日常のこととかオリジナル小説のこととか。
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ashita
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漫画やアニメを見るのが好きです。最推しはフーディーニ ♡
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ブログ、もう書かないと思ってました。
けれど、去年から書き始めた小説によって、過去に書いてた小説も書き始め、ここに載せることにしたのです。
小説は、主に『時間と時間を繋ぐ恋の物語』と『妖精村と愉快な仲間たち』をメインに書いています。
現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
終わることのない小説として書き続ける予定です。
純愛偏差値は今年100話を迎えました。
私にとって、はじめての長編です。キャラクターも気に入っています。
が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
元々このブログは病気の記録用として立ち上げたものですが、小説載せるようになってからは、ここは出来るだけ趣味的なことを綴りたいと思っております。
病気の記録や様々な思いを綴るブログは移転済みなのです。
ただ、今は日記は個人的な徒然、或いはお知らせとして綴ることが多いかと思います。
小説、ぼちぼちマイペースに書いてゆきます。
よろしくお願い致します。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お知らせ。
イラストは現在「ナノハナ家の日常」に載せております。サイドバーにリンクあります。
また、「カラクリよろずや」にてフリーイラスト素材について考えるブログはじめました✩.*˚
不定期に更新していく予定です。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
模倣・無断転載などは、ご遠慮ください。
ブログの小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
小説・純愛偏差値に関しましては、武家名・貴族名(程度による) / 及び、武官の階級 / 扇子・羽子板・花札・百人一首・紙飛行機などのアイテム使用方法の模倣の一切を禁じております。
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X @kigenzen1874
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現在は、中高生の武家・貴族・王族が過去を遡るジャンルはダークファンタジーの『純愛偏差値』という小説に力入れています。
純愛偏差値は私の人生を描いた自伝です。
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純愛偏差値は今年100話を迎えました。
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が、走り書きに走り書きしてしまったので、1話から書き直すことにしました。これまで書いたものは鍵付けて残しています。
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〈資格履歴〉
2008年09月09日
→さし絵ライター3級 合格
2012年10月25日
→環境カオリスタ検定 合格
2025年01月20日
→鉛筆デッサンマスター 合格
→絵画インストラクター 合格
2025年03月07日
→宝石鑑定アドバイザー 合格
→鉱石セラピスト 合格
2025年04月07日
→茶道アドバイザー 合格
→お点前インストラクター 合格
2025年04月17日
→着物マイスター 合格
→着付け方インストラクター 合格
2025年05月19日
→サイキックアドバイザー 合格
→サイキックヒーラー 合格
2025年07月01日
→アンガーカウンセラー 合格
→アンガーコントロール士 合格
2025年08月04日
→漢方コーディネーター 合格
→薬膳調整師 合格
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〈資格証明バナー〉

2008年09月09日
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純愛偏差値 未来編 一人称版 99話
《カラルリ》
セナさんの妊娠が発覚した時、本音では私はかなり焦っていた。まだ、お互い高校2年生だし、何より私自身が大学まで行きたかったのだ。だから、本音では今回は諦めてもらって、結婚してから、また作ればいいと思っていた。そんな私の思いとは別に、セナさんは、強引に私に責任を取らせようとした。
私は、使用人のルリコに相談した。
『カラルリ坊っちゃま、私にお任せくださいませ』
私はルリコの、たった一言の言葉に自分の問題を丸投げした。
向き合わなきゃ。そんなことは重々承知だった。妖精村学園は事情によっては復帰出来るまで休学することが出来る。そうは言えども、セナさんが出産して、その子供が大きくなってから高等部に復帰しても世間の恥だ。かといって、高校を辞め中卒では、今の時代、何の職業にも就けない。例え、ありつけたとしても、そんなの若い時だけで、歳を取ると共に仕事は、ほぼゼロになる。そうなってしまえば、セナさんと結婚どころか、私は生涯無職でいなければならない。子供を抱えたまま。
私なりにキクリ家で、ちゃんと考えたつもりだ。けれど、やっぱり高校生で責任を取ることは考えられなかった。
あの食事会の日。
まさか、ルリコが中絶薬を持っていたとは全く知らなかった。それに、ピックティーも用意していただなんて。私はただ、セナさんが産んだあと、子供を孤児院にでも預けるのかと思い込んでいた。お腹の子を殺されてしまうとは本当に知らなかったのだ。それでも、セナさんが流産した以上、もう後の祭りだった。
私は自分の子を失った。それでも、父親になった感覚など全くなかった私は、セナさんの苦しみを理解してあげられなかった。
その後、セナさんはミナクと交際し、私はひとりぼっちになった。後悔してもしきれなかった。せめて、あの時、現状と向き合うくらいはするべきだったと。けれど、中卒で世帯を持ちたくない私の思いがそうさせてしまったのだろう。他の方法だってあっただろうに。そもそも、どうして私はあの時、すぐに世帯を持たなければならない概念にとらわれていたのだろう。出産までセナさんが休学して、子供が生まれれば使用人が育て、私たちは普通の高校生でいるという思考が全くなかった。すぐに責任を取ることが出来なくても、中絶させるよりかなりマシな選択だったと思う。
その後、本当の黒幕はルリコと知ったセナさんの矛先はルリコに向いた。ルリコは、いっときナミネの書いた厳しい処罰が適用されたものの、あとでズルエヌさんがナミネ越しに書いたセナさんの希望処罰を取り消し、ルリコを交番に連れて行った。本来なら不同意堕胎罪で罪に問われるところだったが、妖精村全域停電により、殺人罪かそれと同等の罪のみしか裁判が開かれなくて、ルリコは幸いにも裁きを受けなくて済んだ。あの時、カナコお姉様が身元引受け人としてルリコを迎えに行き、ルリコは今も私の使用人として働いている。
また、私はセナさんと、やり直すことになった。私がちゃんと向き合わず、自分の子を死なせてしまったことは、もう十分に反省した。セナさんには二度とそんな思いはさせない。
私も、ナミネやヨルクみたいに清い関係でいればよかったのだろうけど、高校生にもなれば、やっぱりそうも行かなかった。復縁した今でもセナさんとは去年の交際時のような関係でいる。
ナミネやヨルクは、まだ子供だ。大人の事情など一切知らないのだろう。
ヨルクは、万が一はナミネの責任を取るなどと戯言を言っていたが、一介の中学生なんかに何が出来る。どうせ、その万が一が来たらナミネに中絶同意書を書かせるのだろう。
ヨルクの優しさなど、上辺だけに過ぎない。ナミネは騙されているのだ。所詮、顔でモテる男には女などいくらでもいる。私とて、それなりにモテて来たが、ヨルクは別だ。あれまでに容姿の整った男は珍しい。ナミネもヨルクのイケメンさに惚れたのだろう。でなきゃ、辻褄が合わない。
ラルク、ラルク言っていたナミネが、ヨルクから突然告白されたらすんなり受け入れたのだから。所詮、女にとって交際する基準は相手の容姿と家柄、職業である。つまり、ブサメンはエリートでもない限り彼女など出来ないというわけだ。
セリルがカナコお姉様に手紙を残し、姿を消したあと、何故かセリルはナミネに紙飛行機を飛ばし、ナミネがキクリ家に伝えに来て、カナコお姉様とレイカさんがセリルを迎えに行った。
私は知らなかった。容姿端麗、頭脳明晰、常に成績は学年トップのセリルにも悩みがあったことを。遠い昔なら気付いていたかもしれないけど、3年生になって、クラスが変わった今、セリルの様子は全く知らなかったのである。
セリルは、セレナールがマモルから受けたことをずっと悩んでいたらしい。更に言うなら、遠い昔、セレナールがカナエを陥れようとして自分が陥れられてしまったことに対しても長らく悩んでいたそうだ。
あの時、私もセレナールを助けたかった。だから、カナエに結界を解くように言った。同時にセナさんも武官に押し倒されていたのに、私はセナさんを見て見ぬふりして、セレナールの元に走った。けれど、間に合わなかった。私はセナさんの信用を失い、セレナールを救えなかった最低な男となってしまった。
あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。
私はボロボロになったセレナールを地面に下ろすとセナさんに駆け寄った。
『あの、セナさん』
セナさんは泣きながら私を引っぱたいた。
そして、みんなはレストランで話し合うことになった。放心状態のセレナールもみんなに着いて行った。またセイも後を追った。
レストランに着くとみんなは席に座った。
カナエも私をを引っぱたいた。
『何故ですか。セナさんの危ない時にどうしてセナさんを見捨てたのですか!』
私は言葉が見つからなかった。
『答えてください!お兄様!』
確かに私は、セナさんよりセレナールを優先した。けれど、それはセナさんなら自力でどうにか出来ると思ったからだ。
『セナさん、どうしたら許してくれる?』
私はもう見切りを付けられたと思いながらも、セナさんにすがっていた。
『カラルリ……もう遅いよ』
セナさんは立ち上がった。
『天界の結界 000 無限大 000 無限大 000 無限大 確定!』
セナさんはみんなを結界に閉じ込めて逃げ出した。
天界の結界は同時に3つまでの結界を張ることが出来る。また、0を無限大にくっつけることで、それ以上の技を使わなければ結界は解けなくなるのだ。セナさんは森林の結界と壁の結界、霧の結界をかけたのである。
『お兄様、どうするのですか!これではみんなが結界から出れません!』
セナさんが逃げ出し、追うことさえ出来ず私たちは結界に閉じ込められ身動きが取れなくなっていた。もはや、カナエの声さえ耳に届いていなかったかもしれない。
『カナエ、大丈夫だから』
アルフォンス王子はカナエの頭を撫でカナエの肩を抱き寄せた。
『でも、ここで白黒ハッキリさせたい。正直、セナを見捨てたことは見過ごせない。でも、カラルリがセレナールと縁を切って今後セレナールが危険な目にあっても一切助けない、そしてセナを第1に優先するならカラルリがセナと別れないようセナを説得する。でも、それが出来ないならセナを説得せず、私はカナエを連れてカラクリ家に戻るよ』
私のミスで、アルフォンス王子は私に条件を提示した。
『アルフォンス王子様、この結界を解けるのですか?』
『分からない。でも、大丈夫だと思う。結界のことなら心配しないで。今はカラルリが今後セナとどうするかを聞くことが肝心だと思う』
結界を解けたとして、本当にセナさんは戻ってきてくれるのだろうか。
『ですが、セナさんはもうお兄様に見切りをつけたように思います』
『カラルリ次第では私が説得する』
今のセナさんに説得など通用するのだろうか。
『分かりました。お兄様、どうするか選んでください。けれど、チャンスは1度しかありません。2度同じことを繰り返せば、その時はセナさんのお心からお兄様はいなくなるでしょう』
カナエは念を押した。
『私はセレナールと縁を切ります。今後一切セレナールに関わらず、セナさんを1番に優先します。同じ過ちは繰り返しません』
セレナールと縁を切りたくなどない。けれど、あの時の私はセナさんと別れないことのみしか考えられなかった。
『本当に?ほとぼりが冷めたら、またセレナールを放っておけなくてセナを見捨てたりしない?』
セレナールを助けに行った。たったそれだけのことで、ここまでの、おおごとになるとは思わなかった。
『セナさんを二度と見捨てません。約束します』
それでも私は、こうなった以上、何がなんでもセナさんと別れたくはなかったのである。
『お兄様、本当ですか?カナエは信じられません』
『カナエ、私はもう二度とセレナールと関わらないし、セナさんを第1に優先する』
もう手段は選べない。
『お兄様、2度目はありませんよ。同じ過ちを繰り返した時は誰もお兄様を助けません。本当にアルフォンス王子様の言ったことを守れますか?』
『必ず守る。アルフォンス王子、本当申し訳ありませんでした。私はセナさんと別れたくありません。これほどまでに愚かで弱くて誰も救えないですが、セナさんが好きです』
私とてセレナールと縁を切りたくない。でも、それよりセナさんが大事なんだ。セナさんを失うなんて生きながらも死んでいるのと同じだ。
カナエはアルフォンス王子を見た。
『分かった。約束は絶対守って』
アルフォンス王子は全ての気を体内に取り込んだ。
『解 0000 無限大 0000 無限大 0000 無限大!』
そして、アルフォンス王子は結界を解いた。
あの頃のアルフォンス王子の力量はとんでもないものだったと思う。今とは大違いだ。
セナさんの居所を突き止めるとアルフォンス王子はセナさんに話を持ちかけた。
『セナ、前置きとして最初に言うけれど、カラルリはあの状況でセナよりセレナールを選んだ。これはもうカラルリはセレナールを妹以上に見てるとしか思えない。多かれ少なかれカラルリはセレナールを好きだと思う。
でも、今回のことでカラルリは反省して、セレナールとは縁を切り二度とセレナールと接触しなければセレナールが危険に晒されていてもセレナールを助けず、セナを1番に優先すると言ってる。
決めるのはセナだけど、正直ここまで来ると最後のチャンスだと思う。セナがここでカラルリを見捨てたらカラルリはセレナールの元に行くと思うよ。今でも少しでもカラルリのことを好きならカラルリが他の女性と付き合って欲しくないなら別れることはオススメしない。
もう一度言うけれど、これがセナとカラルリが仲直りする最後のチャンスだと私は思ってる』
アルフォンス王子の話を聞いてセナさんは薄々は気づいていたらしい。これまでの私へのセレナールの態度はもはや妹以上に対する振る舞い方だと。それに対してセナさんはいつもセレナールに嫉妬していたのだ。でも今回はセナさんが大切なものを奪われかけたのに私はセナさんよりセレナールを選んだ。それはセナさんにとって許し難いことであったのである。
『私は正直今は気持ちの整理が付けられない。けれど、カラルリがアルフォンスが言ったことを本当に守ってくれるのなら私は1度だけカラルリにチャンスを与えようと思う。ただ、今回のことは私も相当堪えたからこれまで通りに戻るにはそれなりの時間がかかると思う。もしかしたら、今回のことで前みたいな関係には戻れないかもしれない』
セナさんは自分の心境をありのまま話した。
『カラルリはどう?セナはチャンスは与えるけど前みたいな関係には戻れないかもしれないと言ってるよ』
アルフォンス王子が私に確認した。答えは決まっている。
『それでも構いません。私はアルフォンス王子に約束したように今後セレナールとは縁を切るし、二度とセレナールに接触しなければセレナールが聞きに陥ってもセレナールを助けません。これからはセナさんを1番に優先します。セナさんが直ぐに私に気持ちが戻らなくてもセナさんが私にチャンスを与えてくれるのなら私はセナさんとの交際を続けたいです。セナさんと別れたくありません。セナさんの気持ちの整理がつくまで待つし、ずっとセナさんの傍にいます。セナさん今更謝っても無駄だろうけど、それでも本当に申し訳なかったと思ってる』
あの時の私はただただセナさんと別れたくなくて必死だった。
『セナ、カラルリはこう言ってるけどセナはカラルリと交際を続けられそう?』
アルフォンス王子が確かめた。
『今は分からないけど努力してみる』
本当に最後のチャンスだったと思う。セレナールのことは心苦しかったが、どうしてもセナさんを失いたくなくて失いたくなくてしかたなかったのだ。
その後、セナさんとはかなり気まずい雰囲気が続いたが、もう一度私のことを信じると言ってくれた。
あの頃は、何もなかった。
けれど、私たちは人と人との愛情で成り立っていたと思う。
そして、現世では、あの時、博物館でアルフォンス王子から言われたことが忘れられなくて、体育館でセナさんとセレナールが拘束されていた時、真っ先にセナさんを助けた。それが、セレナールから恨みを買い、ラルクに攻撃される事態を招くとは思ってもみなかった。
もう、あの時の博物館のことを思い出すだけで辛くなる。今は改装されているけれど、それでも、みんなで博物館に行った時は胸が締め付けられていた。
けれど遠い昔、あれだけセナさんと愛し合ったのだから、二度とセナさんを手放さない。私は二度とセナさんを苦しめない。そう心に誓った。
セリルの望んだ話し合いが近付いている。
どんな結果になるかは分からない。それでも、セリルの苦しみに気付けなかったのは不覚だ。セレナールの身体はもう元には戻らないけれど、せめて、セリルが納得いくような結果になってほしい。今回の話し合いは、遠い昔の博物館のことも出るだろう。私も覚悟しなければ。
あれから、ナミネがナノハナ家に戻ると言った途端に、みんな戻る方向になってしまった。第4居間ではナミネとヨルクがじゃれ合っている。
「もうすぐキクリ家で話し合いだというのに、ナミネとヨルクは何も思わないのか?特に、カンザシはナミネの実の兄なのに、責任感じないの?セレナールにしたことナミネがされたらどうするのかな?」
私は半ば苛立っていた。セリルとは遠い昔からの付き合いだし、セレナールは妹同然の存在。いくらセレナールを嫌っているからといって、無神経すぎる。
「私は、話し合いは話し合いの時にするものだと思っていますし、ここで過ごすこととはまた違うのではないでしょうか?」
何だ、この反応は。
「それは、それだけヨルクがセリルに無関心だからだろう。問題をすり替えるな!」
ダメだ。ナミネとヨルクを見ていると、何故か苛立ってしまう。
「一目惚れカラルリ、アンタ何をそんなに苛立ってんのさ」
こんなふうに、セリルの弟にいつも擁護してもらっている。自分では何もしない。私の嫌いなタイプだ。
「別に苛立っているわけではないけど、問題が問題なだけに、みんなにはそれ相応の覚悟を持って欲しかっただけだが」
「あの、カラルリさん。ここ私の家なので」
ナミネも馬鹿にしたような発言をする。こちらとて、妹同然のセレナールを、あんな目にあわされて黙ってはいられない。
「ナミネは子供だな。大人の恋愛が分からないから大人の事情も分からないんだな」
「逆に言わせてもらいますが、カラルリさんはセナ王女の妊娠をどこまで本気で捉えていたのでしょうか?あまり無駄口叩くと落ち武者さんにフェアリーングかけてもらいますよ」
最年少なのに生意気な口を叩いて本当に腹が立つ。けれど、フェアリーングで確かめられるのは分が悪い。
「セナさんの妊娠については、キクリ家で相当考え込んだ。けれど、突然のことでどうしたらいいのか分からなくて、ただひたすら悩み続けた。何がセナさんにとっての最善策なのか」
「今となっては、それが真実なのか分かりませんけどね」
どんな育ち方をしたらこうなるんだ。生意気にもほどがある。
「もし、ナミネが妊娠してもヨルクは中絶同意書書かせるよ」
「一目惚れカラルリ、アンタ何の話してんのさ?」
「あまりにナミネが子供だから責任というものを教えてあげてるだけだけど」
中学生なんて小学生の延長線のガキだ。ヨルクに騙されているとも知らずナミネも呑気なもんだ。
「私、別にヨルクさんに責任取ってもらおうなんて思ってません」
「ナミネ、悲しいこと言わないで。ナミネ1人に考え込ませたりしないよ。ナミネには苦労させない」
また綺麗事。憶測で物事を考えるヤツはタチが悪い。
「どうせ、ナミネに中絶同意書書かせるんだろ」
「私はそんなことしません。ナミネとナミネのお腹の子を大切にします」
どこまでも鬱陶しいな。
「そうだな。清い関係だから、妊娠なんてないよな。けど、高校に上がったらどうかな?」
ヨルクとて1人の男。どこまでも清い関係では耐えきれないだろう。
「あの、カラルリさんって、かつてアヤネさんと浮気してましたよね?汚れた人からの指摘って気分が悪いです」
また出た。ナミネお得意の理屈論。これだから末っ子は話が通じにくくて面倒なんだ。
「ナミネこそ、何人の男と付き合ったんだよ?浮気してんのナミネじゃん」
「ナミネ、もう相手にすんな。頭のネジ取れてんだろ」
「だねー!どうせセナ王女にまた妊娠されるの恐れてるようにしか見えないねー!」
どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ。セナさんとは運命だ。遠い昔、セレナールと縁を切ってまでセナさんを選んだ。その想いは、今でも続いてる。
「ナミネは子供だから妊娠とか分からないんだな」
返事は来ない。私は思わずナミネに花札を投げた。が、ナミネは素早く避けた。こんなガキに力量で敵わないなんて悔しい。そう思っている間に私はナミネに扇子で肩を叩かれた。遠い昔は、軽い冗談でよくカナエに叩かれていたが、それも現代はなくなっている。ナミネはどれだけ馬鹿力なんだ。肩に凄い痛みが走る。
「今度は暴力か。フラれるぞ、この暴力女」
「ねえ、カラルリ。あなた急にどうしたのよ」
「ナミネが暴力振るうから、こっちも辛くて」
私は扇子で叩かれた肩をさすった。
「あの、カラルリさん。言いたいことがあるなら私に言ってください。ナミネをイジメないでください」
ここで、またヨルクがカッコつけるか。
「これ、ヨルクだろ。あれだけナミネ以外愛したことはないって言ってたけど、嘘もいいとこだな」
私は、いつかのヨルクが他の女と口付けしている写真を見せつけた。これは、カナコお姉様のアルバムに挟んであったものだ。
「覚えてませんし、本当に私ですか?私と言い切れる根拠って何ですか?」
私は完全にブチ切れた。気付いたら第4居間の物をヨルクに投げ付け、アヤネを蹴った。そして、知らない間に花瓶がエルナに当たっていた。
「一目惚れカラルリ、アンタ、何してるのか分かってんのか?エルナに危害加えるな!」
しまった。セルファを怒らせてしまった。私は咄嗟に庭に逃げようとしたが、ナミネとラルクが道を塞いだ。
……
あとがき。
古代編って、カラルリはアルフォンスに敬語だったんですね。
短期間なのに、めちゃくちゃ忘れてました。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《カラルリ》
セナさんの妊娠が発覚した時、本音では私はかなり焦っていた。まだ、お互い高校2年生だし、何より私自身が大学まで行きたかったのだ。だから、本音では今回は諦めてもらって、結婚してから、また作ればいいと思っていた。そんな私の思いとは別に、セナさんは、強引に私に責任を取らせようとした。
私は、使用人のルリコに相談した。
『カラルリ坊っちゃま、私にお任せくださいませ』
私はルリコの、たった一言の言葉に自分の問題を丸投げした。
向き合わなきゃ。そんなことは重々承知だった。妖精村学園は事情によっては復帰出来るまで休学することが出来る。そうは言えども、セナさんが出産して、その子供が大きくなってから高等部に復帰しても世間の恥だ。かといって、高校を辞め中卒では、今の時代、何の職業にも就けない。例え、ありつけたとしても、そんなの若い時だけで、歳を取ると共に仕事は、ほぼゼロになる。そうなってしまえば、セナさんと結婚どころか、私は生涯無職でいなければならない。子供を抱えたまま。
私なりにキクリ家で、ちゃんと考えたつもりだ。けれど、やっぱり高校生で責任を取ることは考えられなかった。
あの食事会の日。
まさか、ルリコが中絶薬を持っていたとは全く知らなかった。それに、ピックティーも用意していただなんて。私はただ、セナさんが産んだあと、子供を孤児院にでも預けるのかと思い込んでいた。お腹の子を殺されてしまうとは本当に知らなかったのだ。それでも、セナさんが流産した以上、もう後の祭りだった。
私は自分の子を失った。それでも、父親になった感覚など全くなかった私は、セナさんの苦しみを理解してあげられなかった。
その後、セナさんはミナクと交際し、私はひとりぼっちになった。後悔してもしきれなかった。せめて、あの時、現状と向き合うくらいはするべきだったと。けれど、中卒で世帯を持ちたくない私の思いがそうさせてしまったのだろう。他の方法だってあっただろうに。そもそも、どうして私はあの時、すぐに世帯を持たなければならない概念にとらわれていたのだろう。出産までセナさんが休学して、子供が生まれれば使用人が育て、私たちは普通の高校生でいるという思考が全くなかった。すぐに責任を取ることが出来なくても、中絶させるよりかなりマシな選択だったと思う。
その後、本当の黒幕はルリコと知ったセナさんの矛先はルリコに向いた。ルリコは、いっときナミネの書いた厳しい処罰が適用されたものの、あとでズルエヌさんがナミネ越しに書いたセナさんの希望処罰を取り消し、ルリコを交番に連れて行った。本来なら不同意堕胎罪で罪に問われるところだったが、妖精村全域停電により、殺人罪かそれと同等の罪のみしか裁判が開かれなくて、ルリコは幸いにも裁きを受けなくて済んだ。あの時、カナコお姉様が身元引受け人としてルリコを迎えに行き、ルリコは今も私の使用人として働いている。
また、私はセナさんと、やり直すことになった。私がちゃんと向き合わず、自分の子を死なせてしまったことは、もう十分に反省した。セナさんには二度とそんな思いはさせない。
私も、ナミネやヨルクみたいに清い関係でいればよかったのだろうけど、高校生にもなれば、やっぱりそうも行かなかった。復縁した今でもセナさんとは去年の交際時のような関係でいる。
ナミネやヨルクは、まだ子供だ。大人の事情など一切知らないのだろう。
ヨルクは、万が一はナミネの責任を取るなどと戯言を言っていたが、一介の中学生なんかに何が出来る。どうせ、その万が一が来たらナミネに中絶同意書を書かせるのだろう。
ヨルクの優しさなど、上辺だけに過ぎない。ナミネは騙されているのだ。所詮、顔でモテる男には女などいくらでもいる。私とて、それなりにモテて来たが、ヨルクは別だ。あれまでに容姿の整った男は珍しい。ナミネもヨルクのイケメンさに惚れたのだろう。でなきゃ、辻褄が合わない。
ラルク、ラルク言っていたナミネが、ヨルクから突然告白されたらすんなり受け入れたのだから。所詮、女にとって交際する基準は相手の容姿と家柄、職業である。つまり、ブサメンはエリートでもない限り彼女など出来ないというわけだ。
セリルがカナコお姉様に手紙を残し、姿を消したあと、何故かセリルはナミネに紙飛行機を飛ばし、ナミネがキクリ家に伝えに来て、カナコお姉様とレイカさんがセリルを迎えに行った。
私は知らなかった。容姿端麗、頭脳明晰、常に成績は学年トップのセリルにも悩みがあったことを。遠い昔なら気付いていたかもしれないけど、3年生になって、クラスが変わった今、セリルの様子は全く知らなかったのである。
セリルは、セレナールがマモルから受けたことをずっと悩んでいたらしい。更に言うなら、遠い昔、セレナールがカナエを陥れようとして自分が陥れられてしまったことに対しても長らく悩んでいたそうだ。
あの時、私もセレナールを助けたかった。だから、カナエに結界を解くように言った。同時にセナさんも武官に押し倒されていたのに、私はセナさんを見て見ぬふりして、セレナールの元に走った。けれど、間に合わなかった。私はセナさんの信用を失い、セレナールを救えなかった最低な男となってしまった。
あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。
私はボロボロになったセレナールを地面に下ろすとセナさんに駆け寄った。
『あの、セナさん』
セナさんは泣きながら私を引っぱたいた。
そして、みんなはレストランで話し合うことになった。放心状態のセレナールもみんなに着いて行った。またセイも後を追った。
レストランに着くとみんなは席に座った。
カナエも私をを引っぱたいた。
『何故ですか。セナさんの危ない時にどうしてセナさんを見捨てたのですか!』
私は言葉が見つからなかった。
『答えてください!お兄様!』
確かに私は、セナさんよりセレナールを優先した。けれど、それはセナさんなら自力でどうにか出来ると思ったからだ。
『セナさん、どうしたら許してくれる?』
私はもう見切りを付けられたと思いながらも、セナさんにすがっていた。
『カラルリ……もう遅いよ』
セナさんは立ち上がった。
『天界の結界 000 無限大 000 無限大 000 無限大 確定!』
セナさんはみんなを結界に閉じ込めて逃げ出した。
天界の結界は同時に3つまでの結界を張ることが出来る。また、0を無限大にくっつけることで、それ以上の技を使わなければ結界は解けなくなるのだ。セナさんは森林の結界と壁の結界、霧の結界をかけたのである。
『お兄様、どうするのですか!これではみんなが結界から出れません!』
セナさんが逃げ出し、追うことさえ出来ず私たちは結界に閉じ込められ身動きが取れなくなっていた。もはや、カナエの声さえ耳に届いていなかったかもしれない。
『カナエ、大丈夫だから』
アルフォンス王子はカナエの頭を撫でカナエの肩を抱き寄せた。
『でも、ここで白黒ハッキリさせたい。正直、セナを見捨てたことは見過ごせない。でも、カラルリがセレナールと縁を切って今後セレナールが危険な目にあっても一切助けない、そしてセナを第1に優先するならカラルリがセナと別れないようセナを説得する。でも、それが出来ないならセナを説得せず、私はカナエを連れてカラクリ家に戻るよ』
私のミスで、アルフォンス王子は私に条件を提示した。
『アルフォンス王子様、この結界を解けるのですか?』
『分からない。でも、大丈夫だと思う。結界のことなら心配しないで。今はカラルリが今後セナとどうするかを聞くことが肝心だと思う』
結界を解けたとして、本当にセナさんは戻ってきてくれるのだろうか。
『ですが、セナさんはもうお兄様に見切りをつけたように思います』
『カラルリ次第では私が説得する』
今のセナさんに説得など通用するのだろうか。
『分かりました。お兄様、どうするか選んでください。けれど、チャンスは1度しかありません。2度同じことを繰り返せば、その時はセナさんのお心からお兄様はいなくなるでしょう』
カナエは念を押した。
『私はセレナールと縁を切ります。今後一切セレナールに関わらず、セナさんを1番に優先します。同じ過ちは繰り返しません』
セレナールと縁を切りたくなどない。けれど、あの時の私はセナさんと別れないことのみしか考えられなかった。
『本当に?ほとぼりが冷めたら、またセレナールを放っておけなくてセナを見捨てたりしない?』
セレナールを助けに行った。たったそれだけのことで、ここまでの、おおごとになるとは思わなかった。
『セナさんを二度と見捨てません。約束します』
それでも私は、こうなった以上、何がなんでもセナさんと別れたくはなかったのである。
『お兄様、本当ですか?カナエは信じられません』
『カナエ、私はもう二度とセレナールと関わらないし、セナさんを第1に優先する』
もう手段は選べない。
『お兄様、2度目はありませんよ。同じ過ちを繰り返した時は誰もお兄様を助けません。本当にアルフォンス王子様の言ったことを守れますか?』
『必ず守る。アルフォンス王子、本当申し訳ありませんでした。私はセナさんと別れたくありません。これほどまでに愚かで弱くて誰も救えないですが、セナさんが好きです』
私とてセレナールと縁を切りたくない。でも、それよりセナさんが大事なんだ。セナさんを失うなんて生きながらも死んでいるのと同じだ。
カナエはアルフォンス王子を見た。
『分かった。約束は絶対守って』
アルフォンス王子は全ての気を体内に取り込んだ。
『解 0000 無限大 0000 無限大 0000 無限大!』
そして、アルフォンス王子は結界を解いた。
あの頃のアルフォンス王子の力量はとんでもないものだったと思う。今とは大違いだ。
セナさんの居所を突き止めるとアルフォンス王子はセナさんに話を持ちかけた。
『セナ、前置きとして最初に言うけれど、カラルリはあの状況でセナよりセレナールを選んだ。これはもうカラルリはセレナールを妹以上に見てるとしか思えない。多かれ少なかれカラルリはセレナールを好きだと思う。
でも、今回のことでカラルリは反省して、セレナールとは縁を切り二度とセレナールと接触しなければセレナールが危険に晒されていてもセレナールを助けず、セナを1番に優先すると言ってる。
決めるのはセナだけど、正直ここまで来ると最後のチャンスだと思う。セナがここでカラルリを見捨てたらカラルリはセレナールの元に行くと思うよ。今でも少しでもカラルリのことを好きならカラルリが他の女性と付き合って欲しくないなら別れることはオススメしない。
もう一度言うけれど、これがセナとカラルリが仲直りする最後のチャンスだと私は思ってる』
アルフォンス王子の話を聞いてセナさんは薄々は気づいていたらしい。これまでの私へのセレナールの態度はもはや妹以上に対する振る舞い方だと。それに対してセナさんはいつもセレナールに嫉妬していたのだ。でも今回はセナさんが大切なものを奪われかけたのに私はセナさんよりセレナールを選んだ。それはセナさんにとって許し難いことであったのである。
『私は正直今は気持ちの整理が付けられない。けれど、カラルリがアルフォンスが言ったことを本当に守ってくれるのなら私は1度だけカラルリにチャンスを与えようと思う。ただ、今回のことは私も相当堪えたからこれまで通りに戻るにはそれなりの時間がかかると思う。もしかしたら、今回のことで前みたいな関係には戻れないかもしれない』
セナさんは自分の心境をありのまま話した。
『カラルリはどう?セナはチャンスは与えるけど前みたいな関係には戻れないかもしれないと言ってるよ』
アルフォンス王子が私に確認した。答えは決まっている。
『それでも構いません。私はアルフォンス王子に約束したように今後セレナールとは縁を切るし、二度とセレナールに接触しなければセレナールが聞きに陥ってもセレナールを助けません。これからはセナさんを1番に優先します。セナさんが直ぐに私に気持ちが戻らなくてもセナさんが私にチャンスを与えてくれるのなら私はセナさんとの交際を続けたいです。セナさんと別れたくありません。セナさんの気持ちの整理がつくまで待つし、ずっとセナさんの傍にいます。セナさん今更謝っても無駄だろうけど、それでも本当に申し訳なかったと思ってる』
あの時の私はただただセナさんと別れたくなくて必死だった。
『セナ、カラルリはこう言ってるけどセナはカラルリと交際を続けられそう?』
アルフォンス王子が確かめた。
『今は分からないけど努力してみる』
本当に最後のチャンスだったと思う。セレナールのことは心苦しかったが、どうしてもセナさんを失いたくなくて失いたくなくてしかたなかったのだ。
その後、セナさんとはかなり気まずい雰囲気が続いたが、もう一度私のことを信じると言ってくれた。
あの頃は、何もなかった。
けれど、私たちは人と人との愛情で成り立っていたと思う。
そして、現世では、あの時、博物館でアルフォンス王子から言われたことが忘れられなくて、体育館でセナさんとセレナールが拘束されていた時、真っ先にセナさんを助けた。それが、セレナールから恨みを買い、ラルクに攻撃される事態を招くとは思ってもみなかった。
もう、あの時の博物館のことを思い出すだけで辛くなる。今は改装されているけれど、それでも、みんなで博物館に行った時は胸が締め付けられていた。
けれど遠い昔、あれだけセナさんと愛し合ったのだから、二度とセナさんを手放さない。私は二度とセナさんを苦しめない。そう心に誓った。
セリルの望んだ話し合いが近付いている。
どんな結果になるかは分からない。それでも、セリルの苦しみに気付けなかったのは不覚だ。セレナールの身体はもう元には戻らないけれど、せめて、セリルが納得いくような結果になってほしい。今回の話し合いは、遠い昔の博物館のことも出るだろう。私も覚悟しなければ。
あれから、ナミネがナノハナ家に戻ると言った途端に、みんな戻る方向になってしまった。第4居間ではナミネとヨルクがじゃれ合っている。
「もうすぐキクリ家で話し合いだというのに、ナミネとヨルクは何も思わないのか?特に、カンザシはナミネの実の兄なのに、責任感じないの?セレナールにしたことナミネがされたらどうするのかな?」
私は半ば苛立っていた。セリルとは遠い昔からの付き合いだし、セレナールは妹同然の存在。いくらセレナールを嫌っているからといって、無神経すぎる。
「私は、話し合いは話し合いの時にするものだと思っていますし、ここで過ごすこととはまた違うのではないでしょうか?」
何だ、この反応は。
「それは、それだけヨルクがセリルに無関心だからだろう。問題をすり替えるな!」
ダメだ。ナミネとヨルクを見ていると、何故か苛立ってしまう。
「一目惚れカラルリ、アンタ何をそんなに苛立ってんのさ」
こんなふうに、セリルの弟にいつも擁護してもらっている。自分では何もしない。私の嫌いなタイプだ。
「別に苛立っているわけではないけど、問題が問題なだけに、みんなにはそれ相応の覚悟を持って欲しかっただけだが」
「あの、カラルリさん。ここ私の家なので」
ナミネも馬鹿にしたような発言をする。こちらとて、妹同然のセレナールを、あんな目にあわされて黙ってはいられない。
「ナミネは子供だな。大人の恋愛が分からないから大人の事情も分からないんだな」
「逆に言わせてもらいますが、カラルリさんはセナ王女の妊娠をどこまで本気で捉えていたのでしょうか?あまり無駄口叩くと落ち武者さんにフェアリーングかけてもらいますよ」
最年少なのに生意気な口を叩いて本当に腹が立つ。けれど、フェアリーングで確かめられるのは分が悪い。
「セナさんの妊娠については、キクリ家で相当考え込んだ。けれど、突然のことでどうしたらいいのか分からなくて、ただひたすら悩み続けた。何がセナさんにとっての最善策なのか」
「今となっては、それが真実なのか分かりませんけどね」
どんな育ち方をしたらこうなるんだ。生意気にもほどがある。
「もし、ナミネが妊娠してもヨルクは中絶同意書書かせるよ」
「一目惚れカラルリ、アンタ何の話してんのさ?」
「あまりにナミネが子供だから責任というものを教えてあげてるだけだけど」
中学生なんて小学生の延長線のガキだ。ヨルクに騙されているとも知らずナミネも呑気なもんだ。
「私、別にヨルクさんに責任取ってもらおうなんて思ってません」
「ナミネ、悲しいこと言わないで。ナミネ1人に考え込ませたりしないよ。ナミネには苦労させない」
また綺麗事。憶測で物事を考えるヤツはタチが悪い。
「どうせ、ナミネに中絶同意書書かせるんだろ」
「私はそんなことしません。ナミネとナミネのお腹の子を大切にします」
どこまでも鬱陶しいな。
「そうだな。清い関係だから、妊娠なんてないよな。けど、高校に上がったらどうかな?」
ヨルクとて1人の男。どこまでも清い関係では耐えきれないだろう。
「あの、カラルリさんって、かつてアヤネさんと浮気してましたよね?汚れた人からの指摘って気分が悪いです」
また出た。ナミネお得意の理屈論。これだから末っ子は話が通じにくくて面倒なんだ。
「ナミネこそ、何人の男と付き合ったんだよ?浮気してんのナミネじゃん」
「ナミネ、もう相手にすんな。頭のネジ取れてんだろ」
「だねー!どうせセナ王女にまた妊娠されるの恐れてるようにしか見えないねー!」
どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ。セナさんとは運命だ。遠い昔、セレナールと縁を切ってまでセナさんを選んだ。その想いは、今でも続いてる。
「ナミネは子供だから妊娠とか分からないんだな」
返事は来ない。私は思わずナミネに花札を投げた。が、ナミネは素早く避けた。こんなガキに力量で敵わないなんて悔しい。そう思っている間に私はナミネに扇子で肩を叩かれた。遠い昔は、軽い冗談でよくカナエに叩かれていたが、それも現代はなくなっている。ナミネはどれだけ馬鹿力なんだ。肩に凄い痛みが走る。
「今度は暴力か。フラれるぞ、この暴力女」
「ねえ、カラルリ。あなた急にどうしたのよ」
「ナミネが暴力振るうから、こっちも辛くて」
私は扇子で叩かれた肩をさすった。
「あの、カラルリさん。言いたいことがあるなら私に言ってください。ナミネをイジメないでください」
ここで、またヨルクがカッコつけるか。
「これ、ヨルクだろ。あれだけナミネ以外愛したことはないって言ってたけど、嘘もいいとこだな」
私は、いつかのヨルクが他の女と口付けしている写真を見せつけた。これは、カナコお姉様のアルバムに挟んであったものだ。
「覚えてませんし、本当に私ですか?私と言い切れる根拠って何ですか?」
私は完全にブチ切れた。気付いたら第4居間の物をヨルクに投げ付け、アヤネを蹴った。そして、知らない間に花瓶がエルナに当たっていた。
「一目惚れカラルリ、アンタ、何してるのか分かってんのか?エルナに危害加えるな!」
しまった。セルファを怒らせてしまった。私は咄嗟に庭に逃げようとしたが、ナミネとラルクが道を塞いだ。
……
あとがき。
古代編って、カラルリはアルフォンスに敬語だったんですね。
短期間なのに、めちゃくちゃ忘れてました。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
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純愛偏差値 未来編 一人称版 98話
《セリル》
僕は、生まれつきフェアリーングと千里眼を使える。
フェアリーングは、相手のあらゆる心情を読み取る心理学の1つで、現代ではカウンセラーさんなどが治療で使っていたりする。千里眼は、機械を通さずとも、その中を見ることが出来る能力である。例えば、箱の中身を知ることが出来たり、分かりやすく言うと、レントゲンを通さずとも、その人の身体の中が見えるのだ。昔は、千里眼を詐欺だと言う人もいたが、目の作りが人と違う人は確かに存在しているのである。
僕はかなり大人しい性格だと思う。昔ほどではないが、自分から人に話しかけることはないし、率先して自分の意見を言うこともない。無理していい子を演じてきたわけではないが、僕は争いを好まず常に平穏な暮らしを望んでいる。
人の相談には乗るが、自分からは殆ど相談をしない。
僕には妹がいる。
妹のセレナールが、カンザシさんをヨルクと間違えマモルさんからイジワルされた時、僕は何も出来なかった。遠い昔の、あの時のように。
僕なりに、カナコさんに相応しい男になれるよう、転生するたびに努力はしてきたつもりだ。そして、それなりの力量もついていたと思う。けれど、思うだけで、実際は違っていた。
上には上がいる。そんなこと分かっていたはずなのに。あの日、ズームさんに少しも適わなかった時、僕は遠い昔の弱いままだと気付かされた。ズームさんは、カンザシさんとの、つがいの勾玉のアザのせいで、カンザシさんの人生に巻き込まれている。勾玉のアザを持つ者は、時として一方が危機に陥ると、もう一方も命の危機に陥る。残念なことに、ズームさんはカンザシさんを助けながら、ずっとずっと生きてきた。その生き方は僕が見るからに命懸けのようだったと思う。
僕は僕でセレナールを守れなかったことが辛い。辛くてたまらない。けれど、ズームさんはカンザシさんを守る義務が常に付きまとっている。
どうして、セレナールが幸せになれないのか、僕は分からない。けれど、思い当たる節はある。初代妖精村にて、僕とセレナールは皇太子様に処刑されている。その因縁が今も何かしらの形で付きまとっているのかもしれないが。
少なくとも、カラクリ家で、みんなでいた頃は、セレナールと皇太子様は愛し合っていた。けれど、貴族の間で流行っていた、たった1つの映像でセレナールと皇太子様の関係は拗れてしまった。セレナールは、兄同然のキクリ家長男の僕と同い歳のカラルリのことを気にしはじめ、好きになってしまった。けれど、カラルリにはセナ王女という彼女がいた。あの頃の、セナ王女とセレナールは衝突ばかりだった。
セレナールがイジワルされたのは現世だけではない。遠い昔、博物館のトイレでカナエがセレナールごと結界をかけて武官に襲われている。カラルリが駆け付けた時には間に合わなかった。
セレナールは、自分が依頼した武官に逆に襲われてしまったのだ。
その後、皇太子様は、カラクリ家の長女のエミリを好きになり、セレナールに別れを告げた。それからのセレナールは、セナ王女やカナエを妬むようになってしまった。
セレナールは、紅葉神社でセナ王女を武官に襲わせていたこともある。
虫一匹殺せないセレナールがどうして、こうなってしまったのか理解出来なかった。
現世では、遠い昔からヨルクのことを好きだと言っていたが、セレナールは、本当はラルクのことが好きなのに、それに気付けずヨルクの整った容姿に惹かれていたことを僕はそれとなく感じ取っていた。あの時、ラルクに伝えていれば、ラルクを傷付けなかっただろうか。
歴史は絶対に変えられない。例え変えたとしても、何らかの形で元に戻り、現世が変わってしまうのだ。だから、何がなんでも歴史を変えてはいけない。
皇太子様から別れを告げられ、全てを失ったセレナールは、みんなからの信用を失い孤立し、しばらくの間寝込んでいた。けれど、すぐに立ち直り、妖精村学園 高等部の教師をすることになった。ヨルクとラルクはセレナールの元教え子なのだ。
セレナールが教師をしはじめて少しした時に、カラクリ家で集合写真を撮った。
今思うと全てが懐かしい。
あの頃、僕はカナコさんに片想いをしていた。けれど、なかなか想いを伝えられず、カナコさんとは恋人のような関係でありながら、友達という形であったと思う。そんなカナコさんとは、あるエピソードが存在していたのだ。
あれは、祭りの日のことだった。
カナコさんと僕は紅葉神社に着いた。
『カナコさん、大事な話というのは……』
カナコさんは僕のの手を離し、数歩歩いた。そしてくるっとセリルの方をに身体を向けた。
『返事は絶対しないでね』
どうしてこんなふうに言うのか、この時の僕は全く分かっていなかった。
『分かってます』
それでも僕はカナコさんに流されていた。
『あのね……私、セリルのことが好きなの。1人の異性として。あなたに惚れているわ。私は18歳の時、学校を卒業してテーラーとして働くあなたの真剣な姿を見たの。あなたの職場でね。その時のあなたは難しい仕事で入りたてにも関わらず器用にドレスを仕立てていたわ。そんなあなたの姿は輝いていた。その時私の鼓動は高なった。その日から私は今までずっとあなたのことが好きだったの。あなたに好きな人がいるのは薄々気づいていたわ。私はあなたとあなたの想い人を引き裂こうとは思っていない。でも、私はあなたに好きな人がいても諦めるつもりはないわ。あなたに振り向いて貰うまで待つわ。返事をしないでって言ったのは、振り向いて貰えるまで私を1人の女として好きになってくれるまで傍にいたいからよ。私、必ずあなたを振り向かせてみせるわ。だから、お願い。これまで通りに接してもらえないかしら。お風呂でお喋りしたり、お布団の中でお喋りしたり、あなたの有給が終わったら仕事帰りに喫茶店でお喋りしたり。私を避けないで今まで通りの関係でいて欲しいの』
突然のカナコさんの告白に、僕は頭が真っ白になっていた。
『あの』
『告白に対する返事は今はしないで』
両想いと分かった瞬間もカナコさんに想いを伝えられなかったことは、かなりもどかしかった。
『分かりました』
けれど、僕はただ相づちを打つことしかしなかった。
『もうっ、何で自分も好きだと言わないのよ、兄さん。こんなの間違ってるわ』
セレナールが紅葉神社に入っていこうとしたが皇太子様に止められていた。
14年も片想いしていたカナコさんと途中から両想いだと知った僕はただただ嬉しい気持ちでいっぱいだった。ただ、自分もカナコを好きだと伝えられないのは本当にもどかしかった。けれど、それよりも惚れている高嶺の花だと思っていたカナコさんから告白され、僕の心は恋の花が3部咲きした。
『あの、質問はいいですか?』
『構わないわ』
不安気なカナコさんも、もはや僕にとって、美しさが増す存在になっていた。
『その、カナコさんの僕に対する好きというのは……』
ちゃんと自分の気持ちを伝えられなかったことは、今でも恥ずかしいし、きっと現世でも僕は、何ら変わらぬ生き方をしているのだろう。
『あなたに大切なものを捧げたい。そういう好きよ。分かるわよね?』
『はい。でも、数々のイケメンでスキルの高い男性から何人もアプローチされてるカナコさんが、よりによって貧乏暮らしてダサい僕なんかをどうして好きなんですか?』
僕には分からなかった。カナコさんなら、縁談も多く来ているのに、敢えて僕を選んだ理由が。
『他の男は私からしてみれば穢らわしくてとてもじゃないけど恋人にはなりたくないの。それに、あなたはダサくなんかないわ。セリル、私ねあなたと一緒にいると気持ちが癒されるの。あなたは純粋で真面目でいつも一生懸命で、ついこないだまで弟だと思っていたのに気がついたら私があなたに惚れていたわ。あなたの全てが好きよ。あなたの眼差しも、首にかかるあなたの吐息も、普段のあなたの仕草も、全てが愛おしい。あなたに触れられるたびに乙女心を抱くし、あなたには安心して裸を見せられるし、あなたに胸を揉まれると感じるし、布団の中であなたとお喋りすれば心が癒されて眠たくなる』
カナコさんが、これほどに僕のことを異性として求めてくれていたことを全く知らず、僕はきっと心の中で舞い上がりすぎていただろう。
『カナコさん。僕はこれからも変わらずカナコさんの傍にいます』
カナコさんの気持ちを聞いてしまった以上、僕はカナコさんから離れるに離れられない。
『ありがとう。これからも一緒にお風呂に入って、お布団でお喋りしましょうね』
『はい、カナコさん』
この時点では、恋人ではない。けれど、僕もカナコさんを求められずにはいられなかった。
『セリル、口付けしていいかしら?』
『もちろんです!大歓迎です』
カナコさんは僕に口付けをした。そして、カナコさんは僕を抱き締めた。
『突然告白をしてしまって驚いたでしょう。でも、必ずあなたを振り向かせてみせるから待っていて』
『カナコさん』
僕は惚れているカナコさんから告白を受け、ぼんやりカナコさんをずっと見つめていた。告白して恥じらいがあったのかカナコさんが色っぽく見えた。
カナコさんは僕の手を握った。
こんな僕にも、大恋愛というものが存在していた。
結局その後、カナコさんと交際することにはなったのだが、カラクリ家で集合写真を撮ったあとの記憶は朧気である。カナコさんとどうなったのか、今となっては全く覚えていない。
《若き頃の記憶は次なる世でも覚えているが、歳をとった記憶は忘れていくものだ》
昔の人はよくそう言っていた。
理由は分からないが、正直、みんなの結婚後の世界を本当に思い出せない。そもそも、結婚までしていたのだろうか。
けれど、僕はヨルクみたいに何でも許す人間ではない。
不思議だろうけど、天使村時代も僕はカナコさんに惹かれていた。完全な片想いだったが、それでもいつもカナコさんを見つめていた。偶然にもカナコさんと交際出来た時は、天にも登る気持ちだった。でも婚約してから、カナコさんから
『同僚のマンションで朝まで飲み会をする』
と言われた時は流石に止めてしまった。
『カナコさん、僕たちはもう婚約しているんです。他の男のいるマンションで一晩飲み会など認められません』
この時の僕は、僕なりの線引きがあったのだろう。今も存在しているが。
『セリルって何でも許す男かと思っていたけど、以外に心が狭いのね』
このカナコさんの言葉に当時の僕はショックを受けていた。カナコさんにとっての僕は何でも許す、半ばしもべのような存在なのだと。
『カナコさん、物事には限度があります』
その時、チャイムが鳴った。出ると、ナミネとヨルクだった。
『差し入れ持ってきました』
またヨルクが料理を作ったのだろう。カナコさんと同棲してからは、ナミネとヨルクも近くでアパートを借り、よく差し入れを持ってきてくれていた。
『2人とも聞いて!セリルったら、私が同僚のマンションで一晩飲み会することを反対するのよ!』
気付いたらナミネとヨルクはリビングにいた。
『それだけセリルさんはカナコさんを愛していると思います』
ナミネは僕が出したお菓子をポロポロ零しながら食べた。
『けれど、飲み会くらい些細なことじゃない』
『ふむふむ、難しいですな。私も今度、同僚のマンションで朝まで飲み会をするのですが、朝になったらヨルクさんが迎えに来てくれます』
これを聞いた時の僕は、自分が小さな男なのだろうかと自分自身を疑ってしまった。小さかったナミネとヨルクも、僕が22歳の頃には、18歳と19歳。ナミネは中学生の頃と違い、随分と綺麗になっていた。
『セリル、聞いたかしら?ヨルクはナミネの飲み会許してるわよ?』
『まあこればかりは、お二人の気持ちだと思いますが』
ヨルクは苦笑していた。
ヨルクは、何でも許す。そして、常にナミネに尽くしていた。
『分かりました。僕もカナコさんの飲み会が終わる頃迎えに行きます』
ヨルクはナミネが零したお菓子の欠片を拭いていた。
『では、決まりですな』
この頃の僕は、カナコさんを完全に信じ切っていた。
その後、偶然にも飲み会はカナコさんもナミネも同じ日で、朝になって僕はカナコさんを迎えに行った。すると、カナコさんは、僕の知らない男と口付けしていた。
『カナコさん……どうして……』
『違うの、セリル。一方的にされたのよ』
真相は分からない。けれど、僕は自分が思う以上にショックを受け、失望してしまっていた。そして、この後のことは全く記憶にないのだ。
一方、ナミネはヨルクが迎えに行くまでにマンションを出て、紅葉橋で大々的に寝ていたところ、近所の人がクレナイ家に知らせに行き、ラルクがナミネをアパートまで連れて帰ったらしい。
この時に僕は感じた。僕は僕なりにカナコさんとは喧嘩もなく上手くやっていたはずなのに、どうして大喧嘩してでも、ナミネとヨルクは、これほどまでに愛し合うことが出来るのか。多分、恋愛的に劣等感を抱いていたと思う。
気が付けば僕は、森の湖に入りかけていた。
ふと前を見ると、ナミネが馬から降り、うずまきキャンディを舐めていた。
「みんな探していますぞ」
そう、僕はカナコさん宛の手紙を書いたあと、学校を飛び出した。
「そっか。でも今はそっとしておいてくれるかな?」
「セリルさん、何があったか、今何を思っているのか分かりませんが、みんなセリルさんに救われてきたのです。私もその1人です。セリルさんが、しばらく1人になりたいのなら無理に連れ帰ることはしません。でも、せめて、事情だけでも教えてください。今すぐでなくて構いませんので。紙飛行機待ってます。帰りは馬を使ってください」
そう言うとナミネは、折り鶴に乗って紅葉町に戻って行った。どうして、ここだと分かったのか僕には分からない。ナノハナ家の馬は真っ直ぐに僕を見つめていた。
運命というのは時に残酷だ。マモルさんはニュースでも放送され、ニンジャ妖精を抜けることになったが、カンザシさんは抜けるどころか、リーダーとなった。そのカンザシさんがナミネの実の兄だなんて。
僕が森の湖で、遠い昔のセレナールと会った数日後、森の湖南町の空き家にいたら、カナコさんとレイカさんが来て、後日、セレナールさんとカンザシさん、マモルさんで話し合うこととなった。
話し合いがどのような展開に向かうかは分からない。けれど、人は一人では生きられない生き物だ。この際だから、逃げるだけでなく、しっかり話し合おう。
僕は覚悟を決めた。
……
あとがき。
セリル視点でした。
完璧と思われる人も、何かしら抱えているものなのですね。
セレナールのことは、古代編は、カナエを襲う目的で雇った武官ごとカナエがセレナールごと結界に閉じ込めて逃げました。
セレナールが変わったきっかけは、やはりレナードでしょう。その辺も話し合ってほしいところです。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《セリル》
僕は、生まれつきフェアリーングと千里眼を使える。
フェアリーングは、相手のあらゆる心情を読み取る心理学の1つで、現代ではカウンセラーさんなどが治療で使っていたりする。千里眼は、機械を通さずとも、その中を見ることが出来る能力である。例えば、箱の中身を知ることが出来たり、分かりやすく言うと、レントゲンを通さずとも、その人の身体の中が見えるのだ。昔は、千里眼を詐欺だと言う人もいたが、目の作りが人と違う人は確かに存在しているのである。
僕はかなり大人しい性格だと思う。昔ほどではないが、自分から人に話しかけることはないし、率先して自分の意見を言うこともない。無理していい子を演じてきたわけではないが、僕は争いを好まず常に平穏な暮らしを望んでいる。
人の相談には乗るが、自分からは殆ど相談をしない。
僕には妹がいる。
妹のセレナールが、カンザシさんをヨルクと間違えマモルさんからイジワルされた時、僕は何も出来なかった。遠い昔の、あの時のように。
僕なりに、カナコさんに相応しい男になれるよう、転生するたびに努力はしてきたつもりだ。そして、それなりの力量もついていたと思う。けれど、思うだけで、実際は違っていた。
上には上がいる。そんなこと分かっていたはずなのに。あの日、ズームさんに少しも適わなかった時、僕は遠い昔の弱いままだと気付かされた。ズームさんは、カンザシさんとの、つがいの勾玉のアザのせいで、カンザシさんの人生に巻き込まれている。勾玉のアザを持つ者は、時として一方が危機に陥ると、もう一方も命の危機に陥る。残念なことに、ズームさんはカンザシさんを助けながら、ずっとずっと生きてきた。その生き方は僕が見るからに命懸けのようだったと思う。
僕は僕でセレナールを守れなかったことが辛い。辛くてたまらない。けれど、ズームさんはカンザシさんを守る義務が常に付きまとっている。
どうして、セレナールが幸せになれないのか、僕は分からない。けれど、思い当たる節はある。初代妖精村にて、僕とセレナールは皇太子様に処刑されている。その因縁が今も何かしらの形で付きまとっているのかもしれないが。
少なくとも、カラクリ家で、みんなでいた頃は、セレナールと皇太子様は愛し合っていた。けれど、貴族の間で流行っていた、たった1つの映像でセレナールと皇太子様の関係は拗れてしまった。セレナールは、兄同然のキクリ家長男の僕と同い歳のカラルリのことを気にしはじめ、好きになってしまった。けれど、カラルリにはセナ王女という彼女がいた。あの頃の、セナ王女とセレナールは衝突ばかりだった。
セレナールがイジワルされたのは現世だけではない。遠い昔、博物館のトイレでカナエがセレナールごと結界をかけて武官に襲われている。カラルリが駆け付けた時には間に合わなかった。
セレナールは、自分が依頼した武官に逆に襲われてしまったのだ。
その後、皇太子様は、カラクリ家の長女のエミリを好きになり、セレナールに別れを告げた。それからのセレナールは、セナ王女やカナエを妬むようになってしまった。
セレナールは、紅葉神社でセナ王女を武官に襲わせていたこともある。
虫一匹殺せないセレナールがどうして、こうなってしまったのか理解出来なかった。
現世では、遠い昔からヨルクのことを好きだと言っていたが、セレナールは、本当はラルクのことが好きなのに、それに気付けずヨルクの整った容姿に惹かれていたことを僕はそれとなく感じ取っていた。あの時、ラルクに伝えていれば、ラルクを傷付けなかっただろうか。
歴史は絶対に変えられない。例え変えたとしても、何らかの形で元に戻り、現世が変わってしまうのだ。だから、何がなんでも歴史を変えてはいけない。
皇太子様から別れを告げられ、全てを失ったセレナールは、みんなからの信用を失い孤立し、しばらくの間寝込んでいた。けれど、すぐに立ち直り、妖精村学園 高等部の教師をすることになった。ヨルクとラルクはセレナールの元教え子なのだ。
セレナールが教師をしはじめて少しした時に、カラクリ家で集合写真を撮った。
今思うと全てが懐かしい。
あの頃、僕はカナコさんに片想いをしていた。けれど、なかなか想いを伝えられず、カナコさんとは恋人のような関係でありながら、友達という形であったと思う。そんなカナコさんとは、あるエピソードが存在していたのだ。
あれは、祭りの日のことだった。
カナコさんと僕は紅葉神社に着いた。
『カナコさん、大事な話というのは……』
カナコさんは僕のの手を離し、数歩歩いた。そしてくるっとセリルの方をに身体を向けた。
『返事は絶対しないでね』
どうしてこんなふうに言うのか、この時の僕は全く分かっていなかった。
『分かってます』
それでも僕はカナコさんに流されていた。
『あのね……私、セリルのことが好きなの。1人の異性として。あなたに惚れているわ。私は18歳の時、学校を卒業してテーラーとして働くあなたの真剣な姿を見たの。あなたの職場でね。その時のあなたは難しい仕事で入りたてにも関わらず器用にドレスを仕立てていたわ。そんなあなたの姿は輝いていた。その時私の鼓動は高なった。その日から私は今までずっとあなたのことが好きだったの。あなたに好きな人がいるのは薄々気づいていたわ。私はあなたとあなたの想い人を引き裂こうとは思っていない。でも、私はあなたに好きな人がいても諦めるつもりはないわ。あなたに振り向いて貰うまで待つわ。返事をしないでって言ったのは、振り向いて貰えるまで私を1人の女として好きになってくれるまで傍にいたいからよ。私、必ずあなたを振り向かせてみせるわ。だから、お願い。これまで通りに接してもらえないかしら。お風呂でお喋りしたり、お布団の中でお喋りしたり、あなたの有給が終わったら仕事帰りに喫茶店でお喋りしたり。私を避けないで今まで通りの関係でいて欲しいの』
突然のカナコさんの告白に、僕は頭が真っ白になっていた。
『あの』
『告白に対する返事は今はしないで』
両想いと分かった瞬間もカナコさんに想いを伝えられなかったことは、かなりもどかしかった。
『分かりました』
けれど、僕はただ相づちを打つことしかしなかった。
『もうっ、何で自分も好きだと言わないのよ、兄さん。こんなの間違ってるわ』
セレナールが紅葉神社に入っていこうとしたが皇太子様に止められていた。
14年も片想いしていたカナコさんと途中から両想いだと知った僕はただただ嬉しい気持ちでいっぱいだった。ただ、自分もカナコを好きだと伝えられないのは本当にもどかしかった。けれど、それよりも惚れている高嶺の花だと思っていたカナコさんから告白され、僕の心は恋の花が3部咲きした。
『あの、質問はいいですか?』
『構わないわ』
不安気なカナコさんも、もはや僕にとって、美しさが増す存在になっていた。
『その、カナコさんの僕に対する好きというのは……』
ちゃんと自分の気持ちを伝えられなかったことは、今でも恥ずかしいし、きっと現世でも僕は、何ら変わらぬ生き方をしているのだろう。
『あなたに大切なものを捧げたい。そういう好きよ。分かるわよね?』
『はい。でも、数々のイケメンでスキルの高い男性から何人もアプローチされてるカナコさんが、よりによって貧乏暮らしてダサい僕なんかをどうして好きなんですか?』
僕には分からなかった。カナコさんなら、縁談も多く来ているのに、敢えて僕を選んだ理由が。
『他の男は私からしてみれば穢らわしくてとてもじゃないけど恋人にはなりたくないの。それに、あなたはダサくなんかないわ。セリル、私ねあなたと一緒にいると気持ちが癒されるの。あなたは純粋で真面目でいつも一生懸命で、ついこないだまで弟だと思っていたのに気がついたら私があなたに惚れていたわ。あなたの全てが好きよ。あなたの眼差しも、首にかかるあなたの吐息も、普段のあなたの仕草も、全てが愛おしい。あなたに触れられるたびに乙女心を抱くし、あなたには安心して裸を見せられるし、あなたに胸を揉まれると感じるし、布団の中であなたとお喋りすれば心が癒されて眠たくなる』
カナコさんが、これほどに僕のことを異性として求めてくれていたことを全く知らず、僕はきっと心の中で舞い上がりすぎていただろう。
『カナコさん。僕はこれからも変わらずカナコさんの傍にいます』
カナコさんの気持ちを聞いてしまった以上、僕はカナコさんから離れるに離れられない。
『ありがとう。これからも一緒にお風呂に入って、お布団でお喋りしましょうね』
『はい、カナコさん』
この時点では、恋人ではない。けれど、僕もカナコさんを求められずにはいられなかった。
『セリル、口付けしていいかしら?』
『もちろんです!大歓迎です』
カナコさんは僕に口付けをした。そして、カナコさんは僕を抱き締めた。
『突然告白をしてしまって驚いたでしょう。でも、必ずあなたを振り向かせてみせるから待っていて』
『カナコさん』
僕は惚れているカナコさんから告白を受け、ぼんやりカナコさんをずっと見つめていた。告白して恥じらいがあったのかカナコさんが色っぽく見えた。
カナコさんは僕の手を握った。
こんな僕にも、大恋愛というものが存在していた。
結局その後、カナコさんと交際することにはなったのだが、カラクリ家で集合写真を撮ったあとの記憶は朧気である。カナコさんとどうなったのか、今となっては全く覚えていない。
《若き頃の記憶は次なる世でも覚えているが、歳をとった記憶は忘れていくものだ》
昔の人はよくそう言っていた。
理由は分からないが、正直、みんなの結婚後の世界を本当に思い出せない。そもそも、結婚までしていたのだろうか。
けれど、僕はヨルクみたいに何でも許す人間ではない。
不思議だろうけど、天使村時代も僕はカナコさんに惹かれていた。完全な片想いだったが、それでもいつもカナコさんを見つめていた。偶然にもカナコさんと交際出来た時は、天にも登る気持ちだった。でも婚約してから、カナコさんから
『同僚のマンションで朝まで飲み会をする』
と言われた時は流石に止めてしまった。
『カナコさん、僕たちはもう婚約しているんです。他の男のいるマンションで一晩飲み会など認められません』
この時の僕は、僕なりの線引きがあったのだろう。今も存在しているが。
『セリルって何でも許す男かと思っていたけど、以外に心が狭いのね』
このカナコさんの言葉に当時の僕はショックを受けていた。カナコさんにとっての僕は何でも許す、半ばしもべのような存在なのだと。
『カナコさん、物事には限度があります』
その時、チャイムが鳴った。出ると、ナミネとヨルクだった。
『差し入れ持ってきました』
またヨルクが料理を作ったのだろう。カナコさんと同棲してからは、ナミネとヨルクも近くでアパートを借り、よく差し入れを持ってきてくれていた。
『2人とも聞いて!セリルったら、私が同僚のマンションで一晩飲み会することを反対するのよ!』
気付いたらナミネとヨルクはリビングにいた。
『それだけセリルさんはカナコさんを愛していると思います』
ナミネは僕が出したお菓子をポロポロ零しながら食べた。
『けれど、飲み会くらい些細なことじゃない』
『ふむふむ、難しいですな。私も今度、同僚のマンションで朝まで飲み会をするのですが、朝になったらヨルクさんが迎えに来てくれます』
これを聞いた時の僕は、自分が小さな男なのだろうかと自分自身を疑ってしまった。小さかったナミネとヨルクも、僕が22歳の頃には、18歳と19歳。ナミネは中学生の頃と違い、随分と綺麗になっていた。
『セリル、聞いたかしら?ヨルクはナミネの飲み会許してるわよ?』
『まあこればかりは、お二人の気持ちだと思いますが』
ヨルクは苦笑していた。
ヨルクは、何でも許す。そして、常にナミネに尽くしていた。
『分かりました。僕もカナコさんの飲み会が終わる頃迎えに行きます』
ヨルクはナミネが零したお菓子の欠片を拭いていた。
『では、決まりですな』
この頃の僕は、カナコさんを完全に信じ切っていた。
その後、偶然にも飲み会はカナコさんもナミネも同じ日で、朝になって僕はカナコさんを迎えに行った。すると、カナコさんは、僕の知らない男と口付けしていた。
『カナコさん……どうして……』
『違うの、セリル。一方的にされたのよ』
真相は分からない。けれど、僕は自分が思う以上にショックを受け、失望してしまっていた。そして、この後のことは全く記憶にないのだ。
一方、ナミネはヨルクが迎えに行くまでにマンションを出て、紅葉橋で大々的に寝ていたところ、近所の人がクレナイ家に知らせに行き、ラルクがナミネをアパートまで連れて帰ったらしい。
この時に僕は感じた。僕は僕なりにカナコさんとは喧嘩もなく上手くやっていたはずなのに、どうして大喧嘩してでも、ナミネとヨルクは、これほどまでに愛し合うことが出来るのか。多分、恋愛的に劣等感を抱いていたと思う。
気が付けば僕は、森の湖に入りかけていた。
ふと前を見ると、ナミネが馬から降り、うずまきキャンディを舐めていた。
「みんな探していますぞ」
そう、僕はカナコさん宛の手紙を書いたあと、学校を飛び出した。
「そっか。でも今はそっとしておいてくれるかな?」
「セリルさん、何があったか、今何を思っているのか分かりませんが、みんなセリルさんに救われてきたのです。私もその1人です。セリルさんが、しばらく1人になりたいのなら無理に連れ帰ることはしません。でも、せめて、事情だけでも教えてください。今すぐでなくて構いませんので。紙飛行機待ってます。帰りは馬を使ってください」
そう言うとナミネは、折り鶴に乗って紅葉町に戻って行った。どうして、ここだと分かったのか僕には分からない。ナノハナ家の馬は真っ直ぐに僕を見つめていた。
運命というのは時に残酷だ。マモルさんはニュースでも放送され、ニンジャ妖精を抜けることになったが、カンザシさんは抜けるどころか、リーダーとなった。そのカンザシさんがナミネの実の兄だなんて。
僕が森の湖で、遠い昔のセレナールと会った数日後、森の湖南町の空き家にいたら、カナコさんとレイカさんが来て、後日、セレナールさんとカンザシさん、マモルさんで話し合うこととなった。
話し合いがどのような展開に向かうかは分からない。けれど、人は一人では生きられない生き物だ。この際だから、逃げるだけでなく、しっかり話し合おう。
僕は覚悟を決めた。
……
あとがき。
セリル視点でした。
完璧と思われる人も、何かしら抱えているものなのですね。
セレナールのことは、古代編は、カナエを襲う目的で雇った武官ごとカナエがセレナールごと結界に閉じ込めて逃げました。
セレナールが変わったきっかけは、やはりレナードでしょう。その辺も話し合ってほしいところです。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
病院でした。
予約して行ったのに『45分待ち』と言われ、1時間待ちました。
はあ……。
食べて寝て小説書きますです。
ついに100話まで来ましたよ。
こんなに続くと思ってなかった。
まだまだ続けたいので、どこかでタイムストップしちゃいます。
予約して行ったのに『45分待ち』と言われ、1時間待ちました。
はあ……。
食べて寝て小説書きますです。
ついに100話まで来ましたよ。
こんなに続くと思ってなかった。
まだまだ続けたいので、どこかでタイムストップしちゃいます。
純愛偏差値 未来編 一人称版 97話
《ヨルク》
私は、綺麗でスタイルよくて胸の大きな女子(おなご)など興味はない。所詮見た目など当てにはならないのである。けれど、どうしてか、ズルエヌさんには、思ってもないことを話してしまった。そのことで、またナミネが怒ってしまった。
何度も何度も常に思っているけれど、私はナミネが1歳の頃からナミネのことを妹のように可愛がり結婚を決めていた。いつも、ナミネが心配で仕方ないのに。
私はキッチンでナミネの夜食を作ったあと、客間に行った。
すると、ナミネが戻って来ていた。
「ナミネ、夜食作ったから、お腹すいたら食べて」
人魚のランプ買っておいてよかった。火は使わないから安全だし。
「はい」
ナミネ、お風呂に入れなかったから、ナミネの身体拭いてあげないと。
「ナミネ、身体拭いてあげる」
私はボディーシートを取り出してナミネの身体を拭いた。キクリ家の浴衣っと。どこもまだ浴衣置いてあるんだな。
私は大人用の浴衣をナミネに着せた。帯のところを2回折れば子供でも着れる。
「じゃ、今夜はここで寝る」
落ち武者さんとエルナが入って来た。
「ねえ、落ち武者さん。どうしていつも付きまとうの?部屋ならいっぱいあるよね」
「また僕だけ仲間外れ?」
どうしてそうなるの。落ち武者さんはエルナといればいいじゃない。
「落ち武者さんは、しつこいわよ」
落ち武者さんは、他のところには行かず、いつも私とナミネのところに来る。
「ナミネ、布団敷いたから一緒に寝ようね」
「はい」
このままキクリ家でいるのだろうか。キクリ家は何だか、そこまで馴染みがある場所とは感じられない気がする。
私はナミネの手を握ったまま眠りについた。
朝目が覚めると、ナミネはまた横にいなかった。普通の時は、いつも寝過ごすくらいの勢いで眠っているのに。
私は浴衣の上に羽織を来て中庭に向かった。
すると、ナミネとラルクが水汲みをしていた。こういう時のナミネはキビキビ動く。
私も洗濯をしなくては。中庭の端のほうでは使用人が洗濯をしている。ナミネとラルクが中庭からいなくなったあと、私はタンクから水をタライに入れて洗濯をしはじめた。
「あの、新しく入った使用人でしょうか?」
振り向くと、高校生くらいの女の子がいた。
「あ、いえ。私は……」
「ちょっと、その子はクレナイ家の坊っちゃまよ」
キクリ家の使用人はベテランが多い。
「あ、すみません」
「いえ、新しく入った使用人ですか?」
クレナイ家にも若い使用人はいるけれど、今の時代ゆえ学校と掛け持ちをしている。
「はい、まだ見習いなんです」
「若いのに大変ですね」
「いえ、住み込みでもしないと学校に通えませんから」
現代でも、タルリヤさんほどではないが、学校に通うお金のない者もいる。
「ちょっとヨルクさん!何口説いてるんですか!」
ナミネ、第3居間にいるのでは。そういえば、私たちは登山服しか持って来てなかったから着るものが浴衣しかない。私は羽織を脱いでナミネの肩にかけた。
「ナミネ、寒いでしょ」
「綺麗でスタイルよくて胸が大きくてよかったですね!ヨルクさん好みじゃないですか!」
「ねえ、どうして、そういうこと言うの?私は毎日ナミネの洗濯してるのに!何故、私を侮辱する」
「ヨルクさんが女たらしだから言ってるんです!」
交際前はしおらしかったナミネが、今ではすっかりいびるようになっている。
「私は女たらしなどではない」
「では、私は学校に行きますので」
「まだ早いでしょ」
今日は学校の日だっけ。停電してから曜日の感覚があまりない。私は洗濯が終わると洗濯物を絞って、タライの水を用水路に繋がる溝に流した。洗濯物を客間に干すと私も第3居間に行った。
やはり、第1居間と第3居間とでは、こうまでメンバーが違うものなのか。セリルさんとカラルリさんは同い年なのに、不思議なもんだな。ナミネの知っている遠い昔では、皆がカラクリ家の同じ居間に集まっていたのに。あの時は、みんな同年代だったからだろうか。
「ここでは、使用人が何でもしてくれます。けれど、このような非常事態だからこそ私は自己管理というものを大切にしたいのです。だから、学校から帰ったら私はナノハナ家に戻ります。1つ言うなら私は、アヤネさんとセレナールさんには来て欲しくありません」
いつも使用人に頼ってばかりのナミネが、ここでそう出るとは……。
「あの、私は反省しています。私もナノハナ家に行きたいです」
「あたかもリーダー気取りしちゃって、何なのよ!兄さんに言いつけるから!」
ナミネがナノハナ家に行くと行ったら、どうしてか、みんなも行きたがる。その時、リリカお姉様がセレナールさんを引っぱたいた。
「あれだけ人間関係壊しておいて、その言い方は何かしら?こっちは、ラルクと交際されているだけで迷惑なの!」
「ごめんなさい、リリカ!あれは、全てアヤネに聞かれたから答えるしかなかったのよ!」
セレナールさんは、いつから変わってしまったのだろう。もし、昔のセレナールさんだったら、仲良く出来ただろうか。
今度はナミネがセレナールさんの腰を蹴った。ナミネ、物凄く怒ってる。
「はい、無駄話はそこまでにして!携帯配るから」
携帯?既に持っているのに、何故配布するのだろう。けれど、ミネスさんは、この場にいるみんなに携帯を配った。
「アンタ、この携帯何なのさ」
「この携帯は、おじいちゃんの会社で開発してる試作品。このメンバー内(登録している人)なら通信が出来る。月々の料金はかからない。つまり、無線が携帯になったようなもの。データ移行は簡単だから。今後は、この携帯使って」
まるで、恋するカードランカーのようだ。あのアニメは、主人公の親友の母親の会社が、まさにこの携帯のようなものを開発していたはず。
「あの、この携帯って、あとで返却するのでしょうか?」
「ううん、あげる」
随分と気前がいいな。この携帯、いくらするのだろう。
「アンタのじいさん何してんのさ?」
「skyグループの会長」
skyグループ。flowerグループやplantグループ、GMグループと並ぶ大手企業だ。やっぱり、ブランケット家は生活規模が違う、違いすぎる。
「これパンフレットなので、よかったら見といてください」
ズームさんは、みんなにパンフレットを渡した。えっ、この携帯商品化されるなら、こんなにもするの?というか、全体的に商品が高すぎる。
「ズームの家って金持ちなんだな。将来はアヤネみたいな貴族と結婚するのか?」
「今、結婚の話してないだろ!ロォラ!」
あ、ナミネの携帯が開いたまま床に落ちている。私はナミネの携帯を拾った。チラッと皇帝陛下と皇后陛下が見えた気がする。真ん中に写ってた子は誰だろう。
「ナミネ、携帯落ちてたよ」
「勝手に見ないでください!」
ナミネは私を突き飛ばした。どうして、携帯拾ったのに突き飛ばされなければいけないのだろう。
「ねえ、なんでそういう言い方するの?私はただ、ナミネの携帯が開いたまま落ちてたから踏んだらいけないと思って拾ったのに!最近のナミネ、全然可愛くないよ!おしとやかさ、全然ないし!私、もっと健気で可愛くって素直な女の子が好きだから!」
やらかしてしまった。この停電で、みんながピリピリしているのだろうか。
「そうですか。学校行きます」
ナミネは立ち上がった。
「アンタら、もっと仲良くしろよ!とりあえず、携帯のデータ移行はしとくように!」
私はナミネを避けるように第3居間を出た。
妖精村全域が停電してからの学校は、私服の人もいるし、来ない人もいる。それだけ、暮らしが安定していないのだろう。武家はともかく、一般家庭はどのように過ごしているのだろう。
私自身も月水金の全ては登校出来ていないが。というか、このメンバーも投稿は疎らだ。この先、どうなるのだろう。週6回の投稿が週3回の部活はなしの5時間目までになってしまい、みんな勉強は追いつけていない。中学生の私はいいかもしれないけど、セナ王女やカラルリさんとか、高校3年生の人は進路のこととか悩んでいないだろうか。
結局、学校までの道はナミネとは一言も話さなかった。
クラスに入ると暗い。天気は曇りだし、窓から入る恒星の光のみだ。これだとナノハナ家やキクリ家よりも暗い。
とりあえずデータ移行は出来た。商品化されたら私では買えないから慎重に扱わないと。私は久しぶりにカップル日記を開いた。
『カラルリと復縁しました♡』
セナ王女、また恋愛モードになってる。今度は幸せになってほしい。気になること多々だが。
『ロォハの医師免許取得祝い』
ミネルナさんと、ロォハさん仲良しだな。
『ユメとは森の湖には行けなかったけど、人魚の湖に来た』
あの時は、森の湖南駅の存在を知らなくて、かなり遠回りさせてしまった。クラフとユメさん連れて、また森の湖に行くのもありかも。
『スーパーでの落ち武者さん』
エルナの投稿はじめて見たかも。2人は復縁しないのだろうか。
閲覧用で登録してる人も増えてるから、初期より、随分賑やかになったな。
『人魚を見つめるヨルクさん』
『ヨルクさんの浴衣姿』
ナミネ……ちゃんと仲直りしたい。
みんな紀元前村でのこともいっぱい投稿している。遡れないくらいに。みんなで行ったところのデータは落ち武者さんが持ってるし、これで遠い未来にも残せる。
今、私たちが色んなところを巡っているように、遠い未来はデジタルとアナログで日記を残せたらも思っている。
1時間目は、小テストだけで終わってしまった。
その時、ミネスさんからもらった携帯が鳴った。ナミネからのメールだった。
『ヨルクさん、今朝はごめんなさい』
ナミネ……よかった……拗れてなくて。
『ううん、お昼にお弁当渡すね』
キクリ家では何でも使用人がしてくれる。けれど、私は非常事態の前から、ずっと家事は自分でしてきた。私もナノハナ家で、ナミネのお世話をしようと思う。
その時、扉が開いてナミネが入って来た。
「ナミネ!」
「ヨルクさん、会いに来ましたよ〜」
何だか、2年生だった頃を思い出す。実感もないまま3年生になってしまったから、ナミネが2年生になった実感もあまり持てていないかもしれない。
「アンタら、何だかんだで仲良いな。とりあえず、紀元前村までは、かなり遡って来たつもりだから、そろそろ休憩挟むために、今度の休みは営業してる店で、ゆっくりしようと思うけど?」
確かに、私たちは冒険と言うべきだろうか。少しでも多くの過去を知るために少々突っ走り過ぎたのかもしれない。古い時代だなんて、一生かけても辿り着けるところまで行けるか分からないのに。この調子では大人になっても、探し続けるだろうか。それとも、大人になれば、メンバーは解散してしまうのだろうか。
「そうですね。私たち、かなりの頻度で知ることのみに集中していましたもんね。そろそろ休憩をしても私はいいと思います」
「あえて聞くけど、アンタらは大人になっても探し続けるわけ?」
やっぱり落ち武者さんも思うか。大人になれば、仕事をしなくてはならないし、結婚しているのなら、尚更自由時間なんて持てない。
「私は大人になっても、みんなと巡り続けたいです!」
ナミネは、やっぱりどこまでも諦めないよね。答えに辿り着くまで。
「僕もナミネと同じ意見です。はじめたからには、納得いくところまで辿りたいです」
ラルク、いつの間に来ていたのだろう。
「そうね、私も落ち武者さんと結婚するから付き合うわ」
「なんでアンタと結婚するのさ」
「僕も仲間に加わった以上は最後まで付き合うよ」
以外にも、みんな知りたいことがあるのか、過去を遡ることに関しては前向きだ。私もそうだけど。
「わ、私も仲間に加わる!」
ナミネが最後まで探し続けるなら私もそうする。こういうのを、同じ船に乗った同士とでも言うのだろうか。
今はズームさんとか有力な人材がいるから、初期の頃より過去の真相が掴めそうな気がする。
そういえば、ルリコさんのことは、あの後、ズルエヌさんが交番に届けるに変更したみたいだ。
「そういえば、ナヤセス殿とズルエヌさん、同じマンションだそうです」
流石はブランケット家。あのような高級なマンションをすんなり契約出来るとは。生まれながらにして恵まれている人って本当にいるんだなあ。
「へえ、金持ちは違うね?」
そうは言えども落ち武者さんとて、天の川村にいた頃は、相当稼いでいたのでは。
「ねえ、ラルク。2時間目も自主学習だけど、自主学習と行っても、自分で教科書進めていかないといけないから、このまま停電続けば留年する人出そうだね」
「ナミネ、留年は高校からだろ。それに委員長が教壇に立って教えてるんだから教師いなくてもいいだろ」
確かに、単位は高等部からだけど、担任が教科書を進めないだなんて、いささか問題があるようにも感じる。
その時、チャイムが鳴り出し、ナミネとラルクは慌ててクラスへ戻って行った。
2時間目も小テスト。
これ、意味があるのだろうか。こちらは、全く教科書が進んでいない。高等部に進学するには中学3年生という今の時期は大切なのに。
妖精村学園に通ってる大半は、幼稚園から大学まで、そのまま通うけれど、中には中学から、或いは高校から転校していく人もいる。けれど、私は妖精村学園に入ったからには、大学までは通いたいと思っている。
その時、落ち武者さんが教壇に立った。
「じゃ、数学の教科書進める」
「セルファ、今は小テストの時間よ!戻りなさい!」
「クソ担任、アンタやる気あんのかよ?このままだと、みんなが高等部に進めないんだぞ?」
落ち武者さんの言うように、習ったところばかり小テストで出されても、前には進めない。来年は高等部に進学だし、私もそれなりの知識を身に付けたい。
「席に戻りなさい。勝手なことは認めないわ!」
「へえ、アンタ何のつもりだ?生徒に勉強教えないで、何のために僕らを学校に通わせてんのさ?アンタがいつまでもそうなら、教室に取り付けた防犯カメラ、校長に見せつけるぞ!」
落ち武者さんは、相変わらず気が強い。それにしても、幾度となく前世で学んだことが、時間が経つと、こうも忘れてしまうものなのだな。それに、私は20代半ばあたりのことまでは覚えているけれど、それ以降は殆ど覚えていない。天使村は30代辺りまで朧気に覚えているが、妖精村は30代のことなんて殆ど思い出せない。覚えていることといえば、遠い昔、ナミネがラルクを追いかけ、ミナクお兄様に嫁いでいた時のこと。それ以外は全て覚えていない。ナミネはどうなのだろう。
気が付けば担任が国語を教えはじめた。もうすぐ5月。ひと月のロスなら、どうにでもなる。2年生の時は、ナミネとの交際もあり、早く感じたけれど、3年生はどうだろう。1年後にはセナ王女やカラルリさん、セリルさんたちも大学生だ。そうなれば、今の関係も変わるかもしれない。そう考えると、よみかた のように、私たちにはまだ時間があるのだと思わせられる。
2時間目が終わるなり、2人の高校生が来た。
「君がセリルの弟なのか?」
「そうだけど、アンタ誰?」
2人とも、よく似ている。というか確実に姉妹だ。
「高等部3年の委員長メノリだけど、セリルがいなくなったんだ」
セリルさんが……いったい何があったのだろう。
「ま、この学園内のどこかにはいると思うけど?」
「同じクラスにミナクの弟がいると聞いたが、いないぞ」
やっぱり、私はラルクやミナクお兄様とは全然似ていないのだろうか。
「アンタさ、どこの誰だか知らないけど、顔だけヨルクはここにいるけど?」
「そうか。全く似てないな」
何だか地味に突き刺さる。
「あの、ミナクお兄様がどうかされましたか?」
「どうもこうも、ミナクに弄ばれた貴族がクラス中に押しかけて、当の本人は逃げたんだ」
過去のこととはいえ、忘れた頃に罰せられるものなのか。
「そうでしたか。兄がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
私はラルクにメールをしようとした。
「じゃ、ミナクのクラス行く」
「え、落ち武者さんはセリルさん探さないといけないよね」
「どうせ自信失くしたとかだろ。セリルのことだから、探されたくはないだろうし?」
そんな感じだろうけど、本当に突然どうしたのだろう。悩みごとでもあったのだろうか。セリルさんは、ナミネが病んでしまった時に相談に乗ってくれたから、今度は私たちが助けたいのだけれど。
ひとまず、私たちはメナリさんと共に高等部1年3組へ来た。
なんと言うか、ひと昔前の荒れた教室のようだ。当の本人は、いないにも関わらず貴族のみで暴れている。
「じゃ、紙に名前と住所書いてミナクに対して思うこと書け!」
落ち武者さんは、一瞬フェアリーングをかけた。すると、貴族たちは教壇にある紙を取りはじめた。物凄い勢いで書いている。
「ナナミお姉様、大丈夫ですか?」
ナミネ、来てたのか。
「べ、別にミナクのことなんて何とも思ってないわよ!」
「ナナミ、アンタ顔に出すぎ」
セナ王女とも別れたし、今のミナクお兄様はフリーだ。ナナミさんならリリカお姉様も歓迎するだろう。あとは、本人の気持ちというところか。
「ねえ、ラルク。いっそのこと、ミナクさんによつぎ、いっぱい作ってもらったら?」
「ナノハナ家ほどじゃないけど、クレナイ家も庶子は跡継ぎに出来ないし、庶子だらけになっても、ウチでは育てられないから、それこそ孤児院に預ける未来になるだろ!」
クレナイ家は、昔は庶子も育てていたらしいけど、今では、やはり家族は嫡子を求めるだろう。私は責任が取れないのなら簡単に子供など作るべきではないと思う。ミナクお兄様の場合は遊びだったけれど、それもよくはない。
現代でも武家は、ちゃんと活動している。それを思うと、縁談は真面目に行うべきだ。去年のセナ王女やセレナールさんのようにはなってほしくない。
「おい!天然ラァナ!ここで何してんだ!」
「セルファ……セリルがカナコに手紙残していなくなったの」
落ち武者さんは、ラァナさんから手紙を受け取った。
『カナコさん
今までありがとうございました』
まるで、別れの手紙のようだ。
あれだけ常に自信のあったセリルさんが、このようなことになるなんて想像したこともなかった。いったいどうして……。少しも予想が出来ない。
「で?カナコはどうしてんのさ?」
「レイカとセリル探しに行ったわ!」
「セリルも人騒がせなヤツだね?」
落ち武者さんは、少しも心配ではないのだろうか。もし、私がカナコさんの立場なら、心配で仕方ない。ナミネが手紙残していなくなったら、私はナミネが見つかるまで探し続けるだろう。
こういう問題は他人事ではない気がする。いつ、自分も同じ状況になりうるか分からない。
私はナミネを見た。
ナミネは、今朝私が作ったお弁当を食べていた。
……
あとがき。
セリルに何があったのでしょう。
セリルの「はい、そこまで!」が聞けなくなるのは寂しいです。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ヨルク》
私は、綺麗でスタイルよくて胸の大きな女子(おなご)など興味はない。所詮見た目など当てにはならないのである。けれど、どうしてか、ズルエヌさんには、思ってもないことを話してしまった。そのことで、またナミネが怒ってしまった。
何度も何度も常に思っているけれど、私はナミネが1歳の頃からナミネのことを妹のように可愛がり結婚を決めていた。いつも、ナミネが心配で仕方ないのに。
私はキッチンでナミネの夜食を作ったあと、客間に行った。
すると、ナミネが戻って来ていた。
「ナミネ、夜食作ったから、お腹すいたら食べて」
人魚のランプ買っておいてよかった。火は使わないから安全だし。
「はい」
ナミネ、お風呂に入れなかったから、ナミネの身体拭いてあげないと。
「ナミネ、身体拭いてあげる」
私はボディーシートを取り出してナミネの身体を拭いた。キクリ家の浴衣っと。どこもまだ浴衣置いてあるんだな。
私は大人用の浴衣をナミネに着せた。帯のところを2回折れば子供でも着れる。
「じゃ、今夜はここで寝る」
落ち武者さんとエルナが入って来た。
「ねえ、落ち武者さん。どうしていつも付きまとうの?部屋ならいっぱいあるよね」
「また僕だけ仲間外れ?」
どうしてそうなるの。落ち武者さんはエルナといればいいじゃない。
「落ち武者さんは、しつこいわよ」
落ち武者さんは、他のところには行かず、いつも私とナミネのところに来る。
「ナミネ、布団敷いたから一緒に寝ようね」
「はい」
このままキクリ家でいるのだろうか。キクリ家は何だか、そこまで馴染みがある場所とは感じられない気がする。
私はナミネの手を握ったまま眠りについた。
朝目が覚めると、ナミネはまた横にいなかった。普通の時は、いつも寝過ごすくらいの勢いで眠っているのに。
私は浴衣の上に羽織を来て中庭に向かった。
すると、ナミネとラルクが水汲みをしていた。こういう時のナミネはキビキビ動く。
私も洗濯をしなくては。中庭の端のほうでは使用人が洗濯をしている。ナミネとラルクが中庭からいなくなったあと、私はタンクから水をタライに入れて洗濯をしはじめた。
「あの、新しく入った使用人でしょうか?」
振り向くと、高校生くらいの女の子がいた。
「あ、いえ。私は……」
「ちょっと、その子はクレナイ家の坊っちゃまよ」
キクリ家の使用人はベテランが多い。
「あ、すみません」
「いえ、新しく入った使用人ですか?」
クレナイ家にも若い使用人はいるけれど、今の時代ゆえ学校と掛け持ちをしている。
「はい、まだ見習いなんです」
「若いのに大変ですね」
「いえ、住み込みでもしないと学校に通えませんから」
現代でも、タルリヤさんほどではないが、学校に通うお金のない者もいる。
「ちょっとヨルクさん!何口説いてるんですか!」
ナミネ、第3居間にいるのでは。そういえば、私たちは登山服しか持って来てなかったから着るものが浴衣しかない。私は羽織を脱いでナミネの肩にかけた。
「ナミネ、寒いでしょ」
「綺麗でスタイルよくて胸が大きくてよかったですね!ヨルクさん好みじゃないですか!」
「ねえ、どうして、そういうこと言うの?私は毎日ナミネの洗濯してるのに!何故、私を侮辱する」
「ヨルクさんが女たらしだから言ってるんです!」
交際前はしおらしかったナミネが、今ではすっかりいびるようになっている。
「私は女たらしなどではない」
「では、私は学校に行きますので」
「まだ早いでしょ」
今日は学校の日だっけ。停電してから曜日の感覚があまりない。私は洗濯が終わると洗濯物を絞って、タライの水を用水路に繋がる溝に流した。洗濯物を客間に干すと私も第3居間に行った。
やはり、第1居間と第3居間とでは、こうまでメンバーが違うものなのか。セリルさんとカラルリさんは同い年なのに、不思議なもんだな。ナミネの知っている遠い昔では、皆がカラクリ家の同じ居間に集まっていたのに。あの時は、みんな同年代だったからだろうか。
「ここでは、使用人が何でもしてくれます。けれど、このような非常事態だからこそ私は自己管理というものを大切にしたいのです。だから、学校から帰ったら私はナノハナ家に戻ります。1つ言うなら私は、アヤネさんとセレナールさんには来て欲しくありません」
いつも使用人に頼ってばかりのナミネが、ここでそう出るとは……。
「あの、私は反省しています。私もナノハナ家に行きたいです」
「あたかもリーダー気取りしちゃって、何なのよ!兄さんに言いつけるから!」
ナミネがナノハナ家に行くと行ったら、どうしてか、みんなも行きたがる。その時、リリカお姉様がセレナールさんを引っぱたいた。
「あれだけ人間関係壊しておいて、その言い方は何かしら?こっちは、ラルクと交際されているだけで迷惑なの!」
「ごめんなさい、リリカ!あれは、全てアヤネに聞かれたから答えるしかなかったのよ!」
セレナールさんは、いつから変わってしまったのだろう。もし、昔のセレナールさんだったら、仲良く出来ただろうか。
今度はナミネがセレナールさんの腰を蹴った。ナミネ、物凄く怒ってる。
「はい、無駄話はそこまでにして!携帯配るから」
携帯?既に持っているのに、何故配布するのだろう。けれど、ミネスさんは、この場にいるみんなに携帯を配った。
「アンタ、この携帯何なのさ」
「この携帯は、おじいちゃんの会社で開発してる試作品。このメンバー内(登録している人)なら通信が出来る。月々の料金はかからない。つまり、無線が携帯になったようなもの。データ移行は簡単だから。今後は、この携帯使って」
まるで、恋するカードランカーのようだ。あのアニメは、主人公の親友の母親の会社が、まさにこの携帯のようなものを開発していたはず。
「あの、この携帯って、あとで返却するのでしょうか?」
「ううん、あげる」
随分と気前がいいな。この携帯、いくらするのだろう。
「アンタのじいさん何してんのさ?」
「skyグループの会長」
skyグループ。flowerグループやplantグループ、GMグループと並ぶ大手企業だ。やっぱり、ブランケット家は生活規模が違う、違いすぎる。
「これパンフレットなので、よかったら見といてください」
ズームさんは、みんなにパンフレットを渡した。えっ、この携帯商品化されるなら、こんなにもするの?というか、全体的に商品が高すぎる。
「ズームの家って金持ちなんだな。将来はアヤネみたいな貴族と結婚するのか?」
「今、結婚の話してないだろ!ロォラ!」
あ、ナミネの携帯が開いたまま床に落ちている。私はナミネの携帯を拾った。チラッと皇帝陛下と皇后陛下が見えた気がする。真ん中に写ってた子は誰だろう。
「ナミネ、携帯落ちてたよ」
「勝手に見ないでください!」
ナミネは私を突き飛ばした。どうして、携帯拾ったのに突き飛ばされなければいけないのだろう。
「ねえ、なんでそういう言い方するの?私はただ、ナミネの携帯が開いたまま落ちてたから踏んだらいけないと思って拾ったのに!最近のナミネ、全然可愛くないよ!おしとやかさ、全然ないし!私、もっと健気で可愛くって素直な女の子が好きだから!」
やらかしてしまった。この停電で、みんながピリピリしているのだろうか。
「そうですか。学校行きます」
ナミネは立ち上がった。
「アンタら、もっと仲良くしろよ!とりあえず、携帯のデータ移行はしとくように!」
私はナミネを避けるように第3居間を出た。
妖精村全域が停電してからの学校は、私服の人もいるし、来ない人もいる。それだけ、暮らしが安定していないのだろう。武家はともかく、一般家庭はどのように過ごしているのだろう。
私自身も月水金の全ては登校出来ていないが。というか、このメンバーも投稿は疎らだ。この先、どうなるのだろう。週6回の投稿が週3回の部活はなしの5時間目までになってしまい、みんな勉強は追いつけていない。中学生の私はいいかもしれないけど、セナ王女やカラルリさんとか、高校3年生の人は進路のこととか悩んでいないだろうか。
結局、学校までの道はナミネとは一言も話さなかった。
クラスに入ると暗い。天気は曇りだし、窓から入る恒星の光のみだ。これだとナノハナ家やキクリ家よりも暗い。
とりあえずデータ移行は出来た。商品化されたら私では買えないから慎重に扱わないと。私は久しぶりにカップル日記を開いた。
『カラルリと復縁しました♡』
セナ王女、また恋愛モードになってる。今度は幸せになってほしい。気になること多々だが。
『ロォハの医師免許取得祝い』
ミネルナさんと、ロォハさん仲良しだな。
『ユメとは森の湖には行けなかったけど、人魚の湖に来た』
あの時は、森の湖南駅の存在を知らなくて、かなり遠回りさせてしまった。クラフとユメさん連れて、また森の湖に行くのもありかも。
『スーパーでの落ち武者さん』
エルナの投稿はじめて見たかも。2人は復縁しないのだろうか。
閲覧用で登録してる人も増えてるから、初期より、随分賑やかになったな。
『人魚を見つめるヨルクさん』
『ヨルクさんの浴衣姿』
ナミネ……ちゃんと仲直りしたい。
みんな紀元前村でのこともいっぱい投稿している。遡れないくらいに。みんなで行ったところのデータは落ち武者さんが持ってるし、これで遠い未来にも残せる。
今、私たちが色んなところを巡っているように、遠い未来はデジタルとアナログで日記を残せたらも思っている。
1時間目は、小テストだけで終わってしまった。
その時、ミネスさんからもらった携帯が鳴った。ナミネからのメールだった。
『ヨルクさん、今朝はごめんなさい』
ナミネ……よかった……拗れてなくて。
『ううん、お昼にお弁当渡すね』
キクリ家では何でも使用人がしてくれる。けれど、私は非常事態の前から、ずっと家事は自分でしてきた。私もナノハナ家で、ナミネのお世話をしようと思う。
その時、扉が開いてナミネが入って来た。
「ナミネ!」
「ヨルクさん、会いに来ましたよ〜」
何だか、2年生だった頃を思い出す。実感もないまま3年生になってしまったから、ナミネが2年生になった実感もあまり持てていないかもしれない。
「アンタら、何だかんだで仲良いな。とりあえず、紀元前村までは、かなり遡って来たつもりだから、そろそろ休憩挟むために、今度の休みは営業してる店で、ゆっくりしようと思うけど?」
確かに、私たちは冒険と言うべきだろうか。少しでも多くの過去を知るために少々突っ走り過ぎたのかもしれない。古い時代だなんて、一生かけても辿り着けるところまで行けるか分からないのに。この調子では大人になっても、探し続けるだろうか。それとも、大人になれば、メンバーは解散してしまうのだろうか。
「そうですね。私たち、かなりの頻度で知ることのみに集中していましたもんね。そろそろ休憩をしても私はいいと思います」
「あえて聞くけど、アンタらは大人になっても探し続けるわけ?」
やっぱり落ち武者さんも思うか。大人になれば、仕事をしなくてはならないし、結婚しているのなら、尚更自由時間なんて持てない。
「私は大人になっても、みんなと巡り続けたいです!」
ナミネは、やっぱりどこまでも諦めないよね。答えに辿り着くまで。
「僕もナミネと同じ意見です。はじめたからには、納得いくところまで辿りたいです」
ラルク、いつの間に来ていたのだろう。
「そうね、私も落ち武者さんと結婚するから付き合うわ」
「なんでアンタと結婚するのさ」
「僕も仲間に加わった以上は最後まで付き合うよ」
以外にも、みんな知りたいことがあるのか、過去を遡ることに関しては前向きだ。私もそうだけど。
「わ、私も仲間に加わる!」
ナミネが最後まで探し続けるなら私もそうする。こういうのを、同じ船に乗った同士とでも言うのだろうか。
今はズームさんとか有力な人材がいるから、初期の頃より過去の真相が掴めそうな気がする。
そういえば、ルリコさんのことは、あの後、ズルエヌさんが交番に届けるに変更したみたいだ。
「そういえば、ナヤセス殿とズルエヌさん、同じマンションだそうです」
流石はブランケット家。あのような高級なマンションをすんなり契約出来るとは。生まれながらにして恵まれている人って本当にいるんだなあ。
「へえ、金持ちは違うね?」
そうは言えども落ち武者さんとて、天の川村にいた頃は、相当稼いでいたのでは。
「ねえ、ラルク。2時間目も自主学習だけど、自主学習と行っても、自分で教科書進めていかないといけないから、このまま停電続けば留年する人出そうだね」
「ナミネ、留年は高校からだろ。それに委員長が教壇に立って教えてるんだから教師いなくてもいいだろ」
確かに、単位は高等部からだけど、担任が教科書を進めないだなんて、いささか問題があるようにも感じる。
その時、チャイムが鳴り出し、ナミネとラルクは慌ててクラスへ戻って行った。
2時間目も小テスト。
これ、意味があるのだろうか。こちらは、全く教科書が進んでいない。高等部に進学するには中学3年生という今の時期は大切なのに。
妖精村学園に通ってる大半は、幼稚園から大学まで、そのまま通うけれど、中には中学から、或いは高校から転校していく人もいる。けれど、私は妖精村学園に入ったからには、大学までは通いたいと思っている。
その時、落ち武者さんが教壇に立った。
「じゃ、数学の教科書進める」
「セルファ、今は小テストの時間よ!戻りなさい!」
「クソ担任、アンタやる気あんのかよ?このままだと、みんなが高等部に進めないんだぞ?」
落ち武者さんの言うように、習ったところばかり小テストで出されても、前には進めない。来年は高等部に進学だし、私もそれなりの知識を身に付けたい。
「席に戻りなさい。勝手なことは認めないわ!」
「へえ、アンタ何のつもりだ?生徒に勉強教えないで、何のために僕らを学校に通わせてんのさ?アンタがいつまでもそうなら、教室に取り付けた防犯カメラ、校長に見せつけるぞ!」
落ち武者さんは、相変わらず気が強い。それにしても、幾度となく前世で学んだことが、時間が経つと、こうも忘れてしまうものなのだな。それに、私は20代半ばあたりのことまでは覚えているけれど、それ以降は殆ど覚えていない。天使村は30代辺りまで朧気に覚えているが、妖精村は30代のことなんて殆ど思い出せない。覚えていることといえば、遠い昔、ナミネがラルクを追いかけ、ミナクお兄様に嫁いでいた時のこと。それ以外は全て覚えていない。ナミネはどうなのだろう。
気が付けば担任が国語を教えはじめた。もうすぐ5月。ひと月のロスなら、どうにでもなる。2年生の時は、ナミネとの交際もあり、早く感じたけれど、3年生はどうだろう。1年後にはセナ王女やカラルリさん、セリルさんたちも大学生だ。そうなれば、今の関係も変わるかもしれない。そう考えると、よみかた のように、私たちにはまだ時間があるのだと思わせられる。
2時間目が終わるなり、2人の高校生が来た。
「君がセリルの弟なのか?」
「そうだけど、アンタ誰?」
2人とも、よく似ている。というか確実に姉妹だ。
「高等部3年の委員長メノリだけど、セリルがいなくなったんだ」
セリルさんが……いったい何があったのだろう。
「ま、この学園内のどこかにはいると思うけど?」
「同じクラスにミナクの弟がいると聞いたが、いないぞ」
やっぱり、私はラルクやミナクお兄様とは全然似ていないのだろうか。
「アンタさ、どこの誰だか知らないけど、顔だけヨルクはここにいるけど?」
「そうか。全く似てないな」
何だか地味に突き刺さる。
「あの、ミナクお兄様がどうかされましたか?」
「どうもこうも、ミナクに弄ばれた貴族がクラス中に押しかけて、当の本人は逃げたんだ」
過去のこととはいえ、忘れた頃に罰せられるものなのか。
「そうでしたか。兄がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
私はラルクにメールをしようとした。
「じゃ、ミナクのクラス行く」
「え、落ち武者さんはセリルさん探さないといけないよね」
「どうせ自信失くしたとかだろ。セリルのことだから、探されたくはないだろうし?」
そんな感じだろうけど、本当に突然どうしたのだろう。悩みごとでもあったのだろうか。セリルさんは、ナミネが病んでしまった時に相談に乗ってくれたから、今度は私たちが助けたいのだけれど。
ひとまず、私たちはメナリさんと共に高等部1年3組へ来た。
なんと言うか、ひと昔前の荒れた教室のようだ。当の本人は、いないにも関わらず貴族のみで暴れている。
「じゃ、紙に名前と住所書いてミナクに対して思うこと書け!」
落ち武者さんは、一瞬フェアリーングをかけた。すると、貴族たちは教壇にある紙を取りはじめた。物凄い勢いで書いている。
「ナナミお姉様、大丈夫ですか?」
ナミネ、来てたのか。
「べ、別にミナクのことなんて何とも思ってないわよ!」
「ナナミ、アンタ顔に出すぎ」
セナ王女とも別れたし、今のミナクお兄様はフリーだ。ナナミさんならリリカお姉様も歓迎するだろう。あとは、本人の気持ちというところか。
「ねえ、ラルク。いっそのこと、ミナクさんによつぎ、いっぱい作ってもらったら?」
「ナノハナ家ほどじゃないけど、クレナイ家も庶子は跡継ぎに出来ないし、庶子だらけになっても、ウチでは育てられないから、それこそ孤児院に預ける未来になるだろ!」
クレナイ家は、昔は庶子も育てていたらしいけど、今では、やはり家族は嫡子を求めるだろう。私は責任が取れないのなら簡単に子供など作るべきではないと思う。ミナクお兄様の場合は遊びだったけれど、それもよくはない。
現代でも武家は、ちゃんと活動している。それを思うと、縁談は真面目に行うべきだ。去年のセナ王女やセレナールさんのようにはなってほしくない。
「おい!天然ラァナ!ここで何してんだ!」
「セルファ……セリルがカナコに手紙残していなくなったの」
落ち武者さんは、ラァナさんから手紙を受け取った。
『カナコさん
今までありがとうございました』
まるで、別れの手紙のようだ。
あれだけ常に自信のあったセリルさんが、このようなことになるなんて想像したこともなかった。いったいどうして……。少しも予想が出来ない。
「で?カナコはどうしてんのさ?」
「レイカとセリル探しに行ったわ!」
「セリルも人騒がせなヤツだね?」
落ち武者さんは、少しも心配ではないのだろうか。もし、私がカナコさんの立場なら、心配で仕方ない。ナミネが手紙残していなくなったら、私はナミネが見つかるまで探し続けるだろう。
こういう問題は他人事ではない気がする。いつ、自分も同じ状況になりうるか分からない。
私はナミネを見た。
ナミネは、今朝私が作ったお弁当を食べていた。
……
あとがき。
セリルに何があったのでしょう。
セリルの「はい、そこまで!」が聞けなくなるのは寂しいです。
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
純愛偏差値 未来編 一人称版 96話
《ナミネ》
私は、すっかりアヤネさんに流されてしまっていた。ラルクだけは気付いている。逆にこれ以上、気付く人がいては困る。ミドリお姉様は、ただでさえ一度死んでいる。ここでミドリお姉様の力をみんなに知られてしまっては、ナノハお姉様の名誉も傷付けてしまうし、ミドリお姉様を狙う人ばかりになってしまう。気を付けなくては。
せっかく、ヨルクさんが懲役2年にしてくれたのに、それを変えてしまうだなんて。私は私を信じられなくなってしまっていた。
「お願いです、助けてください!」
すがるルリコさん……。けれど、あとの祭りだ。
「アンタ、鬱陶しいから消えろ」
落ち武者さんは、扇子でルリコさんをキクリ家から出した。外ではルリコさんの叫び声が聞こえる。私のせいとはいえ、めちゃくちゃ近所迷惑。
「どうして、みんなして私をイジメるんですか!」
「アンタ、なんで天然ラァナ傷付けた!」
ラァナさんと落ち武者さんは、お隣さんだった。落ち武者さん、ラァナさんに懐いているみたいだし。
「アヤネさん、いくら気に入らないことがあったとしても、このような形で人を傷付けてもいいのでしょうか?僕は理解しかねます」
「なあ、セリル。この場にいる全員にフェアリーングかけろ!」
それをしても、人のいやな本心を知ってしまうに過ぎない。今、アヤネさんの本心を知っても、もう誰も同情なんてしないだろう。
「僕は、あくまで話し合いに参加するだけで、それ以上のことはしないよ」
「セリル!アンタ、天然ラァナが笑い者にされてもいいのかよ!」
「人は全員平等にとまではいかない。けれど、どれだけ許せないことがあっても、アヤネを攻撃するほど、ラァナさんも苦しむよ」
私は平等だなんて思ったことさえない。結局、いつも余裕のある人間が勝者だ。アヤネさんは、公爵家に生まれて随分と楽して生きてきたのだろう。
「セリル、アンタ、ズームに出し抜かれてから億劫になってんじゃないのか?だったら、僕が……」
「せっかく生き返ったんだし、ズルエヌが、この場収めたら?」
ズルエヌさんは、時計騎士なのではないのだろうか?
「ではでは、皆さんはまだ、ここにいらっしゃるようなので……。
改めまして、僕はブランケット家のズルエヌです。
まず、何か言いたいことがある人はいますか?」
え、これ何?フェアリーングじゃない。何かわからないけど、全く解けない。
「あの日、ラァナを1人で帰らせるべきではなかった。今でも悔やんでる。セリルが発見したラァナは酷い姿だった。もし、誰かがラァナと一緒に帰っていれば……ラァナは自分で自分を縛ることなんてなかった」
カナコさん……。親友のラァナさんが、あんな目にあって、もう7年目。セリルさんが発見した時には無惨な姿で横たわっていたらしい。
「カナコさんは、自分を責めるほどラァナさんのことが好きなんだね。起きてしまった過去は変えられないけれど、大学に通ってるってことは、ラァナさんの時間が確実に進んでいる証拠なんじゃないかな?」
そうは言っても、あんな無惨な目にあって、全て忘れられるはずがない。そんなの……そんなの……。
「綺麗事です!ズルエヌさんは綺麗事で解決ですか?」
「どうして綺麗事だと思うのかな?」
どうしてって……。
「あんな無惨な形で発見されて、セリルさんが来るまでどれだけ怖かったか!大学に通っていてもラァナさんの闇は続いているんです!」
「闇はいけないことかな?」
何この人。ズームさんに似てないし、セリルさんみたいに平和的に解決してくれないじゃない。
「いけないとは思いません!でも、ないほうがいいに決まってるじゃないですか!」
「ナミネは闇のない人間を見たことがあるのかな?」
質問ばかり。ズルエヌさんって、人をイラつかせる。
「私が言っているのはそういうことではありません!誰だって闇はあります!けれど、トラウマを抱えるほど苦しむのはあってはならないでしょう!人は誰もが普通のラインで生きれたらって、私はそう思うんです!」
「もし、ナミネが思ってることを実現するには、ナミネがこの村を納めるくらいの力がないといけないよね」
何なの!めちゃくちゃ苛立つ。
「ただ、思ってるだけと言っているでしょう!私は実現するとまでは言っていません!そもそも、あなた何なんですか!失礼極まりないですね!私だって時計騎士の資格持ってます!あなたに負けません!」
「そっかそっか、頑張って取ったんだね。ズームがそうさせたのかな?じゃあ、せっかくだから、このストップウォッチで勝負しようか」
時計騎士ならストップウォッチを完璧に扱わなければならない。私だって試験には受かっている。ストップウォッチも何度も使った。
「分かりました!負けたら、あなたが失礼な人間であることを認めてください!」
「分かったよ。僕が負けたらね」
私はズルエヌさんからストップウォッチを受け取った。
え、何これ。ゼロの数が半端ない。試験でも、こんなの使ったことないよ。
「じゃあ、目をつむって60秒きっかりで止めてくれるかな」
「わ、分かりました」
同様してはダメだ。私だって正確に時刻を読み取れる!
「じゃあ、ズーム、10秒後に合図して」
私は目をつむった。
「分かりました」
そろそろだ。
「はじめ!」
私はストップウォッチを押した。1、2、3、4……10、11……21、22……34、35……46、47……52、53……57……今だ!私はストップウォッチを止めた。
「じゃあ目を開いて」
私は目を開いた。
え、嘘……。なんで……。
「強気なナミネ、60.002547614564521064321457612543!得体の知れないズルエヌ、60.000000000000000000000000000000!勝者、得体の知れないズルエヌ」
負けた。それも、物凄い差で。
「あ、あなた、何がしたいんですか!」
「人はね、得意不得意があるんだよ。僕やズームみたいに運動は苦手だけど時計騎士として時間に狂いのない仕事して来た人間もいれば、ナミネみたいに伝説最上級武官で運動のことなら1寸の狂いもない人間もいるよね。
要は、本人にしか分からないんだよ。これは、他者が意見をしてはいけないってことじゃなくて、その人が受けた痛みは本人にしか分からないんだ。だから、誰かの痛みを他者が無闇に位置付けちゃ、余計にその人のことが分からなくなるんだよ。
ナミネがラァナさんのことを位置付けしたのは、ナミネ自身の経験じゃないかな。人は自分が経験したこと以外は言葉に出来ないからね」
確かに、私は私の持論押し付けていたかもしれない。けれど、それは、その人のことが心配だからで……心配だからで……。それを安易に位置付けとか言われたら、こちらも気分が悪い。
「アドラー心理学ですか。確かに人は自分の経験したこと以外は言えません。知らないからです。けれど、無闇に位置付けと言いますが、それは、相手を思ってのことです!必ずしも相手の心に寄り添う必要はありませんよね。押し付けでも、お節介でも、それでも、伝えなければいけないこと、生きていたらたくさんありますよね?」
「誰の何を思ったのかな?」
「いや、だから、ラァナさんが7年前に無惨な状態で発見されて、それをカナコさんやレイカさんが自分を責めていることに対してです!」
今その話してたじゃない。いきなりストップウォッチ計らさせられたけど。元々はアヤネさんがラァナさんを侮辱したことを話し合ってるんじゃないの!
「本当にカナコさんやレイカさんは、ラァナさんが無惨な形で発見されたことに対して自責しているのかな?どうしてそう思うのかな?」
何この人。この人こそ、いったい何が言いたいの?
「だから、そう言っているじゃないですか!」
「発見されたことに対して。どうしてナミネはそう表現したのかな?1番怖いのは発見された時かな?」
そうか。私はミドリお姉様の死後の姿しか知らない。あまりにも無惨な姿すぎて、襲われている時のことなんて考えたことなかった。ミドリお姉様は、仏になってからではなく、襲われている時が1番怖かったんだ。
「私はミドリお姉様の死後の酷すぎる姿しか知りませんでしたから。ラァナさんも、発見された時はそうかと思ったんです。ミドリお姉様の時は、もう仏だったので襲われた時のことを考える余裕なんてありませんでした」
「やっと、冷静に話してくれたね。
ミドリが死んだ日、僕も死んだ。今でも刃物を見ると怖いよ。ミネスはナミネみたいに悲しんではくれないし。
ナミネ、人は表と裏があるんだよ。人を疑う時、人に対して苛立つ時は、冷静に話をしないと、その人のことを少しも知ることが出来ないんだよ。ナミネに欠けているのは、人を知ろうとする心かな」
そうかもしれない。おじいさんにも似たようなこと言われた。けれど、いくら頑張っても、やっぱり私は冷静さに欠けてしまう。私はズルエヌさんとは違う。
「でも、出来ないんです!
カンザシさんにヨルクさんとの幸せ壊されてから変な病気になるし、妖精村時代は全てヨルクさんとの青春を失いました。
だから、強くならなきゃって必死で……」
私はただ、ヨルクさんを失いたくなくて……。
「それでいいんだよ。出来ないことは出来ない。何の問題もないよ。
ナミネはヨルクとの青春守りたいんだよ。アヤネもそうなんじゃない?自分の踏み込んでほしくないところ、いっぱい踏み込まれて、かつてのナミネのように自分の心の居場所失ってるんじゃないかな?
許せないなら、それはそれで仕方ないけれど。何故人が悲しむのか、怒るのか、安心するのか。それは100人いれば100通りの答えがあるんだよ」
そういうことか。ここにいるメンバーが当たり前だろうことを当たり前と言うことで、みんなが、そんなふうに感じて、アヤネさんがメンバーから弾かれてしまったというわけか。
ズルエヌさんからしてみれば、ちゃんと話し合えば折り合えると言いたいのか。人の心は無数の線で絡まりあっている。自分とさえ折り合えないのに他者との諍いなんか、私にはどうにも出来ないよ。
あれ、最初の変な感じが再び起きている。
「そうですか。言い分は分かります。私だって、みんなと仲良くしたいです。大勢いるから、そこから少人数同士が仲良くするとかの理屈抜きで、仲良くしたいです。でも、私にとって最も大切なのはヨルクさんなんです!どうしても、いつも常にヨルクさんのことが気になって、周りのことが疎かになってしまうんです!そこに悪気はありません」
やだ、どうしてこんなこと言っちゃったの。
「僕も本音ではエルナとのこと、まだ答え出せてない。エルナが好きでたまらない。でも、強気なナミネのことも好き。強気なナミネが傷付けられたら、相手許せない」
あれ、ナノハナ家でも、落ち武者さん私のこと好きって言ってた。あの時は嘘と思って相手にしなかったけど。でも、どうなってるの。
「カナエだって諍いは好みません。でも、アルフォンス王子様が変わってしまったことや、お兄様のことを思うと、本当の意味で楽しめない自分がいるのです」
カナエさんも突然、話し出した。
「みんなで仲良く。そんな余裕ないんです。不幸に生きているだけで精一杯で、人を妬んで苦しんで、生きるために生きるためのことをしたら、人から嫌われて、僕だって苦しいんです」
カンザシさんて、案外表裏ないんだな。
「僕もグループ付き合いは公平に物事を考えたいです。でも、僕自身の悩みや将来のことを考えると回っていかないんです」
ラルク……。助けたいよ。
「決して周りがどうでもいいわけではありません。でも、ナミネのことが心配で仕方ないんです。ナミネのことだけで頭がいっぱいで、周りのこと考えたくても考えられないんです」
ヨルクさん……。ダメだ、こんなふうに言われたら余計に離れられなくなるよ。
「私も仲良くしたいです。人のこと馬鹿にしたりしたくありません。でも、馬鹿にされたら悔しくて、気付いたらまた別の誰かを傷付けてしまっているんです」
そうだよね。好きで人を傷付けたがる人なんていない。
「はい、ズルエヌの能力披露でしたー!」
ズルエヌさんが引き出していたのか。
「だいたい分かったかな?平たく言えば、みんな仲良くしたいんだよ。でも、それぞれの問題と向き合いすぎるあまりに君たちは拗れちゃうんだね」
簡単に言っているのだけれど、ズルエヌさんの理屈は難しい。それでも、みんなの気持ちが同じところに平行していることは、それとなく分かった気がする。
「つまり、昔は皆が心ひとつにしていたのが、時が流れ、一人一人の道が違うようになり、このようになっているということでしょうか?」
ラルクは飲み込みが早い。けれど、私はラルクみたいに自分で解釈するのは苦手だ。
「そうだね。昔は法律も少なかったし、皆がこの村をよくするためにと、心をひとつにしていたね。つまり、みんなの目標は同じだったんだよ。
でも、現代は色んな職業が存在して、世帯持って家のローンなんかも払ったりして昔のようにはいかなくなってしまったね。
けれど、紀元前村にいた時はどうだったかな?みんなが同じ空間で過ごして心ひとつにしてたんじゃないのかな?
無理に何かしようとしなくていいんだよ。簡単に言えば、最初に戻ってみるのが1番早い方法だと思うけどな。1日でいいから出会った頃のように、どこか遊びに行ってみるとかね」
確かに、紀元前村にいた時はみんなが心をひとつにしていた。まるで、遠い昔に戻ったかのように。妖精村に戻ってしまえば、また生活は戻ってしまったけれど。
1日なら、またあの頃のように過ごせるかもしれない。ヨルクさんとの交際前は1人でいたわけだし。今は私の面倒はヨルクさんが見てくれているけれど、それまでは使用人に全てしてもらってたし、恋愛なんてコリゴリだった。
あれ、あの変な感じ、今はなくなっている。いったい何だったのだろう。
「あの、ズルエヌさんは、恋人の浮気を許せますか?」
「遠い昔に二度許したことはあるけど、三度目は流石に冷めちゃって別れたよ」
やっぱり誰も浮気なんて許さない。ヨルクさんは、どうして許してしまうのだろう。
「セリル、アンタもストップウォッチやってみろよ」
「僕は時計騎士じゃないからね」
「アンタ、いつからそんな弱気になったのさ」
「あーあ、お兄ちゃんのせいで、セリル自信なくしちゃった」
けれど、遠い昔はセリルさんには何の力もなかったんじゃないの?でも、人は一度力を付けてしまえば元には戻れない。私がそうであるように。
「ズルエヌさんは最強ですか?」
「最強だったら、ストーカーに刺されて死んだりしてないよね」
ストーカー。そういえば、ズームさんから聞いたような聞いてないような。
「ズルエヌは要領悪いからね」
時計騎士完璧にこなしてるなら要領悪いとは言わない気がする。
「ズルエヌさん、ヨルクさんに、さっきの変な呪術かけてもらえませんか?」
「いいけど」
ズルエヌさんは、変な呪術をヨルクさんにかけた。
「ヨルクから話すことはあるかな?」
「私はナミネが浮気しても、心変わりして戻って来ても別れないですし、ナミネ意外を愛するなんて考えられないです」
ヨルクさん、私もうヨルクさんに何されてもいいよ。
「どうしてナミネ以外考えられないのかな?」
「ナミネ以外愛したことないですし、他の女子(おなご)と縁談で婚姻しても、どうしても愛せませんでした。綺麗でスタイルがよく、胸の大きな人はたくさんいますが、一緒にいて安らげて本当の意味で心を許せるのはナミネだけなんです。これからもナミネのお世話をしたいし、ナミネをいっぱい笑顔にしたいです」
やっぱり、さっきの取り消す。綺麗でスタイルよくて胸の大きな人って何?そんなに胸胸言うなら好みの女と付き合えばいいのに。
あ、変な呪術が解けている。
「うーん、これはナヤセスの分野だね。人間、何千年、何億年と経てば、愛する人も必然的に変わると、随分前に研究者が証明しているけれど、ここまでずっと同じ人を愛し続ける子も珍しいね」
えっ、でも、カナコさんとセリルさんもそうなんじゃないの?
「あの、カナコさんとセリルさんも、ずっと愛し合ってます」
「まあ、大人の事情かな」
お、大人の事情?そんなふうに言われたらめちゃくちゃ気になってしまう。
「大人の事情ってなんですか?」
「ナミネ、ズルエヌさんは随分ヒント言っただろ」
「え、全然分からないよ」
「セリルはカナコだけじゃないんだよ。妖精村時代はそうだったかもしれないけど、もっと前はクソ女に騙されてたんだよ」
え……全然知らなかった。セリルさんとカナコさんこそ永遠かと思ってた。
「そ、そうだったんですか……」
「正直、ナミネとヨルクの関係は僕もずっと気になってたよ。ズルエヌさんの言うように、人は1人のみを何世紀も愛し続けるには無理があると思う。時代と共に出会う人も違ってくるしね」
この時の私は、妖精村の前はカナコさんがセリルさんに気持ちを伝えられずにいたことを知らなかった。そして、2人は相変わらず、どこかで好き合っていたことも知らなかったのである。
「僕もナミネとヨルクのことは調べてはいるんだけど、今のところ収穫なし。2人がずっと愛し合ってきたとしか答えが出ないんだよね。氷河期もあっただろうに、ここまで互いを求め合っているだなんて珍しすぎて、2人の過去を知りたくなったよ」
私とヨルクさんの関係って、そんなに珍しいのだろうか。
「ナミネ、夜食は何がいい?」
「い、いりません!綺麗でスタイルよくて胸の大きな姫君がいいなら、そう言えばいいでしょう!ヨルクさんて浮気性ですね!いつも湖行くたび興奮してましたもんね!」
私はまたヨルクさんを突き飛ばしてしまった。
「ナミネ、違うから!そういう人がいても、小さい頃から妹同然に可愛がってきたナミネのことが好きって意味だから!」
いつも妹って言うけど、何?胸の大きな人がいいんでしょ。
「ヨルクさん、今から綺麗でスタイルよくて胸の大きな人とお楽しみだから、行くよ、ラルク!」
私はラルクの手を引っ張って中庭に向かった。
中庭の井戸は綺麗になっていた。
私は壁の結界をかけた。
「あのね、ラルク。ミドリお姉様は皇帝陛下と皇后陛下の子供なの。なかなか子供が出来ない2人のために、お母様が代理出産したんだよ。2卵生混合受精だからミドリお姉様には母親も父親も2人いるの」
「つまり、本当の皇女はミドリさんか。3つ子にならなかったのは何かしら理由があるんだろうな。ナミネ、このこと誰にも言うなよ」
言うに言えないよ。
「言わないよ。皇女変わっちゃうし、ミドリお姉様にはずっとナノハナ家でいてほしいし」
「なんで、アンタらだけ、いつも抜けがけすんのさ」
落ち武者さん、通しで入って来たんだ。千里眼で口元読まれてたかな。
「あ、落ち武者さん、このことは……」
「言わないけどね?けれど、これで辻褄が合った。アンタの紙飛行機だけミドリの刻印押してあったわけか。アンタ、気を付けろよ。アンタの振る舞い1つで、ミドリは危険に晒されるんだからな」
本当に反省してる。私はミドリお姉様のことより自分の苛立ちを優先してしまってた。
「はい、もう安易な行動はしません!ミドリお姉様にはずっとナノハナ家にいてほしいですし」
「とにかく、誰かに聞かれたら不味いから戻るぞ。顔だけヨルクも落ち込んでたぞ」
そんなこと言われても、あんなふうにピンポイントで好み言われたら本当に私を好きなのか疑ってしまう。なのに、ヨルクさんから離れることなんて出来ない。どうしてか分からない。ずっとずっと昔からヨルクさんのことが愛おしい。
キクリ家の中に入ると、第1居間のランプの明かりは消えていて、第3居間の明かりがついていた。
……
あとがき。
上記のようなストップウォッチが本当にあったら、正確に押せる人いるのだろうか。
どうして、いつもみたいにセリルがまとめなかったのか。
それでも、メンバーで行動してから、それなりの歳月も経って、みんなの、あり方が変わってしまったのかも?
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。
《ナミネ》
私は、すっかりアヤネさんに流されてしまっていた。ラルクだけは気付いている。逆にこれ以上、気付く人がいては困る。ミドリお姉様は、ただでさえ一度死んでいる。ここでミドリお姉様の力をみんなに知られてしまっては、ナノハお姉様の名誉も傷付けてしまうし、ミドリお姉様を狙う人ばかりになってしまう。気を付けなくては。
せっかく、ヨルクさんが懲役2年にしてくれたのに、それを変えてしまうだなんて。私は私を信じられなくなってしまっていた。
「お願いです、助けてください!」
すがるルリコさん……。けれど、あとの祭りだ。
「アンタ、鬱陶しいから消えろ」
落ち武者さんは、扇子でルリコさんをキクリ家から出した。外ではルリコさんの叫び声が聞こえる。私のせいとはいえ、めちゃくちゃ近所迷惑。
「どうして、みんなして私をイジメるんですか!」
「アンタ、なんで天然ラァナ傷付けた!」
ラァナさんと落ち武者さんは、お隣さんだった。落ち武者さん、ラァナさんに懐いているみたいだし。
「アヤネさん、いくら気に入らないことがあったとしても、このような形で人を傷付けてもいいのでしょうか?僕は理解しかねます」
「なあ、セリル。この場にいる全員にフェアリーングかけろ!」
それをしても、人のいやな本心を知ってしまうに過ぎない。今、アヤネさんの本心を知っても、もう誰も同情なんてしないだろう。
「僕は、あくまで話し合いに参加するだけで、それ以上のことはしないよ」
「セリル!アンタ、天然ラァナが笑い者にされてもいいのかよ!」
「人は全員平等にとまではいかない。けれど、どれだけ許せないことがあっても、アヤネを攻撃するほど、ラァナさんも苦しむよ」
私は平等だなんて思ったことさえない。結局、いつも余裕のある人間が勝者だ。アヤネさんは、公爵家に生まれて随分と楽して生きてきたのだろう。
「セリル、アンタ、ズームに出し抜かれてから億劫になってんじゃないのか?だったら、僕が……」
「せっかく生き返ったんだし、ズルエヌが、この場収めたら?」
ズルエヌさんは、時計騎士なのではないのだろうか?
「ではでは、皆さんはまだ、ここにいらっしゃるようなので……。
改めまして、僕はブランケット家のズルエヌです。
まず、何か言いたいことがある人はいますか?」
え、これ何?フェアリーングじゃない。何かわからないけど、全く解けない。
「あの日、ラァナを1人で帰らせるべきではなかった。今でも悔やんでる。セリルが発見したラァナは酷い姿だった。もし、誰かがラァナと一緒に帰っていれば……ラァナは自分で自分を縛ることなんてなかった」
カナコさん……。親友のラァナさんが、あんな目にあって、もう7年目。セリルさんが発見した時には無惨な姿で横たわっていたらしい。
「カナコさんは、自分を責めるほどラァナさんのことが好きなんだね。起きてしまった過去は変えられないけれど、大学に通ってるってことは、ラァナさんの時間が確実に進んでいる証拠なんじゃないかな?」
そうは言っても、あんな無惨な目にあって、全て忘れられるはずがない。そんなの……そんなの……。
「綺麗事です!ズルエヌさんは綺麗事で解決ですか?」
「どうして綺麗事だと思うのかな?」
どうしてって……。
「あんな無惨な形で発見されて、セリルさんが来るまでどれだけ怖かったか!大学に通っていてもラァナさんの闇は続いているんです!」
「闇はいけないことかな?」
何この人。ズームさんに似てないし、セリルさんみたいに平和的に解決してくれないじゃない。
「いけないとは思いません!でも、ないほうがいいに決まってるじゃないですか!」
「ナミネは闇のない人間を見たことがあるのかな?」
質問ばかり。ズルエヌさんって、人をイラつかせる。
「私が言っているのはそういうことではありません!誰だって闇はあります!けれど、トラウマを抱えるほど苦しむのはあってはならないでしょう!人は誰もが普通のラインで生きれたらって、私はそう思うんです!」
「もし、ナミネが思ってることを実現するには、ナミネがこの村を納めるくらいの力がないといけないよね」
何なの!めちゃくちゃ苛立つ。
「ただ、思ってるだけと言っているでしょう!私は実現するとまでは言っていません!そもそも、あなた何なんですか!失礼極まりないですね!私だって時計騎士の資格持ってます!あなたに負けません!」
「そっかそっか、頑張って取ったんだね。ズームがそうさせたのかな?じゃあ、せっかくだから、このストップウォッチで勝負しようか」
時計騎士ならストップウォッチを完璧に扱わなければならない。私だって試験には受かっている。ストップウォッチも何度も使った。
「分かりました!負けたら、あなたが失礼な人間であることを認めてください!」
「分かったよ。僕が負けたらね」
私はズルエヌさんからストップウォッチを受け取った。
え、何これ。ゼロの数が半端ない。試験でも、こんなの使ったことないよ。
「じゃあ、目をつむって60秒きっかりで止めてくれるかな」
「わ、分かりました」
同様してはダメだ。私だって正確に時刻を読み取れる!
「じゃあ、ズーム、10秒後に合図して」
私は目をつむった。
「分かりました」
そろそろだ。
「はじめ!」
私はストップウォッチを押した。1、2、3、4……10、11……21、22……34、35……46、47……52、53……57……今だ!私はストップウォッチを止めた。
「じゃあ目を開いて」
私は目を開いた。
え、嘘……。なんで……。
「強気なナミネ、60.002547614564521064321457612543!得体の知れないズルエヌ、60.000000000000000000000000000000!勝者、得体の知れないズルエヌ」
負けた。それも、物凄い差で。
「あ、あなた、何がしたいんですか!」
「人はね、得意不得意があるんだよ。僕やズームみたいに運動は苦手だけど時計騎士として時間に狂いのない仕事して来た人間もいれば、ナミネみたいに伝説最上級武官で運動のことなら1寸の狂いもない人間もいるよね。
要は、本人にしか分からないんだよ。これは、他者が意見をしてはいけないってことじゃなくて、その人が受けた痛みは本人にしか分からないんだ。だから、誰かの痛みを他者が無闇に位置付けちゃ、余計にその人のことが分からなくなるんだよ。
ナミネがラァナさんのことを位置付けしたのは、ナミネ自身の経験じゃないかな。人は自分が経験したこと以外は言葉に出来ないからね」
確かに、私は私の持論押し付けていたかもしれない。けれど、それは、その人のことが心配だからで……心配だからで……。それを安易に位置付けとか言われたら、こちらも気分が悪い。
「アドラー心理学ですか。確かに人は自分の経験したこと以外は言えません。知らないからです。けれど、無闇に位置付けと言いますが、それは、相手を思ってのことです!必ずしも相手の心に寄り添う必要はありませんよね。押し付けでも、お節介でも、それでも、伝えなければいけないこと、生きていたらたくさんありますよね?」
「誰の何を思ったのかな?」
「いや、だから、ラァナさんが7年前に無惨な状態で発見されて、それをカナコさんやレイカさんが自分を責めていることに対してです!」
今その話してたじゃない。いきなりストップウォッチ計らさせられたけど。元々はアヤネさんがラァナさんを侮辱したことを話し合ってるんじゃないの!
「本当にカナコさんやレイカさんは、ラァナさんが無惨な形で発見されたことに対して自責しているのかな?どうしてそう思うのかな?」
何この人。この人こそ、いったい何が言いたいの?
「だから、そう言っているじゃないですか!」
「発見されたことに対して。どうしてナミネはそう表現したのかな?1番怖いのは発見された時かな?」
そうか。私はミドリお姉様の死後の姿しか知らない。あまりにも無惨な姿すぎて、襲われている時のことなんて考えたことなかった。ミドリお姉様は、仏になってからではなく、襲われている時が1番怖かったんだ。
「私はミドリお姉様の死後の酷すぎる姿しか知りませんでしたから。ラァナさんも、発見された時はそうかと思ったんです。ミドリお姉様の時は、もう仏だったので襲われた時のことを考える余裕なんてありませんでした」
「やっと、冷静に話してくれたね。
ミドリが死んだ日、僕も死んだ。今でも刃物を見ると怖いよ。ミネスはナミネみたいに悲しんではくれないし。
ナミネ、人は表と裏があるんだよ。人を疑う時、人に対して苛立つ時は、冷静に話をしないと、その人のことを少しも知ることが出来ないんだよ。ナミネに欠けているのは、人を知ろうとする心かな」
そうかもしれない。おじいさんにも似たようなこと言われた。けれど、いくら頑張っても、やっぱり私は冷静さに欠けてしまう。私はズルエヌさんとは違う。
「でも、出来ないんです!
カンザシさんにヨルクさんとの幸せ壊されてから変な病気になるし、妖精村時代は全てヨルクさんとの青春を失いました。
だから、強くならなきゃって必死で……」
私はただ、ヨルクさんを失いたくなくて……。
「それでいいんだよ。出来ないことは出来ない。何の問題もないよ。
ナミネはヨルクとの青春守りたいんだよ。アヤネもそうなんじゃない?自分の踏み込んでほしくないところ、いっぱい踏み込まれて、かつてのナミネのように自分の心の居場所失ってるんじゃないかな?
許せないなら、それはそれで仕方ないけれど。何故人が悲しむのか、怒るのか、安心するのか。それは100人いれば100通りの答えがあるんだよ」
そういうことか。ここにいるメンバーが当たり前だろうことを当たり前と言うことで、みんなが、そんなふうに感じて、アヤネさんがメンバーから弾かれてしまったというわけか。
ズルエヌさんからしてみれば、ちゃんと話し合えば折り合えると言いたいのか。人の心は無数の線で絡まりあっている。自分とさえ折り合えないのに他者との諍いなんか、私にはどうにも出来ないよ。
あれ、最初の変な感じが再び起きている。
「そうですか。言い分は分かります。私だって、みんなと仲良くしたいです。大勢いるから、そこから少人数同士が仲良くするとかの理屈抜きで、仲良くしたいです。でも、私にとって最も大切なのはヨルクさんなんです!どうしても、いつも常にヨルクさんのことが気になって、周りのことが疎かになってしまうんです!そこに悪気はありません」
やだ、どうしてこんなこと言っちゃったの。
「僕も本音ではエルナとのこと、まだ答え出せてない。エルナが好きでたまらない。でも、強気なナミネのことも好き。強気なナミネが傷付けられたら、相手許せない」
あれ、ナノハナ家でも、落ち武者さん私のこと好きって言ってた。あの時は嘘と思って相手にしなかったけど。でも、どうなってるの。
「カナエだって諍いは好みません。でも、アルフォンス王子様が変わってしまったことや、お兄様のことを思うと、本当の意味で楽しめない自分がいるのです」
カナエさんも突然、話し出した。
「みんなで仲良く。そんな余裕ないんです。不幸に生きているだけで精一杯で、人を妬んで苦しんで、生きるために生きるためのことをしたら、人から嫌われて、僕だって苦しいんです」
カンザシさんて、案外表裏ないんだな。
「僕もグループ付き合いは公平に物事を考えたいです。でも、僕自身の悩みや将来のことを考えると回っていかないんです」
ラルク……。助けたいよ。
「決して周りがどうでもいいわけではありません。でも、ナミネのことが心配で仕方ないんです。ナミネのことだけで頭がいっぱいで、周りのこと考えたくても考えられないんです」
ヨルクさん……。ダメだ、こんなふうに言われたら余計に離れられなくなるよ。
「私も仲良くしたいです。人のこと馬鹿にしたりしたくありません。でも、馬鹿にされたら悔しくて、気付いたらまた別の誰かを傷付けてしまっているんです」
そうだよね。好きで人を傷付けたがる人なんていない。
「はい、ズルエヌの能力披露でしたー!」
ズルエヌさんが引き出していたのか。
「だいたい分かったかな?平たく言えば、みんな仲良くしたいんだよ。でも、それぞれの問題と向き合いすぎるあまりに君たちは拗れちゃうんだね」
簡単に言っているのだけれど、ズルエヌさんの理屈は難しい。それでも、みんなの気持ちが同じところに平行していることは、それとなく分かった気がする。
「つまり、昔は皆が心ひとつにしていたのが、時が流れ、一人一人の道が違うようになり、このようになっているということでしょうか?」
ラルクは飲み込みが早い。けれど、私はラルクみたいに自分で解釈するのは苦手だ。
「そうだね。昔は法律も少なかったし、皆がこの村をよくするためにと、心をひとつにしていたね。つまり、みんなの目標は同じだったんだよ。
でも、現代は色んな職業が存在して、世帯持って家のローンなんかも払ったりして昔のようにはいかなくなってしまったね。
けれど、紀元前村にいた時はどうだったかな?みんなが同じ空間で過ごして心ひとつにしてたんじゃないのかな?
無理に何かしようとしなくていいんだよ。簡単に言えば、最初に戻ってみるのが1番早い方法だと思うけどな。1日でいいから出会った頃のように、どこか遊びに行ってみるとかね」
確かに、紀元前村にいた時はみんなが心をひとつにしていた。まるで、遠い昔に戻ったかのように。妖精村に戻ってしまえば、また生活は戻ってしまったけれど。
1日なら、またあの頃のように過ごせるかもしれない。ヨルクさんとの交際前は1人でいたわけだし。今は私の面倒はヨルクさんが見てくれているけれど、それまでは使用人に全てしてもらってたし、恋愛なんてコリゴリだった。
あれ、あの変な感じ、今はなくなっている。いったい何だったのだろう。
「あの、ズルエヌさんは、恋人の浮気を許せますか?」
「遠い昔に二度許したことはあるけど、三度目は流石に冷めちゃって別れたよ」
やっぱり誰も浮気なんて許さない。ヨルクさんは、どうして許してしまうのだろう。
「セリル、アンタもストップウォッチやってみろよ」
「僕は時計騎士じゃないからね」
「アンタ、いつからそんな弱気になったのさ」
「あーあ、お兄ちゃんのせいで、セリル自信なくしちゃった」
けれど、遠い昔はセリルさんには何の力もなかったんじゃないの?でも、人は一度力を付けてしまえば元には戻れない。私がそうであるように。
「ズルエヌさんは最強ですか?」
「最強だったら、ストーカーに刺されて死んだりしてないよね」
ストーカー。そういえば、ズームさんから聞いたような聞いてないような。
「ズルエヌは要領悪いからね」
時計騎士完璧にこなしてるなら要領悪いとは言わない気がする。
「ズルエヌさん、ヨルクさんに、さっきの変な呪術かけてもらえませんか?」
「いいけど」
ズルエヌさんは、変な呪術をヨルクさんにかけた。
「ヨルクから話すことはあるかな?」
「私はナミネが浮気しても、心変わりして戻って来ても別れないですし、ナミネ意外を愛するなんて考えられないです」
ヨルクさん、私もうヨルクさんに何されてもいいよ。
「どうしてナミネ以外考えられないのかな?」
「ナミネ以外愛したことないですし、他の女子(おなご)と縁談で婚姻しても、どうしても愛せませんでした。綺麗でスタイルがよく、胸の大きな人はたくさんいますが、一緒にいて安らげて本当の意味で心を許せるのはナミネだけなんです。これからもナミネのお世話をしたいし、ナミネをいっぱい笑顔にしたいです」
やっぱり、さっきの取り消す。綺麗でスタイルよくて胸の大きな人って何?そんなに胸胸言うなら好みの女と付き合えばいいのに。
あ、変な呪術が解けている。
「うーん、これはナヤセスの分野だね。人間、何千年、何億年と経てば、愛する人も必然的に変わると、随分前に研究者が証明しているけれど、ここまでずっと同じ人を愛し続ける子も珍しいね」
えっ、でも、カナコさんとセリルさんもそうなんじゃないの?
「あの、カナコさんとセリルさんも、ずっと愛し合ってます」
「まあ、大人の事情かな」
お、大人の事情?そんなふうに言われたらめちゃくちゃ気になってしまう。
「大人の事情ってなんですか?」
「ナミネ、ズルエヌさんは随分ヒント言っただろ」
「え、全然分からないよ」
「セリルはカナコだけじゃないんだよ。妖精村時代はそうだったかもしれないけど、もっと前はクソ女に騙されてたんだよ」
え……全然知らなかった。セリルさんとカナコさんこそ永遠かと思ってた。
「そ、そうだったんですか……」
「正直、ナミネとヨルクの関係は僕もずっと気になってたよ。ズルエヌさんの言うように、人は1人のみを何世紀も愛し続けるには無理があると思う。時代と共に出会う人も違ってくるしね」
この時の私は、妖精村の前はカナコさんがセリルさんに気持ちを伝えられずにいたことを知らなかった。そして、2人は相変わらず、どこかで好き合っていたことも知らなかったのである。
「僕もナミネとヨルクのことは調べてはいるんだけど、今のところ収穫なし。2人がずっと愛し合ってきたとしか答えが出ないんだよね。氷河期もあっただろうに、ここまで互いを求め合っているだなんて珍しすぎて、2人の過去を知りたくなったよ」
私とヨルクさんの関係って、そんなに珍しいのだろうか。
「ナミネ、夜食は何がいい?」
「い、いりません!綺麗でスタイルよくて胸の大きな姫君がいいなら、そう言えばいいでしょう!ヨルクさんて浮気性ですね!いつも湖行くたび興奮してましたもんね!」
私はまたヨルクさんを突き飛ばしてしまった。
「ナミネ、違うから!そういう人がいても、小さい頃から妹同然に可愛がってきたナミネのことが好きって意味だから!」
いつも妹って言うけど、何?胸の大きな人がいいんでしょ。
「ヨルクさん、今から綺麗でスタイルよくて胸の大きな人とお楽しみだから、行くよ、ラルク!」
私はラルクの手を引っ張って中庭に向かった。
中庭の井戸は綺麗になっていた。
私は壁の結界をかけた。
「あのね、ラルク。ミドリお姉様は皇帝陛下と皇后陛下の子供なの。なかなか子供が出来ない2人のために、お母様が代理出産したんだよ。2卵生混合受精だからミドリお姉様には母親も父親も2人いるの」
「つまり、本当の皇女はミドリさんか。3つ子にならなかったのは何かしら理由があるんだろうな。ナミネ、このこと誰にも言うなよ」
言うに言えないよ。
「言わないよ。皇女変わっちゃうし、ミドリお姉様にはずっとナノハナ家でいてほしいし」
「なんで、アンタらだけ、いつも抜けがけすんのさ」
落ち武者さん、通しで入って来たんだ。千里眼で口元読まれてたかな。
「あ、落ち武者さん、このことは……」
「言わないけどね?けれど、これで辻褄が合った。アンタの紙飛行機だけミドリの刻印押してあったわけか。アンタ、気を付けろよ。アンタの振る舞い1つで、ミドリは危険に晒されるんだからな」
本当に反省してる。私はミドリお姉様のことより自分の苛立ちを優先してしまってた。
「はい、もう安易な行動はしません!ミドリお姉様にはずっとナノハナ家にいてほしいですし」
「とにかく、誰かに聞かれたら不味いから戻るぞ。顔だけヨルクも落ち込んでたぞ」
そんなこと言われても、あんなふうにピンポイントで好み言われたら本当に私を好きなのか疑ってしまう。なのに、ヨルクさんから離れることなんて出来ない。どうしてか分からない。ずっとずっと昔からヨルクさんのことが愛おしい。
キクリ家の中に入ると、第1居間のランプの明かりは消えていて、第3居間の明かりがついていた。
……
あとがき。
上記のようなストップウォッチが本当にあったら、正確に押せる人いるのだろうか。
どうして、いつもみたいにセリルがまとめなかったのか。
それでも、メンバーで行動してから、それなりの歳月も経って、みんなの、あり方が変わってしまったのかも?
……
この小説はフィクションであり、登場人物・団体名などは全て架空です。