない。
「だけど、依頼は無事成功して良かったよな」
「えっ!!!」
僕は思わず大声を出してしまった。その瞬間に会話をしていた二人が揃って僕を見た。僕は驚きを咄嗟に隠すように机にあった書類を手に取った。
「この書類まだ提出していなかったのか」
言いながら僕は判子を押した。
それを見ただろう二人は僕から目を離し、僕はふぅと小さなため息をついた。
けれど、僕はすぐに二人の会話に対する混乱を抱いた一分前に戻された。
「ああ、機械担当が居眠りしたにも関わらず、依頼はミスなしで終わるなんて逆に前代未聞だけどな」
「そうだな。でも、会社に影響なくて本当良かったわ。じゃあ、俺ちょっと出るわ」
「ああ、気をつけてな」
会話が終わっても僕はだけは「良かった」とは思えずにひたすら混乱していた。
僕は混乱しながらも、椅子にさえ座っている事が出来ず、震えながらトイレへ向かった。
天井の光がぼんやりと目に入ってきた。
「またか」
まただった。僕は極度のパニック状態になり、過呼吸が起きるたび、絡まり合った感情を心の中で爆発させてしまうのだ。そして、気がついたら眠ってしまっている。一年ほど前からこのパターンが定着していた。
だけど、目が覚めるなり僕は追われる現実に逆戻った。
きっと今の僕は混乱している。いや、混乱状態が継続したままである。それでも僕は今抱える不安をどうにかしたくて冷静になれないながらもひたすら安心だけを求めた。
夜になった僕は機械室へと足を運んだ。そして、僕は機械担当者にコーヒーを渡し部屋を出た。
何日か同じ事をしてみたが、僕は安心するどころか不安になる一方だった。
もう何がなんだかわからなくなっていた。僕は一気に青ざめた。
〈望〉
「寒っ」
目が覚めるなり僕は小声で叫んだ。
カーテンを開けると雨がパラパラと降っていた。この時期は雨が降るか降らないかで気温は物凄く変わる。
「雨か」
呟くなり窓をぼーっと見つめていると、窓にかかる雫はいつもよりも少しだけゆっくり落ちていた。雨ではなく霙であることを知った僕はもしかすると雪になるかもしれないと思った。
寒いながらもパジャマの上にちゃんちゃんこを羽織り、僕は階段を下りた。ポストから新聞を取り出した僕は少し微笑みながら再び部屋へと戻った。
「嘘だろ!」
リビングのソファーに座り新聞を見るなり僕は隣の建物に聞こえるくらいの大声を出した。
「そんな、そんなはずはない」
僕は新聞を隅から隅へと目を通した。
「ありえない」
僕は慌ててテレビをつけ、ニュースへとチャンネルをまわした。
「ない。ないないないないないないないない!」
僕は一瞬にして頭が真っ白になった。
けれど、気を失いたくても失えないし、失うわけにはいかなかった。
僕は震える手でパジャマのボタンに手をかけた。
そして、白紙になりかけながらも抗う感情を一瞬だけ無にし、パジャマを脱ぎすぐ様スーツを着た。今日は有休を入れていたけれど、僕は出勤することにした。
会社に着くなり、タイムカードも押さず僕は自分の部署まで階段で走った。エレベーターを待つ余裕さえもなかった。
扉を開けると、朝礼はすでに終わっていて、みんなそれぞれの席でそれぞれの仕事をしていた。
ふと思った。
ニュースや世間のちっさな情報というのは一日で得られるものではない。誰かが告訴をしてはじめて事件になるニュースもある。きっと、病気を患わない普通の人間ならば慌てはしないことを僕は必死になって慌てていた。
そして、そんなみっともない自分を僕は自ら恥じていた。
「そういえば、昨日機械担当が居眠りしてたらしいな」
二つとなりの席の人が隣の人に話しかけた言葉を僕は瞬時に捉えた。そして、会話に耳を凝らせた。
「ああ、今日出勤するなり部長の怒鳴り声凄かったな」
隣の席の人が返事をした途端、その言葉を聞いた途端、僕はほっと胸を撫で下ろした。きっと今の僕の感情を知る者は誰もいないだろう。そして、この安堵の一割を共感できる人間は一人たりともいないに違いない。
「だけど、依頼は無事成功して良かったよな」
「えっ!!!」
僕は思わず大声を出してしまった。その瞬間に会話をしていた二人が揃って僕を見た。僕は驚きを咄嗟に隠すように机にあった書類を手に取った。
「この書類まだ提出していなかったのか」
言いながら僕は判子を押した。
それを見ただろう二人は僕から目を離し、僕はふぅと小さなため息をついた。
けれど、僕はすぐに二人の会話に対する混乱を抱いた一分前に戻された。
「ああ、機械担当が居眠りしたにも関わらず、依頼はミスなしで終わるなんて逆に前代未聞だけどな」
「そうだな。でも、会社に影響なくて本当良かったわ。じゃあ、俺ちょっと出るわ」
「ああ、気をつけてな」
会話が終わっても僕はだけは「良かった」とは思えずにひたすら混乱していた。
僕は混乱しながらも、椅子にさえ座っている事が出来ず、震えながらトイレへ向かった。
天井の光がぼんやりと目に入ってきた。
「またか」
まただった。僕は極度のパニック状態になり、過呼吸が起きるたび、絡まり合った感情を心の中で爆発させてしまうのだ。そして、気がついたら眠ってしまっている。一年ほど前からこのパターンが定着していた。
だけど、目が覚めるなり僕は追われる現実に逆戻った。
きっと今の僕は混乱している。いや、混乱状態が継続したままである。それでも僕は今抱える不安をどうにかしたくて冷静になれないながらもひたすら安心だけを求めた。
夜になった僕は機械室へと足を運んだ。そして、僕は機械担当者にコーヒーを渡し部屋を出た。
何日か同じ事をしてみたが、僕は安心するどころか不安になる一方だった。
もう何がなんだかわからなくなっていた。僕は一気に青ざめた。
トイレ代理人 三話
〈望〉
綺麗に色を染めていた木々たちはすっかり枯葉になっていて、昨日は霙も降っていた。
うつ病である僕は、春を過ぎたあたりから体調を崩し、会社を休む事が増えていた。憂鬱な気持ちで寝込んでいる程に時間は砂時計のように流れていき、夏のひまわり畑も、秋の紅葉もじっくり見れないまま、街はすっかりクリスマスモードへと移り変わっていた。
ずっとうつ状態から抜け出せないままだった僕にとって、日常という空気を思いっきり吸うことが出来たのは本当に久しぶりのことかもしれない。
僕は足の赴くままに会社の中にある図書館へと向かった。
扉を開けると山田がいた。
「あれ、斎藤さんじゃないですか。具合は良くなったんですか? みんな心配してたんすよ」
山田は僕の後輩で、新人の頃から真面目に仕事をしている。
「ああ、だいぶ落ち着いてきたよ。それより、こんな場所で何してるんだ?」
「ちょっと調べてたんです」
「と言うと?」
「トイレ代理人っていつ頃からいるのかふと気になったんで、それらしき書物をあさってました」
言いながらも山田は棚にある本を手にとりページをめくっていた。
「そっか。珍しいな」
「何がです?」
「君はそういうことには無関心な人間かと思ってた」
「えー、それは酷いっすよ。僕だって学習心はちゃんとあるんですよ。
それより聞いてくださいよー。トイレ代理人て江戸時代からいるらしいんすよ。当時は受けた依頼を霊能者が担当してたらしいんです」
「霊能者? 今とは随分異なっているな」
そう、異なりすぎている。今は、小型の機械を依頼人に取り付け、依頼人の危険時にトイレ代理人がボタンを押している。こちらにも機械があり、依頼人の危険時には赤いランプが点滅する。それを確認して、あるボタンを押す。あるボタンには尿意をなくす波動が送られるようになっていて、押すと依頼人に取り付けた機械に反応するシステムになっている。
尿意をなくす波動。それはどこの誰が開発したのかは未だに誰一人知る人間はいない。
「そうっすね。今の時代は何でもかんでも機械ですもんね。
ちなみに、トイレ代理人は江戸時代からいるらしいっすけど、本当は卑弥呼の時代からいたっていう説もあるんですよ。まあ霊能者なら大昔からいましたしね」
「霊能者、か。それはそれで奇妙だが、そんな昔の人はいったいどんな依頼をしてたのか気になるな」
「依頼は様々あったらしいけど、その大半が戦らしいっすよ」
「戦?」
「戦はいつ終わるかわからないだけに、トイレの近い人は不安抱いてたみたいっすね」
「なるほど。だけど、戦国時代とかまで遡ると戦も生々しいイメージからは遠ざかるな」
「斎藤さん、それ言っちゃお終いっすよ。国民が忘れまいとする第二次世界大戦も三百年後とかには皆の心の中から綺麗さっぱり忘れ去られていたらまた過ちを繰り返すかもしれないですよ」
僕は思わず笑ってしまった。
山田にしては案外考えるとこ考えてるんだなとちょっと意外だった。
「それもそうだな」
知りたいことの半分以上は知ることができたのか、山田は手にしていた本を棚に戻した。
「そういえば、冴木さん、半年以上前のミスを未だに事件とか騒いでまるで警察のように色んな人に聞き取りしてるらしいっすよ」
「半年以上前のミス?」ミス。その言葉に僕は思わず反応してしまった。「依頼人は誰だったか覚えているか?」
「えっと、確か浜田。いや、んー。あ、浜口! 浜口って男だったと思います」
浜口。それは紛れもなく僕が担当した依頼だった。確かに依頼は失敗に終わったかもしれない。だけどあれは機械担当の人のミスで、こちらも謝罪して事は終えたはず。それなのに、季節が変わってまで真相を追い求める人物がいる事に僕は心底驚いた。
「僕の担当した依頼だ。だけど、今になってその人はどうして真相を追い求めているんです?」
「冴木さんは絶対にミスではないと言い張ってるんです」
「ミスではない?」
「はい。それも人為的によるものとかなんとかわけのわからないこと並べてるんですよ」
僕は一瞬顔をしかめた。
「担当したのが僕である以上、僕の責任なのかもな」
声のトーンを落としたつもりはなかったが、自然と人と話す声より低くなっていた。
「そんな、斎藤さんのせいじゃないですよ。斎藤はいつも仕事熱心じゃないですか。それに比べ冴木さんは」
言いかけた最中に山田の携帯が鳴った。
「はい、トイレ代理人、山田です」山田は携帯に出るなり腕時計を見た。「はい、わかりました。今すぐ伺います」
「仕事が入ったので俺行きますね。斎藤さんあまり重い悩まないでくださいね」
言うと山田は図書館を出た。
せっかく気分よく出社したものの、僕はまたうつ状態になってしまった。
さえき。そんな人物に僕は会った事がない。そもそも本当にこの会社にいるのだろうか。
僕は身体の震えを無視したまま、図書館を出て会社の入口へと向かった。
この会社の社員は多くもなく少なくもなかった。僕はタイムカードを片っ端から探った。
さえき…さえき…
僕は頭の中で名前を言いながら一枚のタイムカードを手に取った。
さえきと言う人物は一人しかいなかった。冴木良介。恐らくこの人物だ。
身体の震えが悪化し、過呼吸になった僕はトイレにこもったきり動けずにいた。僕の頭の中は真っ白になっていた。いや、真っ白にさせなければいけなかった。過呼吸が起きた時、考え事をすると身体が痛くなったりと状態は悪くなる。そうならないためにも、一度過呼吸が起きたらゼーゼー呼吸しながらも僕は何も考えないように心がけていた。
だけど、今日は僕にとって重要な日だった。
腕に目をやると、19時を過ぎていた。過呼吸を治す時間は限られていた。
僕はゆっくり目を閉じ、深く鼻で呼吸をした。
「戦うしかない」
僕は覚悟を決め、トイレから出た。
給湯室に向かった僕は、コーヒーを入れた。精神状態が乱れた僕の手は震えていた。僕は呼吸が上手く吸えないながらも、ポケットから瓶を取り出し蓋を開けた。真っ白な錠剤は瓶の中にまだ半分は残っていた。僕は錠剤を一つ取り出し、コーヒーに入れスプーンでかき混ぜた。
機械室へ行くと機械担当の人がランプに注意を払いながら機会の前で座っていた。
「お疲れ様です。いつも残業大変ですね。これ良かったら眠気覚ましにどうぞ」
僕は機械担当の人に先程入れたコーヒーを渡した。
「お疲れ様です。どうもありがとうございます」
受け取るなりその人はコーヒーを二口飲んだ。
それを確認した僕は
「頑張ってくださいね」
と言い残し機械室を出た。
〈望〉
綺麗に色を染めていた木々たちはすっかり枯葉になっていて、昨日は霙も降っていた。
うつ病である僕は、春を過ぎたあたりから体調を崩し、会社を休む事が増えていた。憂鬱な気持ちで寝込んでいる程に時間は砂時計のように流れていき、夏のひまわり畑も、秋の紅葉もじっくり見れないまま、街はすっかりクリスマスモードへと移り変わっていた。
ずっとうつ状態から抜け出せないままだった僕にとって、日常という空気を思いっきり吸うことが出来たのは本当に久しぶりのことかもしれない。
僕は足の赴くままに会社の中にある図書館へと向かった。
扉を開けると山田がいた。
「あれ、斎藤さんじゃないですか。具合は良くなったんですか? みんな心配してたんすよ」
山田は僕の後輩で、新人の頃から真面目に仕事をしている。
「ああ、だいぶ落ち着いてきたよ。それより、こんな場所で何してるんだ?」
「ちょっと調べてたんです」
「と言うと?」
「トイレ代理人っていつ頃からいるのかふと気になったんで、それらしき書物をあさってました」
言いながらも山田は棚にある本を手にとりページをめくっていた。
「そっか。珍しいな」
「何がです?」
「君はそういうことには無関心な人間かと思ってた」
「えー、それは酷いっすよ。僕だって学習心はちゃんとあるんですよ。
それより聞いてくださいよー。トイレ代理人て江戸時代からいるらしいんすよ。当時は受けた依頼を霊能者が担当してたらしいんです」
「霊能者? 今とは随分異なっているな」
そう、異なりすぎている。今は、小型の機械を依頼人に取り付け、依頼人の危険時にトイレ代理人がボタンを押している。こちらにも機械があり、依頼人の危険時には赤いランプが点滅する。それを確認して、あるボタンを押す。あるボタンには尿意をなくす波動が送られるようになっていて、押すと依頼人に取り付けた機械に反応するシステムになっている。
尿意をなくす波動。それはどこの誰が開発したのかは未だに誰一人知る人間はいない。
「そうっすね。今の時代は何でもかんでも機械ですもんね。
ちなみに、トイレ代理人は江戸時代からいるらしいっすけど、本当は卑弥呼の時代からいたっていう説もあるんですよ。まあ霊能者なら大昔からいましたしね」
「霊能者、か。それはそれで奇妙だが、そんな昔の人はいったいどんな依頼をしてたのか気になるな」
「依頼は様々あったらしいけど、その大半が戦らしいっすよ」
「戦?」
「戦はいつ終わるかわからないだけに、トイレの近い人は不安抱いてたみたいっすね」
「なるほど。だけど、戦国時代とかまで遡ると戦も生々しいイメージからは遠ざかるな」
「斎藤さん、それ言っちゃお終いっすよ。国民が忘れまいとする第二次世界大戦も三百年後とかには皆の心の中から綺麗さっぱり忘れ去られていたらまた過ちを繰り返すかもしれないですよ」
僕は思わず笑ってしまった。
山田にしては案外考えるとこ考えてるんだなとちょっと意外だった。
「それもそうだな」
知りたいことの半分以上は知ることができたのか、山田は手にしていた本を棚に戻した。
「そういえば、冴木さん、半年以上前のミスを未だに事件とか騒いでまるで警察のように色んな人に聞き取りしてるらしいっすよ」
「半年以上前のミス?」ミス。その言葉に僕は思わず反応してしまった。「依頼人は誰だったか覚えているか?」
「えっと、確か浜田。いや、んー。あ、浜口! 浜口って男だったと思います」
浜口。それは紛れもなく僕が担当した依頼だった。確かに依頼は失敗に終わったかもしれない。だけどあれは機械担当の人のミスで、こちらも謝罪して事は終えたはず。それなのに、季節が変わってまで真相を追い求める人物がいる事に僕は心底驚いた。
「僕の担当した依頼だ。だけど、今になってその人はどうして真相を追い求めているんです?」
「冴木さんは絶対にミスではないと言い張ってるんです」
「ミスではない?」
「はい。それも人為的によるものとかなんとかわけのわからないこと並べてるんですよ」
僕は一瞬顔をしかめた。
「担当したのが僕である以上、僕の責任なのかもな」
声のトーンを落としたつもりはなかったが、自然と人と話す声より低くなっていた。
「そんな、斎藤さんのせいじゃないですよ。斎藤はいつも仕事熱心じゃないですか。それに比べ冴木さんは」
言いかけた最中に山田の携帯が鳴った。
「はい、トイレ代理人、山田です」山田は携帯に出るなり腕時計を見た。「はい、わかりました。今すぐ伺います」
「仕事が入ったので俺行きますね。斎藤さんあまり重い悩まないでくださいね」
言うと山田は図書館を出た。
せっかく気分よく出社したものの、僕はまたうつ状態になってしまった。
さえき。そんな人物に僕は会った事がない。そもそも本当にこの会社にいるのだろうか。
僕は身体の震えを無視したまま、図書館を出て会社の入口へと向かった。
この会社の社員は多くもなく少なくもなかった。僕はタイムカードを片っ端から探った。
さえき…さえき…
僕は頭の中で名前を言いながら一枚のタイムカードを手に取った。
さえきと言う人物は一人しかいなかった。冴木良介。恐らくこの人物だ。
身体の震えが悪化し、過呼吸になった僕はトイレにこもったきり動けずにいた。僕の頭の中は真っ白になっていた。いや、真っ白にさせなければいけなかった。過呼吸が起きた時、考え事をすると身体が痛くなったりと状態は悪くなる。そうならないためにも、一度過呼吸が起きたらゼーゼー呼吸しながらも僕は何も考えないように心がけていた。
だけど、今日は僕にとって重要な日だった。
腕に目をやると、19時を過ぎていた。過呼吸を治す時間は限られていた。
僕はゆっくり目を閉じ、深く鼻で呼吸をした。
「戦うしかない」
僕は覚悟を決め、トイレから出た。
給湯室に向かった僕は、コーヒーを入れた。精神状態が乱れた僕の手は震えていた。僕は呼吸が上手く吸えないながらも、ポケットから瓶を取り出し蓋を開けた。真っ白な錠剤は瓶の中にまだ半分は残っていた。僕は錠剤を一つ取り出し、コーヒーに入れスプーンでかき混ぜた。
機械室へ行くと機械担当の人がランプに注意を払いながら機会の前で座っていた。
「お疲れ様です。いつも残業大変ですね。これ良かったら眠気覚ましにどうぞ」
僕は機械担当の人に先程入れたコーヒーを渡した。
「お疲れ様です。どうもありがとうございます」
受け取るなりその人はコーヒーを二口飲んだ。
それを確認した僕は
「頑張ってくださいね」
と言い残し機械室を出た。