日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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女性
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地主(土地貸してます)
趣味:
漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
自己紹介:
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
フリーイラスト素材も増やしていく予定です(*'ᴗ'*)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
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お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にて無料のフリーイラスト素材配布もはじめました✩.*˚
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模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2010年02月10日
→セルフ・カウンセリング
ステップ2 合格
2011年05月28日
→セルフ・カウンセリング
指導講師資格審査 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉














[1] [2]
トイレ代理人 あらすじ 3
密やかに情報収集していた冴木の行動が社内で噂されるようになる。
そんな冴木に苛立ちを更に増す山田。
そして、冴木の存在を斎藤も知ることになるが、自分の仕事に集中したい斎藤は情報収集だけに出社する冴木を避けなるべく顔を合わさないようにする。
誰もが一生懸命。されどその一生懸命はすれ違っている。
そして、新たに生まれる葛藤の数々。
次回、トイレ代理人3話!
お楽しみに!
密やかに情報収集していた冴木の行動が社内で噂されるようになる。
そんな冴木に苛立ちを更に増す山田。
そして、冴木の存在を斎藤も知ることになるが、自分の仕事に集中したい斎藤は情報収集だけに出社する冴木を避けなるべく顔を合わさないようにする。
誰もが一生懸命。されどその一生懸命はすれ違っている。
そして、新たに生まれる葛藤の数々。
次回、トイレ代理人3話!
お楽しみに!
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トイレ代理人 二話
〈良介〉
「お願いします。少しだけでいいんだす。少し だけでも話を聞かせてはいただけませんか?」
『アンタもしつこい人間だな! もう二度と電話してこないでくれ!』
「ちょっと待ってください! 少しだけでも…!」
僕が説得する間もなくその電話は一方的に切られてしまった。これで何度目になるだろう。未だ誰1人として僕と会ってくれる人は現れない。それでも僕は尻尾をまいて諦めるわけにはいかなかった。
僕がコーヒーを入れようと給湯室に向かったのを見計らったようなや後輩の山田が僕の前に立った。
「冴木さん、まだ事件とか言って騒いでるんですか?」
彼の言葉に少しムッときたが僕は無言で給湯室に入った。コーヒーカップを取るなり山田は給湯室の壁にもたれ掛かった。
「冴木さんってここに入社して一年経ちますよね。アルバイトだからって後輩の俺の方が休日も惜しまずせっせと働いてるってどういうことっすか」
僕は山田を無視してコーヒーを注いだ。それが気に入らないのか彼はチッと舌打ちをした。
「俺らも人間なんですよ。ミスの一つや二つ受け入れられないでいてどうするんですか?」
「ミス?」山田の言葉に僕は思わず反応してしまった。「本当にミスならいいんですけどね」
僕は一度山田の顔を見たあと苦笑し中身の入ったコーヒーカップを持ちながら自分の机へと戻った。
コーヒーを一口飲むなり僕は煮え切らない気持ちを誤魔化すかのようにボールペンをクルクル回した。
その時だった。僕の携帯が鳴った。知らない番号だったが僕はすぐに応答ボタンを右にスライドさせた。
「はい、冴木と申します」
僕は引き出しからメモを取り出した。
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます! はい、わかりました! 今すぐ伺います!」
僕は電話を切るなりカバンを持ち直様会社を出た。
喫茶店を入るなり待ち合わせの人物を探したがそれらしき人はいなかった。まだ来てないのだろうと窓際のテーブルの椅子にカバンを置こうとした時、一つ隣のテーブルに座っている人に目がいった。30歳前半だろうか。手入れの行き届いてない毛先の広がった茶色い髪は上から黒い髪が生えていてプリンのようになっていた。そして、少し伸びた髭は彼の印象を暗くさせていた。整えられた茶色い髪に綺麗に剃られた顎、持っている写真と見比べても同一人物とは思えず誰もいないテーブルに腰を降ろそうとしたその時耳に開けられたピアスの穴が目に入った。写真の人物はピアスをしていた。もしかしてこの人ではないかと彼の前に行き軽く会釈した。
「恐れ入りますが桐乃さんでいらっしゃいますでしょうか?」
僕を見るなり彼は頷いた。
「はじめまして。冴木良介と申します」僕は彼に名刺を渡した。「本日はお越しいただいてありがとうございます」
僕が座っても桐乃さんはただ無表情で焦点の合わないどこかを見つめていた。
「早速ですが、三年前何があったかお話していただけますでしょうか?」
桐乃さんは一瞬目蓋を閉じ再び目蓋を開いた。
「あの頃の俺は悪さばかりしていた。万引きにカツアゲ、浮気を繰り返しては色んな女を泣かせてきた。
あの日は急遽合コンへ行くことになったが前の晩から夜通し飲んでいた俺は朝から何度もトイレに行っていた。元々トイレが近かったこともあって余計にトイレの回数が多かった。あろう事かその日の合コンは地元の高原だったんだ。あんな山奥トイレに行きたくてもすぐに行けるわけがなく、追い打ちをかけるように当時付き合っていた彼女が合鍵で俺の部屋に入り俺がトイレに入ってる時に合コンのメールを見てしまったんだ。問い詰める彼女を振り払うかのように俺は万全の準備をしないままアパートを出た。俺は友人のアパートでシャワーを済ませ着替えをして、トイレ代理人に電話した。予約をしていなかったが依頼を受けてくれると言われ俺はその日の合コンを助けてほしいと頼んだ。これで気起きなく合コンを楽しめると待ち合わせ場所の公園へと向かった。メンバーが全員揃ったところで男女一組がペアになって高原までバイクで行くことななったんだ。15分ほど走らせた時に俺は尿意を催したが直に消えるだろうと気にすることなくそのままバイクを走らせた。けれど、しばらく経っても尿意は消えることなく俺は限界に近づいていた。それでもトイレ代理人が何とかしてくれるだろうと俺は心配することはなかった。けれど、少し呼吸を乱していた俺は赤信号に気づかず横から走ってくる車を避けようとしたその時後ろに乗せていた女とともにバイクごと横転してしまった。幸い2人とも無傷で済んだが俺は無傷ではなかった。俺のズボンを見るなり相手の女の表情が変わった。俺を蔑むような目をしていた。衝撃とともに現状を受け入れきれなかった俺はいたたまれなくなって倒れたバイクを起こし女を置き去りにしたまま俺はその場から逃げた」
桐乃さんは苦しそうな表情をして一口水を飲んだ。話しているうちに過去の出来事があたかも今起きたような気持ちになりそんな葛藤に苦しんでいることが僕には痛いくらいに伝わってきた。
「あれからしばらく経った頃、会社側のミスであったと謝罪の手紙とともに依頼の時に支払った全額が送られてきた。責める気にもなれなかった。あれ以来俺は外に出る事を拒み家にこもり続けた」
話し終えると桐乃さんはタバコを取り出した。ライターで火をつけるもののむせこんで、そのままタバコを灰皿へとこすりつけた。
「桐乃さんは本当に会社側のミスであったと思っているんですか?」
「さぁな。どっちにしろ俺の時間はあの日から止まったままだ」
「担当者は誰だったんです?」
僕が言うと桐乃さんは突然立ち上がった。
「なぁ、今日はもう疲れた。過去は全て話したんだしそろそろ帰っていいか?」
桐乃さんは話をする前よりもやつれていた。聞きたいことはもう少しあったが僕は彼の心情を察して喉まででかかった用意していた質問をごくりと飲み込んだ。
「ええ。今日は僕の勝手で貴重な話をしていただき本当にありがとうございました」
僕が一礼した後桐乃さんは立ち止まり振り返った。
「嘘じゃないよな?」
「はい?」
「本当に被害にあった依頼主の名前や素姓は明かさず会社を告訴し、被害者全員に多額の賠償金を支払ってくれるんだよな?」
桐乃さんの声は少しかすれていた。
「はい、僕は必ず真実を明らかにし被害者全員の未来をお助けします!」
会社に戻るなり缶コーヒーを右手に持った山田が突っ立っていた。僕を見るなり山田は手に持っていた缶コーヒーをゴミ箱に放り投げた。
「ナイスシュート」
小声で呟いた山田はそのまま僕に近づいて、一枚の名刺を僕に見せつけた。
「人の机を勝手にあさるなんて悪趣味にも程があるな」
僕は低い声で言った。
「冴木さん、いったいどういうつもりなんすかね? この一年依頼主に会ったこと一度だってあるんすか? いつもいつも依頼主ではない人間の話を聞きに行って仕事をしないにも限度があります。あげくに前の会社の名刺を今も大事にしてるなんてこの仕事バカにするのもいい加減にしてください! 俺ら遊びでやってんじゃないんすよ! 冴木さん、アンタこの仕事向いてないんじゃないんですか? いっそのこと前の会社に戻ったらどうなんです?」
山田が怒るのも無理はなかった。同じ立場なら僕も怒ってたに違いない。今の僕に弁解する権利はないと僕は十分に理解していた。
「そうかもな」
僕は彼を残し食堂へ向かった。
「はい、唐揚げ定食お待ち! 560円になります」
会計を済ませた僕は人が殆どいない隅っこの机へとご飯を運んだ。
椅子に腰をかけるなり御膳に箸をつけることなく、ため息をついた。
あれは二年前の事だった。
当時僕は雑誌の出版社に勤務していて恋愛コラムを担当していた。恋愛は100人いれば100通りの形や流れがあるのは当然の事で、そんな空模様のようなどこかあやふやで掴めないのに確かにそこにある、そんな淡い時間を僕なりに記事にして世の中の人に伝えることに当時の僕は全力を注いでいた。
始めて彼女の部屋に行った時に見たファッション雑誌の恋愛コラムが僕を記者の業界へ進ませた大きなきっかけとなったのだ。人を好きになるということは少なくとも相手に与えたい気持ちに対し細やかな喜びを感じているものだと僕は思う。それぞれの形はあったにしろ、僕は恋愛をする全ての人に幸せになってほしかった。そんな思いから高校三年生の時に出版社に送った記事があろう事か評価され高校を卒業して直ぐに出版社に入ったのだ。最初の二年は見習いとして先輩の取材に同行していた。だから、プロとしての活動を許可されたのは成人してからだった。
僕は取材を受けてくれたカップルには取材後必ず花束に手紙を添えてその人たちに届けていた。それが反響を呼んでか雑誌の名前が変わった後も僕が担当する恋愛コラムはずっと昔のまま残っていた。
仕事に対する情熱、取材を受けてくれた人たちへの思いやり、どこまでも読者を裏切らない頑張りが上司に対する信頼へと繋がった。課長は将来は誰よりも早く出世するだとうとまで僕を高く評価してくれていたのだ。
だから、出版社を辞める時は本当に辛かったしできることならずっと恋愛コラムを書いていたかった。
今までの僕の情熱を見事に覆したのは「トイレ代理人」だった。
僕が記者として花を咲かせていた頃、一人の男性がノイローゼになってしまった。その男性は僕が過去に取材した人物だったのだ。その男性こと佐久間俊は、彼女とのデートを前にして膀胱炎になってしまい、トイレ代理人に相談したそうだ。膀胱炎といっても一週間もすれば治るわけで高いお金を払ってまでトイレ代理人に依頼するほどのことでもないかもしれないが、佐久間氏にとって付き合って一年目のデートはとても重要だったのだろう。いくら抗生物質を処方してもらっているとはいえ、意識的に水分を多くとることは大切なため佐久間氏はトイレ代理人に依頼せざるをえなかったのだと思う。けれど、デート当時トイレ代理人が佐久間氏を救うことはなかった。佐久間氏の彼女、杉崎笹は引きこもるようになった佐久間氏を心配し何度か見舞いに行ったそうだが、その後新しく知り合った男性と恋に落ちたそうだ。
恋愛コラムに置ける幸せを世の中の人々に伝える僕のメンツが丸つぶれになったなんて気持ちは一切なく、僕はただ一人でも多くの人に幸せになってほしかった。だから、佐久間氏の真相を知るべくしてあの日裏取材の名目をつけトイレ代理人へと乗り込んだ。
佐久間氏の件に対しては「担当者の居眠りによる事故」であったと誰もが口を揃えて主張した。実際担当者は不覚にも居眠りをしてしまったと認めているし、そこに間違いはないのだろう。それでも僕は佐久間氏の無念を「ミス」なんかでは片付けたくはなかった。
半年後僕はスパイでトイレ代理人にアルバイトとして入社をした。最初は本当にスパイとして真相を探るつもりだった。けれど、深く調べるにあたって不自然な点がいくつかでてきたのだ。
事件は五年前から始まり、事故の全ては担当者による居眠り。いくら会社側がミスと主張し続けても僕は納得がいかなく、いつしか被害者全員を救ってあげたい、そんな気持ちが芽生えたのだった。
そして、一年前トイレ代理人に正式に身を置くことを僕は決意した。
絶対ミスなんかでは片付けさせないし、ミスでない証拠を見つけた暁には被害者全員の賠償と未来をかけて会社側を告訴するつもりでいる。
必ず真相を突き詰め被害者全員を救ってみせる。僕は今改めて自分に誓った。
〈良介〉
「お願いします。少しだけでいいんだす。少し だけでも話を聞かせてはいただけませんか?」
『アンタもしつこい人間だな! もう二度と電話してこないでくれ!』
「ちょっと待ってください! 少しだけでも…!」
僕が説得する間もなくその電話は一方的に切られてしまった。これで何度目になるだろう。未だ誰1人として僕と会ってくれる人は現れない。それでも僕は尻尾をまいて諦めるわけにはいかなかった。
僕がコーヒーを入れようと給湯室に向かったのを見計らったようなや後輩の山田が僕の前に立った。
「冴木さん、まだ事件とか言って騒いでるんですか?」
彼の言葉に少しムッときたが僕は無言で給湯室に入った。コーヒーカップを取るなり山田は給湯室の壁にもたれ掛かった。
「冴木さんってここに入社して一年経ちますよね。アルバイトだからって後輩の俺の方が休日も惜しまずせっせと働いてるってどういうことっすか」
僕は山田を無視してコーヒーを注いだ。それが気に入らないのか彼はチッと舌打ちをした。
「俺らも人間なんですよ。ミスの一つや二つ受け入れられないでいてどうするんですか?」
「ミス?」山田の言葉に僕は思わず反応してしまった。「本当にミスならいいんですけどね」
僕は一度山田の顔を見たあと苦笑し中身の入ったコーヒーカップを持ちながら自分の机へと戻った。
コーヒーを一口飲むなり僕は煮え切らない気持ちを誤魔化すかのようにボールペンをクルクル回した。
その時だった。僕の携帯が鳴った。知らない番号だったが僕はすぐに応答ボタンを右にスライドさせた。
「はい、冴木と申します」
僕は引き出しからメモを取り出した。
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます! はい、わかりました! 今すぐ伺います!」
僕は電話を切るなりカバンを持ち直様会社を出た。
喫茶店を入るなり待ち合わせの人物を探したがそれらしき人はいなかった。まだ来てないのだろうと窓際のテーブルの椅子にカバンを置こうとした時、一つ隣のテーブルに座っている人に目がいった。30歳前半だろうか。手入れの行き届いてない毛先の広がった茶色い髪は上から黒い髪が生えていてプリンのようになっていた。そして、少し伸びた髭は彼の印象を暗くさせていた。整えられた茶色い髪に綺麗に剃られた顎、持っている写真と見比べても同一人物とは思えず誰もいないテーブルに腰を降ろそうとしたその時耳に開けられたピアスの穴が目に入った。写真の人物はピアスをしていた。もしかしてこの人ではないかと彼の前に行き軽く会釈した。
「恐れ入りますが桐乃さんでいらっしゃいますでしょうか?」
僕を見るなり彼は頷いた。
「はじめまして。冴木良介と申します」僕は彼に名刺を渡した。「本日はお越しいただいてありがとうございます」
僕が座っても桐乃さんはただ無表情で焦点の合わないどこかを見つめていた。
「早速ですが、三年前何があったかお話していただけますでしょうか?」
桐乃さんは一瞬目蓋を閉じ再び目蓋を開いた。
「あの頃の俺は悪さばかりしていた。万引きにカツアゲ、浮気を繰り返しては色んな女を泣かせてきた。
あの日は急遽合コンへ行くことになったが前の晩から夜通し飲んでいた俺は朝から何度もトイレに行っていた。元々トイレが近かったこともあって余計にトイレの回数が多かった。あろう事かその日の合コンは地元の高原だったんだ。あんな山奥トイレに行きたくてもすぐに行けるわけがなく、追い打ちをかけるように当時付き合っていた彼女が合鍵で俺の部屋に入り俺がトイレに入ってる時に合コンのメールを見てしまったんだ。問い詰める彼女を振り払うかのように俺は万全の準備をしないままアパートを出た。俺は友人のアパートでシャワーを済ませ着替えをして、トイレ代理人に電話した。予約をしていなかったが依頼を受けてくれると言われ俺はその日の合コンを助けてほしいと頼んだ。これで気起きなく合コンを楽しめると待ち合わせ場所の公園へと向かった。メンバーが全員揃ったところで男女一組がペアになって高原までバイクで行くことななったんだ。15分ほど走らせた時に俺は尿意を催したが直に消えるだろうと気にすることなくそのままバイクを走らせた。けれど、しばらく経っても尿意は消えることなく俺は限界に近づいていた。それでもトイレ代理人が何とかしてくれるだろうと俺は心配することはなかった。けれど、少し呼吸を乱していた俺は赤信号に気づかず横から走ってくる車を避けようとしたその時後ろに乗せていた女とともにバイクごと横転してしまった。幸い2人とも無傷で済んだが俺は無傷ではなかった。俺のズボンを見るなり相手の女の表情が変わった。俺を蔑むような目をしていた。衝撃とともに現状を受け入れきれなかった俺はいたたまれなくなって倒れたバイクを起こし女を置き去りにしたまま俺はその場から逃げた」
桐乃さんは苦しそうな表情をして一口水を飲んだ。話しているうちに過去の出来事があたかも今起きたような気持ちになりそんな葛藤に苦しんでいることが僕には痛いくらいに伝わってきた。
「あれからしばらく経った頃、会社側のミスであったと謝罪の手紙とともに依頼の時に支払った全額が送られてきた。責める気にもなれなかった。あれ以来俺は外に出る事を拒み家にこもり続けた」
話し終えると桐乃さんはタバコを取り出した。ライターで火をつけるもののむせこんで、そのままタバコを灰皿へとこすりつけた。
「桐乃さんは本当に会社側のミスであったと思っているんですか?」
「さぁな。どっちにしろ俺の時間はあの日から止まったままだ」
「担当者は誰だったんです?」
僕が言うと桐乃さんは突然立ち上がった。
「なぁ、今日はもう疲れた。過去は全て話したんだしそろそろ帰っていいか?」
桐乃さんは話をする前よりもやつれていた。聞きたいことはもう少しあったが僕は彼の心情を察して喉まででかかった用意していた質問をごくりと飲み込んだ。
「ええ。今日は僕の勝手で貴重な話をしていただき本当にありがとうございました」
僕が一礼した後桐乃さんは立ち止まり振り返った。
「嘘じゃないよな?」
「はい?」
「本当に被害にあった依頼主の名前や素姓は明かさず会社を告訴し、被害者全員に多額の賠償金を支払ってくれるんだよな?」
桐乃さんの声は少しかすれていた。
「はい、僕は必ず真実を明らかにし被害者全員の未来をお助けします!」
会社に戻るなり缶コーヒーを右手に持った山田が突っ立っていた。僕を見るなり山田は手に持っていた缶コーヒーをゴミ箱に放り投げた。
「ナイスシュート」
小声で呟いた山田はそのまま僕に近づいて、一枚の名刺を僕に見せつけた。
「人の机を勝手にあさるなんて悪趣味にも程があるな」
僕は低い声で言った。
「冴木さん、いったいどういうつもりなんすかね? この一年依頼主に会ったこと一度だってあるんすか? いつもいつも依頼主ではない人間の話を聞きに行って仕事をしないにも限度があります。あげくに前の会社の名刺を今も大事にしてるなんてこの仕事バカにするのもいい加減にしてください! 俺ら遊びでやってんじゃないんすよ! 冴木さん、アンタこの仕事向いてないんじゃないんですか? いっそのこと前の会社に戻ったらどうなんです?」
山田が怒るのも無理はなかった。同じ立場なら僕も怒ってたに違いない。今の僕に弁解する権利はないと僕は十分に理解していた。
「そうかもな」
僕は彼を残し食堂へ向かった。
「はい、唐揚げ定食お待ち! 560円になります」
会計を済ませた僕は人が殆どいない隅っこの机へとご飯を運んだ。
椅子に腰をかけるなり御膳に箸をつけることなく、ため息をついた。
あれは二年前の事だった。
当時僕は雑誌の出版社に勤務していて恋愛コラムを担当していた。恋愛は100人いれば100通りの形や流れがあるのは当然の事で、そんな空模様のようなどこかあやふやで掴めないのに確かにそこにある、そんな淡い時間を僕なりに記事にして世の中の人に伝えることに当時の僕は全力を注いでいた。
始めて彼女の部屋に行った時に見たファッション雑誌の恋愛コラムが僕を記者の業界へ進ませた大きなきっかけとなったのだ。人を好きになるということは少なくとも相手に与えたい気持ちに対し細やかな喜びを感じているものだと僕は思う。それぞれの形はあったにしろ、僕は恋愛をする全ての人に幸せになってほしかった。そんな思いから高校三年生の時に出版社に送った記事があろう事か評価され高校を卒業して直ぐに出版社に入ったのだ。最初の二年は見習いとして先輩の取材に同行していた。だから、プロとしての活動を許可されたのは成人してからだった。
僕は取材を受けてくれたカップルには取材後必ず花束に手紙を添えてその人たちに届けていた。それが反響を呼んでか雑誌の名前が変わった後も僕が担当する恋愛コラムはずっと昔のまま残っていた。
仕事に対する情熱、取材を受けてくれた人たちへの思いやり、どこまでも読者を裏切らない頑張りが上司に対する信頼へと繋がった。課長は将来は誰よりも早く出世するだとうとまで僕を高く評価してくれていたのだ。
だから、出版社を辞める時は本当に辛かったしできることならずっと恋愛コラムを書いていたかった。
今までの僕の情熱を見事に覆したのは「トイレ代理人」だった。
僕が記者として花を咲かせていた頃、一人の男性がノイローゼになってしまった。その男性は僕が過去に取材した人物だったのだ。その男性こと佐久間俊は、彼女とのデートを前にして膀胱炎になってしまい、トイレ代理人に相談したそうだ。膀胱炎といっても一週間もすれば治るわけで高いお金を払ってまでトイレ代理人に依頼するほどのことでもないかもしれないが、佐久間氏にとって付き合って一年目のデートはとても重要だったのだろう。いくら抗生物質を処方してもらっているとはいえ、意識的に水分を多くとることは大切なため佐久間氏はトイレ代理人に依頼せざるをえなかったのだと思う。けれど、デート当時トイレ代理人が佐久間氏を救うことはなかった。佐久間氏の彼女、杉崎笹は引きこもるようになった佐久間氏を心配し何度か見舞いに行ったそうだが、その後新しく知り合った男性と恋に落ちたそうだ。
恋愛コラムに置ける幸せを世の中の人々に伝える僕のメンツが丸つぶれになったなんて気持ちは一切なく、僕はただ一人でも多くの人に幸せになってほしかった。だから、佐久間氏の真相を知るべくしてあの日裏取材の名目をつけトイレ代理人へと乗り込んだ。
佐久間氏の件に対しては「担当者の居眠りによる事故」であったと誰もが口を揃えて主張した。実際担当者は不覚にも居眠りをしてしまったと認めているし、そこに間違いはないのだろう。それでも僕は佐久間氏の無念を「ミス」なんかでは片付けたくはなかった。
半年後僕はスパイでトイレ代理人にアルバイトとして入社をした。最初は本当にスパイとして真相を探るつもりだった。けれど、深く調べるにあたって不自然な点がいくつかでてきたのだ。
事件は五年前から始まり、事故の全ては担当者による居眠り。いくら会社側がミスと主張し続けても僕は納得がいかなく、いつしか被害者全員を救ってあげたい、そんな気持ちが芽生えたのだった。
そして、一年前トイレ代理人に正式に身を置くことを僕は決意した。
絶対ミスなんかでは片付けさせないし、ミスでない証拠を見つけた暁には被害者全員の賠償と未来をかけて会社側を告訴するつもりでいる。
必ず真相を突き詰め被害者全員を救ってみせる。僕は今改めて自分に誓った。
トイレ代理人 あらすじ 2
突如現れた一人の男。彼の名前は冴木良介。
雑誌の記者だった冴木がトイレ代理人に入社した訳とは?
そして冴木の周りで起こる数々の奇妙な事件。
冴木が追い求めた真実に彼はたどり着くことができるのだろうか?
突如現れた一人の男。彼の名前は冴木良介。
雑誌の記者だった冴木がトイレ代理人に入社した訳とは?
そして冴木の周りで起こる数々の奇妙な事件。
冴木が追い求めた真実に彼はたどり着くことができるのだろうか?
トイレ代理人 一話
〈望〉
スギ花粉が飛びはじめるこの季節。花粉症の僕にとっては外に出ることが億劫で仕方ない。それでも学生時代はマスクをしなくても大丈夫だったし教室で鼻をかむのが恥ずかしくティッシュさえもカバンに入れていなかった。今考えると恐ろしいまでの抵抗力で、ありえないくらいの無装備であったと思う。二十歳を越えてからは学生時代にあった体力や回復力というのは少しずつ衰えはじめ花粉が飛びはじめた瞬間からマスクとカプセル、ティッシュの三点セットは必需品になるのだ。そして、それらのアイテムがなくなり慌てることがないように僕はマスクもポケットティッシュも最低でも4つはカバンの中に入れていたりする。
完全装備で戦地と化した街を歩いているつもりでもやはり100%花粉を防ぐことはできず、時折くしゃみをしていた。痒い目をこすろうとしたその時携帯の着信音が鳴った。
「お電話ありがとうございます。トイレ代理人、斎藤と申します」
喫茶店で待つこと五分、その人は現れた。
「はじめまして。斎藤望と申します」僕は立ち上がり軽く会釈して名刺を渡した。「さっそくご依頼をお伺いいたしましょう」
その人は僕と目を合わそうとはしなかった。大学生くらいだろうか。マスカラは所々ダマになっていて白いその肌にはちょっとアンバランスなオレンジのチーク、セミロングのその髪の毛先は少しだけ広がっていた。恐らく普段はメイクをしていないのだろう。眼鏡をかけているわけでもないのに時折眼鏡を上げる仕草を見るとあまりにも産毛で思わず口元が緩んでしまった。
「すみません、お手洗いに行きます」
座って5分も経っていないけれどその人は席を立って化粧室へと向かった。
窓の外に目をやると本来快晴だろう空は白くくもっていた。やはりな。この時期になると花粉だけでなく中国からの黄砂も飛んでくるのだ。空が霧がかったように白くくもっているのは黄砂が原因と言われている。
「お待たせしました」
小走りで戻ってきたその人はすぐさま席に座った。
席を立って1分も経っていないだろう。少しアウェイな集まりだったら誰もが驚くだろうが僕は驚きはしなかった。
「いいえ」
僕は微笑んだ。
「今から五年前になります。当時高校生だった私は遠足に参加しました。行き先は遊園地だったんです。中学の卒業旅行は高熱を出してしまって行けなかったから私遠足をとても楽しみにしていました。当日の体調は万全だったと思います。それに隣りには小学校からの友達が乗っていたので緊張とかありませんでした。一時間半くらい経った頃でしょうか。突然お手洗いに行きたくなったんです。けれど、後30分で着くとわかっていたから我慢出来るだろうと思ってたんです」
過去を思い出したのだろうか。話の途中でその人は無言になった。
「なるほど。遠足のバスの中で尿意を催されたのですね。きっと突然だったためかなり戸惑われたと思います。確か、目的地までの間に一度だけパーキングエリアでの休憩があったと思うのですが」
「行かなかったんです。パーキングエリアでは降りることなくずっとバスに乗っていました。小学生の社会見学の時もパーキングエリアで降りたことはなかったので。だけど、あの日は違いました。本当に突然だったんです。それまではなんともなくて。30分くらい大丈夫だって思っていたけれど10分もすればもう我慢の限界だったんです。あまりの耐え型さに私は気絶してしまいました。1時間ほど経った頃私は目を覚ましました。バスには誰1人として乗っていませんでした。恐らく私が眠っていると思いみんな起こさなかったのでしょう。同時に私は異常なまでの尿意に慌ててバスを降りました。私はよろよろになりながらも何とか駐車場のトイレに駆け込むことができました。けれど、その日から私は頻尿になってしまったんです」
話し終わると同時にその人はサンドイッチをかじった。
「話しづらい過去を話していただきありがとうございます。とても大変な経験をされましたね。一度のこととはいえ、あなたの中に大きな溝を作ってしまったと思います。
それでは本題に入ります。山木さん、今回の依頼内容というのはどんな内容でしょう?」
「祖父がもう長くはないんです。祖父とは離れて暮らしていますが小さい頃私によく折り紙を折ってくれました。私、もう21歳なのに未だにお年玉くれるんです。父方の祖父は私が生まれた時にはすでに亡くなっているから私にとっては唯一の祖父なんです。いつも手紙くれるのに頻尿になってからはあまり外を出歩かなくなってしまってもう随分祖父に会っていないんです。けど、もう長くはないと聞いて最後に一度会いに行きたいんです。祖父の入院先は山奥にあって最寄り駅から3時間はバスに乗っていなければいけません。しかし、今の私ではとてもじゃないけれど3時間もバスには乗ってはいられません。その日だけでいいんです。その日だけどうかバスに乗れるようにしてください」
話し終わると山木さんはお水を口にした。
まだ若いのにトイレが近いせいでこれまで随分苦労してきただろう。一度トラウマになったバスに再び乗るというのは勇気のいることだ。しかし彼女は今そのトラウマであるバスに再び乗ろうとしている。それだけ祖父に対する思いが強いのだろう。僕は山木さんの真剣な眼差しを見つめ気がつけば心打たれていた。この仕事についてから多くの依頼を受けてきたが、何かを成し遂げようとする志というのは何度聞いても関心させられる。
「わかりました。その依頼お受けいたしましょう!」
「ありがとうございます」
日曜日だというのに朝っぱらから課長の電話に叩き起こされた僕は電車を切るなり眠い目をこすりながら服を着替えていた。依頼主の担当者が突如入院してしまい後の仕事を僕が引き受けるように頼まれたのだ。
僕はコップに水を入れ机に置いてある薬の箱に手を伸ばした。
「嘘だろ」
箱を見るなり思わず声が出てしまった。花粉症の薬が切れていた。数日前にもう一箱買いに行く予定だったがここのところ忙しくて疲れていたせいか家に帰るなり食事も取らずに寝てしまっていたのだ。依頼主との待ち合わせまでにどうにか買いに行きたい。
僕は時計を見た。
8時半か。待ち合わせ時間は9時半。待ち合わせ場所までは30分はかかる。どうやら薬を買いに行く時間はないようだ。
僕は朝からガックリしながら家をでた。
電車に乗る頃には既に喉が炎症していた。マスクの隙間から花粉を吸い込んだのだろう。くしゃみ、鼻水は止まることなく目から耳、喉まで痒くて仕方なかった。花粉症の人間にとって薬を服用していない状態はまさに地獄そのものだ。
僕はティッシュを取り出すためカバンを開いた。すると一通の封筒に目が止まった。それは先日依頼を受けた山木貴子からの手紙だった。金曜日の帰り際課長に渡されてカバンにそのまま入れたきりであった。
僕は封筒を取り出し手紙を開いた。
『斎藤 望 様
先日はお世話になりありがとうございました。
斎藤さんのおかげで私はバスに乗ることができ、無事祖父に会うことができました。私を見るなり祖父はとても驚いて「来てくれてありがとう」と言ってくれて何度も何度も「ありがとう」と私にお礼を言っていました。祖父のあんな笑顔を見たのは8年ぶりでした。私も祖父に会えて言葉にできないくらい嬉しくて涙が溢れそうになっていました。
そして、先日祖父は息を引き取りました。祖父と二度会えなくなる前に祖父に会うことができ本当に本当に良かったです。
祖父の告別式で私も「私が来るまで待っていてくれてありがとう」と最後にお礼を言いました。
あの日久々ぶりにバスを乗って病院に着くまで私は窓から流れる景色をずっと見つめていました。子供の頃によくバスの窓から流れる景色を見ていて、それを思い出すと何だか無性に懐かしくなっちゃって。こういうのも悪くはないなと思ったんです。
私、もう一度バスに乗れるようがんばってみます。
斎藤さん、本当に本当にありがとうございました。
山木貴子』
読み終わるなり僕は久しぶりに実感する胸の高鳴りに喜びを隠せないでいた。
僕はこの仕事を五年やっている。けれど、お礼の手紙を書いてくれる依頼主はそう多くはなかった。
つまり山木貴子は僕にお礼の手紙を書いてくれた数少ない依頼主というわけだ。
いつ呼び出されるかわからないこの仕事は確かな休みというのが存在せずこれまで幾度となく身体を壊してきた。裏企業とはいえ社会人には変わりないわけで人間関係のほうもそれなりに苦労してきた。逃げ出したい時もあったが、それでもこうやって依頼主から喜びの知らせがあった時はやっぱりこの仕事をやっていて良かったと僕は心からそう実感した。
改札口を抜けるなり待ち合わせ場所は目の前にあった。
喫茶店のドアを開けると金髪の少年に目が止まった。僕は手に持っていた写真と見比べた。恐らくあの少年であると確信した僕は彼の座っているテーブルへと向かった。
「はじめまして。斎藤望と申します」
名刺を受け取るなり少年はああといった表情をした。恐らく僕が依頼を受けに来たのだと納得したのだろう。
「さっそくご依頼をお伺いいたしましょう」
僕が言うなり少年は通りがかった店員を引き止めスパゲティを注文した。
「お昼前に随分と召し上がられるんですね。もしかして朝食がまだなのですか?」
少年は操作していたスマートフォンをテーブルに置いた。
「まあね。ところでアンタ、俺に電話掛け直すって言ってた田辺って人とは違うようだけど?」
「申し訳ありません。田辺は急遽入院することとなり代わりに私斎藤があなたを担当することになりました」
「ふぅん。そうなんだ。まあ誰でもいっか。俺の依頼ってのは、来週の土曜助けてほしい。それだけ」
「と、申しますと?」
「ん?あぁ。来週の土曜日に昨日合コンしたメンバで遊園地に行くわけ。その中にちょっとタイプな子いてさ。俺、一月前に彼女と別れたからそろそろ新しい恋愛しようかなあなんてね。最後に観覧車乗ることになってんだけど俺狭いとこ苦手でさ。閉じ込められた感じってやつ?駄目なんだよねー。とは言うものの女落とす時にヘマできないじゃん?だから来週の土曜頼むわ」
人に物を頼む態度にしては随分と礼儀がなってないのはきっと誰もが思うだろう。少年の礼儀知らずにムッときたものの僕は営業スマイルで乗り切った。
「なるほど。週末の予定を成功させたいというわけですね。ところで浜口さんはどういった経緯でトイレのことを気にされるようになったのですか?提出して頂いた書類によると過去にトラウマがあったようですがお話していただけませんか?」
「はあ?」
少年の聞き返す態度に僕のほうが「はあ?」と聞き返したくなってしまった。
「つか依頼は話したのに何でそんなことまで話さなきゃいけないんだよ」
「申し訳ありませんが、依頼内容と共に過去の経緯も話していただくルールになっているんです」
「金払ってんだからさー。そういうの抜きにしてくんないかな」
少年は面倒な事を抹消するかのようにポケットから取り出したタバコを加え火をつけた。
「恐れ入りますが浜口さん。過去の経緯をお話していただけない場合は依頼をお受けすることができません」
僕が言うと少年は一瞬動きを止め吸いはじめたばかりのタバコを口から離し火のついた方を灰皿に押し当てた。
「わぁったよ。言えばいいんだろ。昔同じクラスだった奴にロッカーに閉じ込められたのきっかけに狭いとこダメになった。そん時漏らしちまったから未だにトラウマってわけ。なあ、話したからもういいだろ?とにかく土曜頼んだからな」
「わかりました。その依頼お受けいたしましょう」
少年がいなくなったテーブルに一人残された僕は少しだけぼんやりしていた。
〈望〉
スギ花粉が飛びはじめるこの季節。花粉症の僕にとっては外に出ることが億劫で仕方ない。それでも学生時代はマスクをしなくても大丈夫だったし教室で鼻をかむのが恥ずかしくティッシュさえもカバンに入れていなかった。今考えると恐ろしいまでの抵抗力で、ありえないくらいの無装備であったと思う。二十歳を越えてからは学生時代にあった体力や回復力というのは少しずつ衰えはじめ花粉が飛びはじめた瞬間からマスクとカプセル、ティッシュの三点セットは必需品になるのだ。そして、それらのアイテムがなくなり慌てることがないように僕はマスクもポケットティッシュも最低でも4つはカバンの中に入れていたりする。
完全装備で戦地と化した街を歩いているつもりでもやはり100%花粉を防ぐことはできず、時折くしゃみをしていた。痒い目をこすろうとしたその時携帯の着信音が鳴った。
「お電話ありがとうございます。トイレ代理人、斎藤と申します」
喫茶店で待つこと五分、その人は現れた。
「はじめまして。斎藤望と申します」僕は立ち上がり軽く会釈して名刺を渡した。「さっそくご依頼をお伺いいたしましょう」
その人は僕と目を合わそうとはしなかった。大学生くらいだろうか。マスカラは所々ダマになっていて白いその肌にはちょっとアンバランスなオレンジのチーク、セミロングのその髪の毛先は少しだけ広がっていた。恐らく普段はメイクをしていないのだろう。眼鏡をかけているわけでもないのに時折眼鏡を上げる仕草を見るとあまりにも産毛で思わず口元が緩んでしまった。
「すみません、お手洗いに行きます」
座って5分も経っていないけれどその人は席を立って化粧室へと向かった。
窓の外に目をやると本来快晴だろう空は白くくもっていた。やはりな。この時期になると花粉だけでなく中国からの黄砂も飛んでくるのだ。空が霧がかったように白くくもっているのは黄砂が原因と言われている。
「お待たせしました」
小走りで戻ってきたその人はすぐさま席に座った。
席を立って1分も経っていないだろう。少しアウェイな集まりだったら誰もが驚くだろうが僕は驚きはしなかった。
「いいえ」
僕は微笑んだ。
「今から五年前になります。当時高校生だった私は遠足に参加しました。行き先は遊園地だったんです。中学の卒業旅行は高熱を出してしまって行けなかったから私遠足をとても楽しみにしていました。当日の体調は万全だったと思います。それに隣りには小学校からの友達が乗っていたので緊張とかありませんでした。一時間半くらい経った頃でしょうか。突然お手洗いに行きたくなったんです。けれど、後30分で着くとわかっていたから我慢出来るだろうと思ってたんです」
過去を思い出したのだろうか。話の途中でその人は無言になった。
「なるほど。遠足のバスの中で尿意を催されたのですね。きっと突然だったためかなり戸惑われたと思います。確か、目的地までの間に一度だけパーキングエリアでの休憩があったと思うのですが」
「行かなかったんです。パーキングエリアでは降りることなくずっとバスに乗っていました。小学生の社会見学の時もパーキングエリアで降りたことはなかったので。だけど、あの日は違いました。本当に突然だったんです。それまではなんともなくて。30分くらい大丈夫だって思っていたけれど10分もすればもう我慢の限界だったんです。あまりの耐え型さに私は気絶してしまいました。1時間ほど経った頃私は目を覚ましました。バスには誰1人として乗っていませんでした。恐らく私が眠っていると思いみんな起こさなかったのでしょう。同時に私は異常なまでの尿意に慌ててバスを降りました。私はよろよろになりながらも何とか駐車場のトイレに駆け込むことができました。けれど、その日から私は頻尿になってしまったんです」
話し終わると同時にその人はサンドイッチをかじった。
「話しづらい過去を話していただきありがとうございます。とても大変な経験をされましたね。一度のこととはいえ、あなたの中に大きな溝を作ってしまったと思います。
それでは本題に入ります。山木さん、今回の依頼内容というのはどんな内容でしょう?」
「祖父がもう長くはないんです。祖父とは離れて暮らしていますが小さい頃私によく折り紙を折ってくれました。私、もう21歳なのに未だにお年玉くれるんです。父方の祖父は私が生まれた時にはすでに亡くなっているから私にとっては唯一の祖父なんです。いつも手紙くれるのに頻尿になってからはあまり外を出歩かなくなってしまってもう随分祖父に会っていないんです。けど、もう長くはないと聞いて最後に一度会いに行きたいんです。祖父の入院先は山奥にあって最寄り駅から3時間はバスに乗っていなければいけません。しかし、今の私ではとてもじゃないけれど3時間もバスには乗ってはいられません。その日だけでいいんです。その日だけどうかバスに乗れるようにしてください」
話し終わると山木さんはお水を口にした。
まだ若いのにトイレが近いせいでこれまで随分苦労してきただろう。一度トラウマになったバスに再び乗るというのは勇気のいることだ。しかし彼女は今そのトラウマであるバスに再び乗ろうとしている。それだけ祖父に対する思いが強いのだろう。僕は山木さんの真剣な眼差しを見つめ気がつけば心打たれていた。この仕事についてから多くの依頼を受けてきたが、何かを成し遂げようとする志というのは何度聞いても関心させられる。
「わかりました。その依頼お受けいたしましょう!」
「ありがとうございます」
日曜日だというのに朝っぱらから課長の電話に叩き起こされた僕は電車を切るなり眠い目をこすりながら服を着替えていた。依頼主の担当者が突如入院してしまい後の仕事を僕が引き受けるように頼まれたのだ。
僕はコップに水を入れ机に置いてある薬の箱に手を伸ばした。
「嘘だろ」
箱を見るなり思わず声が出てしまった。花粉症の薬が切れていた。数日前にもう一箱買いに行く予定だったがここのところ忙しくて疲れていたせいか家に帰るなり食事も取らずに寝てしまっていたのだ。依頼主との待ち合わせまでにどうにか買いに行きたい。
僕は時計を見た。
8時半か。待ち合わせ時間は9時半。待ち合わせ場所までは30分はかかる。どうやら薬を買いに行く時間はないようだ。
僕は朝からガックリしながら家をでた。
電車に乗る頃には既に喉が炎症していた。マスクの隙間から花粉を吸い込んだのだろう。くしゃみ、鼻水は止まることなく目から耳、喉まで痒くて仕方なかった。花粉症の人間にとって薬を服用していない状態はまさに地獄そのものだ。
僕はティッシュを取り出すためカバンを開いた。すると一通の封筒に目が止まった。それは先日依頼を受けた山木貴子からの手紙だった。金曜日の帰り際課長に渡されてカバンにそのまま入れたきりであった。
僕は封筒を取り出し手紙を開いた。
『斎藤 望 様
先日はお世話になりありがとうございました。
斎藤さんのおかげで私はバスに乗ることができ、無事祖父に会うことができました。私を見るなり祖父はとても驚いて「来てくれてありがとう」と言ってくれて何度も何度も「ありがとう」と私にお礼を言っていました。祖父のあんな笑顔を見たのは8年ぶりでした。私も祖父に会えて言葉にできないくらい嬉しくて涙が溢れそうになっていました。
そして、先日祖父は息を引き取りました。祖父と二度会えなくなる前に祖父に会うことができ本当に本当に良かったです。
祖父の告別式で私も「私が来るまで待っていてくれてありがとう」と最後にお礼を言いました。
あの日久々ぶりにバスを乗って病院に着くまで私は窓から流れる景色をずっと見つめていました。子供の頃によくバスの窓から流れる景色を見ていて、それを思い出すと何だか無性に懐かしくなっちゃって。こういうのも悪くはないなと思ったんです。
私、もう一度バスに乗れるようがんばってみます。
斎藤さん、本当に本当にありがとうございました。
山木貴子』
読み終わるなり僕は久しぶりに実感する胸の高鳴りに喜びを隠せないでいた。
僕はこの仕事を五年やっている。けれど、お礼の手紙を書いてくれる依頼主はそう多くはなかった。
つまり山木貴子は僕にお礼の手紙を書いてくれた数少ない依頼主というわけだ。
いつ呼び出されるかわからないこの仕事は確かな休みというのが存在せずこれまで幾度となく身体を壊してきた。裏企業とはいえ社会人には変わりないわけで人間関係のほうもそれなりに苦労してきた。逃げ出したい時もあったが、それでもこうやって依頼主から喜びの知らせがあった時はやっぱりこの仕事をやっていて良かったと僕は心からそう実感した。
改札口を抜けるなり待ち合わせ場所は目の前にあった。
喫茶店のドアを開けると金髪の少年に目が止まった。僕は手に持っていた写真と見比べた。恐らくあの少年であると確信した僕は彼の座っているテーブルへと向かった。
「はじめまして。斎藤望と申します」
名刺を受け取るなり少年はああといった表情をした。恐らく僕が依頼を受けに来たのだと納得したのだろう。
「さっそくご依頼をお伺いいたしましょう」
僕が言うなり少年は通りがかった店員を引き止めスパゲティを注文した。
「お昼前に随分と召し上がられるんですね。もしかして朝食がまだなのですか?」
少年は操作していたスマートフォンをテーブルに置いた。
「まあね。ところでアンタ、俺に電話掛け直すって言ってた田辺って人とは違うようだけど?」
「申し訳ありません。田辺は急遽入院することとなり代わりに私斎藤があなたを担当することになりました」
「ふぅん。そうなんだ。まあ誰でもいっか。俺の依頼ってのは、来週の土曜助けてほしい。それだけ」
「と、申しますと?」
「ん?あぁ。来週の土曜日に昨日合コンしたメンバで遊園地に行くわけ。その中にちょっとタイプな子いてさ。俺、一月前に彼女と別れたからそろそろ新しい恋愛しようかなあなんてね。最後に観覧車乗ることになってんだけど俺狭いとこ苦手でさ。閉じ込められた感じってやつ?駄目なんだよねー。とは言うものの女落とす時にヘマできないじゃん?だから来週の土曜頼むわ」
人に物を頼む態度にしては随分と礼儀がなってないのはきっと誰もが思うだろう。少年の礼儀知らずにムッときたものの僕は営業スマイルで乗り切った。
「なるほど。週末の予定を成功させたいというわけですね。ところで浜口さんはどういった経緯でトイレのことを気にされるようになったのですか?提出して頂いた書類によると過去にトラウマがあったようですがお話していただけませんか?」
「はあ?」
少年の聞き返す態度に僕のほうが「はあ?」と聞き返したくなってしまった。
「つか依頼は話したのに何でそんなことまで話さなきゃいけないんだよ」
「申し訳ありませんが、依頼内容と共に過去の経緯も話していただくルールになっているんです」
「金払ってんだからさー。そういうの抜きにしてくんないかな」
少年は面倒な事を抹消するかのようにポケットから取り出したタバコを加え火をつけた。
「恐れ入りますが浜口さん。過去の経緯をお話していただけない場合は依頼をお受けすることができません」
僕が言うと少年は一瞬動きを止め吸いはじめたばかりのタバコを口から離し火のついた方を灰皿に押し当てた。
「わぁったよ。言えばいいんだろ。昔同じクラスだった奴にロッカーに閉じ込められたのきっかけに狭いとこダメになった。そん時漏らしちまったから未だにトラウマってわけ。なあ、話したからもういいだろ?とにかく土曜頼んだからな」
「わかりました。その依頼お受けいたしましょう」
少年がいなくなったテーブルに一人残された僕は少しだけぼんやりしていた。
トイレ代理人 あらすじ 1
時は2013年。頻尿に悩む人々は増えつつある世の中。受験、会議、長距離移動。トイレに行きたくても行けない人の心の闇は大きくなるばかり。そんなとき、ある噂を耳にした。トイレに行けない空間でトイレを行かずして尿意を一瞬に消し去ってくれるその名もトイレ代理人!その裏企業の存在を知った人から鳴る依頼の電話。トイレ代理人の平社員 斎藤望。彼は世の中のトイレに悩む人を救うため日々頑張っている!
時は2013年。頻尿に悩む人々は増えつつある世の中。受験、会議、長距離移動。トイレに行きたくても行けない人の心の闇は大きくなるばかり。そんなとき、ある噂を耳にした。トイレに行けない空間でトイレを行かずして尿意を一瞬に消し去ってくれるその名もトイレ代理人!その裏企業の存在を知った人から鳴る依頼の電話。トイレ代理人の平社員 斎藤望。彼は世の中のトイレに悩む人を救うため日々頑張っている!